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特開2023-125969スラストブロック作製キットおよびスラストブロック作製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023125969
(43)【公開日】2023-09-07
(54)【発明の名称】スラストブロック作製キットおよびスラストブロック作製方法
(51)【国際特許分類】
   F16L 57/00 20060101AFI20230831BHJP
   F16L 1/024 20060101ALI20230831BHJP
   F16L 1/028 20060101ALI20230831BHJP
【FI】
F16L57/00 C
F16L57/00 A
F16L1/024
F16L1/028 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022030368
(22)【出願日】2022-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】田中 良和
(72)【発明者】
【氏名】有吉 充
(72)【発明者】
【氏名】樺山 大輔
【テーマコード(参考)】
3H024
【Fターム(参考)】
3H024AA01
3H024AB07
3H024AC05
3H024CA03
3H024EE06
3H024EF11
(57)【要約】
【課題】専門的な知識および厳密な計算がなくとも、適切な容量でのスラストブロックの施工が可能なスラストブロック作製キットを提供する。
【解決手段】所定のスラストブロックの作製に必要な組み合わせの前記パネルの種類が、当該所定のスラストブロックを設置するパイプラインの配水管にかかる静水圧に対応付けて特定された対応データを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラストブロック型枠として使用するパネルの組み合わせに応じて複数の種類のスラストブロックを作製できるスラストブロック作製キットであって、
所定のスラストブロックの作製に必要な組み合わせの前記パネルの種類が、当該所定のスラストブロックを設置するパイプラインの配水管にかかる静水圧に対応付けて特定された対応データを含む、
スラストブロック作製キット。
【請求項2】
前記対応データは、前記必要な組み合わせのパネルの種類が、所定の数値範囲の前記静水圧において共通している、
請求項1に記載のスラストブロック作製キット。
【請求項3】
スラストブロック型枠として使用する複数の種類のパネルを、更に含む、
請求項1または2に記載のスラストブロック作製キット。
【請求項4】
前記対応データは、前記配水管にかかる静水圧に加えて、前記スラストブロックに巻き固められる異形管の口径に対応付けて、前記必要な組み合わせのパネルの種類が特定されている、
請求項1から3のいずれか1項に記載のスラストブロック作製キット。
【請求項5】
前記パネルは、作製するスラストブロックにおける、当該スラストブロックによって巻き固める異形管の管端が向いた側面を規定するための側面規定用パネルを含み、
前記側面規定用パネルは、
前記異形管の管端が貫通する孔が設けられた部分パネルと、
前記部分パネルを嵌め合わせることができる本体パネルと、
を含み、
前記部分パネルは、前記孔の径に応じて異なる種類を有し、
各前記部分パネルは、縦横長が等しく、
前記本体パネルは、いずれの前記部分パネルであっても嵌め合わせられる嵌合部を有している、
請求項1から4のいずれか1項に記載のスラストブロック作製キット。
【請求項6】
前記対応データは、前記必要な組み合わせのパネルの種類が、水頭10m毎の前記静水圧で特定されている、
請求項1から5のいずれか1項に記載のスラストブロック作製キット。
【請求項7】
前記パネルは樹脂製である、
請求項1から6のいずれか1項に記載のスラストブロック作製キット。
【請求項8】
前記対応データは、前記スラストブロックに巻き固められる異形管の種類ごとに異なる、
請求項1から7のいずれか1項に記載のスラストブロック作製キット。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載のスラストブロック作製キットを用いたスラストブロック作製方法であって、
スラストブロックを設置するパイプラインの配水管にかかる静水圧を特定することと、
特定した前記静水圧を用いて、前記対応データから、所定のスラストブロックの作製に必要な組み合わせのパネルを特定することと、
