(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023129009
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】アンジュレータ
(51)【国際特許分類】
H05H 13/04 20060101AFI20230907BHJP
【FI】
H05H13/04 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022033742
(22)【出願日】2022-03-04
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(72)【発明者】
【氏名】幸田 勉
【テーマコード(参考)】
2G085
【Fターム(参考)】
2G085AA13
2G085BC11
2G085BE04
2G085DB08
(57)【要約】 (修正有)
【課題】所定のギャップ(Gap)を介して対向配置された2列ずつの磁石列を有し、当該磁石列を位相駆動することによって偏光変調を行う長尺タイプ(例えば磁石列の長さが2m以上)の可変偏光アンジュレータにおいて、対向する駆動側と固定側の磁石列に働く吸引力に耐え、かつ、製造コストを抑制することができるアンジュレータを提供することである。
【解決手段】所定のギャップを介して対向配置された2列ずつの磁石列を有し、当該磁石列を位相駆動することによって偏光変調を行う可変偏光アンジュレータにおいて、前記磁石列のうち位相方向に移動可能な一列が、支持体を介してベースに取付け支持されており、前記ベースの一部は、前記一列に併設される他の一列が取付け支持される他のベース側に突出する突出部を有し、前記突出部を含む前記ベースの平面に、複数本のリニアガイドが設置される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定のギャップを介して対向配置された2列ずつの磁石列を有し、当該磁石列を位相駆動することによって偏光変調を行う可変偏光アンジュレータにおいて、
前記磁石列のうち位相方向に移動可能な一列が、支持体を介してベースに取付け支持されており、
前記ベースの一部は、前記一列に併設される他の一列が取付け支持される他のベース側に突出する突出部を有し、
前記突出部を含む前記ベースの平面に、複数本のリニアガイドが設置される、
ことを特徴とする、アンジュレータ。
【請求項2】
所定のギャップを介して対向配置された2列ずつの磁石列を有し、当該磁石列を位相駆動することによって偏光変調を行う可変偏光アンジュレータであって、
互いに並んで配置される第1駆動磁石列および第1固定磁石列と、前記第1駆動磁石列および第1固定磁石列が取付け支持される第1駆動磁石支持体および第1固定磁石支持体と、前記第1駆動磁石支持体および第1固定磁石支持体が取付け支持される第1駆動ベースおよび第1固定ベースと、
前記第1駆動磁石列および第1固定磁石列とギャップを介して対向する第2固定磁石列および第2駆動磁石列と、前記第2固定磁石列および第2駆動磁石列が取付け支持される第2固定磁石支持体および第2駆動磁石支持体と、前記第2固定磁石支持体および第2駆動磁石支持体が取付け支持される第2固定ベースおよび第2駆動ベースと、
前記第1固定ベースと一体的に連結され、前記第1駆動ベースと複数本のリニアガイドを介して相対的移動可能に連結された第1連結ビームと、
前記第2固定ベースと一体的に連結され、前記第2駆動ベースと複数本のリニアガイドを介して相対的移動可能に連結された第2連結ビームと、を有し、
前記第1駆動ベースおよび前記第2駆動ベースは、前記第1固定ベースおよび前記第2固定ベース側に突出する第1段付き部および第2段付き部を有し、前記第1固定ベースおよび前記第2固定ベースは前記第1段付き部および第2段付き部に対応して凹むように形成される第3段付き部および第4段付き部を有し、
前記複数本のリニアガイドのうち、前記第1固定ベースおよび前記第2固定ベース側のリニアガイドの一部分は、前記第1段付き部および第2段付き部の上部に固定されている、
ことを特徴とする、アンジュレータ。
【請求項3】
前記第1駆動磁石列および前記第2駆動磁石列、前記第1固定磁石列および前記第2固定磁石列が互いに斜め向かいに配置されており、
