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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023131118
(43)【公開日】2023-09-21
(54)【発明の名称】加熱装置および加熱方法
(51)【国際特許分類】
   H05B 6/40 20060101AFI20230913BHJP
【FI】
H05B6/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023023994
(22)【出願日】2023-02-20
(31)【優先権主張番号】P 2022035446
(32)【優先日】2022-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 健司
【テーマコード(参考)】
3K059
【Fターム(参考)】
3K059AD05
(57)【要約】      (修正有)
【課題】加熱対象物を加熱する際に、加熱対象物に生じる加熱ムラを抑える技術を提供する。
【解決手段】加熱対象物200aを収容する内部空間10bを有する加熱炉10と、加熱炉の外周に巻回され、内部空間に電磁界を発生させる誘導コイル30と、誘導コイルの近傍に移動可能に配置され、電磁界の分布を変化させる磁性体部材50と、を備える加熱装置100。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱対象物を収容する内部空間を有する加熱炉と、
前記加熱炉の外周に巻回され、前記内部空間に電磁界を発生させる誘導コイルと、
前記誘導コイルの近傍に移動可能に配置され、前記電磁界の分布を変化させる磁性体部材と、
を備える加熱装置。
【請求項2】
前記磁性体部材は、前記誘導コイルの外周側に複数配置され、前記誘導コイルの周方向に沿って移動可能に構成されており、
前記複数の磁性体部材は、それぞれ同じ向きに移動するように構成されている、
請求項1に記載の加熱装置。
【請求項3】
前記磁性体部材は、前記誘導コイルの外周側に複数配置され、前記誘導コイルの周方向に沿って移動可能に構成されており、
前記複数の磁性体部材のうちの少なくとも一の磁性体部材は、他の磁性体部材と前記周方向に対し反対の向きに移動するように構成されている、
請求項1に記載の加熱装置。
【請求項4】
前記磁性体部材は、前記誘導コイルの外周側に複数配置され、前記誘導コイルの径方向に沿って移動可能に構成されており、
前記複数の磁性体部材は、それぞれ同じ向きに移動するように構成されている、
請求項1に記載の加熱装置。
【請求項5】
前記磁性体部材は、前記誘導コイルの外周側に複数配置され、前記誘導コイルの径方向に沿って移動可能に構成されており、
前記複数の磁性体部材のうちの少なくとも一の磁性体部材は、他の磁性体部材と前記径方向に対し反対の向きに移動するように構成されている、
請求項1に記載の加熱装置。
【請求項6】
前記複数の磁性体部材は、それぞれ、移動を開始してから所定時間が経過すると、移動の向きが反対の向きになるように構成されている、
請求項2~5のいずれか一項に記載の加熱装置。
【請求項7】
前記複数の磁性体部材は、それぞれ、移動速度が異なるように構成されている、
請求項2~5のいずれか一項に記載の加熱装置。
【請求項8】
前記加熱対象物は、前記内部空間において、前記加熱炉の長手方向に伸びる中心軸を中心に回転するように構成されている、
請求項1~5のいずれか一項に記載の加熱装置。
【請求項9】
加熱炉の内部空間に加熱対象物を収容する工程と、
前記加熱炉の外周に巻回された誘導コイルに交流電流を供給し、前記内部空間に電磁界を発生させる工程と、
前記誘導コイルの近傍に配置された磁性体部材を移動させ、前記電磁界の分布を変化させる工程と、
を有する加熱方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱装置および加熱方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、加熱炉において加熱対象物を加熱する技術が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-042873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の技術では、加熱対象物を加熱する際に、加熱対象物に加熱ムラが生じる場合がある。
【0005】
