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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023130286
(43)【公開日】2023-09-20
(54)【発明の名称】化学強化ガラス及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 21/00 20060101AFI20230912BHJP
   C03C 3/083 20060101ALI20230912BHJP
   C03C 3/085 20060101ALI20230912BHJP
   C03C 3/087 20060101ALI20230912BHJP
【FI】
C03C21/00 101
C03C3/083
C03C3/085
C03C3/087
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022166402
(22)【出願日】2022-10-17
(31)【優先権主張番号】P 2022034686
(32)【優先日】2022-03-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤原 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】静井 章朗
【テーマコード(参考)】
4G059
4G062
【Fターム(参考)】
4G059AA08
4G059AB07
4G059AC16
4G059HB03
4G059HB08
4G059HB13
4G059HB14
4G059HB15
4G059HB23
4G062AA01
4G062BB01
4G062CC04
4G062CC10
4G062DA06
4G062DA07
4G062DB03
4G062DB04
4G062DC01
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4G062DE01
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4G062EB04
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4G062ED01
4G062ED02
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4G062EG03
4G062EG04
4G062FA01
4G062FA10
4G062FB01
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4G062GA10
4G062GB01
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4G062GE01
4G062HH01
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4G062HH11
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4G062HH15
4G062HH17
4G062HH20
4G062JJ01
4G062JJ03
4G062JJ05
4G062JJ07
4G062JJ10
4G062KK01
4G062KK03
4G062KK05
4G062KK07
4G062KK10
4G062MM12
4G062NN33
(57)【要約】
【課題】優れた強度を示す化学強化ガラス及びその製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】横軸を表面からの深さ(μm)とし、且つ縦軸を酸化物基準のモル百分率表示で表されるKO濃度(%)とするKO濃度プロファイルにおいて、深さ1~3μmの傾き(%/μm)及び深さ5~10μmの傾き(%/μm)が特定範囲である化学強化ガラス、並びに(1)リチウム含有ガラスを、カリウムを含有する無機塩組成物で少なくとも1回以上イオン交換すること、(2)LiNOおよびNaNOを含有し、且つLiNOに対するNaNOの質量比率が特定範囲である無機塩組成物に、前記リチウム含有ガラスを特定条件で逆イオン交換すること、及び(3)前記リチウム含有ガラスを、カリウムを含有する無機塩組成物で少なくとも1回以上イオン交換することを順次含む、化学強化ガラスの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
横軸を表面からの深さ(μm)とし、且つ縦軸を酸化物基準のモル百分率表示で表されるKO濃度(%)とするKO濃度プロファイルにおいて、
深さ1~3μmの傾き(%/μm)が-1.9以上であり、深さ5~10μmの傾き(%/μm)が-0.001以下である、化学強化ガラス。
【請求項2】
横軸を表面からの深さ(μm)とし、且つ縦軸を酸化物基準のモル百分率表示で表されるNaO濃度(%)とするNaO濃度プロファイルにおいて、
深さ10~50μmの傾き(%/μm)が-0.001以下であり、深さ50~90μmの傾き(%/μm)が-0.012以上である、請求項1に記載の化学強化ガラス。
【請求項3】
前記KO濃度プロファイルにおいて、深さ5~10μmのKO濃度の傾き(%/μm)を、深さ1~3μmのKO濃度の傾き(%/μm)で除した値の絶対値が0.005以上0.10以下である、請求項1に記載の化学強化ガラス。
【請求項4】
横軸を表面からの深さ(μm)とし、且つ縦軸を酸化物基準のモル百分率表示で表されるNaO濃度(%)とするNaO濃度プロファイルにおいて、
深さ50~90μmのNaO濃度の傾き(%/μm)を、深さ10~50μmのNaO濃度の傾き(%/μm)で除した値の絶対値が0.50以上4.0以下である、請求項1に記載の化学強化ガラス。
【請求項5】
前記KO濃度プロファイルにおいて、深さ15~25μmにおけるKO濃度(%)と、板厚中心部のKO濃度(%)との差の絶対値が0.20%以下である、請求項1に記載の化学強化ガラス。
【請求項6】
カリウムイオンの拡散層深さが5μm以上である、請求項1に記載の化学強化ガラス。
【請求項7】
リチウム含有ガラスである、請求項1~6のいずれか1項に記載の化学強化ガラス。
【請求項8】
母組成が、酸化物基準のモル百分率表示で、
SiOを52~75%、
Alを8~20%、
LiOを5~18%、含有する、
請求項1~6のいずれか1項に記載の化学強化ガラス。
【請求項9】
母組成が、酸化物基準のモル百分率表示で、
SiOを52~75%、
Alを8~20%、
LiOを5~18%、
NaOを0~15%、
Oを0~5%、
MgOを0~20%、
CaOを0~20%、
SrOを0~20%、
BaOを0~20%、
ZnOを0~10%、
TiOを0~1%、
ZrOを0~8%、
を0~5%、含有する、
請求項1~6のいずれか1項に記載の化学強化ガラス。
【請求項10】
以下の(1)~(3)を順次含む、化学強化ガラスの製造方法。
(1)リチウム含有ガラスを、カリウムを含有する無機塩組成物で少なくとも1回以上イオン交換すること
(2)LiNOおよびNaNOを含有し、且つLiNOに対するNaNOの質量比率が0.25~3.0である無機塩組成物に、前記リチウム含有ガラスを、425℃以上で5時間以上接触させて逆イオン交換すること
(3)前記リチウム含有ガラスを、カリウムを含有する無機塩組成物で少なくとも1回以上イオン交換すること
【請求項11】
前記リチウム含有ガラスは、酸化物基準のモル百分率表示で、
SiOを52~75%、
Alを8~20%、
LiOを5~18%、含有する、請求項10に記載の化学強化ガラスの製造方法。
【請求項12】
前記リチウム含有ガラスは、酸化物基準のモル百分率表示で、
SiOを52~75%、
Alを8~20%、
LiOを5~18%、
NaOを0~15%、
Oを0~5%、
MgOを0~20%、
CaOを0~20%、
SrOを0~20%、
BaOを0~20%、
ZnOを0~10%
TiOを0~1%
ZrOを0~8%、含有する、請求項11に記載の化学強化ガラスの製造方法。
【請求項13】
前記(1)における前記イオン交換及び前記(3)における前記イオン交換が各々2段階のイオン交換を含み、前記(3)の前記イオン交換に含まれる第1段階のイオン交換の時間が、前記(1)のイオン交換に含まれる第1段階のイオン交換の時間より長い、請求項10~12のいずれか1項に記載の化学強化ガラスの製造方法。
【請求項14】
前記(2)と前記(3)との間に、下記(A)を含む、請求項10~12のいずれか1項に記載の化学強化ガラスの製造方法。
(A)前記リチウム含有ガラスの表面を、片面または両面に対して、片面当たり0.5~15μm除去する工程
【請求項15】
前記(A)において、前記リチウム含有ガラスの表面を、両面の研磨量の差が3.0μm以下の範囲で研磨する、請求項14に記載の化学強化ガラスの製造方法。
【請求項16】
横軸を表面からの深さ(μm)とし、且つ縦軸を酸化物基準のモル百分率表示で表されるKO濃度(%)とするKO濃度プロファイルにおいて、
深さ1~3μmの傾き(%/μm)が-1.9以上0.0以下であり、深さ5~10μmの傾き(%/μm)が-0.001以下である、化学強化ガラス。
【請求項17】
前記深さ1~3μmの傾き(%/μm)が-1.9以上-1.000以下である、請求項16に記載の化学強化ガラス。
【請求項18】
前記深さ5~10μmの傾き(%/μm)が-0.200以上-0.001以下である、請求項16に記載の化学強化ガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は化学強化ガラス及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、様々な情報端末装置のディスプレイ用のカバーガラス等には優れた強度が求められており、薄型ながら割れに強いことから化学強化ガラスが用いられている。化学強化ガラスは、ガラスを硝酸ナトリウムや硝酸カリウムなどの溶融塩組成物に接触させるイオン交換処理により、ガラスの表面部分に圧縮応力層を形成したものである。
【0003】
前記イオン交換処理では、ガラス中に含まれるアルカリ金属イオンと、溶融塩組成物に含まれるよりイオン半径の異なるアルカリ金属イオンとの間でイオン交換が生じ、ガラスの表面部分に圧縮応力層が形成される。化学強化ガラスの強度は、ガラス表面からの深さを変数とする圧縮応力(以下、CSとも略す。)で表される応力プロファイルに依存する。
【0004】
