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特開2023-130000高分子化合物及びその製造方法、並びにそれを用いた有機薄膜太陽電池及び有機トランジスタ
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  • 特開-高分子化合物及びその製造方法、並びにそれを用いた有機薄膜太陽電池及び有機トランジスタ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023130000
(43)【公開日】2023-09-20
(54)【発明の名称】高分子化合物及びその製造方法、並びにそれを用いた有機薄膜太陽電池及び有機トランジスタ
(51)【国際特許分類】
   C08G 61/12 20060101AFI20230912BHJP
   C07D 513/04 20060101ALI20230912BHJP
   C07D 513/22 20060101ALI20230912BHJP
   H10K 10/40 20230101ALI20230912BHJP
   H10K 85/10 20230101ALI20230912BHJP
   H10K 71/10 20230101ALI20230912BHJP
   H01L 29/786 20060101ALI20230912BHJP
【FI】
C08G61/12
C07D513/04 301
C07D513/22
H01L29/28 100A
H01L29/28 250G
H01L29/28 310J
H01L29/78 618B
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022034404
(22)【出願日】2022-03-07
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業 「地球規模課題である低炭素社会の実現」領域、「革新的有機半導体の開発と有機太陽電池効率20%への挑戦」に関する委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(71)【出願人】
【識別番号】000000354
【氏名又は名称】石原産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】尾坂 格
(72)【発明者】
【氏名】三木江 翼
(72)【発明者】
【氏名】森山 太一
(72)【発明者】
【氏名】有海 裕作
【テーマコード(参考)】
4C072
4J032
5F110
【Fターム(参考)】
4C072AA01
4C072AA07
4C072BB02
4C072BB04
4C072BB07
4C072CC04
4C072CC17
4C072CC18
4C072EE12
4C072FF13
4C072GG01
4C072GG07
4C072HH06
4C072JJ03
4C072UU08
4J032BA03
4J032BA04
4J032BB03
4J032BC02
4J032BC12
4J032CC01
5F110AA01
5F110AA14
5F110DD01
5F110DD02
5F110DD05
5F110FF01
5F110FF02
5F110FF03
5F110GG05
5F110GG42
5F110GG43
5F110GG44
(57)【要約】      (修正有)
【課題】良好な光電変換効率を示す高分子化合物、高分子化合物の製造方法、有機薄膜太陽電池、有機トランジスタを提供する。
【解決手段】高分子化合物は、式(1)で表される繰り返し単位を含む。式(1)中、Rは水素原子、ハロゲン原子又はアルキル基、Arは特定のアリーレン基である。

【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):
【化1】

(式(1)中、Rは水素原子、ハロゲン原子又はアルキル基であり、Arは下記式で表される基から選ばれる少なくとも一つのアリーレン基である。)で表される繰り返し単位を含む、高分子化合物。
【化2】

(式中、R、R、R、R、R、R、R及びR10は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子又はアルキル基であり、Rは、水素原子又はハロゲン原子であり、*は結合手を示す。)
【請求項2】
式(5):
【化3】

(式(5)中、Rは水素原子、ハロゲン原子又はアルキル基であり、Xはハロゲン原子である。)で表される化合物。
【請求項3】
請求項2に記載の式(5)で表される化合物と、
式(6):
【化4】

(式(6)中、Meはメチル基であり、Arは下記式で表される基から選ばれる少なくとも一つのアリーレン基である。)で表される化合物とを反応させて、前記式(1)で表される繰り返し単位を含む高分子化合物を得る工程を含む、請求項1に記載の高分子化合物の製造方法。
【化5】

(式中、R、R、R、R、R、R、R及びR10は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子又はアルキル基であり、Rは、水素原子又はハロゲン原子であり、*は結合手を示す。)
【請求項4】
式(4):
【化6】

(式(4)中、Rは水素原子、ハロゲン原子又はアルキル基であり、Meはメチル基であり、Xはハロゲン原子である。)で表される化合物と、脱メタノール化剤とを反応させて、前記式(5)で表される化合物を得る工程を含む、請求項2に記載の化合物の製造方法。
【請求項5】
式(3):
【化7】

(式(3)中、Rは水素原子、ハロゲン原子又はアルキル基であり、Meはメチル基であり、Xはハロゲン原子である。)で表される化合物と、酸化剤とを反応させて、前記式(4)で表される化合物を得る工程を含む、請求項4に記載の化合物の製造方法。
【請求項6】
式(2):
【化8】

(式(2)中、Rは水素原子、ハロゲン原子又はアルキル基、Xはハロゲン原子である。)で表される化合物と、メチルチオ化剤とを反応させて、前記式(3)で表される化合物を得る工程を含む、請求項5に記載の化合物の製造方法。
【請求項7】
I)下記式(2)で表される化合物とメチルチオ化剤を反応させて、下記式(3)で表される化合物を製造する第1工程、
式(2):
【化9】

(式(2)中、Rは水素原子、ハロゲン原子又はアルキル基、Xはハロゲン原子である。)
式(3):
【化10】

(式(3)中、Rは水素原子、ハロゲン原子又はアルキル基であり、Meはメチル基であり、Xはハロゲン原子である。)
II)第1工程で得られた前記式(3)で表される化合物と酸化剤とを反応させて、下記式(4)で表される化合物を製造する第2工程、
式(4):
【化11】

(式(4)中、Rは水素原子、ハロゲン原子又はアルキル基であり、Meはメチル基であり、Xはハロゲン原子である。)
III)第2工程で得られた前記式(4)で表される化合物と脱メタノール化剤とを反応させて、下記式(5)で表される化合物を製造する第3工程、及び
式(5):
【化12】

(式(5)中、Rは水素原子、ハロゲン原子又はアルキル基であり、Xはハロゲン原子である。)
IV)第3工程で得られた前記式(5)で表される化合物と、下記式(6)で表される化合物とを反応させて、式(1)で表される繰り返し単位を含む高分子化合物を製造する第4工程
式(6):
【化13】

