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特開2023-13069活性エネルギー線硬化型樹脂組成物、硬化物及び光学シート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023013069
(43)【公開日】2023-01-26
(54)【発明の名称】活性エネルギー線硬化型樹脂組成物、硬化物及び光学シート
(51)【国際特許分類】
   C08F 290/06 20060101AFI20230119BHJP
   C08F 2/50 20060101ALI20230119BHJP
   G02B 1/04 20060101ALI20230119BHJP
【FI】
C08F290/06
C08F2/50
G02B1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021116981
(22)【出願日】2021-07-15
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】原 裕二郎
(72)【発明者】
【氏名】高田 泰廣
【テーマコード(参考)】
4J011
4J127
【Fターム(参考)】
4J011QA03
4J011QA07
4J011QA45
4J011QA46
4J011QB15
4J011QB20
4J011QB25
4J011SA01
4J011SA02
4J011SA14
4J011SA16
4J011UA01
4J127AA03
4J127BB031
4J127BB111
4J127BB221
4J127BC021
4J127BC151
4J127BD211
4J127BE341
4J127BE34Y
4J127BF181
4J127BF18X
4J127BF191
4J127BF241
4J127BF24X
4J127BG141
4J127BG14X
4J127CA02
4J127CB151
4J127CB152
4J127CC011
4J127CC032
4J127DA57
4J127EA12
4J127FA21
(57)【要約】
【課題】本発明は、高屈折率、高い耐摩耗性及び高い自己治癒性を有しつつ、水接触角を発現することで水分の付着を抑制できる光学シート及び硬化物、並びに、それらに用い得る活性エネルギー線硬化型樹脂組成物を提供する。
【解決手段】本発明の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物は、重合性化合物(A)、光重合開始剤(B)及びレベリング剤(C)を含有する活性エネルギー線硬化型樹脂組成物であって、前記重合性化合物(A)が、アルキレンオキサイド鎖を構造中に有する重合性化合物(A1)と、SP値が8.88以下である重合性化合物(A2)とを含有し、前記重合性化合物(A1)は、当該化合物構造中のアルキレンオキサイド鎖の含有量が、組成物全量中0.6mmol/g以上となるよう含有されることを特徴とする。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性化合物(A)、光重合開始剤(B)及びレベリング剤(C)を含有する活性エネルギー線硬化型樹脂組成物であって、
前記重合性化合物(A)が、アルキレンオキサイド鎖を構造中に有する重合性化合物(A1)と、SP値が8.88以下である重合性化合物(A2)とを含有し、
前記重合性化合物(A1)は、当該化合物構造中のアルキレンオキサイド鎖の含有量が、組成物全量中0.6mmol/g以上となるよう含有されることを特徴とする活性エネルギー線硬化型樹脂組成物。
【請求項2】
前記重合性化合物(A2)として、下記式(a2-1)で表される化合物を含有する、請求項1に記載の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物。
【化1】
(式中、R21は水素原子又はメチル基であり、Q21は単結合又は2価の連結基であり、R22は炭素原子数14~22のアルキル基である)
【請求項3】
前記重合性化合物(A1)として、下記式(a1-1)で表される化合物を含有する、請求項1又は2に記載の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物。
【化2】
(式中、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子又はメチル基を表し、X及びXは、互いに独立して炭素原子数2又は3のアルキレン基を表し、m及びnは互いに独立して1以上の整数を表し、m+nは20以上である。)
【請求項4】
前記重合性化合物(A1)として、下記式(a1-2)で表される化合物を含有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物。
【化3】
(式中、R11は水素原子又はメチル基を表し、X12は炭素原子数2又は3のアルキレン基を表し、pは1以上の整数を表す。)
【請求項5】
活性エネルギー線重合性化合物(A)中の、前記重合性化合物(A2)の割合が0.1~30質量%である、請求項1~4のいずれか一項に記載の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物。
【請求項6】
活性エネルギー線重合性化合物(A)中の、前記重合性化合物(A1)の割合が30~95質量%である、請求項1~5のいずれか一項に記載の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物の硬化物であり、屈折率が1.54以上であることを特徴とする硬化物。
【請求項8】
請求項7に記載の硬化物からなる層を有する光学シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学物品に使用する活性エネルギー線硬化型樹脂組成物、該組成物を硬化させた硬化物及び当該硬化物からなる光学シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置等のディスプレイ技術の急速な発展に伴い、これらに用いられるシート状又はフィルム状光学部材について、新機能や、高品質といった需要が高まっている。このような光学部材の一例として、バックライト用集光フィルムとして使用されるプリズムシートがある。
