IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人国立高等専門学校機構の特許一覧 ▶ 独立行政法人産業技術総合研究所の特許一覧

特開2023-127863好熱菌のゲノム改変方法、ゲノム改変好熱菌の製造方法、及び好熱菌のゲノム編集キット
<>
  • 特開-好熱菌のゲノム改変方法、ゲノム改変好熱菌の製造方法、及び好熱菌のゲノム編集キット 図1
  • 特開-好熱菌のゲノム改変方法、ゲノム改変好熱菌の製造方法、及び好熱菌のゲノム編集キット 図2
  • 特開-好熱菌のゲノム改変方法、ゲノム改変好熱菌の製造方法、及び好熱菌のゲノム編集キット 図3
  • 特開-好熱菌のゲノム改変方法、ゲノム改変好熱菌の製造方法、及び好熱菌のゲノム編集キット 図4
  • 特開-好熱菌のゲノム改変方法、ゲノム改変好熱菌の製造方法、及び好熱菌のゲノム編集キット 図5
  • 特開-好熱菌のゲノム改変方法、ゲノム改変好熱菌の製造方法、及び好熱菌のゲノム編集キット 図6
  • 特開-好熱菌のゲノム改変方法、ゲノム改変好熱菌の製造方法、及び好熱菌のゲノム編集キット 図7
  • 特開-好熱菌のゲノム改変方法、ゲノム改変好熱菌の製造方法、及び好熱菌のゲノム編集キット 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023127863
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】好熱菌のゲノム改変方法、ゲノム改変好熱菌の製造方法、及び好熱菌のゲノム編集キット
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20230907BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
C12N15/09 110
C12N1/21 ZNA
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022031806
(22)【出願日】2022-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 善一郎
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】村上 克治
(72)【発明者】
【氏名】松鹿 昭則
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AB01
4B065AC20
4B065BA01
4B065CA55
(57)【要約】
【課題】CRISPR/Casシステムを利用して好熱菌ゲノムを改変する方法を提供する。
【解決手段】CRISPR/Casシステムによる好熱菌ゲノムの改変方法であって、リーダー配列、第1リピート配列、スペーサー配列、及び第2リピート配列が順に接続された構造を有する第1ポリヌクレオチドを好熱菌細胞に導入する導入工程を含み、好熱菌細胞に導入された第1ポリヌクレオチドにより誘導される内在性のRNA誘導型ヌクレアーゼにより、好熱菌ゲノムの標的配列を改変する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CRISPR/Casシステムによる好熱菌ゲノムの改変方法であって、
リーダー配列、第1リピート配列、スペーサー配列、及び第2リピート配列が順に接続された構造を有する第1ポリヌクレオチドを好熱菌細胞に導入する導入工程を含み、
好熱菌細胞に導入された前記第1ポリヌクレオチドにより誘導される内在性のRNA誘導型ヌクレアーゼにより、好熱菌ゲノムの標的配列を改変することを特徴とする好熱菌ゲノムの改変方法。
【請求項2】
外来性のRNA誘導型ヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドを好熱菌細胞に導入しないことを特徴とする請求項1に記載の好熱菌ゲノムの改変方法。
【請求項3】
前記スペーサー配列は、前記好熱菌ゲノム中のPAM(Proto-spacer Adjacent Motif)配列に基づいて決定され、
前記PAM配列は、前記標的配列の5’末端に位置し、かつ、5’-TTA-3’を含むことを特徴とする請求項2に記載の好熱菌ゲノムの改変方法。
【請求項4】
前記導入工程は、前記第1ポリヌクレオチドと前記標的配列を改変するための第2ポリヌクレオチドとを前記好熱菌細胞に導入することを特徴とする請求項2または3に記載の好熱菌ゲノムの改変方法。
【請求項5】
前記第1ポリヌクレオチドは、マーカー遺伝子を含むことを特徴とする請求項2~4のいずれか1つに記載の好熱菌ゲノムの改変方法。
【請求項6】
前記導入工程において、前記第1ポリヌクレオチドは前記好熱菌のゲノムの所定位置に導入されることを特徴とする請求項1~5のいずれか1つに記載の好熱菌ゲノムの改変方法。
【請求項7】
前記導入工程において、前記第1ポリヌクレオチドを含む発現ベクターが好熱菌細胞に導入されることを特徴とする請求項1~5のいずれか1つに記載の好熱菌ゲノムの改変方法。
【請求項8】
前記好熱菌は、モーレラ(Moorella)属細菌であることを特徴とする請求項1~7のいずれか1つに記載の好熱菌ゲノムの改変方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1つに記載の好熱菌ゲノムの改変方法による好熱菌の製造方法。
【請求項10】
CRISPR/Casシステムによる好熱菌ゲノムを改変するゲノム編集キットであって、
リーダー配列、第1リピート配列、スペーサー配列、及び第2リピート配列が順に接続された構造を有する第1ポリヌクレオチドを備え、かつ、外来性のRNA誘導型ヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドを含まず、
好熱菌細胞に導入された前記第1ポリヌクレオチドにより誘導される内在性のRNA誘導型ヌクレアーゼにより、好熱菌ゲノムの標的配列を改変することを特徴とするゲノム編集キット。
【請求項11】
前記スペーサー配列は、前記好熱菌ゲノム中のPAM(Proto-spacer Adjacent Motif)配列に基づいて決定され、
前記PAM配列は、前記標的配列の5’末端に位置し、かつ、5’-TTA-3’を含むことを特徴とする請求項10に記載のゲノム編集キット。
【請求項12】
前記第1ポリヌクレオチドは、マーカー遺伝子を含むことを特徴とする請求項10又は請求項11に記載のゲノム編集キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、好熱菌のゲノム改変方法、及びゲノム改変好熱菌の製造方法、及び好熱菌のゲノム編集キットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の原油価格の高騰や、地球温暖化を引き起こす温室効果ガスの一つであるCO排出削減への意識の高まりから、原油に代わる再生可能エネルギーとしてバイオマスの活用に注目が集まっている。その中で、微生物の発酵作用を利用して人の生活に伴って排出される食品廃棄物や汚泥等の有機性廃棄物から有価物を回収する技術の開発が進められている。例えば、微生物を用いて、有機性廃棄物から生分解性プラスチックの原料である乳酸を生産させたり(特許文献1)、廃糖蜜からのエタノールを生産させたり(特許文献2)などの試みが行われているが、まだ有価物の生産効率が十分でなく実用的なレベルには至っていない。
【0003】
このような課題に対し、微生物の遺伝子を組み換えることによって有価物の生産性を向上させる技術開発が行われている。遺伝子組換え技術において、近年ではゲノムDNA配列の任意の箇所を自在に改変できるゲノム編集技術が特に進展している。ゲノム編集によるゲノムの切断システムは複数あるが、効率性や操作性の点でCRISPR/Cas9が主流となっている(非特許文献1~2)。
【0004】
