(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023130917
(43)【公開日】2023-09-21
(54)【発明の名称】コア/シェル型不均一系触媒およびそれを用いた光学活性化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 31/28 20060101AFI20230913BHJP
B01J 35/08 20060101ALI20230913BHJP
C07C 217/76 20060101ALI20230913BHJP
C07C 213/02 20060101ALI20230913BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20230913BHJP
【FI】
B01J31/28 Z
B01J35/08 Z
C07C217/76
C07C213/02
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022035508
(22)【出願日】2022-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100227008
【弁理士】
【氏名又は名称】大賀 沙央里
(72)【発明者】
【氏名】小林 修
(72)【発明者】
【氏名】呉本 達哉
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA04
4G169BA01A
4G169BA02A
4G169BA02B
4G169BA04A
4G169BA05A
4G169BA08A
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4G169BA22B
4G169BA27A
4G169BA27B
4G169BA38
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4G169BC66B
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4G169BE27A
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4G169BE32B
4G169BE36A
4G169BE36B
4G169BE37B
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4G169CB02
4G169CB57
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4G169DA06
4G169EB15X
4G169EB15Y
4G169EB18Y
4H006AA02
4H006AC52
4H006BA22
4H006BA48
4H006BB16
4H006BC10
4H006BE20
4H006BJ50
4H006BP10
4H039CA71
4H039CB30
(57)【要約】
【課題】不斉水素化反応において有用なコア/シェル型不均一系触媒を提供する。
【解決手段】一実施形態によると、コア部1と、該コア部1の外側に位置するシェル部2とを具備し、前記シェル部2には、ジョシホス(Josiphos)配位子を含む金属錯体構造3が含まれるコア/シェル型不均一系触媒が提供される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア部と、該コア部の外側に位置するシェル部とを具備し、
前記シェル部には、ジョシホス(Josiphos)配位子を含む金属錯体構造が含まれる
コア/シェル型不均一系触媒。
【請求項2】
前記金属錯体構造における金属は、Ir、Rh、Ru、Co、Pt、Fe、NiおよびPdからなる群より選択される、請求項1に記載のコア/シェル型不均一系触媒。
【請求項3】
前記コア部は、SiO2、Al2O3、TiO2、ZrO2およびカーボンブラックからなる群より選択される材料を含む、請求項1または2に記載のコア/シェル型不均一系触媒。
【請求項4】
前記シェル部は、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリアセチレン、ポリエーテル、ポリエステルおよびポリアミドからなる群より選択されるポリマーまたは多孔性シリカゲルおよびMOFから選択される無機担体を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のコア/シェル型不均一系触媒。
【請求項5】
前記シェル部はポリスチレンを含み、該ポリスチレンの架橋度は0.01~20%である、請求項1~4のいずれか一項に記載のコア/シェル型不均一系触媒。
【請求項6】
前記シェル部は1nm~10μmの厚みを有する、請求項1~5のいずれか一項に記載のコア/シェル型不均一系触媒。
【請求項7】
炭素窒素二重結合を有する化合物の不斉水素化反応に使用するための、請求項1~6のいずれか一項に記載のコア/シェル型不均一系触媒。
【請求項8】
前記炭素窒素二重結合を有する化合物は、イミン、オキシムおよびニトロンからなる群より選択される、請求項7に記載のコア/シェル型不均一系触媒。
【請求項9】
連続フロー法において使用するための、請求項1~8のいずれか一項に記載のコア/シェル型不均一系触媒。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載のコア/シェル型不均一系触媒の存在下、炭素窒素二重結合を有する化合物を不斉水素化して光学活性化合物を得ることを含む、光学活性化合物の製造方法。
【請求項11】
