(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023129332
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】柑橘類果皮含有液状組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 27/00 20160101AFI20230907BHJP
A23L 2/00 20060101ALI20230907BHJP
A23L 2/02 20060101ALI20230907BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20230907BHJP
A23L 19/00 20160101ALN20230907BHJP
【FI】
A23L27/00 D
A23L2/00 B
A23L2/02 Z
A23L2/52 101
A23L19/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030634
(22)【出願日】2023-03-01
(31)【優先権主張番号】P 2022031929
(32)【優先日】2022-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】514057743
【氏名又は名称】株式会社Mizkan Holdings
(71)【出願人】
【識別番号】317006214
【氏名又は名称】株式会社Mizkan
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】頼経 健一
【テーマコード(参考)】
4B016
4B047
4B117
【Fターム(参考)】
4B016LC02
4B016LE05
4B016LG02
4B016LP01
4B016LP02
4B047LB03
4B047LB09
4B047LE03
4B047LG03
4B047LG09
4B047LG12
4B047LG15
4B047LG23
4B047LG38
4B047LG62
4B047LP03
4B047LP05
4B047LP20
4B117LC02
4B117LE03
4B117LG02
4B117LL01
(57)【要約】
【課題】水系食品に配合しても浮遊物及び沈殿物が発生せず、柑橘果実のみを用いて柑橘果実本来の柑橘香の付与が可能である液状組成物を提供すること。
【解決手段】柑橘類果皮の微粒子と、柑橘類果皮のオイルと、水を含有する柑橘類果皮含有液状組成物であって、下記の(a)及び(b)を満たす液状組成物。
(a)前記組成物中の不溶性固形分の含有量(g/kg)に対する柑橘類果皮のオイル含有量(ml/kg)の割合が、0.10~1.30ml/gであること
(b)前記組成物中の柑橘類果皮のオイルを含む微粒子の粒度分布(体積基準)において、累積10%径(D10)が0.01~20.0μm、累積50%径(D50)が0.1~50.0μm、累積90%径(D90)が1.0~100.0μmであること
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
柑橘類果皮の微粒子と、柑橘類果皮のオイルと、水を含有する柑橘類果皮含有液状組成物であって、下記の(a)及び(b)を満たす液状組成物。
(a)前記組成物中の不溶性固形分の含有量(g/kg)に対する柑橘類果皮のオイル含有量(ml/kg)の割合が、0.10~1.30ml/gであること
(b)超音波処理後の前記組成物中の柑橘類果皮のオイルを含む微粒子の粒度分布(体積基準)において、累積10%径(D10)が0.01~20.0μm、累積50%径(D50)が0.1~50.0μm、累積90%径(D90)が1.0~100.0μmであること
【請求項2】
水中油型乳化物である、請求項1に記載の液状組成物。
【請求項3】
前記柑橘類が、オレンジ、レモン、ユズ、清見、すだち、かぼす、ライム、温州みかん、夏みかん、グレープフルーツ、伊予柑、八朔、ポンカン、ダイダイ、文旦、日向夏、デコポン、及びシークワーサーから選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の液状組成物。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の液状組成物を含む、液体調味料。
【請求項5】
液状組成物中の柑橘類果皮のオイル含有量(ml/kg)が、0.1ml/kg以上、100ml/kg以下である、請求項1又は2に記載の液状組成物。
【請求項6】
液状組成物中の不溶性固形分の含有量(g/kg)が、0.01g/kg以上、100g/kg以下である、請求項1又は2に記載の液状組成物。
【請求項7】
超音波処理前後における前記組成物の最大粒子径増大率が、10%以上である、請求項1又は2に記載の液状組成物。
【請求項8】
柑橘類果皮含有液状組成物の製造方法であって、柑橘類果皮に水を混合した後、粉砕化処理及び均質化処理をする工程と、下記の(a)及び(b)を満たすよう遠心分離する工程を含む、上記製造方法。
(a)前記組成物中の不溶性固形分の含有量(g/kg)に対する柑橘類果皮のオイル含有量(ml/kg)の割合が、0.10~1.30ml/gであること
(b)前記組成物中の柑橘類果皮のオイルを含む微粒子の粒度分布(体積基準)において、累積10%径(D10)が0.01~20.0μm、累積50%径(D50)が0.1~50.0μm、累積90%径(D90)が1.0~100.0μmであること
【請求項9】
請求項1又は2に記載の液状組成物を、液体調味料に配合する工程を含む、液体調味料における柑橘類果皮由来の浮遊物及び沈殿物の発生抑制方法。
【請求項10】
請求項1又は2に記載の液状組成物を、液体調味料に配合する工程を含む、液体調味料の保存中の柑橘香の劣化抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柑橘類果皮含有液状組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
