IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本精工株式会社の特許一覧 ▶ 日立金属株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-トルク測定装置 図1
  • 特開-トルク測定装置 図2
  • 特開-トルク測定装置 図3
  • 特開-トルク測定装置 図4
  • 特開-トルク測定装置 図5
  • 特開-トルク測定装置 図6
  • 特開-トルク測定装置 図7
  • 特開-トルク測定装置 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023127316
(43)【公開日】2023-09-13
(54)【発明の名称】トルク測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01L 3/10 20060101AFI20230906BHJP
【FI】
G01L3/10 301Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022031029
(22)【出願日】2022-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】福田 晃大
(72)【発明者】
【氏名】福井 久芳
(72)【発明者】
【氏名】大寺 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】金 一銘
(72)【発明者】
【氏名】中村 晃之
(72)【発明者】
【氏名】鬼本 隆
(72)【発明者】
【氏名】藤森 亮利
(57)【要約】
【課題】軽量に構成することができ、かつ、バックヨークの内周面とコイルユニットの外周面との間にクリアランスを設けることができ、かつ、使用箇所に組み付ける際にコイルユニットが損傷しにくいトルク測定装置を提供する。
【解決手段】トルク測定装置1は、検出コイルを有するフレキシブル基板により円筒状に構成されたコイルユニット6と、ゴムまたは合成樹脂により構成され、コイルユニット6の外周面を覆い、かつ、コイルユニット6よりも軸方向両側に張り出した部分を備えるホルダ7と、磁性紛を混入した非金属材料により構成され、コイルユニット6の周囲において、ホルダ7の外周面に存在するバックヨーク8とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
伝達するトルクに応じて透磁率が変化する磁歪効果部を有する回転軸のうち、前記磁歪効果部の透磁率の変化に対応して電圧を変化させる検出コイルを有するフレキシブル基板により円筒状に構成されたコイルユニットと、
ゴムまたは合成樹脂により構成され、前記コイルユニットの外周面を覆い、かつ、前記コイルユニットよりも軸方向両側に張り出した部分を備えるホルダと、
磁性紛を混入した非金属材料により構成され、かつ、前記コイルユニットの周囲において、前記ホルダの外周面に存在するバックヨークと、を備える、
トルク測定装置。
【請求項2】
前記非金属材料が接着剤である、請求項1に記載のトルク測定装置。
【請求項3】
前記非金属材料が合成樹脂である、請求項1に記載のトルク測定装置。
【請求項4】
前記非金属材料がゴムである、請求項1に記載のトルク測定装置。
【請求項5】
前記ホルダは、前記コイルユニットの軸方向両側の側面を覆う部分を備える、請求項1~4のいずれかに記載のトルク測定装置。
【請求項6】
前記コイルユニットの全体が前記ホルダに包埋されている、請求項1~5のいずれかに記載のトルク測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルクを測定することが可能なトルク測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の分野では、パワートレインすなわち動力伝達機構を構成する回転軸により伝達しているトルクを測定し、その測定結果を利用して、動力源であるエンジンや電動モータの出力制御や、変速機の変速制御を実行するシステムの開発が進んでいる。