前記炭素窒素二重結合を有する化合物は、イミン、オキシムおよびニトロンからなる群より選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記不斉水素化は連続フロー法で行われる、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
請求項1~9のいずれか一項に記載のコア/シェル型不均一系触媒の存在下、式(4)で表される化合物を不斉水素化して、式(5)で表される化合物を得ることと、
前記式(5)で表される化合物をアシル化して、(S)-メトラクロールを得ることと
を含む、(S)-メトラクロールの製造方法。
【化1】
【請求項14】
前記不斉水素化は連続フロー法で行われる、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コア/シェル型不均一系触媒およびそれを用いた光学活性化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
キラリティーを持つ化合物、例えばアミン類は、医薬品や農薬の有効成分として重要な化合物群の1つである。特に、農薬化合物である(S)-メトラクロールは、1年あたり10,000トン以上も製造されており、非常に大きな社会的需要を有する化合物である。このようなアミン類の代表的な合成方法として、対応するイミン類などのプロキラル化合物の不斉水素化が挙げられる。イミンの不斉水素化触媒としては、例えば、フェロセニルホスフィン、キシリホスおよびジョシホス(Josiphos)配位子を有するものが挙げられる(非特許文献1)。
【0003】
イミンを不斉水素化する方法は廃棄物を生じないため、触媒的に不斉点を導入できれば理想的なキラルアミン合成方法であると言える。しかし、医薬品や農薬として有用な物質は脂肪族化合物であることが多い一方、この不斉水素化反応は、脂肪族基質に対する反応選択性が十分でないという問題があった。また、この方法は、高価な貴金属触媒および高圧の水素(5~50気圧)を必要とするため、実用性に乏しい。そのため、依然として当量のキラル源を用いた反応やラセミ体の光学分割を利用した方法などが採用されることが多いという現状がある。しかし、キラル源を用いた反応は、高価なキラル源を大量に必要とし、しかもそれが最終的には廃棄物となってしまうという問題がある。このような背景から、より環境に優しく、実用的で、脂肪族基質を含む広範囲の基質に適用可能な不斉水素化方法が求められてきた。
【0004】
また、当該分野では、触媒の固定化についても検討されている。触媒を担体に固定化すると、反応混合物からの触媒分離が容易になるため触媒の再利用が可能になる。その結果、廃棄物量を減らせるため、環境保護の観点から好ましい。一方、触媒を担体に固定化すると、対応する均一系触媒と比較して触媒活性が低下してしまうという問題があった。これに関して本発明者らは、以前、コア/シェル型担体を用いた触媒の固定化を提案している(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Hans-Ulrich Blaser, Adv.Synth.Catal., 2002, 344, No.1, p.17-31
【非特許文献2】Kuremoto et al., ACS Catal., 2011, 11, p.14026-14031
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、不斉水素化反応において有用なコア/シェル型不均一系触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、さらに有用な触媒を見出すべく、鋭意研究してきた。そして、Josiphos-金属錯体構造を利用したコア/シェル型不均一系触媒が、不斉水素化反応において非常に有用であることを見出した。
本発明は、例えば以下のとおりである。
[1] コア部と、該コア部の外側に位置するシェル部とを具備し、
前記シェル部には、ジョシホス(Josiphos)配位子を含む金属錯体構造が含まれる
コア/シェル型不均一系触媒。
[2] 前記金属錯体構造における金属は、Ir、Rh、Ru、Co、Pt、Fe、NiおよびPdからなる群より選択される、[1]に記載のコア/シェル型不均一系触媒。
[3] 前記コア部は、SiO
2、Al
2O
3、TiO
2、ZrO
2およびカーボンブラックからなる群より選択される材料を含む、[1]または[2]に記載のコア/シェル型不均一系触媒。
[3-1] 前記コア部の直径は1nm~1mmである、[1]~[3]のいずれかに記載のコア/シェル型不均一系触媒。
[4] 前記シェル部は、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリアセチレン、ポリエーテル、ポリエステルおよびポリアミドからなる群より選択されるポリマーまたは多孔性シリカゲルおよびMOFから選択される無機担体を含む、[1]~[3]のいずれかに記載のコア/シェル型不均一系触媒。
[5] 前記シェル部はポリスチレンを含み、該ポリスチレンの架橋度は0.01~20%である、[1]~[4]のいずれかに記載のコア/シェル型不均一系触媒。
[6] 前記シェル部は1nm~10μmの厚みを有する、[1]~[5]のいずれかに記載のコア/シェル型不均一系触媒。
[6-1] コア部の直径とシェル部の厚みの比は、1000:1~1:10である、[1]~[6]のいずれかに記載のコア/シェル型不均一系触媒。
[6-2] 前記シェル部は、アジド基、アルキン基、シクロアルキン基、アルケン基、シクロアルケン基、アミノ基、カルボキシル基、カルボニル基、ヒドロキシル基、チオール基、スルフィニル基およびスルホニル基からなる群より選択される基を有する化合物を含む、[1]~[6-1]のいずれかに記載のコア/シェル型不均一系触媒。
[6-3] 前記ジョシホス配位子を含む金属錯体構造は、以下の式(2’)で表される構造を含む、[1]~[6-2]のいずれかに記載のコア/シェル型不均一系触媒:
