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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023130790
(43)【公開日】2023-09-21
(54)【発明の名称】充填材、及び、アンカー工法
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20230913BHJP
   C04B 24/04 20060101ALI20230913BHJP
   C04B 24/12 20060101ALI20230913BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B24/04
C04B24/12 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022035284
(22)【出願日】2022-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】安藤 重裕
(72)【発明者】
【氏名】山本 誠
(72)【発明者】
【氏名】鹿島 篤志
(72)【発明者】
【氏名】兼吉 孝征
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112PB16
4G112PB20
(57)【要約】
【課題】防錆性を維持するとともに、凝結時間が大きく遅延することを抑制する充填材、及び、アンカー工法を提供する。
【解決手段】本発明に係る充填材は、セメントと、細骨材と、水と、亜硝酸塩と、遅延剤と、を含む充填材であって、前記遅延剤として、グルコン酸ナトリウムを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントと、細骨材と、水と、亜硝酸塩と、遅延剤と、を含む充填材であって、
前記遅延剤として、グルコン酸ナトリウムを含む、充填材。
【請求項2】
増粘剤をさらに含む、請求項1に記載の充填材。
【請求項3】
前記グルコン酸ナトリウムの含有量は、前記セメント及び前記細骨材の合計含有量に対して、0.02質量%以上0.5質量%以下である、請求項1又は2に記載の充填材。
【請求項4】
前記亜硝酸塩が、亜硝酸リチウムを含む、請求項1~3のいずれか一つに記載の充填材。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一つに記載の充填材を用いるアンカー工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、充填材、及び、該充填材を用いるアンカー工法に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物や舗装道路等の構造物の表面から所定の深さで形成される孔に、アンカー筋を収容し、アンカー筋と孔との間に充填材を充填することで、アンカー筋を構造物に固定する方法が知られている。斯かる充填材としては、例えば、水と混練されることで硬化する水硬性の粉体材料が使用される。
【0003】
一般的に、アンカー筋は腐食が発生しやすいものであり、特にアンカー筋に対して防錆処理がされていない場合には、アンカー筋に局所的な激しい腐食(所謂、マクロセル腐食)が発生することがある。
そのため、充填材に防錆性を付与することが検討されており、例えば、コンクリート内部の鉄筋が腐食し、補修が必要となった際に従来用いられている、補修用防錆材や断面修復材(例えば、特許文献1参照)を、充填材に適用することが検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-158371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、例えば、特許文献1のように亜硝酸リチウム水溶液と、オキシカルボン酸系遅延剤とを含む補修用防錆材は、亜硝酸リチウム水溶液と、オキシカルボン酸系遅延剤とが反応して亜硝酸ガスを発生し、亜硝酸リチウムの防錆作用を弱める虞がある。また、オキシカルボン酸系遅延剤は、リチウムとキレート物質を生成して凝結時間を大きく遅延させる虞もある。
【0006】
本発明は、このような現状に鑑みてなされたものであり、防錆性を維持するとともに、凝結時間が大きく遅延することを抑制する充填材、及び、アンカー工法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る充填材は、セメントと、細骨材と、水と、亜硝酸塩と、遅延剤と、を含む充填材であって、前記遅延剤として、グルコン酸ナトリウムを含む。
