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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023125729
(43)【公開日】2023-09-07
(54)【発明の名称】イオン照射方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/266 20060101AFI20230831BHJP
   H01L 21/322 20060101ALI20230831BHJP
   H01L 21/265 20060101ALI20230831BHJP
【FI】
H01L21/265 M
H01L21/322 L
H01L21/265 603D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022029991
(22)【出願日】2022-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】500216466
【氏名又は名称】住重アテックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】井上 剛
(57)【要約】
【課題】半導体基板に対するマスクの位置ずれを抑制する。
【解決手段】イオン照射方法は、半導体基板とマスクプレートが重なるように位置合わせすること(S12)と、半導体基板とマスクプレートが重なる方向に第1固定力を加えて、半導体基板とマスクプレートを仮固定すること(S14)と、第1固定力を加えた状態で、半導体基板とマスクプレートが重なる方向に第1固定力よりも小さい第2固定力を固定治具を用いて加えること(S16)と、第1固定力を解除し、第2固定力を加える固定治具によって半導体基板とマスクプレートを固定すること(S18)と、固定治具によって固定されたマスクプレートを介して半導体基板に向けてイオンを照射すること(S20)と、を備える。
【選択図】図16
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板とマスクプレートが重なるように位置合わせすることと、
前記半導体基板と前記マスクプレートが重なる方向に第1固定力を加えて、前記半導体基板と前記マスクプレートを仮固定することと、
前記第1固定力を加えた状態で、前記半導体基板と前記マスクプレートが重なる方向に前記第1固定力よりも小さい第2固定力を固定治具を用いて加えることと、
前記第1固定力を解除し、前記第2固定力を加える前記固定治具によって前記半導体基板と前記マスクプレートを固定することと、
前記固定治具によって固定された前記マスクプレートを介して前記半導体基板に向けてイオンを照射することと、を備えるイオン照射方法。
【請求項2】
前記半導体基板の外周領域と前記マスクプレートの間にスペーサ部材を配置することをさらに備え、
前記第1固定力および前記第2固定力は、前記半導体基板、前記スペーサ部材および前記マスクプレートが重なる位置に加えられる、請求項1に記載のイオン照射方法。
【請求項3】
前記固定治具と前記マスクプレートの間に保護プレートを配置することをさらに備え、
前記第2固定力は、前記半導体基板、前記マスクプレートおよび前記保護プレートが重なる位置に加えられる、請求項1または2に記載のイオン照射方法。
【請求項4】
前記第1固定力は、前記半導体基板、前記マスクプレートおよび前記保護プレートが重ならない位置に加えられる、請求項3に記載のイオン照射方法。
【請求項5】
前記仮固定することは、マスクホルダによって保持される前記マスクプレートに向けて、前記半導体基板を支持するステージを昇降装置を用いて移動させ、前記ステージと前記昇降装置の間に設けられる圧縮ばねの圧縮量によって前記第1固定力の大きさを制御することを含む、請求項1から4のいずれか一項に記載のイオン照射方法。
【請求項6】
前記マスクホルダは、前記マスクプレートの外周領域を吸引する吸引力によって、前記ステージの上方に前記マスクプレートを保持する、請求項5に記載のイオン照射方法。
【請求項7】
前記固定治具は、前記マスクプレートに向けて突出可能な突出部材を備え、
前記第2固定力を加えることは、前記突出部材の突出量によって前記第2固定力の大きさを制御することを含む、請求項1から6のいずれか一項に記載のイオン照射方法。
【請求項8】
前記固定治具は、前記半導体基板を収容するウェハホルダの底部と、前記半導体基板と、前記マスクプレートとを挟み込んで固定する、請求項1から7のいずれか一項に記載のイオン照射方法。
【請求項9】
前記固定治具は、前記半導体基板を収容するウェハホルダの外周部に取り付けられるアームを備え、前記ウェハホルダと前記アームの間に前記半導体基板と前記マスクプレートとを挟み込んで固定する、請求項1から7のいずれか一項に記載のイオン照射方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン照射方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置が形成された半導体基板に水素やヘリウムなどの軽イオンを照射して半導体基板内に欠陥を形成し、半導体装置の特性を向上させる技術が知られている。半導体基板の一部領域のみに欠陥を形成するため、一部領域に開口が形成されたマスクが用いられる。例えば、半導体基板を保持するウェハホルダに対し、マスクを保持するマスクホルダを磁石で固定することにより、半導体基板に対してマスクが位置決めされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6914600号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ウェハホルダとマスクホルダの間を磁石で固定する場合、固定される直前に半導体基板の表面に沿った面内方向に磁力が働くことで、ウェハホルダに対してマスクホルダが面内方向にずれてしまうことがあった。半導体基板に対してマスクが面内方向にずれて固定されると、所望の領域に欠陥を形成することができず、イオン照射工程の歩留まりの低下につながる。
