(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023131005
(43)【公開日】2023-09-21
(54)【発明の名称】形状測定装置及び形状測定方法。
(51)【国際特許分類】
G01B 11/24 20060101AFI20230913BHJP
【FI】
G01B11/24 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022035644
(22)【出願日】2022-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】000151494
【氏名又は名称】株式会社東京精密
(74)【代理人】
【識別番号】100083116
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲三
(74)【代理人】
【識別番号】100170069
【弁理士】
【氏名又は名称】大原 一樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128635
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100140992
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲政
(72)【発明者】
【氏名】林 恭平
【テーマコード(参考)】
2F065
【Fターム(参考)】
2F065AA06
2F065AA53
2F065BB05
2F065DD03
2F065DD04
2F065FF52
2F065HH04
2F065JJ03
2F065JJ26
2F065MM06
2F065QQ25
2F065QQ28
2F065QQ44
(57)【要約】
【課題】被測定面の測定形状の誤差を低減可能な形状測定装置及び形状測定方法を提供する。
【解決手段】プローブ24を被測定面Wに沿って相対移動させて被測定面Wを測定光LAで走査する相対移動部14と、相対移動が行われている間、測定光LAが入射する被測定面Wの複数の測定点Pmごとに、合波部(ビームスプリッタ22)が生成した合波光LCを繰り返し検出する検出部(光検出器28)と、測定点Pmごとに、検出部が検出した合波光LCの検出信号29からビート周波数を検出し、ビート周波数に基づきプローブ24から測定点Pmまでの距離を演算する距離演算部32と、測定点Pmごとの位置を演算する位置演算部34と、測定点Pmごとに、測定点Pmで反射された測定光LAのドップラーシフト量fdに基づき、測定点Pmの位置を補正する位置補正部38と、を備える。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長掃引光源と、
前記波長掃引光源から出射された光を、測定光と参照光とに分割する光分割部と、
前記光分割部で分割された前記測定光を被測定面に向けて出射し、且つ前記被測定面にて反射された前記測定光が入射するプローブと、
前記光分割部で分割された前記参照光を反射する参照面と、
前記被測定面にて反射されて前記プローブに入射した前記測定光と、前記参照面で反射された前記参照光と、の合波光を生成する合波部と、
前記プローブを、前記被測定面に対して間隔をあけた状態で前記被測定面に沿って相対移動させて、前記被測定面を前記測定光で走査する相対移動部と、
前記相対移動が行われている間、前記測定光が入射する前記被測定面の複数の測定点ごとに、前記合波部が生成した前記合波光を繰り返し検出する検出部と、
前記測定点ごとに、前記検出部が検出した前記合波光の検出信号からビート周波数を検出し、前記ビート周波数に基づき前記プローブから前記測定点までの距離を演算する距離演算部と、
前記測定点ごとに、前記測定点に対応する前記距離演算部の演算結果に基づき前記測定点の位置を演算する位置演算部と、
前記測定点ごとに、前記測定点で反射された前記測定光のドップラーシフト量に基づき、前記位置演算部が演算した前記測定点の位置を補正する位置補正部と、
を備える形状測定装置。
【請求項2】
前記相対移動部が、予め作成された前記被測定面の形状データに基づき、前記プローブを、前記形状データで想定される前記被測定面に対して一定の間隔をあけた状態で前記被測定面に沿って相対移動させる請求項1に記載の形状測定装置。
【請求項3】
前記プローブが、前記測定光を前記被測定面に斜め方向から入射させる請求項1又は2に記載の形状測定装置。
【請求項4】
前記測定点ごとに、前記被測定面を走査する前記測定光の走査方向ベクトルであって且つ前記測定点における前記被測定面の接線方向に平行な走査方向ベクトルの大きさを演算する走査方向ベクトル演算部を備え、
