(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023130638
(43)【公開日】2023-09-21
(54)【発明の名称】スカンジウムの回収方法
(51)【国際特許分類】
C22B 59/00 20060101AFI20230913BHJP
C22B 3/08 20060101ALI20230913BHJP
C22B 3/24 20060101ALI20230913BHJP
C22B 3/42 20060101ALI20230913BHJP
C22B 3/44 20060101ALI20230913BHJP
【FI】
C22B59/00
C22B3/08
C22B3/24 101
C22B3/42
C22B3/44 101B
C22B3/44 101A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022035048
(22)【出願日】2022-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】小原 剛
(72)【発明者】
【氏名】小林 宙
(72)【発明者】
【氏名】中井 修
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA02
4K001AA19
4K001AA39
4K001BA02
4K001BA19
4K001DB03
4K001DB14
4K001DB23
4K001DB24
4K001DB36
4K001EA05
(57)【要約】
【課題】スカンジウムと共にアルミニウムを含む酸性溶液から、キレート樹脂を用いたイオン交換処理によって効率的にかつ効果的にスカンジウムを回収する方法を提供する。
【解決手段】本発明は、スカンジウムと共にアルミニウムを含有する酸性溶液からスカンジウムを回収する方法であって、酸性溶液をキレート樹脂に接触させることによりそのキレート樹脂にスカンジウムを吸着させ、その後、硫酸溶液によりスカンジウムを溶離させてスカンジウム溶離液を得るイオン交換処理を行う工程を含み、イオン交換処理を行う工程では、酸性溶液をキレート樹脂に接触させるにあたり、その酸性溶液のpHを1.70以上2.20以下の範囲に調整する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スカンジウムと共にアルミニウムを含有する酸性溶液から該スカンジウムを回収する方法であって、
前記酸性溶液をキレート樹脂に接触させることにより該キレート樹脂に前記スカンジウムを吸着させ、その後、硫酸溶液により該スカンジウムを溶離させてスカンジウム溶離液を得るイオン交換処理を行う工程を含み、
前記イオン交換処理を行う工程では、前記酸性溶液を前記キレート樹脂に接触させるにあたり、該酸性溶液のpHを1.70以上2.20以下の範囲に調整する、
スカンジウムの回収方法。
【請求項2】
前記酸性溶液は、
スカンジウム及びアルミニウムを含有するニッケル酸化鉱石を硫酸により浸出する浸出工程と、得られた浸出液に中和剤を添加して中和処理を施す中和工程と、中和処理後の溶液に硫化剤を添加してニッケル硫化物と硫化後液とを得る硫化工程と、を含むニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスを経て得られる該硫化後液を含む、
請求項1に記載のスカンジウムの回収方法。
【請求項3】
前記イオン交換処理により得られた前記スカンジウム溶離液の一部を、該イオン交換処理に供する前記酸性溶液の一部として繰り返す、
請求項1又は2に記載のスカンジウムの回収方法。
【請求項4】
前記キレート樹脂は、イミノジ酢酸を官能基とする樹脂である、
請求項1乃至3のいずれかに記載のスカンジウムの回収方法。
【請求項5】
前記イオン交換処理工程は、
pH調整後の酸性溶液を前記キレート樹脂に接触させて前記スカンジウムを吸着させる吸着工程と、
前記スカンジウムを吸着したキレート樹脂に0.1N以下の硫酸を接触させ、該キレート樹脂からアルミニウムを除去するアルミニウム除去工程と、
アルミニウムを除去したキレート樹脂に0.3N以上3N未満の硫酸を接触させ、該キレート樹脂からスカンジウムを溶離させスカンジウム溶離液を得るスカンジウム溶離工程と、を有する、
請求項1乃至4のいずれかに記載のスカンジウムの回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スカンジウムの回収方法に関する。より詳しくは、キレート樹脂を用いたイオン交換処理により効率的にスカンジウムを回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スカンジウムは、高強度合金の添加剤や燃料電池の電極材料として極めて有用である。ところが、生産量が少なく、また高価であるため、広く用いられるには至っていない。
【0003】
