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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023128410
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】液滴吐出ヘッドおよび液滴吐出装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20230907BHJP
   B41J 2/17 20060101ALI20230907BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
B41J2/14 607
B41J2/14 301
B41J2/17
B41J2/01 451
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022032743
(22)【出願日】2022-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100093997
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀佳
(72)【発明者】
【氏名】久保 勇
(72)【発明者】
【氏名】酒井 慶太郎
【テーマコード(参考)】
2C056
2C057
【Fターム(参考)】
2C056EA28
2C056EB07
2C056EB29
2C056EC32
2C056EC40
2C056FA04
2C056FA10
2C056HA05
2C056HA15
2C057AG12
2C057AG44
2C057AN01
2C057BA05
2C057BA14
(57)【要約】
【課題】温度変化に関わらず適正なノズル閉状態とノズル開状態が得られる液滴吐出ヘッドを提供する。
【解決手段】液滴を吐出するノズル302を保持するハウジング310と、ノズル302を開閉する弁体331を長手方向一端部に支持してハウジング310の内部に配設され、弁体331を長手方向に往復移動して開閉作動する伸縮駆動体332と、ハウジング310に対する伸縮駆動体332の長手方向他端部の位置を規制する規制部材314と、を有する液滴吐出ヘッド300において、温度Tにおける規制部材314から弁体331の先端シール部331aまでの長さをL1、規制部材314からノズル302までの長さをL2としたとき、温度Tからの所定温度変化ΔTによるL1とL2の熱変形量ΔL1、ΔL2を等しくしたことを特徴とす
る液滴吐出ヘッド300。
【選択図】図2B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴を吐出するノズルが形成されたノズル板と、
前記ノズル板を保持するハウジングと、
前記ノズルを開閉する弁体と、
前記弁体を長手方向一端部に支持して前記ハウジングの内部に配設され、前記弁体を前記長手方向に往復移動して開閉作動する伸縮駆動体と、
前記ハウジングに対する前記伸縮駆動体の長手方向他端部の位置を規制する規制部材と、を有する液滴吐出ヘッドにおいて、
温度Tにおける前記規制部材から前記弁体の先端までの長さをL1、前記規制部材から前記ノズル板のうち前記弁体の先端が突き当たる面までの長さをL2とし、前記温度Tからの所定温度変化ΔTによる前記L1と
前記L2の熱変形量をそれぞれΔL1、ΔL2としたとき、(ΔL1-ΔL2)は所定の値以下であることを
特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項2】
前記ハウジングの内部に冷却流体の通路が形成されていることを特徴とする請求項1の液滴吐出ヘッド。
【請求項3】
前記冷却流体の通路の入口側に冷却器が接続されていることを特徴とする請求項2の液滴吐出ヘッド。
【請求項4】
前記冷却流体が絶縁性が高い流体であることを特徴とする請求項2又は3の液滴吐出ヘッド。
【請求項5】
前記冷却流体の通路が、前記駆動ユニットの前記駆動体を横切る方向に形成されていることを特徴とする請求項2から4のいずれか1項の液滴吐出ヘッド。
【請求項6】