前記プローブと前記測定点との間の前記測定光の方向を測定光方向とした場合に、前記位置補正部が、前記測定点ごとに、前記走査方向ベクトル演算部が演算した前記走査方向ベクトルの前記測定光方向に平行な成分と、前記測定光の波長又は周波数と、に基づき前記ドップラーシフト量を演算する請求項1から3のいずれか1項に記載の形状測定装置。
【請求項5】
波長掃引光源から出射された光を測定光と参照光とに分割して、前記測定光をプローブから被測定面に向けて出射し、前記参照光を参照面に向けて出射する光分割ステップと、
前記被測定面にて反射されて前記プローブに入射した前記測定光と、前記参照面で反射された前記参照光と、の合波光を生成する合波ステップと、
前記プローブを、前記被測定面に対して間隔をあけた状態で前記被測定面に沿って相対移動させて、前記被測定面を前記測定光で走査する相対移動ステップと、
前記相対移動ステップの間、前記測定光が入射する前記被測定面の複数の測定点ごとに、前記合波ステップで生成した前記合波光を繰り返し検出する検出ステップと、
前記測定点ごとに、前記検出ステップで検出した前記合波光の検出信号からビート周波数を検出し、前記ビート周波数に基づき前記プローブから前記測定点までの距離を演算する距離演算ステップと、
前記測定点ごとに、前記測定点に対応する前記距離演算ステップの演算結果に基づき前記測定点の位置を演算する位置演算ステップと、
前記測定点ごとに、前記測定点で反射された前記測定光のドップラーシフト量に基づき、前記位置演算ステップで演算した前記測定点の位置を補正する位置補正ステップと、
を有する形状測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長掃引光源を用いて被測定面の形状測定する形状測定装置及び形状測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
測定対象物の被測定面の形状(表面形状、輪郭形状等)を非接触で測定する形状測定装置として、倣い測定を行う倣い測定装置が知られている(特許文献1参照)。この倣い測定装置は、非接触距離計のプローブを被測定面に対して間隔をあけた状態で被測定面に沿って相対移動させながら、この被測定面の複数の測定点ごとに、プローブから測定点までの距離検出と、この距離検出結果に基づいた測定点の位置検出と、を繰り返し実行することで、被測定面の形状を測定する。
【0003】
非接触距離計として、波長掃引光源を用いる波長掃引型非接触距離計が知られている(特許文献2参照)。波長掃引型非接触距離計は、波長掃引光源から出射された波長掃引光を測定光と参照光とに分割し、測定光をプローブから被測定面に向けて出射し、且つ参照光を参照面に向けて出射する。また、波長掃引型非接触距離計は、被測定面にて反射されてプローブに入射した測定光と、参照面で反射された参照光と、の合波光を光検出器で検出する。この際に、波長掃引光源から光検出器までの測定光及び参照光の到達時間差により、光検出器上での測定光と参照光の波長(周波数)に差が生じ、光検出器において測定光及び参照光の周波数差がビート周波数として検出される。そして、波長掃引型非接触距離計は、光検出器で検出した検出信号を周波数解析してビート周波数を検出し、このビート周波数に基づきプローブから被測定面までの距離を演算する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-56637号公報
【特許文献2】特開2021-32734号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2に記載の波長掃引型非接触距離計を用いて特許文献1に記載の倣い測定を行う場合に、被測定面が例えば曲面のような非水平面であると、プローブから被測定面に対して測定光が垂直に入射せずに斜め方向に入射する。この状態でプローブを被測定面に沿って相対移動させると、被測定面の測定点で反射された測定光の周波数がドップラー効果によりずれるドップラーシフトが発生する。波長掃引型非接触距離計では、各測定点とプローブとの間の距離以外の要因で測定光の周波数が独立して変化すると、プローブから各測定点までの距離測定結果に誤差が生じるため、各測定点の位置検出結果にも誤差が生じる。このため、波長掃引型非接触距離計を用いた被測定面の倣い測定では、被測定面の測定形状に誤差が生じるおそれがある。