(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023126488
(43)【公開日】2023-09-07
(54)【発明の名称】体内環境再現装置
(51)【国際特許分類】
A61B 5/324 20210101AFI20230831BHJP
【FI】
A61B5/324
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【公開請求】
(21)【出願番号】P 2023116187
(22)【出願日】2023-07-14
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、ムーンショット型研究開発事業、「極低侵襲BMIの研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17 条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100190621
【弁理士】
【氏名又は名称】崎間 伸洋
(74)【代理人】
【識別番号】100212510
【弁理士】
【氏名又は名称】笠原 翔
(72)【発明者】
【氏名】関谷 毅
(72)【発明者】
【氏名】根津 俊一
(72)【発明者】
【氏名】塩見 智則
(72)【発明者】
【氏名】鹿嶋 幸朗
(72)【発明者】
【氏名】植村 隆文
(72)【発明者】
【氏名】荒木 徹平
(57)【要約】
【課題】体内伝送される信号が、体内雑音の影響を受ける環境を再現する装置を提供すること。
【解決手段】体内環境再現装置は、疑似体液を入れることができる容器、および容器の内部に配置された少なくとも一対の電極を備え、電極には、人体内に存在する電磁波を模した疑似波形が印加される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
疑似体液を入れることができる容器、および前記容器の内部に配置された少なくとも一対の電極を備え、
前記電極には、人体内に存在する電磁波を模した疑似波形が印加される、
体内環境再現装置。
【請求項2】
前記疑似波形は、心電を模した疑似心電波形、および筋電を模した疑似筋電波形のうちの少なくとも一方を含む、
請求項1に記載の体内環境再現装置。
【請求項3】
前記容器の外部には、振動付与装置が配置され、
前記振動付与装置は、人の発声によって発生する振動を模した疑似発声波形によって振動する、
請求項1または2に記載の体内環境再現装置。
【請求項4】
前記電極には、さらに、商用電源を雑音源とするハムノイズを模した疑似波形が印加される、
請求項1または2に記載の体内環境再現装置。
【請求項5】
前記容器は、前記容器に入れられた疑似体液の中に、信号を有線または無線で伝送する装置の少なくとも一部を浸漬できるように構成される、
請求項1または2に記載の体内環境再現装置。
【請求項6】
請求項1または2に記載の体内環境再現装置と、信号送信機と、信号受信機と、前記信号送信機と前記信号受信機とを接続するケーブルと、を備え、
前記ケーブルの少なくとも一部は、前記容器に入れられた疑似体液中に配置され、
前記の少なくとも一対の電極は、前記ケーブルを挟むように配置される、
体内環境再現システム。
【請求項7】
請求項1または2に記載の体内環境再現装置と、信号送信機と、信号受信機と、前記信号送信機に接続された信号送信導体と、前記信号受信機に接続された信号受信導体と、を備え、
前記信号送信導体および前記信号受信導体は、前記容器に入れられた疑似体液中に配置され、
前記の少なくとも一対の電極を結ぶ方向は、前記信号送信導体と前記信号受信導体とを結ぶ方向と交わる、
体内環境再現システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、体内環境再現装置に関する。
【背景技術】
【0002】
人の生理学的変化を観察するために、体内にセンサなどを埋め込む技術がある。特許文献1は、複数の装置を体内に埋め込むこと、および埋め込んだ装置間で無線伝送を行うこと、を開示する。