(式(6)中、Meはメチル基であり、Arは下記式で表される基から選ばれる少なくとも一つのアリーレン基である。)
【化14】

(式中、R、R、R、R、R、R、R及びR10は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子又はアルキル基であり、Rは、水素原子又はハロゲン原子であり、*は結合手を示す。)
を含む、請求項1に記載の高分子化合物の製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載の高分子化合物を含む有機半導体膜形成用組成物。
【請求項9】
請求項1に記載の高分子化合物を含む有機半導体膜。
【請求項10】
請求項9に記載の有機半導体膜を含む有機薄膜太陽電池。
【請求項11】
請求項9に記載の有機半導体膜を含む有機トランジスタ。
【請求項12】
請求項8に記載の有機半導体膜形成用組成物を、基板上に蒸着又は塗布して有機半導体膜を形成する工程を含む、有機半導体膜の製造方法。
【請求項13】
請求項8に記載の有機半導体膜形成用組成物を、基板上に蒸着又は塗布して、有機半導体膜を形成する工程を含む、有機薄膜太陽電池の製造方法。
【請求項14】
請求項8に記載の有機半導体膜形成用組成物を、基板上に蒸着又は塗布して、有機半導体膜を形成する工程を含む、有機トランジスタの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子化合物及びその製造方法に関する。また、本発明は、前記の高分子化合物を製造するための化合物及びその製造方法に関する。更に、本発明は、前記高分子化合物を含む有機半導体膜形成用組成物、有機半導体膜、有機薄膜太陽電池、有機トランジスタ及びそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機半導体材料を利用した有機薄膜太陽電池や有機トランジスタ等に関する研究開発が盛んに行われている。太陽電池は光入力に対して電気出力を示す装置であり、化石燃料の枯渇問題や地球温暖化問題を背景に、クリーンエネルギーとして注目され、実用化されている。これまでシリコン系太陽電池が広く実用化されているが、塗布プロセスで製造可能なことやフレキシブル化、シースルー化が可能なことから有機薄膜太陽電池が新しい太陽電池技術として注目を集めており、高効率化を目指した種々の有機薄膜太陽電池材料の開発が行われている。また、有機トランジスタは、無機トランジスタ膜に対して、軽量性、低製造コスト、及び柔軟性に優れていることから、ディスプレイ、RFID(radio frequency identifier)、物質センサ等の装置等への応用研究が盛んに行われている。
【0003】
電子供与体として機能する有機薄膜太陽電池材料として、ナフタレンを基調とした電子欠損性骨格が知られている。この骨格は、広いπ共役系を持つため、半導体ポリマーのビルディングユニットとして用いられてきた。例えば、特許文献1には、ポリマー主鎖のナフトビスチアジアゾール環にチオフェン環が二つ縮合した構造の高分子化合物(例えば、式1で表される高分子化合物)が開示されている。
【0004】
【化1】

(式1中、Rはアルキル基を表す。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-38288号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これまで種々の有機薄膜太陽電池材料が開示されているものの、材料開発は未だ発展途上にあり、開放電圧(Voc)の向上や短絡電流密度(Jsc)の向上等、更なる発電特性に優れる有機薄膜太陽電池材料が求められている。これらの課題解決には、電子欠損性骨格NTz(ナフトビスチアジアゾール環)に複数のチオフェンの縮環構造を導入することで、最高被占軌道(HOMO)準位が深くなったり、剛直な高分子主鎖を与えることから、それぞれの特性向上が期待される。
【0007】
本発明は、上記事項に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、良好な光電変換効率等を示す高分子化合物、その製造方法、前記の高分子化合物を製造するための化合物及びその製造方法、更に、前記の高分子化合物を含む有機半導体膜形成用組成物、有機半導体膜、有機薄膜太陽電池、有機トランジスタ及びそれらの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討し、本発明を完成した。即ち、本発明の要旨は以下の通りである。
【0009】
[1] 式(1):
【0010】
【化2】

(式(1)中、Rは水素原子、ハロゲン原子又はアルキル基であり、Arは下記式で表される基から選ばれる少なくとも一つのアリーレン基である。)で表される繰り返し単位を含む、高分子化合物。
【0011】
【化3】

(式中、R、R、R、R、R、R、R及びR10は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子又はアルキル基であり、Rは、水素原子又はハロゲン原子であり、*は結合手を示す。)
【0012】
[2] 式(5):
【0013】
【化4】

(式(5)中、Rは水素原子、ハロゲン原子又はアルキル基であり、Xはハロゲン原子である。)で表される化合物。
【0014】
[3] [2]に記載の式(5)で表される化合物と、式(6):
【0015】
【化5】

(式(6)中、Meはメチル基であり、Arは下記式で表される基から選ばれる少なくとも一つのアリーレン基である。)で表される化合物とを反応させて、前記式(1)で表される繰り返し単位を含む高分子化合物を得る工程を含む、[1]に記載の高分子化合物の製造方法。
【0016】
【化6】

(式中、R、R、R、R、R、R、R及びR10は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子又はアルキル基であり、Rは、水素原子又はハロゲン原子であり、*は結合手を示す。)
【0017】
[4] 式(4):
【0018】
【化7】

(式(4)中、Rは水素原子、ハロゲン原子又はアルキル基であり、Meはメチル基であり、Xはハロゲン原子である。)で表される化合物と、脱メタノール化剤とを反応させて、前記式(5)で表される化合物を得る工程を含む、[2]に記載の化合物の製造方法。
【0019】
[5] 式(3):
【0020】
【化8】

(式(3)中、Rは水素原子、ハロゲン原子又はアルキル基であり、Meはメチル基であり、Xはハロゲン原子である。)で表される化合物と、酸化剤とを反応させて、前記式(4)で表される化合物を得る工程を含む、[4]に記載の化合物の製造方法。
【0021】
[6] 式(2):
【0022】
【化9】

(式(2)中、Rは水素原子、ハロゲン原子又はアルキル基、Xはハロゲン原子である。)で表される化合物と、メチルチオ化剤とを反応させて、前記式(3)で表される化合物を得る工程を含む、[5]に記載の化合物の製造方法。
【0023】
[7] I)式(2)で表される化合物とメチルチオ化剤を反応させて、式(3)で表される化合物を製造する第1工程、
II)第1工程で得られた式(3)で表される化合物と酸化剤とを反応させて、式(4)で表される化合物を製造する第2工程、
III)第2工程で得られた式(4)で表される化合物と脱メタノール化剤とを反応させて、式(5)で表される化合物を製造する第3工程、及び
IV)第3工程で得られた式(5)で表される化合物と、式(6)で表される化合物とを反応させて、式(1)で表される繰り返し単位を含む高分子化合物を製造する第4工程を含む、[1]に記載の高分子化合物の製造方法。
【0024】
[8] [1]に記載の高分子化合物を含む有機半導体膜形成用組成物。
【0025】
[9] [1]に記載の高分子化合物を含む有機半導体膜。
【0026】
[10] [9]に記載の有機半導体膜を含む有機薄膜太陽電池。
【0027】
[11] [9]に記載の有機半導体膜を含む有機トランジスタ。
【0028】
[12] [8]に記載の有機半導体膜形成用組成物を、基板上に蒸着又は塗布して有機半導体膜を形成する工程を含む、有機半導体膜の製造方法。
【0029】
[13] [8]に記載の有機半導体膜形成用組成物を、基板上に蒸着又は塗布して、有機半導体膜を形成する工程を含む、有機薄膜太陽電池の製造方法。
【0030】
[14] [8]に記載の有機半導体膜形成用組成物を、基板上に蒸着又は塗布して、有機半導体膜を形成する工程を含む、有機トランジスタの製造方法。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、良好な光電変換効率又は移動度を示す高分子化合物、高分子化合物の製造方法、前記高分子化合物を含む有機薄膜太陽電池、有機トランジスタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】実施例の有機薄膜太陽電池素子1における電流密度-電圧特性を示す図である。
図2】実施例の有機薄膜太陽電池素子2における電流密度-電圧特性を示す図である。
図3】実施例の有機トランジスタ素子1のId-Vg特性を示す図である。
図4】実施例の有機トランジスタ素子2のId-Vg特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
(高分子化合物)
本実施の形態に係る高分子化合物は、前記式(1)で表される繰り返し単位を含む(以下、「高分子化合物(1)」と称する)。前記式(1)中のRに含まれるアルキル基の炭素数は6~30であることが好ましい。また、Ar中のR、R、R、R、R、R、R及びR10に含まれるアルキル基の炭素数は6~30であることが好ましい。これらアルキル基は直鎖状でも分岐鎖状でもよいが、湿式成膜法等の塗布法によって成膜することを考慮すると分岐鎖状のアルキル基であることが好ましい。R、R、R、R、R、R、R7、R、R及びR10に含まれるハロゲン原子は、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素であることが好ましい。
【0034】
高分子化合物(1)の重量平均分子量は、10,000~1,000,000の範囲であることが好ましい。また、数平均分子量は10,000~200,000の範囲であることが好ましい。平均分子量は、ポリスチレン標準試料を適用し、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)等を用いて測定する。例えば、株式会社島津製作所Prominence(登録商標)GPCシステムを用いることができる。
【0035】
(中間体化合物)
本実施の形態に係る化合物は、前記式(5)で表される(以下、「中間体化合物(5)」と称する)。前記式(5)中のRに含まれるアルキル基の炭素数は6~30であることが好ましい。これらアルキル基は直鎖状でも分岐鎖状でもよいが、分岐鎖状のアルキル基であることが好ましい。Rに含まれるハロゲン原子は、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素であることが好ましい。また、Xのハロゲン原子は、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素であることが好ましい。
【0036】
(中間体化合物(5)及び高分子化合物(1)の製造方法)
中間体化合物(5)の製造方法は、特に限定されない。一例として、以下の反応スキームで中間体化合物(5)を製造することができる。また、高分子化合物(1)の製造方法は、特に限定されない。一例として、前記の中間体化合物(5)から高分子化合物(1)を製造することができる。好ましい工程を以下の反応スキームに沿って説明し、より具体的な一例は、後述する実施例に記載する。
【0037】
【化10】
【0038】
上記式中、Rは、水素原子、ハロゲン原子又はアルキル基であり、Xはハロゲン原子であり、その一例としてフッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。Meはメチル基である。また、nは繰り返し単位を意味する整数である。Arは下記式で表される基から選ばれる少なくとも一つのアリーレン基であり、*は結合手を示す。
【0039】
【化11】

