(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023130207
(43)【公開日】2023-09-20
(54)【発明の名称】オレフィンの水和反応用触媒のスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
C07C 29/04 20060101AFI20230912BHJP
C07C 31/12 20060101ALI20230912BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20230912BHJP
B01J 23/30 20060101ALI20230912BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20230912BHJP
【FI】
C07C29/04
C07C31/12
B01J37/08
B01J23/30 Z
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022034749
(22)【出願日】2022-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【弁理士】
【氏名又は名称】河原 肇
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【弁理士】
【氏名又は名称】河原 肇
(72)【発明者】
【氏名】野村 淳子
(72)【発明者】
【氏名】宮下 昂大
(72)【発明者】
【氏名】板垣 真太朗
(72)【発明者】
【氏名】細木 康弘
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA08
4G169AA15
4G169BA02A
4G169BA02B
4G169BB07A
4G169BB07B
4G169BC60B
4G169BD05A
4G169BD05B
4G169BD07A
4G169CB22
4G169DA05
4G169EA01Y
4G169EA02Y
4G169EB15Y
4G169EB18Y
4G169EC27
4G169FB29
4G169FB70
4G169FC06
4G169FC07
4H006AA02
4H006AC41
4H006BA66
4H006BC13
4H006BE60
4H006FE11
4H039CA60
4H039CF10
(57)【要約】
【課題】オレフィンの水和反応によってアルコールを製造するのに適したヘテロポリ酸担持型触媒の簡便なスクリーニング方法を提供すること。
【解決手段】ヘテロポリ酸が担体に担持された触媒を熱処理することと、熱処理後の触媒を赤外分光法により測定し、2200cm
-1の吸収帯が存在する触媒を選択することとを含む、オレフィンの水和反応用触媒のスクリーニング方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘテロポリ酸が担体に担持された触媒を熱処理することと、熱処理後の触媒を赤外分光法により測定し、2200cm-1の吸収帯が存在する触媒を選択することとを含む、オレフィンの水和反応用触媒のスクリーニング方法。
【請求項2】
前記熱処理の温度が100~200℃である請求項1に記載の触媒のスクリーニング方法。
【請求項3】
前記熱処理の時間が0.5~3時間である請求項1又は2に記載の触媒のスクリーニング方法。
【請求項4】
前記ヘテロポリ酸がケイタングステン酸又はリンタングステン酸である請求項1~3のいずれか一項に記載の触媒のスクリーニング方法。
【請求項5】
前記担体がシリカである請求項1~4のいずれか一項に記載の触媒のスクリーニング方法。
【請求項6】
前記オレフィンが、炭素原子数2~5のオレフィンである請求項1~5のいずれか一項に記載の触媒のスクリーニング方法。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか一項に記載のスクリーニング方法により触媒をスクリーニングする工程と、前記工程によりスクリーニングされた触媒を用いて、オレフィンと水とを反応させてアルコールを製造する工程とを含む、オレフィンの水和反応によるアルコールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘテロポリ酸が担体に担持された触媒において、赤外分光法による測定を基にオレフィンの水和反応用触媒をスクリーニングする方法、及び触媒を用いたオレフィンの水和反応によるアルコールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
低級オレフィンを気相中で水和反応させることにより相当するアルコールを製造できることはよく知られている。この反応において、ヘテロポリ酸又はその塩を担体に担持させた担持型触媒が有用であることもよく知られている(特許文献1及び特許文献2)。
【0003】
非特許文献1では、シリカに担持されたリンタングステン酸触媒を用いたプロピレンの水和反応において、ヒドロキソニウムイオン(H3O+、H5O2
+)が水和反応の活性種であると考察している。ただし、実際にヒドロキソニウムイオンとオレフィン水和反応との相関を調査してはいない。
【0004】
非特許文献2では、シリカに担持されたケイタングステン酸触媒にベンゾニトリルを吸着させた後に昇温脱離測定を行うことにより、種々の担持量における触媒の酸性質を系統的に評価している。ただし、ベンゾニトリルの昇温脱離測定結果とオレフィン水和反応との相関を調査してはいない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11-322646号公報
【特許文献2】国際公開第2020/090756号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Applied Catalysis A: General、256巻、p.225-242(2003年).
