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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023129338
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】線形摩擦接合装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/12 20060101AFI20230907BHJP
【FI】
B23K20/12 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030855
(22)【出願日】2023-03-01
(31)【優先権主張番号】P 2022031746
(32)【優先日】2022-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(71)【出願人】
【識別番号】000144795
【氏名又は名称】株式会社山田ドビー
(74)【代理人】
【識別番号】110001885
【氏名又は名称】弁理士法人IPRコンサルタント
(72)【発明者】
【氏名】藤井 英俊
(72)【発明者】
【氏名】森貞 好昭
(72)【発明者】
【氏名】釜井 正善
(72)【発明者】
【氏名】服部 竜一
(72)【発明者】
【氏名】多久和 宏
【テーマコード(参考)】
4E167
【Fターム(参考)】
4E167AA02
4E167BF05
4E167BF13
(57)【要約】
【課題】安価でコンパクトかつ軽量な線形摩擦接合装置であって、現場施工に好適に用いることができる線形摩擦接合装置を提供する。
【解決手段】一方の部材と他方の部材とを接合する線形摩擦接合装置であって、一方の部材を把持して、当該一方の部材を他方の部材に当接させ、被接合界面を形成させる把持機構と、一方の部材と他方の部材とを相対的に加振させる加振機構と、被接合界面に対して略垂直に接合圧力を印加する押圧機構と、を具備し、加振機構は、加振用モータと、当該加振用モータに連動する加振シャフトからなり、把持機構は加振シャフトに連結され、押圧機構によって加振機構を押圧することで、被接合界面に接合圧力を印加すること、を特徴とする線形摩擦接合装置。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の部材と他方の部材とを接合する線形摩擦接合装置であって、
前記一方の部材を把持して、前記一方の部材を前記他方の部材に当接させ、被接合界面を形成させる把持機構と、
前記一方の部材と前記他方の部材とを相対的に加振させる加振機構と、
前記被接合界面に対して略垂直に接合圧力を印加する押圧機構と、を具備し、
前記加振機構は、加振用モータと、前記加振用モータに連動する加振シャフトからなり、
前記把持機構は前記加振シャフトに連結され、
前記押圧機構によって前記加振機構を押圧することで、前記被接合界面に接合圧力を印加すること、
を特徴とする線形摩擦接合装置。
【請求項2】
前記加振機構にスコッチヨーク機構を用いること、
を特徴とする請求項1に記載の線形摩擦接合装置。
【請求項3】
前記加振機構が2枚のサイドフレームの間に連結されて一体となり、
前記サイドフレームを加圧用アクチュエータで押圧し、前記接合圧力を印加すること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の線形摩擦接合装置。
【請求項4】
2枚の前記サイドフレームの間にセンターフレームを配置し、
前記サイドフレームと前記センターフレームの間に直動ガイドを設け、
前記直動ガイドに沿って前記サイドフレームを移動させること、
を特徴とする請求項3に記載の線形摩擦接合装置。
【請求項5】
前記センターフレームに前記加圧用アクチュエータを備えること、
を特徴とする請求項4に記載の線形摩擦接合装置。
【請求項6】
クランプ用アクチュエータを備え、
前記クランプ用アクチュエータの押圧力によって前記線形摩擦接合装置を他方の部材に固定すること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の線形摩擦接合装置。
【請求項7】
前記センターフレームに前記クランプ用アクチュエータを備えること、
