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特開2023-127495セラミックス積層体及びセラミックス積層体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023127495
(43)【公開日】2023-09-13
(54)【発明の名称】セラミックス積層体及びセラミックス積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 18/00 20060101AFI20230906BHJP
   B32B 7/022 20190101ALI20230906BHJP
   C23C 16/42 20060101ALI20230906BHJP
   C04B 41/89 20060101ALN20230906BHJP
【FI】
B32B18/00 Z
B32B7/022
B32B18/00 A
C23C16/42
C04B41/89 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022031325
(22)【出願日】2022-03-01
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.発行者 公益社団法人 日本セラミックス協会 発行日 令和3年 8月16日 刊行物 日本セラミックス協会 第34回秋季シンポジウム 講演予稿集 2.開催日 令和4年1月27日 集会名 SATテクノロジー・ショーケース2022
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、文部科学省、国家課題対応型研究開発推進事業、原子力システム研究開発事業、新発想型、課題名「次世代フルセラミックス炉心設計を見据えた多重防食技術の基礎基盤研究」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】近藤 創介
(72)【発明者】
【氏名】且井 宏和
(72)【発明者】
【氏名】薄川 隆太郎
(72)【発明者】
【氏名】下田 一哉
【テーマコード(参考)】
4F100
4K030
【Fターム(参考)】
4F100AA16A
4F100AA16B
4F100AA19C
4F100AA19D
4F100AA20C
4F100AD03C
4F100AD03D
4F100AD08A
4F100AD08B
4F100AT00A
4F100BA04
4F100BA07
4F100BA10D
4F100EH66B
4F100EJ42
4F100EJ48
4F100EJ48A
4F100EJ52
4F100GB07
4F100JB02
4F100JK07B
4F100JK12
4F100JL11
4K030AA11
4K030AA14
4K030AA16
4K030AA17
4K030AA18
4K030BA36
4K030BA37
4K030BA43
4K030BB12
4K030CA05
4K030CA17
4K030FA07
4K030GA02
4K030JA01
4K030JA09
4K030JA10
4K030JA11
4K030JA16
(57)【要約】
【課題】先行技術は、過酷な環境下では、熱膨張差によって、金属又は金属化合物の被覆が炭化ケイ素の表面から剥離したり、割れが発生したりすることで、防食機能を充分に発揮できないおそれがある。そこで、本発明は、防食性を確実に発揮することができるセラミックス積層体及びセラミックス積層体の製造方法を目的とする。
【解決手段】基板10上に炭化ケイ素層20と、中間層30と、被覆層40とがこの順で積層され、炭化ケイ素層20のヤング率が300GPa以上である、セラミックス積層体1。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に炭化ケイ素層と、中間層と、被覆層とがこの順で積層され、
前記炭化ケイ素層のヤング率が300GPa以上である、セラミックス積層体。
【請求項2】
前記被覆層を構成する材料がアルミニウムの酸化物である、請求項1に記載のセラミックス積層体。
【請求項3】
前記中間層を構成する材料がケイ素とアルミニウムとを含む酸化物である、請求項1又は2に記載のセラミックス積層体。
【請求項4】
前記炭化ケイ素層の厚さと、前記中間層の厚さと、前記被覆層の厚さとの合計が100μm以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載のセラミックス積層体。
【請求項5】
前記中間層を構成する材料が、ケイ素とアルミニウムとを含有し、
前記アルミニウム/前記ケイ素で表される原子数比が1.0~15である、請求項1~4のいずれか一項に記載のセラミックス積層体。
【請求項6】
基板上に炭化ケイ素層と、中間層と、被覆層とをこの順で積層するセラミックス積層体の製造方法であって、
水素ガスの存在下で、炭化ケイ素の原料蒸気を前記基板上に接触させて前記炭化ケイ素層を形成する、セラミックス積層体の製造方法。
【請求項7】
前記中間層を積層する際の時間が10~150秒間である、請求項6に記載のセラミックス積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス積層体及びセラミックス積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化ケイ素(SiC)やSiC/SiC繊維強化型複合材は、原子炉や地熱発電の次世代構造材料として期待されている。炭化ケイ素の機械的特性は、セラミックス構造材料として優れるが、放射線照射や高温、高圧水等の過酷な環境に曝される場合には、防食被覆が必要となる。
【0003】
例えば、非特許文献1には、炭化ケイ素の表面をクロム等の金属や、窒化クロムや窒化チタン等の金属化合物で被覆した燃料被覆管が提案されている。非特許文献1の発明によれば、炭化ケイ素表面の防食被覆が図られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】P.J. Doyle, C. Ang, L. Snead, Y.Katoh, K.Terrani, S.S. Raiman, “Hydrothermal Corrosion of First-Generation Dual-Purpose Coatings on Silicon Carbide for Accident-Tolerant Fuel Cladding,” J.Nucl.Mater., 544 (2021).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1の発明は、高温高圧水腐食環境(例えば、軽水炉の炉内環境)下では、基材と最表面積層膜との熱膨張差によって、金属又は金属化合物の被覆が炭化ケイ素の表面から剥離したり、割れが発生したりすることで、防食機能を充分に発揮できないおそれがある。
【0006】
そこで、本発明は、防食性を確実に発揮することができるセラミックス積層体及びセラミックス積層体の製造方法を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は以下の態様を有する。
[1]基板上に炭化ケイ素層と、中間層と、被覆層とがこの順で積層され、
前記炭化ケイ素層のヤング率が300GPa以上である、セラミックス積層体。
[2]前記被覆層を構成する材料がアルミニウムの酸化物である、[1]に記載のセラミックス積層体。
[3]前記中間層を構成する材料がケイ素とアルミニウムとを含む酸化物である、[1]又は[2]に記載のセラミックス積層体。