プリズムシートは、表面の微細な凹凸構造によってバックライト光を屈折させることでディスプレイ正面の輝度を向上させる効果を奏するものである。近年、プリズムシートにはディスプレイ輝度のさらなる向上のための高屈折率化と共に、耐摩耗性や自己治癒性に優れることが求められている。
【0003】
例えば特許文献1には、フルオレン系(メタ)アクリレートと、フェノキシベンジルアクリレートとを含有する光学物品用活性エネルギー線硬化型樹脂組成物が開示され、当該組成物を硬化した硬化物は、高い屈折率を有しつつ、耐スクラッチ性に優れ、且つ、好適な自己治癒性を有することが開示されている。
また、特許文献2には、ビスフェノールA型エポキシ樹脂とアクリル酸との反応生成物と、フェニルフェノキシアルキル(メタ)アクリレート等と、特定の1~2官能の鎖状(メタ)アクリレート化合物と、光重合開始剤とを含む光学材料用樹脂組成物が開示され、屈折率、硬度、復元性等に優れることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2018/070256号
【特許文献2】特開2012-219205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
最近では、上述のような高屈折率、耐摩耗性(耐スクラッチ性)、自己治癒のみならず、様々な環境下での使用を想定しての耐久性を向上すべく、プリズムシートに対し疎水性の機能付与が求められ始めている。疎水性が発現しない従来のプリズムシートでは、輸送時や端末使用時の温度変化にてプリズムシート表面に水分が付着しやすく、液滴が乾燥した後にウォータースポットが発生する結果、歩留まりの低下やプリズムシートの機能性低下の虞があった。
【0006】
本発明の課題は、高屈折率、高い耐摩耗性及び高い自己治癒性を有しつつ、水接触角を発現することで水分の付着を抑制できる光学シート及び硬化物、並びに、それらに用い得る活性エネルギー線硬化型樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち本発明は、以下の発明を提供するものである。
(1)重合性化合物(A)、光重合開始剤(B)及びレベリング剤(C)を含有する活性エネルギー線硬化型樹脂組成物であって、前記重合性化合物(A)が、アルキレンオキサイド鎖を構造中に有する重合性化合物(A1)と、SP値が8.88以下である重合性化合物(A2)とを含有し、前記重合性化合物(A1)は、当該化合物構造中のアルキレンオキサイド鎖の含有量が、組成物全量中0.6mmol/g以上となるよう含有されることを特徴とする活性エネルギー線硬化型樹脂組成物。
(2)前記重合性化合物(A2)として、下記式(a2-1)で表される化合物を含有する、(1)の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物。
【0008】
【化1】
【0009】
(式中、R21は水素原子又はメチル基であり、Q21は単結合又は2価の連結基であり、R22は炭素原子数14~22のアルキル基である)
(3)前記重合性化合物(A1)として、下記式(a1-1)で表される化合物を含有する、(1)又は(2)の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物。
【0010】
【化2】
【0011】
(式中、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子又はメチル基を表し、X及びXは、互いに独立して炭素原子数2又は3のアルキレン基を表し、m及びnは互いに独立して1以上の整数を表し、m+nは20以上である。)
(4)前記重合性化合物(A1)として、下記式(a1-2)で表される化合物を含有する、(1)~(3)のいずれかの活性エネルギー線硬化型樹脂組成物。
【0012】
【化3】
【0013】
(式中、R11は水素原子又はメチル基を表し、X12は炭素原子数2又は3のアルキレン基を表し、pは1以上の整数を表す。)
(5)活性エネルギー線重合性化合物(A)中の、前記重合性化合物(A2)の割合が0.1~30質量%である、(1)~(4)のいずれかの活性エネルギー線硬化型樹脂組成物。
(6)活性エネルギー線重合性化合物(A)中の、前記重合性化合物(A1)の割合が30~95質量%である、(1)~(5)のいずれかの活性エネルギー線硬化型樹脂組成物。
(7)(1)~(6)のいずれかの活性エネルギー線硬化型樹脂組成物の硬化物であり、屈折率が1.54以上であることを特徴とする硬化物。
(8)(7)の硬化物からなる層を有する光学シート。
【発明の効果】
【0014】
本発明の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物を硬化してなる硬化物及び光学シートは、一定量以上のアルキレンオキサイド鎖を構造中に有する重合性化合物と、SP値が一定以下である疎水性の重合性化合物と、光重合開始剤と、レベリング剤とを併用することにより、従来からの要求特性である高い屈折率、高耐摩耗性及び好適な自己治癒性を満足できるのみならず、良好に水接触角を発現する。そのため、本発明の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物は、各種光学物品用途、例えば、液晶表示装置等のディスプレイに使用されるプリズムシート、立体写真や投影スクリーン等に使用されるレンチキュラーレンズシート、オーバーヘッドプロジェクターのコンデンサーレンズ等に使用されるフレネルレンズシート、カラーフィルタ等に用いられる回折格子等の各種光学シートに好適に適用できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<活性エネルギー線重合性化合物>
本発明の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物(以下、単に「組成物」ということがある。)は、重合性化合物(A)、光重合開始剤(B)及びレベリング剤(C)を含有する。
【0016】
[重合性化合物(A)]
重合性化合物(A)(以下、「(A)成分」又は「化合物(A)」ということがある。)は、アルキレンオキサイド鎖を構造中に有する重合性化合物(A1)と、SP値が8.88以下である重合性化合物(A2)とを含有する。