を特徴とする請求項6に記載の線形摩擦接合装置。
【請求項8】
前記線形摩擦接合装置の本体部の重量が1000kg以下であること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の線形摩擦接合装置。
【請求項9】
可搬型の現場施工用装置であること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の線形摩擦接合装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は摩擦熱を利用して被接合材同士を接合する線形摩擦接合装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼やアルミニウム合金等の金属材料の高強度化に伴い、接合構造物の機械的特性を決定する接合部での強度低下が深刻な問題となっている。これに対し、近年、接合中の最高到達温度が被接合材の融点に達せず、接合部における強度低下が従来の溶融溶接と比較して小さい固相接合法が注目され、急速に実用化が進んでいる。
【0003】
特に、被接合材を当接させた状態で線形往復運動させて接合する「線形摩擦接合」は、摩擦攪拌接合のように被接合材に圧入するツールを必要としないことから、鋼やチタンのような高融点・高強度金属に対しても容易に適用することができ、当該線形摩擦接合に使用する線形摩擦接合装置に関して、開発が進められている。
【0004】
例えば、特許文献1(特開2017-42772号公報)においては、第1接合物を保持する第1保持部と、該第1保持部を加振可能な第1アクチュエータと、第2接合物を保持する第2保持部と、前記第2接合物を前記第1接合物に押圧可能な第2アクチュエータと、前記第1アクチュエータと前記第2アクチュエータを駆動制御する制御部とを具備し、該制御部は、前記第1接合物に前記第2接合物を押圧させた状態で、前記第1アクチュエータにより前記第2接合物の軸心と直交する方向に前記第1接合物を加振させると共に、前記第2アクチュエータにより接合開始時から予め設定された低荷重時間だけ第1押付荷重にて前記第2接合物を前記第1接合物に押圧させ、低荷重時間経過後に前記第1押付荷重よりも大きい第2押付荷重にて前記第2接合物を前記第1接合物に押圧させるように制御する線形摩擦接合装置、が開示されている。
【0005】
上記特許文献1に記載の線形摩擦接合装置においては、線形摩擦接合開始時から予め設定された低荷重時間だけ第2アクチュエータによる押付荷重を低減させているので、最も加振荷重を必要とする線形摩擦接合開始時の加振荷重を抑制することができ、第1アクチュエータの小型化、装置自体の小型化が図れると共に、製造コストの低減を図ることができるという優れた効果を発揮する、とされている。
【0006】
また、特許文献2(特開2018-75591号公報)においては、一方の部材に他方の部材を押し付ける押付装置と、前記一方の部材を前記他方の部材に対して相対的に加振させる加振装置と、を有する線形摩擦接合装置であって、前記押し付け方向における前記他方の部材の変位量を検出する位置センサと、前記位置センサの検出結果に基づいて、前記一方の部材を加振させる振幅を、第1の振幅から当該第1の振幅よりも小さい第2の振幅に切り換えるように前記加振装置を制御する制御装置と、を有する、ことを特徴とする線形摩擦接合装置、が開示されている。
【0007】
前記特許文献2に記載の線形摩擦接合装置においては、一方の部材に押し付けられる他方の部材の当該押し付け方向における変位量を検出し、当該変位量に基づいて、一方の部材を加振させる振幅を、第1の振幅から当該第1の振幅よりも小さい第2の振幅に切り換える。このように、位置センサによって他方の部材の変位量、すなわちバーンオフ量を検出することで、線形摩擦接合プロセスの終了直前で加振振幅を小さいものに切り換えることができる。加振振幅が小さくなると、単位時間当たりのバーンオフ量(バーンオフ速度)が小さくなる。これにより、加振停止時に加振回数が多少ばらついたとしても、バーンオフ速度が小さいため、バーンオフ量のばらつきが小さくなる。したがって、加振回数のばらつきによる寸法精度の低下を抑制することができる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2017-42772号公報
