(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023126026
(43)【公開日】2023-09-07
(54)【発明の名称】着色ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物、インサート成形品及び着色ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物の耐ヒートショック性向上方法
(51)【国際特許分類】
C08L 81/02 20060101AFI20230831BHJP
C08K 5/29 20060101ALI20230831BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20230831BHJP
B29C 45/14 20060101ALI20230831BHJP
【FI】
C08L81/02
C08K5/29
C08K3/013
B29C45/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022030458
(22)【出願日】2022-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】川崎 達也
【テーマコード(参考)】
4F206
4J002
【Fターム(参考)】
4F206AA34
4F206AB12
4F206AB25
4F206AD02
4F206AD03
4F206JA07
4F206JB12
4F206JL02
4F206JQ81
4J002CN011
4J002DE148
4J002DJ038
4J002DJ058
4J002DL007
4J002DL008
4J002ER006
4J002FA018
4J002FA047
4J002FD017
4J002FD018
4J002FD060
4J002FD066
4J002FD096
4J002FD206
4J002GN00
4J002GQ00
4J002GT00
(57)【要約】
【課題】耐ヒートショック性に優れる着色ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物を提供する。耐ヒートショック性に優れるインサート成形品を提供する。着色ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物の耐ヒートショック性を向上させる方法を提供する。
【解決手段】ポリアリーレンサルファイド樹脂と、アニリン-ニトロベンゼン染料を含む耐ヒートショック性向上剤と、を含む、着色ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物とする。着色ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物の耐ヒートショック性を向上させる方法であり、ポリアリーレンサルファイド樹脂を含む樹脂組成物に、アニリン-ニトロベンゼン染料を添加することを含む、方法とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアリーレンサルファイド樹脂と、アニリン-ニトロベンゼン染料を含む耐ヒートショック性向上剤と、を含む、着色ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
【請求項2】
アニリン-ニトロベンゼン染料の水素イオン指数(pH)が6未満である、請求項1に記載の着色ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
【請求項3】
アニリン-ニトロベンゼン染料の含有量が、ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対して0.05~45質量部である、請求項1又は2に記載の着色ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
【請求項4】
無機充填剤を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の着色ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
【請求項5】
無機充填剤が繊維状無機充填剤を含む、請求項4に記載の着色ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
【請求項6】
無機充填剤が板状無機充填剤及び/又は粉粒状無機充填剤を含む、請求項4又は5に記載の着色ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
【請求項7】
無機充填剤の含有量が、ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対して5~250質量部である、請求項4から6のいずれか一項に記載の着色ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
【請求項8】
示差走査熱量測定による溶融状態から冷却し固化する際の結晶化温度(Tc2)が230℃以下である、請求項1から7のいずれか一項に記載の着色ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
【請求項9】
耐ヒートショック性試験片を-40℃にて1.5時間冷却後、180℃にて1.5時間加熱するサイクルを繰り返す試験において、クラックが発生するまでのサイクル数が80以上である、請求項1から8のいずれか一項に記載の着色ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