特定した前記パネルを組み合わせて前記スラストブロック型枠を作製することと、
作製した前記スラストブロック型枠の内部にスラストブロック材料を流し入れてスラストブロック材料を固化させることと、
固化後のスラストブロックを前記スラストブロック型枠から外すことと、
を含む、
スラストブロック作製方法。
【請求項10】
前記スラストブロック型枠の内部にスラストブロック材料を流し入れる際に、前記スラストブロック型枠の内部の所定位置に異形管を配置し、異形管の配置後に、前記スラストブロック材料を流し入れる、
請求項9に記載のスラストブロック作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラストブロック作製キットおよびスラストブロック作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
農業用パイプラインのように内部に水等の流体が存在する管において、屈曲した部分のような流体の流れが変化する箇所には、静水圧によりスラスト力が生じる。管が略水平方向に延伸して敷設されている場合には、スラスト力は略水平方向に生じる。地中に埋設された埋設管では、土圧や土と管との摩擦力が土からの反力となり、内部に流体が流れる埋設管は、内側からは上記スラスト力、外側からは上記土からの反力を受け続けることになる。
【0003】
ところで、農業用パイプラインに多用される塩化ビニル管(PVC管)において、継手部や屈曲部等の異形管での破損事故が多くみられる。その主要な原因の一つとして、パイプラインの設計段階で上記スラスト力への対策がされていないことが挙げられる。スラスト力に対する構造物として、異形管を覆うように打設されたコンクリート製のブロック、いわゆるスラストブロックが従来知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スラストブロックの施工にあたっては、異形管にかかるスラスト力や想定されるブロック底面の摩擦抵抗力などを考慮して適切な容量で設計することが一般的である。しかしながら、例えば農場では、県営や団体営の圃場整備事業で敷設されたパイプラインは、その事業費の償還を行っていた土地改良区がすでに解散しているなどして、農家個々人がパイプラインを維持管理する必要が生じている。そのような農家個々人では、専門業者に施工を依頼したり、大規模な修繕工事を行うことは困難な場合が多く、一方で、農家自身がそのような専門外の知識を用いてスラストブロックを施工することも容易でない実情がある。
【0005】
本発明の一態様は、上記の課題に鑑み、専門的な知識および厳密な計算がなくとも、適切な容量でのスラストブロックの施工を可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前述の課題を解決するため、本発明の一態様に係るスラストブロック作製キットは、スラストブロック型枠として使用するパネルの組み合わせに応じて複数の種類のスラストブロックを作製できるスラストブロック作製キットであって、所定のスラストブロックの作製に必要な組み合わせの前記パネルの種類が、当該所定のスラストブロックを設置するパイプラインの配水管にかかる静水圧に対応付けて特定された対応データを備える。
【0007】
前記の構成によれば、専門的な知識および厳密な計算がなくとも、適切な容量でのスラストブロックの施工を可能とする。
【0008】
すなわち、前記の構成によれば、静水圧が明らかであれば、前記対応データの内容を参照して適切なパネルを特定することができ、容易に、適切な容量のスラストブロックを作製するための型枠を作製することができ、容易に適切な容量のスラストブロックを作製することが可能である。
【0009】
本発明の一態様に係るスラストブロック作製キットにおいて、前記対応データは、前記必要な組み合わせのパネルの種類が、所定の数値範囲の前記静水圧において共通していてもよい。
【0010】
前記の構成によれば、パイプライン内の静水圧にかかる厳密な計測を必要とせず、例えば水圧計に提示されている静水圧に基づけばよい。静水圧が多少の誤差を生じていた場合であっても、前記の構成によれば、誤差の分も考慮してパネルの種類を共通にしている。よって、おおよその静水圧が明らかであれば、適切なパネルを選定して型枠を作製することで、適切なスラストブロックを作製することができる。
【0011】
本発明の一態様に係るスラストブロック作製キットにおいては、スラストブロック型枠として使用する複数の種類のパネルが、さらに含まれていてもよい。
【0012】
