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特開2023-126027熱伝導シートの製造方法及び熱伝導シート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023126027
(43)【公開日】2023-09-07
(54)【発明の名称】熱伝導シートの製造方法及び熱伝導シート
(51)【国際特許分類】
   B29C 43/58 20060101AFI20230831BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20230831BHJP
   B29C 43/34 20060101ALI20230831BHJP
【FI】
B29C43/58
C08J5/18 CER
C08J5/18 CEZ
B29C43/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022030459
(22)【出願日】2022-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100174001
【弁理士】
【氏名又は名称】結城 仁美
(72)【発明者】
【氏名】金指 安奈
【テーマコード(参考)】
4F071
4F204
【Fターム(参考)】
4F071AA26X
4F071AB03
4F071AC08
4F071AC12
4F071AD06
4F071AE02
4F071AE03
4F071AE17
4F071AF15Y
4F071AF44
4F071AG05
4F071AH12
4F071BB03
4F071BB13
4F071BC01
4F071BC12
4F071BC16
4F204AA16
4F204AA45
4F204AB16
4F204AE10
4F204AG03
4F204AR02
4F204FA01
4F204FB01
4F204FN07
4F204FN11
4F204FN15
(57)【要約】
【課題】使用時に千切れ難い熱伝導シートを提供する。
【解決手段】架橋性樹脂を含有する樹脂と、粒子状充填材と、架橋剤とを含む組成物を用いた、架橋反応を伴う製法に従って熱伝導シートを製造するにあたり、上記の組成物よりなるシート状物の積層体の架橋反応時に、かかる積層体の全表面を治具により固定し、更に、積層方向に加圧する圧力を1.0MPa超とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋性樹脂を含有する樹脂と、粒子状充填材と、架橋剤とを含む組成物を加圧してシート状に成形し、プレ熱伝導シートを得るプレ熱伝導シート成形工程と、
前記プレ熱伝導シートを厚み方向に複数枚積層して、或いは、前記プレ熱伝導シートを折畳または捲回して、積層体を得る積層体形成工程と、
前記積層体を積層方向に加圧しながら加熱して、架橋反応を行う架橋反応工程と、
前記積層体を積層方向に対して45°以下の角度でスライスして、熱伝導シートを得るスライス工程とを含む、熱伝導シートの製造方法であって、
前記架橋反応工程において、前記積層体の全表面を治具により固定し、更に、積層方向に加圧する圧力を1.0MPa超とする、
熱伝導シートの製造方法。
【請求項2】
前記架橋反応工程を、真空雰囲気下にて実施する、請求項1に記載の熱伝導シートの製造方法。
【請求項3】
前記架橋反応工程における前記圧力を2.0MPa以上とする、請求項1又は2に記載の熱伝導シートの製造方法。
【請求項4】
架橋樹脂と、粒子状充填材とを含む、熱伝導シートであって、
前記粒子状充填材の長軸方向の前記熱伝導シートの表面に対する角度が60°以上90°以下であり、
前記熱伝導シートの主面における引張強度を測定した場合に、引張強度が最も高くなる主面内方向を、X方向とし、
前記X方向に対して垂直な主面内方向を、Y方向として、
前記X方向の引張強度Sx(MPa)、前記Y方向の引張強度Sy(MPa)として、
Sx(MPa)が、5.0MPa以上であり、
(Sx/Sy)の値が、3.2以下である、
熱伝導シート。
【請求項5】
孔径が48μm以上500μm以下である微小孔の数が前記熱伝導シートの平面視面積1cm当たり12個以下である、請求項4に記載の熱伝導シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導シートの製造方法及び熱伝導シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、パワー半導体(IGBTモジュールなど)や集積回路(IC)チップ等の電子部品は、高性能化に伴って発熱量が増大している。その結果、電子部品を用いた電子機器では、電子部品の温度上昇による機能障害対策を講じる必要が生じている。
【0003】
電子部品の温度上昇による機能障害対策としては、一般に、電子部品等の発熱体に対し、金属製のヒートシンク、放熱板、放熱フィン等の放熱体を取り付けることによって、放熱を促進させる方法が採られている。そして、放熱体を使用する際には、発熱体から放熱体へと熱を効率的に伝えるために、熱伝導性が高いシート状の部材(熱伝導シート)を介し、この熱伝導シートに対して所定の圧力をかけることで発熱体と放熱体とを密着させている。
【0004】
熱伝導シートには、強度に優れることが求められてきた。例えば、特許文献1及び2では、樹脂及び粒子状充填剤を含有する組成物に対して、架橋剤及び反応開始剤を添加後、シート化し、それを積層体とした状態で熱をかけて架橋反応を進行させることにより得られた積層体をスライスすることで、架橋された垂直配向シートを得ていた。このようにして製造される熱伝導シートは、シート強度が高いものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-055893号公報
【特許文献2】特開2021-155636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、熱伝導シートを発熱体と放熱体との間に挟み込んで加熱した状態で使用した際、加圧と減圧とのサイクルが繰り返されることにより、熱伝導シートのうち強い圧力が加わっている部分から千切れが生じ、発熱体と放熱体との間からはみ出すことがある。電子機器内において、はみ出した熱伝導シートは短絡の原因となり得るため、熱伝導シートは使用時に千切れ難いことが求められる。
【0007】
しかしながら、上記従来技術の熱伝導シートは、使用時における千切れ難さの点において改善の余地があった。
【0008】
そこで、本発明は、使用時に千切れ難い熱伝導シートの製造方法、及び、使用時に千切れ難い熱伝導シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を行った。そして、本発明者らは、架橋性樹脂を含有する樹脂と、粒子状充填材と、架橋剤とを含む組成物を用いた、架橋反応を伴う製法に従って熱伝導シートを製造するにあたり、上記の組成物よりなるシート状物の積層体の架橋反応時に、かかる積層体の全表面を治具により固定し、更に、積層方向に加圧する圧力を1.0MPa超とすることで、得られる熱伝導シートの、使用時における千切れ難さを効果的に高めることができることを新たに見出し、本発明を完成させた。
【0010】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の熱伝導シートの製造方法は、架橋性樹脂を含有する樹脂と、粒子状充填材と、架橋剤とを含む組成物を加圧してシート状に成形し、プレ熱伝導シートを得るプレ熱伝導シート成形工程と、前記プレ熱伝導シートを厚み方向に複数枚積層して、或いは、前記プレ熱伝導シートを折畳または捲回して、積層体を得る積層体形成工程と、前記積層体を積層方向に加圧しながら加熱して、架橋反応を行う架橋反応工程と、前記積層体を積層方向に対して45°以下の角度でスライスして、熱伝導シートを得るスライス工程とを含む、熱伝導シートの製造方法であって、前記架橋反応工程において、前記積層体の全表面を治具により固定し、更に、積層方向に加圧する圧力を1.0MPa超とする、ことを特徴とする。このように、架橋性樹脂を含有する樹脂と、粒子状充填材と、架橋剤とを含む組成物をシート状に成形してから積層体とし、かかる積層体において架橋反応を進行させるにあたり、積層体の全表面を治具により固定し、更に、積層方向に加圧する圧力を1.0MPa超とすることで、得られる熱伝導シートの使用時における千切れ難さを効果的に高めることができる。
