(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023129006
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】センサ用カバー、及びセンサモジュール
(51)【国際特許分類】
G02B 5/26 20060101AFI20230907BHJP
G02B 5/28 20060101ALI20230907BHJP
B32B 7/025 20190101ALI20230907BHJP
【FI】
G02B5/26
G02B5/28
B32B7/025
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022033738
(22)【出願日】2022-03-04
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000231475
【氏名又は名称】日本真空光学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】三宅 雅章
(72)【発明者】
【氏名】龍岡 直人
【テーマコード(参考)】
2H148
4F100
【Fターム(参考)】
2H148FA05
2H148FA16
2H148FA24
2H148GA07
2H148GA18
2H148GA43
2H148GA51
2H148GA61
4F100AG00A
4F100AT00A
4F100BA05
4F100BA07
4F100GB41
4F100JD10
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4F100JN18B
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4F100JN18D
4F100JN18E
(57)【要約】
【課題】可視光線の遮蔽性と近赤外線の透過性とを両立する、技術を提供する。
【解決手段】センサ用カバーは、センサを収容する筐体の開口に設けられる。前記センサ用カバーは、前記筐体の外側に向く第1主面と前記筐体の内側に向く第2主面とを有する基板と、前記基板の前記第1主面と前記第2主面の少なくとも1つに形成される誘電体多層膜と、を備える。前記誘電体多層膜は、第1材料からなる1以上の第1層と、前記第1材料とは異なる屈折率を有する第2材料からなる複数の第2層と、前記第1材料および前記第2材料とは異なる屈折率を有する第3材料からなる複数の第3層と、を所望の順番で含む。前記第1層の前記第1材料は、スピン密度が5.0×10
10個/(nm・cm
2)以上であるアモルファスシリコンである。前記第1層の総厚は、250nm以下である。前記第1層と前記第2層と前記第3層の総数は、40以上である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサを収容する筐体の開口に設けられるセンサ用カバーであって、
前記筐体の外側に向く第1主面と前記筐体の内側に向く第2主面とを有する基板と、前記基板の前記第1主面と前記第2主面の少なくとも1つに形成される誘電体多層膜と、を備え、
前記誘電体多層膜は、第1材料からなる1以上の第1層と、前記第1材料とは異なる屈折率を有する第2材料からなる複数の第2層と、前記第1材料および前記第2材料とは異なる屈折率を有する第3材料からなる複数の第3層と、を所望の順番で含み、
前記第1層の前記第1材料は、スピン密度が5.0×1010個/(nm・cm2)以上であるアモルファスシリコンであり、
前記第1層の総厚は、250nm以下であり、
前記第1層と前記第2層と前記第3層の総数は、40以上である、センサ用カバー。
【請求項2】
前記誘電体多層膜は、前記基板の前記第1主面から前記筐体の外側に向けて9個以上の層を含み、且つ前記基板の前記第1主面から前記筐体の外側に向けて1番目から8番目までの層に、前記第1層を含むことなく前記第2層と前記第3層を交互に含む、請求項1に記載のセンサ用カバー。
【請求項3】
前記誘電体多層膜は、前記基板の前記第2主面から前記筐体の内側に向けて9個以上の層を含み、且つ前記基板の前記第2主面から前記筐体の内側に向けて1番目から8番目までの層に、前記第1層を含むことなく前記第2層と前記第3層を交互に含む、請求項1または2に記載のセンサ用カバー。
【請求項4】
前記誘電体多層膜は、前記基板の前記第1主面から前記筐体の外側に向けてn(nは5以上の自然数)個の層を含み、且つ前記基板の前記第1主面から前記筐体の外側に向けて(n-1)番目の層に前記第1層を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のセンサ用カバー。
