(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023127894
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】炭化珪素単結晶およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/36 20060101AFI20230907BHJP
H01L 21/205 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
C30B29/36 A
H01L21/205
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022031847
(22)【出願日】2022-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(71)【出願人】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀合 慧祥
(72)【発明者】
【氏名】岡本 武志
(72)【発明者】
【氏名】神田 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】星乃 紀博
(72)【発明者】
【氏名】別役 潔
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 功穂
(72)【発明者】
【氏名】土田 秀一
(72)【発明者】
【氏名】金村 ▲高▼司
【テーマコード(参考)】
4G077
5F045
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077AB01
4G077BE08
4G077EG22
4G077HA06
5F045AA03
5F045AB06
5F045AC01
5F045AC07
5F045AC13
5F045AC15
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5F045DP05
5F045DP28
5F045DQ04
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5F045EC02
5F045EC05
5F045EK06
5F045EK22
5F045EK26
5F045EM10
(57)【要約】
【課題】品質の良いSiCデバイスの製造に適したSiC単結晶およびその製造方法を提供する。
【解決手段】加熱容器9内の少なくとも一部が2500℃以上となる環境で、SiおよびCを含有するSiC原料ガスを供給することでSiC単結晶6を成長させる際に、径方向温度条件が温度分布ΔT≦10[℃]を満たすようにする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス供給法による炭化珪素単結晶の製造方法であって、
反応室を構成する中空形状の加熱容器(9)内に種結晶(5)を配置することと、
前記種結晶の表面に炭化珪素原料ガスを含む供給ガス(3a)を供給すると共に、前記加熱容器内の少なくとも一部が2500℃以上となる環境とすることで、前記種結晶の表面上に炭化珪素単結晶(6)を成長させることと、を含み、
前記炭化珪素単結晶を成長させることでは、前記炭化珪素単結晶の成長前における前記種結晶の表面および成長中における前記炭化珪素単結晶の成長面において、前記種結晶および前記炭化珪素単結晶のうち中心軸(C)を中心とした径方向での温度分布ΔTが、ΔT≦10[℃]を満たす径方向温度条件となるようにして、前記炭化珪素単結晶を成長させる、炭化珪素単結晶の製造方法。
【請求項2】
前記炭化珪素単結晶を成長させることの後の前記種結晶内の基底面転位密度が、前記炭化珪素単結晶を成長させることの前の基底面転位密度が増加しない、請求項1に記載の炭化珪素単結晶の製造方法。
【請求項3】
前記炭化珪素単結晶を成長させることでは、前記供給ガスにn型ドーパントとなるN源を含めることなくキャリアガスを導入して行う、請求項1または2に記載の炭化珪素単結晶の製造方法。
【請求項4】
前記炭化珪素単結晶を成長させることでは、前記供給ガスにn型ドーパントとなるN源に加えてキャリアガスを導入して行う、請求項1または2に記載の炭化珪素単結晶の製造方法。
【請求項5】
