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特開2023-127944セルロースグラフト重合体の製造方法
<図1>
  • 特開-セルロースグラフト重合体の製造方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023127944
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】セルロースグラフト重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 251/02 20060101AFI20230907BHJP
   C08B 15/00 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
C08F251/02
C08B15/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022031942
(22)【出願日】2022-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】301032942
【氏名又は名称】国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】植木 悠二
(72)【発明者】
【氏名】瀬古 典明
(72)【発明者】
【氏名】岩曽 一恭
【テーマコード(参考)】
4C090
4J026
【Fターム(参考)】
4C090AA05
4C090BA34
4C090BB91
4C090BD19
4C090CA15
4C090CA19
4C090CA23
4C090CA35
4C090DA10
4C090DA11
4C090DA31
4C090DA32
4J026AA02
4J026BA05
4J026BA06
4J026BA09
4J026BA11
4J026BA15
4J026BA27
4J026BA31
4J026BA37
4J026BB01
4J026CA09
4J026DB03
4J026DB08
4J026DB32
4J026DB40
4J026EA01
4J026EA05
4J026FA07
4J026GA02
(57)【要約】
【課題】取り扱いやすく、十分に均一にグラフト鎖が導入されたセルロースグラフト重合体を、容易な操作で生産性よく製造する方法を提供する。
【解決手段】粉末状のセルロース誘導体(A)にラジカル重合性モノマーをグラフトしたセルロースグラフト重合体の製造方法であって、粉末状のセルロース誘導体(A)に、0.1kGy以上200kGy以下のガンマ線を照射し、該粉末状のセルロース誘導体(A)の固形分濃度が20質量%以下となるようラジカル重合性モノマーの水分散・溶液に分散させ、該ラジカル重合性モノマーをグラフトすることを特徴とするセルロースグラフト重合体の製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末状のセルロース誘導体(A)にラジカル重合性モノマーをグラフトしたセルロースグラフト重合体の製造方法であって、粉末状のセルロース誘導体(A)に、0.1kGy以上200kGy以下のガンマ線を照射し、該粉末状のセルロース誘導体(A)の固形分濃度が20質量%以下となるようラジカル重合性モノマーの水分散・溶液に分散させ、該ラジカル重合性モノマーをグラフトすることを特徴とするセルロースグラフト重合体の製造方法。
【請求項2】
前記粉末状のセルロース誘導体(A)に前記ラジカル重合性モノマーをグラフトした後、得られたセルロースグラフト重合体を、ろ過によって分離することを特徴とする、請求項1に記載のセルロースグラフト重合体の製造方法。
【請求項3】
前記ラジカル重合性モノマーが、疎水性モノマーである請求項1又は2に記載のセルロースグラフト重合体の製造方法。
【請求項4】
前記粉末状のセルロース誘導体(A)の短軸長さが1μm以上50μm以下、長軸長さが1μm以上1000μm以下である請求項1~3の何れか1項に記載のセルロースグラフト重合体の製造方法。
【請求項5】
前記粉末状のセルロース誘導体(A)を、前記ガンマ線照射前に乾燥することを特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載のセルロースグラフト重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセルロースグラフト重合体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セルロースはβ-グルコースを構成単位とする多糖類であり、植物の組織として天然に広く存在する。近年、セルロースは、植物が二酸化炭素を原料に光合成可能である点から、二酸化炭素の排出量と吸収量の合計が実質的にゼロである「カーボンニュートラル」を実現できる環境にやさしい素材として注目されている。セルロースはβ-グルコースが1,4-グリコシド結合を介して重合した高分子多糖類であり、結晶性の剛直な分子であるため、素材に添加し、強度を高めるフィラーとして、土木材料、樹脂材料に利用されている。あるいは、長繊維のセルロースは少量添加で著しい粘度増加が起こることから、粘度調整剤として、塗料や食品用途に利用されている。
