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特開2023-130997セリウム(III)イオンと、該セリウム(III)イオンと配位結合を形成する配位子と、を含む希土類錯体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023130997
(43)【公開日】2023-09-21
(54)【発明の名称】セリウム(III)イオンと、該セリウム(III)イオンと配位結合を形成する配位子と、を含む希土類錯体
(51)【国際特許分類】
   C07C 63/10 20060101AFI20230913BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20230913BHJP
   C07F 5/00 20060101ALN20230913BHJP
【FI】
C07C63/10
C09K11/06 660
C07F5/00 D CSP
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022035630
(22)【出願日】2022-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124800
【弁理士】
【氏名又は名称】諏澤 勇司
(74)【代理人】
【識別番号】100140578
【弁理士】
【氏名又は名称】沖田 英樹
(72)【発明者】
【氏名】北川 裕一
(72)【発明者】
【氏名】富川 虎乃輔
(72)【発明者】
【氏名】庄司 淳
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 靖哉
(72)【発明者】
【氏名】伏見 公志
(72)【発明者】
【氏名】赤間 知子
(72)【発明者】
【氏名】小林 正人
(72)【発明者】
【氏名】武次 徹也
【テーマコード(参考)】
4H006
4H048
【Fターム(参考)】
4H006AA01
4H006AB92
4H006BJ50
4H006BM71
4H006BS30
4H048AA01
4H048AB92
4H048BB14
4H048BC10
4H048BC19
4H048VA11
4H048VA20
4H048VA70
4H048VB10
(57)【要約】
【課題】セリウム(III)イオンと有機配位子とを含む錯体であって、発光する錯体を提供すること。
【解決手段】セリウム(III)イオンと、該セリウム(III)イオンと配位結合を形成する配位子と、を含む希土類錯体であって、配位子のHOMOのエネルギーが-8.5eV以下である、希土類錯体が開示される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セリウム(III)イオンと、該セリウム(III)イオンと配位結合を形成する配位子と、を含む希土類錯体であって、
前記配位子のHOMOのエネルギーが-8.5eV以下である、希土類錯体。
【請求項2】
前記配位子のLUMOのエネルギーが2.3eV以下である、請求項1に記載の錯体。
【請求項3】
セリウム(III)イオンと、該セリウム(III)イオンと配位結合を形成する配位子と、を含む希土類錯体であって、
前記配位子が、
芳香族炭化水素環と、前記芳香族炭化水素環に結合した電子吸引性基と、前記芳香族炭化水素環に結合したカルボキシレート基又はホスフィンオキシド基とを有する配位子(A)、
セリウム(III)イオンと配位結合を形成する1個の複素原子を含む芳香族複素環と、前記セリウム(III)イオンと配位結合を形成する1個の複素原子を含む芳香族複素環に結合した電子吸引性基とを有し、前記セリウム(III)イオンと配位結合を形成する1個の複素原子を含む芳香族複素環に結合したカルボキシレート基又はホスフィンオキシド基を有しない配位子(B)、
1個の複素原子を含む芳香族複素環と、前記1個の複素原子を含む芳香族複素環に結合した電子吸引性基と、前記1個の複素原子を含む芳香族複素環に結合したカルボキシレート基又はホスフィンオキシド基とを有する配位子(C)、
複数の複素原子を含む芳香族複素環と、前記複数の複素原子を含む芳香族複素環に結合したカルボキシレート基又はホスフィンオキシド基とを有する配位子(D)、及び、
セリウム(III)イオンと配位結合を形成する複数の複素原子を含む芳香族複素環を有し、前記セリウム(III)イオンと配位結合を形成する複数の複素原子を含む芳香族複素環に結合したカルボキシレート基又はホスフィンオキシド基を有しない配位子(E)
から選ばれる1種以上である、希土類錯体。
【請求項4】
前記配位子(A)中の前記芳香族炭化水素環が、ベンゼン環である、請求項3に記載の希土類錯体。
【請求項5】
前記配位子(B)及び前記配位子(C)中の前記1個の複素原子を含む芳香族複素環が、ピリジン環である、請求項3又は4に記載の希土類錯体。
【請求項6】
前記配位子(D)及び配位子(E)中の前記複数の複素原子を含む芳香族複素環が、ピラジン環、キノキサリン環、トリアジン環、トリアゾール環、ベンゾチアジアゾール環、チアントレン環、テトラアザトリフェニレン環、又はヘキサアザトリフェニレン環である、請求項3~5のいずれか一項に記載の希土類錯体。
【請求項7】
前記電子吸引性基が、シアノ基、ニトロ基、カルボキシ基、カルバモイル基、アミノスルホニル基、アルキルカルボニル基、アルコキシカルボニル基、及びハロゲノ基からなる群より選ばれる基である、請求項3~6のいずれか一項に記載の希土類錯体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セリウム(III)イオンと、該セリウム(III)イオンと配位結合を形成する配位子と、を含む希土類錯体に関する。
【背景技術】
【0002】
セリウムは地殻中に豊富に存在しており、優れた発光特性、光触媒特性等を有することから注目されている。例えば、特許文献1には、β型Si結晶構造若しくはAlN結晶構造を持つ窒化物又は酸窒化物を母体結晶とし、Ceを発光中心として添加した固溶体結晶は450nm以上500nm以下の範囲の波長にピークを持つ発光を有する蛍光体となることを見出したと記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2006/101096号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
既報のセリウムを含む発光体は主に無機塩及び無機セラミックスであり、有機配位子を導入したセリウム錯体の多くは発光を示さないことが知られている。
【0005】
本発明の一側面は、セリウム(III)イオンと有機配位子とを含む錯体であって、発光する錯体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面は、セリウム(III)イオンと、該セリウム(III)イオンと配位結合を形成する配位子と、を含む希土類錯体であって、配位子のHOMOのエネルギーが-8.5eV以下である、錯体を提供する。
【0007】
本発明の別の一側面は、セリウム(III)イオンと、該セリウム(III)イオンと配位結合を形成する配位子と、を含む希土類錯体であって、配位子が、
芳香族炭化水素環と、芳香族炭化水素環に結合した電子吸引性基と、芳香族炭化水素環に結合したカルボキシレート基又はホスフィンオキシド基とを有する配位子(A)、
