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特開2023-131086研磨用組成物、研磨方法、および半導体基板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023131086
(43)【公開日】2023-09-21
(54)【発明の名称】研磨用組成物、研磨方法、および半導体基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/14 20060101AFI20230913BHJP
   C09G 1/02 20060101ALI20230913BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20230913BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20230913BHJP
【FI】
C09K3/14 550D
C09K3/14 550Z
C09G1/02
B24B37/00 H
H01L21/304 622D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022145042
(22)【出願日】2022-09-13
(31)【優先権主張番号】P 2022035214
(32)【優先日】2022-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】多田 真樹
(72)【発明者】
【氏名】熊山 あかね
【テーマコード(参考)】
3C158
5F057
【Fターム(参考)】
3C158AA07
3C158CA04
3C158CB01
3C158CB10
3C158DA02
3C158DA12
3C158DA17
3C158EA11
3C158EB01
3C158ED08
3C158ED23
3C158ED26
5F057AA17
5F057AA28
5F057BA21
5F057BB16
5F057BB38
5F057BC01
5F057CA12
5F057DA03
5F057EA06
5F057EA07
5F057EA08
5F057EA09
5F057EA10
5F057EA21
5F057EA26
5F057EA28
5F057EA29
5F057EA30
5F057EA32
(57)【要約】
【課題】SiNの研磨速度に対する、SiOCの研磨速度の比を向上させる手段を提供する。
【解決手段】少なくとも1種のジルコニア粒子を含む砥粒と、1価のアニオンおよび1価以上のカチオンからなる少なくとも1種の塩を含み、SiNの研磨速度に対する、SiOCの研磨速度の比を向上させる選択比向上剤と、少なくとも1種の酸を含むpH調整剤とを含み、pHが3.0を超えて7.0未満であり、前記砥粒のゼータ電位が正の値である、研磨用組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種のジルコニア粒子を含む砥粒と、
1価のアニオンおよび1価以上のカチオンからなる少なくとも1種の塩を含み、SiNの研磨速度に対する、SiOCの研磨速度の比を向上させる選択比向上剤と、
少なくとも1種の酸を含むpH調整剤と、
を含み、
pHが、3.0を超えて7.0未満であり、
前記砥粒のゼータ電位が、正の値である、研磨用組成物。
【請求項2】
前記選択比向上剤の濃度が、50ppm以上1000ppm以下である、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項3】
pHが、4.0以上6.0以下である、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項4】
前記pH調整剤は、酢酸を含む、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項5】
前記選択比向上剤は、酢酸アンモニウムを含む、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項6】
前記砥粒の含有量が、0.01質量%以上1.0質量%以下である、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項7】
糖アルコールからなる群から選択される少なくとも1種の分散剤をさらに含む、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の研磨用組成物を用いて、SiOCおよびSiNを含む研磨対象物を研磨する工程を含む、研磨方法。
【請求項9】
SiOCおよびSiNを含む半導体基板を請求項8に記載の研磨方法により研磨する工程を有する、半導体基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨用組成物、研磨方法、および半導体基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、LSI(Large Scale Integration)の高集積化、高性能化に伴って新たな微細加工技術が開発されている。化学機械研磨(chemical mechanical polishing;CMP)法もその一つであり、LSI製造工程、特に多層配線形成工程における層間絶縁膜の平坦化、金属プラグ形成、埋め込み配線(ダマシン配線)形成において頻繁に利用される技術である。
【0003】
多層配線形成工程における層間絶縁膜の材料として、配線間容量を抑えるために、低誘電率(Low-k)材料が採用されつつある。プラズマCVD法により形成されるSiOC(SiOにCをドープした、炭素含有酸化ケイ素)は、低誘電率(Low-k)材料として広く採用されている。
【0004】
SiOCを研磨するための技術として、特許文献1には、セリウムを含む砥粒と、ヒドロキシアルキルセルロースとを含有し、pHが6.0以上である研磨用組成物が開示されている。特許文献1によれば、このような構成とすることにより、SiOCの研磨速度を向上させることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-139349号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
最近、SiOCとSiN(窒化ケイ素)とを共に含む基板が用いられるようになってきており、このような基板において、SiOCを選択的に研磨するという要求が高まってきている。しかしながら、特許文献1に記載の研磨用組成物によると、SiNの研磨速度に対する、SiOCの研磨速度の比(選択比)が低い場合があるという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、SiNの研磨速度に対する、SiOCの研磨速度の比を向上させる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、ジルコニア粒子(砥粒)と、1価のアニオンおよび1価以上のカチオンからなる塩(選択比向上剤)と、酸(pH調整剤)とを含む研磨用組成物において、pHおよび砥粒のゼータ電位をそれぞれ特定の範囲に制御することで上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明の一形態は、少なくとも1種のジルコニア粒子を含む砥粒と、1価のアニオンおよび1価以上のカチオンからなる少なくとも1種の塩を含み、SiNの研磨速度に対する、SiOCの研磨速度の比を向上させる選択比向上剤と、少なくとも1種の酸を含むpH調整剤とを含み、pHが3.0を超えて7.0未満であり、前記砥粒のゼータ電位が正の値である、研磨用組成物である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、SiNの研磨速度に対する、SiOCの研磨速度の比を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を説明するが、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであり、以下の形態のみに制限されない。
【0012】