【0017】
(重合性化合物(A1))
重合性化合物(A1)(以下、「(A1)成分」又は「化合物(A1)」ということがある。)は、アルキレンオキサイド鎖を構造中に有するものである。化合物(A1)が一定量以上のアルキレンオキサイド鎖を有することにより、硬化後の組成物の耐摩耗性及び自己治癒性が向上する。
アルキレンオキサイド鎖としては、「-O-(CH-構造」(pは1~10の整数であって、好ましくは2~5の整数)を有するものであれば特に限定されず、エチレンオキサイド鎖、プロピレンオキサイド鎖、ブチレンオキサイド鎖、又はこれらの組み合わせが好ましく、エチレンオキサイド鎖、プロピレンオキサイド鎖、又はこれらの組み合わせがより好ましく、エチレンオキサイド鎖が特に好ましい。
【0018】
(A1)成分は重合性化合物であって、活性エネルギー線により重合し得る重合性基をその構造中に有する。重合性基としては、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリルアミド基、ビニル基、ビニルエーテル基、ビニルエステル基、マレイミド基、エポキシ基等が挙げられる。本明細書において、「(メタ)アクリロイル基」、「(メタ)アクリルアミド基」とは、それぞれ、アクリロイル基及びメタクリロイル基、アクリルアミド基及びメタクリルアミド基を含む総称である。また、「(メタ)アクリレート」とは、それぞれ、アクリレート及びメタクリレートを含む総称である。
なかでも重合性基としては、活性エネルギー線照射時の反応性が高いため、(メタ)アクリロイル基が特に好ましい。
【0019】
(A1)成分としては、例えば、トリメチロールプロパンのエチレンオキサイド変性ポリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンのプロピレンオキサイド変性ポリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンのエチレンオキサイド変性ポリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンのプロピレンオキサイド変性ポリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールのエチレンオキサイド変性ポリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールのプロピレンオキサイド変性ポリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールのエチレンオキサイド変性ポリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンのエチレンオキサイド変性ポリ(メタ)アクリレート等の、アルキレンオキサイド基を有するポリオールに(メタ)アクリル酸を反応させたアルキレンオキサイド基変性ポリ(メタ)アクリレート;エチレンオキサイド基変性エポキシポリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド基変性エポキシポリ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド基変性ウレタンポリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド基変性ウレタンポリ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド基変性ポリエステルポリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド基変性ポリエステルポリ(メタ)アクリレート等の、アルキレンオキサイド変性ポリ(メタ)アクリレートオリゴマー;ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールFのエチレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールFのプロピレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート等のビスフェノールのアルキレンオキサイド付加物の(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0020】
また、(A1)成分の好ましい化合物として、下記式(a1-1)で表される化合物が挙げられる。
【0021】
【化4】
【0022】
式中、R及びRは、互いに独立して水素原子又はメチル基を表し、少なくとも一方が水素原子であることが好ましい。RとRとは同じ基であってもよく、異なる基であってもよい。
及びXは、互いに独立して炭素原子数2又は3のアルキレン基を表す。炭素原子数が2の場合には当該部分がエチレンオキサイド鎖となり、炭素原子数が3の場合には当該部分がプロピレンオキサイド鎖となる。XとXとが同じ基であってもよく、異なる基であってもよい。
m及びnは互いに独立して1以上の整数を表し、m+nは20以上となる。m+nを20以上とすることで、優れた耐摩耗性及び自己治癒性を実現できる。m+nは20~30であることが好ましく、20~25であることがより好ましい。
m又はnが2以上の場合、複数のX又はXはそれぞれ同じであってもよく、異なっていてもよいが、合成の容易さの観点から、複数のX又はXはそれぞれ同じであることが好ましく、全てのX又及びXが同じであることが特に好ましい。
【0023】
また、(A1)成分としては、下記式(a1-2)で表される化合物も好ましい。
【0024】
【化5】
【0025】
式中、R11は水素原子又はメチル基を表し、水素原子であることが好ましい。
12は、炭素原子数2又は3のアルキレン基を表し、炭素原子数2のエチレンであることが好ましい。pは1以上の整数を表し、1~5の整数が好ましく、1~3の整数がより好ましく、1又は2がより好ましく、
pが2以上のとき、複数のX12はそれぞれ同じであっても異なっていてもよいが、複数のX12は全て同じであることが好ましい。
式(a1-2)で表される化合物はビフェニル構造を有することにより、組成物を硬化してなる硬化物の高屈折率化に寄与する。
【0026】