携帯端末等のカバーガラスは、落下した時などの変形によって割れることがある。このような破壊、すなわち曲げによる破壊を防ぐためには、ガラス表面における圧縮応力を大きくすることが有効である。そのため最近では700MPa以上の高い表面圧縮応力を形成することが多くなっている。
【0005】
また、携帯端末等のカバーガラスは、端末がアスファルトや砂の上に落下した際に、突起物との衝突によって割れることがある。このような破壊、すなわち衝撃による破壊を防ぐためには、圧縮応力層深さを深くして、ガラスのより深い部分にまで圧縮応力層を形成して強度を向上することが有効である。
【0006】
一方で、ガラス物品の表面部分に圧縮応力層を形成すると、ガラス物品の板厚中心部(以下、中心部とも略す。)には、表面の圧縮応力の総量に応じた引張応力(以下、CTとも略す。)が必然的に発生する。当該CT値が大きくなりすぎると、ガラス物品が破壊する際に激しく割れて破片が飛散する。CT値がその閾値(以下、CTリミットとも略す。)を超えると、ガラスが自壊して加傷時の破砕数が爆発的に増加し得る。CTリミットはガラス組成に対し固有の値である。
【0007】
したがって化学強化ガラスは、表面の圧縮応力を大きくし、より深い部分にまで圧縮応力層を形成するように更なる強度の向上が求められる一方で、CTリミットを超えないように、表層の圧縮応力の総量が設計されている。
【0008】
一方、化学強化ガラスの製造工程においては、所望の仕様を満足しないもの、例えば、基準を下回るレベルの欠点や不適当な応力プロファイルを有するものが生じることがある。従来、イオン交換後に前記欠点や不適当な応力プロファイルを有する化学強化ガラスの再処理方法として、圧縮応力層の圧縮応力を低減させるイオン交換(以下、逆イオン交換とも略す。)または研磨などにより化学強化ガラスの圧縮応力層を除去した後、再度イオン交換(以下、再イオン交換とも略す。)して圧縮応力層を形成する方法が用いられている。
【0009】
例えば、特許文献1には、工程(1):表層に圧縮応力層を有するガラス板を準備する、ガラス板準備工程、工程(2):前記ガラス板を無機塩組成物に接触させて、前記圧縮応力層の圧縮応力を低減させるように、少なくとも1組のイオン交換を行う、第1のイオン交換工程、工程(3):前記ガラス板を無機塩組成物に接触させて、表層の圧縮応力層の圧縮応力を増加させるように、少なくとも1組のイオン交換を行う、第2のイオン交換工程、を順次含む、化学強化ガラスの製造方法が開示されている。
【0010】
特許文献2には、リチウム塩を含む逆イオン交換浴中でイオン交換済みガラス物品を逆イオン交換して、逆イオン交換済みガラス物品を製造する工程、および再イオン交換浴中で逆イオン交換済みガラス物品を再イオン交換して、再イオン交換済みガラス物品を形成する工程を有する方法が開示されている。
【0011】
また、特許文献3には、イオン交換されたガラス系物品を、逆イオン交換媒体で逆イオン交換して、逆イオン交換されたガラス系物品を生成する工程を含み、該逆イオン交換媒体は、リチウム塩、および、非イオン交換可能な多価金属塩を含む方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2019-194143号公報
【特許文献2】特表2020-506151号公報
【特許文献3】特表2021-525208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、優れた強度を示す化学強化ガラス及びその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、Kイオンによるイオン交換を少なくとも含む化学強化により表層に圧縮応力層が形成されたリチウム含有ガラスを、特定の条件により逆イオン交換した後に、ガラス表面を除去し、再イオン交換をすることにより、特定のKO濃度プロファイルを有し、優れた強度を示す化学強化ガラスが得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0015】
本発明は、横軸を表面からの深さ(μm)とし、且つ縦軸を酸化物基準のモル百分率表示で表されるKO濃度(%)とするKO濃度プロファイルにおいて、
深さ1~3μmの傾き(%/μm)が-1.9以上であり、深さ5~10μmの傾き(%/μm)が-0.001以下である、化学強化ガラスに関する。
【0016】
また、本発明は、以下の(1)~(3)を順次含む、化学強化ガラスの製造方法に関する。
(1)リチウム含有ガラスを、カリウムを含有する無機塩組成物で少なくとも1回以上イオン交換すること
(2)LiNOおよびNaNOを含有し、且つLiNOに対するNaNOの質量比率が0.25~3.0である無機塩組成物に、前記リチウム含有ガラスを、425℃以上で5時間以上接触させて逆イオン交換すること
(3)前記リチウム含有ガラスを、カリウムを含有する無機塩組成物で少なくとも1回以上イオン交換すること
【0017】
また、本発明は、横軸を表面からの深さ(μm)とし、且つ縦軸を酸化物基準のモル百分率表示で表されるKO濃度(%)とするKO濃度プロファイルにおいて、深さ1~3μmの傾き(%/μm)が-1.9以上0.0以下であり、深さ5~10μmの傾き(%/μm)が-0.001以下である、化学強化ガラスに関する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の化学強化ガラスは、特定のKO濃度プロファイルを有し、表層に多くのKイオンが導入されていることで、優れた表面強度を有し、落球強度や耐傷性を高め得る。
【0019】
また、本発明の化学強化ガラスの製造方法によれば、Kイオンによるイオン交換を少なくとも含む化学強化により表層に圧縮応力層が形成されたリチウム含有ガラスを特定の条件により逆イオン交換した後に、ガラス表面を除去し、再イオン交換をすることにより、特定のKO濃度プロファイルを有し、優れた強度を示す化学強化ガラスが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1の(a)及び(b)は本発明の一実施形態の化学強化ガラスの応力プロファイルを示す。図1の(a)は、表層部の応力プロファイルを示す。図1の(b)は、深層部の応力プロファイルを示す。
図2図2の(a)及び(b)はEPMAにより化学強化ガラスにおけるNaO濃度を測定した結果を示す(例1)。図2の(c)及び(d)はEPMAにより化学強化ガラスにおけるKO濃度を測定した結果を示す(例1)。図2の(a)~(d)において、横軸はガラス表面からの深さ(μm)、縦軸は酸化物基準のモル百分率で表される濃度(%)を示す。
図3図3の(a)及び(b)はEPMAにより化学強化ガラスにおけるNaO濃度を測定した結果を示す(例2)。図3の(c)及び(d)はEPMAにより化学強化ガラスにおけるKO濃度を測定した結果を示す(例2)。図3の(a)~(d)において、横軸はガラス表面からの深さ(μm)、縦軸は酸化物基準のモル百分率で表される濃度(%)を示す。
図4図4の(a)及び(b)はEPMAにより化学強化ガラスにおけるNaO濃度を測定した結果を示す(例5)。図4の(c)及び(d)はEPMAにより化学強化ガラスにおけるKO濃度を測定した結果を示す(例5)。図4の(a)~(d)において、横軸はガラス表面からの深さ(μm)、縦軸は酸化物基準のモル百分率で表される濃度(%)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施できる。
【0022】
本明細書において数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。また、本明細書において、ガラスの組成(各成分の含有量)について、特に断らない限り、酸化物基準のモル百分率表示で説明する。
【0023】
以下において、「化学強化ガラス」は、化学強化処理を施した後のガラスを指し、「化学強化用ガラス」は、化学強化処理を施す前のガラスを指す。
【0024】
本明細書において、ガラス組成は、特に断らない限り酸化物基準のモル%表示で表し、モル%を単に「%」と表記する。
【0025】
また、本明細書において「実質的に含有しない」とは、原材料等に含まれる不純物レベル以下である、つまり意図的に加えたものではないことをいう。具体的には、たとえば0.1%未満である。
【0026】
本明細書において、「KO濃度プロファイル」又は「NaO濃度プロファイル」とは、横軸をガラス表面からの深さ(μm)とし、縦軸を酸化物基準のモル百分率表示で表されるKO濃度(%)又はNaO濃度として表したものをいう。
【0027】
本明細書において、深さx(μm)におけるKO濃度又はNaO濃度は、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer、電子線マイクロアナライザー)により、板厚方向の断面における濃度を測定する。EPMAの測定は、具体的には例えば以下のように行う。
まず、ガラス試料をエポキシ樹脂で包埋し、第1の主面および第1の主面に対向する第2の主面に対して垂直方向に機械研磨して断面試料を作製する。研磨後の断面にCコートを施し、EPMA(JEOL社製:JXA-8500F)を用いて測定を行う。加速電圧は15kV、プローブ電流は30nA、積算時間は1000msec./pointとして1μm間隔でKO又はNaOのX線強度のラインプロファイルを取得する。得られたKO濃度プロファイル又はNaO濃度プロファイルについて、板厚中央部(0.5×t)±25μm(板厚をtμmとする)の平均カウントをバルク組成として、全板厚のカウントをモル%に比例換算して算出する。
【0028】
本明細書において、カリウムイオン拡散層深さとは、KO濃度プロファイルにおける板厚中央部(0.5×t)±25μmの平均KO濃度(%)とその分散値σに対して、最表面側から見た時に、KO濃度が+2σ以下の範囲に入る深さ(μm)をカリウムイオン拡散層深さとする。
【0029】
本明細書において「応力プロファイル」はガラス表面からの深さを変数として圧縮応力を表したものをいう。応力プロファイルにおいて、引張応力は負の圧縮応力として表される。
【0030】
「圧縮応力(CS)」は、ガラスの断面を薄片化し、該薄片化したサンプルを複屈折イメージングシステムで解析することによって測定できる。複屈折イメージングシステム複屈折率応力計は、偏光顕微鏡と液晶コンペンセーター等を用いて応力によって生じたレターデーションの大きさを測定する装置であり、たとえばCRi社製複屈折イメージングシステムAbrio-IMがある。
【0031】
また、散乱光光弾性を利用しても測定できる場合がある。この方法では、ガラスの表面から光を入射し、その散乱光の偏光を解析してCSを測定できる。散乱光光弾性を利用した応力測定器としては、例えば、折原製作所製散乱光光弾性応力計SLP-2000がある。
