(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023127130
(43)【公開日】2023-09-13
(54)【発明の名称】導波路型光渦発生装置および光渦多重システム
(51)【国際特許分類】
G02B 6/12 20060101AFI20230906BHJP
【FI】
G02B6/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022030720
(22)【出願日】2022-03-01
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、総務省、戦略的情報通信研究開発推進事業(SCOPE)、「Si系光渦合分波器を用いた光通信帯における光渦多重伝送技術の構築」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】雨宮 智宏
(72)【発明者】
【氏名】各務 響
(72)【発明者】
【氏名】渥美 裕樹
【テーマコード(参考)】
2H147
【Fターム(参考)】
2H147AB21
2H147BF11
2H147CA21
2H147CA26
2H147EA13A
2H147EA19A
(57)【要約】
【課題】光入力以外に電力消費を必要とせず、小さな系で既存の光ファイバシステムと親和性の高い導波路型光渦発生装置および光渦多重システムを提供する。
【解決手段】導波路型光渦発生装置1は、MD/MQの軸11上に光渦を発現する誘電体ナノピラー10と、誘電体ナノピラー10と対向する領域を有し、入射した光を誘電体ナノピラー10に輸送する細線光導波路20と、を備え、誘電体ナノピラー10は、MD/MQの軸11が、細線光導波路20の光路軸21に対して交差し、かつ、細線光導波路20の光路軸21から第1距離(D1)離隔している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導波路型光渦発生装置であって、
MD(Magnetic Dipole)またはMQ(Magnetic Quadrupole)の軸上に光渦を発現するナノサイズの高屈折率誘電体と、
前記ナノサイズの高屈折率誘電体と対向する領域を有し、入射した光を前記ナノサイズの高屈折率誘電体に輸送する細線光導波路と、を備え、
前記ナノサイズの高屈折率誘電体は、前記MDまたはMQの軸が、前記細線光導波路の光路軸に対して交差し、かつ、前記細線光導波路の前記光路軸から所定第1距離離隔している
ことを特徴とする導波路型光渦発生装置。
【請求項2】
前記ナノサイズの高屈折率誘電体と対向する領域において、前記ナノサイズの高屈折率誘電体と前記細線光導波路は、所定第2距離離隔し、
前記第2距離は、5nm乃至100nmである
ことを特徴とする請求項1に記載の導波路型光渦発生装置。
【請求項3】
前記ナノサイズの高屈折率誘電体は、回転対称を有し、回転対称の軸が前記MDまたはMQの軸である
ことを特徴とする請求項1に記載の導波路型光渦発生装置。
【請求項4】
前記MDまたはMQの軸上にMQを発現する場合、前記ナノサイズの高屈折率誘電体の半径は、前記第1距離よりも小さい
ことを特徴とする請求項3に記載の導波路型光渦発生装置。
【請求項5】
前記MDまたはMQの軸上にMQを発現する場合、前記第1距離は、450nmを中心とする上下50nmである
ことを特徴とする請求項1に記載の導波路型光渦発生装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の導波路型光渦発生装置を複数ならべることにより、多数の光渦信号が空間上で合成される光渦多重システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導波路型光渦発生装置および光渦多重システムに関する。
【背景技術】
【0002】
光ネットワークに用いられている各種光素子には、レーザ、変調器、多重化素子、光スイッチ等がある。光集積回路は、光通信で必須とされる種々の機能をワンチップ上に一括集積したものである。単一機能の光デバイスに比べて、実装コスト・消費電力・サイズなどの低減が可能なことから、数多くのモジュールが実用化されており、現在の光市場を席巻している。
