(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023012929
(43)【公開日】2023-01-26
(54)【発明の名称】コンクリートデバイスおよび電子機器
(51)【国際特許分類】
H01M 12/06 20060101AFI20230119BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20230119BHJP
【FI】
H01M12/06 G
H01M12/06 F
H01M4/90 Y
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021116695
(22)【出願日】2021-07-14
(71)【出願人】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】520114030
【氏名又は名称】AZUL Energy株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001357
【氏名又は名称】弁理士法人つばさ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野 新平
(72)【発明者】
【氏名】藪 浩
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 晃寿
【テーマコード(参考)】
5H018
5H032
【Fターム(参考)】
5H018AA10
5H018EE03
5H018EE12
5H018EE16
5H018HH05
5H032AA01
5H032AS01
5H032AS02
5H032AS03
5H032AS12
5H032BB09
5H032EE01
5H032EE02
5H032EE14
5H032EE15
5H032EE17
5H032EE18
5H032HH01
5H032HH10
(57)【要約】
【課題】デバイスの特性を向上させることが可能なコンクリートデバイス等を提供する。
【解決手段】コンクリートデバイス1は、電解質としてのコンクリートを含むと共に、互いに対向する一対の端面を有するコンクリート層10と、このコンクリート層10における一対の端面のうち、一方の端面側に配置された電極111と、コンクリート層10における一対の端面のうち、一方または他方の端面側に配置された電極112と、を備えている。電極112は、酸素還元触媒を含む空気極である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質としてのコンクリートを含むと共に、互いに対向する一対の端面を有するコンクリート層と、
前記コンクリート層における前記一対の端面のうち、一方の端面側に配置された第1の電極と、
前記コンクリート層における前記一対の端面のうち、一方または他方の端面側に配置された第2の電極と
を備え、
前記第2の電極は、酸素還元触媒を含む空気極である
コンクリートデバイス。
【請求項2】
前記酸素還元触媒は、以下の式(1)又は(2)で表される、金属錯体又はその付加体及び導電性材料を含む
請求項1に記載のコンクリートデバイス。
【化1】
(式中、
Mは鉄原子、マンガン原子、ニッケル原子、銅原子、亜鉛原子又はコバルト原子であり、
D
1からD
28は、それぞれ独立に、窒素原子、硫黄原子又は炭素原子であり、
D
1からD
28が炭素原子である場合、前記炭素原子は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アルキルスルホニル基、アルコキシ基又はアルキルチオ基が結合していてもよい。
ただし、前記式(1)において、D
1からD
16のうち炭素原子が8個以下である場合、
該炭素原子のうちの少なくとも1つにハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アルキルスルホニル基、アルコキシ基又はアルキルチオ基が結合しているか、或いは
前記式(1)の金属錯体は付加体を形成している。)
【請求項3】
D1からD16が、窒素原子又は炭素原子である
請求項2に記載のコンクリートデバイス。
【請求項4】
D17からD28が、硫黄原子又は炭素原子である
請求項2または請求項3に記載のコンクリートデバイス。
【請求項5】
以下の式で表される
請求項2ないし請求項4のいずれか1項に記載のコンクリートデバイス。
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【請求項6】
前記金属錯体が、前記金属錯体又はその付加体と前記導電性材料との合計量100質量%に対して、75質量%以下の量で含まれる
請求項2ないし請求項5のいずれか1項に記載のコンクリートデバイス。
【請求項7】
前記導電性材料が、カルボキシル基を含有する
請求項2ないし請求項6のいずれか1項に記載のコンクリートデバイス。
【請求項8】
前記カルボキシル基が、前記導電性材料100質量%に対して、20質量%以下で含有される
請求項7に記載のコンクリートデバイス。
【請求項9】
前記酸素還元触媒は、二酸化マンガン、白金またはカーボンアロイを含む
請求項1に記載のコンクリートデバイス。
【請求項10】
前記コンクリート層と前記第1の電極との間、および、前記コンクリート層と前記第2の電極との間にそれぞれ、ハイドロジェル層またはイオンジェル層により構成された1または複数のジェル層を、更に備えた
請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載のコンクリートデバイス。
【請求項11】
前記コンクリート層における前記コンクリートが、生コンクリート、または、固化したコンクリートである
請求項1ないし請求項10のいずれか1項に記載のコンクリートデバイス。
【請求項12】
前記第1の電極が負極として機能すると共に前記第2の電極が正極として機能するコンクリート電池、または、前記コンクリート層における塩濃度を検知する塩濃度センサとして構成されている
請求項1ないし請求項11のいずれか1項に記載のコンクリートデバイス。
【請求項13】
1または複数のコンクリートデバイスを備え、
前記コンクリートデバイスは、
電解質としてのコンクリートを含むと共に、互いに対向する一対の端面を有するコンクリート層と、