【0003】
従来、回転軸により伝達しているトルクを測定する方法として、磁歪式のトルク測定方法が知られている。磁歪式のトルク測定方法では、回転軸の軸方向一部分に備えられた磁歪効果部の近傍に、磁歪効果部の透磁率の変化を検出するためのセンサを配置する。回転軸にトルクが加わり、磁歪効果部に弾性的な捩れ変形が生じると、逆磁歪効果に基づいて磁歪効果部の透磁率が変化する。これにより、センサの出力信号が、磁歪効果部の透磁率の変化に対応して変化するため、回転軸が伝達しているトルクを測定することができる。
【0004】
たとえば、特開2016-200552号公報(特許文献1)、特開2017-049124号公報(特許文献2)には、磁歪式のトルク測定装置の具体的な構造が記載されている。これらの公報に記載されたトルク測定装置は、コイルユニットと、磁性金属製のバックヨークとを備える。コイルユニットは、円筒状に構成され、回転軸の磁歪効果部の周囲に配置される。コイルユニットは、磁歪効果部の透磁率の変化に対応して電圧を変化させる検出コイルを有する。バックヨークは、検出コイルにより発生する磁界の磁路となる部材であって、磁性材により円筒状に構成され、かつ、コイルユニットの周囲に配置されている。このような構成を有するトルク測定装置によれば、検出コイルの電圧に基づいて、回転軸が伝達しているトルクを測定することができる。また、コイルユニットの周囲にバックヨークが配置されているため、外部への磁束の漏れが抑制され、外乱の影響を受けにくくなり、トルクの測定精度を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-200552号公報
【特許文献2】特開2017-049124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、磁歪式のトルク測定装置の薄肉化を図るために、円筒状のコイルユニットを、検出コイルを有するフレキシブル基板により円筒状に構成することが考えられている。このようなトルク測定装置においても、コイルユニットの周囲にバックヨークを配置することが、トルクの測定精度を向上させる面から有効となる。
【0007】
しかしながら、従来構造のように、バックヨークの全体を磁性金属により構成すると、トルク測定装置の重量が嵩む。また、バックヨークをコイルユニットに直接外嵌する、換言すれば、バックヨークの内周面とコイルユニットの外周面との間にクリアランスが設けられていないと、温度変化によりコイルユニットの外周面とバックヨークの内周面との間に隙間が生じることによって、検出コイルとバックヨークとの距離が変化し、その影響が、出力電圧の非線形的な変化(あるいは出力電圧の急激な変化)として現れやすくなる。
【0008】
さらに、コイルユニットの軸方向両側の端部が保護されていないと、トルクセンサを使用箇所に組み付ける際に、該端部が周囲の物体にぶつかることによって、トルクセンサが損傷する可能性がある。
【0009】
本発明は、軽量に構成することができ、かつ、バックヨークの内周面とコイルユニットの外周面との間にクリアランスを設けることができ、かつ、使用箇所に組み付ける際にコイルユニットが損傷しにくいトルク測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様のトルク測定装置は、コイルユニットと、ホルダと、バックヨークとを備える。
【0011】
前記コイルユニットは、伝達するトルクに応じて透磁率が変化する磁歪効果部を有する回転軸のうち、前記磁歪効果部の透磁率の変化に対応して電圧を変化させる検出コイルを有するフレキシブル基板により円筒状に構成されている。
【0012】
前記ホルダは、ゴムまたは合成樹脂により構成され、前記コイルユニットの外周面を覆い、かつ、前記コイルユニットよりも軸方向両側に張り出した部分を備える。
【0013】
前記バックヨークは、磁性紛を混入した非金属材料により構成され、かつ、前記コイルユニットの周囲において、前記ホルダの外周面に存在する。
