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特開2023-128076ヒドリドイオン導電体及びその製造方法並びに全固体電池
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  • 特開-ヒドリドイオン導電体及びその製造方法並びに全固体電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023128076
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】ヒドリドイオン導電体及びその製造方法並びに全固体電池
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/06 20060101AFI20230907BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20230907BHJP
   H01M 10/05 20100101ALI20230907BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20230907BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20230907BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20230907BHJP
   C01F 17/30 20200101ALI20230907BHJP
   C01B 6/24 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
H01B1/06 A
H01M10/0562
H01M10/05
H01M4/485
H01M4/62 Z
H01M4/38 A
C01F17/30
C01B6/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022032145
(22)【出願日】2022-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】504261077
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人自然科学研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智史
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(72)【発明者】
【氏名】小林 玄器
(72)【発明者】
【氏名】泉 善貴
(72)【発明者】
【氏名】竹入 史隆
【テーマコード(参考)】
4G076
5G301
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
4G076AA09
4G076AA18
4G076AA30
4G076AB30
4G076BA37
4G076BA38
4G076BA42
4G076BB01
4G076BC08
4G076BD02
4G076BD04
4G076CA29
4G076CA33
4G076DA04
5G301CA02
5G301CA16
5G301CA30
5G301CD01
5G301CE02
5H029AJ06
5H029AJ14
5H029AK03
5H029AL11
5H029AM11
5H029CJ02
5H029CJ03
5H029CJ28
5H029DJ08
5H029EJ03
5H029HJ02
5H050AA12
5H050AA19
5H050BA15
5H050CA07
5H050CB16
5H050DA02
5H050DA09
5H050EA01
5H050GA02
5H050GA03
5H050GA27
5H050HA02
(57)【要約】
【課題】常温で高い導電特性を有するヒドリドイオン導電体及びその製造方法、並びに当該ヒドリドイオン導電体を含む常温動作可能な全固体電池を提供する。