【非特許文献2】The Journal of Physical Chemistry C、115巻、p.14762-14769(2011年).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、オレフィンの水和反応によってアルコールを製造するのに適したヘテロポリ酸担持型触媒の簡便なスクリーニング方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ヘテロポリ酸担持型触媒において、ヘテロポリ酸中のプロトン化した結晶水(H3O+、H5O2
+)がオレフィンの水和反応の活性に大きく影響する可能性がある。本発明者らは、鋭意検討の結果、ヘテロポリ酸が担体に担持された触媒を真空下で熱処理し、熱処理後の触媒を赤外分光法により測定し、2200cm-1の吸収帯が存在する触媒を有用な触媒として選択することにより、オレフィンの水和反応に活性を示す触媒を簡便にスクリーニングできることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、本発明は以下の[1]~[7]に関する。
[1]
ヘテロポリ酸が担体に担持された触媒を熱処理することと、熱処理後の触媒を赤外分光法により測定し、2200cm-1の吸収帯が存在する触媒を選択することとを含む、オレフィンの水和反応用触媒のスクリーニング方法。
[2]
前記熱処理の温度が100~200℃である[1]に記載の触媒のスクリーニング方法。
[3]
前記熱処理の時間が0.5~3時間である[1]又は[2]に記載の触媒のスクリーニング方法。
[4]
前記ヘテロポリ酸がケイタングステン酸又はリンタングステン酸である[1]~[3]のいずれかに記載の触媒のスクリーニング方法。
[5]
前記担体がシリカである[1]~[4]のいずれかに記載の触媒のスクリーニング方法。
[6]
前記オレフィンが、炭素原子数2~5のオレフィンである[1]~[5]のいずれかに記載の触媒のスクリーニング方法。
[7]
[1]~[5]のいずれかに記載のスクリーニング方法により触媒をスクリーニングする工程と、前記工程によりスクリーニングされた触媒を用いて、オレフィンと水とを反応させてアルコールを製造する工程とを含む、オレフィンの水和反応によるアルコールの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、オレフィンの水和反応によってアルコールを製造するのに適したヘテロポリ酸担持型触媒を効率的に選択することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例において測定したヘテロポリ酸担持型触媒A~IのFT-IRスペクトルである。
【
図2】実施例において測定したヘテロポリ酸担持型触媒A~Iに1-ブテンを反応させた際のFT-IRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好ましい実施の形態について説明するが、本発明はこれらの形態のみに限定されるものではなく、その精神と実施の範囲内において様々な応用が可能であることを理解されたい。
【0013】
一実施形態のオレフィンの水和反応用触媒のスクリーニング方法は、少なくとも以下の(1)熱処理工程と(2)選択工程を含む。
(1)熱処理工程
ヘテロポリ酸が担体に担持された触媒を真空下で熱処理する工程
(2)選択工程
熱処理後の触媒を赤外分光法により測定し、2200cm-1の吸収帯が存在する触媒を選択する工程
【0014】
プロトン化した結晶水に帰属される2200cm-1の吸収帯が存在する触媒は、オレフィンの水和反応に高い活性を示すと考えられる。本開示では、「2200cm-1の吸収帯」とは、波数2100cm-1~2300cm-1に吸収ピークを有する吸収帯を意味する。
【0015】
[オレフィンの水和反応用触媒]
スクリーニング方法の対象となるのは、一種類以上のヘテロポリ酸が担体に担持された触媒である。
【0016】
