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特開2023-127277ベイキング用油脂組成物、ベーカリー生地、ベーカリー食品、及びフィリングの存在感向上方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023127277
(43)【公開日】2023-09-13
(54)【発明の名称】ベイキング用油脂組成物、ベーカリー生地、ベーカリー食品、及びフィリングの存在感向上方法
(51)【国際特許分類】
   A23D 7/00 20060101AFI20230906BHJP
   A21D 2/14 20060101ALI20230906BHJP
   A23D 7/01 20060101ALI20230906BHJP
   A21D 13/30 20170101ALI20230906BHJP
【FI】
A23D7/00 506
A21D2/14
A23D7/01
A21D13/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022030972
(22)【出願日】2022-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊沢 紘介
(72)【発明者】
【氏名】小中 隆太
(72)【発明者】
【氏名】室田 健来
【テーマコード(参考)】
4B026
4B032
【Fターム(参考)】
4B026DG02
4B026DG03
4B026DH01
4B026DL02
4B026DX01
4B026DX03
4B032DE06
4B032DK15
4B032DK18
4B032DP66
(57)【要約】
【課題】複合ベーカリー食品におけるフィリングの使用量を増加させることなく、複合ベーカリー食品におけるフィリングの存在感を向上させることにある。また、複合ベーカリー食品におけるフィリングの使用量を一定程度低減させた場合であっても、低減の前後で複合ベーカリー食品におけるフィリングの存在感の変化が小さい複合ベーカリー食品を提供すること。
【解決手段】条件(a)、(b)及び(c)を満たすベイキング用油脂組成物である。
(a)20℃におけるSFCが20~40%である。
(b)飽和モノグリセリドとジグリセリドとを含有し、これらを合わせた量が5~20質量%である。
(c)ジグリセリド1質量部に対する飽和モノグリセリドの量が0.5~1.0質量部である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の条件(a)、(b)及び(c)を満たすベイキング用油脂組成物。
(a)20℃におけるSFCが20~40%である。
(b)飽和モノグリセリドとジグリセリドとを含有し、これらを合わせた量が5~20質量%である。
(c)ジグリセリド1質量部に対する飽和モノグリセリドの量が0.5~1.0質量部である。
【請求項2】
更に、次の条件(d)を満たす、請求項1記載のベイキング用油脂組成物。
(d)不飽和モノグリセリドを含有し、ジグリセリド1質量部に対する不飽和モノグリセリドの量が0.05~0.20質量部である。
【請求項3】
油相を構成する油脂の70%以上がランダムエステル交換油脂である、請求項1又は請求項2記載のベイキング用油脂組成物。
【請求項4】
澱粉類、飽和モノグリセリド及びジグリセリドを含有し、澱粉類100質量部に対する飽和モノグリセリド及びジグリセリドを合わせた量が0.12~1.2質量部であるベーカリー生地。
【請求項5】
使用される澱粉類のうち、準強力粉、中力粉、及び薄力粉から選択される1つ以上を40質量%以上含有する、請求項4記載のベーカリー生地。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1項に記載のベイキング用油脂組成物により、飽和モノグリセリド及びジグリセリドを含有させた、請求項4又は請求項5に記載のベーカリー生地。
【請求項7】
請求項4~6のいずれか1項に記載のベーカリー生地の加熱により得られるベーカリー食品。
【請求項8】
請求項4~6のいずれか1項に記載のベーカリー生地の加熱により得られるベーカリー食品と、フィリングからなる複合ベーカリー食品。
【請求項9】
澱粉類100質量部に対し飽和モノグリセリド及びジグリセリドを合わせて0.12~1.2質量部となるように、ベーカリー生地に添加する、複合ベーカリー食品におけるフィリングの存在感向上方法。
【請求項10】
請求項1~3のいずれか1項に記載のベイキング用油脂組成物をベーカリー生地に添加する、請求項9に記載の、複合ベーカリー食品におけるフィリングの存在感向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィリングを含む複合ベーカリー食品におけるフィリングの風味向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パン等のベーカリー食品は、消費者の嗜好の多様化に合わせて、多くの種類のものが販売されている。
とりわけ、ドウに様々な具材やクリーム等(以下単にフィリングと記載する)を、トッピングやサンド、注入、包餡した複合ベーカリー生地を加熱する方法や、ベーカリー食品にフィリングを組み合わせる方法により製造された、フィリングを含む複合ベーカリー食品(以下単に複合ベーカリー食品と記載する)は根強い需要や人気を集めている。
【0003】
複合ベーカリー食品の市場評価は、フィリング自体の風味は勿論、複合ベーカリー食品の風味全体に占めるフィリングの存在感がその判断材料とされる。そのため、(1)フィリング自体の風味を強く濃厚なものにする手法や、(2)ベーカリー生地又はベーカリー食品の単位重量あたりのフィリング量を高める手法により、フィリングの存在感を向上すれば、消費者に対する訴求効果も向上することが経験則的にも知られている。
【0004】
本出願人らはこうした市場動向も背景に、例えば特許文献1のように、複合ベーカリー食品中のフィリングの風味を、複合ベーカリー食品に用いられるベーカリー食品側から改良する手法も提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-202793号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
フィリング自体の風味を強める上記(1)の手法によっては、フィリングの強い風味が複合ベーカリー食品全体の風味の調和を損ねることとなる場合があった。また、フィリング量を高める上記(2)の手法によれば確かに複合ベーカリー食品におけるフィリングの存在感が向上するものの、昨今の製パン製菓材料の原料高騰を受けて、フィリングを多く用いた複合ベーカリー食品を提供することが困難になっており、(2)の手法の利用は限定的なものであった。
【0007】
また、特許文献1のように複合ベーカリー食品中のフィリングの風味を、複合ベーカリー食品に用いられるベーカリー食品側から改良する手法は、有効な手法の一つであるものの、使用することのできるフィリングの種類が限定されやすく、汎用性に欠けていた。