前記冷却流体が、前記ハウジングの外部の循環通路によって循環可能に構成されていることを特徴とする請求項2から5のいずれか1項の液滴吐出ヘッド。
【請求項7】
前記駆動ユニットの前記駆動体の単位時間あたりの駆動回数の増減に対応して前記冷却流体の流量又は圧力を増減制御するようにしたことを特徴とする請求項2から6のいずれか1項の液滴吐出ヘッド。
【請求項8】
前記ノズルに対する前記弁体の最低食い込み量をC1、常温における食い込み量をC2としたとき、所定の値は(C2-C1)であることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項の液滴吐出ヘッド。
【請求項9】
液滴を吐出するノズルが形成されたノズル板と、
前記ノズル板を保持するハウジングと、
前記ノズルを開閉する弁体と、
前記弁体を長手方向一端部に支持して前記ハウジングの内部に配設され、前記弁体を前記長手方向に往復移動して開閉作動する伸縮駆動体と、
前記ハウジングに対する前記伸縮駆動体の長手方向他端部の位置を規制する規制部材と、を有する液滴吐出ヘッドにおいて、
温度Tにおける前記規制部材から前記弁体の先端までの長さをL1、前記規制部材から前記ノズル板のうち前記弁体の先端が突き当たる面までの長さをL2とし、前記温度Tからの所定温度変化ΔTによる前記L1と
前記L2の熱変形量をそれぞれΔL1、ΔL2としたとき、ΔL1=ΔL2であることを特徴とする液滴吐出
ヘッド。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項の液滴吐出ヘッドを備えたことを特徴とする液滴吐出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子などの駆動体を使用した液滴吐出ヘッドおよび液滴吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液滴吐出装置を備えた画像形成装置として、例えば特許文献1(特開2019-122955号公報)などに記載のインクジェットプリンタがある。この液滴吐出装置のインクジェットヘッド(液滴吐出ヘッド)には、液滴を記録媒体に向けて噴射するためのノズルが設けられている。ノズルの内側にはノズルを開閉する弁体が配置され、当該弁体に対して、長手方向に伸縮作動する圧電素子などを有する伸縮駆動体が連結される。
【0003】
伸縮駆動体が長手方向に伸縮作動(振動)することで弁体が開閉され、弁体が開いた瞬間にノズルから高圧インクが液滴となって噴射される。弁体は伸縮駆動体の長手方向一端部に連結され、伸縮駆動体の長手方向他端部は液滴吐出ヘッドのハウジングに固定される。この固定部分が弁体の開閉位置を決める基準点となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
伸縮駆動体は、弁体の開閉速度を上げるために圧電素子(ピエゾ素子)を使用することが多い。圧電素子は電圧印加時(駆動時)に長手方向に伸長して弁体を前進させてノズルを閉口する。非駆動時は元の長さに復帰してノズルを開口する。
【0005】
インクを吐出しないときは、圧電素子に所定の電圧を印加して弁体によってノズルを閉口する。印加電圧が不測にダウンしたり停電になったりすると圧電素子が原形に戻ってノズルが開口し、液漏れ(インク漏れ)が発生することがある。特許文献1の液滴吐出装置は、圧電素子に電圧を印加するとノズルが開口し、電圧印加を停止するとノズルを閉口するようにしている。これにより前述した液漏れを防止するようにしている。
【0006】
しかしながら、圧電素子を高い周波数で駆動し続けると、発熱によって圧電素子と弁体に長手方向の熱膨張が起こる。また、液滴吐出ヘッドの周囲の環境温度によっても、液滴吐出ヘッドのハウジングなどの伸縮が発生する。そうすると弁体とノズルの相対位置が変化し、ノズル閉の状態では弁体のシール部材の食い込み量が増大し、シール部材の過剰圧縮によりシール寿命が低下することがある。この反対に、ノズル開の状態ではノズル開口が狭くなって液体の吐出適量が得られなくなることがある。
【0007】