【0011】
ここで、本発明の熱伝導シートの製造方法は、前記架橋反応工程を、真空雰囲気下にて実施することが好ましい。架橋反応工程を真空雰囲気下にて実施することにより、熱伝導シートの強度を高めることができる。
【0012】
また、本発明の熱伝導シートの製造方法は、前記架橋反応工程における前記圧力を2.0MPa以上とすることが好ましい。架橋反応工程における前記圧力を2.0MPa以上とすれば、熱伝導シート表面における粗大な開放孔の発生を効果的に抑制することができ、その結果、得られる熱伝導シートの使用時における千切れ難さを一層効果的に高めることができる。
【0013】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の熱伝導シートは、架橋樹脂と、粒子状充填材とを含む、熱伝導シートであって、前記粒子状充填材の長軸方向の前記熱伝導シートの表面に対する角度が60°以上90°以下であり、前記熱伝導シートの主面における引張強度を測定した場合に、引張強度が最も高くなる主面内方向を、X方向とし、前記X方向に対して垂直な主面内方向を、Y方向として、前記X方向の引張強度Sx(MPa)、前記Y方向の引張強度Sy(MPa)として、Sx(MPa)が、5.0MPa以上であり、(Sx/Sy)の値が、3.2以下である、ことを特徴とする。本発明の熱伝導シートは、使用時に千切れ難い。なお、粒子状充填材の長軸方向の熱伝導シート表面に対する角度、熱伝導シートの引張強度Sx及び、Syの値は、それぞれ、本明細書の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0014】
ここで、本発明の熱伝導シートは、孔径が48μm以上500μm以下である微小孔の数が前記熱伝導シートの平面視面積1cm当たり12個以下であることが好ましい。微小孔の数が12個以下である熱伝導シートは、使用時に一層千切れにくく、且つ高品質である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、使用時に千切れ難い熱伝導シートを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明の熱伝導シートは、熱伝導性を有するため、発熱体と放熱体との間に挟み込んで使用することができる。即ち、本発明の熱伝導シートは、放熱部材として、ヒートシンク、放熱板、放熱フィン等の放熱体と共に放熱装置を構成することができる。
そして、本発明の熱伝導シートは、特に限定されないが、後述する本発明の熱伝導シートの製造方法を用いて効率良く製造することができる。
【0017】
(熱伝導シート)
本発明の熱伝導シートは、樹脂と粒子状充填材とを含む。また、本発明の熱伝導シートは、任意で、樹脂および粒子状充填材以外の成分を更に含んでいてもよい。また、本発明の熱伝導シートは、粒子状充填材の長軸方向の前記熱伝導シート表面に対する角度が60°以上90°以下である。そして、本発明の熱伝導シートは、熱伝導シートの主面における引張強度を測定した場合に、引張強度が最も高くなる主面内方向を、X方向とし、X方向に対して垂直な主面内方向を、Y方向として、X方向の引張強度Sx(MPa)、Y方向の引張強度Sy(MPa)として、Sx(MPa)が5.0MPa以上であり、さらに、(Sx/Sy)の値が、3.2以下である、ことを特徴とする。本発明の熱伝導シートは、上記の特徴を満たすため、使用時において千切れ難い。より具体的には、本発明の熱伝導シートは、発熱体と放熱体との間に挟み込まれて加熱された状態で、加圧と減圧とのサイクルが繰り返された場合であっても、千切れが発生し難い。したがって、本発明の熱伝導シートは耐久性に優れている。
【0018】
<樹脂>
本発明の熱伝導シートが樹脂を含有することにより、熱伝導シートを介して発熱体と放熱体とを良好に密着させることができる。なお、本明細書において、ゴムおよびエラストマーは、「樹脂」に含まれるものとする。
本発明の熱伝導シートが含みうる樹脂は、マトリックス樹脂を構成し、また、粒子状充填材を結着する結着材としても機能する。
そして、本発明の熱伝導シートに含まれる樹脂は、架橋樹脂を含有し、任意で、架橋樹脂以外の樹脂(その他の樹脂)を含有する。
【0019】
<<架橋樹脂>>
本発明の熱伝導シートに含まれる樹脂は、架橋樹脂を含有する。架橋樹脂は、架橋剤によって架橋された架橋性樹脂である。そして、本発明の熱伝導シートは、樹脂として架橋樹脂を含むことにより、シート強度を十分に高く確保することができるため、使用時に千切れ難くなる。
【0020】
ここで、架橋樹脂は、通常、常温常圧下で固体である。なお、本明細書において、「常温」とは、23℃を指し、「常圧」とは、1atm(絶対圧)を指す。
【0021】
そして、架橋樹脂は、架橋性樹脂と架橋剤とを架橋反応させることにより形成される。なお、架橋反応においては、反応開始剤を用いることができる。そして、架橋反応としては、特に限定されないが、例えば、反応開始剤としての有機過酸化物の存在下で反応を行うパーオキサイド架橋反応を用いることができる。
【0022】
〔架橋性樹脂〕
架橋性樹脂としては、特に限定されないが、例えば、パーオキサイド架橋反応により架橋剤と反応し得る架橋性樹脂を用いることができる。
そして、架橋性樹脂としては、架橋剤および反応開始剤の種類(即ち、架橋反応の種類)にもよるが、例えば、常温常圧下で固体の樹脂を用いることができる。
【0023】
-常温常圧下で固体の樹脂-
常温常圧下で固体の樹脂としては、例えば、常温常圧下で固体の熱可塑性樹脂などを用いることができる。
【0024】
--常温常圧下で固体の熱可塑性樹脂--
常温常圧下で固体の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリ(アクリル酸2-エチルヘキシル)、アクリル酸とアクリル酸2-エチルヘキシルとの共重合体、ポリメタクリル酸またはそのエステル、ポリアクリル酸またはそのエステルなどのアクリル樹脂;シリコーン樹脂;フッ素樹脂;ポリエチレン;ポリプロピレン;エチレン-プロピレン共重合体;ポリメチルペンテン;ポリ塩化ビニル;ポリ塩化ビニリデン;ポリ酢酸ビニル;エチレン-酢酸ビニル共重合体;ポリビニルアルコール;ポリアセタール;ポリエチレンテレフタレート;ポリブチレンテレフタレート;ポリエチレンナフタレート;ポリスチレン;ポリアクリロニトリル;スチレン-アクリロニトリル共重合体;アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂);スチレン-ブタジエンブロック共重合体またはその水素添加物;スチレン-イソプレンブロック共重合体またはその水素添加物;アクリロニトリル-ブタジエン共重合体またはその水素添加物、ブタジエンゴム;ポリフェニレンエーテル;変性ポリフェニレンエーテル;脂肪族ポリアミド類;芳香族ポリアミド類;ポリアミドイミド;ポリカーボネート;ポリフェニレンスルフィド;ポリサルホン;ポリエーテルサルホン;ポリエーテルニトリル;ポリエーテルケトン;ポリケトン;ポリウレタン;液晶ポリマー;アイオノマー;などが挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を任意の比率で併用してもよい。
これらの中でも、熱伝導シートの難燃性、耐熱性、耐油性、および耐薬品性などを向上させる観点からは、常温常圧下で固体の熱可塑性樹脂としては、常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂が好ましい。また、強度をより高くする観点からは、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体またはその水素添加物が好ましい。
【0025】
=常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂=