前記コンクリート層における前記一対の端面のうち、一方の端面側に配置された第1の電極と、
前記コンクリート層における前記一対の端面のうち、一方または他方の端面側に配置された第2の電極と
を備え、
前記第2の電極は、酸素還元触媒を含む空気極である
電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、コンクリート層を有するコンクリートデバイス、および、そのようなコンクリートデバイスを備えた電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート層を有するコンクリートデバイスとして、例えば非特許文献1,2に開示されているような、コンクリート電池が提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Cement & Concrete Composites 32 (2010)829-839
【非特許文献2】Materials Science and Engineering 96 (2015) 012073
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、このようなコンクリートデバイスでは一般に、デバイスの特性を向上させることが求められている。デバイスの特性を向上させることが可能なコンクリートデバイス、および、そのようなコンクリートデバイスを備えた電子機器を提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一実施の形態に係るコンクリートデバイスは、電解質としてのコンクリートを含むと共に、互いに対向する一対の端面を有するコンクリート層と、このコンクリート層における一対の端面のうち、一方の端面側に配置された第1の電極と、コンクリート層における一対の端面のうち、一方または他方の端面側に配置された第2の電極と、を備えたものである。上記第2の電極は、酸素還元触媒を含む空気極である。
【0006】
本開示の一実施の形態に係る電子機器は、1または複数の上記本開示の一実施の形態に係るコンクリートデバイスを備えたものである。
【0007】
本開示の一実施の形態に係るコンクリートデバイスでは、上記酸素還元触媒が、以下の式(1)又は(2)で表される、金属錯体又はその付加体及び導電性材料を含むようにしてもよい。
【0008】
【化1】
(式中、
Mは鉄原子、マンガン原子、ニッケル原子、銅原子、亜鉛原子又はコバルト原子であり、
D
1からD
28は、それぞれ独立に、窒素原子、硫黄原子又は炭素原子であり、
D
1からD
28が炭素原子である場合、前記炭素原子は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アルキルスルホニル基、アルコキシ基又はアルキルチオ基が結合していてもよい。
ただし、前記式(1)において、D
1からD
16のうち炭素原子が8個以下である場合、
該炭素原子のうちの少なくとも1つにハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アルキルスルホニル基、アルコキシ基又はアルキルチオ基が結合しているか、或いは
前記式(1)の金属錯体は付加体を形成している。)
【0009】
本開示の一実施の形態に係るコンクリートデバイスでは、上記したD1からD16が、窒素原子又は炭素原子であるようにしてもよい。
【0010】
本開示の一実施の形態に係るコンクリートデバイスでは、上記したD17からD28が、硫黄原子又は炭素原子であるようにしてもよい。
【0011】
本開示の一実施の形態に係るコンクリートデバイスでは、以下の式で表されるようにしてもよい。
【0012】
【0013】
本開示の一実施の形態に係るコンクリートデバイスでは、上記金属錯体が、この金属錯体又はその付加体と上記導電性材料との合計量100質量%に対して、75質量%以下の量で含まれるようにしてもよい。
【0014】
本開示の一実施の形態に係るコンクリートデバイスでは、上記導電性材料が、カルボキシル基を含有するようにしてもよい。
【0015】
本開示の一実施の形態に係るコンクリートデバイスでは、上記カルボキシル基が、上記導電性材料100質量%に対して、20質量%以下で含有されるようにしてもよい。
【0016】
本開示の一実施の形態に係るコンクリートデバイスでは、上記酸素還元触媒が、二酸化マンガン、白金またはカーボンアロイを含むようにしてもよい。
【0017】
本開示の一実施の形態に係るコンクリートデバイスでは、上記コンクリート層と上記第1の電極との間、および、上記コンクリート層と上記第2の電極との間にそれぞれ、ハイドロジェル層またはイオンジェル層により構成された1または複数のジェル層を、更に設けるようにしてもよい。
【0018】
なお、上記コンクリート層における上記コンクリートとしては、例えば、生コンクリート、または、固化したコンクリートなどが、挙げられる。また、本開示の一実施の形態に係るコンクリートデバイスとしては、例えば、以下のようなものが挙げられる。すなわち、まず、上記第1の電極が負極として機能すると共に上記第2の電極が正極として機能する、コンクリート電池が挙げられる。また、上記コンクリート層における塩濃度もしくは水分濃度を検知する、濃度センサ(塩濃度センサもしくは水分濃度センサ)が挙げられる。
【発明の効果】
【0019】
本開示の一実施の形態に係るコンクリートデバイスおよび電子機器によれば、上記コンクリート層と、上記第1および第2の電極とを、それぞれ設けると共に、上記第2の電極を、酸素還元触媒を含む空気極としたので、デバイスの特性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本開示の一実施の形態に係るコンクリートデバイスの構成例を表す模式断面図である。
【
図2】
図1に示した正極(空気極)の詳細構成例を表す模式断面図である。
【
図3】
図1に示したコンクリートデバイスにおける動作例を表す模式断面図である。
【
図4】変形例1に係るコンクリートデバイスの構成例を表す模式断面図である。
【
図5】変形例2に係るコンクリートデバイスの構成例を表す模式断面図である。
【
図6】コンクリートデバイスの適用例に係る電子機器の構成例を表すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.実施の形態(コンクリート層と電極との間にジェル層を設けた構成例)
