(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023130192
(43)【公開日】2023-09-20
(54)【発明の名称】熱電変換材料、熱電変換材料を用いた熱電発電モジュール及びペルチェ冷却モジュール
(51)【国際特許分類】
H10N 10/852 20230101AFI20230912BHJP
【FI】
H01L35/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022034723
(22)【出願日】2022-03-07
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「未利用熱エネルギーの革新的活用技術研究開発/小規模研究開発/ナノ構造を利用したフォノンとキャリア輸送の同時制御による熱電性能指数の飛躍的向上」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】太田 道広
(72)【発明者】
【氏名】ジュド プリヤンカ
(57)【要約】
【課題】広い温度域で高い無次元熱電性能指数を有する熱電変換材料、および熱電変換材料を用いた熱電発電モジュール及びペルチェ冷却モジュールを提供する。
【解決手段】本発明に係る熱電変換材料は、PbTeを含む基材と、前記基材中に含まれる、価数が+1のイオン半径が、価数が+2のPbのイオン半径よりも小さい元素からなる群から選択される少なくとも一つの元素と、を含み、価数が+1のイオン半径が、価数が+2のPbのイオン半径よりも小さい前記元素は、価数が+1のイオンとして前記基材中に含まれ、かつ含有量が、0at%超10.0at%未満であることを特徴とする。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
PbTeを含む基材と、
前記基材中に含まれる、価数が+1のイオン半径が、価数が+2のPbのイオン半径よりも小さい元素からなる群から選択される少なくとも一つの元素と、を含み、
価数が+1のイオン半径が、価数が+2のPbのイオン半径よりも小さい前記元素は、価数が+1のイオンとして前記基材中に含まれ、かつ含有量が、0at%超10.0at%未満である
ことを特徴とする熱電変換材料。
【請求項2】
n型半導体である
ことを特徴とする請求項1に記載の熱電変換材料。
【請求項3】
Pb1-xAxMzTeの組成式で表され、
Aは第13族元素からなる群から選択される少なくとも一つの元素であり、
Mは第1族元素、第10族元素及び第11族元素からなる群から選択される少なくとも一つの元素であり、
zは0超0.10未満である
ことを特徴とする請求項1または2に記載の熱電変換材料。
【請求項4】
前記AがGaである
ことを特徴とする請求項3に記載の熱電変換材料。
【請求項5】
前記MがCuである
ことを特徴とする請求項3または4に記載の熱電変換材料。
【請求項6】
前記xが0.02以上0.04以下である
ことを特徴とする請求項3~5のいずれか一項に記載の熱電変換材料。
【請求項7】
前記zは0超0.06以下である
ことを特徴とする請求項3~6のいずれか一項に記載の熱電変換材料。
【請求項8】
前記xが0.02である
ことを特徴とする請求項3~7のいずれか一項に記載の熱電変換材料。
【請求項9】
前記zは0.01以上0.04以下である
ことを特徴とする請求項3~8のいずれか一項に記載の熱電変換材料。
【請求項10】
600K~900Kで、ゼーベック係数Sは-210μVK-1以上であり、電気抵抗率ρは35μΩm以下である
ことを特徴とする請求項3~9のいずれか一項に記載の熱電変換材料。
【請求項11】
600K~900Kの無次元熱電性能指数ZTの平均値は、1.00超である
ことを特徴とする請求項3~10のいずれか一項に記載の熱電変換材料。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の熱電変換材料を有する
ことを特徴とする熱電発電モジュール。
【請求項13】
請求項1~11のいずれか一項に記載の熱電変換材料を有する
ことを特徴とするペルチェ冷却モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電変換材料、熱電変換材料を用いた熱電発電モジュール及びペルチェ冷却モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
熱電変換とは、半導体である固体素子を用いて熱エネルギーと電気エネルギーとを直接変換することである。熱電変換は、熱電発電とペルチェ冷却の総称である。熱電変換を利用した熱電発電は、ゼーベック効果に基づく温度勾配により発電する。熱電発電モジュールを用いることで、自動車、工業炉、データセンターなどで生じる廃熱などの未利用熱エネルギーから電気を作り出すことができるので、エネルギー危機の克服や二酸化炭素の排出削減に多大なる貢献をもたらす。
【0003】
一方、熱電変換を利用した熱電(ペルチェ)冷却は、ペルチェ効果を用いて、電流の流れに伴って熱の流れを作り出す。ペルチェ効果を利用したペルチェ冷却モジュールは可動部がないので、長寿命で、小型化でき、持ち運びも容易である。
【0004】
熱電変換モジュール(熱電発電モジュール及びペルチェ冷却モジュール)には、熱エネルギーと電気エネルギーとを直接変換することができる熱電変換材料を必要とする。熱電変換材料の性能は、無次元熱電性能指数ZTで表され、具体的には、ZT=S2T/(ρκtotal)である。ここで、Zは熱電変換材料の熱電性能指数、Tは絶対温度、Sは熱電変換材料のゼーベック係数、ρは熱電変換材料の電気抵抗率、κtotalは熱電変換材料の熱伝導率である。熱電変換材料の熱伝導率κtotalは、κtotal=κlat+κeleで表される。κlatは格子熱伝導率であり、κeleは電子熱伝導率である。
【0005】
熱電発電モジュール及びペルチェ冷却モジュールの性能は、熱電変換モジュールが作動する温度域での無次元性能指数ZTの平均値によって決まる。テルル化鉛PbTeは中高温度域(600K~900K)で比較的高いZTを示すので、600K~900Kの温度域でのZTの平均値を最大化するには有利な材料である。
【0006】
特許文献1には、熱電変換材料であって、PbTeを含む基材と、基材中にC、Si、GeおよびSnからなる群から選択された少なくとも一つの元素(M)と第1族元素、第11族元素および第13族元素からなる群から選択された少なくとも一つの元素(A)とを含むナノ析出物と、を含み、Pb1-x-yAyMxTeの組成式で表され、xおよびyは、Pb、MおよびAの総量に対して、それぞれM、Aの原子比を表し、xが0.002以上でかつ0.012以下であり、yが0よりも大きく0.1以下である、熱電変換材料が開示されている。
【0007】
非特許文献1には、熱電変換材料であって、PbTeを含む基材と、基材中にGaを含み、Pb1-xGaxTeの組成式で表され、xが0.005以上でかつ0.035以下である、熱電変換材料が開示されている。この材料の無次元熱電性能指数ZTは、室温から750Kまでは温度と共に上昇するが、それより高い温度で減少に転じるため、600K~900Kの温度での平均の無次元熱電性能指数ZTは低い値に留まる。
【0008】
非特許文献2には、熱電変換材料であって、PbTeを含む基材と、基材中にCuを含み、PbTe-xCu2Teの組成式で表されxが0.02以上でかつ0.065以下である、熱電変換材料が開示されている。この材料の無次元熱電性能指数ZTは、室温から750Kまでは温度と共に上昇するが、それより高い温度で減少に転じるため、600K~900Kの温度での平均の無次元熱電性能指数ZTは低い値に留まる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】X.L. Su, S.Q. Hao, T. P. Bailey, S. Wang, I. Hadar, G.G. Tan, T.-B. Song, Q.J. Zhang, C. Uher, C. Wolverton, X.F. Tang, and M. G. Kanatzidis, “Weak electron phonon coupling and deep level impurity for high thermoelectric performance Pb1-xGaxTe”, Advanced Energy Materials, Vol. 8, pp 1800659:1-11, 2018.