【0014】
本発明の一態様のトルク測定装置では、前記非金属材料が接着剤である。
【0015】
本発明の一態様のトルク測定装置では、前記非金属材料が合成樹脂である。
【0016】
本発明の一態様のトルク測定装置では、前記非金属材料がゴムである。
【0017】
本発明の一態様のトルク測定装置では、前記ホルダは、前記コイルユニットの軸方向両側の側面を覆う部分を備える。
【0018】
本発明の一態様のトルク測定装置では、前記コイルユニットの全体が前記ホルダに包埋されている。
【発明の効果】
【0019】
本発明の一態様のトルク測定装置によれば、軽量に構成することができ、かつ、バックヨークの内周面とコイルユニットの外周面との間にクリアランスを設けることができ、かつ、使用箇所に組み付ける際にコイルユニットが損傷しにくい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本発明の実施の形態の第1例のトルク測定装置の断面図である。
図2図2(a)は、第1例のコイルユニットを構成するフレキシブル基板の展開図であり、図2(b)は、該フレキシブル基板を図2(a)の下方から見た図である。
図3図3は、第1例のコイルユニットの検出コイルを径方向外側から見た展開図である。
図4図4(a)~図4(d)は、第1例のコイルユニットの検出コイルを構成する第1分割コイル、第2分割コイル、第3分割コイル、および第4分割コイルを、それぞれ単体の状態で径方向外側から見た展開図である。
図5図5は、第1例の電子回路を示す図である。
図6図6は、第1例のトルク測定装置に関して、コイルユニットとバックヨークとの間のクリアランスCと、電子回路の出力電圧Vとの関係を概念的に示す線図である。
図7図7は、本発明の実施の形態の第2例のトルク測定装置の断面図である。
図8図8は、本発明の実施の形態の第3例のトルク測定装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[第1例]
本発明の実施の形態の第1例について、図1図6を用いて説明する。
【0022】
本例のトルク測定装置1は、回転軸2により伝達しているトルクを測定する装置であり、各種の機械装置に組み込んで用いることができる。本例のトルク測定装置1を組み込む機械装置の具体例として、自動車のパワートレインを構成する機械装置、たとえば、オートマチックトランスミッション(AT)、ベルト式無段変速機、トロイダル型無段変速機、オートマチックマニュアルトランスミッション(AMT)、デュアルクラッチトランスミッション(DCT)などの車側の制御で変速を行うトランスミッション、またはトランスファー、マニュアルトランスミッション(MT)などが挙げられる。対象となる車両の駆動方式、すなわち、FF、FR、MR、RR、4WDなどの方式は、特に問わない。本例のトルク測定装置1を組み込む機械装置の具体例として、さらに、風車、鉄道車両、鉄鋼の圧延機などを構成する減速機、増速機などの、歯車で動力軸の回転数を変化させる装置が挙げられる。
【0023】
本例では、回転軸2は、自動車のパワートレインを構成する機械装置のトルク伝達軸であり、伝達するトルクに応じて透磁率が変化する磁歪効果部を有する。回転軸2は、前記機械装置のケース3の不図示の部分に対し、不図示の転がり軸受により回転自在に支持されている。
【0024】
回転軸2は、ケース3を構成する円筒状の筒状部4の内側に、筒状部4と同軸に配置された中間軸部5を有する。中間軸部5の外周面は、円筒面により構成されている。本例では、回転軸2の中間軸部5を磁歪効果部として機能させる。このために、回転軸2を磁性金属により構成している。回転軸2を構成する磁性金属としては、たとえば、JISに規定されている、SCr420、SCM420などの浸炭鋼、S45Cなどの炭素鋼といった、各種磁性鋼を用いることができる。
【0025】
回転軸2にトルクが加わり、中間軸部5に捩れ変形が生じると、中間軸部5にトルクに応じた応力、すなわち、軸方向に対して+45 ゜方向の引っ張り応力、および、軸方向に対して-45゜方向の圧縮応力が作用する。これに伴い、逆磁歪効果によって、中間軸部5の各方向の透磁率が変化する。
