(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023130746
(43)【公開日】2023-09-21
(54)【発明の名称】潜像印刷物
(51)【国際特許分類】
B41M 3/14 20060101AFI20230913BHJP
【FI】
B41M3/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022035211
(22)【出願日】2022-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】303017679
【氏名又は名称】独立行政法人 国立印刷局
(72)【発明者】
【氏名】木内 進
(72)【発明者】
【氏名】山本 英男
(72)【発明者】
【氏名】米山 健一郎
【テーマコード(参考)】
2H113
【Fターム(参考)】
2H113AA06
2H113BA03
2H113BA27
2H113BB02
2H113BB22
2H113CA34
2H113CA37
2H113CA39
2H113CA44
(57)【要約】
【課題】潜像部が枠状部分を有する場合であっても、潜像部の隠蔽性を向上させることが可能な潜像印刷物を提供する。
【解決手段】潜像印刷物は、基材に、第1の方向Xに延びて盛り上がりのある複数の第1画線11と、第1の方向Xとは異なる第2の方向Yに延びて盛り上がりのある複数の第2画線21とが配置され、基材上に形成される潜像模様を観察可能である。複数の第2画線21は、複数の第1画線11により形成される模様を囲む外側の第2の万線20Aと、複数の第1画線11により形成される模様に囲まれた内側の第2の万線20Bとを形成する。そして、外側の第2の万線20Aの第1の方向Xの位置と、内側の第2の万線20Bの第1の方向Xの位置を、それぞれ個別に設定している。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上の少なくとも一部に、盛り上がりを有する複数の第1画線が第1の方向に沿って一定のピッチ及び一定の画線幅で形成された潜像部と、盛り上がりを有する複数の第2の画線が前記第1の方向と異なる第2の方向に沿って前記第1画線と同ピッチ及び同幅で形成された背景部を有する潜像印刷物であって、
前記背景部は、前記潜像部を形成する前記第1画線に囲まれた潜像内背景部と前記潜像部の外側に形成された潜像外背景部に区分けされ、
前記潜像内背景部における前記第2画線は、前記潜像外背景部における前記第2画線の延長線に一致しない位置に形成された潜像印刷物。
【請求項2】
前記潜像内背景部に形成された前記第2画線は、前記潜像部の内側輪郭内の中心から左右対称に形成された請求項1に記載の潜像印刷物。
【請求項3】
前記第1画線及び前記第2画線のいずれか一方又は双方に一部画線幅を異ならせたカモフラージュ模様が形成された請求項1又は2記載の潜像印刷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偽造及び複製の防止用として潜像画像を施した潜像印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、銀行券、旅券、商品券及び各種証明書等の偽造防止印刷物は、偽造防止技術を付与することが求められている。偽造防止技術の一つとしては、例えば、潜像凹版印刷物が挙げられる(特許文献1参照)。潜像凹版印刷物は、盛り上がりを有し、一定の画線幅及びピッチで形成された万線パターンを異なる2方向に配置することで潜像模様を形成している。潜像模様は、潜像凹版印刷物を真上方向から観察した場合には一定濃度の画像として視認されるが、特定の方向から観察することで、第1方向の万線と第2方向の万線との間に濃度差が生じて潜像画像が視認される。
【0003】
図10は、従来の潜像凹版印刷物100を示す平面図である。
図10に示すように、潜像印刷物100は、潜像部を形成する第1の万線110と、背景部を形成する第2の万線120とを有する。第1の万線110が設けられる領域(潜像部)は、数字の「0(ゼロ)」に形成されている。
【0004】
第2の万線120が設けられる領域(背景部)は、潜像部を囲む領域と、潜像部に囲まれた領域に分かれている。以下、潜像部を囲む領域に設けられた第2の万線120を、外側の第2の万線120Aとする。また、潜像部に囲まれた領域に設けられた第2の万線120を、内側の第2の万線120Bとする。
