(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023131220
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】ガラスクロス
(51)【国際特許分類】
D06M 13/513 20060101AFI20230914BHJP
C03C 13/00 20060101ALI20230914BHJP
C03C 25/1095 20180101ALI20230914BHJP
D03D 1/00 20060101ALI20230914BHJP
D03D 15/267 20210101ALI20230914BHJP
【FI】
D06M13/513
C03C13/00
C03C25/1095
D03D1/00 A
D03D15/267
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022035820
(22)【出願日】2022-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田口 雄亮
(72)【発明者】
【氏名】糸川 肇
(72)【発明者】
【氏名】野村 龍之介
(72)【発明者】
【氏名】浦中 宗聖
【テーマコード(参考)】
4G060
4G062
4L033
4L048
【Fターム(参考)】
4G060BA01
4G060BA02
4G060BB02
4G060BC01
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4L048DA43
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4L048EB00
(57)【要約】
【課題】10~40GHzでの誘電正接が低く、伝送損失の小さい、加工性も容易なガラスクロスを提供する。
【解決手段】軟化点が1,000~1,600℃であり、Si-OH基の量が1,000ppm未満のガラス繊維からなるガラスクロスに、シランカップリング剤をガラスクロスに対して0.001質量%以上1.0質量%未満で付着させたガラスクロス。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟化点が1,000~1,600℃であり、Si-OH基の量が1,000ppm未満のガラス繊維からなるガラスクロスに、シランカップリング剤をガラスクロスに対して0.001質量%以上1.0質量%未満で付着させたガラスクロス。
【請求項2】
10GHzから40GHzまでの誘電正接が0.002以下であり、40GHz/10GHzの誘電正接比が2.0以下である、請求項1記載のガラスクロス。
【請求項3】
ガラス繊維中のSiO2量が、99.9質量%以上である請求項1又は2記載のガラスクロス。
【請求項4】
厚さが200μm以下である、請求項1~3のいずれか1項記載のガラスクロス。
【請求項5】
単位面積あたりの質量が4~300g/m2である、請求項1~4のいずれか1項記載のガラスクロス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電特性及び加工性に優れたガラスクロスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、スマートフォン等の情報端末の高性能化、高速通信化に伴い、使用されるプリント配線板において、高密化、極薄化と共に、低誘電率化特に低誘電正接化が著しく進行している。
【0003】
プリント配線板の絶縁材料としては、ガラスクロスをエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂(以下、「マトリックス樹脂」という。)に含浸させて得られるプリプレグを積層して加熱加圧硬化させた積層板が広く使用されている。上記の高速通信基板に使用されるマトリックス樹脂の誘電率は3程度であるのに対し、一般的なEガラスクロスの誘電率は6.7程度であり、積層板時の高い誘電率の問題が顕在化してきている。
【0004】
なお、信号の伝送ロスはEdward A. Wolff式:伝送損失∝√ε×tanδ、が示すように、誘電率(ε)及び誘電正接(tanδ)が小さい材料ほど改善されることが知られており、特に、上記の式より伝送損失に対しては誘電正接(tanδ)の寄与が大きいことが知られている。
【0005】
そのため、Eガラスとは異なるガラス組成のDガラス、NEガラス、Lガラス等の誘電特性が向上されたガラスクロスが提案されている(特許文献1~3)。
【0006】