一般的な光集積回路においては、伝播光のモードは、TEモード(Transverse Electric mode)/(以下、「/」は「または」を表記する)TMモード(Transverse Magnetic mode)に固定される。そのため、光回路上に集積された各種デバイスは、それらのモードに対して動作するように設計されている。
【0003】
光通信技術において、将来的に信号の多重化資源が増えることは、通信容量の劇的な大容量化につながる。光の軌道角運動量にあたる光渦は、波面のらせん周期に情報を乗せるため、理論上無限チャネル多重化が可能であり、また既存の多重化技術との整合性にも優れていることから、大容量伝送のキーテクノロジーとなり得る。そのため昨今、光渦の通信への応用が企てられている。
【0004】
図15および
図16は、
図14に示すLight directionを照射した場合の円偏光と光渦を説明する図である。
図15および
図16のz軸は、
図14のLight directionの照射方向(z軸)である。
図15上図左に示す円偏光(右円偏光)は電場と磁場が螺旋状を描くように伝播する。この円偏光と
図15上図右に示す光渦(m=0;平面波)とが組み合わされた場合、
図15下図に示す磁界Hzの分布をみると円偏光が観測される。
【0005】
図16上図左に示す円偏光(右円偏光)は電場と磁場が螺旋状を描くように伝播する。この円偏光と
図16上図右に示す光渦(m=-1)とが組み合わされた場合、
図16下図に示す磁界Hzの分布をみると、円偏光かつ光渦の特徴である4分割されたHz分布である、円偏光に光渦が乗った光(「光渦光」)が観測される。上記mは、光渦の螺旋数を示し、m=0,1,2,3,…(反対方向は、「-」を表記)である。
【0006】
円偏光および光渦(OAM:Orbital angular momentum)について補足して説明する。
円偏光は、電磁界がそれぞれらせん状である。円偏光は、右円偏光(CW)と左円偏光(CCW)のみである。円偏光は、トポロジカルフォトニクスの特性利用に必要である。
【0007】
光渦は、等位相面がらせん状である。光渦は、左右の光渦に加え、他重らせん構造が可能である。このため、理論的には無限チャネル化が可能である。
【0008】
特許文献1には、第1層と、第1層に対向する第2層とを備え、第1層は、各々が光学異方性を有する複数の第1構造体を含み、第2層は、第1層から入射した光を反射する際は、光の入射時と反射時とで光の偏光状態を維持したまま光を反射する、光学素子が記載されている。特許文献1の段落[0258]には、「光LT2は、光渦として出射される。光渦とは、特異点を有し、等位相面が螺旋面を形成する光のことである。」と記載されている。
【0009】
研究発表されている光渦発生装置には、空間位相変調器を用いた装置がある(例えば、”Tsinghua University”Y.Wang et al.,Sci.Rep.6,22512(2016))。また、導波路型の光渦発生装置には、スターカプラ、アレイ導波路、および光結合器で構成された装置がある。(例えば、” University of California, Davis,” T.Su et al., Opt. Express, 20(9), 9396 (2012))。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
現在までに発表されている光渦発生装置では、以下の点が課題となっている。
空間位相変調器を用いた場合、大きな系となるため、光ファイバシステムには実用的ではない。
また、光入力以外に電力消費を必要としないパッシブな装置とすることは難しい。例えば、スターカプラ、アレイ導波路、および光結合器で集積構成される既存の光渦発生装置では、一般にアレイ導波路間での位相差を調整するためのヒータ等の集積が必要となり、連続的に電力を消費する。
【0012】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、位相調整が不要であることから光入力以外に電力消費を必要とせず、小さな系で既存の光ファイバシステムと親和性の高い導波路型光渦発生装置および光渦多重システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記した課題を解決するため、本発明に係る導波路型光渦発生装置は、導波路型光渦発生装置であって、MDまたはMQの軸上に光渦を発現するナノサイズの高屈折率誘電体と、前記ナノサイズの高屈折率誘電体と対向する領域を有