セリウム(III)イオンと配位結合を形成する1個の複素原子を含む芳香族複素環と、セリウム(III)イオンと配位結合を形成する1個の複素原子を含む芳香族複素環に結合した電子吸引性基とを有し、セリウム(III)イオンと配位結合を形成する1個の複素原子を含む芳香族複素環に結合したカルボキシレート基又はホスフィンオキシド基を有しない配位子(B)、
1個の複素原子を含む芳香族複素環と、1個の複素原子を含む芳香族複素環に結合した電子吸引性基と、1個の複素原子を含む芳香族複素環に結合したカルボキシレート基又はホスフィンオキシド基とを有する配位子(C)、
複数の複素原子を含む芳香族複素環と、複数の複素原子を含む芳香族複素環に結合したカルボキシレート基又はホスフィンオキシド基とを有する配位子(D)、及び、
セリウム(III)イオンと配位結合を形成する複数の複素原子を含む芳香族複素環を有し、前記セリウム(III)イオンと配位結合を形成する複数の複素原子を含む芳香族複素環に結合したカルボキシレート基又はホスフィンオキシド基を有しない配位子(E)
から選ばれる1種以上である、希土類錯体を提供する。
【発明の効果】
【0008】
セリウム(III)イオンと有機配位子とを含む錯体であって、発光する錯体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】合成した[Ce(III)(PFBA)(MeOH)の単結晶X線構造解析の結果を示す図である。
図2】希土類錯体の粉末XRDパターンである。
図3】希土類錯体の拡散反射スペクトルである。
図4】希土類錯体の発光スペクトルである。
図5】振動結合によるMLCTの安定化を説明する概念図である。
図6】希土類錯体の発光スペクトル及び励起スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、以下の例に限定されるものではない。
【0011】
希土類錯体の一例は、セリウム(III)イオンと、該セリウム(III)イオンと配位結合を形成する配位子と、を含む。セリウム(III)イオンと配位結合を形成する配位子は、中性配位子であってもよく、アニオン性配位子であってもよい。
【0012】
本発明者らは、セリウム(III)イオンと、ヘキサフルオロアセチルアセトナト(hfa)及びトリフェニルホスフィンオキサイド(TPPO)とを有し、hfa及びTPPOがセリウム(III)イオンと配位結合を形成している希土類錯体であるCe(hfa)(TPPO)を合成し、実験的及び計算的な手法を用いて電子構造を調べた。その結果、hfa内の強いS-T遷移が観測されたものの、セリウム(III)の4f軌道に基づく吸収帯及び発光帯が観測されなかった。量子化学計算による解析の結果、Ce(hfa)(TPPO)では、
1)主要な励起状態が4f-5d電子配置ではなく4f-π電子配置(MLCT)に起因するものであること、及び、
2)4f-πの電子配置が配位子のπ-πの電子配置よりもエネルギー的に不安定であり、S1準位やT1準位がMLCTのクエンチ順位としてはたらいてしまうこと
が明らかとなった。以上の結果から、錯体に光機能を付与するためには、HOMOのエネルギーが低くアクセプター性が高い配位子を用いることにより、錯体のMLCT準位を安定化させることが重要であることを見出した。
【0013】
一実施形態において、配位子のHOMOのエネルギーは-8.5eV以下である。配位子のHOMOのエネルギーが-8.5eV以下であると、配位子の局在励起凖位より4f-π凖位を安定にすることができる。配位子のHOMOのエネルギーは、例えば、-12eV以上であってよい。
【0014】
一実施形態において、配位子のLUMOのエネルギーは2.3eV以下であってよい。配位子のLUMOのエネルギーが2.3eV以下であると、セリウムの4f軌道とπ軌道とのエネルギーギャップが小さくなるため、可視光波長に発光を示しやすい。配位子のLUMOのエネルギーは、例えば、-3.0eV以上であってよい。
【0015】
本明細書において、配位子のHOMO及びLUMOのエネルギーは、配位子が中性配位子である場合は中性配位子を、配位子がアニオン配位子である場合はアニオン配位子及びNaイオンを配置して、PM6法により構造最適化計算を行うことと、得られた構造に対して更にDFT法によりB3LYP-D3/cc-pCDZを用いて構造最適化計算を行うことと、得られた構造に基づいてLC-BLYP/cc-pCDZを用いてエネルギー計算を行う方法により算出される。ただし、配位子がアニオン配位子である場合に、Naイオンの寄与が大きい軌道は考慮しない。例えばLUMOがNaイオンの軌道に相当した場合は、配位子のLUMOのエネルギーとしてLUMO+1のエネルギーを用いる。構造最適化計算には、Gaussian(登録商標) 16W(Gaussian社製)を用いることができる。
【0016】
一実施形態において、配位子は、芳香族炭化水素環と、芳香族炭化水素環に結合した電子吸引性基と、芳香族炭化水素環に結合したカルボキシレート基又はホスフィンオキシド基とを有する配位子(A)、
セリウム(III)イオンと配位結合を形成する1個の複素原子を含む芳香族複素環と、セリウム(III)イオンと配位結合を形成する1個の複素原子を含む芳香族複素環に結合した電子吸引性基とを有し、セリウム(III)イオンと配位結合を形成する1個の複素原子を含む芳香族複素環に結合したカルボキシレート基又はホスフィンオキシド基を有しない配位子(B)、
1個の複素原子を含む芳香族複素環と、1個の複素原子を含む芳香族複素環に結合した電子吸引性基と、1個の複素原子を含む芳香族複素環に結合したカルボキシレート基又はホスフィンオキシド基とを有する配位子(C)、
複数の複素原子を含む芳香族複素環と、複数の複素原子を含む芳香族複素環に結合したカルボキシレート基又はホスフィンオキシド基とを有する配位子(D)、及び、
セリウム(III)イオンと配位結合を形成する複数の複素原子を含む芳香族複素環を有し、セリウム(III)イオンと配位結合を形成する1個の複素原子を含む芳香族複素環に結合したカルボキシレート基又はホスフィンオキシド基を有しない配位子(E)
から選ばれる1種以上である。これらの配位子は、比較的低いHOMOのエネルギーを有し易い。
【0017】
本明細書において、芳香族炭化水素環又は芳香族複素環が多環式構造を有する場合、そのような環は多環式構造を有する1つの環として扱う。具体的には、例えば、ナフタレン環及びアントラセン環は1つの芳香族炭化水素環として扱われ、キノキサリン環及びチアントレン環は1つの芳香族複素環として扱われる。
【0018】
電子吸引性基の例としては、シアノ基、ニトロ基、カルボキシ基、カルバモイル基、アミノスルホニル基、アルキルカルボニル基、アルコキシカルボニル基、及びハロゲノ基が挙げられる。電子吸引性基は、シアノ基、及びハロゲノ基からなる群より選ばれる基であってよい。ハロゲノ基の例としては、フルオロ基(-F)、クロロ基(-Cl)、ブロモ基(-Br)、及びヨード基(-I)が挙げられる。
【0019】
カルボキシレート基は、例えば、下記式(i)で表される1価の基であってよい。配位子がカルボキシレート基を有する場合、配位子はアニオン性配位子であってよい。
【化1】
【0020】
ホスフィンオキシド基は、例えば、下記式(ii)、(iii)又は(iv)で表される1価の基であってよい。配位子がホスフィンオキシド基を有する場合、配位子は中性配位子であってよい。
【化2】

