(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023131771
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】プラズマ処理方法及びプラズマ処理装置
(51)【国際特許分類】
H05H 1/00 20060101AFI20230914BHJP
H01L 21/3065 20060101ALI20230914BHJP
C23C 16/505 20060101ALI20230914BHJP
H05H 1/46 20060101ALN20230914BHJP
【FI】
H05H1/00 A
H01L21/302 103
C23C16/505
H05H1/46 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022036720
(22)【出願日】2022-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】土居 謙太
(72)【発明者】
【氏名】中村 敏幸
【テーマコード(参考)】
2G084
4K030
5F004
【Fターム(参考)】
2G084AA02
2G084AA04
2G084AA05
2G084CC13
2G084CC33
2G084DD03
2G084DD13
2G084DD38
2G084DD53
2G084DD55
2G084HH02
2G084HH29
2G084HH32
2G084HH34
2G084HH42
2G084HH45
2G084HH56
4K030FA01
4K030HA11
4K030JA11
4K030JA18
4K030KA30
4K030KA39
5F004BA20
5F004CA03
5F004CA06
5F004CB07
5F004CB20
(57)【要約】
【課題】プラズマが生成されるタイミングに対して、バイアス電極に向けた高周波電力を好適なタイミングで出力可能としたプラズマ処理方法及びプラズマ処理装置を提供する。
【解決手段】パルス生成部40から繰り返し出力される第1パルスに基づいて、アンテナ用電源23がICPアンテナ21に第1高周波電力を間欠的に出力することでプラズマPを生成し、今回の第1パルスによるプラズマPの生成が開始されたことを検知部50によって検知し、今回の第1パルスの立ち上りから検知部50がプラズマPの生成開始を検知するまでの遅延期間を算出し、遅延期間を算出した後に出力される第1パルスの立ち上りから起算して遅延期間が経過した時点を基準として、パルス生成部40から繰り返し出力される第2パルスに基づいて、バイアス用電源33がバイアス電極31に第2高周波電力を出力する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物をプラズマによって処理するプラズマ処理方法であって、
パルス生成部が第1パルスを第1高周波電源に繰り返し出力することと、
前記第1高周波電源が、前記第1パルスに基づいて第1電極に第1高周波電力を間欠的に出力することで前記プラズマを生成することと、
今回の前記第1パルスによる前記プラズマの生成が開始されたことを検知部によって検知することと、
前記今回の前記第1パルスの立ち上りから前記検知部が前記プラズマの生成開始を検知するまでの期間である遅延期間を算出することと、
前記遅延期間を算出した後に出力される前記第1パルスの立ち上りから起算して前記遅延期間が経過した時点を基準として、前記パルス生成部が第2パルスを第2高周波電源に繰り返し出力することと、
前記第2高周波電源が、前記第2パルスに基づいて第2電極に第2高周波電力を出力することで、前記プラズマから前記対象物にイオンを引き込むことと、を含む
プラズマ処理方法。
【請求項2】
前記検知部は、フォトダイオードによって、前記プラズマの発光開始を前記プラズマの生成開始として検知する
請求項1に記載のプラズマ処理方法。
【請求項3】
前記検知部は、前記第1高周波電力の出力に伴って生じる反射電力が、前記プラズマの生成に伴って減少したことに基づいて、前記プラズマが生成されはじめたことを検知する
請求項1に記載のプラズマ処理方法。
【請求項4】
前記今回の前記第1パルスは、前記第1パルスの出力が開始されてから前記プラズマの生成が安定するための所定の安定化期間が経過した後の前記第1パルスである
請求項1ないし3のうち何れか一項に記載のプラズマ処理方法。
【請求項5】
前記対象物が変わるごとに、前記遅延期間を算出する
請求項1ないし4のうち何れか一項に記載のプラズマ処理方法。
【請求項6】