【0008】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、複合ベーカリー食品におけるフィリングの使用量を増加させることなく、複合ベーカリー食品におけるフィリングの存在感を向上させることにある。また、複合ベーカリー食品におけるフィリングの使用量を一定程度低減させた場合であっても、低減の前後で複合ベーカリー食品におけるフィリングの存在感の変化が小さい複合ベーカリー食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが鋭意検討した結果、飽和モノグリセリドとジグリセリドを、特定の比率を満たしながら一定量含有し、かつ20℃におけるSFCが一定範囲を満たすベイキング用油脂組成物を用いることにより、上記課題を解決しうることを見出した。
【0010】
本発明は、次の条件(a)、(b)及び(c)を満たすベイキング用油脂組成物である。
(a)20℃におけるSFCが20~40%である。
(b)飽和モノグリセリドとジグリセリドとを含有し、これらを合わせた量が5~20質量%である。
(c)ジグリセリド1質量部に対する飽和モノグリセリドの量が0.5~1.0質量部である。
【0011】
また、本発明は、澱粉類、飽和モノグリセリド及びジグリセリドを含有し、澱粉類100質量部に対する飽和モノグリセリド及びジグリセリドを合わせた量が0.12~1.2質量部であるベーカリー生地である。
【0012】
また、本発明は、澱粉類100質量部に対し飽和モノグリセリド及びジグリセリドを合わせて0.12~1.2質量部となるように、ベーカリー生地に添加する、複合ベーカリー食品におけるフィリングの存在感向上方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明のベイキング用油脂組成物によれば、複合ベーカリー食品におけるフィリングの使用量を増加させることなく、複合ベーカリー食品におけるフィリングの存在感を向上させることができる。また、複合ベーカリー食品におけるフィリングの使用量を一定程度低減させた場合であっても、低減の前後で複合ベーカリー食品におけるフィリングの存在感の変化が小さい複合ベーカリー食品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。本発明は以下の記述によって限定されるものではなく、各構成要素は本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である
【0015】
<<ベイキング用油脂組成物>>
本発明のベイキング用油脂組成物は、次の条件(a)、(b)及び(c)を満たすものである。
(a)20℃におけるSFCが20~40%である。
(b)飽和モノグリセリドとジグリセリドとを含有し、これらを合わせた量が5~20質量%である。
(c)ジグリセリド1質量部に対する飽和モノグリセリドの量が0.5~1.0質量部である。
【0016】
<条件(a)>
本発明のベイキング用油脂組成物は、20℃におけるSFC(Solid Fat Contents:固体脂含量)が20~40%である。20℃におけるSFCが上記範囲を満たすことで、得られるベーカリー食品の歯切れが向上し、複合ベーカリー食品におけるフィリングの存在感が向上する。
【0017】
本発明のベイキング用油脂組成物に含有される油脂の20℃におけるSFCは、上記観点から、好ましくは22~38%であり、より好ましくは24~36%であり、さらに好ましくは26~34%である。
【0018】
同様の観点から、35℃におけるSFCは、好ましくは1~15%であり、より好ましくは3~13%であり、さらに好ましくは5~11%である。
【0019】
SFCは常法により測定することが可能であるが、本発明においては、AOCS official methodのcd16b-93に記載のパルスNMR(ダイレクト法)にて、測定対象となる試料(ベイキング用油脂組成物)のSFCを測定した後、測定値を油相量に換算した値を使用する。即ち、水相を含まない試料を測定した場合は、測定値がそのままSFCとなり、水相を含む試料を測定した場合は、測定値を油相量に換算した値がSFCとなる。
【0020】
<条件(b)>
本発明のベイキング用油脂組成物は、飽和モノグリセリドとジグリセリドとを合わせて5~20質量%含有する。
【0021】
まず、飽和モノグリセリドについて述べる。
本発明で使用する飽和モノグリセリドとしては、公知の飽和モノグリセリドを使用することができる。
【0022】
飽和モノグリセリドを構成する脂肪酸残基は、特に制限はなく、飽和脂肪酸残基の鎖長についても制限はないが、好ましくは炭素数が8~22の飽和脂肪酸残基が結合した飽和モノグリセリドが用いられ、より好ましくは炭素数12~20の飽和脂肪酸残基が結合した飽和モノグリセリドが用いられ、さらに好ましくは炭素数14~18の飽和脂肪酸残基が結合した飽和モノグリセリドが用いられる。
【0023】
最も好ましい脂肪酸残基としては、ベーカリー食品のソフト性を高め、複合ベーカリー食品におけるフィリングの存在感を向上させる観点から、炭素数16の飽和脂肪酸残基であるパルミチン酸残基、及び/又は炭素数18の飽和脂肪酸残基であるステアリン酸残基が選択される。
【0024】
なお、本発明においては、異なる飽和脂肪酸残基が結合した2以上の飽和モノグリセリドを、求める効果に応じて、任意に用いることもできる。
【0025】
次にジグリセリドについて述べる。
本発明で使用するジグリセリドとしては、公知のジグリセリドを使用することができる。
【0026】
ジグリセリドを構成する脂肪酸残基は特に制限はなく、飽和脂肪酸残基が結合したジグリセリドであっても不飽和脂肪酸残基したジグリセリドであっても使用可能であるが、飽和脂肪酸残基が結合したジグリセリドであることが好ましい。脂肪酸残基の鎖長についても制限はないが、好ましくは炭素数8~22の脂肪酸残基が結合したジグリセリドが用いられ、より好ましくは炭素数12~22の脂肪酸残基が結合したジグリセリドが用いられ、さらに好ましくは炭素数14~18の脂肪酸残基が結合したジグリセリドが用いられる。
【0027】
具体的には、ベーカリー食品の歯切れを改善し、複合ベーカリー食品におけるフィリングの存在感を向上させる観点から、ジグリセリドを構成する脂肪酸残基は、パルミチン酸残基、ステアリン酸残基、炭素数20の飽和脂肪酸残基であるアラキジン酸残基、及び炭素数22の飽和脂肪酸残基であるベヘン酸残基のうち、1種又は2種以上であることが好ましく、パルミチン酸残基及び/又はステアリン酸残基であることがより好ましい。
【0028】
また、本発明で使用するジグリセリドの脂肪酸残基の結合数についても特に制限はないが、脂肪酸残基の結合数は1又は2であることが好ましい。
【0029】
次に、飽和モノグリセリドの含量とジグリセリドの含量の合算量について述べる。
本発明のベイキング用油脂組成物は、飽和モノグリセリドとジグリセリドとを合わせて5~20質量%含有する。
【0030】
上記合計の含有量が5質量%以上であることで、本発明の効果が得られるようになり、20質量%以下とすることで、ベーカリー食品の歯切れや口溶けが良好なものとなり、フィリングの存在感を高めることができる。また、上記範囲を満たすことで、ベーカリー食品の生地を製造する際の生地のベタツキが抑えられ、容易に成形することができる。
【0031】
上記合計の含有量は、好ましくは7~18質量%、より好ましくは9~16質量%、さらに好ましくは11~14質量%である。
【0032】
<条件(c)>
本発明のベイキング用油脂組成物は、ジグリセリド1質量部に対する飽和モノグリセリドの量が0.5~1.0質量部である。
【0033】
