(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023127313
(43)【公開日】2023-09-13
(54)【発明の名称】トルク測定装置
(51)【国際特許分類】
G01L 3/10 20060101AFI20230906BHJP
【FI】
G01L3/10 301L
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022031026
(22)【出願日】2022-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】福田 晃大
(72)【発明者】
【氏名】大寺 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】二口 尚樹
(57)【要約】
【課題】温度変化に対するブリッジ回路の出力電圧の変化を抑えることが可能なトルク測定装置を提供する。
【解決手段】回転軸の磁歪効果部の周囲に配置される4つの検出コイル5、6、7、8を4辺に配置したブリッジ回路4を備える。ブリッジ回路4は、前記4辺のそれぞれに接続された、該辺の抵抗値を調整するための抵抗素子9、10、11、12を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸の磁歪効果部の周囲に配置される4つの検出コイルを4辺に配置したブリッジ回路を備え、
前記ブリッジ回路は、前記4辺のうちの少なくとも1辺に接続された、該辺の抵抗値を調整するための抵抗素子を有する、
トルク測定装置。
【請求項2】
前記4辺のそれぞれに、前記抵抗素子が接続されている、請求項1に記載のトルク測定装置。
【請求項3】
前記4辺のうちの1組の対辺を構成する2つの対辺のそれぞれの抵抗値R1、R3の積R1×R3と、前記4辺のうちのもう1組の対辺を構成する2つの対辺のそれぞれの抵抗値R2、R4の積R2×R4との比(R1×R3)/(R2×R4)が、前記4辺のそれぞれに前記抵抗素子が接続されていない場合に比べて1に近づくように、前記4辺のうちの少なくとも1辺に接続された前記抵抗素子の抵抗値が調整されている、請求項1または2に記載のトルク測定装置。
【請求項4】
前記抵抗素子は、自身の両側の端点を結ぶ銅線の経路長を変えることにより、自身の抵抗値である、前記両側の端点間の抵抗値を調整可能な構成を有する、請求項1~3のいずれかに記載のトルク測定装置。
【請求項5】
前記抵抗素子は、自身の両側の端点を結ぶ銅線の途中に互いに並列接続された複数の並列銅線を有し、前記複数の並列銅線のうちの一部の並列銅線を切断することにより、前記複数の並列銅線のうちの切断されていない並列銅線の数を変えることで、自身の抵抗値である、前記両側の端点間の抵抗値を調整可能な構成を有する、請求項1~3のいずれかに記載のトルク測定装置。
【請求項6】
円筒状に構成され、かつ、前記4つの検出コイルを有するコイルユニットと、
円筒状に構成され、かつ、前記コイルユニットの周囲に同軸に配置されたバックヨークと、
前記コイルユニットおよび前記バックヨークを保持するホルダと、を備える、
請求項1~5のいずれかに記載のトルク測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転軸により伝達しているトルクを測定することが可能なトルク測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の分野では、パワートレインすなわち動力伝達機構を構成する回転軸により伝達しているトルクを測定し、その測定結果を利用して、動力源であるエンジンや電動モータの出力制御や、変速機の変速制御を実行するシステムの開発が進んでいる。
【0003】
従来、回転軸により伝達しているトルクを測定する装置として、磁歪式のトルク測定装置が知られている。磁歪式のトルク測定装置は、トルクが付与された際に透磁率が変化する磁歪効果部を備えた回転軸を用い、トルクが付与された際の磁歪効果部の透磁率の変化を検出コイルのインダクタンスの変化として検出することにより、回転軸により伝達しているトルクを測定するように構成されている。
【0004】
一般に、トルクの変動に伴う磁歪効果部の透磁率の変化は微小であるため、通常は、測定感度を向上させるための工夫がなされる。その工夫の1つとして、従来、
図9に示すようなブリッジ回路100を用いる方法が知られている(たとえば、特開2016-200552号公報(特許文献1)、特開2017-049124号公報(特許文献2)参照)。この方法では、たとえば
