(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023131572
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】電気炉の操業方法
(51)【国際特許分類】
C22B 7/00 20060101AFI20230914BHJP
C22B 5/02 20060101ALI20230914BHJP
H01M 10/54 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
C22B7/00 C
C22B5/02
H01M10/54
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022036415
(22)【出願日】2022-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】前場 和也
【テーマコード(参考)】
4K001
5H031
【Fターム(参考)】
4K001AA02
4K001AA07
4K001AA09
4K001AA19
4K001AA34
4K001BA22
4K001CA01
4K001CA02
4K001DA05
4K001GA16
4K001HA01
5H031BB02
5H031BB09
5H031KK03
(57)【要約】
【課題】電気炉を用いた、廃リチウムイオン電池を含む原料を熔解する操業において、安定して電力を印加し、安定して原料を熔解させることができる方法を提供する。
【解決手段】本発明は、廃リチウムイオン電池を含む原料から有価金属を回収するための、電極を備えた電気炉の操業方法であって、操業の開始において、電極を、電気炉内に装入した原料に含まれるメタルに接触する前にそのメタルが熔解できる速度で降下させ、原料をアーク加熱により処理する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃リチウムイオン電池を含む原料から有価金属を回収するための、電極を備えた電気炉の操業方法であって、
操業の開始において、前記電極を、前記電気炉内に装入した原料に含まれるメタルに接触する前に該メタルが熔解できる速度で降下させ、該原料をアーク加熱により処理する、
電気炉の操業方法。
【請求項2】
前記廃リチウムイオン電池を破砕して篩分し、篩上として得られる箔状物を準備し、
前記箔状物を追加原料として、前記電気炉内にさらに装入する、
請求項1に記載の電気炉の操業方法。
【請求項3】
前記電気炉は、三相交流式の電気炉である、
請求項1又は2に記載の電気炉の操業方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも廃リチウムイオン電池を含む原料を還元熔融して有価金属を含むメタルを回収する電気炉の操業方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば三相交流式の電極を備えた電気炉を用いて、廃リチウムイオン電池等の原料から有価金属を回収する操業においては、操業を開始する際に、電気炉内に原料を装入した後、その電気炉に備えられている黒鉛電極等の電極を降下させ、原料と電極との間でアークを発生させることにより、アーク加熱によって原料の熔解を始める。
【0003】
ところが、操業を開始する際の電極の降下を、電流値一定による自動制御で行うと、電極間の抵抗値がその時々で大きく異なることから、例えば、抵抗が大きいときには電極がその抵抗を下げるために降下し過ぎることがあり、このときの抵抗が小さくなった場合には過電流となり、電気供給が遮断されて通電が停止してしまう。
【0004】
このため、操業を開始するにあたり、安定して電力を印加し、安定して原料の熔解を始めることのできる技術が求められている。
【0005】
特許文献1には、炉内に挿設された主電極と炉底電極との間に直流電圧を印加し、その電極間に発生するプラズマアーク熱及びその電極間を流れる電流のジュール熱によって、焼却灰、飛灰、残渣等の廃棄物を熔融処理する廃棄物プラズマ熔融炉に関する技術が開示されている。具体的には、主電極と炉底電極との間の電圧、その電極間を流れる電流、主電極の挿設位置、被熔融物の供給状態、炉壁温度、冷却水温度、排ガス濃度、炉内温度、炉内圧力、冷却水流量、炉からの排ガス流量、排ガス濃度の少なくとも2つ以上の信号を取り込み、信号の変化状態の組み合わせにより炉内の熔融運転状態を把握し、炉制御装置により所定の運転制御を行う炉の運転制御方法が開示されている。
【0006】
しかしながら、引用文献1には、廃リチウムイオン電池を含む原料を熔解するに際して、安定して電力を印加し、安定して原料の熔解を行うようにすることについては開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、電気炉を用いた、廃リチウムイオン電池を含む原料を熔解する操業において、安定して電力を印加し、安定して原料を熔解させることができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者による鋭意検討の結果、操業の開始において、電気炉に設けられる電極を、装入した原料に含まれるメタルに接触する前にメタルが熔解できる速度で少しずつ降下させ、その原料に対してアーク加熱を行うようにすることで、上述した課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