上記範囲を満たすように、飽和モノグリセリドとジグリセリドを含有させることで、ベーカリー食品の歯切れや口溶けが良好なものとなり、フィリングの存在感を高めることができる。また、上記範囲を満たすことで、ベーカリー食品の生地を製造する際の生地のベタツキが抑えられ、容易に成形することができる。
【0034】
本発明の効果を好ましく得る観点から、ジグリセリド1質量部に対する飽和モノグリセリドの量が0.5~0.9質量部であることが好ましく、0.55~0.85質量部であることがより好ましく、0.6~0.80質量部であることがさらに好ましい。
【0035】
本発明のベイキング用油脂組成物においては、上記条件(a)、(b)及び(c)に加えて、次の条件(d)を満たすことにより、いっそう好ましくフィリングの存在感が向上した複合ベーカリー食品を得ることができる。
【0036】
<条件(d)>
本発明のベイキング用油脂組成物は、好ましくは、不飽和モノグリセリドを含有し、ジグリセリド1質量部に対する不飽和モノグリセリドの量が0.05~0.20質量部である。
【0037】
不飽和モノグリセリドを、上記範囲を満たすように好ましく含有させることで、本発明の効果がいっそう好ましく得られる上、本発明のベイキング用油脂組成物が乳化物である場合にはその乳化安定性が高まるという効果を得ることができる。
【0038】
本発明の効果を高める観点から、ジグリセリド1質量部に対する不飽和モノグリセリド量は、より好ましくは0.05~0.16質量部であり、さらに好ましくは0.05~0.12質量部である。
【0039】
本発明で使用される不飽和モノグリセリドとしては、公知の不飽和モノグリセリドを使用することができる。
不飽和モノグリセリドを構成する脂肪酸残基は、特に制限はなく、不飽和脂肪酸残基の鎖長についても制限はないが、好ましくは炭素数が8~22の不飽和脂肪酸残基が結合した不飽和モノグリセリドが用いられ、より好ましくは炭素数12~20の不飽和脂肪酸残基が結合した不飽和モノグリセリドが用いられ、さらに好ましくは炭素数14~18の不飽和脂肪酸残基が結合した不飽和モノグリセリドが用いられる。
【0040】
最も好ましい脂肪酸残基としては、ベーカリー食品の口溶けの改善と複合ベーカリー食品におけるフィリングの存在感を向上させる観点から、炭素数18の不飽和脂肪酸残基であるオレイン酸残基が選択される。
【0041】
<含有される油脂について>
本発明のベイキング用油脂組成物は油脂を含有する。用いることができる油脂は、食用の油脂であればよく、20℃のSFCに関する上記条件(a)を満たせば特に制限なく用いることができる。
【0042】
具体的には、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、綿実油、大豆油、ナタネ油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、オリーブ油、落花生油、カポック油、胡麻油、月見草油、カカオ脂、シア脂、マンゴー核油、サル脂及びイリッペ脂等の各種植物油脂、牛脂、乳脂、豚脂、魚油及び鯨油等の各種動物油脂、並びにこれらに水素添加、分別及びエステル交換から選択される1又は2以上の処理を施した加工油脂を使用することができる。本発明はこれらの中から選ばれた1種又は2種以上を選択して用いることができる(以下、選択された1種又は2種以上の油脂の混合物を、単に使用油脂と記載する)。
【0043】
本発明のベイキング用油脂組成物は複合ベーカリー食品におけるフィリングの存在感を向上させる観点から、本発明のベイキング用油脂組成物の油相を構成する油脂のうち、ランダムエステル交換油脂を70質量%以上含有することが好ましく、85質量%以上含有することがより好ましく、ランダムエステル交換油脂のみからなることがさらに好ましい。
【0044】
含有されるランダムエステル交換油脂はパーム系油脂のランダムエステル交換油脂を含むことが好ましい。
本発明においてパーム系油脂とは、パーム油、パーム核油、並びにパーム油又はパーム核油に対し水素添加、分別等から選択される物理的又は化学的処理の1種又は2種以上を施した油脂、また、これらから選択される2種以上の混合油脂を指す。
【0045】
なお、上記のランダムエステル交換は、常法に従って行うことができ、化学的触媒による方法でも、酵素による方法でもよい。
【0046】
上記化学的触媒としては、例えば、ナトリウムメチラート等のアルカリ金属系触媒が挙げられ、また、上記酵素としては、位置選択性のない酵素、例えば、アルカリゲネス(Alcaligenes)属、リゾープス(Rhizopus)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、ムコール(Mucor)属、ペニシリウム(Penicillium)属等に由来するリパーゼが挙げられる。なお、該リパーゼは、イオン交換樹脂、ケイ藻土及びセラミック等の担体に固定化して、固定化リパーゼとして用いることもできるし、粉末の形態で用いることもできる。
【0047】
本発明のベイキング用油脂組成物は、油相を構成する油脂の融点が好ましくは36~50℃、より好ましくは37~47℃、さらに好ましくは38~44℃である。
使用油脂の融点が、上記範囲を満たすことにより、本発明のベイキング用油脂組成物がベーカリー生地へ混合されやすくなる。また、上記条件(a)~(c)を満たす場合であっても、ベーカリー生地のべたつきが抑えられる。さらに、得られるベーカリー食品の歯切れや口溶けが良好なものとなりやすく、複合ベーカリー食品におけるフィリングの存在感が向上しやすくなる。
【0048】
本発明のベイキング用油脂組成物において、使用油脂の融点とは上昇融点であり、日本油化学会制定の基準油脂分析試験法に記載の方法により測定することができる。
【0049】
なお、油相を構成する油脂の融点が上記範囲を満たす場合には、本発明のベイキング用油脂組成物の比重は0.9未満であることが好ましく、より好ましくは0.5~0.8、最も好ましくは0.60~0.75である。
【0050】
ベイキング用油脂組成物の比重は、容積法により測定することができる。具体的には、一定容積の計量カップに油脂組成物を充填し、該カップ内の油脂組成物の質量を測定し、その質量を計量カップの容積で除して得られる数値をベイキング用油脂組成物の比重とする。なお、ベイキング用油脂組成物の比重は20℃において測定するものとする。
【0051】
本発明において、使用油脂の融点が36~50℃であり、且つ比重が0.9未満である場合、パーム系油脂のランダムエステル交換油脂の中でも特に、パーム分別軟部油を70~100質量%含む油脂配合物をランダムエステル交換したエステル交換油脂(以下単にIE-1と記載)を使用することが好ましい。
【0052】
本発明のベイキング用油脂組成物にIE-1を用いることにより、ベーカリー生地への混合性を高めることができ、該生地中に均一にベイキング用油脂組成物を分散させやすくなる。また、これにともなって、得られるベーカリー食品のボリュームや、歯切れ・口溶け等の食感の改善が得られるとともに、複合ベーカリー食品におけるフィリングの存在感がいっそう向上する。
【0053】
IE-1について説明する。
IE-1の製造に用いられる油脂配合物は、ヨウ素価52~70のパーム分別軟部油を、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは100質量%含むものである。
【0054】