【0032】
本明細書において「圧縮応力層深さ(DOC)」は、圧縮応力がゼロとなる深さである。以下では、表面圧縮応力をCS、表面からの深さ50μmにおける圧縮応力をCS50、と記すことがある。また、「内部引張応力(CT)」は、板厚tの1/2の深さにおける引張応力をいう。
【0033】
本明細書において「4PB強度」(4点曲げ強度)は下記方法により測定する。
50mm×50mmの試験片を用いて、支持具の外部支点間距離が30mm、内部支点間距離が10mm、クロスヘッド速度が5.0mm/分の条件で4点曲げ試験を行うことにより得られる破壊応力(単位:MPa)を4点曲げ強度とする。試験片の個数は、たとえば10個とする。
【0034】
<応力測定方法>
近年、スマートフォンなどのカバーガラス向けに、ガラス内部のリチウムイオンをナトリウムイオンと交換し(Li-Na交換)、その後更にガラスの表層部において、ガラス内部のナトリウムイオンをカリウムイオンに交換する(Na-K交換)、2段階の化学強化を実施したガラスが主流になっている。
【0035】
このような2段化学強化ガラスの応力プロファイルを非破壊で取得するには、例えば散乱光光弾性応力計(Scattered Light Photoelastic Stress Meter、以下、SLPとも略す)やガラス表面応力計(Film Stress Measurment,以下、FSMとも略す)などが併用され得る。
【0036】
散乱光光弾性応力計(SLP)を用いる方法では、ガラス表層から数十μm以上のガラス内部において、Li-Na交換に由来した圧縮応力を測定できる。一方、ガラス表面応力計(FSM)を用いる方法では、ガラス表面から数十μm以下のガラス表層部において、Na-K交換に由来した圧縮応力を測定できる(例えば、国際公開第2018/056121号、国際公開第2017/115811号)。従って、2段化学強化ガラスにおける、ガラス表層と内部における応力プロファイルとしては、SLPとFSMの情報を合成したものが用いられることがある。
【0037】
本発明においては、主に散乱光光弾性応力計(SLP)により測定された応力プロファイルを用いている。なお、本明細書において応力CS、引張応力CT、圧縮応力層深さDOLなどと称した場合、SLP応力プロファイルにおける値を意味する。
【0038】
散乱光光弾性応力計とは、レーザ光の偏光位相差を該レーザ光の波長に対して1波長以上可変する偏光位相差可変部材と、該偏光位相差を可変されたレーザ光が強化ガラスに入射されたことにより発する散乱光を所定の時間間隔で複数回撮像し複数の画像を取得する撮像素子と、該複数の画像を用いて前記散乱光の周期的な輝度変化を測定し該輝度変化の位相変化を算出し、該位相変化に基づき前記強化ガラスの表面からの深さ方向の応力分布を算出する演算部と、を有する応力測定装置である。
【0039】
散乱光光弾性応力計を用いる応力プロファイルの測定方法としては、国際公開第2018/056121号に記載の方法が挙げられる。散乱光光弾性応力計としては、例えば、折原製作所製のSLP-1000、SLP-2000が挙げられる。これらの散乱光光弾性応力計に付属ソフトウェアSlpIV_up3(Ver.2019.01.10.001)を組み合わせると高精度の応力測定が可能である。
【0040】
<化学強化ガラス>
本実施形態の化学強化ガラス(以下、「本化学強化ガラス」とも称する)は、横軸を表面からの深さ(μm)とし、且つ縦軸を酸化物基準のモル百分率表示で表されるKO濃度(%)とするKO濃度プロファイルにおいて、深さ1~3μmの傾き(%/μm)が-1.9以上であり、深さ5~10μmの傾き(%/μm)が-0.001以下であることを特徴とする。
【0041】
O濃度プロファイルにおいて、深さ1~3μmの傾き(%/μm)が、-1.9以上であり、深さ5~10μmの傾き(%/μm)が-0.001以下であることにより、表層部におけるKイオン濃度を高め、強度を向上し得る。前記強度としては、例えば、曲げ強度、表面硬度、落球強度および耐傷性が挙げられる。
【0042】
O濃度プロファイルにおいて、深さ1~3μmの傾き(%/μm)が-1.9以上であることにより、表層部におけるKイオン濃度を高め、強度を向上し得る。KO濃度プロファイルにおいて、深さ1~3μmの傾き(%/μm)は、好ましくは-1.80以上であり、より好ましくは-1.70以上、さらに好ましくは-1.65以上、特に好ましくは-1.60以上である。
【0043】
O濃度プロファイルにおける深さ1~3μmの傾き(%/μm)は、好ましくは-1.000以下であり、より好ましくは-1.10以下、さらに好ましくは-1.20以下、特に好ましくは-1.30以下である。KO濃度プロファイルにおいて、深さ1~3μmの傾き(%/μm)が-1.000以下であることにより、強度に寄与しない余分な応力を低減し得る。KO濃度プロファイルにおける深さ1~3μmの傾き(%/μm)は、0.0以下の値を持つことで機能する。
【0044】
O濃度プロファイルにおいて、深さ5~10μmの傾き(%/μm)が-0.001以下であることにより、ガラス表層のカリウムイオン量を表面の微小クラック領域まで拡散できており、表面圧縮応力による曲げ強度を向上し得る。KO濃度プロファイルにおける深さ5~10μmの傾き(%/μm)は、好ましくは-0.010以下であり、より好ましくは-0.020以下、さらに好ましくは-0.030以下、特に好ましくは-0.040以下である。
【0045】
O濃度プロファイルにおける深さ5~10μmの傾き(%/μm)は、好ましくは-0.200以上であり、より好ましくは-0.180以上、さらに好ましくは-0.160以上、特に好ましくは-0.140以上である。KO濃度プロファイルにおいて、深さ5~10μmの傾き(%/μm)が-0.200以上であることにより、ガラス表層のカリウムイオン量が多すぎず、再強化によるイオン交換阻害が抑制され、深層における応力を向上することができる。
【0046】
本化学強化ガラスは、横軸を表面からの深さ(μm)とし、且つ縦軸を酸化物基準のモル百分率表示で表されるNaO濃度(%)とするNaO濃度プロファイルにおいて、深さ10~50μmの傾き(%/μm)が-0.001以下であり、深さ50~90μmの傾き(%/μm)が-0.012以上であることが好ましい。
【0047】
NaO濃度プロファイルにおいて、深さ10~50μmの傾き(%/μm)が-0.001以下であり、深さ50~90μmの傾き(%/μm)が-0.012以上であることにより、従来の化学強化ガラスに比して表層部分におけるNaイオン濃度を低くし、強度に寄与しない余分な応力の発生をより低減し得る。
【0048】
NaO濃度プロファイルにおける深さ10~50μmの傾き(%/μm)は、好ましくは-0.001以下、より好ましくは-0.002以下、さらに好ましくは-0.003以下、特に好ましくは-0.004以下である。NaO濃度プロファイルにおいて、深さ10~50μmの傾き(%/μm)が-0.001以下であることにより、従来の化学強化ガラスに比して表層部分におけるNaイオン濃度を低くし、強度に寄与しない余分な応力の発生をより低減し得る。
【0049】
NaO濃度プロファイルにおける深さ10~50μmの傾き(%/μm)は、好ましくは-0.020以上、より好ましくは-0.018以上、さらに好ましくは-0.016以上、特に好ましくは-0.014以上である。NaO濃度プロファイルにおいて、深さ10~50μmの傾き(%/μm)が-0.020以上であることにより、従来の化学強化ガラスに比して表層部分におけるNaイオン濃度を低くし、強度に寄与しない余分な応力の発生をより低減し得る。
【0050】
NaO濃度プロファイルにおける深さ50~90μmの傾き(%/μm)は、好ましくは-0.012以上、より好ましくは-0.011以上、さらに好ましくは-0.010以上、特に好ましくは-0.009以上である。NaO濃度プロファイルにおいて、深さ50~90μmの傾き(%/μm)が-0.012以上であることにより、深層部のNaイオン濃度を高くし、落下強度に寄与する応力を発生させることができる。
【0051】
NaO濃度プロファイルにおける深さ50~90μmの傾き(%/μm)は、好ましくは-0.002以下、より好ましくは-0.003以下、さらに好ましくは-0.004以下、特に好ましくは-0.005以下である。NaO濃度プロファイルにおいて、深さ50~90μmの傾き(%/μm)が-0.002以下であることにより、深層部のNaイオン濃度を高くし、落下強度に寄与する応力を発生させることができる。
【0052】
本実施形態の化学強化ガラスは、KO濃度プロファイルにおいて、深さ5~10μmの傾き(%/μm)を深さ1~3μmの傾き(%/μm)で除した値の絶対値が0.005以上0.10以下であることが好ましい。前記絶対値が前記範囲であることにより、ガラス表層のカリウムイオン量を表面の微小クラック領域まで拡散できる。前記絶対値は、より好ましくは0.010以上、さらに好ましくは0.015以上、特に好ましくは0.020以上である。前記絶対値は、より好ましくは0.095以下、さらに好ましくは0.090以下、よりさらに好ましくは0.085以下、特に好ましくは0.080以下である。
【0053】
本実施形態の化学強化ガラスは、NaO濃度プロファイルにおいて、深さ50~90μmの傾き(%/μm)を深さ10~50μmの傾き(%/μm)で除した値の絶対値が0.50以上4.0以下であることが好ましい。前記絶対値は、より好ましくは0.60以上、さらに好ましくは0.70以上、よりさらに好ましくは0.80以上、特に好ましくは0.90以上である。前記絶対値は、より好ましくは3.9以下、さらに好ましくは3.8以下、よりさらに好ましくは3.7以下、特に好ましくは3.6以下である。
【0054】
本実施形態の化学強化ガラスは、KO濃度プロファイルにおいて、深さ15~25μmにおけるKO濃度(%)と、中心部のKO濃度(%)との差の絶対値が0.20%以下であることが好ましく、より好ましくは0.16%以下、さらに好ましくは0.12%以下、特に好ましくは0.10%以下である。深さ15~25μmにおけるKO濃度と、中心部のKO濃度との差の絶対値が0.20%以下であることにより、圧縮応力とバランスをとる引張応力を低減し、引張応力に起因する傷の進展を抑制し得る。ここで、深さ15~25μmにおけるKO濃度とは、深さ15~25μmにおけるKO濃度の平均をいう。前記差の絶対値の下限は、通常0.001%以上であることが好ましく、より好ましくは0.005%以上である。
【0055】
本実施形態の化学強化ガラスは、カリウムイオンの拡散層深さが5μm以上であることが好ましく、より好ましくは7μm以上、さらに好ましくは20μm以下である。また、通常18μm以下であることが好ましく、より好ましくは16μm以下である。カリウムイオンの拡散層深さが5μm以上であることにより、表層部におけるKイオン濃度を高め、強度を向上し得る。