式中、R、R、R、R、R、R、R及びR10は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子又はアルキル基であり、Rは、水素原子又はハロゲン原子である。
【0040】
式(2)で表される化合物(以下、「化合物(2)」と称する)は、「NPG Asia Mater.10,1016-1028(2018)」に記載された方法に準じて製造することができる。
【0041】
<第1工程>
化合物(2)から、式(3)で表される化合物(以下、「化合物(3)」と称する)を製造する(第1工程)。
【0042】
第1工程は、具体的には、化合物(2)とメチルチオ化剤を反応させて化合物(3)を生成させる工程である。メチルチオ化剤としては、ナトリウムメタンチオラート等が挙げられる。第1工程の反応は、必要に応じて溶媒の存在下で行うことができる。溶媒としては、反応に不活性な溶媒であればいずれのものでもよく、例えば2,2,6,6-テトラメチルピペリジンアミンのようなアミン塩基;N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトニトリルのような非プロトン性極性溶媒;テトラヒドロフラン(THF)のようなエーテル類;等から一種又は二種以上を適宜選択することができる。反応温度は、通常、-78℃~140℃が好ましく、0~120℃がより好ましい。反応時間は、通常、0.5~48時間である。得られた化合物(3)は精製してもよい。また、化合物(3)は、下記第2工程に供する前に精製することが好ましい。
【0043】
<第2工程>
次いで、化合物(3)から、式(4)で表される化合物(以下、「化合物(4)」と称する)を製造する(第2工程)。
【0044】
第2工程は、具体的には、化合物(3)と酸化剤とを反応させて、化合物(4)を得る工程である。酸化剤としては、当該反応が進行すれば特に限定されず、例えば、メタクロロ過安息香酸(m-CPBA)、過酸化水素、過ヨウ素酸ナトリウム、ペルオキシ一硫酸カリウム(オキソン)等が挙げられる。酸化剤は、化合物(3)1当量に対して、好ましくは1~20当量、より好ましくは1~10当量の割合で使用することができる。溶媒としては、反応に不活性な溶媒であればいずれのものでもよく、例えば、クロロホルムのような有機塩素系溶媒類;テトラヒドロフラン(THF)のようなエーテル類;等から一種又は二種以上を適宜選択することができる。反応温度は、通常、-78~100℃が好ましく、0~100℃がより好ましい。反応時間は、通常、0.5~48時間である。化合物(4)は、下記第3工程に供する前に精製することが好ましい。
【0045】
<第3工程>
次いで、化合物(4)から、中間体化合物(5)を製造する(第3工程)。
【0046】
第3工程は、具体的には、化合物(4)と脱メタノール化剤を反応させて、中間体化合物(5)を得る工程である。脱メタノール化剤は、当該反応が進行すれば特に限定されず、例えば、トリフルオロメタンスルホン酸、五酸化二リン、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸無水物、塩化ホスホリル等が挙げられる。当該反応は、無溶媒で行ってもよいが、ジクロロメタン等を使用することもできる。反応温度は、通常、0~200℃が好ましく、0~120℃がより好ましい。反応時間は、通常、1~48時間である。得られた中間体化合物(5)は精製してもよい。また、中間体化合物(5)は、下記第4工程に供する前に精製することが好ましい。
【0047】
<第4工程>
次いで、中間体化合物(5)と式(6)で表される化合物(以下、「化合物(6)」と称する)から、高分子化合物(1)を製造する(第4工程)。化合物(6)は、例えば、「WO2009/081372」等を参考に合成することができる。
【0048】
第4工程は、具体的には、中間体化合物(5)と、化合物(6)とを反応させて高分子化合物(1)を製造する工程である。溶媒中で中間体化合物(5)と化合物(6)とを触媒存在下で反応させる。溶媒としては、トルエン、クロロベンゼン、ジメチルホルムアミド(DMF)、テトラヒドロフラン(THF)等が挙げられる。触媒としては、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(Pd(PPh)、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)ジクロリド(Pd(PPhCl)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)(Pd(dba))等が挙げられる。反応温度は、例えば80℃~200℃とすることができる。得られた高分子化合物(1)は精製してもよい。このようにして、本発明の高分子化合物(1)を製造することができる。
【0049】
(有機半導体膜形成用組成物)
次に、本発明の有機半導体膜形成用組成物について、説明する。この有機半導体膜形成用組成物は、本発明の高分子化合物(1)を含有し、本発明の有機半導体膜の形成に好ましく用いられる。
【0050】
(本発明の高分子化合物)
本発明の高分子化合物(1)は、上述した方法で製造できるものを、一種単独で用いてもよいし、二種以上併用してもよい。有機半導体膜形成用組成物の、上記高分子化合物の含有率は、特に限定されず、例えば、後述する溶媒を除いた固形分中の含有率で表すと、後述する有機半導体膜中の高分子化合物の含有率と同じ範囲にすることが好ましい。
【0051】
(バインダーポリマー)
有機半導体膜形成用組成物は、バインダーポリマーを含有していてもよい。この組成物がバインダーポリマーを含有していると、膜質の高い有機半導体膜が得られる。このようなバインダーポリマーとしては、特に限定されず、例えば、ポリスチレン、ポリ(α-メチルスチレン)、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、ポリシロキサン、ポリスルフォン、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、セルロース、ポリエチレン若しくはポリプロピレン等の絶縁性ポリマー、又は、これらの共重合体が挙げられる。これら以外にも、例えば、エチレン-プロピレンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、水素化されたニトリルゴム、フッ素ゴム、パーフルオロエラストマー、テトラフルオロエチレンプロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体、スチレン-ブタジエンゴム、ポリクロロプレン、ポリネオプレン、ブチルゴム、メチルフェニルシリコーン樹脂、メチルフェニルビニルシリコーン樹脂、メチルビニルシリコーン樹脂、フルオロシリコーン樹脂、アクリルゴム、エチレンアクリルゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、クロロポリエチレン、エピクロロヒドリン共重合体、ポリイソプレン-天然ゴム共重合体、ポリイソプレンゴム、スチレン-イソプレンブロック共重合体、ポリエステルウレタン共重合体、ポリエーテルウレタン共重合体、ポリエーテルエステル熱可塑性エラストマー若しくはポリブタジエンゴム等のゴム、又は、熱可塑性エラストマー重合体が挙げられる。更には、例えば、ポリビニルカルバゾール若しくはポリシラン等の光伝導性ポリマー、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン若しくはポリパラフェニレンビニレン等の導電性ポリマー、又は、Chemistry of Materials,2014,26,647.等に記載の半導体ポリマー等が挙げられる。