本発明はかかる課題に鑑みなされたもので、温度変化に関わらず適正なノズル閉状態とノズル開状態が得られる液滴吐出ヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決する発明の液滴吐出モジュールは、液滴を吐出するノズルを保持するハウジングと、前記ノズルを開閉する弁体を長手方向一端部に支持して前記ハウジングの内部に配設され、前記弁体を前記長手方向に往復移動して開閉作動する伸縮駆動体と、前記ハウジングに対する前記伸縮駆動体の長手方向他端部の位置を規制する規制部材と、を有する液滴吐出ヘッドにおいて、温度Tにおける前記規制部材から前記弁体の先端シール部までの長さをL1、前記規制部材から前記ノズルまでの長さをL2としたとき、前記温度Tからの所定温度変化ΔTによる前記L1と前記L2の熱変形量ΔL1、ΔL2を等しくしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、温度変化に関わらず適正なノズル閉状態とノズル開状態が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態に係る液滴吐出ヘッドの全体断面図である。
図2A】液滴吐出モジュールの非駆動時の断面図である。
図2B】液滴吐出モジュールの駆動時の断面図である。
図3】ノズルに対する弁体シール部の食い込み量とインクの漏れ量との関係を示す図である。
図4】冷却流体の流体通路が形成された液滴吐出ヘッドの断面図である。
図5図4の要部拡大断面図である。
図6】冷却流体の流体通路に冷却器を接続した液滴吐出ヘッドの断面図である。
図7】伸縮駆動体の単位時間当たりの駆動回数に対する(a)ヘッド温度の変化、(b)冷却流体の圧力/流速の変化、(c)冷却流体を流したときのヘッド温度の変化を示すグラフである。
図8】液滴吐出装置の全体概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(●液滴吐出ヘッド)
以下、本発明の液滴吐出ヘッドに係る実施形態を図面を参照して説明する。図1は液滴吐出ヘッド300の全体断面図である。液滴吐出ヘッド300のハウジング310は、下部ハウジング310aと、当該下部ハウジング310aの上に接合(積層)された上部ハウジング310bで構成される。
【0012】
下部ハウジング310aは金属等の熱伝導性の高い材質からなり、上部ハウジング310bは樹脂等の熱伝導性の低い材質からなる。上部ハウジング310bは、その上部に電気信号の通信のためのコネクタ350を備える。
【0013】
下部ハウジング310aはノズル板301を保持する。このノズル板301に、液滴を吐出するための複数のノズル302が形成されている。本実施形態では、ノズル板301に8個のノズル302が1列に等間隔で形成されている。ノズル302の数および配列数は、勿論これらに限られるものではない。
【0014】
(●液滴吐出モジュール)
液滴吐出ヘッド300の内部に、前記ノズル302の数(8個)に対応して伸縮駆動体としての8個の液滴吐出モジュール330が配設されている。各液滴吐出モジュール330の長手方向(上下方向)は、ノズル板301に対して垂直とされている。
【0015】
ノズル板301の上に、左側の供給ポート311側から右側の回収ポート313側へ至る流路312が形成されている。供給ポート311と回収ポート313は、上部ハウジング310bに配設されている。流路312内の液体(インク)を、液滴吐出モジュール330の伸縮作動(振動)によってノズル302から液滴として吐出する。
【0016】
液滴吐出モジュール330は、その長手方向一端部に支持されたニードル状の弁体331と、当該弁体331を駆動する圧電素子332を有する。弁体331の先端部には、テフロン(登録商標)樹脂等によるシール部材331aが取付けられている。
【0017】
圧電素子332は電圧の印加により長手方向に伸縮作動する。すなわち、圧電素子332に電圧を印加すると長手方向に伸長し、電圧の印加を停止すると元の長さに戻る。
【0018】
上部ハウジング310bには、液滴吐出モジュール330の長手方向他端部(圧電素子332の上端部)と長手方向で対向する位置に規制部材314が配設されている。規制部材314は圧電素子332の上端部に当接しており、圧電素子332の固定点(基準点)を形成している。
【0019】