【0005】
図11は、
図10に示す第2の万線120の一部を拡大した図である。
図11に示すように、外側の第2の万線120Aは、潜像部の外側の輪郭と略平行に重ならないように配置されている。これにより、外側の第2の万線120Aを形成する画線は、潜像部の外側の輪郭と平行に重なることで幅が小さく(細く)なることはない。一方、内側の第2の万線120Bは、外側の第2の万線120Aの延長線に一致している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図12は、
図10に示す内側の第2の万線120Bの一部を拡大した図である。
図12に示すように、内側の第2の万線120Bは、外側の第2の万線120Aの延長線に一致している。そして、内側の第2の万線120Bを形成する1つの画線は、潜像部の内側の輪郭と略平行に重なっているため、幅が小さく(細く)なっている。したがって、潜像部を真上方向から観察した場合であっても、幅が小さくなっている画線が目立ってしまう。その結果、潜像部により表される画像が視認されやすくなり、潜像部の隠蔽性を低下させていた。
【0008】
また、内側の第2の万線120Bを形成する1つの画線が、潜像部の内側の輪郭に接近しており、これと反対側の画線が潜像部の内側の輪郭から離れている場合も考えられる。この場合は、画線が潜像部の内側の輪郭から離れている方の非画線部が、画線が潜像部の内側の輪郭に接近している方の非画線部よりも広くなる。したがって、画線が潜像部の内側の輪郭から離れている方の非画線部が目立ってしまう。その結果、潜像部により表される画像が視認されやすくなり、潜像部の隠蔽性を低下させる。
【0009】
本発明の目的は、上記の問題点を考慮し、潜像部が背景部を囲む枠状部分を有する場合であっても、潜像部の隠蔽性を向上させることが可能な潜像印刷物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決し、本発明の目的を達成するため、本発明の潜像印刷物は、基材に、第1の方向に延びて盛り上がりのある複数の第1画線と、第1の方向とは異なる第2の方向に延びて盛り上がりのある複数の第2画線とが配置され、基材上に形成される潜像模様を観察可能としている。複数の第2画線は、複数の第1画線により形成される模様を囲む外側の万線と、複数の第1画線により形成される模様に囲まれた内側の万線とを形成する。そして、外側の万線の第1の方向の位置と、内側の万線の第1の方向の位置を、それぞれ個別に設定している。
【発明の効果】
【0011】
上記構成の偽造防止印刷物によれば、潜像部が背景部を囲む枠状部分を有する場合であっても、潜像部の隠蔽性を向上させることができる。
なお、上述した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1実施形態に係る潜像印刷物を示す平面図である。
【
図2】第1実施形態に係る潜像印刷物における潜像部及び背景部の画線の幅及びピッチの例を示す図である。
【
図3】第1実施形態に係る潜像印刷物における潜像部を拡大した要部拡大図である。
【
図4】第1実施形態に係る潜像印刷物における背景部を拡大した要部拡大図である。
【
図5】第1実施形態に係る潜像印刷物における潜像部の内側に設けられた背景部を拡大した要部拡大図である。
【
図6】第1実施形態に係る潜像印刷物にカモフラージュ模様を形成した変形例を示す図である。
【
図7】本発明の第2実施形態に係る潜像印刷物を示す平面図である。
【
図8】本発明の第2実施形態に係る潜像印刷物における第1潜像部を拡大した要部拡大図である。
【
図9】本発明の第2実施形態に係る潜像印刷物における第2潜像部を拡大した要部拡大図である。
【
図11】
図10に示す潜像印刷物における第2の万線の一部を拡大した要部拡大図である。
【
図12】
図10に示す潜像印刷物における内側の第2の万線の一部を拡大した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔第1実施形態〕
以下、本発明の第1実施形態に係る潜像印刷物について、
図1~
図6を参照して説明する。なお、各図において共通の部材には、同一の符号を付している。