【0052】
バインダーポリマーは、電荷移動度を考慮すると、極性基を含まない構造を有することが好ましい。ここで、極性基とは、炭素原子及び水素原子以外のヘテロ原子を有する官能基をいう。極性基を含まない構造を有するバインダーポリマーとしては、上記の中でも、ポリスチレン又はポリ(α-メチルスチレン)が好ましい。また、半導体ポリマーも好ましい。
【0053】
バインダーポリマーのガラス転移温度は、特に限定されず、用途等に応じて適宜設定される。例えば、有機半導体膜に強固な機械的強度を付与する場合、ガラス転移温度を高くすることが好ましい。一方、有機半導体膜にフレキシビリティーを付与する場合、ガラス転移温度を低くすることが好ましい。
【0054】
バインダーポリマーは、一種単独で用いてもよいし、二種以上併用してもよい。有機半導体膜形成用組成物の、バインダーポリマーの含有率は、特に限定されず、例えば、固形分中の含有率としては、後述する有機半導体膜中のバインダーポリマーの含有率と同じ範囲にすることが好ましい。バインダーポリマーを含有した有機半導体膜形成用組成物を用いて有機半導体膜を形成すると、有機半導体膜の耐久性が更に向上する。バインダーポリマーの重量平均分子量は、特に限定されないが、1,000~1,000万が好ましく、3,000~500万がより好ましく、5,000~300万が更に好ましい。
【0055】
有機半導体膜形成用組成物において、本発明の高分子化合物(1)は、バインダーポリマーに対して、均一に混合していてもよく、本発明の高分子化合物(1)の一部又は全部が相分離していてもよい。塗布容易性又は塗布均一性の点で、少なくとも塗布時に本発明の高分子化合物(1)とバインダーポリマーとが均一に混合していることが好ましい。
【0056】
(溶媒)
有機半導体膜形成用組成物は、溶媒を含有していてもよい。このような溶媒としては、上述の高分子化合物(1)を溶解又は分散させるものであれば特に限定されず、無機溶媒又は有機溶媒が挙げられる。中でも、有機溶媒が好ましい。溶媒は、一種単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0057】
有機溶媒は、特に限定されないが、ヘキサン、オクタン、デカン、トルエン、キシレン、メシチレン、エチルベンゼン、アミルベンゼン、デカリン、1-メチルナフタレン、1-エチルナフタレン、1,6-ジメチルナフタレン若しくはテトラリン等の炭化水素溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、アセトフェノン、プロピオフェノン若しくはブチロフェノン等のケトン溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、テトラクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、クロロベンゼン、1,2-ジクロロベンゼン、1,2,4-トリクロロベンゼン、クロロトルエン若しくは1-フルオロナフタレン等のハロゲン化炭化水素溶媒、ピリジン、ピコリン、キノリン、チオフェン、3-ブチルチオフェン若しくはチエノ[2,3-b]チオフェン等の複素環溶媒、2-クロロチオフェン、3-クロロチオフェン、2,5-ジクロロチオフェン、3,4-ジクロロチオフェン、2-ブロモチオフェン、3-ブロモチオフェン、2,3-ジブロモチオフェン、2,4-ジブロモチオフェン、2,5-ジブロモチオフェン、3,4-ジブロモチオフェン若しくは3,4-ジクロロー1,2,5-チアジアゾール等のハロゲン化複素環溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸アミル、酢酸-2-エチルヘキシル、γ-ブチロラクトン若しくは酢酸フェニル等のエステル溶媒、メタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ若しくはエチレングリコール等のアルコール溶媒、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメトキシエタン、アニソール、エトキシベンゼン、プロポキシベンゼン、イソプロポキシベンゼン、ブトキシベンゼン、2-メチルアニソール、3-メチルアニソール、4-メチルアニソール、4-エチルアニソール、ジメチルアニソール(2,3-、2,4-、2,5-、2,6-、3,4-、3,5-、3,6-のいずれか)若しくは1,4-ベンゾジオキサン等のエーテル溶媒、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、1-メチル-2-ピロリドン、1-メチル-2-イミダゾリジノン若しくは1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等のアミド若しくはイミド溶媒、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド溶媒、リン酸トリメチル等のリン酸エステル溶媒、アセトニトリル若しくはベンゾニトリル等のニトリル溶媒、ニトロメタン若しくはニトロベンゼン等のニトロ溶媒が挙げられる。
【0058】
中でも、炭化水素溶媒、ケトン溶媒、ハロゲン化炭化水素溶媒、複素環溶媒、ハロゲン化複素環溶媒又はエーテル溶媒が好ましく、トルエン、キシレン、メシチレン、アミルベンゼン、テトラリン、アセトフェノン、プロピオフェノン、ブチロフェノン、ジクロロベンゼン、アニソール、エトキシベンゼン、プロポキシベンゼン、イソプロポキシベンゼン、ブトキシベンゼン、2-メチルアニソール、3-メチルアニソール、4-メチルアニソール、1-フルオロナフタレン、3-クロロチオフェン又は2,5-ジブロモチオフェンがより好ましく、トルエン、キシレン、テトラリン、アセトフェノン、プロピオフェノン、ブチロフェノン、アニソール、エトキシベンゼン、プロポキシベンゼン、ブトキシベンゼン、2-メチルアニソール、3-メチルアニソール、4-メチルアニソール、1-フルオロナフタレン、3-クロロチオフェン又は2,5-ジブロモチオフェンが特に好ましい。
【0059】
有機半導体膜形成用組成物中の、溶媒の含有量は90~99.95質量%であることが好ましく、95~99.9質量%であることがより好ましく、96~99.5質量%であることが更に好ましい。
【0060】
(その他の成分)
本発明の有機半導体膜形成用組成物は、本発明の高分子化合物(1)及び溶媒以外の成分を含有してもよい。このような成分として、各種の添加剤等が挙げられる。添加剤としては、有機半導体膜形成用組成物に通常用いられるものを特に制限されることなく、用いることができる。例えば、界面活性剤、酸化防止剤、結晶化制御剤又は結晶配向制御剤等が挙げられる。界面活性剤及び酸化防止剤としては、例えば、特開2015-195362号公報の段落番号0136及び0137の記載のものが挙げられ、この段落の記載がそのまま本明細書に好ましく取り込まれる。