【化1】
[式中、
RおよびR’は、それぞれ独立して、1つまたは複数の置換基を有していてもよいC
1~C
12アルキル、C
5~C
12シクロアルキルおよびフェニルからなる群より選択され、
Xは、Cl、Br、I、OAc、OTs、OMs、BF
4、PF
6およびSbF
6からなる群より選択され、
Yは、アジド基、アルキン基、シクロアルキン基、アルケン基、シクロアルケン基、アミノ基、カルボキシル基、カルボニル基、ヒドロキシル基、チオール基、スルフィニル基およびスルホニル基からなる群より選択される基を含む基であり、
Mは、Ir、Rh、Ru、Co、Pt、Fe、NiおよびPdからなる群より選択される金属である]。
[6-4] 2つのRは共にフェニル基であり、2つのR’は共にキシリル基(すなわちジメチルフェニル基)である、[6-3]に記載のコア/シェル型不均一系触媒。
[6-5] Yはアルキン基またはシクロアルキン基を含む、[6-3]または[6-4]に記載のコア/シェル型不均一系触媒。
[6-6] 金属負荷量(コア/シェル型不均一系触媒の重量(g)あたりの金属量(μmol))は、0.01~1000μmol/gである、[1]~[6-5]のいずれかに記載のコア/シェル型不均一系触媒。
[6-7] 直径が2nm~1mmである、[1]~[6-6]のいずれかに記載のコア/シェル型不均一系触媒。
[7] 炭素窒素二重結合を有する化合物の不斉水素化反応に使用するための、[1]~[6-6]のいずれかに記載のコア/シェル型不均一系触媒。
[8] 前記炭素窒素二重結合を有する化合物は、イミン、オキシムおよびニトロンからなる群より選択される、[7]に記載のコア/シェル型不均一系触媒。
[9] 連続フロー法において使用するための、[1]~[8]のいずれかに記載のコア/シェル型不均一系触媒。
[10] [1]~[9]のいずれかに記載のコア/シェル型不均一系触媒の存在下、炭素窒素二重結合を有する化合物を不斉水素化して光学活性化合物を得ることを含む、光学活性化合物の製造方法。
[11] 前記炭素窒素二重結合を有する化合物は、イミン、オキシムおよびニトロンからなる群より選択される、[10]に記載の方法。
[12] 前記不斉水素化は連続フロー法で行われる、[10]または[11]に記載の方法。
[12-1] 60%以上の収率で光学活性化合物を得る、[10]~[12]のいずれかに記載の方法。
[12-2] 前記光学活性化合物は70%以上の光学純度を有する、[10]~[12-1]のいずれかに記載の方法。
[13] [1]~[9]のいずれかに記載のコア/シェル型不均一系触媒の存在下、式(4)で表される化合物を不斉水素化して、式(5)で表される化合物を得ることと、
前記式(5)で表される化合物をアシル化して、(S)-メトラクロールを得ることと
を含む、(S)-メトラクロールの製造方法。
【化2】
[14] 前記不斉水素化は連続フロー法で行われる、[13]に記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、不斉水素化反応において有用なコア/シェル型不均一系触媒を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】実施例1で作製したコア/シェル型不均一系触媒の構造を示す、走査透過電子顕微鏡(STEM)写真図。
【
図3】実施例2で作製したコア/シェル型不均一系触媒を連続フロー法に適用した結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るコア/シェル型不均一系触媒の断面模式図である。
本発明の一実施形態に係るコア/シェル型不均一系触媒は、コア部1と、コア部1の外側に位置するシェル部2とを具備し、シェル部2には、ジョシホス(Josiphos)-金属錯体構造3が含まれる。
【0011】
実施形態に係るコア/シェル型不均一系触媒は、例えば炭素窒素二重結合を有する化合物の不斉水素化反応に用いた場合、対応する光学活性化合物を首尾よく合成することができる。不斉水素化反応は従来、脂肪族基質に対する選択性に乏しかったという事情があったことに鑑みると、画期的な触媒であると言える。実施形態に係る触媒を使用すれば、高価なキラル源を使用する必要がないため、経済的である。
【0012】
また、実施形態に係るコア/シェル型不均一系触媒は、固定化触媒であるため、反応混合物からの触媒分離が容易であり、触媒の再利用が可能になる。そのため経済的であり、またその結果、廃棄物量を減らせるため、環境保護の観点からも好ましい。さらに、実施形態に係るコア/シェル型不均一系触媒を使用した場合、従来固定化触媒において問題となっていた触媒活性の低下も生じにくく、対応する均一系触媒と少なくとも同等の触媒活性を得られる。
【0013】
さらに、実施形態に係るコア/シェル型不均一系触媒は、連続フロー法に適用することが可能である。これまで、農薬化合物を含むファインケミカルの合成には、バッチ法が主に用いられてきた。バッチ法では、全ての原料等を反応釜に投入し、物質の反応が全て終了した後に生成物を取り出す。この手法では、複雑な構造をもつ化合物の合成が可能である反面、各段階で中間体の単離および精製操作を繰り返すため、余分なエネルギーや労力を必要とし、さらには廃棄物が多量に排出されるという問題があった。また、バッチ法で工業規模の製造を行う場合、大規模な装置が必要となり、特に高圧のガスを用いる反応においてはその安全性が大きな問題となり得る。そこで近年、連続フロー法によるファインケミカルの合成に注目が集まっている。連続フロー法では、出発原料をカラムの一端から連続的に投入し、生成物を他端から連続的に得ることができる。連続フロー法は、安全性、再現性、生産効率、エネルギー効率等に優れ、また連続的に原料を供給できるため、必要な量だけ目的物を生産できる。反応の各段階で中間体を単離したり精製したりする必要もなく、廃棄物の排出も少ない。そのため、バッチ法から連続フロー法への移行が望まれるが、複雑な構造を有するファインケミカルを連続フロー法で合成することは未だ難しい。特に不斉化反応を伴う合成を連続フロー法で行う場合、そのための触媒を開発するのが非常に難しいという事情もあり、連続フロー法を用いたファインケミカル合成の実用化が遅れているという現状があった。また、連続フロー法では長時間にわたって反応が行われるため、触媒活性を維持することが課題となっていた。