【0008】
前記充填材は、前記遅延剤として、グルコン酸ナトリウムを含むことにより、防錆性を維持するとともに、凝結時間が大きく遅延することを抑制することができる。
【0009】
本発明に係る充填材は、増粘剤をさらに含んでいてもよい。
【0010】
前記充填材は、斯かる構成により、アンカー筋の引張強度(付着強度)を高めることができる。
【0011】
本発明に係る充填材は、前記グルコン酸ナトリウムの含有量が、前記セメント及び前記細骨材の合計含有量に対して、0.02質量%以上0.5質量%以下であってもよい。
【0012】
前記充填材は、斯かる構成により、より一層、防錆性を維持するとともに、凝結時間が大きく遅延することを抑制することができる。
【0013】
本発明に係る充填材は、前記亜硝酸塩が、亜硝酸リチウムを含んでいてもよい。
【0014】
前記充填材は、斯かる構成により、より一層、防錆性を維持するとともに、凝結時間が大きく遅延することを抑制することができる。
【0015】
本発明に係るアンカー工法は、セメントと、細骨材と、水と、亜硝酸塩と、遅延剤と、を含む充填材であって、前記遅延剤として、グルコン酸ナトリウムを含む充填材を用いる。
【0016】
前記アンカー工法は、前記遅延剤として、グルコン酸ナトリウムを含む前記充填材を用いることにより、アンカー筋に対する防錆性を維持させるとともに、充填材の凝結時間が大きく遅延することを抑制し、作業性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、防錆性を維持するとともに、凝結時間が大きく遅延することを抑制する充填材、及び、アンカー工法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<充填材>
以下、本実施形態に係る充填材について説明する。
【0019】
本実施形態に係る充填材は、セメントと、細骨材と、水と、亜硝酸塩と、遅延剤と、を含む。
【0020】
セメントとしては、例えば、JIS R 5210で規定される普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメント等のポルトランドセメント、超速硬セメント、アルミナセメント等が挙げられる。また、前記ポルトランドセメントにフライアッシュ、高炉スラグ等を混合した各種混合セメントも使用することができる。これらの中でも、セメントとしては、充填時の流動性と充填後の硬化性とのバランスの観点から、超速硬セメントを用いることが好ましい。なお、超速硬セメントとは、JIS R 5201:2015に準じて圧縮強度を測定した際に、材齢2~3時間で10N/mm以上の圧縮強度を発現するセメントをいう。なお、セメントは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0021】
セメントの配合量は、単位量(kg/m:充填材1m当たりの質量)で、545kg/m以上1225kg/m以下であることが好ましく、625kg/m以上1180kg/m以下であることがより好ましい。なお、セメントが2種以上含まれる場合、前記含有量はセメントの合計含有量である。
【0022】
細骨材とは、10mm網ふるいを全部通過し、5mm網ふるいを質量で85%以上通過する骨材のことをいう(JIS A 0203:2014)。細骨材としては、例えば、JIS A 5308附属書Aレディミクストコンクリート用骨材で規定される山砂、川砂、陸砂、海砂、砕砂、石灰石砕砂等の天然由来の砂、高炉スラグ、電気炉酸化スラグ、フェロニッケルスラグ等のスラグ由来の砂等が挙げられる。なお、これらの細骨材は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0023】
細骨材の配合量は、単位量(kg/m:充填材1m当たりの質量)で、410kg/m以上1360kg/m以下であることが好ましく、470kg/m以上1300kg/m以下であることがより好ましい。なお、細骨材が2種以上含まれる場合、前記含有量は細骨材の合計含有量である。
【0024】
水は、特に限定されるものではなく、例えば、水道水、工業用水、回収水、地下水、河川水、雨水等を使用することができる。
【0025】
水の配合量は、単位量(kg/m:充填材1m当たりの質量)で、215kg/m以上490kg/m以下であることが好ましく、250kg/m以上475kg/m以下であることがより好ましい。
【0026】
亜硝酸塩としては、例えば、亜硝酸リチウム、亜硝酸カルシウム、亜硝酸ナトリウム等が挙げられる。これらの中でも、亜硝酸塩としては、亜硝酸リチウムを含むことが好ましい。なお、亜硝酸塩は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0027】