常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂は、常温常圧下で固体状の熱可塑性フッ素樹脂であれば、特に制限されない。常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂としては、例えば、フッ化ビニリデン系フッ素樹脂、テトラフルオロエチレン-プロピレン系フッ素樹脂、テトラフルオロエチレン-パープルオロビニルエーテル系フッ素樹脂等、フッ素含有モノマーを重合して得られるエラストマーなどが挙げられる。より具体的には、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド、ポリクロロトリフルオロエチレン、エチレン-クロロフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン-パーフルオロジオキソール共重合体、ポリビニルフルオライド、テトラフルオロエチレン-プロピレン共重合体、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ビニリデンフルオライド-テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレンのアクリル変性物、ポリテトラフルオロエチレンのエステル変性物、ポリテトラフルオロエチレンのエポキシ変性物およびポリテトラフルオロエチレンのシラン変性物、などが挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を任意の比率で併用してもよい。
【0026】
また、市販されている、常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂(フルオロエラストマー(フッ素ゴム))としては、例えば、ダイキン工業株式会社製のダイエル(登録商標)G-912、G-700シリーズ、ダイエルG-550シリーズ/G-600シリーズ、ダイエルG-310;ALKEMA社製のKYNAR(登録商標)シリーズ、KYNAR FLEX(登録商標)シリーズ;スリーエム社製のダイニオンFC2211、FPO3600ULV;などが挙げられる。
【0027】
〔架橋剤〕
架橋剤としては、上述した架橋性樹脂と架橋反応し得るものであれば、特に限定されず、例えば、トリアリルイソシアヌレート(例えば、三菱ケミカル株式会社製のTAIC(登録商標))等のイソシアヌレート類;トリアリルシアヌレート等のシアヌレート類;N,N’-m-フェニレンジマレイミド等のマレイミド類;ジアリルフタレート、ジアリルイソフタレート、ジアリルマレエート、ジアリルフマレート、ジアリルセバケート、トリアリルホスフェート等の多価酸のアリルエステル;ジエチレングリコールビスアリルカーボネート;エチレングリコールジアリルエーテル、トリメチロールプロパンのトリアリルエーテル、ペンタエリトリットの部分的アリルエーテル等のアリルエーテル類;アリル化ノボラック、アリル化レゾール樹脂等のアリル変性樹脂;トリメチロールプロパントリメタクリレートやトリメチロールプロパントリアクリレート等の、3~5官能のメタクリレート化合物やアクリレート化合物;などが挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を任意の比率で併用してもよい。
上述した中でも、架橋剤としては、トリアリルイソシアヌレートを用いることが好ましい。トリアリルイソシアヌレートを使用すれば、より容易に反応させることで、熱伝導シートのシート強度を向上させることができるからである。
【0028】
なお、架橋反応における架橋剤の使用量は、架橋性樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上であることが好ましく、0.4質量部以上であることがより好ましく、0.6質量部以上であることが更に好ましく、10質量部以下であることが好ましく、7.5質量部以下であることがより好ましく、3.5質量部以下であることが更に好ましい。架橋剤の使用量が上記下限以上であれば、形成される架橋樹脂が架橋剤により十分に架橋されるため、熱伝導シートのシート強度を向上させて、使用時の千切れ難さを更に高めることができる。また、架橋剤の使用量が上記下限以上であれば、熱伝導シートが圧力を印加された際にも十分につぶれにくくなり、使用時に一層千切れにくくなり得る。一方、架橋剤の使用量が上記上限以下であれば、形成される架橋樹脂が架橋剤により過度に架橋されることを抑制し、熱伝導シートの柔軟性を良好に維持することができる。また、架橋剤の使用量が上記上限以下であれば、架橋反応時におけるガスの発生を抑制することができ、熱伝導シートの表面を滑らかにすることができる。
【0029】
〔反応開始剤〕
架橋性樹脂と架橋剤との架橋反応に使用し得る反応開始剤としては、特に限定されず、例えば、ジベンゾイルパーオキサイド(例えば、日本油脂株式会社製のナイパーE)、t-ブチルパーオキシアセテート、2,2-ジ-(t-ブチルパーオキシ)ブタン、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルクミルパーオキシド、ジクミルパーオキサイド、ジ-t-ヘキシルパーオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン(例えば、日本油脂株式会社製のパーヘキサ25B-40(登録商標))、ジ-t-ブチルパーオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキセン-3、t-ブチルヒドロパーオキシド、t-ブチルパーオキシイソブチレート、ラウロイルパーオキシド、ジプロピオニルパーオキシド、p-メンタンハイドロパーオキサイド等のラジカル反応開始剤として機能する有機過酸化物、などが挙げられる。これらは、1種単独で、あるいは2種以上を任意の比率で併用してもよい。
例えば、架橋反応に反応開始剤を使用することにより、ラジカルが発生して、架橋反応をスムーズに開始させることができる。
上述した中でも、反応開始剤としては、ジベンゾイルパーオキサイドを用いることが好ましい。ジベンゾイルパーオキサイドを使用すれば、低い温度(例えば150℃以下)で良好に架橋反応を行うことができるため、ガスの発生量が減少し、熱伝導シートに形成される微小孔の数を低減できるため、熱伝導シートの使用時の千切れ難さを更に高めることができる。
【0030】
なお、架橋反応における反応開始剤の使用量は、架橋性樹脂100質量部に対して、0.3質量部以上であることが好ましく、0.6質量部以上であることがより好ましく、0.9質量部以上であることが更に好ましく、12質量部以下であることが好ましく、8.5質量部以下であることがより好ましく、5.5質量部以下であることが更に好ましい。反応開始剤の使用量が上記下限以上であれば、形成される架橋樹脂が架橋剤により十分に架橋されるため、熱伝導シートのシート強度を向上させて、使用時の千切れ難さを更に高めることができる。また、反応開始剤の使用量が上記下限以上であれば、架橋構造の密度を十分に高めてシート強度を効果的に高めることができるため、熱伝導シートが圧力を印加された際にも十分につぶれにくくなる。熱伝導シートがつぶれにくければ、熱伝導シートの使用時に発熱体や放熱体との間に一定の空間を保持することができるようになる。一方、反応開始剤の使用量が上記上限以下であれば、架橋反応におけるガスの発生量を少なくすることで、熱伝導シートに形成される微小孔の数を低減できるため、熱伝導シートの使用時の千切れ難さを更に高めることができる。また、反応開始剤の使用量が上記上限以下であれば、架橋反応時におけるガスの発生を抑制することができ、熱伝導シートの表面を滑らかにすることができる。
【0031】
また、架橋反応における架橋剤の使用量と反応開始剤の使用量との質量比(架橋剤/反応開始剤)は、1/3以上3/1以下とすることができる。
【0032】
〔架橋樹脂の形成方法〕
架橋樹脂は、上述した架橋性樹脂と、架橋剤と、必要に応じて使用される反応開始剤とを、加熱して架橋反応を行うことで、形成することができる。なお、架橋反応の際の加熱温度および加熱時間等の条件については、「熱伝導シートの製造方法」の項において後述する。
【0033】
〔架橋樹脂の含有割合〕
