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特開2023-130962シラノール化合物及び該シラノール化合物の製造方法並びに該シラノール化合物を含む組成物
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  • 特開-シラノール化合物及び該シラノール化合物の製造方法並びに該シラノール化合物を含む組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023130962
(43)【公開日】2023-09-21
(54)【発明の名称】シラノール化合物及び該シラノール化合物の製造方法並びに該シラノール化合物を含む組成物
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/18 20060101AFI20230913BHJP
【FI】
C01B33/18 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022035579
(22)【出願日】2022-03-08
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「有機ケイ素機能性化学品製造プロセス技術開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 正安
(72)【発明者】
【氏名】八木橋 不二夫
(72)【発明者】
【氏名】松本 朋浩
(72)【発明者】
【氏名】野澤 竹志
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 一彦
【テーマコード(参考)】
4G072
【Fターム(参考)】
4G072AA25
4G072AA50
4G072BB05
4G072GG01
4G072GG03
4G072HH28
4G072JJ14
4G072JJ16
4G072KK01
4G072LL15
4G072MM01
4G072RR01
4G072RR12
(57)【要約】      (修正有)
【課題】本発明は、結晶溶媒がなくても、脱水縮合が起こらず、単独の粉体として単離することが可能な新規のシラノール化合物を提供することを目的とする。
【解決手段】ドデカカリウム-2,4,6,8,10,12,14,16,18,20,22,24,25,26,27,28,29,30-オクタデカオキサ-1,3,5,7,9,11,13,15,17,19,21,23-ドデカシラヘプタシクロ[13.9.1.13,13.15,11.17,21.19,19.117,23]トリアコンタン-1,3,5,7,9,11,13,15,17,19,21,23-ドデカキス(オラート)ビス(α-デキストリン)水和物を含む分散液に酸性化合物を添加し、プロトン交換反応をさせることにより(HOSiO1.512で示されるかご型シルセスキオキサンを得る。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるシラノール化合物。
【化1】
【請求項2】
請求項1に記載のシラノール化合物を含む組成物。
【請求項3】
前記シラノール化合物の含有量が0.1~99.9質量%である、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
さらに水、エーテル化合物、アミン化合物、アミド化合物、アンモニウム塩、及び金属錯体からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項2又は3に記載の組成物。
【請求項5】
下記式(1)’で表される構造を有するケイ酸塩と、酸性化合物とを反応させて、下記式(1)で表されるシラノール化合物を含む溶液を得るプロトン交換工程を含む、シラノール化合物の製造方法。
【化2】
(式(1)’中、Qは、陽イオンを表す。)
【化3】
【請求項6】
プロトン交換工程で得られた溶液に該式(1)で表されるシラノール化合物を析出させるための貧溶媒を添加し、該式(1)で表されるシラノール化合物を析出させて、該式(1)で表されるシラノール化合物を粉体として単離する工程をさらに含む、請求項5に記載のシラノール化合物の製造方法。
【請求項7】
前記酸性化合物のジメチルスルホキシド(DMSO)中における酸解離定数pKaが-1~20である、請求項5又は6に記載のシラノール化合物の製造方法。
【請求項8】
前記酸性化合物のジメチルスルホキシド(DMSO)中における酸解離定数pKaが12.6以下である、請求項5~7のいずれか一項に記載のシラノール化合物の製造方法。
【請求項9】
前記酸性化合物が無機酸である、請求項5~8のいずれか一項に記載のシラノール化合物の製造方法。
【請求項10】
前記無機酸が塩酸又は硝酸である、請求項9に記載のシラノール化合物の製造方法。
【請求項11】
前記無機酸が塩酸である、請求項9に記載のシラノール化合物の製造方法。
【請求項12】
