(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023127488
(43)【公開日】2023-09-13
(54)【発明の名称】動脈硬化の有無の検出を支援するための方法、支援装置及び支援プログラム
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6851 20180101AFI20230906BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20230906BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20230906BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20230906BHJP
C12Q 1/6869 20180101ALI20230906BHJP
C12Q 1/6883 20180101ALI20230906BHJP
【FI】
C12Q1/6851 Z
C12M1/00 A ZNA
C12M1/34 Z
C12Q1/686 Z
C12Q1/6869 Z
C12Q1/6883 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022031312
(22)【出願日】2022-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石田 万里
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029BB20
4B029FA12
4B029FA15
4B063QA01
4B063QA18
4B063QA19
4B063QQ42
4B063QQ59
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR56
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS34
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】血漿中のバイオマーカーの測定値を利用した、動脈硬化の有無の検出を支援するため支援方法、支援装置、及び支援プログラムを提供することを一課題とする。
【解決手段】動脈硬化の有無の検出を支援するための方法であって、前記方法は、被検体から採取された血漿中の被検体の細胞に由来する遊離DNAの測定値を取得することを含み、前記測定値が、前記測定値に対応する基準値以上の場合に、被検体が動脈硬化を有することが示唆される、及び/又は前記測定値が、前記測定値に対応する基準値よりも低い場合に、被検体が動脈硬化を有さないことが示唆される、方法により、課題を解決する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
動脈硬化の有無の検出を支援するための方法であって、
前記方法は、
被検体から採取された血漿中の被検体の細胞に由来する遊離DNAの測定値を取得することを含み、
前記測定値が、前記測定値に対応する基準値以上の場合に、被検体が動脈硬化を有することが示唆される、及び/又は前記測定値が、前記測定値に対応する基準値よりも低い場合に、被検体が動脈硬化を有さないことが示唆される、
方法。
【請求項2】
前記被検体の細胞に由来する遊離DNAがミトコンドリア由来のDNAである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
動脈硬化の有無の検出を支援するための支援装置であって、
前記支援装置は、処理部を備え、
前記処理部は、
被検体から採取された血漿中の被検体の細胞に由来する遊離DNAの測定値を取得し、
前記測定値が、前記測定値に対応する基準値以上の場合に、被検体が動脈硬化を有することを示唆するラベルを出力する、及び/又は前記測定値が、前記測定値に対応する基準値よりも低い場合に、被検体が動脈硬化を有さないことを示唆するラベルを出力する、
支援装置。
【請求項4】
コンピュータに実行させた時に、コンピュータに、
被検体から採取された血漿中の被検体の細胞に由来する遊離DNAの測定値を取得するステップと、
前記測定値が、前記測定値に対応する基準値以上の場合に、被検体が動脈硬化を有することを示唆するラベルを出力する、及び/又は前記測定値が、前記測定値に対応する基準値よりも低い場合に、被検体が動脈硬化を有さないことを示唆するラベルを出力するステップと、
を実行させる、動脈硬化の有無の検出を支援するための支援プログラム。
【請求項5】
虚血性心血管疾患の予備群に属する被検体の検出を支援するための方法であって、
前記方法は、
被検体から採取された血漿中の被検体の細胞に由来する遊離DNAの測定値を取得することを含み、
前記測定値が、前記測定値に対応する基準値以上の場合に、被検体が虚血性心血管疾患の予備群に属することが示唆される、及び/又は前記測定値が、前記測定値に対応する基準値よりも低い場合に、被検体が虚血性心血管疾患の予備群に属さないことが示唆される、
方法。
【請求項6】
虚血性心血管疾患の予備群に属する被検体の検出を支援するための支援装置であって、
前記支援装置は、処理部を備え、
前記処理部は、
被検体から採取された血漿中の被検体の細胞に由来する遊離DNAの測定値を取得し、
前記測定値が、前記測定値に対応する基準値以上の場合に、被検体が虚血性心血管疾患の予備群に属することを示唆するラベルを出力する、及び/又は前記測定値が、前記測定値に対応する基準値よりも低い場合に、被検体が虚血性心血管疾患の予備群に属さないことを示唆するラベルを出力する、
支援装置。
【請求項7】
コンピュータに実行させた時に、コンピュータに、
被検体から採取された血漿中の被検体の細胞に由来する遊離DNAの測定値を取得するステップと、
前記測定値が、前記測定値に対応する基準値以上の場合に、被検体が虚血性心血管疾患の予備群に属することを示唆するラベルを出力する、及び/又は前記測定値が、前記測定値に対応する基準値よりも低い場合に、被検体が虚血性心血管疾患の予備群に属さないことを示唆するラベルを出力するステップと、
を実行させる、虚血性心血管疾患の予備群に属する被検体の検出を支援するための支援プログラム。
【請求項8】
被検体の動脈硬化の進行度の層別化を支援するための方法であって、
前記方法は、
被検体から採取された血漿中の被検体のミトコンドリアに由来する遊離DNAの測定値を取得することと、
動脈硬化の進行度に応じて設定された複数の基準範囲から、前記測定値が属する基準範囲を検索すること含み、
前記測定値が属する基準範囲に対応する動脈硬化の進行度を被検体の動脈硬化の進行度として示唆する、
方法。
【請求項9】
被検体の動脈硬化の進行度の層別化を支援するための層別化装置であって、
前記層別化装置は、処理部を含み、
前記処理部は、
被検体から採取された血漿中の被検体のミトコンドリアに由来する遊離DNAの測定値を取得し、
動脈硬化の進行度に応じて設定された複数の基準範囲から、前記測定値が属する基準範囲を検索し、
前記測定値が属する基準範囲に対応する動脈硬化の進行度のラベルを被検体の動脈硬化の進行度を示すラベルとして出力する、
層別化装置。
【請求項10】
コンピュータに実行させた時に、コンピュータに、
被検体から採取された血漿中の被検体のミトコンドリアに由来する遊離DNAの測定値を取得するステップと、
動脈硬化の進行度に応じて設定された複数の基準範囲から、前記測定値が属する基準範囲を検索するステップと、
前記測定値が属する基準範囲に対応する動脈硬化の進行度のラベルを被検体の動脈硬化の進行度を示すラベルとして出力するステップと、
を実行させる、被検体の動脈硬化の進行度の層別化を支援するための層別化プログラム。
【請求項11】
血漿中のバイオマーカーであって、前記バイオマーカーは、被検体の細胞に由来する遊離DNAであり、前記バイオマーカーは、動脈硬化の有無の検出に使用するためのものであるか、虚血性心血管疾患の予備群に属する被検体の検出に使用するためのものである、バイオマーカー。
【請求項12】
血漿中のバイオマーカーであって、前記バイオマーカーは、被検体の細胞のミトコンドリアに由来する遊離DNAであり、前記バイオマーカーは、被検体の動脈硬化の進行度を層別化するためのものである、バイオマーカー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書には、動脈硬化の有無の検出を支援するための方法、支援装置及び支援プログラムが開示される。また、本明細書には、虚血性心血管疾患の予備群に属する被検体の検出を支援するための方法、支援装置、及び支援プログラムが開示される。さらに、本明細書には、被検体の動脈硬化の進行度を層別化するための方法、層別化装置、及び層別化プログラムが開示される。
【背景技術】
【0002】
心不全の主な原因のひとつは動脈硬化であり、その簡便かつ早期の診断は予防医学において重要となる。
【0003】
動脈硬化の発症基盤に酸化ストレスが関与していることが知られている。非特許文献1には、酸化ストレスは血管内皮細胞及び血管平滑筋細胞において、最も致命的な二本鎖DNAの切断を誘発すること、実際の動脈硬化巣に二本鎖切断やDNAの酸化的損傷が認められることが示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Mari Ishida, et al., Smoking Cessation Reverses DNA Double-Strand Breaks in Human Mononuclear Cells. PLoS One. 2014; 9(8): e103993. Published online 2014 Aug 5
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、動脈硬化は無症状で、終末像である心筋梗塞や脳卒中をおこすまでは自ら気づくことはほとんどない。一般的には、健康診断において、動脈硬化の危険因子である血中のコレステロール値、LDL-コレステロール値等の異常を指摘された場合に、血管壁の画像検査を行い、血管に付着したプラークを確認してから治療を開始する。
画像検査として、超音波装置を用いた頚動脈エコー、CT、及びカテーテル検査があげられるが、これらは特別な装置と医療者の技術が必要となる。
【0006】
本発明は、血漿中のバイオマーカーの測定値を利用した、動脈硬化の有無の検出を支援するため支援方法、支援装置、及び支援プログラムを提供することを一課題とする。また、本発明は、血漿中のバイオマーカーの測定値を利用した、虚血性心血管疾患の予備群に属する被検体の検出を支援するための方法、支援装置、及び支援プログラムを提供することを一課題とする。さらに、本発明は、血漿中のバイオマーカーの測定値を利用した、被検体の動脈硬化の進行度を層別化するための方法、層別化装置、及び層別化プログラムを提供することを一課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記実施形態を含む。
項1.
