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特開2023-131013硬化剤組成物、エポキシ樹脂組成物及び硬化物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023131013
(43)【公開日】2023-09-21
(54)【発明の名称】硬化剤組成物、エポキシ樹脂組成物及び硬化物
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/62 20060101AFI20230913BHJP
【FI】
C08G59/62
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022035653
(22)【出願日】2022-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武藤 清
(72)【発明者】
【氏名】藤田 直博
【テーマコード(参考)】
4J036
【Fターム(参考)】
4J036AD08
4J036DB22
4J036DC03
4J036DC10
4J036JA01
4J036JA06
4J036JA13
(57)【要約】      (修正有)
【課題】外観安定性に優れ、エポキシ樹脂と組み合わせて優れた硬化性を有する硬化性樹脂組成物を提供できる硬化剤組成物を提供すること。
【解決手段】(A)成分:芳香族アミン、(B)成分:サリチル酸、(C)成分:水酸基含有芳香族系溶媒、を含む硬化剤組成物であって、(A)成分100質量部に対して(B)成分が50質量部以上200質量部である、硬化剤組成物。(A)成分である芳香族アミンが、下記式(1)で表される化合物であることも好ましい。

(式(1)中のR1は、それぞれ独立に、炭素原子数1~4の脂肪族炭化水素基、炭素原子数1~4のアルコキシ基又は炭素原子数1~4のチオアルキル基を表す。式(1)中のnは、2以上4以下の数である。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)成分:芳香族アミン、(B)成分:サリチル酸及び(C)成分:水酸基含有芳香族系溶媒を含む硬化剤組成物であって、(A)成分100質量部に対して(B)成分が50質量部以上200質量部以下である、硬化剤組成物。
【請求項2】
(A)成分である芳香族アミンが、下記式(1)で表される化合物である、請求項1に記載の硬化剤組成物。
【化1】
(式(1)中のR1は、それぞれ独立に、炭素原子数1~4の脂肪族炭化水素基、炭素原子数1~4のアルコキシ基又は炭素原子数1~4のチオアルキル基を表す。式(1)中のnは、2以上4以下の数である。)
【請求項3】
(A)成分である芳香族アミンが、ジエチルトルエンジアミン、1-メチル-3,5-ジエチル-2,4-ジアミノベンゼン、1-メチル-3,5-ジエチル-2,6-ジアミノベンゼン及び1,3,5-トリエチル-2,6-ジアミノベンゼンの中から選ばれる少なくとも一種である、請求項1又は2に記載の硬化剤組成物。
【請求項4】
(C)成分である水酸基含有芳香族系溶媒が、スチレン化フェノール、ベンジルアルコール及びフルフリルアルコールの中から選ばれる少なくとも一種である、請求項1~3の何れか1項に記載の硬化剤組成物。
【請求項5】
(C)成分の含有量が、(B)成分100質量部に対し、10質量部以上200質量部以下である、請求項1~4の何れか一項に記載の硬化剤組成物。
【請求項6】
請求項1~5の何れか一項に記載の硬化剤組成物及びエポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
請求項6に記載のエポキシ樹脂組成物を硬化させてなる、硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は硬化剤組成物に関し、より詳しくは、芳香族アミン、サリチル酸及び水酸基含有芳香族系溶媒を含む硬化剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族アミンとエポキシ樹脂を用いたエポキシ樹脂組成物を硬化させて得られる硬化物は、芳香族アミンに含まれる芳香環等の剛直な環同士の相互作用により優れた物性を有する。このため、前記エポキシ樹脂組成物は、海辺や河川に構築されている鋼構造物、コンクリート構造物など、厳しい腐食環境に晒されるような用途に対して適している他、建物の外装材、床の塗料や補修材などにも使用されている。
【0003】