前記酸性化合物が、酢酸及び下記式(b-1)~(b-5)で表される構造を有する化合物からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項5~8のいずれか一項に記載のシラノール化合物の製造方法。
【化4】
(式(b-1)~(b-5)中、Xはそれぞれ独立して酸素原子、硫黄原子、又はアミノ基(-NR-)を、Rは水素原子又は炭素原子数1~14の炭化水素基を、Rはそれぞれ独立して水素原子又は炭素原子数1~14の炭化水素基を表す。)
【請求項13】
前記酸性化合物が、前記式(b-2)~(b-5)で表される構造からなる群より選択される少なくとも1種の構造を有する樹脂である、請求項12に記載のシラノール化合物の製造方法。
【請求項14】
前記プロトン交換工程が、水、エーテル系液体、アルコール系液体、アミド系液体、エステル系液体、ハロゲン系液体、及び非プロトン性極性液体からなる群より選択される少なくとも1種の液体中で行われる、請求項5~13のいずれか一項に記載のシラノール化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シラノール化合物及び該シラノール化合物の製造方法並びに該シラノール化合物を含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
物質を原子レベルで制御して構築することにより、これまでにない物性が発現し、有用な材料にすることが可能になる。例えば、フラーレン、カーボンナノチューブ、グラフェンは、0次元、1次元、2次元に炭素が組み上がったナノカーボン材料であり、それぞれ特異な物性を有する。
【0003】
SiOは、炭素と同様に地球上に無尽蔵に存在し、現在までに様々な分野で使い続けられている材料である。ナノカーボン材料のようにSiOを原子レベルで制御して構築したSiO材料を得る方法としては、例えば、下記式で表されるSiOの基本単位である、オルトケイ酸(Si(OH))を組み上げる方法が効率的であると考えられる。
【化1】
【0004】
オルトケイ酸は、例えば、Pd又はPt/C触媒存在下、水素化分解で取り除くことが可能なベンジル保護基を有するケイ素化合物を反応させる方法により、合成及び単離できることが知られている(例えば、非特許文献1参照)。また、上記方法により、下記式で表されるようなオルトケイ酸の2量体、環状3量体、及び環状4量体の合成及び単離に成功している。これらのオルトケイ酸の2量体、環状3量体、及び環状4量体等のオリゴマー体もまた、SiO材料を得るための原料として有用である。
【化2】
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Nature Communications, 2017, 8, 140.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、オルトケイ酸(Si(OH))やその2量体、環状3量体、及び環状4量体は、合成及び単離に成功しているものの、水存在下で不安定であり、すぐに脱水縮合してしまい、取り扱い上、改善の余地がある。特に、下記式に示すオルトケイ酸(Si(OH))のかご型8量体(Q)は、配位安定化する結晶溶媒(アミド溶媒等)が存在しないと、脱水縮合が進行してしまうので、単独の粉体として単離することはできない。
【化3】
【0007】
一般的に、シラノール化合物は、結晶溶媒で溶媒和されていない単独の粉体の方が材料開発上で極めて有利である。
【0008】
そこで、本発明は、結晶溶媒がなくても、脱水縮合が起こらず、単独の粉体として単離することが可能なオルトケイ酸の新規なオリゴマーのシラノール化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討した結果、オルトケイ酸のかご型12量体(Q1212)が、結晶溶媒がなくても、脱水縮合が起こらず、単独の粉体として単離することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、下記の態様を含むものである。
[1]
下記式(1)で表されるシラノール化合物。
【化4】
[2]
[1]に記載のシラノール化合物を含む組成物。
[3]
前記シラノール化合物の含有量が0.1~99.9質量%である、[2]に記載の組成物。
[4]
さらに水、エーテル化合物、アミン化合物、アミド化合物、アンモニウム塩、及び金属錯体からなる群より選択される少なくとも1種を含む、[2]又は[3]に記載の組成物。
[5]
下記式(1)’で表される構造を有するケイ酸塩と、酸性化合物とを反応させて、下記式(1)で表されるシラノール化合物を含む溶液を得るプロトン交換工程を含む、シラノール化合物の製造方法。
【化5】
(式(1)’中、Qは、陽イオンを表す。)
【化6】
[6]
プロトン交換工程で得られた溶液に該式(1)で表されるシラノール化合物を析出させるための貧溶媒を添加し、該式(1)で表されるシラノール化合物を析出させて、該式(1)で表されるシラノール化合物を粉体として単離する工程をさらに含む、[5]に記載のシラノール化合物の製造方法。
[7]
前記酸性化合物のジメチルスルホキシド(DMSO)中における酸解離定数pKaが-1~20である、[5]又は[6]に記載のシラノール化合物の製造方法。