前記第1駆動磁石列および前記第2固定磁石列が前記支柱に近い側、前記第1固定磁石列および前記第2駆動磁石列は前記支柱から遠い側、に配置されており、
前記第1駆動磁石列を前記第1固定磁石列に対して前記磁石の配列方向に駆動する第1位相駆動機構が前記第1連結ビームに取付けられており、
前記第2駆動磁石列を前記第2固定磁石列に対して前記磁石の配列方向に駆動する第2位相駆動機構が前記第2連結ビームに取付けられている、
ことを特徴とする、請求項2記載のアンジュレータ。
【請求項4】
前記第1駆動ベースを前記第1固定ベースに対して磁石列方向に駆動する第1位相駆動機構と、前記第2駆動ベースを前記第2固定ベースに対して磁石列方向に駆動する第2位相駆動機構と、
前記ギャップの大きさを変更するため、前記第1駆動磁石支持体および第1固定磁石支持体、および/または、前記第2固定磁石支持体および第2駆動磁石支持体を磁石が向かい合う方向に駆動するためのギャップ駆動機構と、前記第1固定連結ビームおよび前記第2固定連結ビームの少なくとも一方と、前記ギャップ駆動機構とを連結するための駆動連動機構を有し、
複数本の支柱と、
前記ギャップに、電子ビームが通過するための真空槽と、前記真空層に連結された真空ポンプを備えている、ことを特徴とする、請求項2または3記載のアンジュレータ。
【請求項5】
前記第1駆動磁石支持体および第1固定磁石支持体は、前記第1駆動ベースおよび前記第1固定ベースに、直接または取付け板を介して取付け支持される、ことを特徴とする、請求項2から4のいずれかに記載のアンジュレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子貯蔵リング等に設置されるアンジュレータ(挿入光源)に関する。
【背景技術】
【0002】
真空中において光速近くまで加速された電子ビームが磁界中で曲げられると、電子ビームの移動軌跡の接線方向に放射光を発光し、これをシンクロトロン放射光と呼んでいる。このようなシンクロトロン放射光を発生させる光源を、電子貯蔵リング(電子ビーム蓄積リング)の直線部に設置し、高指向性、高強度、高偏光性などの特性を生かした種々の技術の実用化のための研究が行われている。今日の電子貯蔵リングには、より高いビーム電流、より小さなビーム断面積による高輝度光源であるアンジュレータ(挿入光源)が複数設けられている。
【0003】
アンジュレータの一つとして、APPLE(Advanced Planar Polarized Light Emitter)-II 型アンジュレータ(以下APPLE-II)が知られており、非特許文献1などに紹介されている。APPLE-IIは、所定のギャップ(Gap)を介して対向配置された2列ずつの磁石列を有し、当該磁石列を位相駆動することによって偏光変調を行う可変偏光アンジュレータである。例えば、上下2列の対向する磁石列のうち、斜め向かいに対向する1対の磁石列の位置関係を保持したまま、もう1対の磁石列を電子ビームの方向(磁石列の配列方向、位相方向)に機械的に駆動する構造によって、電子軌道上での磁場を変化させ、水平直線偏光~左(右)円偏光~垂直直線偏光の偏光を発生させることが可能である。APPLE-IIは、SPring-8など大型の放射光施設に設置されており、通常、磁石列の長さが2m以上の長尺タイプである。
【0004】
出願人は、大学などの研究機関にあるような小型の放射光施設において求められる磁石列の長さが短いアンジュレータや、昨今望まれているAPPLE-IIで発生させる異なる偏光を組み合わせて任意の偏光を得る分割型APPLE-IIなどに使われる、磁石列の長さが短いアンジュレータユニットを特許文献1として提案した。
【0005】
また、特許文献2には、APPLE-IIと同じく位相駆動するアンジュレータにおいて、モータのパワーを大きくすることなく位相方向に高速駆動させるために、駆動する磁石列の外側に駆動方向の力をキャンセルするための磁石列を設けた構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2022-21493号公報
【特許文献2】特開2002-203700号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】角野和義、他3名、「新型可変偏光アンジュレータの解析」JAERI-Mレポート、日本原子力研究所、1993年8月、93-156号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