し、入射した光を前記ナノサイズの高屈折率誘電体に輸送する細線光導波路と、を備え、前記ナノサイズの高屈折率誘電体は、前記MDまたはMQの軸が、前記細線光導波路の光路軸に対して交差し、かつ、前記細線光導波路の前記光路軸から所定第1距離離隔していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、光入力以外に電力消費を必要とせず、小さな系で既存の光ファイバシステムと親和性の高い導波路型光渦発生装置および光渦多重システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態に係る導波路型光渦発生装置の構造を示す斜視図である。
【
図2】本発明の導波路型光渦発生装置におけるDipolesとQuadrupolesにおけるMagnetic multipolesとRadiation multipolesを模式的に示す図である。
【
図3】本発明の導波路型光渦発生装置の誘電体ナノピラーのMD/MQの軸に発現するMDおよびMQを含む光の特性を波長ごとに示した図である。
【
図4】本発明の導波路型光渦発生装置におけるMDを発現する導波路型光渦発生装置の構造を示す上面図である。
【
図5】本発明の導波路型光渦発生装置におけるMDを発現する導波路型光渦発生装置の構造を示す側面図である。
【
図6】
図4および
図5に示す導波路型光渦発生装置の磁界ベクトルを示す図である。
【
図7】
図4および
図5に示す導波路型光渦発生装置の電界Ey分布を示す図である。
【
図8】
図4および
図5に示す導波路型光渦発生装置の磁界Hy分布を示す図である。
【
図9】本発明の導波路型光渦発生装置におけるMQを発現する導波路型光渦発生装置の構造を示す上面図である。
【
図10】本発明の導波路型光渦発生装置におけるMQを発現する導波路型光渦発生装置の構造を示す側面図である。
【
図11】
図9および
図10に示す導波路型光渦発生装置の磁界ベクトルを示す図である。
【
図12】
図9および
図10に示す導波路型光渦発生装置の電界Ey分布を示す図である。
【
図13】
図9および
図10に示す導波路型光渦発生装置の磁界Hy分布を示す図である。
【
図14】Light directionの照射を説明する斜視図である。
【
図15】
図14に示すLight directionを照射した場合の円偏光と光渦を説明する図である。
【
図16】
図14に示すLight directionを照射した場合の円偏光と光渦を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
(原理説明)
ナノサイズの高屈折率誘電体に光を入射した際、特定の波長においてMie共鳴と呼ばれる現象を示し、一定の条件の下でMie共鳴により散乱される光は渦状態(Magnetic Quadrupole)を持つ。
【0017】
ナノサイズの高屈折率誘電体への入射光として、既存の光回路において広く利用されているSi細線光導波路からの光の漏れを利用する。これにより、TE/TMモード光のみで動作する既存の光デバイスから、渦状の光を出射することが可能となる。この際、ナノサイズの高屈折率誘電体のMD/MQの軸とSi細線光導波路の光路軸が合っている場合には、ナノサイズの高屈折率誘電体から出射される光は渦状とはならないため、軸をずらすことが必須となる。
【0018】
(実施形態)
図1は、本発明の実施形態に係る導波路型光渦発生装置の構造を示す斜視図である。
導波路型光渦発生装置1は、MD/MQの軸11上に光渦を発現する誘電体ナノピラー10と、誘電体ナノピラー10から離隔して配置され、入射した光を誘電体ナノピラー10に輸送する細線光導波路20と、を備える。
【0019】
誘電体ナノピラー10のMD/MQの軸11は、細線光導波路20の光路軸21に対して交差方向(ここでは直交)にあり、かつ、細線光導波路20の光路軸21から所定距離(D1)離隔している。すなわち、誘電体ナノピラー10のMD/MQの軸11は、細線光導波路20の光路軸21に対して交差方向と互いの距離がずれている。また、誘電体ナノピラー10は、細線光導波路20の表面20aから所定距離(D2)離隔している。したがって、誘電体ナノピラー10は、細線光導波路20の幅方向の片側において、少なくとも一部が細線光導波路20の表面20aから所定距離(D2)離隔して重なる(対向する領域があればよい)。
【0020】