【0003】
従来、一般的にフィラーとしては、ガラス繊維、炭素繊維、ポリアミド繊維等が、樹脂との複合材料として照明用材料、建築用材料、車両用材料等の構造材用途に利用されてきたが、これらのフィラーは埋立処理をしても環境中では分解されにくく、また焼却処理の際に微小粒子状物質を発生させることや、溶融したフィラーが焼却炉の内壁や熱交換器に固着し、炉の寿命を著しく縮める問題があり、資源、エネルギーの持続的な利用の観点からは十分に好ましいとは言えない。
対照的に、セルロースは熱分解や微生物分解により最終的に二酸化炭素にまで分解されるため、処理設備の長寿命化を図れる。また、二酸化炭素は再び植物の光合成によって、でんぷん、そしてセルロースに変換されるため、新たな二酸化炭素の増減は実質ゼロとなり、資源、エネルギーのより持続的な利用が可能となる。
【0004】
構造材用途に用いられる複合材料は機械強度に優れることが要求される。複合材料の機械強度はフィラーと母材樹脂の親和性が高いほど良好とされており、フィラーと母材樹脂との親和性を高めるべく、フィラーのサイジング処理や、表面修飾が検討されている。
セルロースは、高い結晶性と親水性から、疎水性樹脂との親和性が極めて低く、通常両者を混合しただけでは母材樹脂とセルロース表面の間で界面剥離が起きてしまい、十分な強度を担保できない。このため、母材樹脂との親和性を高めるための表面修飾が必要となる。
【0005】
特許文献1、2には、基材シートをセルロースナノファイバー水溶液に浸漬又は塗布し、電子線を照射した後、疎水性モノマーを含む溶液又は分散液と接触させて、前記疎水性モノマーをセルロースナノファイバーにグラフト重合する方法が開示されている。
【0006】
特許文献3では、レドックス開始剤を用いた粉末状セルロースへのメタクリル酸メチル(MMA)のグラフト重合法が示されている。
【0007】
非特許文献1では、コットン状セルロースファイバーに放射線を照射した後ビニルモノマーをグラフト重合している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2017-179365号公報
【特許文献2】特開2018-16896号公報
【特許文献3】特開2009-67817号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】高分子Vol.13,No.146,384-388(1964)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1,2には、電子線照射によるグラフト重合が開示されているが、ガンマ線は物質透過性が高く、照射されている物質の表面から数十cmまで透過する一方で、電子線は物質透過性が低く、照射面から数mmまでしか透過しない。そのため、セルロース繊維の表層のみにラジカルが発生し、グラフト重合が進行する場所にムラが生じるため、品質が十分に安定しない。また、この場合、基材とセルロース誘導体を粉砕物又はペレットとして取り扱うことができる利点があるものの、グラフト化されたセルロース誘導体は、基材シートと一体化されているもので、グラフト化されたセルロース誘導体単独としては取り扱えない。また、これらの製造方法ではセルロースの形態が限定されているため、利用方法が限定的である。
【0011】
特許文献3の方法では副生成物としてホモポリマーも生じるため、セルロースグラフト重合体のみを得ることは困難である。
【0012】
さらに、非特許文献1では、セルロースの繊維長が長く、放射線照射後のグラフト重合の際、繊維同士、あるいは攪拌装置に絡みつく、あるいは、著しい粘度増加によって攪拌効率が低下するため、特に大型装置での生産性は十分とは言えない。
【0013】
本発明はこれらの問題点を解決することを目的とする。すなわち、本発明の課題は、取り扱いやすく、十分に均一にグラフト鎖が導入されたセルロースグラフト重合体を、容易な操作で生産性よく製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、粉末状のセルロース誘導体(A)に、所定量のガンマ線を照射し、該粉末状のセルロース誘導体(A)の固形分濃度が所定値以下となるようラジカル重合性モノマーの水分散・溶液に分散させることで、粉末状のセルロース誘導体(A)に、十分に均一に、効率的にラジカル重合性モノマーのグラフト鎖を導入することができることを見出した。
【0015】
本発明はこのような知見に基づいて達成されたものであり、以下の[1]~[5]を要旨とする。
【0016】
