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特開2023-125435細胞膜非透過性の物質を動物細胞の細胞質に送達する新規キャリア分子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023125435
(43)【公開日】2023-09-07
(54)【発明の名称】細胞膜非透過性の物質を動物細胞の細胞質に送達する新規キャリア分子
(51)【国際特許分類】
   C07K 7/00 20060101AFI20230831BHJP
   C12N 5/07 20100101ALI20230831BHJP
【FI】
C07K7/00 ZNA
C12N5/07
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022029516
(22)【出願日】2022-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】築地 真也
(72)【発明者】
【氏名】澤田 隼佑
【テーマコード(参考)】
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AC20
4B065BA30
4B065BD50
4B065CA44
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA14
4H045BA15
4H045BA16
4H045BA17
4H045BA18
4H045BA19
4H045BA40
4H045BA51
4H045EA20
4H045FA10
4H045FA20
(57)【要約】
【課題】細胞膜非透過性の物質を動物細胞の細胞質に送達する技術を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表される化合物(式(1)中、Xは水素原子、アセチル基又は-L-Rを表し、Xは-NH、-OH又は-L-Rを表し、XとXの少なくとも一方は-L-Rであり、L及びLは、それぞれ独立に、1又は複数の-C-が、-O-、-CO-、-NH-、-S-又は-S-S-に置換されていてもよい炭素数1~50の2価の炭化水素基を表し、Rは、イソプレン単位数1~5のプレニル基、炭素数10~30の飽和若しくは不飽和のアシル基又は炭素数10~30の飽和若しくは不飽和のアルキル基を表し、Rは、結合性官能基、又は、分子量100~5000の細胞膜非透過性の物質から誘導された1価の基を表し、m、nは、0~20の整数を表し、p、qは、1~4の整数を表す。)。
[化1]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物。
【化1】
[式(1)中、Xは水素原子、アセチル基又は-L-Rを表し、Xは-NH、-OH又は-L-Rを表し、XとXの少なくとも一方は-L-Rであり、L及びLは、それぞれ独立に、1又は複数の-C-が、-O-、-CO-、-NH-、-S-又は-S-S-に置換されていてもよい炭素数1~50の2価の炭化水素基を表し、Rは、イソプレン単位数1~5のプレニル基、炭素数10~30の飽和若しくは不飽和のアシル基又は炭素数10~30の飽和若しくは不飽和のアルキル基を表し、Rは、結合性官能基、又は、分子量100~5000の細胞膜非透過性の物質から誘導された1価の基を表し、m、nは、それぞれ独立に0~20の整数を表し、p、qは、それぞれ独立に1~4の整数を表す。]
【請求項2】
前記式(1)中のLが、-S-S-基を含む、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記式(1)におけるm及びnの合計が5以上である、請求項1又は2に記載の化合物。
【請求項4】
前記式(1)におけるXが-L-Rであり、nが7以下であるか、又は、前記式(1)におけるXが-L-Rであり、mが7以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項5】
細胞に接触させた場合に、前記細胞の細胞膜を透過して細胞内に導入される、請求項1~4のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項6】
前記分子量100~5000の細胞膜非透過性の物質が、ペプチドである、請求項1~5のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項7】
分子量100~5000の細胞膜非透過性の物質を細胞透過性の物質に改変する方法であって、
前記細胞膜非透過性の物質に下記式(2)で表される基又は下記式(2’)で表される基を結合させる工程を含む方法。
【化2】
[式(2)及び式(2’)中、L及びLは、それぞれ独立に、1又は複数の-C-が、-O-、-CO-、-NH-、-S-又は-S-S-に置換されていてもよい炭素数1~50の2価の炭化水素基を表し、Rは、イソプレン単位数1~5のプレニル基、炭素数10~30の飽和若しくは不飽和のアシル基又は炭素数10~30の飽和若しくは不飽和のアルキル基を表し、m、nは、それぞれ独立に0~20の整数を表し、p、qは、それぞれ独立に1~4の整数を表す。また、式(2)中、Xは、-NH又は-OHを表し、式(2’)中、Xは、水素原子又はアセチル基を表す。]
【請求項8】
分子量100~5000の細胞膜非透過性の物質を対象細胞の細胞質に導入する方法であって、
下記式(2)で表される基又は下記式(2’)で表される基が結合した前記物質を前記対象細胞に接触させる工程を含む方法。
【化3】
[式(2)及び式(2’)中、L及びLは、それぞれ独立に、1又は複数の-C-が、-O-、-CO-、-NH-、-S-又は-S-S-に置換されていてもよい炭素数1~50の2価の炭化水素基を表し、Rは、イソプレン単位数1~5のプレニル基、炭素数10~30の飽和若しくは不飽和のアシル基又は炭素数10~30の飽和若しくは不飽和のアルキル基を表し、m、nは、それぞれ独立に0~20の整数を表し、p、qは、それぞれ独立に1~4の整数を表す。式(2)中、Xは、-NH又は-OHを表し、式(2’)中、Xは、水素原子又はアセチル基を表す。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞膜非透過性の物質を動物細胞の細胞質に送達する新規キャリア分子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、合成低分子医薬の分野は行き詰まりも指摘されており、医薬品開発の中心は抗体医薬をはじめとしたバイオ医薬にシフトしている。このような状況の中、ペプチド医薬は低分子医薬の問題を克服する次世代医薬基盤として期待されている。
【0003】
しかしながら、ペプチドは一般的に細胞膜透過性がないため、細胞内のタンパク質を標的としたペプチド創薬の大きなボトルネックとなっている。このため、ペプチドを細胞内に導入できる汎用的な技術の開発が求められている。
【0004】
これまでに、ペプチドを細胞内に導入するための技術がいくつか開発されてきたが、エンドサイトーシス経由での細胞内導入である場合が多い(例えば、非特許文献1を参照。)。エンドサイトーシス経由でペプチドが細胞内に導入された場合、ペプチドはエンドソーム内に内包されるため、効果的に薬効を発揮することができない。
【0005】
一方、ピレンブチレート法(例えば、非特許文献2を参照。)によれば、細胞質にペプチドを送達することができる。しかしながら、この手法では、細胞を高濃度の別の化合物で前処理する必要がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Futaki S., Membrane-permeable Arginine-Rich Peptides and the Translocation Mechanisms, Adv Drug Deliv Rev., 57 (4), 547-548, 2005.
【非特許文献2】Takeuchi T., et al., Direct and Rapid Cytosolic Delivery Using Cell-Penetrating Peptides Mediated by Pyrenebutyrate, ACS Chem Biol., 1 (5),299-303, 2006.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、ペプチド等の細胞膜非透過性の物質を細胞質に直接送達する汎用的な技術は未だ確立されていない。そこで、本発明は、細胞膜非透過性の物質を動物細胞の細胞質に送達する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の態様を含む。
[1]下記式(1)で表される化合物。
【化1】
[式(1)中、Xは水素原子、アセチル基又は-L-Rを表し、Xは-NH、-OH又は-L-Rを表し、XとXの少なくとも一方は-L-Rであり、L及びLは、それぞれ独立に、1又は複数の-C-が、-O-、-CO-、-NH-、-S-又は-S-S-に置換されていてもよい炭素数1~50の2価の炭化水素基を表し、Rは、イソプレン単位数1~5のプレニル基、炭素数10~30の飽和若しくは不飽和のアシル基又は炭素数10~30の飽和若しくは不飽和のアルキル基を表し、Rは、結合性官能基、又は、分子量100~5000の細胞膜非透過性の物質から誘導された1価の基を表し、m、nは、それぞれ独立に0~20の整数を表し、p、qは、それぞれ独立に1~4の整数を表す。]
[2]前記式(1)中のLが、-S-S-基を含む、[1]に記載の化合物。
[3]前記式(1)におけるm及びnの合計が5以上である、[1]又は[2]に記載の化合物。
[4]前記式(1)におけるXが-L-Rであり、nが7以下であるか、又は、前記式(1)におけるXが-L-Rであり、mが7以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の化合物。
[5]細胞に接触させた場合に、前記細胞の細胞膜を透過して細胞内に導入される、[1]~[4]のいずれかに記載の化合物。
[6]前記分子量100~5000の細胞膜非透過性の物質が、ペプチドである、[1]~[5]のいずれかに記載の化合物。
[7]分子量100~5000の細胞膜非透過性の物質を細胞透過性の物質に改変する方法であって、前記細胞膜非透過性の物質に下記式(2)で表される基又は下記式(2’)で表される基を結合させる工程を含む方法。
【化2】
[式(2)及び式(2’)中、L及びLは、それぞれ独立に、1又は複数の-C-が、-O-、-CO-、-NH-、-S-又は-S-S-に置換されていてもよい炭素数1~50の2価の炭化水素基を表し、Rは、イソプレン単位数1~5のプレニル基、炭素数10~30の飽和若しくは不飽和のアシル基又は炭素数10~30の飽和若しくは不飽和のアルキル基を表し、m、nは、それぞれ独立に0~20の整数を表し、p、qは、それぞれ独立に1~4の整数を表す。また、式(2)中、Xは、-NH又は-OHを表し、式(2’)中、Xは、水素原子又はアセチル基を表す。]
[8]分子量100~5000の細胞膜非透過性の物質を対象細胞の細胞質に導入する方法であって、下記式(2)で表される基又は下記式(2’)で表される基が結合した前記物質を前記対象細胞に接触させる工程を含む方法。
【化3】
[式(2)及び式(2’)中、L及びLは、それぞれ独立に、1又は複数の-C-が、-O-、-CO-、-NH-、-S-又は-S-S-に置換されていてもよい炭素数1~50の2価の炭化水素基を表し、Rは、イソプレン単位数1~5のプレニル基、炭素数10~30の飽和若しくは不飽和のアシル基又は炭素数10~30の飽和若しくは不飽和のアルキル基を表し、m、nは、それぞれ独立に0~20の整数を表し、p、qは、それぞれ独立に1~4の整数を表す。また、式(2)中、Xは、-NH又は-OHを表し、式(2’)中、Xは、水素原子又はアセチル基を表す。]
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、細胞膜非透過性の物質を動物細胞の細胞質に送達する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1(a)は、実験例3で使用したSH2-EGFPの構造を示す模式図である。図1(b)及び(c)は、実験例3の結果を示す共焦点レーザー顕微鏡写真である。
図2】細胞膜局在の実験系を説明する模式図である。
図3図3(a)は、実験例5で使用したscFv GCN4-sfGFPの構造を示す模式図である。図3(b)及び(c)は、実験例5の結果を示す共焦点レーザー顕微鏡写真である。
図4図4(a)は、実験例7で使用した15F11-mEGFPの構造を示す模式図である。図4(b)及び(c)は、実験例7の結果を示す共焦点レーザー顕微鏡写真である。
図5図5(a)及び(b)は、実験例10の結果を示す共焦点レーザー顕微鏡写真である。
図6図6(a)及び(b)は、実験例13の結果を示す共焦点レーザー顕微鏡写真である。
図7図7(a)及び(b)は、実験例16の結果を示す共焦点レーザー顕微鏡写真である。
図8図8(a)は、実験例18で使用したDD-YFPの構造を示す模式図である。図8(b)及び(c)は、実験例18の結果を示す共焦点レーザー顕微鏡写真である。
図9】不安定化変異型eDHFRの実験系を説明する模式図である。
図10図10(a)及び(b)は、実験例20の結果を示す共焦点レーザー顕微鏡写真である。
図11図11は、実験例22の結果を示す顕微鏡写真である。