動脈硬化の有無の検出を支援するための方法であって、
前記方法は、
被検体から採取された血漿中の被検体の細胞に由来する遊離DNAの測定値を取得することを含み、
前記測定値が、前記測定値に対応する基準値以上の場合に、被検体が動脈硬化を有することが示唆される、及び/又は前記測定値が、前記測定値に対応する基準値よりも低い場合に、被検体が動脈硬化を有さないことが示唆される、
方法。
項2.
前記被検体の細胞に由来する遊離DNAがミトコンドリア由来のDNAである、項1に記載の方法。
項3.
動脈硬化の有無の検出を支援するための支援装置であって、
前記支援装置は、処理部を備え、
前記処理部は、
被検体から採取された血漿中の被検体の細胞に由来する遊離DNAの測定値を取得し、
前記測定値が、前記測定値に対応する基準値以上の場合に、被検体が動脈硬化を有することを示唆するラベルを出力する、及び/又は前記測定値が、前記測定値に対応する基準値よりも低い場合に、被検体が動脈硬化を有さないことを示唆するラベルを出力する、
支援装置。
項4.
コンピュータに実行させた時に、コンピュータに、
被検体から採取された血漿中の被検体の細胞に由来する遊離DNAの測定値を取得するステップと、
前記測定値が、前記測定値に対応する基準値以上の場合に、被検体が動脈硬化を有することを示唆するラベルを出力する、及び/又は前記測定値が、前記測定値に対応する基準値よりも低い場合に、被検体が動脈硬化を有さないことを示唆するラベルを出力するステップと、
を実行させる、動脈硬化の有無の検出を支援するための支援プログラム。
項5.
虚血性心血管疾患の予備群に属する被検体の検出を支援するための方法であって、
前記方法は、
被検体から採取された血漿中の被検体の細胞に由来する遊離DNAの測定値を取得することを含み、
前記測定値が、前記測定値に対応する基準値以上の場合に、被検体が虚血性心血管疾患の予備群に属することが示唆される、及び/又は前記測定値が、前記測定値に対応する基準値よりも低い場合に、被検体が虚血性心血管疾患の予備群に属さないことが示唆される、
方法。
項6.
虚血性心血管疾患の予備群に属する被検体の検出を支援するための支援装置であって、
前記支援装置は、処理部を備え、
前記処理部は、
被検体から採取された血漿中の被検体の細胞に由来する遊離DNAの測定値を取得し、
前記測定値が、前記測定値に対応する基準値以上の場合に、被検体が虚血性心血管疾患の予備群に属することを示唆するラベルを出力する、及び/又は前記測定値が、前記測定値に対応する基準値よりも低い場合に、被検体が虚血性心血管疾患の予備群に属さないことを示唆するラベルを出力する、
支援装置。
項7.
コンピュータに実行させた時に、コンピュータに、
被検体から採取された血漿中の被検体の細胞に由来する遊離DNAの測定値を取得するステップと、
前記測定値が、前記測定値に対応する基準値以上の場合に、被検体が虚血性心血管疾患の予備群に属することを示唆するラベルを出力する、及び/又は前記測定値が、前記測定値に対応する基準値よりも低い場合に、被検体が虚血性心血管疾患の予備群に属さないことを示唆するラベルを出力するステップと、
を実行させる、虚血性心血管疾患の予備群に属する被検体の検出を支援するための支援プログラム。
項8.
被検体の動脈硬化の進行度の層別化を支援するための方法であって、
前記方法は、
被検体から採取された血漿中の被検体のミトコンドリアに由来する遊離DNAの測定値を取得することと、
動脈硬化の進行度に応じて設定された複数の基準範囲から、前記測定値が属する基準範囲を検索すること含み、
前記測定値が属する基準範囲に対応する動脈硬化の進行度を被検体の動脈硬化の進行度として示唆する、
方法。
項9.
被検体の動脈硬化の進行度の層別化を支援するための層別化装置であって、
前記層別化装置は、処理部を含み、
前記処理部は、
被検体から採取された血漿中の被検体のミトコンドリアに由来する遊離DNAの測定値を取得し、
動脈硬化の進行度に応じて設定された複数の基準範囲から、前記測定値が属する基準範囲を検索し、
前記測定値が属する基準範囲に対応する動脈硬化の進行度のラベルを被検体の動脈硬化の進行度を示すラベルとして出力する、
層別化装置。
項10.
コンピュータに実行させた時に、コンピュータに、
被検体から採取された血漿中の被検体のミトコンドリアに由来する遊離DNAの測定値を取得するステップと、
動脈硬化の進行度に応じて設定された複数の基準範囲から、前記測定値が属する基準範囲を検索するステップと、
前記測定値が属する基準範囲に対応する動脈硬化の進行度のラベルを被検体の動脈硬化の進行度を示すラベルとして出力するステップと、
を実行させる、被検体の動脈硬化の進行度の層別化を支援するための層別化プログラム。
項11.
血漿中のバイオマーカーであって、前記バイオマーカーは、被検体の細胞に由来する遊離DNAであり、前記バイオマーカーは、動脈硬化の有無の検出に使用するためのものであるか、虚血性心血管疾患の予備群に属する被検体の検出に使用するためのものである、バイオマーカー。
項12.
血漿中のバイオマーカーであって、前記バイオマーカーは、被検体の細胞のミトコンドリアに由来する遊離DNAであり、前記バイオマーカーは、被検体の動脈硬化の進行度を層別化するためのものである、バイオマーカー。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、血漿中のバイオマーカーの測定値を利用して、動脈硬化の有無の検出することができる。また、本発明によれば、血漿中のバイオマーカーの測定値を利用して、虚血性心血管疾患の予備群に属する被検体の検出することができる。さらに、本発明によれば、血漿中のバイオマーカーの測定値を利用して、被検体の動脈硬化の進行度を層別化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】支援装置10,20のハードウエア構成を示す。
【
図2】
図2(A)は、支援プログラム1042aの処理の流れを示すフローチャートである。
図2(B)は、支援プログラム2042aの処理の流れを示すフローチャートである。
【
図4】層別化プログラム3042aの処理の流れを示すフローチャートである。
【
図5】
図5(A)は、γ-H2AXの免疫染色の結果である。
図5(A)(a)は、CSEを添加する前のコントロール(ctl)の核におけるγ-H2AXの染色画像である。
図5(A)(b)は、CSEの処理を開始後72時間後の細胞におけるγ-H2AXの染色画像である。
図5(A)(c)は、1細胞あたりのγ-H2AXのfociの数を複数の細胞についてカウントし算出した平均値及び標準偏差を経時的に示したグラフである。
図5(B)は、8-oxo-dGの免疫染色の結果である。
図5(B)(a)は、CSEを添加する前のコントロール(ctl)の細胞の8-oxo-dGの染色画像である。
図5(B)(b)は、CSEの処理を開始後72時間の細胞における8-oxo-dGの染色画像である。
図5(B)(c)は、核における8-oxo-dGの蛍光強度を経時的に示したグラフである。
図5(B)(d)は、細胞質における8-oxo-dGの蛍光強度を経時的に示したグラフである。
図5(C)は、CSE添加後24時間の1細胞における、DNA染色(DAPI)、ミトコンドリア(Mitotracker)、8-oxo-dG免疫染色(8-oxo-dG)、及びこれら3つの染色のmerge画像を示す。
【
図6】
図6(A)は、CSE処理開始後1日目、3日目、7日目の細胞質におけるミトコンドリアDNA(Cytosolic mtDNA)由来のDNAの増加量を示す。
図6(B)は、CSE処理開始後1日目、3日目、7日目の細胞質における核DNA(Cytosolic nDNA)のDNAの増加量を示す。
【
図7】
図7(A)は、CSE処理によるHUVEC細胞の培養上清中のミトコンドリアDNA(mtDNA)の増加量を示す。
図7(B)は、
図7(A)と同じ培養上清中の核DNA(nDNA)の増加量を示す。
【
図8】
図8(A)は、被検者の内訳を示す。
図8(B)は、被検者の血漿中のミトコンドリアDNAに由来するcfDNAのコピー数の分布を示す。
図8(C)は、被検者の血漿中の核DNAに由来するcfDNAのコピー数の分布を示す。
【
図10】
図10(A)は、被検者の血漿中のミトコンドリアDNAに由来するcfDNA(mt-cfDNA)のコピー数の分布を示す。
図10(B)は、被検者の血漿中の核DNAに由来するcfDNA(n-cfDNA)のコピー数の分布を示す。
【
図11】
図11(A)は、被検者の血漿中のミトコンドリアDNAに由来するcfDNA(mt-cfDNA)のコピー数の分布を示す。
図11(B)は、被検者の血漿中の核DNAに由来するcfDNA(n-cfDNA)のコピー数の分布を示す。
【
図12】
図12(A)は、被検者の血漿中のミトコンドリアDNAに由来するcfDNA(mt-cfDNA)のコピー数とプラークの厚さとの相関を示す。
図12(B)は、被検者の血漿中の核DNAに由来するcfDNA(n-cfDNA)のコピー数とプラークの厚さとの相関を示す。
【
図13】
図13(A)は、被検者の血漿中のミトコンドリアDNAに由来するcfDNA(mt-cfDNA)のコピー数と年齢との相関を示す。
図13(B)は、被検者の血漿中の核DNAに由来するcfDNA(n-cfDNA)のコピー数と年齢との相関を示す。
【
図14】
図14(A)は、被検者の血漿中のミトコンドリアDNAに由来するcfDNA(mt-cfDNA)のコピー数と血中クレアチニン濃度との相関を示す。
図14(B)は、被検者の血漿中の核DNAに由来するcfDNA(n-cfDNA)のコピー数と血中クレアチニン濃度との相関を示す。
