(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023128418
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】白金担持オニオンライクカーボン化ナノダイヤモンド、燃料電池用触媒、燃料電池用電極層、及び燃料電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/86 20060101AFI20230907BHJP
H01M 4/92 20060101ALI20230907BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20230907BHJP
C01B 32/28 20170101ALI20230907BHJP
B01J 23/42 20060101ALI20230907BHJP
H01M 4/96 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
H01M4/86 B
H01M4/92
H01M4/86 M
H01M8/10 101
C01B32/28
B01J23/42 M
H01M4/96 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022032756
(22)【出願日】2022-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(71)【出願人】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】田中 寛久
(72)【発明者】
【氏名】近藤 剛史
(72)【発明者】
【氏名】湯浅 真
(72)【発明者】
【氏名】東條 敏史
(72)【発明者】
【氏名】鄭 貴寛
(72)【発明者】
【氏名】坂田 祐未
【テーマコード(参考)】
4G146
4G169
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
4G146AA04
4G146AB04
4G146AD24
4G146CB20
4G146CB34
4G169AA02
4G169BA08A
4G169BA08B
4G169BC75A
4G169BC75B
4G169BD04A
4G169BD04B
5H018AA06
5H018BB01
5H018BB06
5H018BB12
5H018BB17
5H018EE03
5H018EE05
5H126BB06
(57)【要約】
【課題】白金担持オニオンライクカーボン化ナノダイヤモンド、燃料電池用触媒、燃料電池用電極層形成材料、燃料電池用電極層、及び燃料電池を提供する。
【解決手段】本開示は、下記オニオンライクカーボン化ナノダイヤモンドの凝集体中に白金を含む、白金担持オニオンライクカーボン化ナノダイヤモンド、前記白金担持オニオンライクカーボン化ナノダイヤモンドを含む燃料電池用触媒に関する。
オニオンライクカーボン化ナノダイヤモンド:ナノダイヤモンドを核とし、その表面に複数のグラフェン層を有する
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記オニオンライクカーボン化ナノダイヤモンドの凝集体中に白金を含む、白金担持オニオンライクカーボン化ナノダイヤモンド。
オニオンライクカーボン化ナノダイヤモンド:ナノダイヤモンドを核とし、その表面に複数のグラフェン層を有する
【請求項2】
請求項1に記載の白金担持オニオンライクカーボン化ナノダイヤモンドを含む燃料電池用触媒。
【請求項3】
請求項1に記載の白金担持オニオンライクカーボン化ナノダイヤモンドと、バインダーとを含む、燃料電池用電極層形成材料。
【請求項4】
請求項1に記載の白金担持オニオンライクカーボン化ナノダイヤモンドを含む燃料電池用電極層。
【請求項5】
請求項4に記載の燃料電池用電極層を備えた燃料電池。
【請求項6】