<誘電体ナノピラー10>
・基本構造
誘電体ナノピラー10は、ナノサイズの高屈折率誘電体である。
誘電体ナノピラー10は、特定の波長においてMie共鳴と呼ばれる現象を用いるため、ナノサイズである。
誘電体ナノピラー10は、Si,InP,GaP,AlAs,GaAsなどの高屈折率誘電体である。誘電体ナノピラー10は、MD/MQが発現する波長において高屈折率(3.0以上)である。
【0021】
・配置
誘電体ナノピラー10は、細線光導波路20から上下に離れて配置される。
誘電体ナノピラー10は、細線光導波路20の光路軸21から第1距離(D1)離隔した細線光導波路20の幅方向の片側に配置されているので、誘電体ナノピラー10の底部10aに対して横方向(MD/MQの軸11に対して横方向)から光が入射される。
【0022】
誘電体ナノピラー10と対向する領域において、誘電体ナノピラー10と細線光導波路は、第2距離(D2)離隔し、第2距離(D2)は、5nm乃至100nm(より好ましくは、10nm乃至50nm)である。
【0023】
・回転対称
誘電体ナノピラー10は、回転対称を有し、回転対称の軸がMD/MQの軸11である。
【0024】
・MQ発現
誘電体ナノピラー10の半径は、第1距離(D1)よりも小さく、MD/MQの軸11上にMQを発現する。
第1距離(D1)は、450nmを中心とする上下50nmであり、MD/MQの軸11上にMQを発現する。
【0025】
誘電体ナノピラー10において発現するMD/MQの軸11は、細線光導波路20の光路軸11から誘電体ナノピラー10の半径以上離れている。
【0026】
<細線光導波路20>
細線光導波路20は、入射光を誘電体ナノピラー10に輸送する。細線光導波路20は、誘電体ナノピラー10対向する領域において、誘電体ナノピラー10に光が漏れる(滲み出る)。
【0027】
細線光導波路20は、MD/MQが発現する波長において透明な材料、例えばSi,Si3N4,PMMA(アクリル樹脂),ダイヤモンド等である。
なお、細線光導波路20は、高屈折率については必要条件ではない。
細線光導波路20は、直線でも曲線でも構わない。
【0028】
<導波路型光渦発生装置1の立体構造>
導波路型光渦発生装置1は、
図1の立体構造を実現するために、細線光導波路20上に、透明かつ屈折率の小さい部材(例えば、SiO
2のガラス等)をスペーサとして介在させ、誘電体ナノピラー10を位置決め・配置する。
【0029】
図2および
図3は、MDおよびMQを説明する図である。
図2は、
図2右に示す誘電体ナノピラー10の電磁界・入射光方向kにおいて、DipolesとQuadrupolesにおけるMagnetic multipolesとRadiation multipolesを模式的に示す図である。Radiation multipolesは、光が放出される形状を示しており、DipolesのRadiation multipolesでは、ドーナッツ型に光が放出される。QuadrupolesのRadiation multipolesでは、ドーナッツ型が4つ組み合わされた形状である。
【0030】
例えば、Dipolesにおいて、ドーナッツ型のRadiation multipolesの中央に、Magnetic multipolesがある。このMagnetic multipolesに示す「m」は光渦が放出される方向であり、
図2右に示す誘電体ナノピラー10の入射光方向kの軸に対応する。また、このMagnetic multipolesに示す「Current」は
図2右に示す誘電体ナノピラー10の電界Eを生成する、誘電体ナノピラー10の周方向で周回して流れる電流である。周回して流れる電流により、光渦が発現する。
【0031】
図3は、導波路型光渦発生装置1の誘電体ナノピラー10のMD/MQの軸11に発現するMDおよびMQを含む光の特性を波長ごとに示した図であり、
図3はそのσ
exl/σ
geom比である全消光断面積を示す。図中、σは断面積、σ_extは消光断面積である。σ_geomは幾何学上のナノ構造の断面積となっており、σ_geomで割ることでσ_extを正規化している状態となる。
図3に示すように、MQが発現する波長帯域は狭く、波長全体として見れば、MDの発現が支配的である。
【0032】
図3に示すように、
