(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023125891
(43)【公開日】2023-09-07
(54)【発明の名称】ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンエーテルを含む硬化性組成物、ドライフィルム、硬化物および電子部品
(51)【国際特許分類】
C08G 65/44 20060101AFI20230831BHJP
【FI】
C08G65/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022030242
(22)【出願日】2022-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】591021305
【氏名又は名称】太陽ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 温
(74)【代理人】
【識別番号】100132137
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 謙一郎
(72)【発明者】
【氏名】柴崎 香帆
(72)【発明者】
【氏名】大城 康太
(72)【発明者】
【氏名】石川 信広
【テーマコード(参考)】
4J005
【Fターム(参考)】
4J005AA00
4J005AA09
4J005AB00
4J005BA00
4J005BB03
(57)【要約】
【課題】 分子量の制御が容易であり大量生産するのに好適な、分岐構造を有するポリフェニレンエーテルを提供する。
【解決手段】 本発明のある態様は、少なくとも下記条件1を満たすフェノール類と、少なくとも下記条件2を満たすフェノール類と、を含む原料フェノール類から得られ、
前記条件2を満たすフェノール類の含有率が、原料フェノール類全量に対して0.1~20mol%である、ポリフェニレンエーテルである。
(条件1)
オルト位およびパラ位に水素原子を有する
(条件2)
オルト位およびパラ位に、炭素数1~4の炭化水素基を有する
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも下記条件1を満たすフェノール類と、少なくとも下記条件2を満たすフェノール類と、を含む原料フェノール類から得られ、
前記条件2を満たすフェノール類の含有率が、原料フェノール類全量に対して0.1~20mol%である、ポリフェニレンエーテル。
(条件1)
オルト位およびパラ位に水素原子を有する
(条件2)
オルト位およびパラ位に、炭素数1~4の炭化水素基を有する
【請求項2】
請求項1に記載のポリフェニレンエーテルを含む硬化性組成物。
【請求項3】
請求項2に記載の硬化性組成物からなる樹脂層を有するドライフィルム。
【請求項4】
請求項2に記載の硬化性組成物又は請求項3記載の樹脂層の、硬化物。
【請求項5】
請求項4に記載の硬化物を有する電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンエーテルを含む硬化性組成物、ドライフィルム、硬化物および電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
第5世代通信システム(5G)に代表される大容量高速通信や自動車のADAS(先進運転支援システム)向けミリ波レーダー等などの普及により、通信機器の信号の高周波化が進んできた。
【0003】
しかし、配線板材料としてエポキシ樹脂などを使用した場合、比誘電率(Dk)や誘電正接(Df)が十分に低くないために、周波数が高くなるほど誘電損失に由来する伝送損失の増大が起こり、信号の減衰や発熱などの問題が生じていた。そのため、低誘電特性にすぐれたポリフェニレンエーテルが使用されてきた。
【0004】
また、非特許文献1には、ポリフェニレンエーテルの分子内にアリル基を導入させて、熱硬化性樹脂とすることで、耐熱性を向上させたポリフェニレンエーテルが提案されている。
【0005】
しかしながら、ポリフェニレンエーテルは可溶な溶媒が限られており、非特許文献1の手法で得られたポリフェニレンエーテルも、クロロホルムやトルエン等の非常に毒性が高い溶媒にしか溶解しない。そのため、樹脂ワニスの取り扱いや、配線板用途のような塗膜化して硬化させる工程における溶媒曝露の管理が難しいという問題があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J. Nunoshige, H. Akahoshi, Y. Shibasaki, M. Ueda, J. Polym. Sci. Part A: Polym. Chem. 2008, 46, 5278-3223.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような状況下、本発明者らは、特定のフェノールを原料として合成された分岐構造を有するポリフェニレンエーテルが、高い溶媒溶解性を有することを見出した(特開2020-055999号公報)。