[1] 粉末状のセルロース誘導体(A)にラジカル重合性モノマーをグラフトしたセルロースグラフト重合体の製造方法であって、粉末状のセルロース誘導体(A)に、0.1kGy以上200kGy以下のガンマ線を照射した後、該粉末状のセルロース誘導体(A)の固形分濃度が20質量%以下となるようラジカル重合性モノマーの水分散・溶液に分散させ、該ラジカル重合性モノマーをグラフトすることを特徴とするセルロースグラフト重合体の製造方法。
【0017】
[2] 前記粉末状のセルロース誘導体(A)に前記ラジカル重合性モノマーをグラフトした後、得られたセルロースグラフト重合体を、ろ過によって分離することを特徴とする、[1]に記載のセルロースグラフト重合体の製造方法。
【0018】
[3] 前記ラジカル重合性モノマーが、疎水性モノマーである[1]又は[2]に記載のセルロースグラフト重合体の製造方法。
【0019】
[4] 前記粉末状のセルロース誘導体(A)の平均繊維径が1μm以上50μm以下、平均繊維長が1μm以上1000μm以下である[1]~[3]の何れかに記載のセルロースグラフト重合体の製造方法。
【0020】
[5] 前記粉末状のセルロース誘導体(A)を、前記ガンマ線照射前に乾燥することを特徴とする[1]~[4]の何れかに記載のセルロースグラフト重合体の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明のセルロースグラフト重合体の製造方法は、粉末状のセルロース誘導体(A)を用いるので、得られるセルロースグラフト重合体の取り扱いが容易となるだけでなく、その後の用途において、セルロースグラフト重合体の形状による制約を受けにくくなる。また、グラフト重合の起点となるラジカルを物質透過性が高いガンマ線の照射で発生させるため、セルロース誘導体(A)にムラなくグラフト鎖を導入できる。さらに、グラフト重合を、低濃度の水分散・溶液の形態で行い、その後ろ過をすることで、セルロースグラフト重合体を容易な操作で得ることができる。
本製造方法により得られるセルロースグラフト重合体は、十分なグラフト鎖が導入されることで、各種樹脂への親和性が向上し、補強効果が向上することで、得られる複合材料の強度が向上する。そのため、フィラーとして、照明用材料、建築用材料、車両材料等の母材樹脂の補強用途に好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】セルロース誘導体のアスペクト比が及ぼす限界固形分濃度への影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
【0024】
特に断らない限り、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味し、例えば、「A~B」は、A以上B以下であることを意味する。
【0025】
本発明において、「質量%」は全体量100質量%中に含まれる所定の成分の含有割合を示す。
本発明において、「グラフト」とはある重合体に対して枝状に別の重合体が接続した状態を意味し、本発明に係る「セルロースグラフト重合体」は、セルロース誘導体(A)にガンマ線を照射することで、セルロース誘導体(A)に生成したラジカルに対してラジカル重合性モノマーを作用させ、グラフト重合することで対応するポリマーが表面にグラフトし、グラフト鎖が形成されたセルロース誘導体(A)のことをいう。
また、本発明において、「ラジカル重合性モノマーの水分散・溶液」とは「ラジカル重合性モノマーが水に分散ないしは溶解した液」を意味する。
【0026】
本発明のセルロースグラフト重合体の製造方法は、粉末状のセルロース誘導体(A)(以下、単に「セルロース誘導体(A)」と称す場合がある。)にラジカル重合性モノマーをグラフトしたセルロースグラフト重合体の製造方法であって、粉末状のセルロース誘導体(A)に、0.1kGy以上200kGy以下のガンマ線を照射した後、該粉末状のセルロース誘導体(A)の固形分濃度が20質量%以下となるようラジカル重合性モノマーの水分散・溶液に分散させ、該ラジカル重合性モノマーをグラフトすることでセルロースグラフト重合体を製造する方法である。
【0027】
<ラジカル重合性モノマー>
ラジカル重合性モノマーは、本発明の製造方法の構成成分の1つである。
本発明の製造方法で使用できるラジカル重合性モノマーは特に限定されないが、重合可能なビニル基を分子内に一つ以上有するラジカル重合性モノマーが好ましく、また、グラフト重合時、ラジカル重合性モノマーの水分散・溶液の安定性の観点から疎水性モノマーが好ましく、例えば、以下のa)~f)が挙げられる。
【0028】