図12図12は、実験例23の結果を示す顕微鏡写真である。
図13図13は、実験例24の結果を示す顕微鏡写真である。
図14図14は、実験例26、29、30、33の結果を示す顕微鏡写真である。
図15図15は、実験例35の結果を示す顕微鏡写真である。
図16図16(a)は、各化合物のペプチド導入率を算出した結果を示すグラフである。図16(b)は、各化合物の細胞毒性を評価した結果を示すグラフである。
図17図17(a)~(c)は、PI3K/Akt経路の阻害実験を説明する模式図である。
図18図18(a)は、実験例37におけるウエスタンブロッティングの結果を示す写真である。図18(b)は、図18(a)の結果を数値化したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
一実施形態において、本発明は、下記式(1)で表される化合物を提供する。
【0012】
【化4】
[式(1)中、Xは水素原子、アセチル基又は-L-Rを表し、Xは-NH、-OH又は-L-Rを表し、XとXの少なくとも一方は-L-Rであり、L及びLは、それぞれ独立に、1又は複数の-C-が、-O-、-CO-、-NH-、-S-又は-S-S-に置換されていてもよい炭素数1~50の2価の炭化水素基を表し、Rは、イソプレン単位数1~5のプレニル基、炭素数10~30の飽和若しくは不飽和のアシル基又は炭素数10~30の飽和若しくは不飽和のアルキル基を表し、Rは、結合性官能基、又は、分子量100~5000の細胞膜非透過性の物質から誘導された1価の基を表し、m、nは、それぞれ独立に0~20の整数を表し、p、qは、それぞれ独立に1~4の整数を表す。]
【0013】
実施例において後述するように、本実施形態の化合物を動物細胞に接触させると、細胞膜を透過して細胞内に導入される。この過程において、本実施形態の化合物は、エンドサイトーシスにより細胞質に導入されるか、あるいは、エンドサイトーシスによらず、細胞膜を直接透過することにより細胞質に導入される。
【0014】
本実施形態の化合物は、従来法と異なり、細胞を別の化合物で前処理することなく、培地に添加するだけで、細胞質に導入することができる。また、本実施形態の化合物を生体に投与することにより、エンドサイトーシスにより生体の細胞の細胞質に送達するか、あるいは、エンドサイトーシスによらず、細胞膜を直接透過して生体の細胞の細胞質に送達することができる。
【0015】
式(1)で表される化合物において、Rは結合性官能基であってもよいし、分子量100~5000の細胞膜非透過性の物質から誘導された1価の基であってもよい。
【0016】
結合性官能基としては、例えば、アジド基、ジベンジルシクロオクチン(DBCO)基、スクシニミジルエステル基、マレイミド基、チオール基、アルデヒド基、ケト基等が挙げられる。
【0017】
が結合性官能基である化合物は、当該結合性官能基による結合反応により、分子量100~5000の細胞膜非透過性の任意の物質に結合させることにより、細胞膜非透過性の物質を細胞膜透過性の物質に変換するために用いることができる。
【0018】
例えば結合性官能基がDBCO基である場合、式(1)で表される化合物を、アジド基を有する化合物と接触させることにより、クリック反応により結合させることができる。また、例えば結合性官能基がスクシニミジルエステル基である場合、式(1)で表される化合物を、第一級アミンを有する化合物と接触させることにより、アミド結合を形成させて結合させることができる。また、例えば結合性官能基がマレイミド基である場合、式(1)で表される化合物を、チオール基を有する化合物と接触させることにより、チオエーテル結合を形成させて結合させることができる。
【0019】
本実施形態の化合物において、分子量100~5000の細胞膜非透過性の物質から誘導された1価の基とは、例えば、分子量100~5000の細胞膜非透過性の物質から、アジド基を除いた基、アミノ基を除いた基、チオール基を除いた基等であってもよい。
【0020】
細胞膜非透過性の物質とは、例えば、動物細胞の培地中に添加しても細胞中に導入されない物質を意味する。例えば、培地中に5μMの濃度で添加して30分インキュベート後に、細胞質中における物質濃度が5nM未満である物質を細胞膜非透過性の物質と判断することができる。
【0021】
分子量100~5000の細胞膜非透過性の物質は、ペプチドであってもよい。ペプチドは、直鎖状のペプチドであってもよいし、環状のペプチドであってもよい。また、天然アミノ酸のみからなるペプチドであってもよいし、特殊アミノ酸を含むペプチドであってもよい。特殊アミノ酸を含むペプチドとしては、ペプトイドが挙げられる。特殊アミノ酸としては、例えば、アセチル化アミノ酸、クロロアセチル化アミノ酸、D-アミノ酸、N-メチルアミノ酸、β-アミノ酸等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0022】
分子量100~5000の細胞膜非透過性の物質としては、医薬、研究用物質等が挙げられる。分子量500未満の医薬は低分子医薬と呼ばれる。また、分子量500~2000程度の医薬は中分子医薬と呼ばれる。中分子医薬としては、ペプチド医薬が挙げられる。
【0023】
より具体的な、分子量100~5000の細胞膜非透過性の物質としては、実施例において後述する、HAペプチド、SH2ペプチド、GCN4ペプチド、PI3Kインヒビターペプチド、フルオレセイン等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0024】
一実施形態において、本発明は、分子量100~5000の細胞膜非透過性の物質を細胞透過性の物質に改変する方法であって、前記細胞膜非透過性の物質に下記式(2)で表される基又は下記式(2’)で表される基を結合させる工程を含む方法を提供する。
【化5】
[式(2)及び式(2’)中、L及びLは、それぞれ独立に、1又は複数の-C-が、-O-、-CO-、-NH-、-S-又は-S-S-に置換されていてもよい炭素数1~50の2価の炭化水素基を表し、Rは、イソプレン単位数1~5のプレニル基、炭素数10~30の飽和若しくは不飽和のアシル基又は炭素数10~30の飽和若しくは不飽和のアルキル基を表し、m、nは、それぞれ独立に0~20の整数を表し、p、qは、それぞれ独立に1~4の整数を表す。また、式(2)中、Xは、-NH又は-OHを表し、式(2’)中、Xは、水素原子又はアセチル基を表す。]
【0025】
例えば、細胞膜透過性がない医薬に、上記式(2)で表される基又は上記式(2’)で表される基を結合させることにより、上記式(1)で表される化合物を得ることができる。この結果、細胞膜透過性がない医薬を、エンドサイトーシスにより細胞質に導入するか、あるいは、エンドサイトーシスによらず、細胞膜を直接透過することにより細胞質に導入し、薬効を発揮させることができる医薬に変換することができる。これにより、例えばペプチド創薬を飛躍的に加速することができる。
【0026】
細胞膜透過性がない物質に、上記式(2)で表される基又は上記式(2’)で表される基を結合させる方法としては、上述した方法が挙げられる。具体的には、式(1)で表される化合物において、Rが結合性官能基である化合物を、細胞膜透過性がない物質と接触させることにより、当該結合性官能基と細胞膜透過性がない物質との結合反応により、細胞膜透過性がない物質に、上記式(2)で表される基又は上記式(2’)で表される基を結合させることができる。
【0027】
分子量100~5000の細胞膜非透過性の物質が医薬である場合、上記式(1)で表される化合物は、医薬を直接細胞質に送達する薬物送達システムであるということができる。
【0028】
分子量100~5000の細胞膜非透過性の物質は、研究用物質であってもよい。研究用物質としては、特に限定されず、例えば、化合物ライブラリ、標識物質、糖等が挙げられる。糖はオリゴ糖であってもよい。化合物ライブラリとしては、天然化合物ライブラリ、合成化合物ライブラリ、既存薬ライブラリ、ペプチドライブラリ等が挙げられる。
【0029】
上記式(1)で表される化合物、上記式(2)で表される基又は上記式(2’)で表される基において、Lは、1又は複数の-C-が、-O-、-CO-、-NH-、-S-又は-S-S-に置換されていてもよい炭素数1~50の2価の炭化水素基を表す。Lは、Rで表される基と、下記式(3)で表される基とを結合するリンカーとして機能する基であれば特に限定されない。また、Lの長さは、本発明の効果が得られる程度であれば特に限定されない。Lは、アミノ酸の側鎖に由来する基であってもよい。
【0030】
【化6】
[式(3)中、Xは水素原子、アセチル基又は-L-Rを表し、Xは-NH、-OH又は-L-Rを表し、XとXの少なくとも一方は-L-Rであり、Lは、それぞれ独立に、1又は複数の-C-が、-O-、-CO-、-NH-、-S-又は-S-S-に置換されていてもよい炭素数1~50の2価の炭化水素基を表し、Rは、結合性官能基、又は、分子量100~5000の細胞膜非透過性の物質から誘導された1価の基を表し、m、nは、それぞれ独立に0~20の整数を表し、p、qは、それぞれ独立に1~4の整数を表す。]
【0031】
上記式(1)で表される化合物、上記式(2)で表される基又は上記式(2’)で表される基において、Lは、Rで表される基と、下記式(4)で表される基又は下記式(4’)で表される基とを結合するリンカーとして機能する基であれば特に限定されない。また、Lの長さは、本発明の効果が得られる程度であれば特に限定されない。また、上記式(1)で表される化合物において、Lは、上述した結合性官能基の一部を含んでいてもよい。
【0032】
【化7】
[式(4)及び式(4’)中、Lは、1又は複数の-C-が、-O-、-CO-、-NH-、-S-又は-S-S-に置換されていてもよい炭素数1~50の2価の炭化水素基を表し、Rは、イソプレン単位数1~5のプレニル基、炭素数10~30の飽和若しくは不飽和のアシル基又は炭素数10~30の飽和若しくは不飽和のアルキル基を表し、m、nは、それぞれ独立に0~20の整数を表し、p、qは、それぞれ独立に1~4の整数を表す。また、式(4)中、Xは、-NH又は-OHを表し、式(4’)中、Xは、水素原子又はアセチル基を表す。]
【0033】
実施例において後述するように、上記式(1)で表される化合物を、細胞質内に導入した後、Rで表される基と、上記式(4)で表される基とを切断したい場合、例えば、Lに-S-S-基を含ませるとよい。この場合、上記式(1)で表される化合物は、細胞質内に導入された後、細胞質内の還元的条件により切断される。
【0034】
上記式(1)で表される化合物、上記式(2)で表される基又は上記式(2’)で表される基において、下記式(5)又は下記式(6)で表される基は、正電荷を有するアミノ酸残基又はその誘導体を含むことができる。正電荷を有するアミノ酸残基としては、リジン残基、アルギニン残基等が挙げられる。下記式(5)又は下記式(6)で表される基は、これらのアミノ酸残基のうち1種を単独で含んでいてもよいし、複数種類を混合して含んでいてもよい。下記式(5)又は下記式(6)で表される基は、なかでも、リジン残基であることが好ましい。実施例において後述するように、リジン残基を用いることにより、細胞毒性を抑えつつ、細胞内への導入効率が格段に上昇する傾向がある。
【0035】
【化8】
[式(5)中、m、pの定義は上記式(1)におけるものと同様である。]
【0036】
【化9】
[式(6)中、n、qの定義は上記式(1)におけるものと同様である。]
【0037】
上記式(5)におけるmが0である場合、上記式(5)は単結合を表す。同様に、上記式(6)におけるnが0である場合、上記式(6)は単結合を表す。
【0038】
上記式(5)におけるpが4である場合、上記式(5)で表される基はアミノ酸のリジン残基又はそのポリマーである。また、上記式(6)におけるqが4である場合、上記式(6)で表される基はアミノ酸のリジン残基又はそのポリマーである。リジン残基はL体であってもよいしD体であってもよい。また、L体とD体の双方を含んでいてもよい。リジン残基の誘導体としては、例えば、上記式(5)におけるp又は上記式(6)におけるqが4以外である基が挙げられる。
【0039】
上記式(5)又は上記式(6)で表される基がL体のリジン残基を含む場合、上記式(1)で表される化合物が細胞質内に導入された後、上記式(5)又は上記式(6)で表される基の部分が切断されやすい傾向がある。また、上記式(5)又は上記式(6)で表される基がD体のリジン残基を含む場合、上記式(1)で表される化合物が細胞質内に導入された後、上記式(5)又は上記式(6)で表される基の部分が切断されにくくなる傾向がある。
【0040】
上記式(5)で表される基において、mが2以上である場合、各繰り返し単位は同一であってもよく異なっていてもよい。同様に、上記式(6)で表される基において、nが2以上である場合、各繰り返し単位は同一であってもよく異なっていてもよい。
【0041】
実施例において後述するように、m又はnの数を適宜調整することにより、上記式(1)で表される化合物の細胞への導入効率、細胞毒性等を調整することができる。
【0042】
例えば、上記式(1)におけるm及びnの合計は5以上であってもよい。実施例において後述するように、上記式(1)におけるm及びnの合計が大きいほど、上記式(1)で表される化合物の細胞への導入効率が上昇する傾向がある。例えば、上記式(1)におけるnが0であり、mが5以上であってもよい。
【0043】