【請求項10】
インサート成形用である、請求項1から9のいずれか一項に記載の着色ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1から10のいずれかに記載の着色ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物を含む樹脂部材と、インサート部材とを有する、インサート成形品。
【請求項12】
着色ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物の耐ヒートショック性を向上させる方法であり、
ポリアリーレンサルファイド樹脂を含む樹脂組成物に、アニリン-ニトロベンゼン染料を添加することを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着色ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物、インサート成形品及び着色ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物の耐ヒートショック性向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンサルファイド樹脂(以下「PPS樹脂」と呼ぶ場合がある)に代表されるポリアリーレンサルファイド樹脂(以下「PAS樹脂」と呼ぶ場合がある)は、耐熱性、機械的物性、耐化学薬品性、寸法安定性、難燃性に優れていることから、電気・電子機器部品材料、自動車部品材料、化学機器部品材料等に広く使用されている。
しかしながら、PAS樹脂は、製造時における後処理により結晶化速度を促進させている場合があり、その場合にはPAS樹脂又はPAS樹脂組成物の成形加工時において、金型内に完全充填する前に固化がおこり加工性に不具合が生じてしまうことがある。
特許文献1には、ポリアリーレンスルフィド樹脂にアニリン-ニトロベンゼン染料(ニグロシン)を添加することにより、ポリアリーレンスルフィド樹脂の結晶化温度(又は結晶化速度)を減少させることが記載されている。特許文献2には、結晶性を有する熱可塑性樹脂中に、所定のノニオン系界面活性剤及びニグロシンを含有する結晶性樹脂組成物が記載されている。特許文献3には、結晶化可能な熱可塑性ポリマーからなるマトリクス、アジン染料、及び所定の金属塩を含むポリマー組成物が記載されている。
【0003】
また、PAS樹脂単独では、靭性に乏しく脆弱であるため、例えば金属や無機固体物等からなるインサート部材と一体的に成形されたインサート成形品とした場合に、高温と低温とに交互に晒される場合の耐久性、いわゆる耐ヒートショック性(耐高低温衝撃性)に劣ることが知られている。耐ヒートショック性を高める技術の一例として、PASにエラストマーを添加する技術がある(例えば、特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2-228360号公報
【特許文献2】特開2001-214068号公報
【特許文献3】特開2018-502184号公報
【特許文献4】特開2003-176410号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
PAS樹脂を含む樹脂組成物は、着色剤等により着色されていると無着色のPAS樹脂組成物よりも耐ヒートショック性が低下してしまうことがある。
【0006】
本発明の課題は、耐ヒートショック性に優れる着色ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物を提供することにある。本発明の別の課題は、耐ヒートショック性に優れるインサート成形品を提供することにある。本発明のさらに別の課題は、着色ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物の耐ヒートショック性を向上させる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、研究の過程で、PAS樹脂にアニリン-ニトロベンゼン染料を配合することで、着色PAS樹脂組成物の耐ヒートショック性向上させることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
本発明は以下の態様を有する。
[1]ポリアリーレンサルファイド樹脂と、アニリン-ニトロベンゼン染料を含む耐ヒートショック性向上剤と、を含む、着色ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
[2]アニリン-ニトロベンゼン染料の水素イオン指数(pH)が6未満である、[1]に記載の着色ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
[3]アニリン-ニトロベンゼン染料の含有量が、ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対して0.05~45質量部である、[1]又は[2]に記載の着色ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
[4]無機充填剤を含む、[1]から[3]のいずれかに記載の着色ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
[5]無機充填剤が繊維状無機充填剤を含む、[4]に記載の着色ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
[6]無機充填剤が板状無機充填剤及び/又は粉粒状無機充填剤を含む、[4]又は[5]に記載の着色ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