【0014】
そのような状況にもかかわらず、本発明者らは、実施形態に係るコア/シェル型不均一系触媒を連続フロー法に用いて、長時間にわたって安定した収率で不斉水素化反応を行うことに成功した。このことは、実施形態に係るコア/シェル型不均一系触媒は長時間にわたって活性が維持されることを意味する。連続フロー法を用いれば、連続的に原料を供給して産業規模で目的物を合成することができる。また、連続フロー法は上述したような種々の利点を有するため、実施形態に係るコア/シェル型不均一系触媒を見出したことは、産業的に非常に意義のあることである。また、実施形態に係るコア/シェル型不均一系触媒を連続フロー法に用いた場合、バッチ法よりも低い水素圧で反応を行うことができる傾向があり、安全性および経済性の面でも利点がある。
【0015】
実施形態に係るコア/シェル型不均一系触媒は、
図1に示すとおり、コア部1と、コア部1の外側に位置するシェル部2とを具備する。コア部1は、金属酸化物(例えば、SiO
2、Al
2O
3、TiO
2、ZrO
2等)のような無機担体、カーボンブラック等の有機担体からなる群より選択される材料を含んでいてよい。SiO
2、Al
2O
3、TiO
2、ZrO
2のような金属酸化物を含んでいることが好ましく、SiO
2を含んでいることが特に好ましい。さらに好ましくは、コア部1はSiO
2粒子で構成される。コア部1の材料としてSiO
2を選択した場合、Stoeber法によって均一な粒径を有する粒子が得られるという利点がある。コア部1は、上述した以外の材料を含んでいてもよい。コア部1は、好ましくは球状であり、より好ましくは同心球状である。コア部1の直径は、1nm~1mmであることが好ましく、10nm~10μmであることがより好ましく、100nm~1μmであることが特に好ましい。コア部1の直径をこのような範囲とすることにより、その外側にシェル部2を首尾よく形成することができる。
【0016】
シェル部2は、コア部1の少なくとも一部を覆うように位置する。コア部1の表面積の少なくとも1%、好ましくは少なくとも10%、より好ましくは少なくとも50%、さらに好ましくは少なくとも90%、特に好ましくは100%がシェル部2で覆われている。シェル部2の厚みは、1nm~10μmであることが好ましく、5nm~1μmであることがより好ましく、10~200nmであることが特に好ましい。シェル部2の厚みは、特に、15~60nm、20~50nmまたは25~50nmであることが好ましい。シェル部2の厚みが薄いほどシェル部2内での物質の移動がスムーズになる一方、薄すぎると触媒を担持できる量が少なくなってしまう。シェル部2の厚みを上記のような範囲とすることにより、良好な物質の移動と反応に必要な触媒担持量を両立することができる。コア部1の直径とシェル部2の厚みの比は、1000:1~1:10であることが好ましく、100:1~1:1であることがより好ましく、50:1~2:1であることが特に好ましい。コア部1の直径とシェル部2の厚みの比をこのような範囲とすることにより、コア部1による触媒全体の安定化を達成しつつ、反応に必要な量の触媒をシェル部2に担持させられる。
【0017】
シェル部2には、触媒活性を有する構造、すなわちジョシホス(Josiphos)配位子を含む金属錯体構造3が含まれる。金属錯体構造における金属は、Ir、Rh、Ru、Co、Pt、Fe、NiおよびPdからなる群より選択され、Ir、RhまたはRuであることが好ましく、Irがより好ましい。1つの実施形態において、シェル部2には、ジョシホス(Josiphos)-Ir錯体構造が含まれる。ここで、ジョシホス-Ir錯体構造とは、ジョシホス配位子(式(1))とイリジウム(Ir)イオンとで形成される錯体構造(例えば、式(2))を含む部分を意味し、任意にリンカーYを介して、シェル部2に含まれる官能基に結合している。つまり、ジョシホス-Ir錯体構造は、ジョシホス配位子とIrイオンとで形成される錯体構造以外の要素を含んでいてもよく、任意にリンカーYを介してシェル部2に固定化されている。ジョシホス-Ir錯体構造は、式(2)の構造に限定されるものではなく、一般的にジョシホス配位子と称される構造がIrイオンとの間で錯体を形成していればよい。ジョシホス配位子とIrイオンとによる錯体形成は、ジョシホス配位子が、リン原子を介してIrイオンに配位することにより形成される(式(2))。ジョシホス配位子は、当該分野で既知の方法により製造することができ(例えば、特許第3854638号公報)、得られたジョシホス配位子を、当該分野で既知の方法を用いてIrイオンと反応させて錯体構造を形成することができる。上記では、Ir錯体を例に挙げて説明したが、他の金属を使用した場合にも同様である。
【化3】
【化4】
【0018】
ジョシホス配位子は、2つのホスフィンが結合するフェロセン構造を特徴とし、不斉水素化反応(エナンチオ選択的還元)に適した触媒活性を提供する。実施形態においては、一般的にジョシホス配位子と称されるものであれば使用できるが、例えば上記式(1)の構造の場合、RおよびR’は、それぞれ独立して、1つまたは複数の置換基を有していてもよいC1~C12アルキル、C5~C12シクロアルキルおよびフェニルからなる群より選択される。置換基としては、C1~C4アルキル、C1~C4アルコキシ、-SiR4R5R6、ハロゲン、-SO3M、-CO2M、-PO3M、-NR7R8、-[+NR7R8R9]Z-およびC1~C5フルオロアルキル基が挙げられる。ここで、R4~R6は、それぞれ独立して、C1~C12アルキルまたはフェニルである。Mは、Hまたはアルカリ金属である。R7およびR8は、H、C1~C12アルキルまたはフェニルであるか、あるいはR7とR8は一緒になって、テトラメチレン、ペンタメチレンまたは3-オキサ-1,5-ペンチレンを形成している。R9は、HまたはC1~C4アルキルであり、Zは、一塩基酸のアニオンである。