ヘテロポリ酸とは、中心元素及び酸素が結合した周辺元素からなるものである。中心元素は、通常ケイ素又はリンであるが、元素の周期表の第1族~第17族の多種の元素から選ばれる任意の1つからなることができる。具体的には、例えば、第二銅イオン;二価のベリリウム、亜鉛、コバルト又はニッケルのイオン;三価のホウ素、アルミニウム、ガリウム、鉄、セリウム、ヒ素、アンチモン、リン、ビスマス又はクロムのイオン;四価のケイ素、ゲルマニウム、スズ、チタン、ジルコニウム、バナジウム、硫黄、テルル、マンガン、ニッケル、トリウム、ハフニウム、セリウムのイオン及び他の希土類イオン;五価のリン、ヒ素、バナジウム、アンチモンイオン;六価のテルルイオン;及び七価のヨウ素イオン等を挙げることができるが、これに限定されるものではない。また、周辺元素の具体例としては、タングステン、モリブデン、バナジウム、ニオブ、タンタル等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0017】
このようなヘテロポリ酸は「ポリオキソアニオン」、「ポリオキソ金属塩」又は「酸化金属クラスター」として知られている。よく知られているアニオン類のいくつかの構造には、この分野の研究者本人にちなんだ名前が付けられており、例えば、ケギン(Keggin)型構造、ウエルス-ドーソン(Wells-Dawson)型構造及びアンダーソン-エバンス-ペアロフ(Anderson-Evans-Perloff)型構造が知られている。詳しくは、「ポリ酸の化学」(社団法人日本化学会編、季刊化学総説No.20、1993年)に記載がある。ヘテロポリ酸は、通常高分子量、例えば、700~8500の範囲の分子量を有し、その単量体だけでなく、二量体錯体をも含む。
【0018】
触媒として用いることができるヘテロポリ酸の特に好ましい例としては
ケイタングステン酸 H4[SiW12O40]・xH2O
リンタングステン酸 H3[PW12O40]・xH2O
リンモリブデン酸 H3[PMo12O40]・xH2O
ケイモリブデン酸 H4[SiMo12O40]・xH2O
ケイバナドタングステン酸 H4+n[SiVnW12-nO40]・xH2O
リンバナドタングステン酸 H3+n[PVnW12-nO40]・xH2O
リンバナドモリブデン酸 H3+n[PVnMo12-nO40]・xH2O
ケイバナドモリブデン酸 H4+n[SiVnMo12-nO40]・xH2O
ケイモリブドタングステン酸 H4[SiMonW12-nO40]・xH2O
リンモリブドタングステン酸 H3[PMonW12-nO40]・xH2O
(式中、nは1~11の整数であり、xは1以上の整数である。)
などを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0019】
ヘテロポリ酸は、ケイタングステン酸、リンタングステン酸、リンモリブデン酸、ケイモリブデン酸、ケイバナドタングステン酸又はリンバナドタングステン酸であることが好ましく、ケイタングステン酸又はリンタングステン酸であることがより好ましい。
【0020】
このようなヘテロポリ酸の合成方法としては、特に制限はなく、どのような方法を用いてもよい。例えば、モリブデン酸又はタングステン酸の塩とヘテロ原子の単純酸素酸又はその塩を含む酸性水溶液(pH1~pH2程度)を熱することによってヘテロポリ酸を得ることができる。ヘテロポリ酸化合物は、例えば、生成したヘテロポリ酸水溶液から金属塩として晶析分離して単離することができる。ヘテロポリ酸の製造の具体例は、「新実験化学講座8 無機化合物の合成(III)」(社団法人日本化学会編、丸善株式会社発行、昭和59年8月20日、第3版)の1413頁に記載されているが、これに限定されるものではない。合成したヘテロポリ酸の構造確認は、化学分析のほか、X線回折、UV又はIRスペクトルの測定により行うことができる。
【0021】
担体の具体例としては、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、シリカアルミナ、ゼオライト、活性炭などが挙げられる。担体はシリカであることが好ましい。
【0022】
一実施形態では、ヘテロポリ酸の担体への担持は、ヘテロポリ酸の水溶液(ヘテロポリ酸水溶液)を担体に吸収(含浸)させる工程(含浸工程)と、ヘテロポリ酸水溶液を含浸させた担体の乾燥を特定乾燥条件で行う工程(乾燥工程)とをこの順番で含む。含浸工程と乾燥工程との間には他の工程(例えば、風乾工程、含浸装置から乾燥装置への移送工程など)が含まれてもよいが、この二工程は連続して行うことが好ましい。
【0023】
[(1)熱処理工程]
