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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023130726
(43)【公開日】2023-09-21
(54)【発明の名称】生育状態推定方法及び栽培装置
(51)【国際特許分類】
   A01G 7/00 20060101AFI20230913BHJP
【FI】
A01G7/00 603
A01G7/00 601A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022035175
(22)【出願日】2022-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】000003285
【氏名又は名称】千代田化工建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田村 諭
(72)【発明者】
【氏名】栄田 二雄
(72)【発明者】
【氏名】皆見 武志
(72)【発明者】
【氏名】山本 武士
(72)【発明者】
【氏名】粟井 英司
(72)【発明者】
【氏名】武田 大
【テーマコード(参考)】
2B022
【Fターム(参考)】
2B022DA01
(57)【要約】
【課題】 将来の植物の生育状態を推定することができる生育状態推定方法及び栽培装置を提供する。
【解決手段】 生育状態推定方法は、照度計が取得する照度に基づいて、定植開始から第1時点までに植物が吸収した光エネルギーに対応する第1状態量を取得する第1ステップと、第1モデルを用いて、第1状態量から第1時点における植物の質量を第1質量として推定する第2ステップと、第2モデルを用いて、定植開始からの第1時点までの経過時間から第1時点における植物の質量を第2質量として推定する第3ステップと、第2質量と第1質量との差が所定の第1閾値以下になるように、第2モデルのフィッティングパラメータを修正し、修正第2モデルを作成する第4ステップと、修正第2モデルを用いて、第1時点より後の第2時点における植物の質量を推定する第5ステップとを有する。
【選択図】 図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
栽培装置内の植物の生育状態を推定するための生育状態推定方法であって、
前記栽培装置は、ケースと、前記ケース内に配置され、前記植物が定植される定植板と、前記定植板に向けて光を照射する光源と、前記定植板に向けて配置された照度計とを有し、
前記照度計が取得する光強度に基づいて、定植開始から第1時点までに前記植物が吸収した光エネルギーに対応する第1状態量を取得する第1ステップと、
前記第1状態量と前記植物の質量との関係を規定する第1モデルを用いて、前記第1状態量から前記第1時点における前記植物の質量を第1質量として推定する第2ステップと、
定植開始からの経過時間と前記植物の質量との関係を規定する第2モデルを用いて、定植開始からの前記第1時点までの経過時間から前記第1時点における前記植物の質量を第2質量として推定する第3ステップと、
前記第2質量と前記第1質量との差が所定の第1閾値以下になるように、前記第2モデルのフィッティングパラメータを修正し、修正第2モデルを作成する第4ステップと、
前記修正第2モデルを用いて、前記第1時点より後の第2時点における前記植物の質量を推定する第5ステップとを有する生育状態推定方法。
【請求項2】
前記第1モデルは、前記栽培装置を使用した前記植物の予備栽培によって取得される、各時点における前記植物の質量及び前記植物が吸収した光エネルギーに対応する状態量に基づいて作成される請求項1に記載の生育状態推定方法。
【請求項3】
前記植物の質量は、前記植物の可食部の質量である可食部質量であり、
前記可食部質量は、前記植物の全体の質量である全質量と前記可食部質量との関係を規定する第3モデルを用いて、前記植物の前記全質量から推定される請求項1又は2に記載の生育状態推定方法。
【請求項4】
前記植物は前記定植板に所定のピッチで定植され、
前記第1モデルは、前記ピッチに応じて修正される請求項1~3のいずれか1つの項に記載の生育状態推定方法。
【請求項5】
植物の栽培装置であって、
ケースと、
前記ケース内に配置され、前記植物が定植される定植板と、
前記定植板に向けて光を照射する光源と、
前記定植板に向けて配置された照度計と、
前記光源及び前記照度計に接続された制御装置とを有し、
前記制御装置は、
前記照度計が取得する光強度に基づいて、定植開始から第1時点までに前記植物が吸収した光エネルギーに対応する第1状態量を取得し、