式(ii)中のR11及びR12、式(iii)中のR13及びR14、並びに式(iv)中のR14及びR15は、それぞれ独立に1価の基を示す。
【0021】
式(ii)中のR11及びR12、式(iii)中のR13及びR14、並びに式(iv)中のR14及びR15は、置換されていてもよいアルキル基又は置換されていてもよいアリール基であってもよい。R11、R12、R13、R14、R15、及びR16としてのアルキル基の炭素数は、1以上、2以上、又は3以上であってよく、10以下、8以下、又は6以下であってもよい。R11、R12、R13、R14、R15、及びR16としてのアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、及びヘキシル基が挙げられる。R11、R12、R13、R14、R15、及びR16としてのアルキル基が有し得る置換基は、ハロゲノ基であってもよい。R11、R12、R13、R14、R15、及びR16としてのアリール基は、芳香族化合物から1個の水素原子を除いた残基であることができる。アリール基の炭素数は、6以上であってよく、14以下であってよい。アリール基の具体例としては、置換又は無置換のベンゼン、置換又は無置換のナフタレン、置換又は無置換のアントラセン、又は置換又は無置換のフェナントレンから1個の水素原子を除いた残基が挙げられる。特に、R11及びR12が置換又は無置換のフェニル基であってもよい。アリール基が有する置換基は、上述した電子吸引性基、アルキル基、及びメトキシ基以外のアルコキシ基からなる群より選ばれる1種以上であってもよい。アリール基が有する置換基がアルキル基である場合、当該アルキル基の炭素数は、1以上、2以上、又は3以上であってもよく、6以下、又は5以下であってもよい。アリール基が有する置換基がアルコキシ基である場合、当該アルコキシ基の炭素数は、1以上、2以上、又は3以上であってもよく、6以下、又は5以下であってもよい。アリール基が置換基を有する場合、置換基の置換位置及び置換基の数は、特に限定されない。アリール基が複数の置換基を有する場合、それぞれの置換基は互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0022】
配位子(A)は、芳香族炭化水素環を有する。芳香族炭化水素環の例としては、ベンゼン環等の単環式の芳香族炭化水素環;ナフタレン環、インデン環等の2環式の芳香族炭化水素環;アントラセン環、フェナントレン環、ジヒドロフェナントレン環等の3環式の芳香族炭化水素環;ベンゾアントラセン環、ベンゾフェナントレン環、ベンゾフルオレン環、ピレン環及びフルオランテン環等の4環式の芳香族炭化水素環;ジベンゾアントラセン環、ジベンゾフェナントレン環、ジベンゾフルオレン環、ペリレン環及びベンゾフルオランテン環等の5環式の芳香族炭化水素環;及びスピロビフルオレン環等の6環式の芳香族炭化水素環が挙げられる。配位子は、これらの芳香族炭化水素環を1個有してもよく、2個以上有してもよい。配位子は、これらの芳香族炭化水素環のうち1種を有していてよく、2種以上を有していてよい。
【0023】
配位子(A)は、芳香族炭化水素環に結合した電子吸引性基を有する。電子吸引性基としては、上述した電子吸引性基を特に制限なく用いることができる。芳香族炭化水素環に結合した電子吸引性基の置換位置及び数は、特に限定されない。電子吸引性基の数は1個であってよく、2個以上であってよい。電子吸引性基が複数個である場合、電子吸引性基は、上述した電子吸引性基のうち1種であってよく、複数種であってよい。配位子(A)の有する電子吸引性基は、芳香族炭化水素環上の置換可能な位置のうち、カルボキシレート基又はホスフィンオキシド基が結合していない位置の全てに、結合していてもよい。
【0024】
配位子(A)は、芳香族炭化水素環に結合したカルボキシレート基又はホスフィンオキシド基を有する。カルボキシレート基又はホスフィンオキシド基としては、上述したカルボキシレート基又はホスフィンオキシド基を特に制限なく用いることができる。芳香族炭化水素環に結合したカルボキシレート基又はホスフィンオキシド基の置換位置及び数は、特に限定されない。カルボキシレート基又はホスフィンオキシド基の数は1個であってよく、2個であってよく、3個以上であってよい。
【0025】
配位子(A)は、電子吸引性基、カルボキシレート基、及びホスフィンオキシド基以外に、芳香族炭化水素環に結合した他の置換基(以下、「配位子(A)の他の置換基」ともいう。)を有していてもよい。配位子(A)の他の置換基の例としては、置換されていてもよいアルキル基が挙げられる。アルキル基の炭素数は、1以上、2以上、又は3以上であってよく、6以下であってもよい。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、及びヘキシル基が挙げられる。アルキル基が有し得る置換基は、ハロゲノ基であってもよい。配位子(A)の他の置換基の置換位置及び置換基の数は、特に限定されない。
【0026】
配位子(A)の例としては、下記式(1)で表されるイオン、並びに下記式(2)及び下記式(3)で表される化合物が挙げられる。
【化3】