本発明は、加熱対象物を加熱する際に、加熱対象物に生じる加熱ムラを抑える技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、
加熱対象物を収容する内部空間を有する加熱炉と、
前記加熱炉の外周に巻回され、前記内部空間に電磁界を発生させる誘導コイルと、
前記誘導コイルの近傍に移動可能に配置され、前記電磁界の分布を変化させる磁性体部材と、
を備える加熱装置が提供される。
【0007】
本発明の他の態様によれば、
加熱炉の内部空間に加熱対象物を収容する工程と、
前記加熱炉の外周に巻回された誘導コイルに電流を供給し、前記内部空間に電磁界を発生させる工程と、
前記誘導コイルの近傍に配置された磁性体部材を移動させ、前記電磁界の分布を変化させる工程と、
を有する加熱方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、加熱対象物を加熱する際に、加熱対象物に生じる加熱ムラを抑える技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る加熱装置100の一例を示す概略縦断面図である。
図2図2は、本発明の一実施形態に係る加熱装置100の一例を示す平面図であり、磁性体部材50の移動方向を説明する図である。
図3図3は、本発明の変形例1に係る加熱装置100の一例を示す平面図であり、磁性体部材50の移動方向を説明する図である。
図4図4は、本発明の変形例2に係る加熱装置100の一例を示す平面図であり、磁性体部材50の移動方向の一例を説明する図である。
図5図5は、本発明の変形例2に係る加熱装置100の一例を示す平面図であり、磁性体部材50の移動方向の他の一例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0011】
<本発明の一実施形態>
(1)加熱装置100の構成例
まず、本実施形態の加熱装置100の構成例について説明する。
【0012】
図1に示すように、加熱装置100は、主として、加熱炉10と、誘導コイル30と、磁性体部材50と、を備えている。
【0013】
加熱炉10は、鉛直方向に直線状に伸びる中空の筒状(円筒形状)に構成されている。加熱炉10の下端部は、加熱対象物を搬入する搬入口10aとして構成されており、中空部は、加熱対象物を収容する内部空間10bとして構成されており、上端部は、加熱対象物を搬出する搬出口10cとして構成されている。
【0014】
本実施形態では、加熱対象物として、原料粉末を板状に加圧成形した圧粉体200aを例に挙げて説明する。原料粉末としては、例えば、ニッケル酸リチウム粉末、コバルト酸リチウム粉末、マンガン酸リチウム粉末を挙げることができる。成形性を考慮して、成形助剤や固体潤滑剤等の各種充填剤を原料粉末に添加してもよい。
【0015】
加熱炉10を構成する材料は、高い断熱性、耐熱性を有する材料であれば特に限定されるものではなく、例えば、石英(SiO)または炭化シリコン(SiC)を好適に用いることができる。加熱炉10の内壁下部には、シール部材としてのOリング11が設けられている。
【0016】
加熱炉10の外部には、圧粉体200aを移動させる移動機構20が配置されている。移動機構20は、搬入アーム20aと、移動台20bと、搬出アーム20cとを備えている。具体的には、移動機構20は、未加熱の圧粉体200aを移動台20b上に搬送する搬入アーム20aと、圧粉体200aを内部空間10b内に搬入する移動台20bと、加熱済みの圧粉体200aを加熱炉10(内部空間10b)外に搬出する搬出アーム20cとを備えている。
【0017】
搬入アーム20aは、加熱炉10の下方に配置されており、回動可能に構成されている。搬入アーム20aは、不図示の圧粉体待機台上に載置されている未加熱の圧粉体200aを、所定の枚数(例えば、1枚)保持し、移動台20b上に搬送するように構成されている。
【0018】
移動台20bは、搬入口10aの直下の所定の位置(以下、「初期位置」と称する場合がある。図1に示す矢印A参照)に配置され、昇降可能に構成されている。移動台20bは、圧粉体200aを載置した状態で、初期位置から搬入位置(図1に示す矢印B参照)に上昇するように構成されている。搬入位置とは、後述する一対の把持部25により、移動台20b上の圧粉体200a(移動台20b上に圧粉体200aが複数枚列状に載置されているときは、最も下方の圧粉体200a)が把持されるときの移動台20bの高さ位置である。移動台20bは、初期位置から搬入位置に上昇したら停止し、一対の把持部25により、移動台20b上の圧粉体200aが把持された後は、初期位置まで下降するように構成されている。また、移動台20bは、昇降時において、加熱炉10の長手方向に伸びる中心軸を中心に回転可能に構成されていてもよい。