前記第1状態量と前記植物の質量との関係を規定する第1モデルを用いて、前記第1状態量から前記第1時点における前記植物の質量を第1質量として推定し、
定植開始からの経過時間と前記植物の質量との関係を規定する第2モデルを用いて、定植開始からの前記第1時点までの経過時間から前記第1時点における前記植物の質量を第2質量として推定し、
前記第2質量と前記第1質量との差が所定の第1閾値以下になるように、前記第2モデルのフィッティングパラメータを修正し、修正第2モデルを作成し、
前記修正第2モデルを用いて、前記第1時点より後の第2時点における前記植物の質量を推定し、
前記第2時点における前記植物の質量と目標質量との差に基づいて前記光源を制御する栽培装置。
【請求項6】
前記制御装置は、前記栽培装置を使用した前記植物の予備栽培によって取得される、各時点における前記植物の質量及び前記植物が吸収した光エネルギーに対応する状態量に基づいて前記第1モデル及び前記第2モデルを作成する請求項5に記載の栽培装置。
【請求項7】
前記植物の質量は、前記植物の可食部の質量である可食部質量であり、
前記制御装置は、前記植物の全体の質量である全質量と前記可食部質量との関係を規定する第3モデルを用いて、前記植物の前記全質量から前記可食部質量を推定する請求項5又は6に記載の栽培装置。
【請求項8】
前記植物は前記定植板に所定のピッチで定植され、
前記制御装置は、前記ピッチに応じて前記第1モデルを修正する請求項5~7のいずれか1つの項に記載の栽培装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、栽培装置内の植物の生育状態を推定するための生育状態推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1及び2は、植物の生育状態を光学的に測定する装置を開示している。この装置は、植物に向けて光を照射する光源と、測定植物により反射された反射光の強度を測定する照度計と、照度計で検出した光強度を基に植物の生育状態を求める演算部とを有する。この装置によれば、非接触かつ迅速に植物の生育状態を取得することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-076346号公報
【特許文献2】特開2015-223101号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1及び2に係る装置は、現時点での植物の生育状態を取得することはできるが、将来の任意の時点における植物の生育状態を推定することはできない。将来の植物の生育状態を取得することができると、収穫時期の予測や、栽培条件の調節が可能になる。
【0005】
本発明は、以上の背景を鑑み、将来の植物の生育状態を推定することができる生育状態推定方法及び栽培装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の一態様は、栽培装置(1)内の植物の生育状態を推定するための生育状態推定方法であって、前記栽培装置は、ケース(2)と、前記ケース内に配置され、前記植物が定植される定植板(3)と、前記定植板に向けて光を照射する光源(4)と、前記定植板に向けて配置された照度計(5)とを有し、前記照度計が取得する照度に基づいて、定植開始から第1時点までに前記植物が吸収した光エネルギーに対応する第1状態量を取得する第1ステップ(S1)と、前記第1状態量と前記植物の質量との関係を規定する第1モデルを用いて、前記第1状態量から前記第1時点における前記植物の質量を第1質量として推定する第2ステップ(S2)と、定植開始からの経過時間と前記植物の質量との関係を規定する第2モデルを用いて、定植開始からの前記第1時点までの経過時間から前記第1時点における前記植物の質量を第2質量として推定する第3ステップ(S3)と、前記第2質量と前記第1質量との差が所定の第1閾値以下になるように、前記第2モデルのフィッティングパラメータを修正し、修正第2モデルを作成する第4ステップ(S4)と、前記修正第2モデルを用いて、前記第1時点より後の第2時点における前記植物の質量を推定する第5ステップとを有する。
【0007】
この態様によれば、将来の植物の生育状態を推定することができる生育状態推定方法を提供することができる。植物の質量は、吸収した光エネルギー量と相関があるため、第1モデルを用いて第1状態量から第1時点における植物の質量を第1質量として推定することができる。また、植物の質量は、定植からの経過時間、すなわち定植からの光の積算照射時間と相関があるため、第2モデルを用いて第1時点における植物の質量を第2質量として推定することができる。第2質量と第1質量の差が第1閾値以下になるように第2モデルを修正することによって、第1時点の植物の生育状態を考慮した修正第2モデルを得ることができる。このように得られた修正第2モデルを使用することによって、将来の任意の時点における植物の質量を精度良く推定することができる。