【0056】
本化学強化ガラスの一実施形態における応力プロファイルを図1の(a)及び(b)に示す。図1の(a)は表層部の応力プロファイルを示す。図1の(b)は深層部の応力プロファイルを示す。図1の(a)及び(b)において、実線は実施例を、点線は比較例を示す。本化学強化ガラスは、図1の(a)に示すように、比較例に比して表層部におけるKイオン依存の圧縮応力が高く、図1の(b)に示すように深層部における圧縮応力及びDOCが比較例と同等であることにより、本化学強化ガラスは優れた強度を示す。
【0057】
本化学強化ガラスは、表面圧縮応力(CS)が500MPa以上であると撓み等の変形によって割れにくいので好ましい。CSは、600MPa以上がより好ましく、700MPa以上がさらに好ましい。CSは、大きいほど強度が高くなるが、大きすぎると割れた場合に激しい破砕が生じるおそれがあるため、1200MPa以下が好ましく、1000MPa以下がより好ましい。
【0058】
本化学強化ガラスは、表面からの深さ50μmにおける圧縮応力(CS50)が50MPa以上であると、本化学強化ガラスをカバーガラスとして備える携帯端末等を落下させた際の本化学強化ガラスの割れを防ぎやすくなるため好ましい。CS50は、60MPa以上がより好ましく、70MPa以上がさらに好ましい。CS50は、大きいほど強度が高くなるが、大きすぎると割れた場合に激しい破砕が生じるおそれがあるため、180MPa以下が好ましく、160MPa以下がより好ましい。
【0059】
本化学強化ガラスは、表面からの深さ90μmにおける圧縮応力CS90が30MPa以上であると、粗い砂などに本化学強化ガラスをカバーガラスとして備える携帯端末等を落下させた際の本化学強化ガラスの割れを防げるので好ましい。CS90は、40MPa以上がより好ましく、50MPa以上がさらに好ましい。CS90は、大きいほど強度が高くなるが、大きすぎると割れた場合に激しい破砕が生じるおそれがあるため、170MPa以下が好ましく、150MPa以下がより好ましい。
【0060】
本化学強化ガラスはDOCが80μm以上であると表面に傷が生じても割れにくいので好ましい。DOCは、より好ましくは90μm以上、さらに好ましくは100μm以上、特に好ましくは110μm以上である。DOCは大きいほど傷が生じても割れにくいが、化学強化ガラスにおいては、表面付近に形成された圧縮応力に応じて内部に引張応力が生じるために、極端に大きくすることはできない。DOCは厚さtの場合にt/4以下であることが好ましく、t/5以下がより好ましい。DOCは、化学強化に要する時間を短くするために160μm以下が好ましく、150μm以下がより好ましい。
【0061】
化学強化ガラスのCS、DOCは、化学強化の条件やガラスの組成、厚さ等を調整することにより適宜調整し得る。
【0062】
本化学強化ガラスは、ガラス表層にKイオンが多く導入されていることにより、優れた強度を示す。本化学強化ガラスは、4点曲げ強度が480MPa以上であることが好ましく、より好ましくは500MPa以上であり、さらに好ましくは520MPa以上である。4点曲げ強度が540MPa以上であることにより強度信頼性を向上し得る。
【0063】
本化学強化ガラスは、典型的には板状のガラス物品であり、平板状でもよく曲面状でもよい。また、厚さの異なる部分があってもよい。
【0064】
本化学強化ガラスが板状の場合の厚さ(t)は、3000μm以下が好ましく、より好ましくは、以下段階的に、2000μm以下、1600μm以下、1500μm以下、1100μm以下、900μm以下、800μm以下、700μm以下である。また、当該厚さ(t)は、化学強化処理による十分な強度が得られるために、好ましくは300μm以上であり、より好ましくは400μm以上であり、さらに好ましくは500μm以上である。
【0065】
<<用途>>
本化学強化ガラスは、携帯電話、スマートフォン等のモバイル機器等の電子機器に用いられるカバーガラスとしても有用である。さらに、携帯を目的としない、テレビ、パーソナルコンピュータ、タッチパネル等の電子機器のカバーガラス、エレベータ壁面、家屋やビル等の建築物の壁面(全面ディスプレイ)にも有用である。また、窓ガラス等の建築用資材、テーブルトップ、自動車や飛行機等の内装等やそれらのカバーガラスとして、また曲面形状を有する筺体等にも有用である。
【0066】
<<組成>>
本明細書において、「化学強化ガラスの母組成」とは、化学強化用ガラスのガラス組成であり、極端なイオン交換処理がされた場合を除いて、化学強化ガラスの圧縮応力層深さより深い部分のガラス組成は化学強化ガラスの母組成とほぼ同じである。
【0067】
本実施形態の化学強化ガラスは、母組成が、酸化物基準のモル%表示で、
SiOを52~75%、
Alを8~20%、
LiOを5~18%、含有することが好ましい。
【0068】
より好ましくは、本実施形態の化学強化ガラスは、母組成が、酸化物基準のモル%表示で、
SiOを52~75%、
Alを8~20%、
LiOを5~18%、
NaOを0~15%、
Oを0~5%、
MgOを0~20%、
CaOを0~20%、
SrOを0~20%、
BaOを0~20%、
ZnOを0~10%、
TiOを0~1%、
ZrOを0~8%、
を0~5%、含有する。
以下、好ましいガラス組成について説明する。
【0069】
本実施形態における化学強化用ガラスにおいて、SiOはガラスのネットワーク構造を形成する成分である。また、化学的耐久性を上げる成分である。SiOの含有量は52%以上が好ましく、より好ましくは56%以上、さらに好ましくは60%以上、特に好ましくは64%以上である。一方、溶融性を良くするためにSiOの含有量は75%以下が好ましく、より好ましくは73%以下、さらに好ましくは71%以下、特に好ましくは69%以下である。
【0070】
Alは化学強化による表面圧縮応力を大きくする成分であり、必須である。Alの含有量は好ましくは8%以上、より好ましくは10%以上、さらに好ましくは11%以上、特に好ましくは12%以上である。一方、Alの含有量は、ガラスの失透温度が高くなりすぎないために20%以下が好ましく、18%以下がより好ましく、以下順に17%以下、16%以下がさらに好ましく、15%以下が最も好ましい。
【0071】
LiOは、イオン交換により表面圧縮応力を形成させる成分である。LiOの含有量は、好ましくは5%以上、より好ましくは7%以上、さらに好ましくは以下順に9%以上、特に好ましくは11%以上である。一方、ガラスを安定にするためにLiOの含有量は、18%以下が好ましく、より好ましくは17%以下、さらに好ましくは16%以下、最も好ましくは15%以下である。
【0072】
MgOは、ガラスを安定化させる成分であり、機械的強度と耐薬品性を高める成分でもあるため、Al含有量が比較的少ない等の場合には、含有することが好ましい。MgOの含有量は、好ましくは1%以上、より好ましくは2%以上、さらに好ましくは3%以上、とくに好ましくは4%以上である。一方、MgOを添加し過ぎるとガラスの粘性が下がり失透または分相が起こりやすくなる。MgOの含有量は、20%以下が好ましく、より好ましくは19%以下、さらに好ましくは18%以下、特に好ましくは17%以下である。
【0073】
CaO、SrO、BaOおよびZnOは、いずれもガラスの溶融性を向上する成分であり含有してもよい。
【0074】
CaOは、ガラスの溶融性を向上する成分であり、化学強化ガラスの破砕性を改善する成分であり、含有させてもよい。CaOを含有させる場合の含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは2%以上であり、特に好ましくは3%以上、最も好ましくは5%以上である。一方、CaOの含有量が20%超となるとイオン交換性能が著しく低下するため20%以下が好ましい。CaOの含有量は、より好ましくは16%以下であり、さらに好ましくは、以下、段階的に、12%以下、10%以下、8%以下である。
【0075】
SrOは、ガラスの溶融性を向上する成分であり、化学強化ガラスの破砕性を改善する成分であり、含有させてもよい。SrOを含有させる場合の含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは2%以上であり、特に好ましくは3%以上、最も好ましくは5%以上である。一方、SrOの含有量が20%超となるとイオン交換性能が著しく低下するため20%以下が好ましい。SrOの含有量は、より好ましくは16%以下であり、さらに好ましくは、以下、段階的に、12%以下、10%以下、8%以下である。
【0076】
BaOは、ガラスの溶融性を向上する成分であり、化学強化ガラスの破砕性を改善する成分であり、含有させてもよい。BaOを含有させる場合の含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは2%以上であり、特に好ましくは3%以上、最も好ましくは5%以上である。一方、BaOの含有量が20%超となるとイオン交換性能が著しく低下するため20%以下が好ましい。BaOの含有量は、より好ましくは16%以下であり、さらに好ましくは、以下、段階的に、12%以下、10%以下、8%以下である。
【0077】
ZnOはガラスの溶融性を向上させる成分であり、含有させてもよい。ZnOを含有させる場合の含有量は、好ましくは0.25%以上であり、より好ましくは0.5%以上である。一方、ZnOの含有量が10%超となるとガラスの耐候性が著しく低下する。ZnOの含有量は好ましくは10%以下であり、より好ましくは、以下、段階的に、8%以下、6%以下、4%以下、2%以下、1%以下である。
【0078】
NaOは、ガラスの溶融性を向上させる成分である。NaOは必須ではないが、含有する場合は好ましくは1%以上、より好ましくは2%以上であり、特に好ましくは4%以上である。NaOは多すぎると化学強化特性が低下するため、NaOの含有量は15%以下が好ましく、12%以下がより好ましく、10%以下が特に好ましく、8%以下が最も好ましい。
【0079】
Oは、NaOと同じくガラスの溶融温度を下げる成分であり、含有してもよい。KOを含有する場合の含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは0.8%以上、さらに好ましくは1%以上、よりさらに好ましくは1.2%以上、特に好ましくは1.5%以上である。KOは多すぎると化学強化特性が低下する、または化学的耐久性が低下するため、好ましくは5%以下、より好ましくは4.8%以下、さらに好ましくは4.6%以下、特に好ましくは4.2%以下、最も好ましくは4.0%以下である。