図2A図2Bに示すように、下部ハウジング310aと上部ハウジング310bの間に、シール部材としてのOリング315が配設されている。このOリング315によって、液体が弁体331を超えて圧電素子332の方向に漏出するのを防止している。
【0020】
規制部材314の上下方向の位置調整と上部ハウジング310bに対する位置固定は次のように行う。まず、図2Aでボルト362を緩めた状態で規制部材314の上下方向の位置調整を行う。このとき、ノズル302と弁体331のシール部材331aとの間に所定の大きさの隙間を形成する。
【0021】
この隙間が大き過ぎると狙いの吐出適量が得られないばかりでなく、図2Bの状態でインク漏れが発生する。この反対に隙間が小さ過ぎても狙いの吐出適量が得られないし、図2Bの状態でシール部材331aに過度の圧縮力が作用してシール寿命が短縮し、インク漏れが発生する。
【0022】
規制部材314の上下方向の位置調整を行った後、ボルト362を締付ける。これにより、規制部材314の外周面が上部ハウジング310bの内周面に圧着する。このようにして、規制部材314を上部ハウジング310bに位置固定する。
【0023】
(●液滴吐出モジュールの作動)
供給ポート311は、加圧した状態の液体(インクや塗料など)を外部から取り込み、液体を矢印a1方向へ送り、液体を流路312に供給する。流路312は、供給ポート311からの液体を矢印a2方向へ送る。そして、回収ポート313は、流路312に沿って配置したノズル302から吐出されなかった液体を矢印a3方向へ回収する。
【0024】
図2Aのように、圧電素子332に電圧を印加しない非駆動時においては、弁体331が上方へ移動してノズル302が開状態になっている。このノズル開状態でノズル302から液滴を吐出することができる。
【0025】
また図2Bのように、圧電素子332に印加する駆動時においては、弁体331が下方へ移動して弁体331のシール部材331aの一部がノズル302に食い込む(食い込み量C)。これによりノズル302が閉状態になり、ノズル302から液滴が吐出しなくなる。
【0026】
(●液滴吐出ヘッドの熱膨張)
次に、液滴吐出ヘッド300の熱膨張について説明する。圧電素子332を高い周波数で駆動し続けると、圧電素子332の発熱により圧電素子332と弁体331に熱膨張が起こる。図2A図2Bのように、圧電素子332はその上端部の規制部材314を固定点(基準点)としているため、圧電素子332が熱膨張すると弁体331がノズル板301側へ押し下げられる。
【0027】
また、圧電素子332からの熱は、圧電素子332と接している弁体331にも伝わり、弁体331自体も熱膨張により下方に伸びる。その結果、弁体331のシール部材331aが図2Bよりもさらにノズル302に食い込む状態が発生する。そうすると、シール部材331aに過度の圧縮力が作用してシール寿命が短縮し、インク漏れのおそれが発生する。
【0028】
一方、圧電素子332の作動によって弁体331が変位する量は一定(例えば15μm程度)であるため、ノズル302に対する弁体331のシール部材331aの食い込み量が大きくなる程、ノズル302を開くことが難しくなる。この結果、図2Aにおいてノズル302の開口隙間が減少して流体抵抗が大きくなり、ノズル302からの液滴吐出速度が低下し、狙いの吐出適量を得ることができなくなる。
【0029】
また、ヘッド周囲の環境温度によっても、ノズル板301およびハウジング310aの伸縮が発生する。ハウジング310aの伸縮が発生すると、圧電素子332の発熱時と同様に、ノズル板301と弁体331のシール部材331aとの間に適正な隙間が得られず、狙いの吐出適量を得ることができなくなる。
【0030】
本実施形態は、ノズル板301と弁体331に関わる部材の熱変形量ΔL1、ΔL2を以下のように設定することで、温度変化があってもノズル板301と弁体331の相対位置を不変とし、インク漏れがなく吐出適量も確保可能にした。
ΔL1=ΔL2
L1:温度(常温)Tにおけるボルト362の軸線から弁体331のシール部材331aの先端までの長さ
L2:温度(常温)Tにおけるボルト362の軸線からノズル板301のうちシール部材331aの先端が突き当たる面までの長さ
ΔL1:温度変化ΔTによるL1の熱変形量
ΔL2:温度変化ΔTによるL2の熱変形量
【0031】