固体高分子形燃料電池である、請求項5に記載の燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、白金担持オニオンライクカーボン化ナノダイヤモンドと、これを含む燃料電池用触媒、これを含む燃料電池用電極層形成材料、これが担持されてなる燃料電池用電極層、及び、前記電極層を備えた燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池では、従来、電極層に使用されるカソード触媒として、白金をカーボン担体に担持したPt/Cが用いられてきた(例えば、特許文献1)。
【0003】
しかし、Pt/Cをカソード触媒として使用した場合、燃料電池の起動時や停止時に、電位が上昇することで、白金は担体表面上を移動して、凝集・離脱し易い。また、カーボン担体は、電解液によって腐食し易い。そのため、経時的に触媒活性が低下し、燃料電池の発電性能が低下することが問題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本開示の目的は、耐久性に優れた燃料電池用触媒として有用な、白金担持オニオンライクカーボン化ナノダイヤモンドを提供することにある。
本開示の他の目的は、耐久性に優れた燃料電池用触媒を提供することにある。
本開示の他の目的は、耐久性に優れた燃料電池用触媒を含む燃料電池用電極層形成材料を提供することにある。
本開示の他の目的は、耐久性に優れた燃料電池用触媒を含む、燃料電池用電極層を提供することにある。
本開示の他の目的は、前記燃料電池用電極層を備えた燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した結果、ナノダイヤモンドの表面にグラファイト層が積層されてなるオニオンライクカーボン化ナノダイヤモンドのグラフェン層間に白金を担持させると、燃料電池の起動時や停止時にも、白金が担体表面上を移動して、凝集・離脱するのを抑制することができ、触媒活性を長期に亘って高く維持することができることを見出した。本開示はこれらの知見に基づいて完成させたものである。
【0007】
すなわち、本開示は、下記オニオンライクカーボン化ナノダイヤモンドの凝集体中に白金を含む、白金担持オニオンライクカーボン化ナノダイヤモンドを提供する。
オニオンライクカーボン化ナノダイヤモンド:ナノダイヤモンドを核とし、その表面に複数のグラフェン層を有する
【0008】
本開示は、また、前記白金担持オニオンライクカーボン化ナノダイヤモンドを含む燃料電池用触媒を提供する。
【0009】
本開示は、また、前記白金担持オニオンライクカーボン化ナノダイヤモンドと、バインダーとを含む、燃料電池用電極層形成材料を提供する。
【0010】
本開示は、また、前記白金担持オニオンライクカーボン化ナノダイヤモンドを含む燃料電池用電極層を提供する。
【0011】
本開示は、また、前記燃料電池用電極層を備えた燃料電池を提供する。
【0012】
本開示は、また、固体高分子形燃料電池である前記燃料電池を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本開示の白金担持オニオンライクカーボン化ナノダイヤモンド(Pt/OLC-ND)は、オニオンライクカーボン化ナノダイヤモンドの凝集体中に、白金を三次元的に固定した構成を有する。そのため、耐久性に優れ、燃料電池の起動時や停止時にも、白金が担体表面上を移動して、凝集・離脱するのが抑制され、長期に亘って優れた触媒活性を安定的に発揮することができる。従って、前記白金担持オニオンライクカーボン化ナノダイヤモンドを用いて得られた燃料電池用電極層を備える燃料電池(例えば、固体高分子形燃料電池)は、高い初期発電性能を長期間維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】Pt/ND(ζ+)複合体(1)のSEM像である。
【
図2】Pt/ND(ζ+)複合体(1)のTEM像である。
【
図3】Pt/ND(ζ+)複合体(1)からPEG除去して得たPt/ND(ζ+)複合体(1’)のXPSスペクトルデータである。
【
図4】Pt/OLC-ND(ζ+)(1)のSEM像である。
【
図5】Pt/OLC-ND(ζ+)(1)のTEM像である。
【
図6】Pt/OLC-ND(ζ+)(1)のTEM EDS像である。
【
図7】Pt/OLC-ND(ζ+)(1)のラマンスペクトルである。
【
図8】Pt/OLC-ND(ζ+)(1)のXPSスペクトルデータである。
【