対象物をプラズマによって処理するためのプラズマ処理装置であって、
前記プラズマを生成するための第1高周波電力を第1電極に出力する第1高周波電源と、
前記プラズマから前記対象物にイオンを引き込むための第2高周波電力を第2電極に出力する第2高周波電源と、
前記第1高周波電源に前記第1高周波電力を間欠的に出力させる第1パルスの出力を繰り返すとともに、前記第2高周波電源に前記第2高周波電力を間欠的に出力させる第2パルスの出力を繰り返すパルス生成部と、
前記プラズマの生成が開始されたことを検知する検知部と、を備え、
前記パルス生成部は、
今回の前記第1パルスの立ち上がりから前記検知部が前記今回の前記第1パルスによる前記プラズマの生成開始を検知するまでの期間である遅延期間を算出する演算部を備え、
前記遅延期間を算出した後に出力される前記第1パルスの立ち上りから起算して前記遅延期間が経過した時点を基準として、前記第2パルスを出力する
プラズマ処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ処理方法及びプラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマ処理装置の一例であるエッチング装置は、プラズマを生成するための第1電極と、プラズマから処理対象物にイオンを引き込むための第2電極とを備える。さらに、エッチング装置は、第1電極に高周波電力を出力する第1高周波電源と、第2電極に高周波電力を出力する第2高周波電源と、第1高周波電源及び第2高周波電源の出力タイミングを制御するパルス生成部とを備える。第1高周波電源は、パルス生成部から出力される第1パルスに基づいて第1電極に高周波電力を間欠的に出力する。これにより、プラズマが間欠的に生成される。第2高周波電源は、パルス生成部から出力される第2パルスに基づいて第2電極に高周波電力を間欠的に出力する。これにより、プラズマから処理対象物にイオンを引き込む。パルス生成部は、第1高周波電源が電力を出力するタイミングを第1パルスによって制御するとともに、第2高周波電源が電力を出力するタイミングを第2パルスによって制御する(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
第2高周波電源が第2電極に高周波電力を出力するタイミングは、プラズマからイオンを好適に引き込むために、プラズマが生成されるタイミングに対して適切に設定されることが好ましい。一方、パルス生成部から第1パルスが出力されてからプラズマが生成されるまでの時間は、ガス種やガス圧、高周波電力の大きさなどの各種の処理条件によって変わる。また、第1パルスが出力されてからプラズマが生成されるまでの時間は、設定された処理条件が仮に同じであっても、プラズマが生成されるチャンバ内の雰囲気のわずかな差異によっても変わる。そのため、第2高周波電源による第2電極への電力の出力は、プラズマが生成されるタイミングに対して意図したタイミングからずれる場合がある。なお、このような実情は、エッチング装置に限らず、第1高周波電源を間欠的に出力し、かつ第2高周波電源を間欠的に出力するスパッタ装置やCVD装置等の他のプラズマ処理装置にも共通する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するためのプラズマ処理方法は、対象物をプラズマによって処理するプラズマ処理方法であって、パルス生成部が第1パルスを第1高周波電源に繰り返し出力することと、前記第1高周波電源が、前記第1パルスに基づいて第1電極に第1高周波電力を間欠的に出力することで前記プラズマを生成することと、今回の前記第1パルスによる前記プラズマの生成が開始されたことを検知部によって検知することと、前記今回の前記第1パルスの立ち上りから前記検知部が前記プラズマの生成開始を検知するまでの期間である遅延期間を算出することと、前記遅延期間を算出した後に出力される前記第1パルスの立ち上りから起算して前記遅延期間が経過した時点を基準として、前記パルス生成部が第2パルスを第2高周波電源に繰り返し出力することと、前記第2高周波電源が、前記第2パルスに基づいて第2電極に第2高周波電力を出力することで、前記プラズマから前記対象物にイオンを引き込むことと、を含む。
【0006】
上記方法によれば、第1パルスが出力されてからプラズマが生成されはじめるまでに、プラズマの処理条件、処理環境に依存するような遅延があったとしても、プラズマが生成されはじめるタイミングに基づいて第2高周波電力を出力できる。
【0007】