前記炭化珪素単結晶を成長させることでは、前記供給ガスにp型ドーパントとなるAl源もしくはB源に加えてキャリアガスを導入して行う、請求項1または2に記載の炭化珪素単結晶の製造方法。
【請求項6】
種結晶(5)と該種結晶の上に成長させた炭化珪素単結晶であって、
成長させた前記炭化珪素単結晶は、前記種結晶よりも基底面転位密度が少なく、かつ、前記種結晶から離れる方向に沿って基底面転位密度が小さくなっている、炭化珪素単結晶。
【請求項7】
一面側がSi面、他面側がC面とされ、該C面側を成長面とする種結晶(5)の表面に成長させられた炭化珪素単結晶であって、
前記C面側の方が前記Si面側よりも、基底面転位密度が小さくなっている、炭化珪素単結晶。
【請求項8】
5×1018cm-3以上のn型不純物が含まれている、請求項6または7に記載の炭化珪素単結晶。
【請求項9】
BPD密度が1000個/cm2以下、キャリアライフタイムが5ns以下、金属不純物濃度となるAlが1×1011atm/cm3以下、Bが1×1011atm/cm3以下、Tiが7×1012atm/cm3以下、Vが5×1012atm/cm3以下となっている、請求項6ないし8のいずれか1つに記載の炭化珪素単結晶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、炭化珪素(以下、SiCという)単結晶およびSiC単結晶の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、SiC単結晶で構成された種結晶の成長面上にSiC原料ガスを供給し、種結晶の上にSiC単結晶を結晶成長させている。そして、このようにして得たSiC単結晶のインゴットをウェハ状にスライスして、SiCデバイスの製造に用いている。
【0003】
SiCデバイスの品質に影響を与える項目としてSiC基板の転位密度がある。上記したように、種結晶の表面上への結晶成長により長尺なSiC単結晶を得ているが、成長初期の不純物による転位生成、結晶の温度分布により発生する応力や種結晶を取付ける台座と種結晶との熱的性質の違いにより発生する応力による転位生成などが生じる。このため、成長後に得られるインゴットはSiC単結晶の成長方向に対して基底面転位(以下、BPDという)密度が増大してしまう。
【0004】
このため、従来では、BPDに転位し得る貫通転位抑制のための結晶温度分布や応力の制御を行っている。例えば、特許文献1では、種結晶の劣化が種結晶の熱分解、特に種結晶の外側周辺部の熱分解により発生するマクロ欠陥に起因することを課題として、厚さ2.0mm以上とした厚い種結晶を用いるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1は昇華法によりSiC単結晶を成長させるものであり、昇華法より高温でSiC単結晶を成長させるガス成長法では熱分解によるエッチングの影響が更に大きくなる。このため、種結晶の厚みを2mm以上にしただけでは、SiC単結晶の成長条件制御のロバスト性が不十分で、所望のBPD密度のSiC単結晶を得ることができない。
【0007】
本開示は、品質の良いSiCデバイスの製造に適したSiC単結晶およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の1つの観点におけるガス供給法によるSiC単結晶の製造方法では、
反応室を構成する中空形状の加熱容器(9)内に種結晶(5)を配置することと、
種結晶の表面に炭化珪素原料ガスを含む供給ガス(3a)を供給すると共に、加熱容器内の少なくとも一部が2500℃以上となる環境とすることで、種結晶の表面上に炭化珪素単結晶(6)を成長させることと、を含み、
炭化珪素単結晶を成長させることでは、炭化珪素単結晶の成長前における種結晶の表面および成長中における炭化珪素単結晶の成長面において、種結晶および炭化珪素単結晶のうち中心軸(C)を中心とした径方向での温度分布ΔTが、ΔT≦10[℃]を満たす径方向温度条件となるようにして、炭化珪素単結晶を成長させる。
【0009】
このように、加熱容器内の少なくとも一部が2500℃以上となる環境で、SiおよびCを含有するSiC原料ガスを供給することでSiC単結晶を成長させる際に、径方向温度条件が温度分布ΔT≦10[℃]を満たすようにしている。つまり、成長に伴ってSiC単結晶の厚さが変化するが、どの厚さにおいても、SiC単結晶の径方向での温度差が10℃以下となるようにしている。これにより、SiC単結晶の成長中に、種結晶やSiC単結晶の基底面に発生する剪断応力τを1.4[MPa]以下にできる。よって、BPD密度を増加させないようにすることが可能となり、品質の良いSiCデバイスの製造に適したSiC単結晶にできる。