前記の構成によれば、スラストブロックを作製しようとするもの自らが前記パネルを別途入手する必要がなく、本発明の一態様であるキット内の適切なパネルを選定して型枠を作製することで、適切なスラストブロックを作製することができる。
【0013】
本発明の一態様に係るスラストブロック作製キットにおいて、前記対応データは、前記配水管にかかる静水圧に加えて、前記スラストブロックに巻き固められる異形管の口径に対応付けて、前記必要な組み合わせのパネルの種類が特定されていてもよい。
【0014】
前記の構成によれば、前記異形管の口径と前記対応データの内容を対照させることで、パイプライン内の静水圧を計測するだけで、異形管の口径に基づいて適切な容量のスラストブロックを割り出すことができ、簡易な操作のみで適切なパネルをして、適切な容量のスラストブロックを作製することができる。
【0015】
本発明の一態様に係るスラストブロック作製キットにおいて、前記パネルは、作製するスラストブロックにおける、当該スラストブロックによって巻き固める異形管の管端が向いた側面を規定するための側面規定用パネルを含んでいてもよい。この場合、前記側面規定用パネルは、前記異形管の管端が貫通する孔が設けられた部分パネルと、前記部分パネルを嵌め合わせることができる本体パネルと、を含んでもよい。前記部分パネルは、前記孔の径に応じて異なる種類を有し、各前記部分パネルは、縦横長が等しくてもよい。また、前記本体パネルは、いずれの前記部分パネルであっても嵌め合わせられる嵌合部を有する構成であってもよい。
【0016】
前記の構成によれば、前記異形管の口径と前記対応データの内容を対照させ、キット内の適切なパネルを選定して型枠を作製することで、適切なスラストブロックを作製することができる。
【0017】
本発明の一態様に係るスラストブロック作製キットにおいて、前記対応データは、前記必要な組み合わせのパネルの種類が、水頭10m毎の前記静水圧で特定されていてもよい。
【0018】
前記の構成によれば、パイプライン内の静水圧にかかる厳密な計測を必要とせず、例えば水圧計に提示されている静水圧に基づけばよい。静水圧が多少の誤差を生じていた場合であっても、前記の構成によれば、誤差の分も考慮して水頭10m毎の静水圧でパネルの種類を共通にしている。よって、おおよその静水圧が明らかであれば、適切なパネルを選定して型枠を作製することで、適切なスラストブロックを作製することができる。
【0019】
本発明の一態様に係るスラストブロック作製キットにおいて、前記パネルは樹脂製であってもよい。
【0020】
前記の構成によれば、前記パネルは、例えば木製パネルに比べて耐久性を有する。そのため、繰り返しスラストブロックの作製に使用することができる。
【0021】
本発明の一態様に係るスラストブロック作製キットにおいて、前記対応データは、前記スラストブロックに巻き固められる異形管の種類ごとに異なっていてもよい。
【0022】
前記の構成によれば、パイプライン内に敷設される異形管ごとに適切な容量のスラストブロックを作製することができる。例えば、チーズ管に適した容量のスラストブロック、エルボ管に適した容量のスラストブロックは、互いに異なる場合がある。そのため、それぞれの異形管の種類に対して適切なパネルを選定して型枠を作製することができ、適切な容量のスラストブロックを作製することができる。
【0023】
前述の課題を解決するため、本発明の一態様に係るスラストブロック作製方法は、上述のスラストブロック作製キットを用いたスラストブロック作製方法であって、スラストブロックを設置するパイプラインの配水管にかかる静水圧を特定することと、特定した前記静水圧を用いて、前記対応データから、所定のスラストブロックの作製に必要な組み合わせのパネルを特定することと、特定した前記パネルを組み合わせて前記スラストブロック型枠を作製することと、作製した前記スラストブロック型枠の内部にスラストブロック材料を流し入れてスラストブロック材料を固化させることと、固化後のスラストブロックを前記スラストブロック型枠から外すことと、を含む。
【0024】
前記の構成によれば、静水圧が明らかであれば、パイプライン内のチーズ管およびエルボ管に対して、前記対応データの内容を参照した適切なパネルを選定して型枠を作製することで、適切な容量のスラストブロックを作製することができる。
【0025】
本発明の一態様に係るスラストブロック作製方法において、前記スラストブロック型枠の内部にスラストブロック材料を流し入れる際に、前記スラストブロック型枠の内部の所定位置に異形管を配置し、異形管の配置後に、前記スラストブロック材料を流し入れてもよい。
【0026】