【請求項5】
前記誘電体多層膜は、前記基板の前記第1主面から前記筐体の外側に向けて8個以上の層を含み、且つ前記基板の前記第1主面よりも前記筐体の外側に4個以上の前記第1層を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のセンサ用カバー。
【請求項6】
前記第2材料は前記第1材料よりも低い屈折率を有し、且つ前記第3材料は前記第2材料よりも低い屈折率を有し、
前記誘電体多層膜は、前記基板の前記第1主面から前記筐体の外側に向けて前記第1層と前記第2層と前記第3層がこの順番で連続的に並ぶ第1群と、前記基板の前記第1主面から前記筐体の外側に向けて前記第3層と前記第2層と前記第1層がこの順番で連続的に並ぶ第2群の少なくとも1つを有する、請求項1~5のいずれか1項に記載のセンサ用カバー。
【請求項7】
前記第2材料は前記第1材料よりも低い屈折率を有し、且つ前記第3材料は前記第2材料よりも低い屈折率を有し、
前記誘電体多層膜は、前記基板の前記第2主面から前記筐体の内側に向けて前記第1層と前記第2層と前記第3層がこの順番で連続的に並ぶ第3群と、前記基板の前記第2主面から前記筐体の外側に向けて前記第3層と前記第2層と前記第1層がこの順番で連続的に並ぶ第4群の少なくとも1つを有する、請求項1~6のいずれか1項に記載のセンサ用カバー。
【請求項8】
前記第2材料は酸化タンタルまたは酸化ニオブであって、前記第3材料は酸化シリコンである、請求項1~7のいずれか1項に記載のセンサ用カバー。
【請求項9】
波長が400nm~680nmである可視光線の最大透過率が5%以下であって、且つ波長が400nm~680nmである可視光線の最大反射率が25%以下である、請求項1~8のいずれか1項に記載のセンサ用カバー。
【請求項10】
前記センサは、LiDAR(Light Detection and Ranging)センサである、請求項1~9のいずれか1項に記載のセンサ用カバー。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載のセンサ用カバーと、前記筐体と、前記センサと、を備えるセンサモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、センサ用カバー、及びセンサモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
LiDAR(Light Detection and Ranging)センサなどのセンサを収容する筐体の開口には、センサ用カバーが設けられる。センサ用カバーは、例えば、光学フィルタであって、近赤外線を透過し、可視光線を遮蔽する。特許文献1には、誘電体多層膜を用いた光学フィルタが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の光学フィルタは、水素化シリコン膜を有する。水素化シリコン膜は、スパッタリング法によりシリコン膜を形成した後に、プラズマを用いてシリコン膜を水素化する(プラズマを用いてシリコン膜に水素をドープする)ことで得られる。
【0005】
水素をドープしたシリコン膜は、水素をドープしないシリコン膜に比べて、近赤外線の透過性を向上できるが、可視光線の遮蔽性を悪化してしまう。一方、水素をドープしないシリコン膜は、水素をドープしたシリコン膜に比べて、可視光線の遮蔽性を向上できるが、近赤外線の透過性を悪化してしまう。
【0006】
本開示の一態様は、可視光線の遮蔽性と近赤外線の透過性とを両立する、技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係るセンサ用カバーは、センサを収容する筐体の開口に設けられる。前記センサ用カバーは、前記筐体の外側に向く第1主面と前記筐体の内側に向く第2主面とを有する基板と、前記基板の前記第1主面と前記第2主面の少なくとも1つに形成される誘電体多層膜と、を備える。前記誘電体多層膜は、第1材料からなる1以上の第1層と、前記第1材料とは異なる屈折率を有する第2材料からなる複数の第2層と、前記第1材料および前記第2材料とは異なる屈折率を有する第3材料からなる複数の第3層と、を所望の順番で含む。前記第1層の前記第1材料は、スピン密度が5.0×1010個/(nm・cm2)以上であるアモルファスシリコンである。前記第1層の総厚は、250nm以下である。前記第1層と前記第2層と前記第3層の総数は、40以上である。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一態様によれば、可視光線の遮蔽性と近赤外線の透過性とを両立できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、一実施形態に係るセンサモジュールの断面図である。