ラテライト鉱やリモナイト鉱等のニッケル酸化鉱石には、微量のスカンジウムが含まれている。しかしながら、ニッケル酸化鉱石はニッケル含有品位が低く、長らくそのニッケル酸化鉱石をニッケル原料として工業的に利用されてこなかった。そのため、ニッケル酸化鉱石からスカンジウムを工業的に回収することもほとんど研究されていなかった。
【0004】
近年、ニッケル酸化鉱石を硫酸と共に加圧容器に装入し、240℃~260℃程度の高温に加熱してニッケルを含有する浸出液と浸出残渣とに固液分離するHPAL(High Pressure Acid Leach:高圧酸浸出)プロセスが実用化されている。HPALプロセスでは、浸出処理により得られた浸出液に対して、中和剤を添加して不純物を分離し、次いで硫化剤を添加することで浸出液中のニッケルを硫化物として回収する。このようにして得られたニッケル硫化物を、既存のニッケル製錬工程で処理することで、電気ニッケルやニッケル塩化合物を得ることができる。
【0005】
さて、HPALプロセスを実行することで、ニッケル酸化鉱石に含まれるスカンジウムは、ニッケルと共に浸出液に含まれるようになる。そして、得られた浸出液に対して硫化剤を添加する硫化処理を行うことで、上述したようにニッケルは硫化物として回収される一方で、スカンジウムは硫化剤添加後の酸性溶液(硫化後液)に残存する。そのため、HPALプロセスによれば、原料のニッケル酸化鉱石から、ニッケルとスカンジウムとを効果的に分離することができる。
【0006】
HPALプロセスを経て得られた硫化後液(酸性溶液)からスカンジウムを回収する方法としては、イミノジ酢酸塩を官能基とするキレート樹脂にスカンジウムを吸着させて不純物と分離し、濃縮する方法が提案されている(例えば特許文献1)。
【0007】
特許文献1に開示の方法では、キレート樹脂からの溶離に濃度の異なる硫酸を使用し、最初にアルミニウムを溶離し、次に少し濃度の高い硫酸溶液によりスカンジウムを回収するようにしている。このような選択溶離と、その後の溶媒抽出等の精製処理によって、高純度なスカンジウム(酸化スカンジウム)を得ることができる。
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示の方法では、アルミニウムの大部分が一度キレート樹脂に吸着されるため、その分だけスカンジウムの吸着量が減少してしまうという問題がある。特に、HPALプロセスの原料であるニッケル酸化鉱石においては、スカンジウムは鉱石1トン当たり多くても数十グラム程度の希少量しか含有されていないのに対して、アルミニウムは数%の水準で含有されている。そのため、HPALプロセスを経て得られた硫化後液を用い、キレート樹脂にスカンジウムを吸着させて回収する場合、アルミニウムによるスカンジウム吸着容量への影響は無視できないものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、例えばニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセス(HPALプロセス)を経て得られた硫化後液のように、スカンジウムと共にアルミニウムを含有する酸性溶液から、キレート樹脂を用いたイオン交換処理によって効率的にかつ効果的にスカンジウムを回収する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上述した課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、キレート樹脂を用いたイオン交換処理において、スカンジウムと共にアルミニウムを含有する酸性溶液をキレート樹脂に接触させるに先立ち、その酸性溶液のpHを特定の範囲に調整することで、スカンジウムの吸着量を増やすことができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
(1)本発明の第1の発明は、スカンジウムと共にアルミニウムを含有する酸性溶液から該スカンジウムを回収する方法であって、前記酸性溶液をキレート樹脂に接触させることにより該キレート樹脂に前記スカンジウムを吸着させ、その後、硫酸溶液により該スカンジウムを溶離させてスカンジウム溶離液を得るイオン交換処理を行う工程を含み、前記イオン交換処理を行う工程では、前記酸性溶液を前記キレート樹脂に接触させるにあたり、該酸性溶液のpHを1.70以上2.20以下の範囲に調整する、スカンジウムの回収方法である。
【0013】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、前記酸性溶液は、スカンジウム及びアルミニウムを含有するニッケル酸化鉱石を硫酸により浸出する浸出工程と、得られた浸出液に中和剤を添加して中和処理を施す中和工程と、中和処理後の溶液に硫化剤を添加してニッケル硫化物と硫化後液とを得る硫化工程と、を含むニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスを経て得られる該硫化後液を含む、スカンジウムの回収方法である。