[8]
前記酸性化合物のジメチルスルホキシド(DMSO)中における酸解離定数pKaが12.6以下である、[5]~[7]のいずれかに記載のシラノール化合物の製造方法。
[9]
前記酸性化合物が無機酸である、[5]~[8]のいずれかに記載のシラノール化合物の製造方法。
[10]
前記無機酸が塩酸又は硝酸である、[9]に記載のシラノール化合物の製造方法。
[11]
前記無機酸が塩酸である、[9]に記載のシラノール化合物の製造方法。
[12]
前記酸性化合物が、酢酸及び下記式(b-1)~(b-5)で表される構造を有する化合物からなる群より選択される少なくとも1種である、[5]~[8]のいずれかに記載のシラノール化合物の製造方法。
【化7】
(式(b-1)~(b-5)中、Xはそれぞれ独立して酸素原子、硫黄原子、又はアミノ基(-NR-)を、Rは水素原子又は炭素原子数1~14の炭化水素基を、Rはそれぞれ独立して水素原子又は炭素原子数1~14の炭化水素基を表す。)
[13]
前記酸性化合物が、前記式(b-2)~(b-5)で表される構造からなる群より選択される少なくとも1種の構造を有する樹脂である、[12]に記載のシラノール化合物の製造方法。
[14]
前記プロトン交換工程が、水、エーテル系液体、アルコール系液体、アミド系液体、エステル系液体、ハロゲン系液体、及び非プロトン性極性液体からなる群より選択される少なくとも1種の液体中で行われる、[5]~[13]のいずれかに記載のシラノール化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、結晶溶媒がなくても、脱水縮合が起こらず、単独の粉体として単離することが可能な新規のシラノール化合物を提供することできる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1で得られた生成物の29Si-NMRの測定結果である。
図2】実施例1で得られた生成物の高分解能質量分析(TOF-MS)の測定結果である。
図3】式(1)’で表される構造を有するケイ酸塩に無機酸(例えば、塩酸)を作用させて、シラノール化合物を生成するプロトン交換反応式の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」と略記する。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0014】
<シラノール化合物>
本実施形態のシラノール化合物は、下記式(1)で表される。
【化8】
本実施形態のシラノール化合物は、上記のような構造を有することにより、結晶溶媒がなくても、脱水縮合が起こらず、単独の粉体として単離することができる。
従来のシラノール化合物(例えば、オルトケイ酸(Si(OH))のかご型8量体(Q))は、配位安定化する結晶溶媒(アミド溶媒等)が存在しないと、脱水縮合が進行してしまうので、単独の粉体として単離することはできない。
一方、本実施形態のシラノール化合物は、単独(例えば、純度:100%)の粉体として安定した状態を保つことができるので、取り扱いやすく、材料開発上で極めて有利である。
なお、本実施形態において、上記式(1)で表されるシラノール化合物は、各種NMR、高分解能質量分析、X線結晶構造解析により確認することができる。
【0015】
<シラノール化合物の製造方法>
本実施形態のシラノール化合物の製造方法は、下記式(1)’で表される構造を有するケイ酸塩(以下、「ケイ酸塩」と略す場合がある。)と、酸性化合物とを反応させて、下記式(1)で表されるシラノール化合物を含む溶液を得るプロトン交換工程(以下、「プロトン交換工程」と略す場合がある。)を含む。
【化9】
(式(1)’中、Qは、陽イオンを表す。)
【化10】
また、本実施形態のシラノール化合物の製造方法は、プロトン交換工程で得られた溶液に貧溶媒を添加し、該式(1)で表されるシラノール化合物を析出させて、該式(1)で表されるシラノール化合物を粉体として単離する工程(以下、「単離工程」と略す場合がある。)をさらに含むことが好ましい。
【0016】
以下、プロトン交換工程におけるケイ酸塩、酸性化合物、及びその他の反応条件等について詳細に説明する。
【0017】
(プロトン交換工程)
プロトン交換工程で用いるケイ酸塩の具体的種類、酸性化合物の具体的種類、酸性化合物の使用量、溶媒又は分散媒である反応媒体の種類、反応条件等は特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。
【0018】
プロトン交換工程に用いる酸性化合物としては、ジメチルスルホキシド(DMSO)中における酸解離定数pKa(以下、「pKa(DMSO)」と略す場合がある。)が-1~20である酸性化合物が好ましい。
【0019】