RおよびR’は、好ましくは、置換基を有していてもよいフェニル基である。特に好ましくは、2つのRは共にフェニル基であり、2つのR’は共にキシリル基(すなわちジメチルフェニル基)である。式(2)におけるXは、特に限定されないが、金属との間で塩を形成し得る基であり、例えば、Cl、Br、I、OAc、OTs、OMs、BF4、PF6、SbF6等が挙げられる。
【0019】
1つの実施形態において、ジョシホス-Ir錯体構造は、以下の式(3)で表される構造を含む。式(3)におけるIrを、上記で述べたような他の金属で置き換えてもよい。式(3)におけるXは、上記で式(2)について定義したとおりである。
【化5】
【0020】
ジョシホス-金属錯体構造3をシェル部2に固定化する態様は、固定化できる限り特に限定されないが、例えば、任意にリンカーYを介してシェル部2に固定化することができる。すなわち、シェル部2に含まれる官能基に、リンカーYを介してジョシホス-金属錯体構造3が結合していてよい。ジョシホス-金属錯体構造3を結合させるための官能基は、そのような結合が可能であれば限定されるものではないが、例えば、アジド基、アルキン基、シクロアルキン基、アルケン基、シクロアルケン基、アミノ基、カルボキシル基、カルボニル基、ヒドロキシル基、チオール基、スルフィニル基およびスルホニル基が挙げられる。中でも、アジド基、アルキン基、シクロアルキン基が好ましく、アジド基、シクロアルキン基がより好ましい。
【0021】
固定化のための他の態様としては、リンカーを使用せず、ジョシホス配位子(上記式(2)におけるY=H)とシェル部2に含まれる官能基との間のイオン性相互作用を利用してシェル部2に固定化する方法も挙げられる。
【0022】
このようにシェル部2は、ジョシホス-金属錯体構造3の他に、上述したようなジョシホス-金属錯体構造3を結合させるための官能基を含む化合物を含んでいてよい。この態様について、具体的には製造方法の欄で後述するが、シェル部2に含まれるジョシホス-金属錯体構造3を結合させるための官能基を含む化合物は、例えば、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリアセチレン、ポリエーテル、ポリエステル、ポリアミドであってよい。しかし、これらに限定されるものではなく、ジョシホス-金属錯体構造3を結合させるための官能基を含む化合物であれば使用することができる。
【0023】
シェル部2は、触媒を含むことができて、コアとは異なる層を形成していればよく、その構成および材料は上記に限定されるものではない。例えば、シェル部2の触媒以外の部分を無機物で構成することもでき、そのような無機物として、多孔性シリカゲル、MOF等の無機担体が挙げられる。シェル部2の材料としてこれらを使用した場合、適切なリンカーを選択することによりジョシホス-金属錯体構造3をシェル部に結合させることができる。
【0024】
リンカーYは、シェル部2に含まれる官能基に結合する基を有していれば特に限定されるものではなく、シェル部2に含まれる官能基に応じてその構造を検討することができる。リンカーYは、例えば、アジド基、アルキン基、シクロアルキン基、アルケン基、シクロアルケン基、アミノ基、カルボキシル基、カルボニル基、ヒドロキシル基、チオール基、スルフィニル基およびスルホニル基からなる群より選択される基を含む。シェル部2にアジド基が含まれる場合、アルキン基またはシクロアルキン基を有するリンカーを使用することにより、それがアジド基と結合して、ジョシホス-金属錯体構造3をシェル部2に固定化することができる。したがって、1つの実施形態において、シェル部2に含まれる官能基はアジド基であり、リンカーYはアルキン基またはシクロアルキン基を含む。さらに具体的には、リンカーYは以下の構造を有していてよい。
【化6】
【0025】
ジョシホス-金属錯体構造3は、シェル部2に対して好ましくは0.001~50モル%、より好ましくは0.01~10モル%、特に好ましくは0.1~1モル%の量でシェル部2に含まれる。
【0026】
続いて、実施形態に係るコア/シェル型不均一系触媒の製造方法の一例について説明するが、これに限定されるものではない。まず、コア部1の表面に、ジョシホス-金属錯体構造3を結合させるための官能基を有する化合物を結合させて、シェル部2を形成する。シェル部2の形成方法は、コア部1の表面に安定的に形成できる限り特に限定されるものではない。例えば、ジョシホス-金属錯体構造3を固定化するための官能基を有する化合物をコア部1の表面に任意の結合態様(例えば共有結合)で結合させる方法、複数の化合物を共重合させながらコア部1の表面に任意の結合態様(例えば共有結合)で結合させる方法等が挙げられる。
【0027】