上記プラズマ処理方法において、前記検知部は、フォトダイオードによって、前記プラズマの発光開始を前記プラズマの生成開始として検知してもよい。上記方法によれば、フォトダイオードによって、プラズマが生成されはじめたことを好適に検知できる。
【0008】
上記プラズマ処理方法において、前記検知部は、前記第1高周波電力の出力に伴って生じる反射電力が、前記プラズマの生成に伴って減少したことに基づいて、前記プラズマが生成されはじめたことを検知してもよい。上記方法によれば、プラズマの生成に伴って反射電力が減少するタイミングに基づいて、プラズマが生成されはじめたことを好適に検知できるとともに、プラズマの生成開始のタイミングに基づいて第2高周波電力を出力できる。
【0009】
上記プラズマ処理方法において、前記今回の前記第1パルスは、前記第1パルスの出力が開始されてから前記プラズマの生成が安定するための所定の安定化期間が経過した後の前記第1パルスであることが好ましい。上記方法によれば、第1パルスに基づくプラズマの生成が安定した状態での遅延期間を算出することで、安定した状態での遅延期間をより正確に算出できる。ひいては、遅延期間の採用によって得られる効果の再現性が高まる。
【0010】
上記プラズマ処理方法において、前記対象物が変わるごとに、前記遅延期間を算出することが好ましい。上記方法によれば、対象物の交換に伴って処理環境が変化した場合でも、第1パルスの立ち上がりから起算して遅延期間が経過した時点と、プラズマが生成される時点との差が対象物ごとにばらつくことを抑制できる。
【0011】
上記課題を解決するためのプラズマ処理装置は、対象物をプラズマによって処理するためのプラズマ処理装置であって、前記プラズマを生成するための第1高周波電力を第1電極に出力する第1高周波電源と、前記プラズマから前記対象物にイオンを引き込むための第2高周波電力を第2電極に出力する第2高周波電源と、前記第1高周波電源に前記第1高周波電力を間欠的に出力させる第1パルスの出力を繰り返すとともに、前記第2高周波電源に前記第2高周波電力を間欠的に出力させる第2パルスの出力を繰り返すパルス生成部と、前記プラズマの生成が開始されたことを検知する検知部と、を備え、前記パルス生成部は、今回の前記第1パルスの立ち上がりから前記検知部が前記今回の前記第1パルスによる前記プラズマの生成開始を検知するまでの期間である遅延期間を算出する演算部を備え、前記遅延期間を算出した後に出力される前記第1パルスの立ち上りから起算して前記遅延期間が経過した時点を基準として、前記第2パルスを出力する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1実施形態におけるエッチング装置の装置構成を示す模式図である。
【
図2】第1実施形態におけるパルス生成部の構成を示すブロック図である。
【
図3】第1実施形態におけるプラズマ処理を開始する際の手順を示すフローチャートである。
【
図4】第1実施形態における第1パルスと第1高周波電力とプラズマ密度との対応関係を示す図である。
【
図5】第1実施形態における第1パルスとプラズマ密度と第2パルスと第2高周波電力との対応関係を示す図である。
【
図6】第2実施形態におけるエッチング装置の装置構成を示す模式図である。
【
図7】第2実施形態における第1パルスと第1高周波電力とプラズマ密度と反射電力との対応関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[第1実施形態]
以下、プラズマ処理方法及びプラズマ処理装置の第1実施形態について
図1~
図5を参照して説明する。
【0014】
[エッチング装置]
図1に示すように、プラズマ処理装置の一例であるエッチング装置10は、有底筒体形状を有したチャンバ本体11と、チャンバ本体11の上側開口を封止する誘電窓12とを備える。チャンバ本体11及び誘電窓12は、チャンバ空間11Sを区画する。チャンバ空間11Sには、ステージ13が収納される。ステージ13は、プラズマ処理によってエッチングされる対象物の一例である基板Sを保持する。
【0015】
チャンバ本体11は、アルミ等の金属構造体である。誘電窓12は、石英からなる基材と、アルミナなどのセラミック溶射膜からなる被覆部とを備える。被覆部は、基材におけるチャンバ空間11S側の表面を被覆する。
【0016】
チャンバ本体11は、排気ポート11P1とガス供給ポート11P2とを備える。排気ポート11P1には、チャンバ空間11Sから流体を排気する排気部14が接続されている。排気部14は、例えば、チャンバ空間11Sの圧力を調整する圧力調整弁や各種のポンプから構成される。ガス供給ポート11P2には、チャンバ空間11Sにエッチングガスを流すガス供給部15が接続される。ガス供給部15は、例えば、エッチングガスを供給するマスフローコントローラである。エッチングガスは、例えば、フッ素含有ガス、塩素含有ガス、ホウ素含有ガス等のハロゲンガスである。
