IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人 国立印刷局の特許一覧

<>
  • 特開-繊維パターンの転写方法 図1
  • 特開-繊維パターンの転写方法 図2
  • 特開-繊維パターンの転写方法 図3
  • 特開-繊維パターンの転写方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023130744
(43)【公開日】2023-09-21
(54)【発明の名称】繊維パターンの転写方法
(51)【国際特許分類】
   B41M 3/14 20060101AFI20230913BHJP
   B23K 26/352 20140101ALI20230913BHJP
   B42D 25/21 20140101ALI20230913BHJP
【FI】
B41M3/14
B23K26/352
B42D25/21
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022035209
(22)【出願日】2022-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】303017679
【氏名又は名称】独立行政法人 国立印刷局
(72)【発明者】
【氏名】木村 健一
【テーマコード(参考)】
2C005
2H113
4E168
【Fターム(参考)】
2C005HA04
2C005HB01
2C005HB02
2C005HB09
2C005HB10
2C005LA20
2H113BA22
2H113BB07
2H113BB10
2H113BB22
2H113CA39
2H113CA42
4E168AB01
4E168DA02
4E168DA03
4E168DA04
4E168DA24
4E168DA28
4E168JA02
4E168JA03
4E168JA04
4E168JA17
(57)【要約】
【課題】
本発明は、繊維パターンを利用することにより複製や偽造が困難な偽造防止媒体の作製方法を提供する。
【解決手段】
本発明は、所定の波長域のレーザ光により凹凸加工又は材質の変質加工される基板を選定する基板選定工程と、所定の波長域のレーザ光を透過する繊維シートを選定する繊維シート選定工程と、選定した基板上に選定した繊維シートを載置し、繊維シートに所定の波長域のレーザ光を照射し、繊維シートの固有の繊維パターンを転写する転写工程を有することを特徴とする繊維パターンの転写方法である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の波長域のレーザ光により凹凸加工又は材質の変質加工される基板を選定する基板選定工程と、
前記所定の波長域のレーザ光を透過する繊維シートを選定する繊維シート選定工程と、
選定した前記基板上に選定した前記繊維シートを載置し、前記繊維シートに前記所定の波長域のレーザ光を照射し、前記繊維シートの固有の繊維パターンを前記基材に転写する転写工程を有することを特徴とする繊維パターンの転写方法。
【請求項2】
前記繊維シートは、坪量が14.0g/m以下の紙であることを特徴とする請求項1記載の繊維パターンの転写方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、簡易に繊維配列や繊維の分布状態(以下「繊維パターン」という。)をプラスチック板又は金属板に転写する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
偽造防止効果を必要とする銀行券、パスポ-ト、有価証券、身分証明書、カ-ド、通行券等のセキュリティ印刷物(以下「セキュリティ印刷物」という。)は、それぞれ偽造、変造又は改ざん等を防止する様々な対策(以下「偽造防止対策」という。)が施されている。
【0003】
前述の偽造防止対策としては、プラスチック板又は金属板等のべ一スとなる基材(以下「基材」という。)に対し、何らかの固有の繊維パターンを形成し、形成した繊維パターンと、あらかじめ登録された真正な繊維パターンを照合して真否を確認する方法が多く提案されている。
【0004】
前述の繊維パターンを使用した偽造防止対策としては、基材上の少なくとも一部に、狭帯域の光吸収ピークを有する光吸収物質からなる識別材料に、繊維パターンから成る固有情報部を形成することによって、固有情報部における吸収ピーク波長を真正品の吸収ピーク波長と比較して真偽判別を行う方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、支持体内に赤外域に吸収を有する繊維状又は扁平状細片が、繊維パターンとなるように内添された情報識別シートであり、該情報識別シートに500~1500nmの波長からなる赤外線を照射することにより、支持体内の該細片の繊維パターンを可視情報化して読み取り又は記録するものであり、該繊維パターンの情報を繰り返して同定できることを特徴とする情報識別シートが開示されている。(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000-306058号公報