【
図2】
図2は、第1誘電体多層膜の一例を示す断面図である。
【
図3】
図3は、第2誘電体多層膜の一例を示す断面図である。
【
図4】
図4は、水素をドープしないアモルファスシリコンと水素をドープしたアモルファスシリコンの消衰係数の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、例1~例5のセンサ用カバーの透過率を示す図である。
【
図6】
図6は、例1~例5のセンサ用カバーの反射率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施形態について図面を参照して説明する。なお、各図面において同一の又は対応する構成には同一の符号を付し、説明を省略することがある。明細書中、数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0011】
先ず、
図1を参照して、一実施形態に係るセンサモジュール1について説明する。センサモジュール1は、センサ用カバー2と、筐体6と、センサ7と、を備える。筐体6は、センサ7を収容する。筐体6は、フレームグランドとして機能してもよく、その場合、例えば金属などの導電材料で形成される。センサ7は、特に限定されないが、例えば車載センサである。車載センサは、例えばLiDAR(Light Detection and Ranging)センサである。
【0012】
LiDARセンサは、近赤外線を対象物に照射し、対象物で反射された近赤外線を受光することで、対象物までの距離及び対象物の方向を検出する。LiDARセンサは、図示しないが、例えば、レーザー光源と、レーザー光源から対象物に近赤外線を照射する照射光学系と、対象物で反射された近赤外線を受光器に導く受光光学系と、受光器と、を備える。なお、車載センサは、LiDARセンサには限定されない。
【0013】
センサ7で検出する光は、近赤外線である。近赤外線とは、700nm~2500nmの波長を有する電磁波である。LiDARセンサ用の近赤外線の波長は、例えば900nm~910nm、1300nm~1320nmまたは1530nm~1570nmである。なお、センサ7は、車載センサには限定されず、光学センサであればよい。
【0014】
次に、
図1~
図3を参照して、一実施形態に係るセンサ用カバー2について説明する。センサ用カバー2は、筐体6の開口に設けられ、雪、雨及び埃などの筐体6の内部への侵入を防止し、センサ7を保護する。センサ用カバー2は、例えば近赤外線を透過すると共に可視光線を遮蔽する赤外線パスフィルタである。センサ7によって近赤外線を検出し易く、センサ7の感度が良い。また、可視光線を遮蔽することで、筐体6の外側からセンサ7を見えなくすることができる。
【0015】
センサ用カバー2は、基板3を備える。基板3は、筐体6の外側に向く第1主面31と、筐体6の内側に向く第2主面32と、を有する。第2主面32は、第1主面31とは、反対向きであり、センサ7に対向する。基板3は、後述する第1誘電体多層膜4Aおよび第2誘電体多層膜4Bの少なくとも1つを形成するためのものである。
【0016】
基板3の厚さは、(A)第1誘電体多層膜4Aおよび第2誘電体多層膜4Bなどを成膜する時に生じる反りの低減、(B)薄型化、及び(C)割れ抑制の観点から、好ましくは0.1mm以上5mm以下であり、より好ましくは2mm~4mmである。
【0017】
基板3の材料は、センサ7で検出する光を透過する材料であれば、有機材料でも無機材料でもよく、特に限定されない。基板3は、異なる複数の材料を複合したものでもよい。基板3は、単層構造であっても、複層構造であってもよい。基板3の無機材料としては、好ましくはガラス又は結晶材料が用いられる。
【0018】
ガラスは、ソーダライムガラス、ホウケイ酸ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス、又はアルミノシリケートガラスである。ガラスは、化学強化ガラスであってもよい。化学強化ガラスは、ガラス転移点以下の温度で、イオン交換によりガラス表面に圧縮応力層を形成したものである。圧縮応力層は、ガラスに含まれるイオン半径が小さいアルカリ金属イオンを、イオン半径のより大きいアルカリイオンに交換することで形成される。
【0019】