【0026】
本発明を実施する場合には、中間軸部5の外周面のうち、トルク測定装置1を対向させる部分に、ショットピーニング処理を施すことによって圧縮加工硬化層を形成し、該部分の機械的特性および磁気的特性を改善することもできる。このようにすれば、トルク測定装置1によるトルク測定の感度およびヒステリシスを改善することができる。
【0027】
本発明を実施する場合には、中間軸部5を磁歪効果部として機能させる代わりに、中間軸部5の外周面に、磁歪効果部として機能する磁歪材を固定することもできる。具体的には、円環状に構成された磁歪材を中間軸部5に外嵌固定したり、めっきなどの被膜により構成された磁歪材やフィルム状の磁歪材を中間軸部5の外周面に固定したりすることができる。
【0028】
本例では、トルク測定装置1は、全体を円筒状に構成されており、回転軸2の中間軸部5の周囲に配置され、かつ、ケース3の筒状部4に内嵌支持されている。トルク測定装置1は、コイルユニット6と、ホルダ7と、バックヨーク8とを備える。本例では、ケース3の筒状部4は、トルク測定装置1を支持する強度を有していれば、その材質は特に限定されず、磁性材製であってもよいし、非磁性材製であってもよい。
【0029】
コイルユニット6は、ベースフィルムおよび該ベースフィルムに保持されたプリント配線(導体)を備える、フレキシブル基板(FPC)10により構成されている。該フレキシブル基板10は、中間軸部5の透磁率の変化に対応して電圧を変化させる検出コイル9を有する。
【0030】
具体的には、本例では、コイルユニット6は、図2に示すような帯板状のフレキシブル基板10を円筒状に丸め、かつ、該フレキシブル基板10の長さ方向の両端部をたとえば接着して接合することにより構成されている。本例では、検出コイル9は、フレキシブル基板10に備えられた第1分割コイル11、第2分割コイル12、第3分割コイル13、および第4分割コイル14からなる(図3および図4参照)。すなわち、フレキシブル基板10は、板厚方向に積層された4つの配線層を有し、これらの配線層に、それぞれがプリント配線により構成された、第1分割コイル11、第2分割コイル12、第3分割コイル13、および第4分割コイル14が配置されている。これらの分割コイルは、帯板状のフレキシブル基板10を円筒状に丸めた状態、すなわち、円筒状のコイルユニット6を構成した状態で、径方向内側から、第1分割コイル11、第2分割コイル12、第3分割コイル13、および第4分割コイル14の順番で配置されている。
【0031】
図3は、検出コイル9を、コイルユニット6の径方向外側から見た展開図を示している。図4(a)~図4(d)は、検出コイル9を構成する第1分割コイル11、第2分割コイル12、第3分割コイル13、および第4分割コイル14のそれぞれを、コイルユニット6の径方向外側から見た展開図を示している。
【0032】
第1分割コイル11は、図4(a)に示すように、円周方向に関して等ピッチに並べて配置された複数個のコイル片15を備える。これらのコイル片15は、径方向から見て平行四辺形の形状を有しており、かつ、中間軸部5の軸方向に対して+45゜傾斜した配線を含んで構成されている。円周方向に隣り合うコイル片15は、不図示のプリント配線などの導体により直列に接続されている。すなわち、図4(a)において、コイル片15は、模式的に示されており、全周がつながっているように図示されているが、実際には、コイル片15の周方向の一部に、不連続部が存在する。コイル片15は、この不連続部を挟んで離隔した2つの端部を有する。円周方向に隣り合うコイル片15は、互いの1つの端部同士を不図示のプリント配線などの導体により接続することで、直列に接続されている。これらの点については、以下の第2分割コイル12~第4分割コイル14でも同様である。
【0033】