【0014】
(3)本発明の第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記イオン交換処理により得られた前記スカンジウム溶離液の一部を、該イオン交換処理に供する前記酸性溶液の一部として繰り返す、スカンジウムの回収方法である。
【0015】
(4)本発明の第4の発明は、第1乃至第3のいずれかの発明において、前記キレート樹脂は、イミノジ酢酸を官能基とする樹脂である、スカンジウムの回収方法である。
【0016】
(5)本発明の第5の発明は、第1乃至第4のいずれかの発明において、前記イオン交換処理工程は、pH調整後の酸性溶液を前記キレート樹脂に接触させて前記スカンジウムを吸着させる吸着工程と、前記スカンジウムを吸着したキレート樹脂に0.1N以下の硫酸を接触させ、該キレート樹脂からアルミニウムを除去するアルミニウム除去工程と、アルミニウムを除去したキレート樹脂に0.3N以上3N未満の硫酸を接触させ、該キレート樹脂からスカンジウムを溶離させスカンジウム溶離液を得るスカンジウム溶離工程と、を有する、スカンジウムの回収方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、スカンジウムと共にアルミニウムを含有する酸性溶液から、キレート樹脂を用いたイオン交換処理によって効率的にかつ効果的にスカンジウムを回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】スカンジウムの回収方法の流れの一例を示す工程図である。
【
図2】実施例、比較例におけるスカンジウム回収率の結果を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、本明細書にて、「X~Y」(X、Yは任意の数値)との表記は、「X以上Y以下」の意味である。
【0020】
本実施の形態に係るスカンジウムの回収方法は、スカンジウムと共にアルミニウムを含有する酸性溶液からスカンジウムを回収する方法である。
【0021】
その酸性溶液としては、スカンジウムと、アルミニウムとを含有するものであれば、特に限定されない。例えば、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセス(HPALプロセス)において、ニッケル酸化鉱石を硫酸による浸出処理に付し、得られた浸出液に硫化剤を添加してニッケル硫化物を分離した後の溶液(硫化後液)を用いることができる。
【0022】
具体的に、このスカンジウムの回収方法は、酸性溶液をキレート樹脂に接触させることによりそのキレート樹脂にスカンジウムを吸着させ、その後、硫酸溶液によりスカンジウムを溶離させてスカンジウム溶離液を得るイオン交換処理を行う工程を含む。そして、イオン交換処理の工程では、酸性溶液をキレート樹脂に接触させるにあたり、その酸性溶液のpHを特定の範囲、具体的にはpH1.70以上2.20以下の範囲に調整する、ことを特徴としている。
【0023】
イオン交換処理においては、スカンジウムと共にアルミニウムを含有する酸性溶液をキレート樹脂に接触させスカンジウムをキレート樹脂に吸着させたのち(吸着工程)、そのキレート樹脂に硫酸溶液を接触させることで、吸着したスカンジウムを溶離させる(溶離工程)。スカンジウムを溶離させるに際しては、最初に薄い濃度の酸(硫酸溶液)を用いて不純物であるアルミニウムを溶離したのち、それより濃い濃度の酸(硫酸溶液)を用いてスカンジウムを溶離する、いわゆる「選択溶離」を行うことで、効率的に純度の高いスカンジウム溶離液を得ることができる。
【0024】
ところが、本発明者による研究の結果、不純物であるアルミニウムを含有する酸性溶液では、キレート樹脂にアルミニウムの大部分が吸着されるため、その分だけスカンジウムの吸着量が減少することがわかった。そこで、キレート樹脂に酸性溶液を接触させてスカンジウムを吸着させるに際し、キレート樹脂に吸着するアルミニウムの量そのものを減少させ、その結果スカンジウムの吸着量を増加させる方法を検討し、本発明を完成させた。
【0025】
具体的には、上述したように、イオン交換処理の工程にて酸性溶液をキレート樹脂に接触させるにあたり、その酸性溶液のpHを1.70以上2.20以下の範囲に調整する。また、酸性溶液のpHを、好ましくは1.70以上1.90以下の範囲、より好ましくは1.75以上1.85以下の範囲に調整する。
【0026】
このように、酸性溶液をキレート樹脂に接触させるに先立ち、その酸性溶液のpHを1.70以上2.20以下の範囲に調整することで、酸性溶液に含まれるアルミニウムのキレート樹脂への吸着量を減少させることができる。そしてこれにより、アルミニウムの吸着によるスカンジウムの吸着量減少の影響を低減でき、効果的にスカンジウムを吸着させることができる。その結果、スカンジウム品位の高いスカンジウム溶離液を得ることができ、スカンジウムの回収量を増加させることができる。