本明細書において、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20℃以上25℃以下)/相対湿度40%RH以上50%RH以下の条件で行う。また、本明細書において、SiNの研磨速度に対する、SiOCの研磨速度の比を、単に「選択比」とも称し、SiNの研磨速度に対する、SiOCの研磨速度の比を向上させる選択比向上剤を、単に「選択比向上剤」とも称する。本明細書に記載される実施形態は、任意に組み合わせることにより、他の実施形態とすることができる。
【0013】
本発明の一形態は、少なくとも1種のジルコニア粒子を含む砥粒と、1価のアニオンおよび1価以上のカチオンからなる少なくとも1種の塩を含み、SiNの研磨速度に対する、SiOCの研磨速度の比を向上させる選択比向上剤と、少なくとも1種の酸を含むpH調整剤とを含み、pHが3.0を超えて7.0未満であり、前記砥粒のゼータ電位が正の値である、研磨用組成物である。上記構成により、SiNの研磨速度に対する、SiOCの研磨速度の比(選択比)を向上させることができる。
【0014】
上記のような効果が得られるメカニズムは、以下の通りであると考えられる。ただし、下記メカニズムはあくまで推測であり、これによって本発明の範囲が制限されることはない。
【0015】
砥粒としてのジルコニア粒子は、シリカ粒子、セリア粒子およびアルミナ粒子と比較してSiOCを高速で研磨することができる。
【0016】
選択比向上剤としての1価のアニオンおよび1価以上のカチオンからなる塩は、1価のアニオンがジルコニア粒子を含む砥粒の表面に付着し、表面の親水度を下げる。これにより、疎水度の高いSiOCの表面に、砥粒が接近しやすくなり、SiOCの研磨速度が向上する。一方、2価以上のアニオンおよび1価以上のカチオンからなる塩を用いると、砥粒にアニオンが付着して砥粒のゼータ電位が負(-)の値となり、負(-)に帯電するSiOCの表面と、砥粒とが反発しうる。その結果、SiOCの研磨速度が低下し、充分な選択比が得られないおそれがある。
【0017】
pH調整剤としての酸は、上記と同様に、アニオンがジルコニア粒子を含む砥粒の表面に付着し、表面の親水度を下げる。これにより、疎水度の高いSiOCの表面に、砥粒が接近しやすくなり、SiOCの研磨速度が向上する。また、pH調整剤により、研磨用組成物のpHは3.0を超えて7.0未満に制御される。pHが上記範囲内であると、充分な選択比向上効果が得られる。一方、pHが3.0以下であると、SiOCの表面が正(+)に帯電し、正(+)のゼータ電位を有する砥粒と反発することで、SiOCの研磨速度が低下するおそれがある。pHが7.0以上であると、ジルコニア粒子を含む砥粒のゼータ電位がゼロ(0)付近となり、砥粒同士の反発が小さくなり凝集が生じうる(なお、ジルコニア粒子の等電点は、通常pHが7.0~9.0(8.0付近)である)。
【0018】
また、pHが、3.0を超えて7.0未満の範囲内において、ジルコニア粒子を含む砥粒が研磨用組成物中で正(+)のゼータ電位を有することにより、負(-)に帯電するSiOCの表面に、正(+)のゼータ電位を有する砥粒が引きつけられ、SiOCの研磨速度が向上する。
【0019】
これらにより、本形態に係る研磨用組成物をSiOCおよびSiNを含む研磨対象物に適用することで、高い速度でSiOCを研磨することが可能となる。その結果、SiNの研磨速度に対する、SiOCの研磨速度の比を有意に向上させることが可能となるのである。
【0020】
以下、本形態に係る研磨用組成物について、詳細に説明する。
【0021】
[研磨対象物]
本形態の研磨用組成物を用いて研磨される研磨対象物は、SiOC(炭素添加酸化ケイ素)およびSiN(窒化ケイ素)を含むことが好ましい。
【0022】
研磨対象物は、SiOCおよびSiN以外の他の材料をさらに含んでもよい。他の材料の例としては、酸化ケイ素、単結晶シリコン、多結晶シリコン(ポリシリコン)、非晶質シリコン(アモルファスシリコン)、n型またはp型不純物がドープされた多結晶シリコン、n型またはp型不純物がドープされた非晶質シリコン、SiGe、金属単体(例えば、タングステン、銅、コバルト、ハフニウム、ニッケル、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、オスミウム等)、金属窒化物(例えば、窒化タンタル(TaN)、窒化チタン(TiN)等)、有機材料(例えば、アモルファス炭素(アモルファスカーボン)、スピンオンカーボン(SOC)、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)、ナノ結晶ダイヤモンド、グラフェン等)等が挙げられる。
【0023】
これらの材料を含む膜は、化学気相蒸着(CVD)、物理気相蒸着(PVD)、スピンコート法等によって形成することができる。
【0024】
[砥粒]
本形態に係る研磨用組成物は、砥粒としてジルコニア粒子を含む。ジルコニア粒子は、研磨対象物を機械的に研磨する作用を有する。ジルコニア粒子は、1種単独でもまたは2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、ジルコニア粒子は、市販品を用いてもよいし、合成品を用いてもよい。なお、通常、ジルコニアは、不可避不純物であるハフニア(HfO)を含む。本明細書中、含有量など組成に関連した数値は、不可避不純物であるハフニア(HfO)をジルコニア(ZrO)とみなして算出される数値である。
【0025】
ジルコニア粒子は、コロイダルジルコニア粒子、または粉砕/焼成ジルコニア粒子であることが好ましく、コロイダルジルコニア粒子であることがより好ましい。また、ジルコニア粒子は、ドープされていないか、あるいは、例えば、イットリウム(Y)もしくはその酸化物、酸化カルシウム、または酸化マグネシウムでドープされていてもよい。なお、ジルコニア粒子の結晶構造は、特に制限されず、単斜晶、正方晶、立方晶のいずれであってもよい。
【0026】
ジルコニア粒子の形状は、特に制限されず、球形状であってもよいし、非球形状であってもよい。非球形状の具体例としては、三角柱や四角柱などの多角柱状、円柱状、円柱の中央部が端部よりも膨らんだ俵状、円盤の中央部が貫通しているドーナツ状、板状、中央部にくびれを有するいわゆる繭型形状、複数の粒子が一体化しているいわゆる会合型球形状、表面に複数の突起を有するいわゆる金平糖形状、棒状、菱形形状、角状、ラグビーボール形状等、種々の形状が挙げられ、特に制限されない。
【0027】
ジルコニア粒子は、一次粒子および/または二次粒子を含む凝集体である。凝集体は個々の粒子の組み合わせから形成され得、これらの個々の粒子は、当技術分野では一次粒子として知られているが、粒子の凝集した組み合わせは、当技術分野では二次粒子として知られている。研磨用組成物中のジルコニア粒子は、一次粒子の形態、または一次粒子の凝集体である二次粒子の形態であり得る。あるいは、ジルコニア粒子は、一次粒子の形態および二次粒子の形態の両方で存在し得る。好ましい実施形態では、ジルコニア粒子は、研磨用組成物中に少なくとも部分的に二次粒子の形態で存在する。
【0028】
本形態に係るジルコニア粒子の粒子径は、好ましくは5nm以上200nm以下であり、より好ましくは10nm以上150nm以下であり、さらに好ましくは30nm以上100nm以下であり、特に好ましくは50nm以上90nm以下である。ジルコニア粒子の粒子径が5nm以上であると、研磨が効率的になり、充分な研磨速度が得られる。ジルコニア粒子の粒子径が200nm以下であると、研磨用組成物の分散安定性が優れる。なお、本明細書において、ジルコニア粒子の粒子径は、レーザー回折散乱法により求められる粒度分布において、微粒子側から積算粒子体積が全粒子体積の50%に達するときの粒子の直径(D50、以下、単に「D50」とも称する)を指す。本明細書におけるジルコニア粒子のD50は、実施例に記載の方法により測定された値を採用する。
【0029】
本形態において、研磨用組成物中の砥粒(好ましくはジルコニア粒子)は、正のゼータ電位を有することを特徴の一つとする。これにより、負(-)に帯電するSiOCの表面に、正(+)のゼータ電位を有する砥粒が引きつけられ、SiOCの研磨速度が向上する。研磨用組成物中の砥粒(好ましくはジルコニア粒子)のゼータ電位は、好ましくは0mVを超えて+70mV以下であり、より好ましくは+10mV以上+60mV以下であり、さらに好ましくは+20mV以上+50mV以下であり、特に好ましくは+30mV以上+45mV以下である。研磨用組成物中の砥粒(好ましくはジルコニア粒子)のゼータ電位が+10mV以上であると、負(-)に帯電するSiOCの表面に砥粒(好ましくはジルコニア粒子)が引きつけられる力が大きくなるため、研磨がよりいっそう効率的になる。研磨用組成物中の砥粒(好ましくはジルコニア粒子)のゼータ電位が+70mV以下であると、研磨後の洗浄にて砥粒の除去が容易になる。研磨用組成物中の砥粒のゼータ電位は、研磨用組成物のpH調整剤または選択比向上剤の種類または量により、制御することができる。なお、本明細書における砥粒のゼータ電位は、実施例に記載の方法により測定された値を採用する。