【特許文献2】特開2018-75591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
線形摩擦接合は多くの利点を有する接合法であり、線形摩擦接合装置も様々な観点から改良が進められているが、線形摩擦接合装置はその複雑な機構によって高価かつ大型となり、多くの用途が想起されるにも拘わらず、技術の導入障壁が高くなっている。特に、現場施工に適用可能な適当な線形摩擦接合装置は見当たらないのが現状である。
【0010】
上記特許文献1に開示されている線形摩擦接合装置では、加振荷重を抑制することで装置自体の小型化や製造コストの低減を図り、上記特許文献2に開示されている線形摩擦接合装置では、線形摩擦接合プロセスの終了直前で加振振幅を小さいものに切り換えることで、加振回数のばらつきによる寸法精度の低下の抑制を図っているが、加振機構に蓄圧器を伴う複雑な油圧機構を使用する点では従来の線形摩擦接合装置と同様であり、線形摩擦接合装置を飛躍的に安価かつ小型化することは究めて困難である。
【0011】
また、上記特許文献1及び特許文献2に記載の線形摩擦接合装置は工場内での接合が前提となっており、建築現場等において使用することは極めて困難である。特に、鋼製インフラ構造物等の大きな金属構造体に対して金属部材を接合する場合、従来一般的な線形摩擦接合装置では対応することができない。
【0012】
以上のような従来技術における問題点に鑑み、本発明は、安価でコンパクトかつ軽量な線形摩擦接合装置であって、現場施工に好適に用いることができる線形摩擦接合装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は上記目的を達成すべく、線形摩擦接合装置の構成等について鋭意研究を重ねた結果、加振機構を電動にすると共に、当該加振機構を押圧機構によって押圧し、被接合界面に接合圧力を印加すること等が極めて重要であることを見出し、本発明に到達した。
【0014】
即ち、本発明は、
一方の部材と他方の部材とを接合する線形摩擦接合装置であって、
前記一方の部材を把持して、前記一方の部材を前記他方の部材に当接させ、被接合界面を形成させる把持機構と、
前記一方の部材と前記他方の部材とを相対的に加振させる加振機構と、
前記被接合界面に対して略垂直に接合圧力を印加する押圧機構と、を具備し、
前記加振機構は、加振用モータと、前記加振用モータに連動する加振シャフトからなり、
前記把持機構は前記加振シャフトに連結され、
前記押圧機構によって前記加振機構を押圧することで、前記被接合界面に接合圧力を印加すること、
を特徴とする線形摩擦接合装置、を提供する。
【0015】
従来一般的な線形摩擦接合装置では、加振機構に蓄圧器を伴う複雑な油圧機構が用いられており、当該油圧機構に起因して装置が巨大かつ高重量となってしまう。これに対して、本発明の線形摩擦接合装置では加振用モータの回転運動を線形往復運動に変換することで、加振機構が大幅に小型化及び軽量化されている。
【0016】
また、押圧機構によって加振機構を押圧し、被接合界面に接合圧力を印加することで、他方の部材が大型及び/又は高重量の場合であっても、加振させた一方の部材を他方の部材に押圧させることができ、線形摩擦接合を達成することができる。これに対し、従来一般的な線形摩擦接合装置においては、加振する部材(一方の部材)と押圧する部材(他方の部材)が別になっており、被接合材の少なくとも一方が大型及び/又は高重量の場合、線形摩擦接合を行うことができない。
【0017】
本発明の線形摩擦接合装置においては、前記加振機構にスコッチヨーク機構を用いること、が好ましい。スコッチヨーク機構は、出力軸に偏心して取り付けられたクランクピン軸受が長円形の溝の中を転がることにより、ヨークを往復動させる機構である。スコッチヨーク機構を用いて電動モータの回転運動を線形往復運動に変換することで、加振機構の大幅な小型化及び軽量化を実現することができる。また、加振機構を小型化及び軽量化することで、押圧機構によって加振機構の位置を容易に変化させることができ、加振させた一方の部材を他方の部材に押圧させることで、線形摩擦接合を達成することができる。
【0018】
また、本発明の線形摩擦接合装置においては、前記加振機構が2枚のサイドフレームの間に連結されて一体となり、前記サイドフレームを加圧用アクチュエータで押圧し、前記接合圧力を印加すること、が好ましい。サイドフレームを押圧することで、サイドフレームに連結された加振機構の位置を変化させることができる。また、サイドフレームは本発明の線形摩擦接合装置の構成部材においては高重量となるため、サイドフレームの自重を加振機構の押圧に利用することができる。