【0027】
また、本実施の形態に係る方法によれば、アルミニウムをはじめとする不純物を効率よく分離できるため、ニッケル酸化鉱石のような多くの不純物を含有する原料から得られる酸性溶液を対象とした場合でも、コンパクトな設備で安定した操業を行うことができる。
【0028】
ここで、調整する酸性溶液のpH範囲(pH1.70~2.20)は、アルミニウムが吸着したキレート樹脂からそのアルミニウムを溶離させるときの酸性溶液の最適pH以下の範囲に相当する。「アルミニウムを溶離させるときのpH」とは、キレート樹脂とアルミニウムイオンとの平衡pH以下のことを意味する。特に、キレート樹脂として、イミノジ酢酸を官能基とする樹脂を用いる場合には、酸性溶液のpHを1.70以上2.20以下の範囲に調整することが適する。
【0029】
図1は、スカンジウムの回収方法の流れの一例を示す工程図である。この例では、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスを経て得られる酸性溶液である硫化後液を用いて、その硫化後液からスカンジウムを回収する流れを示している。なお、硫化後液には、少なくとも、スカンジウムと、アルミニウムとが含まれている。
【0030】
図1に示すように、スカンジウムの回収方法は、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスを実行してニッケル硫化物と硫化後液とを生成させる湿式製錬処理工程S1と、湿式製錬処理工程S1から得られた酸性溶液に対してイオン交換処理を施してスカンジウム溶離液を得るイオン交換処理工程S2と、スカンジウム溶離液からスカンジウムを回収するスカンジウム回収工程S3と、を有する。また、スカンジウム溶離液をキレート樹脂に再吸着させるための再吸着処理工程S4を有するようにすることもできる。
【0031】
[湿式製錬処理工程]
スカンジウム回収の処理対象となる、スカンジウムとアルミニウムとを含有する酸性溶液としては、上述したように、ニッケル酸化鉱石に対して硫酸により浸出して得られる硫酸酸性溶液等の、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬処理を経て得られる溶液を用いることができる。
【0032】
具体的に、その酸性溶液としては、ニッケル酸化鉱石を高温高圧下で硫酸により浸出して浸出液を得る浸出工程S11と、浸出液に中和剤を添加して不純物を含む中和澱物と中和後液とを得る中和工程S12と、中和後液に硫化剤を添加してニッケル硫化物と硫化後液とを得る硫化工程S13と、を有する湿式製錬処理工程S1により得られるその硫化後液を用いることができる。以下では、湿式製錬処理工程S1の流れを簡単に説明する。
【0033】
(浸出工程)
浸出工程S11は、例えば高温加圧容器(オートクレーブ)等を用いて、ニッケル酸化鉱石のスラリーに硫酸を添加して240℃~260℃の温度下で撹拌処理を施し、浸出液と浸出残渣とからなる浸出スラリーを形成する工程である。なお、浸出工程S11における処理は、従来知られているHPALプロセスに従って行えばよい。
【0034】
ニッケル酸化鉱石としては、主としてリモナイト鉱及びサプロライト鉱等のいわゆるラテライト鉱が挙げられる。ラテライト鉱のニッケル含有量は、通常、0.8重量%~2.5重量%であり、水酸化物又はケイ苦土(ケイ酸マグネシウム)鉱物として含有される。また、これらのニッケル酸化鉱石には、スカンジウムが含まれている。
【0035】
浸出工程S11では、得られた浸出液と浸出残渣とからなる浸出スラリーを洗浄しながら、ニッケルやコバルト、スカンジウム等を含む浸出液と、ヘマタイトである浸出残渣とに固液分離する。固液分離処理では、例えば、浸出スラリーを洗浄液と混合した後、凝集剤供給設備等から供給される凝集剤を用いて、シックナー等の固液分離設備を利用して行うことができる。
【0036】
(中和工程)
中和工程S12は、得られた浸出液に中和剤を添加してpH調整し、不純物元素を含む中和澱物と中和後液とを得る工程である。中和工程S12における中和処理により、ニッケルやコバルト、スカンジウム等の有価金属は中和後液に含まれるようになり、鉄、アルミニウムをはじめとした不純物が中和澱物となる。
【0037】
中和剤としては、従来公知のもの使用することができ、例えば、炭酸カルシウム、消石灰、水酸化ナトリウム等が挙げられる。また、中和処理では、中和剤を添加することにより、浸出液のpHを1~4の範囲に調整することが好ましい。
【0038】
(硫化工程)
硫化工程S13は、中和工程S12にて得られた中和後液に硫化剤を添加してニッケル硫化物と硫化後液とを得る工程である。硫化工程S13における硫化処理により、ニッケル、コバルト、亜鉛等は硫化物となり、スカンジウムは硫化後液に含まれることになる。