熱処理工程は、ヘテロポリ酸が担体に担持された触媒を熱処理し、担体の吸着水等の余分な水分を除去する工程である。熱処理方法は特に限定されないが、触媒への水分の再吸着を抑制するために、赤外分光光度計のセル内にて触媒を熱処理することが好ましい。また、吸着水等の除去が効率的となるため、熱処理は減圧下で行うことが好ましい。したがって、赤外分光光度計は、測定用の試料を収納するセルを加熱、冷却、及び減圧できる装置であることが望ましい。
【0024】
熱処理工程では、触媒中の余分な水分を除去するという観点から、適切な熱処理の温度と時間の範囲がある。
【0025】
熱処理の温度は100~200℃であることが好ましく、120~180℃であることがより好ましく、140~160℃であることが更に好ましい。熱処理の温度が100℃以上であれば、水分が十分に除去される。熱処理の温度が200℃以下であれば、ヘテロポリ酸の部分分解が抑制される。
【0026】
熱処理の時間は0.5~3時間であることが好ましく、0.7~2時間であることがより好ましく、0.8~1.5時間であることが更に好ましい。熱処理の時間が0.5時間以上であれば、水分が十分に除去される。熱処理の時間が3時間以下であれば、加熱のためのエネルギー消費を抑制することができる。
【0027】
熱処理を減圧下で行う場合の圧力は特に限定されないが、真空に近いほうが好ましい。具体的には、熱処理の圧力は0.5Pa以下であることが好ましい。
【0028】
[(2)選択工程]
選択工程では、熱処理後の触媒を赤外分光法により測定し、赤外吸収スペクトルを得る。赤外分光法による測定は、感度及び分解能の観点からフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)により行うことが好ましい。プロトン化した結晶水に帰属される2200cm-1の吸収帯の有無を確認し、この吸収帯が存在すれば、オレフィンの水和反応に活性を示す触媒であると判断し、この触媒を選択する。FT-IRを用いた測定方法に特に制限はないが、水分の混入を防ぐため、KBrなどの希釈物質を用いず、触媒のみで測定可能な方法が好ましい。例えば、触媒のみから成形したディスクを用いた透過法、及び触媒粉末のみを用いた拡散反射法及び全反射測定(ATR)法が挙げられる。
【0029】
[オレフィンの水和反応によるアルコールの製造方法]
アルコールは、ヘテロポリ酸が担体に担持された触媒(以降、本開示では単に「オレフィンの水和反応用触媒」と記載することがある。)を用い、水とオレフィンとを反応器へ供給し、気相中で水和反応させることで得ることができる。
【0030】
オレフィンの水和反応によるアルコール製造反応の具体例を式(1)に示す。
【化1】
(式中、R
1~R
4はそれぞれ独立して水素原子又はアルキル基を表す。)
【0031】
オレフィンの水和反応用触媒を用いたオレフィンの水和反応で使用することができるオレフィンは特に限定されないが、炭素原子数2~5のオレフィンが好ましい。炭素原子数2~5のオレフィンとして、好ましくは、エチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブテン、ペンテン又はそれらの二種以上の混合物を挙げることができ、より好ましくはエチレン及び1-ブテンである。オレフィンと水との使用割合に制限はないが、反応速度に対するオレフィンの濃度依存性が大きいこと、水濃度が高い場合、アルコール製造プロセスのエネルギーコストが上昇することから、オレフィンと水とのモル比は、水/オレフィン=0.01~2.0であることが好ましく、水/オレフィン=0.1~1.0であることがより好ましい。
【0032】
オレフィンの水和反応用触媒を用いるオレフィンの水和反応の形式に制限はなく、いずれの反応形式も用いることができる。好ましい形式としては、触媒との分離のし易さ、及び反応効率の観点から、固定床形式、流動床形式、懸濁床形式などを挙げることができ、より好ましくは、触媒との分離に最もエネルギーを必要としない固定床形式である。
【0033】
固定床形式を用いる場合のガス空間速度は、特に制限されないが、エネルギー、及び反応効率の観点から、好ましくは、500~15000/hr、より好ましくは1000~10000/hrである。ガス空間速度が500/hr以上であれば、触媒の使用量を効果的に削減することができ、15000/hr以下であればガスの循環量を低減することができるため、上記範囲内ではアルコールの製造をより効率的に行うことができる。