上記パーム分別軟部油は、アセトン分別やヘキサン分別等の溶剤分別、ドライ分別等の無溶剤分別等の方法によって、パーム油を分別した際に得られる低融点部であり、通常、ヨウ素価が52~70のものである。本発明に用いられるパーム分別軟部油としては、好ましくはヨウ素価が52~65、より好ましくはヨウ素価が54~60のものが使用される。
【0055】
IE-1を得るための油脂配合物は、必要に応じ、上記パーム分別軟部油以外の油脂を含有しうる。上記パーム分別軟部油以外の油脂は、本願発明の効果に支障がない範囲で適宜選択することができ、具体的には、大豆油、キャノーラ油、コーン油、綿実油、オリーブ油、落花生油、米油、べに花油、ひまわり油等の常温で液体の油脂が挙げられるが、その他に、パーム油、パーム核油、ヤシ油、サル脂、マンゴー核油脂、乳脂、牛脂、乳脂、豚脂、カカオ脂等の常温で固体の油脂も用いることができ、更に、これらの油脂に水素添加、分別、エステル交換等の物理的又は化学的処理の1種又は2種以上の処理を施した油脂を使用することもできる。
本発明においては、これらの油脂を単独で用いることもでき、又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0056】
IE-1を得るためのランダムエステル交換については、常法に従って行うことができ、上述の化学的触媒による方法でも、酵素による方法でもよい。
【0057】
本発明のベイキング用油脂組成物における、IE-1の含有量は、油相中に、好ましくは60~95質量%、より好ましくは65~95質量%、更に好ましくは70~90質量%である。
【0058】
更に、本発明では、本発明において使用油脂の融点が36℃以上、且つ比重が0.9未満である場合、構成脂肪酸残基組成における炭素数12~14の飽和脂肪酸残基の含量が25~60質量%であり、且つ、構成脂肪酸残基組成における炭素数16~18の飽和脂肪酸残基の含量に対する炭素数12~14の飽和脂肪酸残基の含量の質量比が1.1~1.5である油脂配合物を、ランダムエステル交換して得られるランダムエステル交換油脂(以下単にIE-2と記載)を使用することが好ましい。
【0059】
本発明のベイキング用油脂組成物のベーカリー生地への混合性を高める観点や、本発明のベイキング用油脂組成物を用いて製造された複合ベーカリー食品におけるフィリングの存在感を高める観点から、IE-2を使用することが好ましい。
【0060】
ここで、IE-2について説明する。
IE-2の製造に用いられる油脂配合物は、構成脂肪酸残基組成において炭素数12~14の飽和脂肪酸残基や炭素数16~18の飽和脂肪酸残基を含有する油脂を用いて、上記条件を満たすように配合することにより得ることができる。
【0061】
上記の炭素数12~14の飽和脂肪酸残基を含有する油脂において、炭素数12~14の飽和脂肪酸残基の含有量は、その構成脂肪酸残基組成中に好ましくは30~100質量%、より好ましくは45~90質量%、さらに好ましくは60~80質量%である。
【0062】
上記の炭素数12~14の飽和脂肪酸残基を含有する油脂としては、例えば、パーム核油、ヤシ油、ババス油、並びにこれらに対し水素添加、分別及びエステル交換のうちの1又は2以上の操作を施した油脂を挙げることができ、これらの中の1種又は2種以上を用いることができる。
本発明では、好ましくは、パーム核油又はヤシ油を使用する。
【0063】
上記の炭素数16~18の飽和脂肪酸残基を含有する油脂において、炭素数16~18の飽和脂肪酸残基の含有量は、その構成脂肪酸残基組成中に好ましくは70~100質量%、より好ましくは80~100質量%、さらに好ましくは90~100質量%である。
【0064】
上記の炭素数16~18の飽和脂肪酸残基を含有する油脂としては、例えば、パーム油、大豆油、ナタネ油、豚脂、牛脂、並びにこれらに対し硬化、分別及びエステル交換のうちの1又は2以上の操作を施した油脂を挙げることができ、これらの中の1種又は2種以上を用いることができる。
【0065】
本発明では、好ましくは、パーム硬化油、大豆硬化油又はナタネ硬化油、より好ましくは、パーム極度硬化油、大豆極度硬化油又はナタネ極度硬化油、さらに好ましくはパーム極度硬化油を使用する。
【0066】
IE-2の製造に用いられる油脂配合物において、上記の炭素数12~14の飽和脂肪酸残基を含有する油脂はIE-2の製造に用いられる油脂配合物の構成脂肪酸残基組成における炭素数12~14の飽和脂肪酸残基含量が好ましくは20~70質量%、より好ましくは25~65質量%、さらに好ましくは30~60質量%となるように配合される。
【0067】
また、IE-2の製造に用いられる油脂配合物において、炭素数16~18の飽和脂肪酸残基を含有する油脂は、IE-2の製造に用いられる油脂配合物の構成脂肪酸残基組成における炭素数16~18の飽和脂肪酸残基含量が好ましくは20~50質量%、より好ましくは25~45質量%、さらに好ましくは30~40質量%となるように配合される。
【0068】
上記炭素数12~14の飽和脂肪酸残基含量が上記範囲内であると、低温での油脂混合性の改良効果が得られにくい。また炭素数14以下の飽和脂肪酸含量が60質量%超であると、融点が低くなりやすく油脂混合性が低下し、特に付着性改善効果が得られにくい。炭素数16~18の飽和脂肪酸残基含量が上記範囲内であると、ベーカリー生地に対する油脂混合性が向上し、得られるベーカリー食品の歯切れや口溶けが良好になるとともに、複合ベーカリー食品とした場合のフィリングの存在感が向上しやすい。
【0069】
IE-2を得るためのランダムエステル交換は、常法に従って行うことができ、上述の化学的触媒による方法でも、酵素による方法でもよい。
【0070】
本発明のベイキング用油脂組成物における、IE-2の含有量は、油相中に好ましくは5~40質量%、より好ましくは5~30質量%、さらに好ましくは5~20質量%である。
【0071】
なお、本発明のベイキング用油脂組成物において使用油脂の融点が36℃以上且つ比重が0.9未満である場合、IE-1とIE-2を併用することにより、いっそう好ましく複合ベーカリー食品におけるフィリングの存在感を高めることができるようになる。
【0072】
また、IE-1とIE-2の比率は、IE-1 100質量部に対して、好ましくはIE-2を5~30質量部、より好ましくは5~23質量部、さらに好ましくは5~16質量部である。
【0073】
上記比率の範囲でIE-1とIE-2を併用することにより、いっそう好ましく複合ベーカリー食品におけるフィリングの存在感を高めることができるようになる。
【0074】
<その他の成分>
本発明のベイキング用油脂組成物は、本発明の効果を妨げない範囲においてその他の成分を含有することができる。
【0075】
上記のその他の成分としては水、蛋白質、糖類、甘味料、上記飽和モノグリセリド及びジグリセリド以外の乳化剤、増粘安定剤、食塩や塩化カリウム等の塩味剤、卵類、無機塩類、乳清ミネラル、乳脂肪球皮膜、アミラーゼ・プロテアーゼ・アミログルコシダーゼ・プルラナーゼ・ペントサナーゼ・セルラーゼ・リパーゼ・ホスフォリパーゼ・グルコースオキシダーゼ等の酵素、β―カロチン・カラメル等の着色料、酢酸・乳酸等の酸味料、調味料、蒸留酒、ワイン・日本酒・ビール等の醸造酒、各種リキュール、pH調整剤、日持ち向上剤、果実、果汁、ナッツペースト、香辛料、カカオマス・カカオパウダー等のカカオ製品、コーヒー、紅茶、緑茶、ハーブ、穀類、豆類、野菜類、肉類、魚介類等の食品素材、トコフェロール・茶抽出物等の酸化防止剤、着香料、保存料、苦味料、酸味料、ジャム、フルーツソース、コンソメ・ブイヨン等の植物及び動物エキス、食品添加剤等を添加することができる。