【0008】
しかしながら、上記文献に開示された分岐構造を有するポリフェニレンエーテルは、直鎖構造を有するポリフェニレンエーテルに比べ、重合反応性を有するポリマー末端を多く備えることから、成長したポリマー同士が更に重合(いわゆるカップリング)し、分子量が急激に増加するという問題があった。従って、得られるポリフェニレンエーテルの分子量を所望の範囲に制御するためには、原料の選定や製造条件の細かい調整等が求められ、大量生産には不向きな場合があった。
【0009】
そこで本発明は、分子量の制御が容易であり大量生産するのに好適な、分岐構造を有するポリフェニレンエーテルの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意研究を行い、特定の構造を有する原料フェノール類からなるポリフェニレンエーテルによって、上記課題が解決されることを見出した。即ち、本発明は以下の通りである。
【0011】
本発明のある実施形態は、
少なくとも下記条件1を満たすフェノール類と、少なくとも下記条件2を満たすフェノール類と、を含む原料フェノール類から得られ、
前記条件2を満たすフェノール類の含有率が、原料フェノール類全量に対して0.1~20mol%である、ポリフェニレンエーテルである。
(条件1)
オルト位およびパラ位に水素原子を有する
(条件2)
オルト位およびパラ位に炭素数1~4の炭化水素基を有する
【0012】
本発明の別の実施形態は、
前記ポリフェニレンエーテルを含む硬化性組成物であってもよい。
【0013】
本発明の別の実施形態は、
前記硬化性組成物からなる樹脂層を有するドライフィルムであってもよい。
【0014】
本発明の別の実施形態は、
前記硬化性組成物又は前記樹脂層の、硬化物であってもよい。
【0015】
本発明の別の実施形態は、
前記硬化物を有する電子部品であってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、分子量の制御が容易であり大量生産するのに好適な、分岐構造を有するポリフェニレンエーテルが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明のポリフェニレンエーテル及び当該ポリフェニレンエーテルを含む硬化性組成物について説明するが、本発明は以下には何ら限定されない。
【0018】
説明した化合物に異性体が存在する場合、特に断らない限り、存在し得る全ての異性体が本発明において使用可能である。
【0019】
本明細書において、ポリフェニレンエーテル(PPE)の原料として用いられ、ポリフェニレンエーテルの構成単位になり得るフェノール類を総称して、「原料フェノール類」とする。
【0020】
本明細書において、原料フェノール類の説明を行う際に「オルト位」や「パラ位」等と表現した場合、特に断りがない限り、フェノール性水酸基の位置を基準(イプソ位)とする。
【0021】
本明細書において、単に「オルト位」等と表現した場合、「オルト位の少なくとも一方」等を示す。従って、特に矛盾が生じない限り、単に「オルト位」とした場合、オルト位のどちらか一方を示すと解釈してもよいし、オルト位の両方を示すと解釈してもよい。
【0022】
本明細書において、原料フェノール類としては主に1価のフェノール類を開示しているが、本発明の効果を阻害しない範囲で、原料フェノール類として多価のフェノール類を使用してもよい。
【0023】
本明細書において、「不飽和炭素結合」は、特に断らない限り、エチレン性またはアセチレン性の炭素間多重結合(二重結合または三重結合)を示す。また、本明細書において、不飽和炭素結合を有する官能基としては、特に限定されないが、アルケニル基(例えば、ビニル基、アリル基)、アルキニル基(例えば、エチニル基)、又は、(メタ)アクリルロイル基が挙げられる。なお、これらの不飽和炭素結合を有する官能基は、炭素数を、例えば15以下、10以下、8以下、5以下、3以下等とすることができる。
【0024】
本明細書において、数値範囲の上限値と下限値とが別々に記載されている場合、矛盾しない範囲で、各下限値と各上限値との全ての組み合わせが実質的に記載されているものとする。
【0025】
<<<ポリフェニレンエーテル>>>
本実施形態に係るポリフェニレンエーテルは、少なくとも下記条件1を満たすフェノール類と、少なくとも下記条件2を満たすフェノール類と、を含む原料フェノール類から得られるポリフェニレンエーテルである。
(条件1)
オルト位およびパラ位に水素原子を有する
(条件2)
オルト位およびパラ位に、炭素数1~4の炭化水素基を有する