【0017】
誘電窓12に対してチャンバ空間11Sとは反対側には、第1電極の一例であるICPアンテナ21が配置される。ICPアンテナ21は、例えば、基板Sの周方向に2回半巻き回された渦巻き形状を各段に有する2段のコイルから構成される。ICPアンテナ21は、渦巻き形状における外側の端部である入力端21Iと、渦巻き形状における中心側の端部である出力端21Oとを備える。
【0018】
ICPアンテナ21の入力端21Iには、アンテナ用整合器22を介して、アンテナ用電源23が接続される。アンテナ用電源23は、第1高周波電源の一例である。アンテナ用電源23は、第1高周波電力を出力する。第1高周波電力は、例えば、13.56MHzである。
【0019】
アンテナ用整合器22は、マッチング回路の一例である。アンテナ用整合器22は、アンテナ用電源23の出力インピーダンスと、第1高周波電力が入力される負荷の入力インピーダンスとを整合させることで、負荷による反射電力を抑える機能を有する。アンテナ用整合器22は、一例として、可変容量キャパシタと固定容量キャパシタとを備える。
【0020】
ICPアンテナ21の出力端21Oは、コンデンサ24を介して接地端に接続される。コンデンサ24は、ICPアンテナ21の出力端21Oが接地電位に接続された構成と比べて、出力端21Oにおける電位の振幅を増大させる機能を有する。コンデンサ24は、ICPアンテナ21の高周波電圧によって、チャンバ空間11S内のプラズマPがICPアンテナ21と容量性結合することで発生するプラズマ密度の不均一性を最小にするように、ICPアンテナ21にかかる電圧分布を調整する。コンデンサ24が取り得る容量値は、例えば、10pF以上1000pF以下である。
【0021】
誘電窓12の外周には、チャンバ空間11Sに磁気中性線を形成する磁場コイル25が配置される。磁場コイル25は、上段コイル25A、中段コイル25B、及び下段コイル25Cを備える。
【0022】
磁場コイル25を構成する3つのコイルの各々には、磁気中性線を形成するための電流を供給する電流源26が別々に接続される。上段コイル25Aには、上段電流源26Aが接続される。中段コイル25Bには、中段電流源26Bが接続される。下段コイル25Cには、下段電流源26Cが接続される。上段電流源26Aと下段電流源26Cとは、相互に同じ向きの電流を、それぞれの供給先である上段コイル25A及び下段コイル25Cに出力する。中段電流源26Bは、それ以外の他の電流源とは逆向きの電流を中段コイル25Bに出力する。各電流源26A,26B,26Cにおいては、チャンバ空間11Sに磁気中性線が形成されるように、各電流の流れる方向と各電流の大きさとが設定される。
【0023】
ステージ13には、バイアス電極31が内蔵される。バイアス電極31は、第2電極の一例である。バイアス電極31は、バイアス用整合器32を介してバイアス用電源33に接続される。バイアス用電源33は、第2高周波電源の一例である。バイアス用電源33は、第2高周波電力を出力する。第2高周波電力は、例えば、12.5MHz、2MHzまたは400kHzである。バイアス用整合器32は、バイアス用電源33の出力インピーダンスと、第2高周波電力が入力される負荷の入力インピーダンスとを整合させることで、負荷による反射電力を抑える機能を有する。
【0024】
チャンバ空間11Sにエッチングガスが供給された状態でICPアンテナ21に第1高周波電力を供給することで、チャンバ空間11SにはプラズマPが生成される。プラズマPは、一例として、誘導結合プラズマである。チャンバ空間11SにプラズマPが生成された状態でバイアス電極31に第2高周波電力を供給することで、プラズマPから基板Sにイオンを引き込む。
【0025】
エッチング装置10は、パルス生成部40と、受光素子50とを備える。パルス生成部40は、アンテナ用電源23とバイアス用電源33との各々にパルス信号を出力することで、アンテナ用電源23とバイアス用電源33とを制御する。受光素子50は、チャンバ空間11S内でプラズマPが生成されはじめたことをプラズマPの発光によって検知してパルス生成部40に通知する検知部の一例である。受光素子50は、一例として、プラズマPが生成されはじめたときに、プラズマPの発光開始に従って電気信号を出力するフォトダイオードである。
【0026】