前記の構成によれば、「陸打ち」と呼ばれる、既存のパイプラインとは別に異形管と一体化したスラストブロックを作製し、既存のパイプライン上の必要箇所に繋ぐ方法が可能となり、コンクリートの養生期間が不要となるため、工期の短縮を図ることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明の一態様によれば、専門的な知識および厳密な計算がなくとも、簡易な手順で適切な容量のスラストブロックの施工が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の実施形態に係る、パイプライン中のスラストブロック施工を検討すべき箇所を示す模式図である。
図2】本発明の実施形態に係る、完成したスラストブロックの模式図である。
図3】本発明の実施形態に係る、スラストブロック施工箇所に係る異形管と参照すべき対応データを示すフローチャートである。
図4】本発明の実施形態に係る、型枠パネルの分解図である。
図5】本発明の実施形態に係る、本体パネル及び部分パネルの接続方法を示す側面図(上段)および俯瞰図(下段)である。
図6】本発明の実施形態に係る、型枠準備後のスラストブロック完成までのフローを示す模式図である。
図7】本発明の実施形態に係る、エルボ管(垂直方向)用のスラストブロックの製造に必要な組み合わせのパネル(左側)と、エルボ管(垂直方向)用のスラストブロック(右側)の図である。
図8】本発明の実施形態に係る、エルボ管(水平方向)用のスラストブロックの製造に必要な組み合わせのパネル(左側)と、エルボ管(水平方向)用のスラストブロック(右側)の図である。
図9】本発明の実施形態に係る、嵌め合わせ構造を有する側面規定パネルにおいて孔あり部分パネルまたは孔無し部分パネルを用いる場合の、本体パネル及び部分パネルの寸法を示す模式図である。
図10】本発明の実施形態に係る、本体パネル及び部分パネルの寸法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0030】
〔パイプラインの概要〕
図1及び図2を参照して、本実施形態に係るパイプラインおよびスラストブロックの概要について説明する。図1は、本実施形態に係るパイプラインを示す模式図である。図2は、本実施形態に係るスラストブロック作製キットを用いて完成されるスラストブロックの一例の模式図である。
【0031】
本実施形態に係るスラストブロック作製キットを用いて完成されるスラストブロックは、図1に示すような流体の一例である用水等を供給する地中に埋設されたパイプライン10に設置される。パイプライン10は、T型の配管構造12と、L型の配管構造14と、をそれぞれ複数備えることによって、所定の場所までパイプ(管)を敷設している。
【0032】
T型の配管構造12は、用水等を搬送するための2つの給水配管16と、用水等を搬送するための1つの分岐配管18と、2つの給水配管16と1つの分岐配管18を接続するT型の管継手20(以下、チーズ管とも称する)と備えている。給水配管16、分岐配管18、及び管継手20は、それぞれ、例えばポリ塩化ビニル等の合成樹脂からなる。
【0033】
L型の配管構造14は、1つの分岐配管18と、用水等を搬送するための1つの立ち上がり配管22またはさらなる分岐配管18と、1つの分岐配管18と1つの立ち上がり配管22またはさらなる分岐配管18を接続するL型の管継手24(以下、エルボ管とも称する)と備えている。立ち上がり配管22またはさらなる分岐配管18及び管継手24は、それぞれ、例えばポリ塩化ビニル等の合成樹脂からなる。また、各立ち上がり配管22の上端部には、例えば圃場への用水等の供給を制御する給水栓26が接続されていてもよい。
【0034】
図1に示すパイプライン10の場合、例えばT型の配管構造12について、図2に示すようなT型の管継手20を巻き固める形のスラストブロック21の施工を検討する必要がある。また、L型の配管構造14についても同様に、L型の管継手24を巻き固める形のスラストブロックの施工を検討する必要がある。
【0035】
なお、本実施形態におけるパイプライン10は、主に農業分野において利用される農業用水を搬送するパイプラインを想定しているが、その配管が上記農業用水を搬送するパイプラインと同程度の口径を有するものであれば、本実施形態は農業用水の搬送以外の用途、および農業分野以外の用途にも利用され得る。上記同程度の口径とは、例えば直径50cm~150cm程度であってもよいが、これより大口径のパイプライン(例えば300cm以上)であってもよい。
【0036】
〔スラストブロック施工の必要有無の検討〕
