(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023125327
(43)【公開日】2023-09-07
(54)【発明の名称】縦穴排水路施工方法
(51)【国際特許分類】
E02B 11/00 20060101AFI20230831BHJP
【FI】
E02B11/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022029351
(22)【出願日】2022-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】江波戸 宗大
(57)【要約】
【課題】土壌表面の流去水および土壌中の浸透水を誘導することができる縦穴排水路施工方法を提供すること。
【解決手段】本発明の縦穴排水路施工方法は、地表面から所定深さの縦穴排水路を複数設け、縦穴排水路の配設位置を、土壌硬度分布データから、または、土壌硬度分布データと土壌水分含有分布データとから特定し、土壌硬度分布データから土壌硬度が硬く、土壌水分含有分布データから土壌水分が高い地点を縦穴排水路の配設位置とすることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地表面から所定深さの縦穴排水路を複数設けることを特徴とする縦穴排水路施工方法。
【請求項2】
前記縦穴排水路の配設位置を、土壌硬度分布データから特定する
ことを特徴とする請求項1に記載の縦穴排水路施工方法。
【請求項3】
前記縦穴排水路の配設位置を、土壌硬度分布データと土壌水分含有分布データとから特定する
ことを特徴とする請求項1に記載の縦穴排水路施工方法。
【請求項4】
前記土壌硬度分布データから土壌硬度が硬く、前記土壌水分含有分布データから土壌水分が高い地点を前記縦穴排水路の前記配設位置とする
ことを特徴とする請求項3に記載の縦穴排水路施工方法。
【請求項5】
前記縦穴排水路の深さを耕盤層までとする
ことを特徴とする請求項4に記載の縦穴排水路施工方法。
【請求項6】
前記土壌硬度分布データから土壌硬度が軟らかく、前記土壌水分含有分布データから土壌水分が高い地点を前記縦穴排水路の前記配設位置とする
ことを特徴とする請求項3に記載の縦穴排水路施工方法。
【請求項7】
前記縦穴排水路の深さを耕盤層より深くする
ことを特徴とする請求項6に記載の縦穴排水路施工方法。
【請求項8】
複数の前記縦穴排水路による排水経路を、前記土壌硬度の変化が少ない地点に設ける
ことを特徴とする請求項4から請求項7のいずれか1項に記載の縦穴排水路施工方法。
【請求項9】
複数の前記縦穴排水路による排水経路を複数形成する
ことを特徴とする請求項4から請求項7のいずれか1項に記載の縦穴排水路施工方法。
【請求項10】
前記縦穴排水路の深さを、排水方向に向かって順次深くする
ことを特徴とする請求項1に記載の縦穴排水路施工方法。
【請求項11】
前記縦穴排水路を明渠に施工する
ことを特徴とする請求項1に記載の縦穴排水路施工方法。
【請求項12】
前記縦穴排水路を明渠に沿わすことなく施工する
ことを特徴とする請求項1に記載の縦穴排水路施工方法。
【請求項13】
地表面から所定深さの縦穴排水路を複数設けることで土壌表面の流去水および土壌中の浸透水を誘導する
ことを特徴とする排水経路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、縦穴排水路を施工する縦穴排水路施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
作物には、それぞれ最適な地下水位があり、表面排水を行うためには明渠を、地下浸透排水を行うためには暗渠を施工する。
明渠は圃場の地表面に水路を作ることで余剰水を排出し、暗渠は耕盤を破砕して土壌中の余剰水を下層に排出する。
明渠及び暗渠は、水平方向に溝や穴を掘るために、施工範囲が広く、水が流れるように溝や穴を連結しなければならず、更に排水溝に向けて傾斜させなくてはならない。