【0039】
具体的に、硫化工程S13では、得られた中和後液に対して、硫化水素ガス、硫化ナトリウム、水素化硫化ナトリウム等の硫化剤を添加し、不純物成分の少ないニッケル及びコバルトを含む硫化物(以下では単に「ニッケル硫化物」ともいう)と、ニッケル濃度を低い水準で安定させ、スカンジウムを含有させた硫化後液とを生成させる。
【0040】
硫化工程S13における硫化処理では、ニッケル硫化物を含むスラリーに対してシックナー等の沈降分離装置を用いた沈降分離処理を施し、ニッケル硫化物をシックナーの底部より分離回収する。一方で、水溶液成分であって、スカンジウムを含有する硫化後液についてはオーバーフローさせて回収する。
【0041】
スカンジウムの回収方法では、以上のようなニッケル酸化鉱石の湿式製錬処理工程S1の各工程を経て得られる硫化後液を、スカンジウム回収処理の対象となる、少なくとも、スカンジウムとアルミニウムとを含有する酸性溶液として用いることができる。
【0042】
[イオン交換処理工程]
イオン交換処理工程S2は、湿式製錬処理工程S1を経て得られた硫化後液に対してキレート樹脂(イオン交換樹脂)を用いたイオン交換処理を施すことによって、スカンジウムを濃縮させたスカンジウム溶離液を得る工程である。
【0043】
スカンジウムを含有する酸性溶液である硫化後液には、スカンジウムのほかに、例えば上述した硫化工程S15における硫化処理では硫化されずに溶液中に残留した、アルミニウム等の不純物が含まれている。このことから、硫化後液からスカンジウムを回収するにあたり、予め、その硫化後液中に含まれるアルミニウム等の不純物を除去してスカンジウムを濃縮させることが好ましい。
【0044】
イオン交換処理工程S2としては、例えば、硫化後液をキレート樹脂に接触させてスカンジウムを吸着させる吸着工程S21と、スカンジウムを吸着したキレート樹脂に所定の規定度の硫酸を接触させてスカンジウムを溶離させスカンジウム溶離液を得る溶離工程S22と、を有する。
【0045】
イオン交換処理に用いるキレート樹脂の種類としては、特に限定されない。例えばイミノジ酢酸を官能基とする樹脂を用いることができ、このようなキレート樹脂によれば、スカンジウムの吸着選択性を高めることができる。また、例えばキレート樹脂をカラムに充填し、酸性溶液をカラムに通液させることによってそのキレート樹脂に接触させて、キレート樹脂にスカンジウムを吸着させる。
【0046】
なお、詳しくは後述するが、イオン交換処理工程S2における溶離工程S22は、アルミニウムを除去するアルミニウム除去工程S221と、アルミニウムを除去したキレート樹脂に硫酸を接触させてスカンジウムを溶離するスカンジウム溶離工程S222と、クロムを除去するクロム除去工程S223と、を有するものとすることができる。
【0047】
(吸着工程)
吸着工程S21では、例えばカラムにキレート樹脂を充填し、そのカラムに酸性溶液である硫化後液を通液することによって酸性溶液をキレート樹脂に接触させて、溶液中のスカンジウムをキレート樹脂に吸着させる。キレート樹脂としては、上述したように、例えばイミノジ酢酸を官能基とする樹脂を用いることができる。
【0048】
ここで、本実施の形態に係るスカンジウムの回収方法では、酸性溶液をキレート樹脂に接触させてスカンジウムを吸着させるに先立ち、酸性溶液のpHを特定の範囲に調整する。具体的には、酸性溶液のpHを1.70以上2.20以下の範囲に調整する。そして、pHを調整した酸性溶液を、そのpHを維持した状態で、キレート樹脂に接触させる。
【0049】
また、調整する酸性溶液のpH範囲は、好ましくは1.70以上1.90以下の範囲とし、より好ましくは1.75以上1.85以下の範囲とする。酸性溶液のpHが1.7未満であると、アルミニウムだけでなく、スカンジウムのキレート樹脂に対する吸着量も減少し、好ましくない。また、中和剤の使用量も増加して処理コストが高くなる。また、pHが2.20を超えると、アルミニウムの吸着量が十分に低減せず、好ましくない。
【0050】
このような方法によれば、硫化後液に含有されるアルミニウムのキレート樹脂への吸着量を減少させることができ、その分だけスカンジウムイオンの吸着量を増加させることができる。そしてこれにより、吸着したスカンジウムを溶離させて得られるスカンジウム溶離液の高純度化を促進させることができる。
【0051】
調整する酸性溶液のpH範囲は、上述したように、1.70以上2.20以下の範囲に調整する。また、好ましくは、pH1.70以上1.90以下の範囲とし、より好ましくは、pH1.75以上1.85以下の範囲に調整する。このようなpH範囲は、キレート樹脂に吸着したアルミニウムを、硫酸溶液を接触させて洗浄除去する処理の反応平衡pH以下の範囲に相当する。また、特にキレート樹脂としてイミノジ酢酸を官能基とする樹脂を用いる場合には、酸性溶液のpHを1.70以上2.20以下の範囲に調整することが適する。