また、上記式(1)におけるm及びnの合計は10以下であってもよい。実施例において後述するように、m及びnの合計が10以下であると、上記式(1)で表される化合物の細胞毒性が低減される傾向がある。例えば、上記式(1)におけるnが0であり、mが10以下であってもよい。
【0044】
また、上記式(1)で表される化合物において、Rは化合物の端部に近いことが好ましい。また、RはRから離れていることが好ましい。より具体的には、上記式(1)におけるXが-L-Rである場合、nは小さいことが好ましく、mは大きいことが好ましい。また、上記式(1)におけるXが-L-Rである場合、nは大きいことが好ましく、mは小さいことが好ましい。
【0045】
例えば、上記式(1)におけるXが-L-Rである場合、上記式(1)におけるnが7以下であることが好ましく、nが6以下であることが好ましく、nが5以下であることが好ましく、nが4以下であることが好ましく、nが3以下であることが好ましく、nが2以下であることが好ましく、nが1以下であることが好ましく、nが0であることが好ましい。
【0046】
また、上記式(1)におけるXが-L-Rである場合、上記式(1)におけるmが7以下であることが好ましく、mが6以下であることが好ましく、mが5以下であることが好ましく、mが4以下であることが好ましく、mが3以下であることが好ましく、mが2以下であることが好ましく、mが1以下であることが好ましく、mが0であることが好ましい。
【0047】
上記式(1)におけるm及びnが上記の範囲である場合、上記式(1)で表される化合物の細胞への導入効率が上昇する傾向がある。
【0048】
上記式(1)又は(2)で表される化合物において、Rは、イソプレン単位数1~5のプレニル基、炭素数10~30の飽和若しくは不飽和のアシル基又は炭素数10~30の飽和若しくは不飽和のアルキル基を表す。より具体的なRとしては、実施例において後述する、ファルネシル基、パルミトイル基、オレオイル基等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0049】
実施例において後述するように、Rがこのような構造であることにより、上記式(1)で表される化合物を動物細胞と接触させるだけで、上記式(1)で表される化合物をエンドサイトーシスにより細胞質に導入するか、あるいは、エンドサイトーシスによらず、細胞膜を直接透過することにより細胞質に導入することができる。
【0050】
また、上記式(1)で表される化合物が細胞質内に導入された後、上記式(1)におけるL、又は、上記式(1)における式(5)の部分が切断されると、Rは細胞質内に局在することになる。
【0051】
一方、上記式(1)で表される化合物が細胞質内に導入された後、上記式(1)におけるL、又は、上記式(1)における式(5)の部分が切断されなかった場合、Rは、Rの性質に応じて細胞の特定の領域に局在することになる。特定の領域としては、例えば細胞膜が挙げられる。
【0052】
実施例において後述するように、上記式(1)で表される化合物は、ペプチド固相合成法を利用した方法により合成することができる。
【0053】
式(1)で表される具体的な化合物としては、実施例において後述する、化合物(7)~(19)、(26)等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0054】
式(1)で表される化合物において、Rが医薬から誘導された基である場合、式(1)で表される化合物は医薬化合物であるということができる。医薬化合物は薬学的に許容される担体と混和して医薬組成物として製剤化されていてもよい。
【0055】
医薬組成物における製剤化の例としては、特に限定されず、例えば、錠剤、カプセル剤、エリキシル剤として経口的に使用されるものが挙げられる。または、水若しくはそれ以外の薬学的に許容し得る液体と混合した無菌性溶液又は懸濁液剤の注射剤の形で非経口的に使用されるものが挙げられる。
【0056】
錠剤、カプセル剤に混和することができる添加剤としては、例えば、ゼラチン、コーンスターチ、トラガントガム、アラビアゴム等の結合剤、結晶性セルロース等の賦形剤、コーンスターチ、ゼラチン、アルギン酸等の膨化剤、ステアリン酸マグネシウム等の潤滑剤、ショ糖、乳糖、サッカリン等の甘味剤、ペパーミント、アカモノ油等の香味剤等が挙げられる。
【0057】
注射のための無菌組成物は注射用蒸留水等のベヒクルを用いて通常の製剤実施にしたがって処方することができる。注射用の水溶液としては、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液、例えばD-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウムが挙げられ、適当な溶解補助剤、例えばアルコール、具体的にはエタノール、ポリアルコール、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、非イオン性界面活性剤、例えばポリソルベート80(TM)、HCO-50と併用してもよい。
【0058】
また、緩衝剤、例えばリン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液、無痛化剤、例えば、塩酸プロカイン、安定剤、例えばベンジルアルコール、フェノール、酸化防止剤と配合してもよい。調製された注射液は通常、適当なアンプルに充填させる。
【0059】
患者への投与は、例えば、動脈内注射、静脈内注射、皮下注射等のほか、鼻腔内的、経気管支的、筋内的、経皮的、または経口的に当業者に公知の方法により行いうる。投与量は、患者の体重や年齢、投与方法などにより変動するが、当業者であれば適当な投与量を適宜選択することが可能である。
【0060】
化合物の投与量は、投与する薬物、患者の症状により差異はあるが、経口投与の場合、一般的に成人(体重60kgとして)においては、1日あたり約0.1から100mg、例えばは約1.0から50mg、例えば約1.0から20mgであると考えられる。
【0061】
非経口的に投与する場合は、その1回の投与量は、投与する薬物、投与対象、対象臓器、患者の症状、投与方法によっても異なるが、例えば注射剤の形では通常成人(体重60kgとして)においては、通常、1日あたり約0.01から30mg、例えば約0.1から20mg、例えば約0.1から10mg程度を静脈注射により投与することが適切であると考えられる。
【0062】
一実施形態において、本発明は、分子量100~5000の細胞膜非透過性の物質を対象細胞の細胞質に導入する方法であって、上記式(2)又は上記式(2’)で表される基が結合した前記物質を前記対象細胞に接触させる工程を含む方法を提供する。
【0063】
本実施形態の方法は、インビトロで行ってもよいし、インビボで行ってもよい。また、対象細胞は、生体外の細胞であってもよいし、ヒト又は非ヒト動物の生体内の細胞であってもよい。
【実施例0064】
次に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0065】
[実験例1]
(DBCO-KnFar(n=4,6,8,10)の合成)
下記スキーム(1)にしたがって、下記式(7)で表される化合物(以下、「DBCO-KnFar(n=4,6,8,10)」という場合がある。)を合成した。
【0066】
【化10】
【0067】
【化11】
【0068】
具体的には、スキーム(1)に示すように、まず、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)保護基を利用した標準的な固相ペプチド合成プロトコールにしたがって、Sieberアミド樹脂上でDBCO-KnC(n=4,6,8,10)を合成した。
【0069】
Fmoc脱保護は、室温で15分間、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)中、20%ピペリジンを用いて行った。また、アミノ酸カップリング反応は、DMF中、Fmoc保護アミノ酸(3.1当量)、1-[ビス(ジメチルアミノ)メチレン]-1H-ベンゾトリアゾリウム3-オキシドヘキサフルオロホスフェート(HBTU、3.0当量)、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt、3.0当量)及びN,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA、6.0当量)の混合物を用いて室温で行った。また、全てのFmoc脱保護及びカップリング工程は、Kaiser試験によってモニターした。また、全ての洗浄手順はDMFを用いて行った。
【0070】
まず、Sieberアミド樹脂(0.79mmol/g)(127mg、100μmol)をFmoc脱保護し、洗浄した。続いて、Fmoc-D-Cys(Trt)-OH、Fmoc-D-Lys(Boc)-OH、Fmoc-Adox-OH、DBCO aicdをビルディングブロックとして、Fmoc脱保護及びカップリング反応を繰り返した。
【0071】
Trt,Boc脱保護及び樹脂からの切断は、2.5%トリイソプロピルシラン(TIPS)及び2.5%水を含有するトリフルオロ酢酸(TFA)を用いて実施した。続いて、粗生成物をジエチルエーテルで沈殿させ、セミ分取C18カラム上、0.1%TFAと0.1%水和TFAを含むアセトニトリルの直線勾配を用いた逆相HPLCにより精製し、DBCO-K8Cを得た。
【0072】
続いて、DMF/アセトニトリル/水=2/1/1(0.05%TFA)の混合溶液にDBCO-KnC(n=4,6,8,10)、酢酸亜鉛二水和物、トランス,トランス-ファルネシルブロミドを溶解してファルネシル化した。続いて、セミ分取C18カラム上、0.1%TFAと0.1%水和TFAを含むアセトニトリルの直線勾配を用いた逆相HPLCにより精製し、DBCO-KnFar(n=4,6,8,10)を透明固体として得た。
【0073】
MALDI-TOF-MS:
DBCO-K4Far,calcd for[M+H],1559.9270;found,1560.1452
DBCO-K6Far,calcd for[M+H],1816.1169;found,1817.2498
DBCO-K8Far,calcd for[M+H],2072.3068;found,2073.3882
DBCO-K10Far,calcd for[M+H],2328.4967;found,2329.5068
【0074】
[実験例2]
(SH2peptide-K8Farの合成)
下記スキーム(2)にしたがって、下記式(8)で表される化合物(以下、「SH2peptide-K8Far」という場合がある。)を合成した。
【0075】
【化12】
【0076】
【化13】
【0077】
具体的には、まず、Rinkアミド樹脂(0.43mmol/g)(46.5mg、20μmol)をFmoc脱保護し、洗浄した。続いて、Fmoc-Lys(N)-OH、Fmoc-Leu-OH、Fmoc-Met-OH、Fmoc-Pro-OH、Fmoc-Val-OH、Fmoc-FPmp-OH、Fmoc-Asp(OtBu)-OH、無水酢酸をビルディングブロックとして、Fmoc脱保護及びカップリング反応を繰り返した。
【0078】
tBu脱保護及び樹脂からの切断は、2.5%トリイソプロピルシラン(TIPS)及び2.5%水を含有するTFAを用いて実施した。続いて、粗生成物をジエチルエーテルで沈殿させ、セミ分取C18カラム上、0.1%TFAと0.1%水和TFAを含むアセトニトリルの直線勾配を用いた逆相HPLCにより精製し、SH2peptide(SH2ペプチド)を得た。SH2peptideのアミノ酸配列はDXVPMLK(配列番号1、X=ホスホノジフルオロメチルフェニルアラニン(F2Pmp))であり、分子量は約1045.09であった。
【0079】
続いて、水/アセトニトリル=1/1の混合溶液にDBCO-K8Far、SH2peptideを溶解してクリック反応させ、DBCO-K8FarとSH2peptideを連結させた。続いて、セミ分取C18カラム上、0.1%TFAと0.1%水和TFAを含むアセトニトリルの直線勾配を用いた逆相HPLCにより精製し、SH2peptide-K8Farを白色固体として得た。
【0080】
MALDI-TOF-MS:calcd for[M-H],3114.7112;found,3115.7249
【0081】
[実験例3]
(SH2peptide-K8Farによる局在化の検討)
ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PI3K)C末端由来のSrc homology 2 domain(SH2ドメイン)-EGFP(以下、「SH2-EGFP」という場合がある。)を発現させたHeLa細胞(以下、「SH2-EGFP発現細胞」という場合がある。)の培地に終濃度10μMとなるようにSH2peptide-K8Farを添加した。続いて、EGFPの蛍光を共焦点レーザー顕微鏡で観察した。
【0082】
図1(a)は、SH2-EGFPの構造を示す模式図である。SH2-EGFPのアミノ酸配列を配列番号2に示す。図1(b)及び(c)は、共焦点レーザー顕微鏡で観察した結果を示す写真である。スケールバーは10μmである。
【0083】
図1(b)は、SH2peptide-K8Farの添加前のSH2-EGFP発現細胞の写真である。また、図1(c)は、SH2peptide-K8Farの添加から30分後に撮影したSH2-EGFP発現細胞の写真である。その結果、SH2peptide-K8Farの添加から30分後に、SH2-EGFPが細胞膜に局在したことが明らかとなった。
