IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 学校法人順天堂の特許一覧 ▶ 学校法人東京理科大学の特許一覧

<>
  • 特開-圧振動発生装置の作動方法 図1
  • 特開-圧振動発生装置の作動方法 図2
  • 特開-圧振動発生装置の作動方法 図3
  • 特開-圧振動発生装置の作動方法 図4
  • 特開-圧振動発生装置の作動方法 図5
  • 特開-圧振動発生装置の作動方法 図6
  • 特開-圧振動発生装置の作動方法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023131144
(43)【公開日】2023-09-21
(54)【発明の名称】圧振動発生装置の作動方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 13/00 20060101AFI20230913BHJP
【FI】
A61M13/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023034444
(22)【出願日】2023-03-07
(31)【優先権主張番号】P 2022035086
(32)【優先日】2022-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】502285457
【氏名又は名称】学校法人順天堂
(71)【出願人】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三輪 正人
(72)【発明者】
【氏名】山本 誠
(72)【発明者】
【氏名】藤村 宗一郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 実季
(57)【要約】      (修正有)
【課題】副作用がなく、呼吸困難などの操作による問題もない、副鼻腔炎や嗅覚障害の新たな治療法を提供する。
【解決手段】圧振動発生装置から発生した圧振動を、薬剤の投与を伴わずに、片側外鼻孔を介して嗅裂、中鼻道及び上顎洞から選ばれる1箇所又は2箇所以上に到達させることを特徴とする、気導性嗅覚障害及び/又は副鼻腔炎の症状が改善するように圧振動を発生させる装置の作動方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧振動発生装置から発生した圧振動を、薬剤の投与を伴わずに、片側外鼻孔を介して嗅裂、中鼻道及び上顎洞から選ばれる1箇所又は2箇所以上に到達させることを特徴とする、気導性嗅覚障害及び/又は副鼻腔炎の症状が改善するように圧振動発生装置の作動方法。
【請求項2】
発生する圧振動の周波数が、10Hz~80Hzである請求項1記載の作動方法。
【請求項3】
発生する圧振動を、片側外鼻孔を介して鼻腔内に導入する際、圧振動を導入しない外鼻孔を閉鎖することなく圧振動発生装置を作動する請求項1又は2記載の作動方法。
【請求項4】
片側外鼻孔を介して嗅裂、中鼻道及び上顎洞から選ばれる1箇所又は2箇所以上に圧振動を到達させ、通常呼吸に比べて、嗅裂、中鼻道及び上顎洞から選ばれる1箇所又は2箇所以上において流量及びwall shear stressを増加させ、吸気流量のみならず呼気流量も増加させるように圧振動発生装置を作動する請求項1~3のいずれか1項に記載の作動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧振動発生装置の作動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鼻副鼻腔は何本もの道が入り組んだ非常に複雑な構造を呈する。嗅素を含む吸気が鼻腔上部の嗅裂に存在する嗅上皮に到達することによりにおいを感じるとされてきたが、呼気もまた重要であることが知られている。また、鼻腔と副鼻腔をつなぐ自然口は、中鼻道に主に存在している。気導性嗅覚障害や鼻副鼻腔炎の病態は、気流換気障害と粘膜上皮障害の両者が密接に関連している。
【0003】
嗅覚障害の有病率は全米では1-3%とされ、本邦でも同程度と考えられる。COVID-19による嗅覚障害も注目されるようになってきた。一方、副鼻腔炎の有病率は本邦では5-6%とされる。気導性嗅覚障害や鼻副鼻腔炎に対する薬物治療として以前より様々な治療がおこなわれてきたが、効果は十分とはいえなかった。内服薬では、顔面骨に囲まれた粘膜に移行する薬剤量が不十分であることが要因と考えられる。手術は、骨粘膜コンプレックスである複雑な鼻副鼻腔の炎症性疾患の治療としては、最終手段と考えられる。また、局所投与では、点鼻あるいはネブライザーがおこなわれてきたが、鼻副鼻腔の構造の複雑さから、薬剤が病変部位に到達しにくいことが知られている。
【0004】
このような状況において、副鼻腔へのドラッグデリバリーを改善させるため、加圧振動型ネブライザー(PARIジーヌス社製)が開発され、日本でも認可されている。この機器は44Hzの固定振動を付与して炎症部位である副鼻腔へステロイド剤などの薬剤をより多く到達させることを目的としている。また、この加圧振動型ネブライザーの改良型として、特許文献1及び2のネブライザーも報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2013-524960号公報