有機半導体膜形成用組成物の、添加剤の含有率は、特に限定されず、例えば、固形分中の含有率としては、後述する有機半導体膜中の、添加剤の含有率と同じ範囲にすることが好ましい。添加剤の含有率が上記範囲にある有機半導体膜形成用組成物を用いて有機半導体膜を形成すると、膜形成性に優れ、有機半導体膜の耐熱性がより向上する。
【0061】
(調製方法)
有機半導体膜形成用組成物の調製方法としては、特に制限されず、通常の調製方法を採用することができる。例えば、所定量の各成分を混合機や撹拌機等で適宜混合処理することにより、本発明の有機半導体膜形成用組成物を調製することができる。必要により、各成分を適宜混合処理中又は後に加熱することもできる。加熱温度は、特に限定されず、例えば、40~150℃の範囲で行うことが好ましい。溶媒を用いる場合は、上記加熱温度の範囲であって溶媒の沸点未満の温度で行うことが好ましい。
【0062】
(有機半導体膜)
次に、本発明の有機半導体膜に関して説明する。本発明の有機半導体膜は、本発明の高分子化合物(1)を含んでいる。有機半導体膜の膜厚は、1nm~1000nmであることが好ましく、2nm~1000nmであることがより好ましく、5nm~500nmであることが更に好ましく、20nm~200nmであることが特に好ましい。
【0063】
有機半導体膜を製造する工程には、本発明の高分子化合物(1)を配向させる工程が含まれていてもよい。この工程により本発明の高分子化合物(1)を配向させてなる有機半導体膜は、本発明の高分子化合物(1)の主鎖部分又は側鎖部分が一方向に並ぶので、移動度が向上する。
【0064】
本発明の高分子化合物(1)を配向させる方法としては、液晶の配向手法として知られている方法等を用いることができる。液晶の配向手法の中でもラビング法、光配向法、シェアリング法(ずり応力印加法)、引き上げ塗布法が簡便かつ有用であるために利用し易く、ラビング法、シェアリング法がより好ましい。
【0065】
本発明の有機半導体膜は、電子輸送性又はホール輸送性を有することから、電極から注入された電子又はホール、或いは吸収した光によって発生した電荷を輸送制御することにより、有機トランジスタ、有機光電変換素子(有機薄膜太陽電池、光センサ等)等の有機半導体素子に用いることができる。本発明の有機半導体膜をこれら有機半導体素子に用いる場合は、本発明の高分子化合物(1)を配向処理により配向させて用いることが、電子輸送性又はホール輸送性を向上させる上でより好ましい。
【0066】
(有機半導体膜の製造方法)
本発明の有機半導体膜の製造方法は、本発明の有機半導体膜形成用組成物を、基板上に塗布する工程を有する方法であれば、特に限定されない。この工程においては、上述した、本発明の有機半導体膜形成用組成物を用いる。本発明において、有機半導体膜形成用組成物を基板上に塗布するとは、有機半導体膜形成用組成物を基板に直接塗布する態様のみならず、基板上に設けられた別の層を介して基板の上方に有機半導体膜形成用組成物を塗布する態様も含むものとする。有機半導体膜形成用組成物が塗布される別の層(有機半導体膜に接する、有機半導体膜の土台となる層)は、有機トランジスタの構造により必然的に定まる。例えば、ボトムゲート型の場合、ゲート絶縁膜であり、トップゲート型(トップゲート-ボトムコンタクト型及びトップゲート-トップコンタクト型)の場合、ソース電極又はドレイン電極である。
【0067】
有機半導体膜を形成する際に、基板を加熱又は冷却してもよい。基板の温度を変化させることで、良好な膜質を与えることができ、また、有機半導体膜中における本発明の高分子化合物(1)のパッキングを制御することができる。基板の温度としては、特に制限されない。例えば、0~200℃の範囲内で設定されることが好ましく、15~100℃の範囲内で設定されることがより好ましく、20~95℃の範囲内で設定されることが特に好ましい。
【0068】
有機半導体膜を形成する方法は、特に限定されず、真空プロセス又は溶液プロセスが挙げられ、いずれも好ましい。
【0069】
真空プロセスとしては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、若しくは、分子ビームエピタキシー(Molecular Beam Epitaxy:MBE)法等の物理気相成長法、又は、プラズマ重合等の化学気相蒸着(Chemical Vapor Deposition:CVD)法が挙げられる。中でも、真空蒸着法が好ましい。
【0070】
本発明の高分子化合物(1)は、上述のように大気下においても安定である。したがって、溶液プロセスは大気下において行うことができ、更には、本発明の有機半導体膜形成用組成物を大面積で塗布することができる。
溶液プロセスにおける、有機半導体膜形成用組成物の塗布方法としては、通常の方法を用いることができる。例えば、ドロップキャスト法、キャスト法、ディップコート法、ダイコーター法、ロールコーター法、バーコーター法、若しくは、スピンコート法等の塗布法、インクジェット法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソグラフィー印刷法、オフセット印刷法、若しくは、マイクロコンタクト印刷法等の各種印刷法、又は、Langmuir-Blodgett(LB)法等の方法が挙げられる。中でも、ドロップキャスト法、キャスト法、スピンコート法、インクジェット法、グラビア印刷法、フレキソグラフィー印刷法、オフセット印刷法又はマイクロコンタクト印刷法が好ましい。
【0071】
溶液プロセスにおいては、好ましくは、基板上に塗布した有機半導体膜形成用組成物を乾燥する。乾燥は徐々に行うことが更に好ましい。
有機半導体膜形成用組成物の乾燥は、加熱した基板上で、自然乾燥又は加熱乾燥させてから、減圧乾燥することが、良好な膜質を得るという点で、好ましい。自然乾燥又は加熱乾燥時の基板の温度は、20~100℃であることが好ましく、20~80℃であることがより好ましい。自然乾燥又は加熱乾燥時間は0.5~20時間であることが好ましく、1~10時間であることがより好ましい。
減圧乾燥時の温度は、20~100℃であることが好ましく、20~80℃であることがより好ましい。減圧乾燥時間は1~20時間であることが好ましく、2~10時間であることがより好ましい。減圧乾燥時の圧力は、10-6~10-2Paであることが好ましく、10-5~10-3Paであることがより好ましい。
このようにして乾燥した有機半導体膜形成用組成物を必要により成形等して、所定の形状又はパターンとすることもできる。
【0072】
(有機トランジスタ)
次に、本発明の高分子化合物(1)を用いた上述の有機半導体素子の中でも好ましい形態である、本発明の有機薄膜トランジスタ(organic thin film transistor、有機TFTともいう)について、説明する。
本発明の有機トランジスタは、上述した本発明の有機半導体膜を備えている。これにより、本発明の有機トランジスタは、高い移動度を示し、しかも大気下に置いても経時による半導体特性の低下を効果的に抑えられ、安定的に駆動する。本発明において、大気下での周辺温度又は湿度は、有機トランジスタの使用環境での温度又は湿度であれば特に限定されず、例えば温度としては室温(25±15℃)、湿度としては10~90RH%が挙げられる。
【0073】
本発明の有機トランジスタは、電界効果型トランジスタ(Field Effect Transistor、FET)として用いられることが好ましく、ゲート-チャネル間が絶縁されている絶縁ゲート型FETとして用いられることがより好ましい。本発明の有機トランジスタの厚さは、特に限定されないが、より薄いトランジスタとする場合には、例えば、トランジスタ全体の厚さを0.1~0.5μmとすることが好ましい。