図9】Pt/OLC-ND(ζ+)(1)のXRD測定結果を示す図である。
【
図10】Pt/OLC-ND(ζ+)(1)の窒素吸着等温線を示す図である。
【
図11】電極層(1)の、0.1MのHClO
4中でのCV測定結果を示す図である。
【
図12】電極層(1)の、酸素飽和0.1MのHClO
4中でのCV測定結果を示す図である。
【
図13】Pt/OLC-ND(ζ+)(1)を含む電極層(1)とPt/Cを含む電極層(x)の、水素脱着の電荷維持率とサイクル数の関係性を比較する図である。
【
図14】Pt/ND(ζ-)複合体(2)のSEM像である。
【
図15】Pt/ND(ζ-)複合体(2)からPEG除去して得たPt/ND(ζ-)複合体(2’)のXPSスペクトルデータである。
【
図16】Pt/OLC-ND(ζ-)(2)のSEM像である。
【
図17】Pt/OLC-ND(ζ-)(2)のTEM像である。
【
図18】Pt/OLC-ND(ζ-)(2)のXPSスペクトルデータである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[白金担持オニオンライクカーボン化ナノダイヤモンド]
本開示の白金担持オニオンライクカーボン化ナノダイヤモンド(Pt/OLC-ND)は、ナノダイヤモンドを核とし、その表面に複数のグラフェン層を有するオニオンライクカーボン化ナノダイヤモンドの凝集体(好ましくは、球状凝集体)中に白金を含む。好ましくは、前記凝集体中に白金を三次元的に分散し、固定化した構成を有する。
【0016】
前記グラフェン層は、ナノダイヤモンド表面の少なくとも一部を被覆しておればよい。
【0017】
前記凝集体中に含有する白金の態様は特に限定されることがなく、例えば、白金単体、白金合金、白金塩、白金酸化物、白金水酸化物、又は白金錯体等を挙げることができる。
【0018】
前記Pt/OLC-NDの白金担持量は、炭素元素に対して例えば0.1~10質量%、好ましくは0.5~3.0質量%である。前記Pt/OLC-NDが前記範囲で白金を含有すると、優れた導電性を発揮することができる。
【0019】
前記Pt/OLC-NDの比表面積は110m2/g以上であり、好ましくは150m2/g以上、より好ましくは200m2/g以上、更に好ましくは300m2/g以上、更に好ましくは400m2/g以上、特に好ましくは500m2/g以上、最も好ましくは600m2/g以上である。尚、比表面積の上限は、例えば1500m2/gである。
【0020】
前記Pt/OLC-NDの粒子径(D50、メディアン径)は、例えば0.1~10μmである。前記粒子径は、TEM観察や画像解析で求めることができる。
【0021】
前記Pt/OLC-NDのコア部を形成するNDの粒子径(D50、メディアン径)は、例えば50nm以下であり、好ましくは30nm以下、特に好ましくは20nm以下、最も好ましくは10nm以下である。前記粒子径の下限値は、例えば1nmである。
【0022】
前記Pt/OLC-NDのグラフェン層の総厚みは、例えば10~1000nmである。また、グラフェン層の層間距離は、例えば0.50nm以下である。
【0023】
担体であるOLC-NDのコア部を形成するナノダイヤモンド(ND)としては、例えば、爆轟法ND(すなわち、爆轟法によって生成したND)や、高温高圧法ND(すなわち、高温高圧法によって生成したND)を使用することができる。本開示においては、なかでも、より比表面積が大きい点で爆轟法NDが好ましい。
【0024】
NDは、水中においてプラスのゼータ電位を有するものであっても、マイナスの電荷を有するものであっても良い。
【0025】
前記Pt/OLC-NDは、白金が凝集体中において、オニオンライクカーボン化ナノダイヤモンドと三次元的に接触した構成を有するため、白金は安定的に凝集体中に固定されており、白金が凝集・離脱するのを抑制することができ、触媒の有効面積が低下するのを抑制することができる。そのため、前記Pt/OLC-NDは、燃料電池用電極層を形成するための燃料電池用触媒(特に、酸素還元用触媒)として好適に使用することができる。
【0026】