第2分割コイル12は、図4(b)に示すように、円周方向に関して等ピッチに並べて配置された複数個のコイル片16を備える。これらのコイル片16は、径方向から見て平行四辺形の形状を有しており、かつ、中間軸部5の軸方向に対して-45゜傾斜した配線を含んで構成されている。円周方向に隣り合うコイル片16は、不図示のプリント配線などの導体により直列に接続されている。
【0034】
第3分割コイル13は、図4(c)に示すように、円周方向に関して等ピッチに並べて配置された複数個のコイル片17を備える。これらのコイル片17は、径方向から見て平行四辺形の形状を有しており、かつ、中間軸部5の軸方向に対して-45゜傾斜した配線を含んで構成されている。円周方向に隣り合うコイル片17は、不図示のプリント配線などの導体により直列に接続されている。
【0035】
第4分割コイル14は、図4(d)に示すように、円周方向に関して等ピッチに並べて配置された複数個のコイル片18を備える。これらのコイル片18は、径方向から見て平行四辺形の形状を有しており、かつ、中間軸部5の軸方向に対して+45゜傾斜した配線を含んで構成されている。円周方向に隣り合うコイル片18は、不図示のプリント配線などの導体により直列に接続されている。
【0036】
本発明を実施する場合、検出コイルを構成する第1分割コイル、第2分割コイル、第3分割コイル、および第4分割コイルの具体的な形状および配置に関する構成は、本例の構成に限らず、従来から知られている各種の構成を採用することができる。
【0037】
ホルダ7は、ゴムまたは合成樹脂により構成され、コイルユニット6の外周面を覆い、かつ、コイルユニット6よりも軸方向両側に張り出した部分を備える。本例では、ホルダ7は、コイルユニット6の軸方向両側の側面および内周面も覆っている。すなわち、本例では、ホルダ7は、全体を円筒状に構成されており、自身と同軸に配置されたコイルユニット6の全体を包埋することで、コイルユニット6の外周面、軸方向両側の側面、および内周面を覆っている。ホルダ7を構成するゴムまたは合成樹脂には、磁性紛などの磁性材は混入されていない。なお、本発明を実施する場合には、ホルダとして、ホルダ7のうち、コイルユニット6の軸方向両側の側面を覆う部分を省略した構造を採用することもできる。すなわち、ホルダとして、ホルダ7のうち、コイルユニット6の外周面よりも径方向外側に位置する部分と、ホルダ7のうち、コイルユニット6の内周面よりも径方向内側に位置する部分とに分離した構成を採用することもできる。
【0038】
バックヨーク8は、検出コイル9により発生する磁束の磁路となる部材である。バックヨーク8は、フェライトなどの磁性紛を混入した非金属材料により構成され、コイルユニット6の周囲において、ホルダ7の外周面に存在する。特に、本例では、バックヨーク8は、ホルダ7の外周面の全体に均一な厚さで存在する。本例では、バックヨーク8を構成する非金属材料は、接着剤である。
【0039】
本例では、バックヨーク8を造る際には、フェライトなどの磁性紛を混入した接着剤を、ホルダ7の外周面に、均一な厚さで塗布する。その後、該接着剤を乾燥させて固化させることで、バックヨーク8を構成すると同時に、該バックヨーク8をホルダ7の外周面に固定する。
【0040】
本発明を実施する場合、バックヨークの厚さ、軸方向範囲、周方向範囲などは、バックヨークとして機能する範囲、すなわち外部への磁束の漏れを抑制できる範囲で、任意に設定することができる。バックヨークは、本例のように、全周に連続して存在することが好ましいが、外部への磁束漏れを許容できる範囲で、円周方向の少なくとも1箇所に不連続部を有していてもよい。
【0041】
本例では、ホルダ7のうち、コイルユニット6の外周面とバックヨーク8の内周面との間に挟まれた部分がスペーサとして機能し、該スペーサにより、コイルユニット6の外周面とバックヨーク8の内周面との間に、軸方向にわたって、径方向のクリアランスCが構成されている。すなわち、コイルユニット6の外周面とバックヨーク8の内周面とが、クリアランスCの分だけ、径方向に離隔している。径方向のクリアランスCについては、さらに後述する。
【0042】