CRISPR/Casシステムは、原核生物において外来から侵入しようとするファージやプラスミドなどを特異的に認識し、排除する適応免疫機構として発見された(非特許文献3~4)。CRISPRは、リピート配列及びスペーサー配列の2種類のDNA配列の繰り返しによって構成される。リピート配列は、同一のCRISPR内において共通した配列である一方、スペーサー配列はそれぞれ特異的な配列を有している。CRISPRの上流には、リーダー配列と呼ばれる領域が存在し、さらに上流にはCRISPR-associated genes(cas遺伝子群)が存在する。CRISPR/Casシステムは、ファージなどの外来生物が浸入すると、Casタンパク質により、該外来生物のProto-spacer Adjacent Motif(PAM)配列を認識して、そのゲノムの一部を切り取って、CRISPR領域に取り込む(アダプテーション)。再度、同じ外来生物が侵入すると、CRISPR領域から転写されたcrRNAがこの外来ゲノムの相補的な配列を認識し、該crRNAと複合体を形成したCasタンパク質が外来ゲノムを切断し、排除する(インターフェアランス)。
【0005】
CRISPR/Cas9は、このような原核生物の適応免疫機構を利用して、比較的簡便に遺伝子操作できるように改良されたゲノム編集ツールである。CRISPR/Cas9システムは、ゲノムDNAのいずれかの鎖のプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)の直前に位置する標的配列に対応した標的認識配列を含むガイドRNA(gRNA)とCas9ヌクレアーゼ又はその変異体とを含む複合体を、細胞内のゲノムDNA中の標的部位に結合させることにより、その標的部位への変異(挿入、欠失、又は塩基置換など)の導入を促進する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10-313887号公報
【特許文献2】特開2015-173624号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Jinek M et al:(2012)Science,Vol.337(6096),pp.816-21
【非特許文献2】Le Cong et al:(2013)Science,Vol.339(6121),pp.819-23
【非特許文献3】Barrangou R et al:(2007)Science,Vol.315(5819),pp1709-12
【非特許文献4】Marraffini LA et al:(2008)Science,Vol.322(5909),pp1843-5
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
廃棄系バイオマスを分解して有価物を生産する微生物に、CRISPR/Cas9のようなゲノム編集により遺伝子操作を加えることで、有価物の生産性を向上させたり、該微生物が本来生産する有価物と種類の異なる有価物を生産させたりすることが可能となる。
【0009】
しかし、CRISPR/Cas9は、あらゆる条件または生物に対して適用できるわけではない。従来より使用されるCas9タンパク質は、化膿性連鎖球菌(ストレプトコッカス・ピオゲネス;Streptococcus pyogenes)由来のspCas9である。このspCas9のヌクレアーゼ活性の至適温度は37℃程度であるため、37℃以上の高温環境下で生育する好熱菌に対しては、このようなCas9タンパク質のヌクレアーゼ活性を十分に発揮させることができないという問題があった。
【0010】
本発明の目的は、かかる点に鑑みてなされたものであり、CRISPR/Casシステムを利用して好熱菌ゲノムを改変する方法、該方法によりゲノム改変された好熱菌の製造方法、及び好熱菌のゲノムを改変するゲノム編集キットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の態様は、CRISPR/Casシステムによる好熱菌ゲノムの改変方法であって、リーダー配列、第1リピート配列、スペーサー配列、及び第2リピート配列が順に接続された構造を有する第1ポリヌクレオチドを好熱菌細胞に導入する導入工程を含み、好熱菌細胞に導入された第1ポリヌクレオチドにより誘導される内在性のRNA誘導型ヌクレアーゼにより前記標的配列を改変することを特徴とする。
【0012】
本発明の第2の態様は、第1の態様の好熱菌ゲノムの改変方法による好熱菌の製造方法である。
【0013】
本発明の第3の態様は、CRISPR/Casシステムによる好熱菌ゲノムを改変するゲノム編集キットであって、リーダー配列、第1リピート配列、スペーサー配列、及び第2リピート配列が順に接続された構造を有する第1ポリヌクレオチドを有し、かつ、外来性のRNA誘導型ヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドを含まず、好熱菌細胞に導入された第1ポリヌクレオチドにより誘導される内在性のRNA誘導型ヌクレアーゼにより前記標的配列を改変することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ゲノム編集技術を用いて好熱菌のゲノムを改変できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、Y72株のゲノム上に存在するリーダー配列及びCRISPR Arrayの模式図である。
図2図2は、PAM候補配列からPAM配列を同定する方法を説明する図である。(A)は、PAM候補配列がY72株のPAM配列である場合を示す。(B)は、PMA候補配列がY72株のPAM配列でなかった場合を示す。
図3図3は、Y72-km株の塩基配列の一部の構成を説明する図である。
図4図4は、実施形態のゲノム改変方法を用いて、モーレラ属細菌のアルデヒドデヒドロゲナーゼ(aldh)遺伝子の切断を確認する方法を説明する図である。(A)は、aldh遺伝子の破壊株のDNA配列の構成を示す。(B)は、aldh遺伝子の非破壊株のDNA配列の構成を示す。
図5図5は、モーレラ属細菌のアルデヒドデヒドロゲナーゼ(aldh)遺伝子の配列を示す図である。
図6図6は、実施形態のゲノム改変方法を用いて、標的配列を切断したモーレラ属細菌のスクリーニング結果を示す。(A)は、モーレラ属細菌のアルデヒドデヒドロゲナーゼ(aldh)遺伝子の破壊株及び非破壊株を説明する図である。(B)は、aldh遺伝子の破壊株と非破壊株とを電気泳動により確認した結果を示す。
図7図7は、実施例2の第1ポリヌクレオチドのスペーサー配列を示す。PAM配列以下の30塩基(太字で表記)をスペーサー配列とした。
図8図8は、実施形態のゲノム改変方法を用いて、ドナーDNAが導入されたモーレラ属細菌のスクリーニング結果を示す。(A)は、ドナーDNAの挿入株及び非挿入株を説明する図である。(B)は、ドナーDNAの挿入株と非挿入株とを電気泳動により確認した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。また、以下に説明する各実施形態、変形例、その他の例等の各構成は、本発明を実施可能な範囲において、組み合わせたり、一部を置換したりできる。
【0017】
《実施形態》
(1)好熱菌ゲノムの改変方法の概要
本発明のCRISPR/Casシステムを用いた好熱菌ゲノムの改変方法は、好熱菌が有する内在性のRNA誘導型ヌクレアーゼを利用して、該好熱菌ゲノム中の標的配列を改変することにある。
【0018】
標的配列は、任意に選択される配列である。例えば、ある特定の遺伝子の改変を目的とする場合、標的配列は、該遺伝子のDNA配列の全部であってもよいし、一部であってもよい。標的配列の改変は、塩基配列の切断、欠失、置換、挿入などを含む。欠失は、標的配列の一部または全部の配列を対象とする。切断は、標的配列の両鎖であってもよいし、単鎖であってもよい。このように、本発明の好熱菌ゲノムの改変方法では、好熱菌ゲノムに含まれる遺伝子を特異的に不活化したり、他の遺伝子に置換したりすることができる。本発明の好熱菌ゲノムの改変方法について、以下具体的に説明する。
【0019】
(2)好熱菌