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、ドップラーシフトによる被測定面の測定形状の誤差を低減可能な形状測定装置及び形状測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的を達成するための形状測定装置は、波長掃引光源と、波長掃引光源から出射された光を、測定光と参照光とに分割する光分割部と、光分割部で分割された測定光を被測定面に向けて出射し、且つ被測定面にて反射された測定光が入射するプローブと、光分割部で分割された参照光を反射する参照面と、被測定面にて反射されてプローブに入射した測定光と、参照面で反射された参照光と、の合波光を生成する合波部と、プローブを、被測定面に対して間隔をあけた状態で被測定面に沿って相対移動させて、被測定面を測定光で走査する相対移動部と、相対移動が行われている間、測定光が入射する被測定面の複数の測定点ごとに、合波部が生成した合波光を繰り返し検出する検出部と、測定点ごとに、検出部が検出した合波光の検出信号からビート周波数を検出し、ビート周波数に基づきプローブから測定点までの距離を演算する距離演算部と、測定点ごとに、測定点に対応する距離演算部の演算結果に基づき測定点の位置を演算する位置演算部と、測定点ごとに、測定点で反射された測定光のドップラーシフト量に基づき、位置演算部が演算した測定点の位置を補正する位置補正部と、を備える。
【0008】
この形状測定装置によれば、ドップラーシフトによる各測定点の位置の誤差を補正することができる。
【0009】
本発明の他の態様に係る形状測定装置において、相対移動部が、予め作成された被測定面の形状データに基づき、プローブを、形状データで想定される被測定面に対して一定の間隔をあけた状態で被測定面に沿って相対移動させる。これにより、形状データで想定される理想の被測定面の形状と、実際の被測定面の形状との誤差を検出することができる。
【0010】
本発明の他の態様に係る形状測定装置において、本発明の他の態様に係る形状測定装置において、プローブが、測定光を被測定面に斜め方向から入射させる。これにより、ドップラーシフトによる各測定点の位置の誤差を補正することができる。
【0011】
本発明の他の態様に係る形状測定装置において、測定点ごとに、被測定面を走査する測定光の走査方向ベクトルであって且つ測定点における被測定面の接線方向に平行な走査方向ベクトルの大きさを演算する走査方向ベクトル演算部を備え、プローブと測定点との間の測定光の方向を測定光方向とした場合に、位置補正部が、測定点ごとに、走査方向ベクトル演算部が演算した走査方向ベクトルの測定光方向に平行な成分と、測定光の波長又は周波数と、に基づきドップラーシフト量を演算する。
【0012】
本発明の目的を達成するための形状測定方法は、波長掃引光源から出射された光を測定光と参照光とに分割して、測定光をプローブから被測定面に向けて出射し、参照光を参照面に向けて出射する光分割ステップと、被測定面にて反射されてプローブに入射した測定光と、参照面で反射された参照光と、の合波光を生成する合波ステップと、プローブを、被測定面に対して間隔をあけた状態で被測定面に沿って相対移動させて、被測定面を測定光で走査する相対移動ステップと、相対移動ステップの間、測定光が入射する被測定面の複数の測定点ごとに、合波ステップで生成した合波光を繰り返し検出する検出ステップと、測定点ごとに、検出ステップで検出した合波光の検出信号からビート周波数を検出し、ビート周波数に基づきプローブから測定点までの距離を演算する距離演算ステップと、測定点ごとに、測定点に対応する距離演算ステップの演算結果に基づき測定点の位置を演算する位置演算ステップと、測定点ごとに、測定点で反射された測定光のドップラーシフト量に基づき、位置演算ステップで演算した測定点の位置を補正する位置補正ステップと、を有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、ドップラーシフトによる被測定面の測定形状の誤差を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】被測定物の曲面状の被測定面の倣い測定を非接触で行う倣い測定装置の概略図である。
【
図2】波長掃引型干渉計の光学構成を示した概略図である。
【
図4】非接触で曲面状の被測定面の倣い測定を行う場合の課題を説明するための説明図である。
【
図5】走査方向ベクトル演算部による走査方向ベクトルの演算を説明するための説明図である。
【
図6】倣い測定装置による被測定面の倣い測定処理の流れを示すフローチャートである。
【
図7】倣い測定装置により倣い測定を行った被測定面の一例を示した図である。
【
図8】
図7に示した被測定面の測定範囲内を倣い測定装置により倣い測定して得られた各測定点及び各補正測定点の位置と、各測定点を接触型距離計で測定した得られた各測定点の位置と、を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、被測定物の曲面状(非水平面状)の被測定面Wの倣い測定を非接触で行う倣い測定装置10の概略図である。なお、本実施形態では被測定面Wとして翼面を例に挙げて説明を行う。
