(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023131772
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】赤外吸収インキ印刷物
(51)【国際特許分類】
B41M 3/14 20060101AFI20230914BHJP
C09D 11/037 20140101ALI20230914BHJP
B42D 25/382 20140101ALI20230914BHJP
【FI】
B41M3/14
C09D11/037
B42D25/382
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022036721
(22)【出願日】2022-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】303017679
【氏名又は名称】独立行政法人 国立印刷局
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 直子
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 浩
【テーマコード(参考)】
2C005
2H113
4J039
【Fターム(参考)】
2C005HA04
2C005HB01
2C005HB02
2C005HB10
2C005JB12
2H113AA06
2H113BA01
2H113BA03
2H113BA05
2H113BA18
2H113BB02
2H113BB07
2H113BB08
2H113BB22
2H113BC09
2H113CA32
2H113CA39
2H113CA42
2H113DA04
2H113DA06
2H113DA15
2H113EA19
2H113FA43
2H113FA44
4J039AD21
4J039BE01
4J039BE27
4J039CA07
4J039EA06
4J039EA21
4J039EA29
4J039GA02
4J039GA13
(57)【要約】 (修正有)
【課題】赤外吸収インキを用いて基材に情報パターンを形成した印刷物であって、可視光下における情報パターンの存在が視認され難い印刷物を提供する。
【解決手段】本発明は、基材2に赤外吸収インキにより、情報パターン3が形成された印刷物1であって、赤外吸収インキは少なくともセシウム酸化タングステンと、基材と情報パターンの色相を等色とするための着色材料と、体質顔料を含み、基材に形成された情報パターンに、波長850nmを照射したときの赤外線反射率が40%より小さいとき、基材と基材に形成された情報パターンの色相差が3.9以下であり、赤外線反射率が40%以上であるとき、前記色相差が2.7以下である赤外吸収インキ印刷物。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の少なくとも一部に、赤外吸収特性を有する材料を含むインキにより、情報パターンが形成された赤外吸収インキ印刷物であって、
前記インキは、少なくとも前記赤外吸収特性を有する材料であるセシウム酸化タングステンと、前記基材と前記情報パターンの色相を等色とするための着色材料と、体質顔料を含み、
前記基材に形成された前記情報パターンに、波長850nmを照射したときの赤外線反射率が
i)40%より小さい、又は、
ii)40%以上であるとき、
前記基材と、前記基材に形成された前記情報パターンのCIE1976L*a*b*色空間におけるab平面上の距離として表される色相差が
前記i)のときに3.9以下である、又は、
前記ii)のときに2.7以下であることを特徴とする赤外吸収インキ印刷物。
【請求項2】
前記基材が白色基材の場合に、前記着色材料は前記セシウム酸化タングステンの色相と補色関係の色相であること特徴とする請求項1に記載の赤外吸収インキ印刷物。
【請求項3】
前記情報パターンが、前記インキとは赤外吸収特性が異なるインキで形成されたパターンにより囲まれて形成されて成ることを特徴とする請求項1又は2に記載の赤外吸収インキ印刷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線領域には吸収を有するが、可視領域には吸収のない赤外吸収インキを用いた印刷物に係り、特に、インキ単独で用いてもその存在が視認され難い印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
銀行券、パスポート、印紙、切手、有価証券、身分証明書、各種チケット、セキュリティラベル等をはじめとするセキュリティ印刷物は、高度な偽造防止技術や真偽判別技術を付与することが求められている。これらの偽造防止技術及び真偽判別技術としては、特定の波長領域に吸収特性を有するインキの塗膜を、目視又は機械により判別して、偽造品と真正品を見極める真偽判別方法等が広く用いられている。
【0003】