本発明の組成物中、(A1)成分は、当該化合物構造中のアルキレンオキサイド鎖の含有量が、組成物全量中の0.6mmol/g以上となるような含有量で含有される。アルキレンオキサイド鎖の含有量は、0.6~1.6mmol/gが好ましく、0.6~1.2mmol/gがより好ましく、0.6~1.0mmol/gがさらに好ましい。0.6mmol/g以上とすることにより良好な自己治癒性が得られ、上記上限値以下とすることにより水接触角を発現させることが可能となる。
【0027】
(A1)成分自体の含有量は、上述のアルキレンオキサイド鎖含有量を満たすものであれば特に限定されるものではないが、組成物全量中の10~98質量%であることが好ましく、10~55質量%がより好ましく、10~45質量%がさらに好ましく、20~35質量%が特に好ましい。
また、(A1)成分の含有量は、(A)成分中の30~99.9質量%であることが好ましく、60~98質量%がより好ましく、70~98質量%がさらに好ましく、80~95質量%が特に好ましい。
【0028】
(重合性化合物(A2))
重合性化合物(A2)(以下、「(A2)成分」又は「化合物(A2)」ということがある。)は、前記(A1)成分に該当せず、SP値が8.88以下の重合性化合物である。SP値が8.88以下の化合物(A2)を用いることにより、硬化後の表面に水接触角を発現させることが可能となる。
SP値とは原料間の親和性を示すパラメータの一つであり、本発明において疎水性を発現する指標としてFedors法にて算出した。
【0029】
(A2)成分は重合性化合物であって、活性エネルギー線により重合し得る重合性基をその構造中に有する。重合性基としては(A1)成分において説明したものと同様のものを用いることができ、(A2)成分は(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレートであることが好ましい。
【0030】
(メタ)アクリレートである場合の(A2)成分としては、下記式(a2-1)で表される化合物が好ましい。
【0031】
【化6】
【0032】
式中、R21は水素原子又はメチル基であり、水素原子であることが好ましい。
21は単結合又は2価の連結基である。2価の連結基としては例えば、置換されたアルキレン基、置換されていてもよいアリーレン基、置換されていてもよい2価の複素環基、置換されていてもよいアルケニレン基、又は、これらと-O-、-S-、-CO-、-CO-とを組み合わせてなる2価の連結基が挙げられる。R22がアルキル基であることから、Q21は無置換のアルキレン基でないことが好ましい。
なかでもQ21としては、単結合が好ましい。
【0033】
22は炭素原子数14~22のアルキル基である。式(a2-1)で表される化合物は、R22にこのような比較的長鎖のアルキル基を有する疎水性の化合物を用いることにより、(A2)成分のSP値が8.88以下となり、本発明の組成物への水接触角付与が可能となる。
22の炭素原子数は16~20であることが好ましく、18~20であることがより好ましく、16が特に好ましい。
22のアルキル基は鎖状であって、直鎖状のアルキル基であっても分岐鎖状のアルキル基であってもよいが、直鎖状であることにより本発明の効果をより顕著に得られることから好ましい。分岐鎖状である場合には、主鎖の炭素原子数が14以上であることが好ましい。
【0034】
(A2)成分の含有量は、(A)成分中の0.1~30質量%であることが好ましく、0.3~20質量%がより好ましく、0.5~10質量%がさらに好ましく、1~5質量%が特に好ましい。
【0035】
(他の重合性化合物)
(A)成分は、(A1)成分及び(A2)成分以外の他の重合性化合物を含有してもよい。他の重合性化合物としては、重合性基を一つ有する単官能の化合物、当該重合性基を二つ以上有する多官能の化合物であって、前記(A1)~(A2)成分に該当しないものを適宜使用できる。
【0036】
単官能の化合物としては、例えば、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、n-ペンチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニルベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、モルホリン(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、シクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシルエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニロキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニロキシエチル(メタ)アクリレート等の単官能(メタ)アクリレートを好ましく使用できる。これら単官能(メタ)アクリレートは、一種を使用しても複数種を使用してもよい。
【0037】
単官能の化合物としては、25℃における粘度が300mPa・s以下の化合物を使用することが好ましく、200mPa・s以下の化合物であることがより好ましい。また、その屈折率が25℃、589nmにおいて、1.4以上であることが好ましく、1.5以上であることがより好ましく、1.55以上であることがさらに好ましい。
【0038】
単官能の化合物として、下記式(4)で表されるフェニルベンジルアクリレートは、組成物の粘度を好適に保持しつつ、得られる硬化物の屈折率を向上させやすいため好ましい。
【0039】
【化7】
【0040】
式(4)で表される化合物を使用する場合には、本発明の光学物品用活性エネルギー線硬化型樹脂組成物に含まれる活性エネルギー線重合性化合物(A)中の式(4)で表される化合物の含有量が5~30質量%であることが好ましく、10~20質量%であることがより好ましい。
【0041】
