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特開2023-125494生体液用カリウム吸着剤及び透析液用カリウム吸着剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023125494
(43)【公開日】2023-09-07
(54)【発明の名称】生体液用カリウム吸着剤及び透析液用カリウム吸着剤
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/18 20060101AFI20230831BHJP
   C01B 39/44 20060101ALI20230831BHJP
   C01B 39/46 20060101ALI20230831BHJP
   C01B 39/48 20060101ALI20230831BHJP
   C01B 39/26 20060101ALI20230831BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20230831BHJP
   B01D 15/00 20060101ALI20230831BHJP
   A61M 1/02 20060101ALI20230831BHJP
   A61M 1/28 20060101ALI20230831BHJP
【FI】
B01J20/18 B
C01B39/44
C01B39/46
C01B39/48
C01B39/26
B01J20/30
B01D15/00 M
A61M1/02 130
A61M1/28 105
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022029613
(22)【出願日】2022-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中澤 直人
(72)【発明者】
【氏名】吉田 智
(72)【発明者】
【氏名】山崎 義貴
(72)【発明者】
【氏名】岡庭 宏
【テーマコード(参考)】
4C077
4D017
4G066
4G073
【Fターム(参考)】
4C077AA05
4C077AA11
4C077BB01
4C077BB03
4C077EE03
4C077KK13
4C077MM07
4C077NN20
4D017AA11
4D017CA05
4D017CB01
4G066AA62B
4G066BA38
4G066CA21
4G066DA11
4G066DA12
4G066DA20
4G066FA03
4G066FA11
4G066FA21
4G066FA37
4G073BA02
4G073BA04
4G073BA05
4G073BA57
4G073BA63
4G073BA75
4G073BA81
4G073BB03
4G073BB04
4G073BB05
4G073BB07
4G073BB12
4G073BB48
4G073BD03
4G073BD05
4G073CE01
4G073CZ01
4G073CZ03
4G073CZ05
4G073CZ07
4G073CZ15
4G073CZ17
4G073CZ18
4G073CZ20
4G073CZ50
4G073FC04
4G073FC12
4G073FC19
4G073FF02
4G073GA01
4G073GA03
4G073GA40
4G073GB03
4G073UA06
4G073UB28
4G073UB60
(57)【要約】
【課題】
生体液、透析液等のように、ナトリウム、カルシウム及びマグネシウムが存在する条件下においても、カリウムに対する高い吸着特性を示す生体液及び透析液の少なくともいずれかに好適なカリウム吸着剤及びその製造方法、該カリウム吸着剤を使用するカリウム吸着方法、並びに、これを使用するカリウム吸着システムの少なくともいずれかを提供する。
【解決手段】
アルミナに対するシリカのモル比(SiO/Al比)が3以上100以下であり、なおかつ、少なくとも酸素8員環を有するゼオライトを含むことを特徴とする、生体液用及び透析液用の少なくともいずれかのカリウム吸着剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナに対するシリカのモル比(SiO/Al比)が3以上100以下であり、なおかつ、少なくとも酸素8員環を有するゼオライトを含むことを特徴とする、生体液用カリウム吸着剤。
【請求項2】
前記ゼオライトがHEU型ゼオライト、FER型ゼオライト、YFI型ゼオライト、MAZ型ゼオライト、CHA型ゼオライト及びMOR型ゼオライトの群から選ばれる1以上である、請求項1に記載の生体液用カリウム吸着剤。
【請求項3】
前記ゼオライトのKO含有量が3.0質量%以下である、請求項1又は2のいずれかひとつに記載の生体液用カリウム吸着剤。
【請求項4】
前記ゼオライトが合成ゼオライトである、請求項1~3のいずれかひとつに記載の生体液用カリウム吸着剤。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかひとつに記載の生体液用カリウム吸着剤の製造方法。
【請求項6】
請求項1]~5のいずれかひとつに記載の生体液用カリウム吸着剤を使用するカリウム吸着方法。
【請求項7】
請求項1~5のいずれかひとつに記載の生体液用カリウム吸着剤を使用するカリウム吸着システム。
【請求項8】
アルミナに対するシリカのモル比(SiO/Al比)が3以上100以下であり、なおかつ、少なくとも酸素8員環を有するゼオライトを含むことを特徴とする、透析液用カリウム吸着剤。
【請求項9】
前記ゼオライトがHEU型ゼオライト、FER型ゼオライト、YFI型ゼオライト、MAZ型ゼオライト、CHA型ゼオライト及びMOR型の群から選ばれる1以上ゼオライトである、請求項8に記載の透析液用カリウム吸着剤。
【請求項10】
前記ゼオライトのKO含有量が3.0質量%以下である、請求項8又は9に記載の透析液用カリウム吸着剤。
【請求項11】
前記ゼオライトが合成ゼオライトである、請求項8~10のいずれかひとつに記載の透析液用カリウム吸着剤。
【請求項12】
請求項8~11のいずれかひとつに記載の透析液用カリウム吸着剤の製造方法。
【請求項13】
請求項8~11のいずれかひとつに記載の透析液用カリウム吸着剤を使用するカリウム吸着方法。
【請求項14】