しかしながら、今後の5G通信用用途等において十分な伝送速度性能を達成する観点から、これら低誘電率・低誘電正接に優れる低誘電特性ガラスクロスにおいても、なお改善の必要性がある。そこで、ガラス組成中のSiO2配合量をほぼ100質量%とすることにより、さらなる低誘電率化及び低誘電正接化を図ることが検討され、SiO2配合量をほぼ100質量%としたガラスクロスの開発が行われている(特許文献4)。しかしながら、特許文献4では、低誘電率に関する言及はあるものの、より伝送損失に寄与する誘電正接については言及されておらず、低誘電正接化は難しい課題となっている。
【0007】
伝送損失は、Si-OH基が存在するとSi-OHの振動の倍音の吸収が1.4μmにあるために、伝送効率が著しく低下することが知られており、Si-OH基の減少が伝送損失の低減に有効な技術である。
【0008】
誘電正接を低くする手法として、合成石英ガラスを用いた開発が行われている(特許文献5)。しかしながら、特許文献5では、10GHzまでの記載はあるが、近年求められている30GHz~300GHzのミリ波領域での誘電正接は記載されていない。また、合成石英ガラスは高価であり、今後普及が見込まれる5G通信用用途に用いる場合、コストの問題が生じる。
【0009】
また、特許文献5では、合成石英ガラスを用いる利点として、多層基板とした場合の加工性の容易さを記述しており、天然石英ガラス材料では加工性が悪いとの欠点が指摘されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平5-170483号公報
【特許文献2】特開2009-263569号公報
【特許文献3】特開2009-19150号公報
【特許文献4】特開2018-197411号公報
【特許文献5】特許4336086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、10~40GHzでの誘電正接が低く、伝送損失の小さい、加工性も容易なガラスクロスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意研究した結果、SiO2が99.9質量%以上、Si-OH基の量が1,000ppm未満のガラス繊維を用いたガラスクロスに、特定量のシランカップリング剤を付着させたガラスクロスが、上記課題を解決できることを知見し、本発明をなすに至ったものである。より具体的には、今後増えていく5G等の高速通信等での伝送損失を抑えるための方法として、基板に用いられるガラスクロスの誘電正接特性のさらなる向上が求められており、例えば、10GHzから40GHzまでの誘電正接が0.002以下、40GHz/10GHzの比が2.0以下にすることができ、誘電正接特性に起因する伝送損失を抑えることができるという著大な効果を奏する。
【0013】
従って、本発明はガラスクロスを提供する。
1.軟化点が1,000~1,600℃であり、Si-OH基の量が1,000ppm未満のガラス繊維からなるガラスクロスに、シランカップリング剤をガラスクロスに対して0.001質量%以上1.0質量%未満で付着させたガラスクロス。
2.10GHzから40GHzまでの誘電正接が0.002以下であり、40GHz/10GHzの誘電正接比が2.0以下である、1記載のガラスクロス。
3.ガラス繊維中のSiO2量が、99.9質量%以上である1又は2記載のガラスクロス。
4.厚さが200μm以下である、1~3のいずれかに記載のガラスクロス。
5.単位面積あたりの質量が4~300g/m2である、1~4のいずれかに記載のガラスクロス。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、誘電正接特性と加工性に優れた、ガラスクロスを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明するが、これらの実施の形態は例外的に示されるもので、本発明の技術思想から逸脱しない限りは種々の変形が可能なことはいうまでもない。本発明のガラスクロスは、SiO2が99.9質量%以上、Si-OH基の量が1,000ppm未満のガラス繊維からなるガラスクロスに、シランカップリング剤を付着率0.001質量%以上1.0質量%未満で付着させたガラスクロスである(以下、本発明の付着ガラスクロスと記載する場合がある。)。
【0016】
[ガラス繊維]
本発明のガラス繊維は、軟化点が1,000~1,600℃であり、Si-OH基の量が1,000ppm未満のガラス繊維である。
【0017】
ガラスは同じ組成のものでも、熱処理やその処理時の冷却速度によって、構造や物理的性質が異なる。これはガラスが完全な溶融状態から冷却していく過程の影響を受けるが、冷却速度が異なると仮想温度が異なる。冷却速度が遅いと構造緩和する時間が十分有り、実温度に追従して仮想温度は下がる。一方、冷却速度が速い場合には、ガラスの実温度から離れることで仮想温度は上がる。また、仮想温度が上がることで生じる変化として、軟化点が低下する。本発明のガラス繊維の軟化点は、1,000~1,600℃であり、1,000~1,400℃が好ましく、1,050~1,200℃がより好ましい。なお、軟化点は、熱機械分析装置(TMA)を用いてガラス繊維を直径方向に引っ張り、軟化点を測定した値である。