【0030】
研磨用組成物中の砥粒(好ましくはジルコニア粒子)の含有量(濃度)は、特に制限されない。そのまま研磨液として研磨対象物の研磨に用いられる研磨用組成物(典型的にはスラリー状の研磨液であり、ワーキングスラリーまたは研磨スラリーと称されることもある)の場合には、砥粒の含有量は、研磨用組成物の総質量に対して、好ましくは0.01質量%以上10.0質量%以下であり、より好ましくは0.01質量%以上5.0質量%以下であり、さらに好ましくは0.01質量%以上1.0質量%以下であり、さらにより好ましくは0.05質量%以上1.0質量%以下であり、特に好ましくは0.06質量%以上0.50質量%以下であり、最も好ましくは0.07質量%以上0.30質量%以下である。砥粒の含有量が上記範囲内であると、SiOCについて充分な研磨速度が得られ、コストに優れた研磨用組成物が得られる。
【0031】
また、希釈して研磨に用いられる研磨用組成物(すなわち濃縮液、ワーキングスラリーの原液)の場合、砥粒の含有量は、保存安定性や濾過性等の観点から、通常は、30質量%以下であることが適当であり、好ましくは25質量%以下である。また、濃縮液とすることの利点を活かす観点から、砥粒の含有量は、好ましくは0.3質量%以上であり、より好ましくは0.5質量%以上である。
【0032】
なお、研磨用組成物が2種以上の砥粒を含む場合、砥粒の含有量は、これらの合計量を意図する。
【0033】
本形態に係る研磨用組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲内において、ジルコニア粒子以外の他の砥粒をさらに含んでもよい。かような他の砥粒は、無機粒子、有機粒子、および有機無機複合粒子のいずれであってもよい。無機粒子の具体例としては、例えば、未変性のシリカ、カチオン変性シリカ、アルミナ、セリア、チタニア等の金属酸化物からなる粒子、窒化ケイ素粒子、炭化ケイ素粒子、窒化ホウ素粒子等が挙げられる。有機粒子の具体例としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)粒子が挙げられる。当該他の砥粒は、1種単独でもまたは2種以上組み合わせて使用してもよい。また、当該他の砥粒は、市販品を用いてもよいし、合成品を用いてもよい。
【0034】
ただし、当該他の砥粒の含有量は、砥粒の全質量に対して、好ましくは20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましく、1質量%以下であることが特に好ましい。最も好ましくは、他の砥粒の含有量が0質量%であること、すなわち砥粒がジルコニア粒子のみからなる形態である。
【0035】
[選択比向上剤]
本形態の研磨用組成物は、SiNの研磨速度に対する、SiOCの研磨速度の比を向上させる選択比向上剤を含む。選択比向上剤は、1価のアニオンおよび1価以上のカチオンからなる少なくとも1種の塩を含む。塩は、1種単独でもまたは2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0036】
塩を構成するアニオンは、1価であることを必須とする。2価以上のアニオンを用いると、砥粒にアニオンが付着して砥粒のゼータ電位が負(-)の値となりうる。その結果、SiOCの研磨速度が低下し、充分な選択比が得られないおそれがある。1価のアニオンとしては、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオンなどのハロゲン化物イオン、硝酸イオン、酢酸イオン、ギ酸イオン、プロピオン酸イオン、酪酸イオン、吉草酸イオン、2-メチル酪酸イオン、n-ヘキサン酸イオン、3,3-ジメチル酪酸イオン、2-エチル酪酸イオン、4-メチルペンタン酸イオン、n-ヘプタン酸イオン、2-メチルヘキサン酸イオン、n-オクタン酸イオン、2-エチルヘキサン酸イオン、安息香酸イオン、グリコール酸イオン、サリチル酸イオン、グリセリン酸イオン、乳酸イオン、2-フランカルボン酸イオン、3-フランカルボン酸イオン、2-テトラヒドロフランカルボン酸イオン、メトキシ酢酸イオン、メトキシフェニル酢酸イオン、フェノキシ酢酸イオン、メタンスルホン酸イオン、エタンスルホン酸イオン、イセチオン酸イオン等が挙げられる。中でも、選択比をよりいっそう向上させる観点から、硝酸イオン、酢酸イオンが好ましく、酢酸イオンがより好ましい。
【0037】
塩を構成するカチオンの価数は特に制限されず、1価、2価および3価等、特に制限されない。1価以上のカチオンとしては、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、アンモニウムイオン等が挙げられる。中でも、選択比をよりいっそう向上させる観点から、ナトリウムイオン、カリウムイオン、アンモニウムイオンが好ましく、アンモニウムイオンがより好ましい。
【0038】
塩の具体例としては、酢酸アンモニウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸リチウム、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸リチウム、硝酸マグネシウム、硝酸カルシウム、フッ化アンモニウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化リチウム、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、塩化アンモニウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、臭化アンモニウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化リチウム、臭化マグネシウム、臭化カルシウム、ヨウ化アンモニウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化カルシウム等が挙げられる。中で
も、選択比をよりいっそう向上させる観点から、酢酸アンモニウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、硝酸アンモニウムが好ましく、酢酸アンモニウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウムがより好ましく、酢酸アンモニウムがさらに好ましい。すなわち、本発明の好ましい実施形態によると、選択比向上剤は、酢酸アンモニウムを含む。本発明の好ましい実施形態によると、選択比向上剤は、酢酸アンモニウムのみからなる。
【0039】
研磨用組成物中の選択比向上剤(好ましくは酢酸アンモニウム)の含有量(濃度)は、特に制限されない。そのまま研磨液として研磨対象物の研磨に用いられる研磨用組成物(典型的にはスラリー状の研磨液であり、ワーキングスラリーまたは研磨スラリーと称されることもある)の場合には、選択比向上剤の含有量(濃度)は、選択比向上の観点から、研磨用組成物の総質量に対して、好ましくは30ppm以上2000ppm以下であり、より好ましくは50ppm以上1000ppm以下であり、さらに好ましくは75ppm以上750ppm以下であり、特に好ましくは100ppm以上700ppm以下であり、最も好ましくは300ppm以上600ppm以下である。選択比向上剤の含有量が上記範囲内であると、選択比をよりいっそう向上できる。なお、本明細書において「ppm」は「質量ppm」を意味する。
【0040】
また、研磨用組成物の安定性をよりいっそう向上させる観点から、選択比向上剤(好ましくは酢酸アンモニウム)の含有量(濃度)は、研磨用組成物の総質量に対して、好ましくは50ppm以上500ppm以下であり、より好ましくは50ppm以上200ppm以下である。
【0041】