柑橘果汁を用いたぽん酢やつゆなどの液体調味料、及び清涼飲料などは、天然の柑橘類特有の爽やかですっきりした風味(柑橘香)が十分に付与されていることが製品にとって重要である。柑橘果実の柑橘香成分は主に外果皮(フラベド)の油胞に含まれており、テルペン類を主成分とした水に溶解しにくいオイル分として存在する。
【0003】
柑橘香を飲食品に付与させる場合、搾った果汁そのもの(ストレート果汁)を添加する方法、柑橘果皮又は柑橘果皮加工品(例えば、コミュニテッド果汁、ピールペースト、ピールエキス等)を添加する方法、柑橘果実から分離精製した柑橘香成分(天然香料)を添加する方法、及び化学合成した柑橘香成分(合成香料)を添加する方法が一般的である。例えば、特許文献1には、柑橘果実の果皮精油と、特定量のシトロプテン及びヘスペリジンを含有し、飲料に配合可能な液状組成物が開示されており、当該液状組成物は、天然の果実を想起させる香気を増強し、長期間安定に保持できることが報告されている。特許文献2には、柑橘果実のパルプセルと、柑橘果実果皮より得られるピールオイルとを混合してなる組成物に、アルコールを添加して混合後、不溶性成分を除去して得られるアルコール抽出液によって、アルコール飲料の柑橘果実由来の香味を向上させる方法が記載されている。特許文献3には、ミント抽出物及びルイボス抽出物の少なくとも一方から選択されるハーブ抽出物を含む、柑橘果実本来の果汁感が向上した果汁飲料が開示されている。特許文献4には、ラカンカの抽出物を炭酸アルコール飲料に添加することによって柑橘香味を増強する方法が記載されている。特許文献5には、4,5-エポキシ-E-デセナールを有効成分とする柑橘系香料組成物が記載されている。
【0004】
しかしながら、このような柑橘類の果汁、果皮若しくは果皮加工物を水系食品、特にぽん酢醤油などの塩分や呈味成分を多く含む液体調味料に配合した場合、保存中に柑橘果実のオイル分やパルプ分に起因する浮遊物や沈殿物が経時的に発生することがある。これらの浮遊物や沈殿物は、外観を損ねるほか、異物と認識されるため、消費者から敬遠され、製品の価値が下がる。
【0005】
一方、香料の製剤形態のうち、水溶性香料と乳化香料は、香気成分を水系食品に添加し、安定に分散させることが可能である。しかしながら、香気成分を水溶性香料に製剤化する場合、抽出の過程で香気成分の一部が除去されるため、柑橘類本来の香気バランスが失われてしまう。また、香気成分を乳化香料に製剤化する場合、油溶性成分と同量以上の界面活性剤を使用する必要があり、界面活性剤の異味が気になったり、界面活性効果により柑橘類本来の香りが損なわれる場合がある。また、香料製剤は、香気成分が含まれる香料ベースのほか、香料ベースを溶解させる基材や補助剤として、アルコール類などの水溶性溶媒や、脂肪酸エステル類などの界面活性剤など、柑橘果実以外の成分を使用するため、天然の柑橘果実のみを用いた柑橘風味を有する食品を摂りたいという消費者要求を満たすことはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2016/148149
【特許文献2】特開2010-252640号公報
【特許文献3】特開2019-115303号公報
【特許文献4】特開2021-83412号公報
【特許文献5】特開2009-82048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述した実情に鑑み、水系食品に配合しても浮遊物及び沈殿物が発生せず、柑橘果実本来の柑橘香の付与が可能である液状組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を進めた結果、柑橘類果皮と水のみからなる混合物を所定の条件で粉砕化処理及び均質化処理し、固液分離して得られる液状組成物によれば、水系食品に柑橘果実本来の柑橘香を付与でき、保存中の浮遊物及び沈殿物の発生ならびに柑橘香の変化がなく、保存安定性に優れた食品の提供が可能となることを見出し、本発明に至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の発明を包含する。
[1] 柑橘類果皮の微粒子と、柑橘類果皮のオイルと、水を含有する柑橘類果皮含有液状組成物であって、下記の(a)及び(b)を満たす液状組成物。
(a)前記組成物中の不溶性固形分の含有量(g/kg)に対する柑橘類果皮のオイル含有量(ml/kg)の割合が、0.10~1.30ml/gであること
(b)前記組成物中の柑橘類果皮のオイルを含む微粒子の粒度分布(体積基準)において、累積10%径(D10)が0.01~20.0μm、累積50%径(D50)が0.1~50.0μm、累積90%径(D90)が1.0~100.0μmであること
[2] 水中油型乳化物である、[1]に記載の液状組成物。
[3] 前記柑橘類が、オレンジ、レモン、ユズ、清見、すだち、かぼす、ライム、温州みかん、夏みかん、グレープフルーツ、伊予柑、八朔、ポンカン、ダイダイ、文旦、日向夏、デコポン、及びシークワーサーから選ばれる少なくとも1種である、[1]又は[2]に記載の液状組成物 。
[4] [1]~[3]のいずれかに記載の液状組成物を含む、液体調味料。
[5] 柑橘類果皮含有液状組成物の製造方法であって、柑橘類果皮に水を混合した後、粉砕化処理及び均質化処理をする工程と、下記の(a)及び(b)を満たすよう遠心分離する工程を含む、上記製造方法。
(a)前記組成物中の不溶性固形分の含有量(g/kg)に対する柑橘類果皮のオイル含有量(ml/kg)の割合が、0.10~1.30ml/gであること
(b)前記組成物中の柑橘類果皮のオイルを含む微粒子の粒度分布(体積基準)において、累積10%径(D10)が0.01~20.0μm、累積50%径(D50)が0.1~50.0μm、累積90%径(D90)が1.0~100.0μmであること
[6] 前記均質化処理が、1.0~50Mpaの圧力下で行われる、[5]に記載の製造方法。
[7] 前記遠心分離が、1000~3000G、1~10分の条件下で行われる、[5]又は[6]に記載の製造方法。
[8] [1]~[3]のいずれかに記載の液状組成物を、液体調味料に配合する工程を含む、液体調味料における柑橘類果皮由来の浮遊物及び沈殿物の発生抑制方法。