【0008】
上記の態様において、前記第1モデルは、前記栽培装置を使用した前記植物の予備栽培によって取得される、各時点における前記植物の質量及び前記植物が吸収した光エネルギーに対応する状態量に基づいて作成されるとよい。
【0009】
この態様によれば、栽培装置に応じた第1モデルを得ることができる。
【0010】
上記の態様において、前記植物の質量は、前記植物の可食部の質量である可食部質量であり、前記可食部質量は、前記植物の全体の質量である全質量と前記可食部質量との関係を規定する第3モデルを用いて、前記植物の前記全質量から推定されるとよい。
【0011】
この態様によれば、将来の植物の可食部質量を推定することができる。
【0012】
上記の態様において、前記植物は前記定植板に所定のピッチで定植され、前記第1モデルは、前記ピッチに応じて修正されるとよい。
【0013】
この態様によれば、第1質量をより精度良く推定することができる。
【0014】
本発明の他の態様は、植物(C)の栽培装置(1)であって、ケース(2)と、前記ケース内に配置され、前記植物が定植される定植板(3)と、前記定植板に向けて光を照射する光源(4)と、前記定植板に向けて配置された照度計(5)と、前記光源及び前記照度計に接続された制御装置(6)とを有し、前記制御装置は、前記照度計が取得する光強度に基づいて、定植開始から第1時点までに前記植物が吸収した光エネルギーに対応する第1状態量を取得し、前記第1状態量と前記植物の質量との関係を規定する第1モデルを用いて、前記第1状態量から前記第1時点における前記植物の質量を第1質量として推定し、定植開始からの経過時間と前記植物の質量との関係を規定する第2モデルを用いて、定植開始からの前記第1時点までの経過時間から前記第1時点における前記植物の質量を第2質量として推定し、前記第2質量と前記第1質量との差が所定の第1閾値以下になるように、前記第2モデルのフィッティングパラメータを修正し、修正第2モデルを作成し、前記修正第2モデルを用いて、前記第1時点より後の第2時点における前記植物の質量を推定し、前記第2時点における前記植物の質量と目標質量との差に基づいて前記光源を制御する。
【0015】
この態様によれば、将来の植物の生育状態を推定し、推定した生育状態に基づいて光源を制御する栽培装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0016】
以上の態様によれば、将来の植物の生育状態を推定することができる生育状態推定方法及び栽培装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】栽培装置の模式図
図2】栽培装置の定植板を上方から見た模式図
図3】栽培装置の定植板を上方から見た模式図
図4】生育状態推定処理の手順を示すフロー図
図5】フリルレタスの全質量と可食部質量との関係を示すグラフ
図6】チンゲンサイ植物の全質量と可食部質量との関係を示すグラフ
図7】ワインドレスの全質量と可食部質量との関係を示すグラフ
図8】ミズナの全質量と可食部質量との関係を示すグラフ
図9】予備栽培で測定された植物の可食部質量の実測値と第1モデルに基づく近似曲線とを示すグラフ
図10】予備栽培で測定された植物の可食部質量の実測値と第2モデルに基づく近似曲線とを示すグラフ
図11】本栽培で測定された植物の可食部質量の実測値と第1モデルに基づく近似曲線(ピッチ:200mm)とを示すグラフ
図12】本栽培で測定された植物の可食部質量の実測値と第1モデルに基づく近似曲線(ピッチ:150mm)とを示すグラフ
図13】本栽培の各時点で推定した定植から20日後の可食部の推定質量と実測値とを示すグラフ(ピッチ:200mm)
図14】本栽培の各時点で推定した定植から20日後の可食部の推定質量と実測値とを示すグラフ(ピッチ:150mm)
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る植物の生育状態推定方法及び植物の栽培装置の実施形態について説明する。
【0019】
図1及び図2に示すように、栽培装置1は、ケース2と、ケース2内に配置され、植物Cが定植される定植板3と、定植板3に向けて光を照射する光源4と、定植板3に向けて配置された照度計5と、光源4及び照度計5に接続された制御装置6とを有する。
【0020】