【0003】
装置間で無線伝送を行う場合、装置が大きくなる場合がある。装置が送受信にかかわる部品を含むためである。そこで、体内に埋め込んだ装置を有線で接続する技術がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、体内で検出される信号は、一般的に微弱である。体内で検出された信号を伝送する場合、信号が雑音から受ける影響を抑制することが望まれる。それを可能にする伝送方法などを開発するためには、その評価手法を確立する必要がある。具体的には、体内で伝送される信号が、雑音の影響を受ける環境を再現することが望まれる。特には、体内で伝送される信号が、もともと体内に存在する雑音の影響を受ける環境を再現することが望まれる。なお、以下、体内で伝送することを、体内伝送とよぶ。また、もともと体内に存在する雑音を、体内雑音とよぶ。
【0006】
しかし、これまで、体内伝送される信号が、体内雑音の影響を受ける環境を再現する装置は提案されていない。そこで、本開示は、体内伝送される信号などが、体内雑音の影響を受ける環境を再現する装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の体内環境再現装置は、疑似体液を入れることができる容器、および前記容器の内部に配置された少なくとも一対の電極を備え、前記電極には、人体内に存在する電磁波を模した疑似波形が印加される。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、体内伝送される信号が、体内雑音の影響を受ける環境を再現する装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】本開示の体内環境再現装置を用いた体内環境再現システムを示す図である。
【
図3】体内環境再現装置をXY平面において平面視した図である。
【
図4】体内環境再現装置をXZ平面において平面視した図である。
【
図5】体内環境再現装置をYZ平面において平面視した図である。
【
図6】体内環境再現装置の機能的な構成を示す図である。
【
図8】血管内ブレインマシンインターフェースシステムの構成を示す図である。
【
図9】本開示の体内環境再現装置を用いた体内環境再現システムの他の例を示す図である。
【
図10】飲み込み型カプセル内視鏡システムの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、本開示の体内環境再現装置1の一例を示す図である。体内環境再現装置1は、体内の雑音環境を疑似的に再現する装置である。
【0011】
体内に埋め込まれた配線を、体内埋設配線とよぶ。体内環境再現装置1は、体内埋設配線を介して体内伝送される信号が体内雑音から受ける影響の評価を、可能にする。
【0012】
体内に埋め込まれた機器を、体内埋設機器とよぶ。体内環境再現装置1は、体内埋設機器から、無線によって体外に伝送される信号が体内雑音から受ける影響の評価を、可能にする。
【0013】
以上のように、体内環境再現装置1は、体内を有線または無線で伝送される信号が体内雑音から受ける影響の評価を、可能にする。
【0014】
なお、体内雑音は、複数の雑音が干渉した干渉体内雑音を含む。体内環境再現装置1は、干渉雑音環境の再現を可能にする。
【0015】
図1に示すように、体内環境再現装置1は、容器10、および一対の電極30を含む。容器10には、生理食塩水3が入れられる。容器10は、例えばポリ容器とすることができる。生理食塩水3は、疑似体液の一例である。生理食塩水3の濃度の例は、0.9%である。
【0016】
一対の電極30は、雑音を発生させるための電極である。電極30の少なくとも一部は、容器10内の生理食塩水3に浸漬される。
【0017】
体内環境再現装置1において、生理食塩水3は、体液に対応する。一対の電極30が発生させる電位差は、雑音に対応する。
【0018】
容器10は、容器10に入れられた生理食塩水3の中に、信号を有線または無線で伝送する装置の少なくとも一部を浸漬できるように構成される。これによって、体内を有線または無線によって伝送される信号が雑音から受ける影響を評価できる。