請求項8~11のいずれかひとつに記載の透析液用カリウム吸着剤を使用するカリウム吸着システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、生体液用カリウム吸着剤及び透析液用カリウム吸着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
血液製品を含む生体液からの過剰なカリウムの除去及びカリウム量の調整は、輸血の際の有害効果のリスクを低減するために重要である。
【0003】
血液および血液製品よりカリウムを除去するために、多孔性スルホン酸塩官能基を含むポリマービーズを吸着剤として用いる手法が知られている(特許文献1)。
【0004】
また、従来の透析プロセスでは、一度使用されると直ちに廃棄される透析液を調製するために大量の精製水(超純水)の準備が必要である。そのため、使用済みの透析液からカリウムを主とした過剰な電解質を除去し再利用する方法が求められている。
【0005】
不用な代謝産物を透析液体から除去するため、プロトン化型非晶質で、非水溶性の金属リン酸塩をCa、Mg及びKの吸着剤としての利用する手法が知られている(特許文献2)。
【0006】
ゼオライトはミクロ多孔質の結晶性アルミノシリケートであり、イオン交換能を有することが知られるが、上記のような生体液及び透析液等に含まれるカリウム量を調整する目的のカリウム吸着剤に適用された報告はなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第6884774号公報
【特許文献2】特表2019-536570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
生体液、透析液等からカリウムを吸着剤により除去する際、従来のイオン交換材料を用いるとナトリウム、カルシウム及びマグネシウムといったそのほかの陽イオンまで除去される問題があった。
【0009】
本開示は、生体液、透析液等のように、ナトリウム、カルシウム及びマグネシウムが存在する条件下においても、カリウムに対する高い吸着特性を示す生体液及び透析液の少なくともいずれかに好適なカリウム吸着剤及びその製造方法、該カリウム吸着剤を使用するカリウム吸着方法、並びに、これを使用するカリウム吸着システムの少なくともいずれかを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、ゼオライトを含む組成物のカリウム吸着特性について検討した。その結果、特定の構造を有するゼオライトが、カリウムに対する高い吸着特性を示す吸着剤を見出した。
【0011】
すなわち、本発明は特許請求の範囲の記載の通りであり、また、本開示の要旨は以下の通りである。
[1] アルミナに対するシリカのモル比(SiO/Al比)が3以上100以下であり、なおかつ、少なくとも酸素8員環を有するゼオライトを含むことを特徴とする、生体液用カリウム吸着剤。
[2] 前記ゼオライトがHEU型ゼオライト、FER型ゼオライト、YFI型ゼオライト、MAZ型ゼオライト、CHA型ゼオライト及びMOR型ゼオライトの群から選ばれる1以上である、前記[1]に記載の生体液用カリウム吸着剤。
[3] 前記ゼオライトのKO含有量が3.0質量%以下である、前記[1]又は[2]のいずれかひとつに記載の生体液用カリウム吸着剤。
[4] 前記ゼオライトが合成ゼオライトである、前記[1]~[3]のいずれかひとつに記載の生体液用カリウム吸着剤。
[5] 前記[1]~[4]のいずれかひとつに記載の生体液用カリウム吸着剤を使用するカリウム吸着方法。
[6] 前記[1]~[4]のいずれかひとつに記載の生体液用カリウム吸着剤を使用するカリウム吸着システム。
[7] アルミナに対するシリカのモル比(SiO/Al比)が3以上100以下であり、なおかつ、少なくとも酸素8員環を有するゼオライトを含むことを特徴とする、透析液用カリウム吸着剤。
[8] 前記ゼオライトがHEU型ゼオライト、FER型ゼオライト、YFI型ゼオライト、MAZ型ゼオライト、CHA型ゼオライト及びMOR型の群から選ばれる1以上ゼオライトである、前記[7]に記載の透析液用カリウム吸着剤。
[9] 前記ゼオライトのKO含有量が3.0質量%以下である、前記[7]又は[8]に記載の透析液用カリウム吸着剤。
[10] 前記ゼオライトが合成ゼオライトである、前記[7]~[9]のいずれかひとつに記載の透析液用カリウム吸着剤。
[11] 前記[7]~[10]のいずれかひとつに記載の透析液用カリウム吸着剤を使用するカリウム吸着方法。
[12] 前記[7]~[10]のいずれかひとつに記載の透析液用カリウム吸着剤を使用するカリウム吸着システム。
【発明の効果】
【0012】
本開示により、生体液や透析液のように、ナトリウム、カルシウム及びマグネシウムが存在する条件下においても、カリウムに対する高い吸着特性を示すカリウム吸着剤及びその製造方法、該カリウム吸着剤を使用するカリウム吸着方法、並びに、これを使用するカリウム吸着システムの少なくともいずれかを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示に係るゼオライトについて、実施形態の一例を示して説明する。
【0014】
本実施形態における用語は以下の通りである。
【0015】
「アルミノシリケート」は、アルミニウム(Al)とケイ素(Si)とが酸素(O)を介したネットワークの繰返しからなる構造を有する複合酸化物である。アルミノシリケートのうち、その粉末X線回折(以下、「XRD」ともいう。)パターンにおいて、結晶性のXRDピークを有するものが「結晶性アルミノシリケート」、及び、結晶性のXRDピークを有さないものが「非晶質アルミノシリケート」である。
【0016】
本実施形態において、XRDパターンは以下の条件のXRD測定より得られるものが挙げられる。
【0017】
加速電流・電圧 : 40mA・40kV
線源 : CuKα線(λ=1.5405Å)
測定モード : ステップスキャン
スキャン条件 : 40°/分
計測時間 : 3秒
測定範囲 : 2θ=3°から43°
発散縦制限スリット: 10mm
発散/入射スリット: 1°
受光スリット : open
受光ソーラースリット : 5°
検出器 : 半導体検出器(D/teX Ultra)
フィルター : Niフィルター
XRDパターンは一般的な粉末X線回折装置(例えば、D8 Advance、Bruker社製)を使用して測定することができる。また、結晶性のXRDピークは、一般的な解析ソフトを使用したXRDパターンの解析においてピークトップの2θが特定され検出されるピークであり、半値幅が2θ=0.50°以下のXRDピークが例示できる。
