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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023130649
(43)【公開日】2023-09-21
(54)【発明の名称】結晶中の不純物品位の制御方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 9/02 20060101AFI20230913BHJP
   C01G 53/10 20060101ALI20230913BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20230913BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20230913BHJP
【FI】
B01D9/02 620
B01D9/02 601C
B01D9/02 602A
B01D9/02 602C
B01D9/02 603B
B01D9/02 604
B01D9/02 612
B01D9/02 603D
B01D9/02 611A
B01D9/02 614
B01D9/02 615Z
B01D9/02 610Z
B01D9/02 625B
B01D9/02 625D
C01G53/10
C01G53/00 B
C22B3/44 101Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022035064
(22)【出願日】2022-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【弁理士】
【氏名又は名称】辻川 典範
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(72)【発明者】
【氏名】杉之原 真
(72)【発明者】
【氏名】横川 友彦
【テーマコード(参考)】
4G048
4K001
【Fターム(参考)】
4G048AA07
4G048AB02
4G048AD01
4G048AE05
4K001AA07
4K001AA10
4K001AA19
4K001AA38
4K001BA02
4K001BA19
4K001CA02
4K001CA09
4K001DB03
4K001DB14
4K001DB22
(57)【要約】
【課題】 晶析対象成分を含む原液を晶析することで生成する結晶中の不純物品位のばらつきを抑えることが可能な結晶缶の制御方法を提供する。
【解決手段】 結晶缶1に導入した晶析対象成分及び不純物を含む原液を所定の温度及び圧力条件下で減圧蒸発して濃縮液にすることで該晶析対象成分を晶析させ、得られた結晶を含む濃縮スラリーを底部から抜き出して脱水及び乾燥することで製品結晶として回収すると共に、該濃縮液の一部を側部から抜き出す晶析処理において、該製品結晶中の不純物品位を所定の値に維持するために必要な該濃縮液の該一部の抜出量を、該晶析処理が行なわれる系内を出入りする物質の晶析対象成分、不純物及び物質全体の収支計算に基づいて求める。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶缶に導入した晶析対象成分及び不純物を含む原液を所定の温度及び圧力条件下で減圧蒸発して濃縮液にすることで該晶析対象成分を晶析させ、得られた結晶を含む濃縮スラリーを底部から抜き出して脱水及び乾燥することで製品結晶として回収すると共に、該濃縮液の一部を側部から抜き出す晶析処理において、
該製品結晶中の不純物品位を所定の値に維持するために必要な該濃縮液の該一部の抜出量を、該晶析処理が行なわれる系内を出入りする物質の晶析対象成分、不純物及び物質全体の収支計算に基づいて求めることを特徴とする結晶中の不純物品位の制御方法。
【請求項2】
前記晶析処理が行なわれる系内を出入りする物質が、前記原液、缶内洗浄用の洗浄液、前記製品結晶、前記側部から抜き出される濃縮液、前記結晶缶の頂部から抜き出される蒸気を凝縮した凝縮液、及び前記脱水及び乾燥で分離される分離液であることを特徴とする、請求項1に記載の不純物品位の制御方法。