pKa(DMSO)が-1~20である酸性化合物によってプロトン交換することにより、シラノール化合物を効率良く製造できる傾向にある。pKa(DMSO)が-1~20であると、ケイ酸塩の陽イオン(Q)と酸性化合物のプロトン(H)の交換が効率良く進むとともに、副反応が抑えられる。このため、シラノール化合物自体を収率良く合成できる。また、本実施形態のシラノール化合物の製造方法は、反応が穏和な条件で速やかに進行するため、工業的に非常に適した製造方法である。なお、pKa(DMSO)が小さいほど、プロトン交換工程が速く進行する傾向にある。
【0020】
また、pKa(DMSO)は、DMSO中における酸性化合物の25℃での酸解離平衡の各成分の濃度から算出される公知の数値を意味する。具体的には下記式で算出される数値Kaを常用対数化した数値である。
【0021】
【数1】
【0022】
プロトン交換工程において、下記式(1)’で表される構造を有するケイ酸塩と、酸性化合物とを反応させる。
【化11】
(式(1)’中、Qは、陽イオンを表す。)
式(1)’中、Qである陽イオンとしては、特に限定されないが、例えば、リチウムイオン(Li)、ナトリウムイオン(Na)、カリウムイオン(K)等のアルカリ金属イオン、マグネシウムイオン(Mg2+)、及びカルシウムイオン(Ca2+)等のアルカリ土類金属イオン、鉄(III)イオン(Fe3+)、銅(II)イオン(Cu2+)、及び亜鉛イオン(Zn2+)等の遷移金属イオン、アンモニウムイオン(NH )、テトラメチルアンモニウムイオン(NMe )、エチルトリメチルアンモニウムイオン(NEtMe )、ジエチルジメチルアンモニウムイオン(NEtMe )、トリエチルメチルアンモニウムイオン(NEt3Me)、テトラエチルアンモニウムイオン(NEt )、テトラプロピルアンモニウムイオン(NPr )、及びテトラブチルアンモニウムイオン(NBu )等のアンモニウムイオンが挙げられる。これらの中でも、ナトリウムイオン(Na)、カリウムイオン(K)、テトラメチルアンモニウムイオン(NMe )、テトラエチルアンモニウムイオン(NEt )、及びエチルトリメチルアンモニウムイオン(NEtMe )が特に好ましい。
【0023】
プロトン交換工程において、酸性化合物と反応させるケイ酸塩は、特に限定されないが、例えば、Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 1997, 36, 743に記載の下記式で表されるような、2つのα-シクロデキストリン(αCD)が上下に配位したかご型ケイ酸カリウム12量体(Q1212)の水和物(ドデカカリウム-2,4,6,8,10,12,14,16,18,20,22,24,25,26,27,28,29,30-オクタデカオキサ-1,3,5,7,9,11,13,15,17,19,21,23-ドデカシラヘプタシクロ[13.9.1.13,13.15,11.17,21.19,19.117,23]トリアコンタン-1,3,5,7,9,11,13,15,17,19,21,23-ドデカキス(オラート) ビス(α-デキストリン) 水和物((以下、「Q1212・2αCD・nHO」と略す場合がある。))であってもよい。
【化12】
このようなQ1212・2αCD・nHOは、特に限定されないが、例えば、Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 1997, 36, 743.、Crystals 2018, 8, 457.の記載を参照して調製することができる。
【0024】
酸性化合物は、pKa(DMSO)が-1~20である酸性化合物であることが好ましい。酸性化合物のpKa(DMSO)は、好ましくは0以上、より好ましくは1以上、さらに好ましくは2以上であり、好ましくは16以下、より好ましくは14以下、さらに好ましくは8以下である。酸性化合物のpKa(DMSO)が上記範囲内であると、シラノール化合物が効率良く製造できる。
【0025】
酸性化合物の具体例としては、特に限定されないが、例えば、硝酸(pKa(DMSO)が1.4)、硫酸(pKa1(DMSO)が1.4、pKa2(DMSO)が14.7)、塩酸(pKa(DMSO)が2.1)、リン酸(pKa1(DMSO)が1.83、pKa2(DMSO)が6.43、pKa3(DMSO)が11.46)等の無機酸、及び酢酸若しくは下記式(b-1)~(b-5)で表される構造を有する化合物からなる群より選択される少なくとも1種である有機酸が挙げられる。
【化13】
(式(b-1)~(b-5)中、Xはそれぞれ独立して酸素原子、硫黄原子、又はアミノ基(-NR-)を、Rは水素原子又は炭素原子数1~14の炭化水素基を、Rはそれぞれ独立して水素原子又は炭素原子数1~14の炭化水素基を表す。)
【0026】
後述する反応媒体であるN,N-ジメチルアセトアミド(以下「DMAc」とも記す)やメタノール(以下「MeOH」とも記す)などの中で、有機酸を用いたプロトン交換反応を行うと、生成するアンモニウム塩又はアルカリ金属塩が反応媒体に溶解する。このため、カラム精製等によって副生成物であるアンモニウム塩又はアルカリ金属塩を分離することが好ましい。一方、後述する反応媒体であるテトラヒドロフラン(以下「THF」とも記す)などの中で、無機酸を用いたプロトン交換反応を行うと、生成するアンモニウム塩又はアルカリ金属塩及びα-デキストリンとα-デキストリンに由来する化学種は反応媒体に溶解しにくい。このため、フィルター濾過等の簡易な分離手段によりアンモニウム塩又はアルカリ金属塩の分離ができ、濾液であるシラノール化合物溶液が得られる。したがって、酸性化合物は無機酸であることが好ましい。