【非特許文献2】Y. Xiao, H.J. Wu, W. Li, M.J. Yin, Y.L. Pei, Y. Zhang, L.W. Fu, Y.X. Chen, S. J. Pennycook, L. Huang, J.Q. He, and L.-D. Zhao, “Remarkable roles of Cu to synergistically optimize phonon and carrier transport in n-type PbTe-Cu2Te”, Journal of the American Chemical Society, Vol. 139, pp 18732-18738, 2017.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、熱電変換材料の電気的な特性と熱的な特性を調整することは簡単ではなく、無次元熱電性能指数ZTを最適化するためには元素の組み合わせなどを探索する必要がある。
【0012】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、広い温度域で高い無次元熱電性能指数ZTを有する熱電変換材料、および熱電変換材料を用いた熱電発電モジュール及びペルチェ冷却モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するために、本発明の一様態は以下の手段を提供している。
(1)本発明の一様態に係る熱電変換材料は、PbTeを含む基材と、
前記基材中に含まれる、価数が+1のイオン半径が、価数が+2のPbのイオン半径よりも小さい元素からなる群から選択される少なくとも一つの元素と、を含み、
価数が+1のイオン半径が、価数が+2のPbのイオン半径よりも小さい前記元素は、価数が+1のイオンとして前記基材中に含まれ、かつ含有量が、0at%超10.0at%未満である
ことを特徴とする。
(2)n型半導体である
ことを特徴とする(1)に記載の熱電変換材料。
(3)Pb1-xAxMzTeの組成式で表され、
Aは第13族元素からなる群から選択される少なくとも一つの元素であり、
Mは第1族元素、第10族元素及び第11族元素からなる群から選択される少なくとも一つの元素であり、
xは0.01以上0.04以下であり、
zは0超0.06未満である
ことを特徴とする(1)または(2)に記載の熱電変換材料。
(4)前記AがGaである
ことを特徴とする(3)に記載の熱電変換材料。
(5)前記MがCuである
ことを特徴とする(3)または(4)に記載の熱電変換材料。
(6)前記xが0.02以上0.04以下である
ことを特徴とする(3)~(5)のいずれか一項に記載の熱電変換材料。
(7)前記zは0超0.04以下である
ことを特徴とする(3)~(6)のいずれか一項に記載の熱電変換材料。
(8)前記xが0.02である
ことを特徴とする(3)~(7)のいずれか一項に記載の熱電変換材料。
(9)前記zは0.01以上0.04以下である
ことを特徴とする(3)~(8)のいずれか一項に記載の熱電変換材料。
(10)600K~900Kで、ゼーベック係数Sは-210μVK-1以上であり、電気抵抗率ρは35μΩm以下である
ことを特徴とする(3)~(9)のいずれか一項に記載の熱電変換材料。
(11)600K~900Kの無次元熱電性能指数ZTの平均値は、1.00超である
ことを特徴とする(3)~(10)のいずれか一項に記載の熱電変換材料。
(12)(1)~(11)のいずれか一項に記載の熱電変換材料を有する
ことを特徴とする熱電発電モジュール。
(13)(1)~(11)のいずれか一項に記載の熱電変換材料を有する
ことを特徴とするペルチェ冷却モジュール。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、熱電変換材料を提供することができる。また、広い温度域で高い無次元熱電性能指数を有する熱電変換材料、および熱電変換材料を用いた熱電発電モジュール及びペルチェ冷却モジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明の実験例に係る熱電変換材料の走査型電子顕微鏡(SEM)の写真及びエネルギー分散型X線分析(EDS)による元素マッピングを示す図である。
【
図2】
図2は、本発明の実験例に係る熱電変換材料の粉末X線回折の回折パターンを示す図である。
【
図3】
図3は、本発明の実験例に係る熱電変換材料のゼーベック係数の温度依存性を示す図である。
【
図4】
図4は、本発明の実験例に係る熱電変換材料の電気抵抗率の温度依存性を示す図である。
【
図5】
図5は、本発明の実験例に係る熱電変換材料の出力因子の温度依存性を示す図である。
【
図6】
図6は、本発明の実験例に係る熱電変換材料の熱伝導率の温度依存性を示す図である。
【
図7】
図7は、本発明の実験例に係る熱電変換材料の格子熱伝導率の温度依存性を示す図である。
【
図8】
図8は、本発明の実験例に係る熱電変換材料の無次元熱電性能指数の温度依存性を示す図である。
【
図9】
図9は、本発明の実施形態に係る熱電発電モジュールの模式図である。
【
図10】
図10は、本発明の実施形態に係るペルチェ冷却モジュールの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
熱電変換材料のZTを向上するためには2つの手法があり、その一つは、出力因子(power factor;S2/ρ)を改善することである。特に電気抵抗率ρを減少させることである。
【0017】
電気抵抗率ρと電荷を運ぶキャリアの濃度nとキャリア移動度μと電気抵抗率ρとの関係はρ-1=neμの式で表わされる。ここで、eはキャリアの電荷を表す。以下の二つの理由で、600K~900Kの温度域でn型のPbTeの電気抵抗率ρを減少させることが難しい。第一に、キャリア濃度nを最適にすることが難しい。第二に、キャリアは組織内の孔、析出物及びドーピングされた原子が存在する部分で散乱されるので、孔、析出物及びドーピングされた原子の量が多い材料ではキャリア移動度μは通常低くなる。以上の二つの理由によりこれまでのn型のPbTeは700K付近でZTがピークとなり、900K付近ではピークと比べるとZTが50%程度低下する。
【0018】
無次元性能指数ZTを向上させるもう一つの方法は、固体中の格子振動が運ぶ熱(フォノン)の伝導性能を表す格子熱伝導率κlatを下げることである。熱を運ぶ量子(フォノン)を効率的に散乱できるナノ・マイクロサイズの析出物を、熱電変換材料に析出することで格子熱伝導率κlatを低減できることが知られている。ただし、フォノンの効果的な散乱を引き起こすナノ・マイクロサイズの析出物を形成することは簡単ではなく、最適化するためには元素の組み合わせなどを探索する必要がある。ナノ・マイクロサイズの析出物の量が多すぎると、キャリア移動度に影響を与えるため、その量はある一定値よりも少ない必要がある。