【0010】
本開示のもう1つの観点は、種結晶(5)の表面に成長させられたSiC単結晶であって、種結晶側において種結晶よりもBPD密度が少なく、かつ、種結晶から離れる方向に沿ってBPD密度が小さくなっている。
【0011】
このように、SiC単結晶が種結晶よりもBPD密度が少なく、かつ、種結晶から離れる方向に沿ってBPD密度が小さくなっていれば、成長が進むほど、より品質の良いSiCデバイスの製造に適したSiC単結晶にできる。
【0012】
本開示のさらにもう1つの観点は、種結晶(5)の表面に成長させられたSiC単結晶であって、種結晶は、一面側がSi面、他面側がC面とされ、該C面側を成長面としてSiC単結晶が成長させられており、SiC単結晶は、C面側の方がSi面側よりも、BPD密度が小さくなっている。
【0013】
このように、SiC単結晶のうちC面側の方がSi面側よりもBPD密度が小さくなっていれば、成長が進むほど、より品質の良いSiCデバイスの製造に適したSiC単結晶にできる。
【0014】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】第1実施形態にかかるSiC単結晶の製造に用いる製造装置の概略断面図である。
【
図2】種結晶およびSiC単結晶の中心軸を中心とした径方向温度分布ΔTを示した図である。
【
図3】温度分布ΔTと種結晶もしくはSiC単結晶の基底面に発生する剪断応力τ[MPa]との関係を示した図である。
【
図4】SiC単結晶の成長の初期の段階と、成長を終えた後での種結晶中のBPD密度の変化を示した図である。
【
図5】SiC単結晶の成長方向でのBPD密度の変化を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0017】
(第1実施形態)
まず、本実施形態にかかるSiC単結晶の製造に用いるSiC単結晶製造装置について説明する。
【0018】
図1に示すSiC単結晶製造装置1は、長尺成長によってSiC単結晶インゴットを製造するのに用いられるものであり、
図1の紙面上下方向が天地方向に向くようにして設置される。
【0019】
具体的には、SiC単結晶製造装置1は、ガス供給口2を通じてガス供給源3からのSiC原料ガスを含む供給ガス3aを流入させると共に、ガス排出口4を通じて未反応ガスを排出することで、SiC単結晶基板からなる種結晶5上にSiC単結晶6を成長させる。
【0020】
SiC単結晶製造装置1には、ガス供給源3、真空容器7、断熱材8、加熱容器9、台座10、回転引上機構11および第1、第2加熱装置12、13が備えられている。
【0021】
ガス供給源3は、SiおよびCを含有するSiC原料ガス、例えばシラン等のシラン系ガスとプロパン等の炭化水素系ガスの混合ガスを少なくとも含む供給ガス3aを筒状のガス供給口2より供給する。このガス供給源3等により、種結晶5に対して下方からSiC原料ガスを供給するガス供給機構が構成されている。
【0022】
ガス供給源3は、供給ガス3aとして、少なくともSiC原料ガスの供給を行えればよいが、キャリアガスを共に供給することで、SiC原料ガスを希釈して流速を高めたり、原料ガス濃度を調整したりすることなども可能である。また、キャリアガスに加えて、もしくはキャリアガスに代えてエッチングガスを供給することもできる。エッチングガスを供給すれば、SiC原料ガスの流速や濃度の調整に加えて、付着させたくない場所への副生成物の付着を抑制することが可能となる。キャリアガスとしては、例えばHe、Arなどの不活性ガスを用いることができ、エッチングガスとしては、例えばH2やHClなどを用いることができる。さらに、成長させるSiC単結晶6にドーパントを導入する場合には、例えばN2(窒素)のようなn型ドーパントとなるN源を導入することもできる。勿論、N源のようなn型ドーパントに限らず、p型ドーパントとなるAl(アルミニウム)源やB(ホウ素)源を導入することもできる。
【0023】
真空容器7は、石英ガラスなどで構成され、中空部を有する筒形状、本実施形態の場合は円筒形状をなしており、供給ガス3aの導入導出が行える構造とされている。また、真空容器7は、SiC単結晶製造装置1の他の構成部品を収容すると共に、その収容している内部空間の圧力を真空引きすることにより減圧できる構造とされている。この真空容器7の底部に供給ガス3aのガス供給口2が設けられ、側壁の上方位置にガス排出口4が設けられている。