【0080】
NaOおよびKOの合計の含有量NaO+KOはガラス原料の溶融性を向上するために3%以上が好ましく、5%以上がより好ましい。また、LiO、NaOおよびKOの含有量の合計(以下、RO)に対するKO含有量の比KO/ROは0.2以下であると、化学強化特性を高くし、化学的耐久性を高くできるので好ましい。KO/ROは0.15以下がより好ましく、0.10以下がさらに好ましい。なお、ROは10%以上が好ましく、12%以上がより好ましく、15%以上がさらに好ましい。また、ROは20%以下が好ましく、18%以下がより好ましい。
【0081】
ZrOは、機械的強度と化学的耐久性を高める成分であり、CSを著しく向上させるため、含有することが好ましい。ZrOの含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは0.7%以上、さらに好ましくは1.0%以上、特に好ましくは1.2%以上であり、最も好ましくは1.5%以上である。一方、溶融時の失透を抑制するために、ZrOは8%以下が好ましく、7.5%以下がより好ましく、7%以下がさらに好ましく、6%以下が特に好ましい。ZrOの含有量が多すぎると失透温度の上昇により粘性が低下する。かかる粘性の低下により成形性が悪化するのを抑制するため、成形粘性が低い場合は、ZrOの含有量は5%以下が好ましく、4.5%以下がより好ましく、3.5%以下がさらに好ましい。
【0082】
ZrO/ROは、化学的耐久性を高くするためには、0.01以上が好ましく、0.02以上がより好ましく、0.04以上がさらに好ましく、0.08以上が特に好ましく、0.1以上が最も好ましい。ZrO/ROは、0.2以下が好ましく、0.18以下がより好ましく、0.16以下がさらに好ましく、0.14以下が特に好ましい。
【0083】
TiOは必須ではないが、含有する場合は、好ましくは0.05%以上であり、より好ましくは0.1%以上である。一方、溶融時の失透を抑制するために、TiOの含有量は1%以下が好ましく、0.5%以下がより好ましく、0.3%以下がさらに好ましい。
【0084】
SnOは必須ではないが、含有する場合、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは1.5%以上、特に好ましくは2%以上である。一方、溶融時の失透を抑制するために、SnOの含有量は4%以下が好ましく、3.5%以下がより好ましく、3%以下がさらに好ましく、2.5%以下が特に好ましい。
【0085】
は化学強化ガラスが破壊した時に破片が飛散しにくくする効果のある成分であり、含有させてよい。Yの含有量は、好ましくは0.3%以上、より好ましくは0.5%以上、さらに好ましくは0.7%以上、特に好ましくは1.0%以上である。一方、溶融時の失透を抑制するために、Yの含有量は5%以下が好ましく、4%以下がより好ましい。
【0086】
は、化学強化用ガラスまたは化学強化ガラスのチッピング耐性を向上させ、また溶融性を向上させる成分であり、含有してもよい。Bを含有する場合の含有量は、溶融性を向上するために、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは2%以上である。一方、Bの含有量が多すぎると溶融時に脈理が発生したり、分相しやすくなったりして化学強化用ガラスの品質が低下しやすいため10%以下が好ましい。Bの含有量は、より好ましくは8%以下、さらに好ましくは6%以下であり、特に好ましくは4%以下である。
【0087】
La、NbおよびTaは、いずれも化学強化ガラスが破壊した時に破片が飛散しにくくする成分であり、屈折率を高くするために、含有させてもよい。これらを含有する場合、La、NbおよびTaの含有量の合計(以下、La+Nb+Ta)は好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは1.5%以上であり、特に好ましくは2%以上である。また、溶融時にガラスが失透しにくくなるために、La+Nb+Taは4%以下が好ましく、より好ましくは3%以下、さらに好ましくは2%以下であり、特に好ましくは1%以下である。
【0088】
また、CeOを含有してもよい。CeOはガラスを酸化することで着色を抑える場合がある。CeOを含有する場合の含有量は0.03%以上が好ましく、0.05%以上がより好ましく、0.07%以上がさらに好ましい。CeOの含有量は、透明性を高くするために1.5%以下が好ましく、1.0%以下がより好ましい。
【0089】
化学強化ガラスを着色して使用する際は、所望の化学強化特性の達成を阻害しない範囲において着色成分を添加してもよい。着色成分としては、例えば、Co、MnO、Fe、NiO、CuO、Cr、V、Bi、SeO、Er、Ndが挙げられる。
【0090】
着色成分の含有量は、合計で1%以下の範囲が好ましい。ガラスの可視光透過率をより高くしたい場合は、これらの成分は実質的に含有しないことが好ましい。
【0091】
紫外光の照射に対する耐候性を高めるために、HfO、Nb、Tiを添加してもよい。紫外光照射に対する耐候性を高める目的で添加する場合には、他の特性に影響を抑えるために、HfO、NbおよびTiの含有量の合計は1%以下が好ましく、0.5%以下がさらに好ましく、0.1%以下がより好ましい。
【0092】
また、ガラスの溶融の際の清澄剤等として、SO、塩化物、フッ化物を適宜含有してもよい。清澄剤として機能する成分の含有量の合計は、添加しすぎると強化特性に影響をおよぼすため、酸化物基準の質量%表示で、2%以下が好ましく、より好ましくは1%以下であり、さらに好ましくは0.5%以下である。下限は特に制限されないが、典型的には、酸化物基準の質量%表示で、合計で0.05%以上が好ましい。
【0093】
清澄剤としてSOを用いる場合のSOの含有量は、少なすぎると効果が見られないため、酸化物基準の質量%表示で、0.01%以上が好ましく、より好ましくは0.05%以上であり、さらに好ましくは0.1%以上である。また、清澄剤としてSOを用いる場合のSOの含有量は、酸化物基準の質量%表示で、1%以下が好ましく、より好ましくは0.8%以下であり、さらに好ましくは0.6%以下である。
【0094】
清澄剤としてClを用いる場合のClの含有量は、添加しすぎると強化特性などの物性に影響をおよぼすため、酸化物基準の質量%表示で、1%以下が好ましく、0.8%以下がより好ましく、0.6%以下がさらに好ましい。また、清澄剤としてClを用いる場合のClの含有量は、少なすぎると効果が見られないため、酸化物基準の質量%表示で、0.05%以上が好ましく、より好ましくは0.1%以上であり、さらに好ましくは0.2%以上である。
【0095】
清澄剤としてSnOを用いる場合のSnOの含有量は、酸化物基準の質量%表示で、1%以下が好ましく、0.5%以下がより好ましく、0.3%以下がさらに好ましい。また、清澄剤としてSnOを用いる場合のSnOの含有量は、少なすぎると効果が見られないため、酸化物基準の質量%表示で、0.02%以上が好ましく、より好ましくは0.05%以上であり、さらに好ましくは0.1%以上である。
【0096】
は含有しないことが好ましい。Pを含有する場合は、2.0%以下が好ましく、1.0%以下がより好ましく、0.5%以下がさらに好ましく、含有しないことが最も好ましい。
【0097】
Asは含有しないことが好ましい。Asを含有する場合は、0.3%以下が好ましく、0.1%以下がより好ましく、含有しないことが最も好ましい。
【0098】
<化学強化ガラスの製造方法>
本発明の一実施形態に係る化学強化ガラスを製造する方法(以下、本製造方法とも略す。)を以下に説明する。
【0099】
本製造方法は、以下の工程(1)~(3)を順次含むことを特徴とする。
(1)リチウム含有ガラスを、カリウムを含有する無機塩組成物で少なくとも1回以上イオン交換するイオン交換工程(2)LiNOおよびNaNOを含有し、且つLiNOに対するNaNOの質量比率NaNO/LiNOが0.25~3.0である無機塩組成物に、前記リチウム含有ガラスを、425℃以上で5時間以上接触させる逆イオン交換工程(3)前記リチウム含有ガラスを、カリウムを含有する無機塩組成物で少なくとも1回以上イオン交換する再イオン交換工程
以下、各工程について説明する。
【0100】
<<工程(1)>>
工程(1)は、リチウム含有ガラスを、カリウムを含有する無機塩組成物に接触させて少なくとも1回以上イオン交換する工程である。リチウム含有ガラスは、リチウムを含有し、成形、化学強化処理による組成が可能な組成であればよい。ガラスとして、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、ホウ珪酸ガラス、鉛ガラス、アルカリバリウムガラス、アルミノホウ珪酸ガラス等が挙げられる。
【0101】
リチウム含有ガラスの好ましい組成としては、<化学強化ガラス>の<<組成>>の項において記載したものと同様である。すなわち、母組成が、酸化物基準のモル%表示で、SiOを52~75%、Alを8~20%、LiOを5~18%、含有することが好ましい。かかる好ましい母組成を有するガラスは、イオン交換によりカリウムがガラス内に拡散しにくい性質を有するが、本製造方法によれば、ガラス表層に多くのカリウムイオンを導入し、表面強度を高め得る。
【0102】
ガラスの表層に圧縮応力層を形成する化学強化処理は、ガラスを無機塩組成物に接触させて、該ガラス中の金属イオンと、該無機塩組成物中にある、該金属イオンよりイオン半径の大きい金属イオンと、を置換する処理である。
【0103】
無機塩組成物にガラスを接触させる方法としては、ペースト状の無機塩組成物をガラスに塗布する方法、無機塩組成物の水溶液をガラスに噴射する方法、融点以上に加熱した無機塩組成物の溶融塩の塩浴にガラス板浸漬させる方法などが挙げられる。これらの中では、生産性を向上させる観点から、無機塩組成物の溶融塩にガラスを浸漬させる方法が好ましい。
【0104】
無機塩組成物の溶融塩にガラスを浸漬させる方法による化学強化処理は、例えば、次の手順で実施できる。まずガラスを100℃以上に予熱し、該溶融塩を、化学強化を行う温度に調整する。次いで予熱したガラスを溶融塩中に所定の時間浸漬した後、ガラスを溶融塩中から引き上げ、放冷する。
【0105】
工程(1)のイオン交換に用いる無機塩組成物に含まれる塩としては特に限定されず、例えば、硝酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、塩化ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、硝酸カリウム、炭酸カリウム、塩化カリウム、ホウ酸カリウム、硫酸カリウム、硝酸リチウム、炭酸リチウム、塩化リチウム、ホウ酸リチウム、硫酸リチウムが挙げられ、これらは単独で添加しても、複数種を組み合わせて添加してもよい。カリウムを含有する無機塩組成物としては、例えば、好ましくは硝酸ナトリウムまたは硝酸カリウムを含有する無機塩組成物が挙げられる。