APPLE-IIでは、上下各々2列の磁石列が対向しているため、垂直方向(Gap方向)に対向する磁石列間だけでなく、水平方向(Gap方向と位相方向の両方に垂直な方向)に対向する磁石列間にも吸引力が発生する。また、APPLE-IIにおいては、磁石列をGap方向だけでなく、位相方向に駆動させるための構造が必要になる。特許文献1のアンジュレータユニットの構造では、駆動側と固定側にそれぞれ別々に連結ビームを設け、固定側の連結ビームをサドルによって支柱に連結し、駆動側の連結ビームを位相駆動機構によって固定側の連結ビームと連結する構造であり、磁石列と支持体をそれぞれの連結ビームに一体的に固定することができたので、水平方向に発生する吸引力は大きな問題ではなかった。しかしながら、この構造は磁石列の長さの短い特許文献1のアンジュレータユニットであるから実現できた構造であり、磁石列長さの長いアンジュレータにおいては、駆動側の磁石列と支持体をリニアガイドによって連結ビームに連結し、位相駆動機構によって位相方向に駆動させる構造となる(
図11参照)。この構造では、
図11に示すように、駆動側の磁石列と固定側の磁石列には互いに吸引力がかかるため、リニアガイドに過大な負荷がかかり、磁石列と支持体が傾いてしまうという問題があった。そのため、支持体を幅広にし、かつ幅広で複数のリニアガイドを設けることが望まれるが、支持体の幅方向には真空ポンプが存在するため真空ポンプが邪魔になって支持体の幅を広げることができない。
【0009】
一方、特許文献2の構造においては、キャンセルされる力は位相方向のみなので、水平方向にキャンセル用の磁石列の力がさらにかかってしまう。このため、磁石列と支持体が一体的に連結された移動用ベースをリニアガイドによって連結ビームに連結するとともに、移動用ベースの側面にもリニアガイドを設置して連結ビームや周辺部材と連結して補強しているが、例えば磁石列の長さが2m以上の長尺タイプのアンジュレータにおいて特許文献2の構造のように移動用ベースの側面にもリニアガイドを設置すると、装置の組み立て方が非常に難しくなり、かつ、部品点数が多くなるため製造コストが増大する。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その課題は、所定のギャップ(Gap)を介して対向配置された2列ずつの磁石列を有し、当該磁石列を位相駆動することによって偏光変調を行う長尺タイプ(例えば磁石列の長さが2m以上)の可変偏光アンジュレータにおいて、対向する駆動側と固定側の磁石列に働く吸引力に耐え、かつ、製造コストを抑制することができるアンジュレータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するためになされた本発明に係るアンジュレータは、
所定のギャップを介して対向配置された2列ずつの磁石列を有し、当該磁石列を位相駆動することによって偏光変調を行う可変偏光アンジュレータにおいて、
前記磁石列のうち位相方向に移動可能な一列が、支持体を介してベースに取付け支持されており、
前記ベースの一部は、前記一列に併設される他の一列が取付け支持される他のベース側に突出する突出部を有し、
前記突出部を含む前記ベースの平面に、複数本のリニアガイドが設置される、ことを特徴とする。
【0012】
また本発明に係るアンジュレータは、
所定のギャップを介して対向配置された2列ずつの磁石列を有し、当該磁石列を位相駆動することによって偏光変調を行う可変偏光アンジュレータであって、
互いに並んで配置される第1駆動磁石列および第1固定磁石列と、前記第1駆動磁石列および第1固定磁石列が取付け支持される第1駆動磁石支持体および第1固定磁石支持体と、前記第1駆動磁石支持体および第1固定磁石支持体が取付け支持される第1駆動ベースおよび第1固定ベースと、
前記第1駆動磁石列および第1固定磁石列とギャップを介して対向する第2固定磁石列および第2駆動磁石列と、前記第2固定磁石列および第2駆動磁石列が取付け支持される第2固定磁石支持体および第2駆動磁石支持体と、前記第2固定磁石支持体および第2駆動磁石支持体が取付け支持される第2固定ベースおよび第2駆動ベースと、