[4]前記炭化ケイ素層の厚さと、前記中間層の厚さと、前記被覆層の厚さとの合計が100μm以下である、[1]~[3]のいずれかに記載のセラミックス積層体。
[5]前記中間層を構成する材料が、ケイ素とアルミニウムとを含有し、
前記アルミニウム/前記ケイ素で表される原子数比が1.0~15である、[1]~[4]のいずれかに記載のセラミックス積層体。
【0008】
[6]基板上に炭化ケイ素層と、中間層と、被覆層とをこの順で積層するセラミックス積層体の製造方法であって、
水素ガスの存在下で、炭化ケイ素の原料蒸気を前記基板上に接触させて前記炭化ケイ素層を形成する、セラミックス積層体の製造方法。
[7]前記中間層を積層する際の時間が10~150秒間である、[6]に記載のセラミックス積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のセラミックス積層体及びセラミックス積層体の製造方法によれば、防食性を確実に発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係るセラミックス積層体を示す断面図である。
図2】本実施形態のセラミックス積層体の製造に用いられるCVD装置の概略図である。
図3】実施例1の断面の光学顕微鏡の写真である。
図4】ヤング率を測定する際の荷重変位曲線の一例を示すグラフである。
図5】密着性試験に用いられるフラットパンチ圧子と微小試験片を示す概略図である。
図6】密着性試験に用いられる微小試験片の走査型電子顕微鏡(SEM)の写真である。
図7】腐食試験後の実施例1の外観を示す写真である。
図8】比較例1の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)の写真である。
図9図8を部分拡大した写真である。
図10】比較例2の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)の写真である。
図11】腐食試験前の比較例3の被覆層の表面の光学顕微鏡の写真である。
図12】腐食試験後の比較例3の被覆層の表面の光学顕微鏡の写真である。
図13】腐食試験後の比較例4の外観を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[セラミックス積層体]
本発明のセラミックス積層体は、基板上に炭化ケイ素層と、中間層と、被覆層とをこの順に備える。本発明のセラミックス積層体は、炭化ケイ素層のヤング率が300GPa以上である。
以下、本発明のセラミックス積層体の一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0012】
図1に示すように、本実施形態のセラミックス積層体1は、基板10上に炭化ケイ素層20と、中間層30と、被覆層40とをこの順に備える。
セラミックス積層体1は、次世代軽水炉や小型モジュール炉、低減速炉等の材料要件が厳しい箇所の炉心材料、燃料材料として利用できる。
【0013】
セラミックス積層体1の厚さTは、例えば、200μm以上が好ましく、600μm以上がより好ましい。厚さTが上記下限値以上であると、セラミックス積層体1の強度をより高められる。厚さTの上限値は特に限定されないが、例えば、1000mmとされる。
セラミックス積層体1の厚さTは、例えば、セラミックス積層体1を厚さ方向に切断した断面を顕微鏡等で観察することにより求められる。
【0014】
<基板>
基板10は、高温(例えば、1000℃以上)、高圧(例えば、10MPa以上)下で使用可能であれば、公知の材料を用いることができる。
基板10の材料としては、高温高圧下等、材料要件が厳しい箇所で利用可能なこと、炭化ケイ素層20との密着性をより高められることから、炭化ケイ素(SiC)、SiC/SiC繊維強化型複合材が好ましい。
【0015】
基板10の厚さT10は、例えば、100μm以上が好ましく、500μm以上がより好ましい。厚さT10が上記下限値以上であると、セラミックス積層体1の強度をより高められる。厚さT10の上限値は特に限定されないが、例えば、1000mmとされる。
基板10の厚さT10は、セラミックス積層体1の厚さTと同様の方法で求められる。
【0016】
基板10のヤング率(E10)は、例えば、100GPa以上が好ましく、150GPa以上がより好ましく、200GPa以上がさらに好ましい。ヤング率(E10)が上記下限値以上であると、セラミックス積層体1の強度をより高められる。このため、セラミックス積層体1の防食性をより確実に発揮することができる。ヤング率(E10)の上限値は、特に限定されないが、例えば、500GPaとされる。
ヤング率(E10)は、実施例に記載の方法で測定できる。
ヤング率(E10)は、基板10の材料の種類、組成及びこれらの組合せによって調節できる。
【0017】
基板10を構成する材料の熱膨張係数(線膨張率、α10)は、例えば、0.1~5.5×10-6/Kが好ましく、1.0~5.4×10-6/Kがより好ましく、3.0~5.0×10-6/Kがさらに好ましい。熱膨張係数(α10)が上記下限値以上であると、セラミックス積層体1の強度をより高められる。熱膨張係数(α10)が上記上限値以下であると、炭化ケイ素層20との密着性をより高められる。
熱膨張係数(α10)は、例えば、JIS R3251-1995「低膨張ガラスのレーザ干渉法による線膨張率の測定方法」に記載の方法に準じて測定できる。
【0018】
<炭化ケイ素層>
炭化ケイ素層20は、緻密な炭化ケイ素で形成された、被覆層40の下地となる層(下地層)である。
炭化ケイ素層20は、基板10上に水素ガスの存在下で、炭化ケイ素の原料蒸気を接触させることにより得られる。
【0019】
炭化ケイ素の原料(以下、「SiC原料」ともいう。)の蒸気としては、ケイ素原子含有有機化合物の気化物、ケイ素原子を含むハロゲン化合物等が挙げられる。
ケイ素原子含有有機化合物は、沸点において分解することなく気化するものであれば、特に限定されない。ケイ素原子含有有機化合物としては、炭素原子、水素原子及びケイ素原子を含有する化合物が好ましく、20~250℃(293~523K)で気化する化合物がより好ましい。ケイ素原子含有有機化合物としては、例えば、Hydridopolycarbosilane(CVD-4000、Starfire Systems社製)、Hexamethyldisilane(C18Si)等が挙げられ、CVD-4000が好ましい。
ケイ素原子含有有機化合物の気化物を調製する方法は、特に限定されず、従来公知の加熱方法、バブリング方式による気化方法等が挙げられる。
【0020】
炭化ケイ素層20の厚さT20は、例えば、20μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましく、5μm以下がさらに好ましい。厚さT20が上記上限値以下であると、炭化ケイ素層20の強度をより高められる。加えて、厚さT20が上記上限値以下であると、セラミックス積層体1の生産効率をより高められる。厚さT20の下限値は、特に限定されないが、高温・高圧での使用に対する耐性の観点から、例えば、0.5μm以上が好ましい。
炭化ケイ素層20の厚さT20は、セラミックス積層体1の厚さTと同様の方法で求められる。
【0021】
炭化ケイ素層20のヤング率(E20)は、300GPa以上であり、320GPa以上が好ましく、340GPa以上がより好ましい。ヤング率(E20)が上記下限値以上であると、セラミックス積層体1の強度をより高められる。このため、セラミックス積層体1の防食性を確実に発揮することができる。ヤング率(E20)の上限値は、特に限定されないが、例えば、500GPaとされる。