本例のトルク測定装置1は、図5に示すような電子回路19をさらに備える。電子回路19は、検出コイル9(図3参照)を構成する第1分割コイル11、第2分割コイル12、第3分割コイル13、および第4分割コイル14を含み、かつ、検出コイル9の電圧に応じた出力電圧を発生させる。
【0043】
本例では、電子回路19は、第1分割コイル11、第2分割コイル12、第3分割コイル13、および第4分割コイル14を4辺に配置したブリッジ回路により構成されている。電子回路19は、第1分割コイル11、第2分割コイル12、第3分割コイル13、および第4分割コイル14のほか、A点とB点との間に交流電圧を印加するための発振器20と、C点とD点との間の電位差である中点電圧(差動電圧)を検出および増幅するためのロックイン増幅器21とを含んで構成されている。電子回路19を構成する各部品のうち、検出コイル9以外の部品は、たとえば、フレキシブル基板10に固定したり、図示しない別の基板に固定したりすることができる。
【0044】
本例のトルク測定装置1の使用時には、発振器20により、電子回路19のA点とB点との間に交流電圧を印加し、第1分割コイル11、第2分割コイル12、第3分割コイル13、および第4分割コイル14に交流電流を流す。すると、第1分割コイル11、第2分割コイル12、第3分割コイル13、および第4分割コイル14には、図4(a)~図4(d)に矢印α1、α2、α3、α4で示すように、円周方向に隣り合うコイル片15、16、17、18同士で互いに逆向きの電流が流れる。言い換えれば、このような向きの電流が流れるように、円周方向に隣り合うコイル片15、16、17、18同士が接続されている。この結果、第1分割コイル11、第2分割コイル12、第3分割コイル13、および第4分割コイル14の周囲に交流磁界が発生し、この交流磁界の磁束の一部が、中間軸部5の表層部を通過する。
【0045】
この状態で、中間軸部5に、図1に矢印CWで示す方向のトルクTが加わると、回転軸2には、軸方向に対して+45゜方向の引っ張り応力(+σ)と、軸方向に対して-45゜方向の圧縮応力(-σ)とが作用する。そして、逆磁歪効果により、引っ張り応力(+σ)が作用する方向である+45゜方向では、中間軸部5の透磁率が増加し、圧縮応力(-σ)が作用する方向である-45゜方向では、中間軸部5の透磁率が減少する。
【0046】
一方、第1分割コイル11および第4分割コイル14は、中間軸部5の軸方向に対して+45゜傾斜した配線を含んで構成されており、該配線の周囲に発生する交流磁界の磁束の一部は、中間軸部5の表層部を、透磁率が減少した方向である-45゜方向に通過する。このため、第1分割コイル11および第4分割コイル14のインダクタンスは、それぞれ減少する。また、第2分割コイル12および第3分割コイル13は、中間軸部5の軸方向に対して-45゜傾斜した配線を含んで構成されており、該配線の周囲に発生する交流磁界の磁束の一部は、中間軸部5の表層部を、透磁率が増加した方向である+45゜方向に通過する。このため、第3分割コイル13および第4分割コイル14のインダクタンスは、それぞれ増大する。
【0047】
これに対し、中間軸部5に、図1に矢印CCWで示す方向のトルクTが加わると、上述した場合とは逆の作用により、第1分割コイル11および第4分割コイル14のインダクタンスが増大し、第2分割コイル12および第3分割コイル13のインダクタンスが減少する。
【0048】
いずれにしても、電子回路19では、C点とD点との間の電位差である中点電圧をロックイン増幅器21により検出および増幅することによって、回転軸2に負荷されるトルクTの方向および大きさに応じた出力電圧Vが得られるようになっている。したがって、この出力電圧Vを利用して、回転軸2により伝達しているトルクを測定することができる。
【0049】
本例のトルク測定装置1では、使用時の温度変化により、トルク測定装置1を構成する各部品に膨張または収縮が生じる。これに伴い、コイルユニット6の外周面と、バックヨーク8の内周面との間に存在する径方向のクリアランスCが変化し、これに伴って、電子回路19の出力電圧Vが変化する。