ジョシホス-金属錯体構造3を結合させるための官能基の例は上記で挙げたとおりであるが、そのような官能基を導入するためにコア部1の表面に結合させる化合物としては、スチレン、ジビニルベンゼン、アジドメチルスチレン、ヒドロキシメチルスチレン、クロロメチルスチレン等が挙げられる。中でも、スチレン、ジビニルベンゼンおよびアジドメチルスチレンが好ましい。2つ以上の化合物を使用してシェル部2を形成してもよく、その場合は少なくとも1つの化合物がジョシホス-金属錯体構造3を結合させるための官能基を有していればよい。2つ以上の化合物を別々に、または混合物として使用してシェル部2を形成してもよく、また、複数の化合物を共重合させながらコア部1の表面に結合させてもよい。例えば、複数の化合物を共重合させて、コア部1の表面に、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリアセチレン、ポリエーテル、ポリエステル、ポリアミド等が形成され得る。すなわち、シェル部は、ポリスチレン、ポリアセチレン、ポリエーテル、ポリエステルおよびポリアミドからなる群より選択されるポリマーを含んでいてよい。ポリスチレンを含むことがより好ましく、ポリスチレンを形成する化合物として、スチレン、ジビニルベンゼンおよびアジドメチルスチレンが挙げられる。
【0028】
シェル部2にポリスチレンが含まれる場合、その架橋度(ポリマーを構成するモノマー全体に対するDVBの割合(モル%))は、0.01~20%であってよく、0.1~2.0%であることが好ましく、0.3~1.0%であることがより好ましく、0.3~0.8%であることが特に好ましい。架橋度をこのような範囲とすることにより、高い平均触媒回転頻度(TOF)が得られる。
シェル部2は、上記で述べた以外の物質を含んでいてもよい。
【0029】
シェル部2を構成する材料のうち、好ましくは0.001~50モル%、より好ましくは0.01~10モル%、特に好ましくは0.1~1モル%がジョシホス-金属錯体構造3を結合させるための官能基を有する化合物に由来する。シェル部2を構成する化合物をコア部1の表面に結合させる際の反応条件は、特に限定されるものではないが、2種以上の化合物を共重合的に結合させる場合、例えば、ラジカル重合の条件下、50~100℃で10~100分間反応させることにより行うことができる。
【0030】
次に、上記でシェル部2に導入した官能基にジョシホス配位子を結合させる。この際、必要に応じて、ジョシホス配位子にリンカーを結合させてもよい。ジョシホス配位子をシェル部2における官能基に反応させる際の条件は、使用する官能基およびジョシホス配位子の構造に応じて適宜選択可能である。このようにして、ジョシホス配位子がシェル部2に固定化される。
【0031】
さらに、シェル部2に導入したジョシホス配位子に金属イオンを配位させて、ジョシホス-金属錯体構造3を形成する。金属錯体の形成は、当該分野で既知の方法にしたがって行うことができるが、例えばイリジウム錯体の場合、ジョシホス配位子を[Ir(cod)Cl]2、[Ir(cod)OMe]2、[Ir(coe)2Cl]2、[Ir(CH2=CH2)2Cl]2または[Ir(cod)(acac)Cl]2と反応させることにより行うことができる。他の金属錯体の場合にも、同様の材料を使用して錯体構造を形成することができる。当該反応は、例えば、トルエン溶液中、0~30℃で1秒~10分間反応させることにより行うことができる。金属負荷量(コア/シェル型不均一系触媒の重量(g)あたりの金属量(μmol))は、好ましくは0.01~1000μmol/gであり、より好ましくは0.1~100μmol/gであり、特に好ましくは1~10μmol/gである。金属負荷量をこのような範囲とすることにより、優れたTOFが得られ、また長時間安定的に反応を行うことができる。
【0032】
あるいは、ジョシホス配位子に予め金属イオンを配位させてジョシホス-金属錯体構造3を形成してから、任意にリンカーを介してシェル部2に結合させてもよい。
実施形態に係るコア/シェル型不均一系触媒は、好ましくは球状であり、より好ましくは同心球状である。コア/シェル型不均一系触媒の直径は、2nm~1mmであることが好ましく、10nm~100μmであることがより好ましく、100nm~10μmであることが特に好ましい。このような大きさとすることにより、実施形態に係るコア/シェル型触媒を、所望の性能を達成しながらより簡便に作製することができる。
【0033】
実施形態に係るコア/シェル型不均一系触媒は、炭素窒素二重結合を有する任意の化合物の不斉水素化反応に使用することができる。すなわち、本発明の他の実施形態によると、実施形態に係るコア/シェル型不均一系触媒の存在下、炭素窒素二重結合を有する化合物を不斉水素化して光学活性化合物を得ることを含む、光学活性化合物の製造方法が提供される。炭素窒素二重結合を有する化合物としては、イミン(アルドイミン、ケトイミン)、オキシム、ニトロン等が挙げられる。特に、実施形態に係るコア/シェル型不均一系触媒の存在下でイミンを不斉水素化すると、光学活性アミンを首尾よく合成することができる。
【0034】
反応様式は、バッチ法および連続フロー法のいずれであってもよいが、連続フロー法は上述したような多くの利点を有するため、連続フロー法を使用することが好ましい。また、実施形態に係るコア/シェル型不均一系触媒を使用すると、バッチ法と少なくとも同等の収率で長時間にわたって安定的に目的化合物を製造することができる。すなわち、実施形態に係るコア/シェル型不均一系触媒は、連続フロー法において使用するのに特に適している。
【0035】
不斉水素化反応は、ケトンの存在下で行われてもよい。ケトンを使用することにより、カラム内で固体が析出することによるカラム詰まりを防ぐことができ、より効率よく反応を行うことができる。
【0036】
本発明の別の実施形態によると、実施形態に係るコア/シェル型不均一系触媒の存在下、以下の式(4)で表される化合物を不斉水素化して以下の式(5)で表される化合物((S)-メトラクロール中間体)を得ることと、前記式(5)で表される化合物((S)-メトラクロール中間体)をさらに反応させて、(S)-メトラクロールを得ることとを含む、(S)-メトラクロールの製造方法が提供される。
【化7】
【0037】
上述したとおり、メトラクロール、特に(S)-メトラクロールは農薬の有効成分として広く使用されている。したがって、実施形態に係るコア/シェル型不均一系触媒を連続フロー法に用いて(S)-メトラクラロールの中間体である光学活性アミンを連続的に合成することに成功した点には、非常に大きな意義がある。得られた(S)-メトラクロール中間体をアシル化して(S)-メトラクロールとし、農薬の有効成分として使用することができる。