2.変形例
変形例1(ジェル層を設けないようにした場合の例)
変形例2(コンクリート層の一方の端面側に2つの電極を配置した場合の例)
3.適用例(コンクリートデバイスの電子機器への適用例)
4.その他の変形例
【0022】
<1.実施の形態>
[コンクリートデバイスの構成]
図1は、本開示の一実施の形態に係るコンクリートデバイス(コンクリートデバイス1)の断面構成例(Z-X断面構成例)を、模式的に表したものである。本実施の形態のコンクリートデバイス1は、
図1に示したように、コンクリート層10と、一対の電極111,112と、1または複数のジェル層(
図1の例では、一対のジェル層121,122)とを備えている。
【0023】
このコンクリートデバイス1は、例えば以下のようなデバイスとして機能するようになっている。すなわち、例えば、電極111が負極として機能すると共に電極112が正極として機能する、電池(コンクリート電池)として機能する。あるいは、例えば、コンクリート層10における塩濃度(塩分濃度)もしくは水分濃度を検知する、濃度センサ(塩濃度センサもしくは水分濃度センサ)として機能するようになっている。
【0024】
(コンクリート層10)
コンクリート層10は、電解質としてのコンクリート(生コンクリート、または、固化したコンクリート)を含んでおり、互いに対向する一対の端面(表面,裏面)を有している。つまり、このコンクリート層10では、コンクリートを構成する各種元素が、陽イオンと陰イオンとに電離した状態となっている。
【0025】
具体的には、例えば、コンクリート層10において、カルシウムイオン(Ca2+)、水素イオン(H+)および酸素イオン(O2-)がそれぞれ、電離した状態で含まれている。
【0026】
(電極111,112)
電極111は、コンクリート層10における一方の端面側に配置されており、電極112は、コンクリート層10における他方の端面側に配置されている。これらの電極111,112はそれぞれ、この例では
図1に示したように、後述するジェル層121,122上に貼付されたものとなっている。なお、コンクリートデバイス1が前述したコンクリート電池として機能する場合には、電極111は負極として機能するようになっており、電極112は正極として機能するようになっている。
【0027】
このような電極111,112はそれぞれ、互いに仕事関数が異なる元素同士の組み合わせで構成されている。具体的には、
図1に示した例では、電極111は亜鉛(Zn)によって構成され、電極112は、後述する空気極によって構成されている。なお、電極111としては、上記した亜鉛の他、例えば、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、鉄(Fe)またはカルシウム(Ca)、あるいは、それらの各種金属を含む合金であってもよい。このようにして、電極111は、電極112(空気極に含まれる後述する触媒)と比べて仕事関数が大きい元素を用いて、構成されるようになっている。
【0028】
ここで、電極111は、本開示における「第1の電極」および「負極」の一具体例に対応し、電極112は、本開示における「第2の電極」および「正極」の一具体例に対応している。なお、電極112の詳細構成例については、後述する(
図2)。
【0029】
(ジェル層121,122)
ジェル層121は、コンクリート層10における一方の端面と電極111との間に配置されており、ジェル層122は、コンクリート層10における他方の端面と電極112との間に配置されている(
図1参照)。また、これらのジェル層121,122は、
図1に示した例では、コンクリート層10における一対の端面上にそれぞれ、貼付されたものとなっている。なお、このようなジェル層121,122はそれぞれ、例えば
図1中に括弧書きで示したように、ハイドロジェル層(生理食塩水に高分子ポリマーを加えてジェル状にしたもの)、または、イオンジェル層(イオン液体に高分子ポリマーを加えてジェル状にしたもの)により構成されている。
【0030】
ここで、これらのジェル層121,122はそれぞれ、コンクリート層10と電極111,112との間(界面)における、イオン伝導効率を向上させる機能を有している。また、これらジェル層121,122のうちの少なくとも一方(1または複数のジェル層のうちの少なくとも1つ)が、1または複数種類のイオンを含んでいるのが望ましい。詳細は後述するが、コンクリート層10と電極111,112との間(界面)において、イオン伝導度が向上するからである。なお、
図1に示した例では、ジェル層121,122にはそれぞれ、ナトリウムイオン(Na
+)および塩素イオン(Cl
-)からなる、2種類のイオンが含まれている。
【0031】
[電極112の詳細構成例]
続いて、
図1に加えて
図2を参照して、上記した電極112の詳細構成例について説明する。
【0032】
まず、本実施の形態の電極112は、以下説明する酸素還元触媒を含む、空気極(気体の酸素を電極活物質とする電極であり、酸素極とも呼ばれる)となっている。具体的には
図2に示したように、この電極112は、そのような酸素還元触媒を担持した触媒層112aと、集電体層112bと、撥水層112cとを含む、3層構造の空気極となっている。
【0033】
触媒層112aは、例えば、カーボン材料(カーボンブラック、活性炭、黒鉛等)と、バインダーと、酸素還元触媒とを、含んでいる。この触媒層112aの厚みは特に限定されないが、例えば、0.01~100μmとすることができる。厚みが前記下限値以上であると、電極の耐久性が優れている。厚みが前記上限値以下であると、電極の性能が低下しにくくなる。また、上記した酸素還元触媒としては、例えば、後述する金属錯体又はその付加体及び導電性材料を含むもの、あるいは、二酸化マンガン(MnO2)、白金(Pt)またはカーボンアロイを含むもの等が、挙げられる。これらのうち、酸素還元触媒としては、後述する金属錯体又はその付加体及び導電性材料を含むものが、望ましいと言える。
【0034】
集電体層112bとしては、例えば、SUS(Steel Use Stainless)やニッケル(Ni)メッシュの他、カーボンペーパー等が、用いられるようになっている。
【0035】