【0026】
原料フェノール類は、条件1及び条件2を満たさない、その他のフェノール類を含んでいてもよい。
【0027】
以下、条件1を満たすフェノール類をフェノール類(A)とし、条件2を満たすフェノール類をフェノール類(B)とする。
【0028】
<<原料フェノール類>>
<条件1を満たすフェノール類>
フェノール類(A)は、オルト位およびパラ位に水素原子を有するフェノール類である。
【0029】
フェノール類(A)は、所定の炭化水素基を、1つ又は複数有していてもよい。
【0030】
フェノール類(A)は、不飽和炭素結合を含む官能基を有していてもよい。
【0031】
フェノール類(A)は、例えば、以下の式1で示される化合物である。
【0032】
【0033】
式1中、R11~R13は、各々独立して、水素原子、又は、炭素数1~15(好ましくは、炭素数1~4)の炭化水素基である。R11~R13は、不飽和炭素結合を含んでいてもよい。
【0034】
フェノール類(A)としては、具体的には、フェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、2-エチルフェノール、3-エチルフェノール、2,3-キシレノール、2,5-キシレノール、3,5-キシレノール、2-n-ブチルフェノール、3-n-ブチルフェノール、2-イソブチルフェノール、3-イソブチルフェノール、2-s-ブチルフェノール、3-s-ブチルフェノール、2-tert-ブチルフェノール、3-tert-ブチルフェノール、2-フェニルフェノール、3-フェニルフェノール、2-ドデシルフェノール、2-ビニルフェノール、3-ビニルフェノール、2-アリルフェノール、3-アリルフェノール、3-ビニル-6-メチルフェノール、3-ビニル-6-エチルフェノール、3-ビニル-5-メチルフェノール、3-ビニル-5-エチルフェノール、3-アリル-6-メチルフェノール、3-アリル-6-エチルフェノール、3-アリル-5-メチルフェノール、3-アリル-5-エチルフェノール等が挙げられる。
【0035】
フェノール類(A)は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0036】
フェノール類(A)は、オルト位に水素原子を有するため、フェノール類と酸化重合される際に、イプソ位及びパラ位のみならず、オルト位においてもエーテル結合が形成され得る。そのため、かかるフェノール類を原料フェノール類として用いて得られるポリフェニレンエーテルは分岐鎖状の構造を形成することが可能となる。
【0037】
具体的には、フェノール類(A)を含む原料フェノール類から得られるポリフェニレンエーテルは、その構造の一部が、少なくともイプソ位、オルト位、パラ位の3か所がエーテル結合されたベンゼン環により分岐することとなる。
【0038】
このように、その骨格内に分岐構造を有するポリフェニレンエーテルを、分岐ポリフェニレンエーテルと称する。かかる分岐ポリフェニレンエーテルによれば、有機溶媒への優れた溶解性が得られる。
【0039】
フェノール類(A)の含有率は、原料フェノール類全量に対して、1mol%以上、2mol%以上、3mol%以上、又は、5mol%以上であることが好ましく、また、50mol%以下、40mol%以下、30mol%以下、又は、20mol%以下であることが好ましい。
【0040】
フェノール類(A)の含有率とは、分岐ポリフェニレンエーテルの合成に用いる原料フェノール類の全量に基づき計算されたものである。
【0041】
<フェノール類(B)>
フェノール類(B)は、オルト位およびパラ位に、炭素数1~4の炭化水素基を有するフェノール類である。
【0042】
前述したように、本実施形態に係るポリフェニレンエーテルは、フェノール類(A)を原料フェノール類として含有することで、分岐構造を有することとなる。
分岐構造を有するポリフェニレンエーテルは、直鎖構造を有するポリフェニレンエーテルに比べ、重合反応性を有するポリマー末端を多く備えるため、成長したポリマー同士が更に重合(いわゆるカップリング)し、分子量が急激に増加することがあり、反応の制御が容易ではなかった。
このような知見に基づき、本実施形態では、原料フェノール類として、フェノール類(A)に、フェノール類(B)を特定の含有率で組み合わせた。この場合、フェノール類(B)が、適度にポリフェニレンエーテルの末端部となり、分岐構造を有するポリフェニレンエーテルの合成にて生じる急激な分子量増加(カップリング反応)が抑制される。その結果、反応の制御が容易となることから、分岐構造由来の優れた性能(低誘電特性、優れた溶媒溶解性)を維持したまま、所望の分子量のポリフェニレンエーテル(特に、工業的に有用な重量平均分子量30,000~300,000を充足するポリフェニレンエーテル)を効率的に製造できる。更に、このようにして得られたポリフェニレンエーテルは、意図せぬ分子量増加が抑制されていることから、保存安定性に優れる。