スラストブロックの施工にあたり、そもそもスラストブロックの施工が必要か、また施工しようとする箇所のチーズ管20またはエルボ管24(以下、まとめて異形管とも称する)がどのようなステータスを有するかを決定する必要がある。以下、スラストブロック施工の必要の有無を検討するためのフローを、図3を用いて説明する。
【0037】
具体的には、当該箇所の異形管と、給水配管16、分岐配管18または立ち上がり配管22(以下、まとめて直管とも称する)との接続方法が、TS(Taper Sized)継手、RR(Rubber Ring)継手のいずれであるかを確認する。
【0038】
ここで、TS継手とは、異形管と直管の接続部分において、直管先端のテーパー形成部に施された接着剤で異形管と溶着することによって接続されている継手構造を指し、以下、剛継手とも称する。施工箇所の継手が剛継手の場合、パイプライン内の静水圧および異形管の呼び径から、連続埋設長さが十分であるか否かをさらに検討する。
【0039】
ここで、連続埋設長さとは、異形管から延びる直管の、剛継手により接続されたその総延長を指し、直管の連続埋設長さが長いほど、管の外面と周囲の土との摩擦力が大きくなり、十分摩擦力が大きい場合はスラストブロックの施工は必要ない。表1に、パイプライン内の静水圧および異形管それぞれに対応した必要な連続埋設長さを示す。
【表1】
施工箇所の継手から延びる直管が表1で参照した連続埋設長さより長ければ、当該箇所においてスラストブロックの施工は必要ない。当該直管が表1で参照した連続埋設長さより短ければ、以降の過程で選択されるスラストブロックの施工が必要となる。
【0040】
一方、RR継手とは、異形管と直管の接続部分において、直管先端部に取り付けられたゴム製のリングで異形管内の凹部と嵌め合わせることによって接続されている継手構造を指し、以下、柔継手とも称する。施工箇所の継手が柔継手の場合は、無条件で以降の過程で選択されるスラストブロックの施工が必要となる。
【0041】
〔スラストブロック作製キット〕
本発明の一実施形態は、スラストブロック型枠として使用するパネルの組み合わせに応じて複数の種類のスラストブロックを作製できるスラストブロック作製キットであって、所定のスラストブロックの作製に必要な組み合わせの前記パネルの種類が、当該所定のスラストブロックを設置するパイプラインの配水管にかかる静水圧に対応付けて特定された対応データを含む、スラストブロック作製キットを提供する。
【0042】
前記パネルは様々な寸法のものが規定されており、それらの組み合わせに応じて適切な容量のスラストブロックを作製することができる。従前のスラストブロックの容量設計においては、施工管内の静水圧の値を用いて算出したスラスト力を上回る抗力を有するように検討することを必要とするが、本発明の一実施形態によれば、施工管内の静水圧が前記対応データに示される所定の数値範囲のいずれであるかを決定することで、前記所定の数値範囲に共通した、前記必要な組み合わせのパネルの種類を選定することができる。ここで、前記対応データに示される所定の数値範囲は、例えば水頭10m以下、水頭10mを超え水頭20m以下、水頭20mを超え水頭30m以下、水頭30mを超え水頭40m以下、および水頭40mを超え水頭50m以下等であり得る。
【0043】
本発明の一実施形態に係るスラストブロック作製キットは、施工管の呼び径および静水圧に応じて必要となり得る前記パネルを含んでいてもよい。または、本発明の一実施形態に係るスラストブロック作製キットに含まれる対応データを参考に、スラストブロックを作製しようとする者が、市販の樹脂製の板などを用いて前記パネルを自ら作製してもよい。
【0044】
前記必要な組み合わせのパネルの種類は、前記スラストブロックに巻き固められる異形管の口径に対応付けても特定される。パネルに対応したこれらの異形管の口径は、チーズ管の場合は、例えば図2に示される分岐管の呼び径20aおよび本管の呼び径20bによって規定され、またエルボ管の場合は両端の呼び径によって規定される。前記異形管の口径は、それぞれ直径50cm、75cm、100cm、125cm、150cm等であり得る。
【0045】
前記パネルは、当該スラストブロックによって巻き固める異形管が直管と接続する面を設けるために、前記異形管の管端が向いた側面を規定するための側面規定用パネルを含む。ここで、前記側面規定用パネルは、前記異形管の管端が貫通する孔が設けられた部分パネルと、前記部分パネルを嵌め合わせることができる本体パネルと、を含む。前記部分パネルは、前記孔の径に応じて異なる種類を有し、各前記部分パネルは、縦横長が等しく、前記本体パネルは、いずれの前記部分パネルであっても嵌め合わせられる嵌合部を有している。