【0019】
搬入口10aの直下かつ移動台20bの上方には、圧粉体200aを把持する一対の把持部25が配置されている。一対の把持部25は、移動台20bが圧粉体200aを載置した状態で搬入位置に上昇したときは、当該圧粉体200aの側面に接触し、当該圧粉体200aを挟んで把持する状態(把持状態)となるように構成されている。
【0020】
把持部25は、移動台20bが初期位置に配置されているときは、上述の把持状態を維持するように構成されている。また、把持部25は、移動台20bが搬入位置に上昇するときは、上述の把持状態を解除する状態(解除状態)となるように構成されている。具体的には、移動台20bが搬入位置に上昇するときに、移動台20b上の圧粉体200aが、把持部25が把持している圧粉体200aと接触したタイミングで、把持部25は、把持している圧粉体200aから離れる方向に移動し、解除状態となるように構成されている。このとき、移動台20b上の圧粉体200aが、把持部25に把持されている圧粉体200aを搬入口10aから押し込んで、内部空間10b内に搬入することができる。
【0021】
移動台20bが搬入位置に上昇したら、把持部25は、移動台20b上の圧粉体200aに近づく方向に移動し、当該圧粉体200aを把持する状態(把持状態)となるように構成されている。
【0022】
上述した搬入アーム20a、移動台20b、把持部25の動作を繰り返し行うことにより、内部空間10b内に、一の圧粉体200aを他の圧粉体200aで支持する列状の圧粉体群200を構成することができ、当該圧粉体群200を搬出口10c側へ移動させることができる。
【0023】
一対の把持部25は、圧粉体群200のうちの最も下方に配列されている圧粉体200aを把持することにより、内部空間10b内の圧粉体群200(圧粉体200a)を安定に保持することができる。圧粉体200aの側面にV溝や凹状の凹みを設けることで把持を確実にしても良い。この場合はOリング11がV溝や凹状の凹みの無い平坦部に当たるように位置を設計する。
【0024】
搬出アーム20cは、加熱炉10の上方に配置されており、移動可能に構成されている。搬出アーム20cは、内部空間10bを通過した圧粉体200aを、所定の枚数(例えば、1枚)を外部の押出機(不図示)により搬出アーム20cの上に乗せるか、搬出アーム20c自らが挟む機構で保持し、搬出口10cから加熱炉10外に搬出するように構成されている。
【0025】
移動機構20を構成する材料は、特に限定されるものでなく、例えば、セラミック材料または金属材料を用いることができる。
【0026】
加熱炉10の外周には、内部空間10b内の圧粉体群200を加熱する誘導コイル30が螺旋状に巻回されている。誘導コイル30のコイル線として、例えば、中に冷却水を流した中空銅パイプ管を用いることができる。誘導コイル30のコイル線の両端部には不図示の電源ケーブルが接続されており、当該電源ケーブルは、不図示の電源部に電気的に接続されている。
【0027】
誘導コイル30の近傍には、磁性体部材50が配置されている。本実施形態では、一例として、誘導コイル30の外周側に、直方体状に形成された2つの磁性体部材50が、誘導コイル30の周方向に沿って、誘導コイル30を挟むように配置されている場合について説明する。2つの磁性体部材50は、加熱炉10の径方向に対し互いに対向するように配置されている。磁性体部材50の鉛直方向の長さは、特に限定されないが、誘導コイル30におけるコイル線の直径以上の長さとすることが好ましく、図1に示すように、巻回軸方向における誘導コイル30の長さ(全長)と同等にすることがさらに好ましい。
【0028】
磁性体部材50を構成する材料は、透磁率の高い磁性体であれば特に限定されるものではなく、例えば、鉄、コバルト、ニッケル、およびその合金、フェライトを好適に用いることができる。
【0029】
2つの磁性体部材50には、それぞれ、磁性体部材50の位置を移動させる磁性体部材移動機構40(以下、移動機構40と称する)が接続されている。移動機構40は、2つの磁性体部材50を、誘導コイル30の周方向に沿って、それぞれ、同方向に移動させるように構成されている(図2参照)。移動機構40は、駆動源として、例えば、電動モータを用いてもよいし、手動で動作するようにしてもよい。移動機構40は、一般的に用いられる公知の機構を用いることができるので、本明細書では詳細な説明は省略する。