[9] [1]~[3]のいずれかに記載の液状組成物を、液体調味料に配合する工程を含む、液体調味料の保存中の柑橘香の劣化抑制方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の柑橘類果皮含有液状組成物を配合した液体調味料は、保存中に浮遊物及び沈殿物が発生せず、柑橘香の変化がなく、保存安定性に優れる。また、本発明の柑橘類果皮含有液状組成物を配合した液体調味料は、浮遊物及び沈殿物の発生がないため外観が良好であり、また、浮遊物及び沈殿物が一因とされる喫食時における口当たりの悪さや風味のばらつきもない。さらに、本発明の柑橘類果皮含有液状組成物は天然の柑橘素材と水のみから成るので、これを配合した液体調味料は消費者の天然志向や添加物フリーの食品に対するニーズを満足させるものである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において、数値範囲の規定について複数の上限値及び/又は複数の下限値を示す場合、特に明示されない場合であっても少なくとも上限規定の最大値と下限規定の最小値とを組み合わせた数値範囲の規定が直接的に記載されているものとし、さらに当該上限値のうち任意の上限値と当該下限値のうち任意の下限値とを組み合わせて得られる全ての数値範囲が本発明の一実施形態に含まれるものとする。また、本明細書において、「~」で結ばれた数値範囲は、「~」の前後の数値を下限値及び上限値として含む数値範囲を意味する。複数の下限値と複数の上限値が別個に示されている場合、任意の下限値と上限値を選択し、「~」で結ぶことができるものとする。
【0012】
1.柑橘類果皮含有液状組成物
本発明の柑橘類果皮含有液状組成物(以下、「本発明の液状組成物」という)は、柑橘類果皮の微粒子と、柑橘類果皮のオイルと、水を乳化状態で含有し、不溶性固形分に対するオイル量の割合と、柑橘類果皮のオイルを含む微粒子の粒子径が所定の範囲であることを特徴とする。
【0013】
柑橘類としては、限定はされないが、オレンジ、レモン、ユズ、清見、すだち、かぼす、ライム、温州みかん、夏みかん、グレープフルーツ、伊予柑、八朔、ポンカン、ダイダイ、文旦、日向夏、デコポン、シークワーサー等が挙げられ、このうち、オレンジ、レモン、ユズ、清見、すだち、かぼす、ライム、温州みかん、グレープフルーツ、ダイダイ、日向夏、シークワーサーが好ましく、オレンジ、レモン、ユズがさらに好ましい。これらの柑橘類は、1種を用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0014】
柑橘類果皮は、一般に色の濃い外果皮(フラベド)と、その内側にある白い繊維質の内果皮(アルベド)より成るが、本発明においては外果皮(フラベド)を主体とする果皮全体を用いることが好ましい。外果皮(フラベド)には多数の油胞が存在し、強い香気を有する果皮オイル(以下、本明細書において「柑橘類果皮のオイル」又は単に「オイル」と称する場合がある)が含まれる。
【0015】
本発明の液状組成物における柑橘類果皮のオイルの含有量は、柑橘香を付与できる観点から所定範囲であることが好ましい。具体的には、0.1ml/kg以上、100ml/kg以下であってもよい。より具体的にはその下限は、0.11ml/kg以上であることが好ましく、より好ましくは0.13ml/kg以上、0.15ml/kg以上、0.17ml/kg以上、0.2ml/kg以上、0.25ml/kg以上、0.3ml/kg以上、0.4ml/kg以上、0.5ml/kg以上、0.6ml/kg以上であってもよい。なお、上限は特に制限されないが、通常100ml/kg以下、80ml/kg以下、60ml/kg以下、40ml/kg以下、20ml/kg以下、10ml/kg以下、5ml/kg以下、3ml/kg以下、2ml/kg以下、1.5ml/kg以下であってもよい。
【0016】
本発明の液状組成物中の不溶性固形分の含有量は所定範囲であることが好ましい。具体的には、0.01g/kg以上、100g/kg以下であってもよい。より具体的にはその上限は、90g/kg以下であってもよく、好ましくは80g/kg以下、より好ましくは60g/kg以下、40g/kg以下、20g/kg以下、10g/kg以下、6.5g/kg以下、3.5g/kg以下であってもよい。なお、下限は特に制限されないが、通常0.01g/kg以上、0.05g/kg以上、0.07g/kg以上、0.10g/kg以上、0.20g/kg以上、0.30g/kg以上、0.40g/kg以上、0.50g/kg以上、0.60g/kg以上、0.70g/kg以上であってもよい。
【0017】
本発明の液状組成物中の不溶性固形分の含有量(g/kg)に対する柑橘類果皮のオイルの含有量(ml/kg)(オイルの含有量/不溶性固形分の含有量)の割合は所定範囲であることを特徴の一つとする。具体的には、その範囲は、0.10~1.30ml/gであり、好ましくは0.30~1.20ml/gであってもよく、より好ましくは0.60~1.10ml/gであってもよい。より具体的にはその下限値は、0.10ml/g以上、好ましくは0.20ml/g以上、より好ましくは0.25ml/g以上、0.30ml/g以上、0.40ml/g以上、0.45ml/g以上であってもよい。また、その上限値は、1.30ml/g以下、好ましくは1.25ml/g以下、より好ましくは1.15ml/g以下、1.10ml/g以下、1.05ml/g以下、1.00ml/g以下であってもよい。ここで、「不溶性固形分」とは、果皮に含まれる水不溶性の固形成分をいい、主として繊維(パルプ)からなる。また、オイルは、油胞から搾り出され、果皮粒子表面に付着しているオイル及び液中に分散しているオイルの両方を含む。不溶性固形分の含有量(g/kg)に対する柑橘類果皮のオイルの含有量(ml/kg)の割合が上記範囲であると、オイルが付着した柑橘類果皮の微粒子が液中に均一に分散しているため、果皮成分に由来する浮遊物や沈殿物の発生が抑制される。ここで、「浮遊物」とは、オイルやパルプの液面の浮きのほか、容器内側の液面付近に形成されるリング状の付着物(オイルリング、パルプリング)を意味する。
【0018】