【0019】
本発明者らは、上記の事項を検討し、PbTeに、価数が+1のイオン半径が、価数が+2のPbのイオン半径よりも小さい元素を含有させることで、熱電変換材料が広い温度域で高い無次元熱電性能指数を有することを見出した。
【0020】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。まず、本発明の実施形態に係る熱電変換材料を説明する。
【0021】
<熱電変換材料>
本発明の実施形態に係る熱電変換材料は、PbTeを含む基材と、基材中に含まれる、価数が+1のイオン半径が、価数が+2のPbのイオン半径よりも小さい元素からなる群から選択される少なくとも一つの元素と、を含み、価数が+1のイオン半径が、価数が+2のPbのイオン半径よりも小さい元素からなる群から選択される少なくとも一つの元素の含有量が、0at%超10.0at%未満であることを特徴とする。
【0022】
(基材)
本発明の実施形態に係る熱電変換材料は基材を有する。基材は、PbTeを含む。PbTeはテルル化鉛である。PbTeの結晶構造は、NaCl型であってもよい。PbTeは単結晶であっても多結晶であってもよい。基材は、PbTe、ドナー又はアクセプター及び不純物からなることが好ましい。基材は、不純物をできる限り含まないことが好ましい。PbTeは、Pb及びTeを含む化合物である。
【0023】
(Mの説明:価数が+1のイオン半径が、価数が+2のPbのイオン半径よりも小さい元素)
本発明の実施形態に係る熱電変換材料において、基材中には、価数が+1のイオン半径が、価数が+2のPbのイオン半径よりも小さい元素からなる群から選択される少なくとも一つの元素を有する。価数が+1のイオン半径が、価数が+2のPbのイオン半径よりも小さい元素の含有量は0at%超10.0at%未満である。ここで、価数が+1のイオン半径が、価数が+2のPbのイオン半径よりも小さい元素の含有量とは、熱電変換材料の全質量に対する、価数が+1のイオン半径が、価数が+2のPbのイオン半径よりも小さい元素の含有量である。
【0024】
本発明の実施形態において、価数が+1のイオン半径が、価数が+2のPbのイオン半径よりも小さい元素は、基材中に価数が+1であるイオンとして存在する。また、イオン半径が、価数が+2のPbのイオン半径よりも小さい元素とは、+1価のイオン半径が、PbTeに含まれるPbのイオン半径よりも小さい元素を言う。Pbは、PbTeで基本的に+2価のイオンとして存在する。価数が+1のイオン半径が、価数が+2のPbよりも小さい元素のイオン半径は価数が+1の時のイオン半径である。つまり、価数が+1のイオン半径が、価数が+2のPbのイオン半径よりも小さい元素とは、PbTeの中で+1のイオンとして存在することができ、かつ+1のイオンの状態の時にPbTeに含まれる価数が+2のPbのイオン半径よりも小さい元素を意味する。価数が+1のイオン半径が、価数が+2のPbのイオン半径よりも小さい元素は、一種類基材中含まれてもよく、二種以上基材中の含まれてもよい。
【0025】
本実施形態に係る熱電変換材料によれば、基材中には、価数が+1のイオン半径が、価数が+2のPbのイオン半径よりも小さい元素を含むので、熱電変換材料の電気抵抗率が小さくなる。これにより、熱電変換材料の出力因子が大きくなる。かつ格子熱伝導率が低くなる。そのため、熱電変換材料の600K~900Kの温度域での無次元性能指数ZTが高くなる。価数が+1のイオン半径が、価数が+2のPbのイオン半径よりも小さい元素の含有量は0at%超である場合、熱電変換材料の電気抵抗率を小さくする効果が大きくなる。価数が+1のイオン半径が、価数が+2のPbのイオン半径よりも小さい元素の含有量は、0at%超であってもよく、0.1at%以上であることが好ましく、0.5at%以上であることがより好ましく、1.0at%以上であることがより一層好ましい。
【0026】
価数が+1のイオン半径が、価数が+2のPbのイオン半径よりも小さい元素の含有量は10.0at%未満である場合、電気抵抗率ρを小さくする効果が大きくなる。これにより、熱電変換材料の出力因子S2/ρが大きくなり、かつ格子熱伝導率が低くなる。そのため、熱電変換材料の600K~900Kの温度域での無次元性能指数ZTが高くなる。その結果、熱電変換効率が高い熱電変換材料を提供することができる。価数が+1のイオン半径が、価数が+2のPbのイオン半径よりも小さい元素の含有量は、10.0at%未満であってもよく、6.0at%以下であることが好ましく、5.0at%以下であることがより好ましく、4.0at%以下であることがさらに好ましい。
【0027】
本発明の実施形態に係る熱電変換材料は、p型半導体であってもよく、n型半導体であってもよい。本実施形態に係る熱電変換材料は、価数が+1のイオン半径が、Pbよりも小さい元素の含有量は0at%超10.0at%未満であることにより、出力因子S2/ρが大きくなり、かつ格子熱伝導率が低くなるため、600K~900Kという広い温度域で無次元性能指数ZTが高くなる。価数が+1のイオン半径が、価数が+2のPbのイオン半径よりも小さい元素の価数が+1ということから、この元素はn型(負の電荷をもつ)の電荷キャリアを提供するので、熱電変換材料がn型半導体である場合の方が、高い無次元性能指数ZTをもたらす。
【0028】
本発明の実施形態に係る熱電変換材料は、Pb1-xAxMzTeの組成式で表されてもよい。Aは第13族元素からなる群から選択される少なくとも一つの元素であってもよい。Mは第1族元素、第10族元素及び第11族元素からなる群から選択される少なくとも一つの元素であってもよい。
【0029】
Aが第13族元素からなる群から選択される少なくとも一つの元素であることにより、PbTeにn型の電荷キャリア(電子)を生成できる。Aは、PbTeの中で、+3価のイオンの状態で存在してもよい。Aはn型の電荷キャリアを提供するドナーとして働く。
【0030】
Mは、第1族元素、第10族元素及び第11族元素からなる群から選択される少なくとも一つの元素であることにより、MがPbTeのPbの空孔及びPbTeの格子間席を占有して、キャリアの濃度を最適化し、かつキャリアの移動度を向上させることができる。これにより、電気抵抗率ρを低下させることができる。そのため、熱電変換材料の出力因子S2/ρをさらに向上させることができる。その結果、熱電変換材料の無次元性能指数ZTがさらに向上する。Mは、価数が+1のイオン半径が、価数が+2のPbのイオン半径よりも小さい元素でよい。