【0074】
本発明の有機トランジスタは、本発明の有機半導体膜(有機半導体層又は半導体活性層ともいう)を有し、更に、ソース電極と、ドレイン電極と、ゲート電極と、ゲート絶縁膜を有することができる。
本発明の有機トランジスタは、基板上に、ゲート電極と、有機半導体膜と、ゲート電極及び有機半導体膜の間に設けられたゲート絶縁膜と、有機半導体膜に接して設けられ、有機半導体膜を介して連結されたソース電極及びドレイン電極とを有する。この有機トランジスタにおいては、有機半導体膜とゲート絶縁膜が隣接して設けられる。
本発明の有機トランジスタは、上記各層を備えていればその構造については特に限定されない。例えば、ボトムコンタクト型(ボトムゲート-ボトムコンタクト型及びトップゲート-ボトムコンタクト型)、又は、トップコンタクト型(ボトムゲート-トップコンタクト型及びトップゲート-トップコンタクト型)等のいずれの構造を有していてもよい。本発明の有機トランジスタは、より好ましくは、ボトムゲート-ボトムコンタクト型又はボトムゲート-トップコンタクト型(これらを総称してボトムゲート型という)である。
【0075】
基板の材料は、有機トランジスタとしての特性を阻害しない材料であればよく、特に限定されない。基板としては、例えば、ガラス基板、シリコン基板、フレキシブルであってもよいフィルム基板及びプラスチック基板を用いることができる。
【0076】
有機半導体層の形成においては、塗布が可能なように、有機溶媒に可溶性を示す本発明の高分子化合物(1)を用いることが、溶液プロセスによる塗布を可能にし、有機トランジスタを製造する上で有利であるので好ましい。本発明の高分子化合物は優れた溶解性を有していることから、上述した有機半導体膜の製造方法を採用することにより、有機半導体層となる有機薄膜を良好に形成することができる。
【0077】
絶縁層の材料は、電気の絶縁性が高い材料であればよく、公知の材料を用いることができる。絶縁層の材料としては、例えば、SiOx、SiNx、Ta、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルフェノール、有機ガラス及びフォトレジストが挙げられる。低電圧化を達成するという観点から、絶縁層は、誘電率の高い材料で形成されていることが望ましい。
【0078】
絶縁層上に有機半導体層を形成する場合は、絶縁層と有機半導体層との界面特性を改善するために、絶縁層の表面をシランカップリング剤等の表面処理剤で処理して表面改質した後に、有機半導体層を形成することも可能である。表面処理剤としては、長鎖アルキルクロロシラン類、長鎖アルキルアルコキシシラン類、アリールアルキルクロロシラン類、アリールアルキルアルコキシシラン類、フッ素化アルキルクロロシラン類、フッ素化アルキルアルコキシシラン類、ヘキサメチルジシラザン等のシリルアミン化合物が挙げられる。表面処理剤で処理する前に、絶縁層の表面をオゾンUV、Oプラズマで処理しておくことも可能である。
【0079】
ゲート電極、ソース電極、ドレイン電極の材料としては、例えば、アルミニウム、金、銀、銅、アルカリ金属、アルカリ土類金属等の金属、及びそれらの半透明膜、透明導電膜が挙げられる。
【0080】
また、作製された有機トランジスタを保護するために、当該有機トランジスタ上に保護膜を形成することが好ましい。これにより、有機トランジスタが大気から遮断され、有機トランジスタの特性の低下を抑えることができる。また、保護膜により、有機トランジスタによって駆動する表示デバイスを当該有機トランジスタ上に形成する工程における、外部からの影響を低減することができる。
【0081】
保護膜の材料としては、例えばUV硬化樹脂、熱硬化樹脂、及び無機化合物であるシリコン酸窒化膜(SiONx膜)が挙げられる。有機トランジスタを保護する方法としては、例えば、当該有機トランジスタ表面に、UV硬化樹脂、熱硬化樹脂又はSiONx膜からなる保護膜を形成する(有機トランジスタを保護膜でカバーする)方法が挙げられる。大気との遮断を効果的に行うため、有機トランジスタを作製後、保護膜を形成するまでの工程は、有機トランジスタを大気に曝すことのない雰囲気下、例えば乾燥した窒素雰囲気下、又は真空下で行うことが好ましい。
【0082】
このような電界効果型有機トランジスタは、公知の方法、例えば、特開平5-110069号公報に記載の方法に準じて製造することができる。また、静電誘導型有機トランジスタは、公知の方法、例えば、特開2004-006476号公報に記載の方法に準じて製造することができる。
【0083】
(有機トランジスタの用途)
本発明の高分子化合物(1)は、π共役系が拡張された構造であるため、強い分子間相互作用を持ち、高い結晶性を有する。これらのことから、有機トランジスタの活性層に用いた場合、移動度等の特性が良好である。上述の有機トランジスタは、その用途については特に限定されず、例えば、電子ペーパー、ディスプレイデバイス、センサ、電子タグ等に使用することができる。
【0084】
(有機薄膜太陽電池材料)
本発明の高分子化合物(1)は、有機薄膜太陽電池材料に用いることができる。有機薄膜太陽電池材料は、湿式成膜法等の塗布法によって有機薄膜太陽電池の光活性層を形成することができる。高分子化合物(1)は、所謂p型有機半導体として、電子供与体の機能を発揮する。
【0085】
有機薄膜太陽電池材料は、本発明の高分子化合物(1)のみを含んでいても、他の有機薄膜太陽電池材料や他の成分を含んでいてもよい。有機薄膜太陽電池材料は、電子受容体としての機能を発揮する電子受容性化合物を含むことが好ましい。電子受容性化合物は、所謂n型半導体材料として機能する化合物であればよく、公知の化合物を用いることができ、例えば、フラーレン系材料や非フラーレン系化合物が挙げられる。
【0086】
非フラーレン系化合物を高分子化合物(1)と混合して光活性層を形成すると優れた光電変換効率が得られるため好ましく、非フラーレン系化合物としては、次のような化合物が挙げられる。
Y6(2,2’-((2Z,2’Z)-((12,13-ビス(2-エチルへキシル)-3,9-ジウンデシル-12,13-ジハイドロ-[1,2,5]チアジアゾロ[3,4-e]チエノ[2’’,3’’:4’,5’]チエノ[2’,3’:4,5]ピロロ[3,2-g]チエノ[2’,3’:4,5]チエノ[3,2-b]インドール-2,10-ジイル)ビス(メタアニリデン))ビス(5,6-ジフルオロ-3-オキソ-2,3-ジハイドロ-1H-インデン-2,1-ジイリデン))ジマロノニトリル)
Y6-5(12,13-ビス(2-エチルへキシル)-3,9-ジウンデシル-12,13-ジハイドロ-[1,2,5]チアジアゾロ[3,4-e]チエノ[2’’,3’’:4’,5’]チエノ[2’,3’:4,5]ピロロ[3,2-g]チエノ[2’,3’:4,5]チエノ[3,2-b]インドール-2,10-ジカルボアルデヒド)
Y7(2,2’-((2Z,2’Z)-((12,13-ビス(2-エチルへキシル)-3,9-ジウンデシル-12,13-ジハイドロ-[1,2,5]チアジアゾロ[3,4-e]チエノ[2’’,3’’:4’,5’]チエノ[2’,3’:4,5]ピロロ[3,2-g]チエノ[2’,3’:4,5]チエノ[3,2-b]インドール-2,10-ジイル)ビス(メタアニリデン))ビス(5,6-ジクロロ-3-オキソ-2,3-ジハイドロ-1H-インデン-2,1-ジイリデン))ジマロノニトリル)