前記第1固定ベースと一体的に連結され、前記第1駆動ベースと複数本のリニアガイドを介して相対的移動可能に連結された第1連結ビームと、
前記第2固定ベースと一体的に連結され、前記第2駆動ベースと複数本のリニアガイドを介して相対的移動可能に連結された第2連結ビームと、を有し、
前記第1駆動ベースおよび前記第2駆動ベースは、前記第1固定ベースおよび前記第2固定ベース側に突出する第1段付き部および第2段付き部を有し、
前記複数本のリニアガイドのうち、前記第1固定ベースおよび前記第2固定ベース側のリニアガイドの一部分は、前記第1段付き部および第2段付き部の上部に固定されている、
ことを特徴とする。
【0013】
前記第1固定ベースおよび前記第2固定ベースは前記第1段付き部および第2段付き部に対応して凹むように形成される第3段付き部および第4段付き部を有している、ことを特徴とする。
【0014】
前記アンジュレータは、
前記第1駆動磁石列および前記第2駆動磁石列、前記第1固定磁石列および前記第2固定磁石列が互いに斜め向かいに配置されており、
前記第1駆動磁石列および前記第2固定磁石列が前記支柱に近い側、前記第1固定磁石列および前記第2駆動磁石列は前記支柱から遠い側、に配置されており、
前記第1駆動磁石列を前記第1固定磁石列に対して前記磁石の配列方向に駆動する第1位相駆動機構が前記第1連結ビームに取付けられており、
前記第2駆動磁石列を前記第2固定磁石列に対して前記磁石の配列方向に駆動する第2位相駆動機構が前記第2連結ビームに取付けられている、ことを特徴とする。
【0015】
前記アンジュレータは、
前記第1駆動ベースを前記第1固定ベースに対して磁石列方向に駆動する第1位相駆動機構と、前記第2駆動ベースを前記第2固定ベースに対して磁石列方向に駆動する第2位相駆動機構と、
前記ギャップの大きさを変更するため、前記第1駆動磁石支持体および第1固定磁石支持体、および/または、前記第2固定磁石支持体および第2駆動磁石支持体を磁石が向かい合う方向に駆動するためのギャップ駆動機構と、前記第1固定連結ビームおよび前記第2固定連結ビームの少なくとも一方と、前記ギャップ駆動機構とを連結するための駆動連動機構を有し、
複数本の支柱と、
前記ギャップに、電子ビームが通過するための真空槽と、前記真空層に連結された真空ポンプを備えている。
【0016】
前記第1駆動磁石支持体および第1固定磁石支持体は、前記第1駆動ベースおよび前記第1固定ベースに、直接または取付け板を介して取付け支持される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、所定のギャップ(Gap)を介して対向配置された2列ずつの磁石列を有し、当該磁石列を位相駆動することによって偏光変調を行う長尺タイプ(例えば磁石列の長さが2m以上)の可変偏光アンジュレータにおいて、対向する駆動側と固定側の磁石列に働く吸引力に耐え、かつ、製造コストを抑制することができるアンジュレータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態に係るアンジュレータ100の正面側斜視図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るアンジュレータ100の背面側斜視図である。
【
図3】本発明の実施形態に係るアンジュレータ100の正面図である。
【
図4】本発明の実施形態に係るアンジュレータ100の背面図である。
【
図5】本発明の実施形態に係るアンジュレータ100の右側面図である。
【
図7】
図3のA-A断面図のうち、磁石列付近の拡大図である。
【
図8】本発明の実施形態に係るアンジュレータ100のリニアガイドによる連結を示すための図(第2駆動磁石列MD2付近の拡大断面略図)である。
【
図9】磁石列の動きを説明するための、第1駆動磁石列MD1、第1固定磁石列MF1、第2駆動磁石列MD2、第2固定磁石列MF2近傍の拡大斜視図である。
【
図10】本発明の実施形態に係るアンジュレータ100のギャップが閉じた状態を示す断面図である。
【