【0052】
具体的にその効果としては、酸性溶液である硫化後液のpHを1.70以上2.20以下の範囲に調整したうえでキレート樹脂に接触させることにより、スカンジウムの吸着率が向上し、スカンジウム回収率は99%を超えるようになる。なお、ここでのスカンジウム回収率とは、アルミニウムを一定とした場合における、酸性溶液中のスカンジウム量に対するスカンジウム溶離液中のスカンジウム量の百分率である。
【0053】
また、後述するように、イオン交換処理の終了後、そのキレート樹脂を再度吸着工程S21に繰り返して使用する場合でも、スカンジウムの吸着量の低下を抑えることができる。そしてその結果、キレート樹脂から溶離させて得られるスカンジウム溶離液のスカンジウム濃度を高くすることができ、高純度なスカンジウムを回収できるとともに、スカンジウムの回収量を増加させることができる。
【0054】
(溶離工程)
溶離工程S22では、スカンジウムを吸着したキレート樹脂に所定の規定度の硫酸を接触させてスカンジウムを溶離させスカンジウム溶離液を得る。
【0055】
具体的に、溶離工程S22としては、アルミニウムを除去するアルミニウム除去工程S221と、アルミニウムを除去したキレート樹脂に硫酸を接触させてスカンジウムを溶離するスカンジウム溶離工程S222と、クロムを除去するクロム除去工程S223と、から構成されるものを例示できる。
【0056】
・アルミニウム除去工程
アルミニウム除去工程S221では、吸着工程S21でスカンジウムを吸着したキレート樹脂に所定濃度の硫酸を接触させ、キレート樹脂に吸着したアルミニウムを除去する。
【0057】
上述したように、本実施の形態に係る方法では、吸着工程S21において、酸性溶液をキレート樹脂に接触させるに際し、その酸性溶液のpHを特定の範囲に調整するようにしている。これにより、酸性溶液に含まれるアルミニウムがキレート樹脂に吸着することを抑制でき、その分スカンジウムの吸着を促進させることができる。ところが、キレート樹脂へのアルミニウムの大部分の吸着は抑えられているものの、僅かにはアルミニウムの吸着は確認される。特に、硫化後液のようにニッケル酸化鉱石を原料として得られる溶液を処理対象とする場合では、スカンジウムよりもアルミニウムの含有割合の方が多い。
【0058】
そこで、アルミニウム除去工程S221では、スカンジウムを吸着したキレート樹脂からスカンジウムを溶離させる(スカンジウム溶離工程S222)に先立って、濃度の異なる硫酸溶液を接触させることにより、キレート樹脂に僅かに吸着したアルミニウムを選択除去する。これにより、スカンジウム溶離工程S222を経て得られるスカンジウム溶離液の高純度化をより一層高めることができる。
【0059】
具体的に、アルミニウム除去工程S221では、スカンジウムを吸着したキレート樹脂に0.3N未満の硫酸を接触させ、吸着したアルミニウムを除去する。なお、硫酸によりキレート樹脂からアルミニウムを除去すると、アルミニウムを溶離させた溶液(アルミニウム溶離液)が回収される。
【0060】
アルミニウムを除去するに際しては、キレート樹脂に接触させる硫酸のpHを1.0~2.5の範囲に維持することが好ましく、1.5~2.0の範囲に維持することがより好ましい。硫酸のpHが1.0未満であると、アルミニウムだけでなく、吸着させたスカンジウムもキレート樹脂から除去される可能性がある。一方で、硫酸のpHが2.5を超えると、アルミニウムが適切にキレート樹脂から除去されない可能性がある。そのため、硫酸濃度としては、0.3N未満とし、好ましくは0.1N~0.2N程度とする。
【0061】
・スカンジウム溶離工程
スカンジウム溶離工程S222では、アルミニウムを除去したキレート樹脂に所定濃度の硫酸を接触させ、キレート樹脂からスカンジウムを溶離しスカンジウム溶離液を得る。
【0062】
スカンジウム溶離液を得るに際しては、溶離液(溶離させるための溶液)に用いる硫酸の規定度を0.3N以上3.0N未満の範囲とすることが好ましく、0.5N以上2.0N未満の範囲とすることがより好ましい。規定度が3.0N以上であると、スカンジウムだけでなく、キレート樹脂に吸着した不純物のクロムまでも溶離してスカンジウム溶離液に含まれてしまうことがある。一方で、規定度が0.3N未満であると、スカンジウムが適切にキレート樹脂から溶離されないため、好ましくない。
【0063】
なお、スカンジウム溶離工程S222から得られたスカンジウム溶離液を繰り返し用い、すなわち、得られたスカンジウム溶離液をキレート樹脂に再度接触させてスカンジウム溶離工程S222を繰り返し行うようにしてもよい(スカンジウム溶離液の精製)。これにより、スカンジウム溶離液に含まれるスカンジウムの濃度を高めることができる。
【0064】
・クロム除去工程