(1)本発明の第1の発明は、廃リチウムイオン電池を含む原料から有価金属を回収するための、電極を備えた電気炉の操業方法であって、操業の開始において、前記電極を、前記電気炉内に装入した原料に含まれるメタルに接触する前に該メタルが熔解できる速度で降下させ、該原料をアーク加熱により処理する、電気炉の操業方法である。
【0011】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、前記廃リチウムイオン電池を破砕して篩分し、篩上として得られる箔状物を準備し、前記箔状物を追加原料として、前記電気炉内にさらに装入する、電気炉の操業方法である。
【0012】
(3)本発明の第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記電気炉は、三相交流式の電気炉である、電気炉の操業方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電気炉を用いた、廃リチウムイオン電池を含む原料を熔解する操業において、安定して電力を印加し、安定して原料を熔解させることができる方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において種々の変更が可能である。
【0015】
本実施の形態に係る方法は、三相交流式の電気炉等の電極を備えた電気炉を用いて、少なくとも廃リチウムイオン電池を含む原料に対して還元熔融処理を施し、その原料に含まれる有価金属を回収するための電気炉の操業方法である。
【0016】
この操業方法では、電気炉内に装入した廃リチウムイオン電池を含む原料を、電極に電圧を印加することで加熱して還元熔融し、その原料に含まれる有価金属から構成されるメタルと、不純物成分から構成されるスラグとからなる混合熔体を生成させる。生成した混合熔体は、比重差により、比重の小さなスラグが上層に、比重の大きなメタルが下層にそれぞれ分離する。そして、分離したスラグについては、電気炉を傾転することで、あるいはスラグホールからのタッピングにより排出して回収する。また、下層にある有価金属を含むメタルについては、電気炉の下部に設けられるメタルホールからタッピングにより排出して回収する。
【0017】
ここで、原料に含まれる廃リチウムイオン電池は、ニッケル(Ni)やコバルト(Co)を酸化物として含有するものである。したがって、電気炉において、廃リチウムイオン電池を含む原料を加熱して還元熔融処理の操業を行うことで、ニッケルやコバルト、銅(Cu)等の有価金属から構成されるメタル(合金)と、不純物成分により構成されるスラグとからなる熔体(熔融物)を生成することができる。
【0018】
原料に含まれる廃リチウムイオン電池は、電気炉に装入する前の前処理として、少なくとも破砕処理と、破砕処理により得られたものを篩分けする処理が行われ、これらの処理を経て、原料となる。このような前処理により、原料の廃リチウムイオン電池は、ある程度揃った形状になるものの、金属製錬において原料となる各種精鉱と比較すると、異なった様々な形状のものを多く含んでいる。
【0019】
そのため、電気炉内に廃リチウムイオン電池を含む原料を装入し、原料を熔解するために電流値一定の自動制御で黒鉛電極等の電極を降下していくと、熔融スラグが十分に形成されていないため、電極が未熔解の原料の中に潜ったところで、電流の流れるタイミングと電流が流れないタイミングが交差し、非常に大きな電流値のハンチングが生じて、電流上限値を超えてしまうことがある。これは、原料中に、不揃いの形状の金属(メタル)の箔等が含まれることによると考えられる。
【0020】
そこで、本実施の形態に係る方法では、電流値一定の制御で電極を降下させるのではなく、操業の開始において、その電極を、電気炉内に装入した原料に含まれるメタルに接触する前にそのメタルが熔解できる速度で降下させ、原料をアーク加熱により処理する。ここで、電極を「メタルに接触する前にそのメタルが熔解できる速度での降下させる」とは、当該電気炉で許容される電流値の範囲内での電流値のハンチングに留まっている状態で電極を降下させることをいう。
【0021】
すなわち、原料に含まれるメタル部分に対して、継続的にかつ安定してアーク加熱が生じるように、最低限の距離を維持しつつ少しずつ電極を降下させる。このときの電極の降下の操作は、電流値一定の自動制御ではなく、アーク加熱を行いながら手動により徐々に降下させることが好ましい。これにより、電流値のハンチングの振れ幅を効果的に抑えることができる。
【0022】
本実施の形態に係る方法では、このような電極の降下操作に基づき原料に対してアーク加熱を行うことにより、その原料から熔融メタルと熔融スラグとを少しずつ形成させ、上層の熔融スラグ層と下層の熔融メタル層とからなる熔融層を形成させる。そして、熔融スラグ層が形成すると、その熔融スラグ層は均一であって、ジュール加熱できる抵抗値を持つことから、熔融スラグ層に電極を浸けることが可能となる。したがって、上述したアーク加熱による操業から、電流値一定で電極の降下を自動制御させることのできるジュール加熱による操業に移行することができる。