【0084】
この結果は、SH2peptide-K8FarがSH2-EGFP発現細胞の細胞膜を透過して細胞質に導入され、細胞質に存在するSH2-EGFPのSH2ドメインがSH2peptide-K8FarのSH2peptideと結合して複合体を形成し、更に、形成された複合体が、SH2peptide-K8Farのファルネシル基の存在により、細胞膜に局在したことを示す。
【0085】
図2は、細胞膜局在の実験系を説明する模式図である。図2における「キャリア分子」は、本実験例におけるSH2peptide-K8Farに該当する。図2における「Target Protein-蛍光タンパク質」は、本実験例におけるSH2-EGFPに該当する。図2に示すように、SH2peptide-K8FarをSH2-EGFP発現細胞に接触させると、SH2peptide-K8Farは細胞膜を透過して細胞質に導入される。続いて、細胞質に存在するSH2-EGFPのSH2ドメインがSH2peptide-K8FarのSH2peptideと結合して複合体を形成する。続いて、形成された複合体が、SH2peptide-K8Farのファルネシル基の存在により、細胞膜に局在する。この結果、細胞膜においてEGFPの蛍光が観察される。
【0086】
[実験例4]
(GCN4peptide-K8Farの合成)
下記スキーム(3)にしたがって、下記式(9)で表される化合物(以下、「GCN4peptide-K8Far」という場合がある。)を合成した。
【0087】
【化14】
【0088】
【化15】
【0089】
具体的には、まず、Rinkアミド樹脂(0.43mmol/g)(69.8mg、30μmol)をFmoc脱保護し、洗浄した。続いて、Fmoc-Lys(N)-OH、Fmoc-Lys(Boc)-OH、Fmoc-Leu-OH、Fmoc-Arg(Pbf)-OH、Fmoc-Ala-OH、Fmoc-Glu(OtBu)-OH、Fmoc-His(Trt)-OH、Fmoc-Tyr(tBu)-OH、Fmoc-Asn(Trt)-OH、Fmoc-Ser(tBu)-OH、無水酢酸をビルディングブロックとして、Fmoc脱保護及びカップリング反応を繰り返した。
【0090】
Boc、Pbf、OtBu、Trt、tBu脱保護及び樹脂からの切断は、2.5%トリイソプロピルシラン(TIPS)及び2.5%水を含有するTFAを用いて実施した。続いて、粗生成物をジエチルエーテルで沈殿させ、セミ分取C18カラム上、0.1%TFAと0.1%水和TFAを含むアセトニトリルの直線勾配を用いた逆相HPLCにより精製し、GCN4peptide(GCN4ペプチド)を得た。GCN4peptideのアミノ酸配列はEELLSKNYHLENEVARLKKK(配列番号3)であり、分子量は約2508.87であった。
【0091】
続いて、水/アセトニトリル=1/1の混合溶液にDBCO-K8Far、GCN4peptideを溶解してクリック反応させ、DBCO-K8FarとGCN4peptideを連結させた。続いて、セミ分取C18カラム上、0.1%TFAと0.1%水和TFAを含むアセトニトリルの直線勾配を用いた逆相HPLCにより精製し、GCN4peptide-K8Farを白色固体として得た。
【0092】
MALDI-TOF-MS:calcd for[M+H],4579.6677;found,4580.1319
【0093】
[実験例5]
(GCN4peptide-K8Farによる局在化の検討)
Single-chain variable fragment GCN4-sfGFP(以下、「scFv GCN4-sfGFP」という場合がある。)を発現させたHeLa細胞(以下、「scFv GCN4-sfGFP発現細胞」という場合がある。)の培地に終濃度15μMとなるようにGCN4peptide-K8Farを添加した。続いて、sfGFPの蛍光を共焦点レーザー顕微鏡で観察した。
【0094】
図3(a)は、scFv GCN4-sfGFPの構造を示す模式図である。scFv GCN4-sfGFPのアミノ酸配列を配列番号4に示す。scFv GCN4はGCN4ペプチドに結合する一本鎖抗体である。図3(b)及び(c)は、共焦点レーザー顕微鏡で観察した結果を示す写真である。スケールバーは10μmである。
【0095】
図3(b)は、GCN4peptide-K8Farの添加前のscFv GCN4-sfGFP発現細胞の写真である。また、図3(c)は、GCN4peptide-K8Farの添加から30分後に撮影したscFv GCN4-sfGFP発現細胞の写真である。その結果、GCN4peptide-K8Faの添加から30分後に、sfGFPが細胞膜に局在したことが明らかとなった。
【0096】
この結果は、GCN4peptide-K8FarがscFv GCN4-sfGFP発現細胞の細胞膜を透過して細胞質に導入され、細胞質に存在するscFv GCN4-sfGFPのscFv GCN4がGCN4peptide-K8FarのGCN4ペプチドと結合して複合体を形成し、更に、形成された複合体が、GCN4peptide-K8Farのファルネシル基の存在により、細胞膜に局在したことを示す。
【0097】
[実験例6]
(HApeptide-K8Farの合成)
下記スキーム(4)にしたがって、下記式(10)で表される化合物(以下、「HApeptide-K8Far」という場合がある。)を合成した。
【0098】
【化16】
【0099】
【化17】
【0100】
具体的には、まず、Rinkアミド樹脂(0.43mmol/g)(69.8mg、30μmol)をFmoc脱保護し、洗浄した。続いて、Fmoc-Lys(N)-OH、Fmoc-Ala-OH、Fmoc-Tyr(tBu)-OH、Fmoc-Asp(OtBu)-OH、Fmoc-Pro-OH、Fmoc-Val-OH、無水酢酸をビルディングブロックとして、Fmoc脱保護及びカップリング反応を繰り返した。
【0101】
OtBu、tBu脱保護及び樹脂からの切断は、2.5%トリイソプロピルシラン(TIPS)及び2.5%水を含有するTFAを用いて実施した。続いて、粗生成物をジエチルエーテルで沈殿させ、セミ分取C18カラム上、0.1%TFAと0.1%水和TFAを含むアセトニトリルの直線勾配を用いた逆相HPLCにより精製し、HApeptide(HAペプチド)を得た。HApeptideのアミノ酸配列はYPYDVPDPYAK(配列番号5)であり、分子量は約1297.39であった。
【0102】
続いて、水/アセトニトリル=1/1の混合溶液にDBCO-K8Far、HApeptideを溶解してクリック反応させ、DBCO-K8FarとHApeptideを連結させた。続いて、セミ分取C18カラム上、0.1%TFAと0.1%水和TFAを含むアセトニトリルの直線勾配を用いた逆相HPLCにより精製し、HApeptide-K8Farを白色固体として得た。
【0103】
MALDI-TOF-MS:calcd for[M+H],3368.8843;found,3368.3081
【0104】
[実験例7]
(HApeptide-K8Farによる局在化の検討)
Frankenbody(15F11)-mEGFP(以下、「15F11-mEGFP」という場合がある。)を発現させたHeLa細胞(以下、「15F11-mEGFP発現細胞」という場合がある。)の培地に終濃度2.5μMとなるようにHApeptide-K8Farを添加した。続いて、mEGFPの蛍光を共焦点レーザー顕微鏡で観察した。
【0105】
図4(a)は、15F11-mEGFPの構造を示す模式図である。15F11-mEGFPのアミノ酸配列を配列番号6に示す。FrankenbodyはHAペプチドに結合する一本鎖抗体である。図4(b)及び(c)は、共焦点レーザー顕微鏡で観察した結果を示す写真である。スケールバーは10μmである。
【0106】
図4(b)は、HApeptide-K8Farの添加前の15F11-mEGFP発現細胞の写真である。また、図4(c)は、HApeptide-K8Farの添加から30分後に撮影した15F11-mEGFP発現細胞の写真である。その結果、HApeptide-K8Farの添加から30分後に、mEGFPが細胞膜に局在したことが明らかとなった。
【0107】
この結果は、HApeptide-K8Farが15F11-mEGFP発現細胞の細胞膜を透過して細胞質に導入され、細胞質に存在する15F11-mEGFPのFrankenbody(15F11)がHApeptide-K8FarのHAペプチドと結合して複合体を形成し、更に、形成された複合体が、HApeptide-K8Farのファルネシル基の存在により、細胞膜に局在したことを示す。
【0108】
[実験例8]
(DBCO-K4FarK4の合成)
下記スキーム(5)にしたがって、下記式(11)で表される化合物(以下、「DBCO-K4FarK4」という場合がある。)を合成した。
【0109】
【化18】
【0110】
【化19】
【0111】
具体的には、スキーム(5)に示すように、まず、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)保護基を利用した標準的な固相ペプチド合成プロトコールにしたがって、Sieberアミド樹脂上でDBCO-K4K4を合成した。
【0112】
Fmoc脱保護は、室温で15分間、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)中、20%ピペリジンを用いて行った。また、アミノ酸カップリング反応は、DMF中、Fmoc保護アミノ酸(3.1当量)、1-[ビス(ジメチルアミノ)メチレン]-1H-ベンゾトリアゾリウム3-オキシドヘキサフルオロホスフェート(HBTU、3.0当量)、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt、3.0当量)及びN,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA、6.0当量)の混合物を用いて室温で行った。また、全てのFmoc脱保護及びカップリング工程は、Kaiser試験によってモニターした。また、全ての洗浄手順はDMFを用いて行った。
【0113】
まず、Sieberアミド樹脂(0.79mmol/g)(38mg、30μmol)をFmoc脱保護し、洗浄した。続いて、Fmoc-D-Cys(Trt)-OH、Fmoc-D-Lys(Boc)-OH、Fmoc-Adox-OH、DBCO aicdをビルディングブロックとして、Fmoc脱保護及びカップリング反応を繰り返した。
【0114】
Trt,Boc脱保護及び樹脂からの切断は、2.5%トリイソプロピルシラン(TIPS)及び2.5%水を含有するトリフルオロ酢酸(TFA)を用いて実施した。続いて、粗生成物をジエチルエーテルで沈殿させ、セミ分取C18カラム上、0.1%TFAと0.1%水和TFAを含むアセトニトリルの直線勾配を用いた逆相HPLCにより精製し、DBCO-K4K4を得た。
【0115】
続いて、DMF/アセトニトリル/水=2/1/1(0.05%TFA)の混合溶液にDBCO-K4K4、酢酸亜鉛二水和物、トランス,トランス-ファルネシルブロミドを溶解してファルネシル化した。続いて、セミ分取C18カラム上、0.1%TFAと0.1%水和TFAを含むアセトニトリルの直線勾配を用いた逆相HPLCにより精製し、DBCO-K4K4を透明固体として得た。
【0116】
MALDI-TOF-MS:calcd for[M+H],1868.1190;found,1868.2736
【0117】
[実験例9]
(HApeptide-K4FarK4の合成)
下記スキーム(6)にしたがって、下記式(12)で表される化合物(以下、「HApeptide-K4FarK4」という場合がある。)を合成した。
【0118】
【化20】
【0119】
【化21】
【0120】
続いて、水/アセトニトリル=1/1の混合溶液にDBCO-K4FarK4、HApeptideを溶解してクリック反応させ、DBCO-K4FarK4とHApeptideを連結させた。続いて、セミ分取C18カラム上、0.1%TFAと0.1%水和TFAを含むアセトニトリルの直線勾配を用いた逆相HPLCにより精製し、HApeptide-K4FarK4を白色固体として得た。
【0121】
MALDI-TOF-MS:calcd for[M+H],3368.8843;found,3368.8310
【0122】
[実験例10]
(HApeptide-K4FarK4による局在化の検討)
Frankenbody(15F11)-mEGFP(以下、「15F11-mEGFP」という場合がある。)を発現させたHeLa細胞(以下、「15F11-mEGFP発現細胞」という場合がある。)の培地に終濃度10μMとなるようにHApeptide-K4FarK4を添加した。続いて、mEGFPの蛍光を共焦点レーザー顕微鏡で観察した。
【0123】
図5(a)及び(b)は、共焦点レーザー顕微鏡で観察した結果を示す写真である。スケールバーは10μmである。
【0124】
図5(a)は、HApeptide-K4FarK4の添加前の15F11-mEGFP発現細胞の写真である。また、図5(b)は、HApeptide-K4FarK4の添加から30分後に撮影した15F11-mEGFP発現細胞の写真である。その結果、HApeptide-K4FarK4の添加から30分後に、mEGFPが細胞膜に局在したことが明らかとなった。
【0125】