多官能の化合物としては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールヒドロキシピバリン酸エステルジ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、テトラブロモビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ヒドロピバルアルデヒド変性トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、1,4-シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、グリセロールトリ(メタ)アクリレート、アルキル変性したジペンタエリスリトールのトリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレートを例示できる。
また、多官能(メタ)アクリレートとしては、例えばウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレートなどのアクリロイル基を有する多官能オリゴマーを使用することもできる。
これら単官能の化合物や多官能の化合物は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0042】
[光重合開始剤(B)]
光重合開始剤(B)(以下、「(B)成分」ということがある。)としては特に限定されるものではなく、公知慣用の各種開始剤を使用することができる。本発明の組成物を用いた物品の製造において、紫外線等の活性エネルギー線は、支持体となる透明基材面を通して照射される場合が多い。そのため、(B)成分は、長波長領域に吸光能力を有する開始剤が好ましく、例えば、紫外線が360~450nmの範囲において光開始能力を発揮する光重合開始剤が好ましい。
【0043】
(B)成分としては例えば、ベンゾフェノン、3,3′-ジメチル-4-メトキシベンゾフェノン、4,4′-ビスジメチルアミノベンゾフェノン、4,4′-ビスジエチルアミノベンゾフェノン、4,4′-ジクロロベンゾフェノン、ミヒラーズケトン、3,3′,4,4′-テトラ(t-ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノンなどのベンゾフェノン類;
キサントン、チオキサントン、2-メチルチオキサントン、2-クロロチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントンなどのキサントン、チオキサントン類;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテルなどのアシロインエーテル類;
ベンジル、ジアセチルなどのα-ジケトン類;
テトラメチルチウラムジスルフィド、p-トリルジスルフィドなどのスルフィド類;
4-ジメチルアミノ安息香酸、4-ジメチルアミノ安息香酸エチルなどの安息香酸類;
3,3′-カルボニル-ビス(7-ジエチルアミノ)クマリン、1-ヒドロキシシクロへキシルフェニルケトン、2,2′-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、2-メチル-1-〔4-(メチルチオ)フェニル〕-2-モルフオリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタン-1-オン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、1-〔4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル〕-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、1-(4-ドデシルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、4-ベンゾイル-4′-メチルジメチルスルフィド、2,2′-ジエトキシアセトフェノン、ベンジルジメチルケタ-ル、ベンジル-β-メトキシエチルアセタール、o-ベンゾイル安息香酸メチル、ビス(4-ジメチルアミノフェニル)ケトン、p-ジメチルアミノアセトフェノン、α,α-ジクロロ-4-フェノキシアセトフェノン、ペンチル-4-ジメチルアミノベンゾエート、2-(o-クロロフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾリルニ量体、2,4-ビス-トリクロロメチル-6-[ジ-(エトキシカルボニルメチル)アミノ]フェニル-S-トリアジン、2,4-ビス-トリクロロメチル-6-(4-エトキシ)フェニル-S-トリアジン、2,4-ビス-トリクロロメチル-6-(3-ブロモ-4-エトキシ)フェニル-S-トリアジンアントラキノン、2-t-ブチルアントラキノン、2-アミルアントラキノン、β-クロルアントラキノン等が挙げられる。
【0044】
(B)成分は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0045】
(B)成分の使用量は特に制限はないが、好適な硬化性や、得られる硬化物の好適な耐摩耗性や自己治癒性等を得やすいことから、(A)成分100質量部に対して0.05~20質量部が好ましく、0.1~10質量部がより好ましく、0.5~5質量部がさらに好ましい。
【0046】
[レベリング剤(C)]
レベリング剤(表面調整剤、以下「(C)成分」ということがある。)は、本発明の組成物により形成される塗膜表層の状態を調整するものであって、レベリング剤を含有することにより硬化後の耐摩耗性を向上させることができる。一方で、レベリング剤は塗膜の表面張力を低下させ、塗膜の濡れ性を高めることから、レベリング剤の使用により水接触角が発現しない状態となってしまう。本発明ではこの問題を、前記(A2)成分の併用により解決することで、(C)成分を用いた場合にも水接触角を発現させることができ、且つ、同時に良好な耐摩耗性及び自己治癒性を達成することができる。
【0047】
(C)成分としては、例えば、アクリル系レベリング剤、シリコン系レベリング剤、フッ素系レベリング剤、ビニル系レベリング剤等が挙げられる。これらのレベリング剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
これらの表面調整剤中でも、自己治癒性向上の観点から、好ましくはシリコン系レベリング剤が挙げられる。上記シリコン系レベリング剤としては、例えば、ビックケミー・ジャパン社製のBYKシリーズ等が挙げられる。
【0049】