また、希釈して研磨に用いられる研磨用組成物(すなわち濃縮液、ワーキングスラリーの原液)の場合、選択比向上剤(好ましくは酢酸アンモニウム)の含有量(濃度)は、保存安定性や濾過性等の観点から、通常は、3質量%(30000ppm)以下であることが適当であり、好ましくは2質量%(20000ppm)以下である。また、濃縮液とすることの利点を活かす観点から、選択比向上剤の含有量は、好ましくは100ppm以上であり、より好ましくは500ppm以上である。
【0042】
なお、研磨用組成物が2種以上の選択比向上剤を含む場合、選択比向上剤の含有量は、これらの合計量を意図する。
【0043】
また、砥粒の量に対する選択比向上剤の量の比(選択比向上剤の量/砥粒の量)(質量比)は、好ましくは0.01以上5以下であり、より好ましくは0.05以上1以下であり、さらに好ましくは0.1以上0.8以下であり、さらに好ましくは0.3以上0.7以下である。砥粒の量に対する選択比向上剤の量の比が上記範囲内であると、選択比をよりいっそう向上できる。
【0044】
本形態に係る研磨用組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲内において、選択比を向上させる機能を有する、上記の1価のアニオンおよび1価以上のカチオンからなる塩以外の他の物質を、選択比向上剤としてさらに含んでもよい。ただし、当該他の物質の含有量は、選択比向上剤の全質量に対して、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましく、1質量%以下であることが特に好ましい。最も好ましくは、他の物質の含有量が0質量%であること、すなわち選択比向上剤が1価のアニオンおよび1価以上のカチオンからなる塩のみからなる形態である。
【0045】
[分散媒]
本形態の研磨用組成物は、各成分を分散するための分散媒を含むことが好ましい。分散媒としては、水;メタノール、エタノール、エチレングリコール等のアルコール類;アセトン等のケトン類等や、これらの混合物などが例示できる。これらのうち、分散媒としては水が好ましい。すなわち、本発明の好ましい実施形態によると、分散媒は水を含む。本発明のより好ましい実施形態によると、分散媒は実質的に水からなる。なお、上記の「実質的に」とは、本発明の目的効果が達成され得る限りにおいて、水以外の分散媒が含まれ得ることを意図し、より具体的には、好ましくは90質量%以上100質量%以下の水と0質量%以上10質量%以下の水以外の分散媒とからなり、より好ましくは99質量%以上100質量%以下の水と0質量%以上1質量%以下の水以外の分散媒とからなる。最も好ましくは、分散媒は水である。
【0046】
研磨用組成物に含まれる成分の作用を阻害しないようにするという観点から、分散媒としては、不純物をできる限り含有しない水が好ましく、具体的には、イオン交換樹脂にて不純物イオンを除去した後、フィルタを通して異物を除去した純水や超純水、または蒸留水がより好ましい。
【0047】
[pHおよびpH調整剤]
本形態に係る研磨用組成物は、pHが3.0を超えて7.0未満である。pHが3.0以下であると、前述したようにSiOCの研磨速度が低下し、所望の選択比を得られないおそれがある。pHが7.0以上であると、前述したように砥粒の凝集が生じうる。
【0048】
研磨用組成物のpHは、選択比を向上させる観点から、好ましくは3.5以上6.5以下であり、より好ましくは4.0以上6.0以下であり、さらに好ましくは4.5以上5.5以下である。なお、研磨用組成物のpHは、pHメーターにより測定することが可能である。本明細書におけるpHは、実施例に記載の方法により測定された値を採用する。
【0049】
本形態に係る研磨用組成物は、pH調整剤を含む。pH調整剤は、少なくとも1種の酸を含む。酸は、無機酸および有機酸のいずれであってもよい。酸は、1種単独でもまたは2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0050】
無機酸の具体例としては、塩酸、フッ酸、硝酸等が挙げられる。有機酸の具体例としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、2-メチル酪酸、n-ヘキサン酸、3,3-ジメチル酪酸、2-エチル酪酸、4-メチルペンタン酸、n-ヘプタン酸、2-メチルヘキサン酸、n-オクタン酸、2-エチルヘキサン酸、安息香酸、グリコール酸、サリチル酸、グリセリン酸、乳酸、2-フランカルボン酸、3-フランカルボン酸、2-テトラヒドロフランカルボン酸、メトキシ酢酸、メトキシフェニル酢酸、フェノキシ酢酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、イセチオン酸等が挙げられる。中でも、選択比をよりいっそう向上させる観点から、硝酸、酢酸が好ましく、酢酸がより好ましい。すなわち、本発明の好ましい実施形態によると、pH調整剤は、酢酸を含む。本発明の好ましい実施形態によると、pH調整剤は、酢酸のみからなる。
【0051】
pH調整剤の添加量は、特に制限されず、研磨用組成物が所望のpHとなるように適宜調整すればよい。
【0052】
なお、pH調整剤として必要に応じて塩基を用いても構わないが、本発明の好ましい実施形態によると、pH調整剤は少なくとも1種の酸のみからなる。
【0053】
[添加剤]
本形態に係る研磨用組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲内において、分散剤、酸化剤、錯化剤、防腐剤、防カビ剤等の、研磨用組成物に用いられ得る公知の添加剤をさらに含有してもよい。本形態に係る研磨用組成物は酸性であることから、防カビ剤を含むことが好ましい。また、砥粒(特に、ジルコニア粒子)の分散安定性を向上させることから、分散剤を含むこともまた、好ましい実施形態である。すなわち、本発明の好ましい実施形態では、研磨用組成物は、少なくとも1種のジルコニア粒子を含む砥粒と、1価のアニオンおよび1価以上のカチオンからなる少なくとも1種の塩を含み、SiNの研磨速度に対するSiOCの研磨速度の比を向上させる選択比向上剤と、少なくとも1種の酸を含むpH調整剤と、分散媒と、防カビ剤および分散剤からなる群から選択される少なくとも1種とを含む。本発明のより好ましい実施形態では、研磨用組成物は、少なくとも1種のジルコニア粒子を含む砥粒と、1価のアニオンおよび1価以上のカチオンからなる少なくとも1種の塩を含み、SiNの研磨速度に対するSiOCの研磨速度の比を向上させる選択比向上剤と、少なくとも1種の酸を含むpH調整剤と、分散媒と、防カビ剤および分散剤からなる群から選択される少なくとも1種から実質的に構成される。ここで、「研磨用組成物は、少なくとも1種のジルコニア粒子を含む砥粒と、1価のアニオンおよび1価以上のカチオンからなる少なくとも1種の塩を含み、SiNの研磨速度に対するSiOCの研磨速度の比を向上させる選択比向上剤と、少なくとも1種の酸を含むpH調整剤と、分散媒と、防カビ剤および分散剤からなる群から選択される少なくとも1種とから実質的に構成される」とは、砥粒、選択比向上剤、pH調整剤、分散媒、ならびに防カビ剤および/または分散剤の合計含有量が、研磨用組成物に対して、99質量%を超える(上限:100質量%)ことを意図する。好ましくは、研磨用組成物は、砥粒、選択比向上剤、pH調整剤、分散媒、ならびに防カビ剤および/または分散剤から構成される(上記合計含有量=100質量%)。
【0054】
防カビ剤(防腐剤)は、特に制限されず、所望の用途、目的に応じて適切に選択できる。具体的には、1,2-ベンゾイソチアゾール-3(2H)-オン(BIT)、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン等のイソチアゾリン系防腐剤、およびフェノキシエタノール等が挙げられる。
【0055】
または、防カビ剤(防腐剤)は、下記化学式1で表される化合物でありうる。
【0056】
【化1】
【0057】
前記化学式1中、R~Rは、それぞれ独立して、水素原子、または炭素原子、水素原子、および酸素原子からなる群より選択される少なくとも2種の原子から構成される置換基である。
【0058】
炭素原子、水素原子、および酸素原子からなる群より選択される少なくとも2種の原子から構成される置換基の例としては、例えば、ヒドロキシ基、カルボキシ基、炭素数1以上20以下のアルキル基、炭素数1以上20以下のヒドロキシアルキル基、炭素数1以上20以下のアルコキシ基、炭素数1以上20以下のヒドロキシアルコキシ基、炭素数2以上21以下のアルコキシカルボニル基、炭素数6以上30以下のアリール基、炭素数7以上31以下のアラルキル基(アリールアルキル基)、炭素数6以上30以下のアリールオキシ基、炭素数7以上31以下のアリールオキシカルボニル基、炭素数8以上32以下のアラルキルオキシカルボニル基、炭素数1以上20以下のアシル基、炭素数1以上20以下のアシルオキシ基等が挙げられる。