ケース2は、底部を構成する養液プール11と、養液プール11の上方に離れて配置された天井パネル12と、養液プール11と天井パネル12との周囲に配置された複数の側壁パネル13とを有する。養液プール11の上部には、定植板3が載置されている。定植板3は、平板状に形成され、面が上下を向いている。養液プール11の上部に複数の梁が架け渡され、複数の梁に定植板3が支持されてもよい。複数の側壁パネル13は、養液プール11と天井パネル12との隙間を閉じるように配置されている。複数の側壁パネル13は、養液プール11及び天井パネル12に対して着脱可能に取り付けられている。天井パネル12、側壁パネル13、及び定植板3は、栽培室14を画定する。
【0021】
天井パネル12、側壁パネル13、及び定植板3の栽培室14側を向く面は反射率が高い材料によって形成されている。天井パネル12、側壁パネル13、及び定植板3の栽培室14側を向く面は、白色を呈するとよい。天井パネル12、側壁パネル13、及び定植板3は、白色の素材から形成されるとよい。また、天井パネル12、側壁パネル13、及び定植板3は、白色の塗料によって塗装されてもよい。また、天井パネル12、側壁パネル13、及び定植板3の表面に反射板が設けられてもよい。
【0022】
定植板3は、例えばポリスチレンフォームによって形成されているとよい。定植板3には、厚み方向に貫通する複数の孔16が形成されている。各孔16は、円形に形成されているとよい。複数の孔16は、所定のピッチPをおいて互いに離れて配置されている。ピッチPは、例えば50mm~300mmに設定されるとよい。図2に示すように、各孔16は、上方から見て正三角形の頂点に配置されるとよい。また、図3に示すように、各孔16は、上方から見て正方形の頂点に配置されてもよい。
【0023】
各孔16には、植物Cを保持するための保持材17が装着されてもよい。保持材17は、可撓性及び通水性を有する材料から形成されているとよい。保持材17は、例えばウレタンフォームやロックウール等によって形成されているとよい。保持材17は、植物Cが通過するための貫通孔を有する。植物Cは保持材17を介して孔16に保持されるとよい。
【0024】
光源4は、天井パネル12の下面に設けられている。光源4は、LEDであるとよい。LEDは、遠赤~青の波長領域を含むとよい。LEDは、赤色LED及び青色LEDを含むとよい。また、光源4は、LD(レーザダイオード)、CCFL(冷陰極蛍光管)、蛍光灯等の他の人工光源であってもよい。光源4は、下方、すなわち定植板3側に向けて光を照射する。
【0025】
照度計5は、栽培室14内の光強度(光量子束密度)[μmol/m2/s]を測定する光量子センサであるとよい。また、照度計5は、光量子センサとの相関関係が確認された、例えばルクス計等の一般的な照度計でもよい。照度計5は、天井パネル12の下面に設けられた複数の第1照度計5Aと、天井パネル12及び側壁パネル13の少なくとも一方に設けられた複数の第2照度計5Bとを有する。各第1照度計5Aは、鉛直下方を向くように配置されている。各第2照度計5Bは、鉛直下方に対して5~85度の角度を向くように配置されている。照度計5は、光源4から照射され、定植板3、側壁パネル13、天井パネル12、及び定植板3に定植された植物Cにおいて反射された反射光を測定する。
【0026】
養液プール11は、養液タンク21と循環路22を介して接続されている。養液タンク21には、養液が貯留されている。養液は、植物Cの成長に必要な栄養を含む溶液である。循環路22には、養液を輸送するポンプ23と、養液を調整するための養液調整装置24とが設けられている。養液調整装置24は、養液のEC(電気伝導率)値、pH値を調節する。
【0027】
栽培装置1は、更に、CO供給装置26と、空調装置27とを有する。CO供給装置26は、ケース2に接続され、栽培室14に二酸化炭素を供給する。空調装置27は、ケース2に接続され、栽培室14の温度、湿度、及び風量(風速)を調節する。また、栽培装置1は、栽培室14内を撮影するカメラ28を有してもよい。カメラ28は、例えば天井パネル12に設けられ、定植板3上の植物Cを撮影するとよい。
【0028】
制御装置6は、マイクロプロセッサ(MPU)、不揮発性メモリ、揮発性メモリ、及びインターフェースを有する演算装置である。制御装置6は、不揮発性メモリに記憶されたプログラムをマイクロプロセッサが実行することによって各種のアプリケーションを実現する。制御装置6は、光源4への電力供給を制御し、光源4の光強度を制御する。制御装置6は、照度計5からの信号に基づいて反射光の光強度を取得する。また、制御装置6は、ポンプ23、養液調整装置24、CO供給装置26、及び空調装置27を制御する。制御装置6は、インターネット等のネットワークを介して光源4、照度計5、ポンプ23、養液調整装置24、CO供給装置26、空調装置27、及びカメラ28に接続されてもよい。制御装置6は、カメラ28が撮影した画像を取得し、画像に基づいて各装置を制御してもよい。