エッチング装置10は、一例として、以下のエッチング条件を用いてプラズマPの生成を行う。なお、エッチング条件は、以下の条件に限定されるものではない。
[エッチング条件]
・基板 :サファイア基板
・第1高周波電力 :2100W
・第1高周波電力の周波数:13.56MHz
・第2高周波電力 :1000W
・第2高周波電力の周波数:12.5MHz
・エッチングガス :BCl
3
・エッチングガス流量 :150sccm
[パルス生成部]
図2に示すように、パルス生成部40は、制御部41と、記憶部42と、第1生成部43と、第2生成部44と、受信部45とを備える。制御部41は、パルス生成部40の各部の駆動を制御する。制御部41は、一例としてCPUである。記憶部42は、制御部41がパルス生成部40の各部を制御するためのプログラム及び処理条件を記憶する。
【0027】
第1生成部43は、アンテナ用電源23を制御するための第1パルスを出力する。アンテナ用電源23は、第1パルスに基づいて第1高周波電力を出力する。第2生成部44は、バイアス用電源33を制御するための第2パルスを出力する。バイアス用電源33は、第2パルスに基づいて第2高周波電力を出力する。第2生成部44は、第1生成部43が第1パルスを出力してから所定の期間が経過した後に、第2パルスを出力する。
【0028】
受信部45は、受光素子50がチャンバ空間11S内でプラズマPが生成されはじめたことを検知したときに、受光素子50から出力される電気信号を受信する。制御部41が備える演算部41Aは、今回の第1パルスの立ち上がりから起算して、受光素子50が今回の第1パルスによるプラズマPの生成開始を検知するまでに要した時間である遅延期間T
D(
図4参照)を算出する。
【0029】
[プラズマ処理開始手順]
図3に示すように、プラズマ処理を開始する手順は、ステップS1~S6の手順を含む。ステップS1において、制御部41は、第1パルスの出力を開始する処理を第1生成部43に実行させる。ステップS2において、アンテナ用電源23は、第1生成部43から出力された第1パルスの立ち上がりに基づいて第1高周波電力の出力を開始する。第1高周波電力が出力されると、チャンバ空間11S内にプラズマPが発生する。ステップS3において、受光素子50は、プラズマPの生成開始を検知したことを示す信号をパルス生成部40の受信部45に送信する。
【0030】
ここで、
図4を参照して、ステップS1~S3における第1パルスと、第1高周波電力と、プラズマ密度との対応関係を説明する。
図4に示すグラフ100中の曲線101は、第1パルスを表す。第1パルスは、所定の第1周波数を有する矩形波である。第1周波数は、例えば、10Hz以上50kHz以下である。第1パルスは、所定の第1周期T
C1を1周期として、パルス信号がオンの状態の第1オン期間T
ON1と、パルス信号がオフの状態の第1オフ期間T
OFF1とが、所定の間隔で繰り返される。第1パルスは、時刻T0に立ち上がり、これによって第1オン期間T
ON1が開始される。その後、第1パルスは、時刻T1に立ち下がり、これによって第1オン期間T
ON1から第1オフ期間T
OFF1に切り替わる。そして、第1パルスは、時刻T2に再び第1オン期間T
ON1を開始する。すなわち、時刻T0から時刻T2までの期間が第1周期T
C1に相当する。また、第1周期T
C1に対する第1オン期間T
ON1の割合である第1デューティー比は、一例として、10%以上90%以下である。
【0031】
グラフ100中の曲線102は、第1高周波電力が出力されるタイミングを模式的に表す。アンテナ用電源23は、第1パルスの第1オン期間TON1と対応する時間の間、第1高周波電力を出力する。第1高周波電力は、第1パルスが出力される時刻T0から、第1出力遅延期間TD1の分だけ遅れた時刻T3に出力が開始される。第1出力遅延期間TD1は、アンテナ用電源23の制御時定数による遅延である。第1出力遅延期間TD1は、アンテナ用電源23毎に固有である。
【0032】
グラフ100中の曲線103は、プラズマ密度の大きさを表す。プラズマPは、第1高周波電力が出力される時刻T3から、プラズマ生成開始遅延期間TD2の分だけ遅れた時刻T4に生成されはじめる。プラズマ生成開始遅延期間TD2は、第1高周波電力が出力されてから、プラズマPが生成されはじめるまでに要する時間である。プラズマPは、第1パルスが出力される時刻T0から起算して、第1出力遅延期間TD1とプラズマ生成開始遅延期間TD2との合計である遅延期間TDが経過したタイミングに生成されはじめる。プラズマPは、第1周波数と対応する間隔で間欠的に生成される。
【0033】