クロム除去工程S223では、スカンジウム溶離工程S222を経てスカンジウムを溶離させたキレート樹脂に所定濃度の硫酸を接触させ、キレート樹脂に吸着した不純物であるクロムを除去する。なお、硫酸によりキレート樹脂からクロムを除去すると、クロムを溶離させた溶液(クロム溶離液)が回収される。
【0065】
クロムを除去するに際しては、硫酸の規定度を3.0N以上とすることが好ましい。硫酸の規定度が3.0Nを下回ると、クロムが適切にキレート樹脂から除去されない可能性がある。
【0066】
なお、クロム除去工程S224にてキレート樹脂に吸着したクロムを除去した後のキレート樹脂については、上述した吸着工程S21に繰り返して、スカンジウムを吸着させるキレート樹脂として再度使用することができる。
【0067】
上述したように、本実施の形態に係る方法では、キレート樹脂に接触させる酸性溶液のpHを1.70以上2.20以下の範囲に調整していることから、アルミニウムの吸着量を抑えることができる。これにより、溶離工程S22で回収されるキレート樹脂には、アルミニウムの残存がほとんどない。そのため、そのキレート樹脂を繰り返し使用した場合でも、アルミニウムが徐々に蓄積されることもなく、スカンジウムの吸着量の低下を効果的に防ぐことができる。また、このように有効にキレート樹脂を繰り返し使用できることから、スカンジウムの回収処理を経済的にも効率的に実施することができ、好ましい。
【0068】
[スカンジウム回収工程]
スカンジウム回収工程S3は、イオン交換処理工程S2を経て得られたスカンジウム溶離液からスカンジウムを回収する工程である。例えば、スカンジウムは、酸化スカンジウムの形態として回収することができる。
【0069】
スカンジウム回収工程S3における処理方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができる。例えば、スカンジウム溶離液にアルカリを添加して中和処理を施すことにより水酸化スカンジウムの沈澱物として回収する方法や、スカンジウム溶離液にシュウ酸を添加してシュウ酸塩の沈澱物として回収する方法(シュウ酸塩化処理)を用いることができる。中でも、シュウ酸塩化処理を用いた方法によれば、より効果的に不純物を分離することができる。
【0070】
具体的に、シュウ酸塩化処理を用いた回収方法では、スカンジウム溶離液にシュウ酸を加えることによりシュウ酸スカンジウムの沈澱物を生成させ、その後、シュウ酸スカンジウムを乾燥し、焙焼することにより酸化スカンジウムとして回収する。なお、シュウ酸塩化処理では、シュウ酸溶液を収容した反応槽に抽出残液を添加することでシュウ酸スカンジウムの沈澱物を生成させてもよい。
【0071】
焙焼処理は、例えばシュウ酸塩化処理により得られたシュウ酸スカンジウムの沈澱物を水で洗浄し、乾燥させた後に、焙焼する処理である。この焙焼処理を経ることで、スカンジウムを極めて高純度な酸化スカンジウムとして回収することができる。焙焼処理条件は、特に限定されないが、例えば管状炉に入れて約900℃で2時間程度加熱する。
【0072】
なお、図示していないが、スカンジウム回収工程S3に先立ち、イオン交換処理工程S2を経て得られたスカンジウム溶離液に対して溶媒抽出処理を施すようにしてもよい(溶媒抽出工程)。溶媒抽出処理を施すことにより、例えば抽出剤を含む有機溶媒に、スカンジウム溶離液に含まれる不純物を選択的に抽出し、スカンジウム溶離液を精製することができ、スカンジウムを濃縮させた溶液(抽出残液)を得ることができる。
【0073】
[再吸着処理工程]
また、必須の態様ではないが、イオン交換処理工程S2を経て得られたスカンジウム溶離液をキレート樹脂に再吸着させるための再吸着処理を行うようにしてもよい(再吸着処理工程S4)。
【0074】
具体的に、キレート樹脂を再吸着させるためのスカンジウム溶離液に対する処理としては、例えば、スカンジウム溶離液に中和剤を添加してpHを2.0以上4.0以下の範囲、好ましくはpH3.0を中心とした2.7~3.3の範囲に調整し、次いで、還元剤を添加し、次いで、硫酸を添加してpHを1.0以上2.5以下の範囲、好ましくはpH2.0を中心とした1.7~2.3の範囲に調整する処理を行う。このようにしてpHを調整した後の溶液(pH調整後液)を用いて、イオン交換処理工程S2(吸着工程S21、溶離工程S22)での処理を再び行う。
【0075】
このようにして、得られたスカンジウム溶離液に対して再吸着処理を行い、処理後の溶液(pH調整後液)をイオン交換処理工程S2に繰り返してキレート樹脂に再吸着させることで、回収されるスカンジウムの品位をより一層に高めることができる。また、スカンジウム溶離液からスカンジウムを分離する際の薬剤コストや設備規模を縮減できる。
【0076】
中和剤としては、従来公知のものを用いることができ、例えば、炭酸カルシウム等が挙げられる。また、還元剤についても、従来公知のものを用いることができ、例えば、硫化水素ガス、硫化ナトリウム等の硫化剤や、二酸化硫黄ガス、ヒドラジン、金属鉄等が挙げられる。
【0077】