(C)の含有量は、(A)成分100質量部に対して0.005~10質量部が好ましく、0.01~5質量部がより好ましく、0.1~1質量部がさらに好ましい。
【0050】
本発明の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物は、必要に応じて、上記(A)~(C)成分以外の他の成分を添加剤として含有することができる。添加剤は、(A)~(C)成分に該当しないものであれば特に限定されるものではないが、光増感剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、シリコン系添加剤、フッ素系添加剤、レオロジーコントロール剤、脱泡剤、離型剤、シランカップリング剤、帯電防止剤、防曇剤、着色剤、無機フィラー等が挙げられる。
【0051】
本発明の光学物品用活性エネルギー線硬化型樹脂組成物には必要に応じて溶剤を含有させても良いが、溶剤の含有率は少ないほうが作業環境を汚染しにくい光学物品用活性エネルギー線硬化型樹脂組成物が得られることから好ましい。具体的には、本発明の光学物品用活性エネルギー線硬化型樹脂組成物中の溶剤含有率は1質量%以下が好ましく、実質的に含有しないことが好ましい。
【0052】
光増感剤としては、例えば、アミン類、尿素類、含硫黄化合物、含燐化合物、含塩素化合物またはニトリル類もしくはその他の含窒素化合物等が挙げられる。
【0053】
紫外線吸収剤としては、例えば、2-[4-{(2-ヒドロキシ-3-ドデシルオキシプロピル)オキシ}-2-ヒドロキシフェニル]-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン、2-[4-{(2-ヒドロキシ-3-トリデシルオキシプロピル)オキシ}-2-ヒドロキシフェニル]-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン等のトリアジン誘導体、2-(2′-キサンテンカルボキシ-5′-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2′-o-ニトロベンジロキシ-5′-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-キサンテンカルボキシ-4-ドデシロキシベンゾフェノン、2-o-ニトロベンジロキシ-4-ドデシロキシベンゾフェノン等が挙げられる。
【0054】
酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、ヒンダードアミン系酸化防止剤、有機硫黄系酸化防止剤、リン酸エステル系酸化防止剤等が挙げられる。
【0055】
シリコン系添加剤としては、例えば、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、環状ジメチルポリシロキサン、メチルハイドロゲンポリシロキサン、ポリエーテル変性ジメチルポリシロキサン共重合体、ポリエステル変性ジメチルポリシロキサン共重合体、フッ素変性ジメチルポリシロキサン共重合体、アミノ変性ジメチルポリシロキサン共重合体など如きアルキル基やフェニル基を有するポリオルガノシロキサン類が挙げられる。
【0056】
無機フィラー(無機ナノ粒子)としては、屈折率が高いものが好ましく、アルミナ、ジルコニア、チタニア、それらの化合物、若しくはそれらの混合酸化物を含むか、又はそれらの金属酸化物が挙げられる。これら無機ナノ粒子は、一般的な有機材料よりも屈折率が高いので硬化物の屈折率を上げる手段としては有効であるが、成型物の強度や基材密着性とのバランスを考慮する必要があり、配合量としては、(A)成分と無機ナノ粒子の合計量に対して、無機ナノ粒子が20~60質量%となる範囲が実用的である。また、その中でも、更に高屈折率と自己治癒性を兼備するためには、30~50質量%がより好ましい。
【0057】
上記各種添加剤の使用量としては、その効果を十分発揮し、また活性エネルギー線による硬化を阻害しない範囲であれば特に限定されるものではないが、組成物100重量部に対し、それぞれ0.05~20質量部であることが好ましく、0.1~10質量部であることが特に好ましい。
【0058】
また、本発明の組成物には必要に応じて溶剤を含有させてもよいが、作業環境汚染の観点から、溶剤の含有率は少ない方が好ましい。具体的には、組成物中の溶剤含有率は1質量%以下が好ましい。
【0059】
本発明の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物は、各種光学物品用途において所望の形状や厚さへの塗布・成形がしやすいことから、25℃における粘度が50~5000mPa・sであることが好ましく、100~2000mPa・sであることがより好ましい。特に、プリズムシート用途に適用する場合には、プリズムシートの母型へ均一に塗布しやすく、また微細凹凸構造を有する母型の複製がしやすい(ラインスピードを早くすることが可能)ことから、50~800mPa・sであることが好ましい。
なお、上記範囲以外の粘度であっても、組成物の温度をコントロールして粘度を調節するなどの方法を採用することにより使用が可能である。
【0060】
本発明の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物の酸価(試料1g中に存在する酸分を規定の方法に基き、中和するのに要した水酸化カリウムのミリグラム数)は、5.0mgKOH/g以下であることが環境安定性に優れる硬化物が得られる光学物品用活性エネルギー線硬化型樹脂組成物となることから好ましく、0mgKOH/g~3.0mgKOH/gが特に好ましい。
【0061】
<硬化物>
本発明の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物は、目的用途に応じて基材への塗布や、成型した後、活性エネルギー線を照射して硬化物とすることができる。活性エネルギー線としては、電子線、紫外線、可視光線等が挙げられる。活性エネルギー線として、電子線を用いる場合には、コックロフトワルトン型加速器、バンデグラフ型電子加速器、共振変圧器型加速器、絶縁コア変圧器型、ダイナミトロン型、リニアフィラメント型および高周波型などの電子線発生装置を用いて本発明の硬化型樹脂組成物を硬化させることができる。また、活性エネルギー線として紫外線を用いる場合は、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯等の水銀灯、キセノンランプ、カーボンアーク、メタルハイトランプ、高出力のLED-UVランプ等により照射し、硬化させることができる。