【0024】
断熱材8は、中空部を有する筒形状、本実施形態の場合は有底円筒形状をなしており、真空容器7に対して同軸的に配置されている。断熱材8は、真空容器7よりも径が縮小された円筒形状部分を有し、真空容器7の内側に配置されることで、断熱材8の内側の空間から真空容器7側への伝熱を抑制している。断熱材8は、例えば黒鉛のみ、もしくは、表面をTaC(炭化タンタル)やNbC(炭化ニオブ)などの高融点金属炭化物にてコーティングした黒鉛などで構成され、熱エッチングされにくいものとされている。
【0025】
断熱材8は、底部の中心部に、底部を貫通する導入孔8aが形成されており、導入孔8aがガス供給口2に繋げられ、ガス供給口2から導入された供給ガス3aが導入孔8aを通じて断熱材8内に導かれるようになっている。
【0026】
加熱容器9は、反応容器となる坩堝を構成するものであり、中空部を有する筒形状、本実施形態の場合は有底円筒形状で構成されている。加熱容器9の中空部により、種結晶5の表面にSiC単結晶6を成長させる反応室を構成している。加熱容器9は、例えば黒鉛のみ、もしくは、表面をTaCやNbCなどの高融点金属炭化物にてコーティングした黒鉛などで構成され、熱エッチングされにくいものとされている。この加熱容器9は、台座10を囲むように配置されている。この加熱容器9により、ガス供給口2からの供給ガス3aを種結晶5に導くまでに、SiC原料ガスを分解している。
【0027】
加熱容器9は、底部の中心部に、底部を貫通する導入孔9aが形成されており、導入孔9aがガス供給口2や導入孔8aに繋げられ、ガス供給口2や導入孔8aから導入された供給ガス3aが導入孔9aを通じて加熱容器9内に導かれるようになっている。
【0028】
台座10は、種結晶5を設置するための部材である。台座10は、種結晶5が設置される一面が種結晶5の形状と対応する形状、台座10の中心軸が加熱容器9の中心軸や後述する回転引上機構11のシャフト11aの中心軸と同軸となるように配置されている。本実施形態の場合、台座10を種結晶5と同じ径の円柱形状部材で構成することで、種結晶5が設置される一面が円形状とされている。台座10は、例えば黒鉛のみ、もしくは、表面をTaCやNbCなどの高融点金属炭化物にてコーティングした黒鉛などで構成され、熱エッチングされにくいものとされている。
【0029】
この台座10のガス供給口2側の一面に、種結晶5が貼り付けられ、種結晶5の表面にSiC単結晶6が成長させられる。また、台座10は、種結晶5が配置される面と反対側の面においてシャフト11aに連結されており、シャフト11aの回転に伴って回転させられ、シャフト11aが引き上げられることに伴って紙面上方に引き上げ可能となっている。
【0030】
回転引上機構11は、パイプ材などで構成されるシャフト11aを介して台座10の回転および引上げを行う。シャフト11aは、本実施形態では上下に伸びる直線状で構成されており、一端が台座10のうちの種結晶5の貼付面と反対側の面に接続されており、他端が回転引上機構11の本体に接続されている。このシャフト11aも、例えば黒鉛のみ、もしくは、表面をTaCやNbCなどの高融点金属炭化物にてコーティングした黒鉛などで構成され、熱エッチングされにくいものとされている。このような構成により、台座10、種結晶5およびSiC単結晶6の回転および引き上げが行え、SiC単結晶6の成長面が所望の温度分布となるようにしつつ、SiC単結晶6の成長に伴って、その成長表面の温度を成長に適した温度に調整できるようになっている。
【0031】
第1、第2加熱装置12、13は、例えば誘導加熱用コイルや直接加熱用コイルなどの加熱コイルによって構成され、真空容器7の周囲を囲むように配置されていて、加熱容器9の加熱を行う。本実施形態の場合、第1、第2加熱装置12、13を誘導加熱用コイルによって構成している。これら第1、第2加熱装置12、13は、対象場所をそれぞれ独立して温度制御できるように構成されており、第1加熱装置12は、加熱容器9に対応した位置に配置され、第2加熱装置13は、台座10と対応した位置に配置されている。したがって、第1加熱装置12によって加熱容器9の下方部分の温度を制御して、SiC原料ガスを加熱して分解することができる。また、第2加熱装置13によって台座10や種結晶5およびSiC単結晶6の周囲の温度をSiC単結晶6の成長に適した温度に制御することができる。なお、ここでは、加熱装置を第1、第2加熱装置12、13によって構成したが、第1加熱装置12のみとしても良いし、これらの配置場所を適宜変更しても良い。