ヤング率(E20)は、実施例に記載の方法で測定できる。
ヤング率(E20)は、炭化ケイ素層20の緻密度、すなわち、炭化ケイ素層20を形成する際の成膜条件によって調節できる。
【0022】
炭化ケイ素層20のヤング率(E20)と、基板10のヤング率(E10)との差の絶対値|E20-E10|は、例えば、300GPa以下が好ましく、100GPa以下がより好ましく、50GPa以下がさらに好ましい。絶対値|E20-E10|が上記上限値以下であると、基板10と炭化ケイ素層20との密着性をより高められる。
【0023】
20/E10で表される比率(E20/E10)は、例えば、0.5~2.7が好ましく、0.6~1.5がより好ましく、0.9~1.1がさらに好ましい。比率(E20/E10)が上記数値範囲内であると、基板10と炭化ケイ素層20との密着性をより高められる。このため、セラミックス積層体1の防食性をより確実に発揮することができる。
【0024】
炭化ケイ素層20を構成する材料、すなわち、炭化ケイ素の熱膨張係数(α20)は、例えば、0.1~5.5×10-6/Kが好ましく、1.0~5.4×10-6/Kがより好ましく、3.0~5.0×10-6/Kがさらに好ましい。熱膨張係数(α20)が上記下限値以上であると、炭化ケイ素層20の強度をより高められる。熱膨張係数(α20)が上記上限値以下であると、中間層30との密着性をより高められる。
熱膨張係数(α20)は、熱膨張係数(α10)と同様の方法で求められる。
熱膨張係数(α20)は、炭化ケイ素層20の緻密度、すなわち、炭化ケイ素層20を形成する際の成膜条件によって調節できる。
【0025】
炭化ケイ素の熱膨張係数(α20)と、基板10の熱膨張係数(α10)との差(α20-α10)は、例えば、0.0~2.0×10-6/Kが好ましく、0.0~1.5×10-6/Kがより好ましく、0.0~0.5×10-6/Kがさらに好ましい。差(α20-α10)が上記下限値以上であると、セラミックス積層体1の耐熱衝撃性(温度変化に対する強度)をより高められる。差(α20-α10)が上記上限値以下であると、基板10と炭化ケイ素層20との密着性をより高められる。
【0026】
<中間層>
中間層30は、炭化ケイ素層20と、被覆層40との間に位置する層である。
中間層30は、中間層30を構成する材料を化学蒸着法で積層することにより得られる。
中間層30を構成する材料としては、例えば、ケイ素とアルミニウムとを含む酸化物等が挙げられる。
中間層30を構成する材料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0027】
中間層30を構成する材料の原料蒸気としては、例えば、ケイ素原子含有有機化合物とアルミニウム原子含有有機化合物とを含む化合物の気化物、ケイ素原子含有ハロゲン化合物とアルミニウム原子含有ハロゲン化合物との混合ガス等が挙げられる。
ケイ素原子含有有機化合物とアルミニウム原子含有有機化合物との気化物は、沸点において分解することなく気化するものであれば、特に限定されない。アルミニウム原子含有有機化合物としては、炭素原子、水素原子及びアルミニウム原子を含有する化合物が好ましく、20~250℃(293~523K)で気化する化合物がより好ましい。
アルミニウム原子含有有機化合物としては、例えば、Aluminum acetylacetonate(Al(CHCOCHCOCH)、トリス(2,2,6,6-テトラメチル-3,5,3,5-ヘプタンジオン酸)アルミニウム(Al(DPM))、トリメチルアルミニウム等が挙げられ、これらのうち、Aluminum acetylacetonateが好ましい。また、これらの化合物をアルミニウムの原料(以下、「Al原料」ともいう。)という。
ケイ素原子含有有機化合物としては、例えば、CVD-4000、Hexamethyldisilane、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)等が挙げられ、これらのうち、CVD-4000、TEOSが好ましい。また、これらの化合物をケイ素の原料(以下、「Si原料」ともいう。)といい、炭化ケイ素の原料(SiC原料)と同じであってもよい。
ケイ素原子含有有機化合物とアルミニウム原子含有有機化合物との気化物を調製する方法は、特に限定されず、従来公知の加熱方法、バブリング方式による気化方法等が挙げられる。
【0028】
中間層30を構成する材料が、ケイ素とアルミニウムとを含有する場合、アルミニウム/ケイ素で表される原子数比(以下、「Al/Si比」ともいう。)は、例えば、1.0~15が好ましく、2.0~8.0がより好ましく、2.5~6.5がさらに好ましい。Al/Si比が上記下限値以上であると、被覆層40との密着性をより高められる。Al/Si比が上記上限値以下であると、炭化ケイ素層20との密着性をより高められる。
Al/Si比は、例えば、エネルギー分散型X線分析(EDS)により求められる。
【0029】
中間層30の厚さT30は、例えば、40μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましく、2μm以下がさらに好ましい。厚さT30が上記下限値以上であると、被覆層40との密着性をより高められる。厚さT30が上記上限値以下であると、中間層30の強度をより高められる。加えて、厚さT30が上記上限値以下であると、セラミックス積層体1の生産効率をより高められる。厚さT30の下限値は、特に限定されないが、被覆層40との密着性をより高められることから、例えば、0.1μm以上が好ましい。
中間層30の厚さT30は、セラミックス積層体1の厚さTと同様の方法で求められる。
【0030】
中間層30のヤング率(E30)は、例えば、150GPa以上が好ましく、175GPa以上がより好ましく、200GPa以上がさらに好ましい。ヤング率(E30)が上記下限値以上であると、セラミックス積層体1の強度をより高められる。このため、セラミックス積層体1の防食性をより確実に発揮することができる。ヤング率(E30)の上限値は、特に限定されないが、例えば、250GPaとされる。
ヤング率(E30)は、実施例に記載の方法で測定できる。
ヤング率(E30)は、中間層30の緻密度、すなわち、中間層30を形成する際の成膜条件によって調節できる。
【0031】
中間層30のヤング率(E30)と、炭化ケイ素層20のヤング率(E20)との差の絶対値|E30-E20|は、例えば、200GPa以下が好ましく、180GPa以下がより好ましく、150GPa以下がさらに好ましい。絶対値|E30-E20|が上記上限値以下であると、炭化ケイ素層20と中間層30との密着性をより高められる。
【0032】
30/E20で表される比率(E30/E20)は、例えば、0.40~1.00が好ましく、0.45~0.80がより好ましく、0.50~0.70がさらに好ましい。比率(E30/E20)が上記数値範囲内であると、炭化ケイ素層20と中間層30との密着性をより高められる。このため、セラミックス積層体1の防食性をより確実に発揮することができる。
【0033】
中間層30を構成する材料の熱膨張係数(α30)は、炭化ケイ素の熱膨張係数(α20)以上、被覆層40を構成する材料の熱膨張係数(α40)未満が好ましい。より具体的には、熱膨張係数(α30)は、例えば、3.0~7.0×10-6/Kが好ましく、3.5~6.5×10-6/Kがより好ましく、4.5~6.0×10-6/Kがさらに好ましい。熱膨張係数(α30)が上記下限値以上であると、中間層30の耐熱衝撃性をより高められる。熱膨張係数(α30)が上記上限値以下であると、炭化ケイ素層20との密着性をより高められる。