熱変形量ΔL1、ΔL2は以下の式で表すことができる。Σは、ノズル板301と弁体331に関わる複数の
部材の変形量の足し算を表す。
L1の変形量:ΔL1=Σ(線膨張係数×長さ×温度変化ΔT)
L2の変形量:ΔL2=Σ(線膨張係数×長さ×温度変化ΔT)
【0032】
(代表的部材の材質と長さ)
ノズル板301と弁体331に関わる代表的部材の材質、線膨張係数および長さは、例えば以下の通りである。
・シール部材331a:テフロン(登録商標)(線膨張係数:1.0×10^(-4)、長さ:0.6mm)
・弁体331:SUS303(線膨張係数:18.7×10^(-6)、長さ:11mm)
・圧電素子332:チタン酸ジルコン酸鉛(線膨張係数:-5.0×10^(-6)、長さ:40mm)
・ボルト362:SUS430(線膨張係数:10.4×10^(-6)、長さ:30mm)
・ハウジング310:SUS430(線膨張係数:10.4×10^(-6)、長さ:81.6mm)
これらの数値に基づいて熱変形量ΔL1、ΔL2を算出する。
【0033】
(●シール部材の食い込み量)
次に、シール部材331aの食い込み量について説明する。図3は、ノズル302に対するシール部材331aの食い込み量とインクの漏れ量との関係を表したグラフである。このグラフから分かるように、シール部材331aの食い込み量がある程度大きくなるとインクの漏れ量が急減する。ここでは、食い込み量C1(例えばC1=3μm)が許容漏れ量に対応する下限であるとする。
【0034】
温度(常温)Tにおいては、食い込み量C1よりも大きい食い込み量C2(例えばC2=5μm)が必要である。温度変化があっても当該食い込み量C2が得られるように、規制部材314の上下方向位置を調整し、また前述したように熱変形量ΔL1、ΔL2をΔL1=ΔL2とする。しかしながら、熱変形量を完全にΔL1
=ΔL2とするのは難しい場合がある。
【0035】
食い込み量CはL1-L2で算出されるから、温度変化によって、
(1)L1の変形量(+側)<L2の変形量(+側)になると、食い込み量が減少してシールができなくなる。
(2)L1の変形量(+側)>L2の変形量(+側)になると、食い込み量が増大してシール部材が塑性変形する(シール性悪化)。
【0036】
そこで、熱変形量ΔL1、ΔL2の誤差(ΔL1-ΔL2)が発生しても、食い込み量CがC1≦C≦C2の範囲内に収まるようにする。すなわち、誤差(ΔL1-Δ2)の値をC1≦C≦C2を満足する所定値以下にする。望ましくは誤差(ΔL1-ΔL2)の値をゼロにする(ΔL1=ΔL2)。これにより、図2Bの状態でのノズル302のシール性を確保することができ、また図2Aの状態でのノズル302の狙いの吐出適量を確保することができる。実施形態ではハウジング310とノズル板301とを別の部品(別体)としたが、両部材は一体の部材としてもよい。
【0037】
(●圧電素子とハウジングの冷却)
前述した温度変化(温度上昇)ΔTの主要因は圧電素子332の発熱にある。図4は、圧電素子332を液体Wで冷却して温度変化ΔTを少なくするようにした実施形態である。
【0038】
すなわち、上部ハウジング310bの圧電素子332を収容した空間を横方向に横断するように液体通路370を形成し、この液体通路370を、液体タンクTAとポンプPに接続して液体Wを循環させる。液体Wを循環させることで、液体Wの消費量を抑えることができる。
【0039】
液体Wによって圧電素子332とハウジング310が冷却されるので、熱変形量ΔL1、ΔL2を少なくすることができる。液体Wの絶縁性が低いと圧電素子332の動作が不安定になる。液体Wとして絶縁性の高いものを使うことでより安定、安全に液滴吐出ヘッド300を冷やすことができる。
【0040】
絶縁性の高い液体として、例えばフッ素系不活性液体を使用することができる。フッ素系不活性液体はフッ素を含んだ有機溶液であって、パーフルオロポリエーテル(PFPE)、パーフルオロカーボン(PFC)、ハイドロフルオロエーテル(HFE)などの種類を含む。
【0041】
液体Wによる冷却によって、熱変形量ΔL1、ΔL2の誤差(ΔL1-ΔL2)も少なくすることができ、図2Bの状態でのノズル302のシール性確保、図2A図5の状態でのノズル302の吐出適量の確保を図ることができる。
【0042】