【0043】
フェノール類(B)は、例えば、以下の式2で示される化合物である。
【0044】
【0045】
式2中、R21、R23、R25は、各々独立して、炭素数1~4の炭化水素基(好ましくは、炭素数1~2の炭化水素基)であり、R22、R24は、各々独立して、水素原子又は炭素数1~4の炭化水素基(好ましくは、水素原子又は炭素数1~2の炭化水素基)である。R21~R25は、不飽和炭素結合を含んでいてもよい。
【0046】
フェノール類(B)は、具体的には、2,4,6-トリメチルフェノール、2,4,6-トリエチルフェノール、2,4,6-トリプロピルフェノール、2,4,6-トリアリルフェノール、2,4,6-トリ-t-ブチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-4-エチルフェノール、2,3,4,6-テトラメチルフェノール、ペンタメチルフェノール等が挙げられる。
【0047】
フェノール類(B)の含有率は、原料フェノール類全量に対して、0.1mol%以上、0.5mol%以上、1mol%以上、2mol%以上、又は、5mol%以上であることが好ましく、また、20mol%以下、18mol%以下、16mol%以下、又は、15mol%以下であることが好ましい。
【0048】
なお、フェノール類(B)の含有率とは、分岐ポリフェニレンエーテルの合成に用いる原料フェノール類の全量に基づき計算されたものである。
【0049】
<その他のフェノール類>
本実施形態では、発明の効果を阻害しない範囲で、前述した原料フェノール類(フェノール類(A)、フェノール類(B))以外のその他のフェノール類を含有することができる。その他のフェノール類としては、例えば、パラ位に水素原子を有し、オルト位に水素原子を有さないフェノール類(追加用フェノール類)を好適に用いることができる。
【0050】
追加用フェノール類は、例えば、以下の式で示される化合物である。
【0051】
【0052】
式3中、R31、R34は、各々独立して、炭素数1~15の炭化水素基(好ましくは炭素数1~4の炭化水素基、より好ましくは炭素数1~3の炭化水素基)であり、R32、R33は、各々独立して、水素原子又は炭素数1~15の炭化水素基(好ましくは水素原子又は炭素数1~4の炭化水素基、より好ましくは水素原子又は炭素数1~3の炭化水素基)である。R31~R34は、不飽和炭素結合を含んでいてもよい。
【0053】
追加用フェノール類としては、具体的には、2,6-ジメチルフェノール、2,3,6-トリメチルフェノール、2-メチル-6-エチルフェノール、2-アリル-6-メチルフェノール、2-アリル-6-エチルフェノール、2,6-ジビニルフェノール、2,6-ジアリルフェノール、2-ビニル-6-メチルフェノール、2-ビニル-6-エチルフェノール等が挙げられる。
【0054】
フェノール類(A)やフェノール類(B)と共に、追加用フェノール類を適当量含有することで、ポリフェニレンエーテルを合成する際の反応を制御し易くなる。
【0055】
追加用フェノール類の含有率は、原料フェノール類全量に対して、50mol%以上、60mol%以上、又は、70mol%以上とすることができる。
【0056】
なお、追加用フェノール類の含有率とは、分岐ポリフェニレンエーテルの合成に用いる原料フェノール類の全量に基づき計算されたものである。
【0057】
更に、その他のフェノール類は、追加用フェノール類以外のフェノール類を含んでいてもよい。
【0058】
<不飽和炭素結合を含む官能基を有するフェノール類>
原料フェノール類(フェノール類(A)、フェノール類(B)、及び、その他のフェノール類)は、不飽和炭素結合を含む官能基を有していてもよい。
【0059】
原料フェノール類が、不飽和炭素結合を有する官能基を含むフェノール類を含むことで、得られるポリフェニレンエーテルの側鎖に不飽和炭素結合が導入される。このようなポリフェニレンエーテルは、かかる不飽和炭素結合の硬化反応によって3次元的な架橋が可能となり、硬化性ポリフェニレンエーテルとして利用することが可能となる。
【0060】
不飽和炭素結合を有する官能基を含む原料フェノール類の含有率は、用途等に応じて適宜設定可能であるが、低誘電特性の観点から、例えば、原料フェノール類全量に対して、0mol%、1mol%以上、2mol%以上、3mol%以上、又は、5mol%以上とすることができ、また、99mol%以下、50mol%以下、30mol%以下、又は、20mol%以下とすることができる。
【0061】
なお、不飽和炭素結合を有する官能基を含む原料フェノール類の含有率とは、分岐ポリフェニレンエーテルの合成に用いる原料フェノール類の全量に基づき計算されたものである。