[7]無機充填剤の含有量が、ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対して5~250質量部である、[4]から[6]のいずれかに記載の着色ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
[8]示差走査熱量測定による溶融状態から冷却し固化する際の結晶化温度(Tc2)が230℃以下である、[1]から[7]のいずれかに記載の着色ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
[9]耐ヒートショック性試験片を-40℃にて1.5時間冷却後、180℃にて1.5時間加熱するサイクルを繰り返す試験において、クラックが発生するまでのサイクル数が80以上である、[1]から[8]のいずれかに記載の着色ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
[10]インサート成形用である、[1]から[9]のいずれかに記載の着色ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
[11][1]から[10]のいずれかに記載の着色ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物を含む樹脂部材と、インサート部材とを有する、インサート成形品。
[12]着色ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物の耐ヒートショック性を向上させる方法であり、ポリアリーレンサルファイド樹脂を含む樹脂組成物に、アニリン-ニトロベンゼン染料を添加することを含む、方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、耐ヒートショック性に優れる着色ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物を提供することができる。本発明によれば、耐ヒートショック性に優れるインサート成形品を提供することができる。本発明によれば、着色ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物の耐ヒートショック性を向上させる方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】耐ヒートショック性試験片(インサート成形品)を模式的に示す図であって、(a)は斜視図であり、(b)は平面図である。
【
図2】
図1に示す耐ヒートショック性試験片におけるインサート部材を示す図であって、(a)は斜視図であり、(b)は鋭角形状部分の拡大平面図である。
【
図3】
図1に示す耐ヒートショック性試験片の寸法(mm)についての説明図であって、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜変更を加えて実施することができる。一実施形態について記載した特定の説明が他の実施形態についても当てはまる場合には、他の実施形態においてはその説明を省略している場合がある。本明細書において、数値範囲を示す「X~Y」との表現は、「X以上Y以下」であることを意味している。
【0011】
[着色ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物]
本実施形態に係る着色ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物は、ポリアリーレンサルファイド樹脂と、アニリン-ニトロベンゼン染料を含む耐ヒートショック性向上剤と、を含む。
【0012】
(ポリアリーレンサルファイド樹脂)
PAS樹脂は、以下の一般式(I)で示される繰り返し単位を有する樹脂である。
-(Ar-S)- ・・・(I)
(但し、Arは、アリーレン基を示す。)
【0013】
アリーレン基は、特に限定されないが、例えば、p-フェニレン基、m-フェニレン基、o-フェニレン基、置換フェニレン基、p,p’-ジフェニレンスルフォン基、p,p’-ビフェニレン基、p,p’-ジフェニレンエーテル基、p,p’-ジフェニレンカルボニル基、ナフタレン基等を挙げることができる。PAS樹脂は、上記一般式(I)で示される繰り返し単位の中で、同一の繰り返し単位を用いたホモポリマーの他、異種の繰り返し単位を含むコポリマーとすることができる。
【0014】
ホモポリマーとしては、アリーレン基としてp-フェニレン基を有する、p-フェニレンサルファイド基を繰り返し単位とするものが好ましい。p-フェニレンサルファイド基を繰り返し単位とするホモポリマーは、極めて高い耐熱性を持ち、広範な温度領域で高強度、高剛性を示すからである。このようなホモポリマーを用いることで非常に優れた物性を備える成形体を得ることができる。
【0015】
コポリマーとしては、上記のアリーレン基を含むアリーレンサルファイド基の中で異なる2種以上のアリーレンサルファイド基の組み合わせが使用できる。これらの中では、p-フェニレンサルファイド基とm-フェニレンサルファイド基とを含む組み合わせが、耐熱性、成形性、機械的特性等の高い物性を備える成形体を得るという観点から好ましい。p-フェニレンサルファイド基を70mol%以上含むポリマーがより好ましく、80mol%以上含むポリマーがさらに好ましい。なお、フェニレンサルファイド基を有するPAS樹脂は、PPS樹脂である。
【0016】
PAS樹脂は、一般にその製造方法により、実質的に線状で分岐や架橋構造を有しない分子構造のものと、分岐や架橋を有する構造のものが知られているが、本実施形態においてはその何れのタイプのものについても有効である。中でも、2官能性ハロゲン芳香族化合物を主体とするモノマーから縮重合によって得られる実質的に直鎖状構造の高分子量ポリマーが、特に好ましく使用できる。なお、本実施形態に用いるPAS樹脂は、異なる2種類以上の分子量のPAS樹脂を混合して用いてもよい。