図11】従来のアンジュレータのリニアガイドによる連結を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、所定のギャップ(Gap)を介して対向配置された2列ずつの磁石列を有し、当該磁石列を位相駆動することによって偏光変調を行う可変偏光アンジュレータにおいて、特に、例えば、磁石列の長さが2m以上の長尺タイプ、あるいは、支柱が複数本配置されるような長尺タイプの可変偏光アンジュレータに関する。以下、図面を用いて本発明のアンジュレータについて説明する。なお、以下の説明において、図のX方向を位相方向、図のY方向をGap方向(垂直方向)、図のZ方向を水平方向、などと称する。
【0020】
図1は本発明の一実施形態に係るアンジュレータ100の正面側斜視図であり、
図2は背面側斜視図である。
図1他、本願の図面においては、特に断りのない限り、構造がわかりやすいように磁石列間のギャップσが開いた状態で示している。なお、本明細書における説明では便宜上、支柱65が配置されている側をアンジュレータ100の背面、その反対側(磁石列が配置されている側)を正面と呼ぶが、アンジュレータ100の設置方向等を限定するものではない。
【0021】
図3は本発明の実施形態に係るアンジュレータ100の正面図であり、
図4は背面図である。また、
図5は本発明の実施形態に係るアンジュレータ100の右側面図であり、
図6は
図3のA-A断面図であり、
図7はその磁石列付近の拡大図である。これらの図では、真空槽に連結されている真空ポンプは省略している。
【0022】
図6に示すように、アンジュレータ100は、多数の磁石が列状に配置される第1駆動磁石列MD1、第1固定磁石列MF1と、同じく多数の磁石が列状に配置される第2固定磁石列MF2、第2駆動磁石列MD2がギャップδを介して向かい合っている。このギャップ空間には真空槽51が配置され、真空槽51内を電子ビームが通過する。
【0023】
まず、
図7を参照してこれら磁石列の周辺の構成について説明する。第1駆動磁石列MD1と第1固定磁石列MF1、第2固定磁石列MF2と第2駆動磁石列MD2は並んで近接配置されている。また、第1駆動磁石列MD1と第2固定磁石列MF2、第1固定磁石列MF1と第2駆動磁石列MD2がそれぞれギャップδを介して向かい合っている。すなわち、第1駆動磁石列MD1と第2駆動磁石列MD2、第1固定磁石列MF1と第2固定磁石列MF2がそれぞれ斜め向かいに位置している(それぞれが交差するように位置している)。第1駆動磁石列MD1、第1固定磁石列MF1、第2固定磁石列MF2、第2駆動磁石列MD2はそれぞれ第1駆動磁石支持体1、第1固定磁石支持体3、第2固定磁石支持体4、第2駆動磁石列支持体2に支持されており、取付け板9を介してそれぞれ第1駆動ベース5、第1固定ベース7、第2固定ベース8、第2駆動ベース6に適宜の機械的手段(例えばボルトナット)を用いて一体的に連結されている。第1駆動磁石支持体1、第1固定磁石支持体3、第2固定磁石支持体4、第2駆動磁石列支持体2は、取付け板9を介さずにそれぞれ第1駆動ベース5、第1固定ベース7、第2固定ベース8、第2駆動ベース6に直接連結されてもよい。
【0024】
第1駆動ベース5および第2駆動ベース6は、複数本のリニアガイド、例えば
図7の例では、第1正面側リニアガイド11と第1背面側リニアガイド12、および、第2正面側リニアガイド13と第2背面側リニアガイド14、を介して、それぞれ第1連結ビーム16および第2連結ビーム17に連結されている。第1固定ベース7および第2固定ベース8は、それぞれ第1連結ビーム16および第2連結ビーム17に一体的に連結されている。
【0025】
第1駆動ベース5および第2駆動ベース6の連結ビーム側は、それぞれ第1固定ベース7および第2固定ベース8側に突出する第1段付き部5aおよび第2段付き部6aを有しており、これにより、第1正面側リニアガイド11と第1背面側リニアガイド12、および、第2正面側リニアガイド13と第2背面側リニアガイド14を設置する部分の幅を増大させている。したがって、第1背面側リニアガイド12の一部分は第1段付き部5a、ひいては第1固定磁石列MF1の上部に位置し、第2正面側リニアガイド13の一部は、第2段付き部6aの下部、ひいては第2固定磁石列MF2の下部に位置している。第1固定ベース7および第2固定ベース7の磁石列側(取付け板9側)は、第1段付き部5aおよび第2段付き部6aに対応して凹むように第3段付き部7aおよび第4段付き部8aを有している。
【0026】