【特許文献2】特開平10-269333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2の技術は、特殊なインキと繊維を使用することから秘匿性に優れているが、繊維が特殊であることから高価であるとともに、繊維パターンを形成するために特殊な装置が必要とされていた。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するものであり、特殊な材料及び特殊な装置を使用することなく、簡易な方法で繊維パターンを転写する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、所定の波長域のレーザ光により凹凸加工又は材質の変質加工される基板を選定する基板選定工程(S1)と、所定の波長域のレーザ光を透過する繊維シートを選定する繊維シート選定工程(S2)と、選定した基板に選定した繊維シートを載置し、繊維シートに所定の波長域のレーザ光を照射し、繊維シートの固有の繊維パターンを転写する転写工程(S3)を有することを特徴とする繊維パターンの転写方法である。
【0010】
本発明は、繊維シートが、坪量が14.0g/m以下の紙であることを特徴とする繊維パターンの転写方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の繊維パターンの転写方法は、特殊な材料及び特殊な装置を使用することなく、簡易に繊維パターンをプラスチック板又は金属板に形成することができる。
【0012】
また、本発明の繊維パターンにより作成されたエンボス版を用いることによって、複雑な繊維パターンを効率的に作成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の繊維パターンの転写方法を示す一例図
図2】基板選定工程(S1)と繊維シート選定工程(S2)の実施例を示す一例図
図3】転写工程(S1)の実施例を示す一例図
図4】繊維パターン転写後を示す一例図
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他の様々な実施の形態が含まれる。
【0015】
(繊維パターンの転写方法)
図1により説明する本発明の繊維パターンの転写方法は、所定の波長域のレーザ光により凹凸加工又は材質の変質加工される基板を選定する基板選定工程(S1)と、所定の波長域のレーザ光を透過する繊維シートを選定する繊維シート選定工程(S2)と、選定した基板に選定した繊維シートを載置し、繊維シートに所定の波長域のレーザ光を照射し、繊維シートの固有の繊維パターンを転写する転写工程(S3)を有することを特徴とする繊維パターンの転写方法である。
【0016】
(基板選定工程(S1))
基板選定工程(S1)は、所定の波長域のレーザ光により凹凸加工又は材質の変質加工される金属又は樹脂から成る基板を選定する工程である。
【0017】
(所定の波長域のレーザ光)
本発明において、所定の波長域のレーザ光は、380nm~750nmの可視波長域の可視光レーザ又は760nm~1100nmの波長域を有する近赤外線レーザ(以下「IRレーザ」という。)である。波長域が紫外線領域、中赤外線領域又は遠赤外線領域のレーザ光は、後述する繊維シートが熱により破壊されるため使用することができない。可視光レーザとしては、基板を凹凸加工又は材質の変質加工する限りにおいて、アルゴンレーザ、半導体レーザ等の公知の可視レーザを使用することができる。また、IRレーザは、基板を凹凸加工又は材質の変質加工する限りにおいて、ファイバーレーザ、YAGレーザ、近赤外レーザ、半導体レーザ等を公知のIRレーザを使用することができる。
【0018】
(基板)
基板は、所定の波長域のレーザ光で凹凸加工又は材質の変質加工できる材質であれば特に限定されず、公知の材料を使用することができる。例えば、金属であれば、アルミ、銅、ステンレス鋼等の公知の金属材料、樹脂であれば、ポリカーボネート(PC)又はポリエチレンテレフタレートグリコール(PETG)、ポリビニル塩化物(PVC)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合樹脂(ABS樹脂)等の公知の熱可塑性樹脂シートが挙げられる。また、所定の波長域のレーザ光の効率をよくするため、可視光線吸収材料又は赤外線吸収材料を含有する熱可塑性樹脂シート又は可視光線吸収材料又は赤外線吸収材料を含有するインキを塗布した基板を使用してもよい。