図10に示すような回転軸101の軸方向一部分である円柱状の磁歪効果部102の周囲に、ブリッジ回路100を構成する4つの検出コイルである、第1検出コイル103、第2検出コイル104、第3検出コイル105、および第4検出コイル106を配置する。
【0005】
回転軸101にトルクTが加わると、磁歪効果部102の外周面には、軸方向に対して+45 ゜傾斜した方向と、軸方向に対して-45゜傾斜した方向とに、+-の符号が互いに異なる応力σが作用する。そして、逆磁歪効果により、引張応力(+σ)が作用する方向での透磁率が増加し、圧縮応力(-σ)が作用する方向での透磁率が減少する。
【0006】
ブリッジ回路100において、4辺を構成する2組の対辺のうちの一方の組の対辺に配置された第1検出コイル103(インダクタンスL1)および第3検出コイル105(インダクタンスL3)は、磁歪効果部102の外周面における、軸方向に対して+45゜傾斜した方向の透磁率の変化を検出するため検出コイルであり、前記2組の対辺のうちの他方の組の対辺に配置された第2検出コイル104(インダクタンスL2)および第4検出コイル106(インダクタンスL4)は、磁歪効果部102の外周面における、軸方向に対して-45゜傾斜した方向の透磁率の変化を検出するための検出コイルである。このようなブリッジ回路100において、2つの端点であるA点、C点間に入力電圧Viを印加すると、2つの中点であるB点、D点間の電圧として、回転軸101に加わるトルクTの方向および大きさに応じた出力電圧Vоが得られる。したがって、この出力電圧Vоに基づいて、トルクTを測定することができる。
【0007】
上述のようなブリッジ回路100を用いれば、軸方向に対して+45 ゜傾斜した方向と、軸方向に対して-45゜傾斜した方向との、いずれか一方の方向の透磁率の変化のみを検出することによりトルクTを測定する場合に比べて、2倍の感度でトルクTを測定することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2016-200552号公報
【特許文献2】特開2017-049124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、一般に、第1検出コイル103、第2検出コイル104、第3検出コイル105、および第4検出コイル106のそれぞれは、銅線抵抗に代表される抵抗成分r1、r2、r3、r4を有しており、これらの抵抗成分r1、r2、r3、r4のばらつきが、ブリッジ回路100の出力電圧Vоに影響を及ぼす。具体的には、これらの抵抗成分r1、r2、r3、r4は、温度変化すなわち銅の電気抵抗率の変化に伴い増減するが、その増減に伴って出力電圧Vоも増減する。そして、この際の温度変化に対する出力電圧Vоの変化量は、抵抗成分r1、r2、r3、r4のばらつき、すなわち、ブリッジ回路100の4辺の抵抗値のばらつきが大きいほど、大きくなる。
【0010】
本発明は、温度変化に対するブリッジ回路の出力電圧の変化を抑えることが可能なトルク測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様のトルク測定装置は、回転軸の磁歪効果部の周囲に配置される4つの検出コイルを4辺に配置したブリッジ回路を備える。前記ブリッジ回路は、前記4辺のうちの少なくとも1辺に接続された、該辺の抵抗値を調整するための抵抗素子を有する。
【0012】
本発明の一態様のトルク測定装置では、前記4辺のそれぞれに、前記抵抗素子が接続されている。
【0013】
本発明の一態様のトルク測定装置では、前記4辺のうちの1組の対辺を構成する2つの対辺のそれぞれの抵抗値R1、R3の積R1×R3と、前記4辺のうちのもう1組の対辺を構成する2つの対辺のそれぞれの抵抗値R2、R4の積R2×R4との比(R1×R3)/(R2×R4)が、前記4辺のそれぞれに前記抵抗素子が接続されていない場合に比べて1に近づくように、前記4辺のうちの少なくとも1辺に接続された前記抵抗素子の抵抗値が調整されている。
【0014】
本発明の一態様のトルク測定装置では、前記抵抗素子は、自身の両側の端点を結ぶ銅線の経路長を変えることにより、自身の抵抗値である、前記両側の端点間の抵抗値を調整可能な構成を有する。
【0015】
本発明の一態様のトルク測定装置では、前記抵抗素子は、自身の両側の端点を結ぶ銅線の途中に互いに並列接続された複数の並列銅線を有し、前記複数の並列銅線のうちの一部の並列銅線を切断することにより、前記複数の並列銅線のうちの切断されていない並列銅線の数を変えることで、自身の抵抗値である、前記両側の端点間の抵抗値を調整可能な構成を有する。