【0076】
上記その他の成分は、本発明の目的・効果を損なわない限り、任意の量を使用することができるが、好ましくは、本発明のベイキング用油脂組成物中、30質量%以下である。
【0077】
<ベイキング用油脂組成物の形態>
本発明のベイキング用油脂組成物は、生地中に容易に分散させることが可能になるとともに、本願発明の効果が得られやすくなる点で、油脂を分散相とする水中油型乳化物等の油脂組成物ではなく、油脂を連続相とする油脂組成物の形態をとることが好ましい。
【0078】
本発明のベイキング用油脂組成物が、油脂を連続相とする油脂組成物の形態をとる場合、水分を含有するマーガリンやファットスプレッドの形態をとるものであってもよく、また、水分を実質的に含有しないショートニングの形態をとるものであってもよい。
【0079】
本発明のベイキング用油脂組成物が油脂を連続相とし、水分を含有する乳化物である場合、その乳化型が、水を分散相とする油中水型であってもよく、油脂が分散した水を分散相とする油中水中油型等の二重乳化以上の多重乳化型であってもよい。
【0080】
<ベイキング用油脂組成物の製造方法>
次に、本発明のベイキング用油脂組成物の製造方法について説明する。
本発明のベイキング用油脂組成物は、上記条件(a)を満たすような油脂に対して、上記条件(b)及び(c)を満たすように、飽和モノグリセリド及びジグリセリドを含有させ、溶解した後、冷却し、結晶化させることにより製造することができる。
【0081】
具体的な製造方法としては、例えば、ベイキング用油脂組成物がショートニングの場合は、条件(a)を満たす油脂に、上記条件(b)及び(c)を満たすように飽和モノグリセリド及びジグリセリドを含み、さらに必要に応じ油溶性の他の材料を添加した油相を用意する。
【0082】
上記のベイキング用油脂組成物がマーガリンの場合は、上記油相と、水に必要により水溶性の乳化剤やその他の材料を添加した水相を準備し、油中水型乳化物とする。
【0083】
次にショートニングの場合は油相を、マーガリンの場合は油中水型乳化物を、殺菌処理するのが望ましい。殺菌方式は、タンクでのバッチ式でも、プレート型熱交換機や掻き取り式熱交換機を用いた連続方式でも構わない。また殺菌温度は好ましくは80~100℃、さらに好ましくは80~95℃、最も好ましくは80~90℃とする。その後、必要により油脂結晶が析出しない程度に予備冷却を行う。予備冷却の温度は好ましくは40~60℃、さらに好ましくは40~55℃、最も好ましくは40~50℃とする。
【0084】
次に冷却、好ましくは急冷可塑化を行う。この急冷可塑化は、コンビネーター、ボテーター、パーフェクター、ケムテーターなどの密閉型連続式掻き取りチューブラー冷却機(Aユニット)、プレート型熱交換機などが挙げられ、また開放型冷却機のダイヤクーラーとコンプレクターをとの組合せが挙げられる。
【0085】
これらの装置の後に、ピンマシンなどの捏和装置(Bユニット)やレスティングチューブ、ホールディングチューブを使用してもよい。
【0086】
本発明のベイキング用油脂組成物の比重を0.9未満とする際は、上記の通りベイキング用油脂組成物を製造する際のいずれかの製造工程で、窒素、空気等を含気させ、比重を0.9未満、好ましくは0.4~0.84、さら好ましくは0.5~0.8、最も好ましくは0.60~0.75とすることにより得ることができる。
【0087】
<<ベーカリー生地>>
次に、本発明のベーカリー生地について述べる。
本発明のベーカリー生地は、澱粉類、飽和モノグリセリド及びジグリセリドを含有し、且つ澱粉類100質量部に対して飽和モノグリセリド及びジグリセリドを合わせて0.12~1.2質量部含むものである。
【0088】
<澱粉類>
本発明のベーカリー生地に含有される澱粉類について述べる。
澱粉類としては、例えば、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、デュラム粉、全粒粉等の小麦粉類、ライ麦粉、大麦粉、米粉等のその他の穀粉類、アーモンド粉、へーゼルナッツ粉、カシューナッツ粉、オーナッツ粉、松実粉等の堅果粉、コーンスターチ、タピオカ澱粉、小麦澱粉、甘藷澱粉、サゴ澱粉、米澱粉等の澱粉や、これらの澱粉をアミラーゼ等の酵素で処理したものや、α化処理、分解処理、エーテル化処理、エステル化処理、架橋処理、グラフト化処理等の中から選ばれた1種又は2種以上の処理を施した化工澱粉等を挙げることができ、この中から1種又は2種以上を含有することができる。とりわけ、本発明のベーカリー生地においては、準強力粉、中力粉、及び薄力粉から選択される1つ以上を含有することが、複合ベーカリー食品におけるフィリングの存在感を高める観点から好ましい。
【0089】
本発明のベーカリー生地に含有される澱粉類のうち、準強力粉、中力粉、及び薄力粉から選択される1つ以上を40質量%以上含有することが好ましい。本発明のベーカリー生地に含有される澱粉類のうち、準強力粉、中力粉、及び薄力粉から選択される1つ以上を、好ましくは40~95質量%の範囲で含有し、より好ましくは47~90質量%の範囲で含有し、さらに好ましくは55~85質量%の範囲で含有する。
【0090】
なお、準強力粉、中力粉、及び薄力粉は、いずれか2つを選択して使用してもよく、全て使用してもよいが、好ましくは準強力粉、及び中力粉のいずれか1つ以上を使用することが好ましい。準強力粉、中力粉、及び薄力粉のうちから2つ以上を選択して使用する場合において、澱粉類中のそれぞれの含量の合算値を基に上記範囲を考慮するものとする。
【0091】
本発明のベーカリー生地に含有される澱粉類が上記範囲を満たすように、準強力粉、中力粉、及び薄力粉から選択される1つ以上を含有することにより、本発明のベーカリー生地を用いて製造されたベーカリー食品の歯切れや口溶けが向上する他、該ベーカリー食品を用いて製造された複合ベーカリー食品におけるフィリングの存在感が向上する。
【0092】
<飽和モノグリセリド及びジグリセリド>
次に、本発明のベーカリー生地に含有される飽和モノグリセリド及びジグリセリドについて述べる。
【0093】
飽和モノグリセリドについて述べる。
本発明のベーカリー生地で使用される飽和モノグリセリドとしては、公知の飽和モノグリセリドを使用することができる。
【0094】
飽和モノグリセリドを構成する脂肪酸残基は、特に制限はなく、飽和脂肪酸残基の鎖長についても制限はないが、好ましくは炭素数が8~22の飽和脂肪酸残基が結合した飽和モノグリセリドが用いられ、より好ましくは炭素数12~20の飽和脂肪酸残基が結合した飽和モノグリセリドが用いられ、さらに好ましくは炭素数14~18の飽和脂肪酸残基が結合した飽和モノグリセリドが用いられる。最も好ましい脂肪酸残基としては、ベーカリー食品のソフト性を高め、複合ベーカリー食品におけるフィリングの存在感を向上させる観点から、炭素数16の飽和脂肪酸残基であるパルミチン酸残基、及び/又は炭素数18の飽和脂肪酸残基であるステアリン酸残基が選択される。
なお、本発明においては、異なる飽和脂肪酸残基が結合した2以上の飽和モノグリセリドを、求める効果に応じて、任意に用いることもできる。
【0095】
ジグリセリドについて述べる。