【0018】
「ゼオライト」とは、骨格原子(以下、「T原子」ともいう。)が酸素(O)を介した規則的構造を有する化合物であり、T原子が金属原子及び又は半金属原子の少なくともいずれかからなる化合物である。金属原子としては、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、鉄(Fe)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)及びスズ(Sn)からなる群から選ばれる1以上が例示できる。半金属原子としては、ホウ素(B)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)及びテルル(Te)の群から選ばれる1以上が例示できる。本開示においては、ゼオライトとゼオライト類似物質は別のものであり、ゼオライトにはゼオライト類似物質は含まれない。
【0019】
「ゼオライト類似物質」とは、T原子が酸素を介した規則的構造を有する化合物であり、T原子に少なくとも金属及び半金属以外の原子を含む化合物である。ゼオライト類似物質として、アルミノフォスフェート(AlPO)やシリコアルミノフォスフェート(SAPO)など、T原子としてリン(P)を含む複合リン化合物が例示できる。
【0020】
ゼオライトやゼオライト類似物質における「骨格構造(以下、「ゼオライト構造」ともいう。)」とは、国際ゼオライト学会(International ZeoliteAssociation)のStructure Commissionが定めている骨格構造コード(以下、単に「骨格コード」ともいう。)で特定される骨格構造である。ゼオライトの骨格構造はCollection of simulated XRD powder patterns for zeolites,Fifth revised edition(2007)に記載された各ゼオライト構造のXRDパターン(以下、「参照パターン」ともいう。)と、対象とするゼオライトのXRDパターンとの対比によって、同定できる。ゼオライト構造に関し、骨格構造、結晶構造又は結晶相はそれぞれ同義で使用される。
【0021】
「員環」は、T原子及びこれと結合した酸素原子(以下、「骨格酸素」ともいう。)からなる環状構造である。「酸素n員環」は、員環であって、T原子及びn個の骨格酸素からなる環状構造であり(但し、nは0を除く整数)、例えば、「酸素8員環」はT原子及び8個の骨格酸素からなる環状構造である。また、酸素n員環に含まれるT原子の数はn個である。
【0022】
各ゼオライト構造に含まれる員環は、IZAのホームページに掲載されている各構造コードのFrameworkから確認できる。例えば、FER構造のFrameworkにおいて、Ring sizes(#T-atoms)は10 8 6 5である。このことから、FER構造に含まれる員環は酸素10員環、酸素8員環、酸素6員環及び酸素5員環であることが確認できる。
【0023】
「生体液」とは、動物の体内で、細胞外にあって流動する液体である。具体的な生体液として、血液、血液から製造される血液製品、血漿、リンパ液、組織液及び体腔液の群から選ばれる1以上が挙げられる。
【0024】
「透析液」とは、人工透析治療にて生体液の精製に使われる液体であり、半透膜などを通じて生体液と接触し、生体液中の過剰な水、電解質および不用の毒素を除去するために使われる液体である。
【0025】
本実施形態のカリウム吸着剤は、アルミナに対するシリカのモル比(以下、「SiO/Al比」ともいう。)が3以上100以下であり、なおかつ、少なくとも酸素8員環細孔を有するゼオライト(以下、「8員環含有ゼオライト」)を含むことを特徴とする生体液用カリウム吸着剤、透析液用カリウム吸着剤である。
【0026】
本実施形態のカリウム吸着剤は、SiO/Alモル比が3以上100以下であるゼオライトを含む。該ゼオライトがこのような組成であることにより、ナトリウムイオン(Na)、マグネシウムイオン(Mg2+)及びカルシウムイオン(Ca2+)よりもカリウムイオン(K)を吸着しやすくなる。本実施形態のカリウム吸着剤のSiO/Alモル比は3以上100以下であり、好ましくは4以上50以下であり、より好ましくは5以上40以下である。SiO/Alモル比が当該範囲でない場合、Mg2+及びCa2+が吸着されやすくなり、Kの選択的な吸着特性が低下する恐れがある。
【0027】
本実施形態のカリウム吸着剤に含まれるゼオライトは、自然界から産出したゼオライト(以下、「天然ゼオライト」ともいう。)であってもよいが、不純物が少なく吸着特性が高くなりやすいことから人工的に水熱合成法等により結晶化して得られるゼオライト(以下、「合成ゼオライト」ともいう。)が好ましい。
【0028】
本実施形態のカリウム吸着剤に含まれるゼオライトは、酸素8員環を含む。これにより該ゼオライトを含む本実施形態のカリウム吸着剤は、カリウムを選択的に吸着する。ゼオライトが酸素8員環を含まない場合、カリウムの大きさに合った好ましい員環が存在しないため、カリウムに対する選択性が低くなる。
【0029】
酸素8員環を含むゼオライト(以下、「8員環含有ゼオライト」ともいう。)としては、例えば、ABW型ゼオライト、AEI型ゼオライト、AFT型ゼオライト、AFV型ゼオライト、AFX型ゼオライト、ANA型ゼオライト、BIK型ゼオライト、CAS型ゼオライト、CDO型ゼオライト、CHA型ゼオライト、DAC型ゼオライト、DDR型ゼオライト、EAB型ゼオライト、EEI型ゼオライト、ERI型ゼオライト、ESV型ゼオライト、FER型ゼオライト、GIS型ゼオライト、GME型ゼオライト、HEU型ゼオライト、IFY型ゼオライト、IHW型ゼオライト、JBW型ゼオライト、KFI型ゼオライト、LTA型ゼオライト、LTF型ゼオライト、MAZ型ゼオライト、MOR型ゼオライト、MOZ型ゼオライト、MRE型ゼオライト、MRT型ゼオライト、MTF型ゼオライト、MWF型ゼオライト、OFF型ゼオライト、PAU型ゼオライト、PHI型ゼオライト、PWN型ゼオライト、RHO型ゼオライト、RHO型ゼオライト、RTE型ゼオライト、SAS型ゼオライト、SFW型ゼオライト、STI型ゼオライト、UFI型ゼオライト及びYFI型ゼオライトの群から選ばれる1以上であることが例示できる。8員環含有ゼオライトはHEU型ゼオライト、FER型ゼオライト、YFI型ゼオライト、MAZ型ゼオライト、CHA型ゼオライト及びMOR型ゼオライトの群から選ばれる1以上であることが好ましく、CHA型ゼオライト、FER型ゼオライト及びHEU型ゼオライトの群から選ばれる1以上であることがより好ましい。