【0014】
[潜像印刷物の構成]
まず、第1実施形態に係る潜像印刷物の構成について、
図1及び
図2を参照して説明する。
図1は、第1実施形態に係る潜像印刷物を示す平面図である。
図2は、第1実施形態に係る潜像印刷物における潜像部及び背景部の画線の幅及びピッチの例を示す図である。
【0015】
図1に示す潜像印刷物1は、紙等の基材に凹版印刷を施すことで形成されている。潜像印刷物1は、潜像部を形成する第1の万線10と、背景部を形成する第2の万線20とを有する。
【0016】
第1の万線10が設けられる領域(潜像部)には、数字の「0(ゼロ)」が形成されている。第1の万線10は、第1の方向Xに延びる複数の第1画線11から構成されている。第2の万線20が設けられる領域(背景部)は、潜像部を囲む領域と、潜像部に囲まれた領域に分かれている。
【0017】
以下、潜像部を囲む領域に設けられた第2の万線20を、外側の第2の万線20Aとする。また、潜像部に囲まれた領域に設けられた第2の万線20を、内側の第2の万線20Bとする。外側の第2の万線20A及び内側の第2の万線20Bは、第1の方向Xとは異なる第2の方向Yに延びる複数の第2画線21から構成されている。
【0018】
本実施形態において、第1の方向Xは、
図1に示すように横長の潜像印刷物1を真上から見た場合の横方向であり、第2の方向Yは、潜像印刷物1を真上から見た場合の縦方向から少し傾斜した斜め方向である。なお、本発明に係る第1の方向及び第2の方向は、横方向及び斜め方向に限定されない。
【0019】
複数の第1画線11及び複数の第2画線21は、それぞれ基材の表面から盛り上がるように形成されている。
図2に示すように、複数の第1画線11の幅(第1幅)は、同一に設定されている。また、複数の第2画線21の幅(第2幅)は、同一に設定されている。そして、第1幅は、第2幅と同一に設定されている。
【0020】
隣り合う第1画線11の間隔(第1ピッチ)は、同一に設定されている。また、隣り合う第2画線21の間隔(第2ピッチ)は、同一に設定されている。そして、第1ピッチは、第2ピッチと同一に設定されている。第1ピッチ及び第2ピッチは、第1幅及び第2幅の2倍以上に設定されている。したがって、隣り合う第1画線11間の距離及び隣り合う第2画線21間の距離は、第1幅及び第2幅以上になる。
【0021】
以下、第1の万線10が設けられる領域において、複数の第1画線11ではない部分を「第1非画線部」とする。また、第2の万線20が設けられる領域において、複数の第2画線21ではない部分を「第2非画線部」とする。
【0022】
図1に示すように、潜像印刷物1を真上から観察すると、第1の万線10と第2の万線20が同じの濃度として観察者に視認される。これにより、観察者は、潜像印刷物1の第1の万線10を潜像模様「0(ゼロ)」として視認できない、或いは視認が難しい。
【0023】
第1の方向Xが左右方向に一致するようして、観察者が潜像印刷物1を傾けて(斜め下方向)観察すると、複数の第1画線11が延びる第1方向Xは、観察者の目線と略垂直に交わる。そのため、盛り上がった複数の第1画線11が、第1非画線部の一部を隠蔽する。これにより、第1の万線10は、見かけ上の濃度が高い状態として観察者に視認される。
【0024】
一方、複数の第2画線21が延びる第2の方向Yは、観察者の目線と略平行になる。そのため、第2非画線部は、複数の第2画線21によって隠蔽されない。これにより、第2の万線20は、見かけ上の濃度が変化せずに観察者に視認される。その結果、第1の万線10と第2の万線20との間で見かけ上の濃度差が生じて、観察者は、潜像印刷物1の第1の万線10を潜像模様「0(ゼロ)」として視認することができる。
【0025】
[第2の万線]
次に、潜像印刷物1の第2の万線について、
図3~
図5を参照して説明する。
図3は、潜像印刷物1における潜像部を拡大した要部拡大図である。
図4は、潜像印刷物1における背景部を拡大した要部拡大図である。
図5は、潜像印刷物1における潜像部の内側に設けられた背景部を拡大した要部拡大図である。
【0026】
図3に示すように、外側の第2の万線20Aは、第1の万線10が設けられる領域(潜像部)の外側の輪郭と略平行に重ならないように配置されている。すなわち、外側の第2の万線20Aの第1の方向Xの位置は、潜像部の外側の輪郭と略平行に重ならないように設定される。したがって、外側の第2の万線20Aを形成する複数の第2画線21は、潜像部の外側の輪郭に重なることで幅が小さく(細く)なることはない。