【
図15】血漿中のcfDNAのコピー数が動脈硬化を検出するためのバイオマーカーとしての精度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.動脈硬化の有無の検出の支援
1-1.動脈硬化の有無を検出するためのバイオマーカー、及び動脈硬化の有無の検出を支援するための方法
本発明のある実施形態は、動脈硬化の有無の検出を支援するための方法に関する。前記方法は、被検体から採取された血漿中の被検体の細胞に由来する遊離DNAの測定値を取得することを含む。被検体から採取された血漿中の被検体の細胞に由来する遊離DNAは、動脈硬化の有無を検出するためのバイオマーカーとして使用することができる。
【0011】
本明細書において、動脈硬化は、動脈の血管が硬くなって弾力性が失われた状態を意図する。動脈硬化は、血管(特に動脈)内腔の血管壁に、コレステロール等の脂質が沈着しプラークを形成すると同時に炎症が惹起され、それによって血管壁の組成が変化することにより血管の弾性が失われる。
【0012】
本明細書において、動脈硬化の有無は、例えば、頸動脈エコーにより頸動脈のプラークの厚さを測定し、その厚さに基づいて決定することができる。例えば、Handa N, et al. Stroke 1990;21:1567-1572に記載の方法によれば、頸動脈エコーにより、左右の頸動脈におけるプラークの厚さを測定し、プラークスコア(plarue score: PS)としてその厚さの総和を算出する。PSの分類は、PS≦1 mmを正常、1 mm<PS≦5 mmを軽度、5 mm<PS≦10 mmを中等度、10 mm<PSを重度とすることができる。また、PSが1mm以下である場合をプラーク無し、又は陰性と判定することができ、PSが1 mmを超える場合をプラーク有り、又は陽性と判定することができる。
【0013】
本明細書において、被検体は検査対象の個体である限り制限されない。被検体として、例えば、ヒト、イヌ、ネコ、マウス、ラット、ウサギ等を挙げることができる。被検体として好ましくはヒトである。
【0014】
被検体の細胞に由来する遊離DNAの測定値を取得するための検体は、被検体から採取された血液試料である。血液試料には、血漿、血清を含み得る。検体として好ましくは血漿である。
【0015】
血漿は、定法に従って採取することができる。血漿を採取するための採血は、抗凝固剤を使って採血をする限り制限されない。抗凝固剤として、Ethylenediaminetetraacetic acid (EDTA)塩、クエン酸ナトリウム、CPD液、ACD液、ヘパリン塩等を使用することができる。抗凝固剤として、好ましくはEDTA塩であり、より好ましくは、EDTAナトリウムである。
「被検体の細胞に由来する」とは、ウイルス、細菌、真菌等の病原体に由来するものは含まないことを意図する。
【0016】
遊離DNAは、被検体の細胞内DNAが何らかの理由により細胞外へ放出されたDNAを意図する。本明細書において、遊離DNAを、「Cell-free DNA:cfDNA」とも呼ぶ。遊離DNAは、ミトコンドリアに由来するDNA、及び細胞核(以下、単に「核」と呼ぶ場合がある)に由来するDNAを含み得る。遊離DNAとして好ましくは、ミトコンドリアに由来するDNAである。
【0017】
「遊離DNAの測定値を取得する」ことには、遊離DNAのコピー数又は、濃度を測定して測定値を取得することを含む。また、「遊離DNAの測定値を取得する」ことには、既に測定された遊離DNAのコピー数又は、濃度の測定値を、コンピュータが、ネットワークを介して、記憶媒体からの読込又は入力装置からの入力により取得することを含む。
【0018】
遊離DNAのコピー数又は、濃度の測定は、例えば、リアルタイム定量PCR、次世代シーケンサー又は第三世代シーケンサーによるDNAシーケンシング等により行うことができる。
【0019】
検体からの遊離DNAの回収方法は、公知である。例えば、NucleoSpin(商標) cfDNA XS(TAKARA, 日本)、QIAamp MinElute ccfDNA Kits(QIAGEN)、EZ1&2 ccfDNA Kit(QIAGEN)等の市販のキットを使用したカラム法により、遊離DNAを回収することができる。また、従来から行われているフェノール-クロロホルム-エタノール沈殿法により、遊離DNAを回収してもよい。
【0020】
遊離DNAのコピー数をリアルタイム定量PCRにより測定する場合を例示する。例えば、遊離DNAがミトコンドリアに由来するDNAである場合、ミトコンドリアDNA上にコードされている遺伝子を標的として増幅することができる。ミトコンドリアDNA上にコードされている遺伝子として、例えば、NADHデヒドロゲナーゼ サブユニット1、COX-III (Cytochrome C Subunit III)、 ヒトミトコンドリア遺伝子のnon-coding region、 mtDNA 16S等を挙げることができる。例えば、遊離DNAが細胞核に由来するDNAである場合、ゲノムDNA上にコードされている遺伝子を標的として増幅することができる。ゲノムDNA上にコードされている遺伝子として、β-グロビン、GAPDH、β-アクチン、beta-2-microglobulin、eukaryotic translation initiation factor 2C1 (EIF2C1)、 rhodopsin等を挙げることができる。
【0021】
リアルタイム定量PCRは、標的とする遺伝子の全部又は一部を含むDNAを増幅でき、かつ標的DNAを定量できる限り制限されない。リアルタイム定量PCRとしてTaqMan(商標)プローブ法、SYBR(商標) green I等の2本鎖DNA結合蛍光色素を使用するインターカレーター法を挙げることができる。リアルタイム定量PCRに使用される、リアルタイム定量PCRに必要なフォワードプライマーと、リバースプライマーと、TaqMan(商標)プローブ法に使用する蛍光色素と前記蛍光色素に対するクエンチャーを標識したプローブは、増幅対象の遺伝子に応じて適宜設定できる。また、PCR反応液の組成、反応条件も増幅対象の遺伝子に応じて適宜設定できる。
【0022】
例えば、ミトコンドリアに由来するNADH1遺伝子を検出するためのプライマーと、ゲノムDNAに由来するβ-globin遺伝子を検出するためのプライマーの配列は、以下のとおりである。「F」はフォワードプライマーを示し、「R」はリバースプライマーを示す。
NADH1_F:5’-ATACCCATGGCCAACCTCCT-3’ (配列番号1)
NADH1_R:5’-GGGCCTTTGCGTAGTTGTAT-3’ (配列番号2)
β-globin_F:5’-GTGCACCTGACTCCTGAGGAGA-3’ (配列番号3)
β-globin_R:5’-CCTTGATACCAACCTGCCCAG-3’ (配列番号4)
【0023】
リアルタイム定量PCRでは、PCR反応液に含まれる鋳型DNAのコピー数は、Ct (Threshold Cycle)値に反映される。リアルタイム定量PCR法は、標準曲線を使用して、鋳型DNAの増幅により取得されたCt値をコピー数に換算することができる。曲線は、増幅対象の標的ヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドを含み、あらかじめそのコピー数がわかっている複数の標準液であって、かつそれぞれ含有する、前記ポリヌクレオチドのコピー数が互いに異なる複数の標準液を使用して作成される。前記複数の標準液を、鋳型DNAとPCR試薬、及び同じPCR条件で増幅し得られる各標準液のCt値とコピー数から標準曲線が生成される。鋳型DNAの増幅により取得されたCt値をこの標準曲線に適用することにより、鋳型DNAに含まれる標的DNAのコピー数を決定する。標準曲線は、次の方法で生成できる。合成DNA(増幅対象の標的ヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド)の濃度を吸光度計で測定し、この吸光度に分子量とアボガドロ定数をかけることによりDNA濃度をコピー数に変換する。コピー数を決定した合成DNAを用いて検体と同時にPCRを行い、横軸をDNAのcopy数(log)、縦軸をCt値として標準曲線を生成する。
【0024】
さらに、標準曲線から得られたコピー数は、Rosa HS et al. FASEB J. 2020 Sep;34(9):12278-12288において報告されている以下の式を用いてサンプルの開始溶出量と最終溶出量を考慮して調整し、コピー数/血漿μLとして表すことができる。
【数1】
式中、
Aは、PCR反応に使用した増幅対象DNAのコピー数、すなわち、PCR反応によって得られたCt値と標準曲線から得られたコピー数を示す。
Bは、所定の容量(例えば、240μL)の血漿から抽出されたDNA溶液の容量(例えば、30μL)を示す。NucleoSpin(商標) cfDNA XS(TAKARA, 日本)、QIAamp MinElute ccfDNA Kits(QIAGEN)、EZ1&2 ccfDNA Kit(QIAGEN)等のカラム法でDNAを回収した場合には、Bは、カラムからの最終溶出量となる。フェノール-クロロホルム-エタノール沈殿法によりDNAを回収した場合には、Bは、エタノール沈殿後のDNAペレットを溶解したバッファー量となる。
Cは、PCRに使用した鋳型DNAを含むDNA溶出液、又はDNA溶解液の容量(例えば、2μL)を示す。
Dは、DNAを抽出するために使用した血漿の容量(例えば、240μL)を示す。
【0025】