【0030】
本実施形態のカリウム吸着剤のKO含有量は、3.0質量%以下が好ましく、2.5質量%以下がより好ましく、2.0質量%が更に好ましい。KO含有量は、ゼオライトのケイ素(Si)をSiO換算し、アルミニウム(Al)をAl換算し、カリウム(K)をKO換算した合計質量に対する、KO換算したカリウム(K)の質量割合[質量%]である。
【0031】
本実施形態のカリウム吸着剤に含まれるゼオライトは、SiおよびAl以外のT原子を含有してもよい。該ゼオライトを構成するT原子の例として、例えば、ホウ素(B)、ガリウム(Ga)、ゲルマニウム(Ge)、鉄(Fe)、チタン(Ti)及びスズ(Sn)の群から選ばれる1種以上等を挙げることができる。
【0032】
本実施形態のカリウム吸着剤に含まれるゼオライトが含有するイオン(M)として、水素イオン(H)、Na、Ca2+及びMg2+の群から選ばれる1以上が例示できる。該ゼオライト中のイオンはイオン交換によって他のイオンに置き換えることが可能である。
【0033】
本実施形態のカリウム吸着剤に含まれるゼオライトは、アルミナに対する酸化物換算したカチオン(M)のモル比(以下、「M2/nO/Al比」ともいう。ただし、nはMの平均価数。)が0.1を超えるとき、カチオンタイプが当該イオン(M)タイプであるとする。また、該ゼオライトが複数種類のカチオンを含むとき、該ゼオライトが複数のカチオンからなるカチオンタイプ(例えば、ナトリウム・水素イオンタイプ)とみなしてよい。
【0034】
本実施形態のカリウム吸着剤に含まれるゼオライトのカチオンタイプとして、H、Na、K、Ca2+、及びMg2+の群から選ばれる1以上が挙げられ、好ましくはHタイプ及びNaタイプの少なくともいずれか、更に好ましくはNaタイプが挙げられる。
【0035】
本実施形態のカリウム吸着剤は、有機構造指向剤(以下、「SDA」ともいう。)を含有してもよいが、カリウム吸着性能を向上させやすくなる点で、SDAを含有していないことが好ましい。現実的なカリウム吸着剤のSDA含有量として、SDA/SiO比が0超0.005未満であることが例示できる。具体的なSDAとして、アミン又は第4級アンモニウムカチオンが挙げられる。アミン又は第4級アンモニウムカチオンとして、例えば、テトラアルキルアンモニウムカチオン、N,N,N-トリアルキルアダマンタンアンモニウムカチオン、N,N,N-トリアルキルシクロヘキシルアンモニウムカチオン、ピリジン及びピペリジンの群から選ばれる1以上が挙げられる。
【0036】
本実施形態のカリウム吸着剤のK捕捉率は20%以上100%以下であることが好ましく、30%以上99%以下であることがより好ましく、40%以上98%以下であることが更に好ましい。
【0037】
本実施形態のカリウム吸着剤のNa捕捉率は-10%以上20%以下であることが好ましく、-6%以上10%以下であることがより好ましく、-4%以上5%以下であることが更に好ましい。
【0038】
本実施形態のカリウム吸着剤のMg捕捉率は-5%以上15%以下であることが好ましく、-2%以上10%以下であることがより好ましく、0%以上6%以下であることが更に好ましい。
【0039】
本実施形態のカリウム吸着剤のCa捕捉率は-5%以上50%以下であることが好ましく、-2%以上40%以下であることがより好ましく、0%以上30%以下であることが更に好ましい。
【0040】
本実施形態のカリウム吸着剤のNaに対するK分離係数は3以上10000以下であることが好ましく、5以上1000以下であることがより好ましく、10以上500以下であることが更に好ましい。
【0041】
本実施形態のカリウム吸着剤のMgに対するK分離係数は5以上100000以下であることが好ましく、10以上10000以下であることがより好ましくり、15以上2000以下であることが更に好ましい。
【0042】
本実施形態のカリウム吸着剤のCaに対するK分離係数は1以上10000以下であることが好ましく、1.5以上3000以下であることがより好ましく、2以上1000以下であることが更に好ましい。
【0043】
本実施形態のカリウム吸着剤は用途に応じた任意の形状で使用することができ、特に限定するものではないが、例えば、粉末、成形体、又は吸着部材等の形状で使用することができる。具体的な成形体の形状として、球状、略球状、楕円状、円板状、円柱状、多面体状、不定形状及び花弁状の群から選ばれる1以上が挙げられる。
【0044】
成形体として使用する場合には、本実施形態のカリウム吸着剤は、結合剤を含んでいてもよい。結合剤は、ゼオライトの結合剤として使用される公知のものを使用すればよく、例えば、シリカ、アルミナ、カオリン、アタパルガイト、モンモリロナイト、ベントナイト、アロフェン及びセピオライトの群から選ばれる1以上等、が挙げられる。
【0045】
本実施形態のカリウム吸着剤は、カリウムイオンの吸着方法に使用できる。本実施形態のカリウム吸着剤を使用したカリウムイオンの吸着方法は任意であるが、例えば、カリウムイオン含有流体に本実施形態のカリウム吸着剤を分散させるバッチ式の工程を有するカリウムイオンの吸着方法、又はカリウムイオン含有流体を本実施形態のカリウム吸着剤に流通させる工程を有するカリウムイオンの吸着方法、が挙げられる。
【0046】
カリウムイオン含有流体と本実施形態のカリウム吸着剤とを接触させる工程(以下、「カリウム吸着工程」ともいう。)に供するカリウム吸着剤は、本実施形態のカリウム吸着剤を含んでいればよく、組成及びゼオライト構造の少なくともいずれが相違するゼオライトを含有する2以上のカリウム吸着剤であってもよく、更には、本実施形態のカリウム吸着剤と、8員環含有ゼオライト以外のゼオライトを含むカリウム吸着剤と、を含んでいてもよい。
【0047】
カリウム吸着工程に供するカリウムイオン含有流体のカリウム含有量は任意であるが、例えば、1mmol/L以上1000mmol/L、又は3mmol/L以上100mmol/L以下であることが例示できる。
【0048】
カリウムイオン含有流体は、カリウム選択性の発現の観点から、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン及びカルシウムイオンの群から選ばれる1以上を含有することが好ましい。