暗渠を施工する場合には、特殊な機械設備が必要であり、明渠を施工する場合であっても、あるレベルの深さの溝を掘るには、それなりの馬力を備えたトラクタを必要とする。
なお、特許文献1は、土壌状態分析のための土壌サンプルを採取する装置を提案している。特許文献1には、自走式機械の前部または後部に昇降機構を介して土壌採取部を設けることが記載されている。また、特許文献1には、土壌採取部が筒体と筒体内のスクリューとで構成され、筒体を地中に挿入してスクリューを回動することにより筒体内に土壌を取り込んだ後、筒体内に土壌を保持することが開示されている。
また、特許文献2には、掘削と並行して、採取した地下流体に含まれる汚染物質を分析してその濃度を測定することが開示されている。
なお、本発明者は既に圃場における土壌物理性診断方法を提案しており、この土壌物理性診断方法に用いる土壌硬度データを利用することで本発明における縦穴排水路を適切に施工できる(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-124509号公報
【特許文献2】特開2003-279452号公報
【特許文献3】特開2019-20395号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1及び特許文献2は、そもそも縦穴排水路を施工するものではない。また、特許文献1は、掘削を行いながら地表面から引き上げられた土壌の性状を測定するものではなく、土壌サンプルの採取を行うものである。
また、特許文献2は、揮発性有機物質や油などの揮発性汚染物質を測定対象とし、吸引孔から地下空気などの地下流体を吸引し、採取した地下流体に含まれる汚染物質を分析してその濃度を測定するものである。
【0005】
本発明は、土壌表面の流去水および土壌中の浸透水を誘導することができる縦穴排水路施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の本発明の縦穴排水路施工方法は、地表面から所定深さの縦穴排水路を複数設けることを特徴とする。
請求項2記載の本発明は、請求項1に記載の縦穴排水路施工方法において、前記縦穴排水路の配設位置を、土壌硬度分布データから特定することを特徴とする。
請求項3記載の本発明は、請求項1に記載の縦穴排水路施工方法において、前記縦穴排水路の配設位置を、土壌硬度分布データと土壌水分含有分布データとから特定することを特徴とする。
請求項4記載の本発明は、請求項3に記載の縦穴排水路施工方法において、前記土壌硬度分布データから土壌硬度が硬く、前記土壌水分含有分布データから土壌水分が高い地点を前記縦穴排水路の前記配設位置とすることを特徴とする。
請求項5記載の本発明は、請求項4に記載の縦穴排水路施工方法において、前記縦穴排水路の深さを耕盤層までとすることを特徴とする。
請求項6記載の本発明は、請求項3に記載の縦穴排水路施工方法において、前記土壌硬度分布データから土壌硬度が軟らかく、前記土壌水分含有分布データから土壌水分が高い地点を前記縦穴排水路の前記配設位置とすることを特徴とする。
請求項7記載の本発明は、請求項6に記載の縦穴排水路施工方法において、前記縦穴排水路の深さを耕盤層より深くすることを特徴とする。
請求項8記載の本発明は、請求項4から請求項7のいずれか1項に記載の縦穴排水路施工方法において、複数の前記縦穴排水路による排水経路を、前記土壌硬度の変化が少ない地点に設けることを特徴とする。
請求項9記載の本発明は、請求項4から請求項7のいずれか1項に記載の縦穴排水路施工方法において、複数の前記縦穴排水路による排水経路を複数形成することを特徴とする。
請求項10記載の本発明は、請求項1に記載の縦穴排水路施工方法において、前記縦穴排水路の深さを、排水方向に向かって順次深くすることを特徴とする。
請求項11記載の本発明は、請求項1に記載の縦穴排水路施工方法において、前記縦穴排水路を明渠Cに施工することを特徴とする。
請求項12記載の本発明は、請求項1に記載の縦穴排水路施工方法において、前記縦穴排水路を明渠Cに沿わすことなく施工することを特徴とする。