芳香族アミンは、通常エポキシ樹脂の硬化剤として使用されている脂肪族アミンや脂環式アミンと比べ反応性に劣るため、硬化時に触媒を用いることが多い。触媒としては、酸触媒、アミン触媒などが用いられる。中でもサリチル酸は高い触媒能を有しており、例えば特許文献1では、エポキシ樹脂及び変性芳香族アミンに対してサリチル酸を併用した防食用エポキシ樹脂塗料が記載されている。同文献によれば、上記エポキシ樹脂塗料は、防食性、耐薬品性に優れた硬化物を得ることができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-235403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者が検討したところ、エポキシ樹脂と、芳香族アミン及びサリチル酸の混合物とを併用したエポキシ樹脂組成物には硬化速度に課題があることが分かった。硬化速度を向上させる方法の一つとしては、触媒の量を増やすことが考えられるが、サリチル酸は結晶性の高い化合物であり、芳香族アミンへの添加量を増やすにつれて混合して得られた硬化剤組成物の保管時等に経時で結晶化してしまうことが分かった。
従って、本発明が解決しようとする課題は、硬化速度に優れ、厳しい腐食環境に耐えうる硬化物を得ることができ、且つ保存安定性の良好な、エポキシ樹脂用の硬化剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで本発明者等は鋭意検討し、芳香族アミン、サリチル酸及び水酸基含有芳香族系溶媒を併用し、且つ、芳香族アミンとサリチル酸を所定比率とすることにより、外観安定性に優れ、硬化速度に優れた芳香族アミン系硬化剤組成物を見出し、本発明に至った。
【0007】
即ち、本発明は、(A)成分:芳香族アミン、(B)成分:サリチル酸及び(C)成分:水酸基含有芳香族系溶媒を含む硬化剤組成物において、(A)成分100質量部に対して(B)成分が50~200質量部である硬化剤組成物である。
【0008】
また本発明は上記硬化剤組成物及びエポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂組成物並びにその硬化物を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の効果は、結晶性の高いサリチル酸を多く添加しても保存時に結晶化しないことから、硬化剤組成物の保存安定性に優れることにある。本発明の硬化剤組成物は、エポキシ樹脂に対して硬化速度に優れ、厳しい腐食環境においても耐えうる硬化物を得ることができる。そのため、耐食性、耐薬品性が要求される橋梁などの構造物、道路の補修材、建造物の外壁、床用の塗料など幅広い分野で使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に使用される(A)成分である芳香族アミンの例としては、例えば、ジエチルトルエンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジメチルチオトルエンジアミン、1-メチル-3,5-ジエチル-2,4-ジアミノベンゼン、1-メチル-3,5-ジエチル-2,6-ジアミノベンゼン、1,3,5-トリエチル-2,6-ジアミノベンゼン、3,3’-ジエチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジメチルジフェニルメタン、3,5,3’,5’-テトラメチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-メチレンビス[N-(1-メチルプロピル)アニリン]、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、4-メチル-9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、4-クロロ-9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、2-エチル-9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、2-ヨード-9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、3-ブロモ-9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、9-(4-メチルアミノフェニル)-9-(4-エチルアミノフェニル)フルオレン、1-クロロ-9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、2-メチル-9