図1に示すように、倣い測定装置10は、本発明の形状測定装置に相当するものであり、波長掃引型干渉計12と、相対移動部14と、制御装置16と、を備える。
【0016】
図2は、波長掃引型干渉計12の光学構成を示した概略図である。
図2及び既述の
図1に示すように、波長掃引型干渉計12は、後述の制御装置16と共に、被測定面W上の複数の測定点Pmまでの距離を非接触で測定する波長掃引型非接触距離計を構成する。この波長掃引型干渉計12は、波長掃引光源20と、ビームスプリッタ22と、プローブ24と、参照面26と、光検出器28と、を備える。
【0017】
波長掃引光源20は、制御装置16の制御の下、ビームスプリッタ22に向けて波長掃引光Lを出射する。波長掃引光Lは、例えば、時間の経過と共に一定の波長掃引周期(一定の波長掃引周波数)で且つ一定波長帯で波長が正弦波状に変化する光である。
【0018】
ビームスプリッタ22は、例えばハーフミラーが用いられる。ビームスプリッタ22は、波長掃引光源20から入力された波長掃引光Lを測定光LAと参照光LBとに分割し、測定光LAをプローブ24の入出射端24aに向けて出射すると共に、参照光LBを参照面26に向けて出射する。この場合には、ビームスプリッタ22は本発明の光分割部として機能する。
【0019】
プローブ24(測定ヘッドともいう)は、被測定面Wの倣い測定が行われている間、ビームスプリッタ22により分割された測定光LAを被測定面Wに向けて出射する入出射端24aを有する。入出射端24aには、被測定面W上で反射された測定光LAが入射する。なお、プローブ24の内部に、ビームスプリッタ22、参照面26、及び光検出器28の少なくともいずれか1つが収納されていてもよい。
【0020】
参照面26は、例えば反射ミラーが用いられ、ビームスプリッタ22から入射した参照光LBをビームスプリッタ22に向けて反射する。
【0021】
ビームスプリッタ22は、被測定面W上で反射された後でプローブ24の入出射端24aに入射した測定光LAと、参照面26で反射された参照光LBとの合波光LC(干渉光)を生成し、この合波光LCを光検出器28へ出射する。この場合には、ビームスプリッタ22は本発明の合波部として機能する。
【0022】
光検出器28は、本発明の検出部に相当するものであり、例えばCCD(Charge Coupled Device)型又はCMOS(complementary metal oxide semiconductor)型のイメージセンサ、或いはシリコンフォトダイオード、InGaAs(Indium Gallium Arsenide)フォトダイオード等が用いられる。光検出器28は、制御装置16の制御の下、ビームスプリッタ22から入力された合波光LCを検出、すなわち合波光LCを電気信号に変換及び増幅して、この合波光LCの検出信号29を制御装置16へ出力する。
【0023】
相対移動部14は、モータ駆動機構等の各種アクチュエータ(例えば5軸動作可能なアクチュエータ)により構成されており、プローブ24の位置姿勢を変位可能である。この相対移動部14は、制御装置16の制御の下、プローブ24の位置姿勢を変位させることで、被測定面Wに対してプローブ24を、
図1に示した測定経路15に沿って被測定面Wに対して略一定の間隔をあけた状態で被測定面Wに沿って相対移動させる。これにより、測定光LAにより被測定面Wが走査されることで、被測定面W上の複数の測定点Pmごとに、光検出器28による合波光LCの検出と、光検出器28からの干渉信号29の出力と、が繰り返し実行される。
【0024】
なお、相対移動部14は、プローブ24の位置姿勢を変位させる代わりに、被測定面W(被測定物)を支持するステージの位置姿勢を変位させることで、プローブ24を測定経路15に沿って相対移動させてもよい。
【0025】
制御装置16は、波長掃引型干渉計12及び相対移動部14による被測定面Wの倣い測定と、被測定面Wの形状演算と、を統括的に制御する。この制御装置16は、各種のプロセッサ(Processor)及びメモリ等から構成された演算回路を備える。各種のプロセッサには、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、及びプログラマブル論理デバイス[例えばSPLD(Simple Programmable Logic Devices)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)、及びFPGA(Field Programmable Gate Arrays)]等が含まれる。なお、制御装置16の各種機能は、1つのプロセッサにより実現されてもよいし、同種または異種の複数のプロセッサで実現されてもよい。
【0026】
図3は、制御装置16の機能ブロック図である。