この結果は、HApeptide-K4FarK4が15F11-mEGFP発現細胞の細胞膜を透過して細胞質に導入され、細胞質に存在する15F11-mEGFPのFrankenbody(15F11)がHApeptide-K4FarK4のHAペプチドと結合して複合体を形成し、更に、形成された複合体が、HApeptide-K4FarK4のファルネシル基の存在により、細胞膜に局在したことを示す。
【0126】
この結果は、上記式(1)におけるR(本実験例においてはファルネシル基)が、上記式(1)で表される化合物の末端に位置していなくても、上記式(1)で表される化合物が細胞膜を透過することができることを示す。
【0127】
[実験例11]
(DBCO-K8Palの合成)
下記スキーム(7)にしたがって、下記式(13)で表される化合物(以下、「DBCO-K8Pal」という場合がある。)を合成した。
【0128】
【化22】
【0129】
【化23】
【0130】
具体的には、スキーム(7)に示すように、まず、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)保護基を利用した標準的な固相ペプチド合成プロトコールにしたがって、Sieberアミド樹脂上でDBCO-K8Palを合成した。
【0131】
Fmoc脱保護は、室温で15分間、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)中、20%ピペリジンを用いて行った。ivDde脱保護は、室温で30分間、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)中、5%ヒドラジンを用いて行った。また、アミノ酸カップリング反応は、DMF中、Fmoc保護アミノ酸(3.1当量)、1-[ビス(ジメチルアミノ)メチレン]-1H-ベンゾトリアゾリウム3-オキシドヘキサフルオロホスフェート(HBTU、3.0当量)、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt、3.0当量)及びN,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA、6.0当量)の混合物を用いて室温で行った。また、全てのFmoc脱保護及びカップリング工程は、Kaiser試験によってモニターした。また、全ての洗浄手順はDMFを用いて行った。
【0132】
まず、Sieberアミド樹脂(0.79mmol/g)(38mg、30μmol)をFmoc脱保護し、洗浄した。続いて、Fmoc-D-Lys(ivDde)-OH、Fmoc-D-Lys(Boc)-OH、Fmoc-Adox-OH、DBCO aicdをビルディングブロックとして、Fmoc脱保護及びカップリング反応を繰り返した。最後にivDde脱保護を行い、Palmitic acidをカップリングした。
【0133】
Boc脱保護及び樹脂からの切断は、2.5%トリイソプロピルシラン(TIPS)及び2.5%水を含有するトリフルオロ酢酸(TFA)を用いて実施した。続いて、粗生成物をジエチルエーテルで沈殿させ、セミ分取C18カラム上、0.1%TFAと0.1%水和TFAを含むアセトニトリルの直線勾配を用いた逆相HPLCにより精製し、DBCO-K8Palを得た。
【0134】
MALDI-TOF-MS:calcd for [M+H],2040.4359;found,2040.5491
【0135】
[実験例12]
(HApeptide-K8Palの合成)
下記スキーム(8)にしたがって、下記式(14)で表される化合物(以下、「HApeptide-K8Pal」という場合がある。)を合成した。
【0136】
【化24】
【0137】
【化25】
【0138】
続いて、水/アセトニトリル=1/1の混合溶液にDBCO-K8Pal、HApeptideを溶解してクリック反応させ、DBCO-K8PalとHApeptideを連結させた。続いて、セミ分取C18カラム上、0.1%TFAと0.1%水和TFAを含むアセトニトリルの直線勾配を用いた逆相HPLCにより精製し、HApeptide-K8Palを白色固体として得た。
【0139】
MALDI-TOF-MS:calcd for[M+H],3598.1175;found,3599.6700
【0140】
[実験例13]
(HApeptide-K8Palによる局在化の検討)
Frankenbody(15F11)-mEGFP(以下、「15F11-mEGFP」という場合がある。)を発現させたHeLa細胞(以下、「15F11-mEGFP発現細胞」という場合がある。)の培地に終濃度2.5μMとなるようにHApeptide-K8Palを添加した。続いて、mEGFPの蛍光を共焦点レーザー顕微鏡で観察した。
【0141】
図6(a)及び(b)は、共焦点レーザー顕微鏡で観察した結果を示す写真である。スケールバーは10μmである。
【0142】
図6(a)は、HApeptide-K8Palの添加前の15F11-mEGFP発現細胞の写真である。また、図6(b)は、HApeptide-K8Palの添加から30分後に撮影した15F11-mEGFP発現細胞の写真である。その結果、HApeptide-K8Palの添加から30分後に、mEGFPが細胞膜に局在したことが明らかとなった。
【0143】
この結果は、HApeptide-K8Palが15F11-mEGFP発現細胞の細胞膜を透過して細胞質に導入され、細胞質に存在する15F11-mEGFPのFrankenbody(15F11)がHApeptide-K8PalのHAペプチドと結合して複合体を形成し、更に、形成された複合体が、HApeptide-K8Palのパルミトイル基の存在により、細胞膜に局在したことを示す。
【0144】
この結果は、上記式(1)におけるRが、ファルネシル基以外の基であっても、上記式(1)で表される化合物が細胞膜を透過することができることを示す。
【0145】
[実験例14]
(DBCO-K8Oleの合成)
下記スキーム(9)にしたがって、下記式(15)で表される化合物(以下、「DBCO-K8Ole」という場合がある。)を合成した。
【0146】
【化26】
【0147】
【化27】
【0148】
具体的には、スキーム(9)に示すように、まず、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)保護基を利用した標準的な固相ペプチド合成プロトコールにしたがって、Sieberアミド樹脂上でDBCO-K8Palを合成した。
【0149】
Fmoc脱保護は、室温で15分間、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)中、20%ピペリジンを用いて行った。ivDde脱保護は、室温で30分間、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)中、5%ヒドラジンを用いて行った。また、アミノ酸カップリング反応は、DMF中、Fmoc保護アミノ酸(3.1当量)、1-[ビス(ジメチルアミノ)メチレン]-1H-ベンゾトリアゾリウム3-オキシドヘキサフルオロホスフェート(HBTU、3.0当量)、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt、3.0当量)及びN,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA、6.0当量)の混合物を用いて室温で行った。また、全てのFmoc脱保護及びカップリング工程は、Kaiser試験によってモニターした。また、全ての洗浄手順はDMFを用いて行った。
【0150】
まず、Sieberアミド樹脂(0.79mmol/g)(38mg、30μmol)をFmoc脱保護し、洗浄した。続いて、Fmoc-D-Lys(ivDde)-OH、Fmoc-D-Lys(Boc)-OH、Fmoc-Adox-OH、DBCO aicdをビルディングブロックとして、Fmoc脱保護及びカップリング反応を繰り返した。最後にivDde脱保護を行い、Oleic acidをカップリングした。
【0151】
Boc脱保護及び樹脂からの切断は、2.5%トリイソプロピルシラン(TIPS)及び2.5%水を含有するトリフルオロ酢酸(TFA)を用いて実施した。続いて、粗生成物をジエチルエーテルで沈殿させ、セミ分取C18カラム上、0.1%TFAと0.1%水和TFAを含むアセトニトリルの直線勾配を用いた逆相HPLCにより精製し、DBCO-K8Oleを得た。
【0152】
MALDI-TOF-MS:calcd for[M+H],2066.4515;found,2066.4922
【0153】
[実験例15]
(HApeptide-K8Oleの合成)
下記スキーム(10)にしたがって、下記式(16)で表される化合物(以下、「HApeptide-K8Ole」という場合がある。)を合成した。
【0154】
【化28】
【0155】
【化29】
【0156】
続いて、水/アセトニトリル=1/1の混合溶液にDBCO-K8Ole、HApeptideを溶解してクリック反応させ、DBCO-K8OleとHApeptideを連結させた。続いて、セミ分取C18カラム上、0.1%TFAと0.1%水和TFAを含むアセトニトリルの直線勾配を用いた逆相HPLCにより精製し、HApeptide-K8Oleを白色固体として得た。
【0157】
MALDI-TOF-MS:calcd for[M-H],3622.1186;found,3623.2365
【0158】
[実験例16]
(HApeptide-K8Oleによる局在化の検討)
Frankenbody(15F11)-mEGFP(以下、「15F11-mEGFP」という場合がある。)を発現させたHeLa細胞(以下、「15F11-mEGFP発現細胞」という場合がある。)の培地に終濃度2.5μMとなるようにHApeptide-K8Oleを添加した。続いて、mEGFPの蛍光を共焦点レーザー顕微鏡で観察した。
【0159】
図7(a)及び(b)は、共焦点レーザー顕微鏡で観察した結果を示す写真である。スケールバーは10μmである。
【0160】
図7(a)は、HApeptide-K8Oleの添加前の15F11-mEGFP発現細胞の写真である。また、図7(b)は、HApeptide-K8Oleの添加から30分後に撮影した15F11-mEGFP発現細胞の写真である。その結果、HApeptide-K8Oleの添加から30分後に、mEGFPが細胞膜に局在したことが明らかとなった。
【0161】
この結果は、HApeptide-K8Oleが15F11-mEGFP発現細胞の細胞膜を透過して細胞質に導入され、細胞質に存在する15F11-mEGFPのFrankenbody(15F11)がHApeptide-K8OleのHAペプチドと結合して複合体を形成し、更に、形成された複合体が、HApeptide-K8Oleのオレオイル基の存在により、細胞膜に局在したことを示す。
【0162】
この結果は、上記式(1)におけるRが、ファルネシル基以外の基であっても、上記式(1)で表される化合物が細胞膜を透過することができることを更に指示するものである。
【0163】
[実験例17]
(HApeptide-TMP-SS-K8Farの合成)
下記スキーム(11)にしたがって、下記式(17)で表される化合物(以下、「HApeptide-TMP-SS-K8Far」という場合がある。)を合成した。
【0164】
【化30】
【0165】
【化31】
【0166】
具体的には、まず、Sieberアミド樹脂(0.79mmol/g)(38.0mg、30μmol)をFmoc脱保護し、洗浄した。続いて、Fmoc-Lys(N)-OH、Fmoc-NH-ethyl-SS-propionic aicd、Fmoc-Lys(ivDde)-OH、Fmoc-Ala-OH、Fmoc-Tyr(tBu)-OH、Fmoc-Asp(OtBu)-OH、Fmoc-Pro-OH、Fmoc-Val-OH、無水酢酸をビルディングブロックとして、Fmoc脱保護及びカップリング反応を繰り返した。最後にivDde脱保護を行い、TMP acidをカップリングした。
【0167】
OtBu、tBu脱保護及び樹脂からの切断は、2.5%トリイソプロピルシラン(TIPS)及び2.5%水を含有するTFAを用いて実施した。続いて、粗生成物をジエチルエーテルで沈殿させ、セミ分取C18カラム上、0.1%TFAと0.1%水和TFAを含むアセトニトリルの直線勾配を用いた逆相HPLCにより精製し、HApeptideを得た。HApeptideのアミノ酸配列はYPYDVPDPYAK(配列番号5)であり、分子量は約1947.22であった。
【0168】
続いて、水/アセトニトリル=1/1の混合溶液にDBCO-K8Far、HApeptide-TMP-SS-N3を溶解してクリック反応させ、DBCO-K8FarとHApeptide-TMP-SS-N3を連結させた。続いて、セミ分取C18カラム上、0.1%TFAと0.1%水和TFAを含むアセトニトリルの直線勾配を用いた逆相HPLCにより精製し、HApeptide-TMP-SS-K8Farを白色固体として得た。
【0169】
MALDI-TOF-MS:calcd for[M+H],4018.1559;found,4018.1715
【0170】
[実験例18]
(HApeptide-TMP-SS-K8Farの細胞内導入の検討)
eDHFR(Destabilized Domain)-YFP(以下、「DD-YFP」という場合がある。)を発現させたHeLa細胞(以下、「DD-YFP発現細胞」という場合がある。)の培地に終濃度1μMとなるようにHApeptide-TMP-SS-K8Farを添加した。続いて、YFPの蛍光を共焦点レーザー顕微鏡で観察した。