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、2,6-ジメチル-9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、1,5-ジメチル-9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、2-フルオロ-9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、1,2,3,4,5,6,7,8-オクタフルオロ-9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、2,7-ジニトロ-9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、2-クロロ-4-メチル-9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、2,7-ジクロロ-9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、2-アセチル-9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、2-メチル-9,9-ビス(4-メチルアミノフェニル)フルオレン、2-クロロ-9,9-ビス(4-エチルアミノフェニル)フルオレン、2-t-ブチル-9,9-ビス(4-メチルアミノフェニル)フルオレン、4-クロロ-o-フェニレンジアミンなどがあげられる。また、これらアミン類の変性物であってもよい。アミンの変性方法としては、カルボン酸との脱水縮合、エポキシ樹脂との付加反応、イソシアネートとの付加反応、マイケル付加反応、マンニッヒ反応、尿素との縮合反応、ケトンとの縮合反応などが挙げられる。これらは、単独で使用することもできるし、任意の割合で組み合わせて使用することもできる。
【0011】
好ましい(A)成分の例としては、下記一般式(1)で表される化合物が挙げられる。
【0012】
【化1】
(式(1)中のR1は、それぞれ独立に、炭素原子数1~6の脂肪族炭化水素基、炭素原子数1~6のアルコキシ基又は炭素原子数1~6のチオアルキル基を表す。式(1)中のnは、2以上4以下の数である。)なお環上の結合手であって、R1及びアミノ基が結合していない結合手には水素原子が結合する(以下式(2)以後も同様)。
【0013】
上記R1で表される炭素原子数1~6のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基等が挙げられ、炭素原子数1~2が特に好ましい。
上記R1で表されるチオアルキル基としては、メチルチオ基、エチルチオ基、プロパンチオ基等が挙げられ、炭素原子数1~2が特に好ましい。
【0014】
上記R1で表される炭素原子数1~6の脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基等が挙げられ、炭素原子数1~2が特に好ましい。
【0015】
式(1)において、ベンゼン環上の2つのアミノ基が互いにメタ又はパラの位置にある化合物が更に好ましい。また、上記一般式(1)の化合物としては、脂肪族炭化水素基、アルコキシ基及びチオアルキル基を合計で3つ有する化合物が硬化性に優れる点で特に好ましく、とりわけ、炭素原子数2以下の脂肪族炭化水素基を3つ含有する基が好ましい。また、エチル基を2つ又は3つ含有する化合物も、硬化性に優れる点で特に好ましい。とりわけ、芳香族アミンの中でも、ジエチルトルエンジアミン、1-メチル-3,5-ジエチル-2,4-ジアミノベンゼン、1-メチル-3,5-ジエチル-2,6-ジアミノベンゼン及び1,3,5-トリエチル-2,6-ジアミノベンゼンから選ばれる単核芳香族アミンが、サリチル酸と組み合わせた場合に、特に優れた硬化性を奏するため好ましい。
【0016】
本発明に使用される(B)成分であるサリチル酸は、通常に市販されたサリチル酸を使用することができる。
【0017】
本発明に使用される(C)成分である水酸基含有芳香族系溶媒は、分子中に芳香族環構造を有し、かつ水酸基を有する化合物である。上記水酸基含有芳香族系溶媒の一例としては、下記一般式(2)で表される化合物が挙げられる。
【0018】
【化2】
(式(2)中のArは、芳香族環を表す。式(2)中のR7は、それぞれ独立に、下記式(3)で表される基又は炭素原子数1~20の脂肪族炭化水素基を表す。式(2)中のvは、0以上の整数であって環Arがとりうる結合手の数から1を引いた数を表す。式(2)中のLは、直接結合又は2価の炭化水素基を表す。)
【0019】
【化3】