【0019】
また、本発明の線形摩擦接合装置においては、2枚の前記サイドフレームの間にセンターフレームを配置し、前記サイドフレームと前記センターフレームの間に直動ガイドを設け、前記直動ガイドに沿って前記サイドフレームを移動させること、が好ましい。十分な剛性を有するセンターフレーム及び直動ガイドに沿ってサイドフレームを移動させることで、サイドフレームの位置を正確に制御することができる。
【0020】
また、本発明の線形摩擦接合装置においては、前記センターフレームに前記加圧用アクチュエータを備えること、が好ましい。センターフレームに加圧用アクチュエータを備え、当該加圧用アクチュエータを用いて鉛直下向きにサイドフレームを押し下げることで、サイドフレームの自重を活用しつつ、被接合界面に対して略垂直に接合圧力を印加することができる。
【0021】
また、本発明の線形摩擦接合装置においては、クランプ用アクチュエータを備え、前記クランプ用アクチュエータの押圧力によって前記線形摩擦接合装置を他方の部材に固定すること、が好ましい。例えば、他方の部材がH鋼材の場合、当該H鋼材の断面において対向する平行板部の内部に押圧力を印加することで、線形摩擦接合装置を強固かつ簡便に固定することができる。
【0022】
また、本発明の線形摩擦接合装置においては、前記センターフレームに前記クランプ用アクチュエータを備えること、が好ましい。センターフレームは十分な剛性を備えていることに加え、線形摩擦接合装置の中心部に存在していることから、当該センターフレームにクランプ用アクチュエータを備えることで、線形摩擦接合装置を安定して固定することができる。
【0023】
また、本発明の線形摩擦接合装置においては、前記線形摩擦接合装置の本体部の重量が1000kg以下であること、が好ましい。線形摩擦接合装置の本体部の重量を1000kg以下とすることで、搭載型トラッククレーン等を用いて容易に移動させることができる。また、高所での接合が必要な場合は、適当な昇降装置を用いて持ち上げることもできる。ここで、線形摩擦接合装置の本体部とは、接合を実施する場所に配置することが必須の部分を意味し、制御装置、電源及び操作パネル等はこれに含まれない。
【0024】
更に、本発明の線形摩擦接合装置においては、可搬型の現場施工用装置であること、が好ましい。従来の線形摩擦接合装置は据付型のみであったが、本発明の線形摩擦接合装置は任意の現場に移動させて好適に使用することができる。なお、電源は適宜準備すればよい。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、安価でコンパクトかつ軽量な線形摩擦接合装置であって、現場施工に好適に用いることができる線形摩擦接合装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】線形摩擦接合の状況を示す模式図である。
図2】本発明の一態様を示す線形摩擦接合装置の側面図である。
図3図2におけるAA’断面図である。
図4図2におけるBB’断面図である。
図5】H鋼材4に金属板材6を線形摩擦接合する場合の概略斜視図である。
図6】線形摩擦接合によって得られる接合体の概略斜視図である。
図7】本発明の別の一態様を示す線形摩擦接合装置の正面断面図である。
図8図7におけるC-C断面図である。
図9図7におけるD-D断面図である。
図10図7におけるE-E断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照しながら本発明の線形摩擦接合装置の代表的な実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。なお、以下の説明では、同一または相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する場合がある。また、図面は、本発明を概念的に説明するためのものであるから、表された各構成要素の寸法やそれらの比は実際のものとは異なる場合もある。
【0028】
(1)線形摩擦接合
