(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023128801
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】R-T-B系焼結磁石の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 41/02 20060101AFI20230907BHJP
H01F 1/057 20060101ALI20230907BHJP
B23H 9/00 20060101ALI20230907BHJP
B23H 7/02 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
H01F41/02 G
H01F1/057 170
B23H9/00 Z
B23H7/02 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022033409
(22)【出願日】2022-03-04
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(72)【発明者】
【氏名】森本 仁
【テーマコード(参考)】
3C059
5E040
5E062
【Fターム(参考)】
3C059AA01
3C059AB05
3C059HA01
5E040AA04
5E040BD01
5E040CA01
5E040NN06
5E062CD04
5E062CG02
(57)【要約】
【課題】従来よりも効率的にワイヤ放電加工を行える、R-T-B系焼結磁石の製造方法を提供する。
【解決手段】本開示のR-T-B系焼結磁石の製造方法は、R-T-B系焼結磁石素材ブロックを準備する磁石素材準備工程と、R-T-B系焼結磁石素材ブロックに対して、鉛直方向に延びるワイヤによりワイヤ放電加工を行い、複数個のR-T-B系焼結磁石を作製するワイヤ放電加工工程と、を含み、前記ワイヤ放電加工工程は、前記R-T-B系焼結磁石素材ブロックの複数個を鉛直方向に配置して切断し、配置された前記R-T-B系焼結磁石素材ブロックの前記鉛直方向における寸法は9mm以上65mm以下である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
R-T-B系焼結磁石素材ブロック(Rは希土類元素であり、Nd、PrおよびCeからなる群から選択された少なくとも1つを必ず含み、TはFeまたはFeとCoであり、Bは硼素である)を準備する磁石素材準備工程と、
R-T-B系焼結磁石素材ブロックに対して、鉛直方向に延びるワイヤによりワイヤ放電加工を行い、複数個のR-T-B系焼結磁石を作製するワイヤ放電加工工程と、
を含み、
前記ワイヤ放電加工工程は、前記R-T-B系焼結磁石素材ブロックの複数個を鉛直方向に配置して切断し、
配置された前記R-T-B系焼結磁石素材ブロックの前記鉛直方向における寸法は9mm以上65mm以下である、
R-T-B系焼結磁石の製造方法。
【請求項2】
前記R-T-B系焼結磁石素材ブロックの前記鉛直方向における寸法は30mm以上65mm以下である、請求項1に記載のR-T-B系焼結磁石の製造方法。
【請求項3】
前記ワイヤ放電加工工程において、前記R-T-B系焼結磁石素材ブロックの複数個は、前記鉛直方向において互いの間に隙間を有しており、前記隙間は0.5mm以上50mm以下である、請求項1または2に記載のR-T-B系焼結磁石の製造方法。
【請求項4】
前記隙間は10mm以上40mm以下である、請求項3に記載のR-T-B系焼結磁石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、R-T-B系焼結磁石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
R-T-B系焼結磁石(Rは希土類元素であり、Nd、PrおよびCeからなる群から選択される少なくとも1つを必ず含み、TはFeまたはFeとCoであり、Bはホウ素である)は、R2Fe14B型結晶構造を有する化合物の主相と、この主相の粒界部分に位置する粒界相および微量添加元素や不純物の影響により生成する化合物相とから構成されている。R-T-B系焼結磁石は、高い残留磁束密度Br(以下、単に「Br」と記載する場合がある)と、高い保磁力HcJ(以下、単に「HcJ」と記載する場合がある)を示し、優れた磁気特性を有することから、永久磁石の中で最も高性能な磁石として知られている。