撥水層112cとしては、例えば、撥水性および高ガス透過性を有する、PTFE(polytetrafluoroethylene)多孔質膜や、ポリメチルペンテンシリコーン樹脂等が、用いられるようになっている。
【0036】
(金属錯体又はその付加体の構成例)
ここで、上記した金属錯体又はその付加体は、例えば、以下の式(1)又は(2)で表されるようになっている。なお、金属錯体又はその付加体は、1種のみを用いることもできるが、2種以上の金属錯体又はその付加体を組み合わせて用いることもできる。
【0037】
【化7】
(式中、
Mは鉄原子、マンガン原子、ニッケル原子、銅原子、亜鉛原子又はコバルト原子であり、
D
1からD
28は、それぞれ独立に、窒素原子、硫黄原子又は炭素原子であり、
D
1からD
28が炭素原子である場合、前記炭素原子は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アルキルスルホニル基、アルコキシ基又はアルキルチオ基が結合していてもよい。
ただし、前記式(1)において、D
1からD
16のうち炭素原子が8個以下である場合、
該炭素原子のうちの少なくとも1つにハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アルキルスルホニル基、アルコキシ基又はアルキルチオ基が結合しているか、或いは
前記式(1)の金属錯体は付加体を形成している。)
【0038】
窒素原子とMとの間の結合は、窒素原子のMへの配位を意味する。Mには配位子としてハロゲン原子、水酸基、又は炭素数1~8の炭化水素基がさらに結合していてもよい。また、電気的に中性になるように、アニオン性対イオンが存在していてもよい。さらに、電気的に中性の分子が付加した付加体として存在していてもよい。
【0039】
Mの価数は特に制限されない。金属錯体又はその付加体が電気的に中性となるように、配位子(例えば、軸配位子)としてハロゲン原子、水酸基、又は、炭素数1~8の(アルキルオキシ基)アルコキシ基が結合していてもよく、アニオン性対イオンが存在していてもよい。アニオン性対イオンとしては、ハロゲン化物イオン、水酸化物イオン、硝酸イオン、硫酸イオンが例示される。また、炭素数1~8の(アルキルオキシ基)アルコキシ基が有するアルキル基の構造は、直鎖状、分岐状、又は環状であってもよい。
【0040】
ここで、ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、及びヨウ素が挙げられる。
【0041】
また、アルキル基とは、直鎖状又は分岐鎖状の一価の炭化水素基を表す。アルキル基の炭素原子数は1~20個であることが好ましく、1~12個であることがより好ましく、1~6個であることがさらに好ましい。アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、sec-ペンチル基、tert-ペンチル基、及びn-ヘキシル基が例示される。
【0042】
ここで、シクロアルキル基としては、環状の一価の炭化水素基を表す。シクロアルキル基の炭素原子数は3~20個であることが好ましく、3~12個であることがより好ましく、3~6個であることがさらに好ましい。シクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、1-メチルシクロプロピル基、2-メチルシクロプロピル基、及び2,2-ジメチルシクロプロピル基が例示される。
【0043】
また、アルケニル基とは、二重結合を含有する直鎖状又は分岐鎖状の一価の炭化水素基を表す。アルケニル基の炭素原子数は2~20個であることが好ましく、2~12個であることがより好ましく、2~6個であることがさらに好ましい。アルケニル基としては、ビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、1-メチル-2-プロペニル基、2-メチル-2-プロペニル基、1-ペンテニル基、2-ペンテニル基、3-ペンテニル基、4-ペンテニル基、1-メチル-2-ブテニル基、2-メチル-2-ブテニル基、1-ヘキセニル基、2-ヘキセニル基、3-ヘキセニル基、4-ヘキセニル基、及び5-ヘキセニル基が例示される。
【0044】
ここで、アルキニル基とは、三重結合を含有する直鎖状又は分岐鎖状の一価の炭化水素基を表す。アルキニル基の炭素原子数は2~20個であることが好ましく、2~12個であることがより好ましく、2~6個であることがさらに好ましい。アルキニル基としては、エチニル基、1-プロピニル基、2-プロピニル基、(1-ブチニル基)1-ブチン-1-イル基、(2-ブチニル基)2-ブチン-1-イル基、(3-ブチニル基)3-ブチン-1-イル基、(1-メチル-2-プロピニル基)1-メチル-2-プロピン-1-イル基、(2-メチル-3-ブチニル基)2-メチル-3-ブチン-2イル基、(1-ペンチニル基)1-ペンチン-1-イル基、(2-ペンチニル基)2-ペンチン-1-イル基、(3-ペンチニル基)3-ペンチン-2-イル基、(4-ペンチニル基)4-ペンチン-1-イル基、1-メチル-2-ブチニル基(1-メチル-2-ブチン-1-イル基)、(2-メチル-3-ペンチニル基)2-メチル-3-ペンチン-1-イル基、(1-ヘキシニル基)1-ヘキシン-1-イル基、及び(1,1-ジメチル-2-ブチニル基)1,1-ジメチル-2-ブチン-1-イル基が例示される。
【0045】
また、アリール基とは、一価の芳香族炭化水素基を表す。アリール基の炭素原子数は6~40個であることが好ましく、6~30個であることがより好ましい。アリール基としては、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基、フルオレニル基、ベンゾフルオレニル基、ジベンゾフルオレニル基、フェナントリル基、アントラセニル基、ベンゾフェナントリル基、ベンゾアントラセニル基、クリセニル基、ピレニル基、フルオランテニル基、トリフェニレニル基、ベンゾフルオランテニル基、ジベンゾアントラセニル基、ペリレニル基、及びヘリセニル基が例示される。
【0046】