【0019】
容器10に入れられた生理食塩水3の中に、信号を有線で伝送する装置の少なくとも一部が浸漬された構成を、体内環境再現システム70として、
図2などに基づいて、後に説明する。また、容器10に入れられた生理食塩水3の中に、信号を無線で伝送する装置の少なくとも一部が浸漬された構成を、体内環境再現システム72として、
図9などに基づいて、後に説明する。
【0020】
体内環境再現装置1を具体的に説明する。
図1に示す体内環境再現装置1においては、容器10の形状は、ほぼ直方体形状である。なお、容器10の形状は、直方体形状には限定されない。
【0021】
図1に互いに直交する3つの方向、X方向、Y方向、およびZ方向を示す。
図1に示す体内環境再現装置1においては、X方向は、容器10の長手方向に平行な方向である。Z方向は、生理食塩水3の深さ方向と平行な方向である。X方向、Y方向、およびZ方向は、他の図においても、
図1と同様の方向を示す。
【0022】
一対の電極30には、電圧信号生成装置34が接続される。電圧信号生成装置34は、任意の波形の信号を生成する装置である。電圧信号生成装置34は、ファンクションジェネレータともよばれる。電極30と電圧信号生成装置34とは、配線5を介して接続される。
【0023】
電圧信号生成装置34が生成する波形を変えることによって、種々の体内雑音を生成できる。体内雑音の例は、心電を雑音源とする雑音、および筋電を雑音源とする雑音である。
【0024】
人体内には、心電および筋電など、種々の電磁波が存在する。実在する電磁波を模した波形を疑似波形とよぶ。心電を雑音源とする雑音を発生させる場合、電圧信号生成装置34は、心電を模した疑似波形を生成する。心電を模した疑似波形を、疑似心電波形とよぶ。
【0025】
筋電を雑音源とする雑音を発生させる場合、電圧信号生成装置34は、筋電を模し疑似波形を生成する。筋電を模し疑似波形を、疑似筋電波形とよぶ。
【0026】
雑音源は、心電および筋電に限定されない。人体内に存在する他の電磁波を雑音源としてもよい。
【0027】
また、人体外に存在する電磁波を雑音源としてもよい。例えば、商用電源ノイズを雑音源としてもよい。なお、商用電源ノイズは、ハムノイズともよばれる。雑音源については、後に
図6、
図7A、
図7B、
図7C、および
図7Dに基づいて説明する。
【0028】
電極30の間に、電圧信号生成装置34が生成する疑似波形に応じたノイズが発生する。これによって、容器10に入れられた生理食塩水3の内部に、雑音源に対応した雑音環境を再現できる。
【0029】
なお、電極30の材料は、生理食塩水に浸漬されても錆びにくい材料が好ましい。電極30の材料の例は、金メッキを施した銅、および白金などである。電極30の形状の例は、長方形の平板形状、あるいは長方形のメッシュ形状である。電極30は、電極貼り付け台32などを介して、容器10の内壁に固定してもよい。
【0030】
振動付与装置50を説明する。体内雑音は、雑音源が心電または筋電であるような、電位変動による雑音のみではない。人の発声に起因する振動雑音も体内雑音に含まれる。振動付与装置50は、振動雑音を再現する装置である。振動付与装置50は、生理食塩水3に、振動を付与する。振動付与装置50の例は、圧電スピーカおよび圧電振動子である。
【0031】
振動付与装置50は、例えば、容器10の内壁に配置される。振動付与装置50の少なくとも一部は、生理食塩水3に浸漬される。
【0032】
振動付与装置50には、配線5を介して、疑似音声発生器52が接続される。疑似音声発生器52は、任意の音声に対応する信号を生成する装置である。疑似音声発生器52が生成した信号は、配線5を介して、振動付与装置50に伝送される。振動付与装置50は、受信した信号に基づいた振動を発生させる。振動付与装置50が発生させた振動は、容器10内の生理食塩水3に印加される。
【0033】
体内環境再現装置1は、振動付与装置50および疑似音声発生器52を備えることによって、人の発声に起因する振動雑音を再現できる。