【0049】
カリウムイオン含有流体は、無機イオン以外に、タンパク質、アミノ酸、ビタミン、その他の生体分子の群から選ばれる1以上を含有していてもよい。
【0050】
本実施形態のカリウム吸着剤が生体液用カリウム吸着剤である場合、カリウム吸着工程に供するカリウムイオン含有流体は、生体液が挙げられる。具体的な生体液としては、血液、血液から製造される血液製品、血漿、リンパ液、組織液及び体腔液の群から選ばれる1以上が挙げられるが例示できる。好ましい生体液として、血液、血液から製造される血液製品及び血漿の群から選ばれる1以上が挙げられる。
【0051】
本実施形態のカリウム吸着剤が透析液用カリウム吸着剤である場合、カリウム吸着工程に供するカリウムイオン含有流体は、透析液が挙げられる。
【0052】
本実施形態のカリウム吸着剤は、これを備えるカリウムの吸着システム、として使用することができる。カリウム吸着システムは、本実施形態のカリウム吸着剤を備えていればよく、これと、活性炭吸着剤及び中空糸膜の少なくともいずれかと、を備えていてもよい。
【0053】
次に、本実施形態のカリウム吸着剤の製造方法について説明する。
【0054】
本実施形態のカリウム吸着剤は、上記の構成を満たすカリウム吸着剤が得られれば、その製造方法は任意である。
【0055】
本実施形態のカリウム吸着剤に含まれる8員環含有ゼオライトの製造方法として、少なくともシリカ源、アルミナ源、アルカリ源及び水を含む組成物を結晶化し8員環含有ゼオライトを得る工程(以下、「結晶化工程」ともいう。)、8員環含有ゼオライトを洗浄する工程(以下、「洗浄工程」ともいう。)、8員環含有ゼオライトを乾燥する工程(以下、「乾燥工程」ともいう。)、及び、8員環含有ゼオライトを熱処理する工程(以下、「活性化工程」ともいう。)の群から選ばれる1以上の工程を有する製造方法、が挙げられる。
【0056】
8員環含有ゼオライトを結晶化工程により得る場合、少なくともシリカ源、アルミナ源、アルカリ源及び水を含む組成物(以下、「原料組成物」ともいう。)を結晶化すればよい。8員環含有ゼオライトは上記の構成を満たすゼオライトであれば市販のものを用いてもよい。
【0057】
シリカ源は、ケイ素含有化合物及びケイ素(Si)の少なくともいずれかであり、例えば、シリカゾル、ヒュームドシリカ、コロイダルシリカ、沈降法シリカ、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、無定形ケイ酸、非晶質シリカ、結晶性アルミノシリケート及び非晶質アルミノシリケートの群から選ばれる1以上等が挙げられる。
【0058】
アルミナ源は、アルミニウム含有化合物及びアルミニウム(Al)の少なくともいずれかであり、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウム、塩化アルミニウム、結晶性アルミノシリケート及び非晶質アルミノシリケートの群から選ばれる1以上等が挙げられる。
【0059】
アルカリ源は、アルカリ金属元素を含有する化合物及びアルカリ金属の少なくともいずれかであり、アルカリ金属の水酸化物、炭酸塩、硫酸塩、塩化物、臭化物、ケイ酸塩及びヨウ化物の群から選ばれる1以上が挙げられ、水酸化物、塩化物、臭化物及びヨウ化物の群から選ばれる1以上であることが好ましく、水酸化物であることがより好ましい。
【0060】
アルカリ金属元素として、ナトリウム、カリウム、ルビジウム及びセシウムの群から選ばれる1以上が挙げられ、ナトリウム及びカリウムの少なくともいずれかが好ましい。
【0061】
水は、蒸留水、脱イオン水、純水であればよい。さらに、溶媒や含水化合物等、原料組成物に含まれる他の出発原料に由来する水分も、原料組成物における水と見なすことができる。
【0062】
原料組成物は、特定の骨格構造を有するゼオライトへの指向性を高くするため、有機構造指向剤(以下、「SDA」ともいう。)を含んでもよい。ゼオライトを指向するSDAとして、例えば、テトラアルキルアンモニウムカチオン、N,N,N-トリアルキルアダマンタンアンモニウムカチオン、N,N,N-トリアルキルシクロヘキシルアンモニウムカチオン、ピリジン及びピペリジンの群から選ばれる1以上等が挙げられる。
【0063】
原料組成物は、結晶化に必要な処理時間が短縮できる傾向があるため、シリカ源及びアルミナ源に対して十分に少ない量の種晶を含んでいてもよい。種晶はゼオライトであればよい。原料組成物に混合される種晶は、原料組成物(種晶を含まない)中のアルミニウム及びケイ素を、それぞれ、Al及びSiO換算した合計質量に対する、種晶中のアルミニウム及びケイ素を、それぞれ、Al及びSiO換算した合計質量の割合(以下、「種晶含有量」ともいう。)が0質量%以上であり、かつ、20質量%以下又は10質量%以下であることが挙げられる。
【0064】
原料組成物の好ましい組成として、8員環含有ゼオライトとなるようモル組成を調整すればよい。例えば8員環含有ゼオライトがCHA型の場合、原料組成物は以下のモル組成が挙げられる。
【0065】
SiO/Al比 =3以上200以下、4以上100以下又は5以上60以下
K/SiO比 =0.00以上1.50以下、0.00以上0.90以下又は0.00以上0.70以下
Na/SiO比 =0.00以上1.50以下、0.00以上0.90以下又は0.00以上0.70以下
OH/SiO比 =0.10以上3.00以下、0.15以上2.00以下又は0.20以上1.50以下
SDA/SiO比 =0.00以上1.00以下、0.00以上0.70以下又は0.00以上0.40以下
O/SiO比 =2以上1000以下、6以上500以下又は10以上100以下
8員環含有ゼオライトのカリウム含有量が3.0質量%を超える場合、該ゼオライトをカリウム除去工程に供することが好ましい。
【0066】
カリウム除去工程により、8員環含有ゼオライトのイオン交換サイトや細孔に含まれるカリウム等のアルカリ金属の除去などにより、任意のカチオンタイプとすることができる。アルカリ金属の除去の方法として、電解質溶液による液相処理及びレジンによる交換処理の群から選ばれる1つ以上が例示できる。
【0067】
水素イオンで置換する場合、8員環含有ゼオライトを酸で処理する方法及び8員環含有ゼオライトをアンモニウム(NH )含有化合物で液相処理したのち加熱処理する方法の少なくともいずれかが挙げられる。
【0068】