熱膨張係数(α30)は、熱膨張係数(α10)と同様の方法で求められる。
熱膨張係数(α30)は、中間層30を構成する材料の組成、中間層30を形成する際の成膜条件、及びこれらの組合せにより調節できる。
【0034】
中間層30を構成する材料の熱膨張係数(α30)と、炭化ケイ素の熱膨張係数(α20)との差(α30-α20)は、0.0~4.0×10-6/Kが好ましく、0.0~3.5×10-6/Kがより好ましく、0.0~3.0×10-6/Kがさらに好ましい。差(α30-α20)が上記下限値以上であると、中間層30の耐熱衝撃性をより高められる。差(α30-α20)が上記上限値以下であると、炭化ケイ素層20と中間層30との密着性をより高められる。
【0035】
<被覆層>
被覆層40は、炭化ケイ素層20を被覆するトップ層である。
被覆層40は、被覆層40を構成する材料を化学蒸着法で積層することにより得られる。
セラミックス積層体1は、被覆層40を備えることで、高温・高圧での使用に対する耐性をより高められる。すなわち、防食性をより高められる。
被覆層40を構成する材料としては、例えば、金属酸化物が挙げられ、より具体的には、アルミナ(酸化アルミニウム)、ジルコニア(酸化ジルコニウム)、酸化ガリウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、イットリア(酸化イットリウム)、ハフニア(酸化ハフニウム)等が挙げられる。
被覆層40を構成する材料としては、防食性に優れ、中間層30との密着性をより高められることから、アルミナが好ましい。
被覆層40を構成する材料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0036】
被覆層40を構成する材料の原料蒸気としては、例えば、アルミニウム原子含有有機化合物の気化物、アルミニウム原子含有ハロゲン化合物等が挙げられ、これらの原料を「Al原料」ともいう。
アルミニウム原子含有有機化合物は、沸点において分解することなく気化するものであれば、特に限定されない。アルミニウム原子含有有機化合物としては、炭素原子、水素原子及びアルミニウム原子を含有する化合物が好ましく、20~250℃(293~523K)で気化する化合物がより好ましい。
アルミニウム原子含有有機化合物としては、例えば、Aluminum acetylacetonate(Al(CHCOCHCOCH)、トリス(2,2,6,6-テトラメチル-3,5,3,5-ヘプタンジオン酸)アルミニウム(Al(DPM))、トリメチルアルミニウム等が挙げられ、これらのうち、Aluminum acetylacetonateが好ましく、中間層30の作製で用いたAl原料と同じであってもよい。装置等を簡便化する観点から、中間層30の作製で用いるAl原料と、被覆層40の作製で用いるAl原料とは、同じ種類であることが好ましい。
アルミニウム原子含有有機化合物の気化物を調製する方法は、特に限定されず、従来公知の加熱方法、バブリング方式による気化方法等が挙げられる。
【0037】
被覆層40の厚さT40は、例えば、50μm以下が好ましく、30μm以下がより好ましく、20μm以下がさらに好ましい。厚さT40が上記上限値以下であると、中間層30との密着性をより高められる。厚さT40の下限値は、特に限定されないが、防食性をより高められることから、例えば、1.0μm以上が好ましい。
被覆層40の厚さT40は、セラミックス積層体1の厚さTと同様の方法で求められる。
【0038】
被覆層40のヤング率(E40)は、例えば、180GPa以上が好ましく、200GPa以上がより好ましく、300GPa以上がさらに好ましい。ヤング率(E40)が上記下限値以上であると、セラミックス積層体1の強度をより高められる。このため、セラミックス積層体1の防食性をより確実に発揮することができる。ヤング率(E40)の上限値は、特に限定されないが、例えば、500GPaとされる。
ヤング率(E40)は、実施例に記載の方法で測定できる。
ヤング率(E40)は、被覆層40の緻密度、すなわち、被覆層40を構成する材料の種類、被覆層40を構成する材料の組成、被覆層40を形成する際の成膜条件、及びこれらの組合せによって調節できる。
【0039】
被覆層40のヤング率(E40)と、中間層30のヤング率(E30)との差の絶対値|E40-E30|は、例えば、250GPa以下が好ましく、200GPa以下がより好ましく、140GPa以下がさらに好ましい。絶対値|E40-E30|が上記上限値以下であると、中間層30と被覆層40との密着性をより高められる。
【0040】
40/E30で表される比率(E40/E30)は、例えば、0.8~2.5が好ましく、1.2~2.0がより好ましく、1.5~1.7がさらに好ましい。比率(E40/E30)が上記数値範囲内であると、中間層30と被覆層40との密着性をより高められる。このため、セラミックス積層体1の防食性をより確実に発揮することができる。
【0041】
被覆層40を構成する材料の熱膨張係数(α40)は、炭化ケイ素の熱膨張係数(α20)よりも2.0×10-6/K以上大きいことが好ましい。より具体的には、熱膨張係数(α40)は、例えば、6.0~15×10-6/Kが好ましく、6.0~10×10-6/Kがより好ましく、6.0~8.0×10-6/Kがさらに好ましい。熱膨張係数(α40)が上記下限値以上であると、被覆層40の耐熱衝撃性をより高められる。熱膨張係数(α40)が上記上限値以下であると、中間層30との密着性をより高められる。
熱膨張係数(α40)は、熱膨張係数(α10)と同様の方法で求められる。
熱膨張係数(α40)は、被覆層40を構成する材料の種類、被覆層40を構成する材料の組成、被覆層40を形成する際の成膜条件、及びこれらの組合せにより調節できる。
【0042】
被覆層40を構成する材料の熱膨張係数(α40)と、中間層30を構成する材料の熱膨張係数(α30)との差(α40-α30)は、例えば、0.0×10-6超10×10-6/K以下が好ましく、0.0×10-6超6.0×10-6/K以下がより好ましく、0.0×10-6超2.0×10-6/K以下がさらに好ましい。差(α40-α30)が上記下限値超であると、被覆層40の耐熱衝撃性をより高められる。差(α40-α30)が上記上限値以下であると、中間層30と被覆層40との密着性をより高められる。
【0043】
セラミックス積層体1において、炭化ケイ素層20の厚さT20と、中間層30の厚さT30と、被覆層40の厚さT40との合計(T20+T30+T40)は、例えば、100μm以下が好ましく、80μm以下がより好ましく、60μm以下がさらに好ましい。厚さの合計(T20+T30+T40)が上記上限値以下であると、層間の剥離や割れの発生を抑制でき、防食性をより確実に発揮することができる。厚さの合計(T20+T30+T40)の下限値は、特に限定されないが、防食性をより高められることから、例えば、2.0μm以上が好ましい。
厚さの合計(T20+T30+T40)は、セラミックス積層体1の厚さTと同様の方法で求められる。
【0044】
[セラミックス積層体の製造方法]
本発明のセラミックス積層体の製造方法は、基板上に、炭化ケイ素層と、中間層と、被覆層とをこの順に積層する方法である。
これらの層を積層する方法としては、各層の緻密度をより高められ、防食性をより高められることから、化学蒸着法(化学気相成長法、CVD法)が好ましく、レーザを照射しながらCVD法を行うレーザCVD法がより好ましい。