熱伝導シートに含まれる樹脂中の架橋樹脂の割合は、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、85質量%以上であることがさらに好ましく、100質量%であることが特に好ましい。樹脂中の架橋樹脂の割合が上記下限値以上であれば、熱伝導シートのシート強度を向上させて、使用時の千切れ難さを更に高めることができる。
なお、熱伝導シートに含まれる架橋樹脂の量は、通常、熱伝導シートの製造の際に使用した架橋性樹脂の量と一致する。したがって、熱伝導シートに含まれる樹脂中の架橋樹脂の割合は、通常、熱伝導シートの製造に使用した樹脂(架橋性樹脂と、架橋性樹脂以外の樹脂とを含む樹脂)中の架橋性樹脂の割合と一致するものとする。
【0034】
<<その他の樹脂>>
なお、本発明の熱伝導シートに含まれる樹脂は、上述した架橋樹脂以外の樹脂(以下、「その他の樹脂」と称することがある。)を含んでいてもよい。ここで、その他の樹脂は、架橋されていない樹脂(非架橋樹脂)である。また、その他の樹脂としては、上述した架橋剤と架橋反応しない樹脂(「非架橋性樹脂」とも称する。)を用いることができる。例えば、その他の樹脂としては、架橋剤とパーオキサイド架橋反応しない樹脂を用いることができる。
そして、その他の樹脂としては、例えば、常温常圧下で液体の樹脂を用いることができる。常温常圧下で液体の樹脂としては、特に限定されないが、例えば、特開2021-155636号公報に記載の各種の樹脂を用いることができる。
【0035】
<粒子状充填材>
粒子状充填材としては、特に限定されることはなく、例えば、アルミナ粒子、酸化亜鉛粒子、窒化ホウ素粒子、窒化アルミニウム粒子、窒化ケイ素粒子、炭化ケイ素粒子、酸化マグネシウム粒子および粒子状炭素材料などを用いることができる。なお、粒子状炭素材料としては、特に限定されることなく、例えば、人造黒鉛、鱗片状黒鉛、薄片化黒鉛、天然黒鉛、酸処理黒鉛、負極活物質、膨張性黒鉛、膨張化黒鉛などの黒鉛;カーボンブラック;などを用いることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
なお、これらの粒子状充填材は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を任意の比率で混合して用いてもよい。
【0036】
そして、製造される熱伝導シートの熱伝導性を高める観点から、粒子状充填材のアスペクト比(長軸/短軸)が、1超10以下であることが好ましく、1超5以下であることがより好ましい。粒子状充填材のアスペクト比が1超10以下であれば、熱伝導シート中で粒子状充填材が厚み方向に良好に配向し易くなるためと推察されるが、熱伝導シートの厚み方向の熱伝導性を高めることができる。
なお、本発明において、「アスペクト比」は、粒子状充填材をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察し、任意の50個の粒子状充填材について、最大径(長軸)と、最大径に直交する方向の粒子径(短軸)とを測定し、長軸と短軸の比(長軸/短軸)の平均値を算出することにより求めることができる。なお、上記において、例えば粒子状充填材が鱗片形状である場合、「長軸」は当該鱗片形状が有する主面の長軸の方向の長さを指し、「短軸」は当該主面の長軸に直交する方向の長さを指すものとする。
【0037】
<<粒子状充填材の性状>>
粒子状充填材の体積平均粒子径は、10μm以上であることが好ましく、20μm以上であることが好ましく、30μm以上であることがより好ましく、40μm以上であることが更に好ましく、180μm以下であることが好ましく、160μm以下であることがより好ましく、140μm以下であることが更に好ましい。粒子状充填材の体積平均粒子径が上記下限以上であれば、熱伝導シート中で粒子状充填材の伝熱パスが良好に形成可能であるためと推察されるが、熱伝導シートの熱伝導性を高めることができる。一方、粒子状充填材の体積平均粒子径が上記上限以下であれば、熱伝導シートの厚み精度を十分に高く確保することができる。また、粒子状充填材の体積平均粒子径が上記所定の範囲内であれば、熱伝導シートの使用時の千切れ難さを更に高めることができる。
なお、本発明において「体積平均粒子径」は、JIS Z8825に準拠して測定することができ、レーザー回折法で測定された粒度分布(体積基準)において、小径側から計算した累積体積が50%となる粒子径を表す。
【0038】
<<粒子状充填材の含有量>>
そして、熱伝導シート中の粒子状充填材の含有量は、樹脂100質量部に対して、70質量部以上であることが好ましく、90質量部以上であることがより好ましく、110質量部以上であることが更に好ましく、400質量部以下であることが好ましく、350質量部以下であることがより好ましい。熱伝導シート中の粒子状充填材の含有量が上記下限以上であれば、後述する熱伝導シートの製造方法における架橋反応工程の際に、発生したガスが粒子状充填材の表面または内部を通じて効率良く排出されるため、熱伝導シートの表面の微小孔の数を低減することにより、熱伝導シートの使用時の千切れ難さを更に高めることができる。また、熱伝導シート中の粒子状充填材の含有量が上記下限値以上であれば、熱伝導シートの熱伝導性を高めることができる。一方、熱伝導シート中の粒子状充填材の含有量が上記上限以下であれば、熱伝導シートの柔軟性を十分に維持することができ、結果として熱抵抗を低減することができる。また、熱伝導シート中の粒子状充填材の含有量が上記上限以下であれば、熱伝導シート中の樹脂の割合が高まり、粒子状充填材同士が樹脂によって良好に結着されるため、熱伝導シートの使用時の千切れ難さを更に高めることができる。
【0039】
<<粒子状充填材の体積の割合>>
熱伝導シートにおける樹脂および粒子状充填材の合計体積に占める粒子状充填材の体積の割合は、25体積%以上であることが好ましく、30体積%以上であることがより好ましく、85体積%以下であることがより好ましく、80体積%以下であることが更に好ましい。熱伝導シートにおける樹脂および粒子状充填材の合計体積に占める粒子状充填材の体積の割合が上記下限以上であれば、後述する熱伝導シートの製造方法における架橋反応工程の際に、発生したガスが粒子状充填材の表面または内部を通じて効率良く排出されるため、熱伝導シートの表面の微小孔の数を低減することにより、熱伝導シートの使用時の千切れ難さを更に高めることができる。また、熱伝導シートにおける樹脂および粒子状充填材の合計体積に占める粒子状充填材の体積の割合が上記下限以上であれば、熱伝導シートの熱伝導性を高めることができる。一方、熱伝導シートにおける樹脂および粒子状充填材の合計体積に占める粒子状充填材の体積の割合が上記上限以下であれば、熱伝導シートの柔軟性を十分に維持することができ、結果として熱抵抗を低減することができる。また、熱伝導シートにおける樹脂および粒子状充填材の合計体積に占める粒子状充填材の体積の割合が上記上限以下であれば、熱伝導シート中の樹脂の割合が高まり、粒子状充填材同士が樹脂によって良好に結着されるため、熱伝導シートの使用時の千切れ難さを更に高めることができる。
なお、上記「熱伝導シートにおける樹脂および粒子状充填材の合計体積」のうち、樹脂に含まれる架橋樹脂の体積は、通常、熱伝導シートの製造に使用した架橋性樹脂の体積と一致する。したがって、上記「熱伝導シートにおける樹脂および粒子状充填材の合計体積」は、通常、熱伝導シートの製造に使用した樹脂と、粒子状充填材との合計体積と一致する。
【0040】
<その他の成分>
本発明の熱伝導シートは、任意で、上述した樹脂および粒子状充填材以外の成分(以下、「その他の成分」と称することがある。)を更に含んでいてもよい。そして、その他の成分としては、熱伝導シートの製造に使用され得る成分であれば、特に制限されることなく、例えば、繊維状炭素材料;赤りん系難燃剤、りん酸エステル系難燃剤等の難燃剤;脂肪酸エステル系可塑剤等の可塑剤;ウレタンアクリレート等の靭性改良剤;酸化カルシウム、酸化マグネシウム等の吸湿剤;シランカップリング剤、チタンカップリング剤、酸無水物などの接着力向上剤;ノニオン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤等の濡れ性向上剤;無機イオン交換体等のイオントラップ剤;分散剤;受酸剤などが挙げられる。