【0029】
栽培装置1で栽培される植物Cは、葉を有し、かつ水耕栽培が可能な植物であればよく、例えば葉菜類等の作物であるとよい。葉菜類は、葉の部分を食用とする野菜である。植物Cは、一例として、レタス、ホウレンソウ、コマツナ、チンゲンサイ、ノザワナ、及びミズナを含む。植物Cは、フリルレタス、サニーレタス、ワインドレス、及びグリーンリーフ等のリーフレタスであるとよい。また、植物Cは、ハーブ等の香草類、薬草類、タバコ類、ワサビ類及び麻類であってもよい。更に葉と根の成長における相関を把握することで、オタネニンジン等の根菜系の生薬類への適用も可能である。
【0030】
植物Cは、播種工程、緑化工程、及び育苗工程によって苗に成長した状態で、定植板3の各孔16に定植される。茎及び葉が栽培室14内に位置し、根が定植板3の下方に位置するように、各植物Cは各孔16に保持される。各植物Cの根は、プール内の養液内に延びている。
【0031】
植物Cは、プール内の養液から養分を吸収し、光源4から照射される光を吸収して成長する。植物Cは、成長することによって、栽培室14内において葉が伸長し、質量が増加する。
【0032】
制御装置6は、光源4、ポンプ23、養液調整装置24、CO供給装置26、及び空調装置27を制御して、光強度と、栽培室14の温度、湿度、風速、風量、及びCO濃度と、養液のEC値及びpH値と、養液循環流量とを所定の栽培条件に維持する。植物Cは、定植から所定の期間後に収穫されるとよい。
【0033】
栽培装置1の各条件は、例えば以下の表のとおりである。
【表1】
【0034】
制御装置6は、植物Cの生育状態推定処理を実行することによって、植物Cの将来の任意の時点の質量を推定する。植物Cの生育状態推定処理は、植物Cの生育状態推定方法に基づいている。
【0035】
図4に示すように、植物Cの育成状態推定処理は、照度計5が取得する光強度に基づいて、定植開始から第1時点までに植物Cが吸収した光エネルギーに対応する第1状態量を取得する第1ステップ(S1)と、第1状態量と植物Cの質量との関係を規定する第1モデルを用いて、第1状態量から第1時点における植物Cの質量を第1質量として推定する第2ステップ(S2)と、定植開始からの経過時間と植物Cの質量との関係を規定する第2モデルを用いて、定植開始からの第1時点までの経過時間から第1時点における植物Cの質量を第2質量として推定する第3ステップ(S3)と、第2質量と第1質量との差が所定の第1閾値以下になるように、第2モデルのフィッティングパラメータを修正し、修正第2モデルを作成する第4ステップ(S4)と、修正第2モデルを用いて、第1時点より後の第2時点における植物Cの質量を推定する第5ステップ(S5)とを有する。
【0036】
第1ステップ(S1)では、制御装置6は、第1照度計5A及び第2照度計5Bによって取得される光強度に基づいて、定植開始(t=0)から第1時点t1までに植物Cが吸収した光エネルギーに対応する第1状態量Sh1, Sy1を取得する。第1状態量Sh1は第1照度計5Aに基づいて算出される第1状態量であり、第1状態量Sy1は第2照度計5Bに基づいて算出される第1状態量である。他の実施形態では、第1状態量はSh1及びSy1の一方のみが使用されてもよい。
【0037】
制御装置6は、定植後、第1照度計5A及び第2照度計5Bが計測した光強度を所定の時間間隔で受け取る。時間間隔は例えば1時間、12時間、24時間等であるとよい。定植後の任意の時点tにおける第1状態量Shtは、時点tにおいて第1照度計5Aによって取得された光強度Ph [μmol/m2/sec]を用いて、以下の式(1)のように表すことができる。
【数1】
ここで、Ph0 [μmol/m2/sec]は、植物Cが定植板3に定植されていないブランク状態において、第1照度計5Aによって取得された光強度である。
【0038】
同様に、第1状態量は、定植後の任意の時点tにおいて第2照度計5Bによって取得された光強度Py [μmol/m2/sec]を用いて、以下の式(2)のように表すことができる。
【数2】
ここで、Py0 [μmol/m2/sec]は、植物Cが定植板3に定植されていないブランク状態において、第2照度計5Bによって取得された光強度である。
【0039】
制御装置6は、数1及び数2の時間tに時点t1を代入することによって、定植開始から第1時点t1までに植物Cが吸収した光エネルギーに対応する第1状態量Sh1, Sy1を取得する。
【0040】