図3に示すように、制御装置16には、波長掃引型干渉計12の各部及び相対移動部14が接続されている他に、記憶部17が設けられている。この記憶部17には、制御装置16用の不図示の制御プログラム及び被測定面Wの形状演算結果の他に、CAD(Computer Aided Design)で予め作成された被測定面W(被測定物)の形状データであるCADデータ17aが格納されている。なお、CADデータ17aはインターネット上の外部サーバに格納されていてもよい。また、被測定面Wの形状を示すデータであれば、CAD形式以外の形状データを記憶部17に記憶させてもよい。
【0027】
制御装置16は、記憶部17内の不図示の制御プログラムを実行することで、測定制御部30、距離演算部32、位置演算部34、走査方向ベクトル演算部36、位置補正部38、及び形状演算部40として機能する。
【0028】
測定制御部30は、波長掃引型干渉計12及び相対移動部14による被測定面Wの倣い測定動作を制御する。具体的には測定制御部30は、被測定面Wの倣い測定の測定開始操作に応じて、波長掃引光源20による波長掃引光Lの出射を開始させると共に、光検出器28による合波光LCの検出及び検出信号29の出力を繰り返し実行させる。
【0029】
また、測定制御部30は、相対移動部14を駆動して、プローブ24を
図1に示した測定経路15に沿って移動、すなわち被測定面Wに対して略一定の間隔をあけた状態でこの被測定面Wに沿って相対移動させる。
【0030】
具体的には測定制御部30は、記憶部17から取得した被測定面WのCADデータ17aに基づき、このCADデータ17aで想定される被測定面W(理想的な被測定面W)に対して一定の間隔をあけた状態で被測定面Wに沿うような測定経路15を決定する。
【0031】
そして、測定制御部30は、相対移動部14を駆動して、プローブ24を決定した測定経路15の測定開始位置にアライメントした後、この測定経路15に沿って移動させる。これにより、プローブ24が実際の被測定面Wに対して略一定の間隔をあけた状態で被測定面Wに沿って相対移動されることで、被測定面Wが測定光LAにより走査される。なお、倣い測定時の被測定面Wに対するプローブ24の相対移動方法は、公知技術であるのでここでは具体的な説明は省略する。
【0032】
このように被測定面Wの倣い測定では、測定経路15に沿ってプローブ24を相対移動させながら被測定面Wを測定光LAで走査すると共に、光検出器28による合波光LCの検出を繰り返し行うことで、被測定面W上の複数の測定点Pmごとに光検出器28による合波光LCの検出及び検出信号29の出力が実行される。これにより、本実施形態の被測定面Wの倣い測定では、CADデータ17aで想定される理想の被測定面Wの形状と、実際の被測定面Wの形状との誤差が検出される。
【0033】
距離演算部32は、測定経路15に沿ったプローブ24の相対移動が行われている間、測定点Pmごとに、光検出器28から入力される検出信号29に基づきプローブ24から測定点Pmまでの距離(以下、測定距離という)を演算する。
【0034】
具体的には距離演算部32は、光検出器28で検出した検出信号29(ビート信号)を周波数解析して、測定光LAと参照光LBとの周波数差であるビート周波数を検出する。なお、ビート周波数の検出方法は公知技術であるので、ここでは具体的な説明を省略する。ビート周波数と、波長掃引光源20から光検出器28までの測定光LA及び参照光LBの到達時間差とは、測定距離に比例する。このため、距離演算部32は、ビート周波数の検出結果に基づき、下記の[数1]式を参照して測定距離を演算する。なお、[数1]式の中の「Df」は換算係数である。この換算係数Dfは、予め実験又はシミュレーションを行うことで設定される。
【0035】
[数1]
測定距離=Df×ビート周波数
【0036】
以下同様に距離演算部32は、測定点Pmごとに、検出信号29の周波数解析(ビート周波数の検出)と、上記[数1]式を用いた測定距離の演算と、を行う。
【0037】
位置演算部34は、測定点Pmごとに、測定点Pmに対応した距離演算部32の演算結果と、測定点Pmに対応したプローブ24の位置(後述の基準点Phの位置、
図4参照)及び姿勢(角度)と、に基づいた測定点Pmの位置の演算を行う。
【0038】
図4は、非接触で曲面状の被測定面Wの倣い測定を行う場合の課題を説明するための説明図である。なお、図中の符号Phは、プローブ24内の所定の基準点である。既述の距離演算部32は、基準点Phと測定点Pmとの間の距離を測定距離として演算する。図中の符号Vmは、基準点Phから測定点Pmに向かう測定光ベクトルである。図中の符号Nは、測定点Pmにおける被測定面Wの法線方向である。図中の符号Vsは、被測定面W上を走査する測定光LAの走査方向ベクトルであって且つ測定点Pmにおける被測定面Wの接線方向に平行な走査方向ベクトル(速度ベクトル)である。
【0039】