a) (メタ)アクリル酸エステル化合物:具体的には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸n-ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸n-アミル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸ラウリル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリル酸ベンジル等の(メタ)アクリル酸アラルキルエステル;(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸2-ナフチル等の(メタ)アクリル酸アリールエステル;(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等の(メタ)アクリル酸環状アルキルエステル;(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸フェノキシメチル等のアルコキシ基、アリール基等の置換基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルが挙げられる。
これらの中でも、アルキル基部分の炭素数が1~8個の(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく、(メタ)アクリル酸メチルがより好ましい。なお、ここで「(メタ)アクリル酸」とはメタクリル酸とアクリル酸の一方又は双方を意味する。
【0029】
b)芳香族ビニル化合物:具体的には、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、o-エチルスチレン、p-エチルスチレン、o-クロロスチレン、p-クロロスチレン、p-メトキシスチレン、p-アセトキシスチレン、α-ビニルナフタレン、2-ビニルフルオレンなどが挙げられる。
【0030】
c)不飽和ニトリル化合物:具体的には、アクリロニトリル、α-クロロアクリロニトリル、α-メトキシアクリロニトリル、メタクリロニトリル、シアン化ビニリデンなどが挙げられる。
【0031】
d)エチレン性不飽和エーテル化合物:具体的にはメチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、メチルアリルエーテル、エチルアリルエーテルなどが挙げられる。
【0032】
e)ハロゲン化ビニル化合物:具体的には、塩化ビニル、塩化ビニリデン、1,2-ジクロロエチレン、臭化ビニル、臭化ビニリデン、1,2-ジブロモエチレンなどが挙げられる。
【0033】
f)脂肪族共役ジエン系化合物:具体的には、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-ネオペンチル-1,3-ブタジエン、2-クロロ-1,3-ブタジエン、1,2ジクロロ-1,3-ブタジエン、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン、2-ブロモ-1,3-ブタジエン、2-シアノ-1,3-ブタジエンなどが挙げられる。
【0034】
これらのラジカル重合性モノマーは1種を単独で用いてもよく、複数種を組み合わせてもよい。
【0035】
これらの中でも、本発明の製造方法において、水に溶解せず、分散状態を良好に維持できる直鎖状炭化水素基を側鎖に有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルはその高いモノマー濃度によってグラフト重合の速度を安定させることができることから好適に用いることができる。また、グラフト重合の際に分子量分布が狭幅化して重合の均一性がよくなることから、特に(メタ)アクリル酸メチルは、好適に用いることができる。
【0036】
本発明におけるラジカル重合性モノマーの水分散・溶液とは、好ましくは前記ラジカル重合性モノマーを界面活性剤によって水に分散させた乳化液である。ラジカル重合性モノマーの水分散・溶液の濃度、製造方法や界面活性剤は特に限定されず、既知の方法に従って製造できるが、水分散・溶液中のラジカル重合性モノマーの濃度は反応効率の観点から1質量%以上、特に5質量%以上が好ましく、一方、乳化状態の安定性の観点から20質量%以下、特に15質量%以下が好ましい。
【0037】
なお、ラジカル重合性モノマーの水分散・溶液は、溶存酸素による重合反応の阻害防止のために、後述のガンマ線照射後のセルロース誘導体(A)を投入してグラフト重合を行うに先立ち、不活性ガスでバブリングするなどして溶存酸素を除去しておくことが好ましい。
【0038】
この場合に使用する不活性ガスはラジカルに対する反応性を持たなければ特に限定されないが、中でも化学的安定性が高く、副反応を抑制できることから、窒素、ヘリウム、アルゴンが好ましく、原子、あるいは分子半径が大きいため、反応容器から外部に拡散しにくいことから窒素、アルゴンがさらに好ましく、窒素が最も好ましい。
【0039】
<セルロース誘導体(A)>
セルロース誘導体(A)は、本発明の製造方法の構成成分の1つである。