本発明の液状組成物はまた、上記の浮遊物や沈殿物の発生の抑制の観点から、組成物中の柑橘類果皮のオイルを含む微粒子は、その粒度分布(体積基準)において、累積10%径(D10)は所定範囲であることを特徴の一つとする。具体的には、その範囲は、0.01~20.0μmであり、好ましくは0.01~10.0μmであってもよく、より好ましくは0.01~1.0μmであってもよい。より具体的にはその下限値が0.01μm以上、好ましくは0.06μm以上、より好ましくは0.10μm以上、0.15μm以上であり、その上限値が20.0μm以下、好ましくは19.5μm以下、より好ましくは19.0μm以下であってもよい。また、累積50%径(D50)は所定範囲であることを特徴の一つとする。具体的には、その範囲は、0.1~50.0μmであり、好ましくは0.1~10.0μmであってもよく、より好ましくは0.1~5.0μmであってもよい。より具体的にはその下限値が0.1μm以上、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1.0μm以上、1.5μm以上であり、その上限値が50.0μm以下、好ましくは48.0μm以下、より好ましくは45.0μm以下であってもよい。また、累積90%径(D90)は所定範囲であることを特徴の一つとする。具体的には、その範囲は、1.0~100.0μmであり、好ましくは1.0~20.0μmであってもよく、より好ましくは3.0~15.0μmであってもよい。より具体的にはその下限値が1.0μm以上、好ましくは5.0μm以上、より好ましくは7.5μm以上であり、その上限値が100.0μm以下、好ましくは95.0μm以下、より好ましくは90.0μm以下であってもよい。
【0019】
本発明の液状組成物におけるD10、D50、D90は、柑橘類果皮のオイルを含む微粒子の粒度分布をある粒子径から2つに分けたとき、大きい側の粒子頻度%の累積値の割合と、小さい側の粒子頻度%の累積値の割合との比が、それぞれ9:1、5:5、1:9となる粒子径として定義される。
【0020】
本発明において粒度分布の測定は、レーザー回折式粒度分布測定装置、例えばマイクロトラック・ベル株式会社のMicrotrac MT3300 EX2システムを使用することができる。測定時の溶媒は、液状組成物の固形分の構造に影響を与えにくい溶媒を用いることが好ましく、具体的には、イオン交換水のような水系溶媒を用いることが好ましい。また、測定アプリケーションソフトウェアとして、DMS2(Data Management System version2、マイクロトラック・ベル株式会社)を使用することができる。測定に際しては、測定アプリケーションソフトウェアの洗浄ボタンを押下して洗浄を実施したのち、同ソフトのSetzeroボタンを押下してゼロ合わせを実施し、サンプルローディングで適正濃度範囲に入るまでサンプルを直接投入できる。同ソフトの超音波処理ボタンを押下して周波数40kHz、出力30W、3分間の超音波処理を1回行い、3回の脱泡処理を行ったうえで、流速50%で10秒の測定時間でレーザー回折した結果を測定値とすることができる。
【0021】
測定は、分布表示:体積、粒子屈折率:1.60、溶媒屈折率:1.333、測定上限(μm)=2000.00μm、測定下限(μm)=0.021μmの条件で行うことができる。
【0022】
本発明の液状組成物は、超音波処理前後における最大粒子径が増大した割合(最大粒子径増大率)が所定範囲であることを好ましい特徴の一つとする。その原理は不明であるが、本発明の液状組成物の粒子は超音波処理によってその構造が崩壊し、形状が変わることで最大粒子径が大きく算出されるような特徴を有することが好ましいと考えられる。
【0023】
本発明における最大粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて、後記参考例の表1に示す132の測定チャンネルごとの粒子径を規格として用いて測定することができる。すなわち、各チャンネルに規定された粒子径以下で、かつ数字が一つ大きいチャンネルに規定された粒子径(測定範囲の最大チャンネルにおいては、測定下限粒子径)よりも大きい粒子の頻度を各チャンネルごとに測定し、測定範囲内の全チャンネルの合計頻度を分母として、各チャンネルの粒子頻度%を求めることができる。具体的には132チャンネルのそれぞれにおける粒子頻度%を測定して得られた結果について、粒子頻度%が認められたチャンネルのうち、最も粒子径が大きいチャンネルの粒子径を最大粒子径として採用できる。
【0024】
また、「最大粒子径が、超音波処理前後で増大した割合(最大粒子径増大率)」とは、「周波数40kHz、出力40W、3分間の超音波処理による超音波処理後最大粒子径/超音波処理前最大粒子径」を%表示した割合から100%を差し引いた値を表す。例えば、ある組成物における超音波処理前最大粒子径が30μmであり、超音波処理後最大粒子径が45μmの場合、その組成物の最大粒子径が、超音波処理前後で増大した割合(最大粒子径増大率)は50%となる。
【0025】
本発明の液状組成物における超音波処理前後での最大粒子径増大率は、10%以上であることが好ましく、20%以上、40%以上、50%以上、70%以上、100%以上、120%以上、150%以上、180%以上、200%以上であってもよい。また、その上限は、400%以下であることが好ましく、350%以下、300%以下、250%以下であってもよい。
【0026】
2.柑橘類果皮含有液状組成物の製造方法
本発明の柑橘類果皮含有液状組成物の製造方法は、柑橘類果皮に水を混合した後、粉砕化処理及び均質化処理する工程と、下記の(a)及び(b)を満たすよう遠心分離する工程を含む。
(a)前記組成物中の不溶性固形分の含有量(g/kg)に対する柑橘類果皮のオイル含有量(ml/kg)の割合が、0.10~1.30ml/gであること
(b)前記組成物中の柑橘類果皮のオイルを含む微粒子の粒度分布(体積基準)において、累積10%径(D10)が0.01~20.0μm、累積50%径(D50)が0.1~50.0μm、累積90%径(D90)が1.0~100.0μmであること
【0027】
上記の製造方法で得られる本発明の液状組成物は、オイルが付着した柑橘類果皮の微粒子が液中に均一に分散された水中油型(O/W)乳化液となる。