【0016】
本発明の一態様のトルク測定装置は、円筒状に構成され、かつ、前記4つの検出コイルを有するコイルユニットと、円筒状に構成され、かつ、前記コイルユニットの周囲に同軸に配置されたバックヨークと、前記コイルユニットおよび前記バックヨークを保持するホルダとを備える。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一態様のトルク測定装置によれば、温度変化に対するブリッジ回路の出力電圧の変化を抑えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態の第1例のトルク測定装置の断面図である。
【
図2】
図2は、第1例のトルク測定装置のブリッジ回路を示す図である。
【
図3】
図3は、第1例のトルク測定装置のコイルユニットを構成するフレキシブル基板の展開図である。
【
図4】
図4は、第1例のトルク測定装置のコイルユニットを構成する第1検出コイル、第2検出コイル、第3検出コイル、および第4検出コイルを径方向外側から見た展開図である。
【
図5】
図5(a)~
図5(d)は、第1例のトルク測定装置のコイルユニットを構成する第1検出コイル、第2検出コイル、第3検出コイル、および第4検出コイルを、それぞれ単体の状態で径方向外側から見た展開図である。
【
図6】
図6は、第1例のトルク測定装置のブリッジ回路の4辺のそれぞれに接続される抵抗素子の第1構成例を示す図である。
【
図7】
図7は、第1例のトルク測定装置のブリッジ回路の4辺のそれぞれに接続される抵抗素子の第2構成例を示す図である。
【
図8】
図8は、本発明の実施の形態の第2例に関する、
図2に相当する図である。
【
図9】
図9は、従来のトルク測定装置のブリッジ回路を示す図である。
【
図10】
図10は、回転軸にトルクが加わる際に生じる応力の向きを説明するための、該回転軸の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[第1例]
本発明の実施の形態の第1例について、
図1~
図7を用いて説明する。
【0020】
本例のトルク測定装置1は、回転軸2により伝達しているトルクを測定する装置であり、各種の機械装置に組み込んで用いることができる。本例のトルク測定装置1を組み込む機械装置の具体例として、自動車のパワートレインを構成する機械装置、たとえば、オートマチックトランスミッション(AT)、ベルト式無段変速機、トロイダル型無段変速機、オートマチックマニュアルトランスミッション(AMT)、デュアルクラッチトランスミッション(DCT)などの車側の制御で変速を行うトランスミッション、またはトランスファー、マニュアルトランスミッション(MT)などが挙げられる。対象となる車両の駆動方式、すなわち、FF、FR、MR、RR、4WDなどの方式は、特に問わない。本例のトルク測定装置1を組み込む機械装置の具体例として、さらに、風車、鉄道車両、鉄鋼の圧延機などを構成する減速機、増速機などの、歯車で動力軸の回転数を変化させる装置が挙げられる。
【0021】
本例では、回転軸2は、上述したようなパワートレインを構成する機械装置に組み込まれる回転軸であり、使用時にも回転しない不図示のケースに対し、不図示の転がり軸受により回転可能に支持されており、伝達するトルクに応じて透磁率が変化する磁歪効果部を有する。
【0022】
回転軸2は、軸方向中間部に、
図1に示された中間軸部3を有する。中間軸部3の外周面は、円筒面により構成されている。本例では、回転軸2の中間軸部3を磁歪効果部として機能させる。このために、回転軸2を磁性金属により構成している。回転軸2を構成する磁性金属としては、たとえば、JISに規定されている、SCr420、SCM420などの浸炭鋼、S45Cなどの炭素鋼といった、各種磁性鋼を用いることができる。
【0023】
回転軸2にトルクTが加わると、中間軸部3の外周面には、軸方向に対して+45 ゜傾斜した方向と、軸方向に対して-45゜傾斜した方向とに、+-の符号が互いに異なる応力σが作用する。そして、逆磁歪効果により、引張応力(+σ)が作用する方向での透磁率が増加し、圧縮応力(-σ)が作用する方向での透磁率が減少する。
【0024】
本発明を実施する場合には、中間軸部3の外周面のうち、その周囲にトルク測定装置1の検出コイル5~8が配置される部分に、ショットピーニング処理を施すことによって圧縮加工硬化層を形成し、該部分の機械的特性および磁気的特性を改善することもできる。このようにすれば、トルク測定装置1によるトルク測定の感度およびヒステリシスを改善することができる。