(R4はそれぞれ独立に、ハロゲン原子、メチル基又はメトキシ基であり、mは0~5の数である。)なお、ハロゲン原子としては、フッ素原子、臭素原子、塩素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0020】
上記一般式(2)中の芳香族環Arとしては、炭化水素環又は複素環とすることができる。
上記芳香族環である炭化水素環としては、ベンゼン環、ナフタレン環が挙げられる。
上記芳香族環である複素環としては、五員環又は六員環とすることができる。五員環の複素環としては、例えば、フラン、チオフェン、ピロール、ピロリジン等が挙げられる。六員環の複素環としては、例えば、ピペリジン、ピペラジン、モルフォリン、チオモルフォリン、ピリジン等が挙げられる。
【0021】
上記一般式(2)中のR7で表される炭素原子数1~20の脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基等が挙げられる。
【0022】
上記一般式(2)中のLで表される2価の炭化水素基としては、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基等の炭素原子数1~8のアルキレン基等が挙げられる。
炭素原子数1~8のアルキレン基中のメチレン鎖は、-O-、-S-、-CO-又は-C=C-に置き換えられてもよく、該メチレン鎖の水素原子はハロゲン原子、ヒドロキシ基、シアノ基、炭素原子数1~4のエステル基又は炭素原子数1~4のアルコキシ基で置換されてもよい。この場合、炭化水素基の炭素原子数は、メチレン基が置換された後の炭素原子数を規定する。
式(2)中において、芳香環又は複素環とヒドロキシ基とは互いに直接結合している場合もあり、メチレン基を介して結合している場合もあり、エチレン基を介して結合している場合もある。
【0023】
(C)成分である水酸基含有芳香族系溶媒の具体例としては、例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、エチルフェノール、イソプロピルフェノール、p-tert-ブチルフェノール、p-tert-オクチルフェノール、ノニルフェノール、ジノニルフェノール、ナフトール、スチレン化フェノール、ベンジルアルコール、フルフリルアルコール、フェネチルアルコールなどが挙げられる。(C)成分である水酸基含有芳香族系溶媒を使用することにより、サリチル酸の結晶化を抑制することができる。
これらの水酸基含有芳香族系溶媒の中でも、スチレン化フェノール、ベンジルアルコール、フルフリルアルコールなどが、貯蔵安定性に優れた硬化剤組成物を提供しうるため好ましい。
【0024】
本発明の硬化剤組成物において、(A)成分である芳香族アミン100質量部に対し、(B)成分であるサリチル酸の配合量は、50~200質量部であり、好ましくは75~150質量部である。50質量部未満では硬化剤組成物の外観安定性等の保存安定性が低下するおそれがあり、200質量部を超えて使用した場合には硬化剤組成物の硬化性が低下する恐れがある。
また、(C)成分である水酸基含有芳香族系溶媒の配合量は、(B)成分100質量部に対し、10~200質量部であり、好ましくは25~150質量部である。(C)成分である水酸基含有芳香族系溶媒を10質量部以上使用することで外観安定性を低下することを防止でき、200質量部以下使用することで硬化性が低下することを防止できる。
【0025】
外観安定性及び硬化性を両立がより容易である点から、本発明の硬化剤組成物中、(A)成分、(B)成分及び(C)成分以外の成分の量としては、合計で、50質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。
【0026】
また外観安定性及び硬化性を両立がより容易である点から、(A)成分100質量部に対する(C)成分の量は、5質量部以上500質量部未満であることが好ましく、10質量部以上300質量部未満であることがより好ましい。
【0027】
本発明の硬化剤組成物は、公知のエポキシ樹脂と組み合わせてエポキシ樹脂組成物を提供することができる。
【0028】