遊離DNAのコピー数をDNAシーケンシングにより測定する場合、DNAのコピー数は、DNAシーケンシングにより得られた、検体に含まれるDNAの各フラグメントの配列を参照配列にマッピングし、その出現頻度を算出することに取得できる。
コピー数は、標的DNAの分子量から、濃度に換算することができる。
【0026】
遊離DNAの測定値は、対応する基準値と比較される。「対応する基準値」とは、遊離DNAがミトコンドリアに由来するDNAである場合、遊離ミトコンドリアDNAの測定値に基づいて決定された基準値であり、遊離DNAが細胞核に由来するDNAである場合、遊離核DNAの測定値に基づいて決定された基準値である。
【0027】
基準値は、プラーク陰性群と、プラーク陽性群を識別するための値である。基準値は、例えば、上述したPSに基づいてプラークが陰性であると判定された陰性対照群と、上述したPSに基づいてプラークが陽性であると判定された陽性対照群のそれぞれの検体を用いて取得された遊離DNAの測定値に基づいて決定される。基準値は、ROC(Receiver Operating Characteristic curve)曲線、判別分析法、モード法、Kittler法、3σ法、p‐tile法等により決定することができる。また、基準値として、感度、特異度、陰性的中率、陽性的中率、第一四分位数等を例示できる。
【0028】
前記方法において、前記測定値が、前記測定値に対応する基準値以上の場合に、被検体が動脈硬化を有することが示唆される。また、前記測定値が、前記測定値に対応する基準値よりも低い場合に、被検体が動脈硬化を有さないことが示唆される。
【0029】
1-2.動脈硬化の有無の検出を支援するための支援装置
本発明のある実施形態は、動脈硬化の有無の検出を支援するための支援装置10(以下、単に「支援装置10」とも呼ぶに関する。
図1を用いて支援装置10のハードウエア構成について説明する。
【0030】
支援装置10は、入力デバイス111と、出力デバイス112と、メディアドライブ113とに接続されていてもよい。また、支援装置10は分析装置90と有線又は無線のネットワークにより通信可能に接続され、動脈硬化の有無の検出を支援するための支援システム1000を構成してもよい。分析装置90は、リアルタイム定量PCR装置、次世代シーケンサー、第三世代シーケンサー等でありうる。
【0031】
支援装置10において、処理部101と、メモリ102と、ROM(read only memory)103と、記憶デバイス104と、通信インタフェース(I/F)105と、入力インタフェース(I/F)106と、出力インタフェース(I/F)107と、メディアインターフェース(I/F)108は、バス109によって互いにデータ通信可能に接続されている。メモリ102と記憶デバイス104とを合わせて、単に記憶部と呼ぶこともある。記憶部は、前記測定値や基準値を揮発性に、又は不揮発性に記憶する。
【0032】
処理部101は、支援装置10のCPUであり、演算装置ともいう。処理部101は、GPUと協働してもよい。処理部101が、記憶デバイス104又はROM103に記憶されているオペレーションシステム(OS)1041と協働して後述する疾患の情報の支援プログラム1042a(以下、単に「支援プログラム1042a」と呼ぶこともある)を実行し、取得されるデータの処理を行うことにより、コンピュータが支援装置10として機能する。
【0033】
ROM103は、処理部101により実行される支援プログラム1042a及びこれに用いるデータが記録されている。処理部101はMPU101としてもよい。ROM103は、支援装置10の起動時に、処理部101によって実行されるブートプログラムや支援装置10のハードウエアの動作に関連するプログラムや設定を記憶する。
【0034】
メモリ102は、ROM103及び記憶デバイス104に記録されている支援プログラム1042aの読み出しに用いられる。また、メモリ102は、処理部101がこれらの支援プログラム1042aを実行する時の作業領域として利用される。
【0035】
記憶デバイス104は、ハードディスク等によって構成される。記憶デバイス104には、オペレーティングシステム及びアプリケーションプログラムなどの、処理部101に実行させるための種々の支援プログラム1042a及び支援プログラム1042aの実行に用いる各種設定データが記憶されている。具体的には、基準値を格納した基準値データベース(DB)DB1を不揮発性に記憶する。
【0036】
通信I/F105は、処理部101の制御下で、分析装置90又は他の外部機器からのデータを受信し、必要に応じて支援装置10が保存又は生成する情報を、分析装置90又は外部に送信又は表示する。通信I/F105は、ネットワークを介して分析装置90又は他の外部機器と通信を行ってもよい。
【0037】
入力I/F106は、入力デバイス111から文字入力、クリック、音声入力等を受け付ける。受け付けた入力内容は、メモリ102又は記憶デバイス104に記憶される。
【0038】
入力デバイス111は、タッチパネル、キーボード、マウス、ペンタブレット、マイク等から構成され、支援装置10に文字入力又は音声入力を行う。入力デバイス111は、支援装置10の外部から接続されても、支援装置10と一体となっていてもよい。
【0039】
出力I/F107は、処理部101が生成した情報を出力デバイス112に出力する。出力I/F107は、処理部101が生成し、記憶デバイス104に記憶した情報を、出力デバイス112に出力する。
【0040】
出力デバイス112は、例えばディスプレイ、プリンター等で構成され、分析装置90から送信される測定結果及び支援装置10における各種操作ウインドウ、分析結果等を表示する。
【0041】
メディアI/F108は、メディアドライブ113に記憶された例えばアプリケーションソフト等を読み出す。読み出されたアプリケーションソフト等は、メモリ102又は記憶デバイス104に記憶される。また、メディアI/F108は、処理部101が生成した情報をメディアドライブ113に書き込む。メディアI/F108は、処理部101が生成し、記憶デバイス104に記憶した情報を、メディアドライブ113に書き込む。
【0042】
メディアドライブ113は、フレキシブルディスク、CD-ROM、又はDVD-ROM等で構成される。メディアドライブ113は、フレキシブルディスクドライブ、CD-ROMドライブ、又はDVD-ROMドライブ等によってメディアI/F108と接続される。メディアドライブ113には、コンピュータがオペレーションを実行するためのアプリケーションプログラム等が格納されていてもよい。
【0043】
処理部101は、支援装置10の制御に必要なアプリケーションソフトや各種設定をROM103又は記憶デバイス104からの読み出しにかえて、ネットワークを介して取得してもよい。前記アプリケーションプログラムがネットワーク上のサーバコンピュータの記憶デバイス内に格納されており、このサーバコンピュータに支援装置10がアクセスして、支援プログラム1042aをダウンロードし、これをROM103又は記憶デバイス104に記憶することも可能である。
【0044】
また、ROM103又は記憶デバイス104には、例えば米国マイクロソフト社が製造販売するWindows(登録商標)などのグラフィカルユーザインタフェース環境を提供するオペレーションシステムがインストールされている。第2の実施形態に係るアプリケーションプログラムは、前記オペレーティングシステム上で動作するものとする。すなわち、支援装置10は、パーソナルコンピュータ等であり得る。
【0045】
支援システム1000は一ヶ所に設置されている必要はなく、支援装置10と分析装置90が別所に配置され、これらがネットワークで接続されていてもよい。また、支援装置10は、入力デバイス111や出力デバイス112を省略した操作者を必要としない装置であってもよい。
【0046】
1-3.動脈硬化の有無の検出を支援するための支援プログラムの処理
図2(A)を用いて、動脈硬化の有無の検出を支援するための支援プログラム1042aによって実行される処理について説明する。
【0047】
支援装置10の処理部101は、オペレータが入力デバイス111から処理開始の入力を行うことにより、動脈硬化の有無の検出を支援するための支援処理を開始する。ステップS11において、処理部101は、分析装置90から、被検体から採取された血漿中の被検体の細胞に由来する遊離DNAの測定値を取得する。被検体から採取された血漿中の被検体の細胞に由来する遊離DNAの測定値を取得することの詳細な内容は、上記1-1.において述べた内容と同じであるから、上記1-1.の説明をここに援用する。
【0048】
次に、処理部101は、ステップS12において記憶デバイス104に格納されている基準値データベースDB1を参照し、前記測定値に対応する基準値と、前記測定値を比較する。ステップS12において、測定値が基準値以上である場合(「YES」の場合)、処理部101は、ステップS13に進み、被検体が動脈硬化を有することを示唆するラベルを出力する。また、ステップS12において、測定値が基準値よりも低い場合(「NO)の場合、処理部101は、ステップS14に進み、被検体が動脈硬化を有さないことを示唆するラベルを出力する。あるいは、ステップS12において、測定値が基準値よりも低い場合(「NO)の場合、処理部101は、ステップS14に進まずに処理を終了してもよい。
【0049】
被検体が動脈硬化を有することを示唆するラベルは、×、*、感嘆符等のマークであってもよい。また、「有り」、「リスク有り」等のテキストであってもよい。被検体が動脈硬化を有さないことを示唆するラベルは、〇等のマークであってもよい。また、「無し」、「リスク無し」等のテキストであってもよい。