Naで置換する場合、8員環含有ゼオライトとナトリウム源が十分に接触する方法であればよく、湿式混合及び乾式混合の少なくともいずれかが例示できる。これによりナトリウム含有量が増加したゼオライトが得られる。好ましい混合方法として、ナトリウム源を含む水溶液を8員環含有ゼオライトに流通する方法、イオン交換、ナトリウム源を含む電解質溶液による液相処理、含浸担持及び蒸発乾固の群から選ばれる1以上、より好ましくはナトリウム源を含む電解質溶液による液相処理及びイオン交換の少なくともいずれかが、が例示できる。
【0069】
前記ナトリウム源は、ナトリウムを含む化合物及び錯体の少なくともいずれかであればよく、水溶性のナトリウム化合物であることが好ましい。具体的なナトリウム源として、フッ化ナトリウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、硝酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、硫酸ナトリウム、硫酸水素ナトリウム、リン酸ナトリウム、リン酸一水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム及びシュウ酸ナトリウムの群から選ばれる1以上、好ましくは塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、硝酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、硫酸ナトリウム及び硫酸水素ナトリウムの群から選ばれる1以上、より好ましくは塩化ナトリウム、臭化ナトリウム及び硝酸ナトリウムの群から選ばれる1以上、更に好ましくは塩化ナトリウム及び硝酸ナトリウムの少なくともいずれかが、が挙げられる。
【0070】
混合は、10℃以上100℃以下、10秒以上10時間以下で原料ゼオライトと水溶性ナトリウム源を含む水溶液を接触させることが例示できる。
【0071】
なお、あらかじめ所望のカチオンタイプである8員環含有ゼオライト、もしくは十分小さなカリウム含有量を有する8員環含有ゼオライトについては、カリウム除去工程に供することなく、8員環含有ゼオライトをそのまま吸着剤に含有させることで、本実施形態のカリウム吸着剤としてもよい。
【0072】
8員環含有ゼオライトはCHA型ゼオライト、FER型ゼオライト、GME型ゼオライト、HEU型ゼオライト、MAZ型ゼオライト、MER型ゼオライト、MOR型ゼオライト及びYFI型ゼオライトの群から選ばれる1以上が好ましく、CHA型ゼオライト、FER型ゼオライト及びHEU型ゼオライトの群から選ばれる1以上であることがより好ましい。8員環含有ゼオライトは本実施形態のカリウム吸着剤と接触させるカリウムイオン含有流体に適したゼオライトを選択することが好ましい。Naに対するK分離係数がより高いカリウム吸着剤を得る観点から、8員環含有ゼオライトはHEU型ゼオライトであることがより好ましい。一方、Ca2+に対するK分離係数がより高いカリウム吸着剤を得る観点から、8員環含有ゼオライトはFER型ゼオライトであることがより好ましい。
【0073】
8員環含有ゼオライトのSiO/Al比は、本実施形態のカリウム吸着剤に含まれるゼオライトと同様であればよく、3以上100以下が好ましく、4以上50以下がより好ましく、5以上40以下が更に好ましい。
【0074】
本実施形態のカリウム吸着剤の製造方法は、必要に応じて洗浄工程、乾燥工程及び活性化工程の群から選ばれる1以上の工程を含んでいてもよい。
【0075】
8員環含有ゼオライトに含有される不純物を除去するため、これを洗浄工程に供してもよい。洗浄工程は、8員環含有ゼオライトから不純物等が除去できれば、任意の洗浄方法であればよい。洗浄方法として、8員環細孔含有ゼオライトに十分量の純水を流通させることが例示できる。
【0076】
8員環含有ゼオライトの表面や細孔等から、残存した水分を除去するため、これを乾燥工程に供してもよい。乾燥工程は、8員環含有ゼオライトの表面や細孔等に残存した水分が除去できれば、任意の乾燥方法であればよい。乾燥方法として、大気中で、80℃以上200℃以下、好ましくは100℃以上190℃以下で処理することが例示できる。
【0077】
8員環含有ゼオライトから有機物などの不純物を除去するため、これを活性化工程に供してもよい。活性化工程は、8員環含有ゼオライトから有機物が除去できれば、任意の熱処理であればよい。熱処理方法として、大気中。400℃以上700℃以下で処理すること、更には大気中、500℃以上600℃以下で処理すること、が例示できる。
【0078】
本実施形態のカリウム吸着剤を基材に塗布する場合、本実施形態のカリウム吸着剤の製造方法は、8員環含有ゼオライトと溶媒とを混合する工程(以下、「スラリー化工程」)を有することが好ましい。
【0079】
スラリー化工程は、ナトリウム含有ゼオライトスラリーを得る。所望の基材の塗布に適したゼオライトスラリーが得られれば、8員環含有ゼオライトと溶媒との混合方法は任意である。スラリー化工程における混合方法として、水及びアルコールの少なくともいずれか、好ましくは水に8員環含有ゼオライトを添加及び混合すればよい。
【0080】
上記の工程により得られた8員環含有ゼオライトはそのまま本実施形態のカリウム吸着剤として用いることができる。
【0081】
本実施形態のカリウム吸着剤を成形体とする場合、8員環含有ゼオライトを成形する工程(以下、「成形工程」ともいう。)を有することが好ましい。
【0082】
成形工程は、8員環含有ゼオライトを成形し、所望の形状にする。成形工程における成形方法は、所望の形状の成形体が得られる方法であればよく、例えば、成転動造粒成形、プレス成形、押し出し成形、射出成形、鋳込み成形及びシート成形の群から選ばれる1以上が挙げられる。
【0083】
成形工程において、8員環含有ゼオライトに加え、結合剤と混合した組成物を成形してもよい。結合剤は、ゼオライトの結合剤として使用される公知のものを使用すればよく、例えば、シリカ、アルミナ、カオリン、アタパルガイト、モンモリロナイト、ベントナイト、アロフェン及びセピオライトの群から選ばれる1以上、が挙げられる。
【実施例0084】
(結晶構造の同定)
X線回折装置(装置名:UltimaIV Protectus、リガク社製)を使用し、試料のXRD測定をした。測定条件は以下のとおりである。
【0085】
加速電流・電圧 : 40mA・40kV
線源 : CuKα線(λ=1.5405Å)