【0019】
(可視光吸収材料)
次に、可視光吸収材料について説明する。可視光吸収材料としては、380nm~750nmの可視光領域に吸収波長域を有する材料を用いることができ、例えば、シアニン系色素、ポリメチン系色素、スクアリリウム系色素、ポルフィリン系色素、フタロシアニン系色素、サブフタロシアニン系色素、ローダミン系色素、オキソノール系色素、キノン系色素、アゾ系色素、キサンテン系色素等が用いられている。中でもシアニン系色素、ポルフィリン系色素等の公知の材料を使用することができる。例えば、当該材料を粉末又は顔料をワニス等に分散させたインキを使用して、スクリーン印刷、グラビア印刷及び凹版印刷等により金属又は熱可塑性樹脂シート等にインキ被膜を形成した基板を使用することができる。
【0020】
また、可視光吸収材料を含有するポリカーボネート(PC)又はポリエチレンテレフタレートグリコール(PETG)、ポリビニル塩化物(PVC)、アクリロニトリル-ブタジェン-スチレン共重合樹脂(ABS樹脂)等の公知の熱可塑性樹脂シートを使用することができる。
【0021】
(赤外線吸収材料)
次に、赤外線吸収材料について説明する。赤外線吸収材料としては、700nm~1100nmの近赤外線領域に吸収波長域を有する材料を用いることができ、例えば、カーボン、五酸化二燐(P )を主成分とし、酸化鉄、酸化銅のいずれか又は双方を含んだガラス系粉等の公知の材料を使用し、当該赤外線吸収材料の粉末又は顔料をワニス等に分散させたインキをスクリーン印刷、グラビア印刷又は凹版印刷等により金属又は赤外線吸収特性を有さない熱可塑性樹脂シート等に付与して形成したものが挙げられる。
【0022】
また、赤外線吸収材料を含有するポリカーボネート(PC)又はポリエチレンテレフタレートグリコール(PETG)、ポリビニル塩化物(PVC)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合樹脂(ABS樹脂)等の公知の熱可塑性樹脂シートを使用することができる。
【0023】
(繊維シート選定工程(S2))
繊維シート選定工程(S2)は、基板選定工程(S1)により選定された基板の所定の波長域のレーザ光と同一の所定の波長域のレーザ光を透過する繊維シートを選定する工程(S2)である。同一波長域のレーザ光を透過する繊維シートを選定する理由は、所定の波長域のレーザ光が繊維を透過する際に集光し、選定された基板に繊維パターンを転写するためである。
【0024】
(繊維シート)
繊維シートは、所定の波長域のレーザ光を透過すればよく、トウモロコシ、アバカ、コムギ、オオムギ、イネ、アサ、ソルガム、サトウキビ、パイナップル、ケナフ、サイザル、ジュート、バナナ、茶の葉等の植物の葉自体、あるいは植物繊維、木材繊維又は樹脂繊維で形成された紙、不織布等の繊維パターンを有する公知の繊維シートを使用することができる。なお、紙、不織布等においては、所定の波長域のレーザ光を吸収又は反射する材質である白土、カオリン又は酸化チタン等が塗布されているか、又は添加剤が使用されていないことが好ましく、コート紙等の加工紙は適さない。また、繊維シートの坪量は、14.0g/m以下であることが好ましく、これを超えた場合は、所定の波長域におけるレーザ光を透過させる妨げとなり、繊維パターンの転写が困難となる。
【0025】
(転写工程(S3))
転写工程(S3)は、選定した基板に対し、選定した繊維シートを載置し、繊維シートに所定の波長域のレーザ光を照射し、繊維シート固有の繊維パターンをレーザ痕として転写する工程である。なお、レーザ痕とは、レーザ光による基板の材質の変質(炭化、変色化)又は微小なくぼみからなる凹凸をいう。
【0026】
(載置)
基板に繊維シートを載置する際、基板と繊維シート間には、空隙がないことが好ましい。空隙がある場合は、繊維シートの繊維パターンを正確に基板に転写することが困難となる。したがって、所定の波長域のレーザ光が吸収又は反射等による影響を受けない範囲で、基板と繊維シートを接着剤、粘着剤等を使用して密着させるとよい。
【0027】
(照射)
レーザ光の照射は、前述の所定の波長域のレーザ光を、基板に載置した繊維シートの全面又は一部に照射する。レーザ光の平均出力P(単位:W)は、繊維シートに影響を与えなければ特に限定されないが、例えば、0.5~30W、好ましくは1~20Wである。また、レーザ光がパルスレーザである場合、その繰り返し周波数は、特に限定されないが、1~400kHz、より好ましくは50~100kHzである。
【0028】