基準値に関する詳細な内容は、上記1-1.において述べた内容と同じであるから、上記1-1.の説明をここに援用する。
【0050】
2.虚血性心血管疾患の予備群に属する被検体の検出の支援
2-1.虚血性心血管疾患の予備群に属する被検体を検出するためのバイオマーカー、及び虚血性心血管疾患の予備群に属する被検体の検出を支援するための方法
本発明のある実施形態は、虚血性心血管疾患の予備群に属する被検体の検出を支援するための方法に関する。前記方法は、被検体から採取された血漿中の被検体の細胞に由来する遊離DNAの測定値を取得することを含む。被検体から採取された血漿中の被検体の細胞に由来する遊離DNAは、虚血性心血管疾患の予備群に属する被検体を検出するためのバイオマーカーとして使用することができる。
【0051】
ここで、被検体から採取された血漿中の被検体の細胞に由来する遊離DNAの測定値を取得することの詳細な内容は、上記1-1.において述べた内容と同じであるから、1-1.の説明をここに援用する。
【0052】
前記測定値に対応する基準値以上の場合に、被検体が虚血性心血管疾患の予備群に属することが示唆される。また、前記測定値が、前記測定値に対応する基準値よりも低い場合に、被検体が虚血性心血管疾患の予備群に属さないことが示唆される。
【0053】
虚血性心血管疾患は、プラーク箇所に形成される血栓による血管閉塞、プラークによる血管閉塞、剥離した血栓、又はプラークによる塞栓による血管閉塞を含み得る。
また、虚血性心血管疾患の予備群には、未だ虚血性心血管疾患を発症したことがない被検体、一度虚血性心血管疾患を発症し治療後の経過観察中の被検体等を含み得る。
【0054】
2-2.虚血性心血管疾患の予備群に属する被検体の検出を支援するための支援装置
本発明のある実施形態は、虚血性心血管疾患の予備群に属する被検体の検出を支援するための支援装置20(以下、単に「支援装置20」とも呼ぶに関する。
図1を用いて支援装置20のハードウエア構成について説明する。
【0055】
支援装置20は、入力デバイス211と、出力デバイス212と、メディアドライブ213とに接続されていてもよい。また、支援装置20は分析装置90と有線又は無線のネットワークにより通信可能に接続され、動脈硬化の有無の検出を支援するための支援システム2000を構成してもよい。分析装置90は、リアルタイム定量PCR装置、次世代シーケンサー、第三世代シーケンサー等でありうる。
【0056】
支援装置20のハードウエア構成は、基本的には上記支援装置10と同様である。したがって、支援装置20においては、支援装置10に関する説明の処理部101を処理部201と、メモリ102をメモリ202と、ROM(read only memory)103をROM203と、記憶デバイス104を記憶デバイス204と、通信インタフェース(I/F)105を通信I/F205と、入力インタフェース(I/F)106を入力I/F206と、出力インタフェース(I/F)107を出力I/F207と、メディアインターフェース(I/F)108をメディアI/F208と、バス109をバス209と置き換えて、ここに援用する。メモリ202と記憶デバイス204とを合わせて、単に記憶部と呼ぶこともある。記憶部は、前記測定値や基準値を揮発性に、又は不揮発性に記憶する。
【0057】
また、記憶デバイス204は、OS1041、及び支援プログラム1042aに変えて、OS2041、及び虚血性心血管疾患の予備群に属する被検体の検出を支援するため支援プログラム2042a(以下、単に支援プログラム2042aとも呼ぶ)を格納する。
【0058】
支援システム2000は一ヶ所に設置されている必要はなく、支援装置20と分析装置90が別所に配置され、これらがネットワークで接続されていてもよい。また、支援装置20は、入力デバイス211や出力デバイス212を省略した操作者を必要としない装置であってもよい。
【0059】
2-3.虚血性心血管疾患の予備群に属する被検体の検出を支援するための支援プログラムの処理
図2(B)を用いて、虚血性心血管疾患の予備群に属する被検体の検出を支援するための支援プログラム2042aによって実行される処理について説明する。
【0060】
支援装置20の処理部201は、オペレータが入力デバイス211から処理開始の入力を行うことにより、虚血性心血管疾患の予備群に属する被検体の検出を支援するための支援処理を開始する。
【0061】
ステップS21において、処理部201は、分析装置90から、被検体から採取された血漿中の被検体の細胞に由来する遊離DNAの測定値を取得する。被検体から採取された血漿中の被検体の細胞に由来する遊離DNAの測定値を取得することの詳細な内容は、上記1-1.において述べた内容と同じであるから、上記1-1.の説明をここに援用する。
【0062】
次に、処理部201は、ステップS22において記憶デバイス204に格納されている基準値データベースDB1を参照し、前記測定値に対応する基準値と、前記測定値を比較する。ステップS22において、測定値が基準値以上である場合(「YES」の場合)、処理部201は、ステップS23に進み、被検体が虚血性心血管疾患の予備群に属することを示唆するラベルを出力する。また、ステップS22において、測定値が基準値よりも低い場合(「NO)の場合、処理部201は、ステップS24に進み、被検体が虚血性心血管疾患の予備群に属さないことを示唆するラベルを出力する。あるいは、ステップS22において、測定値が基準値よりも低い場合(「NO)の場合、処理部201は、ステップS24に進まずに処理を終了してもよい。
【0063】
被検体が虚血性心血管疾患の予備群に属することを示唆するラベルは、〇、*、感嘆符等のマークであってもよい。また、「属する」、「リスク有り」等のテキストであってもよい。被検体が動脈硬化を有さないことを示唆するラベルは、×等のマークであってもよい。また、「属さない」、「リスク無し」等のテキストであってもよい。
基準値に関する詳細な内容は、上記1-1.において述べた内容と同じであるから、上記1-1.の説明をここに援用する。
【0064】
3.被検体の動脈硬化の進行度の層別化
3-1.被検体の動脈硬化の進行度を層別化するためのバイオマーカー、及び被検体の動脈硬化の進行度の層別化を支援するための方法
本発明のある実施形態は、被検体の動脈硬化の進行度の層別化を支援するための方法に関する。前記方法は、被検体から採取された血漿中の被検体のミトコンドリアに由来する遊離DNAの測定値を取得することと、動脈硬化の進行度に応じて設定された複数の基準範囲から、前記測定値が属する基準範囲を検索することとを含む。被検体から採取された血漿中の被検体のミトコンドリアに由来する遊離DNAは、被検体の動脈硬化の進行度を層別化するためのバイオマーカーとして使用することができる。
【0065】
被検体から採取された血漿中の被検体のミトコンドリアに由来する遊離DNAの測定値を取得することの詳細な内容は、上記1-1.において述べた内容と同じであるから、1-1.の説明をここに援用する。
【0066】
測定値が属する基準範囲を検索することは、あらかじめ動脈硬化の進行度に応じて設定された複数の基準範囲それぞれに、被検体の測定値を照合することを意図する。例えば、動脈硬化の進行度を上記PSに基づいて分類する場合、基準範囲は、正常、軽度、中等度、重度の4つのカテゴリーが設定されることとなる。基準範囲は、正常に分類された対象者群、軽度に分類された対象者群、中等度に分類された対象者群、重度に分類された対象者群のそれぞれに属する対象者から採取された血漿中の被検体のミトコンドリアに由来する遊離DNAの測定値に基づいて設定される。基準範囲は、それぞれのカテゴリーにおいて取得された測定値の群に基づいて、例えば、ハザード比、信頼区間、オッズ比等から設定することができる。あるいは、それぞれのカテゴリーの測定値の群から算出した中央値と四分位範囲から基準範囲を決定してもよい。あるいは、それぞれのカテゴリーの測定値の群から算出された平均値と、標準偏差(SD)、分散(CV)等から基準範囲を設定してもよい。
【0067】
検索の結果、測定値が属する基準範囲が確定した場合、前記測定値が属する基準範囲に対応する動脈硬化の進行度が被検体の動脈硬化の進行度であると示唆される。
【0068】
3-2.被検体の動脈硬化の進行度の層別化を支援するための層別化装置
本発明のある実施形態は、被検体の動脈硬化の進行度の層別化を支援するための層別化装置30(以下、単に「層別化装置30」とも呼ぶに関する。
図3を用いて層別化装置30のハードウエア構成について説明する。
【0069】
層別化装置30は、入力デバイス311と、出力デバイス312と、メディアドライブ313とに接続されていてもよい。また、層別化装置30は分析装置90と有線又は無線のネットワークにより通信可能に接続され動脈硬化の進行度を層別化するための層別化システム3000を構成してもよい。分析装置90は、リアルタイム定量PCR装置、次世代シーケンサー、第三世代シーケンサー等でありうる。
【0070】
層別化装置30のハードウエア構成は、基本的には上記支援装置10と同様である。したがって、層別化装置30においては、支援装置10に関する説明の処理部101を処理部301と、メモリ102をメモリ302と、ROM(read only memory)103をROM303と、記憶デバイス104を記憶デバイス304と、通信インタフェース(I/F)105を通信I/F305と、入力インタフェース(I/F)106を入力I/F306と、出力インタフェース(I/F)107を出力I/F307と、メディアインターフェース(I/F)108をメディアI/F308と、バス109をバス309と置き換えて、ここに援用する。メモリ302と記憶デバイス304とを合わせて、単に記憶部と呼ぶこともある。記憶部は、前記測定値や基準値を揮発性に、又は不揮発性に記憶する。