【0027】
また、外側の第2の万線20Aを形成する各第2画線21の側部は、第1の万線10を形成する複数の第1画線11のうちの隣り合う第1画線11の両方に接触しないように配置されている。これにより、外側の第2の万線20Aを形成する各第2画線21が、潜像部の外側の輪郭に重ならないようにすることができる。
【0028】
図4に示すように、内側の第2の万線20Bを形成する複数の第2画線21は、外側の第2の万線20Aを形成する複数の第2画線21の延長線に一致していない。そして、内側の第2の万線20Bは、第1の万線10が設けられる領域(潜像部)の内側の輪郭と略平行に重ならないように配置されている。すなわち、内側の第2の万線20Bの第1の方向Xの位置は、潜像部の内側の輪郭と略平行に重ならないように設定される。
【0029】
したがって、
図5に示すように、内側の第2の万線20Bを形成する複数の第2画線21は、潜像部の内側の輪郭に重なることで幅が小さく(細く)なることはない。これにより、内側の第2の万線20Bを形成する複数の第2画線21において、第1の方向Xの両端に配置された第2画線21は、その他の第2画線21と同じ幅であり、部分的に濃度差が生じることはない。その結果、潜像部の隠蔽性を向上させることができる。なお、濃度差を生じさせない位置に内側の第2の万線20Bを配置する際に、潜像部の内側の中心点50を境にX方向に対して左右対称に配置することで、潜像部内側の濃度差を生じさせないように設計することができる。
【0030】
また、内側の第2の万線20Bにおける第1の方向Xの一端に配置された第2画線21と潜像部の内側の輪郭との間の最短距離は、第1の方向Xの他端に配置された第2画線21と潜像部の内側の輪郭との間の最短距離と略等しい。これにより、潜像部の内側の輪郭における第1の方向Xの一端と他端の濃度に差が生じないようにすることができ、潜像部の隠蔽性を向上させることができる。
【0031】
また、内側の第2の万線20Bを形成する各第2画線21の側部は、隣り合う第1画線11の両方に接触しないように配置されている。これにより、内側の第2の万線20Bを形成する各第2画線21が、潜像部の内側の輪郭に重ならないようにすることができる。
【0032】
このように、環状部分を有する潜像部(「0」)は、第2の万線20に囲まれており、かつ、第2の万線20を囲む形状である。したがって、外側の第2の万線20Aに影響を及ぼさずに内側の第2の万線20Bの位置を調整することができる。これにより、内側の第2の万線20Bの位置は、潜像部(「0」)の内側の輪郭を考慮して決定することができる。
【0033】
〔第1実施形態の変形例〕
図6は、第1実施形態の変形例であり、潜像部と背景部に跨る位置に複数の第1画線11の幅(第1幅)及び複数の第2画線の幅(第2幅)を狭くすることで、潜像印刷物1´を真上から観察した場合に視認されるカモフラージュ模様が形成された状態を示すものである。
【0034】
図6に示すように、カモフラージュ模様が形成された潜像印刷物1´は、潜像部を形成する第1の万線10を、カモフラージュ模様の画像部を形成する第1画線11´とカモフラージュ模様の画像部以外を形成する第1画線11によって形成し、背景部を形成する第2の万線20を、外側の第2の万線20Aとして、カモフラージュ模様の画像部を形成する第2画線21A´とカモフラージュ模様の画像部以外を形成する第2画線21Aによって形成し、さらには、内側の第2の万線20Bとして、カモフラージュ模様の画像部を形成する第2画線21B´とカモフラージュ模様の画像部以外を形成する第2画線21Bによって形成している。これらのカモフラージュ模様を形成することで、潜像印刷物1´を真上方向から観察した場合の潜像画像の隠蔽性をさらに向上させることができる。
【0035】
さらに、カモフラージュ模様の画像部を形成する画線(11´、21A´及び21B´)とカモフラージュ模様の画像部以外を形成する画線(11、21A、21B)の境界部分の幅を更に細く設計したくびれ部(図示せず)を形成しても良く、くびれ部を形成することで、潜像印刷物を真上方向から観察した場合のカモフラージュ模様の視認性を向上させることで、潜像画像の隠蔽性をさらに向上させることもできる。