【化4】

【化5】
【0027】
配位子(B)は、セリウム(III)イオンと配位結合を形成する1個の複素原子を含む芳香族複素環を有する。セリウム(III)イオンと配位結合を形成する1個の複素原子を含む芳香族複素環は、1個の窒素原子、酸素原子、又は硫黄原子を含む芳香族複素環であってよい。1個の窒素原子を含む芳香族複素環の例としては、ピリジン環及びピロール環が挙げられる。1個の酸素原子を含む芳香族複素環の例としては、フラン環が挙げられる。1個の硫黄原子を含む芳香族複素環の例としては、チオフェン環が挙げられる。
【0028】
配位子(B)は、上述した芳香族複素環に結合した電子吸引性基を有する。電子吸引性基としては、上述した電子吸引性基を特に制限なく用いることができる。セリウム(III)イオンと配位結合を形成する1個の複素原子を含む芳香族複素環に結合した電子吸引性基の置換位置及び数は、特に限定されない。電子吸引性基の数は1個であってよく、2個以上であってよい。電子吸引性基が複数個である場合、電子吸引性基は、上述した電子吸引性基のうち1種であってよく、2種以上であってよい。配位子(B)の有する電子吸引性基は、芳香族複素環上の置換可能な位置の全てに、結合していてもよい。
【0029】
配位子(B)は、電子吸引性基以外に、上述した芳香族複素環に結合した他の置換基(以下、「配位子(B)の他の置換基」ともいう。)を有していてもよい。ただし、配位子(B)は、上述した芳香族複素環に結合したカルボキシレート基又はホスフィンオキシド基を有しない。配位子(B)の他の置換基としては、配位子(A)の他の置換基と同様のものを特に制限なく用いることができる。配位子(B)の置換基の置換位置及び数は、特に制限されない。
【0030】
配位子(B)の例としては、下記式(4)及び式(B1)~(B8)で表される化合物が挙げられる。
【化6】