【0032】
このようにして、本実施形態にかかるSiC単結晶製造装置1が構成されている。続いて、本実施形態にかかるSiC単結晶製造装置1を用いたSiC単結晶6の製造方法について説明する。
【0033】
まず、台座10の一面に種結晶5を貼り付ける。種結晶5としては、一面側がSi面、その反対面となる他面側がC面、より詳しくは(000-1)C面に対して4°もしくは8°などの所定のオフ角を有するオフ基板を用意している。そして、Si面側を台座10に向け、台座10と反対側となるSiC単結晶6の成長面側をC面側として、台座10に貼り付ける。
【0034】
続いて、加熱容器9内に台座10および種結晶5を配置する。そして、第1、第2加熱装置12、13を制御し、加熱容器9を加熱することで所望の温度分布を付ける。すなわち、供給ガス3aに含まれるSiC原料ガスが加熱分解されて種結晶5の表面に供給され、かつ、種結晶5の表面においてSiC原料ガスが再結晶化されつつ、加熱容器9内において再結晶化レートよりも昇華レートの方が高くなるような温度分布とする。具体的には、加熱容器9内の少なくとも一部が2500℃以上となる環境とする。例えば、加熱容器9の底部の温度を2800±100℃程度、種結晶5の表面の温度を2500±100℃程度とする。
【0035】
さらに、真空容器7を所望圧力にしつつ、ガス供給口2を通じてSiC原料ガスを含む供給ガス3aを導入する。シランなどのシラン系ガスや炭化水素系ガスが温度に合わせた分圧となるようにしている。また、必要に応じてHeやArなどの不活性ガスによるキャリアガスやH
2やHClなどのエッチングガスを導入し、流速や原料ガス濃度を調整して、副生成物が生成し難くなる条件となるようにしている。これにより、供給ガス3aが
図1中の矢印で示したように流動して種結晶5に供給され、供給ガス3a中に含まれる原料ガスにより、種結晶5の表面にSiC単結晶6が成長させられる。
【0036】
そして、回転引上機構11により、シャフト11aを介して台座10や種結晶5およびSiC単結晶6を回転させつつ、SiC単結晶6の成長レートに合せて引上げる。これにより、SiC単結晶6の成長表面の高さがほぼ一定に保たれ、成長表面温度の温度分布を制御性良く制御することが可能となる。
【0037】
ここで、SiC単結晶を成長させる際に、成長前の種結晶5の温度分布や成長中のSiC単結晶の成長表面での温度分布について、種結晶5やSiC単結晶6の中心軸Cを中心とした径方向での温度分布ΔTが、ΔT≦10℃を満たすようにしている。以下、このような種結晶5やSiC単結晶6の中心軸Cを中心とした径方向での温度分布ΔTの条件を径方向温度条件という。なお、種結晶5やSiC単結晶6の中心軸Cとは、SiC単結晶6の成長方向、本実施形態の場合は
図1の上下方向を法線方向とする平面において種結晶5やSiC単結晶6の中心を通り、かつ、SiC単結晶6の成長方向に沿う軸線のことを言う。
【0038】
上記したように、従来では、昇華法において種結晶の厚みを2.0mm以上とすることで熱分解による外周部での種結晶の消失を抑制しているが、昇華法よりも高温でSiC単結晶を成長させるガス成長法では成長条件制御のロバスト性が不十分である。勿論、本実施形態においても、種結晶5の厚みを2.0mm以上にすることは有効であるが、SiC単結晶6が成長して厚さが増加していくどの段階でもSiC単結晶6に働く応力を低減することがBPD密度を減少させる上で重要である。また、SiC単結晶6を成長させる際に発生する応力により種結晶5中のBPD密度が増加してしまい、これがSiC単結晶6のBPD密度の増加の一因になっているが、SiC単結晶6の成長中にも種結晶5中のBPD密度の増加を抑制することが必要である。
【0039】
本発明者らの鋭意検討の結果、成長前の種結晶5の温度分布や成長中のSiC単結晶の成長表面での温度分布について、上記した径方向温度条件を満たすようにしてSiC単結晶6を成長させると、SiC単結晶6のBPD密度の増加を抑制できることが判った。
【0040】
例えば、種結晶5の外径寸法をRとし、温度分布ΔTの測定対象位置での径寸法をrとして、成長前の種結晶5の温度分布や成長中のSiC単結晶の成長表面での温度分布についてシミュレーションを行った。温度分布ΔTは、r/Rを底とする指数関数として、ΔT=(r/R)