【0025】
本発明を実施する場合には、中間軸部3を磁歪効果部として機能させる代わりに、中間軸部3の外周面に、磁歪効果部として機能する磁歪材を固定することもできる。具体的には、円環状に構成された磁歪材を中間軸部3に外嵌固定したり、めっきなどの被膜により構成された磁歪材やフィルム状の磁歪材を中間軸部3の外周面に固定したりすることができる。
【0026】
本例のトルク測定装置1は、
図2に示すようなブリッジ回路4を備える。ブリッジ回路4の4辺には、中間軸部3の周囲に配置される4つの検出コイルである、第1検出コイル5、第2検出コイル6、第3検出コイル7、および第4検出コイル8が配置されている。すなわち、ブリッジ回路4は、2つの端点であるA点、C点、および、2つの中点であるB点、D点を有する。第1検出コイル5は、D点、A点間の辺に配置されている。第2検出コイル6は、A点、B点間の辺に配置されている。第3検出コイル7は、B点、C点間の辺に配置されている。第4検出コイル8は、C点、D点間の辺に配置されている。
【0027】
ブリッジ回路4において、4辺を構成する2組の対辺のうちの一方の組の対辺、すなわち、D点、A点間の辺およびB点、C点間の辺に配置された第1検出コイル5および第3検出コイル7は、中間軸部3の外周面における、軸方向に対して+45゜傾斜した方向の透磁率の変化を検出するため検出コイルであり、換言すれば、該方向の透磁率が変化することに伴って自身のインダクタンスL1、L3を変化させる検出コイルである。本例における第1検出コイル5および第3検出コイル7の具体的な構成については、後述する。前記2組の対辺のうちの他方の組の対辺、すなわち、A点、B点間の辺およびC点、D点間の辺に配置された第2検出コイル6および第4検出コイル8は、中間軸部3の外周面における、軸方向に対して-45゜傾斜した方向の透磁率の変化を検出するための検出コイルであり、換言すれば、該方向の透磁率が変化することに伴って自身のインダクタンスL2、L4を変化させる検出コイルである。本例における第2検出コイル6および第4検出コイル8の具体的な構成については、後述する。
【0028】
ブリッジ回路4は、4辺のうちの少なくとも1辺に接続された、該辺の抵抗値を調整するための抵抗素子を有する。本例では、ブリッジ回路4の4辺のそれぞれに、該抵抗素子が接続されている。すなわち、本例では、ブリッジ回路4は、4辺のそれぞれに接続された、該辺の抵抗値を調整するための4つの抵抗素子である、第1抵抗素子9、第2抵抗素子10、第3抵抗素子11、および第4抵抗素子12を有する。具体的には、本例では、第1抵抗素子9は、D点、A点間の辺に第1検出コイル5と直列に接続されている。第2抵抗素子10は、A点、B点間の辺に第2検出コイル6と直列に接続されている。第3抵抗素子11は、B点、C点間の辺に第3検出コイル7と直列に接続されている。第4抵抗素子12は、C点、D点間の辺に第4検出コイル8と直列に接続されている。ただし、本発明を実施する場合、ブリッジ回路のそれぞれの辺において、抵抗素子を検出コイルと並列に接続することもできる。
【0029】
ブリッジ回路4において、4辺のそれぞれの抵抗値は、該辺に接続された抵抗素子の抵抗値を変えることによって、調整することができる。具体的には、D点、A点間の抵抗値R1は、第1抵抗素子9の抵抗値を変えることによって調整することができる。A点、B点間の抵抗値R2は、第2抵抗素子10の抵抗値を変えることによって調整することができる。B点、C点間の抵抗値R3は、第3抵抗素子11の抵抗値を変えることによって調整することができる。C点、D点間の抵抗値R4は、第4抵抗素子12の抵抗値を変えることによって調整することができる。本例における第1抵抗素子9、第2抵抗素子10、第3抵抗素子11、および第4抵抗素子12の具体的な構成については、後述する。
【0030】
本例では、ブリッジ回路4において、4辺のうちの1組の対辺を構成する2つの対辺、すなわち、D点、A点間の辺およびB点、C点間の辺のそれぞれの抵抗値R1、R3の積R1×R3と、4辺のうちのもう1組の対辺を構成する2つの対辺、すなわちA点、B点間の辺およびC点、D点間の辺のそれぞれの抵抗値R2、R4の積R2×R4との比(R1×R3)/(R2×R4)が、4辺のそれぞれに抵抗素子9~12が接続されていない場合に比べて1に近づくように、4辺のそれぞれに接続された抵抗素子9~12の抵抗値が調整されている。