【0062】
<<合成方法>>
本実施形態に係るポリフェニレンエーテルは、前述した原料フェノール類を使用すること以外は従来公知のポリフェニレンエーテルの合成方法(重合条件、触媒の有無および触媒の種類等)を適用して合成することが可能である。
【0063】
次に、ポリフェニレンエーテルの合成方法の一例について説明する。
【0064】
ポリフェニレンエーテルは、例えば、原料フェノール類、触媒および溶媒を含む重合溶液を調製すること(重合溶液調製工程)、少なくとも前記溶媒に酸素を通気させ、酸素を含む前記重合溶液内で、フェノール類を酸化重合させること(重合工程)で合成することができる。
【0065】
以下、重合溶液調製工程および重合工程について説明する。なお、各工程を連続的に実施してもよいし、ある工程の一部または全部と、別の工程の一部または全部と、を同時に実施してもよいし、ある工程を中断し、その間に別の工程を実施してもよい。また、このポリフェニレンエーテルの合成方法は、必要に応じてその他の工程を含んでいてもよい。その他の工程としては、例えば、重合工程により得られるポリフェニレンエーテルを抽出する工程(例えば、再沈殿、ろ過および乾燥を行う工程)等が挙げられる。
【0066】
<重合溶液調製工程>
重合溶液調製工程は、後述する重合工程において重合されるフェノール類を含む各原料を混合し、重合溶液を調製する工程である。重合溶液の原料としては、原料フェノール類、触媒、溶媒が挙げられる。
【0067】
(触媒)
触媒は特に限定されず、ポリフェニレンエーテルの酸化重合において使用される適宜の触媒とすればよい。
【0068】
触媒としては、例えば、アミン化合物や、銅、マンガン、コバルト等の重金属化合物とテトラメチルエチレンジアミンなどのアミン化合物とからなる金属アミン化合物が挙げられ、特に、十分な分子量の共重合体を得るためには、アミン化合物に銅化合物を配位させた銅-アミン化合物を用いることが好ましい。触媒は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0069】
触媒の含有量は特に限定されないが、重合溶液中、原料フェノール類の合計に対し0.1~1.0mol%等とすればよい。
【0070】
このような触媒は、予め適宜の溶媒に溶解させてもよい。
【0071】
(溶媒)
溶媒は特に限定されず、ポリフェニレンエーテルの酸化重合において使用される適宜の溶媒とすればよい。溶媒としては、フェノール性化合物および触媒を溶解または分散可能なものを用いることが好ましい。
【0072】
溶媒としては、具体的には、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素、クロロホルム、塩化メチレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素、ニトロベンゼン等のニトロ化合物、メチルエチルケトン(MEK)、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PMA)、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(CA)等が挙げられる。溶媒は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0073】
なお、溶媒として、水や水と相溶可能な溶媒等を含んでいてもよい。
【0074】
重合溶液中の溶媒の含有量は特に限定されず、適宜調整可能である。
【0075】
(その他の原料)
重合溶液は、本実施形態の効果を阻害しない範囲でその他の原料を含んでいてもよい。
【0076】
<重合工程>
重合工程は、重合溶液中に酸素含有ガスを通気させた状況下、重合溶液中のフェノール類を酸化重合させる工程である。
【0077】
酸素ガスの通気時間や使用する酸素含有ガス中の酸素濃度は、気圧や気温等に応じて適宜変更可能である。
【0078】
具体的な重合の条件としては特に限定されないが、例えば、25~100℃、2~24時間の条件で攪拌すればよい。攪拌手段として特に限定されず、公知のもの(例えば、パドル翼等)を使用することができる。
【0079】
<<ポリフェニレンエーテルの分子量>>
本実施形態に係るポリフェニレンエーテルは、重量平均分子量が30,000~300,000であることが好ましく、30,000~250,000であることがより好ましく、30,000~150,000であることが特に好ましい。
【0080】
分子量をこのような範囲とすることで、溶媒への溶解性を維持しつつ、硬化性組成物の成膜性を向上させることができる。
【0081】
本実施形態において、重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定を行い、標準ポリスチレンを用いて作成した検量線により換算して得られたものである。