本発明で使用するジグリセリドとしては、公知のジグリセリドを使用することができる。ジグリセリドを構成する脂肪酸残基は特に制限はなく、飽和脂肪酸残基が結合したジグリセリドであっても不飽和脂肪酸残基したジグリセリドであっても使用可能であるが、飽和脂肪酸残基が結合したジグリセリドであることが好ましい。
【0096】
脂肪酸残基の鎖長について制限はないが、好ましくは炭素数8~22の脂肪酸残基が結合したジグリセリドが用いられ、より好ましくは炭素数12~22の脂肪酸残基が結合したジグリセリドが用いられ、さらに好ましくは炭素数14~18の脂肪酸残基が結合したジグリセリドが用いられる。具体的には、ベーカリー食品の歯切れを改善し、複合ベーカリー食品におけるフィリングの存在感を向上させる観点から、パルミチン酸残基、ステアリン酸残基、炭素数20の飽和脂肪酸残基であるアラキジン酸残基、及び炭素数22の飽和脂肪酸残基であるベヘン酸残基のうち、1種又は2種以上であることが好ましく、パルミチン酸残基及び/又はステアリン酸残基であることがより好ましい。
【0097】
また、本発明で使用するジグリセリドの脂肪酸残基の結合数についても特に制限はないが、脂肪酸残基の結合数は1又は2であることが好ましい。
【0098】
本発明のベーカリー生地における、飽和モノグリセリド及びジグリセリドの含量について述べる。
本発明のベーカリー生地においては、ベーカリー生地中の澱粉類100質量部に対して、飽和モノグリセリド及びジグリセリドを合わせて0.12~1.2質量部含有し、好ましくは0.24~1.08質量部含有し、より好ましくは0.36~0.96質量部含有し、さらに好ましくは0.48~0.84質量部含有する。
【0099】
本発明のベーカリー生地中に、上記範囲を満たすように飽和モノグリセリド及びジグリセリドを含有させることで、歯切れや口溶けが良好なベーカリー食品を得ることができる。また、該ベーカリー食品を用いた複合ベーカリー食品におけるフィリングの存在感を向上させることができる。
【0100】
なお、本発明のベーカリー生地中に、飽和モノグリセリド及びジグリセリドを上記範囲の上限以上に含有させた場合には、ベーカリー食品の咀嚼にともなって、口中でダマ(団子状)になり、所謂「くちゃつき」が発生する。
【0101】
本発明のベーカリー生地においては、飽和モノグリセリド及びジグリセリドを、ジグリセリド1質量部に対する飽和モノグリセリドの量が0.5~1.0質量部となるように含有させることが好ましく、0.5~0.9質量部であることがより好ましく、0.55~0.85質量部であることがさらに好ましく、0.6~0.80質量部であることが特に好ましい。
【0102】
上記範囲を満たすように、飽和モノグリセリドとジグリセリドを含有させることで、ベーカリー食品の歯切れや口溶けが良好なものとなり、該ベーカリー食品を用いた複合ベーカリー食品におけるフィリングの存在感を高めることができる。また、上記範囲を満たすことで、ベーカリー食品の生地を製造する際の生地のベタツキが抑えられ、容易に成形することができる。
【0103】
本発明のベーカリー生地においては、飽和モノグリセリド及びジグリセリドを生地中に直接添加することも可能であるが、本発明のベイキング用油脂組成物を本発明のベーカリー生地の製造に用いることが、歯切れや口溶けが良好なベーカリー食品が得られ、また該ベーカリー食品を用いて製造される複合ベーカリー食品におけるフィリングの存在感を高められるため、好ましい。
【0104】
本発明のベーカリー生地の製造にあたり、用いられる本発明のベイキング用油脂組成物の量は、ベーカリー生地中の澱粉類100質量部に対して、好ましくは1~10質量部、より好ましくは2~9質量部、さらに好ましくは3~8質量部であり、特に好ましくは4~7質量部である。
【0105】
本発明のベーカリー生地の製造にあたり、飽和モノグリセリド及びジグリセリドを、本発明のベイキング用油脂組成物を用いて添加することにより、本発明の効果が高まる機序は不明だが、飽和モノグリセリド及びジグリセリドを生地中に直接添加する場合と本発明のベイキング用油脂組成物を用いて添加する場合とでは、ベーカリー生地に作用するタイミングが異なるためであると推測される。
【0106】
本発明のベーカリー生地は、上記澱粉類や、飽和モノグリセリド及びジグリセリドに加えて、ベーカリー生地の製造に通常用いられる水(牛乳等の乳類を含む)及びイーストの他、本発明の効果を妨げない範囲においてその他の成分を含有することができる。
【0107】
上記のその他の成分としては蛋白質、糖類、甘味料、上記飽和モノグリセリド及びジグリセリド以外の乳化剤、増粘安定剤、食塩や塩化カリウム等の塩味剤、卵類、無機塩類、乳清ミネラル、乳脂肪球皮膜、アミラーゼ・プロテアーゼ・アミログルコシダーゼ・プルラナーゼ・ペントサナーゼ・セルラーゼ・リパーゼ・ホスフォリパーゼ・グルコースオキシダーゼ等の酵素、β―カロチン・カラメル等の着色料、酢酸・乳酸等の酸味料、調味料、蒸留酒、ワイン・日本酒・ビール等の醸造酒、各種リキュール、pH調整剤、日持ち向上剤、果実、果汁、ナッツペースト、香辛料、カカオマス・カカオパウダー等のカカオ製品、コーヒー、紅茶、緑茶、ハーブ、穀類、豆類、野菜類、肉類、魚介類等の食品素材、トコフェロール・茶抽出物等の酸化防止剤、着香料、保存料、苦味料、酸味料、ジャム、フルーツソース、コンソメ・ブイヨン等の植物及び動物エキス、食品添加剤、イーストフード等を添加することができる。
【0108】
その他の成分は、本発明の目的を損なわない限り、任意の量を使用することができるが、好ましくは、本発明のベーカリー生地中の澱粉類100質量部に対して、0.1~20質量部である。
【0109】
<ベーカリー生地の種類>
本発明のベーカリー生地は、山形食パン、角型食パン、ワンローフ食パン、コッペパン、バラエティブレッド、ロールパン、菓子パン、スイートロール、デニッシュ・ペストリー、バンズ、ブリオッシュ、マフィン、ベイグル、スコーン、イングリッシュマフィン、ドーナツ、ピザ、蒸しパン、ワッフル等の各種ベーカリー生地のいずれであってもよい。
【0110】
特に、フィリングと組み合わせて複合ベーカリー食品とした場合に、フィリングの存在感が向上しやすく、本発明の効果がより高まるという観点から、山形食パン、角型食パン、ワンローフ食パン、コッペパン、ロールパン、菓子パン、ピザの生地であることが好ましい。
【0111】
<ベーカリー生地の製造方法>
本発明のベーカリー生地の製法としては、澱粉類、飽和モノグリセリド及びジグリセリドを含有すれば、特に限定されることはなく、中種法、直捏法、液種法、中麺法、湯種法等、従来製パン法として使用されるあらゆる製パン法をとることができる。
【0112】
なお、本発明のベーカリー生地を中種法で製造する場合は、飽和モノグリセリド及びジグリセリド、若しくは本発明のベイキング用油脂組成物を、中種生地及び本捏生地のいずれか1つ以上に添加することにより練り込むことにより製造することができるが、本捏生地に練り込むことが好ましい。
【0113】
得られた本発明のベーカリー生地については、通常のベーカリー食品と同様に、フロアタイム、分割、ベンチタイム、成形、ホイロ後に、焼成などの加熱工程を経ることにより、本発明のベーカリー食品を得ることができる。
また、得られた本発明のベーカリー生地は、冷蔵、冷凍保存することが可能である。
【0114】
<<ベーカリー食品>>
本発明のベーカリー食品について述べる。
本発明のベーカリー食品は、本発明のベーカリー生地を加熱することにより得られるものである。
【0115】