結晶材料は、複屈折性結晶であってよく、例えば、二酸化ケイ素、ニオブ酸リチウム、又はサファイアである。
【0020】
センサ用カバー2は、第1誘電体多層膜4Aと、第2誘電体多層膜4B、とを備える。第1誘電体多層膜4Aは、基板3の第1主面31に形成される。第2誘電体多層膜4Bは、基板3の第2主面32に形成される。センサ用カバー2は、筐体6の外側から筐体6の内側に向けて、第1誘電体多層膜4Aと、基板3と、第2誘電体多層膜4Bとを、この順番で備える。なお、センサ用カバー2は、第1誘電体多層膜4Aと第2誘電体多層膜4Bの少なくとも一方を備えればよい。
【0021】
第1誘電体多層膜4Aおよび第2誘電体多層膜4Bは、近赤外線を透過すると共に可視光線を遮蔽する赤外線パスフィルタである。第1誘電体多層膜4Aおよび第2誘電体多層膜4Bは、近赤外線の透過率を向上すべく、近赤外線の反射を防止する反射防止膜を兼ねてもよい。反射防止膜は、空気に接しており、空気とセンサ用カバー2の界面での近赤外線の反射を防止する。
【0022】
センサ用カバー2は、好ましくは、波長が400nm~680nmである可視光線の最大透過率T400-680maxが5%以下であって、波長が900nmである近赤外線の透過率T900が95%以上である。T400-680maxおよびT900は、入射角が0°である光の透過率である。
【0023】
T400-680maxが5%以下であれば、筐体6の外部からセンサ7を見えなくすることができる。T400-680maxは、より好ましくは1%以下である。T400-680maxは、0%以上である。
【0024】
T900が95%以上であれば、センサ7で検出する光が近赤外線である場合に、センサ7の感度が良い。T900は、より好ましくは97%以下である。T900は、100%以下である。
【0025】
センサ用カバー2は、好ましくは、波長が400nm~680nmである可視光線の最大反射率R400-680maxが25%以下である。R400-680maxは、センサ用カバー2を筐体6の外側から見たときの反射率であって、入射角が0°である光の反射率である。
【0026】
R400-680maxが25%以下であれば、センサ用カバー2を筐体6の外側から見たときに、センサ用カバー2が黒色を呈するので、意匠性が良い。R400-680maxは、より好ましくは22%以下である。R400-680maxは、0%以上である。
【0027】
T400-680max、T900およびR400-680maxは、本実施形態ではマトリックス法を用いたシミュレーションによって算出するが、市販の分光光度計を用いて測定してもよい。
【0028】
第1誘電体多層膜4Aおよび第2誘電体多層膜4Bは、それぞれ
図2と
図3に示すように、1以上の第1層41と複数の第2層42と複数の第3層43とを所望の順番で含む。第1層41は第1材料からなり、第2層42は第1材料とは異なる屈折率を有する第2材料からなり、第3層43は第1材料および第2材料とは異なる屈折率を有する第3材料からなる。
【0029】
第1誘電体多層膜4Aおよび第2誘電体多層膜4Bは、それぞれ、光の干渉作用を利用することで所望の光学特性を実現する。反射率Rと透過率Tと吸収率Aの合計は100%である。反射率Rが大きいほど透過率Tが小さくなる。透過率Tは、消衰係数kにも依存する。消衰係数kは、材料の種類で決まる。消衰係数kが大きいほど、吸収率Aが大きくなり、透過率Tが小さくなる。
【0030】
次に、
図4を参照して、水素をドープしないアモルファスシリコンと水素をドープしたアモルファスシリコンの消衰係数kの一例について説明する。
図4において、「aSi」は水素をドープしないアモルファスシリコンを表し、「aSi:H」は水素をドープしたアモルファスシリコンを表す。
【0031】
図4に示すように、水素をドープしたアモルファスシリコンは、水素をドープしないアモルファスシリコンに比べて、400nm~1000nmの波長領域において低い消衰係数kを有する。従って、水素をドープしたアモルファスシリコンは、水素をドープしないアモルファスシリコンに比べて、近赤外線の透過性を向上できるが、可視光線の遮蔽性を悪化してしまう。一方、水素をドープしないアモルファスシリコンは、水素をドープしたアモルファスシリコンに比べて、可視光線の遮蔽性を向上できるが、近赤外線の透過性を悪化してしまう。
【0032】
本実施形態のセンサ用カバー2は、可視光線の遮蔽性と近赤外線の透過性を両立すべく、下記(1)~(3)の構成を有する。
【0033】