プラズマ生成開始遅延期間TD2は、ガス種やガス圧、電力などの処理条件によって変わる。また、プラズマ生成開始遅延期間TD2は、設定された処理条件が仮に同じでも、プラズマPが生成されるチャンバ内の雰囲気のわずかな差異によっても変わる。なお、処理条件によっては、プラズマ生成開始遅延期間TD2がほとんど確認されない場合もある。
【0034】
図3に戻り、ステップS4において、演算部41Aは、受信部45が受信した受光素子50からの信号に基づいて、第1パルスが立ち上がった時刻T0から起算して、受光素子50がプラズマPの生成開始を検知するまでに要した遅延期間T
Dを算出する。演算部41Aが算出した遅延期間T
Dは、第1パルスが立ち上がった時刻T0から起算して、プラズマPが生成されはじめた時刻T4までの期間と一致する。演算部41Aが算出した遅延期間T
Dは、記憶部42に記憶される。
【0035】
なお、ステップS4の遅延期間TDを算出する処理は、ステップS1で第1パルスの出力が開始されてから起算してプラズマPの生成が安定するための所定の安定化期間が経過した後に受光素子50が検知した結果に基づいて行うことが好ましい。安定化期間は、一例として、1秒以上5秒以下である。プラズマPの生成が安定した状態での遅延期間TDを算出することで、第1パルスの立ち上がりから起算して遅延期間TDが経過した時点と、プラズマPが生成されはじめる時点との差を小さくすることができる。
【0036】
遅延期間TDは、第1パルスの立ち上がりからプラズマPの生成開始までに要した時間を一度だけ算出することで得られてもよい。遅延期間TDは、第1パルスの立ち上がりからプラズマPの生成開始までに要した時間を複数回算出した結果の平均値を求めることで得られてもよい。
【0037】
ステップS4で遅延期間TDが算出された後、ステップS5において、制御部41は、第2パルスの出力を開始する処理を第2生成部44に実行させる。第2パルスは、第1パルスの立ち上がりから起算して遅延期間TDが経過した時点を基準として、任意のタイミングで立ち上がるように出力される。ステップS6において、バイアス用電源33は、第2生成部44から出力された第2パルスに基づいて第2高周波電力の出力を開始する。以上の手順によって、プラズマ処理が開始される。
【0038】
ここで、
図5を参照して、ステップS5以降における第1パルスと、プラズマ密度と、第2パルスと、第2高周波電力との対応関係を説明する。
図5に示すグラフ200中の曲線201は、第1パルスを表す。曲線202は、プラズマ密度の大きさを表す。ステップS5以降において、第1パルスは、時刻T5でパルス波が立ち上がって第1オン期間T
ON1が開始される。また、プラズマPは、時刻T5から遅延期間T
Dの分だけ遅れた時刻T6に生成されはじめる。なお、曲線201の形状は、
図4に示す曲線101の形状とほぼ同じである。曲線202の形状は、
図4に示す曲線102の形状とほぼ同じである。また、時刻T5は、ステップS4で遅延期間T
Dが算出された後の時刻である。
【0039】
グラフ200中の曲線203は、第2パルスを表す。第2パルスは、所定の第2周波数を有する矩形波である。第2周波数は、第1周波数と同じか、もしくは、第1周波数を2以上の自然数で割った値である。換言すると、第1周波数は、第2周波数に対して自然数を乗した値である。なお、
図5では、第2周波数が第1周波数と等しい場合を図示している。第2パルスは、所定の第2周期T
C2を1周期として、パルス信号がオンの状態の第2オン期間T
ON2と、パルス信号がオフの状態の第2オフ期間T
OFF2とが、所定の間隔で繰り返される。第1周波数と第2周波数とが等しい場合、第2周期T
C2に対する第2オン期間T
ON2の割合である第2デューティー比は、一例として、第1デューティー比と同じか、もしくは第1デューティー比よりも小さい。第2デューティー比は、一例として、例えば10%以上90%以下である。なお、第2周波数が第1周波数よりも小さい場合、第2デューティー比は、第1デューティー比よりも小さくなる。
【0040】
第2パルスは、時刻T7でパルス波が立ち上がって第2オン期間T
ON2が開始された後、時刻T8でパルス波が立ち下がって第2オン期間T
ON2から第2オフ期間T
OFF2に切り替わる。時刻T7は、第1パルスが立ち上がった時刻T5から起算して遅延期間T
Dが経過した時点を基準として設定される。時刻T5から起算して遅延期間T
Dが経過した時点は、プラズマPが生成されはじめるタイミングである時刻T6とほぼ一致する。なお、
図5では、時刻T7が時刻T6とほぼ同時である場合を図示しているが、時刻T7を時刻T6に対して第2周期T