Y12(2,2’-((2Z,2’Z)-((12,13-ビス(2-ブチルオクチル)-3,9-ジウンデシル-12,13-ジハイドロ-[1,2,5]チアジアゾロ[3,4-e]チエノ[2’’,3’’:4’,5’]チエノ[2’,3’:4,5]ピロロ[3,2-g]チエノ[2’,3’:4,5]チエノ[3,2-b]インドール-2,10-ジイル)ビス(メタアニリデン))ビス(5,6-ジフルオロ-3-オキソ-2,3-ジハイドロ-1H-インデン-2,1-ジイリデン))ジマロノニトリル)
BTP-eC9(2,2’-[[12,13-ビス(2-ブチルオクチル)-12,13-ジハイドロ-3,9-ジノニルジチエノ[2’’,3’’:4’,5’]チエノ[2’,3’:4,5]ピロロ[3,2-e:2’,3’-g][2,1,3]ベンゾチアジアゾロ-2,10-ジイル]ビス[メタアニリデン(5,6-クロロ-3-オキソ-1H-インデン-2,1(3H)-ジイリデン)]]ビス[プロパンジニトリル])
IT-4F(3,9-ビス(2-メチレン-((3-1,1-ジシアノメチレン)-6,7,-ジフルオロ)-インダノン))-5,5,11,11,-テトラキス(4-ヘキシルフェニル)-ジチエノ[2,3-d:2’,3’-d’]-s-インダセノ[1,2-b:5,6-b’]ジチオフェン)
【0087】
(有機薄膜太陽電池)
有機薄膜太陽電池は、上述した有機薄膜太陽電池材料を光活性層に用いる。有機薄膜太陽電池の構造は、一対の電極の間に光活性層を備える構造であれば特に制限されない。有機薄膜太陽電池の構成は、例えば、以下の態様が挙げられる。なお、p層、p材料とは、上述した有機薄膜太陽電池材料を含有する層、材料であり、n層、n材料とは、上述した電子受容性化合物を含有する層、材料を表す。
(A)電極/p材料とn材料の混合層/電極
(B)電極/p層/p材料とn材料の混合層/n層/電極
(C)電極/p層/n層/電極
【0088】
本発明の高分子化合物(1)は、π共役系が拡張された構造であるため、強い分子間相互作用を持ち、高い結晶性を有する。これらのことから、有機薄膜太陽電池の光活性層に用いた場合、光電変換効率等の特性が良好である。
【実施例0089】
以下、実施例に基づき、ジチエノチオフェンナフトビスチアジアゾール(TTNT)を有する高分子化合物(1)の合成、物性、有機薄膜太陽電池、有機トランジスタの特性について説明する。本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0090】
<合成例1>
(化合物2の合成)
化合物1を「NPG Asia Mater.10,1016-1028(2018)」を参考に予め合成した。
アルゴン雰囲気下、還流管を接続した100mLの三口フラスコに、化合物1(360mg,0.28mmol)、ナトリウムメタンチオラート(NaSMe)(49.4mg,0.71mmol)を入れ、N,N-ジメチルホルムアミド(15mL)、テトラヒドロフラン(15mL)の混合溶媒を加え80℃で1時間撹拌した。反応溶液に水を加え、クロロホルム(30mL)で三回抽出した。有機層を食塩水(30mL)と水(30mL)でそれぞれ洗浄し、無水硫酸ナトリウムを用いて乾燥した。その後、ろ過、濃縮を行い、ヘキサン:酢酸エチル(20:1)混合溶媒を展開溶媒としたシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製することで化合物2(350mg,0.26mmol,収率93%)を橙色固体で得た。反応式を以下に示す。
【0091】
【化12】
【0092】
化合物2の物性データは次の通りである。 H NMR(400MHz,CDCl3):δ7.48(s,2H),2.62(d,J=7.3Hz,4H),2.28(s,6H),1.76(m,2H),1.18‐1.41(m,80H),0.87(m,12H).
【0093】
<合成例2>
(化合物3の合成)
アルゴン雰囲気下、還流管を接続した100mLの三口フラスコに、化合物2(310mg,0.23mmol)、クロロホルム(30mL)を入れ、クロロホルム(5mL)に溶かしたメタクロロ過安息香酸(80.3mg)を0℃で加え、室温で1時間撹拌した。反応溶液に炭酸水素ナトリウム水溶液を加え、クロロホルム(30mL)で三回抽出した。有機層を食塩水(30mL)と水(30mL)でそれぞれ洗浄し、無水硫酸ナトリウムを用いて乾燥した。その後、ろ過、濃縮を行い、ヘキサン:酢酸エチル(5:1)混合溶媒を展開溶媒としたシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製することで化合物3(312mg,0.23mmol,収率98%)を橙色固体で得た。反応式を以下に示す。
【0094】
【化13】
【0095】
化合物3の物性データは次の通りである。H NMR(400MHz,CDCl3):H NMR(400MHz,CDCl3):δ7.07(d,J=3.4Hz,2H),3.72(q,J=6.2Hz,2H),3.56(d,J=3.6Hz,6H),1.77(m,2H),1.41‐1.18(m,80H),0.87(m,12H).
【0096】
<合成例3>
(化合物4の合成)
アルゴン雰囲気下、100mLの三口フラスコに、化合物3(68.0mg,0.05mmol)、トリフルオロ酢酸(14mL)を入れた。反応溶液を0℃に降温し、酸化リン(142mg,0.50mmol)を素早く加え、50℃で一晩撹拌した。0℃に降温し、反応溶液に水を加え、クロロホルム(30mL)で三回抽出した。有機層を食塩水(30mL)と水(30mL)でそれぞれ洗浄し、無水硫酸ナトリウムを用いて乾燥した。その後、ろ過、濃縮を行い、アルゴン雰囲気下、還流間を接続した100mLの三口フラスコに入れた。ピリジン(48mL)を加え130℃で一晩撹拌した。反応溶液に希塩酸を加え、クロロホルム(30mL)で三回抽出した。有機層を食塩水(30mL)と水(30mL)でそれぞれ洗浄し、無水硫酸ナトリウムを用いて乾燥した。その後、ろ過、濃縮を行い、ヘキサンを展開溶媒としたシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製することで化合物4(33.0mg,0.03mmol,収率51%)を橙色固体で得た。反応式を以下に示す。
【0097】
【化14】
【0098】
化合物4の物性データは次の通りである。H NMR(400MHz,CDCl3):H NMR(400MHz,CDCl3):δ7.07(d,J=3.4Hz,2H),3.72(q,J=6.2Hz,2H),3.56(d,J=3.6Hz,6H),2.62(dd,J=7.2Hz2.4Hz,4H)1.77(m,2H),1.41‐1.18(m,80H),0.84(m,12H).
【0099】
<合成例4>
(高分子化合物P1の合成)
5,5’-ビス(トリメチルスタニル)-2,2’-ビスチオフェン(化合物5)は、「Adv.Mater.,27,4655,(2015)」を参考に予め合成した。