また、アルキルスルホニル基とは、スルホニル基にアルキル基が結合した一価の基を表す。アルキルスルホニル基中のアルキル基としては上記「アルキル基」として記載した基であることができる。アルキルスルホニル基の炭素原子数は1~20個であることが好ましく、1~12個であることがより好ましく、1~6個であることがさらに好ましい。メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、ノルマルプロピルスルホニル基、イソプロピルスルホニル基、n-ブチルスルホニル基、sec-ブチルスルホニル基、tert-ブチルスルホニル基、n-ペンチルスルホニル基、イソペンチルスルホニル基、tert-ペンチルスルホニル基、ネオペンチルスルホニル基、2,3-ジメチルプロピルスルホニル基、1-エチルプロピルスルホニル基、1-メチルブチルスルホニル基、n-ヘキシルスルホニル基、イソヘキシルスルホニル基、及び1,1,2-トリメチルプロピルスルホニル基が例示される。
【0047】
また、アルコキシ基とは、エーテル結合を介して炭化水素基が結合した一価の基を表す。アルコキシ基の炭素原子数は1~20個であることが好ましく、1~12個であることがより好ましく、1~6個であることがさらに好ましい。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、n-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、イソプロポキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、及びイソヘキシルオキシ基が例示される。
【0048】
また、アルキルチオ基とは、アルコキシ基のエーテル結合における酸素原子が硫黄原子に置換された基を表す。アルキルチオ基の炭素原子数は1~20個であることが好ましく、1~16個であることがより好ましく、1~12個であることがさらに好ましい。アルキルチオ基としては、メチルチオ基、エチルチオ基、n-プロピルチオ基、n-ブチルチオ基、n-ペンチルチオ基、n-ヘキシルチオ基、及びイソプロピルチオ基が例示される。
【0049】
アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アルキルスルホニル基、アルコキシ基、及びアルキルチオ基は、無置換の置換基であってもよいが、それぞれハロゲン、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アルコキシ基、アルキルチオ基、シアノ基、カルボニル基、カルボキシル基、アミノ基、ニトロ基、シリル基、及びスルホ基等の1つ以上の置換基で置換されていてもよい。
【0050】
D1からD16は、窒素原子又は炭素原子であることが好ましく、D17からD28は、硫黄原子又は炭素原子であることが好ましい。D1からD16のうちの窒素原子の数は2~12個であることが好ましく、4~8個であることがより好ましい。D17からD28のうちの硫黄原子の数は2~10個であることが好ましく、4~8個であることがより好ましい。
【0051】
好ましくは、本実施の形態における前述した金属錯体又はその付加体は、以下の式で表される化合物である。
【0052】
【化8】
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
【0053】
このような金属錯体又はその付加体の製造方法は、特に限定されないが、例えば、ピリジン-2,3-ジカルボニトリル等のジシアノ化合物と金属原子とを塩基性物質の存在下にアルコール溶媒中で加熱する方法が例示される。ここで塩基性物質としては、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、及び酢酸ナトリウム等の無機塩基;トリエチルアミン、トリブチルアミン、及びジアザビシクロウンデセン等の有機塩基が例示される。
【0054】
ここで、このような酸素還元触媒における、前述した導電性材料としては、例えば以下のようなものを用いることができる。
【0055】
すなわち、この導電性材料は、導電性を具備するものであれば特に限定されないが、例えば、炭素材料、金属材料、及び金属酸化物材料が挙げられる。また、この導電性材料としては、炭素材料が好ましい。この導電性材料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0056】
炭素材料は、導電性炭素由来であることが好ましい。炭素材料の具体例としては、黒鉛、アモルファス炭素、活性炭、グラフェン、カーボンブラック、炭素繊維、メソカーボンマイクロビーズ、マイクロカプセルカーボン、フラーレン、カーボンナノフォーム、カーボンナノチューブ、及びカーボンナノホーン等が例示される。これらの中でも炭素材料は、黒鉛、アモルファス炭素、活性炭、グラフェン、カーボンブラック、炭素繊維、フラーレン、又はカーボンナノチューブであることが好ましく、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、又はグラフェンであることがより好ましい。
【0057】
カーボンナノチューブとしては、単層カーボンナノチューブ(以下、「SWCNT」と記す。)、2層カーボンナノチューブ(以下、「DWCNT」と記す。)、及び多層カーボンナノチューブ(以下、「MWCNT」と記す。)が例示される。
【0058】
炭素材料は、ヘテロ原子を有していてもよい。ヘテロ原子としては、酸素原子、窒素原子、リン原子、硫黄原子、及びケイ素原子等が例示される。炭素材料がヘテロ原子を有する場合において、炭素材料はヘテロ原子の1種を単独で含んでいてもよく、2種以上のヘテロ原子を含んでいてもよい。なお、炭素材料は酸化されていてもよく、水酸化されていてもよく、窒化されていてもよく、リン化されていてもよく、硫化されていてもよく、又は珪化されていてもよい。
【0059】
金属材料としては、チタン及びスズを挙げることができる。また、金属酸化物材料としては、チタン酸化物及びスズ酸化物(SnO2、ITO、ATO)等が挙げられる。
【0060】
導電性材料は、水酸基、カルボキシル基、窒素含有基、ケイ素含有基、リン酸基等のリン含有基、及びスルホン酸基等の硫黄含有基等の官能基を有していてもよい。特に、炭素材料は、カルボキシル基を有していることが好ましい。導電性材料がカルボキシル基を有することにより、導電性材料の表面に金属錯体又はその付加体が吸着しやすくなり、触媒の耐久性が向上するとともに、酸素還元触媒能をさらに高めることができる。
【0061】