【0005】
本発明のある態様の例示的な目的のひとつは、半導体基板に対するマスクの位置ずれを抑制する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様のイオン照射方法は、半導体基板とマスクプレートが重なるように位置合わせすることと、半導体基板とマスクプレートが重なる方向に第1固定力を加えて、半導体基板とマスクプレートを仮固定することと、第1固定力を加えた状態で、半導体基板とマスクプレートが重なる方向に第1固定力よりも小さい第2固定力を固定治具を用いて加えることと、第1固定力を解除し、第2固定力を加える固定治具によって半導体基板とマスクプレートを固定することと、固定治具によって固定されたマスクプレートを介して半導体基板に向けてイオンを照射することと、を備える。
【0007】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0008】
本発明のある態様によれば、半導体基板に対するマスクの位置ずれを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】イオン照射システムの概略構成を模式的に示す図である。
図2】マスク付きウェハを支持する搬送プレートの一例を示す図である。
図3】実施の形態に係るマスク付きウェハを概略的に示す平面図である。
図4】実施の形態に係るマスク付きウェハを概略的に示す断面図である。
図5】ウェハホルダを概略的に示す平面図である。
図6】固定治具を概略的に示す斜視図である。
図7】突出部材を含む固定治具の拡大部分を概略的に示す断面図である。
図8】アライメント装置を模式的に示す外観図である。
図9】マスクホルダの下面の構成を模式的に示す平面図である。
図10】アライメント装置を用いる仮固定工程を模式的に示す図である。
図11】固定治具の取付工程を模式的に示す図である。
図12】搬送プレートを概略的に示す平面図である。
図13】搬送プレートの一部を概略的に示す側面図である。
図14】ウェハホルダのピン穴を概略的に示す平面図である。
図15】搬送プレートに取り付けたマスク付きウェハを概略的に示す平面図である。
図16】実施の形態に係るイオン照射方法の一例を示すフローチャートである。
図17】別の実施の形態に係るマスク付きウェハを概略的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、以下に述べる構成は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。また、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、以下の説明において参照する図面において、各構成部材の大きさや厚みは説明の便宜上のものであり、必ずしも実際の寸法や比率を示すものではない。
【0011】
図1は、イオン照射システム10の概略構成を模式的に示す図である。イオン照射システム10は、加速器12と、ウェハ搬送装置14と、ビーム輸送ダクト16と、を備える。イオン照射システム10は、半導体基板であるウェハ26にイオンを照射するよう構成される。
【0012】
加速器12は、イオンビームを加速して外部に出射する。加速器12として、例えば、サイクロトロン方式やバンデグラフ方式の装置を用いることができる。ウェハ搬送装置14は、複数の搬送プレート18を収容する収容部(不図示)と、収容部から搬出される一つの搬送プレート18にイオンビームが照射される照射チャンバ20と、収容部と照射チャンバ20の間で搬送プレート18を移動する移動機構22と、を備える。搬送プレート18は複数枚のウェハ26を搭載することができる。照射チャンバ20において、搬送プレート18に搭載される複数枚のウェハ26にイオンビームが順次照射される。ビーム輸送ダクト16は、加速器12から出射されたイオンビームをウェハ搬送装置14まで導く。ビーム輸送ダクト16は、イオンビームが輸送されるダクトの内部を真空に維持する真空ポンプと、イオンビームの照射方向を補正するための電磁コイルと、を備える。
【0013】
イオン照射システム10は、イオンビームに関する様々なパラメータ、例えば、イオン種、加速エネルギー、イオン照射量(ビーム電流、照射時間)、イオン照射方向を調整できるように構成される。イオン照射に用いられるイオン種は、H、He、B、C、N、O、Ne、Si、Ar、Kr、Xeからなる群より選択される少なくとも1種の原子がイオン化されたものが挙げられる。具体的には、例えば、He2+He2+などが挙げられる。イオン照射システム10は、0.001MeV以上または0.1MeV以上の加速エネルギーでイオン照射してもよい。イオン照射システム10は、100MeV以下または30MeV以下の加速エネルギーでイオン照射してもよい。
【0014】
イオンが照射されるウェハ26は典型的には、円形のシリコンウェハであるが、ウェハ26の形状および材質はこれに限定されない。ウェハ26は、例えば300mm以内の直径を有し、例えば300mmまたは250mmまたは200mmまたは150mmの直径を有してもよい。ウェハ26は、例えば0.05mmから1.50mmの厚みを有してもよい。
【0015】