前記Pt/OLC-NDは、例えば、NDと白金とバインダーと含むスラリーを、スプレードライ処理に付して、白金担持ナノダイヤモンドの凝集体(Pt/ND)を作成し、得られた白金担持ナノダイヤモンドの凝集体(Pt/ND)に真空中で熱処理(アニーリング)を施して製造することができる。そして、前記熱処理を例えば900~1600℃(好ましくは900~1400℃)で行うと、中心にダイヤモンド構造を残して、外側の層をグラファイト化することができる。熱処理終了後は、必要に応じて水素還元処理を行っても良い。
【0027】
前記バインダーとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリグリセリン等を使用することができる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0028】
スラリー中における白金の含有量は、NDの含有量の例えば0.1~10質量%、好ましくは1~5質量%である。
【0029】
スラリー中におけるバインダーの含有量は、NDの含有量の例えば3~20質量%、好ましくは5~20質量%である。
【0030】
[燃料電池用触媒]
本開示の燃料電池用触媒は、前記Pt/OLC-NDを含む。前記Pt/OLC-NDは、オニオンライクカーボン化ナノダイヤモンドの凝集体中に白金を含有する。前記白金は、凝集体中において安定的に固定されており、凝集・離脱するのが抑制されるため、耐久性に優れる。
【0031】
本開示の燃料電池用触媒は、前記Pt/OLC-NDを含むため、燃料電池用電極層(好ましくは、固体高分子形燃料電池用電極層)を形成する触媒として好適に使用することができる。
【0032】
[燃料電池用電極層形成材料]
本開示の燃料電池用電極層形成材料は、前記Pt/OLC-NDとバインダーを少なくとも含む。その他、分散媒等も必要に応じて含有することができる。
【0033】
前記バインダーとしては、例えば、高いプロトン導電性を有する高分子化合物(特に、スルホン酸基を有する高分子化合物)が挙げられる。本開示では、例えば、商品名「ナフィオン」(SIGMA-ALDRICH 社製)等の市販品を使用することができる。
【0034】
前記バインダーの使用量としては、前記Pt/OLC-ND1質量部に対して、例えば0.1~5質量部程度、好ましくは0.5~2質量部である。
【0035】
前記分散媒としては、エタノール等のアルコールが好ましい。
【0036】
前記電極層形成材料は、例えば、前記Pt/OLC-NDとバインダーとを混合することにより製造することができる。
【0037】
[燃料電池用電極層]
本開示の燃料電池用電極層は、前記Pt/OLC-NDを含む。前記燃料電池用電極層は、好ましくは固体高分子形燃料電池用電極層である。
【0038】
前記燃料電池用電極層は、前記Pt/OLC-NDと共にバインダーを含んでいても良い。
【0039】
前記電極層は、例えば、基材又は高分子電解質膜に燃料電池用電極層形成材料を塗工し、塗工によって形成された膜を乾燥することによって製造することができる。
【0040】
前記電極層は耐久性に優れ、白金が凝集・離脱するのを抑制することができる。そのため、高い初期発電性能を長期間維持することができる。
【0041】
[燃料電池]
本開示の燃料電池は、上記燃料電池用電極層を備える。前記燃料電池は、好ましくは固体高分子形燃料電池である。
【0042】
固体高分子形燃料電池は、中心に電解質となる固体高分子膜を有し、その両面に負極層と正極層を有し、さらにその外側にガス拡散層を有する膜-電極層接合体が、セパレータを介して積層された構造を有する。そして、前記負極層及び/又は正極層として、上記燃料電池用電極層を備える。
【0043】
前記固体高分子膜、ガス拡散層、及びセパレータとしては周知慣用のものを特に制限なく採用することができる。
【0044】
本開示の燃料電池は、耐久性に優れた電極層を備える。そのため、充放電サイクル寿命に優れる。本開示の燃料電池は、例えば、自動車等の代替動力源や家庭用コジェネレーションシステム、携帯用発電機として有用である。
【0045】
以上、本開示の各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であって、本開示の主旨から逸脱しない範囲において、適宜、構成の付加、省略、置換、及び変更が可能である。また、本開示は、実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲の記載によってのみ限定される。