【0028】
柑橘類果皮の粉砕化処理は、果皮を水と混合し、液中で粉砕する湿式粉砕で行う。果皮と水との混合割合は、果皮20~50質量%に対して、水80~50質量%が好ましい。このように水と混合した柑橘類果皮を使用することで、柑橘香の飛散が抑制され、微細化された柑橘類果皮粒子を含むペースト状物を得ることができる。
【0029】
原料となる柑橘類果皮は、例えば、前述の柑橘類の搾汁後の残さを使用することができる。搾汁は、例えば、インライン搾汁、ベルト搾汁、チョッパーパルパー搾汁などのいずれの方法であってもよい。
【0030】
柑橘類果皮は、粉砕化処理の前に、水洗、切断、ブランチング、粗砕等の前処理を行ってもよい。粗砕は、柑橘香成分が溶出しやすい大きさまで果皮を摩擦又は剪断応力により破壊すればよい。粗砕は、例えば、マスコロイダー(登録商標)、ハンドミキサー等を適宜組み合わせて行うことができる。
【0031】
粉砕化処理は、湿式条件で、上記の粗砕後の柑橘類果皮を粉砕してさらに微細化できる方法であれば、特に限定はされない。例えば、高速回転ホモジナイザー、コミトロール(登録商標、アーシェル株式会社製)、ビーズミル、ボールミル(回転式、振動式、遊星式)、ロールミル、コロイドミル、高速回転衝撃式粉砕機(ハンマーミル)、パルパーフィニッシャーなどを用いて行うことができるが、コミトロール又は高速回転ホモジナイザーを用いることが好ましい。粉砕化処理は、上記方法の1種単独で又は2種以上を組み合わせて行ってもよい。
【0032】
粉砕化処理物中の柑橘類果皮の平均粉砕粒度は、0.6mm以下が好ましく、0.3mm以下がより好ましい。なお、柑橘類果皮の平均粉砕粒度は、例えばレーザー回折式粒度分布測定装置、Microtrac MT3300 EX2システム(マイクロトラック・ベル社製)を用いて測定することができる。
【0033】
粉砕化処理の条件は、上記の平均粉砕粒度になるように、用いる方法及び機器によって、適宜設定すればよい。例えば、コミトロールを使用する場合は、目開きを0.02~0.3mm程度にすればよい。また、高速回転ホモジナイザーを使用する場合は、回転数を10000rpm以上20000rpm以下にすることが好ましい。
【0034】
次に、上記粉砕化処理物に対して均質化(ホモジナイズ)処理を行う。この均質化処理により、果皮粒子がさらに微細化されると同時に、油胞や油胞周辺のオイルを含有する細胞の粉砕とオイルの絞り出しが行われる。その結果、オイルが付着し、所定の粒度分布を有する柑橘類果皮の微粒子が液中に分散され、均質な懸濁物とすることができる。均質化処理は、例えば、処理液を高圧で処理する高圧ホモジナイザーを用いて行うことが好ましい。高圧ホモジナイザーは、繊細な隙間から液を高圧下に高速で噴出させて混合する装置であり、粒子間の衝突、圧力差による剪断力、インパクトリングへの衝突の破壊力等の総合エネルギーによって、液中に含まれる粒子の微細化、均質化、分散、乳化が可能となる。
【0035】
均質化処理物中の柑橘類果皮の微粒子は、その粒度分布(体積基準)において、累積10%径(D10)が34~65μmであり、好ましくは44~55μmであり、累積50%径(D50)が80~180μmであり、好ましくは100~135μmであり、より好ましくは100~130μmであり、累積90%径(D90)が166~350μmであり、好ましくは200~270μmであり、より好ましくは200~260μmである。
【0036】
上記の均質化処理を高圧ホモジナイザーにて行う場合、使用する装置としては、上記の粒度分布になるように、溶液に対して強力な剪断力を作用し得る機構のものであれば特に限定されない。高圧ホモジナイザーには、固定した絞り部を有するチャンバー型高圧ホモジナイザーと、絞りの開度を制御するタイプの均質バルブ型高圧ホモジナイザーがあるが、本発明では、いずれの方式の装置も利用できる。チャンバー型高圧ホモジナイザーの例としては、マイクロフルイダイザー(Microfluidics社製)、ナノマイザー(吉田機械興業社製)、アルティマイザー(タウテクノロジー社製)等が挙げられる。均質バルブ型高圧ホモジナイザーとしては、例えば、マントン-ガウリン型の高圧ホモジナイザー等が挙げられる。高圧ホモジナイザーのホモバルブの形状は、特に限定されず、例えば山型、平型、テーパー型、網キャップ式等の形状のものを用いることができる。
【0037】
高圧ホモジナイザーによる均質化処理の圧力は、1.0~50MPaが好ましく、5.0~30MPaがより好ましく、5.0~20MPaがさらに好ましい。処理回数は、1回でも、複数回以上でもよく、好ましくは複数回以上であり、更に好ましくは2~5回である。
【0038】
次に、上記で得られた均質化処理物を遠心分離して不溶性固形分を除去し、この上清(液体部)を本発明の液状組成物として回収する。
【0039】
遠心分離機としては、分離板型、円筒型、デカンター型等の一般的な機器を使用することができる。遠心分離の条件は、固形分除去の観点から、重力加速度は、1000~3000Gが好ましく、1000~2000Gがより好ましい。遠心分離機の回転数と回転半径は、重力加速度が上記範囲内となるように適宜選択することができる。遠心分離の処理時間は1~10分が好ましく、1~5分がより好ましい。遠心分離する際の温度は、10~40℃好ましく、10~30℃がより好ましい。
【0040】
3.柑橘類果皮含有液状組成物を含む水系食品
本発明の液状組成物は、そのまま製品として使用できるが、当該液状組成物を配合した水系食品として提供することができる。よって、本発明の液状組成物の水系食品における態様には、当該組成物が水系食品そのものである場合と、水系食品を製造する際の原料あるいは中間製品である場合とが含まれる。
【0041】