図6に示すように、ハウジング310に対する液体通路370の入口側に冷却器380を設けると、圧電素子332とハウジング310の冷却効果が高まり、熱変形量ΔL1、ΔL2や、当該熱変形量ΔL1、ΔL2の誤差(ΔL1-ΔL2)をいっそう少なくすることができる。したがって、図2Bの状態でのノズル302のシール性確保、図2A図6の状態でのノズル302の吐出適量の確保をいっそう確実にすることができる。
【0043】
(●ポンプの制御)
ポンプPは、圧電素子332とハウジング310を適切に冷却するため、図7(b)のように制御することができる。すなわち、図7(a)のように圧電素子332の単位時間当たりの駆動回数(振動数)が多くなるにつれてヘッド温度が上昇する。
【0044】
このように圧電素子332の駆動回数とヘッド温度の上昇は比例関係にあるので、ポンプPから送り出す冷却流体の圧力又は流速を圧電素子332の駆動回数に比例させる。こうすることで、圧電素子332とハウジング310が過不足なく適切に冷却され、図7(c)のように液滴吐出ヘッド300の温度変化を少なくすることができる。
【0045】
(●液滴吐出装置)
図8は、前述した液滴吐出ヘッド300を使用した液滴吐出装置1000の全体概略構成図である。図8(a)は液滴吐出装置の側面図、図8(b)は同装置の平面図である。液滴吐出装置1000は、対象物の一例である被描画物100に対向して設置している。液滴吐出装置1000は、X軸レール101と、このX軸レール101と交差するY軸レール102と、X軸レール101およびY軸レール102と交差するZ軸レール103を備える。
【0046】
Y軸レール102は、X軸レール101がY軸方向に移動可能なようにX軸レール101を保持する。また、X軸レール101は、Z軸レール103がX軸方向に移動可能なようにZ軸レール103を保持する。そして、Z軸レール103は、キャリッジ1がZ軸方向に移動可能なようにキャリッジ1を保持する。
【0047】
液滴吐出装置1000は、キャリッジ1をZ軸レール103に沿ってZ軸方向に動かす第1のZ方向駆動部92と、Z軸レール103をX軸レール101に沿ってX軸方向に動かすX方向駆動部72を備える。また、液滴吐出装置1000は、X軸レール101をY軸レール102に沿ってY軸方向に動かすY方向駆動部82を備える。さらに、液滴吐出装置1000は、キャリッジ1に対してヘッド保持体70をZ軸方向に動かす第2のZ方向駆動部93を備える。
【0048】
前述の液滴吐出ヘッド300は、ヘッド300のノズル302が被描画物100に対向するようにヘッド保持体70に取り付けて使用する。前述のように構成した液滴吐出装置1000は、キャリッジ1をX軸、Y軸およびZ軸の方向に動かしながら、ヘッド保持体70に取り付けたヘッド300(図示せず)から被描画物100に向けて液体の一例であるインクを吐出し、被描画物100に描画を行う。
【0049】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された技術的思想に基づいて種々の変形が可能である。例えば前記圧電素子332は、長手方向に伸縮作動する他の駆動体に代替可能であり、たとえば電磁ソレノイドで長手方向に伸縮作動するピストンを圧電素子332の代わりに使用することも可能である。
【符号の説明】
【0050】
1:キャリッジ 70:ヘッド保持体
72:X方向駆動部 82:Y方向駆動部
92:第1のZ方向駆動部 93:第2のZ方向駆動部
100:被描画物 101:X軸レール
102:Y軸レール 103:Z軸レール
300:液滴吐出ヘッド 301:ノズル板
302:ノズル 310:ハウジング
310a:下部ハウジング 310b:上部ハウジング
310b3:バカ穴 310b4:雌ネジ孔
311:供給ポート 312:流路
313:回収ポート 314:規制部材
316:Oリング 330:液滴吐出モジュール
331:弁体 331a:シール部材
332:圧電素子 350:コネクタ
362:ボルト 370:液体通路
380:冷却器 1000:液滴吐出装置
【先行技術文献】
【特許文献】
【0051】
【特許文献1】特開2019-122955号公報
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8