【化7】
【0031】
配位子(C)は、1個の複素原子を含む芳香族複素環を有する。配位子(C)が有する1個の複素原子を含む芳香族複素環としては、配位子(B)が有する、セリウム(III)イオンと配位結合を形成する1個の複素原子を含む芳香族複素環として上述したものを特に制限なく用いることができる。なお、配位子(C)が有する1個の複素原子を含む芳香族複素環における、当該1個の複素原子は、セリウム(III)イオンと配位結合を形成していてもよく、していなくてもよい。
【0032】
配位子(C)は、1個の複素原子を含む芳香族複素環に結合した電子吸引性基を有する。電子吸引性基としては、上述した電子吸引性基を特に制限なく用いることができる。1個の複素原子を含む芳香族複素環に結合した電子吸引性基の置換位置及び数は、特に制限されない。電子吸引性基の数は1個であってよく、2個以上であってよい。電子吸引性基が複数個である場合、電子吸引性基は、上述した電子吸引性基のうち1種であってよく、複数種であってよい。配位子(C)の有する電子吸引性基は、1個の複素原子を含む芳香族複素環上の置換可能な位置のうち、カルボキシレート基又はホスフィンオキシド基が結合していない位置の全てに、結合していてもよい。
【0033】
配位子(C)は、1個の複素原子を含む芳香族複素環に結合したカルボキシレート基又はホスフィンオキシド基を有する。カルボキシレート基又はホスフィンオキシド基としては、上述したカルボキシレート基又はホスフィンオキシド基を特に制限なく用いることができる。1個の複素原子を含む芳香族複素環に結合したカルボキシレート基又はホスフィンオキシド基の置換位置及び数は、特に限定されない。カルボキシレート基又はホスフィンオキシド基の数は1個であってよく、2個であってよく、3個以上であってよい。
【0034】
配位子(C)は、電子吸引性基、カルボキシレート基、及びホスフィンオキシド基以外に、1個の複素原子を含む芳香族複素環に結合した他の置換基(以下、「配位子(C)の他の置換基」ともいう。)を有していてもよい。配位子(C)の他の置換基としては、配位子(A)の他の置換基と同様のものを特に制限なく用いることができる。配位子(C)の置換基の置換位置及び数は、特に制限されない。
【0035】
配位子(D)は、複数の複素原子を含む芳香族複素環を有する。配位子(D)が有する複数の複素原子を含む芳香族複素環は、複素原子を2個以上、又は3個以上含んでいてよく、複素原子を10個以下、8個以下、6個以下、又は4個以下含んでいてよい。芳香族複素環に含まれる複素原子は、窒素原子、酸素原子、及び硫黄原子からなる群より選ばれる1種、2種、又は3種であってよい。複数の複素原子を含む芳香族複素環は、窒素原子を2個有する芳香族複素環、硫黄原子を2個有する芳香族複素環、窒素原子を1個及び酸素原子を1個有する芳香族複素環、窒素原子を1個及び硫黄原子を1個有する芳香族複素環、窒素原子を3個有する芳香族複素環、窒素原子を2個及び酸素原子を1個含む芳香族複素環、又は窒素原子を2個及び硫黄原子を1個含む芳香族複素環であってよい。
【0036】
窒素原子を2個有する芳香族複素環の例としては、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環等のジアジン環;キノキサリン環、キナゾリン環、シンノリン環等のナフチリジン環;ベンゾイミダゾール環が挙げられる。硫黄原子を2個有する芳香族複素環の例としては、チアントレン環が挙げられる。窒素原子を1個及び酸素原子を1個有する芳香族複素環の例としては、ベンゾオキサゾール環が挙げられる。窒素原子を1個及び硫黄原子を1個有する芳香族複素環の例としては、ベンゾチアゾール環が挙げられる。窒素原子を3個有する芳香族複素環の例としては、トリアジン環及びトリアゾール環が挙げられる。窒素原子を2個及び酸素原子を1個含む芳香族複素環の例としては、オキサジアゾール環が挙げられる。窒素原子を2個及び硫黄原子を1個含む芳香族複素環の例としては、ベンゾチアジアゾール環が挙げられる。配位子(D)が有する複数の複素原子を含む芳香族複素環における、当該複数の複素原子は、それぞれ、セリウム(III)イオンと配位結合を形成していてもよく、していなくてもよい。
【0037】
配位子(D)は、複数の複素原子を含む芳香族複素環に結合したカルボキシレート基又はホスフィンオキシド基を有する。カルボキシレート基又はホスフィンオキシド基としては、上述したカルボキシレート基又はホスフィンオキシド基を特に制限なく用いることができる。複数の複素原子を含む芳香族複素環に結合したカルボキシレート基又はホスフィンオキシド基の置換位置及び数は、特に限定されない。カルボキシレート基又はホスフィンオキシド基の数は1個であってよく、2個であってよく、3個以上であってよい。
【0038】
配位子(D)は、複数の複素原子を含む芳香族複素環に結合した電子吸引性基を有していてもよい。電子吸引性基としては、上述した電子吸引性基を特に制限なく用いることができる。複数の複素原子を含む芳香族複素環に結合した電子吸引性基の置換位置及び数は、特に制限されない。電子吸引性基の数は1個であってよく、2個以上であってよい。電子吸引性基が複数個である場合、電子吸引性基は、上述した電子吸引性基のうち1種であってよく、複数種であってよい。配位子(D)が電子吸引性基を有する場合、配位子(D)の有する電子吸引性基は、複数の複素原子を含む芳香族複素環上の置換可能な位置のうち、カルボキシレート基又はホスフィンオキシド基が結合していない位置の全てに、結合していてもよい。
【0039】
配位子(D)は、カルボキシレート基、ホスフィンオキシド基、及び電子吸引性基以外に、複数の複素原子を含む芳香族複素環に結合した他の置換基(以下、「配位子(D)の他の置換基」ともいう。)を有していてもよい。配位子(D)の他の置換基としては、配位子(A)の他の置換基と同様のものを特に制限なく用いることができる。配位子(D)の置換基の置換位置及び数は、特に制限されない。
【0040】
配位子(D)の例としては、下記式(5)~(13)で表されるイオン、及び下記式(14)~(16)で表される化合物が挙げられる。
【化8】