【0041】
<熱伝導シートの構造>
本発明の熱伝導シートは、上述した粒子状充填材の長軸方向の熱伝導シート表面に対する角度が60°以上90°以下であることを必要とする。熱伝導シートにおいて粒子状充填材の長軸方向の熱伝導シート表面に対する角度が60°以上90°以下であれば、熱伝導シートの厚み方向の熱伝導性を高めることができる。
ここで、「粒子状充填材の長軸方向の熱伝導シート表面に対する角度」は、70度以上であることが好ましく、80度以上であることがより好ましく、85度以上であることが更に好ましい。角度が上記下限値以上であれば、熱伝導性を一層高めることができるとともに、熱伝導シートの表面の滑らかさ、及び強度を高めることができる。なお、「粒子状充填材の長軸方向の熱伝導シート表面に対する角度」は、後述する架橋反応工程における圧力を高めることによって、高めることができる。
【0042】
<X方向の引張強度Sx(MPa)>
本発明の熱伝導シートは、熱伝導シートの主面における引張強度を測定した場合、引張強度が最も高くなる主面内方向XをX方向として、X方向の引張強度Sx(MPa)が5.0MPa以上であることを必要とし、5.5MPa以上であることがより好ましい。なお、X方向の引張強度Sxの値の上限は特に限定されないが、通常、12.0MPa以下でありうる。なお、X方向の引張強度Sxは、後述する架橋反応工程において、架橋反応工程において、積層体の全表面を治具により固定すること、及び、圧力を調節すること、あるいは樹脂組成や架橋剤の量を調整することにより、高めることができる。
【0043】
<X方向の引張強度Sx(MPa)をY方向の引張強度Sy(MPa)で除した値(Sx/Sy)>
本発明の熱伝導シートは、主面内方向Xに対して垂直な主面内方向をY方向として、当該Y方向における引張強度を引張強度Syと表記した場合に、(Sx/Sy)の値が、3.2以下であることが必要であり、3.0以下であることが好ましい。(Sx/Sy)の値が上記上限値以下であれば、シートの主面内方向における引張強度の偏りが少ないため、発熱体と放熱体との間に挟まれて使用した際に、熱伝導性に優れるとともに、発熱体及び放熱体による加圧に起因する千切れが生じにくい。その理由は明らかではないが、シートの主面内方向における引張強度の偏りが少ないために、シートが加圧されても、比較的強度が弱い方向と比較的強度が強い方向との間で生じうる応力差が小さくなるため、かかる応力差に起因してシートに千切れが生じることが少ないためと推察される。(Sx/Sy)の値の下限は特に限定されないが、例えば、1.1以上でありうる。なお、(Sx/Sy)の値は、後述する架橋反応工程において、架橋反応工程において、積層体の全表面を治具により固定すること、及び、圧力を調節することあるいは樹脂組成や架橋剤の量を調整することにより、高めることができる。
【0044】
なお、本発明の熱伝導シート及び熱伝導シートの製造方法において、X方向は、通常、積層体の積層方向に対して垂直な方向と一致する。よって、X方向に対して垂直なY方向は、通常、積層体の積層方向と一致する。
【0045】
<微小孔>
本発明の熱伝導シートの表面には微小孔(「ピンホール」とも称する)が少ない。なお、熱伝導シートの表面の微小孔は、例えば、熱伝導シートの製造時に行う樹脂の架橋反応で発生したガスによって形成される。そして、熱伝導シートの表面に形成された微小孔は、熱伝導シートの使用時に千切れが生じる原因になり得る。これに対して、本発明の熱伝導シートは、表面に形成された微小孔の数が少ないため、使用時に千切れ難い。
【0046】
具体的には、孔径が48μm以上500μm以下である微小孔の数が、熱伝導シートの平面視面積1cm当たりで、12個以下であることが好ましく、5個以下であることがより好ましく、微小孔が存在しないことがさらに好ましい。熱伝導シートにおける上記微小孔の数が上記上限値以下であれば、熱伝導シートは使用時に千切れにくく、且つ高品質である。
なお、熱伝導シートにおける上記微小孔の数は、例えば、熱伝導シートの製造方法において使用する樹脂に占める架橋性樹脂の割合、樹脂および粒子状充填材の合計体積に占める粒子状充填材の体積の割合、並びに、架橋反応工程の条件(加熱温度、加熱時間、圧力など)により調整することができる。
【0047】
<熱伝導シートの厚み>
本発明の熱伝導シートの厚みは、特に限定されないが、200μm以下であることが好ましく、150μm以下であることがより好ましく、100μm以下であることが更に好ましく、50μm以上であることが好ましく、60μm以上であることがより好ましく、70μm以上であることがより好ましい。熱伝導シートの厚みが上記上限以下であれば、熱伝導シートの厚み方向の熱伝導性を高めることができる。一方、熱伝導シートの厚みが上記下限以上であれば、熱伝導シートが過度に薄膜化しないため、熱伝導シートの使用時の千切れ難さ、難燃性、強度、およびハンドリング性を十分に高く確保することができる。
【0048】
(熱伝導シートの製造方法)
本発明の熱伝導シートの製造方法は、架橋性樹脂を含有する樹脂と、粒子状充填材と、架橋剤とを含む組成物を加圧してシート状に成形し、プレ熱伝導シートを得るプレ熱伝導シート成形工程と、プレ熱伝導シートを厚み方向に複数枚積層して、或いは、プレ熱伝導シートを折畳または捲回して、積層体を得る積層体形成工程と、積層体を積層方向に加圧しながら加熱して、架橋反応を行う架橋反応工程と、積層体を積層方向に対して45°以下の角度でスライスして、熱伝導シートを得るスライス工程と、を含む。そして、本発明の製造方法は、架橋反応工程において、積層体の全表面を治具により固定し、更に、積層方向に加圧する圧力を1.0MPa超とすることを特徴とする。なお、本発明の熱伝導シートは、任意で、上以外の工程を更に含んでいてもよい。
【0049】
ここで、本発明の熱伝導シートの製造方法によれば、架橋反応工程において、積層体の全表面を治具により固定し、更に、積層方向に加圧する圧力を1.0MPa超とすることで、製造される熱伝導シートにおいて、粒子状充填材の長軸方向の熱伝導シート表面に対する角度、及びX方向の引張強度Sx(MPa)を高めるとともに、(Sx/Sy)の値を低く抑えることができる。さらに、熱伝導シートに形成される微小孔(ピンホール)の数を低減できるため、熱伝導シートを使用時に千切れ難くすることができる。
【0050】
<プレ熱伝導シート成形工程>
プレ熱伝導シート成形工程では、架橋性樹脂を含有する樹脂と、粒子状充填材と、架橋剤とを含む組成物を加圧してシート状に成形し、プレ熱伝導シートを得る。
【0051】
<<組成物>>
上記組成物は、架橋性樹脂を含有する樹脂と、粒子状充填材と、架橋剤とを含む。なお、上記組成物は、反応開始剤を更に含んでいてもよい。さらに、上記組成物は、上述した樹脂、粒子状充填材、架橋剤、反応開始剤以外の成分(その他の成分)を更に含んでいてもよい。
【0052】
〔樹脂〕
ここで、組成物に含まれる樹脂は、架橋性樹脂を含有し、任意で、架橋性樹脂以外の樹脂(非架橋性樹脂)を含有する。架橋性樹脂としては、例えば、「熱伝導シート」の項で上述した架橋樹脂の形成に使用し得る架橋性樹脂を用いることができる。また、架橋性樹脂以外の樹脂(非架橋性樹脂)としては、例えば、「熱伝導シート」の項で上述した樹脂に含まれ得る架橋樹脂以外の樹脂(その他の樹脂)を用いることができる。
【0053】
〔粒子状充填材〕
また、粒子状充填材としては、例えば、「熱伝導シート」の項で上述した粒子状充填材を用いることができる。
【0054】
ここで、組成物中の樹脂および粒子状充填材の合計体積に占める粒子状充填材の体積の割合は、25体積%以上であることが好ましく、30体積%以下であることが好ましく、85体積%以下であることがより好ましく、80体積%以下であることが更に好ましい。組成物中の樹脂および粒子状充填材の合計体積に占める粒子状充填材の体積の割合が上記下限値以上であると、後述する架橋反応工程の際に、発生したガスが粒子状充填材の表面または内部を通じて効率良く排出されるため、製造される熱伝導シートの表面の微小孔の数を低減することにより、熱伝導シートを使用時に千切れ難くすることができる。また、組成物中の樹脂および粒子状充填材の合計体積に占める粒子状充填材の体積の割合上記下限値以上であると、製造される熱伝導シートの熱伝導性を高めることができる。一方、組成物中の樹脂および粒子状充填材の合計体積に占める粒子状充填材の体積の割合が上記上限以下であれば、製造される熱伝導シートの柔軟性を十分に維持することができ、結果として熱抵抗を低減することができる。また、組成物中の樹脂および粒子状充填材の合計体積に占める粒子状充填材の体積の割合が上記上限以下であれば、製造される熱伝導シート中の樹脂の割合が高まり、粒子状充填材同士が樹脂によって良好に結着されるため、熱伝導シートの使用時の千切れ難さを更に高めることができる。