公知のエポキシ樹脂としては、例えば、ハイドロキノン、レゾルシン、ピロカテコール、フロログルクシノールなどの単核多価フェノール化合物のポリグリシジルエーテル化合物;ジヒドロキシナフタレン、ビフェノール、メチレンビスフェノール(ビスフェノールF)、メチレンビス(オルトクレゾール)、エチリデンビスフェノール、イソプロピリデンビスフェノール(ビスフェノールA)、イソプロピリデンビス(オルトクレゾール)、テトラブロモビスフェノールA、1,3-ビス(4-ヒドロキシクミルベンゼン)、1,4-ビス(4-ヒドロキシクミルベンゼン)、1,1,3-トリス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1,2,2-テトラ(4-ヒドロキシフェニル)エタン、チオビスフェノール、スルホビスフェノール、オキシビスフェノール、フェノールノボラック、オルソクレゾールノボラック、エチルフェノールノボラック、ブチルフェノールノボラック、オクチルフェノールノボラック、レゾルシンノボラック、テルペンフェノール等の多核多価フェノール化合物のポリグリシジルエーテル化合物;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、チオグリコール、ジシクロペンタジエンジメタノール、2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン(水素化ビスフェノールA)、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、ビスフェノールA-アルキレンオキシド付加物などの多価アルコール化合物のポリグリシジルエーテル化合物;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、コハク酸、グルタル酸、スベリン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ダイマー酸、トリマー酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、テトラヒドロフタル酸、エンドメチレンテトラヒドロフタル酸等の脂肪族、芳香族又は脂環族多塩基酸のグリシジルエステル化合物及びグリシジルメタクリレートの単独重合体又は共重合体;N,N-ジグリシジルアニリン、ビス(4-(N-メチル-N-グリシジルアミノ)フェニル)メタン、ジグリシジルオルトトルイジン、N,N-ビス(2,3-エポキシプロピル)-4-(2,3-エポキシプロポキシ)-2-メチルアニリン、N,N-ビス(2,3-エポキシプロピル)-4-(2,3-エポキシプロポキシ)アニリン、N,N,N’,N’-テトラ(2,3-エポキシプロピル)-4,4-ジアミノジフェニルメタン等のグリシジルアミノ基を有するエポキシ化合物;ビニルシクロヘキセンジエポキシド、シクロペンタンジエンジエポキサイド、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシルメチル-6-メチルシクロヘキサンカルボキシレート、ビス(3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシルメチル)アジペート等の環状オレフィン化合物のエポキシ化物;エポキシ化ポリブタジエン、エポキシ化スチレン-ブタジエン共重合物等のエポキシ化共役ジエン重合体;トリグリシジルイソシアヌレート等の複素環化合物があげられる。また、これらのエポキシ樹脂は、末端イソシアネートのプレポリマーにより内部架橋されたもの、あるいは多価の活性水素化合物(多価フェノール、ポリアミン、カルボニル基含有化合物、ポリリン酸エステル等)で高分子量化したものでもよい。
これらのエポキシ樹脂は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用して用いてもよい。
【0029】
本発明のエポキシ樹脂組成物には、前記(A)成分、前記(B)成分及び前記(C)成分を含有する硬化剤組成物と共にその他の通常知られたエポキシ樹脂硬化剤(以下「その他の硬化剤」という。)を併用することができる。前記その他の硬化剤としては、例えば、フェノール系硬化剤、アミン系硬化剤〔(A)成分である芳香族アミンを除く〕等が挙げられる。
【0030】
本発明のエポキシ樹脂組成物におけるエポキシ樹脂と硬化剤組成物(好ましくは本発明の硬化剤組成物)の好適な使用量は、エポキシ樹脂中のエポキシ基1当量(エポキシ基を含む希釈剤を使用する場合はそれも含む)に対し、硬化剤組成物(その他硬化剤を有するときはそれも含む)の活性水素当量が0.8~1.2当量となる量である。
【0031】
前記フェノール系硬化剤としては、例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエンフェノール付加型樹脂、フェノールアラルキル樹脂(ザイロック樹脂)、ナフトールアラルキル樹脂、トリスフェニロールメタン樹脂、テトラフェニロールエタン樹脂、ナフトールノボラック樹脂、ナフトール-フェノール共縮合ノボラック樹脂、ナフトール-クレゾール共縮合ノボラック樹脂、ビフェニル変性フェノール樹脂(ビスメチレン基でフェノール核が連結された多価フェノール化合物)、ビフェニル変性ナフトール樹脂(ビスメチレン基でフェノール核が連結された多価ナフトール化合物)、アミノトリアジン変性フェノール樹脂(フェノール骨格、トリアジン環及び1級アミノ基を分子構造中に有する化合物)、及び、アルコキシ基含有芳香環変性ノボラック樹脂(ホルムアルデヒドでフェノール核及びアルコキシ基含有芳香環が連結された多価フェノール化合物)等の多価フェノール化合物があげられる。