【0031】
このために、本例では、ブリッジ回路4の4辺に抵抗素子9~12を接続する前に、第1検出コイル5、第2検出コイル6、第3検出コイル7、および第4検出コイル8のそれぞれの抵抗成分r1、r2、r3、r4の抵抗値をテスタで測定しておく。そして、このように測定した抵抗成分r1、r2、r3、r4の抵抗値と抵抗素子9~12の抵抗値とを合わせて、比(R1×R3)/(R2×R4)が1に近づくように、抵抗素子9~12の抵抗値を調整する。このために、たとえば、4辺の検出コイル5~8のうち、テスタで測定した抵抗成分r1、r2、r3、r4の抵抗値が大きいものほど、該検出コイルに接続される抵抗素子の抵抗値が小さくなるように、かつ、比(R1×R3)/(R2×R4)が1に近づくように、抵抗素子9~12の抵抗値を調整する。あるいは、抵抗素子9~12のうちの2つまたは3つの抵抗素子の抵抗値を同じ大きさとし、かつ、残りの抵抗素子の抵抗値を、比(R1×R3)/(R2×R4)が1に近づくように調整する。なお、抵抗素子9~12の抵抗値は、それ以外の方法で調整してもよい。そして、これらのような抵抗値の調整を行ってから、抵抗素子9~12をブリッジ回路4の4辺に接続する。
【0032】
ブリッジ回路4は、2つの端点であるA点、C点間に交流電圧である入力電圧Viを印加する不図示の発振器と、2つの中点であるB点、D点間の電圧である出力電圧Vоを検出する不図示の電圧測定部とを有する。ブリッジ回路4において、発振器により2つの端点であるA点、C点間に入力電圧Viを印加すると、2つの中点であるB点、D点間の電圧として、回転軸2に加わるトルクTの方向および大きさに応じた出力電圧Vоが得られる。したがって、この出力電圧Vоを電圧測定部により測定すれば、測定した出力電圧Vоに基づいて、トルクTの方向および大きさを求めることができる。
【0033】
図1に示される本例のトルク測定装置1は、全体を円環状に構成されており、中間軸部3の周囲に同軸に配置された状態で、前記ケースに支持固定されている。本例のトルク測定装置1は、コイルユニット13と、バックヨーク14と、ホルダ15とを備える。
【0034】
本例では、ブリッジ回路4を構成する第1検出コイル5、第2検出コイル6、第3検出コイル7、および第4検出コイル8、並びに、第1抵抗素子9、第2抵抗素子10、第3抵抗素子11、および第4抵抗素子12は、コイルユニット13に備えられている。本例では、コイルユニット13は、ベースフィルムおよび該ベースフィルムに保持されたプリント配線(導体)を備える、フレキシブル基板(FPC)により、全体を円筒状に構成されており、回転軸2の中間軸部3の周囲に同軸に配置されている。
【0035】
具体的には、本例では、コイルユニット13は、
図3に示すような帯板状のフレキシブル基板16を円筒状に丸め、かつ、該フレキシブル基板16の長さ方向の両端部をたとえば接着して接合することにより構成されている。フレキシブル基板16は、板厚方向に積層された4つの配線層を有し、これらの配線層に、それぞれがプリント配線により構成された、第1検出コイル5、第2検出コイル6、第3検出コイル7、および第4検出コイル8が配置されている。これらの検出コイル5~8は、帯板状のフレキシブル基板16を円筒状に丸めた状態、すなわち、円筒状のコイルユニット13を構成した状態で、径方向内側から、第1検出コイル5、第2検出コイル6、第4検出コイル8、および第3検出コイル7の順番で配置されている。
【0036】
図4は、第1検出コイル5、第2検出コイル6、第3検出コイル7、および第4検出コイル8を、コイルユニット13の径方向外側から見た展開図を示している。
図5(a)~
図5(d)は、これらの検出コイル5~8を、それぞれ単体の状態でコイルユニット13の径方向外側から見た展開図を示している。
【0037】
第1検出コイル5は、
図5(a)に示すように、円周方向に関して等ピッチに並べて配置された複数個のコイル片17を備える。これらのコイル片17は、径方向から見て平行四辺形の形状を有しており、かつ、中間軸部3の軸方向に対して-45゜傾斜した配線を含んで構成されている。円周方向に隣り合うコイル片17は、不図示のプリント配線などの導体により直列に接続されている。円周方向に隣り合うコイル片17は、不図示のプリント配線などの導体により直列に接続されている。すなわち、