【0036】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態に係る潜像印刷物について、
図7~
図9を参照して説明する。なお、各図において共通の部材には、同一の符号を付している。
【0037】
[潜像印刷物の構成]
まず、第2実施形態に係る潜像印刷物の構成について、
図7を参照して説明する。
図7は、第2実施形態に係る潜像印刷物2を示す平面図である。
【0038】
図7に示す潜像印刷物2は、紙等の基材に凹版印刷を施すことで形成されている。潜像印刷物2は、潜像部を形成する第1の万線30と、背景部を形成する第2の万線40とを有する。
【0039】
第1の万線30が設けられる領域(潜像部)には、数字の「5」と文字の「R」が形成されている。以下、「5」の潜像部を第1潜像部とし、「R」の潜像部を第2潜像部とする。第1の万線30は、第1の方向Xに延びる複数の第1画線31から構成されている。第2の万線40が設けられる領域(背景部)は、第1潜像部及び第2潜像部を囲む領域と、第2潜像部(「R」)に囲まれた領域に分かれている。なお、第1潜像部(「5」)は、背景部を囲む形状ではない。
【0040】
以下、潜像部を囲む領域に設けられた第2の万線40を、外側の第2の万線40Aとする。また、潜像部に囲まれた領域に設けられた第2の万線40を、内側の第2の万線40Bとする。外側の第2の万線40A及び内側の第2の万線40Bは、第2の方向Yに延びる複数の第2画線41から構成されている。
【0041】
複数の第1画線31及び複数の第2画線41は、それぞれ基材の表面から盛り上がるように形成されている。複数の第1画線31の幅(第1幅)及びピッチ(第1ピッチ)と、複数の第2画線21の幅(第2幅)及びピッチ(第2ピッチ)は、第1実施形態と同じである。以下、第1の万線30が設けられる領域において、複数の第1画線31ではない部分を「第1非画線部」とする。また、第2の万線40が設けられる領域において、複数の第2画線41ではない部分を「第2非画線部」とする。
【0042】
図7に示すように、潜像印刷物2を真上から観察すると、第1の万線30と第2の万線40が同じの濃度として観察者に視認される。これにより、観察者は、潜像印刷物2の第1の万線30を潜像模様「5」及び「R」として視認できない、或いは視認が難しい。
【0043】
第1の方向Xが左右方向に一致するようして、観察者が潜像印刷物2を傾けて(斜め下方)観察すると、複数の第1画線31が、第1非画線部の一部を隠蔽する。一方、第2非画線部は、複数の第2画線41によって隠蔽されない。その結果、第1の万線30と第2の万線40との間で見かけ上の濃度差が生じて、観察者は、潜像印刷物1の第1の万線10を潜像模様「5」及び「R」として視認することができる。
【0044】
[第2の万線]
次に、潜像印刷物2の第2の万線40について、
図8及び
図9を参照して説明する。
図8は、潜像印刷物2における第1潜像部を拡大した要部拡大図である。
図9は、潜像印刷物2における第2潜像部を拡大した要部拡大図である。
【0045】
図8に示すように、第1潜像部(「5」)を囲む外側の第2の万線40Aは、第1潜像部(「5」)の輪郭と略平行に重ならないように配置されている。したがって、外側の第2の万線40Aを形成する複数の第2画線41は、第1潜像部(「5」)の輪郭に重なることで幅が小さく(細く)なることはない。
【0046】
図9に示すように、第2潜像部(「R」)を囲む外側の第2の万線40Aは、第2潜像部(「R」)の外側の輪郭と略平行に重ならないように配置されている。したがって、外側の第2の万線40Aを形成する複数の第2画線41は、第2潜像部(「R」)の外側の輪郭に重なることで幅が小さく(細く)なることはない。
【0047】
第2潜像部(「R」)に囲まれる内側の第2の万線40Bを形成する複数の第2画線41は、外側の第2の万線40Aを形成する複数の第2画線21の延長線に一致していない。そして、内側の第2の万線40Bは、第2潜像部(「R」)の内側の輪郭と略平行に重ならないように配置されている。
【0048】
したがって、
図9に示すように、内側の第2の万線40Bを形成する複数の第2画線41は、第2潜像部(「R」)の内側の輪郭に重なることで幅が小さく(細く)なることはない。これにより、内側の第2の万線40Bを形成する複数の第2画線41において第1の方向Xの両端に配置された第2画線41は、その他の第2画線41と同じ幅であり、部分的に濃度差が生じることはない。その結果、潜像部の隠蔽性を向上させることができる。