【解決手段】一般式M αβ(式中、Mは3価の希土類元素であり、MはMg、Ca、Sr及びBaからなる群より選ばれる少なくとも1種の第2族元素であり、Mはアルカリ金属より選ばれる少なくとも1種の第1族元素であり、0.4≦x<1であり、0≦y≦0.6であり、0≦z≦0.5であり、0.7<x+y+z≦1であり、0<y+z≦0.6であり、2<α<3であり、0≦β<0.3であり、3x+2y+z=α+2βである。)で示される組成を有するヒドリドイオン導電体。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式M αβ(式中、Mは3価の希土類元素であり、Mは少なくとも1種の第2族元素であり、Mはアルカリ金属より選ばれる少なくとも1種の第1族元素であり、0.4≦x<1であり、0≦y≦0.6であり、0≦z≦0.5であり、0.7<x+y+z≦1であり、0<y+z≦0.6であり、2<α<3であり、0≦β<0.3であり、3x+2y+z=α+2βである。)で示される組成を有するヒドリドイオン導電体。
【請求項2】
前記3価の希土類元素が、La、Ce、Nd、Sc及びYからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載のヒドリドイオン導電体。
【請求項3】
前記第2族元素が、Mg、Ca、Sr及びBaからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2に記載のヒドリドイオン導電体。
【請求項4】
前記第1族元素が、Na、K、Rb及びCsからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1~3のいずれか一項に記載のヒドリドイオン導電体。
【請求項5】
一般式M αβ(式中、Mは3価の希土類元素であり、Mは少なくとも1種の第2族元素であり、Mはアルカリ金属より選ばれる少なくとも1種の第1族元素であり、0.4≦x<1であり、0≦y≦0.6であり、0≦z≦0.5であり、0.7<x+y+z≦1であり、0<y+z≦0.6であり、2<α<3であり、0≦β<0.3であり、3x+2y+z=α+2βである。)で示される組成を有するヒドリドイオン導電体の製造方法であって、
を含む水素化物と、
を含む水素化物、Mを含む水素化物又はそれらの組み合わせと
を反応させることを含む、ヒドリドイオン導電体の製造方法。
【請求項6】
前記反応が水素ガス発生剤の存在下で高圧合成法により行われる、請求項5に記載のヒドリドイオン導電体の製造方法。
【請求項7】
前記反応がメカノケミカル法により行われる、請求項5に記載のヒドリドイオン導電体の製造方法。
【請求項8】
水素アニール処理を行うことを更に含む、請求項7に記載のヒドリドイオン導電体の製造方法。
【請求項9】
前記3価の希土類元素が、La、Ce、Nd、Sc及びYからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項5~8のいずれか一項に記載のヒドリドイオン導電体の製造方法。
【請求項10】
前記第2族元素が、Mg、Ca、Sr及びBaからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項5~9のいずれか一項に記載のヒドリドイオン導電体の製造方法。
【請求項11】
前記第1族元素が、Na、K、Rb及びCsからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項5~10のいずれか一項に記載のヒドリドイオン導電体の製造方法。
【請求項12】
ヒドリドイオン供給体を含む正極と、水素吸蔵金属又は水素吸蔵合金を含む負極と、前記正極と前記負極の間に配置された請求項1~4のいずれか一項に記載のヒドリドイオン導電体とを含む全固体電池。
【請求項13】
前記ヒドリドイオン供給体が金属水素化物である請求項12に記載の全固体電池。
【請求項14】
前記負極がTi含有複合活物質を含む請求項12又は13に記載の全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ヒドリドイオン導電体及びその製造方法並びに全固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
プロトン及び酸素イオンは、燃料電池、空気電池等のエネルギー変換デバイスの可動イオンとして利用されている。一方、ヒドリドイオンは、一価でイオン半径が約1.2オングストロームと適度な大きさであり、大きな分極率を有することから、プロトン及び酸素イオンよりも可動イオンとして適した特徴を有する。更に、H+2e→2Hの酸化還元電位が-2.25V(vs.SHE)と高いことから、高電位の新規エネルギー変換デバイスを生み出すポテンシャルを有する。
【0003】