【請求項3】
前記濃縮液中の前記不純物の濃度と、該濃縮液から晶析した結晶中の該不純物の品位との比例関係を前記収支計算に反映させることを特徴とする、請求項1又は2に記載の不純物品位の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶中の不純物品位の制御方法に関し、特に結晶缶に硫酸ニッケル等の晶析対象成分を含む原液を連続的に導入して晶析を行なう際に製品結晶中の不純物品位を目標の品位に制御する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
硫酸ニッケルは、ニッケルめっきのめっき液原料や、電池材料用の水酸化ニッケル粉末の原料等の様々な用途に使われている。この硫酸ニッケルの工業的な製造方法としては、例えばHPAL法(High Pressure Acid Leaching)と称する高圧酸浸出処理を含む一連の湿式処理で原料のニッケル酸化鉱石を処理することによって先ずニッケル・コバルト混合硫化物を生成し、次にこのニッケル・コバルト混合硫化物を中間原料として湿式で処理する方法が知られている。
【0003】
上記のニッケル・コバルト混合硫化物を中間原料とする湿式処理法は、ニッケル・コバルト混合硫化物に水を加えて調製したスラリーを高温高圧下で浸出処理して不純物を含む粗硫酸ニッケル水溶液を生成する工程と、得られた粗硫酸ニッケル水溶液に含まれる不純物を除去する工程と、該不純物の除去により得られる高純度硫酸ニッケル水溶液を結晶缶に導入して晶析する工程と、該晶析により生成される硫酸ニッケル結晶を含むスラリーに対して固液分離、乾燥処理、篩別などの後処理を施す工程とで構成される。
【0004】
上記の不純物を除去する工程は、粗硫酸ニッケル水溶液に主として含まれる鉄を不純物として除去するものであるため、前工程の浸出処理時の反応が想定通り進まなかったときに副生するチオ硫酸イオンを十分に除去することができなかった。この場合は、晶析により生成される硫酸ニッケルの純度が低下するため、品質上の問題が生ずることがあった。
【0005】
この対策として、特許文献1には該粗硫酸ニッケル水溶液に含まれるチオ硫酸イオンを酸化剤で酸化分解処理した後に溶媒中和法や酸化中和法により不純物を除去する技術が開示されており、これにより高純度の硫酸ニッケル水溶液から硫酸ニッケル結晶を晶析させることが可能になる。また、特許文献1の技術では、添加した酸化剤が残留することにより生ずる後工程への悪影響を抑えるため、酸化分解処理後の粗硫酸ニッケル水溶液のORP値を測定し、その測定結果から求めた酸化剤の濃度に基づいて該不純物を除去する際の処理条件を調整している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2021‐080123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の特許文献1の技術を採用することにより、後工程に悪影響を及ぼすことなく粗硫酸ニッケル水溶液に含まれる鉄やチオ硫酸などの不純物を効率よく除去できると考えられる。しかしながら、現実的には粗硫酸ニッケル水溶液に含まれる不純物を完全に除去するのは難しく、また、原料ロットの切り替え等により想定外の不純物が含まれることがある。よって、不純物を除去した後の高純度硫酸ニッケル溶液には依然として僅かながら不純物が含まれており、この僅かに残存する不純物が次工程の晶析時に問題となることがあった。
【0008】
すなわち、晶析工程では、結晶缶に導入した晶析対象物質を含む溶液(原液とも称する)を加熱してその溶媒を蒸発させることで、溶質としての該晶析対象物質を濃縮させて過飽和状態にし、これにより晶析対象物質の一部を晶析させて結晶缶の底部から濃縮スラリーの形態で連続的に抜き出す操作が行なわれる。この晶析対象物質の濃縮に伴って不純物も結晶缶内で濃縮するので、結晶の不純物品位が低下する。そこで、結晶缶内の濃縮液を抜き出しながら、この抜き出し量に見合った量の原液を補充する操作が行なわれる。
【0009】