【0046】
なお前記パネルは、材質は特に問わないが、耐久性や繰り返し使用の容易性等から樹脂製であることが好ましい。
【0047】
前記対応データの仕様は、スラストブロックを作製しようとする者が、必要な情報を一目で閲覧できる形態であればよく、例えば紙の印刷物、パソコンで起動できるソフトウェア、又はタブレット端末用のアプリなどであり得る。
【0048】
ここで、前記対応データについて、具体的な例として表2および表3を示す。すなわち、スラストブロックの施工が必要と判断された箇所について、施工箇所の異形管がチーズ管の場合は表2から、エルボ管(垂直方向)の場合は表3から、必要となるスラストブロック製造のためのパネルの種類を選定する。なお、表2および表3中では、それぞれ図4および図7において示される部材番号を参照する。
【0049】
例えば、チーズ管に対してスラストブロックの施工が必要となる場合、当該チーズ管の本管呼び径が直径75cm、分岐管呼び径が50cm、パイプライン内の静水圧が水頭10mを超え水頭20m以下の範囲である場合、選定すべきパネル及びその寸法を図4を用いて説明すると、以下の通りとなる:
(パネル1)X軸方向の辺30xとZ軸方向の辺30zを有する側面規定パネル30が1枚であって、辺30xの長さが30cm、辺30zの長さが30cm;
(パネル2)チーズ管の分岐管(Y軸方向に沿った管)の管端が貫通する孔32aが設けられた部分パネル32と、X軸方向の辺34xとZ軸方向の辺34zを有し、かつ前記部分パネル32を嵌め合わせることができる本体パネル34と、を含む構造を有する側面規定パネル36が1枚であって、辺34xの長さが30cm、辺34zの長さが30cm、孔32aの直径が50cm;
(パネル3、4)チーズ管の本管(X軸方向に沿った管)の管端が貫通する孔38aが設けられた部分パネル38と、Y軸方向の辺40yとZ軸方向の辺40zを有し、かつ前記部分パネルを嵌め合わせることができる本体パネル40と、を含む構造を有する側面規定パネル42が2枚であって、辺40yの長さが30cm、辺40zの長さが30cm、孔38aの直径が75cm。
【表2】
【表3】
【表4】
【0050】
〔チーズ管用スラストブロックの製造方法〕
本発明の一実施形態は、先述のスラストブロック作製キットを用いたスラストブロック作製方法を提供する。前記スラストブロック作製方法は、スラストブロックを設置するパイプラインの配水管にかかる静水圧を特定する工程、特定した前記静水圧を用いて、前記対応データから、所定のスラストブロックの作製に必要な組み合わせのパネルを特定する工程を含んでいる。前記必要な組み合わせのパネルは、チーズ管用のスラストブロック製造に用いるものと、エルボ管用のスラストブロック製造に用いるものに大別することができるが、以下、チーズ管用のスラストブロックを製造する方法について図4から図6を用いて説明する。
【0051】
チーズ管用のスラストブロックを製造するにあたり、特定のパネルを用いて型枠を作製する。すなわち、以下の合計4枚のパネルが必要となる(図4):
(パネル1)X軸方向の辺30xとZ軸方向の辺30zを有する側面規定パネル30が1枚;
(パネル2)チーズ管のY軸方向の管端が貫通する孔32aが設けられた部分パネル32と、X軸方向の辺34xとZ軸方向の辺34zを有し、かつ前記部分パネルを嵌め合わせることができる本体パネル34と、を含む構造を有する側面規定パネル36が1枚;
(パネル3、4)チーズ管のX軸方向の管端が貫通する孔38aが設けられた部分パネル38と、Y軸方向の辺40yとZ軸方向の辺40zを有し、かつ前記部分パネルを嵌め合わせることができる本体パネル40と、を含む構造を有する側面規定パネル42が2枚。
【0052】
ここで、側面規定パネルにおける部分パネルおよび本体パネルの嵌め合わせ、および側面規定パネル同士の連結について図5の上段の図を用いて以下に説明する。
【0053】
本体パネル50の嵌め合わせ部分51におけるZ軸方向の両辺51z、および部分パネル56のZ軸方向の両辺56zにおいて、上端部および下端部には留め具52aおよび52bがそれぞれ1個ずつ取り付けられている。なお、本体パネル50に取り付ける留め具52aと部分パネル56に取り付けられている留め具52bは、Y軸方向には重ならない。留め具52aおよび52bの中心部に設けられた孔52azおよび52bzをZ軸方向に重ね合わせ、両方の孔に棒54またはボルト58などを通すことで、部分パネル56を本体パネル50の嵌め合わせ部分に固定することができる。