リニアガイドとしては、公知の循環するボール機構を用いた構成(例えば商品名LMガイド)を採用することが好ましい。その他、公知のクロスローラーガイドを用いることができる。第1駆動ベース5、第2駆動ベース6の幅、および使用するリニアガイドの幅によっては3本以上のリニアガイドを連結してもよい。リニアガイドが3本以上の場合、以下の説明においては、最も正面側のリニアガイドを第1正面側リニアガイドと第2正面側リニアガイド、最も背面側のリニアガイドを第1背面側リニアガイドと第2背面側リニアガイドとする。
【0027】
第1位相駆動機構21は第1連結ビーム16に、第2位相駆動機構22は第2連結ビーム17に、それぞれ連結されている。第1位相駆動機構21および第2位相駆動機構22は、それぞれ、モータ23、変換部24、ボールネジ25、ブラケット26、ガイドプレート27、リニアガイド28を含む。
【0028】
ギャップ駆動機構31は駆動連動機構32、モータ33、変換部34,35を含み、駆動連動機構32は、ボールネジ36、スライダー37を含む。第1位相駆動機構21と第2位相駆動機構22、およびギャップ駆動機構31の動きについては後で簡単に説明する。
【0029】
複数本の支柱65はこれらの機構を載置、もしくは種々の部材と連結することによって支えており、架台61上に載置される。架台61は複数個の台座62によって載置面に載置される。
【0030】
第1駆動磁石列MD1および第1固定磁石列MF1と第2固定磁石列MF2および第2駆動磁石列MD2の間には、電子ビームの通り道である真空槽51が配置され、真空槽51はポンプ室52を通じて真空ポンプ53に通じている。ポンプ室52は支持体63によって架台61の上に支持されている。支持体63の上には支持部材64が設けられ、ポンプ室52の下部を受け止めている。これらは適宜の機械的手段(例えばボルトナット)により結合されている。
【0031】
以下、本発明の構造の効果について説明する。
図8は、
図7の第2固定磁石列MF2および第2駆動磁石列MD2付近をさらに拡大した断面図(略図)であり、
図11は、従来のアンジュレータにおける駆動ベース70がリニアガイド71を介して連結ビーム73に連結されていることを示す図である。従来のアンジュレータにおいては、駆動ベース70と固定ベース72の幅が同等である。一般的なアンジュレータの大きさで、このような構造では、幅の狭いリニアガイドを2本連結するのが精一杯であり、矢印の方向(水平方向)にかかる磁石列同士の吸引力にリニアガイドが耐え切れず、磁石列が傾いてしまう恐れがある。
【0032】
これに対し、本発明のアンジュレータでは、第1駆動ベース5および第2駆動ベース6にそれぞれ第1段付き部5aおよび第2段付き部6aを設けてリニアガイド設置面の幅を広げているので、幅の広いリニアガイドを複数本連結することができ、水平方向にかかる磁石列同士の吸引力に耐えることができ、磁石列が傾くことを抑制できる。また、装置の組み立てが困難になることもなく、部品点数も増えないため、製造コストを抑制することができる。
【0033】
次に、磁石列の動きについて説明する。
図9は正面側斜視図の磁石列近傍の拡大斜視図である。
図9では真空槽などの真空系は省略されている。また、第1駆動磁石列MD1および第1固定磁石列MF1は第2駆動磁石列MD2および第2固定磁石列MF2と同様磁石列の方向に多数並んでいるが、
図9では磁石列の端部を覆うように設置されている第1駆動磁石支持体1および第1固定磁石支持体3の裏側に隠れている。
【0034】
第1位相駆動機構21によって、第1連結ビーム16に第1正面側リニアガイドと第1背面側リニアガイド、第1駆動ベース5および取付け板9を介して連結されている第1駆動磁石列MD1および第1駆動磁石支持体1が図の矢印の方向に移動し、同じく、第2位相駆動機構22によって、第2連結ビーム17に第2正面側リニアガイドと第2背面側リニアガイド、第2駆動ベース6および取付け板9を介して連結されている第2駆動磁石列MD2および第2駆動磁石支持体2が図の矢印の方向に移動する。
図9の例は、第1固定磁石列MF1と第2固定磁石列MF2に対して、第1駆動磁石列MD1と第2駆動磁石列MD2が位相方向、アンジュレータ100の正面から見て左側に動いたところである。
【0035】