しかしながら、濃縮液中の不純物濃度は種々の外乱により変動することがあり、これに伴い結晶中の不純物品位も大きくばらつくことがあった。すなわち、濃縮液中の不純物濃度が過度に上昇したときは、製品結晶の不純物品位が品質規格を超過し、該製品結晶を不良品処理のため再溶解処理する必要が生じる場合があった。逆に、濃縮液中の不純物濃度が低下したときは、製品結晶の不純物品位が品質規格に比べて過度に低くなる場合があり、これは結晶缶から濃縮液を過剰に抜き出したことを意味するので、生産性が低く且つ蒸気原単位の高い高コスト運転であったことになる。
【0010】
上記のように、結晶缶を用いて原液に含まれる晶析対象成分を一部晶析させて製品とする結晶工程においては、結晶中の不純物品位が大きくばらつきやすく、これを安定的に制御することが望まれていた。本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、硫酸ニッケルなどの晶析対象成分を含む原液を結晶缶に連続的に導入して晶析を行なうことで生成する結晶中の不純物品位のばらつきを抑えることが可能な結晶缶の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、結晶缶内の濃縮液中の不純物濃度の変化を正確に把握するため、従来は特に要していなかった各種運転パラメータを測定できる設備を備えた結晶缶を使用すると共に、この運転パラメータを用いて結晶缶の運転を制御することにより、結晶中の不純物品位のばらつきを効率よく抑え得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明に係る結晶中の不純物品位の制御方法は、結晶缶に導入した晶析対象成分及び不純物を含む原液を所定の温度及び圧力条件下で減圧蒸発して濃縮液にすることで該晶析対象成分を晶析させ、得られた結晶を含む濃縮スラリーを底部から抜き出して脱水及び乾燥することで製品結晶として回収すると共に、該濃縮液の一部を側部から抜き出す晶析処理において、該製品結晶中の不純物品位を所定の値に維持するために必要な該濃縮液の該一部の抜出量を、該晶析処理が行なわれる系内を出入りする物質の晶析対象成分、不純物及び物質全体の収支計算に基づいて求めることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、晶析対象成分を含む原液を晶析することで生成する結晶中の不純物品位のばらつきを抑えることができるので、その工業的価値は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に係る結晶中の不純物品位の制御方法が好適に適用される結晶缶の模式的なフロー図である。
図2】結晶缶内の濃縮液の不純物濃度と、該濃縮液内で晶析した結晶の不純物品位の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る結晶中の不純物品位の制御方法の実施形態について説明する。この本発明の実施形態の不純物品位の制御方法は、結晶缶に連続的に導入される晶析対象成分及び不純物を含む原液を所定の温度及び圧力条件下で減圧蒸発して飽和状態の濃縮液にすることで該晶析対象成分を晶析させ、得られた結晶を含む濃縮スラリーを底部から抜き出して脱水及び乾燥することで製品結晶として回収すると共に、該濃縮液の一部を側部から抜き出すことで不純物品位を制御するものである。
【0016】
上記の原液を構成する溶媒には特に限定はなく、水でもよいし有機溶媒でもよい。また、上記の原液に含まれる晶析対象成分にも特に限定はなく、例えば硫酸ニッケル、硫酸アンモニウム、炭酸ナトリウム、カプロラクタム、トレハロースなどを挙げることができる。以下、硫酸ニッケルを晶析対象成分とする硫酸ニッケル水溶液からなる原液を例に挙げて説明する。
【0017】
本発明の実施形態の不純物品位の制御方法が好適に適用される結晶缶には、図1に示すようなDTB(Draft Tube Baffle)型連続晶析装置が好適に用いられる。この結晶缶1は、内部にドラフトチューブ1aが設けられており、その内側に設けられている撹拌翼1bによって硫酸ニッケル水溶液の濃縮液と硫酸ニッケル結晶とからなるスラリー相が矢印で示すように循環している。この循環するスラリー相は液面近傍で水分の蒸発が主に生じるので、液面近傍の硫酸ニッケル水溶液は特に濃縮が進んで過飽和状態になっている。