【0059】
さらに具体的には、炭素数1以上20以下のアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基等の直鎖状のアルキル基;イソプロピル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、t-アミル基、ネオペンチル基、3-メチルペンチル基、1,1-ジエチルプロピル基、1,1-ジメチルブチル基、1-メチル-1-プロピルブチル基、1,1-ジプロピルブチル基、1,1-ジメチル-2-メ
チルプロピル基、1-メチル-1-イソプロピル-2-メチルプロピル基等の分岐状のアルキル基;シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、ノルボルネニル基等の環状のアルキル基等が挙げられる。
【0060】
炭素数1以上20以下のヒドロキシアルキル基の例としては、ヒドロキシメチル基、2-ヒドロキシエチル基、2-ヒドロキシ-n-プロピル基、3-ヒドロキシ-n-プロピル基、2-ヒドロキシ-n-ブチル基、3-ヒドロキシ-n-ブチル基、4-ヒドロキシ-n-ブチル基、2-ヒドロキシ-n-ペンチル基、3-ヒドロキシ-n-ペンチル基、4-ヒドロキシ-n-ペンチル基、5-ヒドロキシ-n-ペンチル基、2-ヒドロキシ-n-ヘキシル基、3-ヒドロキシ-n-ヘキシル基、4-ヒドロキシ-n-ヘキシル基、5-ヒドロキシ-n-ヘキシル基、6-ヒドロキシ-n-ヘキシル基等が挙げられる。
【0061】
炭素数1以上20以下のアルコキシ基の例としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロピルオキシ基、n-ブチルオキシ基、n-ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、n-ヘプチルオキシ基、n-オクチルオキシ基、n-ノニルオキシ基、n-デシルオキシ基等の直鎖状のアルコキシ基;イソプロピルオキシ基、イソブチルオキシ基、s-ブチルオキシ基、t-ブチルオキシ基、t-アミルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、3-メチルペンチルオキシ基、1,1-ジエチルプロピルオキシ基、1,1-ジメチルブチルオキシ基、1-メチル-1-プロピルブチルオキシ基、1,1-ジプロピルブチルオキシ基、1,1-ジメチル-2-メチルプロピルオキシ基、1-メチル-1-イソプロピル-2-メチルプロピルオキシ基等の分岐状のアルコキシ基;シクロブチルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、シクロヘプチルオキシ基、シクロオクチルオキシ基、ノルボルネニルオキシ基等の環状のアルコキシ基等が挙げられる。
【0062】
炭素数1以上20以下のヒドロキシアルコキシ基の例としては、ヒドロキシメトキシ基、2-ヒドロキシエトキシ基、2-ヒドロキシ-n-プロピルオキシ基、3-ヒドロキシ-n-プロピルオキシ基、2-ヒドロキシ-n-ブチルオキシ基、3-ヒドロキシ-n-ブチルオキシ基、4-ヒドロキシ-n-ブチルオキシ基、2-ヒドロキシ-n-ペンチルオキシ基、3-ヒドロキシ-n-ペンチルオキシ基、4-ヒドロキシ-n-ペンチルオキシ基、5-ヒドロキシ-n-ペンチルオキシ基、2-ヒドロキシ-n-ヘキシルオキシ基、3-ヒドロキシ-n-ヘキシルオキシ基、4-ヒドロキシ-n-ヘキシルオキシ基、5-ヒドロキシ-n-ヘキシルオキシ基、6-ヒドロキシ-n-ヘキシルオキシ基等が挙げられる。
【0063】
炭素数2以上21以下のアルコキシカルボニル基の例としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、ペンチルオキシカルボニル基、ヘキシルオキシカルボニル基、オクチルオキシカルボニル基、デシルオキシカルボニル基等が挙げられる。
【0064】
炭素数6以上30以下のアリール基の例としては、フェニル基、ナフチル基、アントラニル基、ピレニル基等が挙げられる。
【0065】
炭素数7以上31以下のアラルキル基(アリールアルキル基)の例としては、ベンジル基、フェネチル基(フェニルエチル基)等が挙げられ、炭素数6以上30以下のアリールオキシ基の例としては、フェニルオキシ基(フェノキシ基)、ナフチルオキシ基、アントラニルオキシ基、ピレニルオキシ基等が挙げられる。
【0066】
炭素数7以上31以下のアリールオキシカルボニル基の例としては、フェニルオキシカルボニル基、ナフチルオキシカルボニル基、アントラニルオキシカルボニル基、ピレニルオキシカルボニル基等が挙げられる。
【0067】
炭素数8以上32以下のアラルキルオキシカルボニル基としては、ベンジルオキシカルボニル基、フェネチルオキシカルボニル基等が挙げられる。
【0068】
炭素数1以上20以下のアシル基の例としては、メタノイル基(ホルミル基)、エタノイル基(アセチル基)、プロパノイル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ベンゾイル基等が挙げられる。
【0069】
炭素数1以上20以下のアシルオキシ基の例としては、ホルミルオキシ基、アセチルオキシ基、プロパノイルオキシ基、ブタノイルオキシ基、ペンタノイルオキシ基、ヘキサノイルオキシ基、オクタノイルオキシ基、デカノイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基等が挙げられる。
【0070】
さらに、上記化学式1で表される防カビ剤は、下記化学式1-a~1-cで表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0071】
【化2】
【0072】
前記化学式1中、R~Rは、それぞれ独立して、炭素原子、水素原子、および酸素原子からなる群より選択される少なくとも2種の原子から構成される置換基である。
【0073】
炭素原子、水素原子、および酸素原子からなる群より選択される少なくとも2種の原子から構成される置換基の例は、上記と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0074】
上記化学式1で表される化合物のより具体的な例としては、パラオキシ安息香酸メチル(パラヒドロキシ安息香酸メチル)、パラオキシ安息香酸エチル(パラヒドロキシ安息香酸エチル)、パラオキシ安息香酸ブチル(パラヒドロキシ安息香酸ブチル)、パラオキシ安息香酸ベンジル(パラヒドロキシ安息香酸ベンジル)等のパラオキシ安息香酸エステル(パラヒドロキシ安息香酸エステル);サリチル酸、サリチル酸メチル、フェノール、カテコール、レゾルシノール、ハイドロキノン、イソプロピルフェノール、クレゾール、チモール、フェノキシエタノール、フェニルフェノール(2-フェニルフェノール、3-フェニルフェノール、4-フェニルフェノール)、2-フェニルエチルアルコール(フェネチルアルコール)等が挙げられる。これらの中でも、本発明の所期の効果がより効果的に奏されるという観点から、上記化学式1で表される化合物としては、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸ブチル、およびフェニルフェノールからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、パラオキシ安息香酸ブチルがより好ましい。
【0075】
または、防カビ剤(防腐剤)は、不飽和脂肪酸でありうる。不飽和脂肪酸の例としては、クロトン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リシノール酸等のモノ不飽和脂肪酸;ソルビン酸、リノール酸、エイコサジエン酸等のジ不飽和脂肪酸;リノレン酸、ピノレン酸、エレオステアリン酸等のトリ不飽和脂肪酸;ステアリドン酸やアラ
キドン酸等のテトラ不飽和脂肪酸;ボセオペンタエン酸、エイコサペンタエン酸等のペンタ不飽和脂肪酸;ドコサヘキサエン酸、ニシン酸等のヘキサ不飽和脂肪酸;等が挙げられる。これらの中でも、本発明の所期の効果がより効果的に奏されるという観点から、不飽和脂肪酸としては、ソルビン酸が好ましい。