【0030】
加熱炉10の内壁側面には、ガス導入孔12が設けられている。加熱炉10の外壁側面には、ガス導入孔12と連通するようガス供給管60が接続されている。ガス供給管60は、加熱炉10内に酸素(O)ガスを供給するように構成されている。ガス供給管60の一端(上流側)は、Oガスを貯蔵する不図示のガスボンベ等に接続され、他端(下流側)は加熱炉10に接続されている。
【0031】
加熱炉10の内壁側面には、加熱炉10内の雰囲気(HO)を排出する排出口13が設けられている。加熱炉10の外壁側面には、排出口13と連通するようガス排出管70が接続されている。ガス排出管70は、水蒸気(HO)を加熱炉10外に排出するように構成されている。
【0032】
図1に示すように、ガス導入孔12を、加熱炉10内のHOガス発生箇所よりも高い位置、かつ、加熱炉10の上端部よりも低い位置となるように配置する。ガス導入孔12に導入するOガス量を、排出口13から排出されるHOガスが含有するOガス量よりも多くする。これらにより、加熱炉10内のOガスを加熱炉10の上端部に行き渡らせることができる。
【0033】
加熱装置100は、制御部80を備えている。制御部80は、例えばコンピュータであり、不図示のプログラム格納部を有している。プログラム格納部には、加熱装置100における処理を制御するプログラムが格納されている。また、プログラム格納部には、移動機構20、把持部25、電源部等の動作を制御するプログラムも格納されている。なお、上記プログラムは、コンピュータに読み取り可能な記憶媒体に記録されていたものであって、当該記憶媒体から制御部80にインストールされたものであってもよい。また、プログラムの一部または全ては専用ハードウェアで実現してもよい。
【0034】
(2)加熱方法
次に、加熱装置100を用いた、加熱対象物としての圧粉体200aの加熱方法について説明する。なお、以下の説明において、加熱装置100を構成する各部の動作は、制御部80により制御される。
【0035】
(圧粉体搬入・移動工程)
移動機構20を用いて圧粉体200aを加熱装置100内に搬入する。具体的には、(A)搬入アーム20aに、不図示の圧粉体待機台上に載置されている圧粉体200aを1枚保持させ、移動台20b上に搬送させる。(B)圧粉体200aを載置した状態で、移動台20bを初期位置から搬入位置に上昇させ、その後、停止させる。(C)一対の把持部25に、移動台20b上の圧粉体200aを把持させる。(D)移動台20bを、搬入位置から初期位置に下降させ、その後、停止させる。(E)搬入アーム20aに、圧粉体待機台上に載置されている圧粉体200aを1枚保持させ、移動台20b上に搬送させる。(F)圧粉体200aを載置した状態で、移動台20bを期位置から搬入位置に向かって上昇させる。(G)移動台20b上の圧粉体200aと、把持部25が把持している圧粉体200aとが接触したら、把持部25の圧粉体200aを把持する状態(把持状態)を解除する。(H)移動台20bを搬入位置まで上昇させる。(I)把持部25に、移動台20b上の圧粉体200aを把持させる。(J)移動台20bを、搬入位置から初期位置に下降させ、その後、停止させる。(A)~(D)を1回行った後に、(E)~(J)を複数回繰り返し行う。
【0036】
上述した(A)~(D)を行うことにより、把持部25に圧粉体200aを把持させることができる。上述した(F)~(H)を行うことにより、新たに移動台20b上に載置された圧粉体200aにより、把持部25に把持されている圧粉体200aを、搬入口10aから押し込んで内部空間10b内に搬入することができる。
【0037】
上述した(E)~(J)を複数回繰り返し行うことにより、内部空間10b内に、一つの圧粉体200aを他の圧粉体200aで支持する列状の圧粉体群200を構成することができる。
【0038】
また、上述した(E)~(J)を複数回繰り返し行うことにより、把持部25に把持されている圧粉体200aを、順次、内部空間10b内に搬入することができる。この内部空間10b内に搬入される圧粉体200aにより、先に内部空間10b内に搬入されている圧粉体群200を押し、圧粉体200aの配列方向に沿って搬出口10c側へ移動させることができる。
【0039】
加熱装置100は全体を0度から±90度の範囲で傾斜設置することができる。傾斜設置することで、把持部25の負担を軽減することができる。
【0040】
(圧粉体加熱工程)