図1の導波路型光渦発生装置1の構造を採ることにより、細線光導波路20からの光の漏れを利用して誘電体ナノピラー10に光を入射した際、特定の波長においてMie共鳴時(λ=2200um付近)に、光渦(Magnetic Quadrupole)が発生する。
【0033】
以下、上述のように構成された導波路型光渦発生装置1の動作を説明する。
(原理説明)
本発明者らは、ナノサイズの高屈折率誘電体(誘電体ナノピラー10)への入射光として、細線光導波路20からの光の漏れを利用することで、TE/TMモード光のみで動作する既存の光デバイスから、渦状の光を出射することが可能となることを発見した。この際、ナノサイズの高屈折率誘電体のMD/MQの軸11と細線光導波路20の光路軸21とが合っている場合には出射される光は渦状とはならないことも見出した。このため、ナノサイズの高屈折率誘電体のMD/MQの軸11と細線光導波路20の光路軸21とをずらすことが必須となる。
【0034】
ここで、「ナノサイズの高屈折率誘電体のMD/MQの軸11と細線光導波路20の光路軸21とをずらす」とは、細線光導波路20の光路軸21に対して、ナノサイズの高屈折率誘電体のMD/MQの軸11を細線光導波路20の幅方向で片側に所定距離(D1)離隔させるとともに、細線光導波路20の表面20aから上方向に所定距離(D2)離隔させる配置をいう。さらに、細線光導波路20の光路軸21に対して、ナノサイズの高屈折率誘電体のMD/MQの軸11は、交差するように配置される。
【0035】
[MD発現構造]
図4および
図5は、MDを発現する導波路型光渦発生装置1の構造を示す図であり、
図4は、その上面図(Top view)、
図5は、その側面図(Crosssectional view)である。
【0036】
<誘電体ナノピラー10>
誘電体ナノピラー10は、Si-metamaterialからなるナノサイズの高屈折率誘電体である。
誘電体ナノピラー10は、半径r:300nm(
図4)、高さ300nm(
図4)の円筒形状の高屈折率誘電体である。
【0037】
<細線光導波路20>
細線光導波路20は、線幅500nm(光路軸21から端部22,23までの長さ250nm,250nm)(
図4)、線厚220nm(
図5)の断面直方体のSi細線光導波路である。
【0038】
<誘電体ナノピラー10と細線光導波路20の配置>
図4に示すように、誘電体ナノピラー10は、半径rの円筒形の中心軸O(MD/MQの軸11)が、細線光導波路20の光路軸21から端部22側に、所定距離(D1:180nm)ずれて配置され、かつ、
図5に示すように、誘電体ナノピラー10は、底部10aが、細線光導波路20の表面20aから上方に、所定距離(D2:50nm)離隔して配置される。
図4において、上面視して、細線光導波路20上に半径rの誘電体ナノピラー10が重なる部分が、「ナノサイズの高屈折率誘電体と対向する領域」である。
【0039】
このとき、誘電体ナノピラー10において発現するMD/MQの軸11は、細線光導波路20の光路軸21から細線光導波路20の幅方向の端部22側に所定距離(D1:180nm)離隔し、かつ、直交している。
したがって、
図1、
図4および
図5に示すように、導波路型光渦発生装置1は、誘電体ナノピラー10が、細線光導波路20の表面20a上で、光路軸21から所定距離(D1:180nm)離隔し、かつ、上方に所定距離(D2:50nm)離隔して配置される。換言すれば、導波路型光渦発生装置1は、誘電体ナノピラー10の底部10aの一部が、細線光導波路20の光路軸21からずれた表面20a上で上下に離れて配置され、誘電体ナノピラー10は、底部10aで細線光導波路20からの光の漏れを受け取る。
【0040】
MD発現構造を利用して円偏光を発現する場合、所定距離(D1:180nm)の設計値には余裕がある。D1:180nmは下限値に近く、D1:300nm程度までは許容される。
誘電体ナノピラー10は、細線光導波路20から所定距離(D2)浮かせる構成が必須である。このため、所定距離(D2)は、0では成立せず、所定距離(D2:100nm)では成立はするものの、誘電体ナノピラー10に漏れる光が減るため効率が悪く、所定距離(D2:50nm)が上限値に近い。また、下限値は、(D2:10nm)である。
【0041】
<MD発現>
導波路型光渦発生装置1は、ナノサイズの高屈折率誘電体(誘電体ナノピラー10)にSi細線光導波路(細線光導波路20)から光を入射することで光渦を発生させる。
【0042】