【0017】
PAS樹脂の溶融粘度は、本発明の効果を損ねない範囲であれば特に限定されないが、310℃及びせん断速度1200sec-1で測定した溶融粘度が、上記混合系の場合も含め600Pa・s以下が好ましく、中でも5~500Pa・sの範囲にあるものは、機械的物性と流動性のバランスが優れており、特に好ましい。
【0018】
一実施形態において、PAS樹脂の溶融粘度は、310℃及びせん断速度1200sec-1で測定した溶融粘度が、7~300Pa・sとすることができ、10~250Pa・sとすることができ、13~200Pa・sとすることができる。
【0019】
PAS樹脂の製造方法は、特に限定されず、従来公知の製造方法によって製造することができる。高分子量のPAS樹脂を得る場合は、例えば、低分子量のPAS樹脂を合成後、公知の重合助剤の存在下で、高温下で重合して高分子量化することで製造することもできる。
【0020】
一実施形態において、着色PAS樹脂組成物中のPAS樹脂の含有量は、10~99.95質量%とすることができ、15~90質量%とすることができ、15~85質量%とすることもできるが、これに限定されない。
一実施形態において、着色PAS樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂中の80質量%以上がPAS樹脂であることが好ましく、90質量%以上がPAS樹脂であることがより好ましい。一実施形態において、着色PAS樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂がPAS樹脂のみからなるように構成することもできる。
【0021】
(耐ヒートショック性向上剤)
着色PAS樹脂組成物は、耐ヒートショック性向上剤を含む。耐ヒートショック性向上剤は、アニリン-ニトロベンゼン染料(以下、「ニグロシン」ともいう)を含み、好ましくはアニリン-ニトロベンゼン染料からなる。
「耐ヒートショック性」は、ここでは、後述する着色PAS樹脂組成物についての記載において説明される「耐ヒートショック性試験片」を-40℃にて1.5時間冷却後、180℃にて1.5時間加熱するサイクルを繰り返す試験において、クラックが発生するまでのサイクル数で表される性能を意味する。
「耐ヒートショック性向上剤」は、ここでは、以下の少なくとも一つの条件を満たす剤を意味する。
(i)アニリン-ニトロベンゼン染料に替えてカーボンブラックを含む黒色系樹脂組成物よりも成形品の耐ヒートショック性を向上させる作用を有する、及び/又は
(ii)着色されていない樹脂組成物よりも成形品の耐ヒートショック性を向上させる作用を有する。
なお、条件(i)において用いるカーボンブラックは、算術平均粒子径22nmのカーボンブラック(例えば、三菱ケミカル(株)製、#750B)を用いる。
一実施形態において、耐ヒートショック性向上剤は、上記の条件(i)を満たすことが好ましい。一実施形態において、耐ヒートショック性向上剤は、上記の条件(ii)を満たすことが好ましい。一実施形態において、耐ヒートショック性向上剤は、上記の条件(i)及び(ii)を満たすことが好ましい。
【0022】
特許文献1には、ポリアリーレンサルファイド成形コンパウンドがモールド充填中に固化してしまいモールドを完全に充填することが困難なことがあるという問題点を、ニグロシンを添加することにより解決することが記載されている。しかし、着色されたPAS樹脂は、モールドを完全に充填し、かつ寸法精度よく成形された場合であっても、耐ヒートショック性が低下しやすい。本発明者は、驚くべきことに、PAS樹脂にアニリン-ニトロベンゼン染料を添加することで、耐ヒートショック性を向上させることができることを見出した。
【0023】
アニリン-ニトロベンゼン染料は、水素イオン指数(pH)が、好ましくは6未満であり、より好ましくは3~5.5であり、さらに好ましくは4~5である。アニリン-ニトロベンゼン染料の水素イオン指数(pH)の測定はpHメーターにより行う。
水素イオン指数(pH)が6未満であるアニリン-ニトロベンゼン染料を用いることによって、着色PAS樹脂組成物の耐ヒートショック性を、従来の黒系着色剤であるカーボンブラックを配合した黒色系PAS樹脂組成物よりも高くすることができるだけでなく、無着色のPAS樹脂組成物の成形品と比較しても高くすることができる。つまり、上記条件の(i)及び(ii)のいずれも満たすことができる。
【0024】
アニリン-ニトロベンゼン染料としては、アニリン又はアニリン塩酸塩とニトロベンゼンとに塩酸を加え、銅又は鉄などの触媒下で脱水縮合することにより得られるアジン系化合物;アニリン又はアニリン塩酸塩とニトロベンゼンとに塩酸を加え、銅又は鉄などの触媒下で脱水縮合することにより得られるアジン系化合物を、水酸化ナトリウム等でアルカリ処理することにより得られるアジン系化合物;等が挙げられる。
水素イオン指数(pH)が6未満であるアニリン-ニトロベンゼン染料としては、アニリン又はアニリン塩酸塩とニトロベンゼンとに塩酸を加え、銅又は鉄などの触媒下で脱水縮合することにより得られるアジン系化合物が挙げられ、カラーインデックスにソルベントブラック5として記載されているアニリン-ニトロベンゼン染料を含むことが好ましい。
アニリン-ニトロベンゼン染料の市販品としては、オリヱント化学工業(株)製「ニグロシン815」、「ニグロシン807」、「ニグロシン857」、「ニグロシン827」、「ニグロシン870」等が挙げられ、中でも「ニグロシン815」を含むことが好ましい。
【0025】