【0055】
なお、組成物中の樹脂100質量部に対する粒子状充填材の含有量は、「熱伝導シート」の項で上述した熱伝導シート中の樹脂100質量部に対する粒子状充填材の含有量の好ましい範囲と同じ範囲内で設定することができる。
【0056】
〔架橋剤〕
架橋剤としては、「熱伝導シート」の項で上述した架橋樹脂の形成に使用し得る架橋剤を用いることができる。
【0057】
なお、組成物中の架橋性樹脂100質量部に対する架橋剤の含有量は、「熱伝導シート」の項で上述した架橋性樹脂100質量部に対する架橋剤の使用量の好ましい範囲と同じ範囲内で設定することができる。
【0058】
〔反応開始剤〕
反応開始剤としては、「熱伝導シート」の項で上述した架橋樹脂を形成するための架橋反応に使用し得る反応開始剤を用いることができる。
【0059】
なお、組成物中の架橋性樹脂100質量部に対する反応開始剤の含有量は、「熱伝導シート」の項で上述した架橋反応における架橋性樹脂100質量部に対する反応開始剤の使用量の好ましい範囲と同じ範囲内で設定することができる。
また、組成物中の架橋剤と反応開始剤との質量比(架橋剤/反応開始剤)は、例えば、「熱伝導シート」の項で上述した架橋反応における架橋剤の使用量と反応開始剤の使用量との質量比(架橋剤/反応開始剤)の範囲と同じ範囲で設定することができる。
【0060】
〔その他の成分〕
組成物中に含まれ得るその他の成分としては、「熱伝導シート」の項で上述した熱伝導シートに含まれ得る分散剤等のその他の成分を用いることができる。
【0061】
〔組成物の調製〕
組成物は、特に限定されることはなく、上述した成分を混合することにより調製することができる。
なお、上述した成分の混合は、特に制限されることなく、ニーダー;ヘンシェルミキサー、ホバートミキサー、ハイスピードミキサー等のミキサー;二軸混練機;ロール;などの既知の混合装置を用いて行うことができる。また、混合は、酢酸エチル等の溶媒の存在下で行ってもよい。溶媒に予め樹脂を溶解または分散させて樹脂溶液として、粒子状充填材および架橋剤、並びに任意で添加される反応開始剤およびその他の成分と混合してもよい。そして、混合時間は、例えば、5分以上60分以下とすることができる。また、混合温度は、例えば、5℃以上150℃以下とすることができる。
【0062】
<<組成物の成形>>
そして、上述のようにして調製した組成物は、任意に脱泡および解砕した後に、加圧してシート状に成形することができる。このように組成物を加圧成形したシート状のものを、プレ熱伝導シートとすることができる。なお、混合時に溶媒を用いている場合には、溶媒を除去してからシート状に成形することが好ましく、例えば、真空脱泡を用いて脱泡を行えば、脱泡時に溶媒の除去も同時に行うことができる。
【0063】
ここで、組成物は、圧力が負荷される成形方法であれば、特に制限されることなく、プレス成形、圧延成形または押し出し成形などの既知の成形方法を用いてシート状に成形することができる。中でも、組成物は、圧延成形(一次加工)によりシート状に成形することが好ましく、保護フィルムに挟んだ状態でロール間を通過させてシート状に成形することがより好ましい。なお、保護フィルムとしては、特に制限されることなく、サンドブラスト処理を施したポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等を用いることができる。また、ロール温度は5℃以上150℃以下、ロール間隙は50μm以上2500μm以下、ロール線圧は1kg/cm以上3000kg/cm以下、ロール速度は0.1m/分以上20m/分以下とすることができる。
【0064】
<<プレ熱伝導シート>>
そして、組成物を加圧してシート状に成形してなるプレ熱伝導シートでは、粒子状充填材が主として面内方向に配向し、特にプレ熱伝導シートの面内方向の熱伝導性が向上すると推察される。
【0065】
<(B)積層体形成工程>
積層体形成工程では、プレ熱伝導シート成形工程で得られたプレ熱伝導シートを厚み方向に複数枚積層して、或いは、プレ熱伝導シートを折畳または捲回して、樹脂および粒子状充填材を含む熱伝導シートが厚み方向に複数形成された積層体を得る。ここで、プレ熱伝導シートの折畳による積層体の形成は、特に制限されることなく、折畳機を用いてプレ熱伝導シートを一定幅で折り畳むことにより行うことができる。また、プレ熱伝導シートの捲回による積層体の形成は、特に制限されることなく、プレ熱伝導シートの短手方向または長手方向に平行な軸の回りにプレ熱伝導シートを捲き回すことにより行うことができる。また、プレ熱伝導シートの積層による積層体の形成は、特に制限されることなく、積層装置を用いて行うことができる。例えば、シート積層装置(日機装社製、製品名「ハイスタッカー」)を用いれば、層間に空気が入り込むことを抑えることができるため、良好な積層体を効率的に得ることができる。
【0066】
なお、積層工程では、得られた積層体を、後述の架橋反応工程の加熱温度よりも低い温度で加熱しながら、積層方向に加圧(二次加圧)することが好ましい。後述の架橋反応工程の加熱温度よりも低い温度で加熱しながら積層体を積層方向に加圧する二次加圧を行った上で、後述する架橋反応工程を行うことにより、積層されたプレ熱伝導シート相互間の融着を促進した状態で架橋反応を行えるため、積層体における各層の界面間の架橋強度を向上させることができる。
【0067】
ここで、積層体を積層方向に加圧する際の圧力は、0.01MPa以上とすることができ、0.03MPa以上であることが好ましく、0.05MPa以上であることがより好ましく、0.50MPa以下とすることができ、0.30MPa以下であることが好ましく、0.10MPa以下であることがより好ましい。
【0068】
また、積層体の加熱温度は、後述の架橋反応工程の加熱温度よりも低い温度であれば、特に限定されないが、90℃未満とすることができ、85℃以下であることが好ましく、80℃以下であることがより好ましく、30℃以上とすることができ、40℃以上であることが好ましく、50℃以上であることがより好ましい。
さらに、積層体の加熱時間は、例えば、30秒間以上5分間以下とすることができる。
【0069】
なお、プレ熱伝導シートを積層、折畳または捲回して得られる積層体では、粒子状充填材が積層方向に略直交する方向に配向していると推察される。
【0070】
<(C)架橋反応工程>
架橋反応工程では、積層体を積層方向に加圧しながら加熱して、架橋反応を行う。この際、積層体の全表面を治具により固定し、更に、積層方向に加圧する圧力を1.0MPa超とする。架橋反応工程では、架橋性樹脂が架橋反応して架橋樹脂が形成されるため、製造される熱伝導シートのシート強度が向上し、熱伝導シートを使用時に千切れ難くすることができる。ここで、架橋反応工程は、得られる熱伝導シート表面をより一層滑らかにする観点、得られる熱伝導シートの強度を高める観点から、さらには、得られる熱伝導シートの潰れにくさを高める観点から、真空雰囲気下にて実施することが好ましい。
【0071】
ここで、架橋反応において積層体に対して積層方向に印加する圧力は、1.0MPa超である必要があり、2.0MPa以上であることが好ましく、2.5MPa以上であることがより好ましく、5.0MPa以下であることが好ましく、4.0MPa以下であることがより好ましい。積層体に対して積層方向に印加する圧力が上記下限以上であれば、製造される熱伝導シートの主面内方向Xのシート強度を向上させるとともに、架橋反応において、熱伝導シートの表面に微小孔が形成されることを抑制することができる。これにより、熱伝導シートの使用時の千切れ難さを更に高めることができる。さらに、架橋反応において積層体に対して積層方向に印加する圧力が上記下限以上であれば、熱伝導シート表面の滑らかさを高めることができる。そして、架橋反応において積層体に対して積層方向に印加する圧力が上記下限以上であれば、シート強度を効果的に高めることができるため、熱伝導シートが圧力を印加された際にも十分につぶれにくくなる。一方、架橋反応において積層体に対して積層方向に印加する圧力が上記上限以下であれば、積層体が過度に圧縮されて積層構造が崩れることを抑制することができる。