【0003】
このため、R-T-B系焼結磁石は、電気自動車(EV、HV、PHV)等の自動車分野、風力発電等の再生可能エネルギー分野、家電分野、産業分野等のさまざまなモーターに使用されている。R-T-B系焼結磁石は、これらモーターの小型・軽量化、高効率・省エネルギー化(エネルギー効率の改善)に欠かせない材料である。また、R-T-B系焼結磁石は、電気自動車用の駆動モーターに使用されており、内燃機関エンジン自動車から電気自動車へ代替されることで、二酸化炭素等の温室効果ガスの削減(燃料・排ガスの削減)による地球温暖化防止にも寄与している。このように、R-T-B系焼結磁石は、グリーンエネルギー社会の実現に大きく貢献している。
【0004】
R-T-B系焼結磁石は、例えば、合金粉末を準備する工程、合金粉末をプレス成形して成形体を作製する工程、成形体を焼結する工程を経て製造される。合金粉末は、例えば、以下の方法で作製される。
まず、インゴット法またはストリップキャスト法などの方法によって各種原料金属の溶湯から合金を製造する。得られた合金を粉砕工程に供し、所定の粒径分布を有する合金粉末を得る。この粉砕工程には、通常、粗粉砕工程と微粉砕工程とが含まれており、前者は、例えば水素脆化現象を利用して、後者は例えば気流式粉砕機(ジェットミル)を用いて行われる。
【0005】
成形体を焼結する工程によって得られた焼結体は、その後、研削、切断などの機械的な加工を施されて個片化される。焼結体は、より詳細には、まず、R-T-B系希土類磁石粉末をプレス装置で圧縮成形することにより、最終的な磁石製品よりも大きいサイズの成形体が作製される。そして、成形体を焼結工程によって焼結し、焼結体を作製する。焼結体は必要に応じて希土類元素Rを含む拡散源を磁石表面から内部に拡散させる拡散処理を行う場合もある。そして、焼結後や拡散後の焼結体を例えば超硬合金製ブレードソー、または回転砥石などによって研削加工し、所望の形状を付与することが行われている。例えば、まずブロック形状を有する焼結体を作製した後、その焼結体をブレードソーなどでスライスすることによって複数の焼結体を切り出すことが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
R-T-B系焼結磁石は、上述したように多種多様な用途に用いられ、ユーザのニーズに応じて異なる形状、大きさが求められる。さまざまな異なる形状、大きさのR-T-B系焼結磁石を作製するための方法として、R-T-B系焼結磁石素材ブロックにワイヤ放電加工を行うことで、所望の形状、大きさを作製する方法がある。しかし、R-T-B系焼結磁石素材ブロックにワイヤ放電加工を行うと、加工速度が遅いために所望のR-T-B系焼結磁石を効率的に得ることができないという問題があった。
そこで、本開示の実施形態は、従来よりも効率的にワイヤ放電加工を行える、R-T-B系焼結磁石の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示のR-T-B系焼結磁石の製造方法は、例示的な実施形態において、R-T-B系焼結磁石素材ブロック(Rは希土類元素であり、Nd、PrおよびCeからなる群から選択された少なくとも1つを必ず含み、TはFeまたはFeとCo であり、Bは硼素である)を準備する磁石素材準備工程と、R-T-B系焼結磁石素材ブロックに対して、鉛直方向に延びるワイヤによりワイヤ放電加工を行い、複数個のR-T-B系焼結磁石を作製するワイヤ放電加工工程と、を含み、前記ワイヤ放電加工工程は、前記R-T-B系焼結磁石素材ブロックの複数個を鉛直方向に配置して切断し、配置された前記R-T-B系焼結磁石素材ブロックの前記鉛直方向における寸法は9mm以上65mm以下である。
【0009】
ある実施形態において、前記R-T-B系焼結磁石素材ブロックの前記鉛直方向における寸法は30mm以上65mm以下である。
【0010】
ある実施形態において、前記ワイヤ放電加工工程において、前記R-T-B系焼結磁石素材ブロックの複数個は、前記鉛直方向において互いの間に隙間を有しており、前記隙間は0.5mm以上50mm以下である。
【0011】
ある実施形態において、前記隙間は10mm以上40mm以下である。