本発明の好熱菌は、41℃と122℃の間で生育でき、好適には45℃超から80℃の温度範囲で生育できる微生物である。本発明の好熱菌は、好熱性細菌または好熱性微生物と呼ぶ場合がある。好熱菌は、アンアエロバクター(Anaerobacter)属、アンアエロバクテリウム(Anaerobacterium)属、カルディセルロシルプター(Caldicellulosiruptor)属、クロストリジウム(Clostridium)属、モーレラ(Moorella)属、サーモアンアエロバクター(Thermoanaerobacter)属、サーモアンアエロバクテリウム(Thermoanaerobacterium)属、サーモブラキウム(Thermobrachium)属、サーモハロバクター(Thermohalobacter)属種を含むから選択される。本発明では、モーレラ(Moorella)属細菌が好熱菌として好適に使用される。
【0020】
(2-1)モーレラ属細菌
本発明のモーレラ属細菌は、モーレラ・サーモアセティカ(Moorella thermoacetica)、モーレラ・サーモオートトロフィカ(M.thermoautotrophica)、モーレラ・グリセリニ(M.glycerini)もしくはモーレラ・ムルデリ(M.mulderi)に分類される細菌、または細菌分類学的にモーレラ属に分類される細菌であれば特に限定されない。
【0021】
モーレラ属細菌は、廃棄物バイオマスから有用物質の生産する宿主として利用される。モーレラ属細菌は、至適生育温度が55~60℃で、糖およびH-COから酢酸を生産する。酢酸は、C1化合物としてはメタノールに次ぐ生産量があり、その用途は、化学、食品、医薬品の分野に使用され、産業上重要な化合物である。
【0022】
好ましいモーレラ属細菌としては、広島県の畑由来の土壌サンプルから所定の方法により単離したY72株である。Y72株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(NPMD)(千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 NITEバイオテクノロジー本部 特許微生物寄託センター)に平成24年8月30日付で寄託されている。Y72株の受託番号はNITE P-1412である。
【0023】
ここで、細菌分類学的にモーレラ(Moorella)属に分類される細菌とは、IJSEM(International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology)誌にモーレラ(Moorella)属として発表された細菌またはバージェイズ・マニュアル(De Vos, Paul、外7名編、"Bergey's Manual of Systematic Bacteriology"、第2版、第3巻、米国、シュプリンガー、2009年)に従って分類した場合にモーレラ属に分類することが適当であると認められる細菌をいう。
【0024】
本実施形態において、本発明のゲノム改変方法によりゲノム改変を行ったモーレラ属細菌は、形態、生産物、その他の表現形質が種の定義に合致しない場合であっても、モーレラ属細菌と同種とみなされる。
【0025】
(3)CRISPR/Casシステム
本発明のCRISPR/Casシステムは、I型~III型のうちI型が好適に使用される。本実施形態のCRISPR/Casシステムは、モーレラ属細菌の内在性のRNA誘導型ヌクレアーゼを用いて、該モーレラ属細菌のゲノム中の標的配列を改変する。内在性のRNA誘導型ヌクレアーゼは、crRNAにより誘導される。crRNAは、モーレラ属細菌に導入された第1ポリヌクレオチドにより産生される。本発明では、外来性のRNA誘導型ヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドを好熱菌細胞に導入しない。
【0026】
(3-1)第1ポリヌクレオチド
第1ポリヌクレオチドは、5’末端から3’末端に向かってリーダー配列とCRISPRアレイとが接続された構造を有する。CRISPRアレイは、スペーサー配列とリピート配列とが交互に繰り返し接続された構造を有する。具体的には、スペーサー配列の5’末端側及び3’末端側のそれぞれにリピート配列が接続される。
【0027】
本実施形態のCRPISRアレイでは、5’末端から3’末端に向かって第1リピート配列、スペーサー配列、及び第2リピート配列が順に接続されている。このように、本例の第1ポリヌクレオチドは、リーダー配列、第1リピート配列、スペーサー配列、及び第2リピート配列が順に接続された構造を有する。以下では、第1リピート配列と第2リピート配列とを総称してリピート配列と呼ぶ場合がある。
【0028】
リーダー配列の鎖長は、特に限定されないが、本実施形態では、455塩基である。本実施形態の第1リピート配列と第2リピート配列とは同一の配列である。第1リピート配列及び第2リピート配列の鎖長は、特に限定されないが、本実施形態では、30塩基である。
【0029】
スペーサー配列の鎖長は、特に限定されないが、例えば、10~60塩基、好ましくは20~50塩基、より好ましくは25~40塩基、さらに好ましくは32~37塩基である。スペーサー配列は、好熱菌細胞のゲノムDNA中の標的配列に相補的なcrRNA(詳細は後述する)が生成される程度に、該標的配列との相同性を有していればよい。具体的には、スペーサー配列は、標的配列と75%以上の相同性を有する。好ましくは、スペーサー配列は、標的配列と80%以上の相同性を有する。さらに好ましくは、スペーサー配列は、標的配列と85%以上の相同性を有する。さらに好ましくは、スペーサー配列は、標的配列と90%以上の相同性を有する。さらに好ましくは、スペーサー配列は、標的配列と92%以上の相同性を有する。さらに好ましくは、スペーサー配列は、標的配列と94%以上の相同性を有する。さらに好ましくは、スペーサー配列は、標的配列と96%以上の相同性を有する。さらに好ましくは、スペーサー配列は、標的配列と98%以上の相同性を有する。最も好ましくは、スペーサー配列は、標的配列と100%の相同性を有する。
【0030】
本発明の第1ポリヌクレオチドは、マーカー遺伝子を含む。マーカー遺伝子は、例えば薬剤耐性遺伝子である。薬剤耐性遺伝子により、形質転換されなかった細胞株は、該薬剤が添加された培地では生存できないため、形質転換された細胞株のみをセレクションできる。マーカー遺伝子は、リーダー配列の5’末端側に接続される。マーカー遺伝子は、CRISPRアレイの3’末端側に接続されてもよい。本実施形態のマーカー遺伝子は、pyrF遺伝子である(詳細は後述する)。
【0031】
(3-2)crRNA
モーレラ属細菌内に導入された第1ポリヌクレオチドにより、crRNAが産生される。crRNAは、ゲノムDNA上の標的配列に結合し、RNA誘導型ヌクレアーゼを標的配列に誘導するために用いるRNAである。
【0032】
crRNAが特異的に結合する標的配列は、ゲノムのいずれかの鎖のPAM(Proto-spacer Adjacent Motif)配列の直後に位置するように設計することができる。crRNAは、そのような標的配列に対応した標的認識配列(RNA配列)を含む。crRNAはゲノムDNA中の標的配列の相補鎖配列とRNA-DNA塩基対形成により結合する。
【0033】
(3-3)内在性RNA誘導型ヌクレアーゼ
内在性RNA誘導型ヌクレアーゼは、好熱菌細胞のゲノムに存在するCas遺伝子群(CRISPR-associated genes)から発現されるタンパク質である。内在性RNA誘導型ヌクレアーゼは、好熱菌細胞に導入された第1ポリヌクレオチドによりCas遺伝子群から発現されるCasタンパク質であれば特に限定されないが、第1ポリヌクレオチドにより誘導される内在性RNA誘導型ヌクレアーゼの一例として、Cas3タンパク質が挙げられる。Cas3タンパク質は、crRNAと複合体を形成し、標的配列まで誘導される。Cas3タンパク質は、crRNAが認識し相補的に結合した標的配列(標的部位)を特異的に切断する。
【0034】
(4)好熱菌ゲノムの改変方法