化合物4(26mg,0.02mmol)、5,5’-ビス(トリメチルスタニル)-2,2’-ビスチオフェン(9.8mg,0.02mmol)、トルエン(2mL)を反応用バイアルに入れ30分間アルゴンでバブリングを行った。続いて、触媒としてテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0.46mg,0.0004mmol)を加えて、アルゴン封入し、密栓した。マイクロウェーブ反応装置を用いて、200℃で2時間反応させた。その後、室温まで冷却後、反応液を5質量%塩酸/メタノール溶液に注ぎ込み、3時間撹拌した。沈殿した固体を濾取し、ソックスレー抽出器を用いて、メタノール、n-ヘキサン、ジクロロメタン、クロロホルムで洗浄した後、クロロベンゼンで抽出した。得られた溶液を濃縮し、メタノールに再沈殿することで、高分子化合物P1(22mg,収率85%)を黒色固体として得た(数平均分子量23,000、分散度2.8)。反応式を以下に示す。
【0100】
【化15】
【0101】
本発明の高分子化合物(1)としては、例えば、以下の表1に示した化合物が挙げられる。Arの結合手を*にて示す。これらの化合物は、前述の高分子化合物(1)の製造方法、及び、実施例の記載に準じて製造することができる。
【0102】
【表1】
【0103】
次いで、合成した高分子化合物P1を用いて有機薄膜太陽電池素子及び有機トランジスタ素子を作製し、光電変換効率、移動度等を評価した。
【0104】
(高分子化合物P1を用いた太陽電池素子1の評価)
酸化インジウムスズ(ITO)膜がパターンニングされたガラス基板を十分洗浄後、UVオゾン処理を行った。次に、ZnOメタノール分散液を1200rpmで10秒間スピンコートし、ITOが露出するように端をふき取った。正孔取り出し層を成膜した基板をグローブボックス内に持ち込み、高分子化合物P1と、n型低分子材料であるPC61BM([6,6]-Phenyl-C61-butyric acid methyl ester)を含むクロロベンゼン溶液(高分子化合物P1/PC61BMの重量比=1/2)を用いて、スピンコートにより光活性層(高分子化合物P1/PC61BM=約300nm)を形成した。次いで、厚さ7.5nmの酸化モリブデン膜と、電極層として厚さ100nmの銀膜を、抵抗加熱型真空蒸着法により順次成膜し、直径4mmの有機薄膜太陽電池素子1(高分子化合物P1/PC61BM)を作製した。
【0105】
(高分子化合物P1を用いた太陽電池素子2の評価)
酸化インジウムスズ(ITO)膜がパターンニングされたガラス基板を十分洗浄後、UVオゾン処理を行った。次に、ZnOメタノール分散液を1200rpmで10秒間スピンコートし、ITOが露出するように端をふき取った。正孔取り出し層を成膜した基板をグローブボックス内に持ち込み、高分子化合物P1と、n型低分子材料であるY12(2,2’-((2Z,2’Z)-((12,13-ビス(2-ブチルオクチル)-3,9-ジウンデシル-12,13-ジハイドロ-[1,2,5]チアジアゾロ[3,4-e]チエノ[2’’,3’’:4’,5’]チエノ[2’,3’:4,5]ピロロ[3,2-g]チエノ[2’,3’:4,5]チエノ[3,2-b]インドール-2,10-ジイル)ビス(メタアニリデン))ビス(5,6-ジフルオロ-3-オキソ-2,3-ジハイドロ-1H-インデン-2,1-ジイリデン))ジマロノニトリル)を含むクロロベンゼン溶液(高分子化合物P1/Y12の重量比=1/2)を用いて、スピンコートにより光活性層(高分子化合物P1/Y12=約100nm)を形成した。次いで、厚さ7.5nmの酸化モリブデン膜と、電極層として厚さ100nmの銀膜を、抵抗加熱型真空蒸着法により順次成膜し、直径4mmの有機薄膜太陽電池素子2(高分子化合物P1/Y12)を作製した。Y12の化学式を以下に示す。
【0106】
【化16】
【0107】
得られた有機薄膜太陽電池素子にソーラシミュレーター(AM1.5Gフィルター、放射照度100mW/cm)を用いて一定の光を照射し、発生する電流と電圧を測定した。有機薄膜太陽電池素子1と有機薄膜太陽電池素子2の電流密度-電圧特性の図を図1及び図2に示す。
【0108】
得られた結果から、短絡電流密度Jsc(mAcm-2)、短絡電流密度Jsc(mAcm-2)(EQE)、開放電圧Voc(V)、曲線因子FFを求め、表2にまとめた。有機薄膜太陽電池素子1について、Jsc=8.9mA/cm、Jsc(EQE)=9.5mA/cm、Voc=0.70V、FF=0.67であり、光電変換効率(η)を、式η=(Jsc×Voc×FF)/100より算出したところ、4.1%であった。また、有機薄膜太陽電池素子2について、Jsc=17.4mA/cm、Jsc(EQE)=17.3mA/cm、Voc=0.73V、FF=0.65であり、光電変換効率(η)を、式η=(Jsc×Voc×FF)/100より算出したところ、8.3%であった。
【0109】
【表2】
【0110】
(高分子化合物P1を用いた有機電界効果トランジスタの評価:ボトムゲート・ボトムコンタクト型)
ゲート電極となる300nm厚のシリコン酸化膜の上にソース電極及びドレイン電極となる金電極がパターニングされた高濃度にドーピングされたp型シリコン基板を十分洗浄した後、p型シリコン基板のシリコン酸化膜表面をオクタデシルトリクロロシランにより処理した。高分子化合物P1をクロロベンゼン溶媒に加熱溶解して、2g/Lの溶液を調製し、上記の表面処理をしたp型シリコン基板上にスピンコート法で約50nm厚のポリマー薄膜を作製した。この薄膜を窒素雰囲気下にて、200℃で30分間加熱した。このようにして、チャネル長20μm、チャネル幅10000μmのボトムゲート・ボトムコンタクト型トランジスタ素子(有機トランジスタ素子1)を作製した。
【0111】
(高分子化合物P1を用いた有機電界効果トランジスタの評価:トップゲート・ボトムコンタクト型)
ソース電極及びドレイン電極となる金電極がパターニングされたガラス基板を十分洗浄した後、金電極表面をオクタンチオールにより処理した。高分子化合物P1をクロロベンゼン溶媒に加熱溶解して、2g/Lの溶液を調製し、上記表面処理したガラス基板上にスピンコート法で約50nm厚のポリマー薄膜を作製した。この薄膜を窒素雰囲気下にて、200℃で30分間加熱した。続いて、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)の2―ブタノン溶液をスピンコート法で塗布し、約550nm厚のPMMA絶縁層を作製した。最後に、PMMA絶縁層上に銀を真空蒸着し、100nm厚のゲート電極を形成した。このようにして、チャネル長20μm、チャネル幅10000μmのトップゲート・ボトムコンタクト型トランジスタ素子(有機トランジスタ素子2)を作製した。
【0112】
真空下、作製したボトムゲート・ボトムコンタクト型トランジスタ素子1及びトップゲート・ボトムコンタクト型トランジスタ素子2に、ゲート電圧Vgを20~-80V、ソース・ドレイン間電圧Vdを0~-60Vに変化させて、トランジスタ特性を測定した。図3図4に伝達特性を示す。
【0113】
得られた結果から、ホール移動度μ(cm-1 -1)、閾値電圧Vth(V)、オン/オフ比Ion/offを求め、表3にまとめた。高分子化合物P1を用いた素子は優れたホール移動度を示した。
【0114】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明に係る高分子化合物は、より一層優れた光電変換効率を有する有機薄膜太陽電池、又はより一層優れた移動度を有する有機トランジスタ等に有用である。
図1
図2
図3
図4