【0062】
本発明の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物の硬化物は、屈折率が1.50以上であることが好ましく、1.54以上がより好ましく、1.55以上がさらに好ましく、1.56以上が特に好ましい。当該硬化物は、高い屈折率を有し、また好適な耐スクラッチ性等を有することから、各種光学物品に好適に適用できる。
【0063】
本発明の硬化物の硬さは、各種用途に応じて適宜設計すればよいが、例えば、プリズムシートに使用する場合には、25℃における弾性率が5~500MPaであることが好ましく、10~100MPaであることがより好ましい。弾性率を当該範囲とすることで機械強度と靭性(伸び)のバランスが良好となり、自己治癒性に必要な復元力を発現しやすくなる。
なお、当該弾性率は、粘弾性測定装置としてRheometoric Scientific社製の「RSAII」を用いて、測定条件として、昇温スピード3℃/Min、周波数は3.5Hzの条件で動的粘弾性測定して得られる値とする。
【0064】
本発明の硬化物は、ガラス転移温度Tgが40℃以下であることが好ましく、30℃以下であることがより好ましく、25℃以下であることが特に好ましい。当該ガラス転移温度とすることで、高い屈折率と良好な自己治癒性とを兼備しやすくなる。Tgの下限は特に制限されるものではないが、5℃以上であることが好ましく、10℃以上であることがより好ましく、15℃以上であることが特に好ましい。
なお、本発明においては、(A)~(C)成分の使用や好適な範囲での配合により、当該Tgの範囲に調整しやすくなる。
なお、当該ガラス転移温度は、粘弾性測定で得られる貯蔵弾性率E’と複素弾性率E”の比で表されるtanδのピーク位置の温度をTgとして読み取った値のことである。
【0065】
[光学シート]
本発明の光学シートは、上記活性エネルギー線硬化型樹脂組成物の硬化物からなる層を有する光学シートである。当該光学シートは、透明な樹脂フィルム上に、上記硬化物からなるプリズムやレンズが積層された光学シートであり、具体的には、液晶表示装置等のディスプレイに使用されるプリズムシート、立体写真や投影スクリーン等に使用されるレンチキュラーレンズシート、オーバーヘッドプロジェクターのコンデンサーレンズ等に使用されるフレネルレンズシート、カラーフィルタ等に用いられる回折格子等の光学シートが例示できる。
【0066】
これら光学シートの製造方法としては、上記活性エネルギー線硬化型樹脂組成物を各種用途に応じて必要とされる微細形状を有する母型上に充填した後、充填された該樹脂組成物上に空気が混入しないように基材を加圧積層して密着させ、基材側から紫外線等の活性エネルギー線を照射して該樹脂組成物を硬化させた後、母型から離型する方法などが挙げられる。また例えば、ロール状の母型に該樹脂組成物を連続的に充填した後、充填された該樹脂組成物上に空気が混入しないように基材を連続的に密着させ、基材側から紫外線等の活性エネルギー線を照射して該樹脂組成物を硬化させた後、ロール状の母型から離型する連続製造方法などが挙げられる。
【0067】
光学シートの形成に用いられる基材としては、フィルム状、シート状、板状の透明基材を使用できる。当該基材の材料は用途等に応じて適宜選択すればよく、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル樹脂、トリアセチルセルロース、ポリカーボネート樹脂、メチルメタクリレート系共重合物などのアクリル樹脂、スチレン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリメタクリルイミド樹脂等が挙げられる。また、ガラス基材などの無機基材も同様に用いることが可能である。
【0068】
本発明の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物は、各種光学シートのなかでも各種ディスプレイに使用されるプリズムシートに好適に適用できる。当該プリズムシートは、シート状成形体の片面に微細なプリズム形状部を複数有するものであって、通常、液晶表示素子の背面(光源側)に、該素子側にプリズム面が向くように配設される。
【0069】
当該プリズムシートは、透明フィルム上に上記活性エネルギー線硬化型樹脂組成物の硬化物からなるプリズム層を有するシートであり、当該プリズム層の形状は、プリズム頂角の角度θが70~110°であることが、集光性に優れ輝度が向上する点から好ましく、75~100°であることがより好ましく、80~95°であることが特に好ましい。
【0070】
また、プリズムのピッチは、100μm以下であることが好ましく、特に70μm以下であることが、画面のモアレ模様の発生防止や、画面の精細度がより向上する点から好ましい。また、プリズムの凹凸の高さは、プリズム頂角の角度θとプリズムのピッチの値によって決定されるが、好ましくは50μm以下であることが好ましい。さらに、プリズムレンズのシート厚さは、強度面からは厚い方が好ましいが、光学的には光の吸収を抑えるため薄い方が好ましく、これらのバランスの点から50μm~1000μmであることが好ましい。
【実施例0071】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。例中の部及び%は、特に記載のない限り、すべて質量基準である。なお、実施例及び比較例における特性等の測定及び評価は、以下のとおり行った。
【0072】
<屈折率>
実施例及び比較例にて調製した樹脂組成物の屈折率を、ATAGO社製多波長アッベ屈折率計(DR-M2)を用いて、基準波長(589nm)にて測定した。表の数値は、配合組成物の屈折率を示した。
【0073】
<粘度>
実施例及び比較例にて調製した樹脂組成物の25℃における粘度を、東機産業製E型粘度計(TV-25、typeH型)を用いて測定した。
【0074】
<自己治癒性>