アニリン-ニトロベンゼン染料の含有量は、PAS樹脂100質量部に対して、好ましくは0.05~45質量部であり、より好ましくは0.1~40質量部であり、さらに好ましくは0.2~35質量部であり、特に好ましくは0.2~30質量部である。アニリン-ニトロベンゼン染料の含有量を、PAS樹脂100質量部に対して0.05質量部以上にすることにより、成形品の耐ヒートショック性をより向上させることができる。PAS樹脂100質量部に対して45質量部以下にすることにより、設備への着色汚染を抑制することができる。
【0026】
(無機充填剤)
着色PAS樹脂組成物は、必要に応じて、機械強度の向上の観点から、無機充填剤を含んでいてもよい。無機充填剤としては、繊維状無機充填剤、板状無機充填剤、及び粉粒状無機充填剤等が挙げられる。
繊維状無機充填剤としては、ガラス繊維、シリカ繊維、シリカ-アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化珪素繊維、硼素繊維、チタン酸カリ繊維、ウォラストナイト等が挙げられ、中でもガラス繊維が好ましい。繊維状無機充填剤の平均繊維径は、機械物性をより高める観点から、好ましくは9μm以上17μm以下であり、より好ましくは9μm以上15μm以下である。繊維状無機充填剤の平均繊維長は、特に限定されないが、成形体の機械的物性、成形加工性等を考慮し、初期形状における平均繊維長(カット長)が0.01~3mmであることが好ましく、0.05~3mmであることがより好ましく、0.1~3mmであることがさらに好ましく、0.5~3mmであることが特に好ましい。繊維状無機充填剤は、樹脂組成物の比重を軽くする等の目的で、中空の繊維を使用することも可能である。
なお、「平均繊維径」は、走査型電子顕微鏡及び画像処理ソフトを用いて50本の繊維片の断面における最長の直線距離を測定し、その算術平均値とする。「平均繊維長」は、走査型電子顕微鏡及び画像処理ソフトを用いて、50本の繊維片の長さを測定し、その算術平均値とする。
【0027】
板状無機充填剤としては、例えば、ガラスフレーク、マイカ、カオリン、クレイ、アルミナ(板状)等が挙げられる。
板状無機充填剤の平均粒子径(体積基準累積50%径D50)は、初期形状(溶融混練前の形状)において、10μm以上1000μm以下であることが好ましく、30μm以上800μm以下であることがより好ましい。平均粒子径(体積基準累積50%径D50)は、レーザー回折散乱法で測定することができる。
【0028】
粉粒状無機充填剤としては、例えば、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ガラス粉、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、珪藻土等のケイ酸塩、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナ(粒状)等の金属酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の金属炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の金属硫酸塩、その他炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化ホウ素、等を挙げることができる。
【0029】
粉粒状無機充填剤の平均粒子径(体積基準累積50%径D50)は、初期形状(溶融混練前の形状)において、0.1μm以上50μm以下であることが好ましく、1μm以上40μm以下であることがより好ましい。平均粒子径(体積基準累積50%径D50)は、レーザー回折散乱法で測定することができる。
無機充填剤は、上記した各種無機充填剤から選ばれる1以上を含むことができる。
【0030】
無機充填剤は、表面処理されていてもよく、表面処理されていなくてもよい。無機充填剤は、耐ヒートショック性をより向上させる観点から、表面処理されていることが好ましい。表面処理されている場合は、一般的に知られているエポキシ系化合物、イソシアネート系化合物、シラン系化合物、チタネート系化合物、脂肪酸等の各種表面処理剤により表面処理されていてよい。例えば、ガラス繊維の場合は、表面処理することにより、PAS樹脂との密着性を向上させることができる。表面処理剤は、材料調製の前に予め無機充填剤に適用して表面処理又は収束処理を施しておくか、又は材料調製の際に同時に添加してもよい。
一実施形態において、無機充填剤は、耐ヒートショック性をより向上させる観点から、繊維状無機充填剤を含むことが好ましい。一実施形態において、無機充填剤は、板状無機充填剤及び/又は粉粒状無機充填剤を含むことができる。一実施形態において、無機充填剤は、繊維状無機充填剤に加えて、板状無機充填剤及び/又は粉粒状無機充填剤をさらに含むことが好ましい。一実施形態において、板状無機充填剤及び/又は粉粒状無機充填剤を含む場合は、耐ヒートショック性をより向上させる観点から、後述するエラストマーを併用することがより好ましい。別の実施形態において、後述するエラストマーを含まないように構成する場合は、無機充填剤は、繊維状無機充填剤のみからなることがより好ましい。
【0031】
無機充填剤の含有量は、耐熱性及び機械的強度をより高める観点から、PAS樹脂100質量部に対して、好ましくは5~250質量部であり、より好ましくは10~200質量部であり、さらに好ましくは20~150質量部である。
【0032】
(その他の添加剤)
着色PAS樹脂組成物は、必要に応じて、一般に熱可塑性樹脂に添加される公知の物質、例えば、難燃剤、染料や顔料等の着色剤(アニリン-ニトロベンゼン染料を除く)、酸化防止剤や紫外線吸収剤等の安定剤、潤滑剤、離型剤、結晶化促進剤、結晶核剤等を含有していてもよい。