【発明の効果】
【0012】
本開示の実施形態によれば、従来よりも効率的にワイヤ放電加工を行える、R-T-B系焼結磁石の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本開示の実施形態で使用可能なワイヤ放電加工装置の構成例を模式的に示す説明図である。
【
図2】
図2は、
図1のワイヤ放電加工装置がR-T-B系焼結磁石素材ブロックを切断している本開示の実施形態を模式的に示す説明図である。
【
図3】
図3は、
図1のワイヤ放電加工装置がR-T-B系焼結磁石素材ブロックを切断している本開示の好ましい実施形態を模式的に示す説明図である。
【
図4】
図4は、実験例1におけるワイヤ放電加工の加工速度結果を示す説明図である。
【
図5】
図5は、実験例2におけるワイヤ放電加工の加工速度結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者は、R-T-B系焼結磁石素材ブロックをワイヤ放電加工によって切断することを検討した。その結果、R-T-B系焼結磁石素材ブロックに対して、鉛直方向に延びるワイヤによりワイヤ放電加工を行う時、特定の厚さを有するR-T-B系焼結磁石素材ブロックの複数個を厚さ方向(鉛直方向)に重ねることで、重ねてワイヤ放電加工しない場合と比べて加工速度(ワイヤがR-T-B系焼結素材ブロックを通過する速度)を速めることができることを見出した。この理由は明らかではないが、R-T-B系焼結磁石素材ブロックを重ねることで隙間がない(隙間が0mm以下の)状態であっても、重ねられた部分にあるごくわずかな間へ、後述するR-T-B系焼結磁石素材ブロックへ供給される加工液が流れることで、R-T-B系焼結磁石素材ブロックからの加工スラッジ(加工されたR-T-B系焼結磁石粉)の排出向上、ワイヤの冷却向上などによる効果が得られ、それにより加工速度が向上していると考えられる。
【0015】
なお、本開示において隙間とは、R-T-B系焼結磁石素材ブロックの互いの間にR-T-B系焼結磁石素材ブロックが存在していない空間のことであり、かつ、その隙間が0mmを超えることをいう。隙間をあけずに重ねた場合を0mm以下と表記する。隙間をあけずに重ねた場合でも重ねた部分のR-T-B系焼結磁石素材ブロック面の平面度により完全に隙間が0にはすることが困難であり不可避的にごくわずかな隙間が生じてしまうことがあるため0mm以下という表現とした。
【0016】
また、更に検討の結果、鉛直方向におけるR-T-B系焼結磁石素材ブロックの寸法を特定範囲に設定することで、これらの効果が顕著に得られることを見出した。さらに検討の結果、R-T-B系焼結磁石素材ブロックの複数個を鉛直方向に重ねて加工する際に、前記鉛直方向において互いの間に特定範囲の隙間を有することで、さらに加工速度を速めることができることを見出した。
【0017】
なお、本開示において、ワイヤ放電加工前のR-T-B系焼結磁石をR-T-B系焼結磁石素材ブロックといい、ワイヤ放電加工後のR-T-B系焼結磁石を単にR-T-B系焼結磁石という。
【0018】
以下、本開示によるR-T-B系希土類系焼結磁石の製造方法の実施形態を説明する。
(1)R-T-B系焼結磁石素材ブロックを準備する磁石素材準備工程と、
(2)R-T-B系焼結磁石素材ブロックに対して、鉛直方向に延びるワイヤによりワイヤ放電加工を行い、複数個のR-T-B系焼結磁石を作製するワイヤ放電加工工程と、
を含む。
【0019】
ここで、Rは希土類元素であり、Nd、PrおよびCeからなる群から選択される少なくとも1つを必ず含み、TはFeまたはFeとCoであり、Bはホウ素である。
次に、本開示の実施形態で使用され得るワイヤ放電加工装置の一例を説明する。
【0020】
図1は、本実施形態におけるワイヤ放電加工装置の構成例を模式的に示す説明図である。図示されるワイヤ放電加工装置100は、加工対象となるワーク(R-T-B系焼結磁石素材ブロック)を載せる導電性のステージ20と、放電用のワイヤ30を案内するメインガイドホイール40、42と、ワイヤ30を案内するサブガイドホイール44、46、48とを備えている。ワイヤ30の大部分は、ドラム50に巻き取られている。ワイヤ30は、例えばモリブデンから形成され、例えば200メートルの長さを有している。ワイヤ30の直径は、例えば0.2mm程度である。放電加工時におけるワイヤ30の走行速度(ワイヤの巻き取り速度)は、例えば40m/分以上600m/分以下の範囲である。走行時におけるワイヤ30の張力は、例えば10N以上15N以下の範囲にある。