【0049】
このように、環状部分を有していない第1潜像部(「5」)は、入り組んだ形状であっても、第2の万線40を囲むことはない。そして、入り組んだ形状に合わせて外側の第2の万線40Aの一部をずらしてしまうと、外側の第2の万線40Aにおいてピッチが異なる部分が生じてしまう。したがって、外側の第2の万線40Aの第1の方向Xの位置は、第1潜像部(「5」)及び第2の潜像部(「R」)の外側の輪郭を考慮して決定する。
【0050】
一方、環状部分を有する第2潜像部(「R」)は、第2の万線40に囲まれており、かつ、第2の万線40を囲む形状である。したがって、外側の第2の万線40Aに影響を及ぼさずに、内側の第2の万線40Bの位置を調整することができる。これにより、内側の第2の万線40Bの位置は、第2潜像部(「R」)の内側の輪郭を考慮して決定することができる。
【0051】
以上説明したように、上述した実施形態に係る潜像印刷物1の複数の第2画線は、複数の第1画線により形成される模様(潜像部)を囲む外側の第2の万線と、複数の第1画線により形成される模様(潜像部)に囲まれた内側の第2の万線とを形成する。そして、外側の第2の万線の第1の方向の位置と、内側の第2の万線の第1の方向の位置は、それぞれ個別に設定されている。これにより、外側の第2の万線及び内側の第2の万線の第2画線が潜像部の輪郭に重なって幅が小さくなることを防ぐことができる。したがって、潜像部の周わりに配置される第2画線が細くなり、部分的に濃度差が生じることを防ぐことができる。その結果、潜像部が背景部を囲む枠状部分を有する場合であっても、潜像部の隠蔽性を向上させることができる。
【0052】
上述した実施形態に係る潜像印刷物では、内側の第2の万線における第2画線は、外側の第2の万線における第2画線の延長線に一致しないように設計している。これにより、外側の第2の万線の位置に影響されずに、内側の第2の万線の第2画線の位置を設定することができる。
【0053】
上述した実施形態に係る潜像印刷物では、内側の第2の万線が、複数の第1画線により形成される模様(潜像部)の内側の輪郭と略平行に重ならないように配置されている。これにより、内側の第2の万線の第2画線が、潜像部の輪郭に重なることで細くなることを防ぐことができる。
【0054】
上述した実施形態に係る潜像印刷物では、外側の第2の万線が、複数の第1画線により形成される模様(潜像部)の外側の輪郭と略平行に重ならないように配置されている。これにより、外側の第2の万線の第2画線が、潜像部の輪郭に重なることで細くなることを防ぐことができる。
【0055】
上述した実施形態に係る潜像印刷物では、内側の第2の万線における第1の方向の一端に配置された第2画線から複数の第1画線により形成される模様(潜像部)の内側の輪郭までの最短距離は、内側の第2の万線における第1の方向の他端に配置された第2画線から複数の第1画線により形成される模様(潜像部)の内側の輪郭までの最短距離と略等しい。これにより、潜像部の内側の輪郭における第1の方向の一端と他端の濃度に差が生じないようにすることができ、潜像部の隠蔽性を向上させることができる。
【0056】
以上、本発明の潜像印刷物について、その作用効果も含めて説明した。しかしながら、本発明の潜像印刷物は、上述の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0057】
例えば、内側の第2の万線20Bを形成する複数の第2画線21が、外側の第2の万線20Aを形成する複数の第2画線21の延長線に一致していない。しかし、本発明に係る潜像印刷物としては、内側の第2の万線と外側の第2の万線の位置をそれぞれ個別に調整した結果、内側の第2の万線を形成する複数の第2画線が、外側の第2の万線を形成する複数の第2画線の延長線に一致はしていないが、その延長線の一部に重なっていてもよい。
【符号の説明】
【0058】
1,1´,2…潜像印刷物
10,30…第1の万線
11,11´,31…第1画線
20,40…第2の万線
20A,40A…外側の第2の万線
20B,40B…内側の第2の万線
21,21A,21A´,21B,21B´,41…第2画線