誘導コイル30により、内部空間10b内の圧粉体群200(圧粉体200a)を加熱する。具体的には、誘導コイル30に、所定の周波数の交流電流を供給することより、誘導コイル30の内側にある圧粉体群200を分極させ、誘電損失を起こして発熱させる。より具体的には、誘導コイル30に、所定の周波数の交流電流を供給することより、内部空間10b内に電磁界を発生させ、加熱炉10の長手方向(図1に示す矢印C参照)に交互に向きの変わる磁力線を発生させ、磁力線と直交する方向に時間的に交互に向きの変わる電界が発生する。圧粉体群200の長手方向を突き抜けるように磁力線が通過し、それと直交する電気力線が通過している部分は、誘電損失により加熱される(誘導加熱)。
【0041】
ただし、圧粉体群200(圧粉体200a)を誘導加熱する際、電界や磁界の干渉等によって電磁界の強弱分布が発生することにより、圧粉体群200を通過する電気力線や磁力線の密度に粗密(電磁界分布の偏り)が生じる場合がある。この電磁界分布の偏りが、圧粉体群200の加熱ムラの原因となる場合がある。
【0042】
圧粉体群200(圧粉体200a)に生じる加熱ムラを回避するため、本実施形態では、誘導コイル30への電流供給時に、磁性体部材50を所定の方向に移動させる。具体的には、2つの磁性体部材50を、誘導コイル30の周方向に沿って、それぞれ、同方向に移動させる。これにより、誘導コイル30周辺における磁力線の粗密分布、すなわち、圧粉体群200の内部における電気力線の粗密分布(電界分布)を秒から分オーダーで経時的に変化させることができる。
【0043】
本工程では、ガス供給管60を用いて、Oガスを加熱炉10内に供給し、圧粉体群200(圧粉体200a)の加熱(焼成)により生成される水蒸気(HO)を、ガス排出管70を用いて加熱炉10外に排出する。加熱炉10の内壁下部にはOリング11が設けられているので、加熱炉10内に供給されるOガスが、搬入口10aから加熱炉10外に漏れ出ることを防止することができる。また、Oリング11により、圧粉体群200から発生した熱が加熱炉10外に勢いよく漏れ出ることを防止することができる。
【0044】
(圧粉体搬出工程:S105)
内部空間10b内を通過し、搬出口10c側に移動した圧粉体200aの酸化物(焼結体)を、搬出アーム20cにより、例えば1枚ずつ加熱炉10外に搬出し、所定の容器に収容する。
【0045】
以上の工程により、圧粉体群200(圧粉体200a)を均質に加熱することができる。
【0046】
(3)本実施形態に係る効果
本実施形態によれば、以下に示す1つまたは複数の効果を奏する。
【0047】
(a)加熱装置100は、誘導コイル30の近傍に、移動可能な磁性体部材50を備えることにより、圧粉体群200(圧粉体200a)内の電気力線と磁力線の粗密分布(電磁界分布)を変化させ、電磁界分布の偏りを調整することができる。これより、圧粉体群200の加熱ムラを抑えることができる。
【0048】
(b)磁性体部材50を誘導コイル30の周方向に沿って移動させることにより、内部空間10bに発生した電気力線と磁力線の分布を移動させ、経時的に電磁界の粗密分布を変化させることができる。これにより、圧粉体群200内の電磁界分布の偏りを平均化し、圧粉体群200の加熱ムラを確実に抑えることができる。
【0049】
誘導コイル30への電流供給時に、2つの磁性体部材50をそれぞれ同方向に移動させることにより、圧粉体群200内の電磁界分布の偏りを移動させて加熱のムラを時間的な平均をする事で解消し、圧粉体群200の加熱ムラを抑えることができる。一般に、誘導コイル30への電流供給時に、圧粉体群200を、圧粉体群200の長手方向に伸びる中心軸を中心に回転(自転)させると、圧粉体群200内の同心円方向の加熱の偏りが平均化する事で解消されるが、半径方向の偏りは解消しない。磁性体部材50を任意の位置に動かすことで同心円方向と半径方向の両方の加熱ムラを抑えることができる。また、圧粉体群200を自転させる場合は、例えば、昇降方向と回転方向の二方向の移動機構や動作制御が必要となるので、移動機構の構成の複雑化や動作制御の煩雑化が生じる場合がある。これに対して、本実施形態のように、圧粉体群200の移動と磁性体部材50の移動とで各方向の移動を役割分担させることで、それぞれを単機能化することができる。
【0050】
また、磁性体部材50を誘導コイル30の外周側に配置することにより、磁性体部材50を誘導コイル30の内周側に配置するよりも、移動機構40の配置スペースの確保を容易にすることができる。
【0051】