【0050】
図6は、本例のトルク測定装置1に関して、径方向のクリアランスCと電子回路19の出力電圧Vとの関係を概念的に示す線図である。なお、図6に示した線図は、横軸の数値を含めて、例示である。図6に示す線図は、シミュレーションによる解析、または、実験に基づいて取得することができる。この線図に示されるように、径方向のクリアランスCの範囲には、径方向のクリアランスCの変化と電子回路19の出力電圧Vの変化との間に線形性が示される範囲X1が存在し、該範囲X1の両側には、径方向のクリアランスCの変化と電子回路19の出力電圧Vの変化との間に非線形性が示される範囲X2、X3が存在する。
【0051】
すなわち、径方向のクリアランスCが所定値よりも小さい範囲X2、または、径方向のクリアランスCが所定値よりも大きい範囲X3では、使用時の温度変化に伴う径方向のクリアランスCの変化に対して、電子回路19の出力電圧Vの変化が、非線形的、すなわち非直線的な変化になる。これに対して、径方向のクリアランスCが、範囲X2と範囲X3との間に挟まれた中間の範囲X1では、使用時の温度変化に伴う径方向のクリアランスCの変化に対して、電子回路19の出力電圧Vの変化が、線形的、すなわち直線的な変化になる。
【0052】
そこで、本例のトルク測定装置1では、使用時の温度変化に伴う径方向のクリアランスCの変化範囲△Xが、径方向のクリアランスCの変化に対して電子回路19の出力電圧Vの変化が線形的な変化となる範囲X1に収まるように規制されている。具体的には、変化範囲△Xが、範囲X1(図示の例では、0.2mm~0.8mm)内に収まるように、常温での径方向のクリアランスCが設定されている。
【0053】
本例のトルク測定装置1によれば、以下の作用効果を奏することができる。
【0054】
バックヨーク8が、磁性紛を混入した非金属材料により構成されているため、バックヨークの全体が磁性金属により構成されている場合に比べて、バックヨーク8の重量を抑えられる。したがって、その分、トルク測定装置1を軽量に構成することができる。
【0055】
本例では、ホルダ7が、コイルユニット6の外周面を覆い、かつ、コイルユニット6よりも軸方向両側に張り出した部分を備える。より具体的には、本例では、コイルユニット6の外周面および軸方向両側の側面がホルダ7により覆われている。このため、ケースなどへの組み付け作業を行う際に、コイルユニット6の外周面および軸方向両側の側面が周囲の物体に直接ぶつかって損傷するのを防ぐことができる。
【0056】
本例では、コイルユニット6の内周面もホルダ7により覆われているため、ケースなどへの組み付け作業を行う際に、コイルユニット6の内周面が周囲の物体に直接ぶつかって損傷するのを防ぐことができる。
【0057】
使用時の温度変化に伴う径方向のクリアランスCの変化範囲△Xが、径方向のクリアランスCの変化に対する電子回路19の出力電圧Vの変化が線形的な変化となる範囲X1に収まるように規制されているため、使用時の温度変化に伴う電子回路19の出力電圧Vの変化を、別途検出した温度を利用して、容易に補正することができる。
【0058】
ただし、本発明を実施する場合には、変化範囲△Xの少なくとも一部が範囲X2またはX3と重畳するように、径方向のクリアランスCを設定することもできる。この場合には、範囲X2またはX3における非線形性を考慮して構成した補正回路により、電子回路19の出力電圧Vを補正することができる。
【0059】
図6の線図からも分かるように、クリアランスCの変化に対する出力電圧Vの非線形性の度合い(あるいは出力電圧Vの変化率)は、元々のクリアランスCがゼロである場合に比べて、本発明のように元々のクリアランスCが有限の値である場合の方が、小さくなる。このため、本発明を実施する場合には、変化範囲△Xの少なくとも一部が範囲X2またはX3と重畳するように元々のクリアランスCを設定しても、クリアランスCの変化に対する出力電圧Vの非線形性の度合い(あるいは出力電圧Vの変化率)を小さく抑えることができる。したがって、補正回路により出力電圧Vを補正することが容易となる。
【0060】