特許文献1(特開2011-204632号公報)は、「一般式Ln2-XAH(式中、Lnは3価の希土類元素、Mは4価のCeまたはアルカリ土類金属元素、AはLiまたはNaを示す。Mが4価のCeであるとき、0<x<0.2、y=1+xであり、そしてMがアルカリ土類金属元素であるとき、0<x<1、y=1-xである。)で示される組成を有してなるヒドリドイオン導電体」を記載している。
【0004】
特許文献2(特開2017-098067号公報)は、「一般式M AHα(式中、Mは3価の希土類元素、Mはアルカリ土類金属元素またはMg、AはLi、Na、Sc,Co,Ni,Cu,MnまたはFeを示す。0≦x≦2;0≦y≦2;x+y=2;0<z<4;ならびに1≦α<3もしくは3<α<4である。)で示される組成を有してなるヒドリドイオン導電体」を記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-204632号公報
【特許文献2】特開2017-098067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び2に記載のヒドリドイオン導電体は300℃~350℃の中温域で高いヒドリドイオン導電率を示す。より低温、好ましくは室温から100℃程度の常温近辺でヒドリドイオン導電性を示すヒドリドイオン導電体が望まれている。
【0007】
本開示は、常温で高い導電特性を有するヒドリドイオン導電体及びその製造方法、並びに当該ヒドリドイオン導電体を含む常温動作可能な全固体電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
水素化ランタンLaHは、アニオンの拡散に適した骨格構造である蛍石型構造を有するだけでなく、ヒドリドイオン(H)が格子間の八面体位置を占有しているため、準格子間機構による高速ヒドリドイオン伝導性を示すと考えられる。しかし、LaHは、常圧下ではHが欠損し、それに伴うドナー準位形成により電子伝導性が発現するため、固体電解質として利用することは難しい。
【0009】
本発明者らは、La3+よりもイオン結合性の高いアルカリ金属イオン又はアルカリ土類金属イオンでLaHのLa3+の一部を置換することにより、空孔導入を抑制し又はバンドギャップを拡大させて、LaHのヒドリドイオン欠損に起因する電子伝導性の発現を抑制できることを見出した。また、本発明者らは、上記アルカリ金属イオン又はアルカリ土類金属イオン置換体が、室温で固体電解質として機能可能なレベルのヒドリドイオン導電率を有しており、上記アルカリ金属イオン又はアルカリ土類金属イオン置換体を用いて室温動作可能な全固体電池を作製できることを見出した。
【0010】
本開示は以下の態様を包含する。
[態様1]
一般式M αβ(式中、Mは3価の希土類元素であり、Mは少なくとも1種の第2族元素であり、Mはアルカリ金属より選ばれる少なくとも1種の第1族元素であり、0.4≦x<1であり、0≦y≦0.6であり、0≦z≦0.5であり、0.7<x+y+z≦1であり、0<y+z≦0.6であり、2<α<3であり、0≦β<0.3であり、3x+2y+z=α+2βである。)で示される組成を有するヒドリドイオン導電体。
[態様2]
前記3価の希土類元素が、La、Ce、Nd、Sc及びYからなる群より選ばれる少なくとも1種である、態様1に記載のヒドリドイオン導電体。
[態様3]
前記第2族元素が、Mg、Ca、Sr及びBaからなる群より選ばれる少なくとも1種である、態様1又は2に記載のヒドリドイオン導電体。
[態様4]
前記第1族元素が、Na、K、Rb及びCsからなる群より選ばれる少なくとも1種である、態様1~3のいずれかに記載のヒドリドイオン導電体。
[態様5]
一般式M αβ(式中、Mは3価の希土類元素であり、Mは少なくとも1種の第2族元素であり、Mはアルカリ金属より選ばれる少なくとも1種の第1族元素であり、0.4≦x<1であり、0≦y≦0.6であり、0≦z≦0.5であり、0.7<x+y+z≦1であり、0<y+z≦0.6であり、2<α<3であり、0≦β<0.3であり、3x+2y+z=α+2βである。)で示される組成を有するヒドリドイオン導電体の製造方法であって、
を含む水素化物と、
を含む水素化物、Mを含む水素化物又はそれらの組み合わせと
を反応させることを含む、ヒドリドイオン導電体の製造方法。
[態様6]
前記反応が水素ガス発生剤の存在下で高圧合成法により行われる、態様5に記載のヒドリドイオン導電体の製造方法。
[態様7]
前記反応がメカノケミカル法により行われる、態様5に記載のヒドリドイオン導電体の製造方法。
[態様8]
水素アニール処理を行うことを更に含む、態様7に記載のヒドリドイオン導電体の製造方法。
[態様9]