以下、本実施形態のセラミックス積層体1の製造方法のうち、レーザCVD法を用いた製造方法について説明する。
【0045】
まず、基板(基材)10を用意する。基板10としては、特に限定されないが、炭化ケイ素を1800℃以上で焼結した、SiC焼結体を用いることが好ましい。
また、基板10は、表面を研磨することが好ましい。基板10の表面を研磨することで、炭化ケイ素層20をより積層しやすくなる。基板10の表面を研磨する場合、例えば、#1200の耐水ペーパー等を利用できる。
レーザCVD法に用いる装置としては、例えば、図2に示すコールドウォール式のレーザCVD装置が挙げられる。
【0046】
図2に示すように、CVD装置100は、ドーム状のコールドウォール110と、原料供給部120と、レーザ照射部130と、ステージ140とを有する。ステージ140は、支持台142で支持されている。
【0047】
レーザ照射部130から照射するレーザとしては、特に限定されず、半導体レーザ、固体レーザ、気体レーザ等を用いることができる。これらは、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
また、発振モードも限定されず、連続発振でもよくパルス発振でもよいが、これらのうちでは、連続発振が好ましい。発振されるレーザ光の波長も限定されないが、通常、100~10800nmである。
レーザ照射部130から照射するレーザとしては、具体的には、例えば、ファイバーレーザ、Nd:YAGレーザ(ネオジム:イットリウム・アルミニウム・ガーネットレーザ、波長1.064μm)等が挙げられる。
照射するレーザの照射強度としては、例えば、20~500Wが好ましい。
【0048】
基板10にレーザを照射する際は、基板10を予め加熱(予備加熱)しておくことが好ましい。予備加熱の際の温度は、例えば、550~750Kが好ましく、600~700Kがより好ましく、650~700Kがさらに好ましい。予備加熱の際の温度が上記下限値以上であると、炭化ケイ素層20をより積層しやすくなる。予備加熱の際の温度が上記上限値以下であると、基板10の劣化を抑制できる。
基板10は、例えば、加熱炉、CVD炉等の内部で予備加熱を行うことができる。
【0049】
次に、基板10をCVD装置100のステージ140上に置く。まず、炭化ケイ素層20を積層する。炭化ケイ素層20を積層する際は、炭化ケイ素の原料蒸気を水素(H)ガスとともに原料供給部120から、コールドウォール110の内部に供給する。同時に、レーザ照射部130からステージ140上の基板10にレーザを照射する。Hガスの存在下で、炭化ケイ素の原料蒸気を基板10に接触させることで、炭化ケイ素層20における炭化ケイ素の純度をより高められる。その結果、炭化ケイ素層20のヤング率(E20)をより高められる。これは、Hガスをコールドウォール110の内部に供給することで、炭化ケイ素の原料に不純物が混入することを抑制できるためであると考えられる。なお、炭化ケイ素の原料蒸気の輸送ガスとして、原料蒸気とともにアルゴン(Ar)や窒素(N)等の不活性ガスをコールドウォール110の内部に供給してもよい。炭化ケイ素の原料蒸気及びHガスとともに、輸送ガスをコールドウォール110の内部に供給することで、炭化ケイ素層20の均質性を高めることができる。
【0050】
炭化ケイ素の原料(SiC原料)を加熱する際の温度(SiC加熱温度)は、例えば、CVD-4000の場合、300~410Kが好ましく、310~410Kがより好ましく、320~400Kがさらに好ましい。SiC加熱温度が上記下限値以上であると、セラミックス積層体1の防食性をより高められる。SiC加熱温度が上記上限値以下であると、炭化ケイ素層20の緻密度をより高められる。
SiC加熱温度は、SiC原料を加熱する加熱炉内に設置した温度計(不図示)で測定できる。
【0051】
炭化ケイ素層20を積層する際の温度(成膜温度t20)は、例えば、1000~1700Kが好ましく、1100~1650Kがより好ましく、1200~1600Kがさらに好ましい。成膜温度t20が上記下限値以上であると、炭化ケイ素層20の純度をより高められる。成膜温度t20が上記上限値以下であると、基板10の劣化を抑制できる。
成膜温度t20は、コールドウォール110内に設置した温度計(不図示)で測定できる。
【0052】
炭化ケイ素層20を積層する際のコールドウォール110内の圧力(炉内圧力P20)は、例えば、10~5000Paが好ましく、50~2000Paがより好ましく、100~1000Paがさらに好ましい。炉内圧力P20が上記下限値以上であると、炭化ケイ素層20の成膜速度をより速められる。炉内圧力P20が上記上限値以下であると、炭化ケイ素層20における炭化ケイ素の純度をより高められる。
炉内圧力P20は、コールドウォール110内に設置した圧力計(不図示)で測定できる。
【0053】
炭化ケイ素層20を積層する際の時間(成膜時間time20)は、例えば、30~2000秒間が好ましく、100~1500秒間がより好ましく、150~900秒間がさらに好ましい。成膜時間time20が上記下限値以上であると、充分な厚さの炭化ケイ素層20が得られる。成膜時間time20が上記上限値以下であると、セラミックス積層体1の生産効率をより高められる。
ここで、成膜時間time20とは、SiC原料の蒸気をコールドウォール110の内部に供給する時間を意味する。
【0054】
次に、中間層30を積層する。中間層30を積層する際は、中間層30を構成する材料の原料の蒸気を輸送ガス(ArやN等の不活性ガス)及び酸素(O)ガスとともに原料供給部120から、コールドウォール110の内部に供給する。より具体的には、Si原料の蒸気とAl原料の蒸気とをArガス及びOガスとともに原料供給部120から、コールドウォール110の内部に供給する。同時に、レーザ照射部130からステージ140上の基板10にレーザを照射する。中間層30におけるAl/Si比は、供給するAl原料の量と、Si原料の量とに応じて調節できる。供給するAl原料の量と、Si原料の量とは、それぞれの原料の加熱温度や、バブリングに使用する輸送ガスの流量により調節できる。
【0055】
Al原料を加熱する際の温度(Al加熱温度)は、例えば、Aluminum acetylacetonateの場合、350~520Kが好ましく、380~500Kがより好ましく、400~480Kがさらに好ましい。Al加熱温度が上記下限値以上であると、中間層30におけるAl/Si比をより高められる。Al加熱温度が上記上限値以下であると、中間層30におけるSiの比率をより高められる。
Al加熱温度は、Al原料を加熱する加熱炉内に設置した温度計(不図示)で測定できる。
【0056】
Si原料を加熱する際の温度(Si加熱温度)は、例えば、CVD-4000の場合、300~410Kが好ましく、310~400Kがより好ましく、320~390Kがさらに好ましい。Si加熱温度が上記下限値以上であると、中間層30におけるSiの比率をより高められる。Si加熱温度が上記上限値以下であると、中間層30におけるAl/Si比をより高められる。
Si加熱温度は、Si原料を加熱する加熱炉内に設置した温度計(不図示)で測定できる。
【0057】
中間層30を積層する際の温度(成膜温度t30)は、例えば、1000~1700Kが好ましく、1050~1650Kがより好ましく、1100~1600Kがさらに好ましい。成膜温度t30が上記下限値以上であると、中間層30の緻密度をより高められる。成膜温度t30が上記上限値以下であると、炭化ケイ素層20の劣化を抑制できる。