請求項13記載の本発明による排水経路は、地表面から所定深さの縦穴排水路を複数設けることで土壌表面の流去水および土壌中の浸透水を誘導することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の縦穴排水路施工方法によれば、複数の縦穴排水路によって土壌表面の流去水および土壌中の浸透水を誘導することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施例による縦穴排水路施工方法を示すフロー図
【
図3】降雨強度による土壌中の排水性の分類を示す概念図
【
図4】圃場における土壌硬度と土壌水分の相対的な関係を示す図
【
図6】土壌硬度が硬く土壌水分が高い地点を縦穴排水路の配設位置とする縦穴排水路施工方法の一実施例を示す図
【
図7】土壌硬度が硬く土壌水分が高い地点を縦穴排水路の配設位置とする縦穴排水路施工方法の他の実施例を示す図
【
図8】土壌硬度が軟らかく土壌水分が高い地点を縦穴排水路の配設位置とする縦穴排水路施工方法の一実施例を示す図
【
図9】土壌硬度が軟らかく土壌水分が高い地点を縦穴排水路の配設位置とする縦穴排水路施工方法の他の実施例を示す図
【
図10】縦穴排水路施工方法の更に他の実施例を示す図
【
図14】本実施例による縦穴排水路施工方法に用いる縦穴排水路施工機を前方から見た概念図
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の第1の実施の形態による縦穴排水路施工方法は、地表面から所定深さの縦穴排水路を複数設けるものである。
本実施の形態によれば、複数の縦穴排水路によって土壌表面の流去水および土壌中の浸透水を誘導することができる。
【0010】
本発明の第2の実施の形態は、第1の実施の形態による縦穴排水路施工方法において、縦穴排水路の配設位置を、土壌硬度分布データから特定するものである。土壌硬度の相対的に軟らかい部分に水が溜まりやすいので、土壌硬度分布データのみでも湿害の発生箇所を推定できる。
【0011】
本発明の第3の実施の形態は、第1の実施の形態による縦穴排水路施工方法において、縦穴排水路の配設位置を、土壌硬度分布データと土壌水分含有分布データとから特定するものである。
本実施の形態によれば、土壌硬度と土壌水分とによって湿害の発生個所を特定でき、排水性向上の優先順位と対策を決定できる。
【0012】
本発明の第4の実施の形態は、第3の実施の形態による縦穴排水路施工方法において、土壌硬度分布データから土壌硬度が硬く、土壌水分含有分布データから土壌水分が高い地点を縦穴排水路の配設位置とするものである。
本実施の形態によれば、土壌硬度が硬く土壌水分が高い地点は急性的な湿害要因となるため、湿害の発生を抑えることができる。
【0013】
本発明の第5の実施の形態は、第4の実施の形態による縦穴排水路施工方法において、縦穴排水路の深さを耕盤層までとするものである。
本実施の形態によれば、効果的に表面流去を促すことができる。
【0014】
本発明の第6の実施の形態は、第3の実施の形態による縦穴排水路施工方法において、土壌硬度分布データから土壌硬度が軟らかく、土壌水分含有分布データから土壌水分が高い地点を縦穴排水路の配設位置とするものである。
本実施の形態によれば、土壌硬度が軟らかく土壌水分が高い地点は慢性的な湿害要因となるため、湿害の発生を遅らせることができる。
【0015】
本発明の第7の実施の形態は、第6の実施の形態による縦穴排水路施工方法において、縦穴排水路の深さを耕盤層より深くするものである。
本実施の形態によれば、耕盤層より下方に浸透水を導くことができる。
【0016】
本発明の第8の実施の形態は、第4から第7のいずれかの実施の形態による縦穴排水路施工方法において、複数の縦穴排水路による排水経路を、土壌硬度の変化が少ない地点に設けるものである。
本実施の形態によれば、浸透水が排水経路に沿って流れやすくすることができる。
【0017】