【0034】
容器10の底面には、防振材9が配置される。防振材9の例は、防振ゴムである。防振材9は、振動付与装置50以外からの振動が生理食塩水3に印加されることを抑制する。
【0035】
以下、体内環境再現装置1について、体内環境再現装置1の使用例を参照して、より具体的に説明する。
図2は、体内環境再現システム70の例を示す図である。体内環境再現システム70は、体内環境再現装置1を用いて、体内伝送される信号が体内雑音から受ける影響の評価するシステムである。
【0036】
体内環境再現システム70は、体内環境再現装置1に加えて、ケーブル26、信号送信機20、信号受信機22、および電圧信号生成装置24を含む。電圧信号生成装置24は、例えば脳波信号のような生体信号源に該当する。
【0037】
ケーブル26は、信号を伝送する電線である。詳しくは、ケーブル26は、雑音環境から受ける影響を評価する信号を伝送する電線である。ケーブル26の例は、ビニル被覆線である。ケーブル26の少なくとも一部は、容器10内の生理食塩水3に浸漬される。ケーブル26において、生理食塩水3に浸漬される部分を浸漬部28とする。浸漬部28が延びる方向は、X方向と平行な方向である。
【0038】
体内環境再現システム70において、ケーブル26は、体内埋設配線に対応する。一対の電極30が発生させる電位差は、雑音に対応する。これによって、体内埋設配線に伝送される信号が雑音から受ける影響を評価できる。
【0039】
ケーブル26には、信号送信機20および信号受信機22が接続される。ケーブル26における、信号送信機20と信号受信機22との間の部分は、浸漬部28を含む。言い換えると、信号送信機20と信号受信機22とは、浸漬部28を介して接続される。
【0040】
これによって、浸漬部28を通ることによる、ケーブル26に伝送される信号の変化を評価できる。言い換えると、電極30が発生させた雑音によって、信号が受けた影響を評価できる。
【0041】
浸漬部28には、支持部材29が取り付けられてもよい。支持部材29は、浸漬部28の生理食塩水3の深さ方向の位置が、浸漬部28が延びる方向およびその直交方向においてその設置位置が大きく変動しないようにする部材である。支持部材29の例は、強直な、または適度な硬さを有する、樹脂製の部材である。
【0042】
信号送信機20には、電圧信号生成装置24が接続される。電圧信号生成装置24は、任意の波形の信号を生成する装置である。電圧信号生成装置24は、信号送信機20に、配線5を介して接続される。電圧信号生成装置24は、ファンクションジェネレータともよばれる。
【0043】
電圧信号生成装置24が生成する波形を変えることによって、種々の信号について、雑音による影響を評価できる。例えば、電圧信号生成装置24が生成する信号を脳波信号にした場合には、脳波が受ける雑音の影響を評価できる。電圧信号生成装置24が脳波信号を生成する場合、信号送信機20は、脳波送信機として機能する。具体的には脳波を増幅および/または多重化および/または変調して送出する機能を有する。また、信号受信機22は、脳波受信機として機能する。脳波信号は、脳波を模した疑似波形である。なお、脳波信号は、疑似波形でなくてもよく、人間又は動物の脳から取得した脳波の波形であってもよい。あるいは脳波の周波数帯域内の特定の周波数(例えば10Hz)の正弦波でもよい。
【0044】
電圧信号生成装置24が生成する信号は、脳波信号に限定されない。電圧信号生成装置24が生成する信号は、脳波信号以外の生体信号でもよい。電圧信号生成装置24が生成する信号は、生体信号以外の信号でもよい。
【0045】
図2に示す体内環境再現システム70は、体内環境再現システム70の具体例の1つである。
図3から
図5に基づいて、体内環境再現システム70の一般化した構成例を説明する。
図3は、体内環境再現システム70をXY平面において平面視した図である。
図4は、体内環境再現システム70をXZ平面において平面視した図である。
図5は、体内環境再現システム70をYZ平面において平面視した図である。
【0046】