【化9】

【化10】

【化11】

【化12】

【化13】

【化14】

【化15】

【化16】

【化17】

【化18】

【化19】
【0041】
配位子(E)は、セリウム(III)イオンと配位結合を形成する複数の複素原子を含む芳香族複素環を有する。セリウム(III)イオンと配位結合を形成する複数の複素原子を含む芳香族複素環は、複素原子を2個以上、3個以上、4個以上、5個以上、又は6個以上含んでいてよく、複素原子を10個以下、9個以下、又は8個以下含んでいてよい。芳香族複素環に含まれる複素原子は、窒素原子、酸素原子、及び硫黄原子からなる群より選ばれる1種、2種、又は3種以上であってよい。配位子(E)が有する複数の複素原子を含む芳香族複素環としては、配位子(D)が有する、複数の複素原子を含む芳香族複素環として上述したものを特に制限なく用いることができる。また、複数の複素原子を含む芳香族複素環の例として、テトラアザトリフェニレン環、及びヘキサアザトリフェニレン環が挙げられる。配位子(E)が有する複数の複素原子を含む芳香族複素環は、窒素原子を2個、4個又は6個有する芳香族複素環であってよい。特に、配位子(E)が窒素原子を2個有する芳香族複素環を有する場合、当該芳香族複素環を複数有していてよく、当該複数の芳香族複素環が互いに結合していてもよい。窒素原子を4個有する芳香族複素環の例としては、例えば、下記式(17)で表されるテトラアザトリフェニレン環が挙げられる。窒素原子を6個有する芳香族複素環の例としては、例えば、下記式(18)で表されるヘキサアザトリフェニレン環が挙げられる。
【化20】

【化21】
【0042】
配位子(E)は、上述した芳香族複素環に結合した電子吸引性基を有していてもよい。電子吸引性基としては、上述した電子吸引性基を特に制限なく用いることができる。芳香族複素環に結合した電子吸引性基の置換位置及び数は、特に限定されない。電子吸引性基の数は1個であってよく、2個以上であってよい。電子吸引性基が複数個である場合、電子吸引性基は、上述した電子吸引性基のうち1種であってよく、2種以上であってよい。配位子(E)の有する電子吸引性基は、芳香族複素環上の置換可能な位置の全てに、結合していてもよい。
【0043】
配位子(E)は、上述した芳香族複素環に結合した他の置換基(以下、「配位子(E)の他の置換基」ともいう。)を有していてもよい。ただし、配位子(E)は、上述したカルボキシレート基又はホスフィンオキシド基を有しない。配位子(E)の他の置換基としては、配位子(A)の他の置換基と同様のものを特に制限なく用いることができる。配位子(E)の置換基の置換位置及び数は、特に制限されない。
【0044】
配位子(E)の例としては、上記式(17)及び(18)で表される化合物、並びに下記式(19)及び(20)で表される化合物が挙げられる。
【化22】

【化23】
【0045】
一実施形態において、希土類錯体は、HOMOのエネルギーが-8.5eV以下である配位子を主配位子として含む。また、一実施形態において、希土類錯体は、配位子(A)、配位子(B)、配位子(C)、配位子(D)、及び配位子(E)から選ばれる1種の配位子を主配位子として含む。これらの実施形態において、希土類錯体は、主配位子に加えて、セリウム(III)イオンと配位結合を形成するその他の配位子を含んでいてよい。
【0046】
その他の配位子は、主配位子よりHOMO-LUMOギャップが大きな配位子であってよい。HOMO-LUMOギャップが大きな配位子を用いることで、クエンチ凖位形成に伴うセリウム発光の阻害を防ぐことができる。
【0047】
その他の配位子は、中性であってもよく、アニオン性であってもよい。その他の配位子は、主配位子が中性である場合はアニオン性であってよく、主配位子がアニオン性である場合は中性であってよい。
【0048】
中性のその他の配位子は、上述した配位子(A)~配位子(E)の中で、中性であるものであってもよい。中性のその他の配位子の他の例としては、水、アルコール、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、アセトン、ピリジン、N,N-ジメチルホルムアミド等の溶媒として用いられる化合物、並びに下記式(21)及び(22)で表される化合物が挙げられる。
【化24】