【0027】
無機酸の中でも、硝酸、硫酸、塩酸、及びリン酸が好ましく、硝酸又は塩酸がより好ましく、塩酸が特に好ましい。塩酸は、安価であり、また、塩酸を用いた場合に収率が高くなる傾向にある。
【0028】
なお、上記式(b-2)~(b-5)中の波線は、その先が任意の構造であることを意味する。例えば、酸性化合物は、反応に関与しない官能基等を含んでいてもよい。したがって、例えば、上記式(b-4)で表される構造を有する酸性化合物は、下記式で表されるマロン酸ジメチルのように、Xに該当する酸素原子の先にメチル基のような炭化水素基を含む化合物であってもよい。また、例えば、上記式(b-4)で表される構造を有する酸性化合物は、下記式で表されるメルドラム酸のように、Xに該当する酸素原子の先の炭化水素基が結合して、環状構造を形成している化合物であってもよい。
【0029】
【化14】
【0030】
上記式(b-1)~(b-5)で表される構造は、いわゆるβ-ジカルボニル構造であるが、2つのカルボニル基に挟まれたメチレン基の水素、即ちα-水素は酸点として働くことが知られている。上記式(b-1)~(b-5)で表される構造を有することによって、酸性化合物は、適度な酸解離定数を示すとともに、プロトンの解離によって生成した陰イオンの電子が構造内で非局在化する。例えば、上記式(b-2)で表される構造を有する酸性化合物は、下記式で表されるようにプロトン解離する。このため、上記式(b-1)~(b-5)で表される構造を有する酸性化合物は、陰イオンの塩基性や求核性が抑えられて、副反応が効果的に抑制できると考えられる。
【0031】
【化15】
【0032】
Xであるアミノ基(-NR-)としては、例えば第二級アミノ基(-NH-)が挙げられる。Xは酸素原子であることが特に好ましい。Rが炭化水素基である場合の炭素原子数は、好ましくは6以下、より好ましくは5以下、さらに好ましく4以下である。Rとしては、特に限定されず、例えば、水素原子、メチル基(-Me)、エチル基(-Et)、n-プロピル基(-nPr)、i-プロピル基(-iPr)、及びn-ブチル基(-nBu)、フェニル基(-Ph)が挙げられるが、水素原子であることが好ましい。
【0033】
が炭化水素基である場合の炭素原子数は、好ましくは5以下、より好ましくは4以下、さらに好ましくは3以下である。Rとしては、例えば、水素原子、メチル基(-Me)、エチル基(-Et)、n-プロピル基(-nPr)、i-プロピル基(-iPr)、及びn-ブチル基(-nBu)が挙げられるが、水素原子であることが好ましい。
【0034】
上記式(b-4)で表される酸性化合物としては、特に限定されないが、例えば、下記式(b-4-1)で表される酸性化合物が挙げられる。上記式(b-5)で表される酸性化合物としては、例えば、下記式(b-5-1)で表される酸性化合物が挙げられる。
【0035】
【化16】
(式(b-4-1)及び(b-5-1)中、Rは水素原子又は炭素原子数1~14の炭化水素基を、Rは炭素原子数1~14の2価の炭化水素基を、それぞれ表す。)
【0036】
としては、特に限定されないが、例えば、メチレン基(-CH-)、エチレン基(-CHCH-)、n-プロピレン基(-CHCHCH-)、ジメチルメチレン基(-C(CH-)、及びi-プロピレン基(-CH(CH)CH-)が挙げられる。
【0037】
酸性化合物の具体例としては、特に限定されないが、例えば、酢酸(pKa(DMSO)が12.6)、安息香酸(pKa(DMSO)が11.1)、メルドラム酸(pKa(DMSO)が7.3)、メルドラム酸誘導体、ジメドン(pKa(DMSO)が11.2)、ジメドン誘導体、アセチルアセトン(pKa(DMSO)が13.3)、及びアセチルアセトン誘導体が挙げられる(下記式参照)。
【0038】
【化17】
【0039】
酸性化合物として、メルドラム酸のような低分子化合物、又は樹脂等の有機固体材料若しくはシリカやカーボン等の無機固体材料に上記式(b-2)~(b-5)で表される化合物が導入されたものが利用できる。酸性化合物がこのような固体であると、カラムに充填してイオン交換樹脂のように利用することができる。このため、シラノール化合物を非常に効率良く製造できる。酸性化合物として、一般的な固体酸(例えば、アンバーリストやアンバーライトなど)を使用してもよい。
【0040】
特に酸性化合物は、上記式(b-2)~(b-5)からなる群より選択される少なくとも1種の構造を有する樹脂であることが好ましく、プロトン交換工程を行った後、塩酸等の酸性水溶液にさらすことによって、酸性化合物として再生できるものであることが好ましい。
【0041】
プロトン交換工程における酸性化合物の使用量は、ケイ酸塩に対して物質量換算で、通常1倍以上、好ましくは1.5倍以上、より好ましくは2.0倍以上であり、通常50倍以下、好ましくは20倍以下、より好ましくは5倍以下である。酸性化合物の使用量が上記範囲内であると、シラノール化合物を効率良く製造できる。