特定の波長領域に吸収特性を有するインキの塗膜を、目視又は機械により判別して偽造品と真正品を見極める真偽判別に係る技術としては、例えば、安価で入手しやすく、少量で赤外吸収効果の高い材料として、カーボンブラック等の黒色顔料を含んだ黒色インキを用いてセキュリティ印刷物に情報パターンを形成することが一般的に知られている。この情報パターンが保持している情報は、赤外光を照射し、赤外反射光を測定することにより読み取られる。
【0004】
しかしながら、カーボンブラックを用いた赤外線吸収インキにより印刷された情報パターンは、可視光下においても光吸収性を有することから、目視においてもその存在が判読されやすい。そのため、偽造や変造を有効に防止する手段としては十分ではなかった。
【0005】
セキュリティ印刷物は、情報パターンの存在が悟られ難いほど、その偽造及び変造が困難である。そこで、可視光により容易に情報が読み取られることを防止するため、カーボンブラック等を用いた赤外吸収インキによる情報パターン上に、赤外光を透過させる隠蔽層で覆うことで、可視光下では情報パターンが視認されないが、赤外吸収インキによる情報パターンは、赤外線領域にて判別できる技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
しかしながら、特許文献1のような技術では、赤外吸収インキによる情報パターンを隠蔽層で被覆しても、隠蔽層の塗膜が視認されるため、偽造や変造防止手段として、更なる対策が求められていた。また、隠蔽層を設けると、特定波長光を遮断するだけでなく、下層の情報パターンの読取に影響を与えるおそれもあった。
【0007】
このような技術的背景の中、隠蔽層を必要とせず、赤外吸収インキ単独で用いてもその存在が視認されにくい技術として、それ自体が可視光下における吸収が少なく、しかも、それ以外の波長領域において吸収するインキとして、特に、赤外線吸収材料として熱線吸収ガラスや赤外吸収ガラスを粉砕し、これを顔料化したものを含有したインキが知られている。この赤外吸収インキを用いて、基材上に情報パターンを形成することで、基材上の情報パターンを目視困難とすることができるものである。
【0008】
ところが、上記熱線吸収ガラスや赤外線吸収ガラス等の赤外線吸収材料をインキ化して印刷物に情報パターンを形成すると、可視光下における吸収は低減するものの、従来のカーボンブラック等を含むインキよりも赤外線領域における吸収が劣るため、赤外線領域における吸収性を向上させるために膜厚を厚くする必要がある。しかし、当該インキの膜厚を厚くすると、基材と情報パターンを形成した部位とで段差が生じてしまい、膜厚による段差で情報パターンの存在が簡単に分かってしまう。
【0009】
そこで、近年では、上記以外の赤外吸収インキとして、セシウム酸化タングステン(Cs0.33WO3)を含む赤外線吸収透明インキを用いた偽造防止印刷物が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平7-68982号公報
【特許文献2】特許第6160830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献2の技術によると、セシウム酸化タングステン(Cs0.33WO3)を含む赤外線吸収透明インキは、赤外線領域における吸収特性に優れるとともに透明性が高いものの、無色透明ではなく、若干の青みを呈している。そのため、当該インキを単独で用い、基材に情報パターンを形成した印刷物を可視光下で目視すると、薄い塗膜であっても当該インキにより形成された情報パターンが視認されてしまう。そして、当該インキにセシウム酸化タングステンを多く配合する場合、情報パターンが顕著に視認される。
【0012】
また、特許文献2の技術は、赤外吸収インキに近赤外線を透過する着色顔料を含むことができ、この着色した赤外吸収インキは、可視光領域では着色顔料と同等の色が視認できることが記載されてはいるが、可視光下で容易に情報が読み取られなくする構成は記載されていない。
【0013】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、従来技術のように隠蔽層を必要とせず、赤外吸収インキのみで基材に情報パターンを形成した印刷物であって、可視光下における情報パターンの存在が視認され難い印刷物であり、偽造防止効果や変造防止効果を向上させた印刷物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、基材上に、セシウム酸化タングステン及び着色顔料を含むインキ組成物から形成されたインキの塗膜が、特定の要件を満たす印刷物によって、上記課題の解決が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下の印刷物を提供するものである。
【0015】
本発明の赤外吸収インキ印刷物は、基材の少なくとも一部に、赤外吸収特性を有する材料を含むインキにより、情報パターンが形成された赤外吸収インキ印刷物であって、