また、本実施形態によれば、圧粉体群200内の電磁界分布の偏りを調整することができるので、意図的に加熱ムラを生じさせることもでき、所望の加熱処理を実現することができる。
【0052】
(4)変形例
上述の実施形態は、必要に応じて、以下に示す変形例のように変更することができる。以下、上述の実施形態と異なる要素についてのみ説明し、上述の実施形態で説明した要素と実質的に同一の要素には、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0053】
(変形例1)
図3に示すように、2つの磁性体部材50を、それぞれ、誘導コイル30の周方向に沿って、反対の向きに移動させてもよい。本変形例においては、2つの磁性体部材50を、それぞれ、反対方向に移動させることにより、上述の実施形態よりも電磁界分布を半径方向に乱すことができる。このような場合には、例えば、圧粉体群200の長手方向に伸びる中心軸の近傍が加熱されない、いわゆるドーナツ現象を効率的に回避し、圧粉体群200の加熱ムラを確実に抑えることができる。本変形例においては、移動機構40は、2つの磁性体部材50を、誘導コイル30の周方向に沿って、それぞれ、反対方向に移動させるように構成されていることが好ましい。
【0054】
(変形例2)
図4図5に示すように、2つの磁性体部材50を、それぞれ、誘導コイル30の径方向に沿って、同じ向きまたは反対の向きに移動させてもよい。本変形例において、磁性体部材50を誘導コイル30の径方向に沿って移動させることにより、電磁界の強弱を調整することができる。また、本変形例においては、磁性体部材50を移動させる移動機構40の動作を、上述の実施形態における移動機構40の動作よりも簡素にすることができる。なお、圧粉体群200内の電磁界分布の偏りを解消する点においては、上述の実施形態の方が好ましい。しかしながら、本変形例において、磁性体部材50を移動させるとともに、例えば、圧粉体群200を加熱装置100内に搬入する際に、移動台20bを回転させる等して、圧粉体群200を自転させることにより、上述の実施態様と同様の効果が得られる。なお、2つの磁性体部材50を、それぞれ反対の向きに移動させた方が、同じ向きに移動させるよりも、電磁界分布をランダムに乱すことができるので、特に、上述のドーナツ現象を効率的に回避し、圧粉体群200の加熱ムラを確実に抑えることができる。本変形例においては、移動機構40は、2つの磁性体部材50を、誘導コイル30の径方向に沿って、それぞれ、同方向または反対方向に移動させるように構成されていることが好ましい。なお、本明細書において、「誘導コイル30の径方向」とは、誘導コイル30の巻回径方向を示している。
【0055】
(変形例3)
磁性体部材50を、誘導コイル30の周方向に沿っての移動と誘導コイル30の径方向に沿っての移動とを組み合わせて移動させてもよい。このとき、2つの磁性体部材50は、それぞれ、同じ向き、または反対の向きに移動させてもよい。本変形例においては、磁性体部材50の周方向における移動と径方向における移動とを組み合わせることにより、電磁界分布の偏りの解消と電磁界分布の強弱の調整の双方を実現することができる。
【0056】
<本発明の他の実施形態>
以上、本発明の実施形態について具体的に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0057】
上述の実施形態では、磁性体部材50が誘導コイル30の近傍を、所定時間連続して移動する場合を例に挙げて説明した。しかしながら、本発明は、上述の実施形態に限定されない。例えば、磁性体部材50を、誘導コイル30の近傍の所望の位置に移動させ、その位置で所定時間停止させるようにしてもよいし、また、これらの動作を所定回数繰り返して、磁性体部材50を間欠的に移動させるようにしてもよい。これらの場合には、上述したドーナツ現象とは異なる態様で磁性分布の偏りが生じる場合、例えば、圧粉体群200の側面付近が加熱されない場合における電磁界分布の偏りを解消することができる。
【0058】
上述の実施形態では説明しなかったが、2つの磁性体部材50は、それぞれ、移動を開始してから所定時間が経過すると、移動の向きが反対の向きになるように構成されてもよい。この場合には、電磁界分布をよりランダムに乱すことができるので、特に、上述のドーナツ現象を効率的に回避し、圧粉体群200の加熱ムラを確実に抑えることができる。
【0059】