成膜温度t30は、コールドウォール110内に設置した温度計(不図示)で測定できる。
【0058】
中間層30を積層する際のコールドウォール110内の圧力(炉内圧力P30)は、例えば、10~5000Paが好ましく、50~2000Paがより好ましく、100~1000Paがさらに好ましい。炉内圧力P30が上記下限値以上であると、中間層30の成膜速度をより速められる。炉内圧力P30が上記上限値以下であると、中間層30を構成する材料の原料に不純物が混入することを抑制できる。
炉内圧力P30は、コールドウォール110内に設置した圧力計(不図示)で測定できる。
【0059】
中間層30を積層する際の時間(成膜時間time30)は、例えば、10~150秒間が好ましく、20~140秒間がより好ましく、30~130秒間がさらに好ましい。成膜時間time30が上記下限値以上であると、充分な厚さの中間層30が得られる。成膜時間time30が上記上限値以下であると、セラミックス積層体1の生産効率をより高められる。加えて、成膜時間time30が上記上限値以下であると、腐食を抑制でき、また、中間層30の強度をより高められる。
ここで、成膜時間time30とは、基材が成膜温度t30であり、中間層30を構成する材料の原料の蒸気をコールドウォール110の内部に供給する時間を意味する。
【0060】
次に、被覆層40を積層する。被覆層40を積層する際は、被覆層40を構成する材料の原料の蒸気を輸送ガス(ArやN等の不活性ガス)及びOガスとともに原料供給部120から、コールドウォール110の内部に供給する。より具体的には、Al原料の蒸気をArガス及びOガスとともに原料供給部120から、コールドウォール110の内部に供給する。同時に、レーザ照射部130からステージ140上の基板10にレーザを照射する。
Al原料を加熱する際の温度(Al加熱温度)は、例えば、Aluminum acetylacetonateの場合、350~520Kが好ましく、380~500Kがより好ましく、400~480Kがさらに好ましい。
【0061】
被覆層40を積層する際の温度(成膜温度t40)は、例えば、1000~1700Kが好ましく、1100~1650Kがより好ましく、1200~1600Kがさらに好ましい。成膜温度t40が上記下限値以上であると、被覆層40の緻密度をより高められる。成膜温度t40が上記上限値以下であると、中間層30の劣化を抑制できる。
成膜温度t40は、コールドウォール110内に設置した温度計(不図示)で測定できる。
【0062】
被覆層40を積層する際のコールドウォール110内の圧力(炉内圧力P40)は、例えば、10~5000Paが好ましく、50~2000Paがより好ましく、100~1000Paがさらに好ましい。炉内圧力P40が上記下限値以上であると、被覆層40の成膜速度をより速められる。炉内圧力P40が上記上限値以下であると、被覆層40を構成する材料の原料に不純物が混入することを抑制できる。
炉内圧力P40は、コールドウォール110内に設置した圧力計(不図示)で測定できる。
【0063】
被覆層40を積層する際の時間(成膜時間time40)は、例えば、30~6000秒間が好ましく、100~3000秒間がより好ましく、150~1500秒間がさらに好ましい。成膜時間time40が上記下限値以上であると、充分な厚さの被覆層40が得られる。成膜時間time40が上記上限値以下であると、セラミックス積層体1の生産効率をより高められる。
ここで、成膜時間time40とは、基材が成膜温度t40であり、被覆層40を構成する材料の原料の蒸気をコールドウォール110の内部に供給する時間を意味する。
【0064】
以上の工程により、基板10上に炭化ケイ素層20と、中間層30と、被覆層40とがこの順で積層されたセラミックス積層体1が得られる。
【0065】
本実施形態のセラミックス積層体1は、表面に被覆層40が形成されているため、防食性をより高めることができる。
本実施形態のセラミックス積層体1は、炭化ケイ素層20と被覆層40との間に中間層30が形成されているため、被覆層40が炭化ケイ素層20から剥離したり、割れが発生したりすることを抑制できる。このため、防食性を確実に発揮することができる。
本実施形態のセラミックス積層体1は、炭化ケイ素層20のヤング率(E20)を特定の範囲に制御しているため、層間の剥離や割れの発生を抑制できる。このため、防食性を確実に発揮することができる。
本実施形態のセラミックス積層体の製造方法は、水素ガスの存在下で、炭化ケイ素の原料蒸気を基板上に接触させるため、炭化ケイ素の原料に不純物が混入することを抑制できる。このため、炭化ケイ素層20のヤング率(E20)をより高められ、セラミックス積層体1の強度をより高められる。その結果、セラミックス積層体1の防食性をより確実に発揮することができる。
本実施形態のセラミックス積層体の製造方法は、化学蒸着法を用いているため、各層の緻密度をより高められ、その結果、防食性をより高められる。
本実施形態のセラミックス積層体の製造方法は、レーザCVD法を用いているため、各層を連続して積層でき、生産効率をより高められる。
本実施形態のセラミックス積層体の製造方法は、レーザCVD法を用いているため、各層の緻密度をより高めることができ、成膜速度をより速められる。このため、セラミックス積層体の防食性をより高められ、生産効率をより高められる。
【0066】
以上、本発明のセラミックス積層体及びセラミックス積層体の製造方法について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上述のセラミックス積層体1は、中間層30が1層であるが、中間層は、2層以上であってもよい。
中間層を2層以上設ける場合、各中間層のAl/Si比を徐々に高めるように中間層を積層することが好ましい。各中間層のAl/Si比を徐々に高めるように中間層を積層することで、炭化ケイ素層及び被覆層との密着性をより高められる。その結果、層間の剥離や割れの発生を抑制でき、防食性を確実に発揮することができる。
中間層を2層積層する場合、例えば、炭化ケイ素層側の中間層のAl/Si比を1.5~2.5とし、被覆層側の中間層のAl/Si比を3.0~5.0とする。このように、Al/Si比を傾斜させて中間層を積層することで、層間の密着性をより高められる。
中間層を3層積層する場合、例えば、炭化ケイ素層側の中間層のAl/Si比を1.5~2.5とし、真ん中の中間層のAl/Si比を6.0~8.0とし、被覆層側の中間層のAl/Si比を10~16とする。このように、Al/Si比を傾斜させて中間層を積層することで、層間の密着性をより高められる。
【0067】
例えば、上述のセラミックス積層体1は、被覆層40が1層であるが、被覆層は、2層以上であってもよい。被覆層を2層以上とすることで、防食性をより高められる。
例えば、上述のセラミックス積層体1は、表面に被覆層40が形成されているが、セラミックス積層体は、被覆層の上に印刷層等、他の層がさらに積層されていてもよい。
【実施例0068】
以下に、実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0069】
[実施例1]
図2に示すCVD装置100を用いて、SiC焼結体を基材として、SiC層(下地層)、ケイ素の酸化物とアルミニウムの酸化物との混合物を構成材料とする層(中間層)及びアルミニウムの酸化物を構成材料とする層(被覆層)を連続的に積層した。SiC原料及びSi原料として、同じHydridopolycarbosilane(CVD-4000、Starfire Systems)を用いた(以下、Si原料とのみ記載する)。Al原料としてAluminum acetylacetonate(Al(acac)、Sigma Aldrich)を用いた。