【0042】
プロトン交換工程における反応は液体(反応媒体)中で行われることが好ましい。このような反応媒体としては、特に限定されないが、例えば、テトラヒドロフラン(THF)、テトラヒドロピラン、ジオキサン、ジエチルエーテル(EtO)、ジメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジフェニルエーテル、メチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、及びトリエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系液体、メタノール、エタノール、n-プロパノール、及びi-プロパノール等のアルコール系液体、ホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、尿素、及びテトラメチル尿素等のアミド系液体、酢酸エチル、酢酸n-アミル、及び乳酸エチル等のエステル系液体、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、テトラクロロエタン、及びヘキサクロロエタン等のハロゲン系液体、アセトニトリル、アセトン、メチルエチルケトン、フェニルメチルケトン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、並びに水が挙げられる。
なお、反応媒体は、1種類に限られず、2種類以上を組み合せてもよい。
【0043】
プロトン交換工程における反応媒体の使用量は、ケイ酸塩の含有量が0.005~0.04mol/Lとなる量であることが好ましい。このケイ酸塩の含有量であると、シラノール化合物を効率良く製造できるからである。プロトン交換工程における反応温度は、通常-80℃以上、好ましくは0℃以上、より好ましくは20℃以上であり、通常200℃以下、好ましくは70℃以下、より好ましくは40℃以下である。プロトン交換工程における反応時間は、通常48時間以下、好ましくは24時間以下、より好ましくは8時間以下、特に好ましくは1時間以下である。上記範囲内であると、シラノール化合物を効率良く製造できる。
【0044】
(単離工程)
本実施形態のシラノール化合物の製造方法は、プロトン交換工程で得られた上記式(1)で表されるシラノール化合物の溶液に貧溶媒を添加し、上記式(1)で表されるシラノール化合物を析出させて、上記式(1)で表されるシラノール化合物を粉体として単離する工程を含むことが好ましい。本実施形態のシラノール化合物の製造方法は、このような工程を含むことにより、結晶溶媒がなくても、脱水縮合が起こらず、上記式(1)で表されるシラノール化合物を単独の粉体として極めて簡便に単離することができる。
【0045】
上記式(1)で表されるシラノール化合物を析出させるための貧溶媒としては、特に限定されないが、例えば、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、ジブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジエチルエーテル、ジクロロメタン、クロロホルム、酢酸エチルが挙げられる。中でも、ヘキサン、ベンゼン、ジイソプロピルエーテル、酢酸エチルであることが好ましく、ジエチルエーテル及び酢酸エチルが特に好ましい。
また、単離工程において、酸性化合物と反応させるケイ酸塩として、配位子(例えば、αCD)が配位した前駆体(例えば、Q1212・2αCD・nHO)を用いる場合、上記式(1)で表されるシラノール化合物を析出させるための貧溶媒として、配位子および配位子の分解物(例えば、αCDおよびαCDの分解物)を溶解する溶媒を用いることが好ましい。
上記式(1)で表されるシラノール化合物を析出させるための貧溶媒の沸点は、通常0℃以上、好ましくは10℃以上、より好ましくは30℃以上であり、通常300℃以下、好ましくは200℃以下、より好ましくは150℃以下である。
【0046】
また、プロトン交換工程で得られた溶液は、反応で生成した塩をろ過した後、ろ液を濃縮した濃縮液とすることが好ましい。当該濃縮液を用いることにより、上記式(1)で表されるシラノール化合物を一層効率よく析出させることができる。
【0047】
単離工程において、上記式(1)で表されるシラノール化合物を析出させる時間等は特に限定されず、適宜選択することができ、通常24時間以下、好ましくは12時間以下、より好ましくは6時間以下であり、通常0.25時間以上、好ましくは0.5時間以上、より好ましくは1時間以上である。当該シラノール化合物を析出させる際、撹拌していた方が析出する粒子が均一になり、乾燥工程で粉末化しやすい。
【0048】
上記式(1)で表されるシラノール化合物を粉体として単離する方法としては、特に限定されないが、例えば、ろ過、が挙げられる。
さらに、このような単離方法により得られた上記式(1)で表されるシラノール化合物の粉体を乾燥することが好ましい。乾燥温度、乾燥圧力、乾燥時間等は特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。