プリズムのピッチ間隔50μm、プリズム高さ25μm、頂角90°のプリズム母型に、実施例及び比較例にて調製した樹脂組成物を充填し、125μmのPETフィルムを重ね、ローラーで圧力をかけながら貼り合わせた後、PETフィルム側から高圧水銀ランプにて積算光量400mJ/cm2の照射量にて、樹脂組成物を硬化させ、プリズムシートを作成した。得られたプリズムシートを千枚通しで約3cm引掻き、その時に出来た傷(線すじ)が消えるまでの時間を目視にて観察し、以下の基準に沿って評価した。
5:瞬時に復元(傷消失)
4:10秒以内に復元(傷消失)
3:1分以内に復元(傷消失)
2:5分以内に復元(傷消失)
1:15分以上で復元(傷消失)
0:復元せず
【0075】
<耐摩耗性>
上記と同様にして得られたプリズムシート上に、直径1cmの円状に切り抜いた拡散フィルムを載置し400gの荷重をかけ、株式会社井元製作所製の耐磨耗試験機(IMC-15FA型)を使用して10cmの距離を40往復回数擦り、表面の帯状の傷付きを傷部分の面積によって評価した。評価は23℃の室内で実施し、以下の基準に沿って判断し、A以上を合格とした。
A:傷部分の面積が5cm以下
B:傷部分の面積が5cmより大きく7cm以下
C:傷部分の面積が7cmより大きい
【0076】
<水接触角>
上記と同様にして得られたプリズムシート上に、50μlのイオン交換水をシリンジより突出し、協和界面科学製の水接触角計(DMo-501型)を使用して水接触角の測定を実施した。評価は23℃の室内で実施し、プリズムシートの稜線と水平となる方向から観察し、測定結果を以下のように評価した。B以上を合格とする。
A:着滴1秒後の水接触角が50°以上、かつ5分後の水接触角保持率が80%以上
B:着滴1秒後の水接触角が50°以上、かつ5分後の水接触角保持率が80%未満
C:着滴1秒後の水接触角が30°以上50°未満、かつ5分後の水接触角保持率が
80%以上
D:着滴1秒後の水接触角が30°以上50°未満、かつ5分後の水接触角保持率が
80%未満
E:着滴1秒後の水接触角が30°未満
【0077】
(実施例1~4、比較例1~5)
下表に示した配合で化合物を溶融混合し、樹脂組成物を調整した。重合性化合物(A1)のアルキレンオキサイド含有量(mmol/g)を、「アルキレンオキサイド含有量」として表中に記載する。
得られた樹脂組成物を用いて上記評価を行った。なお、表中の組成物配合量の数値は質量%である。
【0078】
【表1】
【0079】
【表2】
【0080】
上記表中に記載の化合物は下記のとおりである。
A1-1:エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジアクリレート(MIWON社製「MIRAMER M-2200」、前記式(a1-1)においてR及びRが水素原子・X及びXがエチレン基・m+n=20の化合物、エチレンオキサイド変性量20モル)
A1-2:エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジアクリレート(MIWON社製「MIRAMER M-2100」、前記式(a1-1)においてR及びRが水素原子・X及びXがエチレン基・m+n=10の化合物、エチレンオキサイド変性量10モル)
A1-3:o-フェニルフェノールのエチレンオキサイド変性アクリレート(MIWON社製「MIRAMER M-1142」、前記式(a1-2)においてR11が水素原子・X12がエチレン基・p=1の化合物、エチレンオキサイド変性量1モル)
A2-1:ステアリルアクリレート(SP値:8.80)(KPX社製「KOMERATE A189」、前記式(a2-1)においてR21が水素原子・Q21が単結合・R22が炭素数18の直鎖の化合物)
A2-2:セチルアクリレート(SP値:8.83)(KPX社製「KOMERATE A169」、前記式(a2-1)においてR21が水素原子・Q21が単結合・R22が炭素数16の直鎖の化合物)
A2-3:ドデシルアクリレート(SP値:8.89)(KPX社製「KOMERATE A129」、前記式(a2-1)においてR21が水素原子・Q21が単結合・R22が炭素数12の直鎖の化合物)
A2-4:ベヘニルアクリレート(SP値:8.77)(KPX社製「KOMERATE A229」、前記式(a2-1)においてR21が水素原子・Q21が単結合・R22が炭素数22の直鎖の化合物)
A2-5:ステアリルメタクリレート(SP値:8.74)(KPX社製「KOMERATE A189M」、前記式(a2-1)においてR21がメチル基・Q21が単結合・R22が炭素数18の直鎖の化合物)
A2-6:イソボルニルアクリレート(SP値:9.93)(大阪有機化学工業社製「IBXA」、前記式(a2-1)においてR21が水素原子・R22又はQ21に相当する部分がイソボルニル基の化合物)
A2-7:トリシクロデカンジメタノールジアクリレート(SP値:11.30)(KPX社製「KOMERATE D0013」、前記式(a2-1)においてR21が水素原子・R22又はQ21に相当する部分にモノアクリレートを有するトリシクロデカン骨格を有する化合物)
A2-8:シクロヘキシルアクリレート(SP値:10.04)(大阪有機化学工業社製「ビスコート#155」、前記式(a2-1)においてR21が水素原子・R22又はQ21に相当する部分がシクロヘキシル基の化合物)
B1:1-ヒドロキシシクロへキシルフェニルケトン(IGM RESINS B.V.社製「OMNIRAD184」)
C1:ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン(ビックケミー・ジャパン社製「BYK-333」)
【0081】
上記の結果から明らかなとおり、本発明の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物によれば、水接触角の発現と、自己治癒性や耐摩耗性のバランスに優れることが確認された。
一方で、アルキレンオキサイド含有量が0.6mmol/g未満である比較例1は自己治癒性及び耐摩耗性に劣り、SP値が8.88以下の重合性化合物を含有しない比較例2~5は水接触角を発現せず、水の付着を抑制できないであろうことが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の活性エネルギー線硬化型樹脂組成物は、上述したように、プリズムシート等をはじめとする種々の光学用部材に好適に利用することができる。