図4に示すように、曲面状の被測定面Wの倣い測定を行う場合に、プローブ24から各測定点Pm(図中では1個の測定点Pmを代表例として図示)に入射する測定光LAの入射角度は、被測定面Wの曲率、及び相対移動部14によるプローブ24の保持方法の制約などにより、垂直(法線方向Nに平行)にはならない。この場合には走査方向ベクトルVsが、測定光ベクトルVmの方向(本発明の測定光方向に相当)にも成分(以下、測定光方向成分Vdという)を有する。この測定光方向成分Vdは、走査方向ベクトルVsと測定光ベクトルVmとのなす角度をθとすると、下記の[数2]式で表される。
【0040】
[数2]
Vd=-Vm/|Vm|×|Vs|×COS(θ)
【0041】
このように測定光方向成分Vdが発生すると、測定距離|Pm-Ph|が一定であるのにも関わらず、上記[数2]式で示した測定光方向成分Vdだけ各測定点Pm(被測定面W)がプローブ24に近づいているのと同じ状態になる。これにより、各測定点Pmでそれぞれ反射された測定光LAの周波数がドップラー効果によりずれるドップラーシフトが発生する。その結果、距離演算部32が演算する測定点Pmごとの測定距離に誤差が生じるため、位置演算部34が演算する測定点Pmごとの位置にも誤差が生じてしまう。
【0042】
そこで本実施形態では、測定点Pmごとに、測定光LAのドップラーシフト量に基づき位置演算部34が演算した測定点Pmの位置を補正する。具体的には本実施形態では、測定点Pmごとに、走査方向ベクトル演算部36による走査方向ベクトルVsの演算と、位置補正部38による測定点Pmの位置補正と、を繰り返し行う。なお、本実施形態の最初の測定点Pmの位置測定は被測定面Wに対してプローブ24が停止している状態で行われるため、測定光LAのドップラーシフトは発生しない。このため、上述の走査方向ベクトルVsの演算と、測定点Pmの位置補正とは、2番目以降の測定点Pmごとに繰り返し行われる。
【0043】
図5は、走査方向ベクトル演算部36による走査方向ベクトルVsの演算を説明するための説明図である。
図5及び既述の
図3に示すように、走査方向ベクトル演算部36は、2番目以降の測定点Pmごとに走査方向ベクトルVsの大きさを演算する。例えば、走査方向ベクトル演算部36は、最新の測定点PmをPm(n)とし、その一つ前の測定点PmをPm(n-1)とし、Pm(n-1)からPm(n)までの測定光LAの走査時間を「T」とした場合に、走査方向ベクトルVsを下記の[数3]式により近似的に演算する。そして、走査方向ベクトル演算部36は、測定点Pmごとに[数3]式の演算処理を行うことで、2番目以降の測定点Pmごとの走査方向ベクトルVsを演算する。
【0044】
[数3]
Vs(mm/s)=[Pm(n-1)-Pm(n)]/T
【0045】
位置補正部38は、2番目以降の測定点Pmごとに、測定点Pmで反射された測定光LAの周波数のドップラーシフト量に基づき位置演算部34が演算した測定点Pmの位置を補正する。具体的には位置補正後の測定点Pmを「補正測定点Pmc」とすると、補正測定点Pmcの位置は、補正前の測定点Pmの位置と、既述の換算係数Dfと、補正前の測定点Pmに対応する測定光方向成分Vd及びドップラーシフト量[fd(Hz)]と、に基づき下記の[数4]式で表される。
【0046】
[数4]
Pmc=Pm+Df×fd×Vd/|Vd|
【0047】
ここでドップラーシフト量[fd(Hz)]は、測定光LAの波長を「λ(μm)」とした場合に下記の[数5]式で表される。このため、上記[数4]式を、[数5]式に基づき下記の[数6]式に変形することができる。なお、[数5]式は、測定光LAの波長λを変数としているが、波長λの代わりに測定光LAの周波数ν(ν=C/λ)を変数としてもよい。
【0048】
[数5]
fd(Hz)=2×|Vd|(mm/s)/[λ(μm)×0.001]
【0049】
[数6]
Pmc=Pm+Df×{2×|Vd|(mm/s)/[λ(μm)×0.001]}×Vd/|Vd|
=Pm+Df×2×Vd(mm/s)/[λ(μm)×0.001]
【0050】
また、上記[数6]式において、測定光方向成分Vd(mm/s)は上記[数2]式で表されている。このため、上記[数6]式を、[数2]式に基づき下記の[数7式]に変形することができる。
【0051】
[数7]
Pmc=Pm+Df×2×{-Vm/|Vm|×|Vs|×COS(θ)}(mm/s)/[λ(μm)×0.001]
【0052】
ここで[数7]式のCOS(θ)は、走査方向ベクトルVsと測定光ベクトルVmとに基づき、公知のベクトルの内積の定義により下記の[数8]式で表される。なお、測定光ベクトルVmは、既知の測定点Pmごとの基準点Phの位置と、位置演算部34が測定点Pmごとに演算する測定点Pmの位置と、に基づき測定点Pmごとに演算可能である。