前記3価の希土類元素が、La、Ce、Nd、Sc及びYからなる群より選ばれる少なくとも1種である、態様5~8のいずれかに記載のヒドリドイオン導電体の製造方法。
[態様10]
前記第2族元素が、Mg、Ca、Sr及びBaからなる群より選ばれる少なくとも1種である、態様5~9のいずれかに記載のヒドリドイオン導電体の製造方法。
[態様11]
前記第1族元素が、Na、K、Rb及びCsからなる群より選ばれる少なくとも1種である、態様5~10のいずれかに記載のヒドリドイオン導電体の製造方法。
[態様12]
ヒドリドイオン供給体を含む正極と、水素吸蔵金属又は水素吸蔵合金を含む負極と、前記正極と前記負極の間に配置された態様1~4のいずれかに記載のヒドリドイオン導電体とを含む全固体電池。
[態様13]
前記ヒドリドイオン供給体が金属水素化物である態様12に記載の全固体電池。
[態様14]
前記負極がTi含有複合活物質を含む態様12又は13に記載の全固体電池。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、常温で高い導電特性を有するヒドリドイオン導電体が提供される。当該ヒドリドイオン導電体を含む全固体電池は常温で動作可能である。
【0012】
なお、上述の記載は、本発明の全ての実施態様及び本発明に関する全ての利点を開示したものとみなしてはならない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】高圧合成法により合成したヒドリドイオン導電体及び原料のLaH3-δの粉末X線回折図形である。
図2】メカノケミカル法により合成したヒドリドイオン導電体並びに原料のLaH3-δ及びSrHの粉末X線回折図形である。
図3】粉末X線回折を用いたリートベルト法による実施例8のヒドリドイオン導電体の結晶構造解析結果である。
図4】La0.8Sr0.22.4820.159の結晶構造を示す図である。
図5】実施例7~実施例11のヒドリドイオン導電体の拡散反射スペクトルである。
図6】Sr固溶量に対するバンドギャップのプロットである。
図7】実施例7~実施例11のヒドリドイオン導電体及び原料のLaH3-δの写真である。
図8】実施例8のヒドリドイオン導電体の25℃におけるインピーダンススペクトルである。
図9】実施例7~実施例11のヒドリドイオン導電体のアレニウスプロット及びヒドリドイオン拡散の活性化エネルギー(枠内)である。
図10】実施例7~実施例11のヒドリドイオン導電体を固体電解質として用いた全固体電池の放電曲線である。
図11】放電前後のTi含有複合活物質の粉末X線回折図形である。
図12】メカノケミカル法により合成したヒドリドイオン導電体並びに原料のLaH3-δ及びNaHの粉末X線回折図形である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の代表的な実施態様を例示する目的で、図面を参照しながらより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施態様に限定されない。
【0015】
[ヒドリドイオン導電体]
一実施態様のヒドリドイオン導電体は、一般式M αβで示される組成を有する。
【0016】
は3価の希土類元素である。Mを表す3価の希土類元素としては、例えば、La、Ce、Nd、Sc、Y、Sm、Eu、及びGdからなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。前記3価の希土類元素は、イオン半径及びコストの観点から、La、Ce、Nd、Sc及びYからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、Laであることがより好ましい。
【0017】
は少なくとも1種の第2族元素である。前記第2族元素は、イオン半径の観点から、Mg、Ca、Sr及びBaからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、Sr及びBaからなる群より選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。
【0018】
はアルカリ金属より選ばれる少なくとも1種の第1族元素である。前記第1族元素は、イオン半径の観点から、Na、K、Rb及びCsからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、更にコストの観点から、Na及びKからなる群より選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。
【0019】