【0076】
また、上記以外に、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,2-オクタンジオール等の1,2-アルカンジオール;2-エチルヘキシルグリセリルエーテル(エチルヘキシルグリセリン)等のアルキルグリセリルエーテル;カプリン酸、デヒドロ酢酸等の化合物を、防カビ剤(防腐剤)として用いてもよい。
【0077】
上記防カビ剤(防腐剤)は、単独で使用されてもまたは2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0078】
研磨用組成物が防カビ剤(防腐剤)を含む場合の、研磨用組成物中の防カビ剤(防腐剤)の含有量(濃度)は、特に制限されない。例えば、そのまま研磨液として研磨対象物の研磨に用いられる研磨用組成物(典型的にはスラリー状の研磨液であり、ワーキングスラリーまたは研磨スラリーと称されることもある)の場合には、研磨用組成物中の防カビ剤(防腐剤)の含有量(濃度)の下限は、0.0001質量%以上であることが好ましく、0.001質量%以上であることがより好ましく、0.01質量%以上であることがさらに好ましい。また、防カビ剤(防腐剤)の含有量(濃度)の上限は、3質量%以下であることが好ましく、1質量%未満であることがより好ましい。すなわち、研磨用組成物中の防カビ剤(防腐剤)の含有量(濃度)は、好ましくは0.0001質量%以上3質量%以下、より好ましくは0.001質量%以上3質量%以下、さらに好ましくは0.01質量%以上1質量%未満である。このような範囲であれば、微生物を不活性化または破壊するのに十分な効果が得られる。
【0079】
また、希釈して研磨に用いられる研磨用組成物(すなわち濃縮液、ワーキングスラリーの原液)の場合、防カビ剤(防腐剤)の含有量は、研磨速度の向上等の観点から、通常は、10質量%以下であることが適当であり、5質量%以下であることがより好ましい。また、研磨使用後の研磨用組成物の処理、すなわち廃液処理の負荷を軽減等の観点から、防カビ剤(防腐剤)の含有量は、好ましくは0.03質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上である。
【0080】
なお、研磨用組成物が2種以上の防カビ剤(防腐剤)を含む場合には、上記含有量はこれらの合計量を意図する。
【0081】
分散剤は、特に制限されず、所望の用途、目的に応じて適切に選択できる。貯蔵後の分散性(特にジルコニア粒子の分散性)の観点から、糖アルコールを使用することが好ましい。ジルコニア粒子(砥粒)表面は通常疎水性であり、砥粒同士が凝集しやすい。また、本発明に係る研磨用組成物は、選択比向上剤として1価のアニオンおよび1価以上のカチオンからなる少なくとも1種の塩を含むことにより、電気伝導度(EC)が向上し、ジルコニア粒子(砥粒)同士の静電反発力が低下するため、砥粒同士がよりいっそう凝集しやすい。ジルコニア粒子(砥粒)に糖アルコールを混合すると、ジルコニア粒子の疎水表面に糖アルコールの疎水性基(炭化水素基)が付着して糖アルコールの水酸基がジルコニア粒子の外側に配向し、ジルコニア粒子表面が親水化される。この親水化により、ジルコニア粒子は分散媒(特に水)と混ざりやすくなり、粒子として別個に存在できる。また、砥粒の表面に糖アルコールが付着して、立体障害が起こり、砥粒同士の凝集が抑制できる。なお、上記ジルコニア粒子の分散性向上メカニズムは推測であり、本発明は上記推測に限定されない。
【0082】
すなわち、本発明の一実施形態では、研磨用組成物は、糖アルコールからなる群から選択される少なくとも1種の分散剤をさらに含む。
【0083】
糖アルコールは、特に制限されないが、分子内に3個以上のヒドロキシ基を有することが好ましい。具体的には、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビタン、アドニトール、マルチトール、トレイトール、エリトリトール、アラビニトール、リビトール、キシリトール、イジトール、ソルビトール、マンニトール、ラクチトール、ガラクチトール、ズルシトール、タリトール、アリトール、ペルセイトール、ボレミトール、D-エリトロ-L-ガラオクチトール、D-エリトロ-L-タロオクチトール、エリトロマンノオクチトール、D-トレオ-L-ガラオクチトール、D-アラボ-D-マンノノニトール、D-グルコ-D-ガラデシトール、ボルネシトール、コンズリトール、イノシトール、オノニトール、ピニトール、ピンポリトール、クェブラキトール、バリエノール、ビスクミトールなどが挙げられる。中でも直鎖構造の糖アルコールがより好ましく、具体的にはキシリトール、ソルビトール、アドニトール、トレイトール、エリトリトール、アラビニトール、リビトール、イジトール、マンニトール、ガラクチトール、タリトール、アリトール、ペルセイトールが好ましく、キシリトール、ソルビトールがより好ましく、ソルビトールがさらに好ましい。これら糖アルコールは、1種単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0084】
糖アルコールの分子量は、特に制限されないが、80以上であることが好ましく、100以上であることがより好ましく、120以上であることがさらに好ましい。また、糖アルコールの分子量は、特に制限されないが、1000未満であることが好ましく、600以下であることがより好ましく、400以下であることがさらに好ましく、200以下が特に好ましい。すなわち、糖アルコールの分子量は、80以上1000未満であることが好ましく、100以上600以下であることがより好ましく、120以上400以下であることがさらに好ましく、120以上200以下が特に好ましい。
【0085】
本発明の研磨用組成物が分散剤(特に糖アルコール)をさらに含む場合の、分散剤(特に糖アルコール)の含有量(濃度)は、特に制限されず、所望の用途、目的に応じて適切に選択できる。例えば、ワーキングスラリー(研磨スラリー)では、研磨用組成物中の分散剤(特に糖アルコール)の含有量(濃度)は、研磨用組成物の全質量に対して、例えば、10ppm以上、好ましくは50ppm以上、より好ましくは80ppm以上、さらに好ましくは90ppm以上である。また、研磨用組成物中の分散剤(特に糖アルコール)の含有量(濃度)の上限は、研磨用組成物の全質量に対して、例えば、500ppm以下であり、好ましくは300ppm以下、より好ましくは200ppm以下、さらに好ましくは好ましくは200ppm未満である。すなわち、研磨用組成物中の分散剤(特に糖アルコール)の含有量(濃度)は、研磨用組成物の全質量に対して、例えば、10ppm以上500ppm以下、好ましくは50ppm以上500ppm以下、より好ましくは80ppm以上500ppm以下、さらに好ましくは90ppm以上300ppm以下であり、特に好ましくは90ppm以上200ppm以下であり、最も好ましくは90ppm以上200ppm未満である。分散剤の含有量がこのような範囲であれば、砥粒(特にジルコニア粒子)を長期間貯蔵した後であっても良好な分散性を維持できる。
【0086】
本形態に係る研磨用組成物は、一液型であってもよいし、二液型をはじめとする多液型であってもよい。また、本形態に係る研磨用組成物は、研磨用組成物の原液を水などの希釈液を使って、体積基準で、例えば2~100倍、好ましくは2~50倍、より好ましくは3~10倍に希釈することによって調製されてもよい。
【0087】
[研磨用組成物の製造方法]
本形態に係る研磨用組成物の製造方法は、特に制限されず、例えば、砥粒、選択比向上剤、pH調整剤、および必要に応じて添加剤を、分散媒中(好ましくは水中)で攪拌混合することにより得ることができる。各成分の詳細は上記の通りである。
【0088】
各成分を混合する際の温度は特に制限されないが、10℃以上40℃以下が好ましく、溶解速度を上げるために加熱してもよい。また、混合時間も、均一混合できれば特に制限されない。
【0089】
[研磨方法および半導体基板の製造方法]
上記の研磨用組成物は、SiOCおよびSiNを含む研磨対象物の研磨に好適に用いられる。よって、本発明の他の一形態よると、SiOCおよびSiN研磨対象物を、上記研磨用組成物を用いて研磨する工程を含む、研磨方法が提供される。また、本発明の他の一形態よると、SiOCおよびSiNを含む半導体基板を上記研磨方法により研磨する工程を有する、半導体基板の製造方法が提供される。
【0090】