図5(a)において、コイル片17は、模式的に示されており、全周がつながっているように図示されているが、実際には、コイル片17の周方向の一部に、不連続部が存在する。コイル片17は、この不連続部を挟んで離隔した2つの端部を有する。円周方向に隣り合うコイル片17は、互いの1つの端部同士を不図示のプリント配線などの導体により接続することで、直列に接続されている。これらの点については、以下の第2検出コイル6~第4検出コイル8でも同様である。
【0038】
第2検出コイル6は、
図5(b)に示すように、円周方向に関して等ピッチに並べて配置された複数個のコイル片18を備える。これらのコイル片18は、径方向から見て平行四辺形の形状を有しており、かつ、中間軸部3の軸方向に対して+45゜傾斜した配線を含んで構成されている。円周方向に隣り合うコイル片18は、不図示のプリント配線などの導体により直列に接続されている。
【0039】
第3検出コイル7は、
図5(d)に示すように、円周方向に関して等ピッチに並べて配置された複数個のコイル片19を備える。これらのコイル片19は、径方向から見て平行四辺形の形状を有しており、かつ、中間軸部3の軸方向に対して-45゜傾斜した配線を含んで構成されている。円周方向に隣り合うコイル片19は、不図示のプリント配線などの導体により直列に接続されている。
【0040】
第4検出コイル8は、
図5(c)に示すように、円周方向に関して等ピッチに並べて配置された複数個のコイル片20を備える。これらのコイル片20は、径方向から見て平行四辺形の形状を有しており、かつ、中間軸部3の軸方向に対して+45゜傾斜した配線を含んで構成されている。円周方向に隣り合うコイル片20は、不図示のプリント配線などの導体により直列に接続されている。
【0041】
ただし、本発明を実施する場合、第1検出コイル、第2検出コイル、第3検出コイル、および第4検出コイルの具体的な形状および配置に関する構成は、本例の構成に限らず、従来から知られている各種の構成を採用することができる。
【0042】
本例では、第1抵抗素子9、第2抵抗素子10、第3抵抗素子11、および第4抵抗素子12は、
図3に示すように、フレキシブル基板16の一部(図示の左右方向中央部における上側部)に、はんだ付け、溶接などにより取り付けられている。すなわち、本例では、コイルユニット13を構成するフレキシブル基板16は、ブリッジ回路4の4辺に接続する第1抵抗素子9、第2抵抗素子10、第3抵抗素子11、および第4抵抗素子12を取り付けることが可能な構成を有する。
【0043】
本例では、これらの抵抗素子9~12として、それぞれ
図6に示すような抵抗素子RE1を用いる。抵抗素子RE1は、両側の端点X1、X2を結ぶ銅線の経路長を変えることにより、自身の抵抗値である、両側の端点X1、X2間の抵抗値を調整可能な構成を有する。すなわち、抵抗素子RE1は、両側の端点X1、X2間に、端子S1、および、端子S1に対してはんだ付けや溶接などで接続することが可能な複数の相手側端子(図示の例では、3つの端子S2、S3、S4)を有する。抵抗素子RE1は、端子S1に対していずれの相手側端子(S2、S3、S4)を接続するかによって、両側の端点X1、X2を結ぶ銅線の経路長を変えることができ、このように該経路長を変えることによって、自身の抵抗値を調整することができる。
【0044】
ただし、本発明を実施する場合、抵抗素子9~12として、それぞれ
図7に示すような抵抗素子RE2を代替的に用いることもできる。抵抗素子RE2は、両側の端点X1、X2を結ぶ銅線の途中に、互いに並列接続された複数の並列銅線Wを有する。抵抗素子RE2は、複数の並列銅線Wのうちの一部の並列銅線W、たとえば
図7において鎖線で囲んだ部分を切断することにより、自身の抵抗値である、両側の端点X1、X2間の抵抗値を変えることができる。より具体的には、抵抗素子RE2は、切断する並列銅線Wの数を変えること、換言すれば、切断されていない並列銅線Wの数を変えることで、自身の抵抗値を調整可能な構成を有する。
【0045】
なお、本発明を実施する場合、抵抗素子9~12として、抵抗素子RE1(
図6)、RE2(
図7)と異なる構成を有する、抵抗値を調整可能な抵抗素子を代替的に用いることもできる。
【0046】
いずれにしても、本例では、ブリッジ回路4を構成する抵抗素子9~12の抵抗値は、トルク測定装置1の製造時、具体的には、これらの抵抗素子9~12がフレキシブル基板16に取り付けられる前に調整される。また、フレキシブル基板16に対する抵抗素子9~12の取り付けは、たとえば
図3に示すように、フレキシブル基板16が円筒状に丸められる前の状態で行われる。
【0047】