【0031】
本発明の実施形態に係る熱電変換材料で、Aが第13族元素からなる群から選択される少なくとも一つの元素であり、かつMが第1族元素、第10族元素及び第11族元素からなる群から選択される少なくとも一つの元素であることがさらに好ましい。これにより、PbTeの中にナノ・マイクロサイズの孔及び析出物を分散させることができる。その結果、熱を運ぶ量子(フォノン)をさらに効率的に散乱できる。そのため、熱電変換材料の格子熱伝導率をさらに低減させることができる。その結果、熱電変換材料の無次元性能指数ZTが一層向上する。
【0032】
Aは、B、Al、Ga及びInからなる群から選ばれる少なくとも一つの元素であることが好ましい。これにより、熱電変換材料のキャリア濃度を更に向上させることができる。その結果、熱電変換材料の無次元性能指数ZTが一層向上する。B、Al、Ga及びInは、PbTeの中で、+3価のイオンの状態で存在してもよい。
【0033】
Mは、Li、Na、Pd、Cu及びAgからなる群から選択される少なくとも一つの元素であることが好ましい。これにより、キャリアの濃度を最適化し、かつキャリアの移動度を向上させる効果をさらに高めることができる。その結果、熱電変換材料の無次元性能指数ZTが一層向上する。Li、Na、Pd、Cu及びAgは、PbTeの中で、+1価のイオンの状態で存在してよく、そのイオン半径は、価数が+2のPbのイオン半径よりも小さい。
【0034】
本発明の実施形態に係る熱電変換材料で、Aが、B、Al、Ga及びInからなる群から選ばれる少なくとも一つの元素であり、かつMが、第1族元素、Li、Na、Pd、Cu及びAgからなる群から選択される少なくとも一つの元素であることがさらに好ましい。これにより、PbTeの中にナノ・マイクロサイズの孔及び析出物を効果的に分散させることができ、熱を運ぶ量子(フォノン)をさらに効率的に散乱できる。その結果、熱電変換材料の無次元性能指数ZTが一層向上する。
【0035】
Aは、Gaであることがさらに好ましい。Mは、Cuであることがさらに好ましい。AがGaでありかつMがCuであることがさらに好ましい。これにより、熱電変換材料の無次元性能指数ZTが一層向上する。
【0036】
本発明の実施形態に係る熱電変換材料で、Pb1-xAxMzTe中のxは0超であってもよく、0.01以上であることが好ましく、0.02であることが好ましい。xが0超である場合、n型の電荷キャリアである電子を生成できるので、n型の半導体とすることができる。また、xは0.04以下であってもよく、0.03以下であることが好ましく、0.02であることがより好ましい。xが0.04以下である場合、n型の半導体となる。
【0037】
本発明の実施形態に係る熱電変換材料は、Pb1-xAxMzTe中のzは0超であってもよく、0.001以上であることが好ましく、0.005以上であることがより好ましく、0.01以上であることがさらに好ましい。zは0超である場合、熱電変換材料の低温域での無次元性能指数ZTがさらに向上する。また、zは0.10未満であってもよく、0.08以下であることが好ましく、0.06以下であることが好ましく、0.05以下であることがより好ましく、0.04以下であることが一層好ましい。zが0.10未満である場合、熱電変換材料の低温域での無次元性能指数ZTがさらに向上する。
【0038】
本発明の実施形態に係る熱電変換材料で、Pb1-xAxMzTe中のMはPb空孔及びPbTeの格子間席に存在してもよい。Mが、Pbの空孔に存在する状態とは、PbTeの規則格子でPbの席に生じた空孔をMが占有する状態をいう。Mが、侵入型元素としてPbTe中に存在するとは、PbTeの規則格子でPb及びTeが本来存在しない格子間の位置にMが存在する状態をいう。Pb1-xAxMzTe中のPb空孔及びPbTeの格子間席に存在することで、キャリアの濃度を最適化し、かつキャリアの移動度を向上させることができる。その結果、熱電変換材料の低温域での無次元性能指数ZTがさらに向上する。
【0039】
本発明の実施形態に係る熱電変換材料で、ゼーベック係数Sは600K~900Kの温度域で、-210μVK-1以上であってもよく、-180μVK-1以上であることが好ましく、-170μVK-1以上であることがより好ましく、-160μVK-1以上であることがさらに好ましい、-150μVK-1以上であることがより一層好ましく。600K~900Kの温度域で、-210μVK-1以上であるとは、ゼーベック係数Sが600K~900Kの温度域ですべて-210μVK-1以上であることを意味する。ゼーベック係数Sは600K~900Kの温度域で、-210μVK-1以上であることにより、熱電変換材料の低温域での無次元性能指数ZTがさらに向上する。
【0040】
本発明の実施形態に係る熱電変換材料で、電気抵抗率ρは600K~900Kの温度域で、35μΩm以下であってもよく、28μΩm以下であることが好ましく、24μΩm以下であることがより好ましく、21μΩm以下であることがさらに好ましく、19μΩm以下であることが一層好ましい。600K~900Kの温度域で電気抵抗率ρが、35μΩm以下であるとは、電気抵抗率ρが600K~900Kの温度域ですべて35μΩm以下であることを意味する。電気抵抗率ρは600K~900Kの温度域で、35μΩm以下であることにより、熱電変換材料の低温域での無次元性能指数ZTがさらに向上する。
【0041】
本発明の実施形態に係る熱電変換材料で、600K~900Kの無次元熱電性能指数ZTの平均値は、1.00超であることが好ましく、1.05以上であることがより好ましく、1.10以上であることがさらに好ましく、1.15以上であることが一層好ましい。これにより、熱電変換材料の熱電変換効率がさらに向上する。600K~900Kの無次元熱電性能指数ZTの平均値とは、600K~900Kの無次元熱電性能指数ZTの値を平均した値を意味する。
【0042】
本発明の実施形態に係る熱電変換材料によれば、広い温度域で高い無次元熱電性能指数を有する。また、第13族元素からなる群から選択される少なくとも一つの元素を含むことにより、熱電変換材料の中のPbの含有量をさらに減少させることができる。そのため、より毒性が少ない熱電変換材料を提供することができる。
【0043】
<熱電発電モジュール>
次に本発明の実施形態に係る熱電発電モジュールについて説明する。
【0044】
図9は、本発明の実施形態に係る熱電発電モジュールの模式図である。