【0018】
本発明のガラス繊維のSi-OH基の含有量は1,000ppm(質量)未満である。なお、Si-OH基の含有量の測定方法は、実施例に記載した方法である。ガラスの粘度(Pa・s)とOH量には相関が認められ、OH含有量が増大するにしたがって粘度が低下することが知られている。粘度が低下することで、軟化点も低下することとなるが、OH含有量は酸水素炎での熱処理延伸を増やすことができるものの、増大させすぎると誘正接が悪くなるという問題が生じる。軟化点及びSi-OH基の量は、ガラス繊維の製造方法で調整することが可能である。
【0019】
ガラス繊維のSiO2含有量は99.9質量%以上が好ましく、100質量%であってもよい。石英ガラスの原料インゴットの製造方法としては、水晶を原料とした電気溶融法、火炎溶融法又は四酸化ケイ素を原料とした直接合成法、プラズマ合成法、スート法、又はアルキシルケートを原料としたゾルゲル法等が挙げられるが、SiO2配合量が99.9質量%であればこれらの製造方法に限定されるものではない。特に、水晶を原料とした電気溶融法、四酸化ケイ素を原料としたプラズマ合成法、スート法が、不純物としてシラノール基(Si-OH)を含みにくいため好ましい。
【0020】
ガラス繊維の繊維径φは3~10μmが好ましく、3.5~10μmがより好ましい。ガラス繊維の10GHz~40GHzでの誘電正接は0.002以下が好ましく、0.0015以下がより好ましい。また、誘電正接の変化量が少ないものが求められ、40GHz/10GHzの比が2.0以下のものが好ましい。
【0021】
加工性及び誘電正接の特性を両立させるためには、目的の繊維径よりも10倍以上、より好ましくは20倍以上大きく、ガラス材料を300m/min以上、より好ましくは400m/min以上の速度で延伸することで、低誘電正接であり、加工性が容易なガラス繊維を得ることができる。
【0022】
延伸されるガラス材料の調製方法として、例えば、直径200±100μmでSiO2配合量が99.0質量%以上の石英ガラス糸の調製方法としては、電気溶融にて実施される。具体的には、直径50~200mmのガラスを1,700~2,300℃にて溶融させ、糸状になったものを巻き取ることで、直径200±100μmのガラス糸を得ることができる。溶融温度が1,700℃未満の場合は石英ガラスを溶かすことができないおそれがあり、2,300℃を超えると粘度が低下しすぎて安定的な延伸ができないおそれがある。
【0023】
ガラス糸は強度が非常に弱いため、巻き取るために必要な強度を得るためにコーティングを行うことが好ましい。コーティング剤としては、硬化性に優れたアクリレート系の官能基を持つUV硬化樹脂が好ましく、コーティング厚みとしては、5μm以上が好ましい。5μm未満だと、コーティング厚みが不十分で補強効果が得られないおそれがある。
【0024】
生産性を上げるために、石英ガラスの溶融からコーティングまでの間に冷却を行うことが好ましい。冷却は水冷や空冷等があり、両方行う方が効果的である。直径50~200mmの石英ガラスを1,700~2,300℃に加熱し、冷却することでこの工程でも軟化点を低下させることができる。
【0025】
[ガラスストランド]
上記ガラス繊維を束ねてガラスストランドを得ることができる。例えば、ストランドは20~400本の石英ガラス繊維を、酸素と水素の混合火炎にて溶融させることで得ることができる。ガラスストランドの製造時に、ガラスストランドを集束させるために、集束剤を用いる。集束剤は澱粉を主原料とした組成物にて用いられ、機能性付与のため、柔軟剤や潤滑剤を配合させることができる。
【0026】
[ガラスヤーン]
上記ガラスストランドに撚りをかけることでガラスヤーンを得ることができる。撚りの頻度としては、25mmあたり0.1~5.0回が好ましく、0.1~4.0回がより好ましい。
【0027】
[ガラスクロス(付着前)]
上記ガラスヤーンを製織し、ガラスクロスを得ることができる。ガラスクロスの織組織、織密度等は特に限定はされないが、織組織としては、例えば、平織、朱子織、ななこ織、綾織等が挙げられる。また、織密度としては、例えば、10~150本/25mmが挙げられる。
【0028】
ガラスクロスの厚さは200μm以下が好ましく、180μm以下がより好ましい。ガラスクロスの単位面積あたりの質量は、4~300g/m2が好ましく、10~200g/m2がより好ましい。
【0029】
ガラスクロスの製織方法としては、特に限定はされないが、例えば、エアージェット織機、ウォータージェット織機、レピア織機、シャトル織機等が挙げられる。
【0030】