前述のインキは、少なくとも赤外吸収特性を有する材料であるセシウム酸化タングステンと、基材と情報パターンの色相を等色とするための着色材料と、体質顔料を含み、基材に形成された情報パターンに、波長850nmを照射したときの赤外線反射率が40%より小さいとき、基材と、基材に形成された情報パターンのCIE1976L*a*b*色空間におけるab平面上の距離として表される色相差が3.9以下であることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の赤外吸収インキ印刷物は、基材の少なくとも一部に、赤外吸収特性を有する材料を含むインキにより、情報パターンが形成された赤外吸収インキ印刷物であって、前述のインキは、少なくとも赤外吸収特性を有する材料であるセシウム酸化タングステンと、基材と情報パターンの色相を等色とするための着色材料と、体質顔料を含み、基材に形成された情報パターンに、波長850nmを照射したときの赤外線反射率が40%以上であるとき、基材と、基材に形成された情報パターンのCIE1976L*a*b*色空間におけるab平面上の距離として表される色相差が2.7以下であることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の赤外吸収インキ印刷物は、基材が白色基材の場合に、着色材料はセシウム酸化タングステンの色相と補色関係の色相であることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の赤外吸収インキ印刷物は、情報パターンが、赤外吸収インキとは赤外吸収特性が異なるインキで形成されたパターンにより囲まれて形成されて成ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の赤外吸収インキ印刷物は、赤外吸収インキにより情報パターンが形成され、可視光下における情報パターンの存在が視認され難い印刷物であり、印刷物の偽造防止効果や変造防止効果を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図2】本発明の印刷物に係る別の形態について示す図である。
【
図3】本発明の印刷物に係る別の形態について示す図である。
【
図4】本発明の印刷物に係る実施例の分光反射率分布を示す図である。
【
図5】本発明の印刷物に係る実施例の分光反射率分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形例も含むものとして理解されるべきである。
【0022】
(実施の形態)
本発明の実施の形態について、
図1を用いて説明する。本発明の印刷物(1)は、
図1に示すとおり、基材(2)の少なくとも一部に、少なくとも赤外吸収材料であるセシウム酸化タングステンと、着色材料と、体質顔料とを含むインキ(以下「赤外吸収インキ」)(3)という。)により、情報パターン(3)が形成されて成る。また、本発明は、基材(2)と、基材(2)上の情報パターン(3)とは、目視上は区別できない構成である。しかしながら、図面上は、説明を分かりやすくするため、基材(2)と情報パターン(3)とを区別して表示している。
【0023】
(基材)
まず、本発明の印刷物(1)を構成する基材(2)は、赤外線を反射する特性を有することが好ましい。基材の赤外線反射率は、照射する赤外線(例えば、波長850mの赤外線)に対して、好ましくは60~100%、さらに好ましくは70~100%である。また、基材(2)としては、情報パターン(3)を付与できる面を備えていれば特に限定されない。例えば、銀行券、パスポート、印紙、切手、有価証券、身分証明書をはじめとするセキュリティ印刷物に用いられる上質紙、コート紙、アート紙、糊引き紙等を含む各種用紙、カード等に用いられるプラスチックシートやフィルム、これらの複合体等が挙げられるが、これらに限定するものではない。
【0024】
基材(2)の色については、特に制限はないが、上述したセキュリティ印刷物に用いられることから、白色、白色を基調としたクリーム色、肌色等(以下「白色基材」という。)のごく薄い着色を有していることが好ましい。本実施の形態では、以下、白色基材を用いた例として説明する。
【0025】
(情報パターン)
本発明の印刷物(1)に用いる赤外吸収インキについては後述し、まず、基材(2)上に赤外吸収インキにより形成される情報パターン(3)について説明する。
【0026】
情報パターン(3)の形状は、赤外光の吸収を検知して真偽判別に用いることができれば、
図1に示すように、ベタ印刷で形成されてもよいし、
図2(a)に示すように、図形やマーク等でもよいし、
図2(b)に示すように、文字や数字等でもよい。また、
図2(c)に示すように万線(曲万線、直万線)のほか、彩紋模様やカゴメ模様等でもよいし、
図2(d)に示すように、バーコードや二次元コードをはじめとするコード情報でもよい。また、
図2(e)に示すように、情報パターン(3)が赤外吸収インキと赤外吸収特性が異なるインキによるパターン(5)と隣接、あるいは情報パターン(3)とパターン(4)の一部が重なっていてもよいし、
図2(f)に示すように、情報パターン(3)が赤外吸収インキと赤外吸収特性が異なるインキによるパターン(5)により囲まれていてもよい。