本発明のCRISPR/Casシステムによる好熱菌ゲノムの改変方法は、第1ポリヌクレオチドを好熱菌細胞に導入する導入工程を含む。本発明の導入工程において、第1ポリヌクレオチドは好熱菌のゲノムの所定位置に導入される。
【0035】
導入工程は、エレクトロポレーション法によって行うことが好適である。エレクトロポレーション法は、電気穿孔法とも呼ばれ、電気パルスにより細胞膜に微小な穴を一時的に開け、第1ポリヌクレオチドを直接的に導入する手法である。第1ポリヌクレオチドは、直鎖状として好熱菌細胞に導入されてもよいし、所定のプラスミドに組み込んだ環状として好熱菌細胞に導入されてもよい。
【0036】
本実施形態では、第1ポリヌクレオチドは、所定のプラスミドに組込まれて、モーレラ属細菌に導入される。モーレラ属細菌に導入された第1ポリヌクレオチドは、ゲノムの所定位置に相同組換えにより挿入される。この場合、一対のホモロジーアーム(Homology Arm;HA)の一方が第1ポリヌクレオチドの5’末端側に付加され、他方が第1ポリヌクレオチドの3’末端側に付加される。具体的には、一対のホモロジーアームは、ゲノム上の所望の挿入位置を挟んで上流領域及び下流領域と相補的な配列に設計される。一対のホモロジーアームは、第1ポリヌクレオチドが組み込まれる前のプラスミド等に予め設けられていてもよいし、第1ポリヌクレオチドに一対のホモロジーアームを付加した後にプラスミドに組み込まれてもよい。
【0037】
(5)実施例1
以下、実施例1に基づいて本発明を具体的に説明する。実施例1では、標的配列の切断を目的として好熱菌ゲノムの改変を行う。なお、本発明はこれらに限定されるものではない。本実施例では、モーレラ属細菌であるモーレラspY72株(以下、Y72株、又はY72細胞と呼ぶ場合がある)を本発明の好熱菌細胞とした。
【0038】
(5-1)PAM候補配列の探索
スペーサー配列は、好熱菌ゲノム中のPAM(Proto-spacer Adjacent Motif)配列に基づいて決定される。本例では、Y72株のPAM配列を特定するために、Y72株のPAM配列の候補となるPAM候補配列を探索した。
【0039】
はじめに、Y72株のCRISPRアレイを探索した。Y72株の全ゲノム情報をもとに繰り返し配列を探索したところ、特定の30塩基(GTTTGAAGCCTACCTATGAGGGATGGAAAC:配列番号1)の繰り返し配列が確認されたため、この繰り返し配列をY72株のリピート配列と推定し、このリピート配列を含む配列をY72株のCRISPRアレイとした。図1に示すようにY72株のCRISPRアレイには、96個のスペーサー配列が含まれることが確認された。
【0040】
これら96個のスペーサー配列のそれぞれについてBLAST検索を行い、外来遺伝子と高い相同性を示すスペーサー配列を探索した。なお、スペーサー配列のミスマッチの許容範囲は5塩基以内とした。
【0041】
表1に示すように、BLAST検索により9番目のスペーサーについて比較的高い相同性を示す外来遺伝子由来の配列が3つ確認された。
【0042】
【表1】
【0043】
表1に示す下線はミスマッチの塩基を示す。このことにより、この3つの配列がプロトスペーサー配列であると仮定し、これらの5’末端側、及び3’末端側の5塩基をY72株におけるPAM候補配列とした。
【0044】
具体的には、5’末端側のPAM候補配列を、5’-TATAA-3’(配列番号6)、5’-GATGA-3’(配列番号8)、及び、5’-GATTA-3’(配列番号10)とし、3’末端側のPAM候補配列を、5’-GTGTT-3’ (配列番号7)、5’-GAGTG-3’(配列番号9)、及び5’-GGGTG-3’(配列番号11)とした。
【0045】
(5-2)プラスミドの構築
次に、上記PAM候補配列のうち、いずれのPAM候補配列がY72株の内在性のCRIPR/Casシステムに認識されるか検討を行った。
【0046】
本検討の概略について図2を用いて説明する。各PAM候補配列とプロトスペーサーとを有するプラスミドを構築して、該プラスミドをY72株に導入する。そしてY72株のCRISPR/Casシステムに正しく認識されるPAM候補配列を有するプラスミドはY72株の内在性のRNA誘導型ヌクレアーゼにより切断されて、該プラスミドの一部のDNA配列のY72株ゲノムへの組み込みが阻害される(図2(A))。一方Y72株のCRISPR/Casシステムに正しく認識されないPAM候補配列を有するプラスミドであれば、Y72株の内在性のRNA誘導型ヌクレアーゼにより切断されず、該プラスミドの一部のDNA配列が相同組換えによりY72株ゲノムへ組み込まれる(図2(B))。このように、プラスミドの組換え効率を確認することで、上記PAM候補配列からY72株のCRISPR/Casシステムに認識されるPAM配列を特定できる。
【0047】
表2に示すように、11種類のプラスミドについて検討を行った。具体的に説明すると、プロトスペーサー配列の5’末端側と3’末端側にPAM候補配列を付加したプラスミド(No.1~No.3)、プロトスペーサー配列の5’末端側にPAM候補配列を付加したプラスミド(No.4~No.6)、プロトスペーサー配列の3’末端側にPAM候補配列を付加したプラスミド(NO.7~No.9)、プロトスペーサー配列の5’末端側に5’-ATTA(配列番号49)を付加したプラスミド(No.10)、プロトスペーサー配列の5’末端側に5’-TTA(配列番号50)を付加したプラスミド(No.11)である。以下、各プラスミドの作製について説明する。
【0048】
【表2】
【0049】
(5-2-1)pUC19-pyrF72、及びppyrF-spacer-blankの作製
上記11種類のプラスミドは、ppyrF-spacer-blankをベースとして作製される。ppyrF-spacer-blankは、pUC19DNAに、Y72株のpyrF遺伝子(ピリミジン塩基生合成経路遺伝子の1つ)を挿入したプラスミド(以下、pUC19-pyrF72と呼ぶ)のpyrF下流にプロトスペーサー配列(CGGTATCAAGGCCGCCTATATGGTCCTCATGGGGAT:配列番号2)を付加することで作製される。pUC19-pyrF72は、In-Fusion Cloning HD Kit(Clontech社製)を用いて、pUC19のマルチクローニングサイトにY72株のpyrF遺伝子(配列番号12)を含む周辺3kbpを挿入することで作製される。pyrF遺伝子は、本実施形態のマーカー遺伝子である。
【0050】
具体的には、表3に示したpyrF72-up-in-F(配列番号15)と、pyrF72-dn-in-R(配列番号16)との組み合わせを用いて、表4に示す反応液の組成で、表5に示す条件でPCRを行い、pyrF遺伝子周辺領域の約2.7kbpを増幅した。テンプレートDNAは、Y72株の全DNAである。PCRには、KOD One(TOYOBO社製)に含まれるものを用いた。
【0051】
In-Fusion Cloning HD Kit (Clontech社製)のプロトコルに従い、制限酵素SmaIで処理したpUC19DNAに、表6に示す反応液の組成で得られたPCRフラグメントを挿入することよって、pUC19-pyrF72を得た。
【0052】
ppyrF-spacer-blankは、KOD Plus mutagenesis Kit (TOYOBO社製)を用いて作製した。具体的には、表3に示したpyrF-spacer-F(配列番号17)と、pyrF-spacer-R(配列番号18)との組み合わせを用いて、表7に示す反応液の組成で、表8に示す条件でインバースPCRを行った。テンプレートDNAは、pUC19-pyrF72である。その後、得られたPCR産物をセルフライゲーションによりppyrF-spacer-blankを得た。なお、インバースPCRのPCR酵素にはKOD One(TOYOBO社製)を用いた。それ以外は、KOD Plus mutagenesis Kitのプロトコルに従った。このppyrF-spacer-blankを用いて上述した11種類のプラスミドを作製した。
【0053】
【表3】
【0054】
【表4】
【0055】
【表5】
【0056】
【表6】
【0057】
【表7】