レーザ光の照射速度は、繊維シートと基板の種類、生産性及び基板に転写する繊維パターンの凹部の深さ(レーザ痕)等により、適宜調整すればよい。例えば、レーザ光のスポットの移動速度が0.5~10m/s、好ましくは1~6m/sである。この数値範囲内とすることで、工業的な生産性(描画スピード)が図られるので好ましい。
【0029】
繊維シートを形成する繊維は、レーザ光を透過する性質があることから、繊維シートにレーザ光を照射することによって、繊維シートを形成する繊維を透過する際にレーザ光は集光し、繊維シートの形状・分布状態である繊維パターンがレーザ痕として基板の表面に転写される。
【0030】
繊維シートは、紙であれば原料となる植物繊維(セルロース)がその位置関係を制御されることなく不定形に絡み合い、これによってランダムな網目構造をなす平面が厚さ方向に幾層にも積み重なって「紙」として形成される。このとき、植物繊維の作り出すランダムに絡み合った構造は、全く同一のものを故意に作り出すことは不可能である。よって、このパターンは、各々の紙固有の個別情報(人間でいえば指紋等の情報(紙紋ともいう))と成り得ることから、偽造防止対策を向上させることができる。
【0031】
例えば、金属板を凹凸加工して繊維パターンを凹部としたエンボス版を形成し、当該エンボス版を使用してプラスチック基材に繊維パターンを形成してもよい。プラスチック基材の表面に対し、繊維パターンである紙の外観や質感を再現することで、同一の繊維パターンを安価に複数作成することが可能であり、作製に用いるエンボス版は、実際の紙繊維の形状・分布状態を転写したものであり、同一の模様を偽造することは困難である。また、カード類を形成するプラスチック基材に対し、本発明により繊維パターンを転写して、個人情報と組み合わせて偽造防止媒体として形成してもよい。
【0032】
なお、転写後の繊維パターンの真正か否かの判定は、真正品の繊維パターンの画像、繊維の絡み合いによる濃度のデータ、繊維の絡み合いによる特徴点の位置データ等を用いることができ、真正品の特徴量をあらかじめ記録しておくことで、画像データとのマッチング又は特徴量とを比較して基準値内であることにより判定する等、公知の判定技術を使用することができる。
【実施例0033】
本発明の実施例について、図面を用いて説明をする。なお、本発明は、これらの実施例の範囲に限定されるものではない。
【0034】
図2(a)に示すように、基板選定工程(S1)において、基板は、表面が平滑に研磨されたステンレス板(1)を選定し、繊維パターンを転写したエンボス版(A1)として作製することとした。また、図2(b)に示すように、繊維シート選定工程(S2)においては、繊維シートは、坪量7.3g/mの紙(2)(灰煮典具帳紙)を選定した。なお、紙(2)の繊維パターン(3)は、点線の一部拡大図に示すような、繊維形状・分布状態であった。
【0035】
図3(a)に示すように、転写工程(S3)において、ステンレス板(1)の表面に紙(2)を水道水で希釈した水性系接着剤で貼り付け、自然乾燥させて載置した。次に、図3(b)に示すように、キーエンス製YVO4レーザマーカにより波長域が近赤外(波長1064nm)のレーザ光(4)を使用し、紙(2)を貼りつけたステンレス板(1)に対し、紙(2)側からレーザ光(4)を紙(2)の一部に照射(5)した。レーザ光(4)の加工条件は、レーザ出力50%、スキャンスピード600mm/s、Qスイッチ周波数60kHz、スキャンピッチ0.042mm、10回照射とした。
【0036】
次に、図4に示すように、レーザ光(4)の照射後にステンレス板(1)の表面から紙(2)を剥がし、レーザ光を照射した部分(5)のステンレス板(1)の加工状態を確認した。レーザ光を照射した部分(5)のステンレス板(1)の表面は、点線の一部拡大図に示すように、紙(2)の繊維形状・分布状態である繊維パターン(3)が転写されていた。なお、レーザ光(4)が照射されたステンレス板(1)の繊維パターン(3)は、繊維のある部分は凹断面の線状の加工痕となっていることから、エンボス版(A1)として加工できたことを確認した。
【0037】
次に、作製したエンボス版(A1)を使用し、同一の繊維パターン(3)が樹脂版に転写可能か否か確認した。樹脂版は、ポリカーボネートシートを使用し、ポリカーボネートシートの表面にエンボス版(A1)を熱圧着した(185℃、2.5MPa、30秒)。熱圧着後、エンボス版(A1)の繊維パターン(3)の画像データとポリカーボネートシート表面に転写された繊維パターン(3)の画像データをパターンマッチングにより比較したところ、同一であることから、ポリカーボネートシート表面の繊維パターン(3)が転写できていることを確認した。
【符号の説明】
【0038】
A1 エンボス版
1 ステンレス板
2 紙
3 繊維パターン
4 レーザ光
5 レーザ光を照射した部分
図1
図2
図3
図4