【0038】
実施形態に係るコア/シェル型不均一系触媒を使用して不斉水素化反応を行った場合、60%以上、80%以上または90%以上の収率で目的物を得ることができる。また、連続フロー法を使用した場合には、長時間にわたって安定的に反応を行うことができ、例えば、10~200時間にわたって60%以上の収率を維持することができる。また、10~100,000、100~10,000または1,000~1,500の平均触媒回転頻度(TOF)を達成することができる。さらに、得られた光学活性化合物は、70%以上、75%以上または80%以上の光学純度(ee)を有する。
【実施例0039】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明の内容がこれにより限定されるものではない。
実施例1
<コア部(SiO2粒子)の作製>
3Lナスフラスコに、エタノール(1,255mL)、精製水(495mL)および28%アンモニア水(180mL)を加え、室温で攪拌した。そこへSi(OEt)4(TEOS、90mL)を一度に加え、攪拌を継続しながら室温で一晩反応させた。反応後の溶液をSTEMで観察したところ、得られたSiO2粒子の直径は333±15nmであることがわかった。さらに、エタノール(618mL)、精製水(248mL)および28%アンモニア水(90mL)を加え、よく攪拌しながらTEOS(65.99mL)をゆっくり滴下した。滴下後、さらに攪拌を継続しながら室温で一晩反応させた。反応後の溶液に、3-(トリメトキシシリル)プロピルメタクリレート(MPS、25mL)を加えた。フラスコ内をアルゴン雰囲気下に保ち、さらに攪拌を継続しながら室温で一晩反応させた。反応後の溶液を遠心分離して上澄みを捨て、沈殿物であるSiO2粒子を回収した。得られた沈殿物を再びエタノール(300mL)によく分散させ、遠心分離して上澄みを捨て、沈殿物を回収した(洗浄)。この洗浄操作を3回繰り返した後、得られた沈殿物をエタノール(500mL)に分散させて、アルゴン雰囲気下、-20℃で保管した。その分散液をSTEMで観察したところ、得られたSiO2粒子の直径は402±13nmであった。そのうちの1mLを採取して乾燥することにより、89.3mgのSiO2粒子が得られた。
【0040】
<コア/シェル型担体の作製>
コア材料として、上記で作製したSiO2粒子を使用した。
200mLナスフラスコに、SiO2コア分散液(89.3mg/mL、31.35mL)、エタノール(48.65mL)、精製水(34.29mL)および架橋剤入りスチレン(メタジビニルベンゼン(m-DVB)を含む、3.26mL、安定化剤フリー)を加え、0℃で攪拌しながら20分程度アルゴンでバブリングした。フラスコ内をアルゴン雰囲気下に保ったまま75℃に加熱、攪拌し、K2S2O8水溶液(2%、3.43mL)を素早く加えた。加熱および攪拌を継続したまま20分間反応させ、アジドメチルスチレンのスチレン溶液(10%、104μL、安定化剤フリー)を素早く加え、さらに30分間反応を継続した。ここで、上記共重合反応に使用したモノマーのうち、m-DVBが0.8モル%、アジドメチルスチレンが0.3モル%となるように各々を加えた。
【0041】
計50分間の反応後、フラスコ全体を素早く氷浴で冷却しながら大気解放した(1分間程度)。遠心分離して上澄みを捨て、沈殿物をエタノール(100mL)に再び分散させた。これを再度遠心分離して上澄みを捨て、沈殿物をトルエン(20mL)に分散させた。別の容器にエタノール(100mL)およびアンバーリスト(1g)を入れて攪拌しながら、沈殿物のトルエン分散液をゆっくりと注ぎ、75℃に加熱して1時間程度洗浄した。洗浄後、室温まで戻してアンバーリストを可能な限りデカンテーションで取り除き、分散液を遠心分離して上澄みを捨てた。残ったアンバーリストと凝集したコア/シェル型担体をトルエンで洗いこみながら、沈殿物をトルエン(100mL)に分散させた。得られたトルエン分散液を綿栓ろ過してアンバーリストを完全に除去し、ろ液を遠心分離して上澄みを捨てた。得られた沈殿物が、シェル部にジョシホス配位子が結合するための官能基(アジド基N3)を有するコア/シェル型担体であり(SiO2/PS-N3)、トルエンで膨潤した状態のまま次のステップで用いた。
【0042】
【0043】
得られたコア/シェル型担体の構造を、走査透過電子顕微鏡(STEM)分析を用いて確認した。50個の粒子を調べて平均(相加平均)を算出したところ、コアの直径は約400nm、シェルの厚みは32nmであった。エネルギー分散型X線分光法(EDS)マッピングにより、コアはシリコンおよび酸素を多く含み、シェルは炭素を多く含むことが確認された。
【0044】
<ジョシホス配位子およびリンカーの合成>
【化9】
【0045】
ジョシホス配位子として、上記化学式で示されるジョシホス-Brを使用した。100mLナスフラスコに、ジョシホス-Br(5.15g)および脱水エーテル(50mL)を加え、-78℃で攪拌した。そこへ、tBuLi(9.59mL、1.65Mヘキサン溶液)を滴下し、-78℃を保ったまま30分間反応させた。さらにクロロ(3-ブロモプロピル)ジメチルシラン(2.33g)をゆっくりと加え、冷却をやめて室温に戻しながら、2時間反応させた。得られた物質をカラムクロマトグラフィーで精製し、中間体混合物(5.86g)を得た。得られた中間体混合物に、THF(5mL)、ビシクロ[6,10]ノニン(BCN、4.10g)、TBAI(0.53g)およびNaOH水溶液(5g、50%)を加え、一晩反応させた。得られた物質をカラムクロマトグラフィーで精製し、目的物(ジョシホス-BCN、2.74g)および未反応のBCN(2.98g)を得た。