【0049】
<組成物>
本実施形態の組成物は、上記式(1)で表されるシラノール化合物を含む。
本実施形態の組成物において、上記式(1)で表されるシラノール化合物以外に含まれる化合物の種類等は特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。なお、上述したとおり、本実施形態のシラノール化合物は、単独(純度:100%)の粉体として単離することができるため、本実施形態の組成物中の上記式(1)で表されるシラノール化合物の含有量は適宜調整できる。本実施形態の組成物中の上記式(1)で表されるシラノール化合物の含有量は、特に限定されないが、例えば、0.1~99.9質量%であることが好ましく、25~50質量%であることがより好ましく、50~70質量%であることがさらに好ましく、70~99質量%であることが特に好ましい。
【0050】
本実施形態の組成物において、上記式(1)で表されるシラノール化合物以外に含まれる化合物としては、特に限定されないが、例えば、水、エーテル化合物、アミン化合物、アミド化合物、アンモニウム塩、及び金属錯体が挙げられる。
【0051】
アミン化合物は、アミノ基(第一級アミン、第二級アミン、第三級アミンのいずれであってもよい。)を有するものであれば、具体的な種類は特に限定されない。なお、アミノ基とアミド基の両方を有する化合物は、「アミド化合物」に分類する。アミン化合物としては、例えば、アニリン(NHPh)、ジフェニルアミン(NHPh)、ジメチルピリジン(MePyr)、ジ-tert-ブチルピリジン(tBuPyr)、ピラジン(Pyraz)、トリフェニルアミン(NPh)、トリエチルアミン(EtN)、及びジ-イソプロピルエチルアミン(iPrEtN)が挙げられる。アミン化合物の中でも、アニリン(NHPh)が特に好ましい。なお、組成物に含まれるアミン化合物は、1種類に限られず、2種類以上を含むものであってもよい。
【0052】
本実施形態の組成物におけるアミン化合物の含有量(2種類以上含む場合は総含有量)は、好ましくは0.1質量%より多く、より好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上であり、通常95質量%未満、好ましくは80質量%以下、より好ましくは60質量%以下、さらに好ましくは50質量%以下である。
【0053】
アミド化合物は、アミド結合を有するものであれば、具体的な種類は特に限定されない。アミド化合物としては、例えば、下記式(i)又は(ii)で表される化合物が挙げられる。
【0054】
【化18】
(式(i)及び(ii)中、R’及びR”はそれぞれ独立して水素原子又は炭素原子数1~10の炭化水素基を表す。)
【0055】
R’及びR”としては、特に限定されないが、例えば、水素原子、メチル基(-Me)、エチル基(-Et)、n-プロピル基(-nPr)、i-プロピル基(-iPr)、及びフェニル基(-Ph)が挙げられる。上記式(i)で表される化合物としては、特に限定されないが、例えば、ホルムアミド、DMF、アセトアミド、N-メチルアセトアミド、及びDMAcが挙げられる。上記式(ii)で表される化合物としては、特に限定されないが、例えば、尿素、及びテトラメチル尿素(MeUrea)が挙げられる。本実施形態の組成物におけるアミド化合物の含有量(2種類以上含む場合は総含有量)は、0質量%(含有しない)以上90質量%以下であってもよい。
【0056】
アンモニウム塩は、アンモニウムイオンと対アニオンからなる化合物であれば、具体的な種類は特に限定されない。アンモニウムイオンとしては、特に限定されないが、例えば、テトラヒドロアンモニウムイオン(NH )、テトラメチルアンモニウムイオン(NMe )、テトラエチルアンモニウムイオン(NEt )、テトラプロピルアンモニウムイオン(NPr )、テトラブチルアンモニウムイオン(NBu )、ベンジルトリブチルアンモニウムイオン(NBnBu )、トリブチル(メチル)アンモニウム(NBuMe)イオン、テトラペンチルアンモニウムイオン(NPen )、テトラへキシルアンモニウムイオン(NHex )、テトラヘプチルアンモニウムイオン(NHep )、1-ブチル-1メチルピロリジウムイオン(BuMePyr)、メチルトリオクチルアンモニウムイオン(NMeOct )、ジメチルジオクタデシルアンモニウムイオン、ヒドロピリジニリウムイオン(CH)、ヒドロアニリニウムイオン(PhNH H)、トリメチルアダマンチルアンモニウムイオン及びメルドラム酸イオンが挙げられる。また、対アニオンとしては、例えば、フッ化物イオン(F)、塩化物イオン(Cl)、臭化物イオン(Br)、ヨウ化物イオン(I)、アセトキシイオン(AcO)、硝酸イオン(NO )、アジ化物イオン(N )、テトラフルオロホウ酸イオン(BF )、過塩素酸イオン(ClO )、及び硫酸イオン(HSO )が挙げられる。
【0057】