【0018】
過飽和状態では結晶の生成及び成長が生じるので、硫酸ニッケル水溶液は濃度を減少しつつ該液面から離れていき、撹拌翼1bによる缶内循環により再びスラリー相の液面近傍に戻る。このようにして結晶缶1内でほぼ均一に晶析が進行する。結晶缶1内を上記のようにして循環する硫酸ニッケル水溶液の濃縮液と共に循環する結晶は、ある程度の大きさに成長すると該循環流から外れて結晶缶1の底部に沈降し、該底部に設けられている分級脚1cから濃縮スラリーの形態で抜き出される。底部からスラリーポンプ2を介して抜き出された濃縮スラリーは、固液分離装置や乾燥装置などの液分離手段3で脱水及び乾燥された後、必要に応じて図示しない篩別手段で分級されることで製品結晶となる。
【0019】
結晶缶1内の上記スラリー相は、水分が蒸発するときの気化熱により熱が奪われる。この奪われた熱を補うため、該スラリー相は一部が結晶缶1内のセットリング部1dから被加熱液抜出ポンプ4を介して抜き出され、加熱器5で加熱された後に結晶缶1に戻されるようになっている。セットリング部1dでは成長した粗大な結晶は硫酸ニッケル水溶液から沈降分離するため、加熱器5にはセットリング部1dで分離しきれなかった微小な結晶を含む硫酸ニッケル水溶液が導入される。この微小な結晶は加熱器5における加熱で溶解するので、結晶缶1内では均一な粒径を有する結晶を生成することができる。
【0020】
加熱器5の種類には特に限定はなく、一般的なシェルアンドチューブ式熱交換器を好適に用いることができる。この加熱器5に供給する熱媒体には、例えば水蒸気を用いることができる。結晶缶1に設けた温度計10の指示値に基づいてこの熱媒体の流量を調整することにより、結晶缶1内の液温を好適には32~53℃程度に制御することができる。
【0021】
上記結晶缶1の内部は、真空ポンプ6によって例えば8kPaA程度の減圧雰囲気が保たれている。これにより、液相の沸点が低下するので、効率的に原液を濃縮して晶析を促進することができる。結晶缶1内の圧力は、真空ポンプ6の上流側に制御弁を設けてその開度で制御したり、真空ポンプ6の駆動モーターの回転数で制御したりしてもよいが、真空ポンプ6の運転に異常が生ずればオペレータは結晶の生産量の大きな変動などによりトラブルの発生を把握できるので、特に圧力制御を行なわなくても構わない。
【0022】
結晶缶1内で蒸発した溶媒の蒸気は、真空ポンプ6によって排気ガスと共に結晶缶1の頂部から排出されるので、真空ポンプ6の上流側には該蒸気の凝縮用の冷却器7が設けられている。この冷却器7により凝縮した凝縮液は、冷却器7の下流側から抜き出されて1点鎖線で示す晶析処理系の系外に排出される。冷却器7の種類には特に限定はなく、例えばシェルアンドチューブ式熱交換器を好適に用いることができ、冷媒としては例えば冷却水を用いることができる。
【0023】
結晶缶1内の気相部の壁面には、上記したスラリー相を構成する溶媒の沸騰などにより生ずる硫酸ニッケル結晶がスケール状に付着することがある。これを洗い落とすため、結晶缶1内の側部の気相部側には洗浄液の導入用の配管が接続している。また、前述したように、濃縮液の不純物濃度が上昇すれば、これに伴って結晶中の不純物品位も上昇するので、該濃縮液の不純物濃度が高くなりすぎないように、濃縮液の一部を抜き出すための濃縮液抜出ポンプ8を備えた抜出配管が結晶缶1のセットリング部1dの上部に接続している。本発明の実施形態においては、この抜出配管からの上記濃縮液の抜出量を下記に示す物質収支計算から算出する。
【0024】
すなわち、結晶缶1内において飽和状態にある硫酸ニッケル水溶液の濃縮液中の不純物濃度C(単位:mg/L)と、この飽和状態の硫酸ニッケル水溶液から晶析した硫酸ニッケル結晶の不純物品位C(単位:質量ppm)とは比例関係にあり、前者によって後者を除することで求まる分配比K(すなわちC/C)は、不純物元素ごとに一定の値を有している。例えば不純物がマグネシウムMgの場合は、図2のグラフに示すように硫酸ニッケル水溶液の濃縮液中のMg濃度によって硫酸ニッケル結晶中のMg品位を除することで得られる分配比Kは0.4である。