導電性材料は、酸化処理による表面処理を行ってもよい。特にカーボンブラック等の炭素材料は酸化処理をすることで、カルボキシル基やヒドロキシル基等の親水性官能基を付与することにより金属錯体との相互作用を改良することができ、イオン化ポテンシャルを最適な範囲に制御することが可能となる。酸化処理の方法としては、公知の方法を採用することができ、硝酸、硫酸、塩素酸等の酸化剤水溶液中に撹拌混合する湿式処理や、プラズマ処理やオゾン処理等の気相処理を用いることができる。
【0062】
導電性材料がカルボキシル基を含有する場合、カルボキシル基の含有量は、導電性材料100質量%に対して、20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。カルボキシル基の含有量が前記上限値以下であると、触媒の製造コストが低下するため有利である。また、カルボキシル基の含有量は、1質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、8質量%以上がさらに好ましい。カルボキシル基の含有量が前記下限値以上であると、触媒の耐久性及び酸素還元触媒能をさらに高めることができる。なお、カルボキシル基の含有量は、元素分析又はX線光電子分光法等により測定することができる。
【0063】
導電性材料の比表面積は0.8m2/g以上が好ましく、10m2/g以上がより好ましく、50m2/g以上がさらに好ましく、100m2/g以上が特に好ましく、500m2/g以上が最も好ましい。比表面積が0.8m2/g以上であると、触媒の担持量を増やしやすくなり、触媒の酸素還元触媒能をさらに高めることができる。比表面積の上限値は特に限定されないが、例えば、2000m2/gとすることができる。なお、比表面積は、窒素吸着BET法で比表面積測定装置により測定することができる。
【0064】
導電性材料の平均粒径は、特に制限されないが、例えば、5nm~1000μmが好ましく、10nm~100μmがより好ましく、50nm~10μmがさらに好ましい。導電性材料の平均粒径を前記数値範囲に調整する方法としては、以下の(A1)~(A3)が例示される。
(A1):粒子をボールミル等により粉砕し、得られた粗粒子を分散剤に分散させて所望の粒子径にした後に乾固する方法。
(A2):粒子をボールミル等により粉砕し、得られた粗粒子をふるい等にかけて粒子径を選別する方法。
(A3):導電性材料を製造する際に、製造条件を最適化し、粒子の粒径を調整する方法。
なお、平均粒子径は、粒度分布測定装置又は電子顕微鏡等により測定することができる。
【0065】
ここで、本実施の形態の酸素還元触媒において、金属錯体又はその付加体の含有量は、金属錯体又はその付加体と導電性材料との合計量100質量%に対して、75質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましい。金属錯体又はその付加体の含有量が前記上限値以下であると、触媒の導電性が優れる。また、金属錯体又はその付加体の含有量は、金属錯体又はその付加体と導電性材料との合計量100質量%に対して、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1質量%以上がさらに好ましい。金属錯体又はその付加体の割合が前記下限値以上であると、触媒の酸素還元触媒能をさらに高めることができる。
【0066】
[コンクリートデバイスの製造方法]
このようなコンクリートデバイス1は、例えば以下のようにして製造することができる。
【0067】
まず、前述したコンクリート(生コンクリート、または、固化したコンクリート)を含むコンクリート層10を、用意(形成)する。
【0068】
次いで、コンクリート層10における一対の端面上にそれぞれ、
図1に示したように、ジェル層121,122を貼り付けて配置させる。そして、
図1に示したように、ジェル層121上に電極111を貼り付けて配置させると共に、ジェル層122上に電極112を貼り付けて配置させる。つまり、コンクリート層10における一方の端面上に、ジェル層121および電極111を、他方の端面上に、ジェル層122および電極112を、この順序で貼り付ける。
【0069】
ここで、電極112の製造方法としては、特に限定されないが、例えば、液状組成物を導電性の基材の表面に塗布し、触媒以外の成分を除去することによって製造してもよい。触媒以外の成分を除去する際には、加熱乾燥をしてもよく、乾燥後にプレスを行ってもよい。また、真空蒸着等によって触媒層を基材の表面に設けてもよい。なお、電極112は、前述した触媒層112aを基材の片面のみに有していてもよく、基材の両面に有していてもよい。
【0070】
以上により、
図1に示したコンクリートデバイス1が完成する。
【0071】
[動作および作用・効果]
次に、
図1,
図2に加えて
図3を参照して、このようなコンクリートデバイス1の動作、作用および効果について、詳細に説明する。
【0072】
(A.動作)
図3は、コンクリートデバイス1における動作例を、模式的に断面図(Z-X断面図)で表したものである。なお、この
図3においては、電極111,112間を外部の配線9を介して流れる電流Iと、その際に電極111,112間に発生する電圧Vとについても、それぞれ図示している。
【0073】
まず、例えば
図3に示したように、このコンクリートデバイス1では、電極111,112間に配線9が接続された場合、以下のような化学反応が生じる。なお、
図3中および以下の各化学式では、電子を「e
-」として示している。
【0074】
具体的には、電極111側(ジェル層121との界面Sa付近)では、前述したように電極111がZnにより構成されている場合、以下のような化学反応が生じる(
図3参照)。
・Zn → Zn
2++2e
-
・Zn+2Cl
- → ZnCl+2e
-
【0075】
一方、電極112側(ジェル層122との界面Sb付近)では、前述したように電極112がCuにより構成されている場合、以下のような化学反応が生じる(
図3参照)。
・O
2+4H
++4e
- → 2H
2O
・O
2+2H
2O+4e
- → 4OH
-
・Na
++e
- → Na
・Ca
2++2e
- → Ca
・Zn
2++2e
- → Zn
【0076】
そして、このような化学反応(還元反応または酸化反応等)の際に、例えば
図3に示したようにして、各種イオンが、電極111側または電極112側へと移動する。具体的には、各種の陽イオン(Ca
2,Zn