【0032】
前記アミン系硬化剤としては、例えば、エチレンジアミン、1,2-ジアミノプロパン、1,3-ジアミノプロパン、1,3-ジアミノブタン、1,4-ジアミノブタン、ヘキサメチレンジアミン及びメタキシレンジアミン等のアルキレンジアミン類;ジエチレントリアミン、トリエチレントリアミン及びテトラエチレンペンタミン等のポリアルキルポリアミン類;1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,3-ジアミノメチルシクロヘキサン、1,2-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノ-3,6-ジエチルシクロヘキサン、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルプロパン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)スルホン、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルエーテル、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン、イソホロンジアミン及びノルボルネンジアミン等の脂環式ポリアミン類;N,N-ジメチルアミノエチルアミン、N,N-ジエチルアミノエチルアミン、N,N-ジイソプロピルアミノエチルアミン、N,N-ジアリルアミノエチルアミン、N,N-ベンジルメチルアミノエチルアミン、N,N-ジベンジルアミノエチルアミン、N,N-シクロヘキシルメチルアミノエチルアミン、N,N-ジシクロヘキシルアミノエチルアミン、N-(2-アミノエチル)ピロリジン、N-(2-アミノエチル)ピペリジン、N-(2-アミノエチル)モルホリン、N-(2-アミノエチル)ピペラジン、N-(2-アミノエチル)-N’-メチルピペラジン、N,N-ジメチルアミノプロピルアミン、N,N-ジエチルアミノプロピルアミン、N,N-ジイソプロピルアミノプロピルアミン、N,N-ジアリルアミノプロピルアミン、N,N-ベンジルメチルアミノプロピルアミン、N,N-ジベンジルアミノプロピルアミン、N,N-シクロヘキシルメチルアミノプロピルアミン、N,N-ジシクロヘキシルアミノプロピルアミン、N-(3-アミノプロピル)ピロリジン、N-(3-アミノプロピル)ピペリジン、N-(3-アミノプロピル)モルホリン、N-(3-アミノプロピル)ピペラジン、N-(3-アミノプロピル)-N’-メチルピペリジン、4-(N,N-ジメチルアミノ)ベンジルアミン、4-(N,N-ジエチルアミノ)ベンジルアミン、4-(N,N-ジイソプロピルアミノ)ベンジルアミン、N,N,-ジメチルイソホロンジアミン、N,N-ジメチルビスアミノシクロヘキサン、N,N,N’-トリメチルエチレンジアミン、N’-エチル-N,N-ジメチルエチレンジアミン、N,N,N’-トリエチルエチレンジアミン、N’-エチル-N,N-ジメチルプロパンジアミン、N’-エチル-N,N-ジベンジルアミノプロピルアミン等;N,N-(ビスアミノプロピル)-N-メチルアミン、N,N-ビスアミノプロピルエチルアミン、N,N-ビスアミノプロピルプロピルアミン、N,N-ビスアミノプロピルブチルアミン、N,N-ビスアミノプロピルペンチルアミン、N,N-ビスアミノプロピルヘキシルアミン、N,N-ビスアミノプロピル-2-エチルヘキシルアミン、N,N-ビスアミノプロピルシクロヘキシルアミン、N,N-ビスアミノプロピルベンジルアミン、N,N-ビスアミノプロピルアリルアミン、ビス〔3-(N,N-ジメチルアミノプロピル)〕アミン、ビス〔3-(N,N-ジエチルアミノプロピル)〕アミン、ビス〔3-(N,N-ジイソプロピルアミノプロピル)〕アミン、ビス〔3-(N,N-ジブチルアミノプロピル)〕アミン等;シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、スベリン酸ジヒドラジド、アゼライン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド及びフタル酸ジヒドラジド等の二塩基酸ジヒドラジド;ジシアンジアミド、ベンゾグアナミン及びアセトグアナミン等のグアニジン化合物;メラミン等が挙げられる。