(1)第1層41の第1材料は、スピン密度が5.0×1010個/(nm・cm2)以上、好ましくは1.0×1012個/(nm・cm2)以上であるアモルファスシリコンである。ここでスピン密度とは、膜中のダングリングボンドの量を表す。スピン密度は、例えば電子スピン共鳴装置を用いて測定できる。電子スピン共鳴装置で測定できるスピンは、アモルファスシリコンのダングリングボンドの他、基板3を構成するガラス中の遷移金属イオンなども含まれるので、測定前の試料の加工、および測定後のピーク分離が必要である。試料の加工は、第1層41などが形成された基板3を適宜切断後、基板3を研磨により極力除去する。これにより基板3を構成するガラス由来のスピン信号の影響を低減できる。また、測定後のピーク分離は、例えばカーブフィッティングにより可能である。シリコンダングリングボンドの信号は、g=2.004~2.007、線幅4~8gaussの等方的信号として観測され、線幅をそろえたガウス関数とローレンツ関数の線形結合関数を使ったカーブフィッティングによるピーク分離の結果として得られる。ここでいう線幅は、微分形で得られる電子スピン共鳴スペクトルの、ピークトップとピークボトムの磁場の差を意味する。また、第1層41の第1材料のスピン密度は8.0×1012個/(nm・cm2)以下であることが好ましい。
【0034】
第1層41の第1材料は、例えば水素がドープされていないか、水素がドープされていたとしても水素ドープ量が少ないアモルファスシリコンである。アモルファスシリコンの水素含有量が少ないほど、アモルファスシリコンのスピン密度が大きくなる。スピン密度が5.0×1010個/(nm・cm2)以上であるアモルファスシリコンを第1材料として用いることで、可視光線の遮蔽性を向上できる。
【0035】
(2)第1層41の総厚が、250nm以下である。第1層41の総厚が250nm以下であれば、近赤外線の透過性が良い。第1層41の総厚は、好ましくは200nm以下であり、より好ましくは160nm以下である。第1層41の総厚は、可視光線の遮蔽性の観点から、好ましくは100nm以上である。
【0036】
(3)第1層41と第2層42と第3層43の総数が、40以上である。以下、第1層41と第2層42と第3層43の総数を、全層数とも記載する。全層数が40以上であれば、多重反射によって可視光線が各第1層41を多数回通過する。それゆえ、第1層41の総厚が250nm以下であっても、可視光線の遮蔽性が良い。全層数は、好ましくは50以上である。全層数は、生産性と反りの観点から、好ましくは100以下である。可視光線の多重反射が生じ、赤外線の多重反射が生じないように、第1層41と第2層42と第3層43とが構成される。
【0037】
上記(1)によれば、スピン密度が5.0×1010個/(nm・cm2)以上であるアモルファスシリコンを第1層41の第1材料として採用することで、可視光性の遮蔽性を向上する。そして、上記(1)の弊害である赤外線の透過性の悪化を、上記(2)のように第1層41の総厚を薄くすることで抑制する。さらに、上記(2)のように第1層41の総厚を薄くすることで生じる可視光線の遮蔽性の悪化を、上記(3)のように可視光線の多重反射を可能にすることで抑制する。これにより、可視光線の遮蔽性と近赤外線の透過性を両立できる。
【0038】
第2層42の第2材料は、例えば第1材料よりも低い屈折率を有する。第2材料の屈折率は、587.6nmの波長で、例えば1.7~2.7である。第2材料は、例えば酸化タンタル(例えば五酸化タンタル:Ta2O5)、酸化チタン(例えば二酸化チタン:TiO2)、酸化ニオブ(例えば五酸化ニオブ:Nb2O5)または窒化シリコン(SiN)である。
【0039】
第3層43の第3材料は、例えば第2材料よりも低い屈折率を有する。第3材料の屈折率は、587.6nmの波長で、例えば1.2~2.2である。第3材料は、例えば酸化シリコン(例えば二酸化ケイ素:SiO2または一酸化ケイ素:SiO)、または酸窒化シリコン(SiOxNy)である。
【0040】
なお、第1誘電体多層膜4Aまたは第2誘電体多層膜4Bは、第1層41と第2層42と第3層43に加えて、図示しない第4層を有してもよい。第4層は、第1材料、第2材料および第3材料とは異なる屈折率を有する第4材料からなる。
【0041】
次に、
図2を再度参照して、第1誘電体多層膜4Aの一例について説明する。第1誘電体多層膜4Aの成膜方法は、乾式でも、湿式でもよい。乾式の成膜方法は、例えば、スパッタリング法、CVD法または真空蒸着法である。湿式の成膜方法は、例えば、スプレー法またはディップ法である。
【0042】
第1誘電体多層膜4Aは、好ましくは、基板3の第1主面31から筐体6の外側(