図2(f)は、情報パターン(3)が基材(2)と隣接していないことから、基材(2)と、基材(2)上の情報パターン(3)とを、より目視で区別し難くするのに効果的な構成である。この形態において、情報パターン(3)とパターン(4)は隣接してもよいし、情報パターン(3)とパターン(4)との間がわずかに離れて近接してもよいし、情報パターン(3)とパターン(4)の一部は重なっていてもよい。
【0027】
また、上記において、赤外吸収特性が異なるインキとは、光学センサや、赤外線カメラ、赤外線ビューワ等によって、赤外吸収特性を読み取る際、印刷物(1)における情報パターン(3)の検出に影響を与えないものを用いればよく、例えば、一般的な着色インキのように赤外吸収特性のないインキや、情報パターン(3)を形成する赤外吸収インキに比べて赤外吸収特性が高いインキ又は赤外吸収特性が低いインキを用いることにより、情報パターン(3)が区別して検出できればよい。
【0028】
なお、
図1及び
図2では、基材(2)の一方の面にパターン(4)が形成された例を示しているが、これに限定されず、基材(2)の両面にパターン(4)が形成されていてもよい。さらに、基材(2)の両面に情報パターン(3)が形成されている場合、それぞれのパターンは、基材(2)を介して、一部の領域が重なっていてもよいし、別々の領域に形成されていてもよい。
【0029】
(赤外吸収インキ)
次に、本発明における赤外吸収インキについて説明する。本発明の赤外吸収インキは、少なくとも赤外吸収材料としてのセシウム酸化タングステンと、着色材料と、体質顔料とを含む。まず、赤外吸収材料であるセシウム酸化タングステンについて説明する。
【0030】
赤外吸収インキに赤外吸収材料として含まれるセシウム酸化タングステンは、下記一般式(組成式)(I)で表される化合物であることが好ましい。
MxWyOz・・・(I)
Mはセシウムを含む金属、Wはタングステン、Oは酸素を表す。
0.001≦x/y≦1.1
2.2≦z/y≦3.0
Mはセシウムを含む金属であり、セシウム以外の金属としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選ばれる1種類以上の元素が挙げられる。
【0031】
x/yが0.001以上であることにより、赤外線を十分に遮蔽することができ、1.1以下であることにより、セシウム酸化タングステン中に不純物相が生成されることをより確実に回避することできる。z/yが2.2以上であることにより、材料としての化学的安定性をより向上させることができ、3.0以下であることにより赤外線を十分に遮蔽することができる。
【0032】
上記一般式(I)で表されるセシウム酸化タングステンの微粒子は、六方晶、正方晶、立方晶の結晶構造を有する場合に耐久性に優れることから、当該六方晶、正方晶、立方晶から選ばれる1つ以上の結晶構造を含むことが好ましく、特に六方晶の結晶構造を持つことが好ましい。上記一般式(I)で表されるセシウム酸化タングステンの具体例としては、Cs0.33WO3等が挙げられる。
【0033】
セシウム酸化タングステンは、微粒子であることが好ましく、セシウム酸化タングステンの体積平均粒子径は、800nm以下、好ましくは200nm以下、より好ましくは100nm以下である。体積平均粒子径がこのような範囲であることによって、セシウム酸化タングステンが光散乱によって可視光を遮断しにくくなることから、可視光領域における透光性をより確実にすることができる。光散乱を回避する観点からは、平均粒子径は小さいほど好ましいが、製造コストや取扱容易性等から、セシウム酸化タングステンの体積平均粒子径は、通常1nm以上である。セシウム酸化タングステンは、市販品を用いてもよい。例えば、住友金属鉱山株式会社製のYMF-02、YMF-02A、YMS-01A-2、YMF-10A-2、YMDM-05A、YMDS-874、YMW-D20等を用いることができる。
【0034】
(着色材料)
本発明における赤外吸収インキに用いる着色材料としては、着色顔料、着色染料、蛍光顔料、蛍光染料等が挙げられる。着色材料は、基材(2)と基材(2)に形成される情報パターン(3)の色相を等色とするために配合さるものであり、特に、基材(2)が白色基材である場合、上記したセシウム酸化タングステンが淡い青色を呈することから、本発明の赤外吸収インキの構成成分として青色の補色関係となる着色材料を1種類単独で使用するか、又は2種類以上を組み合わせて用いる。なお、本発明において補色関係とは、両者の色相が完全な補色関係でなくても、実質的に補色関係の色相であれば本発明の効果が現れる。実質的な補色関係とは、具体的には、マンセル色相環において、セシウム酸化タングステンが呈する青色の色相位置に対し、対角線で対向する色相及びこの色相に隣接する色相を意味し、角度で表現して±50°の範囲に位置する色相である色相(赤(R)、橙色(YR)、黄色(Y))のことをいう。
【0035】