本発明の製造方法においてセルロース誘導体(A)とは、β-グルコース由来の繰り返し単位を含む化合物のことをいい、例えば、セルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、プロピルセルロース、アセチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、カルボキシプロピルセルロース、メチルヒドロキシエチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロースが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、分子間の水素結合により結晶密度が高く、ガンマ線の照射による分解反応が起こりにくいことから、セルロース、カルボキシエチルセルロース、カルボキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースが好ましく、セルロースが最も好ましい。
【0040】
本発明の製造方法におけるセルロース誘導体(A)の平均繊維長の上限は、好ましくは1000μm以下である。セルロース誘導体(A)の平均繊維長が1000μm以下であれば、後述するガンマ線が照射されたセルロース誘導体(A)をラジカル重合性モノマーの水分散・溶液に分散させる際に、セルロース誘導体(A)の繊維同士の絡み合いや、攪拌設備への絡みつきが起こりにくく、反応系内の攪拌効率が良くなり、ラジカル重合性モノマーと均一に接触するため、グラフト重合のムラが生じにくい。また、グラフト重合後の反応液からセルロースグラフト重合体をろ過によって取り出す際に、作業性を損ねない。セルロース誘導体(A)の平均繊維長は、より好ましくは500μm以下であり、更に好ましくは100μm以下であり、特に好ましいのは20μm以下である。
なお、本発明において、「繊維長」とは、セルロース誘導体(A)の長軸長さ(最大径)を意味し、セルロース誘導体(A)を2枚の平行な板で挟んだときに、この板同士の間隔が最も大きくなる部位のセルロース誘導体(A)の長さに該当する。セルロース誘導体(A)の平均繊維長の具体的な測定方法については後述する。
【0041】
一方、セルロース誘導体(A)の平均繊維長の下限は特に限定されるものではないが、1μmに近いほど好ましく、1μmであってもよい。
【0042】
本発明の製造方法におけるセルロース誘導体(A)の平均繊維径の上限は、好ましくは50μm以下である。セルロース誘導体(A)の平均繊維径が50μm以下であれば、後述するガンマ線が照射されたセルロース誘導体(A)を疎水性モノマーの水分散・溶液に分散させる際に、セルロース誘導体(A)の繊維同士の絡み合いや、攪拌設備への絡みつきが起こりにくく、系の攪拌効率が良くなり、ラジカル重合性モノマーと均一に接触するため、グラフト重合のムラが生じにくい。セルロース誘導体(A)の平均繊維径は、より好ましくは40μm以下であり、更に好ましくは30μm以下であり、特に好ましいのは20μm以下である。
なお、本発明において、「繊維径」とは、セルロース誘導体(A)の短軸長さ(最小径)を意味し、通常は、上記長軸長さ(最大径)部分と直交する長さ部分に該当する。セルロース誘導体(A)の平均繊維径の具体的な測定方法については後述する。
【0043】
一方、セルロース誘導体(A)の平均繊維径の下限は特に限定されるものではないが、1μmに近いほど好ましく、1μmであってもよい。
【0044】
セルロース誘導体(A)は、その平均繊維径に対する平均繊維長での比(平均繊維長/平均繊維径)として算出されるアスペクト比が100以下、特に10以下の粉末状であることが、後述するガンマ線が照射されたセルロース誘導体(A)を疎水性モノマーの水分散・溶液に分散させる際に、セルロース誘導体(A)の繊維同士の絡み合いや、攪拌設備への絡みつきが起こりにくく、系の攪拌効率が良くなり、ラジカル重合性モノマーと均一に接触するため、グラフト重合のムラが生じにくく、好ましい。なお、セルロース誘導体(A)のアスペクト比の下限は1以上である。
【0045】
<前処理>
本発明の製造方法におけるセルロース誘導体(A)は特に前処理は必要としないが、ガンマ線照射前に乾燥させる工程を加えてもよい。セルロースはその高い親水性により空気中の水分を含んでいるが、セルロース誘導体(A)の水分量が低下すると、セルロース誘導体(A)の純度が向上するため、グラフト率を向上させることができる。従ってガンマ線照射前に乾燥させる工程を加えるのが好ましい。
【0046】
乾燥温度はセルロースが熱分解しない範囲であれば特に限定されないが、効率よく水分を除去できる温度である50~150℃が好ましく、70~120℃がさらに好ましく、80~100℃が最も好ましい。150℃を超える温度では、セルロースの熱分解が起こり、単一分子種でなくなることで、ガンマ線によるラジカル生成のムラが起こる可能性がある。50℃を下回る温度では、十分に水分を除去できない。