【0033】
また、前記アミン類を変性した変性アミン系硬化剤を用いることもできる。変性方法としては、カルボン酸との脱水縮合、エポキシ化合物との付加反応、イソシアネート化合物との付加反応、マイケル付加反応、マンニッヒ反応、尿素との縮合反応、及びケトンとの縮合反応等が挙げられる。
【0034】
前記アミン類の変性に使用することのできるカルボン酸としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、コハク酸、グルタル酸、スベリン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ダイマー酸、トリマー酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸及びエンドメチレンテトラヒドロフタル酸等の脂肪族、芳香族又は脂環族多塩基酸等が挙げられる。
【0035】
前記アミン類の変性に使用することのできるエポキシ化合物としては、例えば、前記公知のエポキシ樹脂として例示したエポキシ化合物が挙げられる。
【0036】
前記アミン類の変性に使用することのできるイソシアネート化合物としては、例えば、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、1,5-ナフチレンジイソシアネート、1,5-テトラヒドロナフタレンジイソシアネート、3,3’-ジメチルジフェニル-4,4’-ジイソシアネート、ジアニシジンジイソシアネート及びテトラメチルキシリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、トランス-1,4-シクロヘキシルジイソシアネート及びノルボルネンジイソシアネート等の脂環式ジイソシアネート;テトラメチレンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4及び/又は(2,4,4)-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート及びリシンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート;前記例示のジイソシアネートのイソシアヌレート三量化物、ビューレット三量化物及びトリメチロールプロパンアダクト化物等;トリフェニルメタントリイソシアネート、1-メチルベンゾール-2,4,6-トリイソシアネート及びジメチルトリフェニルメタンテトライソシアネート等が挙げられる。さらにこれらのイソシアネート化合物は、カルボジイミド変性、イソシアヌレート変性、ビウレット変性等の変性物の形で用いることもでき、各種のブロッキング剤によってブロックされたブロックイソシアネートの形で用いることもできる。
【0037】
本発明のエポキシ樹脂組成物には、必要に応じて硬化促進剤を併用することができる。前記硬化促進剤としては、例えば、トリフェニルホスフィン等のホスフィン類;テトラフェニルホスホニウムブロマイド等のホスホニウム塩;ベンジルジメチルアミン及び2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等のアミン類;トリメチルアンモニウムクロライド等の4級アンモニウム塩類;3-(p-クロロフェニル)-1,1-ジメチルウレア、3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチルウレア、3-フェニル-1,1-ジメチルウレア、イソホロンジイソシアネート-ジメチルウレア及びトリレンジイソシアネート-ジメチルウレア等のウレア類;三フッ化ホウ素とアミン類との錯化合物、及び三フッ化ホウ素とエーテル化合物との錯化合物等が挙げられる。これらの硬化促進剤は、単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。硬化促進剤の含有量は、特に制限なく硬化性樹脂組成物の用途に応じて適宜設定することができる。
【0038】
本発明のエポキシ樹脂組成物においては、所望の粘度に調整して使用するために、反応性希釈剤を併用してもよい。このような反応性希釈剤としては、例えば、n-ブチルグリシジルエーテル、C12~C14のアルキルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、スチレンオキシド、フェニルグリシジルエーテル、クレジルグリシジルエーテル、p-sec-ブチルフェニルグリシジルエーテル、t-ブチルフェニルグリシジルエーテル、グリシジルメタクリレート、及び3級カルボン酸グリシジルエステルなどがあげられる。