xはヒドリドイオン導電体の必須構成原子であるMの組成比を表し、0.4≦x<1である。xは0.5~0.9であることが好ましく、0.7~0.8であることがより好ましい。
【0020】
yはヒドリドイオン導電体中のMの組成比を表し、0≦y≦0.6である。yは0.1~0.4であることが好ましく、0.15~0.3であることがより好ましい。
【0021】
yが0の場合、ヒドリドイオン導電体は、一般式M αβで示される組成を有する。この実施態様において、zは0.15~0.4であることが好ましく、0.2~0.3であることがより好ましい。
【0022】
zはヒドリドイオン導電体中のMの組成比を表し、0≦z≦0.5である。zは0~0.3であることが好ましく、0~0.1であることがより好ましい。
【0023】
zが0の場合、ヒドリドイオン導電体は、一般式M αβで示される組成を有する。この実施態様において、yは0.15~0.4であることが好ましく、0.2~0.3であることがより好ましい。
【0024】
x、y及びzは以下の式(1)及び(2):
0.7<x+y+z≦1 (1)
0<y+z≦0.6 (2)
を充足する。式(1)について、0.8≦x+y+z≦1であることが好ましく、0.9≦x+y+z≦1であることがより好ましい。式(2)について、0.1≦y+z≦0.4であることが好ましく、0.15≦y+z≦0.3であることがより好ましい。
【0025】
αはヒドリドイオン導電体のヒドリドイオン源である水素原子(H)の組成比を表し、2<α<3である。αは2.5~2.98であることが好ましく、2.7~2.95であることがより好ましい。
【0026】
βはヒドリドイオン導電体中の酸素原子(O)の組成比を表し、0≦β<0.3である。酸素原子(O)は、ヒドリドイオン導電体の合成に使用される原料又は製造条件に起因して、ヒドリドイオン導電体に混入し得る原子である。βは0.2以下であることが好ましく、0.1以下であることがより好ましい。
【0027】
x、y、z、α及びβは、ヒドリドイオン導電体の電荷補償を表す以下の式(3):
3x+2y+z=α+2β (3)
を充足する。
【0028】
[ヒドリドイオン導電体の製造方法]
上記ヒドリドイオン導電体は、Mを含む水素化物と、Mを含む水素化物、Mを含む水素化物又はそれらの組み合わせとを反応させることにより得ることができる。
【0029】
を含む水素化物としては、例えば、LaH、CeH、NdH、ScH、YH、SmH、EuH、及びGdHが挙げられる。Mを含む水素化物においてヒドリドイオンが欠損していてもよく、この場合、当該水素化物はM3-δ(例えば水素化ランタンの場合はLaH3-δ)と表記される。
【0030】
を含む水素化物としては、例えば、MgH、CaH、SrH及びBaHが挙げられる。
【0031】
を含む水素化物としては、例えば、NaH、KH、RbH及びCsHが挙げられる。
【0032】
を含む水素化物、Mを含む水素化物、又はMを含む水素化物は、ヒドリドイオン導電体の合成原料として使用される状態、例えば粉末状態において、不純物として酸素原子(O)を含むことがあり、酸素原子がヒドリドイオン導電体に導入される場合がある。
【0033】
上記水素化物の仕込み比は、目的とするヒドリドイオン導電体の組成に応じて適宜調整することができる。通常は、M、M及びMの組成に対応する化学量論比で上記水素化物が使用される。上記水素化物を反応させる前に、メノウ乳鉢、ボールミル等を用いて混合して前駆体を得てもよい。混合は、空気中の酸素の混入を防止するため、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。前駆体は粉末状で使用してもよく、ペレットに成形してから使用してもよい。
【0034】
一実施態様では、反応は水素ガス発生剤の存在下で高圧合成法により行われる。高圧合成法に用いる反応器は特に限定されない。例えば、上記水素化物又は前駆体と水素ガス発生剤とを混合し、キュービックアンビル型高圧装置のAu、Pt又は岩塩のカプセルに封入し、圧力1GPa~10GPa、温度600℃~1200℃の条件で、10分~24時間焼成を行うことにより、ヒドリドイオン導電体を合成することができる。
【0035】
水素ガス発生剤としては、例えば、NaBH、LiAlH等の金属水素化物、Ca(OH)等の金属水酸化物、又はこれらの混合物を使用することができる。一実施態様では、水素ガス発生剤として、NaBHとCa(OH)との混合物、又はLiAlHが使用される。水素ガス発生剤はペレットに成形されていてもよい。
【0036】