上記の数(1)及び数(2)は、以下の考え方に基づいて作成されている。植物Cは、栽培室14を画定する天井パネル12、側壁パネル13、及び定植板3よりも光反射率が低い。そのため、植物Cが定植板3に定植されると、照度計5が測定する光強度は低下する。また、植物Cが成長すると、植物Cが定植板3を覆う面積が増加するため、照度計5が測定する光強度が更に低下する。そのため、植物Cが定植板3に定植されていないブランク状態における光強度と植物Cが定植板3に定植された後のある時点での光強度との差は、植物Cが吸収した光エネルギー量に対応すると考えられる。この差を定植時から第1時点までの期間で積分した値は、植物Cが定植時から第1時点までの期間に吸収した光エネルギー量に対応する値であると考えられる。
【0041】
制御装置6は、第2ステップ(S2)において、第1状態量と植物Cの質量との関係を規定する第1モデルを用いて、第1状態量から第1時点における植物Cの質量を第1質量として推定する。第1モデルは、本実施形態では以下の数(3)で表される。第1モデルは、過去の栽培結果に基づく経験式である。
【数3】
ここで、wは時点tにおける1株当たりの植物Cの質量[g]、w0は定植時(t=0)における1株当たりの植物Cの質量[g]、W0は定植時(t=0)における1株当たりの植物Cの標準質量[g]、pitchは孔16間のピッチ[mm]、φ、μ、β、β1、β2は所定のパラメータである。パラメータφ、μ、β、β1、β2は、植物Cの種類及び品種、栽培装置1のジオメトリ、栽培条件によって変化する。Pitch0は、基準となるピッチであり、例えば200mmや150mmである。Pitch0は、数3の各パラメータを決定するための予備試験(予備栽培)におけるピッチであるとよい。
【0042】
数(3)の式は、時点tにおける1株当たりの植物Cの質量Wが、定植時の植物Cの1株当たりの質量と、ピッチPと、時点tまでに植物Cが吸収した光エネルギー量に対応した第1状態とに影響を受けることを表している。
【0043】
植物Cの質量Wは、植物Cの全体の質量である全質量WT又は植物Cの可食部の質量である可食部質量WEであってよい。可食部質量WEと全質量WTとは、次の数(4)(第3モデル)の関係を有する。
【数4】
ここで、αは植物Cの種類及び品種によって定まる係数である。植物Cの全質量WTは、根、茎、及び葉を含む植物全体の質量である。植物Cの可食部質量WEは食用の目的に使用する部分の質量である。
【0044】
数(3)及び数(4)の各係数φ、μ、α、β、β1、β2は、栽培装置1を使用して同じ種類の植物Cを栽培した予備栽培の結果に基づいて設定されるとよい。各係数は、過去の栽培結果を集約したデータベースから各制御装置6に提供されてもよい。
【0045】
制御装置6は、第2ステップ(S2)の処理を実行することによって、植物Cを直接に計量することなく、第1時点t1における植物Cの1株当たりの可食部の質量WEを取得することができる。数(4)の関係に基づいて制御装置6は、第1時点t1における植物Cの1株当たりの可食部の質量WEに代えて、第1時点t1における植物Cの1株当たりの全質量WTを取得してもよい。
【0046】
制御装置6は、第3ステップ(S3)において、定植開始からの経過時間と植物Cの質量との関係を規定する第2モデルを用いて、定植開始からの第1時点までの経過時間から第1時点における植物Cの質量を第2質量として推定する。第2モデルは、本実施形態では以下の数(5)~数(13)で表される。第2モデルは、過去の栽培結果に基づく経験式であり、ルンゲクッタ法を使用して作成されている。
【数5】
【数6】
【数7】
【数8】
【数9】
【数10】
【数11】
【数12】
【数13】
ここで、Wnはn番目(n日目)の植物Cの質量[g]、α1、α2はフィッティングパラメータ、g、n、αγ、Dxpitch0、は所定のパラメータである。第2モデルの各パラメータは、植物Cの種類及び品種、栽培装置1のジオメトリ、栽培条件によって変化する。各パラメータは予備栽培の結果に基づいて設定される。各パラメータは、予備栽培の結果を集約したデータベースから提供されてもよい。Dxは、平面飽和時間といい、植物Cの葉が定植板3の上面を覆い尽くし、照度計5の測定値が一定になるまでに要する時間を意味する。Dxpitch0は、各パラメータを決定するための予備試験(予備栽培)を基準ピッチ(例えば200mmや150mm)で行った場合に取得された平面飽和時間である。
【0047】