詳細は後述するが、このように、セシウム酸化タングステンの青色と補色関係にある着色材料を混ぜることで白色、灰色のように無彩色あるいは無彩色に近い色とすることで、インキ化した際に、基材(2)と情報パターン(3)との色相を同等とすることができるため、情報パターン(3)が基材(2)と同化して視認される。なお、厳密には、基材(2)に形成される情報パターン(3)の色相は、着色材料の種類や量のほか、後述する基材(2)に形成するインキ膜厚を考慮し、基材(2)と基材(2)上の情報パターン(3)の色相が同等となるように調整する。
【0036】
なお、着色材料として赤色蛍光顔料を用いれば、赤外吸収インキで基材(2)に形成した情報パターン(3)を、赤外線カメラや赤外線ビューワ等を用いた赤外吸収特性による真偽判別と、ブラックライト等を用いた蛍光発光特性による真偽判別のいずれか一方又は双方を選択的に用いることができることから、真偽判別における利便性が高まるとともに、偽造防止及び改ざん防止効果が更に向上する。
【0037】
(体質顔料)
次に、本発明の赤外吸収インキの構成成分である体質顔料について説明する。体質顔料は、赤外吸収インキにおけるセシウム酸化タングステン及び着色材料の濃度を下げるとともに、無彩色又は無彩色に近い色に対して、白を基調とした色相に調整するために用いる。体質顔料としては、炭酸カルシウム、燐酸カルシウム系顔料、硫酸バリウム、アルミナ白、酸化チタン、酸化ケイ素等の白色体質顔料を用いることができる。
【0038】
(その他成分)
本発明の赤外吸収インキは、粘度調整や印刷適性付与等を目的として、溶剤を含んでいてもよい。溶剤としては、例えば、鉱物油、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、炭化水素系溶剤等を用いることができる。また、必要に応じて、「セシウム酸化タングステン、着色材料及び体質顔料」以外の顔料(以下「その他の顔料」という場合がある。)、樹脂や光重合性化合物等の塗膜形成成分、ゲル化剤、界面活性剤、酸化防止剤、沈降防止剤、消泡剤、ブロッキング防止剤、磁性材料、発光性材料、導電性材料、乾燥剤等を添加して使用してもよい。本発明においては、これらのその他成分のうち1種類のみを単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
(配合割合)
本発明において、赤外線の反射率が50%以下のインキ塗膜を形成することができれば、赤外吸収インキにおけるセシウム酸化タングステン、着色材料及び体質顔料の含有量は、特に限定されない。例えば、セシウム酸化タングステンの含有量は、用途や求める赤外線反射率等に応じて調整することができる。しかしながら、例えば、赤外吸収インキをオフセットインキ、あるいはグラビアインキインキとして用いるとき、赤外吸収インキの全固形分を100質量%とした場合、セシウム酸化タングステンは、0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。セシウム酸化タングステンが0.1質量%より少ない場合、赤外吸収特性が得られないため好ましくない。また、セシウム酸化タングステンが10質量%を超えると、インキ塗膜の透明性や色調に影響を与えるおそれがあることから、10質量%以下とすることが好ましい。また、着色材料及び体質顔料についても、印刷方式や、印刷適性、所望する色相に応じて配合して用いればよいが、白色を基調とした淡い色相を表現するために、着色材料は20質量%以下であることが好ましく、体質顔料は2質量%以上45質量%以下であることが好ましい。
【0040】
本発明において、赤外吸収インキにより得られる膜厚は、赤外線反射特性、着色材料の種類、着色材料の量とともに、基材(2)と基材(2)上の情報パターン(3)の色相が同等となるように調整する。また、基材(2)と情報パターン(3)の膜厚との段差が生じないようにするため、膜厚は3μm以下が好ましい。
【0041】
(インキの製造方法)
赤外吸収インキの製造方法は、上述したインキの構成成分を均一に混合できる製造方法であれば、特に限定されない。赤外吸収インキの製造方法における構成成分の混合に際しては、例えば、プラネタリミキサ、タンブラー、ビーズミル、サンドミル、スターラー、撹拌機、メカニカルホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、ペイントシェーカー、V型ブレンダー、ナウターミキサー、3本ロールミル等の混合機を用いることができる。
【0042】
(印刷方法)
また、本発明の印刷物(1)は、上述した赤外吸収インキを用い、様々な印刷方法において基材(2)上に、情報パターン(3)を形成することができるが、基材(2)上に薄い膜厚を形成するためには、オフセット印刷、凸版印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、インクジェット印刷等によることが好ましい。
【0043】
(色相)
続いて、本発明の印刷物(1)の特徴点である、色相及び色相差について説明する。本発明における「色相」とは、CIE(国際照明委員会)が1976年に推奨したCIE1976(L*,a*,b*)色空間のa*,b*のことを示し、日本工業規格(JIS Z 8729)に規定されているものである。また、本発明における「色相差」は、CIE1976(L*a*b*)色空間におけるab平面上の距離として表されるものをいう。