ウェハ26にイオン照射が行われると、ウェハ内部のある深さにまでイオンが到達する。その際、到達した領域を含む近傍では格子欠陥が形成され、結晶の規則性(周期性)が乱れた状態となる。このような格子欠陥が多い領域では電子が散乱されやすくなり、電子の移動が阻害される。つまり、イオン照射により局所的な格子欠陥が生じた領域では、抵抗率が上昇することになる。イオン照射システム10において上述のパラメータを調整することにより、ウェハ内部の欠陥層の面内位置、深さ位置、深さ方向の幅、抵抗率の大きさを適宜設定できる。なお、イオン照射により得られる欠陥層は、高抵抗領域を形成する目的の他に、キャリアのライフタイム制御層を形成する目的など、様々な用途に用いることができる。
【0016】
図2は、マスク付きウェハ23を支持する搬送プレート18の一例を示す図である。搬送プレート18は、イオン照射のために複数のマスク付きウェハ23を立てて搬送するよう構成される。複数のマスク付きウェハ23は、横に一列に並んで搬送プレート18上のそれぞれの所定位置に保持される。
【0017】
マスク付きウェハ23は、ウェハホルダ24、マスクプレート25およびウェハ26により形成される。ウェハホルダ24は、マスクプレート25およびウェハ26を支持する。マスクプレート25は、ウェハ26と重なるように配置される。ウェハ26は、ウェハホルダ24とマスクプレート25の間に配置される。マスクプレート25およびウェハ26は、後述する固定治具(図2には不図示)によってウェハホルダ24に固定される。ウェハホルダ24は、固定治具によって固定されるマスクプレート25とウェハ26を支持してマスク付きウェハ23を形成する。一つの搬送プレート18には、複数のマスク付きウェハ23を搭載できる。
【0018】
マスクプレート25は、ウェハ26を覆うことのできる大きさを有する円盤形状の部材である。マスクプレート25は、アルミニウム(Al)、ステンレス鋼(SUS)、ニッケル(Ni)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)およびこれらの合金を含む金属や、シリコン(Si)、その他樹脂などで構成される。ただし、マスクプレート25の形状および材質はこれに限定されない。例えば、ウェハ26が矩形その他の平面形状をもつ場合には、マスクプレート25もこれに合わせた平面形状を有してもよい。
【0019】
マスクプレート25は、照射されるイオンをウェハ26に向けて通過させる開口パターンと、ウェハ26との位置合わせに用いられるアライメント開口とを有する。ウェハ26の前面(イオンが照射される照射面)にはアライメントマークが設けられる。マスクプレート25とウェハ26の位置合わせは、ウェハ26のアライメントマークと、マスクプレート25のアライメント開口の位置を合わせるように行われる。位置合わせされたマスクプレート25とウェハ26は、位置合わせされた状態を維持したままウェハホルダ24に固定される。
【0020】
移動機構22は、搬送プレート18を少なくとも水平方向に移動させるよう構成される。移動機構22は、搬送プレート18に搭載される全てのウェハ26に順次イオンビームが照射されるように、搬送プレート18を移動させることができる。イオン照射処理が終了すると、移動機構22は、搬送用軸32の軸端部32aを搬送プレート18の端部に設けられる被係合部30に係合させ、搬送プレート18を収容部に戻す。そして、移動機構22は、次の搬送プレート18を照射チャンバ20へ搬入する。
【0021】
ウェハホルダ24は水平面に対して垂直に立つように搬送プレート18に支持される。ウェハホルダ24に固定されたマスクプレート25およびウェハ26もまた、水平面に対し垂直に立てた状態で搬送プレート18に支持される。イオンビームは、水平面に沿ってマスクプレート25に入射し、マスクプレート25を介してウェハ26に照射される。なお必要とされる場合には、搬送プレート18は、ウェハホルダ24、マスクプレート25およびウェハ26を、水平面に対し斜めに立てて搬送するよう構成されてもよい。
【0022】
図3は、実施の形態に係るマスク付きウェハ23を概略的に示す平面図である。マスク付きウェハ23は、ウェハホルダ24と、マスクプレート25と、ウェハ26と、複数の固定治具28とを備える。図示する例では、二つの固定治具28が設けられ、二つの固定治具28がウェハホルダ24の中心Cを挟んで両側に取り付けられる。一方の固定治具28は、ウェハホルダ24を立てたときの上辺24aにあり、他方の固定治具28は下辺24bにある。二つの固定治具28は、マスクプレート25およびウェハ26の直径の両端に位置する。
【0023】
固定治具28は、ウェハホルダ24、マスクプレート25およびウェハ26を挟み込むことによって、マスクプレート25およびウェハ26をウェハホルダ24に固定する。固定治具28は、マスクプレート25に向けて突出可能な突出部材35を有し、突出部材35がマスクプレート25に突き当たることによって、固定治具28の間にウェハホルダ24、マスクプレート25およびウェハ26が挟み込まれる。固定治具28による固定力の大きさは、例えば、突出部材35の突出量によって制御される。
【0024】
ウェハホルダ24は、マスクプレート25の外側に拡張部分36を備える。拡張部分36はウェハホルダ24の左右に広がっており、固定治具28の配置場所を境界として左側領域36aと右側領域36bに分かれる。左側領域36aにおいて上辺24aの近くには開口部38が設けられる。左側領域36aは、開口部38より径方向に外側(ウェハホルダ24の左上部)に延びる細長部分40を有する。細長部分40は、作業者がウェハホルダ24を持つときの持ち手として利用可能である。
【0025】
ウェハホルダ24には、複数のピン穴42が設けられる。二つのピン穴42のうち一方が右側領域36bにおいて上辺24aの近傍に形成され、他方のピン穴42が左側領域36aにおいて下辺24bの近傍に形成される。二つのピン穴は42はウェハホルダ24の中心Cから等距離に位置する。このようにして、ピン穴42は、ウェハホルダ24の拡張部分36において対角状に配置される。
【0026】