【実施例0046】
以下、実施例により本開示をより具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0047】
実施例1
(スラリーの調製)
2.86質量%のζ+ND水分散液(商品名「ディノベア」、(株)ダイセル製、ND粒子径:4~6nm)35.0g(ND含有量:1g)と、ポリエチレングリコール(PEG;数平均分子量400、シグマ-アルドリッチ社製)0.178mLと、10mMナノ白金分散液(ルネッサンス・エナジー・リサーチ社製、粒子径:4~6nm)15.4mLを混合し、超音波照射によって分散させて、スラリー1(ND:PEG=5:1、Pt含有量はNDの3質量%)を調製した。
【0048】
(スプレードライ法によるPt/ND/PEGの調製)
得られたスラリー1を、下記条件下において、撹拌しながら送液、噴霧し、噴霧した液滴を乾燥させて、Pt/ND(ζ+)/PEG複合体(1)を得た。得られたPt/ND(ζ+)/PEG複合体(1)のSEM像を
図1、TEM像を
図2に示す。
図1から、真球状の粒子が得られていることが分かる。また、
図2から、白金が分散してNDに担持されていることが分かる。
スプレードライ条件
噴霧部温度:180℃
乾燥空気量:0.73m
3/分
スラリー送液ポンプ流量:1200mL/h
噴霧空気圧力:200kPa
【0049】
尚、SEM測定は下記条件下にて行った。尚、Pt/NDは、金スパッタリング(Au20nm)を施してから測定した。
<測定条件>
測定装置:電界放出型走査電子顕微鏡(JSM-7600M、日本電子(株)製)
加速電圧:10kV
照射電流:8A
【0050】
また、TEM測定は下記条件下にて行った。
<測定条件>
測定装置:高温ガス環境制御型透過型電子顕微鏡(JEM-2100F、日本電子(株)製)
加速電圧:200kV
波長:2.50pm
カメラ長:300nm
溶媒:エタノール
グリッド:コロジオン支持膜
【0051】
(PEG除去)
その後、噴霧乾燥機スプレードライヤーSD-1010型(東京理化機械(株)製)を使用して、得られたPt/ND(ζ+)/PEG複合体(1)を、大気雰囲気下、昇温速度3℃/分で300℃まで昇温し、300℃で1時間保持した。その後、自然冷却した。これにより、Pt/ND(ζ+)複合体(1’)を得た。Pt/ND(ζ+)複合体(1’)のXPSスペクトルデータを
図3と表1に示す。
図3より、明瞭なPt 4fピークが確認できたことから、Ptが存在していることが分かる。
【0052】
【0053】
尚、XPS測定は下記条件下にて行った。
<測定条件>
測定装置:X線光電子分光装置(AXIS Nova、(株)島津製作所製)
X線源:AlKα
励起エネルギー:1487eV
分解能:0.1eV
アノードHT:15kV
エミッション電流:10mA
パスエネルギー:Wide 160eV
Narrow 40eV
【0054】
(Pt/NDのDLS測定)
Pt/ND(ζ+)複合体(1’)と水を混合し、超音波照射を施して、分散液を得た。
得られた分散液について、全透明4面セルを用い下記条件下にて、DLS測定を行った。その結果、平均粒子径は1.2μmであった。
<測定条件>
測定装置:動的光散乱粒度分布測定装置(Nicomp380、Particle Sizing Systems社製)
光源:ヘリウムネオンレーザー
光源波長:632.8nm
光路長:10mm
散乱角:90度
【0055】
(OLC-ND化)
その後、Pt/ND(ζ+)複合体球状粒子(1’)を、アルミナ製ボードに入れ、真空アニール炉(商品名「超小型高温真空雰囲気電気炉」、フルテック(株)製)の炉心管内に静置し、炉心管内を真空にした後、設定温度を1400℃に上昇させた。処理時間は3時間とした。このようにして、Pt/OLC(ζ+)(1)[Pt:C=1.3:98.7]を得た。
【0056】
得られたPt/OLC-ND(ζ+)(1)のSEM像を
図4、TEM像を
図5、TEM EDS像を
図6に示す。これらの図より、Pt/OLC-ND(ζ+)(1)は真球状であることが分かる。また、ND(ζ+)の表層がOLC化していること、表層がOLC化したNDが凝集体を形成し、その凝集体中に、白金が、高分散して担持されていることが分かる。