図2中左側)に向けて9個以上の層を含み、且つ基板3の第1主面31から筐体6の外側に向けて1番目から8番目までの層に、第1層41を含むことなく第2層42と第3層43を交互に含む。これにより、可視光線の吸収率の高い第1層41を筐体6の外側に配置できる。その結果、センサ用カバー2を筐体6の外側から見たときに、センサ用カバー2が黒色を呈するので、意匠性が良い。
【0043】
第1誘電体多層膜4Aは、好ましくは、基板3の第1主面31から筐体6の外側(
図2中左側)に向けてn(nは5以上の自然数)個の層を含み、且つ基板3の第1主面31から筐体6の外側に向けて(n-1)番目の層に第1層41を含む。つまり、第1誘電体多層膜4Aは、最も外側の層から数えて2番目の層に、第1層41を含む。可視光線の屈折率の高い第1層41を、最も外側の層から数えて2番目の層に配置することで、入射角の大きい可視光線の反射率を低下できる。
【0044】
第1誘電体多層膜4Aは、好ましくは、基板3の第1主面31から筐体6の外側(
図2中左側)に向けて8個以上の層を含み、且つ基板3の第1主面31よりも筐体6の外側に4個以上の第1層41を含む。可視光線の吸収率の高い第1層41を、基板3の第1主面31よりも筐体6の外側に4個以上分割して配置することで、可視光線を効率的に吸収し、可視光線の透過率を効率的に低下できる。
【0045】
第1誘電体多層膜4Aは、好ましくは、基板3の第1主面31から筐体6の外側(
図2中左側)に向けて第1層41と第2層42と第3層43がこの順番で連続的に並ぶ第1群45を有する。第1群45において、第2層42の第2材料は第1層41の第1材料よりも低い屈折率を有し、第3層43の第3材料は第2層42の第2材料よりも低い屈折率を有する。
【0046】
第1誘電体多層膜4Aは、好ましくは、基板3の第1主面31から筐体6の外側(
図2中左側)に向けて第3層43と第2層42と第1層41がこの順番で連続的に並ぶ第2群46を有する。第2群46において、第2層42の第2材料は第1層41の第1材料よりも低い屈折率を有し、第3層43の第3材料は第2層42の第2材料よりも低い屈折率を有する。
【0047】
第1誘電体多層膜4Aは、第1群45と第2群46の少なくとも一方を有すればよく、両方を有しなくてもよい。第1誘電体多層膜4Aは、第1群45と第2群46の少なくとも一方を有することで、近赤外線の入射角が大きくても、近赤外線の透過率を高く維持したまま、近赤外線の反射率を低く設計することができる。
【0048】
第1誘電体多層膜4Aの膜厚は、可視光線の遮蔽性の観点から、好ましくは1.5μm以上であり、より好ましくは2.0μm以上である。第1誘電体多層膜4Aの膜厚は、生産性の観点から、好ましくは3.5μm以下であり、より好ましくは3.0μm以下である。
【0049】
次に、
図3を再度参照して、第2誘電体多層膜4Bの一例について説明する。第2誘電体多層膜4Bの成膜方法は、乾式でも、湿式でもよい。乾式の成膜方法は、例えば、スパッタリング法、CVD法または真空蒸着法である。湿式の成膜方法は、例えば、スプレー法またはディップ法である。
【0050】
第2誘電体多層膜4Bは、好ましくは、基板3の第2主面32から筐体6の内側(
図3中右側)に向けて9個以上の層を含み、且つ基板3の第2主面32から筐体6の内側に向けて1番目から8番目までの層に、第1層41を含むことなく第2層42と第3層43を交互に含む。これにより、屈折率の高い第1層41を筐体6の内側に配置できる。その結果、センサ用カバー2の内側からセンサ用カバー2に入射する近赤外線の入射角が大きくても、近赤外線の透過率を高く維持したまま、近赤外線の反射率を低く設計することができる。従って、センサ用カバー2で反射された近赤外線がセンサ7に入射するのを抑制でき、センサ7の検出ノイズを低減できる。
【0051】
第2誘電体多層膜4Bは、好ましくは、基板3の第2主面32から筐体6の内側(
図3中右側)に向けて第1層41と第2層42と第3層43がこの順番で連続的に並ぶ第3群47を有する。第3群47において、第2層42の第2材料は第1層41の第1材料よりも低い屈折率を有し、第3層43の第3材料は第2層42の第2材料よりも低い屈折率を有する。
【0052】
第2誘電体多層膜4Bは、好ましくは、基板3の第2主面32から筐体6の内側(
図3中右側)に向けて第3層43と第2層42と第1層41がこの順番で連続的に並ぶ第4群48を有する。第4群48において、第2層42の第2材料は第1層41の第1材料よりも低い屈折率を有し、第3層43の第3材料は第2層42の第2材料よりも低い屈折率を有する。
【0053】