図4は、実施の形態に係るマスク付きウェハを概略的に示す断面図である。図4は、図3のA-A断面に相当する。図5は、ウェハホルダ24の概略平面図である。図5は、マスクプレート25、ウェハ26および固定治具28を外した状態のウェハホルダ24を示す。
【0027】
ウェハホルダ24は、図4に示されるように、底部24cおよび外枠部24dを有する。ウェハホルダ24の外周部は、図5に示されるように、外枠部24dおよび拡張部分36により形成される。ウェハホルダ24は、底部24c、外枠部24dおよび拡張部分36が一体的に形成されたプレート状の部材である。拡張部分36は、固定治具28によってマスクプレート25がウェハホルダ24に固定されたとき平面視でマスクプレート25の外側にある部分であり、マスクプレート25と重ならない部分である。外枠部24dは、マスクプレート25または固定治具28と重なる部分であり、図4において外部から見えない部分である。図5に示されるように、拡張部分36の左側領域36aおよび右側領域36bは、外枠部24dによって接続される。
【0028】
マスクプレート25は、マスク前面25aと、マスク背面25bと、マスク側面25cとを有する。マスク前面25aは、イオンビームが入射する面であり、ウェハホルダ24とは反対側に位置する。マスク背面25bは、マスク前面25aに背向する面であり、ウェハ26と対向する。マスク側面25cは、マスク前面25aとマスク背面25bの間を接続し、マスクプレート25の外形を定める。
【0029】
ウェハ26は、ウェハ前面26aと、ウェハ背面26bと、ウェハ側面26cとを有する。ウェハ前面26aは、イオンビームが入射する面であり、マスク背面25bと対向する。ウェハ前面26aには、トランジスタやダイオードなどの半導体素子を含む半導体装置(例えば、集積回路)が形成される。ウェハ背面26bは、ウェハ前面26aに背向する面であり、ウェハホルダ24の底部24cと対向する。ウェハ側面26cは、ウェハ前面26aとウェハ背面26bの間を接続し、ウェハ26の外形を定める。
【0030】
ウェハホルダ24には、ウェハ26を収容可能なウェハホルダ凹部46が底部24cおよび外枠部24dにより形成される。ウェハホルダ凹部46は、ウェハ26の外径に対応する大きさの開口を有し、ウェハ側面26cは、外枠部24dに接するか、または、外枠部24dからわずかな隙間を空けて囲まれる。ウェハホルダ凹部46の深さは、例えば1mm~5mm程度である。
【0031】
ウェハホルダ凹部46には、ウェハホルダ24の底部24cおよび外枠部24dに隣接して一体的に形成されたウェハホルダ凸部48が設けられる。ウェハホルダ凸部48は、ウェハ26の外径に対応したリング状に形成される。ウェハホルダ凸部48は、ウェハ背面26bの外周領域に接触する。ウェハホルダ凸部48は、ウェハ背面26bとウェハホルダ24の底部24cの間を離間させ、ウェハ背面26bとウェハホルダ24の底部24cが接触しないようにする。ウェハホルダ凸部48の高さは、例えば0.5mm~2mm程度である。
【0032】
マスク付きウェハ23は、ウェハ26の外周領域とマスクプレート25の間に配置されるスペーサ部材44をさらに備える。スペーサ部材44は、ウェハ26の外径に対応したリング状の部材である。スペーサ部材44の内径は、ウェハ26の外径よりも小さい。スペーサ部材44の外径は、ウェハ26の外径と同じか、ウェハ26の外径よりも大きい。スペーサ部材44の径方向の幅は、例えば2mm~6mm程度である。この場合、スペーサ部材44の内径は、ウェハ26の外径よりも2mm~6mm程度小さく、スペーサ部材44の外径は、ウェハ26の外径よりも2mm~6mm程度大きい。
【0033】
スペーサ部材44は、ウェハ前面26aの外周領域に接触し、マスク背面25bの外周領域に接触する。スペーサ部材44は、マスク背面25bとウェハ前面26aの間を離間させ、マスク背面25bとウェハ前面26aが接触しないようにする。マスク背面25bと接するスペーサ部材44の上面は、ウェハホルダ24の外枠部24dよりもわずかに高い。スペーサ部材44は、例えば0.5mm~2mm程度の厚さを有する。
【0034】
ここで、ウェハ26の外周領域とは、ウェハ側面26cから1mm~3mm程度の領域であり、半導体装置が形成されない領域である。そのため、スペーサ部材44またはウェハホルダ凸部48がウェハ外周領域においてウェハ26に接触したとしても、ウェハ26に形成される半導体装置への影響は少ない。また、スペーサ部材44およびウェハホルダ凸部48を設けることで、半導体装置が形成されるウェハ内側領域にウェハホルダ24およびマスクプレート25が接触し、ウェハ内側領域が損傷することを防止できる。
【0035】
固定治具28は、マスクプレート25およびウェハホルダ24の外周部を挟み込むように取り付けられる。固定治具28により、マスクプレート25およびウェハ26が面内方向に互いに変位しないようにウェハホルダ24に固定され、マスク付きウェハ23が形成される。固定治具28は、コの字形または横向きのU字形状を有する。固定治具28は、突出部材35と、ウェハホルダ側アーム50と、マスク側アーム52と、アーム接続部54とを備える。図6は、固定治具28を概略的に示す斜視図である。
【0036】
ウェハホルダ側アーム50は、ウェハホルダ24の底部24cと接触する部分であり、ウェハ26の面内方向に延びる。マスク側アーム52は、マスクプレート25のマスク前面25aから離れてウェハ26の面内方向に延びる部分である。マスク側アーム52にはマスクプレート25に向けて突出する突出部材35が設けられる。アーム接続部54は、ウェハホルダ側アーム50とマスク側アーム52の間を接続する部分であり、ウェハホルダ24、マスクプレート25およびウェハ26の厚み方向に延びる。
【0037】