制御装置6は、第4ステップ(S4)において、第2質量と第1質量との差が所定の第1閾値以下になるように、第2モデルのフィッティングパラメータを修正し、修正第2モデルを作成する。修正第2モデルは、数(5)のフィッティングパラメータα1、α2を修正することによって作成される。修正第2モデルによって算出される第2質量と第1質量との差が最小になるように、フィッティングパラメータα1、α2が設定されるとよい。修正前の第2モデルにより算出された第2質量と第1質量との差が所定の第1閾値以下である場合、フィッティングパラメータα1、α2の変更は省略してもよい。
【0048】
制御装置6は、第5ステップ(S5)において、修正第2モデルを用いて、第1時点より後の第2時点における植物Cの質量を推定する。例えば、定植期間が20日である場合、制御装置6は1日毎に生育状態推定処理を実行し、実行した日より後の各日の植物Cの質量、又は20日目の植物Cの質量を推定するとよい。第5ステップで推定される質量は、植物Cの全質量WT又は可食部質量WEであるとよい。
【0049】
制御装置6は、定植期間の最終日、すなわち目標収穫日の植物Cの質量を推定し、目標収穫日の推定質量に基づいて光源4を制御するとよい。例えば、目標収穫日の植物Cの質量が目標質量以下である場合に、制御装置6は以後の光源4の光強度を増加させたり、照射時間を長くしたりするとよい。目標収穫日の植物Cの質量が目標質量より重い場合に、制御装置6は目標収穫日を早めてもよい。制御装置6は、将来の植物Cの質量の推定値や目標収穫日をディスプレイに表示してもよい。
【0050】
上記した実施形態によれば、将来の植物Cの生育状態を推定することができる生育状態推定方法を提供することができる。植物Cの質量は、吸収した光エネルギー量と相関があるため、第1モデルを用いて第1状態量から第1時点における植物Cの質量を第1質量として推定することができる。また、植物Cの質量は、定植からの経過時間と相関があるため、第2モデルを用いて第1時点における植物Cの質量を第2質量として推定することができる。第2質量と第1質量の差が第1閾値以下になるように第2モデルを修正することによって、第1時点の植物Cの生育状態を考慮した修正第2モデルを得ることができる。このように得られた修正第2モデルを使用することによって、将来の任意の時点における植物Cの質量を精度良く推定することができる。
【0051】
(実施例)
以下に、第1モデル、第2モデル、第3モデルの各係数及び各フィッティングパラメータの設定例について説明する。
【0052】
(予備栽培)
栽培装置1を使用して、フリルレタスの栽培を行った。フリルレタスの種(市販品:中原採種場株式会社製 型番L-121)を使用して、播種工程、緑化工程、及び育苗工程を行った。育苗工程が完了した後に、苗をそのまま使用して栽培装置1において定植工程を行った。播種工程は2日間、緑化工程は6日間、育苗工程は8日間、定植工程は20日間とした。栽培装置1の光源4はLEDとした。光源4は、1日の内18時間連続で照射し、残りの6時間を停止した。その他の条件は以下の表のようにした。
【表2】
【0053】
(植物の全質量と可食部質量との関係について)
孔16のピッチが200mmの定植板3を使用して、フリルレタスの定植工程における栽培をそれぞれ3度行った。また、図2に示す孔16のピッチが150mmの定植板3を使用して、フリルレタスの定植工程における栽培を1度行った。定植工程の間、1日毎にランダムに抽出したフリルレタスの全質量WT及び可食部質量WEを重量計によって測定した。その結果を図5に示す。図5から、フリルレタスでは、定植工程の間、全質量と可食部質量との間に1次の相関があることが確認された。また、ピッチが150mmである場合と、ピッチが200mmである場合とで、全質量と可食部質量との関係に変化は確認されなかった。定植工程の間、全質量に対する可食部質量の割合は約0.86であった。各栽培結果において、全質量と可食部質量との回帰分析における決定係数(R2)は、0.98以上であった。また、4回の栽培結果を統合した場合において、全質量と可食部質量との回帰分析における決定係数は、0.99以上であった。
【0054】
上記と同様の実験を、フリルレタスに代えて、チンゲンサイ、ワインドレス(レタス)、ミズナについて実施し、それぞれの全質量WT及び可食部質量WEを測定した。その結果を図6図8に示す。図6図8から、チンゲンサイ、ワインドレス、及びミズナでは、フリルレタスと同様に、定植工程の間、全質量と可食部質量との間に1次の相関があることが確認された。定植工程の間、全質量に対する可食部質量の割合は、チンゲンサイで約0.73、ワインドレスで約0.82、ミズナで約0.81であった。チンゲンサイ、ワインドレス、及びミズナの各栽培結果において、全質量と可食部質量との回帰分析における決定係数(R2)は、0.98以上であった。
【0055】