本発明の液状組成物を配合する水系食品の種類は、液状部を有し、かつ、柑橘香が求められる食品であれば、特に限定されないが、液体調味料が好ましい。液体調味料は、糖類、醤油、塩類、旨味成分などの配合によって比重が高く、浮遊物や沈殿物が発生しやすいこと、また、浮遊物や沈殿物が喫食時において口当たりの悪さや風味のばらつきの一因となることから、本発明の液状組成物を配合すると、外観及び品質の改善においてより高い効果が得られるので好ましい。液体調味料としては、調味酢(ポン酢、ポン酢醤油、甘酢、酢の物用調味酢、すし飯用調味酢、酢漬け(例えばピクルス等)用調味液、飲用調味酢等)、食酢類、ドレッシング類、たれ類(ゴマだれ等のゴマ含有調味料、焼肉だれ等)、調理用ソース類(ウスターソース、ケチャップ、オイスターソース、サルサソース、サンバルソース、チリソース等)、つゆ類(めんつゆ、鍋つゆ等)、各種メニュー用調味料(米飯用調味料、中華用調味料、エスニック料理用調味料、煮物用調味料、スープ用調味料、納豆用調味料等)等が挙げられる。
【0042】
本発明の液体調味料は、本発明の液状組成物を所定量含有する。本発明の液体調味料における、本発明の液状組成物の含有量の割合は、例えば2質量%以上であってもよいが、3質量%以上、4質量%以上、6質量%以上、8質量%以上、10質量%以上、15質量%以上、17質量%以上、18質量%以上、20質量%以上、50質量%以上であってもよい。また、その上限値は、例えば80質量%以下であってもよい。
【0043】
また、本発明の液体調味料における柑橘類果皮のオイルの含有量は、上述した本発明の液状組成物における柑橘類果皮のオイルの含有量の値を充足してもよい。本発明の液体調味料における液状組成物中の不溶性固形分の含有量は、上述した本発明の液状組成物における不溶性固形分の値を充足してもよい。さらに、本発明の液体調味料における不溶性固形分の含有量(g/kg)に対する柑橘類果皮のオイルの含有量(ml/kg)(オイルの含有量/不溶性固形分の含有量)の割合は、上述した本発明の液状組成物における不溶性固形分の含有量(g/kg)に対する柑橘類果皮のオイルの含有量(ml/kg)(オイルの含有量/不溶性固形分の含有量)の割合の値を充足してもよい。
【0044】
本発明の液体調味料における柑橘類果皮のオイルを含む微粒子は、その粒度分布(体積基準)において、累積10%径(D10)が上述した本発明の液状組成物における柑橘類果皮のオイルを含む微粒子の粒度分布(体積基準)の累積10%径(D10)の値を充足してもよい。また、本発明の液体調味料における柑橘類果皮のオイルを含む微粒子は、その粒度分布(体積基準)において、累積50%径(D50)が上述した本発明の液状組成物における柑橘類果皮のオイルを含む微粒子の粒度分布(体積基準)の累積50%径(D50)の値を充足してもよい。さらに、本発明の液体調味料における柑橘類果皮のオイルを含む微粒子は、その粒度分布(体積基準)において、累積90%径(D90)が上述した本発明の液状組成物における柑橘類果皮のオイルを含む微粒子の粒度分布(体積基準)の累積90%径(D90)の値を充足してもよい。
【0045】
本発明の水系食品(以下、単に食品と記載する)は、食品の種類に応じて、他の原料や添加物を含有することができる。他の原料としては、糖類(ショ糖、麦芽糖、果糖、ブドウ糖、転化糖、粉末水飴類、デキストリン、オリゴ糖等)、高甘味度甘味料(アスパルテーム、ステビア、スクラロース、アセスルファムカリウム等)、フレーバー(エステル類、アルコール類、アルデヒド類、ケトン類、アセタール類、フェノール類、エーテル類、ラクトン類、フラン類、炭化水素類、含窒素化合物類、含硫化合物類等)、食塩、アミノ酸系調味料、核酸系調味料、有機酸系調味料、酸味料(クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、酢酸等の有機酸等)、風味原料、旨味調味料、着色料(ベニバナ色素、クチナシ色素、カロチノイド色素、アントシアニン色素、カラメル色素等)、酸化防止剤(ビタミンC、トコフェロール、クロロゲン酸、塩酸システイン等)等が挙げられる。また、健康機能の増強のために、ビタミン類(ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンE、ビタミンD等)、ミネラル類(カルシウム、カリウム、マグネシウム等)等の各種機能成分を添加してもよい。これら他の原料の組み合わせ及び含有量は、特に限定はされず、食品の種類に応じて適宜設定することができる。
【0046】
本発明において、食品とは、一般的な食品のほか、医薬品以外で健康の維持や増進を目的として摂取できる食品、例えば、健康食品、機能性食品、保健機能食品、又は特別用途食品を含む意味で用いられる。健康食品には、栄養補助食品、健康補助食品、サプリメント等の名称で提供される食品を含む。保健機能食品は食品衛生法又は健康増進法により定義され、特定の保健の効果や栄養成分の機能、疾病リスクの低減などを表示できる、特定保健用食品及び栄養機能食品、並びに科学的根拠に基づいた機能性について消費者庁長官に届け出た内容を表示できる機能性表示食品が含まれる。また特別用途食品には、特定の対象者や特定の疾患を有する患者に適する旨を表示する病者用食品、高齢者用食品、乳児用食品、妊産婦用食品等が含まれる。
【0047】
本発明の食品における本発明の液状組成物の配合量は、限定はされず、対象食品の一般的な摂取量、食品の形態、効能・効果、呈味性、嗜好性及びコストなどを考慮して適宜設定すればよい。例えば、ぽん酢の場合は、1~30質量%とすればよい。
【0048】
本発明の食品を充填する容器の種類としては、当業界で公知のものを適宜選択して用いることができ、特に限定されない。例えば、ガラス、プラスチック(ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等)、紙、アルミ、スチール製の密封容器が挙げられるが、本発明の液状組成物によれば柑橘類果皮に由来する浮遊物及び沈殿物を抑制できることから、透明容器を好適に用いることができる。また、容器の形状や容量についても限定はされない。
【実施例0049】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0050】
(参考例)
下記の試験例において、試験品中のオイル含有量(ml/kg)、不溶性固形分含有量(g/kg)、及び粒度分布(D10、D50、D90)の測定は、以下の通り行った。
【0051】
(1)オイル含有量の測定