【0058】
【表8】
【0059】
(5-2-2)ppyrF-spacer-5’-A
表2に示すように、ppyrF-spacer-5’-Aは、ppyrF-spacer-blankのプロトスペーサー配列に5’-TATAAが付加されたプラスミドである。KOD Plus mutagenesis Kit(TOYOBO社製)を用いてプラスミドの作製を行った。以下の(6-2-3)~(6-2-12)のプラスミドの作製についても同様に、KOD Plus mutagenesis Kitを用いた。
【0060】
具体的に、表3に示したY72spacer-5pamA-F(配列番号19)と、pyrF-dn1bp-R(配列番号22)との組み合わせを用いて、表7に示す反応液の組成で、表8に示す条件でインバースPCRを行った。テンプレートDNAは、ppyrF-spacer-blankである。その後、得られたPCR産物をセルフライゲーションによりppyrF-spacer-5’-Aを得た。
【0061】
(5-2-3)ppyrF-spacer-5’-B
表2に示すように、ppyrF-spacer-5’-Bは、ppyrF-spacer-blankのプロトスペーサー配列に5’-GATGAが付加されたプラスミドである。具体的に、表3に示したY72spacer-5pamB-F(配列番号20)と、pyrF-dn1bp-R(配列番号22)との組み合わせを用いて、表7に示す反応液の組成で、表8に示す条件でインバースPCRを行った。テンプレートDNAは、ppyrF-spacer-blankである。その後、得られたPCR産物をセルフライゲーションによりppyrF-spacer-5’-Bを得た。
【0062】
(5-2-4)ppyrF-spacer-5’-C
表2に示すように、ppyrF-spacer-5’-Cは、ppyrF-spacer-blankのプロトスペーサー配列に5’-GATTAが付加されたプラスミドである。具体的に、表3に示したY72spacer-5pamC-F(配列番号21)と、pyrF-dn1bp-R(配列番号22)との組み合わせを用いて、表7に示す反応液の組成で、表8に示す条件でインバースPCRを行った。テンプレートDNAは、ppyrF-spacer-blankである。その後、得られたPCR産物をセルフライゲーションによりppyrF-spacer-5’-Cを得た。
【0063】
(5-2-5)ppyrF-spacer-3’-A
表2に示すように、ppyrF-spacer-3’-Aは、ppyrF-spacer-blankのプロトスペーサー配列にGTGTT-3’が付加されたプラスミドである。具体的に、表3に示したpyrF-dn2bp-F(配列番号23)とY72spacer-3pamA-R(配列番号24)との組み合わせを用いて、表7に示す反応液の組成で、表8に示す条件でインバースPCRを行った。テンプレートDNAは、ppyrF-spacer-blankである。その後、得られたPCR産物をセルフライゲーションによりppyrF-spacer-3’-Aを得た。
【0064】
(5-2-6)ppyrF-spacer-3’-B
表2に示すように、ppyrF-spacer-3’-Bは、ppyrF-spacer-blankのプロトスペーサー配列にGAGTG-3’が付加されたプラスミドである。具体的に、表3に示したpyrF-dn2bp-F(配列番号23)とY72spacer-3pamB-R(配列番号25)との組み合わせを用いて、表7に示す反応液の組成で、表8に示す条件でインバースPCRを行った。テンプレートDNAは、ppyrF-spacer-blankである。その後、得られたPCR産物をセルフライゲーションによりppyrF-spacer-3’-Bを得た。
【0065】
(5-2-7)ppyrF-spacer-3’-C
表2に示すように、ppyrF-spacer-3’-Cは、ppyrF-spacer-blankのプロトスペーサー配列にGGGTG-3’が付加されたプラスミドである。具体的に、表3に示したpyrF-dn2bp-F(配列番号23)とY72spacer-3pamC-R(配列番号26)との組み合わせを用いて、表7に示す反応液の組成で、表8に示す条件でインバースPCRを行った。テンプレートDNAは、ppyrF-spacer-blankである。その後、得られたPCR産物をセルフライゲーションによりppyrF-spacer-3’-Cを得た。
【0066】
(5-2-8)ppyrF-spacer-flank-A
表2に示すように、ppyrF-spacer-flank-Aは、ppyrF-spacer-blankのプロトスペーサー配列に5’-TATAA及びGTGTT-3’が付加されたプラスミドである。具体的に、表3に示したpyrF-dn2bp-F(配列番号23)とY72spacer-3pamA-R(配列番号24)とのプライマーセットを用いて、表7に示す反応液の組成で、表8に示す条件でインバースPCRを行った。テンプレートDNAは、ppyrF-spacer-5’-Aである。その後、得られたPCR産物をセルフライゲーションによりpyrF-spacer-flank-Aを得た。
【0067】
(5-2-9)ppyrF-spacer-flank-B
表2に示すように、ppyrF-spacer-flank-Bは、ppyrF-spacer-blankのプロトスペーサー配列に5’-GATGA及びGAGTG-3’が付加されたプラスミドである。具体的に、表3に示したpyrF-dn2bp-F(配列番号23)とY72spacer-3pamB-R(配列番号25)との組み合わせを用いて、表7に示す反応液の組成で、表8に示す条件でインバースPCRを行った。テンプレートDNAは、ppyrF-spacer-5’-Bである。その後、得られたPCR産物をセルフライゲーションによりpyrF-spacer-flank-Bを得た。
【0068】
(5-2-10)ppyrF-spacer-flank-C
表2に示すように、ppyrF-spacer-flank-Cは、ppyrF-spacer-blankのプロトスペーサー配列に5’-GATTA及びGGGTG-3’が付加されたプラスミドである。具体的に、表3に示したpyrF-dn2bp-F(配列番号23)とY72spacer-3pamC-R(配列番号26)との組み合わせを用いて、表7に示す反応液の組成で、表8に示す条件でインバースPCRを行った。テンプレートDNAは、ppyrF-spacer-5’-Cである。その後、得られたPCR産物をセルフライゲーションによりpyrF-spacer-flank-Cを得た。
【0069】
(5-2-11)ppyrF-spacer-5’-C-4nt
表2に示すように、ppyrF-spacer-5’-C-4ntは、ppyrF-spacer-blankのプロトスペーサー配列に5’-ATTAが付加されたプラスミドである。具体的に、表3に示した5pamC-4nt-F(配列番号27)と、pyrF-dn1bp-R(配列番号22)との組み合わせを用いて、表7に示す反応液の組成で、表8に示す条件でインバースPCRを行った。テンプレートDNAは、ppyrF-spacer-5’-Cである。その後、得られたPCR産物をセルフライゲーションによりpyrF-spacer-flank-Cを得た。
【0070】
(5-2-12)ppyrF-spacer-5’-C-3nt
表2に示すように、ppyrF-spacer-5’-C-3ntは、ppyrF-spacer-blankのプロトスペーサー配列に5’-TTAが付加されたプラスミドである。具体的に、表3に示した5pamC-3nt-F(配列番号28)と、pyrF-dn1bp-R(配列番号22)との組み合わせを用いて、表7に示す反応液の組成で、表8に示す条件でインバースPCRを行った。テンプレートDNAは、ppyrF-spacer-5’-Cである。その後、得られたPCR産物をセルフライゲーションによりppyrF-spacer-5’-C-3ntを得た。
【0071】
(5-3)PAM配列の同定