図9に示すように、本発明の実施形態に係る熱電発電モジュール30は、p型熱電変換材料10aと、n型熱電変換材料10bと、p型熱電変換材料10aおよびn型熱電変換材料10bのそれぞれ一方の側に接触する上部接合電極31と、p型熱電変換材料10aの他方の側に接触する下部接合電極32と、n型熱電変換材料10bの他方の側に接触する下部接合電極33とを有する。
図9に示すように熱電発電モジュール30は全体がπ型の形状となっている。
【0045】
p型熱電変換材料10aは、本発明の実施形態に記載の熱電変換材料を使用してもよく、公知のp型熱電変換材料を使用してもよい。n型熱電変換材料10bは、本発明の実施形態に記載の熱電変換素子を使用する。上部接合電極31、下部接合電極32及び下部接合電極33には、電気的及び熱的な伝導性が良い材料を使用することができる。例えば銅(Cu)などが使われる。その厚さは、特に限定されないが、機械的な強度も考慮して、1mm程度であることが好ましい。
【0046】
熱電発電モジュール30は、上部接合電極31に高温体を接触させ、下部接合電極32及び下部接合電極33との間に温度差を生じさせることで、p型熱電変換材料10aおよびn型熱電変換材料10bの上部接合電極31に接触する部分のキャリア濃度が増大する。そのため、キャリアがそれぞれ下部接合電極32及び下部接合電極33側へ拡散する。これにより、電流が下部接合電極33からn型熱電変換材料10b、上部接合電極31およびp型熱電変換材料10aを介して下部接合電極32に流れる。その結果、下部接合電極33に対して下部接合電極32に正電圧が生じる。これにより、下部接合電極32と下部接合電極33に、外部負荷34を接続することで電力を取り出せる。
【0047】
本実施形態に係る熱電発電モジュール30によれば、高い発電性能を有する熱電発電モジュール30が提供することができる。また、より毒性が少ない熱電発電モジュールを提供することができる。
【0048】
<ペルチェ冷却モジュール>
図10は、本発明の実施形態に係るペルチェ冷却モジュールの模式図である。
図10に示すように、本発明の実施形態に係るペルチェ冷却モジュール50は、p型熱電変換材料10aと、n型熱電変換材料10bと、p型熱電変換材料10aおよびn型熱電変換材料10bのそれぞれ一方の側に接触する上部接合電極31と、p型熱電変換材料10aの他方の側に接触する下部接合電極32と、n型熱電変換材料10bの他方の側に接触する下部接合電極33を有する。なお、本実施形態においては、上述の実施形態における構成要素と同一の部分については同一の符号を付し、その説明を省略し、異なる点についてのみ説明する。
【0049】
外部電源部51を通じて、下部接合電極33に正電圧、下部接合電極32に負電圧を印加して、ペルチェ冷却モジュールを動作させる。
【0050】
ペルチェ冷却モジュール50は、外部電源部51により供給された電流が、下部接合電極33からn型熱電変換材料10b、上部接合電極31、p型熱電変換材料10a、下部接合電極32の順に流れることで、上部接合電極31側の冷却対象物から吸熱し、n型熱電変換材料10bでは上部接合電極31側で電荷キャリアである電子がエネルギーを吸収して下部接合電極33側でエネルギーを放出し、p型熱電変換材料10aでは上部接合電極31側で電荷キャリアであるホールがエネルギーを吸収して下部接合電極32側で放出することで、冷却対象物を冷却できる。
【0051】
本実施形態に係るペルチェ冷却モジュール50によれば、高い冷却性能を有するペルチェ冷却モジュール50が実現できる。また、より毒性が少ないペルチェ冷却モジュールを提供することができる。
【0052】
その他、本発明の趣旨に逸脱しない範囲で、前記実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、前記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【実施例0053】
<実験例1>
(熱電変換材料の準備)
原料である鉛(Pb)6.02g、ガリウム(Ga)0.04g、及びテルル(Te)3.78gを、石英管の中に真空封入した。石英管の中に真空封入した原料を1323Kで反応させて、合計で9.84gのPb0.98Ga0.02Te多結晶試料を得た。得られたPb0.98Ga0.02Te多結晶試料の一部を粉末状に砕いた後、X線回折(CuKα線、40kV、10mA)でPb0.98Ga0.02Teの相を評価した。Pb0.98Ga0.02Te多結晶試料の粉末をグラファイトのダイスに入れ、ダイスを焼結装置に挿入した。焼結装置を使用して、773K、試料に対して30MPaの一軸加圧、及び真空中の条件で1h、Pb0.98Ga0.02Te多結晶試料を処理した。その結果、高い密度(理論密度99%超)を有する熱電変換材料の成形体を得た。
【0054】
(無次元性能指数ZTの測定)
あらかじめ決めた温度域(およそ300Kの室温からおよそ900Kまで)で、熱電変換材料の成形体のゼーベック係数S(μVK
-1)、電気伝導率ρ(μΩm)、及び熱伝導率κ
total(WK
-1m
-1)を測定した。ゼーベック係数S(μVK
-1)の測定結果は
図3に示した。電気伝導率ρ(μΩm)の測定結果は
図4に示した。熱伝導率κ
total(WK
-1m
-1)の測定結果を
図6に示した。無次元性能指数ZTはZT=S
2T/(ρκ
total)の式を使用して計算した。無次元性能指数ZTの計算結果を
図8に示した。出力因子S
2/ρ(μWK
-2m
-1)及び格子熱伝導率κ
lat(WK
-1m
-1)の結果を
図5及び7に示した。
【0055】
電気抵抗率ρは、四端子法で測定した。
【0056】
ゼーベック係数Sは具体的に以下の方法で測定した。ゼーベック係数Sは、熱電変換材料に温度勾配ΔTが存在するときに生じる起電力VEを測定し、S=(VEΔT-1)-Swireの式より求めた。ここで、Swireは起電力の測定に用いた金属プローブの絶対ゼーベック係数である。
【0057】
熱伝導率κtotalは、フラッシュ法によって測定した。
【0058】
<実験例2>
原料である鉛(Pb)6.11g、ガリウム(Ga)0.04g、銅(Cu)0.02g及びテルル(Te)3.84gを、石英管の中に真空封入した。石英管の中に真空封入した原料を1323Kで反応させて、合計で10.01gのPb0.98Ga0.02Cu0.01Te多結晶試料を得た。得られたPb0.98Ga0.02Cu0.01Te多結晶試料の一部を粉末状に砕いた後、X線回折(CuKα線、40kV、10mA)でPb0.98Ga0.02Cu0.01Teの相を評価した。Pb0.98Ga0.02Cu0.01Te多結晶試料の粉末をグラファイトのダイスに入れ、ダイスを焼結装置に挿入した。焼結装置を使用して、773K、試料に対して30MPaの一軸加圧、及び真空中の条件で1h、Pb0.98Ga0.02Cu0.01Te多結晶試料を処理した。その結果、高い密度(理論密度98%超)を有する熱電変換材料の成形体を得た。