C2を超えない範囲で所定の期間遅らせた時刻としてもよい。
【0041】
グラフ200中の曲線204は、第2高周波電力が出力されるタイミングを模式的に表す。バイアス用電源33は、第2パルスの第2オン期間TON2と対応する時間の間、第2高周波電力を出力する。第2高周波電力は、第2パルスが出力される時刻T7から、第2出力遅延期間TD3の分だけ遅れた時刻T9に出力が開始される。第2出力遅延期間TD3は、バイアス用電源33の制御時定数による遅延である。第2出力遅延期間TD3は、バイアス用電源33毎に固有である。以上の手順によって、プラズマPが生成されはじめるタイミングに基づいて第2高周波電力が出力される。
【0042】
なお、時刻T7を時刻T6に対して所定の期間遅らせた時刻とする場合、第2出力遅延期間TD3がバイアス用電源33毎に固有であるから、第2出力遅延期間TD3を考慮したうえで時刻T7を設定すればよい。
【0043】
ステップS1~S4における遅延期間TDの算出は、ガス種、ガス圧、電力などの処理条件や長時間の使用に伴う処理環境の変化によってプラズマ生成開始遅延期間TD2が大きく変化する度に行われることが好ましい。例えば、処理対象物である基板Sの処理を開始する際に遅延期間TDを算出してプラズマ処理を行った後、別の基板Sの処理を開始する際に再度遅延期間TDを算出してプラズマ処理を行うことが好ましい。この場合、長時間の使用や基板Sの交換に伴って処理環境が変化しても、第1パルスの立ち上がりから起算して遅延期間TDが経過した時点と、プラズマPが生成されはじめる時点との差に生じ得るばらつきを小さくすることができる。
【0044】
[第1実施形態の効果]
上記第1実施形態によれば以下に列挙する効果を得ることができる。
(1-1)第1パルスが出力されてからプラズマPが生成開始するまでに、プラズマPの処理条件、処理環境に依存するような遅延があったとしても、プラズマPが生成開始するタイミングに基づいて第2高周波電力を出力できる。
【0045】
(1-2)検知部として、フォトダイオードのような受光素子50を用いることで、プラズマPが生成されはじめたことを、光電効果によって好適に検知できる。これにより、プラズマPの生成開始に対する応答性を高めることで、遅延期間TDをより正確に算出できる。
【0046】
(1-3)第1パルスの出力が開始されてから安定化期間が経過した後に遅延期間TDを算出することで、遅延期間TDをより正確に算出できる。ひいては、遅延期間TDの採用によって得られる効果の再現性が高まる。
【0047】
(1-4)基板Sが変わるごとに遅延期間TDを算出することで、基板Sの交換に伴って処理環境が変化した場合でも、第1パルスの立ち上がりから起算して遅延期間TDが経過した時点と、プラズマPが生成開始する時点との差を小さくすることができる。
【0048】
[第1実施形態の変更例]
なお、上記第1実施形態は、以下のように適宜変更して実施することもできる。
・受光素子50は、プラズマPの生成開始を検知可能な構成であれば、フォトダイオードに限定されず、例えば、フォトトランジスタであってもよい。また、受光素子50として、プラズマPの発光に伴って電気抵抗が変化するフォトレジスタを用いてもよい。また、検知部として、受光素子50に代えて、プラズマPの発光に伴って発生する熱を検知する機構を用いてもよい。
【0049】
[第2実施形態]
以下、プラズマ処理方法及びプラズマ処理装置の第2実施形態について
図6~
図7を参照して説明する。
【0050】
図6に示すように、プラズマ処理装置の一例であるエッチング装置60は、受光素子50を備えず、代わりに、アンテナ用整合器22とアンテナ用電源23との間に方向性結合器70を備える。方向性結合器70は、アンテナ用電源23からの第1高周波電力の出力に伴って生じる反射電力の大きさを検出する。
【0051】
また、第2実施形態では、アンテナ用整合器22は、一例として、固定容量キャパシタを備える。第2実施形態では、プラズマPが生成されはじめたことによって反射電力が小さくなるように、アンテナ用整合器22のマッチングポイントが予め設定される。
【0052】
方向性結合器70は、プラズマPが生成されはじめたことを検知するための検知部の一例である。方向性結合器70は、プラズマPが生成されはじめると、反射電力の減少を検知し、そして反射電力の減少を示す電気信号を受信部45に送信する。すなわち、第2実施形態では、第1高周波電力の出力に伴って生じる反射電力が、プラズマPの生成開始に伴って減少したことに基づいて、プラズマPが生成されはじめたことを検知する。
【0053】
ここで、