【0171】
図8(a)は、DD-YFPの構造を示す模式図である。DD-YFPのアミノ酸配列を配列番号7に示す。DD-YFPは細胞内で発現された後、速やかに分解する。これに対し、DD-YFPにeDHFRのリガンドであるTMPが結合すると、安定化され、分解されなくなることで、細胞内のYFPの蛍光強度が増大する。
【0172】
図8(b)及び(c)は、共焦点レーザー顕微鏡で観察した結果を示す写真である。スケールバーは20μmである。図8(b)は、HApeptide-TMP-SS-K8Farの添加前のDD-YFP発現細胞の写真である。また、図8(c)は、HApeptide-TMP-SS-K8Farの添加から60分後に撮影したDD-YFP発現細胞の写真である。その結果、HApeptide-TMP-SS-K8Farの添加から60分後に、細胞質においてYFPの蛍光が検出されたことが明らかとなった。
【0173】
この結果は、HApeptide-TMP-SS-K8FarがDD-YFP発現細胞の細胞膜を透過して細胞質に導入され、細胞質に存在するDD-YFPがHApeptide-TMP-SS-K8FarのTMPと結合して複合体を形成し、更に、形成された複合体が、細胞質に拡散したことを示す。細胞質内は還元条件下にあるため、細胞質内にHApeptide-TMP-SS-K8Farが取り込まれた後、ジスルフィド結合が切断される。この結果、HApeptide-TMPとK8Farは分離する。そして、HApeptide-TMPはDD-YFPと結合してDD-YFPが安定化され、細胞内発現量が上昇し、細胞質に拡散する。
【0174】
図9は、不安定化変異型eDHFRの実験系を説明する模式図である。図9における「キャリア分子」は、本実験例におけるHApeptide-TMP-SS-K8Farに該当する。図9における「不安定化変異型eDHFR-YFP」は、本実験例におけるDD-YFPに該当する。DD-YFPは不安定化変異型であるため、発現後すぐに分解される。
【0175】
図9に示すように、HApeptide-TMP-SS-K8FarをDD-YFP発現細胞に接触させると、HApeptide-TMP-SS-K8Farは細胞膜を透過して細胞質に導入される。続いて、細胞質に存在するDD-YFPがHApeptide-TMP-SS-K8FarのTMPと結合して複合体を形成する。その結果、DD-YFPが安定化され、分解されなくなり、存在量が上昇する。
【0176】
また、細胞質内の還元条件により、HApeptide-TMP-SS-K8Farのジスルフィド結合が切断される。この結果、HApeptide-TMPとK8Farが分離する。その結果、DD-YFPが細胞質に拡散する。
【0177】
なお、後述するように、HApeptide-TMP-SS-K8Farのジスルフィド結合を有しないHApeptide-TMP-Aoc-K8FarをDD-YFP発現細胞に接触させると、HApeptide-TMP-Aoc-K8Farは細胞膜を透過して細胞質に導入される。続いて、細胞質に存在するDD-YFPがHApeptide-TMP-Aoc-K8FarのTMPと結合して複合体を形成する。ここで、HApeptide-TMP-Aoc-K8Farは、細胞質内の還元条件においても切断されない。この結果、形成された複合体が、HApeptide-TMP-Aoc-K8Farのファルネシル基の存在により、細胞膜に局在する。この結果、細胞膜においてYFPの蛍光が観察される。
【0178】
[実験例19]
(HApeptide-TMP-Aoc-K8Farの合成)
下記スキーム(12)にしたがって、下記式(18)で表される化合物(以下、「HApeptide-TMP-Aoc-K8Far」という場合がある。)を合成した。
【0179】
【化32】
【0180】
【化33】
【0181】
具体的には、まず、Sieberアミド樹脂(0.79mmol/g)(38.0mg、30μmol)をFmoc脱保護し、洗浄した。続いて、Fmoc-Lys(N)-OH、Fmoc-8-Aoc-OH、Fmoc-Lys(ivDde)-OH、Fmoc-Ala-OH、Fmoc-Tyr(tBu)-OH、Fmoc-Asp(OtBu)-OH、Fmoc-Pro-OH、Fmoc-Val-OH、無水酢酸をビルディングブロックとして、Fmoc脱保護及びカップリング反応を繰り返した。最後にivDde脱保護を行い、TMP acidをカップリングした。
【0182】
OtBu、tBu脱保護及び樹脂からの切断は、2.5%トリイソプロピルシラン(TIPS)及び2.5%水を含有するTFAを用いて実施した。続いて、粗生成物をジエチルエーテルで沈殿させ、セミ分取C18カラム上、0.1%TFAと0.1%水和TFAを含むアセトニトリルの直線勾配を用いた逆相HPLCにより精製し、HApeptideを得た。HApeptideのアミノ酸配列はYPYDVPDPYAK(配列番号5)であり、分子量は約1947.22であった。
【0183】
続いて、水/アセトニトリル=1/1の混合溶液にDBCO-K8Far、HApeptide-TMP-Aoc-N3を溶解してクリック反応させ、DBCO-K8FarとHApeptide-TMP-Aoc-N3を連結させた。続いて、セミ分取C18カラム上、0.1%TFAと0.1%水和TFAを含むアセトニトリルの直線勾配を用いた逆相HPLCにより精製し、HApeptide-TMP-Aoc-K8Farを白色固体として得た。
【0184】
MALDI-TOF-MS:calcd for[M+H],3995.2515;found,3996.3704
【0185】
[実験例20]
(HApeptide-TMP-Aoc-K8Farの細胞内導入の検討)
eDHFR(Destabilized Domain)-YFP(以下、「DD-YFP」という場合がある。)を発現させたHeLa細胞(以下、「DD-YFP発現細胞」という場合がある。)の培地に終濃度1μMとなるようにHApeptide-TMP-Aoc-K8Farを添加した。続いて、YFPの蛍光を共焦点レーザー顕微鏡で観察した。
【0186】
図10(a)及び(b)は、共焦点レーザー顕微鏡で観察した結果を示す写真である。スケールバーは20μmである。
【0187】
図10(a)は、HApeptide-TMP-Aoc-K8Farの添加前のDD-YFP発現細胞の写真である。また、図10(b)は、HApeptide-TMP-Aoc-K8Farの添加から60分後に撮影したDD-YFP発現細胞の写真である。その結果、HApeptide-TMP-Aoc-K8Farの添加から60分後に、DD-YFPが細胞膜に局在したことが明らかとなった。
【0188】
この結果は、HApeptide-TMP-Aoc-K8FarがDD-YFP発現細胞の細胞膜を透過して細胞質に導入され、細胞質に存在するDD-YFPのeDHFRがHApeptide-TMP-Aoc-K8FarのTMPと結合して複合体を形成し、更に、形成された複合体が、HApeptide-TMP-Aoc-K8Farのファルネシル基の存在により、細胞膜に局在したことを示す。なお、HApeptide-TMP-Aoc-K8Farは細胞質内の還元条件下においても切断されない。
【0189】
[実験例21]
(HApeptide-FL-SS-KnFar(n=4、6、8、10)の合成)
下記スキーム(13)にしたがって、下記式(19)で表される化合物(以下、「HApeptide-FL-SS-KnFar(n=4、6、8、10)」という場合がある。)を合成した。
【0190】
【化34】
【0191】
【化35】
【0192】
具体的には、まず、Sieberアミド樹脂(0.79mmol/g)(76.0mg、60μmol)をFmoc脱保護し、洗浄した。続いて、Fmoc-Lys(N)-OH、Fmoc-NH-ethyl-SS-propionic aicd、Fmoc-Lys(ivDde)-OH、Fmoc-Ala-OH、Fmoc-Tyr(tBu)-OH、Fmoc-Asp(OtBu)-OH、Fmoc-Pro-OH、Fmoc-Val-OH、無水酢酸をビルディングブロックとして、Fmoc脱保護及びカップリング反応を繰り返した。最後にivDde脱保護を行い、5(6)-Carboxyfluorescein(FL)をカップリングした。
【0193】
OtBu、tBu脱保護及び樹脂からの切断は、2.5%トリイソプロピルシラン(TIPS)及び2.5%水を含有するTFAを用いて実施した。続いて、粗生成物をジエチルエーテルで沈殿させ、セミ分取C18カラム上、0.1%TFAと0.1%水和TFAを含むアセトニトリルの直線勾配を用いた逆相HPLCにより精製し、HApeptide-FL-SS-N3を得た。HApeptideのアミノ酸配列はYPYDVPDPYAK(配列番号5)であり、分子量は約1947.12であった。
【0194】
続いて、水/アセトニトリル=1/1の混合溶液にDBCO-KnFar(n=4、6、8、10)、HApeptide-FL-SS-N3を溶解してクリック反応させ、DBCO-KnFarとHApeptide-FL-SS-N3を連結させた。続いて、セミ分取C18カラム上、0.1%TFAと0.1%水和TFAを含むアセトニトリルの直線勾配を用いた逆相HPLCにより精製し、HApeptide-FL-SS-KnFar(n=4、6、8、10)を白色固体として得た。
【0195】
HApeptide-FL-SS-K4Far,calcd for[M+H],3054.7;found,3511.3
HApeptide-FL-SS-K6Far,calcd for[M+H],3760.8;found,3766.7
HApeptide-FL-SS-K8Far,calcd for[M+H],4017.03;found,4017.8
HApeptide-FL-SS-K10Far,calcd for[M+H],4273.2;found,4280.6
【0196】
[実験例22]
(HApeptide-FL-SS-KnFar(n=4、6、8、10)の細胞内導入の検討)
HeLa細胞の培地に終濃度5μM又は10μMとなるようにHApeptide-FL-SS-KnFar(n=4、6、8、10)を添加した。続いて、HApeptide-FL-SS-KnFarの添加から30分後に、FLの蛍光を共焦点レーザー顕微鏡で観察した。また、PI(ヨウ化プロピジウム)染色し、PIの蛍光を検出することにより死細胞を検出した。
【0197】
図11は、顕微鏡で観察した結果を示す写真である。スケールバーは80μmである。図11中、「FL」はフルオレセインの蛍光を観察した写真を示し、「PI」はPIの蛍光を観察した写真を示し、「DIC」は微分干渉顕微鏡写真を示す。その結果、HApeptide-FL-SS-KnFar(n=4、6、8、10)の添加から30分後に、FLの蛍光が検出されたことが明らかとなった。
【0198】
この結果は、HApeptide-FL-SS-KnFar(n=4、6、8、10)が、エンドサイトーシスではなく、細胞の細胞膜を直接透過して細胞質に導入され、細胞質に拡散したことを示す。より詳細には、HApeptide-FL-SS-KnFar(n=4、6、8、10)が細胞質に導入された後、ジスルフィド結合が切断され、HApeptide-FLとKnFarが分離し、HApeptide-FLが細胞質に拡散したことを示す。
【0199】
[実験例23]
(HApeptide-FL-SS-K8Farの細胞内導入の検討)
HeLa細胞の培地に終濃度5μMとなるようにHApeptide-FL-SS-K8Farを添加した。続いて、経時的にFLの蛍光を共焦点レーザー顕微鏡で観察した。また、PI(ヨウ化プロピジウム)染色し、PIの蛍光を検出することにより死細胞を検出した。
【0200】
図12は、顕微鏡で観察した結果を示す写真である。スケールバーは40μmである。図12中、「FL」はフルオレセインの蛍光を観察した写真を示し、「PI」はPIの蛍光を観察した写真を示し、「DIC」は微分干渉顕微鏡写真を示す。また、「before」はHApeptide-FL-SS-K8Far添加前の写真であることを示す。その結果、HApeptide-FL-SS-K8Farの添加後、経時的に細胞質におけるFLの蛍光が増大することが明らかとなった。
【0201】
[実験例24]
(エンドサイトーシスの阻害)
HeLa細胞の培地の温度を4℃に調整し、エンドサイトーシスを阻害した。続いて、培地に終濃度5μMとなるようにHApeptide-FL-SS-K8Farを添加した。続いて、30分後に、FLの蛍光を共焦点レーザー顕微鏡で観察した。また、PI(ヨウ化プロピジウム)染色し、PIの蛍光を検出することにより死細胞を検出した。
【0202】
図13は、顕微鏡で観察した結果を示す写真である。スケールバーは40μmである。図13中、「FL」はフルオレセインの蛍光を観察した写真を示し、「PI」はPIの蛍光を観察した写真を示し、「DIC」は微分干渉顕微鏡写真を示す。その結果、HApeptide-FL-SS-K8Farの添加から30分後に、細胞質においてFLの蛍光が検出されたことが明らかとなった。
【0203】
この結果は、HApeptide-FL-SS-K8Farの細胞質への導入は、エンドサイトーシスによらないことを示す。すなわち、HApeptide-FL-SS-K8Farは、細胞膜を直接透過して細胞質に導入されることを示す。
【0204】
[実験例24]
(DBCO-K8の合成)
下記スキーム(14)にしたがって、下記式(20)で表される化合物(以下、「DBCO-K8」という場合がある。)を合成した。
【0205】