【0054】
なお、本体パネル50と部分パネル56の嵌め合わせ部分について、図5の下段の当該パネル俯瞰図に示すとおり、型枠内側のX軸方向の辺56xaより型枠外側のX軸方向の辺56xbが狭くなる構造であってもよい。前記の構造によれば、型枠内にスラストブロック材料を流し入れる際に、本体パネル50と部分パネル56の隙間からの材料流出が防がれ、より安定してスラストブロックを作製することができる。
【0055】
また、側面規定パネル同士の連結についても、X軸方向の両端部の辺50zの端部および下端部に留め具52cが取り付けられ、上記の本体パネルおよび部分パネルの場合と同様に、留め具の孔同士を棒54またはボルト58などを通すことで可能である構造であってもよい。前記の構造によれば、側面規定パネル4枚を連結することで、型枠の形状を直方体状に保つことが容易となる。
【0056】
型枠を作製した後のスラストブロック完成までの作業フローを、以下に図6を用いて説明する。なお、以下で説明する作業フローは、いわゆる「陸打ち」と呼ばれる施工形態を想定している。
【0057】
まず、上記のようにして完成した型枠60を底面62に載せる。次に型枠60の内部の、部分パネルに設けられた通し孔60aがそれぞれ適切に当てはまる位置に異形管64を配置する。その後スラストブロック材料を型枠60内をすべて満たすまで流し入れ、上面を均平化したのち、スラストブロック材料を固化させる。固化後のスラストブロック材料から型枠60及び底面62を取り外すことにより、異形管64と一体化したスラストブロック66が完成する。これをパイプライン上の必要箇所に繋ぐことで、スラストブロックの設置が完了する。
【0058】
底面62の材質は、スラストブロック材料固化後に取り外しが可能なものであれば特に問わず、例えば樹脂や、砂を敷いたトレイなどが挙げられる。また、取り外しが容易となるように、型枠60の内面および底面62に、離型剤を塗布、又は離形シートを貼り付けてもよい。前記スラストブロック材料は、型枠に流し入れた後に固化させることが可能であり、固化後にスラスト力に耐えうる質量及び剛性を有する材質であり、例えばコンクリートなどが挙げられる。
【0059】
上記で説明した「陸打ち」の施工形態であれば、たとえばスラストブロック材料がコンクリートの場合、スラストブロックの施工現場におけるコンクリートの養生期間が不要となるため、短い工期での施工が可能となる。
【0060】
スラストブロック完成までの前記作業フローは、「現場打ち」の施工形態をとってもよい。その場合、既に埋設されている異形管を、周りの土の除去等によって露出し、異形管に型枠及び底辺を当て嵌めたうえでスラストブロック材料を流し入れて固化し、固化後に型枠および底辺を取り外して埋め戻す、等の工程が想定される。
【0061】
〔エルボ管用スラストブロックの製造方法〕
本発明の一実施形態における、エルボ管用のスラストブロックを製造する方法について以下に説明する。なお、垂直方向のエルボ管および水平方向のエルボ管で型枠の製造方法が異なる。
【0062】
垂直方向のエルボ管用の型枠作製およびスラストブロックの模式図を図7に示す。垂直方向のエルボ管用のスラストブロックを製造するにあたり、特定のパネル等を用いて型枠を作製する。すなわち、以下の合計5枚のパネルおよび2本の梁が必要となる:
(パネル1)X軸方向の辺70xとZ軸方向70zの辺を有する側面規定パネル70が1枚;
(パネル2)エルボ管のY軸方向の管端が貫通する孔72aが設けられた部分パネル72と、X軸方向の辺74xとZ軸方向の辺74zを有し、かつ前記部分パネルを嵌め合わせることができる本体パネル74と、を含む構造を有する側面規定パネル76が1枚;
(パネル3、4)Y軸方向の辺78yとZ軸方向の辺78zを有する側面規定パネル78が2枚;
(パネル5)エルボ管の垂直方向の管端が貫通する孔80aが設けられた部分パネル80が1枚;
(梁1、2)部分パネル80を支え、パネル70からパネル76へ架ける梁82が2本。
【0063】
以降は、チーズ管用のスラストブロックと同様の方法によって、垂直方向のエルボ管用のスラストブロック83が作製できる。
【0064】
水平方向のエルボ管用の型枠作製およびスラストブロックの模式図を図8に示す。水平方向のエルボ管用のスラストブロックを製造するにあたり、特定のパネルを用いて型枠を作製する。すなわち、以下の合計4枚のパネルが必要となる:
(パネル1)X軸方向の辺70xとZ軸方向70zの辺を有する側面規定パネル70が1枚;