図7を参照して、ステップS1~S3における第1パルスと、第1高周波電力と、プラズマ密度と、反射電力との対応関係を説明する。
図7に示すグラフ300中の曲線301は、第1パルスを表す。曲線301の形状は、
図4に示す曲線101の形状と同一である。第1パルスは、時刻T0に立ち上がり、これによって第1オン期間T
ON1が開始される。その後、第1パルスは、時刻T1に立ち下がり、これにより第1オン期間T
ON1から第1オフ期間T
OFF1に切り替わる。そして、第1パルスは、時刻T2で再び立ち上がり、これによって第1オン期間T
ON1が再び開始される。
【0054】
曲線302は、第1高周波電力が出力されるタイミングを模式的に表す。曲線302の形状は、
図4に示す曲線102の形状と同一である。第1高周波電力は、第1パルスが出力される時刻T0から、第1出力遅延期間T
D1の分だけ遅れた時刻T3に出力が開始される。
【0055】
曲線303は、プラズマ密度の大きさを表す。曲線303の形状は、
図4に示す曲線103の形状と同一である。プラズマPは、第1高周波電力が出力される時刻T3から、プラズマ生成開始遅延期間T
D2の分だけ遅れた時刻T4に生成されはじめる。プラズマPは、第1パルスが出力される時刻T0から起算して、遅延期間T
Dが経過したタイミングに生成されはじめる。
【0056】
グラフ300中の曲線304は、方向性結合器70において検出される反射電力の大きさを表す。時刻T3で第1高周波電力が出力されると、プラズマPが生成されはじめるまでの間、アンテナ用電源23の出力インピーダンスと、第1高周波電力が入力される負荷の入力インピーダンスとが異なるために反射電力が生じる。そして、時刻T4において、プラズマPが生成されはじめると、負荷の入力インピーダンスがアンテナ用電源23の出力インピーダンスに近づくことで、反射電力が減少する。そのため、プラズマPが生成されはじめる時刻T4と、反射電力が減少するタイミングとが一致する。したがって、方向性結合器70が反射電力の減少を検知したことに基づいて、プラズマPが生成されはじめたことを検知できる。
【0057】
[第2実施形態の効果]
上記第2実施形態によれば以下に列挙する効果を得ることができる。
(2-1)プラズマPの生成開始に伴って反射電力が減少するタイミングを検知することによっても、上記(1-1)、(1-3)、(1-4)、に準じた効果を得ることができる。
【0058】
[第2実施形態の変更例]
・アンテナ用整合器22は、遅延期間TDを算出する際に、プラズマPが生成されはじめる時刻T4と、反射電力が減少するタイミングとが一致する構成であればその構成は限定されない。したがって、アンテナ用整合器22が備えるキャパシタは、少なくともステップS1~S4までの間において、容量が一定であればよい。例えば、アンテナ用整合器22が備えるキャパシタを、ステップS1~S4の間には容量が一定となるように制御し、かつ、ステップS5以降では容量が可変となるように制御してもよい。
【0059】
[第1実施形態及び第2実施形態の変更例]
なお、上記第1実施形態及び第2実施形態は、以下のように適宜変更して実施することもできる。
【0060】
・基板Sが交換されても遅延期間TDが大きく変化しないことが予備試験などによって担保されているのであれば、基板Sが変わるごとに遅延期間TDを算出しなくてもよい。この場合、1つの基板Sに対するプラズマ処理で算出された遅延期間TDが、他の基板Sに対するプラズマ処理にも用いられる。
【0061】
・遅延期間TDを精度よく算出できるのであれば、第1パルスの出力が開始されてから安定化期間が経過する前であっても、遅延期間TDの算出を開始してもよい。例えば、安定化期間が経過する前に算出された遅延期間TDが、安定化期間が経過した後に算出された遅延期間TDと大きく変化しないことを予備試験などによって確認すれば、安定化期間が経過する前に遅延期間TDを算出してもよい。
【0062】
・ICPアンテナ21を構成するコイルは、例えば、1段でもよいし、3段以上であってもよい。
・プラズマ処理装置は、エッチング装置10に限らず、例えば、成膜ガスから堆積物を生成する成膜装置、あるいは対象物の表面にプラズマPを照射する表面処理装置であってもよい。
【符号の説明】
【0063】
P…プラズマ
S…基板
10,60…エッチング装置
21…ICPアンテナ
22…アンテナ用整合器
23…アンテナ用電源
31…バイアス電極
32…バイアス用整合器
33…バイアス用電源
40…パルス生成部
41…制御部
41A…演算部
43…第1生成部
44…第2生成部
50…受光素子
70…方向性結合器