【0106】
工程(1)におけるリチウム含有ガラスと無機塩組成物との接触温度は特に制限されないが、イオン交換速度を速めて生産性を向上させる観点から、310℃以上が好ましく、330℃以上がより好ましく、350℃以上がさらに好ましい。また、塩の揮散を低減する観点から、上記接触温度は530℃以下が好ましく、500℃以下がより好ましく、480℃以下がさらに好ましい。
【0107】
工程(1)におけるリチウム含有ガラスと無機塩組成物との接触時間は特に制限されないが、時間変動によるイオン交換レベルのバラつきを低減させる観点から、30分以上が好ましく、45分以上がより好ましく、1時間以上がさらに好ましい。また、生産性を向上させる観点から、20時間以下が好ましい。
【0108】
工程(1)におけるイオン交換は、カリウムを含有する無機塩組成物に接触させるイオン交換が少なくとも1回以上含まれれば、1段階のイオン交換であってもよいし、2段階以上の多段階イオン交換であってもよい。
【0109】
工程(1)における2段階以上のイオン交換としては、例えば、下記が挙げられる。
・第1段階のイオン交換として、好ましくは20質量%以上のNaNOを含む無機塩組成物にガラス板を接触させて、該ガラス中のLiイオンと無機塩組成物中のNaイオンとをイオン交換した後に、第2段階のイオン交換として、好ましくは80質量%以上のKNOを含む無機塩組成物にガラス板を接触させて、ガラス中のNaイオンと無機塩組成物中のKイオンとをイオン交換する。
上記の第1段階のイオン交換時の無機塩組成物におけるNaNOの含有量は、30質量%以上がより好ましく、40質量%以上がさらに好ましい。また、上記の第2段階のイオン交換時の無機塩組成物におけるKNOの含有量は、85質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。
【0110】
工程(1)によりリチウム含有ガラスの表層に形成される圧縮応力層のうち、最表面における圧縮応力(CS)は、特に限定されないが、通常600MPa以上が好ましく、650MPa以上がより好ましく、700MPa以上がさらに好ましい。
【0111】
<<工程(2)>>
工程(2)は、LiNOおよびNaNOを含有する無機塩組成物に、リチウム含有ガラスを接触させて、該リチウム含有ガラス中のイオンと、該イオンより小さいイオン半径を有するイオンとをイオン交換させて、工程(1)で形成された圧縮応力層の圧縮応力を低減させる逆イオン交換工程である。より具体的には例えば、ガラス中のKイオンと無機塩組成物中のNaイオン、およびガラス中のNaイオンと無機塩組成物中のLiイオンが交換される。
【0112】
工程(2)で用いる無機塩組成物は、LiNOおよびNaNOを含有し、LiNOに対するNaNOの質量比率NaNO/LiNOが0.25以上3.0以下である。前記質量比率NaNO/LiNOが0.25以上3.0以下であることにより、ガラス表層のNaイオン濃度を十分に低減させて、逆イオン交換効率を高め得る。逆イオン交換の効率を向上する観点から、質量比率NaNO/LiNOは、より好ましくは0.40以上、さらに好ましくは0.55以上、特に好ましくは0.75以上である。また、より好ましくは2.5以下、さらに好ましくは1.8以下、特に好ましくは1.3以下である。
【0113】
工程(2)で用いる無機塩組成物に含まれるLiNOの含有量は、20質量%以上が好ましく、より好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上である。また、無機塩組成物に含まれるLiNOの含有量は、75質量%以下が好ましく、より好ましくは70質量%以下、さらに好ましくは65質量%以下である。
【0114】
無機塩組成物は、LiNOおよびNaNOに加えて、さらに他の無機塩を添加してもよい。該他の無機塩としては、例えば、炭酸ナトリウム、塩化ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、硝酸カリウム、炭酸カリウム、塩化カリウム、ホウ酸カリウム、硫酸カリウム、炭酸リチウム、塩化リチウム、ホウ酸リチウム、硫酸リチウムが挙げられる。
【0115】
これらの中でも、LiNOの含有量を増やさずとも逆イオン交換効率を高められる観点からKNOが好ましく挙げられる。無機塩組成物にKNOを含有させる場合、無機塩組成物におけるKNOの含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは15質量%以上である。また、無機塩組成物におけるKNOの含有量は、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下、さらに好ましくは40質量%以下である。
【0116】
工程(2)におけるリチウム含有ガラスと無機塩組成物との接触温度は、425℃以上であり、好ましくは435℃以上、より好ましくは445℃以上である。接触温度を425℃以上とすることにより、逆イオン交換効率を高めてガラスからイオンを十分に抜き、工程(3)における再イオン交換の効率を高めて強度を向上し得る。また、工程(1)及び工程(2)によるガラスの膨張を抑制し得る。また、塩の揮散を低減する観点から、前記接触温度は500℃以下が好ましく、485℃以下がより好ましく、470℃以下がさらに好ましい。
【0117】
工程(2)におけるリチウム含有ガラスと無機塩組成物との接触時間は、時間変動によるイオン交換レベルのバラつきを低減させて逆イオン交換効率を向上する観点、並びに工程(1)及び工程(2)によるガラスの膨張を抑制する観点から、工程(1)及び工程(2)による膨張を抑制する観点から、4時間以上が好ましく、6時間以上がより好ましく、8時間以上がさらに好ましい。また、生産性を向上させる観点から、72時間以下が好ましく、より好ましくは48時間以下、さらに好ましくは24時間以下である。
【0118】
工程(2)により低減させた圧縮応力層の圧縮応力は、低いほど好ましく、圧縮応力層が完全に除去されることが最も好ましい。例えば、第1のイオン交換工程後の圧縮応力層の圧縮応力(CS)は、表面からの深さ50μmにおいて、10MPa以下が好ましく、7MPa以下がより好ましく、4MPa以下がさらに好ましく、0MPaが最も好ましい。また、工程(2)後のガラス表面の圧縮応力は、100MPa以下であればよく、50MPa以下が好ましく、20MPa以下がより好ましく、10MPa以下がさらに好ましい。
【0119】
工程(2)により逆イオン交換したリチウム含有ガラスは、ガラス板の長手方向の長さの膨張率が、工程(1)におけるイオン交換前のリチウム含有ガラスに対し、0.4%以下であることが好ましく、より好ましくは0.3%以下、さらに好ましくは0.2%以下である。該膨張率を0.1%以下とすることで、膨張率の増大に伴うガラスの反りなどを抑制できる。該膨張率の上限は特に制限はなく、0%に近いほど好ましいが、通常-0.05%以上である。
【0120】
<<工程(A)>>
本製造方法は、工程(2)の逆イオン交換工程と工程(3)の再イオン交換工程との間に、下記工程(A)を含んでもよい。(A)リチウム含有ガラスの表面を、片面または両面に対して、片面当たり0.5~15μm除去する工程
【0121】
工程(A)におけるリチウム含有ガラス表面の除去量は、片面当たり0.5μm以上であり、好ましくは0.7μm以上、より好ましくは0.9μm以上、さらに好ましくは1.3μm以上である。また、工程(A)における除去量は、片面当たり15μm以下であり、好ましくは12μm以下、より好ましくは10μm以下、さらに好ましくは8μm以下である。工程(A)における除去量を前記範囲とすることで、ガラス表面のミクロな傷(欠点)が除去されるとともに、逆イオン交換で発生した白曇りを十分に除去し得る。
【0122】
工程(A)におけるリチウム含有ガラス表面の除去量は、両面の研磨量が均等でなくともよく、例えば両面の研磨量の差が好ましくは3.0μm以下の範囲であれば反りを低減することができ、より好ましくは2.0μm以下、さらに好ましくは1.0μm以下、特に好ましくは0.5μm以下である。
【0123】
リチウム含有ガラスの表面を除去する手段としては、研磨またはガラス表面のエッチングが挙げられる。なお、工程(A)においては、ガラスの反り防止の点から、板厚方向に対向する2つのガラス板主面について、同じ量を除去することが好ましいが、工程(A)の除去条件は特に制限されず、所望の表面粗さとなる条件で行うとよい。
【0124】
研磨手段としては、例えば、酸化セリウム、コロイダルシリカ等の砥粒を使用できる。砥粒平均粒径は、0.02~2.0μmが好ましく、砥粒の濃度として、スラリーとした再の比重は1.03~1.13が好ましい。研磨圧は6~20kPaが好ましく、研磨装置の定盤の回転速度は最外周の周速が毎分20~100mであることが好ましい。一例として、平均粒径約1.2μmの酸化セリウムを水に分散させて比重1.07のスラリーを作製し、表面が不織布またはスウェードの研磨パッドを用いて、研磨圧9.8kPaの条件で、片面あたり0.5μm以上のガラス板の表面を研磨する等の一般的な方法で実施できる。また、研磨工程では、ショアA硬度が25~65°かつ100g/cmでの沈み込み量が0.05mm以上となる、表面が不織布又はスウェードの研磨パッドが適用できる。この中でも、コスト面から不織布の研磨パッドの使用が好ましい。
【0125】
エッチングによるガラス表面の除去としては、例えば、フッ酸を含む薬液によるエッチングが挙げられる。
【0126】
<<工程(3)>>
工程(3)は、工程(2)において圧縮応力を低減させたリチウム含有ガラスを無機塩組成物に接触させて、該ガラス板の表層に形成する圧縮応力層の圧縮応力を増加させるように、カリウムを含有する無機塩組成物で少なくとも1回以上イオン交換する、再イオン交換工程である。
【0127】
具体的には、工程(3)においては、ガラス中のイオンと、該イオンよりも大きいイオン半径を有するイオンとをイオン交換させて、圧縮応力層の圧縮応力を増加させる。より具体的には例えば、ガラス中のNaイオンと無機塩組成物中のKイオン、およびガラス中のLiイオンと無機塩組成物中のNaイオンが交換される。
【0128】