亜硝酸塩の含有量は、単位量(kg/m:充填材1m当たりの質量)で、5kg/m以上55kg/m以下であることが好ましく、15kg/m以上35kg/m以下であることがより好ましい。なお、亜硝酸塩が2種以上含まれる場合、前記含有量は亜硝酸塩の合計含有量である。
【0028】
遅延剤としては、グルコン酸ナトリウムを含む。グルコン酸ナトリウムの含有量は、セメント及び細骨材の合計含有量に対して、0.02質量%以上0.5質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以上0.3質量%以下であることがより好ましい。
【0029】
遅延剤としては、グルコン酸ナトリウム以外のその他の遅延剤を含んでいてもよい。その他の遅延剤としては、例えば、糖類誘導体、リグニンスルホン酸等の高分子有機酸、高分子有機酸塩、亜鉛化合物等の無機系遅延剤等が挙げられる。なお、その他の遅延剤は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0030】
その他の遅延剤の含有量は、施工作業性の観点から、セメント及び細骨材の合計含有量に対して、0.02質量%以上0.1質量%以下であることが好ましい。なお、その他の遅延剤が2種以上含まれる場合、前記含有量はその他の遅延剤の合計含有量である。
【0031】
本実施形態に係る充填材は、増粘剤をさらに含んでいてもよい。増粘剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、セルロース系増粘剤、ガム系増粘剤、粘土系増粘剤等が挙げられる。なお、増粘剤は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0032】
増粘剤の含有量は、ダレ抑制性及び保水性の観点から、セメント及び細骨材の合計含有量に対して、0.02質量%以上0.5質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以上0.3質量%以下であることがより好ましい。
【0033】
本実施形態に係る充填材は、例えば、遅延剤及び増粘剤以外のその他の混和剤、混和材等をさらに含んでいてもよい。
【0034】
その他の混和剤としては、例えば、AE剤、AE減水剤、高性能減水剤、流動化剤、分離低減剤、凝結促進剤(例えば、硫酸アルミニウム等)、急結剤、収縮低減剤、起泡剤、発泡剤、防水剤、消泡剤等が挙げられる。なお、その他の混和剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0035】
混和材としては、例えば、シリカフューム、フライアッシュ、高炉スラグ微粉末、セメントキルンダスト、高炉フューム、転炉スラグ微粉末、無水石膏、半水石膏、二水石膏、膨張材、石灰石微粉末、生石灰微粉末、ドロマイト微粉末等の無機質微粉末、ナトリウム型ベントナイト、カルシウム型ベントナイト、アタパルジャイト、セピオライト、活性白土、酸性白土、アロフェン、イモゴライト、シラス(火山灰)、シラスバルーン、カオリナイト、メタカオリン(焼成粘土)、合成ゼオライト、人造ゼオライト、人工ゼオライト、モルデナイト、クリノプチロライト等の無機物系フィラーが挙げられる。なお、混和材は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0036】
本実施形態に係る充填材は、セメント、細骨材、水、亜硝酸塩、遅延剤、及び、必要に応じてその他の成分を混練することにより、製造することができる。混練方法は、特に限定されるものではなく、従来公知のミキサ等を用いて、従来公知の方法により混練することができる。
【0037】
このようにして製造された充填材は、例えば、既設のコンクリート構造物にアンカー筋を固定する際に好適に用いることができる。
【0038】
本実施形態に係る充填材は、セメントと、細骨材と、水と、亜硝酸塩と、遅延剤と、を含む充填材であって、遅延剤として、グルコン酸ナトリウムを含むことにより、防錆性を維持するとともに、凝結時間が大きく遅延することを抑制することができる。
【0039】
本実施形態に係る充填材は、増粘剤をさらに含むことにより、アンカー筋の引張強度(付着強度)を高めることができる。
【0040】
本実施形態に係る充填材は、グルコン酸ナトリウムの含有量が、セメント及び細骨材の合計含有量に対して、0.02質量%以上0.5質量%以下であることにより、より一層、防錆性を維持するとともに、凝結時間が大きく遅延することを抑制することができる。
【0041】