【0039】
本発明のエポキシ樹脂組成物には、必要に応じて、更に添加剤を併用してもよい。上記添加剤としては、例えば、シランカップリング剤、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ベンジルアルコール、コールタール等の非反応性の希釈剤(可塑剤);顔料;キャンデリラワックス、カルナウバワックス、木ろう、イボタロウ、みつろう、ラノリン、鯨ろう、モンタンワックス、石油ワックス、脂肪酸ワックス、脂肪酸エステル、脂肪酸エーテル、芳香族エステル、芳香族エーテル等の潤滑剤;増粘剤;チキソトロピック剤;酸化防止剤;光安定剤;紫外線吸収剤;難燃剤;消泡剤;防錆剤等の常用の添加剤を挙げることができる。
【0040】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、各種塗料、各種接着剤、各種成形品など幅広く使用することができるが、その特性から鋼構造物、コンクリート構造物等の補修材として特に好ましく使用することができる。
【実施例0041】
以下本発明を、実施例に基づいて更に具体的に説明する。しかしながら本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【0042】
〔実施例1〕
エタキュア100プラス(三井化学ファイン株式会社製;ジエチルトルエンジアミン)435.5g、ベンジルアルコール242g及びサリチル酸322.5gを2Lフラスコに仕込んで90~100℃で2時間混合して硬化剤組成物A1を製造した。なお、以下の実施例について、本混合条件でサリチル酸が溶解しない場合は、溶解するまで混合を延長した。
【0043】
〔実施例2〕
サリチル酸の含有量を452gとした以外は実施例1と同様にして硬化剤組成物A2を製造した。
【0044】
〔実施例3〕
サリチル酸の含有量を554gとした以外は実施例1と同様にして硬化剤組成物A3を製造した。
【0045】
〔実施例4〕
ベンジルアルコールをフルフリルアルコールに変えた以外は実施例1と同様にして硬化剤組成物A4を製造した。
【0046】
〔比較例1〕
ベンジルアルコールをトルエンに変えた以外は実施例1と同様にして硬化剤組成物B1を製造した。
【0047】
〔比較例2〕
ベンジルアルコールをアセトンに変えた以外は実施例1と同様にして硬化剤組成物B2を製造した。
【0048】
〔外観安定性〕
前記実施例及び比較例により得られた硬化剤組成物をガラス瓶に入れて室温で1か月放置した。目視により下記の通り評価した。これらの結果を表1に示した。
〇:沈降しなかった。
×:沈降物が確認された。
【0049】
【表1】
【0050】
〔実施例5~8、比較例3及び4〕
アデカレジンEP-4100((株)ADEKA製;ビスフェノールA型エポキシ樹脂)850質量部及びアデカグリシロールED-523T((株)ADEKA製;ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル)150質量部を50~80℃で1時間混練して得られた混合物を主剤とした。主剤100質量部に対し、前記実施例及び前記比較例により得られた硬化剤組成物を表2に示すように、主剤中のエポキシ当量と硬化剤組成物中の活性水素当量が1:1となるような配合で、それぞれエポキシ樹脂組成物を得た。得られたエポキシ樹脂組成物を用いて下記の硬化試験1及び2を実施した。
【0051】
〔硬化試験1〕
エポキシ樹脂組成物50gを紙コップに入れて常温(22℃)で混合しながら攪拌棒によって円を描くようにして攪拌しながら攪拌棒を持ち上げて引き離した場合に、糸引きが無くなるまでの時間(分)を測定した。
【0052】
〔硬化試験2〕
エポキシ樹脂組成物4gをガラス板上に塗布し、常温(22℃)で18時間放置後の爪の立ち具合を下記の基準により評価した。
〇:爪跡が残らなかった。
×:爪跡が残った。
【0053】
【表2】
【0054】
表1からわかるように、本発明の硬化剤組成物は外観安定性に優れたものである。また表2からわかるように、本発明の硬化剤組成物とエポキシ樹脂とを組合わせて得られるエポキシ樹脂組成物は、硬化性に優れたものである。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の硬化剤組成物は、外観安定性等の保存安定性に優れ、これとエポキシ樹脂とを組合わせて得られるエポキシ樹脂組成物は、優れた硬化性を有することから、各種塗料、各種接着剤、各種成形品に使用することができ、とりわけ、金属やコンクリートなどの防食補修材として特に好適的に使用することができる。