【0023】
さらに、このような電気炉においては、前回の操業において排出されずに炉底に残存したメタル層が固化した固化メタル層が付着生成していることがある。このようなとき、次の操業の開始時に、電流値一定の自動制御で電極を降下していくと、電極を降下しすぎたときに固化メタル層を介して電流が流れ、有効に原料に対して電力を印加することができなくなることがある。この点においても、本実施の形態に係る方法によれば、操業開始から電力を安定して原料に印加することができ、好適である。
【0024】
また、本実施の形態に係る方法では、廃リチウムイオン電池を破砕して篩分し、篩上として得られる箔状物を準備しておき、最初に電気炉内に装入された原料に続き、その箔状物を追加の原料として電気炉内にさらに装入することが好ましい。
【0025】
廃リチウムイオン電池を破砕して得られる箔状物は、不揃いの形状を有し、銅(Cu)等の金属やカーボン粉が含まれるが、例えば、比較的融点の低いアルミニウム(Al)が含まれている。そのため、電気炉の操業を開始し、原料の熔解が始まって電極周りの温度が上昇してきたときに、その箔状物を追加原料として装入すると、アルミニウムを含む熔融物が容易に形成され、これが酸化してアルミナとなる等して、熔融スラグ層が安定的にかつ迅速に形成されるようになり、電流値のハンチングの振れ幅をより効果的に抑えることができる。
【0026】
なお、その箔状物に含まれる銅は、同様に比較的融点の低い金属であり、熔融物となった後、酸化されることなく、熔融メタル層を構成することとなる。
【0027】
また、操業を行う電気炉としては、特に限定されないが、例えば、黒鉛電極を備えた三相交流式の電気炉を例示できる。三相交流式電気炉としては、例えばサブマージドアーク炉がある。サブマージドアーク炉は、複数の電極が被加熱物中に埋没(サブマージ)しており、アーク放電による加熱と共にジュール熱(電気抵抗熱)を利用する。
【0028】
具体的には、サブマージドアーク炉では、電極先端と被加熱物との間にアーク放電が発生し、そのアークにより被加熱物(原料)が加熱される。またそれと同時に、被加熱物を介して電極~電極間(電極~被加熱物~電極間)に電流が流れ、ジュール熱によっても被加熱物(スラグ)が発熱する。サブマージドアーク炉では、スラグへの連続的な加熱が可能になり、スラグ下部に位置するメタルはスラグからの伝熱により加熱される。このように、サブマージドアーク炉では、少ない投入電力で効率的に加熱することができるという利点がある。
【実施例0029】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0030】
[実施例1]
廃リチウムイオン電池を含む原料に対して粉砕処理を施し、その後、篩分処理を行って、篩下の粉状の処理原料(粉状物)と、篩上の箔状の処理原料(箔状物)とを、混合しない状態で別々に準備した。
【0031】
熔融炉として三相交流式電気炉の一つであるサブマージドアーク炉を用いて、原料に対して還元熔融処理を行った。
【0032】
具体的には、先ず、予熱操業として、電気炉内に1時間あたり合計30kg(粉状の処理原料24kg、箔状の処理原料6kg)の装入速度で3時間に亘って原料を装入し(原料装入計90kg)、還元熔融処理に付した。原料装入においては、初めに、合計30kgの原料のうち6kgの箔状の処理原料と24kgの粉状の処理原料を装入し、この上にカーボン粉1kgを装入したあと、通電を開始した。湯溜まりの生成を確認した後、旋回式の炉蓋を閉じ、次に、箔状の処理原料と粉状の処理原料とを電極側方に設けられている装入口から装入した。これを3時間に亘って繰り返し行いながら還元熔融処理を施した。
【0033】
このとき、通電の開始に際しては、黒鉛電極を、電気炉内に装入した原料に含まれるメタルに接触する前にそのメタルが熔解できる速度で徐々に降下させ、原料をアーク加熱となるように処理した。このように、黒鉛電極を少しずつ降下させてアーク加熱としていることで、印加する電流値は電流上限値を超えることは無く、ハンチングは電流上限値に対しておよそ20%~80%の範囲に収まっていた。
【0034】
次に、箔状物6kgを含む30kgの原料を、電気炉の左右に設けられている原料装入用シュートから追加で装入した。これにより、ハンチングの程度は、電流上限値に対しておよそ30%~60%の範囲となり、ハンチングの程度はさらに収まっていた。その後、さらに30kgの原料を追加で装入し、これを熔解した。
【0035】
その後、熔融スラグ層が形成されたことを確認し、黒鉛電極をスラグ層に浸漬させ、アーク加熱による操業からジュール加熱による操業へ移行した。そして、そのままの状態で21時間の予熱操業を経て、定常操業に移行した。
【0036】
[比較例1]
電気炉内に装入した原料に対して、ジュール加熱となるように、その電気炉に設けられている黒鉛電極を降下させたこと以外は、実施例1と同様にして行った。
【0037】
その結果、原料に含まれる金属が熔解する前にその金属に接触するような状態で黒鉛電極を降下させたため、金属と接した際には大電流が流れ、金属から離れると電流値は急減するといったように、電流値のハンチングの振れ幅が大きく、電流上限値を超える電流で流れ、電気供給が遮断された。そのため、通電を停止せざるを得なくなった。