別の実施態様では、反応はメカノケミカル法により行われる。メカノケミカル法に用いる反応器は特に限定されない。例えば、上記水素化物又は前駆体を、タングステンカーバイドボールと一緒にタングステンカーバイドポットに封入し、遊星型ボールミルを用いて、温度15℃~100℃、回転数100rpm~1000rpmの条件で、30分~24時間混合及び粉砕処理を行うことにより、ヒドリドイオン導電体を合成することができる。
【0037】
メカノケミカル法によりヒドリドイオン導電体を合成した後、水素アニール処理を行ってもよい。水素アニール処理により、ヒドリドイオン導電体のヒドリドイオン欠損を低減させてそのヒドリドイオン導電性を高めることができる。水素アニール処理に使用される反応器は特に限定されず、メカノケミカル法で使用した反応器内で水素アニール処理を行うこともできる。例えば、水素アニール処理は、温度250℃~600℃、圧力0.1~5MPaの水素ガス雰囲気下、1~24時間行うことができる。
【0038】
本開示のヒドリドイオン導電体は、ヒドリドイオン二次電池、アンモニア燃料電池等の固体電池、特に全固体電池に好適に利用することができる。
【0039】
一実施態様では、ヒドリドイオン供給体を含む正極と、水素吸蔵金属又は水素吸蔵合金を含む負極と、正極と負極の間に配置された上記ヒドリドイオン導電体とを含む全固体電池が提供される。
【0040】
正極に含まれるヒドリドイオン供給体は、その材料自体が水素化物等のヒドリドイオン供給源であってもよく、外部から供給された水素ガスをヒドリドイオンに変換しヒドリドイオン導電体に供給することが可能なPd、PdCu合金等の透過膜であってもよい。
【0041】
一実施態様では、ヒドリドイオン供給体は金属水素化物である。金属水素化物としては、例えば、Mを含む水素化物が挙げられる。金属水素化物は、LaH3-δ(式中、δはヒドリドイオン欠損量を表し、0≦δ<0.5である。)であることが好ましい。
【0042】
負極に含まれる水素吸蔵金属又は水素吸蔵合金としては、例えば、Ti、Zr、Mg、V、希土類元素(例えばLa)等の水素親和性の高い金属、及びこれらの水素親和性の高い金属と、Fe、Ni、Co、Cr、Cu等の水素親和性の低い金属とを含む合金が挙げられる。水素吸蔵合金としては、例えば、LaNi等の希土類系合金、MgNi、MgCu等のマグネシウム系合金、及びTi-Fe、Ti-Mn、Ti-Ni、Ti-Cu等のチタン系合金が挙げられる。水素吸蔵金属は金属チタンであることが好ましい。水素吸蔵合金はチタン系合金であることが好ましい。
【0043】
一実施態様では、負極はTi含有複合活物質を含む。Ti含有複合活物質は、金属チタン又は上記チタン系合金と、上記ヒドリドイオン導電体とを含んでもよい。Ti含有複合活物質に含まれるヒドリドイオン導電体は、正極と負極の間で固体電解質として機能するヒドリドイオン導電体と同じ組成を有してもよく、異なる組成を有してもよい。
【0044】
この実施態様において、Ti含有複合活物質は導電助剤、バインダー等の添加剤を更に含んでもよい。導電助剤としては、例えば、炭素材料、金属粒子、及び導電性ポリマーが挙げられる。炭素材料としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、炭素繊維、カーボンナノチューブ、及びカーボンナノファイバーが挙げられる。バインダーとしては、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)等のゴム系バインダー、及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系バインダーが挙げられる。
【0045】
全固体電池は、正極上にSUS、Al、Ni、Ti、カーボン等を含む集電体を有してもよく、負極上にSUS、Cu、Ni、カーボン等を含む集電体を有してもよい。
【実施例0046】
以下の実施例において、本開示の具体的な実施態様を例示するが、本発明はこれに限定されるものではない。部及びパーセントは全て、特に明記しない限り質量による。
【0047】
1.ヒドリドイオン導電体の合成1
原料である水素化物として、水素化ランタン(LaH3-δ)、水素化ストロンチウム(SrH)、及び水素化バリウム(BaH)を用いた。LaH3-δは塊状の金属ランタンを温度400℃、圧力0.5MPaの水素ガス雰囲気下で10分間焼成することにより得た。
【0048】
実施例1~実施例2
一般式M αβ(M=La、M=Sr)で示される組成を有するヒドリドイオン導電体を高圧合成法により合成した。x及びyを表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