研磨装置としては、研磨対象物を有する基板等を保持するホルダーと回転数を変更可能なモーター等とが取り付けてあり、研磨パッド(研磨布)を貼り付け可能な研磨定盤を有する一般的な研磨装置を使用することができる。
【0091】
研磨パッドとしては、一般的な不織布、ポリウレタン、および多孔質フッ素樹脂等を特に制限なく使用することができる。研磨パッドには、研磨液が溜まるような溝加工が施されていることが好ましい。
【0092】
研磨条件については、例えば、研磨定盤およびキャリアの回転速度は、10rpm(0.17s-1)以上500rpm(8.33s-1)以下が好ましい。研磨対象物を有する基板にかける圧力(研磨圧力)は、0.5psi(3.4kPa)以上10psi(68.9kPa)が好ましい。
【0093】
研磨パッドに研磨用組成物を供給する方法も特に制限されず、例えば、ポンプ等で連続的に供給する方法が採用される。この供給量に制限はないが、研磨パッドの表面が常に本発明に係る研磨用組成物で覆われていることが好ましい。
【0094】
研磨終了後、基板を流水中で洗浄し、スピンドライヤ等により基板上に付着した水滴を払い落として乾燥させることにより、金属を含む層を有する基板が得られる。
【0095】
本発明の実施形態を詳細に説明したが、これは説明的かつ例示的なものであって限定的ではなく、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によって解釈されるべきであることは明らかである。
【0096】
本発明は、下記態様および形態を包含する。
1.少なくとも1種のジルコニア粒子を含む砥粒と、
1価のアニオンおよび1価以上のカチオンからなる少なくとも1種の塩を含み、SiNの研磨速度に対する、SiOCの研磨速度の比を向上させる選択比向上剤と、
少なくとも1種の酸を含むpH調整剤と、
を含み、
pHが、3.0を超えて7.0未満であり、
前記砥粒のゼータ電位が、正の値である、研磨用組成物。
2.前記選択比向上剤の濃度が、50ppm以上1000ppm以下である、上記1.に記載の研磨用組成物。
3.pHが、4.0以上6.0以下である、上記1.または2.に記載の研磨用組成物。
4.前記pH調整剤は、酢酸を含む、上記1.~上記3.のいずれかに記載の研磨用組成物。
5.前記選択比向上剤は、酢酸アンモニウムを含む、上記1.~上記4.のいずれかに記載の研磨用組成物。
6.前記砥粒の含有量が、0.01質量%以上1.0質量%以下である、上記1.~上記5.のいずれかに記載の研磨用組成物。
7.糖アルコールからなる群から選択される少なくとも1種の分散剤をさらに含む、上記1.~上記6.のいずれかに記載の研磨用組成物。
8.上記1.~上記7.のいずれかに記載の研磨用組成物を用いて、SiOCおよびSiNを含む研磨対象物を研磨する工程を含む、研磨方法。
9.SiOCおよびSiNを含む半導体基板を上記8.に記載の研磨方法により研磨する工程を有する、半導体基板の製造方法。
【実施例0097】
本発明を、以下の実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「質量%」および「質量部」を意味する。
【0098】
[各種物性の測定方法]
本実施例において、各種物性は、以下の方法により測定した。
【0099】
<粒子径(D50)の測定>
ジルコニア粒子のD50の値は、粒子径分布測定装置(ナノトラック UPA-UT151、マイクロトラック・ベル社製)を用いた動的光散乱法により、体積平均粒子径として測定された値を採用した。より詳細には、ジルコニア粒子を水に分散させた分散液を用い、ジルコニア粒子の粒子径の測定を行った。測定機器による解析により、ジルコニア粒子の粒子径の粒度分布において、微粒子側から積算粒子体積が全粒子体積の50%に達するときの粒子の直径(D50)を算出した。
【0100】
<ゼータ電位の測定>
ジルコニア粒子のゼータ電位の測定は、Malvern Panalytical社製のゼータ電位測定装置(商品名「ゼータサイザーナノ ZSP」)を用いて行った。
【0101】
<pHの測定>
研磨用組成物のpHは、pHメーター(株式会社堀場製作所製、型番:F-71)により測定した。
【0102】
[研磨用組成物の調製]
(実施例1)
砥粒としてコロイダルジルコニア(第一稀元素化学工業株式会社製、ZSL-20N(ZrOゾル)を0.10質量%の最終濃度となるように、また選択比向上剤として酢酸アンモニウムを50ppmの最終濃度となるように、分散媒である純水に室温(25℃)でそれぞれ加えた。さらに最終濃度0.3g/kg(0.03質量%)となるように防カビ剤としてBIT(1,2-ベンゾイソチアゾール-3(2H)-オン、三愛石油株式会社製)を加え、混合液を得た。得られた混合液に、pH調整剤として酢酸をpHが5.0となるように加え、室温(25℃)で30分攪拌混合し、研磨用組成物を調製した。得られた研磨用組成物中のコロイダルジルコニアのゼータ電位は、+35mVであった。また、研磨用組成物中のコロイダルジルコニアの粒子径は、上記のコロイダルジルコニアの粒子径と同様であった。
【0103】
(実施例2)
酢酸アンモニウムを100ppmの最終濃度となるように純水に加えたこと以外は、実施例1と同様にして、研磨用組成物を調製した。得られた研磨用組成物中のコロイダルジルコニアのゼータ電位は、+35mVであった。
【0104】
(実施例3)
酢酸アンモニウムを200ppmの最終濃度となるように純水に加えたこと以外は、実施例1と同様にして、研磨用組成物を調製した。得られた研磨用組成物中のコロイダルジルコニアのゼータ電位は、+35mVであった。
【0105】
(実施例4)
酢酸アンモニウムを500ppmの最終濃度となるように純水に加えたこと以外は、実施例1と同様にして、研磨用組成物を調製した。得られた研磨用組成物中のコロイダルジルコニアのゼータ電位は、+35mVであった。
【0106】
(実施例5)
酢酸アンモニウムを1000ppmの最終濃度となるように純水に加えたこと以外は、実施例1と同様にして、研磨用組成物を調製した。得られた研磨用組成物中のコロイダルジルコニアのゼータ電位は、+35mVであった。
【0107】
(実施例6)
酢酸をpHが4.0となるように混合液に加えたこと以外は、実施例4と同様にして、研磨用組成物を調製した。得られた研磨用組成物中のコロイダルジルコニアのゼータ電位は、+37mVであった。
【0108】
(実施例7)
酢酸をpHが4.5となるように混合液に加えたこと以外は、実施例4と同様にして、研磨用組成物を調製した。得られた研磨用組成物中のコロイダルジルコニアのゼータ電位は、+35mVであった。
【0109】
(実施例8)
酢酸をpHが6.0となるように混合液に加えたこと以外は、実施例4と同様にして、研磨用組成物を調製した。得られた研磨用組成物中のコロイダルジルコニアのゼータ電位は、+30mVであった。
【0110】
(実施例9)
酢酸アンモニウムに代えて、選択比向上剤として硝酸アンモニウムを用いたこと、およ
び酢酸に代えて、pH調整剤として硝酸を用いたこと以外は、実施例4と同様にして、研磨用組成物を調製した。得られた研磨用組成物中のコロイダルジルコニアのゼータ電位は、+36mVであった。
【0111】
(実施例10)
酢酸に代えて、pH調整剤として硝酸を用いたこと以外は、実施例4と同様にして、研磨用組成物を調製した。得られた研磨用組成物中のコロイダルジルコニアのゼータ電位は、+35mVであった。
【0112】
(実施例11)
酢酸アンモニウムに代えて、選択比向上剤として酢酸カリウムを用いたこと以外は、実施例4と同様にして、研磨用組成物を調製した。得られた研磨用組成物中のコロイダルジルコニアのゼータ電位は、+36mVであった。
【0113】
(実施例12)
砥粒としてコロイダルジルコニア(第一稀元素化学工業株式会社製、ZSL-20N(ZrOゾル)を0.10質量%の最終濃度となるように、選択比向上剤として酢酸アンモニウムを500ppmの最終濃度となるように、また分散剤としてソルビトールを10ppmの最終濃度となるように、分散媒である純水に室温(25℃)でそれぞれ加えた。さらに最終濃度0.3g/kg(0.03質量%)となるように防カビ剤としてBIT(1,2-ベンゾイソチアゾール-3(2H)-オン、三愛石油株式会社製)を加え、混合液を得た。得られた混合液に、pH調整剤として酢酸をpHが5.0となるように加え、室温(25℃)で30分攪拌混合し、研磨用組成物を調製した。得られた研磨用組成物中のコロイダルジルコニアのゼータ電位は、+35mVであった。また、研磨用組成物中のコロイダルジルコニアの粒子径は、上記のコロイダルジルコニアの粒子径と同様であった。