【0047】
ただし、減圧ないしは真空中で乾燥を行うことで、乾燥温度を下げることができる。例えば、真空中の乾燥であれば、30~40℃程度の低温でも十分に水分を除去することができる。
【0048】
必要に応じてセルロース誘導体(A)を乾燥することにより、ガンマ線照射に供するセルロース誘導体(A)の含水率は1質量%以下、特に0.5質量%以下とすることが好ましい。
セルロース誘導体(A)の含水率が上記上限以下であれば、ガンマ線照射によるグラフト率を十分なものとすることができる。
なお、セルロース誘導体(A)の含水率は、乾燥前後の重量の差により測定することができる。
【0049】
<ガンマ線照射>
本発明の製造方法におけるガンマ線の照射線量の上限は200kGy以下である。ガンマ線の照射線量が200kGy以下であれば、セルロース誘導体(A)の分解反応が起こりにくく、粉末形状の分布が広がりにくくなる。ガンマ線の照射量はより好ましくは100kGy以下であり、最も好ましくは50kGy以下である。
【0050】
一方、セルロース誘導体(A)へのガンマ線の照射線量の下限は0.1kGy以上である。ガンマ線の照射線量が0.1kGy以上であれば、セルロース誘導体(A)にグラフト重合に必要なラジカルを生じさせることができる。ガンマ線の照射量はより好ましくは1kGy以上であり、さらに好ましくは5kGy以上であり、最も好ましくは10kGy以上である。
なお、このセルロース誘導体(A)へのガンマ線の照射は、ラジカルの失活抑制のために、反応容器中でセルロース誘導体(A)を不活性ガス雰囲気に曝し、酸素を除去した雰囲気で行うことが好ましい。
【0051】
この場合に使用する不活性ガスはラジカルに対する反応性を持たなければ特に限定されないが、中でも化学的安定性が高く、ガンマ線照射時の副反応を抑制できることから、窒素、ヘリウム、アルゴンが好ましく、反応容器内壁からの透過性が乏しい窒素、アルゴンがさらに好ましく、窒素が最も好ましい。
【0052】
<グラフト重合>
本発明の製造方法におけるグラフト重合は、前記ガンマ線を照射したセルロース誘導体(A)を前記ラジカル重合性モノマーの水分散・溶液に一定時間分散させることで行われる。ガンマ線が照射されたセルロース誘導体(A)には、反応性のラジカルが発生しており、このラジカルがラジカル重合性モノマーと接触すると、連鎖反応が起こり、グラフト重合が進行する。
【0053】
前記ガンマ線を照射したセルロース誘導体(A)を前記ラジカル重合性モノマーの水分散・溶液に分散させた際のセルロース誘導体(A)の固形分濃度は、20質量%以下とする。セルロース誘導体(A)の固形分濃度20質量%以下であれば、前述の繊維長、繊維径の範囲においては、セルロース誘導体(A)の繊維同士の絡み合いや、攪拌設備への絡みつきが起こりにくく、反応系の攪拌効率が良くなり、ラジカル重合性モノマーと均一に接触するため、グラフト重合のムラが生じにくい。また、後述するろ過性が良好となる。この観点から、ラジカル重合性モノマーの水分散・溶液中のセルロース誘導体(A)の固形分濃度は、15質量%以下、特に10質量%以下が好ましい。
【0054】
前記ガンマ線を照射したセルロース誘導体(A)を前記ラジカル重合性モノマーの水分散・溶液に分散させた際のセルロース誘導体(A)の固形分濃度の下限は特に限定されるものではないが、0.1質量%以上が好ましい。セルロース誘導体(A)の固形分濃度が0.1質量%以上であれば、後述するろ過工程で廃液量が削減でき、またろ過時間を短縮できる。この観点から、ラジカル重合性モノマーの水分散・溶液中のセルロース誘導体(A)の固形分濃度は、0.5質量%以上、特に0.1質量%以上が好ましい。
【0055】
グラフト重合の温度の上限は、ラジカル重合性モノマーの水分散・溶液が沸騰しないため、濃度変化が起こりにくく、グラフト重合の分子量分布が広がりにくくなることから、好ましくは95℃以下、より好ましくは85℃以下、さらに好ましくは60℃以下、最も好ましくは40℃以下である。
【0056】
グラフト重合の温度の下限は、ラジカル重合性モノマーの水分散・溶液が凍結しないため、分子運動が阻害されにくく、グラフト重合が進行しやすくなることから、好ましくは1℃以上であり、より好ましくは10℃以上、さらに好ましくは30℃以上、最も好ましくは40℃以上である。
【0057】
グラフト重合の反応時間は特に限定されないが、十分な重合度を得るためには0.5~5時間が好ましく、0.5~3時間がより好ましく、0.5~1時間が最も好ましい。
【0058】
グラフト重合反応は、メタノール等の希釈溶媒を添加することにより終了させることができる。
【0059】
<セルロースグラフト重合体の回収>
本発明の製造方法におけるグラフト重合によって生成したセルロースグラフト重合体は、前記ラジカル重合性モノマーの水分散・溶液とセルロースグラフト重合体との混合物から、ろ過によって取り出すことができる。ろ過の方法は特に限定されず、既知の方法を適宜用いることができるが、加圧ろ過、吸引ろ過がろ過後のセルロースグラフト重合体がケーキ状の塊となり、取り扱いがしやすいため好ましい。