続いてY72株の内在性のCRISPR/Casシステムに認識されるPAM配列の同定を行った。具体的には、上記(5-2-2)~(5-2-12)で作製した11種類のプラスミドをY72-km株にそれぞれ導入して、各プラスミドのゲノムへの組換え効率を検討したY72-km株は、Y72株の変異株である。
【0072】
図3に示すようにY72-km株は、Y72株のpyrF遺伝子をグリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素(G3PD)プロモーターが融合されたカナマイシン耐性遺伝子kanに置換した株であるY72-km株は、Kitaらの方法(Kita et al.:Isolation of Thermophilic Acetogens and Transformation of Them with the pyrF and kanr Genes. Biosci. Biotechnol. Biochem. 77(2): 301-306,2013)に基づいて作製された。なお、この方法は、特開2014-076003号公報にも記載されている。
【0073】
CRISPR/Casシステムに認識されないPAM候補配列を有するプラスミドであれば、該プラスミドのpyrF遺伝子配列からプロトスペーサー配列までの領域は、相同組換えによりY72-km株のkan遺伝子と置換され、Y72-km株のゲノム内に組み込まれる。一方、CRISPR/Casシステムに認識されるPAM候補配列を有するプラスミドであれば、該プラスミドは消化されてしまうため、Y72-km株のゲノム内に組み込まれない。このように、上記各プラスミドについてY72-km株の形質転換効率を比較することで、どのPAM候補配列がY72株のPAM配列であるかを把握できる。
【0074】
(5-3-1)各プラスミドの形質転換効率の検討
上述した11種類の各プラスミドをY72-km株に以下の手順で導入し、形質転換効率を算出した。
【0075】
Y72―km株は表9に示す完全合成培地にフルクトースが終濃度2g/lになるように加えた培地を用いて、嫌気的にOD600=0.1~0.5程度まで培養した。培養液20mlを集菌し、溶存酸素をNガスで置換した272mMスクロースで2回洗浄した。
【0076】
洗浄した菌体にOD600が約1.0になるように272mMスクロースを適当な量を加えて懸濁し、菌体懸濁液400μlに各プラスミドを2μg加えた。Gene Pulser XcellTM エレクトロポレーションシステム(バイオ・ラッド ラボラトリーズ)、および電極間距離(ギャップ)0.2cmのエレクトロポレーションキュベット(バイオ・ラッド ラボラトリーズ)を用いて、1.5kV、500Ω、50μFの条件でエレクトロポレーションを行った。
【0077】
エレクトロポレーション後の菌体懸濁液を完全合成培地5mlに2g/lのフルクトースを加えた培地を用いて嫌気的に2日間培養した。2日間培養後の培養液全量を用いてロールチューブを作製し、5日間培養した。培養後のロールチューブに形成された全コロニー数を数えて、2μgのプラスミドを用いているので形質転換効率=全コロニー数/2とした。形質転換は合計で3回行い、その3回の平均値から形質転換効率を求めた。
【0078】
【表9】
【0079】
【表10】
【0080】
【表11】
【0081】
表12に示すように、プロトスペーサ―配列の5’末端側に5’-TTA-3’の配列があると、Y72-km株の形質転換は生じないことがわかった。このことにより、Y72株のPAM配列は、プロトスペーサー配列の5’側にある5’-TTA-3’(配列番号50)であることがわかった。
【0082】
【表12】
【0083】
(5-4)内在性CRIPR/Casシステムを用いた遺伝子の破壊
次に、同定された上記のPAM配列に基づいてY72株の遺伝子の破壊について検討を行った。本検討では、対象遺伝子をアルデヒドデヒドロゲナーゼ(aldh)遺伝子(配列番号13)とした。
【0084】
本検討の概略について図4を用いて説明する。aldh遺伝子の一部の配列をスペーサー配列として、pyrF遺伝子の下流にリーダー配列、第1リピート配列、スペーサー配列、及び第2リピート配列を順に付加した配列を第1ポリヌクレオチドとする(以下では、スペーサー配列をspacer、リーダー配列をleader、第1リピート配列及び第2リピート配列をrepeatと呼ぶ場合がある)。この第1ポリヌクレオチドを付加したプラスミド(以下、pY72CRISPR-daldhと呼ぶ)と、aldh遺伝子の上流1kbpと下流1kbpとを連結させたフラグメント(以下、daldhフラグメントと呼ぶ)とをY72-km株に共導入する。
【0085】
ここでY72-km株のゲノム中のaldh遺伝子が相同組換えによってdaldhフラグメントに置換されたY72-km株をaldh破壊株(図4の(A))とし、Y72-km株のゲノム中のaldh遺伝子がdaldhフラグメントに置換されなかったY72-km株をaldh非破壊株(図4の(B))とするY72-km株に導入されたpY72CRISPR-daldhが相同組換えによりゲノムの所定の位置に組み込まれると、aldh非破壊株では、CRISPR/Casシステムによりaldh遺伝子を対象とした標的部位が切断されるため、aldh非破壊株の生育は阻害される。一方、aldh破壊株では、aldh遺伝子は変異しているため標的領域は切断されず生育できる。従って、このようなセレクションにより、Y72-km株の破壊株をスクリーニングできる。以下、本検討について具体的に説明する。
【0086】
(5-4-1)pY72CRISPR-daldhの構築
図5に示すように、このaldh遺伝子内のTTA(図5内の下線)から下流36塩基をプロトスペーサー配列(配列番号22)とした。決定したプロトスペーサー配列に基づいて、pY72CRISPR-daldhを構築した。
【0087】
具体的に、表3に示したlead-in-F(配列番号29)と、lead-sp-R(配列番号30)とのプライマーセット、及び、term-sp-F(配列番号31)、及びterm-R(配列番号32)とのプライマーセットを用いて、表13に示す反応液の組成で、表14に示す条件でPCRを行った。テンプレートDNAは、Y72株の全DNAである。なお、このPCRで使用した試薬は、KOD One(TOYOBO社製)である。
【0088】
【表13】
【0089】
【表14】
【0090】
その後、得られた2種類のPCR産物と、lead-in-F(配列番号29)及びterm-R(配列番号32)のプライマーセットとを用いて、SOE-PCRを行い、1つのDNA断片Aを得た。SOE―PCRでは、表15の反応液組成と表17の条件でPCRを行った後、表15のPCR産物にプライマーを加えた表16の反応液を作製し表18の条件で再度PCRを行ってDNA断片Aを得た。このSOE-PCRで使用した試薬は、KOD One(TOYOBO社製)である。
【0091】
【表15】
【0092】
【表16】
【0093】
【表17】
【0094】
【表18】
【0095】
さらに、pyrF-dn-F(配列番号33)と、pyrF-R(配列番号34)とのプライマーセットを用いて、表7に示す反応液の組成で、表8に示す条件でインバースPCRを行った。テンプレートDNAは、DNA断片A及びpUC19-pyrF72である。このインバースPCRにより増幅して得られた線状化ベクターは、第1ポリヌクレオチドを含む。この線状化ベクターを、In-Fusion Cloning HD Kit (Clontech社製)を用いてpUC19に挿入し、pY72CRISPR-daldhを得た。
【0096】
(5-4-2)pUC19-daldhフラグメントの構築
Y72株の全DNAを鋳型として、Y72aldh-up-in-F(配列番号35)と、Y72aldh-up-in-R(配列番号36)のプライマーセット及びY72aldh-dn-in-F(配列番号37)と、Y72aldh-dn-in-R(配列番号38)のプライマーセットを用いて、表19に示す反応液組成で、表20に示す条件でそれぞれaldhの上流側約1kbpと下流側約1kbpをPCR増幅した。PCRにはKOD One(TOYOBO社製)を使用した。得られたPCR産物を制限酵素Sma1により切断されたpUC19に、In-Fusion Cloning HD Kit (Clontech社) を用いて、クローニングし、pUC19-daldhを得た。このpUC19-daldhを鋳型にY72aldh―1000up―F(配列番号39)とY72aldh―600dn―R(配列番号40)のプライマーセットを用いて表21に示す反応液組成で、表22に示す条件でPCRを行い、pUC19-daldhフラグメントを得た。