本発明の第9の実施の形態は、第4から第7のいずれかの実施の形態による縦穴排水路施工方法において、複数の縦穴排水路による排水経路を複数形成するものである。
本実施の形態によれば、複数の排水経路を形成することで、多くの浸透水を流れやすくすることができる。
【0018】
本発明の第10の実施の形態は、第1の実施の形態による縦穴排水路施工方法において、縦穴排水路の深さを、排水方向に向かって順次深くするものである。
本実施の形態によれば、効果的に浸透水を誘導することができる。
【0019】
本発明の第11の実施の形態は、第1の実施の形態による縦穴排水路施工方法において、縦穴排水路を明渠に施工するものである。
本実施の形態によれば、明渠に施工することで、縦穴排水路を浅くすることができる。それによって圃場表面の凸凹を低くすることができ、トラクタなどの農業機械の運転で圃場表面の凸凹にハンドルを取られることを少なくすることができる。
【0020】
本発明の第12の実施の形態は、第1の実施の形態による縦穴排水路施工方法において、縦穴排水路を明渠に沿わすことなく施工するものである。
本実施の形態によれば、縦穴排水路を明渠に沿わすことなく施工することもできる。
【0021】
本発明の第13の実施の形態による排水経路は、地表面から所定深さの縦穴排水路を複数設けることで土壌表面の流去水および土壌中の浸透水を誘導するものである。
本実施の形態によれば、暗渠や明渠と比較して容易に排水経路を施工できる。
【実施例0022】
以下本発明の一実施例による縦穴排水路施工方法について説明する。
【0023】
図1は本実施例による縦穴排水路施工方法を示すフロー図である。
本実施例による縦穴排水路施工方法には、土壌硬度分布データと土壌水分含有分布データとを用いる。土壌硬度と土壌水分とによって湿害の発生個所を特定でき、排水性向上の優先順位と対策を決定できる。
本実施例による縦穴排水路施工方法は、土壌硬度と土壌水分とによって縦穴排水路の配設位置を特定し(S1)、縦穴排水路の深さを決定する(S2)。
そして、縦穴排水路施工機を用いて、特定した配設位置に決定した深さの縦穴排水路を施工する(S3)。
本実施例による縦穴排水路施工方法によれば、地表面から所定深さの縦穴排水路を複数設けることで排水経路を形成し、複数の縦穴排水路によって形成される排水経路によって土壌表面の流去水および土壌中の浸透水を誘導することができる。
【0024】
図2は土壌中の排水についての概念図である。
圃場における土壌は、表層から所定深さまでに作土層があり、作土層の下には耕盤層がある。雨水は、作土層では表面流去するとともに耕盤層を浸透して下層を通過して下方に浸透する。図中の「input」(雨)と「output」(表面流去と下方浸透)とのバランスによって水がどこに溜まるかを判断することができる。
本発明においては、耕盤層よりも少し上部にある作土層の位置で土壌硬度水平分布と土壌水分水平分布の関係から、水の溜まりやすい箇所を判断している。
【0025】
図3は降雨強度による土壌中の排水性の分類を示す概念図である。
雨水は、最初に土壌中に浸透し始めるが、浸透量よりも雨量が多くなると、表面流去として排水され始め、表面流去飽和点を越えると圃場に湛水する。本発明では、表面流去を促すことを狙いとする場合には縦穴排水路の深さを耕盤層までとし、湛水対策を目的とする場合には縦穴排水路の深さを耕盤層より深くする。なお、縦穴排水路の深さを耕盤層までとする場合は、縦穴排水路は耕盤層に至ってもよいが、耕盤層を越えない深さである。
【0026】
図4は圃場における土壌硬度と土壌水分の相対的な関係を示す図である。
図4に示すように、土壌硬度と土壌水分によって4つの領域に区分でき、土壌硬度が硬く土壌水分が高い(多い)区分は、急性的な湿害要因であり、湿害対策の優先順位は最も高く、土壌硬度が軟らかく土壌水分が高い(多い)区分は、慢性的な湿害要因であり、湿害対策の優先順位は2番目に高い。
【0027】
図5は圃場表土における土壌水分水平分布を示す図である。
図5(a)は、同一圃場表土において、計測日(すなわち降水量)が異なる3つの土壌水分水平分布を示すデータである。