式(21)中、R21、R22、及びR23はそれぞれ独立に1価の基を示す。
【化25】

式(22)中、R31、R32、R34、及びR35はそれぞれ独立に1価の基を示し、R33は2価の基を示す。
【0049】
式(21)中のR21、R22及びR23並びに式(22)中のR31、R32、R34及びR35は、アルキル基又は置換されていてもよいアリール基であってもよい。R21、R22及びR23並びにR31、R32、R34及びR35としてのアルキル基の炭素数は、1以上、2以上、又は3以上であってよく、10以下、又は8以下であってもよい。R21、R22及びR23並びにR31、R32、R34及びR35としてのアリール基は、置換又は無置換のフェニル基であってもよい。アリール基が有し得る置換基は、上述した電子吸引性基、アミノ基、アルキル基、及びアルコキシ基からなる群より選ばれる1種以上であってもよい。アリール基が有する置換基がアルキル基である場合、当該アルキル基の炭素数は、1以上、2以上、又は3以上であってもよく、6以下、又は5以下であってもよい。アリール基が有する置換基がアルコキシ基である場合、当該アルコキシ基の炭素数は、1以上、2以上、又は3以上であってもよく、6以下、又は5以下であってもよい。アリール基が置換基を有する場合、置換基の置換位置及び置換基の数は、特に限定されない。アリール基が複数の置換基を有する場合、それぞれの置換基は互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0050】
33は、アルキレン基又は置換されていてもよいアリーレン基であってもよい。R33としてのアルキレン基の炭素数は、1以上、2以上、又は3以上であってよく、10以下、又は8以下であってもよい。R33としてのアリーレン基は、置換又は無置換のフェニレン基であってもよい。アリーレン基が有し得る置換基は、上述した電子吸引性基、アミノ基、アルキル基、及びアルコキシ基からなる群より選ばれる1種以上であってもよい。アリーレン基が有する置換基がアルキル基である場合、当該アルキル基の炭素数は、1以上、2以上、又は3以上であってもよく、6以下、又は5以下であってもよい。アリーレン基が有する置換基がアルコキシ基である場合、当該アルコキシ基の炭素数は、1以上、2以上、又は3以上であってもよく、6以下、又は5以下であってもよい。アリーレン基が置換基を有する場合、置換基の置換位置及び置換基の数は、特に限定されない。アリーレン基が複数の置換基を有する場合、それぞれの置換基は互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0051】
アニオン性のその他の配位子は、上述した配位子(A)~配位子(E)の中で、アニオン性であるものであってもよい。アニオン性のその他の配位子は、希土類塩のアニオンとして用いられるアニオンであってよい。アニオン性のその他の配位子の例としては、ハロゲン化物イオン、二硫化物イオン(S 2-)、チオシアン酸イオン(SCN又はNCS)、硝酸イオン(NO )、アジ化物イオン(N )、シュウ酸イオン(C 2-)、水酸化物イオン(OH)が挙げられる。ハロゲン化物イオンは、フッ化物イオン(F)、塩化物イオン(Cl)、臭化物イオン(Br)及びヨウ化物イオン(I)からなる群より選ばれる1種以上であってよい。また、アニオン性のその他の配位子の他の例としては、下記式(21)及び(22)で表される配位子が挙げられる。
【化26】

式(21)中、R41及びR42は、それぞれ独立に1価の基を示す。
【0052】
41及びR42は、それぞれ独立に、置換されていてもよいアルキル基、又は置換されていてもよいアリール基であってもよい。
41及びR42としてのアルキル基の炭素数は、1以上、2以上、又は3以上であってもよく、6以下、又は5以下であってもよい。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、及びヘキシル基が挙げられる。R41及びR42としてのアルキル基が有し得る置換基は、ハロゲノ基であってもよい。特に、R41及びR42がパーフルオロアルキル基であってもよい。
41及びR42としてのアリール基は、芳香族化合物から1個の水素原子を除いた残基であることができる。アリール基の炭素数は、6以上であってよく、14以下であってよい。アリール基の具体例としては、置換又は無置換のベンゼン、置換又は無置換のナフタレン、置換又は無置換のアントラセン、又は置換又は無置換のフェナントレンから1個の水素原子を除いた残基が挙げられる。特に、R41及びR42が置換又は無置換のフェニル基であってもよい。アリール基が有し得る置換基は、上述した電子吸引性基、アミノ基、アルキル基、及びアルコキシ基からなる群より選ばれる1種以上であってもよい。アリール基が有する置換基がアルキル基である場合、当該アルキル基の炭素数は、1以上、2以上、又は3以上であってもよく、6以下、又は5以下であってもよい。アリール基が有する置換基がアルコキシ基である場合、当該アルコキシ基の炭素数は、1以上、2以上、又は3以上であってもよく、6以下、又は5以下であってもよい。アリール基が置換基を有する場合、置換基の置換位置及び置換基の数は、特に限定されない。アリール基が複数の置換基を有する場合、それぞれの置換基は互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。
【化27】