【0057】
尚、SEM測定、TEM測定は前記条件下にて行った。
【0058】
得られたPt/OLC-ND(ζ+)(1)のDLS測定を、水に替えてエタノールに分散させた以外はPt/NDのDLSと同様の方法で行った。その結果、平均粒子径は0.86μmであった。
【0059】
(ラマン測定)
得られたPt/OLC-ND(ζ+)(1)のラマンスペクトルを下記条件下に測定した。結果を
図7に示す。
図7より、1330cm
-1付近に構造欠陥に由来するD-band、1570cm
-1付近にグラファイト構造に由来するG-bandが観察できた。このことからもNDのOLC化が確認できた。
<測定条件>
測定装置:ラマン分光器(NRS-5100、日本分光(株)製)
レーザー波長:532nm
レーザー強度:9.8mW
スリット幅:200×1000μm
グレーティング:1800L/mm
対物レンズ:UMPLFL20×
アパーチャ:φ4000μm
露光時間:30秒
積算回数:3回
【0060】
(XPS測定)
得られたPt/OLC-ND(ζ+)(1)のXPS測定を行った。
XPSスペクトルデータを
図8と表1に示す。
図8より、明瞭なPt 4fピークが確認できたことから、Ptが存在していることが分かる。また、表1,2から、OLC化後もPt担持量が維持されていることが分かる。
【0061】
【0062】
(XRD測定)
得られたPt/OLC-ND(ζ+)(1)について、下記条件下にてXRD測定を行った。結果を
図9に示す。Pt/ND(ζ+)ではダイヤモンド由来のピークに加え、Pt由来の(111)、(200)、(220)回折ピークが観測された。Pt/ND(ζ+)をOLC化することでダイヤモンド由来のピーク強度は小さくなり、(220)回折ピークは観測されなかった。一方、グラファイト由来の(002)回折ピークが出現し、OLC-ND(ζ+)と同様の炭素由来のピークが観測された。これによりPt/ND(ζ+)のOLC化が確認できた。またOLC化後もPt由来の(111)回折ピークが確認できた。
<測定条件>
測定装置:オールインワンX線回折装置(Empyrean、PANalytical社製)
X線源:CuKα
励起エネルギー:8.04KeV
管電圧:45kV
管電流:40mA
【0063】
(窒素吸脱着法による細孔特性評価)
得られたPt/OLC-ND(ζ+)(1)について、下記条件下にて細孔特性を評価した。
図10にPt/OLC-ND(ζ+)(1)の窒素吸着等温線を示す。得られた窒素吸着等温線はメソ孔多孔質体に典型的に見られるヒステリシスループをもっており、IUPAC分類のIV型であることが示された。よって、粒子間空隙由来のメソ孔が多く存在していることが分かった。また、表3にPt/OLC-NDの細孔特性を示す。
【0064】
【0065】
<測定条件>
測定装置:高精度ガス/蒸気吸着量測定装置(BELSORP Max、マイクロトラック・ベル(株)製
前処理条件:真空(200℃、2時間)
測定モード:高精度(AFSM)
吸着物質:N2
吸着温度:77k
吸着断面積:0.162nm2
【0066】
(導電性評価)
得られたPt/OLC-ND(ζ+)(1)を、内径1mmのガラス管に詰めた後、集電体として用いた銅線(直径0.9mm)で挟み込み、電気化学測定を行った。結果を下記表4に示す。
【0067】
【0068】
得られた電流/電圧直線の傾きから導電率を算出した。絶縁体であるND(ζ+)にPtを担持した場合は、NDのみと同程度の導電率であったが、NDをOLC化することにより導電率は大幅に向上した。
【0069】
(電気化学特性評価)
続いて、得られたPt/OLC-ND(ζ+)(1)に水素還元処理を行った。
すなわち、Pt/OLC-ND(ζ+)(1)0.01gに、4%H2と96%N2の混合ガス雰囲気下において200℃で2時間の熱処理を行い、続いて空気雰囲気下において200℃で1時間加熱処理を行った。
【0070】
水素還元処理後のPt/OLC-ND(ζ+)(1)1mgに、35質量%エタノール溶液0.5mL、5質量%のナフィオン(疎水性テフロン(登録商標)骨格にスルホン酸基を持つパーフルオロ側鎖が結合した構成を有するパーフルオロカーボン)を添加して、超音波分散処理を3時間行って電極層形成材料(1)を得た。