【実施例0060】
以下、実施例により本発明の製造方法を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0061】
[原料]
実施例及び比較例で使用した化合物の略号は以下のとおりである。
【0062】
<ラジカル重合性モノマー>
MMA:(メタ)アクリル酸メチル(商品名:メタクリル酸メチル,モノマー、関東化学(株)製)
【0063】
<界面活性剤>
Tween20:ポリエチレングリコールソルビタンモノラウレート(商品名:Tween20、関東化学(株)製)
【0064】
<セルロース誘導体(A)>
セルロース誘導体(A-1):アスペクト比1.2、平均繊維径15μm、平均繊維長18μmの粉末状セルロース(商品名:ARBOCEL BE600-10TG、レッテンマイヤージャパン(株)製)
セルロース誘導体(A-2):アスペクト比15.0、平均繊維径20μm、平均繊維長300μmの粉末状セルロース(商品名:ARBOCEL BC200、レッテンマイヤージャパン(株)製)
セルロース誘導体(A-3):アスペクト比35.0、平均繊維径20μm、平均繊維長700μmの粉末状セルロース(商品名:ARBOCEL BC1000、レッテンマイヤージャパン(株)製)
【0065】
[評価方法]
実施例及び比較例における評価は以下の方法により実施した。
【0066】
<グラフト率の算出>
グラフト重合の程度を「グラフト率」により評価した。
グラフト率とは、グラフト反応の収率を表すものであり、グラフト重合反応前後の質量変化から下記式(1)により算出した。
グラフト率[%]=100×[(W-W)/W] …(1)
ここで、W、Wはそれぞれグラフト重合前のセルロース誘導体(A)、グラフト重合後のセルロースグラフト重合体の質量である。
例えば、グラフト率150%はグラフト重合に供したセルロース誘導体(A)の質量の1.5倍量のグラフト鎖が導入されていることを示す。一般的にグラフト率が高くなると、セルロースグラフト重合体の樹脂に対する親和性は向上する。特に、グラフト率が100%以上ではセルロース誘導体(A)の表面が十分にグラフト鎖に覆われ、樹脂への親和性が良好となる。従って、グラフト率が100%以上をA、100%未満をBと判定した。
【0067】
<繊維長、繊維径の測定>
実施例で用いたセルロース誘導体(A)の繊維長を、以下の方法で計測した。
水5mLにセルロース誘導体(A)10mgを分散させた後、得られた分散液をガラス板の上に垂らした後、80℃に設定した乾燥機内に静置して、水分を完全に蒸発させた。次いで、光学顕微鏡を用いて、任意に選定したセルロース誘導体(A)100個について、セルロース誘導体(A)の長軸長さ(最大長径)を繊維長、及び短軸長さ(長径に垂直方向で最も長い部分の長さ)を繊維径として測定し、それぞれの平均値を算出した。
【0068】
[製造例1]
蒸留水890gにTween20 10gを溶解し、均一になるまで攪拌した。ここへ、MMA 100gを加えた後、撹拌式ホモジナイザー(IKA社製「T25 digital ULTRA-TURRAX(登録商標)」)を用いて、回転速度6,500rpmにて15分間乳化分散させ、ラジカル重合性モノマー(MMA)の水分散液を得た。次いで、調製したラジカル重合性モノマー(MMA)の水分散液に溶存する酸素を取り除くために、窒素バブリングによる脱酸素処理を1時間実施し、目的とするラジカル重合性モノマーの水分散液を得た。
【0069】
[実施例1]
セルロース誘導体(A-1)約30gを真空定温乾燥器(ヤマト科学社製「ADP300」)を用いて、35℃で8時間真空乾燥処理することにより、乾燥したセルロース誘導体(A-1)を得た。用いたセルロース誘導体(A-1)の含水率は5~10質量%の範囲であったが、乾燥により含水率は0質量%となった。その後、乾燥したセルロース誘導体(A-1)20gをポリエチレン製バッグに封入した後、ポリエチレン製バッグ内の空気を窒素置換した。次いで、ガンマ線照射施設にてガンマ線照射を行い、セルロース誘導体(A-1)に反応開始点となるラジカルを生成させた。ガンマ線源はコバルト60を用い、線量率は5kGy/hとし、セルロース誘導体(A-1)への照射線量は10kGyとした。
ガンマ線照射したセルロース誘導体(A-1)を空気遮断条件下(真空条件下)において、予め窒素バブリングにより脱酸素処理を施した製造例1で調製したラジカル重合性モノマーの水分散液400gに浸漬し(セルロース誘導体(A-1)濃度4.8質量%)、グラフト重合反応を進行させた。グラフト重合反応温度は40℃とし、反応時間は1時間とした。
所定の反応時間の経過後、反応溶液にメタノール500mLを加えて、重合反応を強制停止させた。