黒色系の成形品が求められる場合は、着色PAS樹脂組成物は、カーボンブラックを含み得る。カーボンブラックの含有量は、耐ヒートショック性をより高める観点から、PAS樹脂100質量部に対して、好ましくは3質量部未満であり、より好ましくは0.01~2質量部である。上記したアニリン-ニトロベンゼン染料は、樹脂組成物を黒色に着色することができるので、一実施形態において、着色PAS樹脂組成物は、カーボンブラックを含まないことが好ましい。
【0033】
着色PAS樹脂組成物は、耐ヒートショック性をより高めるために、エラストマーを含んでいてもよい。エラストマーとしては、オレフィン系共重合体等が挙げられる。成形時にモールドデポジットが発生することを防ぐ観点から、エラストマーの含有量は、ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して、好ましくは35質量部未満であり、より好ましくは0.01~20質量部であり、さらに好ましくは0.1~15質量部であり、特に好ましくは0.1~10質量部である。
着色PAS樹脂組成物は、エラストマーを含まなくても成形品の耐ヒートショック性を向上させることができる。一実施形態において、着色PAS樹脂組成物は、エラストマーを含まないように構成することができる。
【0034】
着色PAS樹脂組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で、必要に応じて、PAS樹脂以外の、他の熱可塑性樹脂を含有していてもよい。他の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエーテルスルフォン樹脂やポリスルフォン樹脂等が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、2種以上混合して使用することもできる。他の熱可塑性樹脂成分の含有量は、例えば、樹脂成形体を構成する全樹脂組成物中20質量%以下、15質量%以下、又は10質量%以下にすることができる。
【0035】
(着色PAS樹脂組成物)
着色PAS樹脂組成物は、アニリン-ニトロベンゼン染料を含むことから黒色系に着色された樹脂組成物であり得る。カーボンブラック等の炭素材料のみを用いて黒色系に着色されたPAS樹脂組成物は耐ヒートショック性が特に低下しやすいが、本実施形態に係る着色PAS樹脂組成物は、黒色系に着色されていても耐ヒートショック性に優れる。一実施形態において、着色PAS樹脂組成物は、CIELAB表色系におけるL*値(明度)が26以下であり得る。
【0036】
一実施形態において、着色PAS樹脂組成物は、耐ヒートショック性試験片を-40℃にて1.5時間冷却後、180℃にて1.5時間加熱するサイクルを繰り返す試験において、クラックが発生するまでのサイクル数が、好ましくは80以上であり、より好ましくは90以上であり、さらに好ましくは100以上であり、特に好ましくは130以上である。
「耐ヒートショック性試験片」は、耐ヒートショック性評価用のインサート成形体であり、以下に述べる特徴を有する。耐ヒートショック性試験片は、インサート部材と、インサート部材の一部を覆う樹脂部材とを有する。インサート部材は、柱状であって、その上面及び底面の形状が、一側が円弧形状であり、他側が鋭角形状である涙型の形状を有している。樹脂部材は、上記した着色PAS樹脂組成物を用いて形成されている。樹脂部材は、厚肉部分と薄肉部分とを有しており、樹脂部材の薄肉部分に向かうようにインサート部材の鋭角形状部分が配置されている。
図1~3に、耐ヒートショック性試験片の概略説明図を示す。
図1は、インサート成形した耐ヒートショック性試験片1を示す図であり、
図2は、インサート部材11を示す図であり、
図3は、耐ヒートショック性試験片1の寸法を示す図である。
図1に示すように、耐ヒートショック性試験片1は、着色PAS樹脂組成物を含む円柱形の樹脂部材10の高さ方向において、金属製のインサート部材11の一部が埋め込まれた状態に成形されている。円柱形の樹脂部材10は、着色PAS樹脂組成物を用いて成形されたものである。
図2に示すように、インサート部材11は、柱状であって、その上面及び底面の形状が、一側が円弧形状、他側が鋭角形状である涙型の形状をなす。鋭角形状部分は、部分拡大図である
図2(b)に示すように、先端は円弧状になっており、この曲率半径rは0.2mmである。インサート部材11は、円柱形の樹脂部材10の高さよりも高く、その一部が突出している(
図1(a)参照)。さらに、
図3(a)に示すように、インサート部材11の円弧を一部とする円の中心O
1と、樹脂部材10の円の中心O
2とは一致せず、インサート部材11の鋭角形状側が樹脂部材10の側面に近接するように配置されている。インサート部材11の鋭角形状の先端と、樹脂部材10の側面との距離dwは1mmであり、樹脂部材10において、インサート部材11の鋭角形状の先端近傍が応力集中部を形成しており、かつ肉厚が最も薄い領域となっている。なお、
図3に、試験片の寸法について数値を示しているが、その単位はmmである。試験片1の樹脂部材10において、樹脂注入口の痕跡(ゲート痕)は、インサート部材11の鋭角形状に最も近い側面の反対側の側面に形成されている。この場合、樹脂部材10において、インサート部材11の鋭角形状に最も近い側面にウェルド部が形成されている。
【0037】
一実施形態において、着色PAS樹脂組成物は、アニリン-ニトロベンゼン染料に替えてカーボンブラックを含む黒色系PAS樹脂組成物の耐ヒートショック性(HSCB)に対する、着色PAS樹脂組成物の耐ヒートショック性(HSNIG)の比(HSNIG/HSCB)が、好ましくは1.1以上であり、より好ましくは1.3以上であり、さらに好ましくは1.5以上であり、特に好ましくは、2.0以上である。なお、カーボンブラックは、算術平均粒子径22nmのカーボンブラック(例えば、三菱ケミカル(株)製、#750B)を用いる。