【0021】
ステージ20は、モーターなどのアクチュエータによって駆動される。ステージ20は、ワークを載せた状態で、XY面に平行な面内の任意の方向に所定の速度で移動することができる。より具体的には、ステージ20は、X軸方向への移動とY軸方向への移動とを組み合わせることにより、任意の方向に自在に移動することができる。なお、ワイヤ放電加工時におけるステージ20の移動速度が加工速度に相当する。なおここでは放電用のワイヤをドラム50の正逆回転により繰り返し使用するワイヤ放電加工装置で説明したが、放電用ワイヤを1方向のみに走査させ1回のみ使用するワイヤ放電加工装置であっても良い。その場合の放電用ワイヤにはモリブデン以外に黄銅線などを用いても良い。さらに小型や大型のワイヤ放電加工装置もあるためワイヤ30の走行速度や張力は本検討例の範囲に限定されない。
【0022】
図2は、R-T-B系焼結磁石素材ブロック10をステージ20に載せ、ワイヤ放電加工を実行している状態を模式的に示す説明図である。ステージ20ともに移動するR-T-B系焼結磁石素材ブロック10は、鉛直方向に延びるワイヤ30によって切断されつつある。なお、切断中は、図示していない加工液供給装置から加工液をR-T-B系焼結磁石素材ブロック10に供給する。供給方法は、通常の砥石による加工時にも行う加工液の磁石への供給と同様に公知の方法を用いることができる。加工液をR-T-B系焼結磁石素材ブロックに供給することで、切断時のR-T-B系焼結磁石素材ブロックの冷却や加工スラッジの排出などの効果が得られる。加工液は例えば水溶性の防錆潤滑剤である。ステージ20とワイヤ30との間には、パルス状の高電圧が繰り返し印加される。その結果、R-T-B系焼結磁石素材ブロック10とワイヤ30との間でアーク放電が発生し、ワイヤ30に対向する位置にあるR-T-B系焼結磁石素材ブロック10の表面が削れて切断される。なお加工液を供給する装置について説明したが、切断するR-T-B系焼結磁石素材ブロック10を加工液槽に水没させて切断加工するワイヤ放電加工装置にも適用できる。
【0023】
ワイヤ放電加工において作製される複数のR-T-B系焼結磁石は、大きさおよび形状の少なくとも一方が異なる2以上のR-T-B系焼結磁石を含むことができる。したがって、複数のR-T-B系焼結磁石素材ブロックから、ユーザの求めに応じた大きさおよび形状を迅速に取り出すことが可能になる。このことは、多品種少量生産に適している。
ワイヤ放電工程において、ワイヤ放電による切断の方向は、第1の方向(例えばX軸方向)と第1の方向に直交する第2の方向(例えばY軸方向)とを含み、第1の方向から第2の方向に前記切断の方向を変更する動作中にも前記ワイヤ放電は実行される。
【0024】
図2に示す様に、本開示では、R-T-B系焼結磁石素材ブロック10の複数個を鉛直方向に配置して切断する。本開示における鉛直方向とは、
図2のZ軸方向のことをいう。本開示の特徴的な点は、鉛直方向に配置するR-T-B系焼結磁石素材ブロックにおいて、該R-T-B系焼結磁石素材ブロックの鉛直方向の寸法を9mm以上65mm以下に設定する点にある。9mm以下65mm以下の範囲にすることにより、R-T-B系焼結磁石素材ブロックの複数個を鉛直方向に配置しない(R-T-B系焼結磁石素材ブロックを鉛直方向に重ねない)場合とくらべて加工速度を向上させることができる。なお、ここで9mm以上65mm以下とは、R-T-B系焼結磁石素材ブロックひとつにおける寸法のことをいう。配置される複数個のR-T-B系焼結磁石素材ブロックの鉛直方向の寸法はそれぞれ異なっていても良い。更に加工速度を向上させるためには、好ましくはR-T-B系焼結磁石素材ブロックの前記鉛直方向における寸法を30mm以上65mm以下に設定する。なお、R-T-B系焼結磁石素材ブロックを鉛直方向に重ねる方法は任意であり、たとえば公知の固定治具(クランプ等)を使用すればよい。
【0025】
また、更に好ましくは、R-T-B系焼結磁石素材ブロックの複数個を鉛直方向において互いの間に隙間を有するように配置して切断する。前記隙間は0.5mm以上50mm以下である。