【特許文献2】特許第6653000号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、この加圧振動型ネブライザー装置は、振動側の対側鼻孔を閉鎖する必要があり操作が煩雑で呼吸困難感が出現するといった問題点がある。また、副鼻腔炎の治療薬であるステロイド剤は、皮膚が薄くなる、萎縮する、毛細血管が広がる、免疫系の低下により易感染性が高まる、血糖値の上昇などの副作用の出現が懸念されている。
従って、本発明の課題は、副作用がなく、呼吸困難などの操作による問題もない、副鼻腔炎や嗅覚障害の新たな治療法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明者は、ステロイド剤などの薬剤を使用することなく、副鼻腔炎及び嗅覚障害の症状を改善する手段を見出すべく検討したところ、薬剤の投与を伴わずに、片側外鼻孔に圧振動発生装置から発生した圧振動を導入することにより、非振動側を閉鎖した場合及び開放した場合の両方で、通常呼吸に比べて、嗅裂、中鼻道及び上顎洞から選ばれる1箇所又は2箇所以上において流量及びwall shear stressが増加し、吸気流量のみならず呼気流量も増加し、気導性嗅覚障害及び副鼻腔炎の症状が改善することを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、次の発明[1]~[4]を提供するものである。
[1]圧振動発生装置から発生した圧振動を、薬剤の投与を伴わずに、片側外鼻孔を介して嗅裂、中鼻道及び上顎洞から選ばれる1箇所又は2箇所以上に到達させることを特徴とする、気導性嗅覚障害及び/又は副鼻腔炎の症状が改善するように圧振動発生装置の作動方法。
[2]発生する圧振動の周波数が、10Hz~80Hzである[1]記載の作動方法。
[3]発生する圧振動を、片側外鼻孔を介して鼻腔内に導入する際、圧振動を導入しない外鼻孔を閉鎖することなく圧振動発生装置を作動する[1]又は[2]記載の作動方法。
[4]片側外鼻孔を介して嗅裂、中鼻道及び上顎洞から選ばれる1箇所又は2箇所以上に圧振動を到達させ、通常呼吸に比べて、嗅裂、中鼻道及び上顎洞から選ばれる1箇所又は2箇所以上において流量及びwall shear stressを増加させ、吸気流量のみならず呼気流量も増加させるように圧振動発生装置を作動する[1]~[3]のいずれかに記載の作動方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明方法によれば、ステロイド剤などの薬剤を使用することなく、単に圧振動発生装置を用いて片側外鼻孔を介して鼻腔内に圧振動を加えるだけで、当該振動が嗅裂、中鼻道及び上顎洞から選ばれる1箇所又は2箇所以上に到達し、非振動側を閉鎖した場合、開放した場合の両方で、通常呼吸に比べて、嗅裂、中鼻道及び上顎洞から選ばれる1箇所又は2箇所以上において流量及びwall shear stress が増加し、吸気流量のみならず呼気流量も増加し、気導性嗅覚障害及び副鼻腔炎の症状が改善する。従って、従来のネブライザー使用による治療法に比べて、薬剤による副作用が生じることなく、また薬剤を吸入しない側の鼻孔を閉鎖する必要もないため、安全かつ簡便に気導性嗅覚障害及び副鼻腔炎の治療が可能になる。
また、薬剤に頼らない力学的皮膚治療(フィジカルスキンケア)による創傷治療が有効であることが近年数多く報告されている。本発明方法を利用できる鼻粘膜上皮に対する物理的刺激を加える「メカノセラピー」は、高額な分子標的薬に代わる先駆的治療法となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】圧振動装置の基本構成を示す図である。
図2】鼻孔から副鼻腔への気流の流れを示す図である。左側は、顔の横から見た図であり、右側は、顔の正面から見た図である。
図3】圧振動の周波数と嗅上皮における体積流量の関係を示す図である。0Hzのラインは通常呼吸時の流量を示す。
図4】圧振動の周波数と中鼻道における体積流量の関係を示す図である。0Hzのラインは通常呼吸時の流量を示す。
図5】圧振動の周波数と嗅上皮におけるwall shear stressの関係を示す図である。0Hzのラインは通常呼吸のwall shear stressを示す。
図6】圧振動の周波数と嗅上皮への気流の流れ(最大流量時刻と最小流量時刻の対比)を示す図である。steadyは、通常呼吸時の気流の流れを示す。
図7】圧振動の周波数と副鼻腔の上顎洞内(洞底部)における体積流量の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、圧振動発生装置から発生した圧振動を、薬剤の投与を伴わずに、片側外鼻孔を介して嗅裂、中鼻道及び上顎洞から選ばれる1箇所又は2箇所以上に到達させることを特徴とする、気導性嗅覚障害及び/又は副鼻腔炎の症状が改善するように圧振動発生装置の作動方法である。