【0044】
(色相差)
本発明における色相差(ΔH)の条件は2つあり、1つ目は、基材(2)に形成された情報パターン(3)が、一般的に偽造品の真贋判定で使用される波長である波長850nmを照射した際の赤外線反射率が40%より小さいときに、基材(2)と、基材(2)に形成された情報パターン(3)を分光測色計で測定した際のCIE1976L*a*b*色空間におけるab平面上の距離として表される色相差(ΔH)(以下「色相差(ΔH)」という。)を3.9以下とするものである。色相差(ΔH)が3.9以下の場合は、観察者が注意を払わずに可視光下において印刷物を観察した際に、基材(2)と基材(2)上の情報パターン(3)の二つの色相の違いを肉眼では区別して認識することができない。一方、色相差(ΔH)が3.9を超える場合、可視光下で基材(2)と情報パターン(3)とが肉眼で区別して視認されるため好ましくない。
【0045】
2つ目の条件は、波長850nmを照射した際に赤外線反射率が40%以上である場合、色相差(ΔH)を2.7以下とするものである。色相差(ΔH)が2.7以下の場合は、観察者が注意を払わずに可視光下において印刷物を観察した際に、基材(2)と基材(2)上の情報パターン(3)の二つの色相の違いを肉眼では区別して認識することができない。一方、色相差(ΔH)が2.7を超える場合、可視光下で基材(2)と情報パターン(3)とが肉眼で区別して視認されるため好ましくない。
【0046】
次に、上記において赤外線反射率が40%より小さい場合と、40%以上である場合とに分ける理由について説明する。赤外線反射率が40%以上の印刷物(1)は、赤外線反射率が比較的高く、情報パターン(3)は比較的薄膜(0.1μm~1.45μm程度)で形成されるため、刷色濃度が色相差(ΔH)に大きくは影響しない。しかしながら、赤外吸収インキに着色材料を有さない場合は、セシウム酸化タングステンの青色が目視で認識されてしまうことから、着色材料を加えた上で色相差(ΔH)を2.7以下とすることで、基材(2)と基材(2)上の情報パターン(3)の二つの色相の違いを肉眼では区別して認識することができなくしている。
【0047】
一方、本発明において、赤外線反射率が40%より小さい印刷物(1)は、前述の赤外線反射率が40%以上の印刷物(1)より赤外線反射率が低く、情報パターン(3)は厚膜(1.45μm以上)で形成されるため、刷色濃度が高くなり、より色相差(ΔH)に影響を及ぼしてしまう。しかしながら、本発明は、着色材料を加え、色相差(ΔH)を3.9以下とすることで、情報パターン(3)が厚膜で形成されても、認識され難くすることができる。特に、本発明においては、情報パターン(3)を薄膜で形成するよりも、厚膜で形成するほうが、着色材料を加えた際の、色相差(ΔH)を小さくする効果が高いことから、厚膜であっても、基材(2)と情報パターン(3)とに段差が視認できない程度であれば、観察者に基材(2)上の情報パターン(3)の存在を認識されなくするという利点を有する。
【0048】
(色相差の計算方法)
本発明における色相差の計算方法について説明する。はじめに、基材(2)について、L*a*b*色空間における色相(a1
*、b1
*)を分光光度計(UH4150 日立ハイテクサイエンス社製)を用いて求める。次に、基材(2)上に、熊谷理機工業(株)万能印刷適性試験機を用いて、赤外吸収インキにより、情報パターン(3)を任意の膜厚(求める赤外線反射率に合わせた膜厚)で形成したサンプルを作製し、基材(2)における測定方法と同様に、基材(2)に形成された情報パターンについて、L*a*b*色空間における色相(a2
*及びb2
*)を求める。次に、基材(2)の色相(a1
*、b1
*)と、基材(2)上の情報パターン(3)の色相(a2
*及びb2
*)の差として、日本工業規格(JIS Z 8729)に従って、以下の式で求める。
【0049】
【0050】
なお、本発明では、上述のとおり色相の差を用いており、この計算に明度L*を含めていない。その理由は、基材(2)と、基材(2)上の情報パターン(3)について、明度の違いよりも、色相の違いで表したほうが、肉眼で視認したときのムラとして知覚されやすいためである。
【0051】
また、上述では、基材(2)上に情報パターン(3)を有する印刷物(1)について説明したが、本発明における印刷物(1)は、
図3に示すように情報パターン(3)と異なるパターン(4)をさらに備えていてもよい。例えば、
図3(a)又は
図3(b)に示すように、基材(2)に形成された、情報パターン(3)の少なくとも一部の上に、情報パターン(3)と異なるパターン(4)がさらに形成されることで、基材(2)上の情報パターン(3)を更に認識され難くすることができる。なお、この場合、情報パターン(3)と異なるパターン(4)は、
図3(a)に示すような地紋や、
図3(b)に示すような網点をはじめ、文字、記号、図形及び彩紋等の所定の図柄とすることができ、特に限定されない。パターン(4)の形成に用いるインキは、情報パターン(3)の赤外吸収特性の検知に影響を及ぼさなければ特に限定はない。また、印刷方法についても特に限定はない。