上述の実施形態では説明しなかったが、2つの磁性体部材50は、それぞれ、同じ速度で移動してもよいし、異なる速度で移動してもよい。ただし、2つの磁性体部材50が異なる速度で移動する方が、電磁界分布の偏りを確実に解消することができ、より優れた効果が得られる。なお、2つの磁性体部材50を、誘導コイル30の周方向に沿って、それぞれ同方向に、異なる速度で移動させる場合には、磁性体部材50同士の衝突を回避するため、それらの軌道を異ならせることが好ましい。2つの磁性体部材50を、誘導コイル30の周方向に沿って、それぞれ反対方向に移動させる場合も同様である。
【0060】
上述の実施形態では、磁性体部材50が2つ配置されている場合を例に挙げて説明した。しかしながら、本発明は、上述の実施形態に限定されず、磁性体部材50は、3つ以上配置されていてもよいし、1つ配置されていてもよい。これらの場合においても、上述の実施態様と同様の効果が得られる。
【0061】
上述の実施形態では説明しなかったが、2つの磁性体部材50は、それぞれ、その大きさ、形状、材料等が同じであってもよいし、異なっていてもよい。これらの場合においても、上述の態様と同様の効果が得られる。また、上述の実施形態では、磁性体部材50が直方体状に形成されている場合を例に挙げて説明した。しかしながら、本発明は、上述の実施形態に限定されず、磁性体部材50は、その機能を発揮できれば、球状、正方体状、三角柱状等のいかなる形状でもよい。
【0062】
上述の実施形態では、圧粉体200aを1枚ずつ、それぞれ、搬入アーム20aにより移動台20b上に搬送し、移動台20bにより内部空間10b内に搬入し、搬出アーム20cにより搬出口10cから搬出する場合を例に挙げて説明した。しかしながら、本発明は、上述の実施形態に限定されず、圧粉体200aを複数枚ずつ、それぞれ、移動台20b上に搬送し、内部空間10b内に搬入し、搬出口10cから搬出するようにしてもよい。
【0063】
上述の実施形態では、圧粉体200aを1枚ずつ、それぞれ、搬入アーム20aにより移動台20b上に搬送し、圧粉体群200を形成する場合を例に挙げて説明した。しかしながら、本発明は、上述の実施形態に限定されず、例えば、予め内部空間10b内に搬入する前に圧粉体群200を形成し、圧粉体群200を移動台20b上に載置して、加熱するようにしてもよい。また、加熱装置100は、加熱対象物(圧粉体群200)を誘導加熱する加熱装置であれば、特に限定されるものではない。
【0064】
上述の実施形態では、一対の把持部25により、所定のタイミングで圧粉体200aを把持し、または把持を解除して、内部空間10b内の圧粉体群200を搬出口10c側に移動させる場合を例に挙げて説明した。しかしながら、本発明は、上述の実施形態に限定されず、例えば、一対の把持部25を配置せず、以下に示す手順により、圧粉体群200を搬出口10c側に移動させるようにしてもよい。(a)搬入アーム20aにより、移動台20b上に、圧粉体200aを1枚載置させる。(b)搬入アーム20aにより、移動台20b上に圧粉体200aが1枚載置されるごとに、移動台20bを所定の距離だけ下降させる。(c)上述した(a)、(b)を複数回繰り返し行うことにより、移動台20b上に、圧粉体200aを列状に重ねた圧粉体群200を形成させる。(d)圧粉体群200を載置した状態で、移動台20bを上昇させ、内部空間10b内を通過させる。(e)内部空間10b内を通過し、搬出口10c側に移動した加熱済の圧粉体200aを、搬出アーム20cにより、1枚ずつ加熱炉10外に搬出し、粉砕する。例えば、上述した(d)において、圧粉体群200の加熱に充分な時間を確保できるように、移動台20bの速度を制御することが好ましい。
【0065】
上述の実施形態では、加熱対象物として、原料粉末を板状に加圧成形した圧粉体200aを例に挙げて説明した。しかしながら、本発明は、上述の実施形態に限定されず、加熱対象物は、誘電体であれば特に限定されない。
【0066】
上述の実施形態では、誘導コイル30が中空銅パイプ管により構成されている場合を例に挙げて説明した。しかしながら、本発明は、上述の実施形態に限定されず、誘導コイルが、例えばアルミニウム・パイプまたは銀パイプにより構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0067】
10 加熱炉
10a 搬入口
10b 内部空間
10c 搬出口
20 移動機構
30 誘導コイル
40 (磁性体部材)移動機構
50 磁性体部材
60 ガス供給管
70 ガス排出管
80 制御部
100 加熱装置
200a 圧粉体(加熱対象物)
200 圧粉体群(加熱対象物)
図1
図2
図3
図4
図5