【0097】
【表19】
【0098】
【表20】
【0099】
【表21】
【0100】
【表22】
【0101】
(5-4-3)Y72-km株への導入
pY72CRISPR-daldh及びpUC19-daldhフラグメントのY72-km株へ共導入した。Y72―km株は表9に示す完全合成培地にフルクトースが終濃度2g/lになるように加えた培地を用いて、嫌気的にOD600=0.1~0.5程度まで培養した。培養液20mlを集菌し、溶存酸素をNガスで置換した272mMスクロースで2回洗浄した。
【0102】
洗浄した菌体にOD600が約1.0になるように272mMスクロースを適当な量を加えて懸濁し、菌体懸濁液400μlにpY72CRISPR-daldhを4μg、pUC19-daldhフラグメントを2μg加えた。Gene Pulser XcellTM エレクトロポレーションシステム(バイオ・ラッド ラボラトリーズ社製)、および電極間距離(ギャップ)0.2cmのエレクトロポレーションキュベット(バイオ・ラッド ラボラトリーズ社製)を用いて、1.5kV、500Ω、50μFの条件でエレクトロポレーションを行った。
【0103】
エレクトロポレーション後の菌体懸濁液を完全合成培地5mlに2g/lのフルクトースを加えた培地を用いて嫌気的に2日間培養した。2日間培養後の培養液全量を用いてロールチューブを作製し、5日間培養した。
【0104】
(5-4-4)aldh破壊株のスクリーニング
ここで、チミン、シトシンおよびウラシル等のピリミジン塩基は、ウリジル酸を中心に相互変換されるため、ピリミジン塩基生合成経路遺伝子の1つであるpyrF遺伝子を有するY72-km株は、ウラシル非要求性であるのに対し、pyrF遺伝子を有さないY72-km株は、ウラシル要求性となる。本例では、pY72CRISPR-daldhが相同組換えによりY72-km株のゲノムに組み込まれたY72-km株は、ウラシル非要求性となる一方、pY72CRISPR-daldhがY72-km株のゲノムに組み込まれなかったY72-km株は、ウラシル要求性となる。従って、ウラシル不含の培地では、pY72CRISPR-daldhがY72-km株のゲノムに組み込まれなかったY72-km株は生育できないため、pY72CRISPR-daldhが組込まれたY72-km株のみをスクリーニングできる。
【0105】
さらに、上述したようにaldh非破壊株では、pY72CRISPR-daldhがゲノムに組み込まれると、内在性のCasヌクレアーゼによりaldhを標的として所定のDNA配列が切断されるため、生育できないが、aldh破壊株は、Y72-km株のaldh遺伝子が変異しているため、pY72CRISPR-daldhがゲノムに組み込まれても、DNA配列は切断されず生育できる。このように、二重の選択圧をかけることで、pY72CRISPR-daldhが組み込まれたY72-km株のうちaldh破壊株のみのスクリーニングを行うことができる。
【0106】
ウラシル不含の寒天培地に形成されたコロニーのうち16個をピックして、aldh遺伝子を対象としたPCR産物を電気泳動した。図6(A)に示すように、aldh非破壊株では1.6kbp、aldh破壊株では1.2kbpにバンドが出現するようにプライマーを設計した。具体的には、ピックアップしたコロニーを20μlのTE Buffer(pH8.0)に懸濁し、98℃で10分間熱処理したサンプルをPCRの鋳型とした。Y72aldh-sq-F(配列番号41)とY72aldh―600dn―R(配列番号40)のプライマーセットを用いて表23に示す反応液組成で、表24に示す条件でPCRを行った。PCRで使用した試薬は、KOD One(TOYOBO社製)である。
【0107】
【表23】
【0108】
【表24】
【0109】
その結果、図6(B)に示すように、16株中12株が目的のaldh非破壊株であることが確認された。すなわち、aldh非破壊株は、第1ポリヌクレオチドにより誘導された内在性のRNAヌクレアーゼによって、aldh遺伝子が破壊された結果、ウラシル不含の寒天培地上にはaldh遺伝子の破壊株の方が多くコロニーを形成したことがわかった。このように、本実施形態の好熱菌ゲノムの改変方法によると、モーレラ属細菌のゲノム中の標的配列を切断できる。加えて、本実施形態の好熱菌ゲノムの改変方法によると、第1ポリヌクレオチドをモーレラ属細菌に導入することにより、内在性のRNA誘導型ヌクレアーゼによってゲノムが改変されたモーレラ属細菌の製造方法として利用できる。
【0110】
(6)実施例2
以下、実施例2に基づいて本発明を具体的に説明する。実施例2では、標的配列への塩基挿入を目的として好熱菌ゲノムの改変、及びゲノムが改変された好熱菌の製造を行う。以下では、実施例1と異なる構成について説明する。
【0111】
本例の導入工程は、第1ポリヌクレオチドと標的配列を改変するための第2ポリヌクレオチドとを好熱菌細胞に導入する工程である。第2ポリヌクレオチドは、ユーザーにより任意に設計される。例えば、第2ポリヌクレオチドは、標的配列の切断部位の上流領域及び下流領域に相補的に結合して、切断部位の間に塩基が挿入されるように設計されてもよいし、標的配列の切断部位の上流領域及び下流領域を相同組換えによって置換されるように設計されてもよい。第2ポリヌクレオチドは、第1ポリヌクレオチドと共に好熱菌細胞に導入されてもよいし、第1ポリヌクレオチドとは別のタイミングで好熱菌細胞に導入されてもよい。第2ポリヌクレオチドの配列長は、特に限定されないが、1000bp~10000bp、好ましくは、1500bp~5000bp、より好ましくは、2000bp~3000bpである。
【0112】
このように、本例のCRISPR/Casシステムによる好熱菌ゲノムの改変方法では、第2ポリヌクレオチドの所定のDNA配列が内在性RNAヌクレアーゼにより切断された標的配列に挿入される。以下、具体的に説明する。
【0113】
(7)内在性CRISPR/Casシステムを利用したG3PDプロモーター挿入株の作製
第2ポリヌクレオチドとして挿入する遺伝子を、Y72株のゲノムからPCRにより取得したglyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase(G3PD)遺伝子のプロモーターを含む上流約0.3kbpとした(配列番号14)。このG3PD遺伝子のプロモーターをaldh遺伝子の上流1000bpとaldh遺伝子で挟み込んだDNA断片を第2ポリヌクレオチドとした。
【0114】
具体的に、まずY72株の全DNAを鋳型にY72G3PDpro-F(配列番号42)とY72G3PD-pro-R-OE(配列番号43)のプライマーセット及びY72-aldh-F-OE(配列番号44)とY72aldh-R(配列番号45)のプライマーセットを用いて、表25の反応液組成で、表26に示す条件でPCRを行った。得られた2つのPCR産物をY72G3PDpro-F(配列番号42)とY72aldh-in-R(配列番号46)のプライマーセットを用いて、SOE-PCRにより一つのDNA断片Bとした。
【0115】
具体的には、表27の反応液組成と表29の条件でPCRを行った後、表27のPCR産物にプライマーを加えた表28の反応液を作製し、表30の条件で再度PCRを行ってDNA断片Bを得た。このDNA断片Bと、Y72株の全DNAを鋳型にY72aldh-1000up-in-F(配列番号47)とY72aldhup-G3PD-in-R(配列番号48)のプライマーセットを用いて表25の反応液組成で、表30の条件でPCRをして得られたDNA断片を制限酵素Sma1により切断されたpUC19に、In-Fusion Cloning HD Kit (Clontech社) を用いて、クローニングし、pUC19-G3PD-aldhを得た。