【0072】
また、架橋反応工程において、積層体の全表面を治具により固定するにあたり、積層体の積層方向の底面及び上面にそれぞれ平板を配置して挟み込むとともに、積層体の側面の全てにも、平板を配置して上下の平板を用いて積層体を押圧した際に側面が移動しないように抑えることができる。積層体の形状は特に限定されないが、例えば、積層体が立方体又は直方体形状であった場合には、4面の側面全てに、金属板のような剛体よりなる平板を密着配置する。また、例えば、積層体が八角柱形状である場合には、8面の側面全てに平板を密着配置する。このように、架橋反応において、積層体の全表面を治具により固定した状態とすることで、熱伝導シートの表面に微小孔が形成されることを効果的に抑制することができ、これにより、熱伝導シートの使用時の千切れ難さを更に高めることができる。
【0073】
そして、架橋反応工程における加熱温度は、180℃以下であることが必要または好ましく、170℃以下であることがより好ましく、160℃以下であることが更に好ましく、90℃以上であることが好ましく、100℃以上であることがより好ましく、110℃以上であることが更に好ましい。架橋反応工程における加熱温度が上記上限値以下であると、架橋反応工程において発生するガスの量を少なくすることで、製造される熱伝導シートに形成される微小孔(ピンホール)の数を低減できるため、熱伝導シートを使用時に千切れ難くすることができる。一方、架橋反応工程における加熱温度が上記下限値以上であれば、架橋反応を良好に行うことで、製造される熱伝導シートのシート強度を向上させて、使用時の千切れ難さを更に高めることができる。
【0074】
また、架橋反応工程における加熱時間は、1時間以上であることが好ましく、3時間以上であることがより好ましく、5時間以上であることが更に好ましく、24時間以下であることが好ましく、12時間以下であることがより好ましく、8時間以下であることが更に好ましい。架橋反応工程における加熱時間が上記下限以上であれば、架橋反応を良好に行うことで、製造される熱伝導シートのシート強度を向上させて、使用時の千切れ難さを更に高めることができる。一方、架橋反応工程における加熱時間が上記上限以下であれば、架橋反応が過度に進行することを抑制し、熱伝導シートの柔軟性を良好に維持することができる。
【0075】
<(D)スライス工程>
スライス工程では、架橋反応工程において架橋反応した積層体を、積層方向に対して45°以下の角度でスライスし、積層体のスライス片よりなる熱伝導シートを得る。ここで、積層体をスライスする方法としては、特に限定されることなく、例えば、マルチブレード法、レーザー加工法、ウォータージェット法、ナイフ加工法等が挙げられる。中でも、熱伝導シートの厚みを均一にし易い点で、ナイフ加工法が好ましい。また、積層体をスライスする際の切断具としては、特に限定されることなく、スリットを有する平滑な盤面と、このスリット部より突出した刃部とを有するスライス部材(例えば、鋭利な刃を備えたカンナやスライサー)を用いることができる。
【0076】
なお、熱伝導シートの熱伝導性を高める観点からは、積層体をスライスする角度は、積層方向に対して30°以下であることが好ましく、積層方向に対して15°以下であることがより好ましく、積層方向に対して略0°である(即ち、積層方向に沿う方向である)ことが好ましい。
【0077】
そして、このようにして得られた熱伝導シートは、使用時に千切れにくい。また、このようにして得られた熱伝導シートでは、厚み方向に粒子状充填材が良好に配向しており、厚み方向の熱伝導性に優れている。
【実施例0078】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」および「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
【0079】
各実施例および各比較例において、各種属性の測定または評価を、それぞれ以下の方法により行った。
【0080】
<粒子状充填材の配向角度>
熱伝導シート中の粒子状充填材の配向角度は、熱伝導シートを正八角形に切断した断面を走査型電子顕微鏡(SEM、日立ハイテクノロジーズ製「SU-3500」)にて当該シートの上端から下端までが収まる倍率で観察した。なお、このときの倍率は700倍であった。この断面における粒子状充填材の長軸に50本線を引き、複合シートの表面に対する長軸の角度の平均を算出した。なお、角度が90°以上であった場合には補角を採用した。これを8面に対して実施し、8面の中で最も値の大きなものを複合シート中の粒子状充填材の配向角度とした。
【0081】
<熱伝導シートの厚み方向の熱伝導率>
各実施例および比較例で製造した熱伝導シートについて、厚み方向の熱拡散率α(m2/s)、定圧比熱Cp(J/g・K)および比重ρ(g/m3)を以下の方法で測定した。
[熱拡散率α(m2/s)]
熱物性測定装置(株式会社ベテル製、製品名「サーモウェーブアナライザTA35」)を使用して、厚み方向の熱拡散率を測定した。
[定圧比熱Cp(J/g・K)]
示差走査熱量計(Rigaku製、製品名「DSC8230」)を使用し、10℃/分の昇温条件下における比熱を測定した。
[比重ρ(g/m3)]
自動比重計(東洋精機社製、商品名「DENSIMETER-H」)を用いて比重(密度)(g/m3)を測定した。
そして、得られた測定値を用いて下記式(I):
λ=α×Cp×ρ・・・(I)
に代入し、熱伝導シートの厚み方向の熱伝導率λ(W/m・K)を求めた。
【0082】
<熱伝導シートの表面粗さSa>
各実施例および比較例で製造した熱伝導シートの表面粗さSaは、三次元形状測定機(株式会社キーエンス製、製品名「ワンショット3D測定マクロスコープ」)を用いて測定した。
具体的には、熱伝導シートの評価対象の表面から抽出した5点の解析範囲(1cm×1cm)について、三次元形状を測定した。なお、5点抽出する際に各解析範囲は1cm以上離れていることが望ましいが、熱伝導シートのサイズが小さい場合は、解析範囲の一部 が重なっていても構わない。また、熱伝導シートのサイズが小さく、1cm×1cmの解析範囲を確保できない場合には、解析範囲を0.3cm×0.3cmまで小さくしてもよい。
さらに、三次元形状の測定結果に対してソフトウェアでフィルター処理(2.5mm)を行い、うねり成分を取り除くことにより、表面粗さSa(μm)を自動計算し、5点の解析範囲の平均値を熱伝導シートの表面粗さSaとした。
【0083】
<熱伝導シートの圧縮率>
各実施例および比較例で製造した熱伝導シートの圧縮率は、熱抵抗試験器(株式会社日立テクノロジーアンドサービス製、製品名「樹脂材料熱抵抗測定装置」)を用いて測定した。ここで、1cm角の略正方形に切り出した熱伝導シートを試料とし、加圧前の熱伝導シートの厚みの値(T0.1)を測定した。試料温度50℃において、0.9MPaの圧力を加えた状態における熱伝導シートの厚みの値(T0.9)を測定した。測定値を下記式(1)に代入して熱伝導シートの圧縮率の値(C)を算出した。熱伝導シートの圧縮率が低ければ、熱伝導シートの使用時に圧力を受けた際にも、熱伝導シートがつぶれにくいことを意味する。
C=100×{1-(T0.9/T0.1)}[%]・・・(1)
【0084】
<熱伝導シートのシート強度>
各実施例および比較例で製造した熱伝導シートをX方向に20mm、Y方向に50mmのサイズで打ち抜いたものを試験片とした。得られた試験片について、小型卓上試験機(日本電産シンポ社製、「FGS-500TV」、デジタルフォースゲージとしてFGP-50を使用)を用いて、引張速度を20mm/分として、試験片をY方向に引っ張る引張試験を行った。なお、チャック間距離は30mmとした。引張試験時における最大強度(N)を試験体の断面積(幅20mm×厚み0.1mm=2mm2)で除して、熱伝導シートのY方向のシート強度(N/mm2)を算出した。