【化36】
【0206】
【化37】
【0207】
具体的には、スキーム(14)に示すように、まず、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)保護基を利用した標準的な固相ペプチド合成プロトコールにしたがって、Sieberアミド樹脂上でDBCO-K8を合成した。
【0208】
Fmoc脱保護は、室温で15分間、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)中、20%ピペリジンを用いて行った。また、アミノ酸カップリング反応は、DMF中、Fmoc保護アミノ酸(3.1当量)、1-[ビス(ジメチルアミノ)メチレン]-1H-ベンゾトリアゾリウム3-オキシドヘキサフルオロホスフェート(HBTU、3.0当量)、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt、3.0当量)及びN,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA、6.0当量)の混合物を用いて室温で行った。また、全てのFmoc脱保護及びカップリング工程は、Kaiser試験によってモニターした。また、全ての洗浄手順はDMFを用いて行った。
【0209】
まず、Rinkアミド樹脂(0.43mmol/g)(46.5mg、20μmol)をFmoc脱保護し、洗浄した。続いて、Fmoc-D-Lys(Boc)-OH、Fmoc-Adox-OH、DBCO acidをビルディングブロックとして、Fmoc脱保護及びカップリング反応を繰り返した。
【0210】
Boc脱保護及び樹脂からの切断は、2.5%トリイソプロピルシラン(TIPS)及び2.5%水を含有するトリフルオロ酢酸(TFA)を用いて実施した。続いて、粗生成物をジエチルエーテルで沈殿させ、セミ分取C18カラム上、0.1%TFAと0.1%水和TFAを含むアセトニトリルの直線勾配を用いた逆相HPLCにより精製し、DBCO-K8を得た。
【0211】
MALDI-TOF-MS:calcd for[M+H],1765.1098;found,1765.0429
【0212】
[実験例25]
(HApeptide-FL-SS-K8の合成)
下記スキーム(15)にしたがって、下記式(21)で表される化合物(以下、「HApeptide-FL-SS-K8」という場合がある。)を合成した。
【0213】
【化38】
【0214】
【化39】
【0215】
具体的には、まず、Sieberアミド樹脂(0.79mmol/g)(76.0mg、60μmol)をFmoc脱保護し、洗浄した。続いて、Fmoc-Lys(N)-OH、Fmoc-NH-ethyl-SS-propionic aicd、Fmoc-Lys(ivDde)-OH、Fmoc-Ala-OH、Fmoc-Tyr(tBu)-OH、Fmoc-Asp(OtBu)-OH、Fmoc-Pro-OH、Fmoc-Val-OH、無水酢酸をビルディングブロックとして、Fmoc脱保護及びカップリング反応を繰り返した。最後にivDde脱保護を行い、5(6)-Carboxyfluorescein(FL)をカップリングした。
【0216】
OtBu、tBu脱保護及び樹脂からの切断は、2.5%トリイソプロピルシラン(TIPS)及び2.5%水を含有するTFAを用いて実施した。続いて、粗生成物をジエチルエーテルで沈殿させ、セミ分取C18カラム上、0.1%TFAと0.1%水和TFAを含むアセトニトリルの直線勾配を用いた逆相HPLCにより精製し、HApeptide-FL-SS-N3を得た。HApeptideのアミノ酸配列はYPYDVPDPYAK(配列番号5)であり、分子量は約1947.12であった。
【0217】
続いて、水/アセトニトリル=1/1の混合溶液にDBCO-K8、HApeptide-FL-SS-N3を溶解してクリック反応させ、DBCO-K8とHApeptide-FL-SS-N3を連結させた。続いて、セミ分取C18カラム上、0.1%TFAと0.1%水和TFAを含むアセトニトリルの直線勾配を用いた逆相HPLCにより精製し、HApeptide-FL-SS-K8を白色固体として得た。
【0218】
HApeptide-FL-SS-K8,calcd for[M+H],3709.8;found,3716.1
【0219】
[実験例26]
(HApeptide-FL-SS-K8の細胞内導入の検討)
HeLa細胞の培地に終濃度5μM又は10μMとなるようにHApeptide-FL-SS-K8を添加した。続いて、HApeptide-FL-SS-K8の添加から30分後に、FLの蛍光を共焦点レーザー顕微鏡で観察した。また、PI染色し、PIの蛍光を検出することにより死細胞を検出した。
【0220】
図14は、顕微鏡で観察した結果を示す写真である。スケールバーは80μmである。図14中、「FL」はフルオレセインの蛍光を観察した写真を示し、「PI」はPIの蛍光を観察した写真を示し、「DIC」は微分干渉顕微鏡写真を示す。その結果、HApeptide-FL-SS-K8の添加から30分後に、FLの蛍光が検出されなかったことが明らかとなった。
【0221】
この結果は、HApeptide-FL-SS-K8が細胞の細胞膜を透過せず、細胞外に拡散したことを示す。
【0222】
[実験例27]
(DBCO-Farの合成)
下記スキーム(16)にしたがって、下記式(22)で表される化合物(以下、「DBCO-Far」という場合がある。)を合成した。
【0223】
【化40】
【0224】
【化41】
【0225】
具体的には、スキーム(16)に示すように、まず、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)保護基を利用した標準的な固相ペプチド合成プロトコールにしたがって、Sieberアミド樹脂上でDBCO-Farを合成した。
【0226】
Fmoc脱保護は、室温で15分間、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)中、20%ピペリジンを用いて行った。また、アミノ酸カップリング反応は、DMF中、Fmoc保護アミノ酸(3.1当量)、1-[ビス(ジメチルアミノ)メチレン]-1H-ベンゾトリアゾリウム3-オキシドヘキサフルオロホスフェート(HBTU、3.0当量)、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt、3.0当量)及びN,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA、6.0当量)の混合物を用いて室温で行った。また、全てのFmoc脱保護及びカップリング工程は、Kaiser試験によってモニターした。また、全ての洗浄手順はDMFを用いて行った。
【0227】
まず、Sieberアミド樹脂(0.79mmol/g)(38mg、30μmol)をFmoc脱保護し、洗浄した。続いて、Fmoc-D-Cys(Trt)-OH、Fmoc-Adox-OH、DBCO aicdをビルディングブロックとして、Fmoc脱保護及びカップリング反応を繰り返した。
【0228】
Trt脱保護及び樹脂からの切断は、2.5%トリイソプロピルシラン(TIPS)及び2.5%水を含有するトリフルオロ酢酸(TFA)を用いて実施した。続いて、粗生成物をジエチルエーテルで沈殿させ、セミ分取C18カラム上、0.1%TFAと0.1%水和TFAを含むアセトニトリルの直線勾配を用いた逆相HPLCにより精製し、DBCO-Cを得た。
【0229】
続いて、DMF/アセトニトリル/水=2/1/1(0.05%TFA)の混合溶液にDBCO-C、酢酸亜鉛二水和物、トランス,トランス-ファルネシルブロミドを溶解してファルネシル化した。続いて、セミ分取C18カラム上、0.1%TFAと0.1%水和TFAを含むアセトニトリルの直線勾配を用いた逆相HPLCにより精製し、DBCO-Farを透明固体として得た。
【0230】
MALDI-TOF-MS:calcd for[M+Na],865.3413;found,865.2782
【0231】
[実験例28]
(HApeptide-FL-SS-Farの合成)
下記スキーム(17)にしたがって、下記式(23)で表される化合物(以下、「HApeptide-FL-SS-Far」という場合がある。)を合成した。
【0232】
【化42】
【0233】
【化43】
【0234】
具体的には、まず、Sieberアミド樹脂(0.79mmol/g)(76.0mg、60μmol)をFmoc脱保護し、洗浄した。続いて、Fmoc-Lys(N)-OH、Fmoc-NH-ethyl-SS-propionic aicd、Fmoc-Lys(ivDde)-OH、Fmoc-Ala-OH、Fmoc-Tyr(tBu)-OH、Fmoc-Asp(OtBu)-OH、Fmoc-Pro-OH、Fmoc-Val-OH、無水酢酸をビルディングブロックとして、Fmoc脱保護及びカップリング反応を繰り返した。最後にivDde脱保護を行い、5(6)-Carboxyfluorescein(FL)をカップリングした。
【0235】
OtBu、tBu脱保護及び樹脂からの切断は、2.5%トリイソプロピルシラン(TIPS)及び2.5%水を含有するTFAを用いて実施した。続いて、粗生成物をジエチルエーテルで沈殿させ、セミ分取C18カラム上、0.1%TFAと0.1%水和TFAを含むアセトニトリルの直線勾配を用いた逆相HPLCにより精製し、HApeptide-FL-SS-N3を得た。HApeptideのアミノ酸配列はYPYDVPDPYAK(配列番号5)であり、分子量は約1947.12であった。
【0236】
続いて、水/アセトニトリル=1/1の混合溶液にDBCO-Far、HApeptide-FL-SS-N3を溶解してクリック反応させ、DBCO-FarとHApeptide-FL-SS-N3を連結させた。続いて、セミ分取C18カラム上、0.1%TFAと0.1%水和TFAを含むアセトニトリルの直線勾配を用いた逆相HPLCにより精製し、HApeptide-FL-SS-Farを黄色固体として得た。
【0237】
HApeptide-FL-SS-Far,calcd for[M-H],2991.3;found,3001.1
【0238】
[実験例29]
(HApeptide-FL-SS-Farの細胞内導入の検討)
HeLa細胞の培地に終濃度5μM又は10μMとなるようにHApeptide-FL-SS-Farを添加した。続いて、HApeptide-FL-SS-Farの添加から30分後に、FLの蛍光を共焦点レーザー顕微鏡で観察した。また、PI染色し、PIの蛍光を検出することにより死細胞を検出した。
【0239】
図14は、顕微鏡で観察した結果を示す写真である。スケールバーは80μmである。図14中、「FL」はフルオレセインの蛍光を観察した写真を示し、「PI」はPIの蛍光を観察した写真を示し、「DIC」は微分干渉顕微鏡写真を示す。その結果、HApeptide-FL-SS-Farの添加から30分後に、FLの蛍光が検出されなかったことが明らかとなった。
【0240】
この結果は、HApeptide-FL-SS-Farが細胞の細胞膜を透過せず、細胞外に拡散したことを示す。
【0241】
[実験例30]
(HApeptide-FL-SS-N3の細胞内導入の検討)
HeLa細胞の培地に終濃度5μM又は10μMとなるようにHApeptide-FL-SS-N3を添加した。続いて、HApeptide-FL-SS-N3の添加から30分後に、FLの蛍光を共焦点レーザー顕微鏡で観察した。また、PI染色し、PIの蛍光を検出することにより死細胞を検出した。
【0242】
図14は、共焦点レーザー顕微鏡で観察した結果を示す写真である。スケールバーは80μmである。図14中、「FL」はフルオレセインの蛍光を観察した写真を示し、「PI」はPIの蛍光を観察した写真を示し、「DIC」は微分干渉顕微鏡写真を示す。その結果、HApeptide-FLの添加から30分後に、FLの蛍光が検出されなかったことが明らかとなった。
【0243】
この結果は、HApeptide-FL-SS-N3が細胞の細胞膜を透過せず、細胞外に拡散したことを示す。
【0244】
[実験例31]
(DBCO-R8の合成)
下記スキーム(18)にしたがって、下記式(24)で表される化合物(以下、「DBCO-R8」という場合がある。)を合成した。
【0245】
【化44】
【0246】
【化45】
【0247】
具体的には、スキーム(18)に示すように、まず、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)保護基を利用した標準的な固相ペプチド合成プロトコールにしたがって、Sieberアミド樹脂上でDBCO-R8を合成した。
【0248】
Fmoc脱保護は、室温で15分間、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)中、20%ピペリジンを用いて行った。また、アミノ酸カップリング反応は、DMF中、Fmoc保護アミノ酸(3.1当量)、1-[ビス(ジメチルアミノ)メチレン]-1H-ベンゾトリアゾリウム3-オキシドヘキサフルオロホスフェート(HBTU、3.0当量)、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt、3.0当量)及びN,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA、6.0当量)の混合物を用いて室温で行った。また、全てのFmoc脱保護及びカップリング工程は、Kaiser試験によってモニターした。また、全ての洗浄手順はDMFを用いて行った。