なお、本発明を実施する場合、抵抗素子9~12として、抵抗値を調整することが不能な抵抗素子を代替的に用いることもできる。この場合には、抵抗値が異なる複数の抵抗素子を用意しておく。そして、抵抗素子9~12として、それぞれ必要となる抵抗値を有する抵抗素子を選択し、該選択した抵抗素子を、フレキシブル基板16に取り付ける。
【0048】
バックヨーク14は、第1検出コイル5、第2検出コイル6、第3検出コイル7、および第4検出コイル8により発生する磁束の磁路となる部材である。バックヨーク14は、軟鋼などの磁性材により、全体を円筒状に構成されている。バックヨーク14は、コイルユニット13の周囲に同軸に配置されている。本例では、この状態で、コイルユニット13とバックヨーク14との間には、軸方向にわたって、径方向のクリアランスが設けられている。すなわち、コイルユニット13の外周面とバックヨーク14の内周面とが、径方向に離隔している。
【0049】
ホルダ15は、コイルユニット13およびバックヨーク14を保持する部材であり、合成樹脂などの金属以外の非磁性材により全体を円環状に構成されている。本例では、ホルダ15は、円筒状のホルダ円筒部21と、ホルダ円筒部21の軸方向一方側(
図1における左側)の端部から全周にわたり径方向外側に向けて伸長する第1外向フランジ22と、ホルダ円筒部21の軸方向他方側(
図1における右側)の端部から全周にわたり径方向外側に向けて伸長する第2外向フランジ23とを有する。第1外向フランジ22の外径は、第2外向フランジ23の外径よりも大きい。ホルダ15は、中間軸部3の周囲に同軸に配置された状態で、前記ケースに支持固定されている。
【0050】
本例では、コイルユニット13は、ホルダ円筒部21の軸方向中間部、すなわち、ホルダ円筒部21のうちで軸方向に関して第1外向フランジ22と第2外向フランジ23との間に位置する部分に外嵌されている。バックヨーク14の軸方向一方側の端面は、第1外向フランジ22の軸方向他方側の側面の径方向中間部に当接しており、バックヨーク14の軸方向他方側の端部の内周面は、第2外向フランジ23の外周面に、締り嵌めなどにより外嵌されている。
【0051】
なお、本発明を実施する場合、ブリッジ回路4を構成する第1検出コイル5、第2検出コイル6、第3検出コイル7、および第4検出コイル8を備えたコイルユニット、コイルユニットの周囲に配置されるバックヨーク、コイルユニットおよびバックヨークを保持するホルダなどに関しては、本例と異なる構成を採用することもできる。また、ブリッジ回路4を構成する第1抵抗素子9、第2抵抗素子10、第3抵抗素子11、および第4抵抗素子12は、コイルユニットと異なる部材に取り付けることもできる。
【0052】
本例のトルク測定装置1の使用時には、ブリッジ回路4において、発振器により2つの端点であるA点、C点間に入力電圧Viを印加し、第1検出コイル5、第2検出コイル6、第3検出コイル7、および第4検出コイル8に交流電流を流す。すると、第1検出コイル5、第2検出コイル6、第3検出コイル7、および第4検出コイル8には、
図5(a)~
図5(d)に矢印α1、α2、α3、α4で示すように、円周方向に隣り合うコイル片17、18、19、20同士で互いに逆向きの電流が流れる。言い換えれば、このような向きの電流が流れるように、円周方向に隣り合うコイル片17、18、19、20同士が接続されている。この結果、第1検出コイル5、第2検出コイル6、第3検出コイル7、および第4検出コイル8の周囲に交流磁界が発生し、この交流磁界の磁束の一部が、中間軸部3の表層部を通過する。
【0053】
この状態で、中間軸部3に、
図1に矢印CWで示す方向のトルクTが加わると、回転軸2には、軸方向に対して+45゜方向の引張応力(+σ)と、軸方向に対して-45゜方向の圧縮応力(-σ)とが作用する。そして、逆磁歪効果により、引張応力(+σ)が作用する方向である+45゜方向では、中間軸部3の透磁率が増加し、圧縮応力(-σ)が作用する方向である-45゜方向では、中間軸部3の透磁率が減少する。
【0054】
一方、第1検出コイル5および第3検出コイル7は、中間軸部3の軸方向に対して-45゜傾斜した配線を含んで構成されており、該配線の周囲に発生する交流磁界の磁束の一部は、中間軸部3の表層部を、透磁率が増加した方向である+45゜方向に通過する。このため、第1検出コイル5および第3検出コイル7のインダクタンスL1、L3は、それぞれ増大する。また、第2検出コイル6および第4検出コイル8は、中間軸部3の軸方向に対して+45゜傾斜した配線を含んで構成されており、該配線の周囲に発生する交流磁界の磁束の一部は、中間軸部3の表層部を、透磁率が減少した方向である-45゜方向に通過する。このため、第2検出コイル6および第4検出コイル8のインダクタンスL2、L4は、それぞれ減少する。