測定モード : 連続スキャン
スキャン条件 : 40°/分
測定範囲 : 2θ=3°から43°
発散縦制限スリット: 10mm
発散/入射スリット: 1°
受光スリット : open
受光ソーラースリット : 5°
検出器 : 半導体検出器(D/teX Ultra)
フィルター : Niフィルター
得られたXRDパターンと参照パターンとを対比することで、ゼオライト構造を同定した。
【0086】
(組成分析)
フッ酸と硝酸の混合水溶液に試料を溶解して試料溶液を調製した。一般的なICP装置(装置名:OPTIMA5300DV、PerkinElmer社製)を使用して、当該試料溶液を誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES)で測定した。得られたSi及びAlの測定値から、試料のSiO/Alモル比及び含有するアルミニウム質量を求めた。
【0087】
「M捕捉率」及び「Mに対するK分離係数」は以下の方法で測定される値である。
【0088】
(吸着特性評価)
<測定試料>
形状 :粉末状の吸着剤
<カリウム含有電解質水溶液>
人工海水調製用粉末(製品名:マリンアートSF-1、富田製薬株式会社製)を純水に溶解し、調製する。
【0089】
Na濃度 :435mmol/L
K濃度 :9.0mmol/L
Mg濃度 :48.7mmol/L
Ca濃度 :10.2mmol/L
<カリウムの吸着条件>
上記水溶液100mLに対して有姿2gの測定試料を分散させスラリーを調製し、室温、20時間撹拌する。試料はろ過により回収し、110℃、20時間乾燥させた。
【0090】
評価前および評価後の固相試料の組成をICPによりそれぞれ組成分析した。また、試料の含水率は600℃強熱減量法により分析し、乾燥重量を求めた。評価後の液相の組成は固相試料の組成から物質収支により算出した。
【0091】
<M捕捉率>
イオンM(M=Na、K、Mg2+又はCa2+)の捕捉率(以下、「M捕捉率」ともいう。)は、系中に存在するMのうち測定試料に捕捉されたMの割合であり、下式を用いて算出した。
【0092】
M捕捉率[%]=(評価により測定試料に捕捉されたMのモル数)/(評価前の液相に含まれるMのモル数)×100
なお、捕捉率の算出値が負となる場合は、評価前の時点で試料が含有するMが液相へ溶出したとみなした。
【0093】
<Mに対するK分離係数>
イオンM(M=Na、Mg2+又はCa2+)に対するKの分離係数(以下、「Mに対するK分離係数」ともいう。)は、測定試料のMに対するKの吸着選択性の指標であり、下式を用いて算出した。
【0094】
Mに対するK分離係数 =(K吸着率/(100-K吸着率))/(M吸着率/(100-M吸着率))
M吸着率[%]=(評価後の試料に含まれるMのモル数)/(評価液と試料に含まれるMの合計のモル数)×100
実施例1
カチオンタイプがKタイプのFER型ゼオライト(製品名:HSZ(登録商標)-720KOA、東ソー社製;SiO/Al=17.5、NaO:1.7質量%、KO:5.0質量%)に対し、10倍質量の水と混合後、吸引ろ過によりケークを作成した。該ゼオライトの11倍質量の塩化ナトリウム水溶液(10質量%)を該ケークに流通させ、次いで該ゼオライトの10倍質量の温水を流通させた。塩化ナトリウム水溶液及び温水の流通をさらに2回繰り返した。次に、得られたケークを110℃、大気中で20時間乾燥することで、カリウム量を低減したFER型ゼオライト(SiO/Al=18、NaO:4.2質量%、KO:0.89質量%)を得、本実施例の生体液用カリウム吸着剤、透析液用カリウム吸着剤とした。
【0095】
実施例2
純水、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、非晶質アルミノシリケートを以下のモル組成となるように混合し、原料組成物を得た。
【0096】
SiO/Al = 11.7
Na/SiO = 0.10
K/SiO = 0.24
O/SiO = 15
OH/SiO =0.34
得られた原料組成物に、原料組成物の質量に対して2質量%の天然クリノプチロライト(製品名:イワミライト、三井金属資源開発社製)を種晶として加え、80mLオートクレーブに充填し撹拌しながら150℃で72時間加熱して結晶化させた。結晶化後、冷却、ろ過、洗浄し、110℃、大気中で20時間乾燥し、HEU型ゼオライト結晶化品(SiO/Al=9.6、NaO:0.80質量%、KO:10.9質量%)を得た。
【0097】
次いで、該ゼオライトを10倍質量の水と混合後、吸引ろ過によりケークを作成した。該ゼオライトの24倍質量の塩化ナトリウム水溶液(18質量%)を該ケークに流通させ、次いで該ゼオライトの20倍質量の温水を流通させた。塩化ナトリウム水溶液及び温水の流通はさらに1回繰り返した。次に、得られたケークを110℃、大気中で20時間乾燥することで、カリウム量を低減したHEU型ゼオライト(SiO/Al=18、NaO:4.2質量%、KO:0.89質量%)を得、本実施例の生体液用カリウム吸着剤、透析液用カリウム吸着剤とした。
【0098】
実施例3
実施例2と同様の方法によりHEU型ゼオライト結晶化品を得た。次いで、該ゼオライトを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法を実施し、カリウム量を低減したHEU型ゼオライト(SiO/Al=9.6、NaO:7.3質量%、KO:1.1質量%)を得、本実施例の生体液用カリウム吸着剤、透析液用カリウム吸着剤とした。
【0099】
実施例4
FAU型ゼオライト(製品名:HSZ(登録商標)-331HSA、東ソー社製;SiO/Al=6.3)、水酸化カリウム水溶液および水を混合して、以下のモル組成を有する原料組成物を得た。
【0100】
SiO/Al = 6.3
K/SiO = 0.77
O/SiO = 40
OH/SiO =0.77
得られた原料組成物を500mLポリプロピレン製ボトルに充填し、95℃、96時間静置下で結晶化した。結晶化後、冷却、ろ過、洗浄し、110℃、大気中で20時間乾燥し、CHA型ゼオライト結晶化品(SiO/Al=5.4、KO:18.1質量%)を得た。
【0101】
次いで、該ゼオライトを用いたこと以外は実施例1と同様の方法を実施し、カリウム量を低減したCHA型ゼオライト(SiO/Al=5.4、NaO:13.2質量%、KO:0.02質量%)を得、本実施例の生体液用カリウム吸着剤、透析液用カリウム吸着剤とした。