(パネル2)エルボ管のY軸方向の管端が貫通する孔72aが設けられた部分パネル72と、X軸方向の辺74xとZ軸方向の辺74zを有し、かつ前記部分パネルを嵌め合わせることができる本体パネル74と、を含む構造を有する側面規定パネル76が1枚;
(パネル3)Y軸方向の辺78yとZ軸方向の辺78zを有する側面規定パネル78が1枚;
(パネル4)エルボ管のX軸方向の管端が貫通する孔72aが設けられた部分パネル72と、Y軸方向の辺84yとZ軸方向の辺84zを有し、かつ前記部分パネルを嵌め合わせることができる本体パネル84と、を含む構造を有する側面規定パネル86が1枚。
【0065】
以降は、チーズ管用のスラストブロックと同様の方法によって、水平方向のエルボ管用のスラストブロック87が作製できる。
【0066】
なお、本発明の一実施形態に係るスラストブロック作製キットが、前記パネルを含んでいる場合、異形管の管端が面しない部分のパネルについては、本体パネルと部分パネルの嵌め合わせ構造を有する側面規定パネルを用いても、嵌め合わせ構造を有しない側面規定パネルを用いてもよい。嵌め合わせ構造を有する側面規定パネルを用いる場合の、部分パネルの貫通する孔の有無および本体パネルおよび部分パネルの寸法の関係について、図9および図10を用いて以下に説明する。
【0067】
異形管の管端が面しない部分に嵌め合わせ構造を有する側面規定パネルを用いる場合、異形管の管端が面しない部分の側面規定パネルには、貫通する孔を有しない部分パネル90が用いられる。前記スラストブロック作製キットにおける、貫通する孔92aを有する部分パネル92および有しない部分パネル90は、いずれも縦横長が等しいことが好ましい。この縦横長のうち、Y軸方向の辺の長さ92bは、本体パネル94嵌合部下のY軸方向の辺の長さ94aと、貫通する孔92aを有する部分パネル92および有しない部分パネル90のY軸方向の辺の長さ92bの合計が、本体パネル94のY軸方向の辺の長さ94b以上となる長さであればよい。当然、前記縦横長によって、貫通する孔92aを有するパネル92が本体パネル94と嵌め合わせることによって適切な位置に孔92aが配置できる構造となることが必要である。
【0068】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、農業分野等に利用することができる。
【符号の説明】
【0070】
10:用水等パイプライン、12:T型の配管構造、14:L型の配管構造、16:給水配管、18:分岐配管、20:T型の管継手(チーズ管)、20a:分岐管の呼び径(チーズ管)、20b:本管の呼び径(チーズ管)、21:スラストブロック(チーズ管)、22:立ち上がり配管、24:L型の管継手(エルボ管)、26:給水栓、30:側面規定パネル、30x:X軸方向の辺、30z:Z軸方向の辺、32:部分パネル、32a:チーズ管のY軸方向の管端が貫通する孔、34:本体パネル、34x:X軸方向の辺、34z:Z軸方向の辺、36:側面規定パネル、38:部分パネル、38a:チーズ管のX軸方向の管端が貫通する孔、40:本体パネル、40y:Y軸方向の辺、40z:Z軸方向の辺、42:側面規定パネル、50:本体パネル、50z:パネル両端部の辺、51:本体パネル嵌め合わせ部分、51z:本体パネル嵌め合わせ部分のZ軸方向の辺、52a:留め具(本体パネル嵌め合わせ部分側)、52b:留め具(部分パネル側)、52az:留め具の孔(本体パネル側)、52bz:留め具の孔(部分パネル側)、52c:留め具(本体パネル両端)、54:棒、56:部分パネル、56xa:部分パネルの型枠内側のX軸方向の辺、56xb:部分パネルの型枠外側のX軸方向の辺、56z:部分パネルのZ軸方向の辺、58:ボルト、60:型枠、60a:通し孔、62:底面、64:異形管、66:スラストブロック、70:側面規定パネル、70x:X軸方向の辺、70z:Z軸方向の辺、72:部分パネル、72a:エルボ管の水平方向の管端が貫通する孔、74:本体パネル、74x:X軸方向の辺、74z:Z軸方向の辺、76:側面規定パネル、78:側面規定パネル、78y:Y軸方向の辺、78z:Z軸方向の辺、80:部分パネル、80a:エルボ管の垂直方向の管端が貫通する孔80a、82:梁、83:スラストブロック、84:本体パネル、84y:Y軸方向の辺、84z:Z軸方向の辺、86:側面規定パネル、87:スラストブロック、90:部分パネル(孔無し)、92:部分パネル(孔あり)、92a:貫通する孔、92b:部分パネルのブロックの厚さ方向の辺の長さ、94:本体パネル、94a:本体パネルの嵌合部の長さ、94b:本体パネルのブロックの厚さ方向の辺の長さ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10