2+,H
+,Na
+)がそれぞれ、電極112側へと移動する。一方、各種の陰イオン(Cl
-,OH
-)がそれぞれ、電極111側へと移動する。そして、配線9を介して、電子e
-が電極111側から電極112側へと移動することで、配線9を介して電極112側から電極111側へと、電流Iが流れるとともに、電極111,112間に電圧Vが発生する(
図3参照)。
【0077】
また、電極111,112同士での仕事関数の差が大きくなるのに応じて、コンクリートデバイス1に流れる電流I(および発生する電圧V)も、増加するようになっている。つまり、このような仕事関数の差が相対的に小さい場合には、電流Iおよび電圧Vもそれぞれ、相対的に小さくなり、仕事関数の差が相対的に大きい場合には、電流Iおよび電圧Vもそれぞれ、相対的に大きくなる。
【0078】
また、ジェル層121,122はそれぞれ、前述したように、コンクリート層10と電極111,112との間(界面)における、イオン伝導効率を向上させる機能を有することから、このコンクリートデバイス1では、上記した電流Iが流れ易くなる。なお、これらのジェル層121,122が乾燥したとても、上記した各種イオンのイオン伝導は、継続して行われるようになっている。
【0079】
ここで、このようなコンクリートデバイス1は、前述したように、例えば以下のようなデバイスとして機能するようになっている。すなわち、このコンクリートデバイス1は、例えば、電極111が負極として機能すると共に電極112が正極として機能する、電池(コンクリート電池)として機能する。あるいは、例えば、コンクリート層10における塩濃度もしくは水分濃度を検知する、濃度センサ(塩濃度センサもしくは水分濃度センサ)として機能するようになっている。
【0080】
なお、上記した塩濃度センサとして機能する場合には、コンクリート層10における塩濃度が高くなるのに応じて、イオン伝導度が増加して電流量も増加することになる。したがって、コンクリート層10における塩濃度を、電流の値を利用して検知することができることから、コンクリート層10における塩濃度を計測することが可能となる。
【0081】
また、上記した水分濃度センサとして機能する場合には、コンクリート層10における水分濃度が高くなるのに応じて、イオン伝導度が増加して電流量も増加することになる。したがって、この水分濃度センサの場合においても、上記した塩濃度センサの場合と同様に、コンクリート層10における水分濃度を、電流の値を利用して検知することができることから、コンクリート層10における水分濃度を計測することが可能となる。
【0082】
(B.作用・効果)
ここで、本実施の形態のコンクリートデバイス1では、電極112として、前述した酸素還元触媒を含む空気極が用いられていることで、例えば、以下のような作用・効果が得られる。
【0083】
すなわち、まず、例えば、コンクリートデバイス1としての前述したコンクリート電池において、出力電圧(例えば
図3中に示した電圧V)を向上させることができる(例えば、従来の0.8V程度から、1.2V程度まで向上させることができる)。つまり、本実施の形態では、コンクリートデバイス1の特性を向上させることが可能となる。
【0084】
なお、このようなコンクリート電池を複数個設けて、それら複数個のコンクリート電池同士を直列接続または並列接続させることで、出力電圧や電流密度を制御することも可能である。
【0085】
また、このコンクリートデバイス1では、例えば
図3に示したように、水酸化物イオン(OH
-)が発生することから、この水酸化物イオンによって、コンクリート層10におけるアルカリ性を維持させる(中性化の進行を抑える)ことができる。コンクリート層10が中性化すると、一般に、劣化が促進されてしまうことから、そのような中性化の進行を抑えることで、コンクリートデバイス1の信頼性を向上させることも可能となる。つまり、このようなコンクリートデバイス1の構成を、いわゆる犠牲陽極工法(ガルバシールド)に代わる防食技術として用いることが可能となる。
【0086】
更に、本実施の形態のコンクリートデバイス1では、電極112における酸素還元触媒として、前述した金属錯体又はその付加体を含むようにした場合には、優れた酸素還元触媒能を有する触媒とすることができる。加えて、前述した金属錯体又はその付加体は、前述した導電性材料に容易に吸着することから、複雑な製造工程を経ることなく、そのような酸素還元触媒を製造することが可能となる。また、上記した金属錯体又はその付加体を用いた場合、白金などのレアメタルを使用することなく、優れた酸素還元触媒能を得ることができるため、比較的安価に触媒を提供することができる。
【0087】
また、本実施の形態のコンクリートデバイス1では、コンクリート層10(における一方の端面)と電極111との間、および、コンクリート層10(における他方の端面)と電極112との間にそれぞれ、ジェル層121,122を設けるようにしたので、以下のようになる。すなわち、コンクリート層10と電極111,112との間(界面Sa,Sb)において、密着性およびイオン伝導効率がそれぞれ向上し、電極111,112の間を流れる電流Iの経時的な低下が、抑えられる。その結果、コンクリートデバイス1の特性(デバイスの寿命等)を、更に向上させることが可能となる。
【0088】
更に、これらのジェル層121,122のうちの少なくとも一方が、1または複数種類のイオンを含んでいるようにしたので、以下のようになる。すなわち、コンクリート層10と電極111,112との間(界面)においてイオン伝導度が向上し、電流Iの電流量が増加する結果、コンクリートデバイス1の特性を更に向上させることが可能となる。ちなみに、ジェル層121またはジェル層122に含まれるイオンの濃度(イオン濃度)が高くなるのに応じて、コンクリートデバイス1に流れる電流I(および発生する電圧V)も、増加するようになっている。つまり、このようなイオン濃度が相対的に低い場合には、電流Iおよび電圧Vもそれぞれ、相対的に小さくなり、イオン濃度が相対的に高い場合には、電流Iおよび電圧Vもそれぞれ、相対的に大きくなる。これは、上記したように、ジェル層121,122もイオン伝導を担っていることから、これらのジェル層121,122におけるイオン濃度が高いほうが、上記した界面におけるイオン伝導度が更に向上するためである。
【0089】