図3に示すように、体内環境再現システム70をXY平面において平面視した場合、言い換えると、体内環境再現システム70を上面視した場合、浸漬部28は、X方向に平行に、2本、容器10内に、X方向に平行に配置される。ケーブル26は、信号送信機20および信号受信機22を、環状に接続する。
【0047】
浸漬部28は、容器10のY方向の長さにおけるほぼ中央位置に配置される。これによって、浸漬部28は、一対の電極30のそれぞれから、ほぼ等距離の位置に配置される。
【0048】
なお、
図4では、2つの浸漬部28はZ方向の位置が異なるよう記載されている。これは、図面に、浸漬部28が2つあることを示すためである。2つの浸漬部28は、通常、Z方向の同じ位置、言い換えると、生理食塩水3中の同じ深さに配置される。
【0049】
図4において、浸漬部28は、生理食塩水3の液面12と、容器10の底面14との間のほぼ中央位置に配置される。ただし、浸漬部28が配置される位置はこれには限定されない。浸漬部28の液面12からの距離、および浸漬部28の底面14からの距離は、再現する体内環境などに応じて、任意に設定できる。
【0050】
図5に示すように、電極30は、電極貼り付け台32を介して、容器10の側面に固定される。電極貼り付け台32の例は、ウレタン板である。電極30とウレタン板とは、両面テープで固定される。また、ウレタン板と容器10の側面とは、両面テープで固定される。
【0051】
図6に基づいて、体内環境再現装置1の機能的な構成を説明する。
図6は、体内環境再現装置1の機能的な構成を示す図である。体内環境再現装置1は、体内環境ファントムともよばれる。疑似体液である生理食塩水3に浸漬された浸漬部28には、雑音(ノイズ)17および振動18が印加される。雑音17は、体内雑音のうちの電気的体内雑音に対応する。振動18は、体内雑音のうちの機械的体内雑音に対応する。雑音17は、電極30を介して、浸漬部28に印加される。振動18は、振動付与装置50を介して、浸漬部28に印加される。
【0052】
電気的体内雑音を説明する。体内環境再現装置1は、電気的体内雑音として、心電を雑音源とする雑音、および筋電を雑音源とする雑音を再現する。体内環境再現装置1は、複数の電圧信号生成装置34を含む。疑似心電波形の電圧信号を生成する電圧信号生成装置34を、心電用電圧信号生成装置341とよぶ。疑似筋電波形の電圧信号を生成する電圧信号生成装置34を、筋電用電圧信号生成装置342とよぶ。
【0053】
体内環境再現装置1は、電圧信号結合部36を含む。電圧信号結合部36は、複数の電圧信号を結合する部分である。心電用電圧信号生成装置341および筋電用電圧信号生成装置342は、電圧信号結合部36に接続される。電圧信号結合部36に入力された各電圧信号は電圧信号結合部36で結合される。電圧信号結合部36で結合された電圧信号は、配線5を介して、電極30に伝送される。複数種類の電圧信号が電圧信号結合部36で結合されることによって、干渉雑音環境の再現が容易になる。
【0054】
体内雑音以外の電気的雑音を説明する。体内伝送に影響を与える雑音は、体内雑音に限定されない。例えば、商用電源を雑音源とする雑音も、体内伝送に影響を与える。この商用電源を雑音源とする雑音は、ハムノイズとよばれる。体内環境再現装置1は、ハムノイズを再現できる。ハムノイズを模した疑似波形を、疑似ハムノイズ波形とよぶ。最も代表的には50Hzあるいは60Hzの正弦波である。
【0055】
体内環境再現装置1は、疑似ハムノイズ波形の電圧信号を生成する電圧信号生成装置34を含む。疑似ハムノイズ波形の電圧信号を生成する電圧信号生成装置34を、ハムノイズ用電圧信号生成装置343とよぶ。
【0056】
ハムノイズ用電圧信号生成装置343は、電圧信号結合部36に接続される。ハムノイズ用電圧信号生成装置343が生成した電圧信号は、電圧信号結合部36において、他の電圧信号と結合される。電圧信号結合部36で結合された電圧信号は、配線5を介して、電極30に伝送される。
【0057】
体内環境再現装置1は、心電、筋電、および商用電源を雑音源とする雑音を再現できる。ただし、これらは例示である。電圧信号生成装置34が生成する電圧信号を変更することによって、種々の雑音を再現できる。