まず、入射光(波長1551nm)を細線光導波路20により誘電体ナノピラー10に光を輸送する。そして、誘電体ナノピラー10の横方向から光を入射する。
【0043】
Si細線光導波路(細線光導波路20)にTE-mode(Hy,Ex,Ez成分を持つ)を入射すると、誘電体ナノピラー10には、磁界ベクトル(H vector (Hx,Hz))(
図6)、Ey(
図7)、Hy(
図8)に示す分布をみることができる。
【0044】
図6は、
図4および
図5に示す導波路型光渦発生装置1の磁界ベクトル(H vector (Hx,Hz))を示す図である。
図6は、
図5の破線aに示す細線光導波路20の中心から上方向に、例えば1μmの高さからみた場合の、磁界ベクトルのシミュレーション結果である。
図6のx軸、z軸は、
図4のx軸、z軸である。
図6の磁界ベクトル(H vector (Hx,Hz))の分布では、誘電体ナノピラー10の真上で磁界ベクトルが回っており、円偏光であることが分かる。
【0045】
図7は、
図4および
図5に示す導波路型光渦発生装置1の電界Ey分布を示す図である。
図7は、
図5の破線aに示す細線光導波路20の中心から上方向に、例えば1μmの高さからみた場合の、磁界ベクトルのシミュレーション結果である。
図7のx軸、z軸は、
図4のx軸、z軸である。
図7に示すように、電界Eyの分布を見ると、上記1μmの地点で、誘電体ナノピラー10のMD/MQの軸11上から円偏光として出射されていることが分かる。前記
図14の円偏光かつ光渦(m=0;平面波)、すなわち円偏光の出射である。
【0046】
図8は、
図4および
図5に示す導波路型光渦発生装置1の磁界Hy分布を示す図である。
図8は、
図5の破線aに示す細線光導波路20の中心から上方向に、例えば1μmの高さからみた場合の、磁界ベクトルのシミュレーション結果である。
図8のx軸、z軸は、
図4のx軸、z軸である。
図8に示すように、磁界Hyの分布を見ると、上記1μmの地点で、誘電体ナノピラー10のMD/MQの軸11上から円偏光として出射されていることが分かる。
【0047】
以上、
図6乃至
図8に示すように、導波路型光渦発生装置1は、円偏光のみが発生している状態である。
【0048】
[MQ発現構造]
図9および
図10は、MQを発現する導波路型光渦発生装置1の構造を示す図であり、
図9は、その上面図(Top view)、
図10は、その側面図(Crosssectional view)である。
【0049】
<誘電体ナノピラー10>
誘電体ナノピラー10は、Si-metamaterialからなるナノサイズの高屈折率誘電体である。
誘電体ナノピラー10は、半径r:300nm(
図9)、高さ300nm(
図9)の円筒形状の高屈折率誘電体である。
【0050】
<細線光導波路20>
細線光導波路20は、線幅500nm(光路軸21から端部22,23までの長さ250nm,250nm)(
図9)、線厚220nm(
図10)の断面直方体のSi細線光導波路である。
【0051】
<誘電体ナノピラー10と細線光導波路20の配置>
図9に示すように、誘電体ナノピラー10は、半径rの円筒形の中心軸O(MD/MQの軸11)が、細線光導波路20の光路軸21から端部22側に、所定距離(D1:450nm)ずれて配置され、かつ、
図5に示すように、誘電体ナノピラー10は、底部10aが、細線光導波路20の表面20aから上方に、所定距離(D2:25nm)離隔して配置される。
図9において、上面視して、細線光導波路20上に半径rの誘電体ナノピラー10が重なる部分が、「ナノサイズの高屈折率誘電体と対向する領域」である。
【0052】
このとき、誘電体ナノピラー10において発現するMD/MQの軸11は、細線光導波路20の光路軸21から細線光導波路20の幅方向の端部22側に所定距離(D1:450nm)離隔し、かつ、直交している。
したがって、
図1、
図9および
図10に示すように、導波路型光渦発生装置1は、誘電体ナノピラー10が、細線光導波路20の表面20a上で、光路軸21から所定距離(D1:180nm)離隔し、かつ、上方に所定距離(D2:25nm)離隔して配置される。換言すれば、導波路型光渦発生装置1は、誘電体ナノピラー10の底部10aの一部が、細線光導波路20の光路軸21からずれた表面20a上で上下に離れて配置され、誘電体ナノピラー10は、底部10aで細線光導波路20からの光の漏れを受け取る。
【0053】