【0012】
本発明に用いられる圧振動発生装置は、図1のような構成を有する。送風機により空気を吸入し、ピストンあるいは振動板を内蔵した振動発生器によって気流に振動を加える。この振動気流をノズルに導き、速度を高めた上で鼻孔に流入させる。なお、振動発生器は、80Hz以上の周波数の圧振動を発生できる装置であればよい。
【0013】
前述のように、鼻副鼻腔は何本もの道が入り組んだ非常に複雑な構造を呈する。嗅素を含む吸気が鼻腔上部の嗅裂に存在する嗅上皮に到達することによりにおいを感じるとされてきたが、呼気もまた重要であることが知られている。また、鼻腔と副鼻腔をつなぐ自然口は、中鼻道に主に存在している。通常、ネブライザーによる薬剤投与では、吸気を嗅裂、中鼻道や上顎洞まで到達させることができないため、嗅裂、中鼻道や上顎洞まで薬剤が到達しないことが知られている。これに対し、薬剤投与を伴わずに、片側外鼻孔を介して鼻腔上部に圧振動を導入すれば、嗅裂、中鼻道及び上顎洞から選ばれる1箇所又は2箇所以上に圧振動を到達させることができる。
より具体的には、圧振動発生器から発生した圧振動を片側外鼻孔に送ることができるアタッチメントを介して圧振動を片側外鼻孔から鼻腔上部に導入すればよい(図2参照)。
【0014】
外鼻孔に導入される圧振動の周波数は、特に制限されないが、通常呼吸に比べて、嗅裂、中鼻道及び上顎洞から選ばれる1箇所又は2箇所以上において流量及びwall shear stressを増加させ、吸気流量のみならず呼気流量も増加させる観点から、10Hz~80Hzであるのが好ましく、20Hz~60Hzであるのがより好ましい。
【0015】
本発明方法によれば、非振動側を閉鎖した場合及び開放した場合の両方で、通常呼吸に比べて、嗅裂、中鼻道及び上顎洞から選ばれる1箇所又は2箇所以上において流量及びwall shear stressが増加し、吸気流量のみならず呼気流量も増加する。非振動側を閉鎖する場合は、呼吸が困難になるなどの問題が生じることもあるので、発生する圧振動を、片側外鼻孔を介して鼻腔内に導入する際、圧振動を導入しない外鼻孔を閉鎖することなく圧振動発生装置を作動することもできる。
【0016】
前記のように、片側外鼻孔を介して鼻腔上部に圧振動を導入すれば、嗅裂、中鼻道及び上顎洞から選ばれる1箇所又は2箇所以上に圧振動を到達させることができ、通常呼吸に比べて、嗅裂、中鼻道及び上顎洞から選ばれる1箇所又は2箇所以上において流量及びwall shear stressが増加し、吸気流量のみならず呼気流量も増加する。そして、嗅裂、中鼻道及び上顎洞から選ばれる1箇所又は2箇所以上において流量及びwall shear stressが増加し、吸気流量のみならず呼気流量も増加する結果として、薬剤投与をしていないにもかかわらず、気導性嗅覚障害及び/又は副鼻腔炎の症状が改善する。また、新型コロナウイルの症状又は後遺症、認知症の前駆症状としての嗅覚障害に対する嗅覚のリハビリテーションが行われている。この嗅覚のリハビリテーションとして本発明方法は有用である。
【実施例0017】
次に実施例を挙げて、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0018】
実施例1
既製の加圧振動型ネブライザー(PARIジーヌス社製)を用い、従来よく用いられている抗生剤とステロイド剤の混合液ではなく生理食塩水の振動エアロゾル療法を、中等度から脱失の嗅力損失を示す嗅上皮性嗅覚障害を伴う慢性副鼻腔炎患者3例に週12回3か月おこない、症状及び基準嗅覚検査であるT&Tオルファクトメトリーで効果判定をおこなった。
外鼻孔から振動を付与する条件下で、気導性嗅覚障害、副鼻腔炎の発症に密接に関連する嗅裂、中鼻道、上顎洞の気流の変化を数値流体力学(Computational Fluid Dynamics, CFD)解析した。
具体的には副鼻腔症例3例のCTから得られた画像をDICOMデータとして出力し、メッシュ作成の後、ANSYS CFX(ANSYS Inc.)を用いてCFD解析をおこない、嗅裂及び中鼻道での呼吸気流の流速、wall shear stressについて、通常呼吸と25、50、75、100Hzの振動を加えた状態での解析をおこなった。
【0019】
(結果)
その結果、片側鼻腔に振動を加えることにより、非振動側を閉鎖した群、開放した群の両者で、通常呼吸に比べて、嗅裂及び中鼻道において流量及びwall shear stressが増加することが確認された(図3~6)。 嗅裂では25、50Hzで、中鼻道では25、50、75Hzで流量の増加がみられたが、吸気流量のみならず呼気流量も増加していた。
その結果、全例で症状及び嗅力損失の改善が認められた。
また、圧振動の周波数と副鼻腔の上顎洞内(洞底部)における体積流量の関係を図7に示す。圧振動により、中鼻道のみならず、上顎洞内にまで気流が到達していることが判明した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7