第1位相駆動機構21および第2位相駆動機構22によって第1駆動磁石列MD1と第2駆動磁石列MD2を位相駆動する方法は、例えば特開2019-175766号公報などに記載の公知の方法を用いることができる。本明細書では
図3、
図6などを参照して簡単に説明する。
【0036】
第1位相駆動機構21は、モータ23、モータ23の駆動を伝達する方向を90°変換する変換部(ウォームギア)24、このモータ23および変換部24により回転駆動されるボールネジ25を有している。ボールネジ25はブラケット26を介してガイドプレート27と連結されており、ガイドプレート27は第1駆動ベース5に一体的に連結されており、かつ、リニアガイド28を介して第1連結ビーム16と連結されている。この構造によって、モータ23を回転させることによって、第1駆動ベース5および第1駆動ベース5に連結されている第1駆動磁石列MD1を動かすことができる。なお、第1駆動ベース5が所定の位置で止まるようにリミッター29が設置されている。第2位相駆動機構22の動きも同様であるので、説明を省略する。
【0037】
ギャップ駆動機構31によってギャップσの大きさを調整する方法は、国際公開第2018/143253号などに記載の公知の方法を用いることができる。本明細書では
図1、
図5などを参照して簡単に説明する。
【0038】
ギャップ駆動機構31は、モータ33、変換部34、35を含む。変換部34、35は駆動伝達の方向を90°変換する。駆動連動機構32はボールねじ36を含む。ボールねじ36にはサドル18とサドル19がスライダー37によって連結されている。サドル18および/またはサドル19の位置を変えることによって第1連結ビーム16および第2連結ビーム17のGap方向の位置、延いては、第1駆動磁石列MD1および第1固定磁石列MF2と第2固定磁石列MF2および第2駆動磁石列MD2のGap方向の位置が決まる。したがって、ギャップ駆動機構31を駆動する(モータ33の回転を変換部34、35によって駆動連動機構32に伝え、ボールねじ36を回転させる)ことで、サドル18とサドル19の少なくとも一方を動かしてギャップσの大きさを変更することができる。なお、サドル18とサドル19が所定の位置で止まるようにリミッター38が設置されている。
【0039】
図10はギャップ駆動機構31によってギャップσを閉じた状態を表している。アンジュレータ100を稼働させるときはこのようにギャップσを閉じた状態とする。σの大きさは必要に応じて調整する。また、メンテナンス時など必要に応じて
図1~9のようにギャップσを開いた状態にすることができる。
【0040】
なお、本明細書の図面においては便宜上、第1連結ビーム16が上側、第2連結ビーム17が下側に配置されているが、上下が逆でもよい。さらに、支柱65は垂直方向、各々の磁石列は水平方向に配置されているが、図面の方向に限定されない。例えば支柱65が水平方向でも斜め方向でもよく、各々の磁石列が垂直方向でも斜め方向でもよい。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、所定のギャップ(Gap)を介して対向配置された2列ずつの磁石列を有し、当該磁石列を位相駆動することによって偏光変調を行う長尺タイプ(例えば磁石列の長さが2m以上)の可変偏光アンジュレータにおいて、対向する駆動側と固定側の磁石列に働く吸引力に耐え、かつ、製造コストを抑制することができるアンジュレータを提供することができるという点で産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0042】
100 アンジュレータ
MD1 第1駆動磁石列
MD2 第2駆動磁石列
MF1 第1固定磁石列
MF2 第2固定磁石列
1 第1駆動磁石支持体
2 第2駆動磁石支持体
3 第1固定磁石支持体
4 第2固定磁石支持体
5 第1駆動ベース
5a 第1段付き部
6 第2駆動ベース
6a 第2段付き部
7 第1固定ベース
7a 第3段付き部
8 第2固定ベース
8a 第4段付き部
9 取付け板
11 第1正面側リニアガイド
12 第1背面側リニアガイド
13 第2正面側リニアガイド
14 第2背面側リニアガイド
16 第1連結ビーム
17 第2連結ビーム
21 第1位相駆動機構
22 第2位相駆動機構
31 ギャップ駆動機構
32 駆動連動機構
51 真空槽
61 架台