マスク付きウェハ23は、保護プレート34をさらに備える。保護プレート34は、突出部材35とマスクプレート25の間に設けられ、マスク前面25aの外周領域に接触し、突出部材35の先端部材35bと接触する。保護プレート34は、突出部材35の先端部材35bがマスク前面25aに接触しないようにする。保護プレート34は、突出部材35の先端部材35bがマスク前面25aに突き当たることによってマスク前面25aに傷や凹みが生じることを防止する。保護プレート34は、例えば0.2mm~1mm程度の厚さを有する。
【0038】
突出部材35は、マスク側アーム52から保護プレート34に向けて突出可能である。突出部材35は、ウェハ26とマスクプレート25が重なる方向(つまり、厚み方向)に延びる軸線に沿って突出可能である。突出部材35は、ウェハ26の外周領域と重なる位置に設けられる。突出部材35の突出方向に延びる軸線上において、ウェハホルダ凸部48、ウェハ外周領域、スペーサ部材44、マスク外周領域、保護プレート34および突出部材35が一列に並ぶ。これにより、固定治具28は、ウェハホルダ24、ウェハ26、スペーサ部材44、マスクプレート25および保護プレート34をしっかりと挟み込んで固定することができる。
【0039】
図7は、突出部材35を含む固定治具28の拡大部分を概略的に示す断面図である。マスク側アーム52は、ねじ穴52aを有する。突出部材35は、ねじ穴52aと螺合するねじである本体部材35aと、保護プレート34に突き当たる先端部材35bとを備える。矢印62のように突出部材35をマスク側アーム52に対し回転させるとき、突出部材35はねじ穴52aとの螺合により保護プレート34に向けて突き出し、逆向きに回転させるとき、突出部材35は保護プレート34から離れる。
【0040】
本体部材35aの下端には、先端部材35bが収容される凹部が形成される。先端部材35bは、平坦な上面と、平坦な下面と、上面と下面の間を接続する凸曲面(例えば球面)となる側面とを有する。先端部材35bは、いわゆる反転防止機構つきの平面ボールであり、本体部材35aの凹部に対し揺れ動くことが可能である。本体部材35aがマスク側アーム52から突き出すとき、先端部材35bの平坦な下面が保護プレート34に突き当たる。先端部材35bが保護プレート34に接触して保護プレート34を押圧することにより、先端部材35bはウェハ26保護プレート34との摩擦力によって静止される。
【0041】
先端部材35bが本体部材35aに対し独立して揺動可能であるので、ねじ回転によるマスクプレート25とウェハ26の位置ずれを防止または軽減することができる。また、先端部材35bは保護プレート34と面接触するので、点接触の場合に比べて、突出部材35から保護プレート34に加わる単位面積あたりの固定力が小さくなる。また、先端部材35bとマスク前面25aの間に保護プレート34が挿入されるため、保護プレート34がない場合に比べて、突出部材35からマスク前面25aに加わる単位面積あたりの固定力が小さくなる。これにより、突出部材35をマスクプレート25に向けて突き当てることによって起こりうるマスクプレート25の損傷を防止または軽減できる。
【0042】
ウェハホルダ24は、図5に示される切り欠き部56を備える。切り欠き部56は、固定治具28がウェハホルダ24に取り付けされるときに、固定治具28がウェハホルダ24に接触する一方で、マスク側面25cに接触しないようする。切り欠き部56は、マスクプレート25がウェハホルダ24に固定されるときのマスク側面25cの設計上の位置よりも径方向に外側に位置する固定治具当接面58を有する。固定治具当接面58は、アーム接続部54の内側の面と接触して、固定治具28をウェハホルダ24の径方向に位置決めする。図4に示されるように、固定治具28がマスク側面25cと接触しないため、アーム接続部54とマスク側面25cの間には隙間59aができる。そのため、固定治具28が装着されるとき、固定治具28がマスクプレート25を面内方向に押してしまうことによるマスクプレート25の位置ずれが生じない。
【0043】
固定治具28は、突出部材35を除いて、マスク前面25aおよび保護プレート34と接触しない。つまり、マスク側アーム52の下面と保護プレート34の間にも隙間59bが形成される。固定治具28の装着時に固定治具28のウェハホルダ側アーム50をウェハホルダ24に当てながら固定治具28を切り欠き部56へと差し込むことによって、固定治具28をマスクプレート25および保護プレート34と接触させずに取り付けることができる。このような取付作業を容易にするために、ウェハホルダ側アーム50の長さは、マスク側アーム52の長さよりも大きくなっている。アーム接続部54からウェハホルダ側アーム50が延びる長さは、アーム接続部54からマスク側アーム52が延びる長さより大きい。まず、ウェハホルダ側アーム50の延長部分をウェハホルダ24の底部24c側から切り欠き部56に突き当てて、それから固定治具28を径方向に内側に向けて差し込むことができる。
【0044】
切り欠き部56は、図5に示される一対の固定治具案内面60をさらに有する。固定治具案内面60は、固定治具当接面58の両側において径方向に外側に延びる。固定治具案内面60は、固定治具当接面58を上辺24a(または下辺24b)に接続する。固定治具案内面60は、固定治具28が切り欠き部56に挿入されるとき、アーム接続部54の両側に沿ってアーム接続部54をウェハホルダ24の径方向に案内する。このようにして固定治具28の装着場所が予め設定されるので、装着作業が容易である。
【0045】
ウェハホルダ24の拡張部分36は、固定治具当接面58よりも径方向に外側に広がっる。ウェハホルダ24はその全周にわたってマスクプレート25よりも径が大きい。ウェハホルダ24は、上述のピン穴42や持ち手となる細長部分40を設ける余剰の領域をマスクプレート25の外側にもつ。作業者はこうした余剰領域を持って、ウェハホルダ24を搬送プレート18にセットしたり、搬送プレート18から取り外したりする作業をすることができる。作業中にマスクプレート25に手を触れる必要がないので、誤ってマスクプレート25に触れて位置ずれを引き起こす可能性が小さくなる。