本発明のベーカリー食品は、本発明のベーカリー生地を、適宜、分割、成形し、必要に応じホイロ、リタード、レストをとった後、加熱処理することにより得ることができる。
【0116】
上記成形は、どのような形状に成形してもよく、型詰めを行っても構わない。成形は、手作業で行っても、連続ラインを用いて全自動で行っても構わない。
【0117】
上記加熱処理としては、焼成、蒸し、フライ、電子レンジ加熱等を挙げることができる。これらのうちの2種以上の加熱処理を併用してもよく、加熱処理して得られたパンを冷蔵又は冷凍保存したのち、再焼成や電子レンジ加熱に供することもできる。
【0118】
本発明のベーカリー食品は、ボリュームがあって、歯切れ・口溶けが良好であって、複合ベーカリー食品とした場合にはフィリングの存在感を高めることができるという特徴を有する。
【0119】
なお、本発明のベーカリー食品は、歯切れや口溶けが良好であり、フィリングと組み合わせた場合に、そのフィリングを引き立て、存在感を向上させることができることから、複合ベーカリー食品用であることが好ましい。
【0120】
<<複合ベーカリー食品>>
本発明の複合ベーカリー食品について述べる。
本発明における複合ベーカリー食品とは、(1)本発明のベーカリー生地と後述のフィリングとを組み合わせて製造した複合ベーカリー生地を加熱して得られるもの、若しくは(2)本発明のベーカリー食品と後述のフィリングとを組み合わせて得られるものを指す。
【0121】
本発明のベーカリー生地又は本発明のベーカリー食品と後述のフィリングとを組み合わせて複合ベーカリー食品を得る際の手法は特に限定されず、トッピングやサンド、注入・包餡、スプレッド、コーティング等の手法により組み合わせることで、複合ベーカリー食品を得ることができる。
【0122】
本発明の複合ベーカリー食品に用いられるフィリングとしては、特に制限されず、例えば、チョコレートクリーム、バタークリーム、チーズクリーム、カスタードクリーム、ホイップクリーム、フラワーペースト等のクリーム類や、イチゴジャム、ブルーベリージャム、マーマレード等のジャム類、小豆餡や白餡等の餡類、カレー類、シチュー類、チーズ類、ミートソース等のソース類、コーンスープやミネストローネ等のスープ類、野菜や穀類、畜肉等を用いたペースト類、惣菜等を挙げることができ、液状、粘稠状又は固体など形態に関係なく使用することができる。
【0123】
なお、本発明の複合ベーカリー食品の製造に用いられるフィリングは、本発明のベーカリー生地、又は本発明のベーカリー食品と組み合わせる前に、調理済の状態としておくことが好ましい。
【0124】
本発明の複合ベーカリー食品におけるフィリングの使用量は、フィリングの種類等にもよっても異なるが、特に限定されない。例えば、上記(1)の手法で複合ベーカリー食品を製造する場合には、本発明のベーカリー生地100質量部に対して28~72質量部用いることが好ましく、28~65質量部用いることがより好ましく、42~58質量部用いることがさらに好ましい。例えば本発明のベーカリー生地70gに対してフィリングを20~50g用いることが好ましく、20~45g用いることがより好ましく、30~40g用いることがさらに好ましい。
【0125】
また、上記(2)の手法で複合ベーカリー食品を製造する場合には、本発明のベーカリー食品100質量部に対してフィリングを10~40質量部用いることが好ましく、10~35質量部用いることがより好ましく、20~30質量部用いることがさらに好ましい。
【0126】
なお、一般的な複合ベーカリー食品においては、上記(1)のような手法で製造する場合においては、フィリングの食感や風味を感じることができ、且つ複合ベーカリー生地の加熱中の破裂等を回避するため、ドウ100質量部に対して70~90質量部程度のフィリングが用いられる。
【0127】
ここで、本発明の複合ベーカリー食品は、本発明のベーカリー食品の食感が改善されていることにともなって、使用されるフィリングの存在感が向上されているという特徴を有しており、通常の複合ベーカリー食品の製造と比較してフィリングの使用量を一定程度低減しても、全体の食味としてフィリング量を低減したことが感じられない、若しくは感じにくいという特徴がある。また、通常の複合ベーカリー食品の製造と比較して同等量のフィリングを用いた場合においては、フィリングがより多く用いられたかのような食味を得ることができる。
【0128】
また、少ないフィリング量であっても、フィリング量を多く感じることができるため、フィリングを用いた複合ベーカリー食品の製造の際に起きる、加熱中の破裂等による歩留りの悪化を改善することもできる。
【0129】
なお、本発明によれば、複合ベーカリー食品におけるフィリングの存在感を維持しながら、フィリングの使用量を本発明のベーカリー食品100質量部あたり10~30質量部低減することができる。
【0130】
<<複合ベーカリー食品におけるフィリングの存在感向上方法>>
本発明の複合ベーカリー食品におけるフィリングの存在感向上方法(以下、単に本発明の方法と記載する)について述べる。
【0131】
本発明の方法において、ベーカリー生地に添加される飽和モノグリセリドやジグリセリドは、上述の本発明のベイキング用油脂組成物や本発明のベーカリー生地に用いられるものと同様である。
【0132】
本発明の方法において、ベーカリー生地に添加される飽和モノグリセリド及びジグリセリドを合わせた量は、ベーカリー生地中の澱粉類100質量部に対して、好ましくは0.12~1.2質量部、より好ましくは0.24~1.08質量部、さらに好ましくは0.36~0.96質量部、特に好ましくは0.48~0.84質量部である。
【0133】
本発明の方法においては、飽和モノグリセリド及びジグリセリドをベーカリー生地中に直接添加することも可能であるが、本発明のベイキング用油脂組成物を用いて飽和モノグリセリド及びジグリセリドを添加することが、歯切れや口溶けが良好なベーカリー食品が得られ、また該ベーカリー食品を用いて製造される複合ベーカリー食品におけるフィリングの存在感を高められるため、好ましい。
【0134】
本発明の方法を実施するにあたり、ベーカリー生地の製造の際に用いられる本発明のベイキング用油脂組成物の量は、ベーカリー生地中の澱粉類100質量部に対して、好ましくは1~10質量部、より好ましくは2~9質量部、さらに好ましくは3~8質量部であり、特に好ましくは4~7質量部である。
【0135】
本発明の方法を実施するにあたり、飽和モノグリセリド及びジグリセリドは、ベーカリー生地製造のいずれの時点で添加してもよいが、ベーカリー生地を中種法で製造する場合は、飽和モノグリセリド及びジグリセリド、若しくは本発明のベイキング用油脂組成物を、中種生地及び本捏生地のいずれか1つ以上に添加することが好ましく、本捏生地に添加することがより好ましい。
【0136】
なお、本発明の方法を適用することができる複合ベーカリー食品において、その製造に用いられるベーカリー食品やベーカリー生地、及びフィリングは特に限定されない。
【0137】
複合ベーカリー食品の製造に用いられるベーカリー食品及びベーカリー生地は、山形食パン、角型食パン、ワンローフ食パン、コッペパン、バラエティブレッド、ロールパン、菓子パン、スイートロール、デニッシュ・ペストリー、バンズ、ブリオッシュ、マフィン、ベイグル、スコーン、イングリッシュマフィン、ドーナツ、ピザ、蒸しパン、ワッフル等の各種ベーカリー食品、若しくはこれらのベーカリー生地のいずれであってもよい。
【0138】