【0059】
次に実験例1と同じ方法で、熱電変換材料の成形体のゼーベック係数S(μVK
-1)、電気伝導率ρ(μΩm)、及び熱伝導率κ
total(WK
-1m
-1)を測定した。ゼーベック係数S(μVK
-1)の測定結果は
図3に示した。電気伝導率ρ(μΩm)の測定結果は
図4に示した。熱伝導率κ
total(WK
-1m
-1)の測定結果を
図6に示した。無次元性能指数ZTはZT=S
2T/(ρκ
total)の式を使用して計算した。無次元性能指数ZTの計算結果を
図8に示した。出力因子S
2/ρ(μWK
-2m
-1)及び格子熱伝導率κ
lat(WK
-1m
-1)の結果を
図5及び7に示した。
【0060】
<実験例3>
原料である鉛(Pb)6.07g、ガリウム(Ga)0.04g、銅(Cu)0.04g及びテルル(Te)3.81gを、石英管の中に真空封入した。石英管の中に真空封入した原料を1323Kで反応させて、合計で9.96gのPb0.98Ga0.02Cu0.02Te多結晶試料を得た。得られたPb0.98Ga0.02Cu0.02Te多結晶試料の一部を粉末状に砕いた後、X線回折(CuKα線、40kV、10mA)でPb0.98Ga0.02Cu0.02Teの相を評価した。Pb0.98Ga0.02Cu0.02Te多結晶試料の粉末をグラファイトのダイスに入れ、ダイスを焼結装置に挿入した。焼結装置を使用して、773K、試料に対して30MPaの一軸加圧、及び真空中の条件で1h、Pb0.98Ga0.02Cu0.02Te多結晶試料を処理した。その結果、高い密度(理論密度98%超)を有する熱電変換材料の成形体を得た。
【0061】
次に実験例1と同じ方法で、熱電変換材料の成形体のゼーベック係数S(μVK
-1)、電気伝導率ρ(μΩm)、及び熱伝導率κ
total(WK
-1m
-1)を測定した。ゼーベック係数S(μVK
-1)の測定結果は
図3に示した。電気伝導率ρ(μΩm)の測定結果は
図4に示した。熱伝導率κ
total(WK
-1m
-1)の測定結果を
図6に示した。無次元性能指数ZTはZT=S
2T/(ρκ
total)の式を使用して計算した。無次元性能指数ZTの計算結果を
図8に示した。出力因子S
2/ρ(μWK
-2m
-1)及び格子熱伝導率κ
lat(WK
-1m
-1)の結果を
図5及び7に示した。
【0062】
<実験例4>
原料である鉛(Pb)6.07g、ガリウム(Ga)0.04g、銅(Cu)0.06g及びテルル(Te)3.81gを、石英管の中に真空封入した。石英管の中に真空封入した原料を1323Kで反応させて、合計で9.98gのPb0.98Ga0.02Cu0.03Te多結晶試料を得た。得られたPb0.98Ga0.02Cu0.03Te多結晶試料の一部を粉末状に砕いた後、X線回折(CuKα線、40kV、10mA)でPb0.98Ga0.02Cu0.03Teの相を評価した。Pb0.98Ga0.02Cu0.03Te多結晶試料の粉末をグラファイトのダイスに入れ、ダイスを焼結装置に挿入した。焼結装置を使用して、773K、試料に対して30MPaの一軸加圧、及び真空中の条件で1h、Pb0.98Ga0.02Cu0.03Te多結晶試料を処理した。その結果、高い密度(理論密度99%超)を有する熱電変換材料の成形体を得た。
【0063】
次に実験例1と同じ方法で、熱電変換材料の成形体のゼーベック係数S(μVK
-1)、電気伝導率ρ(μΩm)、及び熱伝導率κ
total(WK
-1m
-1)を測定した。ゼーベック係数S(μVK
-1)の測定結果は
図3に示した。電気伝導率ρ(μΩm)の測定結果は
図4に示した。熱伝導率κ
total(WK
-1m
-1)の測定結果を
図6に示した。無次元性能指数ZTはZT=S
2T/(ρκ
total)の式を使用して計算した。無次元性能指数ZTの計算結果を
図8に示した。出力因子S
2/ρ(μWK
-2m
-1)及び格子熱伝導率κ
lat(WK
-1m
-1)の結果を
図5及び7に示した。
【0064】
<実験例5>
原料である鉛(Pb)6.09g、ガリウム(Ga)0.04g、銅(Cu)0.08g及びテルル(Te)3.83gを、石英管の中に真空封入した。石英管の中に真空封入した原料を1323Kで反応させて、合計で10.0gのPb
0.98Ga
0.02Cu
0.04Te多結晶試料を得た。得られたPb
0.98Ga
0.02Cu
0.04Te多結晶試料の一部を粉末状に砕いた後、X線回折(CuKα線、40kV、10mA)でPb
0.98Ga
0.02Cu
0.04Teの相を評価した。X線回折の測定結果を
図2に示した。Pb
0.98Ga
0.02Cu
0.04Te多結晶試料の粉末をグラファイトのダイスに入れ、ダイスを焼結装置に挿入した。焼結装置を使用して、773K、試料に対して30MPaの一軸加圧、及び真空中の条件で1h、Pb
0.98Ga
0.02Cu
0.04Te多結晶試料を処理した。その結果、高い密度(理論密度98%超)を有する熱電変換材料の成形体を得た。
【0065】
次に実験例1と同じ方法で、熱電変換材料の成形体のゼーベック係数S(μVK
-1)、電気伝導率ρ(μΩm)、及び熱伝導率κ
total(WK
-1m
-1)を測定した。ゼーベック係数S(μVK
-1)の測定結果は
図3に示した。電気伝導率ρ(μΩm)の測定結果は
図4に示した。熱伝導率κ
total(WK
-1m
-1)の測定結果を
図6に示した。無次元性能指数ZTはZT=S
2T/(ρκ
total)の式を使用して計算した。無次元性能指数ZTの計算結果を
図8に示した。出力因子S
2/ρ(μWK
-2m
-1)及び格子熱伝導率κ
lat(WK
-1m
-1)の結果を
図5及び7に示した。
【0066】
<実験例6>
原料である鉛(Pb)6.05g、ガリウム(Ga)0.04g、銅(Cu)0.11g及びテルル(Te)3.80gを、石英管の中に真空封入した。石英管の中に真空封入した原料を1323Kで反応させて、合計で10.0gのPb0.98Ga0.02Cu0.06Te多結晶試料を得た。Pb0.98Ga0.02Cu0.06Te多結晶試料の粉末をグラファイトのダイスに入れ、ダイスを焼結装置に挿入した。焼結装置を使用して、773K、試料に対して30MPaの一軸加圧、及び真空中の条件で1h、Pb0.98Ga0.02Cu0.06Te多結晶試料を処理した。その結果、高い密度(理論密度99%超)を有する熱電変換材料の成形体を得た。