図1に線形摩擦接合中の状況を示す模式図を示す。線形摩擦接合は被接合材同士を線形運動で擦りあわせた際に生じる摩擦熱を主な熱源とする固相接合である。昇温によって軟化した材料を被接合界面からバリとして排出することで、被接合界面に形成していた酸化被膜等を除去し、新生面同士を当接させることで接合部を得ることができる。
【0029】
本発明の線形摩擦接合装置は、図1に示す接合プロセスを達成するための装置であり、現場施工が可能な程度に小型化及び軽量化が図れていることを特徴としている。また、一方の被接合材が大型金属部材の場合、当該大型金属部材に線形摩擦接合装置の本体を固定できる機能を有している。
【0030】
本発明の線形摩擦接合装置を用いて接合を行う際の接合条件は、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々の接合条件を用いることができる。線形摩擦接合の代表的な接合条件は、接合圧力、線形摺動の周波数及び振幅、及び寄り代等であるが、被接合材の材質、大きさ及び形状や所望の接合部特性等に応じて適宜調整すればよい。
【0031】
(2)線形摩擦接合装置
本発明の一態様を示す線形摩擦接合装置の側面図を図2に示す。図2においては、線形摩擦接合装置2をH鋼材4に固定し、H鋼材4と金属板材6を線形摩擦接合する場合について示している。線形摩擦接合装置2を稼働させるためには、制御パネルや操作盤当が必要になるが(図示せず)、図2に示されている範囲が線形摩擦接合装置の本体部となる。例えば、高所で線形摩擦接合を行う場合は、線形摩擦接合装置の本体部のみを昇降させればよい。また、例えば、原子炉内等のように人が立ち入れない場所で線形摩擦接合を施す場合、従来公知の種々の機構を用いて、線形摩擦接合装置2の場所を自動で決定できることが好ましい。
【0032】
従来一般的な線形摩擦接合装置においては加振機構に蓄圧器を伴う複雑な油圧機構が用いられており、当該油圧機構に起因して装置が巨大かつ高重量となってしまう。これに対して線形摩擦接合装置2では加振用モータ8の回転運動を線形往復運動に変換することで、加振機構が大幅に小型化及び軽量化されている。
【0033】
加振用モータ8の回転運動に連動して加振シャフト10が長軸方向に前後に振動することで、加振シャフト10に連結するワーククランプ12に把持された被接合材(金属板材6)を加振することができる。
【0034】
加振用モータ8及び加振シャフト10からなる加振機構は2枚のサイドフレーム14の間に連結されて一体となっている。また、2枚のサイドフレーム14の間にセンターフレーム16が配置されている。サイドフレーム14とセンターフレーム16の間に直動ガイド18が設けられており、直動ガイド18に沿ってサイドフレーム14を移動させることができる。十分な剛性を有するセンターフレーム16及び直動ガイド18に沿ってサイドフレーム14を移動させることで、サイドフレーム14の位置を正確に制御することができる。
【0035】
サイドフレーム14をセンターフレーム16に設置した加圧用アクチュエータ20で押圧することで、金属板材6に対する押圧力を発現させることができ、任意の接合圧力を印加することができる。加圧用アクチュエータ20を用いてサイドフレーム14を押圧することで、サイドフレーム14に連結された加振機構の位置を変化させることができる。また、サイドフレーム14は比較的高重量となるため、サイドフレーム14の自重を加振機構の押圧に利用することができる。
【0036】
また、線形摩擦接合装置2にはクランプ用アクチュエータ22が備わっている。クランプ用アクチュエータ22は十分な剛性を有するセンターフレーム16に連結されており、センターフレーム16は線形摩擦接合装置2の中心部に存在していることから、線形摩擦接合装置2を安定してH鋼材4に固定することができる。より具体的には、クランプ用アクチュエータ22の押圧力によってH鋼材4の内部に応力を印加することで、線形摩擦接合装置を強固かつ簡便に固定することができる。
【0037】
図2におけるAA’断面図を図3に示す。図3は加振機構の主な構成を示したものであり、カップリング30を介して加振用モータ8にクランクシャフト32が接続されている。ここで、加振機構の構成はこれに限られず、例えば、従来公知の種々のクランク機構、リンク機構、ナックル機構及びスコッチヨーク機構等を用いることができるが、スコッチヨーク機構とすることが好ましい。
【0038】