各試験品250gに水250gを混合し(ストレート果汁のみ原液500g)、沸騰石を入れ、精油定量装置(クライミング社製、型番CL1020-10)で2時間(マントルヒーター(アズワン社製、型番HF-1000T)の目盛は4.5)加熱し、オイルを分離した。30分放冷後、オイル量(ml)を測定し、試験品中のオイル含有量(ml/kg)を算出した。
【0052】
(2)不溶性固形分含有量の測定
各試験品7gを採取し、95%アルコール28gを入れて混合した後、遠心分離機(久保田製作所製、高速大容量冷却遠心機7000)にて12000G、15分、4℃で遠心分離し、上清を除去した。この操作をさらに2回繰り返した。
【0053】
残渣に50%アルコールを30g入れて残渣が分散するよう攪拌した後、同上遠心分離機で12000G、15分、4℃で遠心分離し、上清を除去した。この操作をさらに2回繰り返した。
【0054】
50%アルコールで取り残しがないように回収した沈殿物を、乾熱用ガラス皿に入れ、湯煎で水分をほぼ蒸発させた後、乾熱機(105℃)にて3時間乾燥し、デシケーターで30分放冷させた。乾燥後の沈殿物の重量を測定し、空重量を指し引いた値を不溶性固形分の重量とし、試験品中の不溶性固形分含有量を算出した。
【0055】
(3)粒度分布の測定
試験品の粒度分布(累積10%粒子径(D10)、累積50%粒子径(D50)、累積90%粒子径(D90))は、レーザー回折式粒度分布測定装置、Microtrac MT3300 EX2システム(マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて測定した。測定時の溶媒は、蒸留水を用いた。また、測定アプリケーションソフトウェアとして、DMS2(Data Management System version2、マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いた。測定に際しては、測定アプリケーションソフトウェアの洗浄ボタンを押下して洗浄を実施後、同ソフトのSetzeroボタンを押下してゼロ合わせを実施し、サンプルローディングで適正濃度範囲に入るまでサンプルを直接投入した。測定は下記の条件にて行い、流速50%で10秒の測定時間でレーザー回折した結果を測定値とした。なお、粒子径の測定に際しては、下記表1に示す測定チャンネルごとの粒子径を規格として用いた。
【0056】
<測定条件>
分布表示:体積
粒子屈折率:1.60
溶媒屈折率:1.333
測定上限:2000.00μm
測定下限:0.021μm
【0057】
【0058】
(試験例1)柑橘類果皮含有液状組成物における不溶性固形分に対するオイル量の割合及び粒度分布の検討
(1)試験品の調製(実施例1~6、比較例1~5)
オレンジ果皮(フラベドとアルベドを含む。)を市販のジュースミキサーにてミリング処理した。ミリング処理したオレンジ果皮50gを500mlステンレスジョッキに入れ、水100gを混合した。この混合液を高速回転ホモジナイザー(KINEMATICA社製、型番PT-MR3100)、及びシャフトジェネレーター(PT-DA3020/2)により15000rpm、3分間の処理を行い、ペースト状のパルプ原液とした。次にこのパルプ原液を高圧ホモジナイザー(GEA社製 PandaPLUS2000)により圧力20MPa(1段側圧力18~19MPa、2段側圧力1~2MPa)にてホモジナイズし、得られた懸濁物を遠心分離機(久保田製作所製、型番KUBOTA5200)にて3000G、5分間遠心分離し、上清部を回収し、試験品の液状組成物(実施例1)を調製した。
【0059】
上記のホモジナイズの圧力を5MPa(実施例2)、10MPa(実施例3)、15MPa(実施例4)に変更する以外は、実施例1と同様にして液状組成物を調製した。
【0060】
上記の遠心分離の遠心加速度及び時間を、1000G、1分間(実施例5)、2000G、1分間(実施例6)に変更する以外は、実施例1と同様にして液状組成物を調製した。
【0061】
また、比較試験品として、オレンジの果汁と果皮を含むコミュニテッド果汁(比較例1)、オレンジ果汁のみを含むストレート果汁(比較例2:アルプス社製)、オレンジ混濁濃縮果汁(比較例3:Brix55、坂本香料社製)、オレンジ果皮の凍結乾燥物より調製した液状組成物(比較例4)、及びオレンジ果皮のフラベドから調製した液状組成物(比較例5)を用いた。
【0062】
比較例5の試験品は、以下のようにして調製した。オレンジ果皮から果皮中の油胞をできるだけ傷つけないようアルベドの大部分を取り除き、フラベドを得た。フラベド30質量%、水70重質量%となるように混合しパルプ原液とした。次に、このパルプ原液を市販のジュースミキサーにてミリング処理し、30分間常温にて撹拌した後、42メッシュストレーナー(サンポー社製、目開き355μm)で固液分離を行った。次に、固液分離により得られた固体分を高圧ホモジナイザー(GEA社製 PandaPLUS2000)により圧力0.5MPaにてホモジナイズし、得られた懸濁物を遠心分離機(久保田製作所製、高速大容量冷却遠心機7000)にて6000G、5分間遠心分離し上清部を回収後、90℃1分間の加熱殺菌をして液状組成物を得た。
【0063】
各試験品のオイル含有量(ml/kg)、不溶性固形分の含有量(g/kg)、及び粒度分布(D10、D50、D90)を参考例に従って測定した。また、不溶性固形分の含有量(g/kg)に対するオイル含有量(ml/kg)の割合(ml/g)を求めた。
【0064】
(2)ぽん酢の調製
表2に示す配合量(g)に従い、全量が1000gとなるように、醸造酢(酢酸酸度15w/v%)、食塩、グルタミン酸ナトリウム、クエン酸、砂糖、及び(1)で調製した各試験品を水に加えて十分に混合し、80℃まで加温して1分殺菌処理を行った後、150ml容の壜に充填し、冷水にて室温まで冷却し、各試験品を配合したぽん酢を調製した。ここで、各試験品はぽん酢中のオイル含有量が0.2ml/kgとなるよう添加し調整した。ただし、ストレート果汁と、混濁濃縮果汁については、オイル含量が低く、十分な固形分量がはいるようそれぞれ300g、50gを配合した。
【0065】
(3)試験品の評価
(3-1)外観評価