【0055】
これに対し、中間軸部3に、
図1に矢印CCWで示す方向のトルクTが加わると、上述した場合とは逆の作用により、第1検出コイル5および第3検出コイル7のインダクタンスL1、L3が減少し、第2検出コイル6および第4検出コイル8のインダクタンスL2、L4が増大する。
【0056】
いずれにしても、ブリッジ回路4では、2つの中点であるB点、D点間の電圧として、回転軸2に加わるトルクTの方向および大きさに応じた出力電圧Vоが得られる。したがって、この出力電圧Vоを電圧測定部により測定すれば、測定した出力電圧Vоに基づいて、トルクTの方向および大きさを求めることができる。
【0057】
本例のトルク測定装置1によれば、温度変化に対するブリッジ回路4の出力電圧Vоの変化を抑えることが可能となる。
【0058】
すなわち、ブリッジ回路4の4辺の抵抗値R1、R2、R3、R4は、温度変化に伴い増減するが、その増減に伴って出力電圧Vоも増減する。そして、この際の温度変化に対する出力電圧Vоの変化量は、4辺の抵抗値R1、R2、R3、R4のばらつきが大きいほど、大きくなる。ここで、比(R1×R3)/(R2×R4)を考えた場合、該比が1に近いほど、温度変化に対する出力電圧Vоの変化量が小さくなる。
【0059】
この点に関して、本例では、比(R1×R3)/(R2×R4)が、4辺に抵抗素子9~12が接続されていない場合に比べて1に近づくように、4辺のそれぞれに接続された抵抗素子9~12の抵抗値が調整されている。このため、温度変化に対するブリッジ回路4の出力電圧Vоの変化を抑えることが可能となる。
【0060】
[第2例]
本発明の実施の形態の第2例について、
図8を用いて説明する。
【0061】
本例では、ブリッジ回路4aは、4辺のうちのいずれか1つの辺にのみ、抵抗素子24が接続されている。なお、
図8では、第1検出コイル5が存在する辺に抵抗素子24が接続されているが、あくまでも例示である。本例では、ブリッジ回路4aにおいて、比(R1×R3)/(R2×R4)が、抵抗素子24が接続されていない場合に比べて1に近づくように、抵抗素子24の抵抗値が調整されている。
【0062】
このために、本例では、ブリッジ回路4aの4辺のうちのいずれか1つの辺に抵抗素子24を接続する前に、第1検出コイル5、第2検出コイル6、第3検出コイル7、および第4検出コイル8のそれぞれの抵抗成分r1、r2、r3、r4の抵抗値をテスタで測定しておく。そして、このように測定した抵抗成分r1、r2、r3、r4の抵抗値と抵抗素子24の抵抗値とを合わせて、比(R1×R3)/(R2×R4)が1に近づくように、抵抗素子24の抵抗値を調整する。このために、本例では、4辺の検出コイル5~8のうち、テスタで測定した抵抗成分r1、r2、r3、r4の抵抗値が最も小さい検出コイルが存在する辺に、抵抗素子24を接続する。たとえば、テスタで測定した抵抗成分の抵抗値が最も小さい検出コイルが第1検出コイル5である場合には、
図8に示すように、第1検出コイル5が存在する辺に、抵抗素子24を接続する。この際に、抵抗素子24の抵抗値は、該抵抗素子24をブリッジ回路4aの辺に接続する前に、比(R1×R3)/(R2×R4)が1に近づくように調整しておく。その他の構成および作用効果は、第1例と同様である。
【0063】
本発明を実施する場合には、ブリッジ回路の4辺のうちのいずれか2つまたは3つの辺にのみ、該辺の抵抗値を調整するための抵抗素子を接続する構成を採用することもできる。これらの場合も、該2つまたは3つの辺のそれぞれの抵抗素子の抵抗値を調整することで、これらの抵抗素子が接続されていない場合に比べて比(R1×R3)/(R2×R4)を1に近づけることができる。
【符号の説明】
【0064】
1 トルク測定装置
2 回転軸
3 中間軸部
4、4a ブリッジ回路
5 第1検出コイル
6 第2検出コイル
7 第3検出コイル
8 第4検出コイル
9 第1抵抗素子
10 第2抵抗素子
11 第3抵抗素子
12 第4抵抗素子
13 コイルユニット
14 バックヨーク
15 ホルダ
16 フレキシブル基板
17 コイル片
18 コイル片
19 コイル片
20 コイル片
21 ホルダ円筒部
22 第1外向フランジ
23 第2外向フランジ
24 抵抗素子
100 ブリッジ回路
101 回転軸
102 磁歪効果部
103 第1検出コイル
104 第2検出コイル
105 第3検出コイル
106 第4検出コイル