スコッチヨーク機構を用いて加振用モータ8の回転運動を線形往復運動に変換することで、加振機構の大幅な小型化及び軽量化を実現することができる。また、加振機構を小型化及び軽量化することで、押圧機構によって加振機構の位置を容易に変化させることができ、加振させた一方の部材を他方の部材に押圧させることで、線形摩擦接合を達成することができる。
【0039】
線形摩擦接合装置2において、加振機構の駆動源に加振用モータ8を用いることで、加振機構による加振の振幅及び/又は周波数を可変とすることができる。加振の振幅及び/又は周波数を可変とすることで、一台の線形摩擦接合装置で様々な被接合材の接合に対応することができる。
【0040】
一方で、特定の被接合材のみを対象とする場合、基本的に線形摩擦接合条件は同一となることから、加振機構による加振の振幅及び/又は周波数を固定とすることが好ましい。簡素な機構を有する加振用モータ8を用い、加振機構による加振の振幅及び/又は周波数を固定とすることで、より安価かつ小型の大量生産を目的とした線形摩擦接合装置2を実現することができる。ここで、「振幅及び/又は周波数を固定する」とは、複数の値(例えば、3パターンの振幅と周波数の組合せ)を有することを含む概念である。
【0041】
また、線形摩擦接合装置2においては、加振機構による加振の振幅を0.1~5mmとすることが好ましく、0.5~3mmとすることがより好ましく、1~2mmとすることが最も好ましい。また、加振機構による加振の周波数は10~100Hzとすることが好ましく、15~75Hzとすることがより好ましく、25~50Hzとすることが最も好ましい。振幅を大きくすると周波数の上限は低下するところ、上記数値範囲であれば、加振用モータ8を用いて実現することができる。特に、振幅を1~2mm、周波数を25~50Hzとすることで、加振用モータ8の特性を十分に活用できることに加え、多種多様な被接合材の接合に対応することができる。
【0042】
また、線形摩擦接合装置2においては、押圧機構による押圧力を1.5×104kg以下とすることが好ましい。線形摩擦接合では、被接合材に押圧力が印加された状態で、加振機構によって摺動させる必要があるが、当該押圧力を1.5×104kg以下とすることで、加振機構の駆動源に加振用モータ8を使用した場合であっても線形摩擦接合に必要な摺動を達成することができる。なお、振幅及び/又は周波数等の線形摩擦接合条件によっても、被接合材を摺動させるために必要な力を調整することができる。また、被接合材を摺動させるための力をより低減させたい場合は、従来公知の種々の方法による外部加熱を用いて、被接合材を軟化させればよい。ここで、被接合材を高速摺動させるために必要な力は、押圧力~押圧力の3/2程度を想定すればよい。
【0043】
図2におけるBB’断面図を図4に示す。センターフレーム16とサイドフレーム14が直動ガイド18を介して接続されており、十分な剛性を有するセンターフレーム16及び直動ガイド18に沿ってサイドフレーム14を移動させることで、サイドフレーム14の位置を正確に制御することができる。ここで、直動ガイド18の種類は本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々の直動ガイドを用いることができ、例えば、リニアボールガイドやリニアローラガイド等とすることができる。
【0044】
線形摩擦接合装置2の本体部の重量は1000kg以下であることが好ましい。線形摩擦接合装置2の本体部の重量を1000kg以下とすることで、搭載型トラッククレーン等を用いて容易に移動させることができる。また、高所での接合が必要な場合は、適当な昇降装置を用いて持ち上げることもできる。より好ましい本体部の重量は750kg以下であり、最も好ましい本体部の重量は500kg以下である。
【0045】
線形摩擦接合装置2は可搬型の現場施工用装置であることが好ましい。従来の線形摩擦接合装置は据付型のみであったが、線形摩擦接合装置2は任意の現場に移動させて好適に使用することができる。
【0046】
現場施工の例として、線形摩擦接合装置2を用いてH鋼材4に金属板材6を線形摩擦接合する場合の概略斜視図を図5に示す。また、線形摩擦接合によって得られる接合体の概略斜視図を図6に示す。具体的な接合の手順を以下に説明する。
【0047】