図5(a)に示す3枚の土壌水分水平分布では、それぞれ降水量が異なるが、水分が多い傾向にあるエリアと、水分が少ない傾向になるエリアとはほぼ同じ位置に現れている。
図5(b)では、
図5(a)の3枚の土壌水分水平分布を基に水分が多い傾向にあるエリアと、水分が少ない傾向になるエリアとを表示したものである。
【0028】
図6は土壌硬度が硬く土壌水分が高い地点を縦穴排水路の配設位置とする縦穴排水路施工方法の一実施例を示す図である。
図6では、縦と横が100mの圃場における土壌硬度分布を等高線で示し、丸枠は土壌水分が高いエリア11、12、13、14、15を示している。
土壌水分が高いエリア11、12、13、14、15の中で、エリア11、12、13、14には土壌硬度が硬い地点21、22、23、24がある。
【0029】
図6に示す縦穴排水路施工方法では、土壌硬度が硬い地点21、22、23、24であり、土壌水分が高いエリア11、12、13、14に縦穴排水路31、32、33、34を設けている。
そして、縦穴排水路31、32、33、34から、排水方向に縦穴排水路30を順次配置することで排水経路30A、30B、30C、30Dを形成している。
土壌硬度が硬く土壌水分が高い地点は急性的な湿害要因となるため、土壌硬度が硬く土壌水分が高い地点を縦穴排水路30、31、32、33、34の配設位置とすることで、急性的な湿害の発生を抑えることができる。
なお、複数の縦穴排水路30による排水経路30A、30B、30C、30Dは、土壌硬度の変化が少ない地点に設けることが好ましい。等高線の幅が狭いと土壌硬度が変化するため、排水経路30A、30B、30C、30Dは、等高線の幅が広いエリアで、等高線を横断しないように形成する。
このように、排水経路30A、30B、30C、30Dを、土壌硬度の変化が少ない地点に設けることで、浸透水が排水経路30A、30B、30C、30Dに沿って流れやすくすることができる。
【0030】
図7は土壌硬度が硬く土壌水分が高い地点を縦穴排水路の配設位置とする縦穴排水路施工方法の他の実施例を示す図である。
図7は、
図6と同様に土壌硬度が硬く土壌水分が高い地点を縦穴排水路の配設位置とするものであるが、降雨強度が高い地域又は降雨強度が高い時期に対する縦穴排水路施工方法である。
図7においても
図6と同様に、縦と横が100mの圃場における土壌硬度分布を等高線で示し、丸枠は土壌水分が高いエリア11、12、13、14、15を示している。
土壌水分が高いエリア11、12、13、14、15の中で、エリア11、12、13、14には土壌硬度が硬い地点21、22、23、24がある。
【0031】
図7に示す縦穴排水路施工方法では、土壌硬度が硬い地点21、22、23、24であり、土壌水分が高いエリア11、12、13、14に縦穴排水路31X、31Y、32X、32Y、33X、33Y、33Z、34X、34Yを設けている。
そして、縦穴排水路31X、31Y、32X、32Y、33X、33Y、33Z、34X、34Yから、排水方向に縦穴排水路30を順次配置することで排水経路30AX、30AY、30BX、30BY、30CX、30CY、30CZ、30DX、30DYを形成している。
なお、本実施例では、縦穴排水路30、31X、31Y、32X、32Y、33X、33Y、33Z、34X、34Yの深さは耕盤層までとしている。
土壌硬度が硬く土壌水分が高い地点は急性的な湿害要因となるため、土壌硬度が硬く土壌水分が高い地点を縦穴排水路30、31X、31Y、32X、32Y、33X、33Y、33Z、34X、34Yの配設位置とし、縦穴排水路30、31X、31Y、32X、32Y、33X、33Y、33Z、34X、34Yの深さを耕盤層までとし、排水経路30AX、30AY、30BX、30BY、30CX、30CY、30CZ、30DX、30DYをそれぞれのエリアに対して複数形成することで、効果的に表面流去を促し、多くの浸透水を流れやすくすることができ、急性的な湿害の発生を抑えることができる。