mの数式で表される。実際に種結晶5の表面にSiC単結晶6を成長させたときの成長形状から算出した温度分布にフィッティングする指数mを求め、その指数mを用いて温度分布ΔTを算出した。ここでは、実温度分布にフィッティングする指数mが4であったため、m=4として温度分布ΔTを算出した。その結果、温度分布ΔTが
図2に示すグラフで表されることが確認された。なお、この温度分布ΔTは、種結晶5の直径が10.16cm(4インチ)である場合の例を示したものであるが、この寸法でない場合であっても同様の分布になる。
【0041】
この図に示されるように、SiC単結晶の成長前での種結晶5の温度分布ΔTや成長中のSiC単結晶の成長表面での種結晶5やSiC単結晶6の中心軸Cを中心とした径方向での温度分布ΔTは、中心軸Cからの距離に依存する。つまり、中心軸Cからある程度近い位置では概ね中心軸Cと同等の温度になるが、中心軸Cからずれると中心軸Cの温度からずれる。より詳しくは、温度分布ΔTは、中心軸Cからずれるほど中心軸Cの温度からのずれが大きくなる。
【0042】
この温度分布ΔTと種結晶5もしくはSiC単結晶6の基底面に発生する剪断応力τ[MPa]との関係を調べたところ、
図3に示すグラフで表されることが確認された。この図に示されるように、温度分布ΔTが10[℃]を超えると、剪断応力τ>1.4[MPa]になった。試作検討により、種結晶5もしくはSiC単結晶6の基底面に発生する剪断応力τが1.4[MPa]を超えると、BPD密度が増加していくことが判った。このため、剪断応力τ≦1.4[MPa]の関係を満たすようにすること、つまり径方向温度条件が温度分布ΔT≦10[℃]を満たしていることがBPD密度を増加させないようにするのに必要である。
【0043】
したがって、シミュレーションによりこの条件を満たすようにSiC単結晶製造装置1を設計することで、BPD密度の増加を抑制してSiC単結晶6を成長させることができる。温度分布ΔTの決定要因には、SiC単結晶製造装置1のうち、ガス琉の方向や流速、第1、第2加熱装置12、13による加熱形態などもあるが、これらはあまり大きな要因ではなく、特に加熱容器9や断熱材8の形状が大きいことを確認している。このため、加熱容器9や断熱材8の形状を調整し、径方向温度条件が温度分布ΔT≦10[℃]を満たすようにすることで、種結晶5やSiC単結晶6の外周部分においても剪断応力τ≦1.4[MPa]の関係を満たすことが可能となる。これにより、BPD密度の増加を抑制してSiC単結晶6を成長させられる。
【0044】
以上説明したように、加熱容器9内の少なくとも一部が2500℃以上となる環境で、SiおよびCを含有するSiC原料ガスを供給することでSiC単結晶6を成長させる際に、径方向温度条件が温度分布ΔT≦10[℃]を満たすようにしている。つまり、成長に伴ってSiC単結晶6の厚さが変化するが、どの厚さにおいても、SiC単結晶6の径方向での温度差が10℃以下となるようにしている。
【0045】
これにより、SiC単結晶6の成長中に、種結晶5やSiC単結晶6の基底面に発生する剪断応力τを1.4[MPa]以下にできる。よって、BPD密度を増加させないようにすることが可能となり、品質の良いSiCデバイスの製造に適したSiC単結晶6にできる。そして、このようにして得たSiC単結晶6をスライスすれば、BPD密度を抑制したSiCウェハを得ることができる。また、種結晶5は一面側がSi面、他面側をC面として、Si面が台座10側に向けられ、C面がSiC単結晶6の成長面とされるが、得られたSiC単結晶6やSiCウェハについては、Si面よりもC面の方がBPD密度が減少した状態になる。つまり、種結晶5の表面から成長したSiC単結晶6は、種結晶5側となるSiC単結晶6の成長初期の位置で種結晶5よりもBPD密度が低下したのち、SiC単結晶6の成長方向、つまり種結晶5から離れる方向に沿ってBPD密度が増加しない。そして、好ましくは、SiC単結晶6の成長が進むにつれてBPD密度が減少し、その後もBPD密度が増加せずにSiC単結晶6を成長させられる。このような構成になっていれば、成長が進むほど、より品質の良いSiCデバイスの製造に適したSiC単結晶6にできる。
【0046】
このようにしてSiC単結晶6を成長させてインゴットを得た場合において、SiC単結晶6の成長の初期の段階と、成長を終えた後での種結晶5の変化を確認した。その結果、
図4に示すように、成長を終えた後の種結晶5内のBPD密度が成長前における種結晶5内のBPD密度と同等である。このように、上記の径方向温度条件によってSiC単結晶6を成長させると、種結晶5内においてもBPD密度の増加を抑制でき、成長を終えた後の種結晶5内のBPD密度を成長前における種結晶5内のBPD密度以下にすることが可能となる。