ガラスクロスの製織時に製織の安定性や毛羽発生を抑えるために糊剤を用いることができる。糊剤としては、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、澱粉、ポリエステル、及びポリアミド等から選択される1種類以上を含むことが好ましい。ガラスクロスは必要に応じ、開繊処理を行ってもよい。
【0031】
ガラスクロスとしては、例えば、SiO299.9質量%以上のフィラメントからなる石英ガラスクロス(1078:IPC-4412B Appendix II)等を用いることができる。
【0032】
[ガラスクロス(付着後)]
本発明の付着ガラスクロスは、シランカップリング剤を付着率0.001質量%以上1.0質量%未満で付着させたガラスクロスであり、上記、ガラスストランド、ガラスヤーン、ガラスクロスを、シランカップリング剤で表面処理することで得ることができる。
【0033】
本発明の付着ガラスクロスは、樹脂の含浸性や樹脂とガラスクロスとの界面の接着性を発現するために、シラン化合物、シランカップリング剤(処理剤)で処理する。シランカップリング剤は、用いるガラスクロスに応じて選択すればよく、1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。シランカップリング剤としては、例えば、ビニル基、スチリル基、メタクリル基、アクリル基等の官能基を有するシランカップリング剤が好ましい。シランカップリング剤の具体的な例としては、γ-メタクリロキシプロピルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、p-スチリルトリメトキシシラン等が挙げられる。従来使用されているエポキシ樹脂用のシランカップリング処理剤としては、エポキシ系シランカップリング剤やカチオン系シランカップリング剤が挙げられる。また、はんだ耐熱性、耐吸湿性、銅付き耐熱性、絶縁信頼性に優れるフェニルアミノシラン処理剤を用いることもできる。中でも、処理表面が安定で有機樹脂と化学的に結合可能な官能基を有する不飽和基含有官能基が好ましく、例えば、ビニル系や(メタ)アクリル系、スチリル系のシランカップリング剤が好ましい。シランカップリング剤としては、例えば、メタクリル基を有するシランカップリング剤(信越化学工業(株)製:KBM-503)等を用いてもよい。
【0034】
シランカップリング処理方法は、特定の付着量となるように、シランカップリングとガラスクロスとが接触すればよく、温度等は特に限定されない。処理剤の付着量は、ガラスクロスに対して0.001質量%以上1.0質量%未満(付着率)であり、0.01質量%以上0.3質量部以下が好ましい。付着量が1.0質量%以上となると、誘電正接を悪化させる原因となり、0.001質量%未満では樹脂との濡れ性が悪くなる。
【0035】
本発明の付着ガラスクロスの10GHz~40GHzでの誘電正接は0.002以下が好ましく、0.0015以下がより好ましい。また、誘電正接の変化量が少ないものが求められ、40GHz/10GHzの比が2.0以下のものが好ましく、1.6以下がより好ましい。特に、5G等の高速通信等で用いられる基板に用いられるガラスクロスとしては、誘電正接が低いものが求められる。
【0036】
本発明の付着ガラスクロスの単位面積あたりの質量は、4~300g/m2が好ましく、4~260g/m2がより好ましい。
【0037】
本発明の付着ガラスクロスは、低誘電正接が求められるようなプリント基板用プリプレグやプリント配線基板に好適に用いることができ、10GHz以上の高周波用多層プリント基板用として特に好適である。
【実施例0038】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0039】
実施例における誘電正接の測定及び誘電正接、シラノール基(Si-OH)含有量、シランカップリング剤の付着量の算出、軟化点及び加工性の評価は以下の方法で行った。
【0040】
[誘電正接の測定]
誘電率測定用SPDR(Split post dielectric resonators)誘電体共振器周波数10GHz,40GHzを用いて測定した。
なお、実施例、比較例の誘電正接は、付着ガラスクロスの誘電正接を示す。
【0041】
[シラノール基(Si-OH)含有量の測定]
ガラス繊維及びガラスクロスのシラノール含有量とは、以下の方法によって測定・計算した値を指すものとする。
ガラス繊維及びガラスクロスの赤外吸収スペクトルを、フーリエ変換赤外分光光度計(IRAffinity-1S)、拡散反射測定装置(DRS-8000A)を用いて、拡散反射法によってシラノール起因である3680cm-1付近のピークの透過率Tを測定した。得られた透過率の値を基に、下記に示すLambert-Beerの法則を適用し、吸光度Aを求めた。
吸光度A=-Log10T (T=3,680cm-1付近の透過率)
次いで、前記式により求めた吸光度から、下記式によりシラノールのモル濃度C(mol/L)を求めた。