【0058】
機械的体内雑音を説明する。体内環境再現装置1は、疑似音声発生器52を含む。疑似音声発生器52は、任意の音声に対応する信号を生成する。振動付与装置50は、疑似音声発生器52が生成した信号に基づいて振動を発生させる。この振動が、浸漬部28に印加される振動18となる。
【0059】
体内環境再現装置1は、疑似音声発生器52が生成する信号を変更することによって、種々の機械的雑音を再現できる。再現する機械的雑音は、体内雑音に限定されない。体外に雑音源がある機械的雑音も再現できる。
【0060】
ケーブル26の浸漬部28では、信号送信機20に接続された電圧信号生成装置24が生成した電圧信号が伝送される。浸漬部28に伝送される信号が、雑音17および振動18から受ける影響は、信号送信機20が送信した信号と、信号受信機22が受信した信号との差異によって、評価できる。
【0061】
上述の差異の評価、および差異のモニタリングのうちの少なくとも一方は、例えば、体内環境再現システム70とは別の、モニタリング体外装置62が行ってもよい。また、体内環境再現システム70からモニタリング体外装置62への信号の伝送は、無線伝送によって行われてもよい。
【0062】
信号が、信号受信機22からモニタリング体外装置62に、無線伝送によって伝送される場合、信号受信機22には、無線送信機60が接続される。無線送信機60は、アンテナ64を備える。信号受信機22からの信号は、無線送信機60のアンテナ64を介して、モニタリング体外装置62に、無線伝送される。
図6の矢印66は、無線伝送を示す。
【0063】
図7Aから
図7Dに基づいて、時間軸に対する疑似波形を説明する。
図7Aは、心電の疑似波形を示す図である。
図7Bは、筋電の疑似波形を示す図である。
図7Cは、ハムノイズの疑似波形を示す図である。
図7Dは、発声の疑似波形を示す図である。疑似波形は、種々の基準によって定めることができる。
図7Aから
図7Dに示す時間軸に対する疑似波形は、一例である。
【0064】
図7Aに示す心電の疑似波形は、例えば、実際の心電の波形を実測し、実測した結果に基づいて作成できる。疑似心電波形の周波数は、1Hz以上50Hz以下とできる。
【0065】
図7Bに示す筋電の疑似波形は、例えば、公開されている筋電波形データに基づいて作成できる。公開されている筋電波形データの例は、マサチューセッツ工科大学の計算生理学研究所が公開する筋電波形データである。疑似筋電波形の周波数は、1Hz以上500Hz以下とできる。
【0066】
図7Cに示すハムノイズの疑似波形は、電源周波数地域に応じて、50Hzまたは60Hzとできる。また、実際のハムノイズの波形を実測し、実測した結果に基づいて疑似ハムノイズ波形を作成してもよい。
【0067】
図7Dに示す発声の疑似波形は、標準化された規格に基づいて作成できる。そのような規格の例は、ITU-T(International Telecommunication Union Telecommunication Standardization Sector、国際電気通信連合電気通信標準化部門)のG.227(Conventional telephone signal)である。疑似発声波形の周波数は、1Hz以上5000Hz以下とできる。
【0068】
信号送信機20に接続された電圧信号生成装置24が生成する電圧信号は、評価する生体信号によって変更できる。例えば、評価する生体信号が脳波信号である場合には、電圧信号生成装置24が脳波信号として生成する電圧信号の周波数は、1Hz以上100Hz以下とできる。
【0069】
図8に基づいて、体内環境再現装置1を開発評価ツールとして利用する血管内ブレインマシンインターフェースシステム100の例を説明する。血管内ブレインマシンインターフェースシステム100は、血管内BMIシステムともよばれる。
【0070】