本実施形態に係る充填材は、亜硝酸塩が、亜硝酸リチウムを含むことにより、より一層、防錆性を維持するとともに、凝結時間が大きく遅延することを抑制することができる。
【0042】
<アンカー工法>
以下、本実施形態に係るアンカー工法について説明する。
【0043】
本実施形態に係るアンカー工法では、既設のコンクリート構造物を表面側から穿孔して形成される孔に、充填材の充填、及び、アンカー筋の挿入を行う。そして、充填材を硬化させて、コンクリート構造物にアンカー筋を固定させる。充填材の充填、及び、アンカー筋の挿入を行う順序は特に限定されず、孔に充填材を充填した後に、アンカー筋を挿入してもよいし、孔にアンカー筋を挿入した後に、孔とアンカー筋との間に形成される空間に充填材を充填してもよい。孔の内面とアンカー筋との間の間隔としては、特に限定されるものではないが、1.5mm以上5mm以下であることが好ましい。また、アンカー筋としては、例えば、高強度鉄筋(鉄筋降伏強度:685N/mm以上)を用いることができる。
【0044】
本実施形態に係るアンカー工法は、セメントと、細骨材と、水と、亜硝酸塩と、遅延剤と、を含む充填材において、前記遅延剤として、グルコン酸ナトリウムを含む充填材を用いることにより、アンカー筋に対する防錆性を維持させるとともに、充填材の凝結時間が大きく遅延することを抑制し、作業性を向上させることができる。
【実施例0045】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0046】
(充填材の作製)
表1に示す配合で各実施例及び各比較例の充填材を作製した。具体的には、配合した粉体をロッキングミキサで混合し、混合した粉体をコーキングガン用カートリッジに詰め、水とLiNO水溶液を粉体の入ったカートリッジに注水し、カートリッジ内で攪拌混合した。
【0047】
表1に示す各成分の詳細を以下に示す。
セメント:超速硬セメント(住友大阪セメント社製、マイルドジェットセメント)
細骨材:珪砂5号/7号=1/1
水:上水道水
亜硝酸リチウム水溶液:亜硝酸リチウムの固形分率が40質量%の水溶液(日産化学工業社製)
増粘剤(セルロース系):メトローズ4000(信越化学工業社製)
遅延剤:グルコン酸ナトリウム(扶桑化学工業社製)
遅延剤:クエン酸(扶桑化学工業社製)
遅延剤:クエン酸ナトリウム(扶桑化学工業社製)
遅延剤:酒石酸(扶桑化学工業社製)
遅延剤:酒石酸ナトリウム(扶桑化学工業社製)
【0048】
(防錆性の評価)
日本建築学会の「鉄筋コンクリート造建築物の耐久性調査・診断および補修指針(案)・同解説」に記載された「防せい性試験方法」に基づき、防錆処理がされた「処理部」と、防錆処理がされていない「未処理部」とを備える供試体、及び、「未処理部」のみを備える比較用のモルタルを作製した。具体的には、供試体は、モルタル基材に穿孔し、各実施例及び比較例の充填材を孔に注入後、鉄筋を挿入して、供試体の「処理部」を形成した。続いて、前記鉄筋の露出した部分にモルタル基材を打設し、供試体の「未処理部」を形成した。比較用のモルタルは、先付け鉄筋の露出した部分にモルタル基材を打設して形成した。
【0049】
続いて、上記の「防せい性試験方法」に基づき、前記供試体及び前記比較用モルタルに対して試験を行い、防錆率を求めた。防錆性の評価は、「処理部」の防錆率が50%以上で合格、「未処理部」の防錆率が-10%以上で合格とし、「処理部」と「未処理部」の両方が合格の場合は「〇」と評価し、「処理部」又は「未処理部」の一方が合格の場合は「△」と評価し、「処理部」と「未処理部」の両方が不合格の場合は「×」と評価した。防錆率及び防錆性の評価結果を表2に示す。
【0050】
(付着強度の測定)
JCAA(日本建築あと施工アンカー協会)の「あと施工アンカー試験方法」に基づき、下記の条件で、引き抜き強度(アンカー材をコンクリート構造物から引き抜く力)の試験を行った。測定結果を表2に示す。
(測定条件)
コンクリート構造物(強度:σB=30N/mm
穿孔径:φ16
定着長:6D
アンカー材:鉄筋(M12、SNB7)
【0051】
(凝結時間の測定)
JIS R 5201:2015の「凝結試験」に基づき、凝結時間を測定した。測定した凝結時間が、30分以上60分未満の場合には「〇」と評価し、15分以上30分未満の場合、又は、60分以上75分未満の場合には「△」と評価し、15分未満、又は、75分以上の場合には「×」と評価した。凝結時間の測定結果及び評価結果を表2に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
表2の結果から分かるように、本発明の構成要件をすべて満たす各実施例の充填材は、防錆性を維持するとともに、凝結時間が大きく遅延することを抑制することができる。