まず、SiC基材(10mm×10mm)を用意し、#1200で研削した後、673Kで予備加熱した。このSiC基材をコールドウォール110内のステージ140上に設置し、Si原料蒸気(Si原料の加熱温度は353K)をHガスとともに、原料供給部120からコールドウォール110内に供給した。ステージ140上のSiC基材表面にファイバーレーザ(照射強度300W)を480秒間(成膜時間(time20))照射し、SiC層を成膜した。成膜温度(t20)を1533Kとし、コールドウォール110内の炉内圧力を500Paとした。
次に、Al原料の加熱温度を438K、Si原料の加熱温度を353Kとし、それぞれの原料の気化物を、輸送ガス(Arガス)及びOガスとともに原料供給部120から供給し、SiC層表面にファイバーレーザ(照射強度150W)を60秒間(成膜時間(time30))照射し、Al/Si比=4.6の中間層を成膜した。成膜温度(t30)を1273~1373Kに制御し、コールドウォール110内の炉内圧力を400Paとした。
最後に、原料供給部120からAl原料(Al原料の加熱温度は438K)を輸送ガス(Arガス)及びOガスとともに、コールドウォール110内に供給し、中間層表面にファイバーレーザ(照射強度200W)を720秒間(成膜時間(time40))照射し、被覆層を成膜した。成膜温度(t40)を1503Kとし、コールドウォール110内の炉内圧力を400Paとした。
以上の工程で、図1に示すような、基板10上に炭化ケイ素層20と、中間層30と、被覆層40とがこの順に積層されたセラミックス積層体1を得た。得られたセラミックス積層体1の断面の写真を図3に示す。
【0070】
図3に示すように、基板10上に炭化ケイ素層20と、中間層30と、被覆層40とがこの順に積層されていることが確認できた。各層は緻密に形成され、各層の界面では剥離や割れの発生がないことが確認できた。
エックス線回折(XRD)法及びエネルギー分散型X線分析(EDS)法から、被覆層40の構成材料は、α-アルミナ(Al)であることが確認できた。
【0071】
<ヤング率の測定>
各層のヤング率は、ISO14577に準拠し、ナノインデンテーション法を用いて測定した。なお、測定は、セラミックス積層体1のサンプルの断面に対して行った。サンプルの断面は、セラミックス積層体1をダイヤモンドホイールソーによって厚さ方向に切断後、クロスセクションポリッシャー断面試料作製装置にて、断面ミリングにより研磨した。
標準材料として溶融石英を用いて、ダイヤモンド圧子(バーコビッチ型)の形状因子を校正し、校正したダイヤモンド圧子を用いてサンプルを2秒間で最大荷重2000μNまで押し込み、1秒間保持し、2秒間で戻した。この操作を各層の面内方向に1μmの間隔で2列、各層の厚さ方向に0.5μmの間隔で合計40箇所に対して行った。各層の厚さに応じてヤング率が大きく異なる境界面の4箇所の測定値を除き、36箇所の測定値を平均して、ヤング率の平均値を求めた。
【0072】
図4に、ヤング率を測定する際の荷重変位曲線の一例を示す。図4中、Fは荷重、hは変位、Fmaxは最大荷重、hmaxは最大変位、Sは除荷曲線の最大荷重における接線の傾き、hは上記接線と横軸との交点、hは除荷曲線と横軸との交点(塑性変形量)、hは接触深さを表す。ここで、hは下記式(1)によって求められる。
【0073】
【数1】
【0074】
式(1)中、εは、圧子の形状に関する定数であり、バーコビッチ型の圧子の場合、0.75である。下記式(2)~(4)によって、各層のヤング率Eが求められる。
【0075】
【数2】
【0076】
【数3】
【0077】
【数4】
【0078】
式(2)中、Hは硬度、Aは接触射影面積を表す。Aは24.56h で与えられる。
式(3)中、Eは複合弾性率を表す。
式(4)中、νは圧子のポアソン比、νは各層のポアソン比、Eは圧子のヤング率、Eは各層のヤング率を表す。
【0079】
上述の測定方法によって求めた基板10のヤング率(E10)は、360GPaであった。炭化ケイ素層20のヤング率(E20)は、345GPaであった。中間層30のヤング率(E30)は、200GPaであった。被覆層40のヤング率(E40)は、300GPaであった。いずれの値も薄膜としては極めて高い値が得られており、緻密な膜が形成されていることが分かった。
【0080】
得られたセラミックス積層体1を用いて、密着性試験及び腐食試験を行った。
なお、同じ原料を用いても、成膜条件(成膜温度、炉内圧力等)が異なると、組成が異なる膜(層)が得られる。
【0081】
<密着性試験>
密着性試験は、図5に示すようなナノインデンテーション装置に装備したフラットパンチ圧子(直径30μmのダイヤモンド圧子)による押し込み(押し込み速度:5nm/s)を行うことにより評価した。密着性試験に用いる試験片は、図6に示すように、表面を集束イオンビーム加工装置(FIB)で加工した微小試験片を用いた。図5中、各層の断面を上面としている(各層の断面をy軸方向に配置している)。フラットパンチ圧子による押し込み荷重から測定した各層の界面の剪断強度の平均値を界面の密着性の指標として、以下に示す。
図6中のSiC層20と、中間層30との界面:平均500MPa以上。
図6中の中間層30と、被覆層40との界面:平均500MPa以上。
得られた各界面の剪断強度の平均値は、アルミニウムの酸化物単体の面内剪断強度と比較しても同程度以上であること、また、想定している用途を考慮して充分であるといえる。
【0082】
<腐食試験>
腐食試験は、セラミックス積層体1を320℃、11MPa、溶存酸素濃度8ppmの水中に72時間浸漬することにより行った。腐食試験の結果を図7に示す。なお、写真中の濃淡は、複数の視野を合成したことに起因するものである。
図7に示すように、本願発明を適用した実施例1では、腐食試験後も被覆層が剥離せず、腐食の痕跡が認められなかった。
【0083】
[比較例1]
図2に示すCVD装置100を用いて、SiC焼結体を基材として、SiC層(下地層)及びアルミニウムの酸化物を構成材料とする層(被覆層)を連続的に積層した。Si原料及びAl原料は、実施例1と同様のものを使用した。
実施例1と同様のSiC基材を#1200で研削した後、673Kで予備加熱した。このSiC基材をコールドウォール110内のステージ140上に設置し、Si原料蒸気(Si原料の加熱温度は326K)を輸送ガス(Arガス)とともに、原料供給部120からコールドウォール110内に供給した。ステージ140上のSiC基材表面にNd:YAGレーザ(照射強度130W)を180秒間(成膜時間(time20))照射し、SiC層を成膜した。成膜温度(t20)を1323Kとし、コールドウォール110内の炉内圧力を200Paとした。
次に、原料供給部120からAl原料(Al原料の加熱温度は438K)と輸送ガス(Arガス)及びOガスとを、コールドウォール110内に供給し、SiC層表面にNd:YAGレーザ(照射強度130W)を180秒間(成膜時間(time40))照射し、被覆層を成膜した。成膜温度(t40)を1323Kとし、コールドウォール110内の炉内圧力を200Paとした。
以上の工程で、基板10上に炭化ケイ素層20と被覆層40とがこの順に積層されたセラミックス積層体を得た。得られたセラミックス積層体の断面の写真を図8及び図9に示す。図8及び図9に示すように、得られたセラミックス積層体には、被覆層40中の亀裂や、炭化ケイ素層20と被覆層40との間の剥離の発生が確認できた。