【0046】
なお、上記反応において使用したクロロ(3-ブロモプロピル)ジメチルシランは、以下のとおり合成した。
【化10】
【0047】
[Ir(cod)Cl]2(2.6mg)、アリルブロミド(3.49mL)および1,5-シクロオクタジエン(10μL)に、クロロジメチルシラン(5.18mL)を加え、40℃で6時間反応させた。得られた物質を減圧蒸留し、目的物(クロロ(3-ブロモプロピル)ジメチルシラン、6.44g)を得た。
【0048】
<ジョシホス配位子の担体への固定化およびIr錯体形成>
【化11】
【0049】
上記で作製したコア/シェル型担体(SiO
2/PS-N
3)を、最小量のトルエン(5mL)に完全に分散させ、上記で合成したジョシホス配位子(Josiphos-BCN)(26.4mg)を加えて、室温で2時間攪拌した。反応終了後、トルエン(20mL)をさらに加え、遠心分離して上澄みを回収し、得られた沈殿物をトルエン(20mL)に分散させた。再度遠心分離して上澄みを回収し、沈殿物を再びトルエンに分散させた。回収した上澄みを濃縮し、未反応のJosihpos-BCNの量をNMRで測定し、Josihpos-BCNの消費量を推測した。Josihpos-BCN消費量の0.4当量に相当する[Ir(cod)Cl]
2(Irとして0.8当量)を少量のトルエン(1mL)に溶解し、それを上記で得られたトルエン分散液に加えて1分間攪拌した。遠心分離して上澄みを捨て、沈殿物を再びトルエンに分散させた。再度遠心分離して上澄みを捨て、沈殿物をエタノールに分散させた。さらに遠心分離して上澄みを捨て、沈殿物を乾燥して目的のコア/シェル型不均一系触媒を微粉末として得た。このコア/シェル型不均一系触媒は、以下の表1に示す触媒14に該当する。得られたコア/シェル型不均一触媒の構造を、走査透過電子顕微鏡(STEM)を用いて分析した(
図2)。
【0050】
以下の表1に示す条件で、上記と同様に種々の触媒を作製した。表1の各項目の定義は、以下に示すとおりである。
・SiO
2量:コア部を構成するSiO
2粒子の重量(g)
・シェル部(共重合体)を構成する材料(モノマー)に対するメタジビニルベンゼン(m-DVB)の割合(モル%)(以下、架橋度とも称する)
・シェル部(共重合体)を構成する材料(モノマー)に対するアジドメチルスチレンの割合(モル%)
・シェル部厚み(nm):作製したコア/シェル型担体50個の相加平均
・Ir負荷量(μmol/g):コア/シェル型不均一系触媒の重量(g)あたりのIr量(μmol)
【表1】
【0051】
<不斉水素化反応>
上記で作製した触媒1~15を用いて、以下に示すとおりイミンの不斉水素化反応を行った((S)-メトラクロール中間体の合成)。
【化12】
【0052】
触媒0.6gをセルロース2.40gと混合し、カラム(φ4.6x250mm)に充填した。イミン(1)19.02g、ケトン(2)3.96g、TFA115μLおよびTBAI66.6mgの混合物と5MPaの水素ガスをT字ミキサーで混ぜながら、50℃に保ったカラムに流し込んだ。混合物の流速は20μL/minであり、背圧弁を調節することによって水素ガスの流量を20mL/minとした。流出物を1時間ごとに分取し、それぞれ分析したところ、およそ3時間で定常状態に達した。6時間目のデータを代表値として比較した(表2)。表2における収率および平均触媒回転頻度(TOF)はNMRにて、光学純度(ee)はHPLC分析にて測定した。
【表2】
【0053】
触媒1~4では、架橋度を0.3%に固定してシェル部の厚みを変化させた。その結果、触媒1~3のTOFはほぼ同じであったが、シェル部の厚みが最も薄い触媒4でTOFの改善が見られた。これは、シェル部の厚みが薄いことにより、原料物質がシェル中の触媒活性部位へスムーズに到達できたためであると推測される。触媒5では、触媒1~4に対して架橋度を高くしたが(0.5%)、TOFに有意な変化は見られなかった。一方、触媒6において、触媒5に対してIr負荷量をほぼ半分にしたが、驚くべきことに高い収率が維持され、さらには触媒5のほぼ倍のTOFが得られた。触媒7~10では、架橋度をさらに高くし、シェル部の厚みを変化させた。触媒7~10においては、コア部を形成するSiO2粒子の量が多いほど、TOFが向上する傾向が見られた。触媒11~13ではさらに架橋度を高くしたが、TOFはむしろ低下した。触媒14では、シェル部に導入するジョシホス配位子を結合させるための官能基(N3基)の量を減らしたところ、TOFの大幅な改善が見られた。この結果から、シェル部内に触媒活性部位が多く存在しすぎると、互いに障害となり、かえって触媒活性が低くなると推測された。触媒15では、N3基の量をさらに減らしてみたが、不安定となり、コア/シェル型触媒の流出も見られた。
【0054】
実施例2
続いて、上記で作製した触媒14を用いて、以下に示すように連続フロー法にてイミンの不斉水素化反応を行った((S)-メトラクロール中間体の合成)。
【化13】
【0055】
上述の実施例1と同じように材料を充填したカラムを2本直列に連結し、上述の実施例1と同じ混合物を10μL/minで水素ガスとともに流し込んだ。カラム温度、水素ガス圧力および流量は実施例1と同じとした。流出物を3時間ごとに分取し、それぞれ分析したところ、
図3のような結果であった。およそ10時間で安定し、12時間目以降の結果を積算したところTONは1.45×10
5であり、それを時間で割った平均TOFは1.12×10
3/hとなった。
【0056】
触媒14を使用して連続フロー法にてイミンを不斉水素化した場合、長時間にわたってより安定的に光学活性アミン(メトラクロール中間体)を得ることができた。具体的には、140時間にわたって60%以上の収率を維持することができた。
【0057】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。