図3は、R-T-B系焼結磁石素材ブロックの複数個を鉛直方向において互いの間に隙間を有するように配置してワイヤ放電加工を実行している状態を模式的に示す説明図である。
図3に示すように、0.5mm以上50mm以下の範囲にて隙間60を空けて複数個のR-T-B系焼結磁石素材ブロックを鉛直方向に配置した状態で鉛直方向に延びるワイヤ30によりワイヤ放電加工を行う。これにより前記隙間への加工液の排出が促進されて加工速度を更に向上させることができる。更に好ましくは、前記隙間は10mm以上40mm以下である。更に加工速度を向上させることができる。
【0026】
R-T-B系焼結磁石素材ブロックの寸法は任意である。例えば、寸法が100mm×100mm×50mmの直方体形状のR-T-B系焼結磁石素材ブロックを鉛直方向に2つ重ねてワイヤ放電加工する場合、R-T-B系焼結磁石素材ブロックの鉛直方向における寸法を50mmとすればよい。鉛直方向に重ねるR-T-B系焼結素材ブロックの数も任意である。装置の大きさなどによって適宜決めればよい。例えば2~5個のR-T-B系焼結磁石素材ブロックを鉛直方向に配置すればよい。
【0027】
以下、本発明によるR-T-B系焼結磁石の製造方法の実施形態を詳細に説明する。
(1)R-T-B系焼結磁石素材ブロックを準備する磁石素材準備工程
<合金の組成>
本実施形態では、R-T-B系焼結磁石用合金を用いる。ここで、Rは希土類元素であり、Nd、PrおよびCeからなる群から選択される少なくとも1つを必ず含む。他の希土類元素としては例えば、HoやLaを上げられる。好ましくは、Nd-Pr、Nd-Ce、Nd-La、Nd-Ce-La、Nd-Pr-Ce、Nd-Pr-La、Nd-Pr-Ce-La、Nd-Dy、Nd-Tb、Nd-Ho、Nd-Dy-Ho,Nd-Tb-Ho、Nd-Dy-Tb、Nd-Dy-Tb-Ho、Nd-Pr-Dy、Nd-Pr-Tb、Nd-Pr-Ho、Nd-Pr-Dy-Ho、Nd-Pr-Tb-Ho、Nd-Pr-Dy-Tb、Nd-Pr-Dy-Tb-Ho、Nd-Ce-Dy、Nd-Ce-Tb、Nd-Ce-Ho、Nd-Ce-Dy-Tb、Nd-Ce-Dy-Ho、Nd-Ce-Tb-Ho、Nd-Ce-Ho-Dy-Tb、Nd-Ce-Pr-Dy、Nd-Ce-Pr-Tb、Nd-Ce-Pr-Ho、Nd-Ce-Pr-Dy-Tb、Nd-Ce-Pr-Dy-Ho、Nd-Ce-Tb-Pr-Ho、Nd-Ce-Pr-Dy-Tb-Ho、Nd-La-Dy、Nd-La-Tb、Nd-La-Dy-Tb、Nd-La-Ho、Nd-La-Dy-Ho、Nd-La-Tb-Ho、Nd-La-Dy-Tb-Ho、Nd-La-Pr-Dy、Nd-La-Pr-Tb、Nd-La-Pr-Ho、Nd-La-Pr-Dy-Tb、Nd-La-Pr-Dy-Ho、Nd-La-Pr-Tb-Ho、Nd-La-Pr-Dy-Tb-Ho、Nd-Ce-La-Dy、Nd-Ce-La-Tb、Nd-Ce-La-Ho、Nd-Ce-La-Dy-Ho、Nd-Ce-La-Tb-Ho、Nd-Ce-La-Dy-Tb、Nd-Ce-La-Dy-Tb-Ho、Nd-Ce-Pr-La-Dy、Nd-Ce-Pr-La-Tb、Nd-Ce-Pr-La-Ho、Nd-Ce-Pr-La-Dy-Ho、Nd-Ce-Pr-La-Tb-Ho、Nd-Ce-Pr-La-Dy-Tb、Nd-Ce-Pr-La-Dy-Tb-Hoなどで示される希土類元素の組合せを用いる。
【0028】
Rのうち、DyおよびTbは、特にHcJの向上に効果を発揮する。また、含有量は、例えば、27質量%以上35質量%以下である。好ましくは、R-T-B系焼結磁石用合金のR含有量は31質量%以下(27質量%以上31質量%以下、好ましくは、28質量%以上31質量%以下)である。
Tは、FeまたはFeとCoである。例えば、質量比でFeの50%以下をコバルト(Co)で置換してもよい。Coは温度特性の向上、耐食性の向上に有効である。Tの含有量は、RとBあるいはRとBと後述するMとの残部を占めてよい。
Bの含有量についても公知の含有量で差し支えなく、例えば、0.8質量%~1.2質量%が好ましい範囲である。0.8質量%未満では高いHcJが得られない場合があり、1.2質量%を超えるとBrが低下する場合がある。なお、Bの一部はC(炭素)で置換することができる。
【0029】