【0034】
オレフィンの水和反応用触媒を用いるオレフィンの水和反応における反応圧力に制限はない。オレフィンの水和反応は、分子数が減る反応であるから、一般に高圧で行うことが有利である。反応圧力は、好ましくは0.5~7.0MPaGであり、より好ましくは1.5~4.0MPaGである。「G」はゲージ圧を意味する。反応圧力が0.5MPaG以上であれば十分な反応速度を得ることができ、7.0MPaG以下であればオレフィンの凝縮対策及びオレフィンの蒸発に係る設備の設置、高圧ガス保安対策に係る設備、及びエネルギーに関するコストをより低減することができる。
【0035】
オレフィンの水和反応用触媒を用いるオレフィンの水和反応の反応温度は特に制限されず、幅広い温度で実施することができる。好ましい反応温度は、ヘテロポリ酸の熱安定性、及び原料の一つである水が凝縮しない温度を考慮すると、100~550℃であり、より好ましくは150~350℃である。
【0036】
オレフィンの水和反応用触媒を用いるオレフィンの水和反応は平衡反応であり、オレフィンの転化率は最大でも平衡転化率となる。例えば、エチレンの水和によるエタノールの製造における平衡転化率は、温度200℃、圧力2.0MPaGの時、7.5%と計算される。したがって、オレフィンの水和によるアルコールの製造方法においては、平衡転化率によって最大の転化率が決まり、エチレンの例に見られるように、オレフィンの水和反応は平衡転化率が小さい傾向があるので、工業的には、オレフィンの水和反応を穏やかな条件下で高効率に実施することが強く求められている。
【0037】
オレフィンの水和反応用触媒を用いるオレフィンの水和反応では、未反応のオレフィンを反応器へリサイクルすることによりオレフィンのロスを削減することができる。反応器へ未反応オレフィンをリサイクルする方法に制限はなく、反応器から出てきたプロセス流体からオレフィンを単離してリサイクルしてもよいし、その他の不活性成分と一緒にリサイクルしてもよい。通常、工業グレードのエチレンには、極少量のエタンが含まれていることが多い。したがって、エタンを含んだエチレンを使用して未反応のエチレンを反応器へリサイクルする際は、エタンの濃縮及び蓄積を防止するために、回収したエチレンガスの一部を系外にパージすることが望ましい。
【0038】
オレフィンの水和反応用触媒を用いるオレフィンの水和反応においては、生成したアルコールが脱水し、エーテル化合物が副生物として生じることがある。例えば、エチレンの水和によりエタノールを得る場合、ジエチルエーテルが副生する。このジエチルエーテルは、エタノール2分子からの脱水反応により生じるものと考えられ、エチレンの水和反応によりエタノールを製造する場合には、反応の収率を著しく低下させてしまうが、副生したジエチルエーテルを反応器にリサイクルすることによりジエチルエーテルがエタノールに変換され、エチレンからエタノールを極めて高効率で製造することができる。副生したエーテル化合物の反応器へのリサイクル方法は特に制限されないが、例えば反応器から留出した成分からエーテル化合物を単離し反応器へリサイクルする方法、未反応のオレフィンと一緒にガス成分として反応器へリサイクルする方法などがある。
【0039】
オレフィンの水和反応によるアルコールの生成はFT-IRを用いて確認することができる。赤外分光法による2200cm-1の吸収帯が存在するヘテロポリ酸担持型触媒を含むセルにオレフィンを導入してFT-IRスペクトルを測定した場合、プロトン化した結晶水(H3O+、H5O2
+)に帰属される2200cm-1の吸収帯が、反応の進行とともに減少する。それと同時に、触媒に吸着したアルコール種に対応する吸収帯が現れる。例えば、1700~1800cm-1には触媒と相互作用したアルコールのOH伸縮振動に帰属されるブロードな吸収帯を確認することができる。
【実施例0040】
本発明を更に以下の実施例を参照して説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
[IRスペクトル測定]
IRスペクトルは、フーリエ変換赤外分光光度計(FT/IR-4100;日本分光株式会社製)を用いて透過法で測定した。測定条件は波数分解能4cm-1、及び積算回数64回とした。検出器としてMCT(水銀・カドミウム・テルル化合物)検出器を用いた。なお、上記赤外分光光度計は、測定用の試料を収納するセルを備え、そのセルはヒーター加熱、液体窒素冷却、及び真空ラインによる減圧が可能である。