【0052】
(印刷物の用途)
本発明の印刷物(1)は、種々の用途に用いられ、特に、セキュリティ印刷物、例えば、銀行券、パスポート、印紙、切手、有価証券、身分証明書、セキュリティラベル等に用いられる。例えば、基材(2)上に、基材(2)と等色の情報パターン(3)を形成することで、可視光下において、肉眼では情報パターン(3)があることが認識されないが、赤外光の吸収を検知して真偽判別する印刷物に用いることができることから、偽造及び改ざん防止効果が向上する。
【0053】
また、赤外吸収インキにセシウム酸化タングステンを含むことで、十分な赤外線吸収特性を有していながら、可視光下では、赤外吸収インキによる情報パターン(3)を不可視化することで、意匠性が求められるセキュリティ印刷物として、デザイン性の幅を広げることが可能となる。
【実施例0054】
以下、発明を実施するための形態にしたがって、 本発明の印刷物(1)の実施例について詳細に説明するが、本発明は、この実施例に限定されるものではない。
【0055】
(インキ)
実施例1~4、比較例1及び比較例2における赤外吸収インキとして、以下の材料を用い、表1の配合割合でインキを作製した。表1における数字は「質量%」である。なお、比較例1及び比較例2は、着色材料を含まない同じ赤外吸収インキであり、実施例1~4は、着色材料を含む赤外吸収インキである。また、比較例1は、実施例1~3に対する比較例であり、比較例2は、実施例4に対する比較例である。
【0056】
<セシウム酸化タングステンペースト(CWOペースト)>
赤外吸収材料として、セシウム酸化タングステンペースト(住友金属鉱山(株)、CWO(登録商標)YMDM-05A)を用いた。なお、セシウム酸化タングステンペーストは、セシウム酸化タングステンの顔料の濃度が65.9wt%のものを用いた。
【0057】
<着色材料>
着色材料として、セシウム酸化タングステンと補色関係を有するピグメントレッド188紅色顔料、黄色顔料ピグメントイエロー97、橙色顔料ピグメントオレンジ16を用いた。また、蛍光顔料として、赤色蛍光顔料(YVB-F 根本特殊化学(株))を用いた。
【0058】
<体質顔料>
体質顔料として、炭酸カルシウム及び酸化ケイ素((株)高純度化学研究所製)を用いた。
【0059】
<UVオフセットワニス>
UVオフセットワニスとして、非反応性樹脂、ウレタンオリゴマー、多官能アクリレート、2官能アクリレートを加熱攪拌することにより作製して用いた。
【0060】
<光重合開始剤>
光重合開始剤として、イルガキュア907、イルガキュア379(BASF社)を用いた。
【0061】
【0062】
(基材)
実施例1~3及び比較例1の基材(2)として、白色の上質紙(紀州上質下紙N、坪量81.4g/m3、紀州製紙(株))を用いた。また、実施例4及び比較例2の基材(2)として、肌色(ハイカラ―肌色薄口、本州製紙(株))を用いた。
【0063】
(印刷条件)
実施例1~4、比較例1及び比較例2において、熊谷理機工業(株)製万能印刷適性試験機を用い、印刷速度1.0m/min、印刷圧力20kgfにおいて情報パターン(3)としてベタ模様で水準1と、水準2に分けて印刷物を作製した。水準1は、分光光度計(日立ハイテクサイエンス社製UH4150)を用い、一般的に偽造品の真贋判定で使用される波長である850nmにおける赤外線反射率が40%となるように基材(2)上に情報パターン(3)を形成した。水準2は、上記と同様の条件で、赤外線反射率が30%となるように基材(2)上に情報パターン(3)を形成した。
【0064】
(評価の条件)
基材(2)、実施例1~4、比較例1及び比較例2の評価について、以下の条件で行った。
【0065】
<CIE1976 L*a*b*色空間の座標(L*,a*,b*)>
分光光度計(日立ハイテクサイエンス社製UH4150)で測定した分光反射率のデータを用い、分光光度計付属の色彩計算プログラム(JISに準拠)で、光源D65、視野10°の条件でL*値、a*値及びb*値を得るとともに、得られたa*値及びb*値により色相差を算出した。
【0066】
<膜厚>
実施例1~4、比較例1のインキ比重と印刷面積、インキ転移量から、印刷膜厚を算出した。
【0067】
<目視評価>
得られた印刷物(1)を可視光下において肉眼で観察した際、基材A(2)と基材A(2)上の情報パターン(3)が肉眼視において区別して認識されるかを評価した。「〇」は、区別して認識されないことを表し、「△」はわずかに区別して認識されることを表し、「×」は、区別して認識されることを表している。
【0068】
[実施例1~3] 用紙は白紙
水準1及び水準2それぞれについて、実施例1~3では、基材A(2)として白色の上質紙(紀州上質下紙N(坪量81.4g/m
3)、紀州製紙(株))を用いた。また、表1に示す実施例1~3の配合割合で、ミキサーを用いて混合し、赤外吸収インキを作製し、作製した赤外吸収インキを用いて、
図1に示す印刷物(1)を作製した。
【0069】
[比較例1]
水準1及び水準2それぞれについて、比較例1では、実施例1~3と同様に、基材A(2)に白色の上質紙(紀州上質下紙N(坪量81.4g/m