上記元素に加え、HcJ向上のためにM元素を添加することができる。M元素は、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Ni、Cu、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、In、Sn、Hf、TaおよびWからなる群から選択される一種以上である。M元素の添加量は5.0質量%以下が好ましい。5.0質量%を超えるとBrが低下する場合があるためである。また、不可避的不純物も許容することができる。
【0030】
<合金の作製>
R-T-B系焼結磁石用合金の製造工程を例示する。上述した組成となるように事前に調整した金属または合金を溶解し、鋳型に入れるインゴット鋳造法により合金インゴットを得ることができる。また、溶湯を単ロール、双ロール、回転ディスクまたは回転円筒鋳型等に接触させて急冷し、インゴット法で作られた合金よりも薄い凝固合金を作製するストリップキャスト法または遠心鋳造法に代表される急冷法により合金フレークを製造することができる。
【0031】
本開示の実施形態においては、インゴット法と急冷法のどちらの方法により製造された材料も使用可能であるが、ストリップキャスト法などの急冷法により製造されることが好ましい。急冷法によって作製した急冷合金の厚さは、通常0.03mm~1mmの範囲にあり、フレーク形状である。得られた合金を水素粉砕することで、水素粉砕粉(粗粉砕粉)のサイズを例えば1.0mm以下とすることができる。このようにして得た粗粉砕粉をジェットミルで粉砕する。
【0032】
<合金の微粉砕工程>
R-T-B系焼結磁石用合金の粉末は活性であり、酸化しやすい。このため、ジェットミルで使用される気体としては、発熱・発火の危険性の回避、不純物としての酸素含有量を低減させて磁石の高性能化を図るため、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガスが用いられる。
【0033】
ジェットミルに投入された被粉砕物(粗粉砕粉)は、例えば、平均粒度(中位径:d50)が2.0μm以上9μm以下の粒度分布を持つ微粉末に粉砕されてサイクロン捕集装置より捕集されることになる。サイクロン捕集装置は、粉末を運ぶ気流から粉末を分離するために使用される。具体的には、R-T-B系焼結磁石用合金の粗粉砕粉が前段のジェットミルで粉砕され、粉砕によって生成された微粉末が、粉砕に利用された気体とともにサイクロン捕集装置に供給される。不活性ガス(粉砕ガス)と粉砕された微粉末との混合物が高速な気流をなして、サイクロン捕集装置に送られてくる。サイクロン捕集装置は、これらの粉砕ガスと微粉末とを分離するために利用される。粉砕ガスから分離された微粉末は、粉末捕集器で回収される。
【0034】
<成形体を作製する工程>
次に、磁場中プレスによって上記の微粉末から成形体を作製する。磁場中プレスでは、酸化抑制の観点から、不活性ガス雰囲気中によるプレスまたは湿式プレスによって成形体を形成することが好ましい。なお、R-T-B系焼結磁石素材ブロックは成形などを行わず、例えば特開2006-19521などに記載されているPLP(Press-Less Process)法など、公知の方法を用いて準備してもよい。
【0035】
次に、成形体を焼結してR-T-B系焼結磁石素材ブロックを得る。R-T-B系焼結磁石素材ブロックの焼結工程は、例えば、不活性ガス雰囲気中で、例えば温度1000℃~1150℃の範囲で行うことができる。焼結による酸化を防止するために、雰囲気の残留ガスは、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガスにより置換され得る。
【0036】
(2)R-T-B系焼結磁石素材ブロックに対して、鉛直方向に延びるワイヤによりワイヤ放電加工を行い、複数個のR-T-B系焼結磁石を作製するワイヤ放電加工工程。
ワイヤ放電加工工程は、例えば、上述した
図2に示すワイヤ放電加工装置100を用いて実行することができる。
【0037】
切断後のR-T-B系焼結磁石に対して公知の熱処理、追加の加工、表面処理等を行っても良い。
なお、本開示によるR-T-B系焼結磁石の製造方法は、上記の実施形態に限定されない。
【実施例0038】
実験例1
公知の方法により、複数のR-T-B系焼結磁石素材ブロックを作製した。作製したR-T-B系焼結磁石素材ブロックの長さは60mm、幅は40mmであるが、厚さ(T)は4.8mm、9.8mm、32.8mm、62.3mmであった。