なお、上記において、「X方向」とは、「熱伝導シートの主面についてシート強度を測定した場合にシート強度が最も高くなる主面内方向」を意味する。そして、各実施例および比較例で製造した熱伝導シートは積層体のスライス片からなるため、上述と同様の方法で熱伝導シートの主面についてシート強度を測定したところ、「X方向」は積層体の積層方向に対して垂直な方向と一致していた。
また、「Y方向」とは、「X方向に対して垂直な主面内方向(積層体の積層方向と一致する方向)」を意味する。
【0085】
<熱伝導シートの微小孔の個数>
各実施例および比較例で製造した熱伝導シートの微小孔の個数は、外観検査装置(長野オートメーション株式会社製、製品名「00-6724 外観検査装置」)を用いて測定した。具体的には、台座に設置した熱伝導シートの背面から、LEDライトで照らし、シート全体をカメラで撮影した。得られた画像を画像処理により二値化し、白色部を特定した。これらの白色部のうち、最大径および最小径の双方が48μm以上500μm以下であるものを微小孔とし、その個数を測定した。得られた熱伝導シート全体の微小孔の数と、熱伝導シートの平面視面積から、熱伝導シートの平面視面積1cm2当たりの微小孔の数を算出した。
A:微小孔が存在しない。
B:微小孔が1~5個。
C:微小孔が6~12個。
D:微小孔が13個以上。
【0086】
(実施例1)
<組成物の調製>
架橋性樹脂としての常温常圧下で固体のフルオロエラストマー(フッ素ゴム)(スリーエムジャパン社製、商品名「Dyneon(登録商標)FPO3600ULV」、比重:1.77)100部と、粒子状充填材としての膨張化黒鉛(伊藤黒鉛工業株式会社製、商品名「EC300」、体積平均粒子径:50μm、アスペクト比:1超5以下、比重:2.25)140部とを、加圧ニーダー(日本スピンドル製)を用いて、温度150℃にて20分間撹拌混合した。次に、装置温度を60℃に下げた後、反応開始剤としてのジベンゾイルパーオキサイド(日油社製、商品名「パーヘキサ25B-40」)1.08部と、架橋剤としてのトリアリルイソシアヌレート(日本化成社製、商品名「TAIC」)0.72部と、受酸剤としての酸化マグネシウム(協和化学工業株式会社製、商品名「キョーワマグ150」)1.00部を混合し、材料温度60℃を維持した状態で10分間混錬した。次に、上述で得られた混合物を粉砕機(三庄インダストリー社製、製品名「ハンマークラッシャーHN34S」)に投入し、60秒間粉砕することにより、架橋性樹脂、粒子状充填材、架橋剤、および反応開始剤を含有する組成物を得た。
【0087】
<プレ熱伝導シート成形工程>
次いで、得られた組成物50gを、サンドブラスト処理を施した厚み50μmのPETフィルム(保護フィルム)で挟み、ロール間隙550μm、ロール温度50℃、ロール線圧50kg/cm、ロール速度1m/分の条件にて圧延成形(一次加圧)し、厚み1.0mmのプレ熱伝導シートを得た。
【0088】
<積層体形成工程>
続いて、得られたプレ熱伝導シートを縦50mm×横50mm×厚み1.0mmに裁断し、プレ熱伝導シートの厚み方向に55枚積層し、更に、温度80℃、圧力0.1MPaで1分間、積層方向にプレス(二次加圧)することにより、高さ49mmの積層体を得た。この二次加圧により積層体の層間をより密着させた。
【0089】
<架橋反応工程>
続いて、得られた積層体を、加圧台を構成する平板上に載置した。載置にあたり、積層体の向きは、当該積層体の積層底面が加圧台を構成する平板上に接するような向きとした。そして、積層体の側面に相当する4面を厚さ2cmのアルミ板で覆い、中の積層体が動かないようにした。仮に積層体の体積が変化してもアルミ板が動かないようにアルミ板を固定した。さらに上から、加圧台を構成する平板と対をなす、加圧板を構成する平板を積層上面に接するように配置した。そして、加圧板を加圧台に対して近づけるようにして、積層体の積層方向に3.0MPaの圧力をかけた。この状態、すなわち、直方体形状の積層体の六面が全て治具(金型)で固定されて、3.0MPaの圧力が印加された状態で、150℃、真空雰囲気下で6時間にわたり加熱することで架橋反応(加硫)を進行させた。尚、架橋反応工程は、具体的には真空熱加圧装置(装置名「VS02-1515」、ミカドテクノス株式会社製)を用いて行った。
【0090】
<スライス工程>
その後、スライスに必要な長さを残して、得られた積層体の上面の全体を金属板で押さえ、積層方向に(即ち、上から)0.1MPaの圧力をかけて、積層体を固定した。なお、積層体の側面、背面の固定は行わなかった。このとき、積層体の温度は25℃であった。
次いで、サーボプレス機(放電精密加工研究所製)のプレス部分に、切断刃(両刃、刃角2θ:20°、刃部の最大厚み:3.5mm、材質:超鋼、ロックウェル硬度:91.5、刃面のシリコン加工:なし、全長:200mm)を取り付け、スライス速度200mm/秒、スライス幅100μmの条件で積層体の積層方向(換言すれば、積層されたプレ熱伝導シートの主面の法線に一致する方向に)にスライスして、縦50mm×横50mm×厚み0.10mmの熱伝導シートを得た。
そして、得られた熱伝導シートについて、上述の方法に従って、各種の測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0091】
(実施例2)
架橋反応工程における積層方向に印加する圧力を1.0MPaに変更した。それ以外は実施例1と同様の各種操作、測定、及び評価を実施した。結果を表1に示す。
【0092】
(実施例3)
架橋反応工程の雰囲気を大気圧とした。それ以外は実施例1と同様の各種操作、測定、及び評価を実施した。結果を表1に示す。
【0093】
(実施例4)
組成物の調製に際して、実施例1における反応開始剤の配合部数を5.60部に、架橋剤の配合部数を3.73部にした。それ以外は実施例1と同様の各種操作、測定、及び評価を実施した。結果を表1に示す。
【0094】
(実施例5)
組成物の調製に際して、粒子状充填材として六方晶 窒化ホウ素(h-BN)粒子(Dandong Chemical Engineering製、商品名「HSL」、体積平均粒子径:30μm、アスペクト比:1.2、比重:2.27)300部を配合した。それ以外は実施例1と同様の各種操作、測定、及び評価を実施した。結果を表1に示す。
【0095】
(実施例6)
組成物の調製に際して、架橋性樹脂として、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体の水素化物(日本ゼオン社製、商品名「ZP2000L」、比重:1、表1中、「水素添加ニトリルゴムと表記」)100部を配合し、膨張化黒鉛の配合量を120部に変更し、反応開始剤の配合量を7.00部に変更し、架橋剤の配合量を5.00部に変更した。これらの点以外は、実施例1と同様の各種操作、測定、及び評価を実施した。結果を表1に示す。
【0096】
(比較例1)
架橋反応工程において、積層体の側面をアルミ板で覆わずに架橋を行った。これらの点以外は、実施例1と同様の各種操作を試みた。ただし、積層工程において積層体が崩れてしまい、スライスができず、熱伝導シートを得ることができなかった。結果を表1に示す。
【0097】
(比較例2)
架橋反応工程における圧力を0.8MPaとした。これらの点以外は、実施例1と同様の各種操作、測定、及び評価を実施した。結果を表1に示す。
【0098】
【表1】
【0099】
表1より、架橋性樹脂を含有する樹脂と、粒子状充填材と、架橋剤とを含む組成物を用いた、架橋反応を伴う製法に従って熱伝導シートを製造するにあたり、上記の組成物よりなるシート状物の積層体の架橋反応時に、かかる積層体の全表面を治具により固定し、更に、積層方向に加圧する圧力を1.0MPa超とした実施例1~6では、使用時に千切れ難い熱伝導シートを形成できたことが分かる。
一方、架橋反応時に積層体の全面を治具で固定しなかった比較例1、及び積層方向に加圧する圧力を1.0MPa以下とした比較例2では、使用時に千切れにくい熱伝導シートを形成できなかったことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明によれば、使用時に千切れ難い熱伝導シートを提供することができる。