なお、複数の縦穴排水路30による排水経路30AX、30AY、30BX、30BY、30CX、30CY、30CZ、30DX、30DYは、土壌硬度の変化が少ない地点に設けることが好ましい。等高線の幅が狭いと土壌硬度が変化するため、排水経路30AX、30AY、30BX、30BY、30CX、30CY、30CZ、30DX、30DYは、等高線の幅が広いエリアで、等高線を横断しないように形成する。
このように、排水経路30AX、30AY、30BX、30BY、30CX、30CY、30CZ、30DX、30DYを、土壌硬度の変化が少ない地点に設けることで、浸透水が排水経路30AX、30AY、30BX、30BY、30CX、30CY、30CZ、30DX、30DYに沿って流れやすくすることができる。
【0032】
図8は土壌硬度が軟らかく土壌水分が高い地点を縦穴排水路の配設位置とする縦穴排水路施工方法の一実施例を示す図である。
図8では、縦と横が100mの圃場における土壌硬度分布を等高線で示し、丸枠は土壌水分が高いエリア11、12、13、14、15を示している。
土壌水分が高いエリア11、12、13、14、15の中で、エリア11、15には土壌硬度が軟らかい地点25、26がある。
【0033】
図8に示す縦穴排水路施工方法では、土壌硬度が軟らかい地点25、26であり、土壌水分が高いエリア11、12、13、14に縦穴排水路35、36を設けている。
そして、縦穴排水路35、36から、排水方向に縦穴排水路30を順次配置することで排水経路30E、30Fを形成している。
土壌硬度が軟らかく土壌水分が高い地点は慢性的な湿害要因となるため、土壌硬度が軟らかく土壌水分が高い地点を縦穴排水路30、35、36の配設位置とすることで、慢性的な湿害の発生を抑えることができる。
なお、複数の縦穴排水路30による排水経路30E、30Fは、土壌硬度の変化が少ない地点に設けることが好ましい。等高線の幅が狭いと土壌硬度が変化するため、排水経路30E、30Fは、等高線の幅が広いエリアで、等高線を横断しないように形成する。
このように、排水経路30E、30Fを、土壌硬度の変化が少ない地点に設けることで、浸透水が排水経路30E、30Fに沿って流れやすくすることができる。
【0034】
図9は土壌硬度が軟らかく土壌水分が高い地点を縦穴排水路の配設位置とする縦穴排水路施工方法の他の実施例を示す図である。
図9は、
図8と同様に土壌硬度が軟らかく土壌水分が高い地点を縦穴排水路の配設位置とするものであるが、降雨強度が高い地域又は降雨強度が高い時期に対する縦穴排水路施工方法である。
図9においても
図8と同様に、縦と横が100mの圃場における土壌硬度分布を等高線で示し、丸枠は土壌水分が高いエリア11、12、13、14、15を示している。
土壌水分が高いエリア11、12、13、14、15の中で、エリア11、15には土壌硬度が軟らかい地点25、26がある。
【0035】
図9に示す縦穴排水路施工方法では、土壌硬度が軟らかい地点25、26であり、土壌水分が高いエリア11、12、13、14に縦穴排水路35X、35Y、36X、36Yを設けている。
そして、縦穴排水路35X、35Y、36X、36Yから、排水方向に縦穴排水路30を順次配置することで排水経路30EX、30EY、30FX、30FYを形成している。
なお、本実施例では、縦穴排水路30、35X、35Y、36X、36Yの深さは耕盤層より深くしている。
土壌硬度が軟らかく土壌水分が高い地点は慢性的な湿害要因となるため、土壌硬度が軟らかく土壌水分が高い地点を縦穴排水路30、35X、35Y、36X、36Yの配設位置とし、穴排水路30、35X、35Y、36X、36Yの深さを耕盤層より深くし、排水経路30EX、30EY、30FX、30FYをそれぞれのエリアに対して複数形成することで、耕盤層より下方に浸透水を導くことができ、多くの浸透水を流れやすくすることができ、慢性的な湿害の発生を抑えることができる。
なお、複数の縦穴排水路30による排水経路30EX、30EY、30FX、30FYは、土壌硬度の変化が少ない地点に設けることが好ましい。等高線の幅が狭いと土壌硬度が変化するため、排水経路30EX、30EY、30FX、30FYは、等高線の幅が広いエリアで、等高線を横断しないように形成する。