MQ発現構造は、MD発現構造より設計値の設定条件が厳しい。
MQ発現構造を利用して円偏光かつ光渦を発現する場合、所定距離(D1:450nm)が最適値に近く、(D1:450nm)からの上下の振れ幅は、50nm程度である。
MQ発現する場合、MD発現で述べた所定距離(D2:50nm)では、効率が悪く、所定距離(D2:25nm)が上限値となる。なお、下限値は、MD発現の場合と同様に、(D2:10nm)である。
【0054】
<MQ発現>
導波路型光渦発生装置1は、ナノサイズの高屈折率誘電体(誘電体ナノピラー10)にSi細線光導波路(細線光導波路20)から光を入射することで光渦を発生させる。
【0055】
まず、入射光(波長1410nm)を細線光導波路20により誘電体ナノピラー10に光を輸送する。そして、誘電体ナノピラー10の横方向から光を入射することで光渦を発生させる。
【0056】
Si細線光導波路(細線光導波路20)にTE-mode(Hy,Ex,Ez成分を持つ)を入射すると、誘電体ナノピラー10には、磁界ベクトル(H vector (Hx,Hz))(
図11)、Ey(
図12)、Hy(
図13)に示す分布をみることができる。
【0057】
図11は、
図9および
図10に示す導波路型光渦発生装置1の磁界ベクトル(H vector (Hx,Hz))を示す図である。
図11は、
図10の破線aに示す細線光導波路20の中心から上方向に、例えば1μmの高さからみた場合の、磁界ベクトルのシミュレーション結果である。
図11のx軸、z軸は、
図9のx軸、z軸である。
図11の磁界ベクトル(H vector (Hx,Hz))の分布では、誘電体ナノピラー10の真上で磁界ベクトルが円偏光かつ光渦の挙動を示しており、円偏光かつ光渦であることが分かる。
【0058】
図12は、
図9および
図10に示す導波路型光渦発生装置1の電界Ey分布を示す図である。
図12は、
図10の破線aに示す細線光導波路20の中心から上方向に、例えば1μmの高さからみた場合の、磁界ベクトルのシミュレーション結果である。
図12のx軸、z軸は、
図9のx軸、z軸である。
図12に示すように、電界Ey分布を見ると、上記1μmの地点で、誘電体ナノピラー10のMD/MQの軸11上に、円偏光かつ光渦の特徴である4分割されたEy分布として出射されていることが分かる。
図12に示すEy分布をみると、円偏光に光渦が乗った光(「光渦光」)が発生している状態が分かる。すなわち、前記
図15に示す円偏光かつ光渦の特徴である4分割されたEy分布が観測される。
【0059】
図13は、
図9および
図10に示す導波路型光渦発生装置1の磁界Hy分布を示す図である。
図13は、
図10の破線aに示す細線光導波路20の中心から上方向に、例えば1μmの高さからみた場合の、磁界ベクトルのシミュレーション結果である。
図13のx軸、z軸は、
図9のx軸、z軸である。
図13に示すように、磁界Hyの分布を見ると、上記1μmの地点で、誘電体ナノピラー10のMD/MQの軸11上から、少なくとも円偏光として出射されていることが分かる。
【0060】
ちなみに、
図1の場合、細線光導波路20に手前から入射光を入れたとすると、誘電体ナノピラー10の位置で、誘電体ナノピラー10の横方向に輸送された光が漏れ、誘電体ナノピラー10の真上から円偏光かつ光渦が放射される。この時の光渦は誘電体ナノピラー10の真上から見て反時計回りである。
図1において、誘電体ナノピラー10を、細線光導波路20の下側に配置したとすると、誘電体ナノピラー10の真上から見て時計回りとなる。
【0061】
以上、
図11乃至
図13(特に、
図12)に示すように、導波路型光渦発生装置1は、上記1μmの地点で、誘電体ナノピラー10のMD/MQの軸11上に、円偏光かつ光渦の特徴である4分割されたEy分布として出射されていると考えられる。
【0062】
以上説明したように、本実施形態に係る導波路型光渦発生装置1は、MD/MQの軸11上に光渦を発現する誘電体ナノピラー10(ナノサイズの高屈折率誘電体)と、誘電体ナノピラー10と対向する領域を有し、入射した光を誘電体ナノピラー10に輸送する細線光導波路20と、を備え、誘電体ナノピラー10は、MD/MQの軸11が、細線光導波路20の光路軸21に対して交差し、かつ、細線光導波路20の光路軸21から第1距離(D1)離隔していることを特徴とする。
【0063】