【0082】
<<<硬化性組成物>>>
本実施形態に係る分岐構造を有するポリフェニレンエーテルは、公知の成分と組み合わせて、硬化性組成物とすることができる。
【0083】
公知の成分としては、例えば、シリカ、過酸化物、架橋型硬化剤、マレイミド化合物、エラストマー、難燃性向上剤(リン系化合物等)、セルロースナノファイバー、ポリマー成分(シアネートエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノ-ルノボラック樹脂等の樹脂成分、ポリイミド、ポリアミド等の有機ポリマー)、分散剤、熱硬化触媒、増粘剤、消泡剤、酸化防止剤、防錆剤、密着性付与剤、溶媒等が挙げられる。
これらは、1種のみが使用されてもよいし、2種以上が使用されてもよい。
【0084】
前述した硬化性組成物は、基材に塗布して用いられるものである。
【0085】
ここで基材とは、あらかじめ銅等により回路形成されたプリント配線板やフレキシブルプリント配線板、金属基板、ガラス基板、セラミック基板、ウエハ板、銅箔等の金属箔、ポリイミドフィルム、ポリエステルフィルム、ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム等のフィルム、ガラスクロス、アラミド繊維等の繊維が挙げられる。
【0086】
<<<ドライフィルム>>>
ドライフィルムは、例えば、基材(例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム)上に硬化性組成物を塗布乾燥させた樹脂層を形成して得られる。ドライフィルムは、必要に応じてポリプロピレンフィルム等の保護層が積層されていてもよい。
【0087】
<<<硬化物>>>
硬化物は、前述した硬化性組成物又は前述したドライフィルムの樹脂層を硬化することで得られる。
【0088】
硬化性組成物から硬化物を得るための方法は、特に限定されるものではなく、硬化性組成物の組成に応じて適宜変更可能である。一例として、前述したような基材上に硬化性組成物の塗工(例えば、アプリケーター等による塗工)を行う工程を実施した後、必要に応じて硬化性組成物を乾燥させる乾燥工程を実施し、加熱(例えば、イナートガスオーブン、ホットプレート、真空オーブン、真空プレス機等による加熱)によりポリフェニレンエーテルを熱架橋させる熱硬化工程を実施すればよい。なお、各工程における実施の条件(例えば、塗工厚、乾燥温度および時間、加熱温度および時間等)は、硬化性組成物の組成や用途等に応じて適宜変更すればよい。
【0089】
<<<電子部品>>>
電子部品は、前述した本実施形態の硬化物を有するものであり、優れた誘電特性や耐熱性を有することから、種々の用途に使用可能である。
【0090】
その用途は特に限定されないが、好ましくは、第5世代通信システム(5G)に代表される大容量高速通信や自動車のADAS(先進運転支援システム)向けミリ波レーダー等が挙げられる。
【実施例0091】
以下、実施例及び比較例により、本実施形態をより詳細に説明するが、本実施形態は以下には何ら限定されない。
【0092】
<<<ポリフェニレンエーテルの合成>>>
<<実施例1>>
500mLのセパラブルフラスコに、2,6-ジメチルフェノール19.2g、2-アリルフェノール2.41g、2,4,6-トリメチルフェノール0.61gを加え、得られた混合物をトルエン261gで溶解させた。さらにジ-μ-ヒドロキソ-ビス[(N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン)銅(II)]クロリド(Cu/TMEDA)が0.18wt%、テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)が0.16wt%となるように調整し、反応液中に乾燥空気を75mL/minの流量で吹込みながら、四つ羽根パドル翼を用いて攪拌速度200rpmにて攪拌、40℃で所定時間反応させ、ポリフェニレンエーテルを含む反応液を得た。
反応液の加温、並びに、乾燥空気の吹込みを停止した後、ジ-μ-ヒドロキソ-ビス[(N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン)銅(II)]クロリド(Cu/TMEDA)を濾過にて取り除き、メタノール1,200mL、濃塩酸4.0mL、H2O27.0mLの混合液で再沈殿させて減圧濾過にて取り出し、メタノールで洗浄後、80℃で24時間乾燥させ、実施例1に係るポリフェニレンエーテルを精製した。
【0093】
<<実施例2-4>>
実施例1の各原料フェノール類の仕込量を、表1に示す仕込量に変更したことを除き実施例1の合成方法と同様な手順にて、実施例2-4に係るポリフェニレンエーテルを得た。
【0094】
<<比較例1>>