反応溶液を一晩静置し、セルロースグラフト重合体を沈降させた。その後、吸引ろ過(フィルター孔径:10μm)により固形分を回収するとともに、メタノールにより残存する未反応試薬を洗浄した後、真空乾燥を行い、目的とするセルロースグラフト重合体を得た。得られたセルロースグラフト重合体の評価結果を表1に示す。
【0070】
[実施例2]
セルロース誘導体(A)を表1記載のとおりとした以外は実施例1と同様の条件でセルロースグラフト重合体を得た。得られたセルロースグラフト重合体の評価結果を表1に示す。
【0071】
[実施例3,4,5]
表1に示すセルロース誘導体(A)に乾燥処理を行わずにポリエチレンバッグ製バッグに封入した以外は実施例1と同様の条件でセルロースグラフト重合体を得た。得られたセルロースグラフト重合体の評価結果を表1に示す。
【0072】
[比較例1]
セルロース誘導体(A-1)にガンマ線を照射しなかった以外は、実施例3と同様の条件で実施した。得られた評価結果を表1に示す。
【0073】
【表1】
【0074】
<評価結果>
実施例1~5のセルロースグラフト重合体は、白色粉末状であった。特徴として、算出されたグラフト率は実施例1、2ではそれぞれ140%、120%であった。これは、実施例1,2はガンマ線照射前にセルロース誘導体(A)を乾燥させており、水分量が少なかったためであると考えられる。また実施例3、4、5はそれぞれ、110%、110%、100%であった。前述の通り、グラフト率が100%以上ではセルロース誘導体(A)の表面が十分にグラフト鎖に覆われ、樹脂への親和性が良好となることから、特に乾燥をさせることなく十分なグラフト率のセルロースグラフト重合体が得られた。
【0075】
比較例1は、グラフト率が0%であった。これは、ガンマ線の照射がされないとラジカルが生成しないため、グラフト重合が起こらないことを意味する。
【0076】
[限界固形分濃度の測定]
実施例で用いたセルロース誘導体(A-1)~(A-3)について、限界固形分濃度を測定した。セルロース誘導体(A)の限界固形分濃度は、以下の式により算出した。
限界固形分濃度[質量%]=100×[1/(1+B)]
ここで、Bはセルロース誘導体(A)の飽和吸水量(g-水/g-セルロース誘導体)である。
結果を図1に示す。ここで、セルロース誘導体(A)のアスペクト比と、限界固形分濃度との関係は、以下の数1式で示す累乗近似式により求めることができる。なお、xは、セルロース誘導体(A)のアスペクト比を示す。
【0077】
[数1式]
限界固形分濃度[質量%]=37.938x-0.171
【0078】
図1に示すように、例えば、セルロース誘導体(A)のアスペクト比1.2のセルロース誘導体(A-1)を溶液内に均一に分散させるための限界固形分濃度は36質量%、アスペクト比15.0のセルロース誘導体(A-2)を溶液内に均一に分散させるための限界固形分濃度は25質量%、アスペクト比35.0のセルロース誘導体(A-3)を溶液内に均一に分散させるための限界固形分濃度は20質量%となった。
セルロース誘導体(A)は、高吸水性物質であるため、ある一定量の溶液を加えないと、溶液内に均一にセルロース誘導体(A)を分散させることができず、生成物に導入されたグラフト鎖の量は不均一になる。即ち、少量の水しか加えないと、セルロース誘導体(A)がその水を全部吸収している部分(目視確認すると、お団子状態やペースト状態になっている部分)と、全く水分を吸収していない部分(目視確認すると、粉末状のままの部分)に分かれている。また、セルロース誘導体(A)のアスペクト比の違いにより、セルロース誘導体(A)の水分吸収量は異なる。
ここで、モノマー溶液中のセルロース誘導体(A)の濃度が限界固形分濃度を超えると、一部分のセルロース誘導体(A)はモノマー溶液と接触することができず、その結果、その部分ではグラフト重合反応は進行しない。これに対して、セルロース誘導体(A)の濃度が限界固形分濃度以下であれば、セルロース誘導体(A)全体にモノマー溶液が均一に行き渡り、均一なグラフト重合反応が進行することを意味する。
図1の結果から、アスペクト比に係わらず、粉末状のセルロース誘導体(A)の固形分濃度が20質量%以下であれば、均一なグラフト重合反応が進行することがわかる。
【0079】
以上、本発明における製造法の好ましい実施形態、及び実施例を説明したが、本発明はこれらの実施形態、及び実施例に限定されることはない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。
また、本発明は前述した説明によって限定されることはなく、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の製造方法により得られるセルロースグラフト重合体は、表面のグラフト鎖により各種樹脂への親和性が向上することで、その補強効果が高まり、得られる複合材料の強度が向上する。そのため、フィラーとして、照明用材料、建築用材料、車両材料等の樹脂の補強用途に好適に使用できる。
図1