この構成により、細線光導波路20に入射された例えばTE/TMモード光は、誘電体ナノピラー10に輸送され、細線光導波路20と対向する領域において、誘電体ナノピラー10の横方向に光が漏れる。誘電体ナノピラー10は、ナノサイズの高屈折率誘電体であるため、光を入射した際、特定の波長においてMie共鳴により散乱し、散乱される光は渦状態(Magnetic Quadrupole)を有する。誘電体ナノピラー10のMD/MQの軸11上から円偏光かつ光渦(m=0;平面波)、すなわち円偏光が出射(<MD発現>)、または、円偏光かつ光渦(m=±1;プラスまたはマイナス単独かつ螺旋数1の光渦)が出射(<MQ発現>)される。
【0064】
ここで、<MD発現>、または、<MQ発現>は、一定の条件の下で選択できる。上記一定の条件は、波長と、細線光導波路20と対向する領域を規定する第1距離(D1)(そのための半径r等、部品の外形寸法)で主に決定される。第2距離(D2)は、誘電体ナノピラー10への光の漏れを決定するパラメータである。ただし、第2距離(D2)によっても、細線光導波路20の光路軸21と誘電体ナノピラー10のMD/MQの軸11との相対距離はわずかに変わるので考慮される。MD/MQの軸11が、細線光導波路20の光路軸21に対して交差する角度についても同様である。
【0065】
また、導波路型光渦発生装置1において、誘電体ナノピラー10(ナノサイズの高屈折率誘電体)は、回転対称を有し、回転対称の軸がMD/MQの軸11である。ナノサイズの高屈折率誘電体が、回転対称のMD/MQの軸11を有することで、光渦発現の環境が軸方向に等方性となり、渦状の光出射がMD/MQの軸11に集中することで、光渦発現効率を高めることが期待できる。また、構造上の不等方性に起因する外乱要因を未然に排除することができ、設計も簡素化される利点がある。なお、ナノサイズの高屈折率誘電体は、回転対称であればどのような構造体でもよく、上記ピラー構造に限らず、円錐構造、球体等の構造体も含まれる。
【0066】
このように、導波路型光渦発生装置1は、誘電体ナノピラー10のMD/MQの軸11と細線光導波路20の光路軸21とをずらすことで、渦状の光を発生させることができる。
導波路型光渦発生装置1は、光入力以外に電力消費を必要とせず、小さな系で既存の光ファイバシステムと親和性の高い導波路型光渦発生装置を提供することができる。
【0067】
これにより、トポロジカルシリコン光回路(Topological photonic integrated circuits:TPICs)上に集積可能な導波路型光渦発生装置を実現することができる。光渦は、理論的に多重化の制約がないので、大容量伝送向けの光渦通信技術の有力な要素技術である。光渦多重システムへの適用例を示すと、信号光の伝搬する1つないしは複数の導波路に対して、MD、MQ、および、更にm次数の大きい光渦を発現するナノ構造を集積することで、ナノ構造に対応した複数の光渦信号を表面出射させることができる。それらを本装置上に集積されるレンズ等を用いて光渦信号を合波することで、自由空間や各種光ファイバを伝送路とした光渦多重システムとして機能させることができる。
【0068】
導波路型光渦発生装置1は、トポロジカル特性の光回路への応用が可能である。導波路型光渦発生装置1は、半導体基板(シリコン,InPなど)上に形成することができ、半導体レーザや大容量伝送のキーコンポーネントであるマルチコアファイバとの整合性にも優れていることから光通信との親和性の向上も期待できる。
【0069】
特に、トポロジカルフォトニック結晶(Topological Photonic Crystal)(PhC)を動作させるために円偏光を利用し、多重要素として光渦を用いる場合に好適である。上記Topological Photonic Crystalは、内部がエネルギーギャップを持つ絶縁体であるが、そのエッジがバンドギャップレスの金属状態であるフォトニック構造体である。
【0070】
本発明は、上記実施形態例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、他の変形例、応用例を含む。
【符号の説明】
【0071】
1 導波路型光渦発生装置
10 誘電体ナノピラー(ナノサイズの高屈折率誘電体)
10a 誘電体ナノピラーの底部
11 MD/MQの軸(MDまたはMQの軸)
20 Si細線光導波路(細線光導波路)
20a 細線光導波路の表面
21 光路軸
D1 第1距離
D2 第2距離