式(22)中、R51、R52、R53、R54及びR55が、それぞれ独立に1価の基を示す。
【0053】
51、R52、R53、R54及びR55は、例えば、電子吸引性基であってよい。電子吸引性基としては、上述した電子吸引性基を制限なく用いることができる。
【0054】
以上説明した希土類錯体は、通常の合成方法に従って製造することができる。合成方法の一例は、後述の実施例において示される。
【実施例0055】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明する。本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0056】
1.配位子のHOMO及びLUMOのエネルギー計算
ヘキサフルオロアセチルアセトン(hfa)、ペンタフルオロ安息香酸イオン(PFBA、式(1)で表されるイオン)、及び式(2)~(18)で表されるイオン又は化合物について、HOMO及びLUMOのエネルギーを算出した。中性配位子であるhfa並びに式(2)~(4)及び(14)~(18)で表される化合物については当該中性配位子のみ配置し、アニオン配位子であるPFBA並びに式(5)~(13)で表されるイオンについては、当該アニオン配位子及びカウンターカチオンとしてNaイオンを配置して、それぞれPM6法により構造最適化計算を行った。その後、得られた構造に対して更にDFT法によりB3LYP-D3/cc-pCDZを用いて構造最適化計算を行った。その後、得られた構造に基づいてLC-BLYP/cc-pCDZを用いてエネルギー計算を行い、それぞれのHOMO及びLUMOのエネルギーを算出した。なお、アニオン配位子のHOMO及びLUMOの算出に当たっては、Naイオンの寄与が大きい軌道は考慮しなかった。結果を表1~表3に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
【表3】
【0060】
2.錯体の合成
2.1.[Ce(III)(PFBA)(MeOH)(Ce-PFBA)の合成
塩化セリウム(III)7水和物(2.48g、6.6mmol)及びペンタフルオロ安息香酸(4.24g、20mmol)をメタノール(20ml)に完全に溶解させ、溶液を10分攪拌した。その後、28%アンモニア水を滴下することで溶液のpHを5~6に調整したところ、反応の進行にともなって生成物の白い沈殿が生じた。1時間ほど反応を進行させたのち生成物を減圧濾過により回収し、デシケーター内で真空乾燥させ、粉体の[Ce(III)(PFBA)(MeOH)(3.68g、収率55%)を得た。
ESI-MS(m/z):[Ce(PFBA)(MeOH) H] calcd.for C4513Ce3015,1642.79;found,1642.74
IR(ATR):1494,1402(st,C-F)1657(st,C=O)
【0061】
2.2.[La(III)(PFBA)(MeOH)(La-PFBA)の合成
Ce-PFBA錯体の光学特性の解析に用いるために、塩化セリウム(III)7水和物の代わりに塩化ランタン(III)7水和物(2.15g、10mmol)を用いた以外は、上記[Ce(III)(PFBA)(MeOH)の合成と同様にして、[La(III)(PFBA)(MeOH)を合成した。
IR(ATR):1496,1401(st,C-F)1657(st,C=O)
【0062】
合成したCe-PFBAについて単結晶X線構造解析を行った結果を図1に示す。図1のとおり、1つのセリウム(III)イオンに対し3つのPFBAが配位している構造が確認された。また、PFBA由来のカルボレートの2つの酸素が同じセリウム(III)イオンに配位しているものと、異なる二つのセリウム(III)イオン間を架橋しているものが共存することで全体として配位高分子が形成されていた。さらに、合成の際に溶媒として使用したメタノールがセリウムに配位していることが確認された。
【0063】
上記の方法で合成し、未精製で再結晶をしていないCe-PFBA及びLa-PFBAについて測定した粉末XRDパターンを図2に示す。Ce-PFBAとLa-PFBAのPXRDパターンはほぼ一致していたことから、二つの錯体は同様の構造をとっているものと考えられた。
【0064】
3.光学特性
3.1.拡散反射スペクトル
Ce-PFBA及びLa-PFBAについて、拡散反射スペクトルを測定した。結果を図3に示す。Ce-PFBA、La-PFBAともに200nm~300nmにかけて強い吸収バンドが観測された。これは配位子のπ-π遷移由来の吸収であると考えられる。また、Ce-PFBAにおいてのみ、320nm付近に弱い吸収が観測された。これはMLCTに由来する吸収バンドであると考えられる。
【0065】
3.2.発光及び励起スペクトル
Ce-PFBA及びLa-PFBAを、それぞれKBrにより100倍に希釈したサンプルについて、発光スペクトルを測定した。励起波長は270nmとした。結果を図4に示す。ピークトップを比較すると、La-PFBAでは370nm付近、Ce-PFBAでは340nm付近であり、ピークがシフトしていた。また、La-PFBAでは350nm付近、Ce-PFBAでは360nm付近にショルダーバンドが観測された。
【0066】
このピークのシフトは、Ce-PFBAにおける4f-πとπ-πとの間の振電相互作用に起因するものと考えられる(図5)。La-PFBAではLa(III)がf軌道に電子をもたないため、Ce(III)錯体でみられる4f-πの電子配置は存在せず、π-πの電子配置が主要な励起状態になる。La-PFBAでみられる370nm付近のバンドは配位子のπ-π電子配置に起因すると考えられる。一方で、Ce-PFBAでは、4f-πの電子配置が安定化され、π-πの電子配置よりもやや低い準位に存在していると考えられる。この4f-πとπ-πとの間で振電相互作用が起きると、Ce-PFBAでは4f-πの電子配置とπ-πの電子配置とがミキシングしエネルギーの安定化と不安定化が起きることになる。Ce-PFBAでみられた340nm付近のバンドは、配位子のπ-πの電子配置に4f-πの電子配置がミキシングして不安定化した励起状態に起因すると考えられる。
【0067】
Ce-PFBAについて、拡散反射スペクトルにおいてMLCT由来と帰属した吸収バンドを、320nmの励起波長で直接励起させて発光スペクトルを測定した。結果を図6に示す。270nm励起の際とは異なり、360nm付近のバンドに加えて、430nm付近にブロードなバンドが観測された。前者のバンドは270nm励起で観測されたショルダーバンドに対応する。
【0068】
また、検出波長を390nm及び430nmとして励起スペクトルを測定したところ(図6)、430nm検出において、270nm付近のバンドと比較したときの320nm付近のバンドの強度が増加した。このことから、発光スペクトルにおける360nmのバンドと430nmのバンドとは異なる発光種由来のものであり、後者は4f-π電子配置にπ-π電子配置がミキシングし安定化した励起状態に起因する発光種であることが示唆された。以上のことから、Ce-PFBAではMLCT励起状態が安定に存在しており、このMLCTに基づいて可視光発光を示したのだと考えられる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6