【0038】
一実施形態において、着色PAS樹脂組成物は、無着色のPAS樹脂組成物の耐ヒートショック性(HSREF)に対する着色PAS樹脂組成物の耐ヒートショック性(HSNIG)の比(HSNIG/HSREF)が、好ましくは1.1以上であり、より好ましくは1.3以上であり、さらに好ましくは1.5以上である。
【0039】
着色PAS樹脂組成物は、固化前の充填度を高める観点及び成形後の残留ひずみ量を少なくする観点から、示差走査熱量測定による溶融状態から冷却し固化する際の結晶化温度(Tc2)が、好ましくは230℃以下であり、より好ましくは228℃以下であり、さらに好ましくは226℃以下である。
示差走査熱量測定は、窒素雰囲気下で、着色PAS樹脂組成物を340℃で3分間保持した後、10℃/分の速度で降温させることにより行う。結晶化温度(Tc2)は、得られたDSCチャートから読み取った発熱ピークの温度とする。
【0040】
着色PAS樹脂組成物は、固化前の充填度を高める観点及び成形後の残留ひずみ量を少なくする観点から、示差走査熱量測定による半結晶化時間が、好ましくは6.0以上であり、より好ましくは8.0以上であり、さらに好ましくは9.0以上である。示差走査熱量測定は、窒素雰囲気下で、着色PAS樹脂組成物を340℃で3分間保持した後、80℃/分の速度で250℃まで降温し、その後250℃で保持することにより行う。半結晶化時間は、得られたDSCチャートから求めた、250℃での温度保持を開始した時点から発熱ピークの面積の1/2になる点までの時間とする。
【0041】
着色PAS樹脂組成物の製造方法は、限定されず、一般に合成樹脂組成物の調製に用いられる設備と方法により行うことができる。一般的には必要な成分を混合し、1軸又は2軸の押出機を使用して溶融混練する。その後、押出して成形用ペレットとすることができる。
【0042】
本実施形態に係る着色PAS樹脂組成物は、電気・電子機器部品材料、自動車部品材料、化学機器部品材料等に広く使用することができる。特に、本実施形態に係る着色PAS樹脂組成物は、耐ヒートショック性に優れるので、インサート成形用(インサート成形品の製造用)に好ましく用いることができる。
【0043】
[インサート成形品]
本実施形態に係るインサート成形品は、上記した着色PAS樹脂組成物を含む樹脂部材と、インサート部材とを有する。一実施形態において、インサート成形品は、上記した着色PAS樹脂組成物を含む樹脂部材とインサート部材とが、インサート成形により一体的に成形されている。着色PAS樹脂組成物については上記とのとおりであるからここでは記載を省略する。
【0044】
インサート部材は、金属、合金又は無機固体物を含むことが好ましい。インサート部材を構成する金属、合金又は無機固体物は、特に限定されないが、成形時に樹脂組成物と接触したとき、変形したり溶融したりしないものが好ましい。例えば、アルミニウム、マグネシウム、銅、鉄等の金属、真鍮等の上記金属の合金、及びガラス、セラミックス等の無機固体物等を挙げることができる。
【0045】
インサート成形品の形状及び大きさは、特に限定されず、用途に応じた形状とすることができる。インサート成形品は、黒色系に着色された成形品であり得る。
【0046】
インサート成形品の製造方法は、限定されず、一般的な射出成形によって製造することができる。例えば、金属や無機固体物等からなるインサート部材を金型内に配置し、該金型内に溶融した着色PAS樹脂組成物を射出することによりインサート成形品を得ることができる。
【0047】
[耐ヒートショック性の向上方法]
本実施形態に係る耐ヒートショック性の向上方法は、着色PAS樹脂組成物成形品の耐ヒートショック性を向上させる方法であり、PAS樹脂を含む樹脂組成物に、アニリン-ニトロベンゼン染料を添加することを含む。
【0048】
「耐ヒートショック性」は、上記のとおりである。「耐ヒートショック性を向上させる」とは、以下の少なくとも一つの条件を満たすことを意味する。
(i)アニリン-ニトロベンゼン染料に替えてカーボンブラックを含む黒色系PAS樹脂組成物よりも成形品の耐ヒートショック性を向上させる、及び/又は
(ii)着色されていないPAS樹脂組成物よりも成形品の耐ヒートショック性を向上させる。
なお、条件(i)において用いるカーボンブラックは、算術平均粒子径22nmのカーボンブラック(例えば、三菱ケミカル(株)製、#750B)を用いる。
一実施形態において、着色PAS樹脂組成物成形品の耐ヒートショック性を向上させる方法は、上記の条件(i)を満たすことが好ましい。一実施形態において、着色PAS樹脂組成物成形品の耐ヒートショック性を向上させる方法は、上記の条件(ii)を満たすことが好ましい。一実施形態において、着色PAS樹脂組成物成形品の耐ヒートショック性を向上させる方法は、上記の条件(i)及び(ii)を満たすことが好ましい。
【0049】
PAS樹脂及びアニリン-ニトロベンゼン染料の種類及び使用量については、上記した着色PAS樹脂組成物に含まれるPAS樹脂及びアニリン-ニトロベンゼン染料の種類及び含有量と同じである。着色PAS樹脂組成物について記載したその他の内容についても、本実施形態に当てはまる。
【0050】
一実施形態において、着色PAS樹脂組成物成形品の耐ヒートショック性を向上させる方法は、上述した耐ヒートショック試験片を-40℃にて1.5時間冷却後、180℃にて1.5時間加熱するサイクルを繰り返す試験において、クラックが発生するまでのサイクル数が、好ましくは80以上にする方法であり、より好ましくは90以上にする方法であり、さらに好ましくは100以上にする方法であり、特に好ましくは130以上にする方法である。
【0051】