また、複合ベーカリー食品の製造に用いられるフィリングは、例えば、チョコレートクリーム、バタークリーム、チーズクリーム、カスタードクリーム、ホイップクリーム、フラワーペースト等のクリーム類や、イチゴジャム、ブルーベリージャム、マーマレード等のジャム類、小豆餡や白餡等の餡類、カレー類、シチュー類、チーズ類、ミートソース等のソース類、コーンスープやミネストローネ等のスープ類、野菜や穀類、畜肉等を用いたペースト類、惣菜等を挙げることができ、液状、粘稠状又は固体など形態に関係なく使用することができる。
【実施例0139】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。ただし、本発明は、これらの実施例により何ら制限されるものではない。
【0140】
<使用した油脂>
以下の実施例、比較例では、下記の油脂を用いた。
・ランダムエステル交換油脂A:パームオレイン(ヨウ素価52)のランダムエステル交換油脂
・ランダムエステル交換油脂B:パーム油とパーム極度硬化油との油脂混合物(質量比で65:35)のランダムエステル交換油
・ランダムエステル交換油脂C:パーム核油とパーム極度硬化油との油脂混合物(質量比で50:50)のランダムエステル交換油
・ランダムエステル交換油脂D:パームオレイン(ヨウ素価60)のランダムエステル交換油脂
・菜種油
【0141】
<使用した混合油脂>
以下の実施例、比較例では、上記の油脂を用いて、表1の油脂配合にしたがい、混合油脂(1)及び混合油脂(2)を調製した。各混合油脂の詳細についても表1に示した。
【0142】
【表1】
【0143】
<ベイキング用油脂組成物A~E>
後掲の表2に示す配合に従って、ベイキング用油脂組成物A~Eを製造した。
まず、構成油脂(1)又は(2)をそれぞれ60℃に加熱して溶解し、ここに油相成分を分散・溶解してこれを油相とし、この中に水を水相として混合し、乳化させ、油中水型の予備乳化物を得た。
この予備乳化物を-5℃/分の冷却速度で10℃まで急冷可塑化しながら、窒素ガスを注入・混和して比重が0.65となるまでガスを分散させ、ベイキング用油脂組成物A~Eを製造した。
なお、ベイキング用油脂組成物A及びBは実施例であり、ベイキング用油脂組成物C~Eは比較例に該当する。
【0144】
【表2】
【0145】
<複合ベーカリー食品の製造に使用した原料>
・準強力粉:Fナポレオン((株)ニップン社製)
・加工澱粉:フードスターチPQ-2(松谷化学工業社製)
・ショートニング:プレミアムショートCF(ADEKA社製)
・フィリング:ミートフィリング (タカ食品工業社製)
【0146】
<検討1>
検討1ではベーカリー生地中の澱粉量100質量部に対するベイキング用油脂組成物の含有量について検討を行った。
【0147】
<複合ベーカリー食品の製造>
後掲の表3の配合にしたがい、下記の製法で、各複合ベーカリー食品を製造した。まず、ショートニング及びベイキング用油脂組成物A以外の原料をミキサーボウルに投入し、フックを使用し、低速で3分、中速で3分混合したのち、ショートニング及びベイキング油脂組成物を投入して、さらに低速で3分、中速で4分、高速で0.5分混合し、ベーカリー生地を得た。捏ね上げ温度は26℃であった。
このベーカリー生地を90分醗酵した後、70gずつに分割し、ベンチタイムを30分とった。
ベンチタイム終了後、モルダーに通したのち、シリコン型に入れて、温度36℃、相対湿度75%の恒温室で、40分ホイロをとった。
ホイロ後のベーカリー生地に、フィリング(「ミートフィリング」タカ食品工業(株)製)を50g絞ったものを、上火195℃、下火205℃の設定をしたオーブンで13分焼成し、各複合ベーカリー食品を得た。
【0148】
<官能評価>
得られた複合ベーカリー食品について、後述する評価基準で10名の専門パネラーにより官能評価を行った。それらの結果を、次のようにして下記表3に示す。
なお、すべての項目について、+以上の評価を得たものを合格品とした。

+++ :43~50点、
++ :37~42点、
+ :31~36点、
± :26~30点
- :21~25点、
-- :16~20点、
--- :15点以下
【0149】
評価基準は以下の通りである。
評価に先立ち、事前にパネラー間で各点数に対応する官能の程度をすり合わせた。
なお、コントロールについては、生地中の油脂量ごとにコントロールを準備した。すなわち、複合ベーカリー食品A-1についてはCont.1、複合ベーカリー食品A-2についてはCont.2、複合ベーカリー食品A-3についてはCont.3、複合ベーカリー食品A-4についてはCont.4、複合ベーカリー食品A-5についてはCont.5をコントロールとして評価を行った。

●食感(複合ベーカリー食品におけるフィリングの存在感)
5点:コントロールと比較してフィリングの風味を極めて強く感じる
3点:コントロールと比較してフィリングの風味を強く感じる
1点:コントロールと比較してややフィリングの風味が弱い
0点:コントロールと比較してフィリングの風味を感じにくい

●食感(歯切れ)
5点:コントロールと比較してきわめて良好。
3点:コントロールと比較して良好。
1点:コントロールと比較してやや悪い。
0点:コントロールと比較して悪い。

●食感(口溶け)
5点:コントロールと比較してきわめて良好。
3点:コントロールと比較して良好。
1点:コントロールと比較してややくちゃつく。
0点:コントロールと比較してくちゃつきが激しい。
【0150】
【表3】

【0151】
表3に示した結果より、澱粉類100質量部に対する飽和モノグリセリド及びジグリセリドを合わせた量を0.12~1.2質量部とすることで、得られる複合ベーカリー食品のフィリングの存在感が向上し、食感も良好であることがわかる。
【0152】
<検討2>
検討2ではベーカリー生地中に含有させるベイキング用油脂組成物の種類について検討を行った。
なお、後掲の表4の配合にしたがい、検討1と同様の製法及び評価基準で、各複合ベーカリー食品を製造及び評価を行った。
評価結果については、表4に示す。
【0153】
【表4】
【0154】
表4に示した結果より、本発明のベイキング用油脂組成物を用いた複合ベーカリー食品A-3及びB-3は、フィリングの存在感が向上しており、食感も良好であることがわかる。
【0155】
<検討3>
検討3では複合ベーカリー食品を製造する際に用いるフィリングの量を減量したものを製造し、本発明のベイキング油脂組成物の、複合ベーカリー食品におけるフィリングの存在感に与える効果について検討を行った。
【0156】
後掲の表5の配合にしたがい、フィリングを50g用いて複合ベーカリー食品を製造すると同時に、フィリングを40g用いて複合ベーカリー食品を製造した他は、検討1と同様の製法及び評価基準で、各複合ベーカリー食品を製造及び評価を行った
評価結果については、表5に示す。なお、Cont.3、Cont.4、Cont.5、A-3、A-4、A-5の複合ベーカリー食品がフィリングを50g用いて製造されたものであり、Cont.3-2、Cont.4-2、Cont.5-2、A-3-2、A-4-2、A-5-2の複合ベーカリー食品がフィリングを40g用いて製造されたものである。
【0157】
【表5】
【0158】
表5に示した結果より、飽和モノグリセリド及びジグリセリドを合わせた量を本発明の範囲とすることで、フィリングの使用量を一定程度低減させた場合であっても、低減の前後で複合ベーカリー食品におけるフィリングの存在感の変化が小さくなることがわかる。