【0071】
また、記憶デバイス304は、OS1041、及び支援プログラム1042aに変えて、OS3041、及び動脈硬化の進行度を層別化するための層別化プログラム3042a(以下、単に層別化プログラム3042aとも呼ぶ)を格納する。また、基準値データベースDB1に変えて、基準範囲データベース(DB)DB2を格納する。
【0072】
層別化システム3000は一ヶ所に設置されている必要はなく、支援装置30と分析装置90が別所に配置され、これらがネットワークで接続されていてもよい。また、層別化装置30は、入力デバイス311や出力デバイス312を省略した操作者を必要としない装置であってもよい。
【0073】
3-3.被検体の動脈硬化の進行度の層別化を支援するための層別化プログラムの処理
図3を用いて、被検体の動脈硬化の進行度の層別化を支援するための層別化プログラム3042aによって実行される処理ついて説明する。
【0074】
層別化装置30の処理部301は、オペレータが入力デバイス311から処理開始の入力を行うことにより、動脈硬化の進行度の層別化を支援するための層別化処理を開始する。
【0075】
処理部301は、ステップS31において、分析装置90から、被検体から採取された血漿中の被検体のミトコンドリアに由来する遊離DNAの測定値を取得する。被検体から採取された血漿中の被検体の細胞に由来する遊離DNAの測定値を取得することの詳細な内容は、上記1-1.において述べた内容と同じであるから、上記1-1.の説明をここに援用する。
【0076】
次に、処理部301は、ステップS32において、動脈硬化の進行度に応じて設定された複数の基準範囲から、前記測定値が属する基準範囲を検索する。前記複数の基準範囲は、基準範囲データベースDB2に、動脈硬化の進行度を示すラベルと紐付けられて格納されている。
【0077】
次に、処理部301は、ステップS33において、前記測定値が属する基準範囲に対応する動脈硬化の進行度に紐付けられたラベルを動脈硬化の進行度を示すラベルとして出力する。動脈硬化の進行度を示すラベルは、「正常」、「軽度」、「中等度」、「重度」等の日本語、英語等のテキストであってもよい。また、動脈硬化の進行度に紐付けられたラベルと出力されるラベルは、必ずしも同じでなくてもよく、同等の臨床的な意味を表していればよい。さらに、測定値が「正常」の基準範囲に属する場合には、ステップS33を行わず、処理を終了してもよい。
【0078】
4.プログラムを記憶した記憶媒体
本発明のある実施形態は、支援プログラム1042a,2042a及び層別化プログラム3042aを記憶した、メディアドライブ等のプログラム製品に関する。すなわち、支援プログラム1042a,2042a及び層別化プログラム3042aは、ハードディスク、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、光ディスク等のメディアドライブに格納され得る。また、メディアドライブはサーバ装置等のコンピュータであってもよい。メディアドライブへのプログラムの記録形式は、各装置がプログラムを読み取り可能である限り制限されない。前記メディアドライブへの記録は、不揮発性であることが好ましい。
【0079】
5.検査キット、及び検査試薬
本発明のある実施形態は、上記1.に記載の動脈硬化の有無の検出を支援するために、上記2.に記載の虚血性心血管疾患の予備群に属する被検体の検出を支援するために、上記3.に記載の被検体の動脈硬化の進行度を層別化するために使用される検査キットに関する。検査キットは、リアルタイム定量PCRにより、被検体から採取された血漿中の被検体の細胞に由来する遊離DNAの測定値を取得するためのキットである。
【0080】
リアルタイム定量PCRがインターカレーター法で行われる場合、前記キットは、リアルタイム定量PCRに必要なフォワードプライマーと、リバースプライマーと、PCR反応液を含む。PCR反応液は、SYBR Green I等のインターカレーターと、dNTPと、マグネシウムイオンと、耐熱性ポリメラーゼとを含む。フォワードプライマーと、リバースプライマーはあらかじめ混合されていてもよい。また、フォワードプライマーと、リバースプライマーと、PCR反応液は、あらかじめ混合されて検査試薬として提供されてもよい。
【0081】
リアルタイム定量PCRがTaqMan(商標)プローブ法で行われる場合、前記キットは、リアルタイム定量PCRに必要なフォワードプライマーと、リバースプライマーと、蛍光色素と前記蛍光色素に対するクエンチャーを標識したプローブと、PCR反応液を含む。前記プローブは、前記フォワードプライマーと、リバースプライマーにより増幅された産物にハイブリダイズする。PCR反応液は、dNTPと、マグネシウムイオンと、耐熱性ポリメラーゼとを含む。フォワードプライマーと、リバースプライマーと、蛍光色素と前記蛍光色素に対するクエンチャーを標識したプローブとはあらかじめ混合されていてもよい。さらに、フォワードプライマーと、リバースプライマーと、蛍光色素と前記蛍光色素に対するクエンチャーを標識したプローブと、PCR反応液とはあらかじめ混合されて検査試薬として提供されてもよい。
【0082】
なお、PCR反応液は、グリセロール、βメルカプトエタノール、ジチオスレイトール、緩衝液、EDTA等を含んでいてもよい。
遊離DNAを検出するための増幅対象の遺伝子の説明は、ここに援用される。
さらに、上記キットは、血漿からDNAを抽出するためのDNA抽出キットを含んでいてもよい。
【0083】
6.予防方法、及び治療方法
本発明のある実施形態は、動脈硬化の進行を予防するための方法に関する。動脈硬化の進行を予防するための方法は、上記1.において動脈硬化が検出された被検体、又は上記3において、動脈硬化の進行度が軽度以上であった被検体に適用され得る。
【0084】
また、本発明のある実施形態は、虚血性心血管疾患を予防するための方法に関する。虚血性心血管疾患を予防するための方法は、上記2.において、虚血性心血管疾患の予備群に属すると判定された被検体に適用され得る。
【0085】
前記動脈硬化の進行を予防するための方法、及び虚血性心血管疾患を予防するための方法は、公知である。両方法とも、高血圧を改善するための薬剤、糖尿病を改善するための薬剤、高脂血症を改善するための薬剤等の投与;禁煙、食事療法等の生活指導等を適用することができる。例えば、高血圧を改善するための薬剤として、例えば、βブロッカー(カルベジロール、ビソプロロール、メトプロロール、アテノロール等)、カルシウム拮抗薬(ニフェジピン、アムロジピンベシル酸塩等)、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ロサルタンカリウム、バルサルタン、イルベサルタン、カンデサルタンシレキセチル、テルミサルタン、オルメサルタンメドキソミル、アジルサルタン等)、降圧利尿薬(トリクロルメチアジド、ヒドロクロロチアジド、インダパミド等)等を挙げるこことができる。糖尿病を改善するための薬剤として、ビグアナイド薬(メトホルミン、ブホルミン等)、DPP-4阻害薬(シタグリプチン、ビルダグリプチン、アログリプチン、リナグリプチン、テネリグリプチン、アナグリプチン、サキサグリプチン、トレラグリプチン、オマリグリプチン等)、スルホニル尿素薬(アセトヘキサミド、グリクロピラミド、クロルプロパミド、グリベンクラミド、グリクラジド、グリメピリド等)、SGLT2阻害薬(イプラグリフロジン、ダパグリフロジン、ルセオグリフロジン、トホグリフロジン、カナグリフロジン、エンパグリフロジン等)、インスリン等を挙げることができる。高脂血症を改善するための薬剤として、スタチン、フィブラート、小腸コレステロールトランスポーター阻害薬(エゼチミブ等)等を挙げることができる。各薬剤の投与量は、各薬剤の添付文書にしたがう
【0086】
また、本発明のある実施形態は、動脈硬化を改善するための治療方法に関する。前記治療方法は、上記1.において動脈硬化が検出された被検体、上記2.において、虚血性心血管疾患の予備群に属すると判定された被検体、又は上記3において、動脈硬化の進行度が軽度以上であった被検体に対して適用される。前記治療方法では、動脈硬化プラークを退縮させる薬剤、例えばスタチンを、前記被検体に投与する。
【0087】
さらに、上記1.において動脈硬化が検出された被検体、上記2.において、虚血性心血管疾患の予備群に属すると判定された被検体、又は上記3において、動脈硬化の進行度が軽度以上であった被検体に対して、血管造影を行い、動脈硬化の重症度を判定してもよい。血管造影により、プラークにより動脈、特に冠動脈や頚動脈、下肢の動脈が狭窄している、若しくは閉塞性していることが確認された被検体には、カテーテルによりバルーンやステントを患部に挿入し、狭窄部を拡張させる、若しくは血流を再灌流させる等の処置を行ってもよい。さらに、バルーンやステントによる処置で改善が見られない被検体に対しては、患部の血管について血管置換術、血管再建術等の外科的手術を適用してもよい。
【実施例0088】
実施例を示して本発明についてより詳細に説明する。しかし、本発明は実施例に限定して解釈されるものではない。また、本実施例における患者等の検体を用いた実験は、国立大学法人広島大学倫理委員会の承認を得て行った。
【0089】
1.Cigarette Smoke ExtractsによるDNA損傷の検証