【0046】
つづいて、ウェハホルダ24にマスクプレート25およびウェハ26を固定するためのアライメント装置について説明する。図8は、アライメント装置80を模式的に示す外観図である。アライメント装置80は、ウェハホルダ24を支持するステージ82と、マスクプレート25を保持するマスクホルダ83と、マスクホルダ83を支持する支柱84と、マスクプレート25のアライメント開口を通してウェハ26のアライメントマークを検知するためのカメラ85と、を備える。
【0047】
ステージ82は、ステージ上面に沿ったX方向およびY方向、ステージ上面に垂直なZ軸まわりのθ方向に移動可能となるよう構成される。ステージ82は、ステージ上面に載置されるウェハホルダ24によって支持されるウェハ26をXYθ方向に移動させ、マスクホルダ83に保持されるマスクプレート25に対するウェハ26の面内方向の位置合わせをする。ステージ82は、昇降装置86によってZ方向に移動可能となるよう構成される。ステージ82と昇降装置86の間には圧縮ばね87が設けられる。圧縮ばね87は、ステージ82をマスクプレート25に向けて上昇させ、ウェハ26に載置されるスペーサ部材44をマスクプレート25に押しつけるときに生じる衝撃を吸収する。
【0048】
マスクホルダ83は、ステージ82の上方に配置される。マスクホルダ83は、左右に分割された構造を有し、左側マスクホルダ83aと、右側マスクホルダ83bとを有する。マスクプレート25は、左側マスクホルダ83aおよび右側マスクホルダ83bのそれぞれの下面に設けられる吸引パッド88による吸引力によって保持される。吸引パッド88は、図示しない真空ポンプに接続される。
【0049】
図9は、マスクホルダ83の下面の構成を模式的に示す平面図である。マスクホルダ83には、マスクプレート25の外周領域を保持するための保持凹部89が形成される。保持凹部89は、マスクプレート25の外径に対応して円弧状に延びる。保持凹部89は、左側マスクホルダ83aに形成される左側保持凹部89aと、右側マスクホルダ83bに形成される右側保持凹部89bとにより形成される。左側保持凹部89aと右側保持凹部89bの間には、固定治具28を挿入するための隙間83cが設けられる。吸引パッド88は、保持凹部89に設けられている。
【0050】
つづいて、アライメント装置80を用いたマスク固定方法について説明する。まず、図8に示されるように、アライメント装置80の上にウェハホルダ24が配置され、ウェハホルダ24の上にウェハ26が配置され、ウェハ26の上にスペーサ部材44が配置される。また、マスクホルダ83にマスクプレート25が配置され、吸引パッド88による吸引力によってステージ82の上方に吊り下げられた状態で保持される。マスク前面25aの一部箇所には保護プレート34が貼り付けされている。保護プレート34の貼り付け位置は、固定治具28の取付位置に対応する。
【0051】
次に、昇降装置86を用いてステージ82を上昇させ、マスク背面25bとウェハ前面26aの距離dが所定の距離となるように近接させる。これにより、ウェハ前面26aに設けられるアライメントマークがカメラ85の焦点深度内となり、マスクプレート25に対するウェハ26の位置合わせが可能となる。このとき、マスク背面25bとスペーサ部材44の間には隙間があり、両者は接触していない。位置合わせをするときのマスク背面25bとウェハ前面26aの距離dは、1mm~3mm程度であり、スペーサ部材44の厚さよりもわずかに大きい。この状態で、ステージ82をXYθ方向に移動させることにより、マスクプレート25とウェハ26が位置合わせされる。
【0052】
図10は、アライメント装置80を用いる仮固定工程を模式的に示す図である。マスクプレート25とウェハ26の位置合わせが完了した後、ステージ82を昇降装置86を用いて矢印90で示されるように上昇させ、マスク背面25bの外周領域とスペーサ部材44を接触させる。マスクプレート25とスペーサ部材44が接触した状態から昇降装置86の駆動軸をさらに上昇させることにより、ステージ82と昇降装置86の間に設けられる圧縮ばね87を圧縮させる。これにより、ステージ82とマスクホルダ83の間には圧縮ばね87の圧縮量δに応じた第1固定力が加わる。第1固定力の大きさは、例えば60N~100N程度である。第1固定力は、ウェハホルダ24、ウェハ26、スペーサ部材44およびマスクプレート25が重なるウェハ外周領域に加わる。第1固定力によってこれらの部材の界面において摩擦力が生じ、ウェハ26とマスクプレート25が位置合わせされたまま仮固定される。
【0053】
図11は、固定治具28の取付工程を模式的に示す図である。固定治具28は、第1固定力によってウェハ26とマスクプレート25が位置決めされた状態において取り付けられる。上述したように、固定治具28は、ウェハホルダ側アーム50をウェハホルダ24の下面に接触させた状態で、ウェハホルダ24の切り欠き部56(図5参照)に挿入される。その後、マスク側アーム52に設けられる突出部材35を保護プレート34に向けて突出させることにより、突出部材35の先端が保護プレート34に突き当たり、固定治具28がウェハホルダ24に取り付けされる。
【0054】
固定治具28は、ウェハホルダ24と突出部材35の間に第2固定力が加わるように取り付けされる。突出部材35の本体部材35aがねじである場合、例えば空転式トルクドライバーを用いて本体部材35aを回転させることにより、本体部材35aの締め付けトルクを所定値に制御することができ、締め付けトルクに応じた第2固定力を加えることができる。第2固定力の大きさは、第1固定力の大きさよりも小さい。第2固定力の大きさは、例えば、30N~50N程度である。第2固定力の大きさは、例えば第1固定力の50%~80%程度である。第2固定力を第1固定力よりも小さくすることにより、固定治具28を取り付けするときにウェハ26とマスクプレート25の位置ずれが生じることを防止できる。例えば、第2固定力を第1固定力よりも大きくすると、突出部材35が回転する方向に過度な力が加わって第1固定力による仮固定が維持できなくなり、ウェハ26とマスクプレート25の位置がずれる可能性がある。