第2誘電体多層膜4Bは、第3群47と第4群48の少なくとも一方を有すればよく、両方を有しなくてもよい。第2誘電体多層膜4Bは、第3群47と第4群48の少なくとも一方を有することで、近赤外線の入射角が大きくても、近赤外線の透過率を高く維持したまま、近赤外線の反射率を低く設計することができる。
【0054】
第2誘電体多層膜4Bの膜厚は、可視光線の遮蔽性の観点から、好ましくは1.0μm以上であり、より好ましくは1.5μm以上である。第2誘電体多層膜4Bの膜厚は、生産性の観点から、好ましくは3.0μm以下であり、より好ましくは2.5μm以下である。
【0055】
なお、本実施形態では第1誘電体多層膜4Aと第2誘電体多層膜4Bがそれぞれ第1層41と第2層42と第3層43を有するが、本開示の技術はこれに限定されない。例えば、第1誘電体多層膜4Aが第1層41と第2層42と第3層43を有し、第2誘電体多層膜4Bが第1層41と第3層43と第4層を有してもよい。第1誘電体多層膜4Aと第2誘電体多層膜4Bは、それぞれ第1層41を含み、屈折率の異なる3つの層を有すればよい。
【実施例0056】
以下、実験データについて説明する。下記の例1~例2および例5が比較例であり、例3~例4が実施例である。
【0057】
(例1)
例1では、基板としてアルミノシリケートガラス基板を用意し、アルミノシリケートガラス基板の第1主面にスパッタリング法で第1誘電体多層膜を形成し、アルミノシリケートガラス基板の第2主面にスパッタリング法で第2誘電体多層膜を形成することで、センサ用カバーを作製した。第1誘電体多層膜の層構造と、第2誘電体多層膜の層構造を表1に示す。
【0058】
【表1】
表1において、第1誘電体多層膜の層番号は、層を積層した順番を表す。第1誘電体多層膜において、層番号1の層がアルミノシリケートガラス基板の第1主面に接しており、層番号19の層が空気(筐体の外側の空気)に接していた。
【0059】
同様に、表1において、第2誘電体多層膜の層番号は、層を積層した順番を表す。第2誘電体多層膜において、層番号1の層がアルミノシリケートガラス基板の第2主面に接しており、層番号20の層が空気(筐体の内側の空気)に接していた。
【0060】
表1に示すように、第1誘電体多層膜と第2誘電体多層膜は、それぞれ、スピン密度が2.4×1011個/(nm・cm2)であって屈折率が4.6である「aSi」からなる第1層と、屈折率が2.1であるTa2O5からなる第2層と、屈折率が1.5であるSiO2からなる第3層とを有していた。
【0061】
(例2)
例2では、基板としてホウケイ酸ガラス基板を用意し、ホウケイ酸ガラス基板の第1主面にスパッタリング法で第1誘電体多層膜を形成し、ホウケイ酸ガラス基板の第2主面にスパッタリング法で第2誘電体多層膜を形成することで、センサ用カバーを作製した。第1誘電体多層膜の層構造と、第2誘電体多層膜の層構造を表2に示す。
【0062】
【表2】
表2において、第1誘電体多層膜の層番号は、層を積層した順番を表す。第1誘電体多層膜において、層番号1の層がホウケイ酸ガラス基板の第1主面に接しており、層番号32の層が空気(筐体の外側の空気)に接していた。
【0063】
同様に、表2において、第2誘電体多層膜の層番号は、層を積層した順番を表す。第2誘電体多層膜において、層番号1の層がホウケイ酸ガラス基板の第2主面に接しており、層番号22の層が空気(筐体の内側の空気)に接していた。
【0064】
表2に示すように、第1誘電体多層膜と第2誘電体多層膜は、それぞれ、スピン密度が3.3×1010個/(nm・cm2)であって屈折率が3.7である「aSi:H」からなる第1層と、屈折率が2.3であるNb2O5からなる第2層と、屈折率が1.5であるSiO2からなる第3層とを有していた。
【0065】
(例3)
例3では、基板としてホウケイ酸ガラス基板を用意し、ホウケイ酸ガラス基板の第1主面にスパッタリング法で第1誘電体多層膜を形成し、ホウケイ酸ガラス基板の第2主面にスパッタリング法で第2誘電体多層膜を形成することで、センサ用カバーを作製した。第1誘電体多層膜の層構造と、第2誘電体多層膜の層構造を表3に示す。
【0066】
【表3】
表3において、第1誘電体多層膜の層番号は、層を積層した順番を表す。第1誘電体多層膜において、層番号1の層がホウケイ酸ガラス基板の第1主面に接しており、層番号36の層が空気(筐体の外側の空気)に接していた。
【0067】
同様に、表3において、第2誘電体多層膜の層番号は、層を積層した順番を表す。第2誘電体多層膜において、層番号1の層がホウケイ酸ガラス基板の第2主面に接しており、層番号22の層が空気(筐体の内側の空気)に接していた。
【0068】