【0053】
[数8]
COS(θ)=Vs×(-Vm)/(|Vs||Vm|)
【0054】
従って位置補正部38は、2番目以降の測定点Pmごとに、走査方向ベクトル演算部36の走査方向ベクトルVsの演算結果と、例えば自身で演算した測定光ベクトルVmの演算結果と、波長掃引光源20から取得した測定光LAの波長と、を上記[数7]式及び[数8]式に代入して補正測定点Pmcの位置を演算する。
【0055】
なお、位置補正部38が、2番目以降の測定点Pmごとに、上記[数5]式等に基づいたドップラーシフト量fdの演算を最初に行ってから上記[数4]式に基づいた補正測定点Pmcの位置の演算を行ってもよい。この場合に位置補正部38は、ドップラーシフト量fdの演算を行うドップラーシフト量演算部として機能する。
【0056】
形状演算部40は、位置演算部34が演算した最初の測定点Pmの位置と、位置補正部38が演算した2番目以降の各補正測定点Pmcの位置と、に基づき被測定面Wの形状(表面形状、輪郭形状等)を演算する。なお、形状演算部40が、各補正測定点Pmcの位置のみに基づいて被測定面Wの形状を演算してもよい。
【0057】
[本実施形態の作用]
図6は、本発明の形状測定方法に係る、上記構成の倣い測定装置10による被測定面Wの倣い測定処理の流れを示すフローチャートである。
図6に示すように、検者が、倣い測定装置10に被測定面W(測定対象物)をセットした後、不図示の操作部にて測定開始操作を行うと、測定制御部30が、記憶部17から被測定面WのCADデータ17aを取得し、このCADデータ17aに基づき測定経路15を決定する(ステップS1)。
【0058】
次いで、測定制御部30が、相対移動部14を駆動して、プローブ24を決定した測定経路15の測定開始位置に移動させるアライメントを行う(ステップS2)。また、測定制御部30は、波長掃引光源20からの波長掃引光Lの出射を開始させる(ステップS3)。
【0059】
波長掃引光Lはビームスプリッタ22にて測定光LAと参照光LBとに光分割され、測定光LAが被測定面W上の最初の測定点Pmに入射し且つ参照光LBが参照面26に入射する(ステップS4、本発明の光分割ステップに相当)。そして、最初の測定点Pmで反射された測定光LAと参照面26で反射された参照光LBとがビームスプリッタ22で合波された後、測定光LA及び参照光LBの合波光LCが光検出器28に入射する(ステップS4、本発明の合波ステップに相当)。
【0060】
また、測定制御部30が、波長掃引光源20からの波長掃引光Lの出射に合わせて、光検出器28による合波光LCの検出及び検出信号29の出力を開始させる(ステップS5)。
【0061】
最初の測定点Pmに対応する検出信号29が光検出器28から出力されると、距離演算部32が、この検出信号29を周波数解析してビート周波数を検出し、このビート周波数の検出結果に基づき上記[数1]式を用いて最初の測定点Pmに対応する測定距離を演算する(ステップS6)。また、位置演算部34が、距離演算部32による最初の測定点Pmの距離検出結果と、プローブ24の基準点Phの位置及び姿勢(角度)と、に基づき最初の測定点Pmの位置を演算する(ステップS7)。
【0062】
次いで、測定制御部30が、相対移動部14を駆動して、プローブ24を測定経路15に沿って移動させる。これにより、プローブ24が実際の被測定面Wに対して略一定の間隔をあけた状態で被測定面Wに沿って相対移動され、被測定面Wが測定光LAで走査される(ステップS8、本発明の相対移動ステップに相当)。被測定面W上で測定光LAが最初の測定点Pmから一定距離(走査時間T)だけ走査されて測定光LAが2番目の測定点Pmに入射すると、測定制御部30が、光検出器28による合波光LCの検出及び検出信号29の出力を実行させる(ステップS9、本発明の検出ステップに相当)。
【0063】
2番目の測定点Pmに対応する検出信号29が光検出器28から出力されると、最初の測定点Pmの位置検出時と同様に、距離演算部32による2番目の測定点Pmに対応する測定距離の演算(ステップS10)と、位置演算部34による2番目の測定点Pmの位置の演算(ステップS11)と、が実行される。なお、ステップS10は本発明の距離演算ステップに相当し、ステップS11は本発明の位置演算ステップに相当する。
【0064】
2番目の測定点Pmの位置演算が完了すると、走査方向ベクトル演算部36が、一つ前の最初の測定点Pmの位置と、2番の測定点Pmの位置と、両者の間の走査時間Tと、に基づき、上記[数3]式を用いて2番目の測定点Pmに対応する走査方向ベクトルVsを演算する(ステップS12)。
【0065】
次いで、位置補正部38が、2番の測定点Pmに対応する基準点Phの位置と、位置演算部34による2番目の測定点Pmの位置と、に基づき、2番の測定点Pmに対応する測定光ベクトルVmを演算する。また、位置補正部38は、波長掃引光源20から2番の測定点Pmに対応する測定光LAの波長λ(周波数νでも可)を取得する。