適当な方法で線形摩擦接合装置2をH鋼材4の所定の位置に配置した後、クランプ用アクチュエータ22を用いて線形摩擦接合装置2をH鋼材4に固定する。その後、加圧用アクチュエータ20を用いてサイドフレーム14を押圧することで、サイドフレーム14に連結された加振機構の位置を変化させ、金属板材6とH鋼材4を当接させて被接合界面を形成する。
【0048】
次に、クランプ用アクチュエータ22からの押圧力を制御することによって、被接合界面に任意の接合圧力を印加し、当該状態でH鋼材4を線形摺動させる。昇温によって軟化した材料を被接合界面からバリとして排出することで、被接合界面に形成していた酸化被膜等を除去し、新生面同士を当接させることで接合部を得ることができる。
【0049】
ここで、線形摩擦接合時の圧力を、所望する接合温度における金属板材6及び/又はH鋼材4の降伏応力以上かつ引張強度以下に設定することで、接合温度を制御することができる。より具体的には、圧力を所望する接合温度における金属板材6及び/又はH鋼材4の降伏応力以上かつ引張強度以下に設定することで、金属板材6及び/又はH鋼材4を基準として接合温度を決定することができる。
【0050】
圧力を一金属板材6及び/又はH鋼材4の降伏応力以上とすることで被接合界面からのバリの排出が開始され、引張強度までの間で圧力を増加させると、バリの排出が加速されることになる。降伏応力と同様に、特定の温度における引張強度も被接合材によって略一定であることから、設定した圧力に対応する接合温度を実現することができる。ここで、圧力によって接合温度を決定できるということは、被接合界面から排出された瞬間のバリの温度が制御できることを意味している。
【0051】
従来一般的な線形摩擦接合においては、接合工程の初期には被接合材同士を当接させる目的で低い接合圧力を印加し、被接合界面近傍が十分に軟化した後に、接合圧力を増加させてバリを排出し、接合界面を形成していた。これに対し、接合工程の初期から所望の接合温度に対応する接合圧力(低い接合温度とする場合は高い接合圧力)を印加することで、接合温度を正確に制御することができる。
【0052】
本発明の線形摩擦接合装置の別の一態様を示す正面断面図を図7に示す。また、図7におけるC-C断面図を図8、D-D断面図を図9、E-E断面図を図10にそれぞれ示す。
【0053】
図7に示す線形摩擦接合装置2と図2に示す線形摩擦接合装置2との主な差異は押圧機構であり、図7に示す線形摩擦接合装置2においては、サーボモータ40で駆動するボールねじ42によって第一のくさび部材44の位置が変化し、それに連動して第二のくさび部材46が下側に移動することで金属板材6に対する押圧力を発現させることができる。ボールねじ42はカップリング41を介してサーボモータ40に連結されており、ボールネジ42はプッシャー48を介して第一のくさび部材44に連結されている。このような押圧機構を適用することで、線形摩擦接合装置2の小型化及び軽量化を図ることができるだけでなく、形状の自由度を高めることができる。
【0054】
押圧機構以外の基本構成は図2に示す線形摩擦接合装置2と同様であり、加振機構及び押圧機構はフレーム50によってH鋼材4に固定され、金属板材6はワーククランプ12に把持されている。また、加振機構はスコッチヨーク機構52で加振されるものである。なお、フレーム50はボルト54によってH鋼材4に固定されている。
【0055】
以上、本発明の代表的な実施形態について説明したが、本発明はこれらのみに限定されるものではなく、種々の設計変更が可能であり、それら設計変更は全て本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0056】
2・・・線形摩擦接合装置、
4・・・H鋼材、
6・・・金属板材、
8・・・加振用モータ、
10・・・加振シャフト、
12・・・ワーククランプ、
14・・・サイドフレーム、
16・・・センターフレーム、
18・・・直動ガイド、
20・・・加圧用アクチュエータ、
22・・・クランプ用アクチュエータ、
30・・・カップリング、
32・・・クランクシャフト、
40・・・サーボモータ、
41・・・カップリング、
42・・・ボールねじ、
44・・・第一のくさび部材、
46・・・第二のくさび部材、
48・・・プッシャー、
50・・・フレーム、
52・・・スコッチヨーク機構、
54・・・ボルト。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10