【0114】
(実施例13)
ソルビトールを50ppmの最終濃度となるように純水に加えたこと以外は、実施例12と同様にして、研磨用組成物を調製した。得られた研磨用組成物中のコロイダルジルコニアのゼータ電位は、+35mVであった。
【0115】
(実施例14)
ソルビトールを80ppmの最終濃度となるように純水に加えたこと以外は、実施例12と同様にして、研磨用組成物を調製した。得られた研磨用組成物中のコロイダルジルコニアのゼータ電位は、+35mVであった。
【0116】
(実施例15)
ソルビトールを100ppmの最終濃度となるように純水に加えたこと以外は、実施例12と同様にして、研磨用組成物を調製した。得られた研磨用組成物中のコロイダルジルコニアのゼータ電位は、+35mVであった。
【0117】
(実施例16)
ソルビトールを200ppmの最終濃度となるように純水に加えたこと以外は、実施例12と同様にして、研磨用組成物を調製した。得られた研磨用組成物中のコロイダルジルコニアのゼータ電位は、+35mVであった。
【0118】
(実施例17)
ソルビトールを500ppmの最終濃度となるように純水に加えたこと以外は、実施例12と同様にして、研磨用組成物を調製した。得られた研磨用組成物中のコロイダルジルコニアのゼータ電位は、+35mVであった。
【0119】
(実施例18)
ソルビトールに代えて、分散剤としてキシリトールを用いたこと以外は、実施例15と同様にして、研磨用組成物を調製した。得られた研磨用組成物中のコロイダルジルコニアのゼータ電位は、+35mVであった。
【0120】
(比較例1)
選択比向上剤を添加しなかったこと、および酢酸に代えて、pH調整剤として硝酸を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、研磨用組成物を調製した。得られた研磨用組成物中のコロイダルジルコニアのゼータ電位は、+34mVであった。
【0121】
(比較例2)
選択比向上剤を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、研磨用組成物を調製した。得られた研磨用組成物中のコロイダルジルコニアのゼータ電位は、+36mVであった。
【0122】
(比較例3)
酢酸アンモニウムに代えて、シュウ酸アンモニウム一水和物を用いたこと以外は、実施例4と同様にして、研磨用組成物を調製した。得られた研磨用組成物中のコロイダルジルコニアのゼータ電位は、-32mVであった。
【0123】
(比較例4)
酢酸アンモニウムに代えて、クエン酸三アンモニウムを用いたこと以外は、実施例4と同様にして、研磨用組成物を調製した。得られた研磨用組成物中のコロイダルジルコニアのゼータ電位は、-39mVであった。
【0124】
(比較例5)
酢酸をpHが3.0となるように混合液に加えたこと以外は、実施例4と同様にして、研磨用組成物を調製した。得られた研磨用組成物中のコロイダルジルコニアのゼータ電位は、+39mVであった。
【0125】
(比較例6)
酢酸をpHが7.0となるように混合液に加えたこと以外は、実施例4と同様にして、研磨用組成物を調製した。得られた研磨用組成物中のコロイダルジルコニアのゼータ電位は、コロイダルジルコニアが凝集したため、測定することができなかった。
【0126】
(比較例7)
酢酸をpHが8.0となるように混合液に加えたこと以外は、実施例4と同様にして、研磨用組成物を調製した。得られた研磨用組成物中のコロイダルジルコニアのゼータ電位は、コロイダルジルコニアが凝集したため、測定することができなかった。
【0127】
(比較例8)
コロイダルジルコニア(ZSL-20N)に代えて、砥粒としてコロイダルジルコニア(第一稀元素化学工業株式会社製、ZSL00014(ZrOゾル)、ジルコニア粒子のD50:15nm)を1.0質量%の最終濃度となるように純水に加えたこと以外は、実施例4と同様にして、研磨用組成物を調製した。得られた研磨用組成物中のコロイダルジルコニアのゼータ電位は、-23mVであった。
【0128】
(比較例9)
コロイダルジルコニア(ZSL-20N)に代えて、砥粒としてアミノ基が表面に固定化されたコロイダルシリカ(D50:70nm)を用いたこと以外は、比較例1と同様にして、研磨用組成物を調製した。得られた研磨用組成物中のコロイダルジルコニアのゼータ電位は、+24mVであった。
【0129】
(比較例10)
コロイダルジルコニア(ZSL-20N)に代えて、砥粒としてコロイダルセリア(D50:70nm)を用いたこと以外は、比較例1と同様にして、研磨用組成物を調製した。得られた研磨用組成物中のコロイダルジルコニアのゼータ電位は、+33mVであった。
【0130】
(比較例11)
コロイダルジルコニア(ZSL-20N)に代えて、砥粒としてコロイダルアルミナ(D50:300nm)を用いたこと以外は、比較例1と同様にして、研磨用組成物を調製した。得られた研磨用組成物中のコロイダルジルコニアのゼータ電位は、+29mVであった。
【0131】
[研磨速度]
研磨対象物(基板)として、300mmウェーハ((SiOC膜)、アドバンスマテリアルズテクノロジー株式会社製、製品名:BD2x 5kA Blanket)と、300mmウェーハ(SiN(窒化ケイ素膜)、アドバンスマテリアルズテクノロジー株式会社製、製品名:LP-SiN 3.5KA Blanket)と、を準備した。
【0132】
上記で得られた研磨用組成物を用いて、この準備した基板を以下の研磨条件でそれぞれ研磨し、研磨速度を測定した:
(研磨条件)
研磨機:EJ-380IN-CH(日本エンギス株式会社製)
研磨パッド:硬質ポリウレタンパッド(ニッタ・デュポン株式会社製、IC1010)
研磨圧力:3.0psi(1psi=6894.76Pa)
プラテン(定盤)回転数:60rpm
ヘッド(キャリア)回転数:60rpm
研磨用組成物の流量:100ml/min
研磨時間:30秒。
【0133】
(研磨速度)
膜厚は、光干渉式膜厚測定装置(株式会社SCREENホールディングス製、型番:ラムダエースVM-2030)によって求めて、研磨前後の膜厚の差を研磨時間で除することにより研磨速度を評価した(下記式参照)。SiOCの研磨速度は、1700Å/min以上が好ましく、SiNの研磨速度は、30Å/min未満が好ましい。
【0134】
【数1】
【0135】
(選択比)
選択比は、上記で得られたSiOC基板の研磨速度をSiN基板の研磨速度で除することにより求めた。当該選択比は100以上であることが好ましい。
【0136】
[保管安定性]
各研磨用組成物中のジルコニア粒子の平均二次粒径(D50)を、粒子径分布測定装置(ナノトラック UPA-UT151、マイクロトラック・ベル社製)を用いた動的光散乱法により、室温(25℃)で測定した。詳細には、測定機器による解析により、ジルコニア粒子の粒径の粒度分布において、微粒子側から積算粒子体積が全粒子体積の50%に達するときの粒子の直径D50(nm)を算出し、これをジルコニア粒子の平均二次粒径(D50)(nm)とする。
【0137】
別途、各研磨用組成物100gをポリ瓶に秤量した。次に、各ポリ瓶を80℃に設定した恒温槽に入れ2週間放置する。所定期間放置後、各研磨用組成物中のジルコニア粒子の平均二次粒径(D50)(nm)を上記と同様にして測定する。
【0138】
これら放置前後のジルコニア粒子の平均二次粒径(D50(nm)およびD50(nm))に基づいて、下記式に従って、平均二次粒径の増加率(%)を算出し、これを保管安定性の指標とした。保管安定性(平均二次粒径の増加率)(%)は絶対値が小さいほど保管安定性に優れることを示す。保管安定性(平均二次粒径の増加率)(%)の絶対値は、40%以下であれば許容でき、35%以下であることが好ましく、25%以下であることがより好ましく、10%未満であることがさらに好ましく、5%未満であることが特に好ましい。
【0139】
【数2】
【0140】
各実施例および各比較例の研磨用組成物の評価結果を下記表1に示す。なお、表1中の「-」は、その剤を使用していないことを表す。
【0141】
【表1】
【0142】
表1に示すように、実施例の研磨用組成物は、SiOCを高い研磨速度で研磨しつつ、SiNの研磨速度を低く抑えることができることから、SiNの研磨速度に対する、SiOCの研磨速度の比(選択比)を向上できることが分かる。