外観評価は、各試験品を配合したぽん酢を20℃で14日間静置して保存したサンプルについて、専門パネラー4名にて行った。評価は、保存後の容器内の内容物の液面付近の浮遊物(パルプ層)の有無、及び沈殿物の有無について、下記の評価基準に従って行い、4名のパネラーで評価した。浮遊物又は沈殿物の評価でそれぞれ4点評価の2.5点以下を合格点(効果あり)とし、1.5点以下を良好な効果があるものとし、0.5点以下が最も良好な効果があるものとした。
【0066】
(評価基準)
<浮遊物の有無>
0点:目視では確認できない。
1点:薄っすらもやもやしたものが確認される。
2点:ややパルプ層が確認される。
3点:パルプ層がはっきり確認される。
【0067】
<沈殿物の有無>
0点:目視では確認できない。
1点:薄っすらもやもやしたものが確認される。
2点:やや沈殿層が確認される。
3点:沈殿層がはっきり確認される。
【0068】
(3-2)官能評価
(評価方法)
官能評価は、各試験品を配合したぽん酢を異なる温度で所定の期間保存したサンプルについて、専門パネラー4名により、「香りの変化」を評価した。
【0069】
官能評価は、(i)サンプルの提示、(ii)官能評価項目(香りの変化)のすり合わせ、(iii)試し評価・キャリブレーション、(iv)本評価の順に行った。
【0070】
(i)サンプルの提示
官能評価におけるパネラーのバイアス(偏り)を排除し、評価の精度を高めるために、サンプル提供を次の通りに設定した。各試験品を配合したぽん酢を150mL用壜に充填密閉し、5℃又は40℃で7日間静置して保存したサンプルを評価毎に上記容器から20mLプラスチックカップに計量スプーンで小さじ1杯(約5mL)程度移し、各パネラーに提示した。その際、サンプルの試験区番号や内容物の情報はパネラーに知らせず、各試験区のサンプルをランダムに提示した。
【0071】
(ii)官能評価項目(香りの変化)のすり合わせ
評価を実施するにあたり、パネラー全体で討議し、評価項目の特性に対してすり合わせを行って、各パネラーが共通認識を持つようにした。
【0072】
(iii)試し評価・キャリブレーション
保存温度の異なるサンプルを用いて、香りの評価基準の訓練を行った。訓練に際しては、パネラー自身の評価結果を伝えることで、繰り返し評価における再現性を確認させた。
【0073】
(iv)本評価
上記の訓練により各パネラーの評価基準の妥当性を担保した後、香りに関する官能評価を行った。具体的には、各試験品を配合したぽん酢を150mL用壜に充填密閉し、5℃又は40℃で7日間静置して保存したサンプルを、上記容器から20mLプラスチックカップに評価毎に計量スプーンで小さじ1杯(約5mL)分程度移し、カップの開口部に鼻を1cm程度まで近づけて香気を評価した。評価は、5℃で保存したサンプルと比較し、40℃で保存したサンプルの香りの変化の有無について、下記の評価基準に従って行い、4名のパネラーの評価点を加重平均した。4点評価の2点以下を合格点(効果あり)とした。
【0074】
(評価基準)
<香りの変化>
0点:変化は感じられない
1点:わずかに柑橘香の劣化臭(異臭)を感じるが、製品として十分認められる。
2点:やや柑橘香の劣化臭(異臭)を感じるが、製品として許容できる範囲である。
3点:強く柑橘香の劣化臭(異臭)を感じ、製品として許容できないレベルである。
【0075】
上記の各試験品のオイル含有量及び不溶性固形分含有量の測定結果、及びオイル含有量/不溶性固形分含有量の算出結果、ならびに粒度分布(D10、D50、D90)の測定結果を表2に示す。また、上記の各試験品をそれぞれ配合したぽん酢の外観評価及び官能評価結果、ならびに総合評価結果(外観評価の点数と官能評価の点数の合計)を合わせて表2に示す。総合評価は、5点以下を合格基準とした。
【0076】
【0077】
表2に示されるように、果皮を使用し、オイル含有量/不溶性固形分含有量が、0.10~1.30ml/gであって、かつ、D10が0.01~20.0μm、D50が0.1~50.0μm、D90が1.0~100.0μmの液状組成物(実施例1~6)を配合したぽん酢は、浮遊物及び沈殿物の発生が抑制され、香りの変化が少なく、保存安定性が良好で、総合評価が合格基準を超えた。よって、上記各ぽん酢は外観及び品質において満足できるものであった。これに対し、果汁と果皮を含むコミュニテッド果汁(比較例1)、果汁のみを含むストレート果汁(比較例2)、オレンジ混濁濃縮果汁(比較例3)、オレンジ果皮の凍結乾燥物より調製した液状組成物(比較例4)、オレンジ果皮のフラベドから調製した液状組成物(比較例5)は、オイル含有量/不溶性固形分含有量及び粒度分布の少なくとも一方が上記範囲になく、これらを配合したぽん酢は、浮遊物及び/又は沈殿物が生じ、総合評価が合格基準に達しなかった。また、比較例1~5では、生じた浮遊物及び/又は沈殿物が容器を振とうしても分散せず、容器から内容物を取り出した後にも、容器内に付着物が認められ、外観が不良であった。なお、比較例2、3は、果皮を含有しないため、そもそも柑橘香自体が弱く、ぽん酢に使用できるものではなかった。
【0078】
(試験例2)柑橘類果皮の種類の検討
(1)試験品の調製
レモン、ゆずの果皮を用いる以外は、実施例1の試験品と同様にして液状組成物(実施例7、8)を調製し、オイル含有量(ml/kg)、不溶性固形分の含有量(g/kg)、及び粒度分布(D10、D50、D90)を参考例に従って測定した。また、不溶性固形分の含有量(g/kg)に対するオイル含有量(ml/kg)の割合(ml/g)を求めた。
【0079】
(2)試験品の評価
(1)で得られた各試験品を用いて試験例1と同様にぽん酢を調製し、外観及び官能評価を行った。
【0080】
上記各試験品のオイル含有量及び不溶性固形分含有量の測定結果、及びオイル含有量/不溶性固形分含有量の算出結果、ならびに粒度分布(D10、D50、D90)の測定結果を下記表3に示す。また、上記各試験品をそれぞれ配合したぽん酢の外観評価及び官能評価結果を合わせて下記表3に示す。
【0081】
【0082】
表3に示されるように、レモン、ゆずの果皮を用いて調製した液状組成物(実施例7、8)を配合したぽん酢も、オレンジの果皮と同様に、浮遊物及び沈殿物の発生が抑制され、香りの変化が少なく、保存安定性が良好で、総合評価が合格基準を超えた。