一実施形態において、着色PAS樹脂組成物の耐ヒートショック性を向上させる方法は、カーボンブラックを含む黒色系PAS樹脂組成物の耐ヒートショック性(HSCB)に対する、着色PAS樹脂組成物の耐ヒートショック性(HSNIG)の比(HSNIG/HSCB)を、好ましくは1.1以上にする方法であり、より好ましくは1.3以上にする方法であり、さらに好ましくは1.5以上にする方法であり、特に好ましくは、2.0以上にする方法である。なお、カーボンブラックは、算術平均粒子径22nmのカーボンブラック(例えば、三菱ケミカル(株)製、#750B)を用いる。
【0052】
一実施形態において、着色PAS樹脂組成物の耐ヒートショック性を向上させる方法は、無着色のPAS樹脂組成物成形品の耐ヒートショック性(HSREF)に対する着色PAS樹脂組成物の耐ヒートショック性(HSNIG)の比(HSNIG/HSREF)を、好ましくは1.1以上にする方法であり、より好ましくは1.3以上にする方法であり、さらに好ましくは1.5以上にする方法である。
【実施例0053】
以下に実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、これらの実施例により本発明の解釈が限定されるものではない。
【0054】
[材料]
実施例及び比較例で使用した材料は、以下のとおりである。
PPS-1:PPS樹脂、(株)クレハ製、「フォートロンKPS」、溶融粘度30Pa・s(せん断速度1200sec-1、310℃)
PPS-2:PPS樹脂、(株)クレハ製、「フォートロンKPS」、溶融粘度130Pa・s(せん断速度1200sec-1、310℃)
ニグロシン-1:オリヱント化学工業(株)製、「ニグロシン807」(水素イオン指数(pH):6~7)
ニグロシン-2:オリヱント化学工業(株)製、「ニグロシン815」(水素イオン指数(pH):5)
ニグロシン-3:オリヱント化学工業(株)製、「ニグロシン857」(水素イオン指数(pH):6~7)
カーボンブラック:三菱ケミカル(株)製、「#750B」、算術平均粒子径:22nm
ガラス繊維:日本電気硝子(株)製、「チョップドストランド ECS03T-717」、平均繊維径:13μm、平均繊維長3mm
(PPS樹脂の溶融粘度の測定)
上記PPS樹脂の溶融粘度は以下のようにして測定した。
(株)東洋精機製作所製キャピログラフを用い、キャピラリーとして1mmφ×20mmLのフラットダイを使用し、バレル温度310℃、せん断速度1200sec-1での溶融粘度を測定した。
【0055】
[実施例1~3、比較例1及び参考例]
上記材料を用いて、表1に示す組成及び含有割合でドライブレンドした。これをシリンダー温度320℃の二軸押出機に投入して(ガラス繊維は押出機のサイドフィード部より別添加)溶融混練することで、実施例、比較例及び参考例のPAS樹脂組成物ペレットを得た。実施例1~3及び比較例1の各PAS樹脂組成物は、いずれも濃い黒系に着色されていた。なお、参考例のPAS樹脂組成物は、無着色のPAS樹脂組成物である。
【0056】
[測定及び評価]
(示差走査熱量測定(DSC))
各PAS樹脂組成物について、以下のようにして溶融状態から冷却し固化する際の結晶化温度(Tc2)、及び、半結晶化温度を測定した。
使用機器:示差走査熱計(Perkin Elmer社製DSC-8000)
窒素雰囲気下で、サンプル量約8mgを340℃で3分間保持した後、10℃/分の速度で降温し、得られたDSCチャートから発熱ピークの温度を読み取り、結晶化温度(Tc2)とした。
窒素雰囲気下で、サンプル量約8mgを340℃で3分間保持した後、80℃/分の速度で降温した。250℃に達した時点で温度を一定に保持し、得られたDSCチャートから、250℃での温度保持を開始した時点から発熱ピークの面積の1/2になる点までの時間を求め、半結晶化時間とした。結果を表1に示す。
【0057】
(耐ヒートショック性)
各PAS樹脂組成物と金属製のインサート部材とを用い、射出成形により
図1~
図3に示す試験片をインサート成形し、耐ヒートショック性を評価した。
図1~3についての説明は上述のとおりである。
【0058】
上記の試験片に対し、冷熱衝撃試験機(エスペック(株)製)を用い、-40℃にて1.5時間冷却後、180℃にて1.5時間加熱するサイクルを繰り返し、20サイクル毎にウェルド部を観察した。ウェルド部にクラックが発生したときのサイクル数を耐ヒートショック性の指標として評価した。
比較例1のサイクル数(HSCB)に対する実施例1~3のサイクル数(HSNIG)の比(HSNIG/HSCB)を算出した。
参考例のサイクル数(HSREF)に対する実施例及び比較例のサイクル数(HSNIG又はHSCB)の比[(HSNIG/HSREF)又は(HSCB/HSREF)]を算出した。
結果を表1に示す。
【0059】
【0060】
実施例1~3に示すように、PAS樹脂に、アニリン-ニトロベンゼン染料を配合した着色PAS樹脂組成物は、カーボンブラックで着色した比較例1の着色PAS樹脂組成物よりも耐ヒートショック性が向上している。つまり、実施例1~3の着色PAS樹脂組成物は、耐ヒートショック性に優れるインサート成形品を与えることができる。特に、実施例2に示すように、PAS樹脂に、水素イオン指数(pH)が6未満であるアニリン-ニトロベンゼン染料を配合した着色PAS樹脂組成物は、カーボンブラックで着色した比較例1の着色PAS樹脂組成物よりも耐ヒートショック性が顕著に向上しているだけでなく、参考例の無着色のPAS樹脂組成物よりも耐ヒートショック性が顕著に向上している。
比較例1に示すように、アニリン-ニトロベンゼン染料に替えてカーボンブラックを使用した着色PAS樹脂組成物は、参考例の無着色のPAS樹脂組成物と比べて、半結晶化時間が同程度(つまり結晶化速度が同程度)であるが、耐ヒートショック性が大きく低下している。