【0039】
これらのR-T-B系焼結磁石素材ブロックのそれぞれに対して、
図2のワイヤ放電加工装置を用いて切断を行った。具体的には、
図2のステージ20の上に厚さ方向を鉛直方向(鉛直方向)に一致させた状態でR-T-B系焼結磁石素材ブロックを配置(クランプ治具によりセット)し、ステージ20を、長さ方向(60mm)に移動させることでワイヤ放電加工を行った。放電加工の条件は例えば電圧10~20V、電流2~10Aにおいて数十~数百μ秒ごとにバルス電流を入り切りし、2~20mm/分の速度でステージ20を走査させればよい。
【0040】
まず、比較例としてR-T-B系焼結磁石素材ブロックの複数個を鉛直方向に配置しない(R-T-B系焼結磁石素材ブロックひとつのみ)で厚さが32.8mmと62.8mmのR-T-B系焼結磁石素材ブロックに対してワイヤ放電加工を行った(
図4中の32.8mm(一体物)および62.8mm(一体物))。さらに、比較例として鉛直方向にR-T-B系焼結磁石素材ブロックを2個鉛直方向に配置しているものの、厚さが本開示の範囲外である厚さ4.8mmのR-T-B系焼結磁石素材ブロックに対してワイヤ放電加工を行った(
図4中の4.8mm2段)。次に、本発明例として、厚さが本開示の範囲内である9.8mm、32.8mmおよび62.3mmのR-T-B系焼結磁石素材ブロックをそれぞれ鉛直方向に2個に配置してワイヤ放電加工を行った(
図4中の9.8mm2段、32.8mm2段および62.3mm2段)。なお、鉛直方向に重ねたR-T-B系焼結磁石素材ブロックどうしは、全て鉛直方向において互いの間に隙間(隙間が0mm以下、図中Gap0と示す)を有していない。
【0041】
加工速度の結果を
図4に示す。なお、
図4に示す加工速度は、使用した試験装置にて加工できる(これ以上早めると回路基板の損傷や断線等の可能性がある)最大に近い速度である。
図4に示すように、本発明例(
図4中の9.8mm2段、32.8mm2段および62.3mm2段)は、比較例(
図4中の32.8mm(一体物)および62.8mm(一体物)および4.8mm2段)と比べて加工速度がいずれも高い。
また、特に、32.8mm2段および62.3mm2段の本発明例は、加工速度が比較例と比べて向上している。
【0042】
実験例2
実験例1と同様にして、複数のR-T-B系焼結磁石素材ブロックを作製した。作製したR-T-B系焼結磁石素材ブロックの長さは60mm、幅は40mmであるが、厚さ(T)は32.8mmおよび62.3mmであった。これらのR-T-B系焼結磁石素材ブロックを実験例1と同様にしてワイヤ放電加工を行った。
【0043】
まず、実験例1と同様に、比較例としてR-T-B系焼結磁石素材ブロックの複数個を鉛直方向に配置しない(R-T-B系焼結磁石素材ブロックひとつのみ)で厚さが32.8mmと62.8mmのR-T-B系焼結磁石素材ブロックに対してワイヤ放電加工を行った(
図5中の32.8mm(一体物)および62.8mm(一体物))。次に、本発明例として、厚さが32.8mmのR-T-B系焼結磁石素材ブロックを
図3のようにそれぞれ鉛直方向に2個に配置した。鉛直方向に重ねたR-T-B系焼結磁石素材ブロックの2個は、前記鉛直方向において互いの間に隙間を有しないように配置してワイヤ放電加工を行った(隙間が0mm以下、
図5中Gap0)。更に、本発明例として、厚さが32.8mmのR-T-B系焼結磁石素材ブロックを
図3のようにそれぞれ鉛直方向に2個に配置し、鉛直方向において互いの間に隙間が0.5mm~60mmの間を有するようにそれぞれ配置してワイヤ放電加工を行った(
図5中Gap0.5mm~60mm)。
【0044】
加工速度の結果を
図5に示す。なお
図5に示す加工速度は、使用した試験装置にて加工できる(これ以上早めると回路基板の損傷や断線等の可能性がある)最大に近い速度である。
図5に示すように、隙間(Gap0.5~60mm)を有する本発明例は、比較例(一体物)よりも加工速度が向上している。さらに隙間を0.5~50mm(Gap0.5~Gap50mm)の本発明例は隙間がない(Gap0)場合よりもさらに加工速度が向上している。また、特に、隙間10mm~40mm(Gap10mm~40mm)の本発明例は、さらに加工速度が向上している。