【0025】
従って、硫酸ニッケル水溶液の濃縮液中の特定の不純物の濃度を分析することによって、硫酸ニッケル結晶中の該特定の不純物の品位をあらかじめ予測できる。逆にいえば、硫酸ニッケル結晶中の特定の不純物の品位を所望の値にするためには、結晶缶1内の硫酸ニッケル水溶液の濃縮液中の特定の不純物の濃度をどの程度に制御すればよいか求めることができる。例えば硫酸ニッケル結晶中のMg品位を8ppmにするためには、図2のグラフから濃縮液のMg濃度を20mg/Lにすればよいことが分かる。
【0026】
上記の硫酸ニッケル水溶液の濃縮液中の特定の不純物の濃度は、結晶缶1からの濃縮液の抜出量により調整することができる。この濃縮液の抜出量は、図1において1点鎖線で示す晶析処理が行なわれる晶析処理系を出入りする物質の晶析対象成分、特定の不純物及び物質全体の各々の収支計算に基づいて求めることができる。具体的には、上記の晶析処理系を出入りする物質は、結晶缶1に導入される原液、結晶缶1の缶内洗浄用の洗浄液、結晶製品、結晶缶1の側部から抜き出される濃縮液、結晶缶1の頂部から抜き出される蒸気の凝縮液、及び液分離手段3で分離される分離液である。従って、下記式1のニッケルの収支式、下記式2の特定の不純物の収支式、及び下記式3の物質全体の収支式を立てることができる。
【0027】
[式1]
X・N=Y・N+10000・Z・N
[式2]
X・C=Y・C+1000・Z・C
[式3]
X・ρ+1000・A=Y・ρ+1000・Z+1000・(B+B
【0028】
ここで、下記表1に示すように、X、Y、A、B、Bはそれぞれ流量計11~15で測定される流量であり、Zはロードセルなどの秤量器9で測定される質量であり、N、N、Nは分析により得られるニッケル濃度又はニッケル品位であり、Cは分析により得られる特定の不純物の濃度であり、ρ及びρは分析により得られる比重である。
【0029】
【表1】
【0030】
前述したように、濃縮液中の不純物濃度Cは、上記の硫酸ニッケル結晶中の不純物品位Cの目標値を設定することで、分配比Kから求めることができる。よって、上記の各種パラメータA、B、B、N、N、N、C、ρ、ρ、C及びCを式1~3に代入することにより、X、Y及びZの3変数の連立方程式となるため、原液導入量X及び製品結晶生産量Zが定まれば、濃縮液抜出量Yを導出することが可能となる。得られた濃縮液抜出量Yで結晶缶1から硫酸ニッケル濃縮液を定期的又は連続的に抜き出すことによって、目標の不純物品位を有する硫酸ニッケル結晶を精製できる。
【0031】
上記の収支計算で求まる結晶缶1からの硫酸ニッケル濃縮液の抜出量Yの値は、1日当たりの抜出量であり、この量を1日(24時間)に1回だけ結晶缶1から抜き出しても構わないが、抜き出しの頻度が極端に少ないと結晶缶内の硫酸ニッケル濃縮液中の不純物の蓄積が進み、硫酸ニッケル結晶中の不純物品位が目標値を超えるおそれがある。よって、一般的な工場の勤務形態である「8時間/1勤」をも勘案すると、8時間のうちに少なくとも1回又は等間隔で複数回(1回/4時間、1回/2時間など)の頻度で抜き出すことが好ましい。これにより、各勤の作業内容が同一になるので、勤番ごとに作業が異なることによる製品結晶の不純物品位のばらつきをより一層抑えることができる。あるいは、図1に示すように、濃縮液の抜き出し配管において濃縮液抜出ポンプ8の吐出側に流量制御弁を設け、その開度をDCSなどの制御手段で制御することで濃縮液を連続的に抜き出してもよい。
【0032】
従来は、例えば硫酸ニッケル濃縮液中のMg濃度が20mg/Lより多い場合は抜き出し量を1~5倍に増やし、20mg/Lより低い場合は抜き出し量を1~1/5倍に減らすというような、結晶缶の運転状況を様子見しながら製品結晶の不純物品位を調整していたため、結果的に結晶缶からの濃縮液の抜出量に過不足が発生して製品結晶の不純物品位が大きく変動していたが、上記のように、本発明の実施形態の制御方法では、晶析処理系を出入りする物質の晶析対象成分、特定の不純物及び物質全体の収支計算に基づいて結晶缶からの濃縮液の抜出量を求めることで、製品結晶中の不純物品位のばらつきを抑えることが可能になる。
【実施例0033】
(実施例)