3)、紀州製紙(株))を用いた。また、表1に示す比較例1の配合割合で、着色材料を配合せず、色相調整を行わない条件とし、ミキサーを用いて混合し、赤外吸収インキを作製し、作製した赤外吸収インキを用いて、
図1に示す印刷物(1)を作製した。
【0070】
[実施例4] 用紙は肌色
水準1及び水準2それぞれについて、実施例4では、基材B(2)に肌色(ハイカラ―肌色薄口、本州製紙(株))を用いた。また、表1に示す実施例4の配合割合で、ミキサーを用いて混合し、赤外吸収インキを作製し、作製した赤外吸収インキを用いて、
図1に示す印刷物(1)を作製した。
【0071】
[比較例2]
水準1及び水準2それぞれについて、比較例2では、実施例4と同様に、基材B(2)に肌色(ハイカラ―肌色薄口、本州製紙(株))を用いた。また、表1に示す比較例1の配合割合で、着色材料を配合せず、色相調整を行わない条件とし、ミキサーを用いて混合し、赤外吸収インキを作製し、作製した赤外吸収インキを用いて、
図1に示す印刷物(1)を作製した。
【0072】
水準1における実施例1~4、比較例1及び比較例2について、得られた印刷物(1)に形成された情報パターン(3)の膜厚、CIE1976 L*a*b*色空間の座標(L*,a*,b*)及び色相差(ΔH)及び目視評価を表2に示す。
【0073】
【0074】
また、水準2における実施例1~4、比較例1及び比較例2について、水準1と同様に、膜厚、CIE1976 L*a*b*色空間の座標(L*,a*,b*)及び色相差(ΔH)を表3に示す。
【0075】
【0076】
(水準1の結果)
水準1に係る比較例1及び比較例2の目視評価は、いずれも「△」であったのに対し、水準1に係る実施例1~4の目視評価は、全て「〇」であった。
【0077】
(水準2の結果)
水準2に係る比較例1の目視評価は「△」であり、水準2に係る比較例4の目視評価は「×」であったのに対し、水準2に係る実施例1~4の目視評価は、全て「〇」であった。
【0078】
つまり、表2のとおり、水準1では、比較例1に示すように色相差(ΔH)3.01では、可視光下において肉眼視でわずかに区別して認識されるが、実施例1~4に示すように色相差(ΔH)が2.7以下であれば、可視光下において肉眼視で区別して認識されないことが分かった。また、表3のとおり、水準2では、比較例1に示すように色相差(ΔH)が4.32では、可視光下において肉眼視でわずかに区別して認識されるが、実施例1~4に示すように色相差(ΔH)が3.9以下では、可視光下において肉眼視で区別して認識されないことが分かった。
【0079】
また、水準1に比べて、水準2は膜厚が厚いため刷色濃度の影響により色相差(ΔH)がやや大きくなるが、水準2は、水準1の結果に比べて、比較例と実施例との色相差(ΔH)の差が大きくなることから、印刷膜厚が大きい場合にも、基材(2)上の情報パターン(3)を肉眼視で認識されなくする効果が高いことがわかった。
【0080】
本発明によれば、基材(2)に形成された情報パターン(3)に、波長850nmを照射時の赤外線反射率が40%より小さい場合は、赤外線領域における吸収性を向上させるためにインキ膜厚を厚くするか、又は赤外吸収インキに対してセシウム酸化タングステンを多く含む必要があるが、その場合であっても色相差(ΔH)3.9以下であれば、可視光下において肉眼視で区別して認識されない。また、赤外線反射率が40%以上であり、赤外線カメラや赤外線ビューワ等において印刷物の赤外吸収特性の読取により真贋判別を行うような場合において、上記に比べてインキ膜厚を薄くするか、又は赤外吸収インキに対するセシウム酸化タングステンの含有量を少なくできることから、色相差(ΔH)2.7以下であれば、可視光下において肉眼視で区別して認識されない。
【0081】
図4に、水準1における基材Aである白色基材と、実施例1~3及び比較例1の分光反射率分布を示す。実施例1及び実施例3は、着色材料として、赤色顔料であるピグメントレッド188及び黄色顔料であるピグメントイエロー97を含むことで、色相調整を行っていない水準1の比較例1に比べて、450nm付近の分光反射率が低下していることが分かった。また、水準1及び水準2において、特に色相差(ΔH)が小さかった実施例2は、赤外吸収インキの濃度を下げるために、体質顔料である炭酸カルシウムとともに、着色顔料としてボディーカラーが薄黄色である蛍光顔料YVB-Fを配合したものであるが、
図4に示すように、これにより360nm~420nm付近(紫外線長波から可視波長領域の青色領域)の反射率が低下し、セシウム酸化タングステンが有する青みを低下させる効果が得られた。また、
図5に、水準1における基材Bである肌色基材と、実施例4及び比較例2の分光反射率分布を示す。肌色基材においても、可視光領域における反射率の低下が確認された。
【0082】
以上、本発明を詳細に説明してきたが、上記の構成において、本発明の範囲から逸脱することなく、様々な変更を行うことができる。したがって、上記の説明に含まれるか又は添付の図面に示されるすべての事項は、例示的なものとして解釈されるべきである。