表3に示すように、第1誘電体多層膜と第2誘電体多層膜は、それぞれ、スピン密度が2.2×1011個/(nm・cm2)であって屈折率が4.4である「aSi」からなる第1層と、屈折率が2.3であるNb2O5からなる第2層と、屈折率が1.5であるSiO2からなる第3層とを有していた。
【0069】
(例4)
例4では、基板としてホウケイ酸ガラス基板を用意し、ホウケイ酸ガラス基板の第1主面にスパッタリング法で第1誘電体多層膜を形成し、ホウケイ酸ガラス基板の第2主面にスパッタリング法で第2誘電体多層膜を形成することで、センサ用カバーを作製した。第1誘電体多層膜の層構造と、第2誘電体多層膜の層構造を表4に示す。
【0070】
【表4】
表4において、第1誘電体多層膜の層番号は、層を積層した順番を表す。第1誘電体多層膜において、層番号1の層がホウケイ酸ガラス基板の第1主面に接しており、層番号35の層が空気(筐体の外側の空気)に接していた。
【0071】
同様に、表4において、第2誘電体多層膜の層番号は、層を積層した順番を表す。第2誘電体多層膜において、層番号1の層がホウケイ酸ガラス基板の第2主面に接しており、層番号23の層が空気(筐体の内側の空気)に接していた。
【0072】
表4に示すように、第1誘電体多層膜と第2誘電体多層膜は、それぞれ、スピン密度が2.4×1011個/(nm・cm2)であって屈折率が4.6である「aSi」からなる第1層と、屈折率が2.1であるTa2O5からなる第2層と、屈折率が1.5であるSiO2からなる第3層とを有していた。
【0073】
(例5)
例5では、基板としてホウケイ酸ガラス基板を用意し、ホウケイ酸ガラス基板の第1主面にスパッタリング法で第1誘電体多層膜を形成し、ホウケイ酸ガラス基板の第2主面にスパッタリング法で第2誘電体多層膜を形成することで、センサ用カバーを作製した。第1誘電体多層膜の層構造と、第2誘電体多層膜の層構造を表5に示す。
【0074】
【表5】
表5において、第1誘電体多層膜の層番号は、層を積層した順番を表す。第1誘電体多層膜において、層番号1の層がホウケイ酸ガラス基板の第1主面に接しており、層番号23の層が空気(筐体の外側の空気)に接していた。
【0075】
同様に、表5において、第2誘電体多層膜の層番号は、層を積層した順番を表す。第2誘電体多層膜において、層番号1の層がホウケイ酸ガラス基板の第2主面に接しており、層番号13の層が空気(筐体の内側の空気)に接していた。
【0076】
表5に示すように、第1誘電体多層膜と第2誘電体多層膜は、それぞれ、スピン密度が2.4×1011個/(nm・cm2)であって屈折率が4.6である「aSi」からなる第1層と、屈折率が2.1であるTa2O5からなる第2層と、屈折率が1.5であるSiO2からなる第3層とを有していた。
【0077】
(光学特性)
以下、主に
図5~
図6と表6を参照して、例1~例5で作製したセンサ用カバーの光学特性について説明する。
図5~
図6と表6に示す透過率Tと反射率Rは、マトリックス法を用いたシミュレーションによって算出した。
【0078】
【表6】
表1~表6(主に表6)に示すように、例3~例4によれば、例1~例2および例5とは異なり、第1層の第1材料はスピン密度が5.0×10
10個/(nm・cm
2)以上であるアモルファスシリコンであって、第1層の総厚が250nm以下であって、且つ第1層と第2層と第3層の総数(全層数)が40以上であった。それゆえ、例3~例4によれば、例1~例2および例6とは異なり、T
400-680maxが5%以下であって、且つT
900が95%以上であり、可視光線の遮蔽性と近赤外線の透過性とが良かった。また、例3~例4によれば、R
400-680maxが25%以下であって、筐体の外側から見たときにセンサ用カバーが黒色を呈しており、意匠性が良かった。
【0079】
例1によれば、第1層41の総厚が250nmを超えていたので、T900が95%未満であり、近赤外線の透過率が悪かった。例2によれば、第1層41の材料はスピン密度が5.0×1010個/(nm・cm2)未満であるアモルファスシリコンであったので、T400-680maxが5%を超えており、可視光線の遮蔽性が悪かった。例5によれば、全層数が40未満であったので、T400-680maxが5%を超えており、可視光線の遮蔽性が悪かった。
【0080】
以上、本開示に係るセンサ用カバー、及びセンサモジュールについて説明したが、本開示は上記実施形態等に限定されない。特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更、修正、置換、付加、削除、及び組み合わせが可能である。それらについても当然に本開示の技術的範囲に属する。