human umbilical vein endothelial cells (HUVECs)をCigarette Smoke Extracts(CSE)で処理し、非特許文献1に記載の方法に従って、二本鎖DNAの切断(double-strand breaks:DSBs)をphospho-histone H2AX (γ-H2AX)の免疫染色により検出した。また、酸化的DNA損傷を、8-オキソ-2’-デオキシグアノシン(8-oxo-dG)の免疫染色により検出した。CSEはタバコ8本分の煙を15mlのPBSに溶かし、培養液に、培養液の1/200容となるように添加した。データは平均値±SEMで表す。有意差は、Student's t-test又はMann-Whitney U-testにより評価した。
【0090】
結果を
図5に示す。
図5(A)は、γ-H2AXの免疫染色の結果である。
図5(A)の(a)は、CSEを添加する前のコントロール(ctl)の核におけるγ-H2AXの染色画像である。γ-H2AXのドット状のフォーカス(foci)は認められなかった。
図5(A)の(b)は、CSEの処理を開始後72時間後の細胞におけるγ-H2AXの染色画像である。γ-H2AXのfociが核に確認された。
図5(A)の(c)は、1細胞あたりのγ-H2AXのfociの数を複数の細胞についてカウントし算出した平均値及び標準偏差を経時的に示したグラフである。1細胞あたりのγ-H2AXのfociの数は経時的に増加し、CSE処理を開始してから72時間後には、コントロールに対して有意差が認められた(p<0.05)。
【0091】
図5(B)は、8-oxo-dGの免疫染色の結果である。
図5(B)の(a)は、CSEを添加する前のコントロール(ctl)の細胞の8-oxo-dGの染色画像である。8-oxo-dGのドット状のフォーカス(foci)は認められなかった。
図5(B)の(b)は、CSEの処理を開始後72時間の細胞における8-oxo-dGの染色画像である。8-oxo-dGのfociが核、及び細胞質に確認された。
図5(B)の(c)は、核における8-oxo-dGの蛍光強度を経時的に示したグラフである。
図5(B)の(d)は、細胞質における8-oxo-dGの蛍光強度を経時的に示したグラフである。Ctlの蛍光強度を1とし、蛍光強度の変化を相対値で示している。その結果、核における8-oxo-dGの蛍光強度は時間と共に増加することが示された。さらに、核以上に、細胞質における8-oxo-dGの蛍光強度が経時的に有意に増加した。
【0092】
図5(C)は、CSE添加後24時間の1細胞における、DNA染色(DAPI)、ミトコンドリア(Mitotracker)、8-oxo-dG免疫染色(8-oxo-dG)、及びこれら3つの染色のmerge画像を示す。8-oxo-dGの蛍光シグナルは、核のみでなく、ミトコンドリアにも検出された。
【0093】
これらの結果は、CSEによるDNA損傷において、DSBsは核に有意に起こるが、酸化的DNA損傷は、核だけでなく、ミトコンドリアDNAにも起こっていることを示していると考えられた。
【0094】
2.細胞質に蓄積しているDNAの同定
細胞に蓄積しているDNAが核に由来するDNAであるか、ミトコンドリアに由来するDNAであるかを同定でするため、以下の実験を行った。
【0095】
(1)細胞質DNAの単離と定量
細胞質DNAの単離と定量は、以下の方法で行った。0.05 w/v% Trypsin-0.53 mmol/l EDTA・4Na溶液を用いてHUVECを採取し、2等分し1000 rpmで3分間遠心分離し、細胞をペレット化させた。一方を200μlの50μmol/L NaOHに再懸濁し、30分間煮沸してDNAを可溶化させた。この上清には全細胞のDNAが含まれている。20μlの1 mol/L Tris-HCl pH 8を加えてpHを中和し、これらの抽出物を細胞質DNAの標準化コントロールとした。もう一方は、150 mmol/L NaCl、50 mmol/L HEPES pH 7.4、及び25 μg/mLジギトニン(TCI、JAPN)を含む200 μlバッファーに再懸濁させた。ホモジネートを10分間インキュベートした後、17,000 gで10分間遠心分離し、上清を新しいチューブに移した。上清は、核、ミトコンドリア、小胞体を含まない細胞質分画となる。次に、両方の抽出液からQIAQuick Nucleotide Removal Columns (QIAGEN)を用いてDNAを単離した。核DNA(nDNA)プライマー(β-グロビン)又はミトコンドリアDNA(mtDNA )プライマー(NADH Dehydrogenase Subunit 1、以下NADH1ともいう)を用いて全細胞抽出物と細胞質画分の両方で定量PCRを行った。
【0096】
リアルタイム定量PCRは、インターカレーター法の1つである、SYBR Green法を使用し行った。増幅試薬として、THUNDERBIRD(商標)SYBR(商標) qPCR Mix (商標)(TOYOBOCat.No.:QPS-201)を使用した。試薬の組成はmanufacture protocol通りとした。
プライマーは、以下のとおりである。
NADH1_F:5’-ATACCCATGGCCAACCTCCT-3’ (配列番号1)
NADH1_R:5’-GGGCCTTTGCGTAGTTGTAT-3’ (配列番号2)
β-globin_F:5’-GTGCACCTGACTCCTGAGGAGA-3’ (配列番号3)
β-globin_R:5’-CCTTGATACCAACCTGCCCAG-3’ (配列番号4)
増幅条件は、以下のとおりである。
i. First denature: 95℃ 60sec
ii. Denature: 95℃ 5sec
iii. Anneling 60℃ 10sec
iv. Extension 72℃ 30sec
ii.~ iv.を40 cycle
全細胞抽出物で得られたCt値は細胞質画分から得られたCt値の正規化コントロールとした。
データは平均値±SEMで表す。有意差は、Student's t-test又はMann-Whitney U-testにより評価した。
【0097】
(2)結果
図6に結果を示す。
図6(A)は、CSE処理開始後1日目、3日目、7日目の細胞質におけるミトコンドリアDNA(Cytosolic mtDNA)由来のDNAの増加量を示す。増加量は、CSE処理開始前のコントロール(Ctl)の細胞質におけるミトコンドリアDNA量に対する相対値で示す。細胞質には、CSE処理開始後1日目、3日目、7日目において、ミトコンドリアDNAが蓄積していることが示された。
【0098】
図6(B)は、CSE処理開始後1日目、3日目、7日目の細胞質における核DNA(Cytosolic nDNA)のDNAの増加量を示す。増加量は、CSE処理開始前のコントロール(Ctl)の細胞質における核DNA量に対する相対値で示す。細胞質には、CSE処理開始後1日目、3日目において、核DNAが蓄積していることが示された。一方、処理後7日目には、細胞質における核DNAの蓄積量は減少していた。
これらの結果から、CSE処理により、処理開始後前半では、細胞質にミトコンドリア由来DNAと、核由来のDNAの両方が蓄積していることが示された。
【0099】
3.培養細胞を用いた遊離DNAの測定
一般的に細胞質に蓄積したDNAは、その一部が細胞外へ放出されることが報告されている。このように細胞外へ放出されたDNAは、遊離DNA(Cell-free DNA:cfDNA)と呼ばれる。上記2.において示したように、細胞質には、核由来のDNAとミトコンドリア由来のDNAが蓄積していることから、これらのDNAの一部も細胞外へ放出されている可能性が考えられた。このことを検証するため、以下の実験を行った。
【0100】
(1)培養上清中のcfDNAの測定
HUVECをCSEとともに2日間培養した後、培養液をマイクロチューブに移し、遠心分離(1000×g、10分)して細胞を除去した。上清の培養液からのDNA分離には、NucleoSpin cfDNA XS(TAKARA, JAPAN)を用い、製造元のガイドラインに従って、開始サンプル量720 μL、溶出量20μLで行った。また、上記の方法で全細胞DNAを抽出した。培養液中のcfDNAと全細胞DNAの両方について、nDNAプライマー(β-グロビン)とmtDNAプライマー(NADH1)を用いて定量PCRを行い、全細胞DNAで得られたCt値は培養液中のcfDNAから得られたCt値の正規化コントロールとした。
【0101】
(2)結果
結果を
図7に示す。
図7(A)は、HUVEC細胞の培養上清中のミトコンドリアDNA(mtDNA)の増加量を示す。
図7(B)は、
図7(A)と同じ培養上清中の核DNA(nDNA)の増加量を示す。結果は、いずれもCSE処理前のコントロール(Ctl)の培養上清におけるミトコンドリアDNAのコピー数を1とした場合の相対量で示した。CSE処理を行ったHUVEC細胞の培養上清において、ミトコンドリアDNA量及び核DNA量の増加が認められた。このことからCSE処理により、ミトコンドリアDNA及び核DNAがcfDNAとして培養上清中に放出されていることが示された。
【0102】
4.血漿を用いた遊離DNAの測定
次に、in vivoでも実際に喫煙の影響によりcfDNAが放出されていることを検証するため、喫煙者と非喫煙者の血漿を用いてcfDNAの測定を行った。
【0103】
(1)被検者の情報
被検者の内訳を
図8(A)に示す。連続データは中央値及び、四分位範囲で表す。カテゴリーデータは、数と百分率で表す。 連続データの有意差検定には Mann-Whitney U testを適用し、カテゴリーデータの有意差検定にはChi-square test を適用した。