このように、排水経路30EX、30EY、30FX、30FYを、土壌硬度の変化が少ない地点に設けることで、浸透水が排水経路30EX、30EY、30FX、30FYに沿って流れやすくすることができる。
【0036】
図10は縦穴排水路施工方法の更に他の実施例を示す図である。
図10に示す縦穴排水路施工方法は、
図7に示す施工と
図9に示す施工の両方を行う場合を示している。
すなわち、
図10では、土壌硬度が硬く土壌水分が高い地点と、土壌硬度が軟らかく土壌水分が高い地点とを、縦穴排水路の配設位置とするものである。
【0037】
図11は縦穴排水路の深さを示す説明図である。
縦穴排水路30は、耕盤層までとする深さとするか、耕盤層より深くするが、土壌水分が高いエリア10から排水路40に向かって縦穴排水路30の深さを順次深くすることが好ましい。このように、土壌水分が高いエリア10から排水路40に向かって縦穴排水路30の深さを順次深くすることで、効果的に浸透水を誘導することができる。
【0038】
図12は縦穴排水路の施工位置を示す説明図であり、
図12(a)は上面図、
図12(b)は
図12(a)における点線の明渠位置での断面図である。
図12(a)に示すように、明渠Cに沿って縦穴排水路30を施工することで、縦穴排水路30を浅くすることができる。なお、明渠Cに沿って縦穴排水路30を施工する場合にも、
図12(b)に示すように、浸透水を誘導する方向に、縦穴排水路30の深さを順次深くすることが好ましい。
【0039】
図13は、
図12とは異なる縦穴排水路の施工位置を示す説明図であり、
図13(a)は上面図、
図13(b)は
図13(a)における点線の明渠位置での断面図である。
図13(a)に示すように、明渠Cに沿わすことなく縦穴排水路30を施工してもよく、この場合にも、
図12(b)に示すように、明渠Cに施工する縦穴排水路30は浅くすることができる。それによって圃場表面の凸凹を低くすることができ、トラクタなどの農業機械の運転で圃場表面の凸凹にハンドル124を取られることを少なくすることができる。なお、明渠Cに沿わすことなく縦穴排水路30を施工する場合にも、浸透水を誘導する方向に、縦穴排水路30の深さを順次深くすることが好ましい。
なお、縦穴排水路30は、穴径が4cm~30cm、好ましくは車両走行に支障を与えにくい20cm以下、深さは60cm程度であり、10cmから20cm単位で、3回から6回に分けて掘削するものである。
【0040】
図14は本実施例による縦穴排水路施工方法に用いる縦穴排水路施工機を前方から見た概念図、
図15は同縦穴排水路施工機を下方から見た概念図である。
本実施例による縦穴排水路施工機は、本体フレーム110に、土壌を掘削する掘削部120と、本体フレーム110を移動させる走行部130と、掘削部120によって地表面から引き上げられた土壌の性状を測定する土壌測定部140と、掘削時に本体フレーム110の回転を阻止する回転阻止部115とを保持している。
【0041】
掘削部120は、掘削ドリル121と、掘削ドリル121を回転させるモータ122と、掘削ドリル121を上下にスライドさせるスライドレール123と、掘削ドリル121を押し下げ又は引き上げるハンドル124と、掘削ドリル121を吊り下げるスプリング125とを有している。
本実施例では走行部130は、4輪のタイヤで構成しているが、6輪や8輪のタイヤでもよく、クローラでもよい。
【0042】
土壌測定部140は、カメラ、近赤外線センサ、においセンサ、電磁探査システム、音波探査システム、及びレーザーセンサの少なくともいずれか1つを有するものである。
土壌測定部140としてカメラを有する場合には、カメラを用いて、掘削部120によって地表面から引き上げられた土壌の色や塊が崩れる状況を撮影する。土壌の色や塊が崩れる状況から土壌の性状を判別することができる。また、カメラを用いて、掘削部120によって地表面から引き上げられた土壌の色や塊を撮影し、色の濃淡や塊の大きさによって易耕性を判定する。色の明度や土壌の塊の大きさによって土壌含有水分が推測でき、易耕性を判別できる。また、カメラを用いて、掘削部120によって地表面から引き上げられた土壌を撮影し、土壌の色の明度によって土壌水分量や有機物の量を判定する。土壌水分が高ければ黒っぽく、土壌水分が低ければ白っぽくなることから、土壌の色の明度によって土壌水分量や有機物の量を判別することができる。