晶析対象成分としての硫酸ニッケル及び不純物としてのマグネシウム(Mg)を含む硫酸ニッケル水溶液原液を図1に示すような結晶缶1に導入し、液温45~46℃の減圧条件下で減圧蒸発して濃縮液にすることで該晶析対象成分を晶析させた。得られた結晶を含む濃縮スラリーを結晶缶1の底部から抜き出して脱水及び乾燥することで、1日当たり14~56トンの生産量(Z)で製品結晶を製造した。製品結晶中の目標とするMg品位(C)は8質量ppmに設定し、この場合に必要な濃縮液の抜出量(Y)を上記の式1~3の収支計算から導出した。
【0034】
この収支計算に用いた各パラメータの値は下記のようにして取得した。すなわち、8時間ごとの分析値から硫酸ニッケル原液のNi濃度(N)135~144g/L、及びMg濃度(C)4~8mg/Lをそれぞれ取得し、結晶缶1内の温度における飽和Ni濃度から硫酸ニッケル濃縮液中のNi濃度(N)180g/Lを取得した。最新及び直近4時間前の平均値から硫酸ニッケルの製品結晶中のNi品位(N)22.3質量%を取得した。更に、硫酸ニッケル原液の比重(ρ)及び濃縮液の比重(ρ)は下記式4の関係式から算出した。
[式4]
硫酸ニッケル液の比重(g/cm)=1+Ni濃度(g/L)÷40
【0035】
硫酸ニッケル濃縮液のMg濃度(C)は、前述した分配比K=C/Cの比例関係式にマグネシウム(Mg)の場合の分配比K=0.4、及び製品結晶中のMg品位の目標値(C)の8質量ppmを代入して20mg/Lを求めた。更に、結晶缶1に導入した原液の流量(X)、結晶缶1の缶内洗浄用の洗浄水の流量(A)、結晶缶1の頂部から抜き出される蒸気の凝縮液の流量(B)、及び液分離手段3で分離される分離液の流量(B)は、これら流体がそれぞれ流れる配管に設けた流量計11、13~15の指示値を採用し、結晶製品の生産量(Z)は秤量器9で秤量した値を採用した。
【0036】
上記の式1~3の収支計算で得た抜出量(Y)が24時間当たり抜き出されるように、4時間ごとに硫酸ニッケル濃縮液を結晶缶1の側部から抜き出した。その結果、硫酸ニッケル結晶中のMg品位は目標値の8質量ppmからずれることが30日間の操業のうち1日のみ発生したが、管理値上限の10質量ppmに到達することはなかった。この期間のMg品位平均値は8.0質量ppm、標準偏差は0.2質量ppm、管理値上限に対する工程能力指数Cpkは3.65となり、工程能力として充分であることが分かる。
【0037】
(比較例)
硫酸ニッケル原液のNi濃度(N)が138~147g/L、硫酸ニッケル原液のMg濃度(C)が5~10mg/L、製品結晶の1日当たりの生産量(Z)が30~60トンであり、濃縮液の抜出量の導出を上記の式1~3の収支計算を用いずに下記の要領で行なったこと以外は上記の実施例と同様にして製品結晶中のMg品位が8質量ppmとなるように晶析を行なった。
【0038】
すなわち、この比較例では硫酸ニッケル濃縮液中のMg濃度分析値に応じて硫酸ニッケル濃縮液の抜出量を導出した。具体的には、製品結晶中のMg品位が8質量ppmとなる硫酸ニッケル濃縮液中のMg濃度は前述したように20mg/Lであるため、硫酸ニッケル濃縮液中のMg濃度が20mg/Lより多い場合は抜出量を1~5倍に増やし、20mg/Lより低い場合は抜出量を1~1/5倍に減らした。硫酸ニッケル原液のNi、Mg濃度及び硫酸ニッケル濃縮液のMg濃度の分析頻度は8時間ごとであり、結晶缶からの硫酸ニッケル濃縮液の抜き出し作業は4時間ごとに実施した。
【0039】
その結果、硫酸ニッケル結晶中のMg品位は目標値の8質量ppmからずれることが30日間の操業のうち15日発生し、管理値上限の10質量ppmに到達することが2日発生した。この期間のMg品位平均値は8.2質量ppm、標準偏差は0.8質量ppm、管理値上限に対する工程能力指数Cpkは0.73となり、工程能力として不足しており改善が必要なレベルであることが分かった。
【符号の説明】
【0040】
1 結晶缶
1a ドラフトチューブ
1b 撹拌翼
1c 分級脚
1d セットリング部
2 スラリーポンプ
3 液分離手段
4 被加熱液抜出ポンプ
5 加熱器
6 真空ポンプ
7 冷却器
8 濃縮液抜出ポンプ
9 秤量器
10 温度計
11~15 流量計
図1
図2