【0047】
また、成長を終えた後に、SiC単結晶6の成長方向でのBPD密度の変化についても確認した。その結果、
図5に示すように、結晶位置が-2.8mmの位置、具体的には種結晶5内の部分でBPD密度が最も大きくなっているが、成長方向に向かって位置が移動するほど、つまり成長が進むほどBPD密度が減少していた。より詳しくは、結晶位置が0.1mm、3.1mm、6mmと大きくなるほど、BPD密度が徐々に減少していた。これは、上記の径方向温度条件によってSiC単結晶6を成長させると、SiC単結晶6中に種結晶5のBPDが引き継がれず、高温によってBPDが増加するのではなく消滅、変換、あるいは結晶の外に掃き出され減少していることを表している。このように、SiC単結晶6のBPD密度の増加を抑制でき、好ましくはBPD密度を減少させることが可能となる。
【0048】
また、供給ガス3aとしてN源を導入することで、n型のSiC単結晶6を得ることができる。このようなn型のSiC単結晶6については、スライスしてSiCウェハとすることでパワー素子などの製造に用いることができ、例えばn型MOSFETにおけるドレインを構成する基板として用いられる。
【0049】
実験により、N源をドーパントとして導入した場合とドーパントを何も導入しなかった場合それぞれについて、上記のようにして得たSiC単結晶6やそれをスライスして得たSiCウェハの特性を調べた。その結果、BPD密度が1000個/cm2以下、キャリアライフタイムが5ns以下であった。ドーパントを何も導入しなかった場合には、Nが含まれないSiC単結晶6やSiCウェハとなっていた。また、N源をドーパントとして導入した場合、例えば5~9×1018cm-3もしくはそれ以上のn型不純物濃度のSiC単結晶6やSiCウェハが得られた。また、金属不純物濃度についても調べたところ、Alが1×1011atm/cm3以下、Bが1×1011atm/cm3以下、Ti(チタン)が7×1012atm/cm3以下、V(バナジウム)が5×1012atm/cm3以下であった。この金属不純物濃度は、SiCウェハを半導体デバイス形成に用いる場合に、良好なデバイス特性が得られるレベルの少なさになっている。
【0050】
(他の実施形態)
本開示は、上記した実施形態に準拠して記述されたが、当該実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。
【0051】
例えば、SiC単結晶製造装置1の詳細構造については一例を示したに過ぎず、部分的に構成が異なっていても構わない。すなわち、加熱容器9や断熱材8の構造などは、一例を挙げたに過ぎず、種結晶5やSiC単結晶6の中心軸Cを中心とした径方向での温度分布ΔTが10℃以下にできる構造であれば良い。
【0052】
また、上記実施形態では、
図2、
図3に示した実験として、直径が10.16cm(4インチ)である種結晶5を用いてSiC単結晶6を成長させた場合を例に挙げたが、種結晶5の直径については一例を挙げたに過ぎない。つまり、種結晶5の直径については、10.6cm以下であっても良いし、それ以上であっても良い。また、SiC単結晶6を成長させる際に、種結晶5の直径と同じ直径になるようにすることもできるが、それよりも大きくすることも、小さくすることも可能である。しかしながら、SiC単結晶6の直径に限らず、種結晶5やSiC単結晶6の中心軸Cを中心とした径方向での温度分布ΔTが10℃以下にできれば良い。
【0053】
また、
図1中では、SiC単結晶6が種結晶5の表面上に形成されたインゴットとなるものを図示してあるが、SiC単結晶6は、インゴットであっても、切り出したウェハであっても、いずれの形態であっても良い。
【0054】
また、上記実施形態では、種結晶5に対して下方側からSiC原料ガスを含む供給ガス3aを供給するアップフロー方式のSiC単結晶成長装置や製造方法を例に挙げた。しかしながら、これに限らず、成長中の径方向温度条件がΔT≦10[℃]を満たす形態であれば、ガス供給機構の構成については、サイドフロー方式であってもダウンフロー方式であっても良い。
【符号の説明】
【0055】
1 SiC単結晶製造装置
3 ガス供給源
3a 供給ガス
5 種結晶
6 SiC単結晶
8 断熱材
9 加熱容器
10 台座
11 回転引上機構
12、13 第1、第2加熱装置