アルゴンガス雰囲気下で化学量論比のLaH3-δ及びSrHを秤量した。これらの水素化物をメノウ乳鉢を使用して30分間手で混合して粉末状の前駆体を得た。粉末状の前駆体をペレット化し、水素ガス発生剤として水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)及び水酸化カルシウム(Ca(OH))を含む混合ペレットと一緒にキュービックアンビル型高圧装置のAuチューブに封入し、圧力3GPa、温度1000℃で30分間焼成することにより、多結晶粉末状のヒドリドイオン導電体を得た。
【0051】
得られたヒドリドイオン導電体及び原料のLaH3-δの粉末X線回折図形を図1の上段に示す。X線回折の測定範囲は10°≦2θ≦80°とした。Srの固溶量が増加すると低角度側にピークがシフトすることが観察された。
【0052】
実施例3~実施例6
一般式M αβ(M=La、M=Ba)で示される組成を有するヒドリドイオン導電体を高圧合成法により実施例1と同様の手順で合成した。x及びyを表2に示す。
【0053】
【表2】
【0054】
得られたヒドリドイオン導電体及び原料のLaH3-δの粉末X線回折図形を図1の下段に示す。X線回折の測定範囲は10°≦2θ≦80°とした。Brの固溶量が増加すると低角度側にピークがシフトすることが観察された。
【0055】
実施例7~実施例12及び比較例1~比較例3
一般式M αβ(M=La、M=Sr)で示される組成を有するヒドリドイオン導電体をメカノケミカル法により合成した。x及びyを表3に示す。
【0056】
【表3】
【0057】
アルゴンガス雰囲気下で化学量論比のLaH3-δ及びSrHを秤量した。これらの水素化物を直径10mmのタングステンカーバイドボールと一緒にタングステンカーバイドポットに封入し、遊星型ボールミルを用いて、室温(25℃)、回転数800rpmで3時間混合及び粉砕処理を行った。その後、温度400℃、圧力1MPaの水素ガス雰囲気下で12時間水素アニール処理を行うことにより、多結晶粉末状のヒドリドイオン導電体を得た。
【0058】
得られたヒドリドイオン導電体並びに原料のLaH3-δ及びSrHの粉末X線回折図形を図2に示す。X線回折の測定範囲は10°≦2θ≦80°とした。少なくともy=0.6(実施例12)までSr固溶体が形成された。
【0059】
2.結晶構造解析
粉末X線回折を用いたリートベルト法により、ヒドリドイオン導電体の結晶構造を決定した。実施例8のヒドリドイオン導電体の結晶構造解析結果を図3に示す。LaH3-δの表面には不活性ガス中に混入した微量の酸素が吸着していることが考えられるため、酸素が含まれる既報の結晶構造モデルを用いて解析を行った。酸素の占有率が0.159(4)であること、電荷補償が成り立つことから、実施例8のヒドリドイオン導電体の組成はLa0.8Sr0.22.4820.159(x=0.8、y=0.2、α=2.482、β=0.159)に決定された。LaとSrの組成は原料として使用した水素化物の仕込み比とした。La0.8Sr0.22.4820.159の結晶構造を図4に示す。なお、合成環境によってヒドリドイオン導電体中の酸素の含有量が変化することが想定される。
【0060】
粉末X線回折リートベルト解析結果を表4に示す。
【0061】
【表4】
【0062】
3.バンドギャップ測定
紫外可視近赤外吸収分光法を用いて、実施例7~実施例11のヒドリドイオン導電体のバンドギャップを算出した。測定条件は室温(25℃)、波長範囲は175~3300nmとした。得られた拡散反射スペクトルを図5に示す。Sr固溶量に対するバンドギャップのプロットを図6に示す。Sr固溶量の増加とともに吸収する光のエネルギーの下限が高エネルギー側にシフトすることが確認された。バンドギャップはy=0.1で2.14eVであり、y=0.5では2.78eVまで拡大した。
【0063】
実施例7~実施例11のヒドリドイオン導電体及び原料のLaH3-δの写真を図7に示す。原料のLaH3-δは、多量のヒドリドイオン欠損に起因する強い吸収により黒色を呈した。実施例7~11では、バンドギャップの拡大及びヒドリドイオン欠損の低減によりヒドリドイオン導電体の色が変化した。
【0064】
4.ヒドリドイオン導電率測定