図8に、人体の一部として、胴体102および頭103を示す。脳104の血管内部に、脳内電極110が配置される。脳内電極110は、脳104の血管内部に、複数個配置されてもよい。すなわち、脳内電極110は、複数チャンネルの電極としてもよい。また、頭103には、リファレンス電極111が配置される。脳内電極110は電極シート上の電極である。電極シートは、血管内部にリード状あるいはヘリカル状に配置される。
なお、脳内電極110は、血管以外の場所、例えば、脳表面に配置されていてもよい。また、脳内電極110が脳表面に配置される場合、電極シートは脳表面に張り付けられてもよい。
【0071】
胴体102には、中継ユニット112および体内コントローラ113が配置される。中継ユニット112は、増幅による雑音の低減、多重化によるチャンネル数の低減、および体内伝送などの機能を有する。体内コントローラ113は、体内受信、アナログデジタル変換、無線伝送、および無線受電などの機能を有する。
【0072】
体内コントローラ113は、体外機器140に、脳波を伝送する。脳波は、矢印142に示すように、無線伝送によって伝送される。また、体内コントローラ113は、体外機器140から、給電を受ける。給電は、矢印144に示すように、無線給電によって行われる。体内コントローラ113内部のミアンダ状の素子143は、前述の無線伝送および無線給電を行うためのアンテナ機能を象徴的に表している。
【0073】
脳内ヘリカル電極110と中継ユニット112とは、体内埋設配線120によって接続される。リファレンス電極111と中継ユニット112とは、体内埋設配線122によって接続される。中継ユニット112と体内コントローラ113とは、体内埋設配線124によって接続される。
【0074】
体内埋設配線124では、矢印132で示すように、脳波に関する信号が伝送される。また、体内埋設配線124では、矢印134で示すように、電源が供給される。
【0075】
体内埋設配線124など行われるような、微弱な信号の体内伝送では、信号が雑音から受ける影響を抑制できる伝送方法の開発が不可欠である。体内環境再現装置1は、このような伝送方法を開発し、またその特性を評価する際の開発評価ツールとして利用することができる。
【0076】
図9は、体内環境再現システムの他の例を示す図である。
図9に基づいて、体内環境再現装置1を用いた別の体内環境再現システム72を説明する。
図2に示した体内環境再現システム70は、体内埋設配線を介して体内伝送される信号が体内雑音から受ける影響を評価するシステムであった。これに対して、
図9に示す体内環境再現システム72は、体内埋設機器から、無線によって体外に伝送される信号が体内雑音から受ける影響を評価するシステムである。すなわち、
図2に示した体内環境再現システム70は、体内を有線で伝送される信号が体内雑音から受ける影響を評価するシステムであるのに対して、
図9に示す体内環境再現システム72は、体内を無線で伝送される信号が体内雑音から受ける影響を評価するシステムである。
【0077】
以下、体内環境再現システム70との相違点を中心に、体内環境再現システム72を説明する。体内環境再現システム70では、信号送信機20と信号受信機22とはケーブル26で接続されていた。これに対し、体内環境再現システム72では、信号送信機20に接続されたケーブル26の他端には、信号送信導体74が接続される。また、信号受信機22に接続されたケーブル26の他端には、信号受信導体76が接続される。体内環境再現システム72においては、信号送信機20と信号受信機22とは、ケーブル26によっては接続されない。
【0078】
信号送信導体74および信号受信導体76は、容器10内の生理食塩水3に浸漬される。また、一対の電極30を結ぶ方向は、信号送信導体74と信号受信導体76とを結ぶ方向と交わる方向である。これによって、体内環境再現システム72は、体内から体外に無線によって伝送される信号が、体内雑音から受ける影響の評価を、可能にする。
【0079】
図10に基づいて、体内環境再現装置1を開発評価ツールとして利用する例として、飲み込み型カプセル内視鏡システム150を説明する。飲み込み型カプセル内視鏡システム150では、例えば、カプセル型の内視鏡(カプセル内視鏡)154が胃の中などの体内152に配置される。そして、カプセル内視鏡154から映像データや生体信号などが、体外に伝送される。