【0116】
このpUC19-G3PD-aldhを鋳型に、Y72aldh-1000up-F(配列番号39)とY72aldh-R(配列番号45)のプライマーセットを用いて、表25の反応液組成で、表30の条件でPCRを行い、第2ポリヌクレオチドを得た。これらのPCRで使用した試薬は、KOD One(TOYOBO社製)である。
【0117】
【表25】
【0118】
【表26】
【0119】
【表27】
【0120】
【表28】
【0121】
【表29】
【0122】
【表30】
【0123】
図7に示すように、本例のスペーサー配列はaldh遺伝子の開始コドン(GTG)を含むように設計した(配列番号44)。これにより、第1ポリヌクレオチドが組み込まれたY72-km株では、内在性のRNAヌクレアーゼにより標的配列であるaldh遺伝子の所定の位置が切断され、第1ポリヌクレオチドと共導入されたドナーDNA(第2ポリヌクレオチド)が切断された部位に挿入される。本例に用いた第1ポリヌクレオチドは、上記実施例1と同様の方法で作製し、第1ポリヌクレオチド及び第2ポリヌクレオチドをY72株に共導入した。
【0124】
ドナーDNAが挿入された目的の変異株についてスクリーニングを行った。スクリーニングの方法は上述した通りである。ウラシル非含有の寒天培地に形成された複数のコロニーから12株をピックし、各株についてコロニーPCRを行った。
【0125】
図8(A)に示すように、ドナーDNA非挿入株では1.0kbp、ドナーDNA挿入株では1.3kbpにバンドが出現するようにプライマーを設計した。具体的に、ピックアップしたコロニーを20μlのTE Buffer(pH8.0)に懸濁し、98℃で10分間熱処理したサンプルをPCRの鋳型とした。Y72aldh-sq-F(配列番号41)とY72aldh―600dn―R(配列番号40)のプライマーセットを用いて表19に示す反応液組成で、表20に示す条件でPCRを行った。PCRで使用した試薬は、KOD One(TOYOBO社製)である。
【0126】
その結果、12株のうちレーン10の株が元の1.0kbpから0.3kbp長い1.3kbpになっており、目的の変異株であることが確認された。このように、本例の好熱菌のゲノム改変方法によって、モーレラ属細菌のゲノムの標的部位にドナーDNAを挿入できることが確認された。加えて、第1ポリヌクレオチドと第2ポリヌクレオチドをモーレラ属細菌に導入することにより、ゲノム中の標的配列に所望のドナーDNAが導入されたモーレラ属細菌を製造できる。
【0127】
(8)特徴
(8-1)特徴1
本実施形態のCRISPR/Casシステムによる好熱菌ゲノムの改変方法は、リーダー配列、第1リピート配列、スペーサー配列、及び第2リピート配列が順に接続された構造を有する第1ポリヌクレオチドを好熱菌細胞に導入する導入工程を含む。導入された第1ポリヌクレオチドにより誘導される内在性のRNA誘導型ヌクレアーゼにより標的配列を改変する。
【0128】
本実施形態によると、内在性のRNA誘導型ヌクレアーゼを利用するため、モーレラ属細菌のような比較的温度が高い環境下で生育する好熱菌に対しても、ゲノム編集により標的配列の改変を行うことができる。このように好熱菌に対して比較的精度の高いゲノム改変を行うことができる。
【0129】
(8-2)特徴2
本実施形態のCRISPR/Casシステムによる好熱菌ゲノムの改変方法では、外来性のRNA誘導型ヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドを好熱菌細胞に導入しない。このことにより、外来性のRNA誘導型ヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドを用意する必要がないため、好熱菌のゲノム編集を比較的簡便に行うことができる。
【0130】
(8-3)特徴3
本実施形態のCRISPR/Casシステムによる好熱菌ゲノムの改変方法では、PAM配列は、標的配列の5’末端に位置し、かつ、5’-TTA-3’を含む。このことにより、好熱菌であるモーレラ属細菌のY72株のゲノム編集による標的配列の改変効率を確実に高めることができる。
【0131】
(8-4)特徴4
本実施形態のCRISPR/Casシステムによる好熱菌ゲノムの改変方法では、導入工程において、第1ポリヌクレオチドと標的配列を改変するための第2ポリヌクレオチドとを好熱菌細胞に導入する。これにより、内在性RNAヌクレアーゼにより切断された標的配列の所定の箇所に第2ポリヌクレオチドの一部を挿入できる。その結果、目的遺伝子のノックインを行うことができる。
【0132】
(8-5)特徴5
本実施形態のCRISPR/Casシステムによる好熱菌ゲノムの改変方法では、第1ポリヌクレオチドは、マーカー遺伝子を含む。マーカー遺伝子により、第1ポリヌクレオチドがゲノム中に組み込まれたポジティブの変異株をスクリーニングできる。その結果、例えば寒天培地上に生えてくるネガティブ株のコロニー数を抑えることができ、比較的簡便に目的の変異株を取得できる。
【0133】
(8-6)特徴6
本実施形態のCRISPR/Casシステムによる好熱菌ゲノムの改変方法では、導入工程において、第1ポリヌクレオチドは好熱菌細胞のゲノムの所定位置に導入される。第1ポリヌクレオチドがゲノムに組み込まれるため、比較的安定してcrRNAを誘導できる結果、内在性RNAヌクレアーゼを長期的に発現させることができる。
【0134】
(9)その他の実施形態
上記実施形態については、以下のような構成としてもよい。
【0135】
第1ポリヌクレオチドは、リーダー配列とCRISPRアレイとから構成されてもよい。例えば、第1ポリヌクレオチドは、5’末端から3’末端にかけて、リーダー配列、第1リピート配列、スペーサー配列、及び第2リピート配列が順に接続されたDNA配列のみから構成されてもよい。また、第1ポリヌクレオチドは、5’末端から3’末端にかけて、リーダー配列、第1リピート配列、スペーサー配列、及び第2リピート配列が順に接続されたDNA配列と、マーカー遺伝子とから構成されてもよい。
【0136】
第2ポリヌクレオチドの塩基配列の長さは特に限定されず、所定の遺伝子配列の全てを含む長さであってもよい。この場合、該所定の遺伝子を好熱菌ゲノム内に導入することができる結果、導入された遺伝子を発現できる。このように導入する遺伝子を選択することできるため、所望の有価物を生産する好熱菌を製造することができる。
【0137】
導入工程において、所定の発現ベクターに付加した第1ポリヌクレオチドを好熱菌に導入してもよい。これにより、第1ポリヌクレオチドはゲノム内に組み込まれず、一過性にRNA誘導型ヌクレアーゼを誘導できる。
【0138】
第1ポリヌクレオチドを有するCRISPR/Casシステムによる好熱菌ゲノムを改変するゲノム編集キットとしてもよい。この場合、該キットは、外来性のRNA誘導型ヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドを含まない。このキットを使用することで、ユーザーは簡便に好熱菌のゲノム編集を行うことができる。
【0139】
加えて、前記キットに含まれる第1ポリヌクレオチドのスペーサー配列は、5’-TTA-3’を含むPAM配列に基づいて設計されてもよい。このことにより、Y72株に対する本キットによるゲノム編集効率を確実に向上できる。
【0140】
加えて、前記キットに含まれる第1ポリヌクレオチドには、マーカー遺伝子を含んでもよい。このことにより、目的のポジティブの変異株とネガティブの株とのスクリーニングを比較的簡便に行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0141】
以上説明したように、本発明は、好熱菌のゲノム改変方法、ゲノム改変好熱菌の製造方法、及び好熱菌のゲノム編集キットについて有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
2023127863000001.app