C=A/εL
ε:モル吸光係数(シラノールのモル吸光係数ε=77.5dm3/mol・cm)
C:モル濃度(mol/L)
L:サンプルの厚さ(光路長)
得られた吸光度Aから上記式を用いてモル濃度Cを求めた。
得られたモル濃度Cを用いて下記式によってガラス繊維中のシラノールの含有量(ppm)を求めた。
シラノールの含有量(ppm)={(C×M(Si-OH))/(d×1000)}×106
ガラス繊維の比重d=2.2g/cm3
シラノールの分子量M(Si-OH)=45g/mol
【0042】
[シランカップリング剤の付着率測定]
付着ガラスクロスを、電気炉を用いて625℃4時間の条件で加熱し、加熱前後の質量変化を測定した。下記式に基づき、付着率(質量%)を算出した。
付着率(質量%)=(加熱前の付着ガラスクロスの質量-加熱後の付着ガラスクロスの質量)/加熱前の付着ガラスクロスの質量×100
【0043】
[軟化点の測定]
熱機械分析装置(TMA)を用いてガラス繊維を直径方向に引っ張り、軟化点を測定した。
【0044】
[加工性の評価]
付着ガラスクロスをエポキシ樹脂に含侵することでプリプレグを作製し、濡れ性(ムラ等)やドリル寿命の評価を行った。
濡れ性(ムラ等)に問題なく、ドリル寿命が100回以上:〇
濡れ性(ムラ等)が問題又はドリル寿命が100回未満:×
【0045】
[実施例1~3]
表1に示すSiO2質量%、軟化点の石英ガラス繊維を、高温で延伸しながら集束剤を塗布し、直径5.0μmの石英ガラスフィラメント200本からなる石英ガラスストランドを調製した。次に、得られた石英ガラスストランドに25mmあたり0.4回の撚りをかけ石英ガラスヤーンを調製した。
得られた石英ガラスヤーンをエアージェット織機にセットし、たて糸密度が54本/25mm、よこ糸密度が54本/25mmの平織の石英ガラスクロスを製織した。その後、ヒートクリーニングにより、集束剤を除去した後に0.1質量%の付着量となるようにシランカップリング剤(KBM-503)にて処理した。得られた処理石英ガラスクロスは厚さ45μm、クロス質量が42.5g/m2であった。評価結果を下記表に示す。
【0046】
[実施例4]
実施例1と同様にガラスクロスを調製し、0.2質量%の付着量となるようにシランカップリング剤(KBM-503)にて処理し、処理石英ガラスクロスを得た。
【0047】
[実施例5]
実施例1と同様にガラスクロスを調製し、0.05質量%の付着量となるようにシランカップリング剤(KBM-503)にて処理し、処理石英ガラスクロスを得た
【0048】
[比較例1]
軟化点が800℃であり、SiO2含有量が53質量%のEガラス繊維を用いる以外は、実施例1と同様に、ガラスクロスを調製し、0.1質量%の付着量となるようにシランカップリング剤(KBM-503)にて処理し、処理石英ガラスクロスを得た
【0049】
[比較例2]
SiO2含有量が99.9質量%で、Si-OHの量が1,000ppmよりも大きい石英ガラス繊維を用いる以外は、実施例1と同様に、ガラスクロスを調製し、0.1質量%の付着量となるようにシランカップリング剤(KBM-503)にて処理し、処理石英ガラスクロスを得た
【0050】
[比較例3]
SiO2含有量が99.9質量%で、Si-OHの量が1,000ppm未満の石英ガラス繊維を用いる以外は、実施例1と同様に、ガラスクロスを調製し、1.0質量%の付着量となるようにシランカップリング剤(KBM-503)にて処理し、処理石英ガラスクロスを得た。
【0051】
[比較例4]
実施例1と同様のSiO2含有量が99.9質量%で、Si-OHの量が1,000ppm未満の石英ガラスを用いてガラスクロスを調製した(シランカップリング剤未処理)。
【0052】
【0053】
【0054】
実施例1~5に示したように、本願発明のガラス繊維からなるガラスクロスは、10GHz~40GHzの誘電正接が0.002未満であり、40GHzと10GHzの比が2.0未満であった。
【0055】
比較例1に示すように、軟化点が800℃のガラス繊維を用いた場合は、10GHz~40GHzの誘電正接が0.002より大きかった。
【0056】
比較例2に示すように、軟化点が990℃、シラノール量が1,000ppmよりも大きいガラス繊維を用いた場合は、10GHzの誘電正接は0.002未満であったが、40GHzの誘電正接は0.002よりも大きかった。
【0057】
比較例3に示すように、軟化点が1,200℃、シラノール量が1,000ppm未満のガラス繊維を用いて、シラン処理剤の付着量が1.0質量%のものは、10GHzの誘電正接は0.002未満であったが、40GHzの誘電正接は0.002よりも大きかった。
【0058】
比較例4に示すように、軟化点が1,200℃、シラノール量が1,000ppm未満のガラス繊維を用いて、シラン処理剤の付着量が0%のものは加工性が悪かった。