定植工程における全質量と可食部質量との間の1次の相関は、フリルレタス、チンゲンサイ、ワインドレス、及びミズナにおいて確認された。フリルレタス、チンゲンサイ、ワインドレス、及びミズナの結果から、葉の形状が異なる他の植物や、葉の色が異なる他の植物においても、定植工程における全質量と可食部質量との間に1次の相関があると考えられる。以上より、定植工程における全質量と可食部質量との間の1次の相関は、サニーレタス及びグリーンリーフ等のリーフレタスや、リーフレタス以外の葉菜類にも適用可能である。
【0056】
(第1モデルのパラメータの決定)
孔16のピッチが200mmの定植板3を使用して、フリルレタスの定植工程における予備栽培を行った。予備栽培では、1日毎に第1照度計5A及び第2照度計5Bが検出する光強度を取得した。また、重量計を使用して1日毎にランダムに抽出したフリルレタスの可食部質量WEを測定した。
【0057】
結果を、図9に示す。図9は、定植開始からの経過時間に対するフリルレタスの可食部質量WEを示す。図4の実測値を、第1モデル(数3)によって近似し、数3のφ、μ、β、β1、β2を決定した。このとき、ピッチPは200mmとし、定植時(t=0)における1株当たり植物の可食部の標準質量WE0は、定植時(t=0)における1株当たり植物の可食部の質量wE0とした(WE0=wE0)。このとき、数3中のφ、μ、β、β1、β2の値は、実データと数3による近似曲線との差異が最小になるように、最小二乗法により設定した。第1モデル(数3)に基づく近似曲線を図9に表示する。図4から、数3に基づく近似曲線は実データと概ね一致することが確認された。
【0058】
(第2モデルのパラメータの決定)
図9の実データを、第2モデル(数5~数13)によって近似し、各パラメータα1、α2、g、n、αγ、DxPitch0を決定した。このとき、ピッチPは200mmとし、定植時(t=0)における1株当たり植物の可食部の標準質量WE0は、定植時(t=0)における1株当たり植物の可食部の質量wE0とした(WE0=wE0)。また、γ=1とした。第2モデルに基づく近似曲線を図10に表示する。図10から、第2モデルに基づく近似曲線は実データと概ね一致することが確認された。
【0059】
(本栽培)
以下に、栽培装置1を使用してフリルレタスの本栽培を行い、第1モデル、第2モデル、修正第2モデルの有効性について確認した。本栽培では、ピッチを200mm又は150mmとし、他の条件は上記の予備栽培と同様にした。また、鉛直下方に対する第2照度計5Bの角度は5度に設定した。
【0060】
(第1モデルの検証)
定植開始から1日毎に複数の株をランダムに抽出して重量計により可食部質量wEを取得した。また、1日毎に第1照度計5A及び第2照度計5Bを使用して反射光の光強度を取得した。結果を図11及び図12に示す。図11は、ピッチが200mmの場合の可食部質量の推定曲線と、可食部質量の実測値である。図12は、ピッチが150mmの場合の可食部質量の推定曲線と、可食部質量の実測値である。図11及び図12の結果から、第1モデルから得られる可食部質量の推定値は、実測値と高い一致値を示すことが確認された。また、ピッチが変化しても、精度良く可食部質量の推定値を得ることができることが確認された。
【0061】
(修正第2モデルの検証)
本栽培で得られた結果に基づいて生育状態推定処理を行い、1日毎に修正第2モデルを作成して定植開始から20日後におけるフリルレタスの可食部質量WEを取得した。図13はピッチが200mmの場合の推定値であり、図14はピッチが150mmの場合の推定値である。図13及び図14から、修正第2モデルに基づく推定値が実測値と概ね一致することが確認される。
【0062】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。例えば、任意の時点で生育状態推定処理により取得した定植開始から所定の時間経過後の予想質量Wと、前回に取得した予想質量Wn-1との差ΔWを算出し、算出した差ΔWが所定の判定値以上である場合に今回の予想質量にWを採用し、算出した差ΔWが所定の判定値未満である場合に今回の予想質量にWn-1を採用してもよい。
【符号の説明】
【0063】
1 :栽培装置
2 :ケース
3 :定植板
4 :光源
5 :照度計
5A :第1照度計
5B :第2照度計
6 :制御装置
11 :養液プール
12 :天井パネル
13 :側壁パネル
14 :栽培室
16 :孔
17 :保持材
21 :養液タンク
22 :循環路
23 :ポンプ
24 :養液調整装置
26 :CO2供給装置
27 :空調装置
図1
図2
図3
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