尚、前記ナフィオンの添加量は、下記式から算出した。
ナフィオン添加量(μL)=[Pt/OLC-ND(1mg)×(1-白金担持率)×(ナフィオン/担体;質量比)]/[ナフィオン密度(0.874g/cm3)×0.05]
【0071】
得られた電極層形成材料(1)を、GC電極(電極半径:0.15cm、ビー・エー・エス(株)製)上にキャストし乾燥させて、電極層(1)を得た。
尚、前記電極層形成材料(1)のキャスト量は、下記式から算出した。
電極層形成材料(1)のキャスト量=[20μg-pt/cm2×GC電極表面積(0.152×πcm2)×(500+ナフィオン添加量(μL))]/[Pt/OLC-ND(1mg)×白金担持率×1000(μg/mg)]
【0072】
3電極式セルを用いて、起動/停止試験を800サイクル行って、得られた電極層(1)の、0.1MのHClO
4中でのCV測定(cyclic voltammetry、走査速度:100mV/s)を行った。結果を
図11に示す。水素脱着ピークが観測されたことから、Pt/OLC-ND(ζ+)(1)のPt粒子が触媒として機能していることが分かる。
【0073】
(酸素還元用触媒としての有用性評価)
3電極式セルを用い、得られた電極層(1)の、酸素飽和0.1MのHClO
4(O
2バブリング)中でのCV測定(cyclic voltammetry、走査速度:50mV/s)を行った。結果を
図12に示す。
図12から、Pt/OLC-ND(ζ+)(1)が酸素還元反応触媒活性を有していることが確認できた。この結果より、Pt/OLC-ND(ζ+)(1)は酸素還元用触媒として有用であることがわかる。
【0074】
(長期サイクル起動停止耐久試験)
前記電極層(1)について、ポテンショスタット(HZ-7000、北斗電工(株)製)を使用し、起動停止を模した加速劣化試験を行った。
3電極式セルを用いて、起動/停止試験を繰り返し行って、得られた電極層(1)の、0.1MのHClO
4中でのCV測定(cyclic voltammetry、走査速度:50mV/s)を行った。
また、Pt/OLC-ND(ζ+)(1)に替えて標準触媒40質量%Pt/C(IFPC40-II)を使用して得られた電極層(x)を比較例として使用した。
その結果、水素脱着の電荷維持率が初期値の50%となるまでのサイクル数は、電極層(1)では27000サイクルであったのに対し、電極層(x)では15500サイクルであり、電極層(1)は電極層(x)に比べて約1.7倍の耐久性を有することが分かった。結果を
図13に示す。
【0075】
実施例2
3.06質量%のζ-ND水分散液(商品名「ディノベア」、(株)ダイセル製)32.7g(ND含有量:1g)と、ポリエチレングリコール(PEG)0.178mLと、10mM白金分散液15.4mL(Ptの使用量は、NDに対して3質量%)を含むスラリー2を調製した。
【0076】
スラリー1に替えてスラリー2を使用した以外は実施例1と同様にして、Pt/ND複合体(2)を乾燥粉体として得た。得られたPt/ND(ζ-)複合体(2)のSEM像を
図14に示す。
【0077】
また、Pt/ND(ζ-)複合体(2)について、実施例1と同様の方法でPEGを除去してPt/ND(ζ-)複合体(2’)を得た。Pt/ND(ζ-)複合体(2’)のXPSスペクトルデータを
図15に示す。
図15より、明瞭なPt 4fピークが確認できたことから、Ptが存在していることが分かる。
【0078】
その後、Pt/ND(ζ-)複合体(2’)を、実施例1と同様の方法でOLC化して、Pt/OLC-ND(ζ-)(2)を得た。得られたPt/OLC-ND(ζ-)(2)のSEM像を
図16、TEM像を
図17に示す。これらの図より、ND(ζ-)の表層がOLC化していること、白金が分散して担持されていることが分かる。
【0079】
続いて、得られたPt/OLC-ND(ζ-)(2)に水素還元処理を行い、水素還元処理後のPt/OLC-ND(ζ-)(2)を得た。水素還元処理後のPt/OLC-ND(ζ-)(2)のXPSスペクトルデータを
図18と表5に示す。
図18より、明瞭なPt 4fピークが確認できたことから、Ptが存在していることが分かる。
【0080】