【0104】
(2)血漿中のcfDNAの定量
末梢血はEDTA・2Naチューブに採取し、3000rpm、20℃で10分間遠心分離して血漿を分離し、直ちに-20℃で保存した。血漿画分からのDNA分離には、NucleoSpin cfDNA XS(TAKARA、日本)を使用し、製造元のプロトコールに従って、開始サンプル量240μL、溶出量30μLで行った。核由来cell free DNA(n-cfDNA)とミトコンドリア由来cell free DNA(mt-cfDNA)のコピー数は、nDNAプライマー(β-グロビン)とmtDNAプライマー(NADH1)とを用いてリアルタイムqPCRによる絶対定量で測定した。絶対定量には、既知のミトコンドリア及び核DNAアンプリコン(Integrated DNA Technologies, USA)からなる5点標準曲線を各プレートに重複して適用した。
標準曲線から得られたコピー数は、以下の式を用いてサンプルの開始溶出量と最終溶出量を考慮して調整し、コピー数/血漿μLとして表した。
【数2】
式中、
Aは、PCR反応に使用した増幅対象DNAのコピー数、すなわち、PCR反応によって得られたCt値と標準曲線から得られたコピー数を示す。
Bは、所定の容量(240μL)の血漿から抽出されたDNA溶液の容量(例えば、30μL)を示す。
Cは、PCRに使用した鋳型DNAを含むDNA溶出液の容量(2μL)を示す。
Dは、DNAを抽出するために使用した血漿の所定の容量(240μL)を示す。
有意差検定には Mann-Whitney U testを適用した。
【0105】
(3)結果
結果を
図8(B)及び(C)に示す。
図8(B)は、被検者の血漿中のミトコンドリアDNAに由来するcfDNAのコピー数の分布を示す。
図8(C)は、被検者の血漿中の核DNAに由来するcfDNAのコピー数の分布を示す。ミトコンドリアDNA及び核DNAとも血漿から検出することができた。また、非喫煙者群と比較して、喫煙者群では、ミトコンドリアDNA及び核DNAとも有意に血漿中のコピー数が高かった。
【0106】
これらの結果から、in vivoにおいても、喫煙者群においては、細胞からミトコンドリアDNA及び核DNAがcfDNAとして放出されていることが示された。
【0107】
5.動脈硬化患者から採取した血漿中cfDNAの測定
(1)被検者に関する情報
被検者は、健診受診者及び生活習慣病で通院中の83名とした。被検者に関する情報を
図9に示す。
【0108】
動脈硬化の診断は、頸動脈エコーで行った。動脈硬化の進行度は、Handa N, et al. Stroke 1990;21:1567-1572を参考に左右の頸動脈におけるプラークの厚さの総和をプラークスコアとして分類した。具体的には、プラークスコア(PS)の分類は、PS≦1 mmをNormal、1 mm<PS≦5 mmをMild、5 mm<PS≦10 mmをModerate、10 mm<PSをSevereとした。また、PSが1mm以下である場合をプラーク陰性(-)、PSが1 mmを超える場合をプラーク陽性(+)とした。連続データは中央値及び、四分位範囲で表す。カテゴリーデータは、数と百分率で表す。連続データの有意差検定には、Steel-Dwass testを適用し、カテゴリーデータの有意差検定にはChi-square test を適用した。図中、*はp<0.05 vs normalを示し、†はp<0.05 vs mildを示す。動脈硬化がmoderate、 severeである群は有意に高齢で、severe群ではCrが有意に高値であった。他の各項目について、有意差は認められなかった。
【0109】
(2)血漿中のcfDNAの定量
上記4.(2)に示した方法に従って定量した。
【0110】
(3)結果
図10に、プラーク(-)の被検者群(Normal)と、プラーク(+)の被検者群(Plaque)群の単位容量あたりの血漿中cfDNAのコピー数の分布を示す。
図10(A)は、被検者の血漿中のミトコンドリアDNAに由来するcfDNA(mt-cfDNA)のコピー数の分布を示す。
図10(B)は、被検者の血漿中の核DNAに由来するcfDNA(n-cfDNA)のコピー数の分布を示す。また、図中●は喫煙者を示し、〇は非喫煙者を示す。プラーク(-)である健常受診者群と、プラーク(+)である被検者群を比較すると、mt-cfDNA及びn-cfDNA共に、プラーク(+)である被検者群で高値を示した(mt-cfDNA:**p<0.01 Normal vs Plaque;n-cfDNA:*p<0.05 Normal vs Plaque)。ここで、今回の被検者群には喫煙者も含まれている。しかし、本検討では、プラーク(+)の被検者群において、非喫煙者も喫煙者も、似た分布を示していた。したがって、血漿中のcfDNAは、喫煙者、非喫煙者関係なく、血管内皮のプラークの検出に使用可能なバイオマーカーであると考えられた。参考までに、プラーク(-)の被検者群とプラーク(+)の被検者群を識別するカットオフ値は、mt-cfDNAが69.28 copies/μl、n-cfDNAが15.3369.28 copies/μlであった。
【0111】
なお、上記4.(3)の検討では、若い世代の血漿を用いているため、喫煙の影響が比較的現れやすかったと解される。しかし、本検討の被検者群は、年齢が高いため、喫煙の影響よりもプラークの有無の方が、血漿中のcfDNAのコピー数に影響を及ぼしたと考えられる。したがって、以下の検討では、喫煙の有無は考慮せずに検討する。
【0112】
次に被検者群を動脈硬化の重症度に応じて、プラーク(-)の被検者群(Normal)、軽症群(Mild)、中等度群(Moderate)、重症群(Severe)に分けて、血漿中cfDNAのコピー数の分布を比較した。
図11にその結果を示す。
図11(A)は、被検者の血漿中のミトコンドリアDNAに由来するcfDNA(mt-cfDNA)のコピー数の分布を示す。
図11(B)は、被検者の血漿中の核DNAに由来するcfDNA(n-cfDNA)のコピー数の分布を示す。mt-cfDNAのコピー数は、動脈硬化の重症度に応じて高くなる傾向を示した(図中*はp<0.05 vs normalを示し、**はp<0.01 vs normalを示す)。一方、n-cfDNAのコピー数には、有意な差は認められなかった。
【0113】
これらの結果を、さらに検証するため、各被検者のプラークの厚さと、血漿中のmt-cfDNAのコピー数又はn-cfDNAのコピー数との相関をピアソン相関解析により評価した。その結果を
図12に示す。
図12(A)は、被検者の血漿中のミトコンドリアDNAに由来するcfDNA(mt-cfDNA)のコピー数とプラークの厚さとの相関を示す。
図12(B)は、被検者の血漿中の核DNAに由来するcfDNA(n-cfDNA)のコピー数とプラークの厚さとの相関を示す。血漿中のmt-cfDNAのコピー数とプラークの厚さとの間では、r=0.350、p=0.001となり相関が認められた。一方、血漿中のn-cfDNAのコピー数とプラークの厚さとの間では、r=0.177、p=0.109となり相関は認められなかった。
【0114】
さらに、
図9において有意差が認められていた臨床データ(年齢、及び血中クレアチニン濃度)と、血漿中のmt-cfDNAのコピー数又はn-cfDNAのコピー数との相関をピアソン相関解析により評価した。年齢とcfDNAのコピー数との相関を
図13に示す。
図13(A)は、被検者の血漿中のミトコンドリアDNAに由来するcfDNA(mt-cfDNA)のコピー数と年齢との相関を示す。
図13(B)は、被検者の血漿中の核DNAに由来するcfDNA(n-cfDNA)のコピー数と年齢との相関を示す。血漿中のmt-cfDNAのコピー数又はn-cfDNAのコピー数と年齢との間では、それぞれ、r=0.185及びp=0.093、r=0.092及びp=0.408となり相関は認められなかった。血中クレアチニン濃度とcfDNAのコピー数との相関を
図14に示す。
図14(A)は、被検者の血漿中のミトコンドリアDNAに由来するcfDNA(mt-cfDNA)のコピー数と血中クレアチニン濃度との相関を示す。
図14(B)は、被検者の血漿中の核DNAに由来するcfDNA(n-cfDNA)のコピー数と血中クレアチニン濃度との相関を示す。血漿中のmt-cfDNAのコピー数又はn-cfDNAのコピー数と年齢との間では、それぞれ、r=0.197及びp=0.075、r=0.083及びp=0.455となり相関は認められなかった。
【0115】
以上の結果から、血漿中のmt-cfDNAは、各被検者のプラークの厚さのみと相関していることが示された。したがって、血漿中のmt-cfDNAのコピー数は、動脈硬化の重症度を層別化するためのバイオマーカーとして使用できることが示された。
【0116】
5.ROC解析
血漿中のcfDNAのコピー数が動脈硬化を検出するためのバイオマーカーとしての精度を検証するため、receiver operating characteristic curve(受信者動作特性曲線:ROC曲線)による評価を行った。ROC曲線を
図15に示す。図中、符号aはmt-cfDNAのコピー数のROC曲線を示し、符号bはn-cfDNAのコピー数のROC曲線を示す。mt-cfDNAのコピー数のROC曲線におけるAUC値は0.78であり、n-cfDNAのコピー数のROC曲線におけるAUC値は0.68であった。このことから、mt-cfDNAのコピー数は動脈硬化のバイオマーカーとして特に好ましいことが示された。