500mLのセパラブルフラスコに、2,6-ジメチルフェノール19.8g、2-アリルフェノール2.42gを加え、得られた混合物をトルエン261gで溶解させた。さらにジ-μ-ヒドロキソ-ビス[(N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン)銅(II)]クロリド(Cu/TMEDA)が0.18wt%、テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)が0.16wt%となるように調整し、反応液中に乾燥空気を75mL/minの流量で吹込みながら、四つ羽根パドル翼を用いて攪拌速度200rpmにて攪拌、40℃で所定時間反応させ、ポリフェニレンエーテルを含む反応液を得た。
反応液の加温、並びに、乾燥空気の吹込みを停止した後、ジ-μ-ヒドロキソ-ビス[(N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン)銅(II)]クロリド(Cu/TMEDA)を濾過にて取り除き、メタノール1,200mL、濃塩酸4.0mL、H2O27.0mLの混合液で再沈殿させて減圧濾過にて取り出し、メタノールで洗浄後、80℃で24時間乾燥させ、比較例1に係るポリフェニレンエーテルを精製した。
【0095】
<<<評価>>>
<<分子量>>
各ポリフェニレンエーテルにて、反応時間が14時間と24時間における重量平均分子量(Mw)をそれぞれ測定した。評価結果を表1に示す。なお、比較例1については、反応時間を14時間とした段階で、ゲル化が生じた。
【0096】
なお、ポリフェニレンエーテルの数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により求めたものである。GPCにおいては、Shodex K-805Lをカラムとして使用し、カラム温度を40℃、流量を1mL/min、溶離液をクロロホルム、標準物質をポリスチレンとした。
【0097】
<<保存安定性>>
実施例3に係るポリフェニレンエーテルの保存安定性について評価した。
具体的には、実施例3に係るポリフェニレンエーテルについて、重合完了後(反応液の加温、並びに、乾燥空気の吹込みを停止した後)の反応液を所定時間放置した後、濾過によって触媒を取り除いた反応液を所定日数放置し、日数経過における重量平均分子量を測定した。より具体的には、反応終了直後の重量平均分子量(初期値分子量)、反応終了後に室温/常圧下で6日間静置した後の重量平均分子量(6日後分子量)、反応終了後に室温/常圧下で30日間静置した後の重量平均分子量(30日後分子量)、を各々測定した。評価結果を表2に示す。
【0098】
なお、実施例3との対比データとして、以下に示す比較例2に係るポリフェニレンエーテルを合成し、実施例3と同様に保存安定性を評価した。評価結果を表2に示す。
【0099】
<比較例2>
比較例1に係るポリフェニレンエーテルはゲル化したことから、保存安定性の評価が不可能であった。そこで、比較例1に係るポリフェニレンエーテルと同様の原料を使用し、生産性を無視した(工業的ではない)条件にて、実施例3に近似する分子量となるように比較例2に係るポリフェニレンエーテルを合成した。具体的には以下の通りである。
【0100】
500mLのセパラブルフラスコに、2,6-ジメチルフェノール19.8g、2-アリルフェノール2.42gを加え、得られた混合物をトルエン261gで溶解させた。さらにジ-μ-ヒドロキソ-ビス[(N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン)銅(II)]クロリド(Cu/TMEDA)が0.18wt%、テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)が0.16wt%となるように調整し、反応液中に乾燥空気を25mL/minの流量で吹込みながら、四つ羽根パドル翼を用いて攪拌速度150rpmにて攪拌、40℃で所定時間(14時間)反応させ、ポリフェニレンエーテルを含む反応液を得た。
反応液の加温、並びに、乾燥空気の吹込みを停止した後、ジ-μ-ヒドロキソ-ビス[(N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン)銅(II)]クロリド(Cu/TMEDA)を濾過にて取り除いた後、上述の実施例3に係るポリフェニレンエーテルと同じ条件にて保存安定性を評価した。
【0101】
【0102】
【0103】
実施例1-4に係るポリフェニレンエーテルは、適切に分子量を制御可能であり、大量生産可能なものであった。
【0104】
また、表2に示されるように、実施例3に係るポリフェニレンエーテルは、比較例2に係るポリフェニレンエーテルよりも時間経過に伴う重量平均分子量の増加が抑制されており、保存安定性に優れることが判った。