【0042】
[シリカ担体(メソポーラスシリカSBA-15)の調製]
Pluronic(登録商標)P123(HO(CH2CH2O)20(CH2CH(CH3)O)70(CH2CH2O)20H;シグマアルドリッチ社製)5.0gを12M 塩酸17.0g及び水183gに溶解させた。得られた溶液を40℃に加熱して、テトラエトキシシラン10.4gを加えた。溶液を40℃で20時間保持した後に、100℃で20時間熟成した。析出した白色粉末を濾別して、エタノールで洗浄した。洗浄した白色粉末を100℃で乾燥した後に、500℃で10時間焼成してSBA-15を得た。
【0043】
[触媒の調製]
(触媒Aの調製)
市販のKeggin型ケイタングステン酸・24水和物(H4SiW12O40・24H2O;日本無機化学工業株式会社)0.20gを水30gに溶解させた。得られた溶液にSBA-15 0.80gを加えてよく攪拌した後に、100℃で水を除去した。得られた固体粉末を150℃で4時間乾燥させて触媒Aを得た。
【0044】
(触媒B~触媒Eの調製)
ケイタングステン酸及びSBA-15の使用量をそれぞれ表1に示すとおりに変更した以外は触媒Aの調製と同様の操作を繰り返し、触媒B~触媒Eを得た。
【0045】
(触媒Fの調製)
ケイタングステン酸の使用量を0.10gとし、SBA-15を親水性ヒュームドシリカ(AEROSIL(商標)200;エボニック社製)0.90gに変更した以外は触媒Aの調製と同様の操作を繰り返し、触媒Fを得た。
【0046】
(触媒G及び触媒Hの調製)
ケイタングステン酸及びAEROSIL(商標)200の使用量をそれぞれ表1に示すとおりに変更した以外は触媒Fの調製と同様の操作を繰り返し、触媒G及び触媒Hを得た。
【0047】
(触媒Iの調製)
ケイタングステン酸及びSBA-15の使用量をそれぞれ0.10g及び0.90gに変更した以外は触媒Aの調製と同様の操作を繰り返し、触媒Iを得た。
【0048】
[触媒の熱処理及びFT-IRを用いた触媒の選択]
触媒A~Iのそれぞれ40mgを400kgf/cm2で加圧し、直径20mm、厚さ0.5mmのディスクに成形した。成形したディスクを真空ラインに接続された赤外分光光度計の測定セル内に設置し、150℃の真空排気下(到達真空度0.1Pa)で1時間熱処理した。その後、上記条件にて150℃でIRスペクトルを測定して、2200cm-1の吸収帯の有無を確認した。
【0049】
[1-ブテンとの反応]
測定セル内の熱処理後のディスクを真空排気下で-100℃まで冷却した。測定セルに1-ブテンガスを100Paの圧力で導入した。約1分後に測定セル内を真空排気して、触媒に吸着していない気相中の1-ブテンガスを除去した。その後、測定セルを3℃/分の速度で-20℃に昇温して、上記条件にてIRスペクトルを測定した。
【0050】
図1に熱処理後の各触媒のIRスペクトルを示す。触媒A~Hにおいて、プロトン化した結晶水(H
3O
+、H
5O
2
+)に帰属される2200cm
-1の吸収帯が確認されたため、オレフィンの水和反応に有用であると判断し、これらの触媒を選択した。一方、触媒Iでは2200cm
-1の吸収帯は確認されなかったため、オレフィンの水和反応に有用ではないと判断し、触媒Iは選択しなかった。
【0051】
図2に、熱処理後の触媒に1-ブテンを-100℃で吸着させ、その後-20℃に昇温させた際のIRの差スペクトル(1-ブテンの吸着後-吸着前の差スペクトル)を示す。触媒A~Hでは2200cm
-1付近に逆ピーク(谷)が確認され、2200cm
-1の吸収帯が減少したことがわかる。加えて、1700~1800cm
-1に、触媒と相互作用したブタノールのOH伸縮振動に帰属されるブロードな吸収帯が確認された。このことは、1-ブテンの水和反応が進行し、ブタノールが生成したことを示す。一方、触媒Iでは、1700~1800cm
-1のブロードな吸収帯は確認されず、1-ブテンの多量体に帰属される1650cm
-1の吸収帯が確認された。すなわち、1-ブテンの水和反応の進行は確認されなかった。以上の結果から、熱処理後に2200cm
-1の吸収帯が存在する触媒を選択することによりオレフィンの水和反応用触媒をスクリーニングできることがわかる。
【0052】