【0067】
次に実験例1と同じ方法で、熱電変換材料の成形体のゼーベック係数S(μVK
-1)、電気伝導率ρ(μΩm)、及び熱伝導率κ
total(WK
-1m
-1)を測定した。ゼーベック係数S(μVK
-1)の測定結果は
図3に示した。電気伝導率ρ(μΩm)の測定結果は
図4に示した。熱伝導率κ
total(WK
-1m
-1)の測定結果を
図6に示した。無次元性能指数ZTはZT=S
2T/(ρκ
total)の式を使用して計算した。無次元性能指数ZTの計算結果を
図8に示した。出力因子S
2/ρ(μWK
-2m
-1)及び格子熱伝導率κ
lat(WK
-1m
-1)の結果を
図5及び7に示した。
【0068】
<実験例7>
原料である鉛(Pb)6.02g、ガリウム(Ga)0.04g、銅(Cu)0.19g及びテルル(Te)3.78gを、石英管の中に真空封入した。石英管の中に真空封入した原料を1323Kで反応させて、合計で10.0gのPb0.98Ga0.02Cu0.10Te多結晶試料を得た。Pb0.98Ga0.02Cu0.10Te多結晶試料の粉末をグラファイトのダイスに入れ、ダイスを焼結装置に挿入した。焼結装置を使用して、773K、試料に対して30MPaの一軸加圧、及び真空中の条件で1h、Pb0.98Ga0.02Cu0.10Te多結晶試料を処理した。その結果、高い密度(理論密度99%超)を有する熱電変換材料の成形体を得た。
【0069】
次に実験例1と同じ方法で、熱電変換材料の成形体のゼーベック係数S(μVK
-1)、電気伝導率ρ(μΩm)、及び熱伝導率κ
total(WK
-1m
-1)を測定した。ゼーベック係数S(μVK
-1)の測定結果は
図3に示した。電気伝導率ρ(μΩm)の測定結果は
図4に示した。熱伝導率κ
total(WK
-1m
-1)の測定結果を
図6に示した。無次元性能指数ZTはZT=S
2T/(ρκ
total)の式を使用して計算した。無次元性能指数ZTの計算結果を
図8に示した。出力因子S
2/ρ(μWK
-2m
-1)及び格子熱伝導率κ
lat(WK
-1m
-1)の結果を
図5及び7に示した。
【0070】
実験例1及び実験例3について、走査型電子顕微鏡(Scanning electron microscopy;SEM)による観察、及びエネルギー分散型X線分析(Energy dispersive spectroscopy;EDS)による元素マッピングを行った。
【0071】
図1は、本発明の実験例に係る熱電変換材料の走査型電子顕微鏡(SEM)の写真及びエネルギー分散型X線分析(EDS)による元素マッピングを示す図である。
図1の(a)は実験例1のSEM写真である。
図1の(b)は実験例3のSEM写真である。
図1の(c)は実験例3のEDSによる元素マッピングである。
図1の(a)に示すように、実験例1の熱電変換材料の組織は、欠陥をあまり有していなかった。一方、
図1の(b)に示すように、Cuを添加した実験例3の熱電変換材料の組織は、大きさが100-300nmの孔及び2μmまでの大きさの析出物を多く有していた。析出物は、熱電変換材料の組織中で均一に分布していた。また、
図1の(c)に示すように、実験例3の熱電変換材料の組織で観察された析出物はCu-Ga-Te相であった。さらに、実験例3の熱電変換材料の組織で観察された析出物はPbをほとんど含有しない相であることが分かった。実験例3の熱電変換材料の組織に存在する孔及びCu-Ga-Te相からなる析出物は熱を運ぶフォノンを散乱させることができる。
【0072】
図2は、本発明の実験例に係る熱電変換材料の粉末X線回折の回折パターンを示す図である。
図2に示すように、実験例1から実施例5までの全ての熱電変換材料にはNaCl型のPbTeから構成されることが明らかとなった。第二相の回折ピークは見られなかった。すなわち、実験例1から実施例5の熱電変換材料の第二相の量は測定装置の検出限界未満であった。
【0073】
表1は、実験例1から実施例5までの熱電変換材料の室温でのキャリア濃度及びキャリア移動度の測定結果を示した。
【0074】
【0075】
表1に示すように、Cuの含有量が多くなるほど室温でのキャリア濃度が大きくなった。zが0のとき、室温でのキャリア濃度は1.2×1019cm-3であったが、zが0.04のとき室温でのキャリア濃度は2.1×1019cm-3に増加した。これはCuが格子間席に占有してドナーとして働くためであると考えられる。zが0.02以下において、Cuの含有量が多くなるほど室温でのキャリアの移動度が上昇した。これはCuがPb空孔を占領し電子キャリアの散乱を減少させたためであると考えられる。一方、例えばzが0.02超のようなCuの含有量が多い場合は、孔及びCu-Ga-Te析出物により電子キャリアの散乱が増加し、その結果室温でのキャリアの移動度が減少した。
【0076】
実施例1から実施例7の試料のゼーベック係数は300Kから900Kの温度範囲で負の符号を示し、この材料がn型半導体であることを実証している。ゼーベック係数Sとキャリア濃度nとの関係はS∝m
*T(π/3n)
2/3の式で表される。ここで、m
*はキャリアの有効質量である。測定した温度範囲で、全ての実験例を比較すると、Cuの含有量が多くなるほどキャリア濃度が増加する傾向にあるので、上述の関係式のため、
図3に示すように、ゼーベック係数SはCuの含有量が多くなるほど減少傾向を示した。特に、ゼーベック係数Sの減少は600K以上で顕著であった(900Kにおいて、Cuを含有しない実験例1の試料のゼーベック係数Sと比較して、Cuを3%含有する実験例4の試料のゼーベック係数は20%程度減少した)。これは含有されるCuが母相に固溶して、格子間のサイトを占領したためであると考えられる。
【0077】
図4は、本発明の実験例に係る熱電変換材料の電気抵抗率の温度依存性を示す図である。
図4に示すように、600K~900Kの全ての温度域で、Cuを含有する実験例2~7の試料の電気抵抗率ρは、Cuを含有しない実験例1の試料の電気抵抗率ρよりも小さかった。特に、電気抵抗率ρを低減する効果は600K以上で顕著であった(900Kにおいて、Cuを含有しない実験例1の試料の電気抵抗率ρと比較して、Cuを3%含有する実験例4の試料の65%減少した)。Cuを含有する実験例の試料はキャリア濃度n及びキャリア移動度μが高いので、電気抵抗率ρが低かった。また、600K~900Kの温度域での電気抵抗率の上昇率が小さくなったのは、温度が上昇するのに伴ってPbTeの格子間サイトを占有するCu