加えて、これらのジェル層121,122が、コンクリート層10と電極111,112との間(界面)におけるイオン伝導効率を向上させる機能を有するようにしたので、上記したように、電流Iの経時的な低下を抑えることが可能となる。
【0090】
また、これらのジェル層121,122が、コンクリート層10における一対の端面上にそれぞれ貼付されたものであると共に、電極111,112がそれぞれ、これらのジェル層121,122上に貼付されたものとなっているので、以下のようになる。すなわち、ジェル層121,122と電極111,112とがそれぞれ、簡単に取り付けられるため、コンクリートデバイス1を容易(安価)に製造することが可能となる。
【0091】
更に、コンクリート層10におけるコンクリートとして、例えば生コンクリートを用いた場合には、電流Iの電流量を増加させることができ、コンクリートデバイス1の特性を更に向上させることが可能となる。一方、コンクリート層10のコンクリートとして、例えば固化したコンクリートを用いた場合には、コンクリート層10の形状が固まっていることから、コンクリートデバイス1の製造を容易とすることが可能となる。
【0092】
<2.変形例>
続いて、上記実施の形態の変形例(変形例1,2)について説明する。なお、上記実施の形態における構成要素と同一のものには同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0093】
[変形例1]
図4は、変形例1に係るコンクリートデバイス(コンクリートデバイス1A)の断面構成例(Z-X断面構成例)を、模式的に表したものである。
【0094】
この変形例1に係るコンクリートデバイス1Aは、実施の形態のコンクリートデバイス1(
図1参照)において、以下のように変更したものに対応しており、他の構成は同様となっている。すなわち、このコンクリートデバイス1Aは、
図4に示したように、前述したコンクリート層10と電極111,112とを備えており、実施の形態のコンクリートデバイス1において、前述した一対のジェル層121,122をそれぞれ、設けない(省いた)ようにしたものとなっている。
【0095】
このような構成の変形例1においても、基本的には、上記実施の形態と同様の効果を得ることが可能である。
【0096】
[変形例2]
図5は、変形例2に係るコンクリートデバイス(コンクリートデバイス1B)の断面構成例(Z-X断面構成例)を、模式的に表したものである。
【0097】
この変形例2に係るコンクリートデバイス1Bは、実施の形態のコンクリートデバイス1(
図1参照)において、以下のように変更したものに対応しており、他の構成は同様となっている。すなわち、このコンクリートデバイス1Bでは、
図5に示したように、コンクリート層10における一方の端面(表面)側に、一対の電極121,122の双方が配置されている。具体的には、コンクリート層10における一方の端面上に、一対のジェル層121,122がそれぞれ配置(貼付)されていると共に、これらのジェル層121,122上にそれぞれ、電極111,112が互いに離隔した状態で配置(貼付)されている。
【0098】
このような構成の変形例2においても、基本的には、実施の形態と同様の効果を得ることが可能である。
【0099】
なお、上記した変形例1の場合と同様に、この変形例2においても、例えば、一対のジェル層121,122をそれぞれ、設けないようにしてもよい。
【0100】
<3.適用例>
続いて、これまでに説明した実施の形態および変形例(変形例1,2)に係るコンクリートデバイス(コンクリートデバイス1,1A,1B)の、電子機器への適用例について説明する。
【0101】
図6(A),
図6(B)はそれぞれ、適用例に係る電子機器(電子機器2A,2B)の構成例を、ブロック図で表したものである。
【0102】
まず、
図6(A)に示した電子機器2A内には、コンクリートデバイス1(またはコンクリートデバイス1A,1Bのいずれか)が、1つ設けられている。一方、
図6(B)に示した電子機器2B内には、コンクリートデバイス1(またはコンクリートデバイス1A,1Bのいずれか)が、複数(この例では2つ)設けられている。
【0103】
このような電子機器2A,2Bの具体例としては、例えば、各種のセンサ機器や通信機器、照明装置、警告灯等が挙げられる。
【0104】
<4.その他の変形例>
以上、実施の形態、変形例および適用例を挙げて本開示の技術を説明したが、本技術はこれらの実施の形態等に限定されず、種々の変形が可能である。
【0105】
例えば、上記実施の形態等において説明した各部材の構成(形状や配置位置、個数、材料等)は限定されるものではなく、他の形状や配置位置、個数、材料等としてもよい。具体的には、上記実施の形態等では、基本的には、一対のジェル層121,122のうちの少なくとも一方が、1または複数種類のイオンを含んでいる場合を例に挙げて説明したが、この例には限られない。すなわち、例えば、一対のジェル層121,122の双方が、1または複数種類のイオンを含んでいないようにしてもよい。また、上記実施の形態等では、コンクリートデバイスが、コンクリート電池、塩濃度センサまたは水分濃度センサとして構成されている場合を例に挙げて説明したが、これらの例には限られず、コンクリートデバイスが他のデバイスとして構成されているようにしてもよい。
【0106】
また、上記実施の形態等では、空気極としての電極112に含まれる酸素還元触媒の材料例について、具体的に挙げて説明したが、上記実施の形態等で説明した材料例には限られず、他の酸素還元触媒を用いるようにしてもよい。更に、上記実施の形態等では、コンクリートデバイスの製造方法について具体的に挙げて説明したが、上記実施の形態等で説明した製造方法には限られず、他の手法を用いるようにしてもよい。
【0107】
また、本技術では、これまでに説明した内容を、任意の組み合わせで適用することも可能である。
【0108】
なお、本明細書中に記載された効果はあくまで例示であって限定されるものではなく、また、他の効果があってもよい。
【符号の説明】
【0109】
1,1A,1B…コンクリートデバイス、10…コンクリート層(電解質)、111,112…電極、112a…触媒層、112b…集電体層、112c…撥水層、121,122…ジェル層(ハイドロジェル層またはイオンジェル層)、2A,2B…電子機器、9…配線、I…電流、V…電圧、e-…電子、Sa,Sb…界面。