【0066】
そして、位置補正部38が、2番目の測定点Pmに対応する走査方向ベクトルVsの演算結果、測定光ベクトルVmの演算結果、及び測定光LAの波長に基づき、上記[数7]式及び[数8]式を用いて補正測定点Pmcの位置を演算する。これにより、2番目の測定点Pmでの測定光LAのドップラーシフト量に基づき、2番目の測定点Pmの位置を補正することができる(ステップS13、本発明の位置補正ステップに相当)。
【0067】
以下、測定経路15に沿ったプローブ24の相対移動が行われている間(ステップS14でNO)、3番目以降の測定点Pmごとに、前述のステップS9からステップS13までの処理が繰り返し実行される。これにより、3番目以降の測定点Pmの位置が補正されることで、3番目以降の各補正測定点Pmcの位置が演算される。
【0068】
プローブ24の相対移動が完了すると(ステップS14でYES)、形状演算部40が、ステップS7で演算された最初の測定点Pmの位置と、ステップS9で演算された各補正測定点Pmcの位置と、に基づき被測定面Wの形状を演算する(ステップS15)。
【0069】
[本実施形態の効果]
図7は、本実施形態の倣い測定装置10により倣い測定を行った被測定面Wの一例を示した図である。
図8は、
図7に示した被測定面Wの測定範囲R内を倣い測定装置10により倣い測定して得られた各測定点Pm及び各補正測定点Pmcの位置と、各測定点Pmを接触型距離計(図示は省略)で測定した得られた各測定点Pmの位置と、を比較したグラフである。
【0070】
図7に示すように、φ25mmの校正球の表面の一部を被測定面Wとして、この被測定面Wの上の測定ラインCに沿って本実施形態の倣い測定装置10による倣い測定を行った。また、倣い測定装置10が測定した各測定点Pmの位置を接触型距離計により測定した。
図8に示すように、倣い測定装置10による倣い測定で得られた各測定点Pmの位置は、ドップラーシフトの影響により、接触型倣い測定装置が測定した各測定点Pmの補間曲線MLに対してズレが生じている。
【0071】
これに対して、位置補正部38により補正された各補正測定点Pmcの位置は、倣い測定の方向(往路、復路)に関係なく上述の補間曲線MLに一致することが確認された。従って、本実施形態のように倣い測定で得られた各測定点Pmの位置をドップラーシフト量に基づき補正することで、ドップラーシフトによる被測定面Wの測定形状の誤差を低減することができる。
【0072】
[その他]
上記実施形態において使用される波長掃引型干渉計12は、
図2に示したものに限定されるものではなく、その種類は特に限定はされない。
【0073】
上記実施形態では、倣い測定装置10により被測定面Wとして翼面及び球面の倣い測定を行う場合を例に挙げて説明したが、曲面及び傾斜面などの非水平面の倣い測定を行う場合に本発明を適用することができる。
【0074】
また、本発明は、被測定面Wの形状に関係なく、プローブ24から被測定面Wに対して斜め方向から測定光LAを入射させた状態で、被測定面Wに対してプローブ24を相対移動させながら被測定面Wの形状測定を行う各種の形状測定装置に適用可能である。
【0075】
さらに本発明において、プローブ24から被測定面Wに対して測定光LAが垂直に入射する場合には、上記[数2]式のCOS(θ)がゼロになることで、測定光方向成分Vd(ドップラーシフト量fd)もゼロになる。その結果、位置補正部38により演算される補正測定点Pmcが補正前の測定点Pmと一致するため、位置補正部38による補正を行ったとしても被測定面Wの形状測定結果には影響を及ぼさない。従って、本発明は、被測定面Wに対する測定光LAの入射方向に関係なく、被測定面Wに対してプローブ24を相対移動させながら被測定面Wの形状測定を行う各種の形状測定装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0076】
10 測定装置
12 波長掃引型干渉計
14 相対移動部
15 測定経路
16 制御装置
17 記憶部
17a CADデータ
20 波長掃引光源
22 ビームスプリッタ
24 プローブ
24a 入出射端
26 参照面
28 光検出器
29 検出信号
30 測定制御部
32 距離演算部
34 位置演算部
36 走査方向ベクトル演算部
38 位置補正部
40 形状演算部
C 測定ライン
Df 換算係数
L 波長掃引光
LA 測定光
LB 参照光
LC 合波光
ML 補間曲線
N 法線方向
Ph 基準点
Pm 測定点
Pmc 補正測定点
R 測定範囲
T 走査時間
Vd 測定光方向成分
Vm 測定光ベクトル
Vs 走査方向ベクトル
W 被測定面
fd ドップラーシフト量