【0055】
固定治具28を取り付けた後、昇降装置86を用いてステージ82を下降させることにより、圧縮ばね87による第1固定力を解除する。第1固定力が解除されると、ウェハホルダ24、ウェハ26、スペーサ部材44、マスクプレート25および保護プレート34は、第2固定力を加える固定治具28によって固定される。第1固定力が解除されるとき、ウェハ26とマスクプレート25には固定治具28によって厚み方向に第2固定力が加わっているが、ウェハ26とマスクプレート25の位置ずれに寄与しうる面内方向には力が加わっていない。そのため、ウェハ26とマスクプレート25が位置合わせされたまま固定治具28による固定を完了し、マスク付きウェハ23を形成できる。その後、マスク付きウェハ23は、搬送プレート18に取り付けされる。
【0056】
図12は、搬送プレート18を概略的に示す平面図である。搬送プレート18は、ウェハホルダ載置面64と、複数のピン66と、複数のピン台座68と、複数の開口部70とを備える。図12の例では、搬送プレート18は、三つのマスク付きウェハ23を支持するよう構成される。
【0057】
ウェハホルダ載置面64は、ウェハホルダ24の底部24cと接触してウェハホルダ24を定位置に支持するための平面である。複数のピン66は、ウェハホルダ24のピン穴と係合してウェハホルダ24を定位置に位置決めして支持する。複数のピン66は、ウェハホルダ24のピン穴42と対応する数および配置で設けられる。一つのウェハホルダ24に設けられる二つのピン穴42と対応して、二つのピン66が対角状に配置される。ピン台座68は、ウェハホルダ載置面64上に設けられ、ピン66の根本を固定する。開口部70は、ウェハホルダ24がウェハホルダ載置面64に接触するとき固定治具28を受け入れるために搬送プレート18に形成される。
【0058】
図13は、搬送プレート18の一部を概略的に示す側面図であり、ピン66およびピン台座68の構造を示す。ピン66は、ピン台座68から延びる逆円錐形状を有する。ピン66は、ウェハホルダ載置面64に対して垂直に設けられる。
【0059】
図14は、ウェハホルダ24のピン穴42を概略的に示す平面図である。ピン穴42は、いわゆるダルマ穴の形状を有する。ピン穴42は、第1円弧状輪郭42aと、第2円弧状輪郭42bとを有する。第1円弧状輪郭42aの両端は、第2円弧状輪郭42bの両端につながっている。第1円弧状輪郭42aは、第1中心74および第1半径75を有し、第2円弧状輪郭42bは、第2中心76および第2半径77を有する。第2中心76は、第1中心74から下方に偏心しており、第2円弧状輪郭42bは、第1円弧状輪郭42aから下方に外れる。ピン穴42は、第1中心74と第2中心76を結ぶ直線78に線対称である。第2半径77は第1半径75より大きい。第1半径75は、ピン66の先端の半径より小さく、ピン66の根本の半径より大きい。第2半径77は、ピン66の先端の半径より大きい。
【0060】
図15は、搬送プレート18に取り付けたマスク付きウェハ23を概略的に示す平面図である。マスク付きウェハ23を搬送プレート18に取り付けるとき、ピン穴42の第2円弧状輪郭42bにピン66を挿入できる。その後、ウェハホルダ24の自重によりピン66が第1円弧状輪郭42aに嵌る。ピン66は、先端が最も太くピン台座68に向かって徐々に細くなっている。そのため、ウェハホルダ24のピン穴42をピン66に掛けたとき、ウェハホルダ24は自重によってピン66の逆テーパ面(すなわち逆円錐面)に従って下方に動くとともに搬送プレート18に近づき、最終的にはウェハホルダ載置面64に当たる。このため、ウェハホルダ24を搬送プレート18に迅速に取り付けでき、マスク付きウェハ23を定位置に確実に位置決めできる。また、ウェハホルダ24は対角状に配置された2本のピン66で支持されるので、搬送プレート18による搬送中も位置が安定する。このようなピン66およびピン穴42の形状により、マスク付きウェハ23の搬送中の脱落を防止し、振動を抑制できる。また、イオン照射後のマスク付きウェハ23を搬送プレート18から回収するときには、ウェハホルダ24を少し上に持ち上げるだけで容易に取り外すことができる。
【0061】
イオン照射後のマスク付きウェハ23は、アライメント装置80を用いてウェハ26とマスクプレート25の固定を解除してもよい。最初に、ウェハ26とマスクプレート25の位置合わせ(アライメント)がずれていないかをアライメント装置80のカメラ85を用いて確認してもよい。イオン照射後にアライメントを再確認することで、適切な位置にイオン照射を実施できたか否かを確認することができ、後工程における歩留まりを高めることができる。
【0062】
アライメントを確認した後、マスク付きウェハ23から固定治具28を取り外すことによってウェハ26とマスクプレート25の固定を解除できる。このとき、第1固定力を加えた状態で固定治具28を取り外してもよい。例えば、マスク付きウェハ23をステージ82の上に載せ、ステージ82を上昇させることによってマスクプレート25をマスクホルダ83の保持凹部89に収容する。マスクプレート25がマスクホルダ83に接触した後、ステージ82をさらに上昇させることにより、ステージ82とマスクホルダ83の間に第1固定力を加える。第1固定力を加えた状態で、突出部材35のねじを逆回転させて保護プレート34から突出部材35を離間させ、固定治具28を取り外す。固定治具28を取り外した後にステージ82を下降させ、第1固定力を解除する。このとき、マスクプレート25は、マスクホルダ83の吸引パッド88による吸着力によって保持されてもよいし、ウェハホルダ24の上に載置されたままであってもよい。その後、ウェハホルダ24からスペーサ部材44およびウェハホルダ24が取り外される。なお、第1固定力を加えていない状態で固定治具28を取り外してもよい。