【0249】
まず、Rinkアミド樹脂(0.43mmol/g)(46.5mg、20μmol)をFmoc脱保護し、洗浄した。続いて、Fmoc-Arg(Pbf)-OH、Fmoc-Adox-OH、DBCO aicdをビルディングブロックとして、Fmoc脱保護及びカップリング反応を繰り返した。
【0250】
Pbf脱保護及び樹脂からの切断は、2.5%トリイソプロピルシラン(TIPS)及び2.5%水を含有するトリフルオロ酢酸(TFA)を用いて実施した。続いて、粗生成物をジエチルエーテルで沈殿させ、セミ分取C18カラム上、0.1%TFAと0.1%水和TFAを含むアセトニトリルの直線勾配を用いた逆相HPLCにより精製し、DBCO-R8を得た。
【0251】
[実験例32]
(HApeptide-FL-SS-R8の合成)
下記スキーム(19)にしたがって、下記式(25)で表される化合物(以下、「HApeptide-FL-SS-R8」という場合がある。)を合成した。
【0252】
【化46】
【0253】
【化47】
【0254】
具体的には、まず、Sieberアミド樹脂(0.79mmol/g)(76.0mg、60μmol)をFmoc脱保護し、洗浄した。続いて、Fmoc-Lys(N)-OH、Fmoc-NH-ethyl-SS-propionic aicd、Fmoc-Lys(ivDde)-OH、Fmoc-Ala-OH、Fmoc-Tyr(tBu)-OH、Fmoc-Asp(OtBu)-OH、Fmoc-Pro-OH、Fmoc-Val-OH、無水酢酸をビルディングブロックとして、Fmoc脱保護及びカップリング反応を繰り返した。最後にivDde脱保護を行い、5(6)-Carboxyfluorescein(FL)をカップリングした。
【0255】
OtBu、tBu脱保護及び樹脂からの切断は、2.5%トリイソプロピルシラン(TIPS)及び2.5%水を含有するTFAを用いて実施した。続いて、粗生成物をジエチルエーテルで沈殿させ、セミ分取C18カラム上、0.1%TFAと0.1%水和TFAを含むアセトニトリルの直線勾配を用いた逆相HPLCにより精製し、HApeptide-FL-SS-N3を得た。HApeptideのアミノ酸配列はYPYDVPDPYAK(配列番号5)であり、分子量は約1947.12であった。
【0256】
続いて、水/アセトニトリル=1/1の混合溶液にDBCO-R8、HApeptide-FLP-SS-N3を溶解してクリック反応させ、DBCO-R8とHApeptide-FL-SS-N3を連結させた。続いて、セミ分取C18カラム上、0.1%TFAと0.1%水和TFAを含むアセトニトリルの直線勾配を用いた逆相HPLCにより精製し、HApeptide-FL-SS-R8を黄色固体として得た。
【0257】
HApeptide-FL-SS-R8,calcd for[M+H],3933.9;found,3934.2
【0258】
[実験例33]
(HApeptide-FL-SS-R8の細胞内導入の検討)
HeLa細胞の培地に終濃度5μM又は10μMとなるようにHApeptide-FL-SS-R8を添加した。続いて、HApeptide-FL-SS-R8の添加から30分後に、FLの蛍光を共焦点レーザー顕微鏡で観察した。また、PI染色し、PIの蛍光を検出することにより死細胞を検出した。
【0259】
図14は、顕微鏡で観察した結果を示す写真である。スケールバーは80μmである。図14中、「FL」はフルオレセインの蛍光を観察した写真を示し、「PI」はPIの蛍光を観察した写真を示し、「DIC」は微分干渉顕微鏡写真を示す。その結果、HApeptide-FL-SS-R8の添加から30分後に、FLの蛍光はエンドソームシグナルとしてのみ検出され、細胞質からは検出されなかったことが明らかとなった。
【0260】
この結果は、HApeptide-FL-SS-R8がエンドサイトーシス経路で細胞の細胞膜を透過し、エンドソームに留まり、細胞質にはほとんど進入しないことを示す。なお、R8は、従来、細胞膜を透過するペプチドとして利用されてきたものである。
【0261】
[実験例34]
(FL-SS-K8Farの合成)
下記スキーム(20)にしたがって、下記式(26)で表される化合物(以下、「FL-SS-K8Far」という場合がある。)を合成した。
【0262】
【化48】
【0263】
【化49】
【0264】
具体的には、まず、Sieberアミド樹脂(0.79mmol/g)(76.0mg、60μmol)をFmoc脱保護し、洗浄した。続いて、Fmoc-Lys(N)-OH、Fmoc-NH-ethyl-SS-propionic aicd、5(6)-Carboxyfluorescein(FL)をビルディングブロックとして、Fmoc脱保護及びカップリング反応を繰り返した。
【0265】
樹脂からの切断は、2.5%トリイソプロピルシラン(TIPS)及び2.5%水を含有するTFAを用いて実施した。続いて、粗生成物をジエチルエーテルで沈殿させ、セミ分取C18カラム上、0.1%TFAと0.1%水和TFAを含むアセトニトリルの直線勾配を用いた逆相HPLCにより精製し、FL-SS-N3を得た。
【0266】
続いて、水/アセトニトリル=1/1の混合溶液にDBCO-K8Far、FL-SS-N3を溶解してクリック反応させ、DBCO-K8FarとFL-SS-N3を連結させた。続いて、セミ分取C18カラム上、0.1%TFAと0.1%水和TFAを含むアセトニトリルの直線勾配を用いた逆相HPLCにより精製し、FL-SS-K8Farを黄色固体として得た。
【0267】
FL-SS-K8Far,calcd for[M+H],2764.4791;found,2765.6374
【0268】
[実験例35]
(FL-SS-K8Farの細胞内導入の検討)
HeLa細胞の培地に終濃度5μM又は10μMとなるようにFL-SS-K8Farを添加した。また、比較のために、HeLa細胞の培地に終濃度5μM又は10μMとなるようにフルオレセイン(FL)を添加した試料も用意した。なお、フルオレセインは細胞膜非透過性の化合物である。続いて、FLの蛍光を共焦点レーザー顕微鏡で観察した。
【0269】
図15は、顕微鏡で観察した結果を示す写真である。スケールバーは40μmである。図15中、「FL」はフルオレセインの蛍光を観察した写真を示し、「PI」はPIの蛍光を観察した写真を示し、「DIC」は微分干渉顕微鏡写真を示す。その結果、FL-SS-K8Farの添加から30分後に、細胞質においてFLの蛍光が検出されたことが明らかとなった。一方、FLを培地に添加したHeLa細胞からはFLの蛍光は検出されなかった。
【0270】
この結果は、FL-SS-K8Farが細胞の細胞膜を透過して細胞質に導入され、細胞質に拡散したことを示す。
【0271】
図16(a)は、実験例22、実験例26、実験例35の結果に基づいて、各化合物のペプチド導入率を算出した結果を示すグラフである。ペプチド導入率は、下記式(F1)に基づいて算出した。
ペプチド導入率(%)=細胞質からFLの蛍光が検出された細胞数/全細胞数×100…(F1)
【0272】
図16(b)は、実験例22、実験例26、実験例35の結果に基づいて、各化合物の細胞毒性を評価した結果を示すグラフである。細胞生存率(%)は、下記式(F2)に基づいて算出した。
細胞生存率(%)=(1-(PIの蛍光が検出された細胞数/全細胞数))×100…(F2)
【0273】
図16(a)及び(b)中、グラフの値は、細胞30個超の結果に基づいた平均値±標準偏差を示す。
【0274】
[実験例36]
(SH2peptide-SS-K8Farの合成)
生理活性ペプチドの細胞内導入の実験例として、SH2peptideの導入を検討した。標的経路として、PI3K/Akt(Phosphoinositide 3-kinase/Protein Kinase B)経路を選択した。この経路は、代謝や細胞増殖等のあらゆる細胞機能に関与するシグナル伝達経路である。PI3K/Akt経路の活性亢進は、癌や神経疾患等の様々なヒト疾患に関連することが知られており、重要な創薬標的である。本実験例では、PI3KのSH2ドメインに結合することでPI3Kの活性化を阻害するSH2peptideを細胞質に導入し、PI3K/Akt経路のシグナル伝達を阻害することを目的とした。SH2peptideを細胞質に効率的に導入することが可能であれば、下流のAktのリン酸化が減少するものと期待した。
【0275】
まず、下記スキーム(21)にしたがって、下記式(27)で表される化合物(以下、「SH2peptide-SS-K8Far」という場合がある。)を合成した。
【0276】
【化50】
【0277】
【化51】
【0278】
具体的には、まず、Rinkアミド樹脂(0.43mmol/g)(46.5mg、20μmol)をFmoc脱保護し、洗浄した。続いて、Fmoc-Lys(N)-OH、Fmoc-NH-ethyl-SS-propionic acid、Fmoc-Leu-OH、Fmoc-Met-OH、Fmoc-Pro-OH、Fmoc-Val-OH、Fmoc-FPmp-OH、Fmoc-Asp(OtBu)-OH、無水酢酸をビルディングブロックとして、Fmoc脱保護及びカップリング反応を繰り返した。
【0279】
OtBu脱保護及び樹脂からの切断は、2.5%トリイソプロピルシラン(TIPS)及び2.5%水を含有するTFAを用いて実施した。続いて、粗生成物をジエチルエーテルで沈殿させ、セミ分取C18カラム上、0.1%TFAと0.1%水和TFAを含むアセトニトリルの直線勾配を用いた逆相HPLCにより精製し、SH2peptide-SS-N3を得た。SH2peptideのアミノ酸配列はDXVPMLK(配列番号1、X=ホスホノジフルオロメチルフェニルアラニン(F2Pmp))であり、分子量は約1209.35であった。
【0280】
続いて、水/アセトニトリル=1/1の混合溶液にDBCO-K8Far、SH2peptide-SS-N3を溶解してクリック反応させ、DBCO-K8FarとSH2peptide-SS-N3を連結させた。続いて、セミ分取C18カラム上、0.1%TFAと0.1%水和TFAを含むアセトニトリルの直線勾配を用いた逆相HPLCにより精製し、SH2peptide-SS-K8Farを白色固体として得た。
【0281】
MALDI-TOF-MS:calcd for[M+2H]2+,1641.3731;found,1641.8861
【0282】
[実験例37]
(SH2peptide-SS-K8FarによるPI3K/Akt経路阻害の検討)
図17(a)~(c)は、PI3K/Akt経路の阻害実験を説明する模式図である。図17(a)は、細胞をEpidermal growth factor(EGF)で刺激しない場合を示す。この場合、PI3Kは活性化されず、下流のAktのリン酸化も認められない。図17(b)は、細胞をEGFで刺激した場合を示す。この場合、PI3Kが活性化され、下流のAktがリン酸化される。図17(c)は、SH2peptide-SS-K8Farの存在下で、細胞をEGFで刺激した場合を示す。この場合、SH2peptide-SS-K8Farが細胞膜を透過して細胞質に導入され、PI3Kに結合する。その結果、PI3Kの活性化が阻害される。その結果、下流のAktのリン酸化も抑制される。
【0283】
PI3K/Akt経路の阻害実験を行った。HeLa細胞の培地に終濃度5μMとなるようにSH2peptide-SS-K8Farを添加し、20分間処理した。次にHeLa細胞を洗浄し、HeLa細胞の培地に終濃度50ng/mLとなるようにEGFを添加し、5分間処理した。次にHeLa細胞を洗浄し、細胞溶解液を用いて、HeLa細胞の溶解物を作製した。次にSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動法(Sodium dodecylsulfate polyacrylamide gel electrophoresis; SDS-PAGE)とウエスタンブロッティング法を用いて、HeLa細胞の溶解物を分子量で分離し、Aktのリン酸化を定量解析した。
【0284】
図18(a)は、SDS-PAGEとウエスタンブロッティング法によってAktのリン酸化を定量解析した結果を示す写真である。図18(b)は、図18(a)に基づいてAktのリン酸化を数値化したグラフである。
【0285】
HeLa細胞をEGFで刺激した場合には、Aktのリン酸化(T308とS473)が顕著に増加した(図18(a)及び(b)、Lane2)。これに対して、HeLa細胞をSH2peptide-SS-K8Farで処理したのちにEGFで刺激した場合には、Aktのリン酸化(T308とS473)が抑制された(図18(a)及び(b)、Lane3)。対照的に、SH2peptide-SS-N3を用いて同じ実験を行った場合には、Aktのリン酸化(T308とS473)の減少は観察されなかった(図18(a)及び(b)、Lane4)。
【0286】
この結果は、SH2peptide-SS-K8Farが、細胞質に導入され、PI3Kの活性化を阻害することで下流のAktのリン酸化を阻害したことを示す。
【産業上の利用可能性】
【0287】
本発明によれば、細胞膜非透過性の物質を動物細胞の細胞質に送達する技術を提供することができる。
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【配列表】
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