アンモニウム塩としては、テトラブチルアンモニウムクロリド(NBuCl)、テトラブチルアンモニウムブロミド(NBuBr)、テトラペンチルアンモニウムクロリド(NPenCl)、ジメチルジオクタデシルアンモニウムクロリド、トリメチルアダマンチルアンモニウムヒドロキシド、メルドラム酸-テトラメチルアンモニウム塩が特に好ましい。なお、組成物に含まれるアンモニウム塩は、1種類に限られず、2種類以上を含むものであってもよい。
【0058】
本実施形態の組成物におけるアンモニウム塩の含有量(2種類以上含む場合は総含有量)は、好ましくは0.1質量%より多く、より好ましくは50質量%以上であり、通常95質量%未満、好ましくは80質量%以下である。また、本実施形態の組成物におけるアンモニウム塩のシラノール化合物に対する比率(アンモニウム塩の総物質量/シラノール化合物の総物質量)は、好ましくは0より大きく、より好ましくは1以上であり、通常12以下、好ましくは8以下、より好ましくは6以下である。
【実施例0059】
以下、具体的な実施例を用いて本実施形態についてさらに詳しく説明するが、本実施形態は、以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0060】
[実施例1]Q1212の合成
ドデカカリウム-2,4,6,8,10,12,14,16,18,20,22,24,25,26,27,28,29,30-オクタデカオキサ-1,3,5,7,9,11,13,15,17,19,21,23-ドデカシラヘプタシクロ[13.9.1.13,13.15,11.17,21.19,19.117,23]トリアコンタン-1,3,5,7,9,11,13,15,17,19,21,23-ドデカキス(オラート) ビス(α-デキストリン) 水和物(以下、「Q1212・2αCD・nHO」と略す場合がある。)、Q1212・2αCD・49.2HO、0.823g(0.200mmol)をTHF(反応溶媒)10mLに懸濁させた分散液に塩酸0.501mL(6.00mmol)を加え、15分間攪拌することで懸濁液を得た。この懸濁液をフィルターろ過してろ液を得た。
得られたろ液に酢酸エチル(貧溶媒)10mLを加え、10分間攪拌し、再沈殿(固形物を析出)させた。この懸濁溶液をフィルターろ過して固形物を分離した。固形物を回収した後、減圧乾燥することで組成式Si123012で表される化合物(下記式(1)で表される化合物であり、2,4,6,8,10,12,14,16,18,20,22,24,25,26,27,28,29,30-オクタデカオキサ-1,3,5,7,9,11,13,15,17,19,21,23-ドデカシラヘプタシクロ[13.9.1.13,13.15,11.17,21.19,19.117,23]トリアコンタン-1,3,5,7,9,11,13,15,17,19,21,23-ドデカオール(CAS番号126347-25-9(以下、「Q1212」と略す場合がある。))を無色固体(粉体、)として収率90%(0.170g)で単離した。なお、Q1212の無色固体(粉体)を重水素化されたDMSO-dに溶解させ、NMRを測定したところ、H-NMRで7.07ppm、29Si-NMRで-101.2ppmにピークが観測された。また、Q1212の無色固体(粉体)をジメチルスルホキシドとアセトニトリルとの混合溶媒に溶かし、高分解能質量分析(TOF-MS)を行った結果、理論値:H1230Si12Na[M+Na]850.6537に対して、実測値は850.6538であった。以上、各種NMR及び高分解能質量分析により、実施例1で得られた生成物が下記式(1)で表される構造のQ1212であることを確認した。Q1212は、単独(純度:100%)の粉体として安定した状態を保つことができることがわかった。
【化19】
【0061】
[実施例2]Q1212の合成
1212・2αCD・59.3HO、6.845g(1.602mmol)をTHF(反応溶媒)80mLに懸濁させた分散液に塩酸3.924mL(46.99mmol)を加え、15分間攪拌することで懸濁液を得た。この懸濁液をフィルターろ過してろ液を得た。
得られたろ液に酢酸エチル(貧溶媒)80mLを加え、60分間攪拌し、再沈殿(固形物を析出)させた。この懸濁溶液をフィルターろ過して固形物を分離した。固形物を回収した後、減圧乾燥することでQ1212を無色固体(粉体)として収率74%(1.167g)で単離した。
【0062】
[実施例3]Q1212の合成
1212・2αCD・59.3HO、6.886g(1.602mmol)をTHF(反応溶媒)80mLに懸濁させた分散液に硝酸3.007mL(47.44mmol)を加え、15分間攪拌することで懸濁液を得た。この懸濁液をフィルターろ過してろ液を得た。
得られたろ液に酢酸エチル(貧溶媒)80mLを加え、60分間攪拌し、再沈殿(固形物を析出)させた。この懸濁溶液をフィルターろ過して固形物を分離した。固形物を回収した後、減圧乾燥することでQ1212を無色固体(粉体)として収率14%(0.215g)で単離した。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本実施形態のシラノール化合物は、単独(例えば、純度:100%)の粉体として安定した状態を保つことができるので、取り扱いやすく、材料開発上で極めて有利であり、産業上の利用可能性がある。
図1
図2
図3