【0102】
実施例5
ジメチルエチルシクロヘキシルアンモニウム(以下「DMECH」ともいう。)水酸化物水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水、及び、非晶質アルミノシリケート(SiO/Al=10.6)を混合して以下のモル組成を有する原料組成物を得た。
【0103】
SiO/Al = 10.6
DMECH/SiO = 0.08
Na/SiO = 0.29
O/SiO = 18
OH/SiO = 0.37
得られた原料組成物に、種晶としてCHA型ゼオライトを2.0質量%となるように添加及び混合した後、これを80mLオートクレーブに充填し、160℃で48時間水熱処理して、CHA型ゼオライトの単一相からなる結晶化物を得た。得られた結晶化物を固液分離で回収した後、十分量の純水で洗浄し、これを大気中で乾燥した後、600℃で焼成した。得られたCHA型ゼオライト(SiO/Al=9.6、NaO:6.7質量%、KO:0.1質量%未満(検出限界))を本実施例の生体液用カリウム吸着剤、透析液用カリウム吸着剤とした。
【0104】
実施例6
水酸化ナトリウム、アルミン酸ナトリウム水溶液(NaO:19.4質量%、Al:20.1質量%)、及び、非晶質シリカ(製品名:ニップシル、東ソー・シリカ社製)を混合して以下のモル組成を有する原料組成物を得た。
【0105】
SiO/Al = 20.0
Na/SiO = 0.21
O/SiO = 20
OH/SiO = 0.21
得られた原料組成物をオートクレーブに充填し、160℃で48時間、撹拌条件で水熱処理して、結晶化物を得た。得られた結晶化物を固液分離で回収した後、十分量の純水で洗浄し、これを大気中で110℃で乾燥した。得られたMOR型ゼオライト(SiO/Al=18.7、NaO:5.0質量%、KO:0.1質量%未満(検出限界))を本実施例の生体液用カリウム吸着剤、透析液用カリウム吸着剤とした。
【0106】
実施例7
コロイダルシリカ(製品名:AS-40、GRACE社製)、ジメチルジプロピルアンモニウム(以下、「DMDPA」ともいう。)水酸化物水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液及び水を混合した。得られた混合液を80mLのオートクレーブに充填し、20rpmの回転条件下、約60℃で約3時間撹拌した後、容器を室温まで冷却した。次に、Y型ゼオライト(製品名:HSZ-350HUA、東ソー社製)を加え、以下のモル組成を有する原料組成物を得た。
【0107】
SiO/Al = 40
DMDPA/SiO = 0.17
Na/SiO = 0.15
K/SiO = 0.17
O/SiO = 7.0
OH/SiO = 0.49
得られた原料組成物を80mLオートクレーブを用いて、160℃、6日間静置下で結晶化した。結晶化後、大気中、550℃で2時間焼成し、YFI型ゼオライト(SiO/Al=18、NaO:0.03質量%、KO:4.1質量%)を得た。
【0108】
次いで、該ゼオライトを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法を実施し、カリウム量を低減したYFI型ゼオライト(SiO/Al=18、NaO:13.2質量%、KO:0.02質量%)を得、本実施例の生体液用カリウム吸着剤、透析液用カリウム吸着剤とした。
【0109】
実施例8
コロイダルシリカ(製品名:AS-40、GRACE社製)、Y型ゼオライト(製品名:HSZ(登録商標)-320NAA、東ソー社製)、テトラメチルアンモニウム(以下、「TMA」ともいう。)水酸化物水溶液、水酸化ナトリウム水溶液及び水を混合し、以下のモル組成を有する原料組成物を得た。
【0110】
SiO/Al = 15
TMA/SiO = 0.04
Na/SiO = 0.56
O/SiO = 15.0
OH/SiO = 0.60
得られた原料組成物を80mLオートクレーブを用いて、140℃、48時間、撹拌条件下で結晶化した。得られた結晶化物を固液分離で回収した後、十分量の純水で洗浄し、これを大気中で乾燥した後、600℃で焼成した。得られたMAZ型ゼオライト(SiO/Al=8.4、NaO:6.9質量%、KO:0.1質量%未満(検出限界))を本実施例の生体液用カリウム吸着剤、透析液用カリウム吸着剤とした。
【0111】
比較例1
LTA型ゼオライト(製品名:A-4、東ソー・ゼオラム社製;SiO/Al=2.2、NaO:20.9質量%、KO:0.1質量%未満(検出限界))を本比較例の吸着剤とした。
【0112】
比較例2
FAU型ゼオライト(製品名:F-9、東ソー・ゼオラム社製;SiO/Al=2.7、NaO:19.1質量%、KO:0.1質量%未満(検出限界))を本比較例の吸着剤とした。
【0113】
比較例3
FAU型ゼオライト(製品名:HSZ(登録商標)-320NAA、東ソー社製;SiO/Al=5.7、NaO:12.2質量%、KO:0.1質量%未満(検出限界))を本比較例の吸着剤とした。
【0114】
比較例4
BEA型ゼオライト(製品名:HSZ(登録商標)-920NHA、東ソー社製;SiO/Al=17.5、KO:0.1質量%未満(検出限界))を600℃、2時間で焼成しアンモニウムを除去した後、本比較例の吸着剤とした。
【0115】
比較例5
FER型ゼオライト(製品名:HSZ(登録商標)-720KOA、東ソー社製;SiO/Al=17.5、NaO:1.7質量%、KO:5.0質量%)を本比較例の吸着剤とした。
【0116】
実施例及び比較例で得られたカリウム吸着剤に対し、吸着特性評価を行った。
【0117】
評価結果を表1に示す。
【0118】
【表1】
表1より、実施例1~7のNaに対するK分離係数およびMgに対するK分離係数はいずれも10以上である。一方、SiO/Alモル比が3以下(比較例1及び2)または8員環細孔を有しない試料(比較例2~4)のNaに対するK分離係数およびMgに対するK分離係数はいずれも10以下である。
【0119】
また、SiO/Alモル比が3以下(比較例1及び2)の試料ではCaに対するKの分離係数は1以下で、Caの捕捉率は50%以上である。一方、SiO/Alモル比が5以上の試料については、いずれもCaに対するKの分離係数は2以上で、Caの捕捉率は30%以下である。
【0120】
さらに、KO含有率が3.0質量%を超える試料(比較例5)では、K捕捉率が負の値であり、Kを吸着せずに放出した事がわかる。