+1が増加し、キャリア濃度nが上昇したためであると考えられる。
【0078】
図5は、本発明の実験例に係る熱電変換材料の出力因子の温度依存性を示す図である。
図5に示すように、Cuを含有する実験例2~7の試料では、電気抵抗率ρ及びゼーベック係数Sが最適化されたので、600K以上での出力因子S
2/ρが増加した(900Kにおいて、実験例1の試料と比較して、実施例4の試料では出力因子S
2/ρが60%程度上昇した)。これは、n型のキャリアを与えるGaをドープされたPbTeにCuを添加することで出力因子S
2/ρを更に上昇させることができることを示している。
【0079】
図6は、本発明の実験例に係る熱電変換材料の熱伝導率、
図7は、格子熱伝導率の温度依存性を示す図である。
図7に示すように、Cuを含有する実験例2~7の試料の格子熱伝導率κ
latは、Cuを含有しない実験例1の試料の格子熱伝導率κ
latと比較して低い傾向がある。これはCuの含有により大きさが100-300nmの孔及び2μmまでの大きさの析出物が生成され、フォノンの散乱が多くなり、格子熱伝導率κ
latが低下したためであると考えられる。一方、Cuを含有する実験例の電子熱伝導率κ
eleが高かったのは、電子熱伝導率κ
eleと電気抵抗率ρとはκ
ele=LT/ρの関係があるため、Cuを含有する実験例の試料の電子熱伝導率κ
eleは、Cuを含有しない実験例1の試料の電子熱伝導率κ
eleよりも高かった。ここで、Lはローレンツ数である。高い電子熱伝導率κ
eleが低い格子熱伝導率κ
latと相殺するので、
図6に示すように、Cuを含有する実験例2~7の試料の熱伝導率κ
totalは、Cuを含有しない実験例1の試料の熱伝導率κ
totalよりも若干高かった。
【0080】
図8は、本発明の実験例に係る熱電変換材料の無次元熱電性能指数ZTの温度依存性を示す図である。
図8に示すように、PbTeにGa及びCuを含有させて、キャリアの濃度、キャリアの移動度、及び熱伝導率を相乗的に最適化することにより、600K~900Kの温度域でフラットかつ高い値を有する無次元性能指数ZTを実現することに成功した。実験例2、実験例3、実施例4、実施例5の試料において、中高温度域で無次元性能指数ZTが平均1.10を超え、実験例4の試料においては、中高温度域で無次元性能指数ZTが平均1.15という値を示し、n型の熱電変換材料において非常に高いものである。実験例1の試料は、Gaしか含有しないので、キャリアの濃度、キャリアの移動度、及び熱伝導率を相乗的に最適化できていないので、中高温度域で無次元性能指数ZTが平均1.0にとどまった。実験例6、実施例7の試料は、Ga及びCuを含有しているが、Cuの量が多すぎて、特に出力因子が向上できていないので、中高温度域で無次元性能指数ZTが平均1.10を下回った。
【0081】
Cu以外に、第1族元素、第10族元素、及び第11族元素も同様に、PbTe中で、キャリアの濃度を最適化し、キャリアの移動度をさらに向上させ、電気抵抗率ρをさらに低下させることができる効果を有する。これは、第1族元素、第10族元素、及び第11族元素は、PbTe中で+1価のイオンとして存在し、かつPbのイオン半径よりも小さいので、PbTe中のPbの空孔及び格子間席を占有するというCuと同じ効果が得られるためであると考えられる。Cu以外の第1族元素、第10族元素、及び第11族元素として、例えば、Li+1、Na+1、Pd+1、Ag+1が挙げられる。PbTe中にLi+1、Na+1を含有させる場合、p型の熱電変換材料を作成することもできる。
【0082】
Ga以外の第13族元素はGaと同様の電子構造を有する。そのため、Ga以外に、第13族元素も同様に、PbTe中で、キャリア濃度を上昇させる効果、及び析出物を分散させる効果を有する。その結果、Ga以外の第13族元素も同様に格子熱伝導率κlatを減少させる効果を有すると考えられる。Ga以外の第13族元素としてB+3、Al+3、及びIn+3が挙げられる。
【0083】
p型の熱電変換材料とした場合もn型の熱電変換材料と同様に上述の無次元性能指数ZTを高める効果が得られる。これはn型のPbTeもp型のPbTeも同じNaCl型結晶構造を有するためであると考えられる。つまり、本発明の実施形態に係るn型熱電変換材料及びp型熱電変換材料を使用すれば、少ない成分の調整のみで高い熱電変換効率を有する熱電変換装置を製造することができる。
【0084】
明細書の全体において、ある部分がある構成要素を「有する」や「備える」とする時、これは、特に反対の記載がない限り、他の構成要素を除くものではなく、他の構成要素をさらに含むことができるということを意味する。
【0085】
また、明細書に記載の「…部」の用語は、少なくとも1つの機能や動作を処理する単位を意味し、これは、ハードウェアまたはソフトウェアとして具現されてもよいし、ハードウェアとソフトウェアとの組み合わせで具現されてもよい。
【0086】
また、「接続」とは、電気的な接続である。電気的な接続とは、電力や電気信号が伝達可能であることをいう。電気的な接続は、ケーブル、抵抗、コンデンサ、ダイオード、遮断器などの部品を介した接続であってもよい。
【0087】
その他、本発明の趣旨に逸脱しない範囲で、前記実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。また、前記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
熱電変換とは、半導体である固体素子を用いて熱エネルギーと電気エネルギーとを直接変換することである。熱電変換は、熱電発電とペルチェ冷却の総称である。熱電変換を利用した熱電発電は、ゼーベック効果に基づき温度勾配により発電する。熱電発電モジュールを用いることで、自動車、工業炉、データセンターなどで生じる廃熱などの未利用熱エネルギーから電気を作り出すことができるので、エネルギー危機の克服や二酸化炭素の排出削減に多大なる貢献をもたらす。
本発明の実施形態に係る熱電変換材料で、電気抵抗率ρは600K~900Kの温度域で、35μΩm以下であってもよく、28μΩm以下であることが好ましく、24μΩm以下であることがより好ましく、21μΩm以下であることがさらに好ましく、19μΩm以下であることが一層好ましい。600K~900Kの温度域で電気抵抗率ρが、35μΩm以下であるとは、電気抵抗率ρが600K~900Kの温度域ですべて35μΩm以下であることを意味する。電気抵抗率ρは600K~900Kの温度域で、35μΩm以下であることにより、熱電変換材料の中高温度域での無次元性能指数ZTがさらに向上する。