土壌測定部140として近赤外線センサを有する場合には、近赤外線センサを用いて、掘削部20によって地表面から引き上げられた土壌の吸収スペクトルを測定し、吸収スペクトルによって土壌水分量を判定する。吸収スペクトルによって土壌水分量を判定することで定量的な測定が可能となる。
土壌測定部140としてにおいセンサを有する場合には、においセンサを用いて、掘削部120によって地表面から引き上げられた土壌の臭いを測定し、土壌の臭いによって還元状態又は微生物活性評価を行うことができる。
土壌測定部140として電磁探査システムまたは音波探査システムを有する場合には土壌水分を検出でき、土壌測定部140としてレーザーセンサを有する場合には土塊の形状把握を行うことができる。
このように、土壌測定部140が、少なくともカメラ、近赤外線センサ、においセンサ、電磁探査システム、音波探査システム、及びレーザーセンサのいずれか1つを有することで、土壌測定を行うことができる。
【0043】
回転阻止部115は、土壌に突き刺して用いる杭材とし、好ましくは一対の杭材を、本体フレーム110を挟んで配置する。
本体フレーム110に回転阻止部115を有して掘削時に本体フレーム110の回転を阻止することができるため、例えば手動式で軽い本体フレーム110であっても掘削を行うことができる。そして、回転阻止部115を杭材とすることで、狭い場所でも本体フレーム110の回転を阻止して掘削を行える。なお、縦穴排水路施工機が十分に重くて縦穴を掘削中に回転しない場合に回転阻止部115は無くても良い。
【0044】
本実施例に用いる縦穴排水路施工機は、更に、深さ測定部150と、地図とともに掘削位置を表示する表示部160と、現在位置を検出する位置検出部170と、土壌測定部140で測定した測定データを記憶する記憶部180と、バッテリー190とを備えている。
【0045】
本実施例に用いる縦穴排水路施工機は、深さ測定部150として本体フレーム110に配置したスケールを示しているが、掘削ドリル121やハンドル124の位置や移動量、又はモータ122の回転数から引き上げられた土壌の地表面からの深さを検出するセンサであることが好ましい。
表示部160としては、無線通信機能を備えた携帯端末が適しており、位置検出部170としては、GNSS受信機が適しているが、表示部160として機能させる携帯端末が現在位置検出機能を備えていてもよい。
記憶部180には、掘削部120によって地表面から引き上げられた土壌についての地表面からの深さデータとともに土壌測定部140による測定データを記憶する。
このように、現在位置を検出するとともに掘削位置を表示することで、掘削位置を確認できることで施工効率が高まる。また、地表面からの深さ別に測定データを記憶させることで、耕盤層や地下水位、耕盤層や地下水位からの距離に基づく排水性、土壌の耕作適正などを判定できる。
バッテリー190は、掘削部120、土壌測定部140、表示部160、位置検出部170、及び記憶部180に電力を供給する。走行部130についてもバッテリー190によって駆動されることが好ましい。
このような縦穴排水路施工機を用いることで、掘削による上下動作を複数回に分けて行うことで地表面から所定深さの縦穴排水路を施工し、本体フレーム110に保持される土壌測定部140では、掘削部120によって地表面から引き上げられた土壌の性状を測定することで、縦穴排水路を施工するタイミングで、地表面からの深さ別に土壌の性状を把握できる。
【0046】
本発明の排水経路は、地表面から所定深さの縦穴排水路30を複数設けることで土壌表面の流去水および土壌中の浸透水を誘導するものであり、暗渠や明渠と比較して容易に排水経路を施工できる。