【0063】
図16は、実施の形態に係るイオン照射方法の一例を示すフローチャートである。まず、半導体基板とマスクプレートを近接させて位置合わせする(S10)。次に、半導体基板とマスクプレートが重なる方向に第1固定力を加えて、半導体基板とマスクプレートを仮固定する(S12)。第1固定力を加えた状態で、半導体基板とマスクプレートが重なる方向に第1固定力よりも小さい第2固定力を固定治具を用いて加える(S14)。固定治具を取り付けた後に第1固定力を解除し、第2固定力を加える固定治具によって半導体基板とマスクプレートを固定する(S16)。固定治具によって固定された半導体基板とマスクプレートを搬送プレートにセットして照射チャンバに搬送し、マスクプレートを介して半導体基板に向けてイオンを照射する(S18)。イオン照射後、搬送プレートから固定治具によって固定された半導体基板とマスクプレートを回収し、半導体基板とマスクプレートの位置合わせがずれていないか確認する(S20)。その後、固定治具による半導体基板とマスクプレートの固定を解除する(S22)。
【0064】
図17は、別の実施の形態に係るマスク付きウェハ93を概略的に示す断面図である。マスク付きウェハ93は、マスクプレート25と、ウェハ26と、保護プレート34と、スペーサ部材44と、ウェハホルダ94とを備える。ウェハホルダ94は、マスクプレート25とウェハ26を固定する固定治具96を備える。ウェハホルダ94は、上述のウェハホルダ24と同様に構成されるが、固定治具96を備える点で上述の実施の形態と相違する。
【0065】
ウェハホルダ94は、底部94cと、外枠部94dと、固定治具支持部94eとを有する。底部94cおよび外枠部94dは、上述の底部24cおよび外枠部24dと同様に構成される。底部94cおよび外枠部94dは、ウェハ26を収容するウェハホルダ凹部46を形成する。ウェハホルダ凹部46には、底部94cおよび外枠部94dに隣接して一体的に形成されたウェハホルダ凸部48が設けられる。
【0066】
固定治具支持部94eは、外枠部94dの径方向外側に設けられる。固定治具支持部94eは、ウェハホルダ94の外周部に設けられ、例えば、図5に示される切り欠き部56の位置に設けられる。固定治具支持部94eには、固定治具96が取り付けられている。
【0067】
固定治具96は、いわゆるトグルクランプであり、突出部材95が設けられるアーム96aと、アーム96aを移動させるためのレバー96bとを有する。アーム96aは、ウェハホルダ94の外周部に取り付けられ、ウェハホルダ94の外周部から延在する。アーム96aは、ウェハホルダ94の外周部に設けられる軸96cを中心に回動可能である。
【0068】
突出部材95は、本体部材95aと、先端部材95bとを有する。先端部材95bは、上述の先端部材35bと同様に構成される。先端部材95bは、本体部材95aに対して揺れ動くことが可能となるように本体部材95aに支持される。本体部材95aの下端には、先端部材95bが収容される凹部が形成される。先端部材95bは、平坦な上面と、平坦な下面と、上面と下面の間を接続する凸曲面(例えば球面)となる側面とを有する。
【0069】
突出部材95は、レバー96bを介してアーム96aを動かすことにより、保護プレート34に向けて突出可能である。アーム96aの先端をマスクプレート25に向けて移動させることにより、突出部材95は、保護プレート34に接触して保護プレート34を押圧する。突出部材95は、先端部材95bが保護プレート34に突き当たることにより、ウェハホルダ94と先端部材35bの間に第2固定力を加える。アーム96aの先端がマスクプレート25から上方に離れるように移動させると、突出部材95による第2固定力が解除される。
【0070】
本実施の形態に係るウェハホルダ94を用いて、上述の実施の形態と同様の工程によりマスクプレート25とウェハ26を固定できる。まず、ステージ82にウェハホルダ94を配置し、アーム96aが上方に上がった状態において、ウェハホルダ94にウェハ26およびスペーサ部材44を配置する。その後、マスクホルダ83に保持されるマスクプレート25とウェハ26を位置合わせし、ステージ82を上昇させることによってマスクプレート25とウェハ26に第1固定力を加えて仮固定する。第1固定力を加えた状態で、レバー96bを介してアーム96aを下方に移動させることにより、突出部材95によってマスクプレート25とウェハ26に第2固定力を加えることができる。その後、ステージ82を下降させて第1固定力を解除することにより、第2固定力を加える固定治具96によってマスクプレート25とウェハ26を固定できる。
【0071】
さらに別の実施の形態では、マスクプレート25とウェハ26に第2固定力を加える固定治具として、磁石を用いてもよい。例えば、ウェハホルダ凸部48を磁性材料で形成し、突出部材の少なくとも先端を磁石とすることにより、突出部材とウェハホルダ凸部48の間に磁力による第2固定力を生じさせることができる。
【0072】
以上、本発明を実施例にもとづいて説明した。本発明は上記実施形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。
【符号の説明】
【0073】
10…イオン照射システム、18…搬送プレート、23…マスク付きウェハ、24…ウェハホルダ、25…マスクプレート、26…ウェハ、28…固定治具、34…保護プレート、35…突出部材、44…スペーサ部材、80…アライメント装置、82…ステージ、83…マスクホルダ、86…昇降装置、87…圧縮ばね。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17