本発明を実施する場合には、第1例の変形例として、バックヨーク8を構成する非金属材料を、合成樹脂の一種である熱硬化性樹脂とすることもできる。
【0061】
この場合には、たとえば、フェライトなどの磁性紛を混入した未硬化状態の熱硬化性樹脂を、ホルダ7の外周面に、均一な厚さで塗布する。その後、該熱硬化性樹脂を加熱して硬化させることで、バックヨーク8を構成すると同時に、該バックヨーク8をホルダ7の外周面に固定する。
【0062】
[第2例]
本発明の実施の形態の第2例について、図7を用いて説明する。
【0063】
本例では、トルク測定装置1aを構成するホルダ7aは、コイルユニット6の外周面および軸方向両側の側面のみを覆っており、コイルユニット6の内周面を覆っていない。したがって、その分、ホルダ7aの体積を小さくすることができ、ホルダ7aの材料費を抑えられる。また、コイルユニット6の内周面を中間軸部5の外周面に近づけることができるため、トルクの検出精度を向上させることができる。その他の構成および作用効果は、第1例と同様である。なお、本発明を実施する場合には、ホルダとして、ホルダ7aのうち、コイルユニット6の軸方向両側の側面を覆う部分を省略した構成を採用することもできる。
【0064】
[第3例]
本発明の実施の形態の第3例について、図8を用いて説明する。
【0065】
本例のトルク測定装置1bでは、バックヨーク8aを構成する非金属材料は、ゴムである。すなわち、本例では、バックヨーク8aは、磁性紛を混入したゴムを用いて、加圧成形、射出成形などの適宜の成形方法により成形され、かつ、コイルユニット6を覆っているホルダ7の外周面に存在している。本例の場合も、バックヨーク8aは、ホルダ7の外周面の全体に均一な厚さで存在している。本例の構造を実施する場合には、ホルダ7とバックヨーク8aとを別々に造った後に、バックヨーク8aをホルダ7の外周面に固定したり、ホルダ7を造った後、バックヨーク8aを円筒状に成形するのと同時に、バックヨーク8aをホルダ7の外周面に固定したりすることができる。あるいは、ホルダ7とバックヨーク8aとを、二色成形(ダブルモールド)により造ることもできる。
【0066】
本例のように、磁性紛を混入したゴムを用いて適宜の成形方法により造られたバックヨーク8aは、磁性紛を混入した接着剤または熱硬化性樹脂をコイルユニット6の外径面に塗布して造られたバックヨーク8(図1)に比べて、厚さを大きく確保しやすい。このため、バックヨーク8aによる、外部への磁束の漏れの抑制効果を確保しやすい。また、バックヨーク8aを構成する非金属材料が弾性に優れたゴムであるため、該弾性を利用して、ケース3の筒状部4に締り嵌めで内嵌しやすい。その他の構成及び作用効果は、第1例と同様である。
【0067】
本発明を実施する場合には、第3例の変形例として、バックヨーク8aを構成する非金属材料を、合成樹脂の一種である熱可塑性樹脂とすることもできる。
【0068】
この場合には、バックヨーク8aを、磁性紛を混入した熱可塑性樹脂を用いて、射出成形などの適宜の成形方法により円筒状に構成する。この場合も、バックヨーク8aを円筒状に成形した後にコイルユニット6の外周面に固定したり、バックヨーク8aを円筒状に成形するのと同時にコイルユニット6の外周面に固定したりすることができる。
【0069】
上述した各実施の形態の構造は、矛盾が生じない範囲で、適宜組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0070】
1、1a、1b トルク測定装置
2 回転軸
3 ケース
4 筒状部
5 中間軸部
6 コイルユニット
7、7a ホルダ
8、8a バックヨーク
9 検出コイル
10 フレキシブル基板
11 第1分割コイル
12 第2分割コイル
13 第3分割コイル
14 第4分割コイル
15 コイル片
16 コイル片
17 コイル片
18 コイル片
19 電子回路
20 発振器
21 ロックイン増幅器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8