エックス線解析及びエネルギー分散型X線分析(EDS)から、被覆層40の構成材料は、γ-アルミナ(Al)であることが確認できた。
上述の測定方法によって求めた基板10のヤング率(E10)は、350GPaであった。炭化ケイ素層20のヤング率(E20)は、265GPaであった。被覆層40のヤング率(E40)は、200GPaであった。
【0084】
[比較例2]
図2に示すCVD装置100を用いて、SiC焼結体を基材として、SiC層(下地層)及びアルミニウムの酸化物を構成材料とする層(被覆層)を連続して積層した。Si原料及びAl原料は、実施例1と同様のものを使用した。
実施例1と同様のSiC基材を#1200で研削した後、673Kで予備加熱した。このSiC基材をコールドウォール110内のステージ140上に設置し、Si原料蒸気(Si原料の加熱温度は350K)を輸送ガス(Arガス)とともに、原料供給部120からコールドウォール110内に供給した。ステージ140上のSiC基材表面にNd:YAGレーザ(照射強度85W)を180秒間(成膜時間(time20))照射し、SiC層を成膜した。成膜温度(t20)を1323Kとし、コールドウォール110内の炉内圧力を80Paとした。
次に、Al原料の加熱温度を438K、Si原料の加熱温度を350Kとし、それぞれの原料の気化物を、輸送ガス(Arガス)及びOガスとともに、原料供給部120から供給し、SiC層表面にNd:YAGレーザ(照射強度90W)を180秒間(成膜時間(time30))照射し、Al/Si比=5.0の中間層を成膜した。成膜温度(t30)を1323Kに制御し、コールドウォール110内の炉内圧力を200Paとした。
最後に、原料供給部120からAl原料(Al原料の加熱温度は438K)と輸送ガス(Arガス)及びOガスとを、コールドウォール110内に供給し、中間層表面にNd:YAGレーザ(照射強度90W)を180秒間(成膜時間(time40))照射し、被覆層を成膜した。成膜温度(t40)を1323Kとし、コールドウォール110内の炉内圧力を200Paとした。
以上の工程で、図1に示すような、基板10上に炭化ケイ素層20と、中間層30と、被覆層40とがこの順に積層されたセラミックス積層体を得た。得られたセラミックス積層体の断面の写真を図10に示す。
【0085】
図10に示すように、基板10上に炭化ケイ素層20と、中間層30と、被覆層40とがこの順に積層されていることが確認できた。各層は緻密に形成され、各層の界面では剥離や割れの発生がないことが確認できた。
エックス線回折(XRD)法及びエネルギー分散型X線分析(EDS)法から、被覆層40の構成材料は、γ-アルミナ(Al)であることが確認できた。
上述の測定方法によって求めた基板10のヤング率(E10)は、350GPaであった。炭化ケイ素層20のヤング率(E20)は、265GPaであった。中間層30のヤング率(E30)は、175GPaであった。被覆層40のヤング率(E40)は、200GPaであった。
【0086】
[比較例3]
SiC層を成膜する際のNd:YAGレーザの照射強度を95Wとし、中間層を成膜する際のNd:YAGレーザの照射強度を110W、成膜時間を180秒間とし、被覆層を成膜する際のNd:YAGレーザの照射強度を110Wとした以外は、比較例2と同様にしてセラミックス積層体を得た。
エックス線回折(XRD)法及びエネルギー分散型X線分析(EDS)法から、被覆層40の構成材料は、γ-アルミナ(Al)であることが確認できた。
上述の測定方法によって求めた基板10のヤング率(E10)は、350GPaであった。炭化ケイ素層20のヤング率(E20)は、268GPaであった。中間層30のヤング率(E30)は、213GPaであった。被覆層40のヤング率(E40)は、195GPaであった。
得られたセラミックス積層体を用いて、腐食試験を行った。腐食試験の結果を図11図12に示す。図11は、腐食試験前の被覆層表面の光学顕微鏡(倍率100倍)の写真である。図12は、腐食試験後の被覆層表面の光学顕微鏡(倍率100倍)の写真である。
【0087】
図12に示すように、炭化ケイ素層20のヤング率(E20)が、300GPa未満の比較例2及び比較例3は、被覆層40の表面が腐食し、エックス線回折(XRD)法及びエネルギー分散型X線分析(EDS)法から、被覆層40の構成材料が、べーマイト(AlOOH)に変化していることが確認できた。
【0088】
[比較例4]
図2に示すCVD装置100を用いて、SiC焼結体を基材として、SiC層(下地層)及びアルミニウムの酸化物を構成材料とする層(被覆層)を連続して積層した。Si原料及びAl原料は、実施例1と同様のものを使用した。
実施例1と同様のSiC基材を#1200で研削した後、673Kで予備加熱した。このSiC基材をコールドウォール110内のステージ140上に設置し、Si原料蒸気(Si原料の加熱温度は333K)を輸送ガス(Arガス)とともに、原料供給部120からコールドウォール110内に供給した。ステージ140上のSiC基材表面にファイバーレーザ(照射強度170W)を300秒間(成膜時間(time20))照射し、SiC層を成膜した。成膜温度(t20)を1323Kとし、コールドウォール110内の炉内圧力を400Paとした。
次に、Al原料の加熱温度を438K、Si原料の加熱温度を333Kとし、それぞれの原料の気化物を、輸送ガス(Arガス)及びOガスとともに、原料供給部120から供給し、SiC層表面にファイバーレーザ(照射強度160W)を180秒間(成膜時間(time30))照射し、Al/Si比=5.6の中間層を成膜した。成膜温度(t30)を1323Kに制御し、コールドウォール110内の炉内圧力を400Paとした。
最後に、原料供給部120からAl原料(Al原料の加熱温度は438K)と輸送ガス(Arガス)及びOガスとを、コールドウォール110内に供給し、中間層表面にファイバーレーザ(照射強度210~220W)を300秒間(成膜時間(time40))照射し、被覆層を成膜した。成膜温度(t40)を1423Kとし、コールドウォール110内の炉内圧力を400Paとした。
以上の工程で、図1に示すような、基板10上に炭化ケイ素層20と、中間層30と、被覆層40とがこの順に積層されたセラミックス積層体を得た。
エックス線回折(XRD)法及びエネルギー分散型X線分析(EDS)法から、被覆層40の構成材料は、γ-アルミナ(Al)であることが確認できた。
上述の測定方法によって求めた基板10のヤング率(E10)は、350GPaであった。炭化ケイ素層20のヤング率(E20)は、265GPaであった。中間層30のヤング率(E30)は、210GPaであった。被覆層40のヤング率(E40)は、300GPaであった。
得られたセラミックス積層体を用いて、腐食試験を行った。腐食試験の結果を図13に示す。なお、写真中の濃淡は、複数の視野を合成したことに起因するものである。
【0089】
図13に示すように、炭化ケイ素層20のヤング率(E20)が、300GPa未満の比較例4は、被覆層に割れの発生が確認され、被覆層が剥離し、下地のSiC基板の表面が露出していた。
【0090】
以上のように、本発明のセラミックス積層体及びセラミックス積層体の製造方法によれば、防食性を確実に発揮することができることが分かった。
【符号の説明】
【0091】
1…セラミックス積層体、10…基板、20…炭化ケイ素層、30…中間層、40…被覆層、100…CVD装置、110…コールドウォール、120…原料供給部、130…レーザ照射部、140…ステージ、142…支持台
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13