還元剤の添加は、酸化還元電位(ORP)が銀/塩化銀電極を参照電極とする値で200mVを越えて300mV以下となる範囲に維持するように行うことが好ましい。例えば還元剤として硫化剤を使用した場合、酸化還元電位が200mV以下であると、添加された硫化剤に由来する硫黄分が微細な固体として析出し、硫化後の濾過処理において濾布を目詰まりさせて固液分離を悪化させ生産性低下の原因となることがある。また、キレート樹脂に再通液する際に、カラム内で目詰まりや液流れの偏りを生じ、均一な通液が行えない等の原因となることがある。一方、全ての還元剤において、酸化還元電位が300mVを超えると、残留する鉄イオン等がキレート樹脂に吸着して、スカンジウムの吸着を阻害する等の問題が生じる可能性がある。
【0078】
また、スカンジウム溶離液のキレート樹脂への再吸着を行うにあたり、そのキレート樹脂としては、既に使用したものを再使用してもよいし、新たなキレート樹脂を使用してもよい。不純物のコンタミを防止する観点から、溶離工程S22を経て回収されたキレート樹脂を再使用するか、あるいは新たなキレート樹脂を使用することが好ましい。
【実施例0079】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明はこれらの記載に何ら限定されるものではない。
【0080】
本実施例では、下記の手順の湿式製錬処理プロセスで得られた硫化後液(硫酸酸性溶液)をキレート樹脂への吸着始液として利用した。
【0081】
(湿式製錬処理プロセス)
すなわち、湿式製錬処理プロセスでは、まず、原料のニッケル酸化鉱石を濃硫酸と共にオートクレーブに装入し、245℃の条件下で1時間かけて浸出処理を施し、スカンジウムやニッケル等の有価金属を含有するスラリーを生成させた。このスラリーから、スカンジウムと有価金属とを含有する浸出液と、浸出残渣とを固液分離した。
【0082】
次に、得られた浸出液に炭酸カルシウムを添加してpHを1~4の範囲に調整して中和処理を施し、中和後液と中和澱物とを得た。スカンジウムやニッケル等の有価金属は中和後液に含まれ、アルミニウムをはじめとした不純物の大部分は中和澱物に含まれる。
【0083】
続いて、得られた中和後液に硫化水素ガスを吹き込んで硫化処理を施した、ニッケルやコバルト、亜鉛を硫化物とし、その硫化物と硫化後液とを分離した。
【0084】
下記表1に、得られた硫化後液の組成を示す。上述したように、この硫化後液を吸着始液として、以下のようにキレート樹脂を用いたイオン交換処理を行った。
【0085】
【0086】
(イオン交換処理プロセス)
イオン吸着樹脂として、イミノジ酢酸を官能基とするキレート樹脂(製品名:ダイヤイオンCR11,三菱化学(株)製)を用い、容量550ml、内径25.4mm、長さ1500mmの円筒形のカラムに充填した。吸着始液の温度を60℃に設定し、イオン交換樹脂に対して一定流量で連続的に通液して吸着処理を行った(吸着工程)。このとき、実施例では、キレート樹脂に吸着始液を接触させるに先立ち、その吸着始液のpHを1.70以上1.90以下の範囲に調整した。一方で、比較例では、吸着始液のpHを調整せず、そのままの状態でキレート樹脂に接触させた。
【0087】
下記表2に、実施例、比較例における吸着条件をまとめて示す。なお、吸着処理を行ったのち、樹脂洗浄処理、溶離処理、樹脂再生処理を続けて行った。表2では、それぞれの処理条件も併せて示す。
【0088】
【0089】
図2に、実施例、比較例におけるスカンジウム回収率の結果のグラフを示す。
図2のグラフでは、吸着処理における吸着始液のpH値に対するスカンジウム回収率の関係を示している。なお、スカンジウム回収率とは、アルミニウム量を一定とした場合における、吸着始液中のスカンジウム量に対するスカンジウム溶離液中のスカンジウム量の百分率であり、スカンジウム溶離液中のアルミニウム濃度とスカンジウム濃度は、ICPを用いて分析した。
【0090】
図2の実施例の結果に示されるように、キレート樹脂に吸着始液を接触させるに先立ち、その吸着始液のpHを1.70以上1.90以下の低い範囲に調整し維持することで、スカンジウムを99%以上の高い回収率で回収することができた。
【0091】
一方で、吸着始液のpH調整を行わなかった比較例では、吸着始液のpHがおよそ1.90を超える範囲となっており、イオン交換処理により回収されたスカンジウムの回収率は、実施例に比べて劣るものであった。このことは、吸着始液に含まれるアルミニウムがキレート樹脂に吸着し、その分だけスカンジウムの吸着が阻害されたことによると考えられる。
【0092】
このように、実施例及び比較例の結果から、キレート樹脂に吸着始液を接触させるに先立ち、その吸着始液のpHを1.70以上1.90以下の範囲に調整することで、キレート樹脂へのアルミニウムの吸着を抑え、それによりスカンジウムの吸着量を増加させてスカンジウム溶離液中のスカンジウム品位を高めることができることがわかった。