【0080】
図10に示す例では、
図8に示した例とは異なり、体内埋設配線124を介しての信号の有線伝送は行われない。体内152に配置されたカプセル内視鏡154から、体外機器140には、無線伝送142によって、生体信号が伝送される。また、必要に応じて、体外機器140から、カプセル内視鏡154に無線給電144が行われる。
【0081】
図10に示すような、無線での信号などの伝送についても、有線での伝送と同様に、信号が雑音から受ける影響を抑制できる伝送方法の開発が不可欠である。体内環境再現装置1は、このような伝送方法を開発し、またその特性を評価する際の開発評価ツールとして利用することができる。
【0082】
以上、本開示の実施形態を説明した。本開示は前述した実施形態に限定されることなく、種々の変更、変形および組み合わせが可能である。
【0083】
(1)疑似体液を入れることができる容器、および前記容器の内部に配置された少なくとも一対の電極を備え、
前記電極には、人体内に存在する電磁波を模した疑似波形が印加される、
体内環境再現装置。
【0084】
(2)前記疑似波形は、心電を模した疑似心電波形、および筋電を模した疑似筋電波形のうちの少なくとも一方を含む、
(1)に記載の体内環境再現装置。
【0085】
(3)前記容器の外部には、振動付与装置が配置され、
前記振動付与装置は、人の発声によって発生する振動を模した疑似発声波形によって振動する、
(1)または(2)に記載の体内環境再現装置。
【0086】
(4)前記電極には、さらに、商用電源を雑音源とするハムノイズを模した疑似波形が印加される、
(1)から(3)のいずれか1つに記載の体内環境再現装置。
【0087】
(5)前記容器は、前記容器に入れられた疑似体液の中に、信号を有線または無線で伝送する装置の少なくとも一部を浸漬できるように構成される、
(1)から(4)のいずれか1つに記載の体内環境再現装置。
【0088】
(6)(1)から(5)のいずれか1つに記載の体内環境再現装置と、信号送信機と、信号受信機と、前記信号送信機と前記信号受信機とを接続するケーブルと、を備え、
前記ケーブルの少なくとも一部は、前記容器に入れられた疑似体液中に配置され、
前記の少なくとも一対の電極は、前記ケーブルを挟むように配置される、
体内環境再現システム。
【0089】
(7)(1)から(5)のいずれか1つに記載の体内環境再現装置と、信号送信機と、信号受信機と、前記信号送信機に接続された信号送信導体と、前記信号受信機に接続された信号受信導体と、を備え、
前記信号送信導体および前記信号受信導体は、前記容器に入れられた疑似体液中に配置され、
前記の少なくとも一対の電極を結ぶ方向は、前記信号送信導体と前記信号受信導体とを結ぶ方向と交わる、
体内環境再現システム。
【符号の説明】
【0090】
1 体内環境再現装置
3 生理食塩水(疑似体液)
5 配線
9 防振材
10 容器
12 液面
14 底面
17 雑音
18 振動
20 信号送信機
22 信号受信機
24 電圧信号生成装置
26 ケーブル
28 浸漬部
29 支持部材
30 電極
32 電極貼り付け台
34 電圧信号生成装置
341 心電用電圧信号生成装置
342 筋電用電圧信号生成装置
343 ハムノイズ用電圧信号生成装置
36 電圧信号結合部
50 振動付与装置
52 疑似音声発生器
60 無線送信機
62 モニタリング体外装置
64 アンテナ
66 無線送信
70 体内環境再現システム
72 体内環境再現システム
74 信号送信導体
76 信号受信導体
100 血管内ブレインマシンインターフェースシステム
102 胴体
103 頭
104 脳
110 脳内ヘリカル電極
111 リファレンス電極
112 中継ユニット
113 体内コントローラ
120 体内埋設配線
122 体内埋設配線
124 体内埋設配線
140 体外機器
142 無線通信による送信
144 無線給電
150 飲み込み型カプセル内視鏡システム
152 体内
154 カプセル内視鏡