電気化学交流インピーダンス法を用いて、実施例7~実施例11のヒドリドイオン導電体のヒドリドイオン導電率を測定した。直径6mm、厚さ1.1mmでペレット化したヒドリドイオン導電体の両面に水素ブロッキング電極としてPt膜をスパッタしすることにより対称セルを作製した。Pt膜の直径は5mmとした。測定条件はアルゴン雰囲気下、印加電圧10mV、周波数範囲0.1Hz~35MHz、温度範囲0~100℃とした。実施例8のヒドリドイオン導電体の25℃におけるインピーダンススペクトルを図8に示す。インピーダンススペクトルは、ヒドリドイオン導電体内におけるヒドリドイオンの拡散に由来する高周波側の半円と、電極が水素をブロックすることに由来する低周波側の立ち上がりとから構成された。バルクと粒界の成分を分離できなかったため、バルクと粒界を加算した抵抗値からヒドリドイオン導電体のヒドリドイオン導電率を算出した。
【0065】
実施例7~実施例11のヒドリドイオン導電体のアレニウスプロット及びヒドリドイオン拡散の活性化エネルギー(枠内)を図9に示す。Sr固溶量が小さいほど導電率は高くなり、ヒドリドイオン拡散の活性化エネルギーも同様に小さくなった。
【0066】
5.ヒドリドイオン導電体を用いた電池反応
実施例7~実施例11のヒドリドイオン導電体を固体電解質、LaH3-δを正極活物質、Ti含有複合活物質を負極活物質として用いて全固体電池を作製し、定電流放電試験を行った。固体電解質として150mgのヒドリドイオン導電体を使用した。正極活物質として70mgのLaH3-δを使用した。Ti含有複合活物質は、30質量部の金属チタン、60質量部の固体電解質と同じヒドリドイオン導電体、及び10質量部のカーボン導電助剤VGCF(登録商標)(昭和電工株式会社製)をメノウ乳鉢で手で混合して調製した。負極活物質として10mgのTi含有複合活物質を使用した。放電条件は室温(25℃)、アルゴン気流下、放電電流値50μA、1/67.2Cレートとした。Tiの理論容量約1120mAhg-1に達するまで放電試験を行った結果、理論容量まで電圧が生じた。図10に放電曲線を想定される反応式と合わせて示す。
【0067】
実施例8のヒドリドイオン導電体を固体電解質として用いたときの、放電前後のTi含有複合活物質の粉末X線回折図形を図11に示す。33°~42°において、放電前に確認されたTiのピークが放電後には確認されなかった。また、放電後、58°付近に水素化チタンTiHのピークが新たに観測された。粉末X線回折図形から、正極のLaH3-δから放出されたヒドリドイオンが、固体電解質であるヒドリドイオン導電体を経由し、負極のTiに吸蔵される放電反応が完全に進行したことが分かる。以上の結果から、水素化ランタンLaH3-δにSrを固溶させたヒドリドイオン導電体は、実質的に電子伝導を示さず、室温でヒドリドイオン固体電解質として機能することが実証された。
【0068】
6.ヒドリドイオン導電体の合成2
原料である水素化物として、実施例1で使用した水素化ランタン(LaH3-δ)、及び水素化ナトリウム(NaH)を用いた。
【0069】
実施例13
一般式M αβ(M=La、M=Na、x=0.7、z=0.3)で示される組成を有するヒドリドイオン導電体をメカノケミカル法により合成した。
【0070】
アルゴンガス雰囲気下で化学量論比のLaH3-δ及びNaHを秤量した。これらの水素化物を直径10mmのタングステンカーバイドボールと一緒にタングステンカーバイドポットに封入し、遊星型ボールミルを用いて、室温(25℃)、回転数800rpmで3時間混合及び粉砕処理を行った。その後、温度400℃、圧力1MPaの水素ガス雰囲気下で12時間水素アニール処理を行うことにより、多結晶粉末状のヒドリドイオン導電体を得た。
【0071】
得られたヒドリドイオン導電体(x=0.7、z=0.3)並びに原料のLaH3-δ及びNaHの粉末X線回折図形を図12に示す。X線回折の測定範囲は10°≦2θ≦80°とした。合成したヒドリドイオン導電体の粉末X線回折図形にNaH由来のピークが観測されなかったこと、格子の膨張に伴う低角度側へのピークシフトが認められたことから、NaがLaH3-δに固溶したことが示唆される。
【0072】
本発明の基本的な原理から逸脱することなく、上記の実施態様及び実施例が様々に変更可能であることは当業者に明らかである。また、本発明の様々な改良及び変更が本発明の趣旨及び範囲から逸脱せずに実施できることも当業者には明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本開示のヒドリドイオン導電体は、全固体電池等の固体電解質として有用である。また、本開示のヒドリドイオン導電体は、電荷キャリアとしてヒドリドイオンを利用する新たなエネルギーデバイスを生み出す可能性を有する。
図1
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