工程(3)のイオン交換に用いる無機塩組成物に含まれる塩としては、例えば、硝酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、塩化ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、硝酸カリウム、炭酸カリウム、塩化カリウム、ホウ酸カリウム、硫酸カリウム、が挙げられ、これらは単独で添加しても、複数種を組み合わせて添加してもよい。
【0129】
工程(3)のイオン交換に用いる無機塩組成物に含まれる塩の種類およびその含有量は、所望の圧縮応力および圧縮応力層深さが得られるように適宜設定できる。
【0130】
例えば、ガラス中のNaイオンと無機塩組成物中のKイオンとをイオン交換する方法としては、無機塩組成物として、KNOを好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上含む無機塩組成物の使用が好ましい。
【0131】
工程(3)のイオン交換は、カリウムを含有する無機塩組成物に接触させるイオン交換が少なくとも1回以上含まれれば、1段階のイオン交換であってもよいし、2段階以上の多段階イオン交換であってもよい。
【0132】
また、工程(3)における2段階以上のイオン交換としては、例えば、下記が挙げられる。・第1段階のイオン交換として、好ましくは20質量%以上のNaNOを含む無機塩組成物にガラス板を接触させて、該ガラス中のLiイオンと無機塩組成物中のNaイオンとをイオン交換した後に、第2段階のイオン交換として、好ましくは80質量%以上のKNOを含む無機塩組成物にガラス板を接触させて、ガラス中のNaイオンと無機塩組成物中のKイオンとをイオン交換する。
上記の第1段階のイオン交換時の無機塩組成物におけるNaNOの含有量は、30質量%以上がより好ましく、30質量%以上がさらに好ましい。また、上記の第2段階のイオン交換時の無機塩組成物におけるKNOの含有量は、85質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。
【0133】
工程(3)のイオン交換におけるリチウム含有ガラスと無機塩組成物との接触温度は特に制限されないが、イオン交換速度を速めて生産性を向上させる観点から、310℃以上が好ましく、330℃以上がより好ましく、350℃以上がさらに好ましい。また、塩の揮散を低減する観点から、上記接触温度は530℃以下が好ましく、500℃以下がより好ましく、480℃以下がさらに好ましい。
【0134】
工程(3)のイオン交換におけるリチウム含有ガラスと無機塩組成物との接触時間は特に制限されないが、時間変動によるイオン交換レベルのバラつきを低減させる観点から、30分以上が好ましく、45分以上がより好ましく、1時間以上がさらに好ましい。また、生産性を向上させる観点から、20時間以下が好ましい。
【0135】
工程(1)のイオン交換及び工程(3)のイオン交換が各々2段階のイオン交換を含む場合、工程(3)のイオン交換に含まれる第1段階のイオン交換の時間が、工程(1)のイオン交換に含まれる第1段階のイオン交換の時間より長いことが好ましい。これにより、工程(2)においてガラス表面から過剰に抜かれたNaイオンを十分にガラス表層に導入し得る。
【0136】
本製造方法では、各工程間にガラスを洗浄する工程をさらに含むことが好ましい。洗浄には工水、イオン交換水等を使用できる。洗浄の条件は洗浄液によっても異なるが、イオン交換水を用いる場合には0~100℃の温度で洗浄すると、付着した塩を完全に除去できる点から好ましい。洗浄工程では、イオン交換水等が入っている水槽にガラスを浸漬する方法や、ガラス表面を流水にさらす方法、シャワーにより洗浄液をガラス表面に向けて噴射する方法等、様々な方法を使用できる。
【0137】
本製造方法で製造される化学強化ガラスの圧縮応力層の圧縮応力(CS)は、特に限定されないが、表面からの深さ50μmにおいて、50MPa以上が好ましく、60MPa以上がより好ましく、70MPa以上がさらに好ましい。また、本製造方法で製造される化学強化ガラスのガラス表面の圧縮応力も、特に限定されないが、500MPa以上であればよく、600Mpa以上が好ましく、700MPa以上がより好ましく、800MPa以上がさらに好ましい。
【実施例0138】
以下、本発明を実施例によって説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0139】
<化学強化ガラスの作製>
(化学強化用ガラスの作製)
酸化物基準のモル百分率表示で示した下記組成となるようにガラス原料を調合し、ガラスとして400gになるように秤量した。ついで、混合した原料を白金るつぼに入れ、1500~1700℃の電気炉に投入して3時間程度溶融し、脱泡し、均質化した。
硝材A:SiO 69.2%、Al 12.4%、MgO 0.1%、CaO 0.1%、ZrO 0.3%、Y 1.3%、LiO 10.6%、Na
4.7%、KO 1.2%
【0140】
得られた溶融ガラスを金属型に流し込み、ガラス転移点より50℃程度高い温度に1時間保持した後、0.5℃/分の速度で室温まで冷却し、ガラスブロックを得た。得られた溶融ガラスを型に流し込み、ガラス転移点(714℃)付近の温度に約1時間保持した後、0.5℃/分の速度で室温まで冷却してガラスブロックを得た。得られたガラスブロックから50mm×50mm×0.7mmのガラス板を作製した。
【0141】
工程(1):イオン交換工程
上記で得られたガラス板を用いて、表1に示す条件で無機塩組成物にガラス板を浸漬させて、イオン交換処理を施した。表1において、「1段目」及び「2段目」と記載している場合、1段目のイオン交換処理の後、2段目のイオン交換処理を行った。各イオン交換の間に、ガラス板の表面を洗浄し乾燥させた。
【0142】
工程(2):逆イオン交換工程
前記イオン交換工程の後に、表1に示す条件で無機塩組成物にガラス板を浸漬させて、イオン交換処理を施し、逆イオン交換をした。その後、ガラス板の表面を洗浄し、乾燥させた。
【0143】
工程(A):除去工程
研磨スラリーとして、平均粒子直径(d50)が1.2μmの酸化セリウムを水に分散させて比重1.07のスラリーを作製した。次に、得られたスラリーを用いて、ショアA硬度が58°、100g/cmでの沈み込み量が0.11mmの不織布研磨パッドを用いて、研磨圧9.8kPaの条件で、ガラス板の両面を同時に各々5μm研磨した。
【0144】
工程(3):再イオン交換工程
上記除去工程の後に、表1に示す条件で無機塩組成物にガラス板を浸漬させて、イオン交換処理を施し、再イオン交換をした。その後、ガラス板の表面を洗浄し、乾燥させた。
【0145】
<評価>
本実施例における各種評価は以下に示す方法により行った。
(EPMA)
ガラスにおけるKO濃度又はNaO濃度は、EPMAにより、以下のようにして測定した。まず、ガラス試料をエポキシ樹脂で包埋し、第1の主面および第1の主面に対向する第2の主面に対して垂直方向に機械研磨して断面試料を作製した。研磨後の断面にCコートを施し、EPMA(JEOL社製:JXA-8500F)を用いて測定を行った。加速電圧は15kV、プローブ電流は30nA、積算時間は1000msec./pointとして1μm間隔でKO又はNaOのX線強度のラインプロファイルを取得した。得られたKO濃度プロファイル及びNaO濃度プロファイルについて、板厚中央部(0.5×t)±25μm(板厚をtμmとする)の平均カウントをバルク組成として、全板厚のカウントをモル%に比例換算して算出し、表2に示す各領域における傾き(%/μm)を求めた。
【0146】
(応力プロファイル)
散乱光光弾性応力計(折原製作所製SLP-2000)を用いて、国際公開第2018/056121号に記載の方法により化学強化ガラスの応力を測定した。また、散乱光光弾性応力計(折原製作所製SLP-2000)の付属ソフト[SlpV(Ver.2019.11.07.001)]を用いて、応力プロファイルを算出した。
【0147】
応力プロファイルを得るために使用した関数はσ(x)=[a×erfc(a×x)+a×erfc(a×x)+a]である。a=1~5)はフィッティングパラメータであり、erfcは相補誤差関数である。相補誤差関数は下記式によって定義される。
【0148】
【数1】
【0149】
本明細書における評価では、得られた生データと上記の関数の残差二乗和を最小化することで、フィッティングパラメータを最適化した。測定処理条件は単発とし、測定領域処理調整項目は表面でエッジ法を、内部表面端は6.0μmを、内部左右端は自動を、内部深部端は自動(サンプル膜厚中央)を、そして位相曲線のサンプル厚さ中央迄延長はフィッティング曲線を、それぞれ指定選択した。
【0150】
ガラス表面から数十μm以下のガラス表層部における応力は、ガラス表面応力計(折原製作所製FSM6000-UV)を用いて、国際公開第2018/056121号、国際公開第2017/115811号に記載の方法により測定した。
【0151】
また、同時に断面方向のアルカリ金属イオンの濃度分布(ナトリウムイオン及びカリウムイオン)の測定をSEM-EDX(EPMA)で行い、得られた応力プロファイルと矛盾がないことを確認した。
【0152】
また、得られた応力プロファイルから、上述した方法により圧縮応力CS、DOL、CS50、CS90、CTave、CT-Max、DOCの値を算出した。
【0153】
(カリウムイオン拡散層深さ)
カリウムイオン拡散層深さは、EPMAにより得られたKO濃度プロファイルにおける板厚中央部(0.5×t)±25μmの平均KO濃度(%)に対して、最表面側から見た時に、KO濃度が+2σ以下の範囲に入る深さ(μm)をカリウムイオン拡散層深さとした。
【0154】
(膨張率)
工程(1)のイオン交換前のガラス板の長手方向の長さに対する、工程(3)の再イオン交換工程後のガラス板の長手方向の長さの変化率を求めて、膨張率とした。ガラス板の長さは、株式会社ミツトヨ製のデジタルノギスを用いて測定した。
【0155】
(4PB強度)
化学強化用ガラスを50mm×50mmに切断し、1000番手の砥石(東京ダイヤモンド工具製作所製)を用いて自動面取り加工(C面取り)して得られた50×50×0.7mm厚のものに、工程(1)、(2)、(A)、(3)の順に処理を行った後、支持具の外部支点間距離が30mm、内部支点間距離が10mm、クロスヘッド速度が5.0mm/minの条件で4点曲げ試験を行い、4点曲げ強度を測定した。試験片の個数は、10個とした。
【0156】
化学強化ガラスを評価した結果を表2に示す。表1及び2において、例1~4は実施例であり、例5は比較例である。例1及び例5の応力プロファイルを図1に示す。また、例1、2及び5のKO濃度又はNaO濃度プロファイルを図2~4にそれぞれ示す。
【0157】
表2において、各表記は以下を表す。「N.D.」は未評価であることを示す。
t[μm]:板厚
CS[MPa]:ガラス表面における圧縮応力
DOL[μm]:圧縮応力深さ
CS50[MPa]:ガラス表面からの深さ50μmにおける圧縮応力
CS90[MPa]:ガラス表面からの深さ90μmにおける圧縮応力
CTave[MPa]:引張応力の平均値
CT-Max(MPa):最大引張応力
DOC[μm]:圧縮応力層深さ
mK1-3[mol%/μm]:KO濃度プロファイルにおける、深さ1~3μmの傾き
mK5-10[mol%/μm]:KO濃度プロファイルにおける、深さ5~10μmの傾き
mNa10-50[mol%/μm]:NaO濃度プロファイルにおける、深さ10~50μmの傾き
mNa50-90[mol%/μm]:NaO濃度プロファイルにおける、深さ50~90μmの傾き
|mK5-10/mK1-3|:KO濃度プロファイルにおける、深さ5~10μmの傾きを深さ1~3μmの傾きで除した値の絶対値
|mNa50-90/mNa10-50|:NaO濃度プロファイルにおける、深さ50~90μmの傾きを深さ10~50μmの傾きで除した値の絶対値
深さ15-25μmと中心部とのKO濃度の差の絶対値[%]:深さ15~25μmにおけるKO濃度(%)と、中心部のKO濃度(%)との差の絶対値
4PB強度:10個の試験片に対して行った4点曲げ強度の測定結果の平均値
【0158】
【表1】
【0159】
【表2】
【0160】
表2に示すように、実施例である例1は、比較例である例5に比して優れた4PB強度を示した。表2及び図1の(a)に示すように、実施例である例1及び例2は、比較例である例5に比して、表層に多くのKイオンが導入されており、表層部において高い応力を有し、優れた強度を示す。実施例である例3は、比較例に比して表層に多くのKイオンが導入されており、表面圧縮応力CSが高く、優れた強度を有する。実施例である例4は、比較例に比して表層に多くのKイオンが導入されており、圧縮応力層深さDOCが深く、優れた強度を有する。
【0161】
実施例である例1は、実施例である例3に比して、CS50及びDOCが高かった。この結果から、工程(3)の第1イオン交換時間を工程(1)の第1イオン交換時間より長くすることにより、CS50及びDOCを高めて、落下強度をより向上し得ると考えられる。
【0162】
また、実施例である例3は、実施例である例4に比して、ガラスの膨張率が低かった。この結果から、工程(2)のNaNO/LiNOの比率が小さい方が工程(2)までにおける膨張率を低減できるため、工程(3)の後の膨張率も小さくし得ると考えられる。
【0163】
さらに、上記した例で用いたガラス(硝材A)とは異なる組成のガラス(硝材B)を用意し、該ガラスを用いて化学強化用ガラスを作製した。酸化物基準のモル百分率表示で示した下記硝材Bの組成となるようにガラス原料を調合し、ガラスとして400gになるように秤量した。ついで、混合した原料を白金るつぼに入れ、1500~1700℃の電気炉に投入して3時間程度溶融し、脱泡し、均質化した。
硝材B:SiO 66.2%、Al 11.2%、MgO 3.1%、CaO 0.2%、ZrO 1.3%、Y 0.5%、LiO 10.4%、NaO 5.6%、KO 1.5%
【0164】
得られた溶融ガラスを金属型に流し込み、ガラス転移点より50℃程度高い温度に1時間保持した後、0.5℃/分の速度で室温まで冷却し、ガラスブロックを得た。得られた溶融ガラスを型に流し込み、ガラス転移点(714℃)付近の温度に約1時間保持した後、100℃/分の速度で室温まで冷却してガラスブロックを得た。得られたガラスブロックから50mm×50mm×0.6mmのガラス板を作製した。
【0165】
以下、工程(1):イオン交換工程、工程(2):逆イオン交換工程、工程(A):除去工程、工程(3):再イオン交換工程については表3に示す条件で化学強化ガラスを作製した。
【0166】
硝材Bのガラスを化学強化した化学強化ガラスにおける各種評価は、上記した硝材Aのガラスを化学強化した化学強化ガラスと同様の方法により行った。
【0167】
硝材Bのガラスを化学強化した化学強化ガラスについての結果を表4に示す。表3及び4において、例6~9は実施例であり、例10は比較例である。
【0168】
【表3】
【0169】
【表4】
【0170】
表4に示すように、実施例である例6~9は、実施例である例1~4と同様に深さ1~3μmの傾きmK1-3[mol%/μm]が-1.9以上であり、深さ5~10μmの傾きmK5-10[mol%/μm]が-0.001以下であった。
【0171】
また、実施例である例6~9について以下の検証を行った。
実施例である例6~9は、実施例である例1~4と同様に深さ5~10μmの傾き(%/μm)を、深さ1~3μmの傾き(%/μm)で除した値の絶対値|mK5-10/mK1-3|が0.005以上0.10以下であった。
実施例である例6~9は、実施例である例1~4と同様に深さ50~90μmの傾き(%/μm)を、を深さ10~50μmの傾き(%/μm)で除した値の絶対値|mNa50-90/mNa10-50|が0.50以上4.0以下であった。
実施例である例6~9は、実施例である例1~4と同様に、深さ15~25μmにおけるKO濃度(%)と、板厚中心部のKO濃度(%)との差の絶対値が0.20%以下であった。
実施例である例6~9は、実施例である例1~4と同様に、カリウムイオンの拡散層深さが5μm以上であった。
実施例である例6~9は、逆イオン交換工程を行っていない比較例である例5に比して深さ1~3μmの傾きmK1-3[mol%/μm]は大きい値を示し、深さ5~10μmの傾きmK5-10[mol%/μm]は小さい値を示した。
実施例である例6~9は、再イオン交換工程を行っていない比較例である例10に比して、深さ15~25μmに多くのKイオンが導入されており、表層部において高い応力を有し、優れた強度を示すことが分かった。
【0172】
以上説明したように、本明細書には次の事項が開示されている。
1.横軸を表面からの深さ(μm)とし、且つ縦軸を酸化物基準のモル百分率表示で表されるKO濃度(%)とするKO濃度プロファイルにおいて、
深さ1~3μmの傾き(%/μm)が-1.9以上であり、深さ5~10μmの傾き(%/μm)が-0.001以下である、化学強化ガラス。
2.横軸を表面からの深さ(μm)とし、且つ縦軸を酸化物基準のモル百分率表示で表されるNaO濃度(%)とするNaO濃度プロファイルにおいて、
深さ10~50μmの傾き(%/μm)が-0.001以下であり、深さ50~90μmの傾き(%/μm)が-0.012以上である、前記1に記載の化学強化ガラス。
3.前記KO濃度プロファイルにおいて、深さ5~10μmのKO濃度の傾き(%/μm)を、深さ1~3μmのKO濃度の傾き(%/μm)で除した値の絶対値が0.005以上0.10以下である、前記1または2に記載の化学強化ガラス。
4.横軸を表面からの深さ(μm)とし、且つ縦軸を酸化物基準のモル百分率表示で表されるNaO濃度(%)とするNaO濃度プロファイルにおいて、
深さ50~90μmのNaO濃度の傾き(%/μm)を、深さ10~50μmのNaO濃度の傾き(%/μm)で除した値の絶対値が0.50以上4.0以下である、前記1~3のいずれか1に記載の化学強化ガラス。
5.前記KO濃度プロファイルにおいて、深さ15~25μmにおけるKO濃度(%)と、板厚中心部のKO濃度(%)との差の絶対値が0.20%以下である、前記1~4のいずれか1に記載の化学強化ガラス。
6.カリウムイオンの拡散層深さが5μm以上である、前記1~5のいずれか1に記載の化学強化ガラス。
7.リチウム含有ガラスである、前記1~6のいずれか1に記載の化学強化ガラス。
8.母組成が、酸化物基準のモル百分率表示で、
SiOを52~75%、
Alを8~20%、
LiOを5~18%、含有する、
前記1~7のいずれか1に記載の化学強化ガラス。
9.母組成が、酸化物基準のモル百分率表示で、
SiOを52~75%、
Alを8~20%、
LiOを5~18%、
NaOを0~15%、
Oを0~5%、
MgOを0~20%、
CaOを0~20%、
SrOを0~20%、
BaOを0~20%、
ZnOを0~10%、
TiOを0~1%、
ZrOを0~8%、
を0~5%、含有する、
前記1~8のいずれか1に記載の化学強化ガラス。
10.以下の(1)~(3)を順次含む、化学強化ガラスの製造方法。
(1)リチウム含有ガラスを、カリウムを含有する無機塩組成物で少なくとも1回以上イオン交換すること
(2)LiNOおよびNaNOを含有し、且つLiNOに対するNaNOの質量比率が0.25~3.0である無機塩組成物に、前記リチウム含有ガラスを、425℃以上で5時間以上接触させて逆イオン交換すること
(3)前記リチウム含有ガラスを、カリウムを含有する無機塩組成物で少なくとも1回以上イオン交換すること
11.前記リチウム含有ガラスは、酸化物基準のモル百分率表示で、
SiOを52~75%、
Alを8~20%、
LiOを5~18%、含有する、前記10に記載の化学強化ガラスの製造方法。
12.前記リチウム含有ガラスは、酸化物基準のモル百分率表示で、
SiOを52~75%、
Alを8~20%、
LiOを5~18%、
NaOを0~15%、
Oを0~5%、
MgOを0~20%、
CaOを0~20%、
SrOを0~20%、
BaOを0~20%、
ZnOを0~10%
TiOを0~1%
ZrOを0~8%、含有する、前記10または11に記載の化学強化ガラスの製造方法。
13.前記(1)における前記イオン交換及び前記(3)における前記イオン交換が各々2段階のイオン交換を含み、前記(3)の前記イオン交換に含まれる第1段階のイオン交換の時間が、前記(1)のイオン交換に含まれる第1段階のイオン交換の時間より長い、前記10~12のいずれか1に記載の化学強化ガラスの製造方法。
14.前記(2)と前記(3)との間に、下記(A)を含む、前記10~13のいずれか1に記載の化学強化ガラスの製造方法。
(A)前記リチウム含有ガラスの表面を、片面または両面に対して、片面当たり0.5~15μm除去する工程
15.前記(A)において、前記リチウム含有ガラスの表面を、両面の研磨量の差が3.0μm以下の範囲で研磨する、前記14に記載の化学強化ガラスの製造方法。
16.横軸を表面からの深さ(μm)とし、且つ縦軸を酸化物基準のモル百分率表示で表されるKO濃度(%)とするKO濃度プロファイルにおいて、
深さ1~3μmの傾き(%/μm)が-1.9以上0.0以下であり、深さ5~10μmの傾き(%/μm)が-0.001以下である、化学強化ガラス。
17.前記深さ1~3μmの傾き(%/μm)が-1.9以上-1.000以下である、前記16に記載の化学強化ガラス。
18.前記深さ5~10μmの傾き(%/μm)が-0.200以上-0.001以下である、前記16に記載の化学強化ガラス。
図1
図2
図3
図4